特許第5741159号(P5741159)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741159
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】電動モータおよびロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20150611BHJP
【FI】
   H02K1/27 501C
   H02K1/27 501K
   H02K1/27 501J
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-86222(P2011-86222)
(22)【出願日】2011年4月8日
(65)【公開番号】特開2012-222958(P2012-222958A)
(43)【公開日】2012年11月12日
【審査請求日】2014年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】阪田 隆敏
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−207075(JP,A)
【文献】 特開2009−077599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ軸と一体に回転するロータ本体に、軸方向にのびる円筒状の永久磁石装着部が設けられ、永久磁石装着部に固定状に設けられた合成樹脂製の永久磁石保持部材に複数の永久磁石が保持されている電動モータのロータにおいて、
永久磁石装着部の内周面の周方向複数箇所に軸方向にのびて永久磁石装着部の少なくとも一方の端面に達する内周みぞが形成され、永久磁石保持部材が、永久磁石装着部の両端面に密着する円環部と、永久磁石装着部の外周面の周方向複数箇所において両円環部の外周部を連結するとともに永久磁石を保持する外周側連結部と、永久磁石装着部の少なくとも上記一方の端面の円環部の内周部に連結されて永久磁石装着部の内周面を覆うとともに内周みぞを埋める内周側円筒部とが一体に形成され
永久磁石装着部の軸方向両端面において永久磁石装着部の外周面に達する複数の端面みぞが形成され、永久磁石装着部の少なくとも上記一方の端面の端面みぞが内周みぞに連なっており、永久磁石保持部材の両円環部が永久磁石装着部の両端面の端面みぞを埋めており、両円環部の端面みぞを埋める部分に連なって外周側連結部が形成されていることを特徴とするロータ。
【請求項2】
永久磁石装着部が、モータ軸から径方向外方にのびるフランジ部の外周縁から軸方向片側にのびていることを特徴とする請求項1のロータ。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項のロータを備えていることを特徴とする電動モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば自動車のトランスミッションに油圧を供給する油圧ポンプとして使用される電動ポンプユニットなどにおける電動モータおよびロータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションには油圧ポンプにより油圧が供給されるが、省エネルギなどの観点から停車時にエンジンを停止するいわゆるアイドルストップ(アイドリングストップ)を行う自動車では、アイドルストップ時にもトランスミッションへの油圧供給を確保するために、電動油圧ポンプが使用されるようになっている。
【0003】
このような電動油圧ポンプを備えた電動ポンプユニットとして、たとえば、特許文献1に示すものが知られている。
【0004】
自動車用電動油圧ポンプは、車体の限られたスペースに搭載されるため、コンパクト化が要求され、また、軽量化およびコスト低減も要求される。このような要求に応えるため、上記の電動ポンプユニットでは、ポンプ、ポンプ駆動用電動モータおよび電動モータのコントローラが共通のユニットハウジング内に組み込まれている。
【0005】
この種の電動ポンプユニットにおける電動モータには、ロータに永久磁石を用いたDCブラシレスモータが用いられる。従来のDCブラシレスモータでは、ロータ本体の円筒状の永久磁石装着部の外周面にリング形状またはセグメント形状の永久磁石が接着剤で固定されていた。このようにロータ本体に永久磁石が接着剤で固定されている場合、厳しい環境下で使用される電動モータでは、接着剤が剥がれるおそれがある。
