(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741052
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫用モールド
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20150611BHJP
B29C 33/10 20060101ALI20150611BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C33/10
B29C35/02
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-37793(P2011-37793)
(22)【出願日】2011年2月24日
(65)【公開番号】特開2012-171303(P2012-171303A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2014年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 雄策
【審査官】
越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−184194(JP,A)
【文献】
特開2009−269363(JP,A)
【文献】
特開2008−260135(JP,A)
【文献】
特開昭63−264308(JP,A)
【文献】
特開2005−193577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ成形面に開口して形成される排気溝と、この排気溝に嵌入されて排気溝との間に微小すき間をあけて埋設されるブレードと、前記排気溝とモールドの外部とを連通させる排気孔とを備えたタイヤ加硫用モールドにおいて、
前記排気溝が平面視で長方形状であり、前記ブレードが前記排気溝の厚さよりも小さな厚さの上端部を有し、前記ブレードが前記排気溝に埋設された際に、前記排気溝の厚さ方向両端面に当接する当接部を前記上端部の下方に有するとともに、前記排気溝と前記上端部との間に形成される微小すき間と前記排気孔とを連通させる連通部を有する構成にしたことを特徴とするタイヤ加硫用モールド。
【請求項2】
前記排気孔に内嵌される筒状体を有し、前記ブレードが前記排気溝に埋設された際にブレードの下端面を前記筒状体に当接させて深さ方向の位置を固定する構成にした請求項1に記載のタイヤ加硫用モールド。
【請求項3】
前記ブレードの上端部の高さが0.5mm〜5.0mmである請求項1または2に記載のタイヤ加硫用モールド。
【請求項4】
前記ブレードの下端面の長さ方向両端に面取り部を設けた請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ加硫用モールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫用モールドに関し、さらに詳しくは、ブレードを埋設する排気溝の加工を簡便にするとともに、排気溝を有効に利用して、排気効率を一段と向上させることができるタイヤ加硫用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤを加硫する際には、タイヤ加硫用モールド内に不要なエアが閉じ込められ、また、加硫によってガスが発生する。これらエアやガスは、加硫するタイヤに対してゴム充填不足等の加硫故障を生じさせる。そこで、タイヤ加硫用モールドには、エアや加硫時に発生するガスを外部に排出するために排気手段が設けられている。
【0003】
排気手段としては、例えば、タイヤ成形面に細幅穴を設け、この細幅穴にブレードを埋設することにより、ブレードと細幅穴の長辺との間に微小すき間を形成する構造が提案されている (特許文献1参照)。この微小すき間を通じてエアやガスがモールドの外部に排出される。
【0004】
しかしながら、特許文献1の発明では、ブレードの両端部を保持するために、細幅穴の長辺両端部を中央部よりも細幅にしている。即ち、タイヤ成形面に設ける細幅穴の平面視の形状が単純な形状ではないので、加工工数が増加するという問題があった。また、ブレードを細幅穴に埋設した際には、ブレードと細幅穴の長辺中央部との間に微小すき間が形成されるだけであり、細幅穴の長辺全長に渡ってブレードとの間に微小すき間が形成される訳ではない。そのため、タイヤ成形面に開口する微小すき間の面積が小さくなり、細幅穴を排気溝として十分に利用するには改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−269363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ブレードを埋設する排気溝の加工を簡便にするとともに、排気溝を有効に利用して、排気効率を一段と向上させることができるタイヤ加硫用モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のタイヤ加硫用モールドは、タイヤ成形面に開口して形成される排気溝と、この排気溝に嵌入されて排気溝との間に微小すき間をあけて埋設されるブレードと、前記排気溝とモールドの外部とを連通させる排気孔とを備えたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記排気溝が平面視で長方形状であり、前記ブレードが前記排気溝の厚さよりも小さな厚さの上端部を有し、前記ブレードが前記排気溝に埋設された際に、前記排気溝の厚さ方向両端面に当接する当接部を前記上端部の下方に有するとともに、前記排気溝と前記上端部との間に形成される微小すき間と前記排気孔とを連通させる連通部を有する構成にしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タイヤ成形面に開口して形成される排気溝が平面視で長方形状なので、排気溝の加工が簡便になる。また、前記ブレードが前記排気溝の厚さよりも小さな厚さの上端部を有し、
