(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吸入通路は、前記ハウジングの前記電動モータが収容されている側と連通し、前記吐出通路は、前記ハウジングの前記圧縮機構が収容されている側と連通することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の電動圧縮機。
【背景技術】
【0002】
一般に、電動圧縮機では、金属製のハウジング内に、電動モータおよび電動モータの駆動により冷媒の圧縮を行う圧縮機構が収容されている。
この種の電動圧縮機は外部冷媒回路と接続されており、圧縮運転時においてハウジング内および圧縮機構に冷媒が通過する。
ところが、電動圧縮機が停止した状態では冷媒が冷却されて、ハウジング内に液化した冷媒(以下「液冷媒」と表記する)が貯留する場合がある。
ハウジング内に貯留される液冷媒には潤滑油も含まれており、特定の種類の潤滑油は液冷媒との混合により液冷媒の電気抵抗率を低下させる性質を持つ。
ハウジング内の電動モータおよび電動モータの周辺には、配線の端子等、液冷媒に晒されるおそれのある導電部が存在する場合がある。
このような導電部がハウジング内に貯留された液冷媒に浸漬されると、導電部とハウジングとの間の絶縁性が低下するおそれがある。
【0003】
そこで、従来では、導電部とハウジングとの絶縁性を向上する技術として、例えば、特許文献1に開示された電動圧縮機が提案されている。
特許文献1に開示された電動圧縮機には、電動モータの固定子に三相の導電性巻線によるコイルが形成されており、各相の導電性巻線の終端側をコイルから引き出し、引き出した結束用引出部の先端部を束ねて結束部を形成している。
結束部の先端に各導電性巻線の芯線同士を接続して結線接続部が形成され、結線接続部は中性点を形成している。
さらに、結束部を絶縁性チューブに挿入して、結束部において結線接続部とハウジングとの絶縁最短距離を長くした余長部が形成されている。
特許文献1に開示された電動圧縮機によれば、ハウジング内に貯留された液冷媒が結線接続部を浸漬しても、結線接続部とハウジングとの絶縁最短距離を長くすることにより、結線接続部とハウジングとの絶縁抵抗を高めるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された電動圧縮機は、液冷媒に浸漬された結線接続部とハウジングとの絶縁抵抗を高めることができるものの、余長部を形成するためのスペースがハウジング内に必要となる。このため、余長部を形成することによって電動圧縮機の体格が増大し、例えば、電動圧縮機の車両等への搭載性が悪化する。このように、電動圧縮機の体格の制約を受ける条件下では、液冷媒への対策として余長部を電動圧縮機に形成することができない場合がある。
ところで、圧縮運転停止時に、ハウジング内に貯留される液冷媒としては、ハウジング内で冷却されて生じた液冷媒の他に、外部冷媒回路内にて冷却されて生じた液冷媒がハウジング内に浸入して貯留されるものがある。
外部冷媒回路内にて冷却されて生じた液冷媒がハウジング内に浸入すると、多量の液冷媒がハウジング内に貯留されることになる。
特に、余長部を形成することができない電動圧縮機の場合、導電部が液冷媒に浸漬されやすくなり、導電部とハウジングとの絶縁性が悪化するという問題がある。
また、ハウジング内に多量の液冷媒が貯留される状態のままで電動圧縮機を起動すると、起動当初に液圧縮を生じる。
液圧縮の発生は、通常の起動時のトルクと比較して大きなトルクを必要とする等、電動圧縮機に対する負荷が大きくなる。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、外部冷媒回路からの液冷媒のハウジング内での貯留を抑制して導電部の絶縁性を確保することができる電動圧縮機の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、
