(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741094
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】超電導コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20150611BHJP
H01F 6/00 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
H01F5/08 C
H01F7/22 C
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-57809(P2011-57809)
(22)【出願日】2011年3月16日
(65)【公開番号】特開2012-195413(P2012-195413A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150441
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】坊野 敬昭
【審査官】
井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−113919(JP,A)
【文献】
特開2011−040176(JP,A)
【文献】
特開平06−224036(JP,A)
【文献】
特開平06−314609(JP,A)
【文献】
特開平06−231940(JP,A)
【文献】
特開2001−244108(JP,A)
【文献】
特開平06−243745(JP,A)
【文献】
特開2010−123621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
H01F 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板の片面に中間層,超電導層,安定化金属層を積層した薄膜状超電導線材からなる超電導導体が円筒状の巻枠の周面に巻回されてなる巻線部を備えた超電導コイルにおいて、
前記超電導導体の外周面を被覆する絶縁材と、
同じ厚さの金属テープを複数枚重ねて構成される安定化材と、
を備え、
前記超電導導体は、前記絶縁材を介して前記安定化材と共巻きしてなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項2】
前記超電導導体と前記安定化材との全体を被覆し一体化する絶縁材をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記安定化材の各金属テープの外周面を被覆する被覆材をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記超電導導体と前記安定化材とが電気的に並列接続されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項5】
前記円筒状の巻枠は、絶縁材料からなる円筒状部材の外周面に螺旋状の溝が形成されたものであり、
前記超電導導体と前記安定化材とは、前記絶縁材を介してコイル半径方向に交互に重ねられて、前記溝に埋め込まれることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項6】
前記金属テープは、金または金合金、銀または銀合金、銅または銅合金のいずれかからなることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項7】
前記超電導導体は、少なくともその内径側に前記安定化材が配置され、かつ、当該超電導導体の安定化金属層面および金属基板面がそれぞれ内径側および外径側となっていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導変圧器、超電導リアクトル、超電導限流器、超電導電動機、超電導発電機などの超電導機器に適用される超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
(イ)超電導線材は、超電導状態になると電気を流しても抵抗がゼロであることから、超電導コイルなど様々な電気機器に応用されている。