【0006】
接着剤の剥がれによる永久磁石の脱落を避けるため、セグメント形状の永久磁石を永久磁石装着部の外周面に合成樹脂でモールドしたり、永久磁石装着部の外周部に固定状に設けられた合成樹脂製保持器のような永久磁石保持部材でセグメント形状の永久磁石を保持することが提案されている。そのようにした場合、永久磁石装着部の横断面形状が円形であると、回転により合成樹脂が円周方向に滑り、確実に固定できない。合成樹脂のすべりを防止するには、永久磁石装着部の横断面形状を非円形たとえば多角形にする必要があるが、そうすると、ロータ本体の加工が困難で、また、ロータ本体の対向する面の対称度も精度良く製作する必要があり、高価なものとなる。
【0007】
ロータ本体の永久磁石装着部の横断面形状が円形であっても、永久磁石保持部材が永久磁石装着部に確実に固定されるよう、上記の特許文献1の電動ポンプユニットでは、永久磁石装着部の両端部において外周部の周方向複数箇所に回り止め凹部が形成されており、永久磁石保持部材が、永久磁石装着部の両端面外周部に密着する円環部と、永久磁石装着部の外周面において両円環部を連結するとともに永久磁石を保持する連結部とからなり、永久磁石保持部材に、永久磁石装着部の回り止め凹部にはまる複数の回り止め凸部が一体に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−207075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来の電動ポンプユニットでは、ロータ本体に回り止め凹部が形成されるなど、ロータ本体が複雑な形状をしているため、ロータ本体は焼結により成形されている。
【0010】
また、永久磁石保持部材は、型を用いて永久磁石装着部にモールドされる。上記の永久磁石保持部材は永久磁石装着部の内周には存在しないので、永久磁石保持部材を永久磁石装着部にモールドするときに、型と永久磁石装着部の内周面との隙間をできるだけ小さくして、合成樹脂が永久磁石装着部の内周側に回り込まないようにしなければならない。ところが、焼結成形だけでは、寸法ばらつきが大きく、焼結後の機械加工によって寸法精度を向上させる必要がある。そうすると、ロータ本体の製造コストが高くなる。
【0011】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、ロータ本体に対する永久磁石保持部材の固定が確実であって、ロータ本体の加工が容易で、安価に製作できる電動モータおよびロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明によるロータは、モータ軸と一体に回転するロータ本体に、軸方向にのびる円筒状の永久磁石装着部が設けられ、永久磁石装着部に固定状に設けられた合成樹脂製の永久磁石保持部材に複数の永久磁石が保持されている電動モータのロータにおいて、永久磁石装着部の内周面の周方向複数箇所に軸方向にのびて永久磁石装着部の少なくとも一方の端面に達する内周みぞが形成され、永久磁石保持部材が、永久磁石装着部の両端面に密着する円環部と、永久磁石装着部の外周面の周方向複数箇所において両円環部の外周部を連結するとともに永久磁石を保持する外周側連結部と、永久磁石装着部の少なくとも上記一方の端面の円環部の内周部に連結されて永久磁石装着部の内周面を覆うとともに内周みぞを埋める内周側円筒部とが一体に形成されたものであることを特徴とするものである。
【0013】
永久磁石保持部材は、たとえば、型を用いて合成樹脂をロータ本体の永久磁石装着部にモールドすることにより、ロータ本体と一体化される。内周みぞは、好ましくは、永久磁石装着部を周方向に等分する複数箇所に形成される。
【0014】
永久磁石保持部材に、永久磁石装着部の少なくとも一方の端面の円環部の内周部に連結される内周側円筒部が形成されているため、型を用いた成形時に、合成樹脂が永久磁石装着部の内周側に回り込むことになる。このため、型と永久磁石装着部の内周面との隙間をある程度大きくすればよく、永久磁石装着部の内周の寸法精度を高める必要がない。その結果、永久磁石装着部の内周面を機械加工する必要がなく、ロータ本体の製造コストが低減する。内周側円筒部の内周面は、型によって規制され、一様な円筒面となる。
【0015】