回転軸を備える電動モータと、前記電動モータの駆動により冷媒の圧縮を行う圧縮機構と、前記電動モータおよび前記圧縮機構を収容する金属製のハウジングと、前記ハウジングの内部と連通する冷媒の吸入通路と、前記ハウジングの内部と連通し、前記圧縮機構から吐出された冷媒を通す吐出通路と、を備えた
横置き状態にて設置される車載用の電動圧縮機において、前記吸入通路および前記吐出通路の少なくとも一方に開閉弁を設け、前記開閉弁は、圧縮運転時に開弁し、圧縮運転停止時に閉弁
し、前記電動モータの近くであって前記回転軸より上側に導電部を設けたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、電動圧縮機の圧縮運転時においては、吸入通路および吐出通路の少なくとも一方に設けた開閉弁が開弁している。
このため、冷媒は吸入通路からハウジングの内部を通って圧縮機構へ達し、圧縮機構において圧縮された冷媒が圧縮機構から吐出通路を通じて外部冷媒回路へ達する。
電動圧縮機の運転停止時においては、吸入通路および吐出通路の少なくとも一方に設けた開閉弁が閉弁している。
このため、吸入通路および吐出通路の少なくとも一方からの液冷媒のハウジングの内部への浸入は妨げられる。
その結果、電動圧縮機の運転停止時において、外部冷媒回路からの液冷媒のハウジング内での貯留を抑制して電動モータおよび電動モータの近くに設けられた導電部の絶縁性を確保することができる。
【0009】
また、本発明は、上記の電動圧縮機において、前記吸入通路および前記吐出通路のうち、前記電動モータに近い通路に前記開閉弁を設ける構成としてもよい。
【0010】
この場合、圧縮運転停止時に開閉弁が閉弁されると、電動モータに近い通路からの液冷媒のハウジングの内部への浸入が妨げられることから、ハウジングの内部の電動モータおよび電動モータの近くに設けられた導電部が液冷媒に浸漬され難くなる。
【0011】
また、本発明は、上記の電動圧縮機において、前記開閉弁は前記吸入通路に設けられる構成としてもよい。
【0012】
この場合、吸入通路に開閉弁が設けられることで、圧縮運転停止時に開閉弁が閉弁されると、吸入通路からの液冷媒のハウジング内への浸入を抑制することができる。
電動モータが収容されているハウジングの内部と吸入通路が連通している電動圧縮機の場合、電動モータおよび電動モータの近くに設けられた導電部の液冷媒による浸漬がより抑制される。
【0013】
また、本発明は、上記の電動圧縮機において、前記開閉弁は、前記吸入通路および前記吐出通路のそれぞれに設けられる構成としてもよい。
【0014】
この場合、開閉弁が吸入通路および吐出通路のそれぞれに設けられるから、運転停止時にそれぞれの開閉弁が閉弁されると、吸入通路および吐出通路からの液冷媒のハウジング内への浸入を確実に防止することができる。
【0015】
また、本発明は、上記の電動圧縮機において、前記吸入通路は、前記ハウジングの前記電動モータが収容されている側と連通し、前記吐出通路は、前記ハウジングの前記圧縮機構が収容されている側と連通する構成としてもよい。
このような構成の電動圧縮機は、本発明の適用対象として特に好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外部冷媒回路からの液冷媒のハウジング内での貯留を抑制して導電部の絶縁性を確保することができる電動圧縮機を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る電動圧縮機10について図面を参照して説明する。
この実施形態に係る電動圧縮機10は、走行用の電動モータと内燃機関を走行駆動源とするハイブリッド車に搭載される車載用の電動圧縮機であり、具体的にはスクロール型の電動圧縮機である。
電動圧縮機10は、車両用空調装置における冷媒回路の一部を構成している。
車両用空調装置は、電動圧縮機10のほか、図示はしないが、凝縮器としてのコンデンサと、レシーバと、膨張弁及びエバポレータを備えたクーリングユニットと、これらの機器を接続する配管を備えている。
