特許第5741235号(P5741235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5741235ポリ乳酸またはそれで変性されたジエン系ポリマーを配合したタイヤ用ゴム組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741235
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】ポリ乳酸またはそれで変性されたジエン系ポリマーを配合したタイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20150611BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20150611BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20150611BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L67/04
   C08K3/36
   B60C1/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-130809(P2011-130809)
(22)【出願日】2011年6月13日
(65)【公開番号】特開2012-158738(P2012-158738A)
(43)【公開日】2012年8月23日
【審査請求日】2014年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-5421(P2011-5421)
(32)【優先日】2011年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】上西 和也
(72)【発明者】
【氏名】串田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 和憲
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−298921(JP,A)
【文献】 特開2002−265580(JP,A)
【文献】 特開平06−329767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対し、シリカ5〜150重量部およびジエン系ポリマーの二重結合部位と付加反応可能な官能基を有するポリ乳酸0.1〜10重量部を配合してなるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
ジエン系ゴム100重量部に対しシリカ5〜150重量部を配合したゴム組成物において、ジエン系ゴム100重量部中5〜50重量部がジエン系ポリマーの二重結合部位と付加反応可能な官能基を有するポリ乳酸で変性された、ポリ乳酸部位を有する変性ジエン系ポリマーで置換されたタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
タイヤのトレッド部形成に用いられる請求項1または2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項3記載のタイヤ用ゴム組成物からトレッド部が形成された自動車用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸またはそれで変性されたジエン系ポリマーを配合したタイヤ用ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、加工性を確保しながら、さらなる物性の向上を可能とするタイヤ用ゴム組成物の一成分等として有効に使用し得るポリ乳酸またはそれで変性されたジエン系ポリマーを配合したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリ乳酸を約50質量%以上含み、ポリプロピレンおよびD-乳酸と糖類との共重合体を含有するポリマーアロイが記載されており、ポリ乳酸単体では、自動車部品のように過度の外力や高温下で使用する場合、その特性は不十分であり、適用には限界があるという課題の解決が図られている。また、ポリマーアロイ化に際しては、任意の構造のスチレン-ブタジエン共重合体の如き相溶化剤が、ポリ乳酸100重量部に対し2〜10重量部の割合で用いられることも述べられている。
