(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記減衰室は、前記ドライサンプ型エンジンに設けられたトランスミッション室と連通されたことを特徴とする請求項1記載のドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造。
前記減衰室と前記トランスミッション室とは、前記トランスミッション室の底部に溜まるエンジンオイルの液面より上方に配置された出口穴を有する気体通路を介して互いに連通されたことを特徴とする請求項2記載のドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記ドライサンプ型エンジンにおいて、ピストンの下降動作によりクランク室内の圧力が高まると、リードバルブが開いてクランク室内のエンジンオイルがマグネト室へ排出され、マグネト室の底部に溜まる。この機構では、ピストンで圧縮された空気とエンジンオイルとが勢い良くマグネト室へ押し出された場合、マグネト室の底部に溜まるエンジンオイルの液面を激しく波立たせてしまうことがある。このようにエンジンオイルの液面が波立つと、オイルポンプによるエンジンオイルの汲み上げに支障をきたし、エンジンオイル潤滑等の観点から問題が生じる。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、マグネト室の底部に溜まるエンジンオイルの波立ちを抑制したドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造は、クランク室の底部に溜まるエンジンオイルが一方向弁を介してマグネト室へと排出されるドライサンプ型エンジンにおいて、前記一方向弁より下流側であって前記マグネト室より上流側に、前記一方向弁を通じて排出されるエンジンオイルを前記マグネト室へと誘導するためのオイル通路と、前記オイル通路と連通し、前記オイル通路から前記マグネト室に流入するエンジンオイル及び空気の流速を抑制可能に構成された減衰室と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、マグネト室の上流に減衰室を設けることで、一方向弁から排出された圧縮空気をオイル通路外に逃がすことができるため、オイル通路からマグネト室へと押し出されるエンジンオイル及び空気の流速を抑えることができる。これにより、マグネト室の底部に溜まるエンジンオイルの波立ちを抑制できる。
【0008】
本発明のドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造において、前記減衰室は、前記ドライサンプ型エンジンに設けられたトランスミッション室と連通されても良い。この構成によれば、トランスミッション室が減衰室と同様の機能を持つことになるため、オイル通路からマグネト室へと押し出されるエンジンオイル及び空気の流速をさらに抑えることができる。これにより、マグネト室の底部に溜まるエンジンオイルの波立ちをさらに抑制できる。
【0009】
本発明のドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造において、前記減衰室と前記トランスミッション室とは、前記トランスミッション室の底部に溜まるエンジンオイルの液面より上方に配置された出口穴を有する気体通路を介して互いに連通されても良い。この構成によれば、トランスミッション室内のエンジンオイルが気体通路を通じて減衰室に流れることがないため、エンジンオイルによる気体通路の目詰まりを防止できる。これにより、オイル通路からマグネト室へと押し出されるエンジンオイル及び空気の流速を適切に抑えることができる。
【0010】
本発明のドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造において、前記気体通路を構成する溝が、前記マグネト室を区画するマグネト壁に設けられても良い。この構成によれば、剛性に対する要求がそれほど高くないマグネト壁に気体通路を構成する溝を設けることで、クランク室を区画する仕切り壁等の剛性を犠牲にすること無く気体通路を具備することができる。つまり、高い剛性が要求される仕切り壁等の剛性を高い水準に保ちつつ、マグネト室の底部に溜まるエンジンオイルの波立ちを抑制できる。
【0011】