【0019】
電動圧縮機10は、
図1に示すように、流体としての冷媒を圧縮する圧縮機構11と、圧縮機構11を駆動する圧縮機用の電動モータ12が一体化された圧縮機である。
電動圧縮機10のハウジング13は金属製のハウジングであり、本実施形態ではアルミ系金属材料により形成されている。
ハウジング13は、第1ハウジング体14と、第2ハウジング体15を有している。
第1ハウジング体14の端面と第2ハウジング体15の端面は接合され、第1ハウジング体14および第2ハウジング体15はボルト16により一体的に固定されている。
因みに、この実施形態の電動圧縮機10は、エンジンルーム内において横置き状態にて設置される。
【0020】
電動圧縮機10の第1ハウジング体14の内部には、圧縮機構11と、圧縮機用の電動モータ12が収容されている。
第1ハウジング体14の電動モータ12側の上部には吸入口17が形成されている。
吸入口17は外部冷媒回路の配管18と接続されており、配管18は第1ハウジング体14の内部と連通する吸入通路Sを形成する。
電動圧縮機10の圧縮運転時には、配管18を流れる低圧の冷媒は吸入口17を通過し、第1ハウジング体14の内部に送入される。
吸入通路Sを形成する配管18は、ハウジング13の電動モータ12が収容されている側と連通し、後述する吐出通路Dを形成する配管24よりも電動モータ12に近い通路に相当する。
【0021】
第2ハウジング体15の内部には圧縮機構11と連通する吐出室19が形成されている。
第2ハウジング体15の上部には吐出口20が形成されており、吐出口20は外部冷媒回路と連通する。
第2ハウジング体15には、吐出室19と吐出口20との間を連通する連通路21が形成されており、連通路21にはオイルセパレータ22が設置されている。
オイルセパレータ22は、圧縮機構11から吐出された冷媒に含まれるミスト状のオイルを冷媒から分離する。
オイルセパレータ22の下方となる連通路21の底部には、オイル戻し通路23が形成されており、オイル戻し通路23は分離されたオイルを圧縮機構11へ戻す通路である。
吐出口20は外部冷媒回路の配管24と接続されており、配管24は吐出圧の冷媒を通す吐出通路Dを形成する。
吐出通路Dを形成する配管24は、ハウジング13の圧縮機構11が収容されている側と連通している。
電動圧縮機10の圧縮運転時には、圧縮機構11から吐出室19に吐出された高圧の冷媒は連通路21を経て吐出口20へ達し、配管24を通じて外部冷媒回路へ送出される。
【0022】
圧縮機構11は、第1ハウジング体14内に固定された固定スクロール25と、固定スクロール25に対して旋回する可動スクロール26を備えている。
固定スクロール25と可動スクロール26との間には圧縮室27が形成されている。
【0023】
第1ハウジング体14内における電動モータ12と固定スクロール25との間には、軸支部材28が設けられている。
軸支部材28は、圧縮機構11の一部を構成し、電動モータ12が備える回転軸29の一方の端部を軸支する軸受30を備えている。
回転軸29の他方の端部は、軸受31を介して第1ハウジング体14に軸支されている。
軸支部材28には圧縮室27と連通する吸入ポート32が形成されており、吸入口17から第1ハウジング体14内に取り込まれた冷媒は、吸入ポート32を通じて圧縮室27へ導入される。
第1ハウジング体14の内部空間のうち、吸入ポート32と連通する空間部は吸入圧雰囲気となる吸入圧空間である。
【0024】
可動スクロール26は、電動モータ12の回転軸29に設けられた偏心軸33に軸受34を介して設けられている。
回転軸29の回転により可動スクロール26が旋回し、可動スクロール26の旋回により圧縮室27の容積が増減される。
圧縮室27の容積増大により冷媒が吸入ポート32を通じて圧縮室27へ導入され、圧縮室27の容積減少により圧縮室27の冷媒は圧縮される。