(ロ)超電導線材としては、液体ヘリウムの蒸発温度である4Kの極低温で超電導状態を維持する金属超電導体を使用した超電導線が実用的な超電導材料として使用されるが、最近では液体窒素の蒸発温度である77Kの温度でも超電導状態を維持する酸化物系高温超電導体も利用されている。そして、高温超電導コイルにおいては、例えば、ビスマスを主体とする複合酸化物超電導材料(粉末)を銀(または銀合金)パイプ中に充填し、線引き、圧延して形成されたテープ状の高温超電導線材が一般に用いられており、このビスマス系(Bi系)高温超電導線材は、高温超電導体が銀(または銀合金)シースの内部に埋設され、線材全体としてテープ状に形成された構造となっている。
(ハ)一方、最近では高電流密度化、低コスト化等の観点から、イットリウム系(Y系)高温超電導線材が、ビスマス系高温超電導線材の次世代線材として注目されている。このイットリウム系高温超電導線材は、ステンレスやハステロイ等よりなる高剛性の金属基板の片面に絶縁材を蒸着させて中間層を形成し、中間層の上にイットリウム系超電導材料を蒸着させて超電導層を形成し、さらに超電導層の上に銀などの良導電性薄膜を安定化金属層としてコーティングし、積層構造を備えた薄膜状の高温超電導線材として形成されるものである(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
従って、上述のビスマス系高温超電導線材では、テープ状線材構造の側面も含む全表面が銀などのシース材となっているのに対して、イットリウム系高温超電導線材では、薄膜状線材構造の全表面のうち一方の幅広面がハステロイ等の金属基板であり、他方の幅広面が超電導層上に安定化金属層としてコーティングされた銀薄膜などの良導電性薄膜である構成となっている。
(ニ)一般に、超電導線材に通電中に何らかの熱的,機械的擾乱などにより超電導線材が常電導に転移した際に、ジュール発熱による温度上昇によって引き起こされる超電導線材の焼損を防ぐために電流をバイパスさせる『電流バイパス通路』の機能を有する安定化材が必要となる。ビスマス系高温超電導線材では、線材断面において約50%〜70%が銀(または銀合金)シースであるため、銀(または銀合金)シース材だけで十分な『電流バイパス通路』の機能を有する安定化材となる。一方、イットリウム系高温超電導線材では、上述のように、超電導層上に安定化金属層として銀薄膜などがコーティングされている。
(ホ)なお、超電導線材を適用した超電導コイルとしては、超電導線材を円筒状の巻枠周面に巻装した構成になる超電導コイルが知られており(例えば、特許文献1参照)、その構成例を
図4〜5に示す。
【0004】
図4は従来の超電導コイルの構成例を示す図であって、
図4(a)および
図4(b)はそれぞれ超電導コイル111の側面図および断面図を示している。
図4において、絶縁材料からなる円筒状の巻枠101の外周面に形成した螺旋状の溝に沿ってテープ状の酸化物超電導線材からなる超電導導体102が巻回されて超電導コイル111が構成されている。
【0005】
また、
図5は従来の超電導コイルの異なる構成例を示す断面構造図であって、超電導コイル211の断面図を示している。
図5において、絶縁材料からなる円筒状の巻枠201の外周面に形成した螺旋状の溝210に沿ってテープ状の酸化物超電導線材からなる超電導導体202と金属テープ204とが、金属テープ204の方が外径側に配置されるようにして共巻きされて超電導コイル211が構成されている。なお、
図5には示されていないが、超電導コイル211において、超電導導体202と金属テープ204とは電気的に並列接続されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】須藤 泰範、他4名、“イットリウム系酸化物超電導線材”、フジクラ技報、第107号、2004年10月発行、p68−72、[0nline]、[平成20年9月30日検索]、インターネット<URL:HYPERLINK "http://www.fujikura.co.jp/00/gihou/gihou107/107#15.html"http://www.fujikura.co.jp/00/gihou/gihou107/107#15.html>
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−244108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(イ)上述のように、イットリウム系高温超電導線材では、超電導層上に安定化金属層として銀薄膜などがコーティングされている。しかしながら、製作性やコストの観点から銀薄膜の厚さはせいぜい5〜30μm程度である。このため、イットリウム系高温超電導線材を用いた超電導コイルにおいて、超電導コイルに流れる電流の大きさにもよるが、例えば超電導変圧器の負荷側に短絡事故が発生した場合の短絡電流のような過大電流が超電導コイルに流れ、過大電流で超電導導体が常電導に転移した場合、この過大電流をバイパスさせる『電流バイパス通路』の機能を上記銀薄膜のみで十分に果たすようにすることは困難である。