本発明のドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造において、前記減衰室は、前記オイル通路の上方に配置されても良い。この構成によれば、減衰室が気液分離室として機能するため、減衰室に流入した空気とエンジンオイルとの混合物からエンジンオイルを分離してオイル通路に戻すことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マグネト室の下部に溜まるエンジンオイルの波立ちを抑制したドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下において、本発明のドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造をオフロードタイプの自動二輪車のエンジンに適用した例について説明するが、適用対象はこれに限定されることなく変更可能である。例えば、本発明のドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造を、他のタイプの自動二輪車、四輪車、船舶等のエンジンに適用しても良い。
【0015】
図1を参照して、本実施の形態に係る自動二輪車全体の構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係る自動二輪車の左側面図である。なお、図面においては、車体前方を矢印FR、車体後方を矢印REでそれぞれ示す。
【0016】
図1に示されるように、自動二輪車1は、自動二輪車1の各構成を搭載する鋼製又はアルミ合金製の車体フレーム2を備えている。車体フレーム2のメインフレーム21は、車体フレーム2の前端に位置するヘッドパイプ22から後方に向けて左右に分岐し、車体後方に向かって斜め下方に傾斜して延在している。また、ヘッドパイプ22から略下方に延びるダウンチューブ23は、車体下部付近においてロアフレーム24として左右に分岐している。左右のロアフレーム24はさらに下方に延びた後、車体後方に向かって曲げられており、その後端が左右のボディフレーム25を介してメインフレーム21の左右後端と連結されている。
【0017】
車体フレーム2の前端には、ヘッドパイプ22に設けられた不図示のステアリングシャフトを介してフロントフォーク31が回転可能に支持されている。ステアリングシャフトの上端にはハンドルバー32が結合されており、ハンドルバー32の両端にはグリップ33が装着されている。ハンドルバー32の左前方にはクラッチレバー34が配置されており、ハンドルバー32の右前方には前輪3用のブレーキレバー(不図示)が配置されている。フロントフォーク31の下部には、前輪3が回転可能に支持されている。前輪3には、ブレーキを構成するブレーキディスク35が設けられている。
【0018】
車体フレーム2のボディフレーム25には、スイングアーム41が上下方向に揺動可能に連結されており、車体フレーム2とスイングアーム41との間にはサスペンション42が取り付けられている。スイングアーム41の後部には、後輪4が回転可能に支持されている。後輪4には、リヤスプロケット(ドリブンスプロケット)43が設けられており、チェーン44によってエンジンの動力が後輪4に伝達されるよう構成されている。
【0019】
車体フレーム2のメインフレーム21、ダウンチューブ23、ロアフレーム24、及びボディフレーム25により略囲まれる空間の下方寄りの位置には、駆動源となる水冷式のエンジンユニット10が搭載されている。エンジンユニット10の前方には放熱器であるラジエータ5が配置されており、エンジンユニット10の後方には空気中の粉塵を分離して捕集するフィルタを備えたエアクリーナボックス6が配置されている。また、エンジンユニット10の上方には燃料が格納される燃料タンク7が配置されており、燃料タンク7の後方には座部となるシート8が配置されている。シート8の下方にはフットレスト81が設けられている。車体左側のフットレスト81の前方にはシフトペダル82が設けられており、車体右側のフットレスト81の前方には後輪4用のブレーキペダル(不図示)が設けられている。
【0020】
エンジンユニット10は、クランクシャフトの回転軸を車幅方向に向けて配置した横置きクランク式の4ストローク(4サイクル)単気筒エンジンとトランスミッション(変速機)とからなる。エンジンユニット10には、エアクリーナボックス6、インテークパイプ160(
図2参照)等を通じて空気が取り込まれ、燃料噴射装置にて空気と燃料とが混合されて燃焼室123(