固定スクロール25の中心に吐出室19と連通する吐出ポート35が形成されており、吐出ポート35を開閉する吐出弁36が備えられている。
圧縮された冷媒は、吐出ポート35を通じて吐出室19へ吐出される。
第2ハウジング体15の内部空間(吐出室19および連通路21)は、吐出圧雰囲気となる吐出圧空間である。
【0025】
圧縮機用の電動モータ12は、三相交流電力により駆動されるモータである。
電動モータ12は、第1ハウジング体14の内壁に固定されたステータ37と、ステータ37内に挿入され、回転軸29に固定されたロータ38を備えている。
ロータ38は、回転軸29の軸芯方向に設けた複数の挿入孔を備えたロータコア39と、ロータコア39の磁石挿入孔(図示せず)に挿入された永久磁石(図示せず)を有している。
ステータ37はステータコア40とステータコア40に巻線されたU相、V相、W相の各相のコイル41を有する。
各相のコイル41を形成する巻線の一方の端部は電力の供給を受けるリード線47としてコイル41から引き出されている。
また、各相のコイル41を形成する巻線の他方の端部は互いに結線されることにより中性点48を形成している。
本実施形態の中性点48はコイル41における圧縮機構11側の上部に位置しており、各相の巻線における他方の端部が互いに接触することにより導電部を形成する。
【0026】
電動モータ12は、第1ハウジング体14の外壁に設けられた電動モータ制御部42の制御を受けて駆動される。
電動モータ制御部42は、第1ハウジング体14の外壁に接合された制御部ケース43を備えている。
制御部ケース43は、インバータ44を保護するケースであり、第1ハウジング体14と同じアルミ系金属材料により形成されている。
第1ハウジング体14と制御部ケース43とにより形成された密閉空間には、インバータ44とインバータ44と電気的に接続された気密端子45が設置されている。
インバータ44は、外部から電動圧縮機10の駆動に必要な電力の供給を受け、供給される直流電力を交流電力に変換する。
インバータ44は、第1ハウジング体14の外壁に固定されており、インバータ44と第1ハウジング体14との絶縁状態が保たれている。
【0027】
気密端子45はインバータ44側のコネクタを介してインバータ44と電気的に接続されている。
第1ハウジング体14の内部にはクラスタブロック46が設けられ、気密端子45はクラスタブロック46を介して各相のコイル41から引き出されているリード線47と電気的に接続されている。
クラスタブロック46は樹脂等の絶縁材料から成る四角形状の箱体で形成されている。
クラスタブロック46の上面には、気密端子45の各端子ピン(図示せず)が挿入される端子挿入孔(図示せず)が穿設されている。
なお、気密端子45の端子ピンと、クラスタブロック46の端子挿入孔に設けたピン接点は導電部を形成している。
このように、電動モータ12とインバータ44は電気的に接続されており、インバータ44から気密端子45を介して電動モータ12のコイル41に通電されると、ロータ38が回転され、回転軸29と連結された圧縮機構11が作動される。
【0028】
ところで、本実施形態の電動圧縮機10は、吸入口17に接続された配管18に設置された吸入側開閉弁51および吐出口20に接続された配管24に設置された吐出側開閉弁52を備えている。
吸入側開閉弁51および吐出側開閉弁52は開閉弁に相当する。
【0029】
まず、吸入側開閉弁51について説明すると、
図2に示すように、吸入側開閉弁51は、配管18の吸入通路Sに設置された弁ハウジング53を備えている。
弁ハウジング53は、弁ハウジング53の内部に形成された弁体収容室54と、弁体収容室54と吸入通路Sの外部冷媒回路側と連通する弁口55と、弁体収容室54と吸入通路Sの吸入口17側と連通する開口56を有している。
弁体収容室54には弁体57および付勢部材としてのコイルばね58が収容されている。
【0030】