永久磁石保持部材の内周側円筒部が、永久磁石装着部の内周みぞを埋めてこれにはまり合うことにより、回り止め機能が発揮され、永久磁石装着部の外周面が円筒面であっても、回転により永久磁石装着部に対して永久磁石保持部材が円周方向に滑ることがなく、永久磁石保持部材の固定が確実である。永久磁石装着部の外周面を円筒面にすることにより、その加工が容易で、安価に製作できるようになる。
【0016】
永久磁石装着部の内周面に内周みぞが形成されているため、その分、ロータ本体の重量が軽減され、慣性が軽減される。永久磁石装着部の内周面が永久磁石保持部材の内周側円筒部で覆われていることにより、永久磁石保持部材を含む永久磁石装着部の内周面を一様にすることができ、内周みぞによる異音の発生を軽減することができる。両円環部の外周部が外側連結部で連結され、永久磁石装着部の少なくとも一方の端面の円環部の内周部が内周みぞを埋める内周側円筒部に連結されているので、ロータ本体に対する永久磁石保持部材の固定強度が高くなる。
【0017】
内周みぞは、たとえば、永久磁石装着部の一方の端面にだけ達するもの、すなわち、永久磁石装着部の全長にわたらないものである。あるいは、内周みぞは、永久磁石装着部の両端面に達するもの、たとえば、永久磁石装着部の全長にわたるものである。内周みぞが永久磁石装着部の両端面に達するものである場合、内周側円筒部は、永久磁石装着部の両端面の円環部の内周部と連結される。このため、ロータ本体に対する永久磁石保持部材の固定強度がさらに高くなる。
【0018】
たとえば、ロータ本体は、モータ軸から径方向外側に面状あるいは線状にのびる部分(外方延伸部)の外周に永久磁石装着部が設けられたものである。永久磁石装着部は、外方延伸部の外周から軸方向片側あるいは軸方向両側にのびる。この場合、たとえば、ロータ本体全体がモータ軸と別に作られて、モータ軸に固定される。あるいは、外方延伸部がモータ軸に一体に形成され、別に作れれた永久磁石装着部が外方延伸部に固定される。あるいは、ロータ本体全体がモータ軸に一体に形成される。永久磁石装着部が外方延伸部の外周から軸方向両側にのびるものである場合、永久磁石装着部の両端面に達する内周みぞを形成することができる。外方延伸部が複数の線状部たとえばアームからなるものである場合、アームの間の部分において、永久磁石装着部の全長にわたる内周みぞを形成することができる。外方延伸部が面状部たとえばフランジ部からなるものである場合、内周みぞは、フランジ部を除く永久磁石装着部の内周面に形成されてもよいし、フランジ部を貫通して永久磁石装着部の全長にわたって形成されてもよい。
【0019】
たとえば、永久磁石装着部の軸方向両端面に、永久磁石装着部の外周面に達する複数の端面みぞが形成され、永久磁石装着部の少なくとも上記一方の端面の端面みぞが内周みぞに連なっており、永久磁石保持部材の両円環部が永久磁石装着部の両端面の端面みぞを埋めており、両円環部の端面みぞを埋める部分に連なって外周側連結部が形成されている。
【0020】
この場合、永久磁石保持部材の円環部が端面みぞにはまり合うことによっても、回り止め機能が発揮される。また、永久磁石装着部の少なくとも一方の端面において、円環部の端面みぞを埋める部分が、内周側円筒部の内周みぞを埋める部分および外側連結部に連なった形になり、永久磁石保持部材の強度が向上する。
【0021】
内周みぞが永久磁石装着部の全長にわたる場合、内周側円筒部の内周みぞを埋める部分、両円環部の端面みぞを埋める部分および外周側連結部が互いに連なった円環状となり、永久磁石保持部材の強度がさらに向上する。
【0022】
たとえば、永久磁石装着部が、モータ軸から径方向外方にのびるフランジ部の外周縁から軸方向片側にのびている。
【0023】
この場合、たとえば、ロータ本体のフランジ部に形成された穴にモータ軸が圧入されて固定される。そうすると、上記のようにロータ本体の重量が軽減されて慣性が軽減されることにより、モータ軸とロータ本体の圧入部分に要求される保持トルクを小さくすることができ、モータ性能も向上する。
【0024】
たとえば、内周みぞは、ロータ本体のフランジ部を除く永久磁石装着部の内周面に形成される。この場合、永久磁石保持部材の内周側円筒部は、永久磁石装着部のフランジ部から遠い側の端面の円環部とだけ連結される。しかし、内周みぞは、フランジ部を貫通して、永久磁石装着部の軸方向全長に形成されてもよい。この場合、永久磁石保持部材の内周側円筒部はフランジみぞを貫通する内周みぞの部分も埋めて、永久磁石装着部の基端側の円環部とも連結される。
【0025】