図3参照)に供給される。燃焼後の燃焼ガスは、エンジンユニット10の右側面において後方に延出されたエキゾーストパイプ(不図示)を経てマフラ101から排気ガスとして排出される。
【0021】
以下、
図2及び
図3を参照して、本実施の形態に係るオイル潤滑構造を備えたドライサンプ型のエンジンユニット10の概略について説明する。
図2は、本実施の形態に係るエンジンユニット10の全体構成を示す側面図である。
図3は、本実施の形態に係るエンジンユニット10の部分断面図である。
【0022】
図2に示されるように、エンジンユニット10は、クランクケース110上にシリンダ120が配置され、シリンダ120にシリンダヘッド130及びヘッドカバー140が取り付けられている。クランクケース110の左側面にはマグネトカバー150が取り付けられており、クランクケース110の右側面にはクラッチカバー(不図示)が取り付けられている。
【0023】
図3に示されるように、クランクケース110内のクランク室111には、回転軸が車幅方向を向くようにクランクシャフト112が収容されている。シリンダ120内側の筒状空間には、ピストン121がシリンダ軸線方向(上下方向)に往復可能に収容されている。ピストン121とクランクシャフト112とは、ピストン121の往復運動がクランクシャフト112の回転運動に変換されるようにコネクティングロッド(コンロッド)122を介して接続されている。ピストン121はコネクティングロッド122の小端部に連結されており、クランクシャフト112はコネクティングロッド122の大端部に連結されている。
【0024】
シリンダヘッド130内には、シリンダ120の内壁、シリンダヘッド130の下面及びピストン121の上面によって囲まれる燃焼室123に空気を送り込む吸気ポート131と、燃焼室123外に燃焼ガスを排出する排気ポート132とが設けられている。また、シリンダヘッド130には、吸気ポート131を開閉する吸気バルブ133と、排気ポート132を開閉する排気バルブ134とが設けられている。シリンダヘッド130の下面には点火プラグ(不図示)が突出するように設けられており、燃焼室123内の混合気を電気放電により着火可能になっている。
【0025】
4ストロークで動作するエンジンユニット10において、ピストン121が下降する際に吸気バルブ133が開き、インテークパイプ160を通じて混合気が燃焼室123に送り込まれる(吸気行程)。その後、吸気バルブ133が閉じ、ピストン121が上昇して混合気を圧縮する(圧縮行程)。ピストン121が上死点に到達すると、点火プラグによって点火されて圧縮された混合気が燃焼する(燃焼行程)。混合気の燃焼によって燃焼室123内の圧力が増大するとピストン121が下降する。ピストン121の下降運動は、コネクティングロッド122を介してクランクシャフト112に伝達され、クランクシャフト112が回転する。その後、ピストン121が下死点まで下降して慣性によって再度上昇に転じる際に、排気バルブ134が開いて排気ポート132から燃焼ガスが排出される(排気行程)。シリンダヘッド130の上部には、吸気バルブ133及び排気バルブ134を含む動弁装置が設けられており、このような動作を可能にしている。
【0026】
エンジンユニット10の吸排気機構の形式は、吸気側と排気側とで独立した2本のカムシャフトを有するDOHC(Double Overhead Camshaft)である。2本のカムシャフトは、それぞれ対応する吸気バルブ133又は排気バルブ134の開閉タイミングに応じた形状のカムを備えており、カムシャフトの回転軸がシリンダヘッド130の上部において車幅方向を向くように配置されている。カムシャフトの一端側は、スプロケット、カムチェーン等の動力伝達機構を介してクランクシャフト112に連結されている。これにより、クランクシャフト112の回転力がカムシャフトに伝達され、クランクシャフト112の回転に対応するよう吸気バルブ133及び排気バルブ134が開閉する。
【0027】
上述したピストン121やクランクシャフト112などの可動部品、及び可動部品と接触するシリンダ120などの部品の表面は、摩耗を防ぐためにエンジンオイルで潤滑されている。ピストン121、クランクシャフト112、シリンダ120などを潤滑したエンジンオイルは重力によって落下し、クランク室111の底部に集まるようになっている。クランク室111の底部には、このように落下したエンジンオイルを溜めるオイル貯留室113が設けられている。なお、エンジンオイルには、潤滑の他、冷却、気密保持、清浄、防錆等の機能を有している。