弁体57は、弁体収容室54において往復移動であり、コイルばね58の付勢力を受けて弁口55を塞ぎ、吸入通路Sの外部冷媒回路側の圧力が上昇したとき、あるいは吸入通路Sの吸入口17側の圧力が低下したとき、弁口55を開く。
つまり、弁体57は、吸入通路Sの外部冷媒回路側と吸入口17側との圧力差が所定値を超えるときに弁口55を開き、所定値以下のとき弁口55を閉じる。
【0031】
コイルばね58は、弁体57を弁口55へ向けて移動させる付勢力が作用するように、弁体収容室54に配置されている。
コイルばね58のばね定数は、電動圧縮機10の圧縮運転停止時に弁体57による弁口55を閉塞することができるとともに、電動圧縮機10の圧縮運転時に弁口55を開放することができる付勢力となるように設定されている。
【0032】
次に、吐出側開閉弁52について説明する。
吐出側開閉弁52は、吐出通路Dにおいて吐出口20側から外部冷媒回路側へ向かう冷媒を通し、外部冷媒回路側から吐出口20側へ向かう冷媒を遮断する機能を有する。
つまり、吐出側開閉弁52は冷媒の外部冷媒回路側から吐出口20側への逆流を防止する逆止弁である。
図3に示すように、配管24の吐出通路Dに設置された弁ハウジング59を備えている。
弁ハウジング59は、弁ハウジング59の内部に形成された弁体収容室60と、弁体収容室60と吐出通路Dの吐出口20側と連通する弁口61と、弁体収容室60と吐出通路Dの外部冷媒回路側と連通する開口62を有している。
弁体収容室60には弁体63および付勢部材としてのコイルばね64が収容されている。
【0033】
弁体63は、弁体収容室60において往復移動であり、コイルばね64の付勢力を受けて弁口61を塞ぎ、電動圧縮機10の圧縮運転時に弁口61を開き、電動圧縮機10の圧縮運転停止時に弁口61を閉じる。
【0034】
コイルばね64は、弁体63を弁口61へ向けて移動させる付勢力が作用するように、弁体収容室60に配置されている。
コイルばね64のばね定数は、電動圧縮機10の圧縮運転停止時に弁体63が弁口61を閉塞し、電動圧縮機10の圧縮運転時に弁口61が開かれる付勢力を得ることができるように設定されている。
【0035】
次に、本実施形態の電動圧縮機10の作動について説明する。
電動圧縮機10が圧縮運転停止の状態では、吸入側開閉弁51および吐出側開閉弁52は閉弁状態にある。
電動モータ12に電力が供給されてロータ38が回転すると、圧縮機構11が吸入ポート32から冷媒を圧縮室27に吸入して圧縮し、圧縮した冷媒を吐出ポート35から吐出室19へ冷媒を吐出する。
第1ハウジング体14の内部における吸入ポート32と連通する空間の圧力は、起動時の圧縮機構11の作動により低下する。
この空間の圧力が所定圧力まで低下すると、吸入側開閉弁51の弁体57がコイルばね58の付勢力に抗して弁口55を開く方向へ移動する。
吸入側開閉弁51が吸入通路Sを開通することで、冷媒は配管18を通じて第1ハウジング体14の内部に吸入される。
電動圧縮機10の圧縮運転が継続される状態では、吸入側開閉弁51の開弁状態は維持される。
【0036】
一方、吐出室19および連通路21の圧力は、電動圧縮機10の起動時には圧縮機構11から冷媒が吐出されることにより上昇する。
吐出室19および連通路21の圧力が所定圧力まで高くなると、吐出側開閉弁52の弁体63は、弁口61から離れて、吐出側開閉弁52は吐出通路Dを開通する開弁状態となり、吐出された冷媒は配管24を通じて外部冷媒回路へ送出される。
電動圧縮機10の圧縮運転が継続される状態では、吐出側開閉弁52の開弁状態は維持される。
また、電動圧縮機10が圧縮運転を継続する状態では、冷媒は連続的にハウジング13の外部に吐出されるので、ハウジング13の内部に多量の液冷媒が貯留することはない。
【0037】
電動モータ12が停止して、電動圧縮機10が圧縮運転停止状態となると、吸入側開閉弁51および吐出側開閉弁52は閉弁状態となる。
時間の経過とともに車両用空調装置が冷却されると、電動圧縮機10内や外部冷媒回路内における冷媒が冷却されて液冷媒が生じる。