【0003】
自動車用タイヤに求められる性能は多岐にわたり、特に高速走行時での操縦安定性、湿潤路面での安定性、自動車の低燃費化のための転がり抵抗の低減、耐摩耗性の向上などが挙げられる。
【0004】
従来、特に転がり抵抗の低減と湿潤路面での安定性を両立させるために、補強用フィラーとしてシリカが幅広く使用されている。シリカの分散性を向上させるために、混合時間を長くしたり、シランカップリング剤を多く配合するなどの手法が一般に知られている。しかるに、混合時間を長くするとゲル分が増加し過ぎ、転がり抵抗を悪化させる。また、シランカップリング剤を多く配合するとスコーチ時間が短くなりすぎ、トレッドの押出性が悪化するようになる。
【0005】
転がり抵抗の低減のため、トレッド部に使用されるゴム組成物については、補強用フィラーの配合量を減らしたり、潤滑性分も含まれるオイルの配合量を減らしたりしている。しかるに、このようなゴム組成物は潤滑成分が少なくなるため、ゴム組成物の粘度が高くなり、混合加工性、押出加工性などの加工性が悪化する。一方、補強性フィラーの配合量を減らした場合には、ゴム硬度を高くすることが難しく、操縦安定性の確保が難しくなる。さらに、ゴムの破断時伸びが小さくなるため、加工性の大幅な悪化が避けられない。
【0006】
また、特許文献2には、高温多湿条件下でも十分な接着強度を備え、接着耐久性にすぐれた接着剤組成物として、水性分散媒中にポリ乳酸粒子および合成ゴム粒子を分散させたものが記載されており、合成ゴムとしてはスチレン-ブタジエン系共重合体等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−280474号公報
【特許文献2】特開2008−50414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、加工性を確保しながら、さらなる物性の向上を可能とするタイヤ用ゴム組成物の一成分等として有効に使用し得るポリ乳酸またはそれで変性されたジエン系ポリマーを配合したタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によって、ジエン系ゴム100重量部に対し、シリカ5〜150重量部およびジエン系ポリマーの二重結合部位と付加反応可能な官能基を有するポリ乳酸0.1〜10重量部を配合したタイヤ用ゴム組成物が提供される。
【0011】
また、本発明によって、ジエン系ゴム100重量部に対しシリカ5〜150重量部を配合したゴム組成物において、ジエン系ゴム100重量部中5〜50重量部が、ジエン系ポリマーの二重結合部位と付加反応可能な官能基を有するポリ乳酸で変性された、ポリ乳酸部位を有する変性ジエン系ポリマーで置換されたタイヤ用ゴム組成物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
前述の如く、自動車用タイヤに求められる性能の中には、転がり抵抗の軽減や湿潤路面での安定性などが含まれる。このような転がり抵抗の軽減や湿潤路面での安定性を両立させる方法として、タイヤ用ゴム組成物中にそれの補強フィラーとしてシリカを配合することが行われている。しかしながら、タイヤ用ゴム組成物中にシリカを配合しようとしても、シリカのタイヤ用ゴム組成物中への分散性が低く、例え多量のシリカを添加したとしても、その効果が十分に発揮できないという課題がみられる。
【0013】