【0009】
そこで、イットリウム系高温超電導線材を用いた超電導コイルにおいては、上述の
図5で述べた構成例と同様に、イットリウム系高温超電導線材と、良導電性の金属からなる金属テープとを電気的に並列接続するとともに、金属テープの方が外径側に配置されるようにして共巻きしてなる構成とすることにより、イットリウム系高温超電導線材の銀薄膜では不十分な『電流バイパス通路』の機能を、良導電性の金属からなる金属テープで補い、両者の組合せで十分な『電流バイパス通路』の機能を奏するようにすることが考えられる。
【0010】
なお、イットリウム系高温超電導線と共巻きされる金属テープが、超電導層のジュール発熱を少なくするために超電導層の電流をバイパスさせる上述の『電流バイパス通路』の機能に加えて、熱伝導により超電導層の温度上昇を抑制する『熱容量』の機能も担うようにする場合、金属テープはイットリウム系高温超電導線の銀薄膜面側に接するように配置することが適当と考えられる。
【0011】
そして、『電流バイパス通路』の機能と『熱容量』の機能とを十分に果たさせるには、金,銀,銅などの良導電性かつ良熱伝導性の金属からなる金属テープを用いることが適当と考えられる。
(ロ)一方、イットリウム系高温超電導線材を巻枠に巻回して超電導コイルを構成し、この超電導コイルに通電すると、外径方向(コイル半径方向において外向きの方向)への電磁力(フープ力)がイットリウム系高温超電導線材に印加され、イットリウム系高温超電導線材に引張り応力が生じるため、イットリウム系高温超電導線材を何らかの手段で外径側から支持しないと、上記フープ力の強さによってはイットリウム系高温超電導線材が破損する可能性もある。このとき、上述のように金属テープをイットリウム系高温超電導線材の外径側に配置している場合には金属テープがフープ力を受けることとなる。そして、フープ力を受ける『支持部材』の機能を十分に果たさせるには、ステンレス鋼などの高剛性の金属からなる金属テープを用いることが適当と考えられる。
【0012】
なお、内径側コイルと外径側コイルとを備えた超電導変圧器の場合には、例えば前述した短絡電流の通電時には過大な電磁力が内側/外側コイル間に加わり、内側コイルには内径方向への電磁力が働くので、その巻枠で超電導線材に働く電磁力を内径側から支えることができるが、外側コイルには外径方向への電磁力が働くので、上述のような外径側から支持する手段が必要となる。
(ハ)したがって、金属テープをイットリウム系高温超電導線材と共巻きする構成において、イットリウム系高温超電導線材のための安定化材としての機能、すなわち『電流バイパス通路』の機能、『熱容量』の機能および『支持部材』の機能の全てを金属テープが十分に果たすようにすることには、金属テープを構成する金属材料の特性の点で無理がある。
【0013】
このため、イットリウム系高温超電導線材を用いた超電導コイルでは、たとえ上述のような金属テープをイットリウム系高温超電導線材と共巻きする構成を適用した場合でも、機械的な信頼性および熱的な信頼性の両方を十分なものとする上で難しい点があった。
(ニ)また、イットリウム系高温超電導線材を用いた超電導コイルを、例えば短絡事故時の短絡電流のような過大電流を考慮して設計する場合、金属テープからなる安定化材の好適な厚さはその超電導コイルを含む電気回路の回路定数(電気抵抗R、インダクタンスL,キャパシタンスC)により異なる。そして、安定化材の厚さが薄すぎる場合は安定化材としての『電流バイパス通路』および『熱容量』の機能が不十分であるためにイットリウム系高温超電導線材の温度上昇を十分に抑制できないことにより、イットリウム系高温超電導線材が焼損する可能性がある。一方、安定化材の厚さが厚すぎる場合は電流の減衰時定数が大きくなり、回路電流の減衰に時間がかかる等の弊害が生じることになる。
【0014】
このような安定化材に用いる金属テープについて、線材メーカからの通常の供給体制としては数百kg(またはトン)という大量の単位でしか対応できないため、ある厚さの金属テープが必要な場合にその金属テープを所望の長さ分だけ入手することは困難である。例えば、厚さが0.2mm、幅が10mmの銅(比重8.9)からなる金属テープが200mだけ必要である場合、その必要分(重量としては約3.56kg)だけを入手するということは困難である。このため、イットリウム系高温超電導線材を用いた超電導コイルを設計,製作するたびに、その超電導コイルの設計諸元に対応した厚さの金属テープを例えば数百kg(またはトン)という大量の単位で購入せざるを得ず、材料コストの点で非常に不経済である。