前記ブレードが前記排気溝に埋設された際に、前記排気溝の厚さ方向両端面に当接する当接部を前記上端部の下方に有するとともに、前記排気溝と前記上端部との間に形成される微小すき間と前記排気孔とを連通させる連通部を有するので、排気溝に嵌入されたブレードを当接部で保持しつつ、ブレードの上端部の長さ方向全長に渡ってブレードとの間に微小すき間を確保できる。そして、グリーンタイヤを加硫する際の不要なエアやガスを、微小すき間および連通部を経て、モールドに形成した排気孔を通じてモールドの外部に排出できる。このように、タイヤ成形面に開口して形成される排気溝をできるだけ有効に利用して微小すき間の面積を大きくするので、排気効率を一段と向上させることができる。
【0009】
ここで、前記排気孔に内嵌される筒状体を有し、前記ブレードが前記排気溝に埋設された際にブレードの下端面を前記筒状体に当接させて深さ方向の位置を固定する構成にすることもできる。この構成にすると、ブレードの高さ寸法を小さくできるので、ブレードの材料コストを低減できる。また、ブレードを排気溝に嵌入する際に不用意に曲げてしまう不具合を防止するには有利になる。
【0010】
前記ブレードの上端部の高さは、例えば0.5mm〜5.0mmにする。この範囲にすることにより、ブレードの強度を確保しつつ、排気溝との間で適度な深さの微小すき間を得易くなる。
【0011】
前記ブレードの下端面の長さ方向両端に面取り部を設けることもできる。このように面取り部を設けると、ブレードを円滑に排気溝に嵌入し易くなる。また、ブレードを嵌入する際に排気溝の上端開口に接触しても、モールド母材が削られ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のタイヤ加硫用モールドのタイヤ成形面の一部を例示する平面図である。
【
図7】排気溝にブレードを嵌入する状態を側面視で例示する断面図である。
【
図8】別の実施形態を例示する断面図(
図3相当図)である。
【
図10】別のタイプのモールドに本発明を適用した場合を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のタイヤ加硫用モールドを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0014】
図1〜
図6に例示するように、本発明のタイヤ加硫用モールド1(以下、モールド1という)は、アルミニウム材等により形成されており、内周側表面がタイヤ成形面2になっている。タイヤ成形面2には、排気溝4が開口して複数形成されている。この排気溝4にはブレード7が嵌入されて埋設されている。ブレード7の上端面とタイヤ成形面2は実質的に同じレベルになっている。
【0015】
モールド1の一方の端面から他方の端面に向って排気孔11が延設されている。この排気孔11は排気溝4と接続して、排気溝4とモールド1の外部とを連通させる。排気溝4は、その長手方向が排気孔11の延設方向に向くように配置されている。
【0016】
排気溝4は、所定の一定厚さTを有して平面視で長方形状になっている。そして、その一定厚さTで深さ方向に深さH2で削孔されている。
【0017】
ブレード7はステンレス鋼等の金属薄板で形成されていて、その側面視の概形は排気溝4に沿った形状を有している。ブレード7の上端部8の厚さt1は、排気溝4の厚さTよりも小さくなっている。この厚さt1は、排気溝4の厚さTに対して、例えば、0.005mm〜0.1mm程度小さく、好ましくは0.06mm程度(片側で0.03mm程度)小さく設定する。
【0018】
ブレード7の上端部8の下方は当接部9になっている。当接部9の厚さt2は上端部8の厚さt1よりも大きくなっている。即ち、ブレード7の縦断面形状は
図3に例示するように上端部8が当接部9よりも薄くなった段差を有する形状になっている。
【0019】
当接部9の厚さt2は、排気溝4への嵌入し易さと嵌入した後の固定強度を考慮すると、排気溝4の厚さTに対して、例えば、0mm〜0.1mm程度大きく、好ましくは厚さTよりも大きく設定する。具体的には当接部9の厚さt2を排気溝4の厚さTに対して0.01mm程度大きく設定するとよい。
【0020】
上端部8の高さH1は、例えば、0.5mm〜5.0mm程度、さらに好ましくは1.0mm〜2.0mm程度である。上端部の高さH1を0.5mm〜5.0mmにすることにより、ブレード7の強度を確保しつつ、排気溝4との間で適度な深さの微小すき間gを確保し易くなる。
【0021】
タイヤ成形面2から排気孔11までの深さH2は、H1よりも大きく、排気効率等を考慮して、例えば、2.0mm〜10.0mm程度、さらに好ましくは3.0mm〜5.0mm程度にする。排気孔11の直径は例えば、2mm〜10mm程度である。
【0022】