本発明においては、ジエン系ポリマーの二重結合部位との付加反応性を示す官能基を有するポリ乳酸、またはその反応性官能基を有するポリ乳酸とジエン系ポリマーの二重結合部位とを付加反応させ、ジエン系ポリマーにポリ乳酸を温和な反応条件下で均一に導入した、ポリ乳酸部位を有する変性ジエン系ポリマーをタイヤ用ゴム組成物の一成分として用いることにより、シリカをタイヤ用ゴム組成物中に均一に分散させることを可能とする。それによって、粘度、ペイン効果の低減、スコーチ性の改善、加工性の改善、高硬度化、破断時伸びの向上、低発熱化、ランボーン摩耗の良化などが達成され、前記転がり抵抗の軽減や湿潤路面での安定性の両立を図ることができ、それによって自動車用タイヤに必要な機能および性能の向上を達成させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ジエン系ポリマーの二重結合部位と付加反応可能な官能基が導入されるポリ乳酸は、生分解性プラスチックの代表的なポリマーであり、植物原料(とうもろこし等)から合成されるL-乳酸を重合したポリ-L-乳酸である。一方、エチレンを出発原料とする化学的合成法により得られる乳酸は、D、L-乳酸(ラセミ体)である。
【0015】
ポリ-L-乳酸は、実際には乳酸の環状2量体であるラクチドを開環重合することにより製造される。ラクチドを経由する場合には、乳酸を溶融重縮合して低分子量ポリ乳酸を合成し、この低分子量体を高温にすると末端から解重合が起こり、解重合物を精製してラクチドを得ているが、解重合の段階でD-体を含むラクチドが形成し、その際D/Lの比率は触媒の種類および使用量、滞留時間、温度などを調節することで任意に変えることができる。
【0016】
L-乳酸のみからなるポリ-L-乳酸は融点が180℃、ガラス転移温度(Tg)が60℃の結晶性ポリマーであり、D-乳酸がランダム共重合されることにより融点は低下し、D-乳酸を12%含む共重合体の融点は140℃以下となり、ほぼ非晶性ポリマーを形成する。本発明においては、L-乳酸が85%以上で融点120℃以上、好ましくはL-乳酸が90重量%以上で融点が140℃以上のポリ乳酸が用いられる。
【0017】
また、乳酸をジフェニルエーテル等の溶媒中で脱水重縮合反応を行い、生成する水を溶媒との共沸混合物として除くことにより、重合反応を進行させて、高分子量ポリ乳酸を得る方法で製造されたものを用いることもできる。
【0018】
本発明で用いられるポリ乳酸の分子量は、乳酸単位
のn値として、2〜100、好ましくは2〜10程度のものが用いられる。
【0019】
かかるポリ乳酸には、ジエン系ポリマーの付加二重結合部位と反応可能な官能基、例えばアクリル基由来の末端ビニル基、メルカプト基、スルフィド基が導入される。このような官能基を有する化合物としては、例えば2-ヒドロキシエチルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2,2′-ジヒドロキシエチルジスルフィド、2,2′-ジヒドロキシエチルテトラスルフィド等が挙げられ、好ましくは末端水酸基を有する化合物が用いられる。
【0020】
これらの官能基含有化合物のポリ乳酸への導入は、乳酸の環状2量体であるラクチドを開環重合させてポリ乳酸を形成させる際、官能基含有化合物の存在下で開環重合反応させることにより行われる。官能基含有化合物がモノヒドロキシ化合物である場合には、反応は1段で行われるが、例えばジヒドロキシ基を有するジスルフィド化合物の場合には、ジヒドロキシ基それぞれがラクチドと反応するので、その中間生成物を還元剤であるトリオクチルホスフィン等と反応させることにより、ジスルフィド結合を分裂させ、メルカプト基を有する化合物を形成させるという2段階の反応が行われる。
【0021】
この反応に際しては、ラクチドに対し約1/1〜1/50、好ましくは約1/1〜1/5のモル比で官能基含有化合物が反応に供せられる。これよりも少ないモル比で官能基含有化合物が反応に用いられると、最終的に目的とするジエン系ポリマーのポリ乳酸部位による変性が十分に行われない。一方、これ以上のモル比で官能基含有化合物が反応に用いられると、ポリ乳酸中に含有されるジエン系ポリマーの二重結合部位と付加反応可能な官能基が多くなりすぎ、ジエンポリマーの本来の物性に影響を与えることになるので好ましくない。
【0022】
官能基含有化合物存在下でのラクチドの開環重合反応は、溶媒の存在下でも行われるが、一般には溶媒の不存在下で行われる。その際、反応触媒としてジオクチル錫、ジブチル錫ジラウレート等が、ラクチドに対し約0.01〜10%、好ましくは約0.1〜3%のモル比で用いられる。
【0023】