圧縮運転停止中では吸入側開閉弁51および吐出側開閉弁52が共に閉弁状態にあるため、外部冷媒回路の液冷媒は吸入側開閉弁51および吐出側開閉弁52に遮られ、配管18、24を通じてハウジング13の内部に導入されることはない。
外部冷媒回路において生じた液冷媒がハウジング13の内部に導入されないことから、ハウジング13の内部において液冷媒が発生しても、ハウジング13の内部に溜まる液冷媒は少量となる。
このため、導電部を持つ気密端子45、クラスタブロック46および中性点48が、ハウジング13の内部に溜まる液冷媒に浸漬されることはない。
【0038】
また、液冷媒がハウジング13の内部に発生しても、ハウジング13の内部に溜まる液冷媒は少量となることから、電動圧縮機10の起動時に発生しがちな液圧縮を防止しやすい。
液圧縮が防止されることにより、液圧縮による圧縮機構11の物理的負荷や電動モータ12の電力消費量の増大が防止される。
【0039】
本実施形態に係る電動圧縮機10は以下の作用効果を奏する。
(1)電動圧縮機10の圧縮運転時においては、吸入通路Sに設けた吸入側開閉弁51および吐出通路Dに設けた吐出側開閉弁52が開弁している。このため、冷媒は吸入通路Sからハウジング13の内部を通って圧縮機構11へ達し、圧縮機構11において圧縮された冷媒が圧縮機構11から吐出通路Dを通じて外部冷媒回路へ達する。電動圧縮機10の圧縮運転停止時においては、吸入側開閉弁51および吐出側開閉弁52が閉弁している。このため、吸入通路Sおよび吐出通路Dからの液冷媒のハウジング13の内部への浸入は妨げられる。その結果、電動圧縮機10の圧縮運転停止時において、ハウジング13の内部への液冷媒の貯留を抑制することができる。
【0040】
(2)圧縮運転停止時に吸入側開閉弁51が閉弁されると、吸入通路Sおよび吐出通路Dのうち、電動モータ12に近い吸入通路Sからの液冷媒の第1ハウジング体14の内部への浸入が妨げられることから、第1ハウジング体14の内部の電動モータ12が液冷媒に浸漬され難くなる。また、第1ハウジング体14の内部の冷媒が液冷媒となっても液冷媒は少量で済み、電動モータ12が液冷媒に浸漬される可能性は低い。その結果、電動モータ12および電動モータ12の近くに設けられた導電部を持つ気密端子45、クラスタブロック46および中性点48が、ハウジング13の内部に溜まる液冷媒に浸漬することはなく、金属製のハウジング13と各導電部との絶縁性を保つことができる。
(3)吸入通路Sおよび吐出通路Dからの液冷媒のハウジング13の内部への浸入は妨げられ、ハウジング13の内部に溜まる液冷媒は少量となることから、電動圧縮機10の起動時に発生しがちな液圧縮を防止しやすい。その結果、液圧縮による圧縮機構11の物理的負荷を低減することができるほか、電動モータ12の電力消費量の増大を防止することができる。
【0041】
(4)液冷媒のハウジング13の内部への浸入は妨げられ、ハウジング13の内部への液冷媒の貯留を抑制することができるので、電動モータ12および電動モータ12の近くに設けられる導電部(気密端子45、クラスタブロック46および中性点48)の設置場所の自由度が高くなる。例えば、従来よりもハウジング13の底部に近い位置に導電部を設置することも可能である。
(5)外部冷媒回路で生じた液冷媒のハウジング13の内部での貯留が抑制されるから、コイル41の巻線における絶縁性エナメルにピンホールが生じている場合でも、コイル41とハウジング13との絶縁や、コイル41と導電部との絶縁を維持することができる。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る電動圧縮機について説明する。
本実施形態に係る電動圧縮機は、吸入通路の配管に吸入側開閉弁を設け、吐出通路に吐出側開閉弁を備えない点で、第1の実施形態の電動圧縮機と異なる。
電動圧縮機の構成は、吐出通路に吐出側開閉弁を備えない点を除き、第1の実施形態と同一であるから第1の実施形態で用いた符号を共通して用いる。
【0043】