【0015】
(ホ)本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、金属基板の片面に中間層,超電導層,安定化金属層を積層した薄膜状超電導線材からなる超電導導体が円筒状の巻枠の周面に巻回されてなる巻線部を備えた超電導コイルにおいて、過大電流が流れた際における超電導導体の破損,焼損,劣化などを防止できる機械的および熱的に信頼性の高い巻線構造を備え、さらには安価に製造可能な超電導コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本実施の形態の一観点によれば、金属基板の片面に中間層,超電導層,安定化金属層を積層した薄膜状超電導線材からなる超電導導体が円筒状の巻枠の周面に巻回されてなる巻線部を備えた超電導コイルにおいて、前記超電導導体の外周面を被覆する絶縁材と、同じ厚さの金属テープを複数枚重ねて構成される安定化材と、を備え、前記超電導導体は、前記絶縁材を介して前記安定化材と共巻きしてなることを特徴とする超電導コイルが提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、金属基板の片面に中間層,超電導層,安定化金属層を積層した薄膜状超電導線材からなる超電導導体が円筒状の巻枠の周面に巻回されてなる巻線部を備えた超電導コイルにおいて、過大電流が流れた際における超電導導体の破損,焼損,劣化などを防止できる機械的および熱的に信頼性の高い巻線構造を備え、さらには安価に製造可能な超電導コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施例による超電導コイルの構成例を示す断面構造図である。
【
図2】本発明の実施例による超電導コイルにおける超電導導体および安定化材の絶縁構成を例示する図である。
【
図3】本発明で用いる超電導導体の構造例を模式的に示す図である。
【
図4】従来の超電導コイルの構成例を示す図である。
【
図5】従来の超電導コイルの異なる構成例を示す断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を
図1〜
図3に示す実施例に基づいて説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
【0032】
(超電導導体の構成)
(イ)
図3に本発明で用いる超電導導体の構造例を模式的に示す。
図3(a)および
図3(b)は、それぞれ超電導導体の模式断面図および斜視図である。
図3の超電導導体は、ハステロイ,ステンレス等の高剛性の金属からなるテープ状の金属基板a,絶縁材からなる中間層b,イットリウム系超電導材料などからなる超電導層c,銀などの良導電性の金属からなる安定化金属層dが積層された積層構造の薄膜状超電導線材となっており、この積層構造は、例えば上述の非特許文献1に示されている薄膜状超電導線材に対応している。なお、
図3は薄膜状超電導線材の積層構造を模式的に示すものであって、各層の厚さの割合として実際には金属基板aが大半を占める。
(ロ)本発明で用いる薄膜状超電導線材からなる超電導導体としては、
図3の構成例に限定されるものではなく、一面側が安定化金属層面,他面側が金属基板面とされる多層構造の薄膜状超電導線材であれば適用可能であり、また、イットリウム系以外の高温超電導線材も適用可能である。
【0033】
(超電導コイルの構成例)
(イ)
図1は、本発明の実施例による超電導コイルの構成例を示す断面構造図である。
図1において、絶縁被覆超電導導体3と安定化材6とをコイル半径方向に交互に重ねて、絶縁材料からなる円筒状の巻枠1の外周面に形成された螺旋状の溝10に埋め込むようにして共巻きすることにより超電導コイル11を構成している。そして、最内径側には安定化材6が配置されている。ここで、絶縁被覆超電導導体3は、例えば
図3に示した積層構造の薄膜状超電導線材からなる超電導導体2の外周面を絶縁材7aで被覆して形成されたものである。安定化材6としては、2枚の金属テープ4をコイル半径方向に重ねて構成された例を図示しているが、後述するように、金属テープ4の重ね枚数は、超電導コイルの設計諸元により決定される安定化材6の厚さに基づいて決められるものである。
【0034】
図1では、2本の超電導導体を並列化して巻回する構成、すなわち、コイル半径方向に重ねるように並列配置された2本の絶縁被覆超電導導体3の各内径側にそれぞれ安定化材6が配置されるようにして巻回する構成例を示しているが、巻回される超電導導体の本数は2本に限定されるものではなく、1本の超電導導体だけを巻回する構成でもよく、3本以上の超電導導体を並列化して巻回する構成でもよい。