開環重合反応は、約60〜150℃で約1〜24時間程度行われ、得られた反応混合物を例えばアセトン溶液としてヘキサン中に滴下し、ヘキサン不溶分とヘキサン可溶分とに分け、ヘキサン不溶分を再度アセトン溶液とし、ヘキサンを用いる再沈殿法により精製することにより、ジエン系ポリマーの二重結合部位と付加反応可能な官能基、例えばアクリル基由来の末端ビニル基、メルカプト基、スルフィド基等を有するポリ乳酸を得ることができる。
【0024】
これらの官能基を有するポリ乳酸は、ジエン系ポリマーの二重結合部位と付加反応し、ジエン系ポリマー中にポリ乳酸部位を導入することができる。ジエン系ポリマーとしては、スチレンブタジエンゴム、合成イソプレン、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、EPDM等が挙げられ、好ましくはスチレンブタジエンゴムが用いられる。スチレンブタジエンゴムは、乳化重合SBR(E-SBR)またはアニオン重合SBR(S-SBR)のいずれであってもよい。
【0025】
ジエン系ゴムと官能基含有ポリ乳酸との反応は、ジエン系ゴムに対して約0.001〜2、好ましくは約0.001〜0.1の重量比になるような官能基含有ポリ乳酸を用い、トルエン、キシレン、ベンゼン等の溶媒中の存在下または不存在下で、約60〜200℃で約0.5〜24時間程度付加反応させることにより行われる。実際に、タイヤ用ゴム組成物の一成分として変性ジエン系ポリマーが用いられる場合には、この重量比が0.01程度で十分であるが、後記参考例3〜4ではポリ乳酸のSBRへの導入が明確になるように1.170または1.207の重量比で反応が行われている。
【0026】
反応終了後の処理は、例えば反応混合物溶液をメタノール中に滴下してメタノール不溶分とメタノール可溶分とに分け、メタノール不溶分を再度トルエン溶液とし、これをアセトン、メタノール等を用いた再沈殿法によって精製された、ポリ乳酸部位を有する変性ジエン系ポリマーとして取得される。
【0027】
前述の如くにして得られた二重結合部位と付加反応可能な官能基、より具体的にはアクリル基由来の末端ビニル基、メルカプト基、ニトロン基等を有するポリ乳酸は、ジエン系ゴム100重量部に対して5〜150重量部、好ましくは20〜120重量部、より好ましくは30〜100重量部の割合で用いられるシリカと共に、0.1〜10重量部、好ましくは1〜7重量部、より好ましくは2〜5重量部の割合で併用されて、タイヤ用ゴム組成物を形成させる。
【0028】
タイヤ用ゴム組成物の主成分として用いられるジエン系ゴムとしては、前述の如き少なくとも一種の各種合成ゴム、天然ゴムまたは合成ゴムと天然ゴムとのブレンドゴムが用いられる。
【0029】
シリカとしては、その合成方法によって湿式と乾式との2種類があり、タイヤ用途には性能およびコストの面から、湿式シリカが好んで用いられる。乗用車用空気入りタイヤのトレッド配合にシリカを充填剤として用いることにより、耐摩耗性を犠牲にすることなく、低転がり抵抗とウエット路面でのタイヤ性能を高度に両立させることができ、かかる見地から上記配合割合のシリカが混合されるが、特定の変性剤をジエン系ゴムに配合している本発明においては、耐摩耗性の改善も達成されている。
【0030】
充填剤として用いられるシリカは、ゴムポリマーとの親和性に乏しく、またゴム中ではシリカ同士がシラノール基を通して水素結合を生成し、シリカのゴム中への分散性を低下させる性能を有するので、シリカに求められる諸特性およびジエン系ゴムとの分散性を高めるために、シランカップリング剤がシリカ重量に対して2〜18重量%、好ましくは5〜10重量%の割合で用いられる。シランカップリング剤の使用割合がこれよりも少ないと、シリカに求められる特性やジエン系ゴムとの分散性が十分に発揮されず、一方これよりも多い添加割合で用いられると、加工性が悪化するようになる。
【0031】
シランカップリング剤としては、一般式
(R′)3-n(OR)nSiR″SxR″Si(OR)n(R′)3-n
R :炭素数1〜3のアルキル基
R′:炭素数1〜3のアルキル基
R″:炭素数1〜5のアルキレン基
X :2〜4
n :1〜3
で表わされるシリカ表面のシラノール基と反応するアルコキシシリル基とポリマーと反応するイオウ連鎖を有するポリスルフィド系シランカップリング剤が用いられる。具体的には、例えばビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等が好んで用いられる。