図4に示すように、電動圧縮機70は吸入通路Sの配管18に吸入側開閉弁51を備えているが、吐出通路Dの配管24に吐出側開閉弁52を設けていない。
このため、電動圧縮機70の圧縮運転時において圧縮機構11から吐出室19へ吐出された冷媒は、連通路21およびオイルセパレータ22を通じて吐出口20へ達し、吐出口20から外部冷媒回路へ直ちに送出される。
電動圧縮機70が圧縮運転を停止して冷却されると、吸入側開閉弁51は閉弁され、閉弁状態の吸入側開閉弁51により、吸入通路Sからハウジング13の内部への液冷媒の浸入が阻止される。
【0044】
吐出通路Dに生じた液冷媒は、吐出口20から第2ハウジング体15へ浸入し、連通路21および吐出室19を通じて圧縮機構11に達する。
本実施形態の圧縮機構11はスクロール式の圧縮機構であるため、吐出口20から浸入した液冷媒は圧縮機構11を通過することができず、第1ハウジング体14(電動モータ12)へ到達することは困難である。
つまり、吐出口20から第2ハウジング体15へ浸入した液冷媒の第1ハウジング体14への浸入は圧縮機構11により防止される。
【0045】
本実施形態では、吐出通路Dを形成する配管24に吐出側開閉弁52を設けることなく、吸入通路Sに吸入側開閉弁51を備えるだけで、液冷媒の第1ハウジング体14への浸入を防止することができる。
また、吐出側開閉弁52を設ける必要がないことから、吐出側開閉弁52を設けた電動圧縮機10と比較して部品点数を削減することができる。
【0046】
なお、上記の実施形態は、本発明の一実施形態を示すものであり、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、下記のように発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【0047】
○ 上記の実施形態では、開閉弁は、コイルばねの付勢力により閉弁し、通路内の圧力の変動により開弁する構成としたが、例えば、開閉弁は電気的な制御により弁体を開閉する電磁弁であってもよい。この場合、電動圧縮機の圧縮運転時に開弁し、圧縮運転停止時に閉弁となる開閉弁であればよい。また、開閉弁の弁体開閉のための機構・手段は特に限定されない。
○ 上記の実施形態では、電動圧縮機の始動後に開弁する開閉弁としたが、開閉弁が開弁するタイミングは電動圧縮機の始動後に限らない。例えば、開閉弁は電動圧縮機の始動と同時に開弁する開閉弁としてもよい。
○ 上記の実施形態では、吸入通路および吐出通路のそれぞれに開閉弁を設けた例と、吸入通路に開閉弁を設け、吐出通路に開閉弁を設けない例の2例について説明したが、開閉弁は吸入通路および吐出通路の少なくとも一方に設けられるようにすればよい。例えば、吸入通路に開閉弁を設けず、吐出通路に開閉弁を設けるようにしてもよい。
【0048】
○ 上記の実施形態では、ハウジングにおいて吸入圧の冷媒が通過する吸入圧空間に電動モータが収容される構成としたが、ハウジング内において吐出圧の冷媒が通過する吐出圧空間に電動モータを収容した構成としてもよい。この場合、電動モータが収容されたハウジングの内部と吐出通路とが連通しており、吐出通路は吸入通路よりも電動モータに近い通路に相当する。よって、電動モータが収容された空間への液冷媒の浸入を防止するように吐出通路に開閉弁を設けることがより好ましい。
○ 上記の実施形態では、吸入通路および吐出通路がハウジングの外部に形成されるとしたが、吸入通路および吐出通路はハウジングの内部に形成されてもよい。例えば、第2ハウジング体に形成された連通路を吐出通路とし、連通路に開閉弁を設けるようにしてもよい。あるいは、電動モータが収容されている第1ハウジング体の内部へ吸入通路を形成する配管の延設し、第1ハウジング体の内部の吸入通路に開閉弁を設けてもよい。
○ 上記の実施形態では、スクロール型の圧縮機構としたが、圧縮機構はスクロール型に限定されない。例えば、ベーン式の圧縮機構としてもよく、圧縮機構の方式は特に制限されない。