【0035】
図1には示していないが、絶縁被覆超電導導体3は、その薄膜状超電導線材からなる超電導導体2の安定化金属層面および金属基板面がそれぞれ内径側および外径側となるようにして巻回されている。
【0036】
(ロ)例えば短絡事故時の短絡電流のような過大電流が超電導コイル11に流れた場合、外径方向への過大な電磁力(フープ力)が超電導導体2に印加されるが、上述のように、
図1における絶縁被覆超電導導体3は、その薄膜状超電導線材からなる超電導導体2の安定化金属層dおよび金属基板aのうち、ハステロイ,ステンレス等の高剛性の金属からなる金属基板aが外径側となるようにして巻回されていることにより、上記フープ力に対して高剛性の金属基板aが『支持部材』として機能し、これにより上記フープ力が支えられるため、超電導導体2の破損を防止し、フープ力による超電導コイル11の劣化等を防止することができる。このように、本発明の実施例による超電導コイルは、上記のようなフープ力に十分に耐えられる機械的に信頼性の高い巻線構造を備えたものとなっている。
【0037】
(ハ)また、
図1において、絶縁被覆超電導導体3の少なくとも内径側には安定化材6を配置し、かつ、絶縁被覆超電導導体3を、その薄膜状超電導線材からなる超電導導体2の安定化金属層dおよび金属基板aのうち、銀などの良熱伝導性の金属からなる安定化金属層dが内径側となるようにして巻回していることにより、超電導導体2のうち内径側に位置する安定化金属層dの側が安定化材6に接した状態となるため、金属テープ4からなる安定化材6が、超電導導体2が温度上昇した際における『熱容量』として機能し、過大電流が流れた際における超電導導体2の温度上昇が抑制され、超電導導体2の焼損,劣化を防止し、超電導コイル11の劣化等を防止することができる。このように、本発明の実施例による超電導コイルは、熱的にも信頼性の高い巻線構造を備えたものとなっている。
【0038】
(ニ)また、本発明の実施例による超電導コイルにおいて、超電導導体2と安定化材6とを電気的に並列接続した構成とすれば、安定化材6が、超電導導体2に過大電流が流れて超電導導体2が常電導に転移した際における『電流バイパス通路』として機能し、過大電流が流れた際における超電導導体2のジュール発熱が低減されるため、超電導導体2の温度上昇が抑制され、超電導導体2の焼損,劣化をより効果的に防止することができるようになる。
【0039】
(ホ)また、さらに、本発明の実施例による超電導コイルにおいて、安定化材6を構成する金属テープ4として、金または金合金、銀または銀合金、銅または銅合金のいずれかからなる金属テープを用いる構成とすれば、安定化材6を構成する金属テープ4が特に良熱伝導性の金属からなることにより、超電導導体2が温度上昇した際における安定化材6の『熱容量』としての機能がより高いものとなり、過大電流が流れた際における超電導導体2の温度上昇がより効果的に抑制され、超電導導体2の焼損,劣化をより効果的に防止できるようになる。
【0040】
また、この場合、超電導導体2と安定化材6とを電気的に並列接続した構成であれば、超電導導体に並列接続された安定化材を構成する金属テープが特に良導電性の金属からなることにより、超電導導体2に過大電流が流れた際における安定化材6の『電流バイパス通路』として機能もより高いものとなり、過大電流が流れた際における超電導導体2のジュール発熱がより効果的に低減されるため、超電導導体2の温度上昇がより効果的に抑制され、超電導導体の焼損,劣化をより効果的に防止できるようになる。
【0041】
(ヘ)次に、円筒状の巻枠1の外周面に形成された螺旋状の溝10に埋め込むようにして超電導導体2と安定化材6とを共巻きする際には、安定化材6の幅を超電導導体2の幅とほぼ同一としておくことが好適であり、さらに、巻線工数を低減する上では、超電導導体2と安定化材6とを重ねた状態で一体化した複合化巻線導体を構成しておき、この複合化巻線導体を巻回するようにすることが好適である。そして、上記のように超電導導体2と安定化材6とを重ねた状態で一体化した複合化巻線導体を構成する場合、例えば重ねた状態の超電導導体2および安定化材6の全体を電気絶縁材料で被覆することなどにより一体構造の複合化巻線導体を製作することができる。
【0042】
このように、超電導導体2と安定化材6とを共巻きする場合、超電導導体2および安定化材6の絶縁構成が重要であり、本発明の実施例による超電導コイルでは、例えば
図2(a)〜(d)に示す絶縁構成を適用できるが、