【0028】
クランクケース110内において、クランク室111底部のオイル貯留室113はリードバルブ(一方向弁)114を介してオイル通路115と連通している。これにより、ピストン121の下降動作によってクランク室111内の圧力が上昇すると、リードバルブ114が開いてオイル貯留室113に溜まったエンジンオイルがオイル通路115に排出されるようになっている。ここで、リードバルブ114により、オイル通路115に排出されたエンジンオイルのオイル貯留室113への逆流は防止される。
【0029】
オイル通路115に排出されたエンジンオイルは、オイル排出口H2(
図6、7参照)を通じてマグネト室151(
図4、6、7参照)に流入し、マグネト室151の底部に溜まる。マグネト室151の底部に溜まったエンジンオイルはオイルポンプ(スカベンジポンプ)152(
図4、7参照)で汲み上げられて、トランスミッション室117へと供給される。トランスミッション室117にはオイルポンプ152と同期回転する回転軸を有する不図示のオイルポンプ(フィードポンプ)が配置されており、オイル通路(不図示)を通じてエンジンユニット10の各部にエンジンオイルを供給できるようになっている。
【0030】
上述したように、オイル貯留室113に溜まったエンジンオイルは、クランク室111内の圧力上昇によってオイル通路115に排出される。クランク室111内の圧力はピストン121の下降動作によって上昇するが、例えば、エンジン回転数が高い場合、ピストン121が高速で下降するためクランク室111内の圧力上昇も急激になる。このようにクランク室111内の圧力が急激に上昇する場合、ピストン121で圧縮された空気とエンジンオイルとが勢い良くオイル通路115に排出され、エンジンオイルはオイル排出口H2を通じてマグネト室151に勢い良く流れ込む。このように、マグネト室151に流れ込むエンジンオイルの流速が高い(大きい)と、マグネト室151の底部に溜まるエンジンオイルの液面は激しく波立つ。エンジンオイルの液面が波立つと、オイルポンプ152によるエンジンオイルの汲み上げが困難になり、エンジンオイルの潤滑に支障をきたす恐れが生じる。
【0031】
本実施の形態に係るオイル潤滑構造を備えたドライサンプ型のエンジンユニット10は、オイル通路115を流れる圧縮空気及びエンジンオイルの勢いを弱めるためにオイル通路115と連通する減衰室116を有している。減衰室116は、エンジンオイルの流路においてリードバルブ114より下流かつマグネト室151より上流であるオイル通路115の上方に設けられており、リードバルブ114の開口と対向して設けられた小孔H1においてオイル通路115と連通している。このような構成により、リードバルブ114から噴き出した圧縮空気を減衰室116に逃がすことができるため、オイル通路115を流れる圧縮空気及びエンジンオイルの流速を低く(小さく)抑えることできる。その結果、マグネト室151におけるエンジンオイルの液面の波立ちを抑制し、エンジンオイルの潤滑を良好に行うことが可能になる。
【0032】
なお、上述のように減衰室116に逃がされた圧縮空気は、一部にエンジンオイルを含んでいる。このような空気とエンジンオイルとの混合物が減衰室116に流入すると、減衰室116において空気とエンジンオイルとに分離され、分離されたエンジンオイルは小孔H1を通じてオイル通路115に戻される。このように、減衰室116は、空気とエンジンオイルとを分離してエンジンオイルをオイル通路115に戻す気液分離室としても機能する。
【0033】
図4〜8を参照して、クランクケース110の構造について詳細に説明する。
図4は、本実施の形態に係るクランクケース110(マグネトカバー150等を含む)の分解斜視図である。
図5は、本実施の形態に係るクランクケース110を構成する右クランクケース110Rの左側面図である。
図6は、本実施の形態に係るクランクケース110を構成する左クランクケース110Lの右側面図である。
図7は、左クランクケース110Lの左側面図である。
図8は、本実施の形態に係るクランクケース110(マグネトカバー150等を含む)の断面図である。
図8Aは
図7のAA矢視断面に相当する断面を示しており、
図8Bは
図7のBB矢視断面に相当する断面を示している。
図8の各室内に付された矢印は、空気又はエンジンオイルの流れを示す。