【0032】
二重結合部位と付加反応可能な官能基としてアクリル基を有するポリ乳酸をジエン系ゴムに所定量配合した場合には、加工性の改善や高硬度化が可能となるばかりではなく、規定された範囲内でシリカ量を減量させることにより、損失正接tanδ(60℃)の値が小さくなり、低発熱化をも可能とする。なお、規定された割合以上でポリ乳酸を用いると、特にtanδ(60℃)の値が上昇するようになる(表1 No.4参照)。
【0033】
また、二重結合部位と付加反応可能な官能基としてメルカプト基を有するポリ乳酸をジエン系ゴムに配合した場合には、粘度、ペイン効果の低減、スコーチ性の改善、低温tanδ(0℃)のアップ、ランボーン摩耗の良化などが達成され、規定された範囲内でシリカを減量させることにより、硬度が同等でさらに加工性の良化が得られるようになる。なお、規定された割合以上でポリ乳酸を用いると、加硫速度が遅くなる (表2 No.4参照)。
【0034】
さらに、ジエン系ゴム100重量部に対しシリカ5〜150重量部、好ましくは20〜120重量部、より好ましくは30〜100重量部を配合したゴム組成物において、ジエン系ゴム100重量部中5〜50重量部、好ましくは10〜40重量部、より好ましくは20〜30重量部のポリ乳酸部位を有する変性ジエン系ポリマーで置換したタイヤ用ゴム組成物にあっては、硬度アップ、破断時伸びの向上、tanδ(60℃)の低下が図られ、tanδ(60℃)の値は、規定された範囲内でシリカ量を減量させた場合にもさらなる低下を可能とする。なお、規定された置換割合は所望の改善効果を得るために必要であり、これ以下の置換割合では所望の改善効果が達成されず、一方これ以上の置換割合で用いると、破断時伸びが低くなる。
【0035】
以上の各成分を必須成分とするシリカ配合ジエン系ゴム組成物中には、ゴムの配合剤として一般的に用いられている酸合剤、例えばカーボンブラックによって代表された補強剤または充填剤、ジエン系ゴムの種類に応じて硫黄等の加硫剤、チアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系等の加硫促進剤、ステアリン酸、パラフィンワックス、アロマオイル等の加工助剤、老化防止剤、可塑剤などが適宜配合されて用いられる。
【0036】
組成物の調製は、加硫系各成分を除く他の配合剤を密閉式バンバリーミキサ等を用いて約1〜10分間程度混合し、これらの混合物を混合機外に放出して室温まで冷却させた後、バンバリーミキサ、オープンロール等を用いて加硫系各成分を配合し、混合することによって行われ、所望のシリカ配合ジエン系ゴム組成物が製造される。
【0037】
このようにして製造されたシリカ配合ジエン系ゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッド形状などに押出加工され、タイヤ成形機上で通常の方法によりケーシング部と貼り合わせて未加硫タイヤを成形し、これを加硫機中で加圧・加熱して、この組成物からトレッド部などを形成させた空気入りタイヤを得ることができる。なお、トレッド部は、キャップトレッド、アンダートレッド、サイドトレッド等のいずれであってもよく、またカーカスコート、リムクッション等への適用も可能である。
【実施例】
【0038】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0039】
参考例1(アクリル基を有するポリ乳酸の製造)
2-ヒドロキシエチルアクリレート CH2=CHCOOCH2CH2OH 16.2g(140ミリモル)とラクチド(武蔵野化学研究所製)60.3g(418ミリモル)との混合物にジオクチル錫 0.810g(2.0ミリモル)を加え、100℃で3時間攪拌した後、冷却した。反応混合物をアセトン30mlに溶解し、その溶液を500mlのヘキサン中に滴下し、ヘキサン不溶部とヘキサン可溶部とに分離した。ヘキサン不溶部を再度アセトンに溶解し、ヘキサンを用いた再沈殿法により精製して、褐色の粘性液体72.8g(収率95%)を得た。
【0040】
反応生成物は、NMR分析により、アクリル基を有するポリ乳酸(n=6)であることが確認された。
1HNMR(CDCl3、20℃) δ:6.4 (d)
6.1 (m)
5.9 (d)