図2(a)〜(d)の構成に限定されるものではない。
【0043】
図2は、本発明の実施例による超電導コイルの超電導導体および安定材の絶縁構成を例示する図であり、
図2(a)〜
図2(d)により4つの構成例を示している。
図2(a)は、超電導導体2の外周面が絶縁材7aで被覆された絶縁被覆超電導導体3と、金属テープ4を2枚重ねた安定化材6とからなる構成例を示しており、
図1の超電導コイルの構成例と対応するものである。
図2(a)の構成では、絶縁材7aにより超電導導体と安定化材とが電気的に絶縁されている。
【0044】
図2(b)は、超電導導体2の外周面が絶縁材7aで被覆された絶縁被覆超電導導体3と、金属テープ4が絶縁材7bで被覆された絶縁被覆金属テープ5を2枚重ねた安定化材6Aとからなる構成例を示している。
図2(b)の構成では、絶縁材7a,7bにより超電導導体と安定化材とが電気的に絶縁されている。
図2(c)は、超電導導体2の外周面が絶縁材7aで被覆された絶縁被覆超電導導体3と、金属テープ4が絶縁材7bで被覆された絶縁被覆金属テープ5を2枚重ねた安定化材6Aとの全体を絶縁材7cで被覆し、複合化巻線導体8として一体化した構成例を示している。
図2(c)の構成では、絶縁材7a,7bにより超電導導体と安定化材とが電気的に絶縁されているとともに、全体を被覆する絶縁材7cにより超電導導体と安定化材とが一体化されている。
【0045】
図2(d)は、超電導導体2の外周面が絶縁材7aで被覆された絶縁被覆超電導導体3と、金属テープ4を2枚重ねた安定化材6との全体を絶縁材7cで被覆し、複合化巻線導体8Aとして一体化した構成例を示している。
図2(d)の構成では、絶縁材7aにより超電導導体と安定化材とが電気的に絶縁されているとともに、全体を被覆する絶縁材7cにより超電導導体と安定化材とが一体化されている。
【0046】
(ト)上述のように、
図1は、安定化材6として金属テープ4を2枚重ねた構成(以下では「2枚重ね」の構成とも称する)を示しているが、安定化材6の厚さ、すなわち金属テープ4の枚数は超電導コイル11の設計諸元により決定されるものである。単位厚さの金属テープ4として例えば厚さ0.05mmの金属テープを用意した場合、安定化材6の厚さを0.3mmとしたいときには6枚重ね、0.4mmのときは8枚重ねというようにすればよい。こうすることにより、いろいろな設計諸元の超電導コイルに対応していろいろな厚さの金属テープを製作または購入する必要がなくなり、例えば0.05mmの厚さの金属テープだけを製作または購入しておいて、製作する超電導コイルの設計諸元に合せて必要枚数重ねて所望の厚さの安定化材を構成するように対応すればよいので、材料コストを低減することができ、超電導コイルをより安価に製造できるようになる。
【0047】
安定化材6を構成する金属テープ4の厚さは、薄ければ薄いほど、安定化材6として必要な厚さ寸法のバリエーションに細かく対応することが可能となるが、製作性,コスト,均一性,伸延性などを勘案すると、現状では0.05mmが最小であると考えられる。なお、金属テープ4として、厚さが0.05mmより薄く、かつ、製作性やコスト,均一性などで有利なものができれば、その厚さを単位厚さとしてもよい。
以上、本発明の実施形態によれば、超電導コイルとして、金属基板の片面に中間層,超電導層,安定化金属層を積層した薄膜状超電導線材からなる超電導導体が円筒状の巻枠の周面に巻回されてなる巻線部を備えた超電導コイルにおいて、前記超電導導体は、金属テープからなる安定化材と共巻きしてなるとともに、前記超電導導体の少なくとも内径側には前記安定化材を配置し、かつ、前記超電導導体は、安定化金属層面および金属基板面がそれぞれ内径側および外径側となるようにして巻回してなる構成が開示される。
上記構成によれば、金属基板の片面に中間層,超電導層,安定化金属層を積層した薄膜状超電導線材からなる超電導導体を金属基板面が外径側となるように巻回することにより、例えば短絡事故時の短絡電流のような過大電流が超電導コイルに流れた際に超電導導体に加わる外径方向への過大な電磁力(フープ力)に対して、超電導導体のうち外径側に位置する金属基板が『支持部材』として機能し、これにより上記フープ力が支えられ、超電導導体の破損を防止できるので、上記フープ力に十分に耐えられる機械的に信頼性の高い巻線構造を実現できる。
また、上記構成によれば、超電導導体は、金属テープからなる安定化材と共巻きしてなるとともに、前記超電導導体の少なくとも内径側には前記安定化材を配置し、かつ、超電導導体を安定化金属層面が内径側となるように巻回することにより、超電導導体のうち内径側に位置する安定化金属面の側が安定化材に接した状態となるため、金属テープからなる安定化材が、超電導導体が温度上昇した際における『熱容量』として機能し、過大電流が流れた際における超電導導体の温度上昇が抑制され、超電導導体の焼損,劣化を防止できるので、熱的に信頼性の高い巻線構造を実現できる。