【0034】
図4に示されるように、本実施の形態に係るクランクケース110は、車幅方向に垂直な平面において左右に分割された右クランクケース110Rと左クランクケース110Lとで構成されている。右クランクケース110R及び左クランクケース110Lの左右には、クランクケース110の外形を構成しクランクケース110の各室を区画する壁が車幅方向に延在するよう設けられている。右クランクケース110Rの左側に設けられた壁と左クランクケース110Lの右側に設けられた壁とが接合されて、クランクケース110におけるクランク室111、オイル貯留室113、オイル通路115、減衰室116、トランスミッション室117等が形成される。左クランクケースの左側に設けられた壁には、マグネト室151を区画するマグネトカバー150が取り付けられる。マグネト室151内には、マグネト室151の底部に溜まるエンジンオイルを汲み上げてトランスミッション室117に供給するためのオイルポンプ152が配置される。右クランクケースの右側に設けられた壁には、クラッチ室を区画する不図示のクラッチケースが取り付けられる。
【0035】
図5に示されるように、右クランクケース110Rの左前方の位置には、クランクケース110前方の外形を構成する右クランク壁RW1が車幅方向に延在するよう設けられている。また、右クランクケース110Rの左後方の位置には、クランクケース110後方の外形を構成する右トランスミッション壁RW2が車幅方向に延在するよう設けられている。また、右クランクケース110Rの左中央近傍の位置には、クランクケース110内の右側の空間を各室に仕切る右仕切り壁RW3が車幅方向に延在するよう設けられている。
【0036】
図6に示されるように、左クランクケース110Lの右前方の位置には、クランクケース110前方の外形を構成する左クランク壁LW1が車幅方向に延在するよう設けられている。また、左クランクケース110Lの右後方の位置には、クランクケース110後方の外形を構成する左トランスミッション壁LW2が車幅方向に延在するよう設けられている。また、左クランクケース110Lの右中央近傍の位置には、クランクケース110内の左側の空間を各室に仕切る左仕切り壁LW3が車幅方向に延在するよう設けられている。
【0037】
右クランク壁RW1と左クランク壁LW1とが接合されてなるクランク壁と、右トランスミッション壁RW2と左トランスミッション壁LW2とが接合されてなるトランスミッション壁とによって、クランクケース110の外縁が規定される。右仕切り壁RW3と左仕切り壁LW3とが接合されてなる仕切り壁は、クランクケース110内の空間を各室に区画する。クランク壁と仕切り壁によって、クランクケース110の前方に位置するクランク室111、及びクランク室111下方のオイル貯留室113が規定される。トランスミッション壁と仕切り壁によって、クランクケース110の後方に位置するトランスミッション室117が規定される。仕切り壁によって、オイル貯留室113と隣接するオイル通路115、及びオイル通路115の上方においてオイル通路115と連通する減衰室116が規定される。
【0038】
図7に示されるように、左クランクケース110Lの左側には、クランクケース110の外形を構成するマグネト壁LW4が車幅方向に延在するよう設けられている。マグネト壁LW4の左側にはマグネトカバー150が接合され、マグネト壁LW4及びマグネトカバー150によりマグネト室151が形成される。マグネト室151にはオイルポンプ152の他、ジェネレータを構成する不図示のステータコイル及びマグネトロータが配置される。
【0039】
図6〜8に示されるように、仕切り壁によって区画されるオイル通路115と、クランクケース110左側においてマグネト壁LW4によって区画されるマグネト室151とはオイル排出口H2を介して連通しており、オイル通路115に排出されたエンジンオイルがマグネト室151へと流れ込むようになっている。マグネト室151へと流れ込んだエンジンオイルは、マグネト室151においてオイル吸入口152aが下方を向くように配置されたオイルポンプ152によって汲み上げられて、オイルポンプ152のオイル排出口152bから排出される。オイルポンプ152のオイル排出口152bはトランスミッション室117のオイル排出口H3に対応する位置に設けられており、オイルポンプ152によって汲み上げられたエンジンオイルはオイル排出口H3を通じてトランスミッション室117に流入し、トランスミッション室117の底部に溜まる。