この発明による電動モータは、この発明によるロータを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
この発明の電動モータおよびロータによれば、上記のように、ロータ本体に対する永久磁石保持部材の固定が確実であって、しかもロータ本体の加工が容易で、安価に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、この発明の実施形態を示す電動ポンプユニットの縦断面図である。
図2図2は、図1のII−II線に沿いかつ一部を切り欠いて示した拡大矢視図である。
図3図3は、図1のIII−III線に沿う拡大断面図である。
図4図4は、電動モータのロータの仮想的な分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、この発明を自動車の油圧ポンプに使用される電動ポンプユニットにおける電動モータに適用した実施形態について説明する。
【0029】
図1は、電動ポンプユニットの縦断面図である。以下の説明において、図1の左側を前、同右側を後とする。
【0030】
電動ポンプユニットは、ユニットハウジング(1)内に、ポンプ(2)と、ポンプ(2)を回転駆動する電動モータ(3)が一体に組み込まれたものである。モータ(3)のコントローラ(4)も、ハウジング(1)内に組み込まれている。この例では、ポンプ(2)は内接歯車ポンプ、モータ(3)は3相巻線を有するセンサレス制御DCブラシレスモータである。
【0031】
ユニットハウジング(1)は、ポンプハウジング(5)、ポンププレート(6)、モータハウジング(7)および蓋(8)よりなり、ポンプハウジング(5)、モータハウジング(7)および蓋(8)により防水ハウジング(9)が構成されている。
【0032】
ポンプハウジング(5)は、前後方向と直交する方向に広がりを持つ厚肉板状のものであり、その中心に、前部が開口したポンプ室(10)が形成されている。ポンプハウジング(5)の前面に、ポンププレート(6)がOリング(11)を介して固定され、ポンプ室(10)の前面が塞がれている。ポンプ室(10)内に、ポンプ(2)を構成するアウタギヤ(12)が回転自在に収容され、アウタギヤ(12)の内側に、これとかみ合うインナギヤ(13)が配置されている。図示は省略したが、ポンププレート(6)には、ポンプ室(10)に連通する油吸入口および油吐出口が設けられている。
【0033】
モータハウジング(7)は、円筒状をなし、その前端が、シール部材(14)を介してポンプハウジング(5)の後面外周寄りの部分に固定されている。モータハウジング(7)の後端開口が、蓋(8)により塞がれている。
【0034】
ポンプハウジング(5)の後端面の中心に、モータハウジング(7)より小径の円筒部(5a)が一体に形成され、円筒部(5a)内の後部に設けられた軸受装置(15)により、前後方向にのびるポンプ駆動モータ軸(16)が片持ち支持されている。この例では、軸受装置(15)は、前後に隣接する2個の転がり軸受である玉軸受(17)よりなり、各軸受(17)の内輪(17a)がモータ軸(16)に固定され、外輪(17b)が円筒部(5a)に固定されている。モータ軸(16)の前部は、ポンプハウジング(5)の後壁に形成された穴(18)の部分を貫通してポンプ室(10)内に進入し、その前端がインナギヤ(13)に連結されている。円筒部(5a)内の軸受装置(15)より前側の部分とモータ軸(16)の間に、オイルシール(19)が設けられている。
【0035】
円筒部(5a)より後方に突出したモータ軸(16)の後端部に、モータ(3)を構成するモータロータ(20)が固定されている。ロータ(20)は、モータ軸(16)の後端から半径方向にのびかつ軸受装置(15)の外周を囲む円筒状のものであり、その外周に永久磁石(21)が固定されている。モータ軸(16)、ロータ(20)およびポンプ(2)のインナギヤ(13)を含む回転部分の重心の軸方向位置が、軸受装置(15)の軸方向範囲内にある。この例では、上記重心の軸方向位置が、軸受装置(15)を構成する2個の玉軸受(17)の間にある。
【0036】
ロータ(20)に対向するモータハウジング(7)の内周に、モータ(3)を構成するモータステータ(22)が固定状に設けられている。ステータ(22)は、積層鋼板よりなるコア(23)にインシュレータ(合成樹脂製絶縁体)(24)が組み込まれ、インシュレータ(24)の部分にステータコイル(25)が巻きつけられたものである。この例では、ステータ(22)は、コア(23)の外周において接着などの適宜な手段によりモータハウジング(7)の内周に固定されている。