5.3〜5.1 (m)
4.5〜4.2 (m)
2.8〜2.3 (br)
1.7〜1.4 (m)
【0041】
参考例2(メルカプト基を有するポリ乳酸の製造)
(1) 2,2′-ジヒドロキシエチルジスルフィド HOCH2CH2SSCH2CH2OH 7.17g(46.5ミリモル)とラクチド40.2g(279ミリモル)との混合物にジオクチル錫 0.880g(2.2ミリモル)を加え、100℃で3時間攪拌した後、冷却した。反応混合物をアセトン30mlに溶解し、その溶液を500mlのヘキサン中に滴下し、ヘキサン不溶部とヘキサン可溶部とに分離した。ヘキサン不溶部を再度アセトンに溶解し、ヘキサンを用いた再沈殿法により精製して、褐色の粘性液体42.8g(収率90%)を得た。
【0042】
反応生成物は、NMR分析により、ジスルフィド基を有するポリ乳酸(n=6)であることが確認された。
1HNMR(CDCl3、20℃) δ:5.3〜5.1 (m)
4.5〜4.3 (m)
2.9 (m)
2.2〜1.7 (br)
1.6〜1.4 (m)
【0043】
(2) 上記(1)で得られたジスルフィド基を有するポリ乳酸31.9g(31.3ミリモル)を酢酸エチル 50mlに溶解させ、この酢酸エチル溶液にトリオクチルホスフィン P(C8H17)3 11.6g(31.3ミリモル)を加え、室温条件下で1日攪拌した。その反応溶液を500mlのヘキサン中に滴下し、ヘキサン不溶部とヘキサン可溶部とに分離した。ヘキサン不溶部を再度アセトンに溶解し、ヘキサンを用いた再沈殿法により精製して、褐色の粘性液体28.7g(収率91%)を得た。
【0044】
反応生成物は、NMR分析により、メルカプト基を有するポリ乳酸(n=6)であることが確認された。
1HNMR(CDCl3、20℃) δ:5.3〜5.1 (m)
4.3 (m)
4.2 (m)
2.8 (m)
2.2〜1.7 (br)
1.6〜1.4 (m)
【0045】
参考例3(アクリル基を有するポリ乳酸を用いたSBRの変性)
SBR(日本ゼオン製品A1326)2.35gをトルエン40mlに溶解させた溶液に、実施例1で得られたアクリル基含有ポリ乳酸2.74gを加え、還流条件下で1日攪拌した後、冷却した。反応混合物溶液を300mlのメタノール中に滴下し、メタノール不溶部とメタノール可溶部とに分離した。メタノール不溶部を再度トルエンに溶解し、アセトンを用いた再沈殿法により精製し、白色固体状の反応生成物2.27gを得た。
【0046】
反応生成物は、NMR分析により、SBRの二重結合にアクリル基含有ポリ乳酸の末端ビニル基が付加したSBR変性物であることが確認された。
1HNMR(CDCl3、20℃) δ:7.3〜7.2 (br)
7.2〜6.9 (br)
5.7〜5.1 (br)
5.0〜4.9 (br)
4.4〜4.2 (br)
2.7〜2.4 (br)
2.4〜0.8 (br)
【0047】
参考例4(メルカプト基を有するポリ乳酸を用いたSBRの変性)
SBR(日本ゼオン製品A1326)2.70gをトルエン40mlに溶解させた溶液に、実施例2で得られたメルカプト基含有ポリ乳酸3.26gを加え、80℃で1日攪拌した後、冷却した。反応混合物溶液を300mlのメタノール中に滴下し、メタノール不溶部とメタノール可溶部とに分離した。メタノール不溶部を再度トルエンに溶解し、メタノールを用いた再沈殿法により精製し、白色固体状の反応生成物4.42gを得た。
【0048】
反応生成物は、NMR分析により、SBRの二重結合にメルカプト基含有ポリ乳酸の末端メルカプト基が付加したSBR変性物であることが確認された。
1HNMR(CDCl3、20℃) δ:7.3〜7.2 (br)
7.2〜6.9 (br)
5.7〜5.1 (br)
5.0〜4.0 (br)
4.5〜4.1 (br)
2.8〜2.4 (br)
2.3〜0.6 (br)
【0049】
実施例1
SBR(日本ゼオン製品Nipol NS460;37.5重量部油展) 96.3重量部
ブタジエンゴム(日本ゼオン製品BR1220) 30.0 〃
シリカ(エボニックデグッサ社製品Ultrasil 7000GR) (所定量)
カーボンブラック(東海カーボン製品シースト6;N2SA 119m2/g) (所定量)
シランカップリング剤(エボニックデグッサ社製品Si69) (所定量)