【0040】
上述したように、オイル通路115の上方にはオイル通路115と連通する減衰室116が設けられている。この構成により、オイル通路115の圧縮空気を減衰室116に逃がすことができるため(
図8A、B参照)、オイル通路115からマグネト室151に流れ込む圧縮空気及びエンジンオイルの流速を低く(小さく)抑えてマグネト室151の底部に溜まるエンジンオイルの波立ちを抑制できる。その結果、オイルポンプ152によるエンジンオイルの汲み上げを良好に行うことが可能になる。
【0041】
図7及び
図8Bに示されるように、マグネト壁LW4には溝D1が形成されており、マグネト壁LW4に対してマグネトカバー150が接合されることでマグネト壁LW4に沿った気体通路が形成されるようになっている。
図6及び
図8Bに示されるように、減衰室116において溝D1の下端に対応する位置には小孔(入口孔)H4が設けられており、小孔H4を介して減衰室116と気体通路とが連通するよう構成されている。また、トランスミッション室117において溝D1の上端に対応する位置には小孔(出口穴)H5が設けられており、小孔H5を介してトランスミッション室117と気体通路とが連通するよう構成されている。すなわち、減衰室116とトランスミッション室117とは、小孔H4、溝D1により形成される気体通路、小孔H5を介して連通している。
【0042】
この構成において、リードバルブ114から噴き出した圧縮空気は、小孔H1、減衰室116、小孔H4、気体通路、小孔H5を通じてトランスミッション室117にも流れ込む(
図8B参照)。このように、トランスミッション室117が気体通路を介して減衰室116と連通していることで、トランスミッション室117(及び気体通路)が減衰室116と同様に作用する。すなわち、リードバルブ114から噴き出した圧縮空気を、減衰室116及びトランスミッション室117(気体通路を含む)に逃がすことができるため、オイル通路115を流れる圧縮空気及びエンジンオイルの流速をさらに低く(小さく)抑えることができる。その結果、マグネト室151におけるエンジンオイルの液面の波立ちを十分に抑制し、エンジンオイルの潤滑を良好に行うことが可能になる。
【0043】
図8A、Bに示されるように、上述したクランクケース110において、トランスミッション室117の小孔H5は、トランスミッション室117の底部に溜まるエンジンオイルの液面S1より上方に設けられている。このため、トランスミッション室117内に溜まるエンジンオイルが気体通路を通じて減衰室116に流れることがなく、エンジンオイルによる気体通路の目詰まりを防止できる。これにより、リードバルブ114から噴き出した圧縮空気を、気体通路を通じてトランスミッション室117に逃がすことができるため、オイル通路115を流れる圧縮空気及びエンジンオイルの流速を適切に抑制することができる。
【0044】
また、クランクケース110において、溝D1は、マグネト室151を区画するマグネト壁LW4に設けられている。このように、剛性に対する要求がそれほど高くないマグネト壁LW4に気体通路を構成する溝D1を設けているため、クランク室111を区画する仕切り壁LW3に溝を設ける場合のように仕切り壁LW3の剛性を犠牲にすることがない。このため、クランク室111を区画する仕切り壁LW3の剛性を高い水準に保ちつつ、マグネト室151の底部に溜まるエンジンオイルの波立ちを低減できる。
【0045】
以上のように、本発明に係るドライサンプ型エンジンのオイル潤滑構造によれば、マグネト室の上流に減衰室を設けることで、一方向弁から排出された空気をオイル通路外に逃がすことができるため、オイル通路からマグネト室へと押し出されるエンジンオイル及び空気の流速を抑えることができる。これにより、マグネト室の底部に溜まるエンジンオイルの波立ちを抑制できる。
【0046】
なお、本発明は上記実施の形態の記載に限定されず、本発明の範囲を逸脱しないで適宜変更して実施することができる。例えば、上記実施の形態では、クランクケースにおいてマグネト室後方に位置するマグネト壁の一部に気体通路を構成する溝を設けたが、マグネト室上方に位置するマグネト壁等に溝を設けても良い。また、気体通路は、トランスミッション室と連通していることに限られず、他の各室と連通していても良い。また、オイル通路と減衰室とを連通させる小孔の形状、大きさ、数量等は特に限定されない。