図3に例示するように、ブレード7が排気溝4に嵌入されて埋設された際には、ブレード7の下端面9cは、排気孔11の内周面に当接して深さ位置が固定される。この際に、ブレード7の上端部8の長手方向両端面8aと排気溝4の長手方向両端面5aとが当接し、ブレード7の上端部8の厚さ方向両端面8bと排気溝4の厚さ方向両端面5bとの間には微小すき間gが形成される。また、当接部9の長手方向両端面9aと排気溝4の長手方向両端面5aとが当接し、当接部9の厚さ方向両端面9bと排気溝4の厚さ方向両端面5bとが当接する。
【0023】
ブレード7には、形成された微小すき間gと排気孔11とを連通させる連通部10が設けられている。この実施形態では、ブレード7の長さ方向中央部に切欠いて形成された連通部10が設けられている。連通部10は複数設けることもできる。
【0024】
この微小すき間gは、エアaやガスを通過させつつ、ゴム(グリーンタイヤの未加硫ゴム)が通過しない大きさになっていて、例えば、0.02mm〜0.05mm程度に設定されている。
【0025】
本発明では、排気溝4が平面視で単純な長方形状なので、排気溝4を形成するために複雑な加工が不要であり、加工が簡便になる。それ故、排気溝4は、切削加工や放電加工等によって、設定寸法に対してばらつきなく短時間で容易に形成することができる。ブレード7も機械加工等で設定寸法に対して精度よく形成できるので、微小すき間gを所定どおりに大きさにばらつきなく形成することが可能である。したがって、ブレード7の厚さ方向両側に、偏りを抑えて同じすき間の微小すき間gを形成することができる。
【0026】
ブレード7が排気溝4に嵌入、埋設された際には、ブレード7は当接部9で保持されつつ、ブレード7の上端部8の長さ方向全長に渡って排気溝4との間に微小すき間gを確保できる。即ち、タイヤ成形面2に開口して形成される排気溝4をできるだけ有効に利用して微小すき間gの面積を大きくできるので、排気効率を一段と向上させることができる。
【0027】
したがって、グリーンタイヤを加硫する際に不要なエアaや発生するガスは、
図4に例示するように、タイヤ成形面2から微小すき間gおよび連通部10を経て、排気孔11を通じてモールド1の外部に排出される。これによりタイヤを加硫する際に、安定した排気を確保することが可能になり、加硫するタイヤに対してゴム充填不足等の加硫故障が生じることを防止できる。
【0028】
また、この実施形態では、
図4に例示するように、ブレード7の下端面9cの長さ方向両端に面取り部7aが形成されている。これにより、
図7に例示するように、ブレード7を排気溝4に嵌入する際に、円滑に嵌入し易くなる。また、ブレード7を嵌入する際に排気溝4の上端開口に接触しても、面取り部7aが接触するので鋭利な角が接触する場合に比してモールド母材が削られ難くなる。これに伴って、モールド母材の削りカスが排気溝4に溜まってブレード7の埋設具合にばらつきが生じる不具合を防止することもできる。
【0029】
図8、
図9に本発明の別の実施形態を例示する。この実施形態では、上記実施形態と異なり、排気孔11に金属製の割りピン6が内嵌されている。ブレード7が排気溝4に埋設された際には、ブレード7の下端面9cが割りピン6の外周面に当接する構成になっている。ブレード7が割りピン6に当接することにより、ブレード7の深さ方向の位置が固定される。
【0030】
この構成にすると、ブレード7の高さ寸法を小さくできるのでコンパクトになって、ブレード7の材料コストを低減できる。また、高さ寸法が小さくなることに伴い、排気溝4に嵌入する際に不用意にブレード7に曲げるような外力が作用しても曲がり難くなるという利点がある。
【0031】
排気孔11には割りピン6に限定されず筒状体を内嵌すればよいが、割りピン6を用いると、その外径を割り溝6aによって調整できる。また、割りピン6の外径を調整した際(縮径させた際)に復元しようとして生じる付勢力によって、割りピン6をしっかりと排気孔11に内嵌し易くなる。
【0032】
割りピン6は1つのブレード7に対して複数設けることもできる。また、割りピン6の軸方向長さは適宜決定するが、例えば、ブレード7の長さ方向寸法の20%以上、好ましくは30%以上にする。
【0033】
本発明は、
図2に例示した一体的なモールド1だけでなく、
図10に例示するような、タイヤ成形面12aを有する複数のピース12をバックブロック13に取り付ける構造のモールド1にも適用することができる。このタイプのモールド1の場合、排気孔11はピース12の背面12b側に、ピース12の一方の端面から他方の端面に延設して排気溝4に連通させる。
【0034】
本発明では、ブレード7を排気溝4に嵌入して固定保持するが、嵌入による固定保持に加えて、ブレード7の当接部9と排気溝4との間に接着剤を介在させてもよい。
【0035】
本発明では、排気孔11に対する排気溝4の向きは任意である。例えば、排気溝4の厚さ方向が排気孔11の延設方向に向くように排気溝4を配置することもできる。
【0036】
また、本発明では、ブレード7の上端面をタイヤ成形面2から突出させない形態だけでなく、突出させるようにしてもよい。即ち、ブレード7を、タイヤにサイプを形成するサイプ形成ブレードとして用いることもできる。
【符号の説明】
【0037】
1 モールド
2 タイヤ成形面
3 背面
4 排気溝
5a 長さ方向端面
5b 厚さ方向端面
6 割りピン
6a 割り溝
7 ブレード
7a 面取り部
8 上端部
8a 長さ方向端面
8b 厚さ方向端面
9 当接部
9a 長さ方向端面
9b 厚さ方向端面
9c 下端面
10 連通部
11 排気孔
12 ピース
12a タイヤ成形面
12b 背面
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