参考例1で得られたアクリル基を有するポリ乳酸 (所定量)
酸化亜鉛(正同化学工業製品酸化亜鉛3種) 3 〃
ステアリン酸(日本油脂製品ビーズステアリン酸) 2 〃
老化防止剤(フレキシス社製品6PPD) 3 〃
アロマオイル(昭和シェル製品エキストラクト4号S) 10 〃
硫黄(鶴見化学工業製品金華印油入微粉硫黄) 2 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーCZ-G) 2 〃
加硫促進剤(住友化学工業製品ソクシノールD-G) 1 〃
【0050】
以上の各成分の内、硫黄および加硫促進剤を除く各成分を7L密閉式バンバリーミキサを用いて5分間混合し、ゴム混合物を混合機外に放出させて室温迄冷却させた後、同じバンバリーミキサを用いて硫黄および加硫促進剤を配合し、混合した。得られたゴム組成物を、150℃で30分間プレス加硫して目的とする試験片を得た。
【0051】
このゴム組成物および試験片について、次の各項目の測定を行い、変性ポリ乳酸を配合しないNo.1を100とする指数で示した。
粘度:JIS K6300に準拠し、100℃で測定
指数が小さい程、低粘度であることを示している
ペイン効果:未加硫ゴム組成物を用いて160℃で20分間の加硫を行い、歪0.28〜
30.0%迄の歪せん断応力G′を測定し、その差を指数表示した
指数が大きい程、シリカ分散性が良好であることを示している
20℃硬度:JIS K6253に準拠し、20℃で測定
指数が大きい程、硬度が高いことを示している
tanδ:岩本製作所製粘弾性スペクトロメーターを用い、伸長変形歪率10±2%
、振動数20Hz、温度0℃および60℃の条件下で測定
指数が高い程、発熱性の指数となるtanδが高いことを示している
【0052】
以上の測定結果は、所定量用いられた各成分量(単位:重量部)と共に、次の表1に示される。
表1
No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6
〔ゴム組成物成分〕
シリカ 70 70 70 70 64 62
カーボンブラック 5 5 5 5 5 5
シランカップリング剤 7.0 7.0 7.0 7.0 6.4 6.2
アクリル基含有ポリ乳酸 − 2.0 5.0 15.0 2.0 5.0
〔測定結果〕
粘度 100 95 90 86 90 83
ペイン効果 100 93 88 84 91 84
20℃硬度 100 104 108 110 101 105
tanδ
0℃ 100 101 102 104 105 105
60℃ 100 99 98 103 94 92
【0053】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 実施例であるNo.2〜3の結果から、アクリル基を有するポリ乳酸を配合することにより、粘度、ペイン効果の低減、硬度アップが図られ、tanδは同等維持かやや良化傾向がみられ、すなわち加工性の改善が可能となることが分かる。
(2) 共に実施例であるNo.5〜6とNo.2〜3の結果を対比することにより、シリカ配合量を減らすことで高硬度化、tanδ(60℃)の低下が可能となり、すなわち加工性の改善、高硬度化、低発熱化が可能となることが分かる。
【0054】
実施例
SBR(Nipol NS460) 96.3重量部
ブタジエンゴム(BR1220) 30.0 〃
シリカ(Ultrasil 7000GR) (所定量)
カーボンブラック(シースト6) (所定量)
シランカップリング剤(Si69) (所定量)
参考例2で得られたメルカプト基を有するポリ乳酸 (所定量)
酸化亜鉛(酸化亜鉛3種) 3 〃
ステアリン酸(ビーズステアリン酸) 2 〃
老化防止剤(6PPD) 3 〃
アロマオイル(エキストラクト4号S) 10 〃
硫黄(金華印油入微粉硫黄) 2 〃
加硫促進剤(ノクセラーCZ-G) 2 〃
加硫促進剤(ソクシノールD-G) 1 〃
【0055】
以上の各成分を用い、実施例と同様にして、加硫および測定が行われた。得られた測定結果は、所定量用いられた各成分量(単位:重量部)と共に、次の表2に示される。なお、測定項目として、次の測定項目が追加された。
ムーニースコーチ:JIS K6300に準拠し、120℃で測定