【0037】
インシュレータ(24)の後端に、コントローラ(4)の基板(26)が固定され、基板(26)に、コントローラ(4)を構成する部品(27)が取り付けられている。部品は基板(26)の前面および後面の少なくとも一方の所定位置に配置されるが、図面には、基板(26)の後面に取り付けられた部品(27)が1個示されている。
【0038】
図2図4は、ロータ(20)の詳細を示している。図2図1のII−II線に沿いかつ一部を切り欠いて示した拡大矢視図、図3図1のIII−III線に沿う拡大断面図、図4はロータ(20)の仮想的な分解斜視図である。
【0039】
ロータ(20)は、円筒状のロータ本体(バックヨーク)(28)の外周に合成樹脂製の永久磁石保持部材(29)が固定状に設けられ、保持部材(29)を周方向に等分する複数箇所(この例では8箇所)にセグメント形状の永久磁石(21)が保持されたものである。
【0040】
ロータ本体(28)は、たとえば焼結により形成されたものであり、モータ軸(16)に固定されて径方向外方にのびる外方延伸部であるフランジ部(28a)と、フランジ部(28a)の外周縁に一体に形成されて軸受装置(15)の外周を囲むようにステータ(22)の内側を前方にのびた永久磁石装着部(28b)とからなる。モータ軸(16)の後端に形成された小径部(16a)が、フランジ部(28a)の中心に形成された円形貫通穴(30)に圧入により固定されている。永久磁石装着部(28b)の外周面全体が円筒面で、外周面の横断面形状は円形である。
【0041】
永久磁石装着部(28b)の内周面を周方向に等分する複数箇所(この例では8箇所)に、軸方向にのびるみぞ(内周みぞ)(31)が形成されている。各内周みぞ(31)は、フランジ部(28a)を除く永久磁石装着部(28b)の内周面に形成されており、フランジ部(28a)の前端面から永久磁石装着部(28b)の先端に達している。内周みぞ(31)は、この例では、底側の幅が大きくなったありみぞである。
【0042】
永久磁石装着部(28b)の前端面に、内周みぞ(31)に連なって永久磁石装着部(28b)の内周面から外周面にわたる複数のみぞ(前側端面みぞ)(32)が形成されている。永久磁石装着部(28b)の後端面外周部に、永久磁石装着部(28b)の外周面に達する複数のみぞ(後側端面みぞ)(33)が形成されている。
【0043】
保持部材(29)は、型を用いて合成樹脂を永久磁石装着部(28b)にモールドすることにより、永久磁石装着部(28b)と一体化されている。保持部材(29)は、永久磁石装着部(28b)の両端面に密着するとともに端面みぞ(32)(33)を埋める前後2つの円環部(34)(35)と、永久磁石装着部(28b)の外周面に密着し周方向複数箇所において両円環部(34)(35)の外周部を連結するとともに永久磁石(21)を保持する複数の棒状の外周側連結部(36)と、永久磁石装着部(28b)の内周面に密着し前側円環部(34)の内周部に連結されるとともに内周みぞ(31)を埋める内周側円筒部(37)とからなる。内周側円筒部(37)は、フランジ部(28a)より前側の永久磁石装着部(28b)の内周面を覆っている。
【0044】
外周側連結部(36)は、この例では、端面みぞ(32)(33)に対応する位置に設けられている。内周側円筒部(37)の外周面に複数の横断面ばち形の突条(内周側突条)(37a)が一体に形成され、これらの内周側突条(37a)が内周みぞ(31)にはまってそれを埋めている。両円環部(34)(35)の対向面に複数の突条(端面側突条)(34a)(35a)が一体に形成され、これらの端面側突条(34a)(35a)が端面みぞ(32)(33)にはまってそれを埋めている。前側円環部(34)の端面側突条(34a)は、内周側突条(37a)と外周側連結部(36)に連なっている。
【0045】
各外周側連結部(36)には、径方向外側端部から周方向両側に張り出した2つの係合保持部(36a)が一体に形成されている。永久磁石(21)は、周方向に隣接する2つの外径側連結部(36)の間に軸方向から挿入され、係合保持部(36a)で径方向外側から周方向両縁部が抑えられることと、ロータ本体(28)との間の磁気吸引力により保持される。
【0046】
ロータ本体(28)のフランジ部(28a)の貫通穴(30)に、少なくとも1つのキーみぞ(38)が形成されている。この例では、2つのキーみぞ(38)が、穴(30)の対称2箇所に形成されている。