これにより、上記構成によれば、機械的および熱的に信頼性の高い超電導コイルを提供できるようになる。なお、上記構成では、機械的信頼性のための上記『支持部材』機能および熱的信頼性のための上記『熱容量』機能を、それぞれ「超電導導体の金属基板」および「金属からなる安定化材」という別々の構成要素で担うようにしているので、各構成要素の材料としてそれぞれが担う機能に適合した特性をもつ材料を用いることができ、材料選択上の制約なしに超電導コイルの信頼性の向上を図ることができる。
さらに、本発明の実施形態によれば、上述の超電導コイルにおいて、前記超電導導体と前記安定化材とを電気的に並列接続した構成が開示される。
上記構成によれば、超電導導体に並列接続された安定化材が、超電導導体に過大電流が流れた際における『電流バイパス通路』として機能し、過大電流が流れた際における超電導導体のジュール発熱が低減されるため、超電導導体の温度上昇が抑制され、超電導導体の焼損,劣化をより効果的に防止できるので、熱的により信頼性の高い超電導コイルを提供できるようになる。
さらに、本発明の実施形態によれば、上述の超電導コイルにおいて、前記安定化材は、複数枚の互いに同じ厚さの金属テープを重ねて構成される構成が開示される。
上記構成によれば、超電導導体と共巻きする安定化材に用いる金属テープとして単位厚さ,例えば0.05mmの金属テープだけを製作または購入しておき、製作する超電導コイルの設計諸元に合せて必要枚数重ねて所望の厚さの安定化材を構成することができるため、いろいろな設計諸元の超電導コイルに対応していろいろな厚さの金属テープを製作または購入する必要がなくなるので、材料コストを低減でき、超電導コイルを安価に製造できるようになる。
さらに、本発明の実施形態によれば、上述の超電導コイルにおいて、前記巻枠は、絶縁材料からなる円筒状部材の外周面に螺旋状の溝が形成されたものであり、前記超電導導体と前記安定化材とを重ねて前記溝に埋め込むように共巻きしてなる構成が開示される。
さらに、本発明の実施形態によれば、上述の超電導コイルにおいて、前記金属テープは、金または金合金、銀または銀合金、銅または銅合金のいずれかからなる構成が開示される。
上記構成によれば、安定化材を構成する金属テープが、特に良熱伝導性の金属である金または金合金、銀または銀合金、銅または銅合金のいずれかからなるものであることにより、超電導導体が温度上昇した際における安定化材の『熱容量』としての機能がより高いものとなり、過大電流が流れた際における超電導導体の温度上昇がより効果的に抑制され、超電導導体の焼損,劣化をより効果的に防止できるので、熱的により信頼性の高い超電導コイルを提供できるようになる。
なお、上述の超電導導体と安定化材とを電気的に並列接続した構成にこの構成を適用した場合には、超電導導体に並列接続された安定化材を構成する金属テープが、特に良導電性の金属である金または金合金、銀または銀合金、銅または銅合金のいずれかからなるものであることにより、超電導導体に過大電流が流れた際における安定化材の『電流バイパス通路』として機能がより高いものとなり、過大電流が流れた際における超電導導体のジュール発熱がより効果的に低減されるため、超電導導体の温度上昇がより効果的に抑制され、超電導導体の焼損,劣化をより効果的に防止できるので、熱的により信頼性の高い超電導コイルを提供できるようになる。
さらに、本発明の実施形態によれば、上述の超電導コイルにおいて、前記巻線部における巻き始め部および巻き終わり部の各端末部を除く部分で前記超電導導体と前記安定化材とを互に電気的に絶縁してなるとともに、前記超電導導体と前記安定化材とを電気絶縁性材料により一体化した複合化巻線導体を巻回してなる構成とすることができる。
上記構成によれば、超電導導体と安定化材とを一体化した複合化巻線導体を巻回するので、共巻き構成の超電導コイルの製造工程における巻線工数を低減することができ、超電導コイルをより安価に製造できるようになる。
【符号の説明】
【0048】
1,101,201・・・巻枠
2,102,202・・・超電導導体
3・・・絶縁被覆超電導導体
4,204・・・金属テープ
5・・・絶縁被覆金属テープ
6,6A・・・安定化材
7a,7b,7c・・・絶縁材
8,8A・・・複合化巻線導体
10,210・・・溝
11,111,211・・・超電導コイル
a・・・金属基板
b・・・中間層
c・・・超電導層
d・・・安定化金属層