指数が大きい程、スコーチが遅いことを示している
ランボーン摩耗:岩本製作所製ランボーン摩耗試験機を用い、荷重5kg(49N)、
スリップ率25%、時間4分間、室温という条件下で測定し、摩
耗減量を指数として示した
指数が大きい程、耐摩耗性が良好であることを示している
表2
No.1 No.2 No.3 No.4 No.5
〔ゴム組成物成分〕
シリカ 80 80 80 80 75
カーボンブラック 5 5 5 5 5
シランカップリング剤 8.0 8.0 8.0 8.0 7.5
メルカプト基含有ポリ乳酸 − 2.0 5.0 15.0 5.0
〔測定結果〕
粘度 100 89 84 80 82
ムーニースコーチ 100 130 140 155 140
ペイン効果 100 73 70 68 68
20℃硬度 100 100 101 102 100
tanδ(0℃) 100 106 108 110 110
ランボーン摩耗 100 127 130 129 128
【0056】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 実施例であるNo.2〜3の結果から、メルカプト基を有するポリ乳酸を配合することにより、粘度、ペイン効果の低減、スコーチ性の改善、低温tanδの値のアップが図られ、ランボーン摩耗も良好となることが分かる。
(2) 共に実施例であるNo.5とNo.3の結果を対比することにより、シリカ配合量を減らすことで、硬度が同等でさらに加工性を良化できることが分かる。
【0057】
実施例
SBR(Nipol NS460) (所定量)
SBR(日本ゼオン製品Nipol NS616) (所定量)
シリカ(Ultrasil 7000GR) (所定量)
カーボンブラック(シースト6) 5重量部
シランカップリング剤(Si69) (所定量)
参考例4で得られたメルカプト基を有するポリ乳酸で (所定量)
変性されたSBR
酸化亜鉛(酸化亜鉛3種) 3 〃
ステアリン酸(ビーズステアリン酸) 2 〃
老化防止剤(6PPD) 3 〃
アロマオイル(エキストラクト4号S) (所定量)
硫黄(金華印油入微粉硫黄) 2 〃
加硫促進剤(ノクセラーCZ-G) 2 〃
加硫促進剤(ソクシノールD-G) 1 〃
【0058】
以上の各成分を用い、実施例と同様にして、加硫および測定が行われた。得られた測定結果は、所定量用いられた各成分量(単位:重量部)と共に、次の表3に示される。なお、測定項目として、次の測定項目が追加された。
破断時伸び:JIS K6251に準拠し、室温条件下で引張試験を行い、破断時の伸び
を求めた
指数が大きい程、破断時の伸びが高いことを示している
表3
No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6
〔ゴム組成物成分〕
SBR(Nipol NS460) 110.0 96.3 110.0 96.3 96.3 110.0
SBR(Nipol NS616) 20.0 30.0 − − − 20.0
ポリ乳酸変性SBR − − 20.0 30.0 30.0 −
シリカ 65 65 65 65 60 60
シランカップリング剤 6.5 6.5 6.5 6.5 6.0 6.0
アロマオイル 18 8 18 8 8 18
〔測定結果〕
20℃硬度 100 100 102 102 100 95
破断時伸び 100 85 106 105 103 96
tanδ
0℃ 100 104 100 105 106 102
60℃ 100 105 98 99 94 98
【0059】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 実施例であるNo.3〜4の結果から、メルカプト基を有するポリ乳酸で変性されたSBRを配合することで、硬度アップ、破断時伸びの向上、tanδ(60℃)の低下が図られ、変性SBRを増量しても破断時伸びが確保されることが分かる。
(2) 共に実施例であるNo.5とNo.4の結果を対比することにより、シリカ配合量を減らすことでさらにtanδ(60℃)の低下が可能となることが分かる。
(3) 比較例であるNo.2の結果から、未変性SBRを増量すると破断時伸びが低下することが分かる。