【0047】
なお、保持部材(29)はロータ本体(28)に一体に成形されたものであるから、両者は分離されることはないが、両者の構成を理解しやすくするために、図4では両者を分離した分解斜視図として示している。
【0048】
上記のモータ(3)およびそのロータ(20)では、永久磁石保持部材(29)をロータ本体(28)の永久磁石装着部(28b)に一体成形するときに、穴(30)のキーみぞ(38)を位相合わせのために使用することができ、型および成形工程の簡素化が可能である。また、ロータ本体(28)に形成された貫通穴(30)にキーみぞ(38)を設けるだけであるから、ロータ本体(28)を焼結体で構成する場合の金型の構造も簡素化される。
【0049】
ロータ本体(28)の永久磁石装着部(28b)の内周面に複数の内周みぞ(31)が形成されているため、その分、ロータ本体(28)の重量が軽減され、慣性が軽減される。これにより、モータ軸(16)とロータ本体(28)の圧入部分に要求される保持トルクを小さくすることができ、モータ性能も向上する。永久磁石装着部(28b)の内周面が、内周みぞ(31)を埋める内周側円筒部(37)で覆われていることにより、永久磁石保持部材(29)を含む永久磁石装着部(28b)の内周面を一様な円筒面にすることができ、内周みぞ(31)による異音の発生を軽減することができる。両円環部(34)(35)の外周部が外周側連結部(36)で連結され、前側円環部(34)の内周部が内周側円筒部(37)に連結されているので、ロータ本体(28)に対する永久磁石保持部材(29)の固定強度が高くなる。そして、前側端面みぞ(32)を埋める前側円環部(34)の突条(34a)が、内周みぞ(31)を埋める内周側円筒部(37)の突条(37a)および外側連結部(36)に連なった形になっているので、永久磁石保持部材(29)の強度が高い。
【0050】
また、ロータ本体(28)の内周みぞ(31)に永久磁石保持部材(29)の内周側円筒部(37)の突条(37a)がはまり合い、ロータ本体(28)の端面みぞ(32)(33)に永久磁石保持部材(29)の突条(34a)(35a)がはまり合っているため、ロータ本体(28)の永久磁石装着部(28b)外周面全体が円筒面で、外周面の横断面形状が円形であっても、回転によりロータ本体(28)に対して永久磁石保持部材(29)が円周方向に滑ることがなく、永久磁石保持部材(29)の固定が確実である。そして、ロータ本体(28)の外周面が円筒面であるから、その加工が容易で、安価に製作できる。
【0051】
内周みぞ(31)は、フランジ部(28a)を貫通して、永久磁石装着部(28b)の軸方向全長に形成されてもよい。この場合、永久磁石保持部材(29)の内周側円筒部(37)の突条(37a)は、フランジ部(28a)を貫通する内周みぞ(31)の部分も埋めて、後側の円環部(35)とも連結される。このようにした場合、ロータ本体(28)に対する永久磁石保持部材(29)の固定強度がさらに高くなる。そして、内周みぞ(31)を埋める内周側円筒部(37)の突条(37a)、端面みぞ(32)(33)を埋める両円環部(34)(35)および外周側連結部(36)が互いに連なった円環状となり、永久磁石保持部材(29)の強度がさらに高くなる。
【0052】
上記の実施形態では、永久磁石装着部(28b)がフランジ部(28a)の外周から軸方向片側にのびているが、軸方向両側にのびていてもよい。また、永久磁石装着部(28b)は、モータ軸から径方向外方に線状にのびる複数のアームなどからなる外方延伸部の外周に形成されてもよい。
【0053】
電動ポンプユニットの全体構成および各部の構成は、上記実施形態のものに限らず、適宜変更可能である。
【0054】
たとえば、上記実施形態では、軸受装置が転がり軸受で構成されているが、軸受装置はすべり軸受で構成されてもよい。
【0055】
また、この発明は、自動車用電動ポンプユニット以外の電動モータにも適用できる。
【符号の説明】
【0056】
(3) 電動モータ
(16) モータ軸
(20) ロータ
(21) 永久磁石
(28) ロータ本体
(28a) フランジ部
(28b) 永久磁石装着部
(29) 永久磁石保持部材
(31) 内周みぞ
(32)(33) 端面みぞ
(34)(35) 円環部
(34a)(35a) 突条
(36) 外周側連結部
(37) 内周側円筒部
(37a) 突条
図1
図2
図3
図4