特許第5741417号(P5741417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741417
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】レーザー加工ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/04 20140101AFI20150611BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20150611BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20150611BHJP
   B23K 26/06 20140101ALI20150611BHJP
【FI】
   B23K26/04
   B23K26/00 M
   B23K26/08 H
   B23K26/06
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-276305(P2011-276305)
(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公開番号】特開2013-126670(P2013-126670A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2014年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎也
(72)【発明者】
【氏名】内田 雄三
【審査官】 大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−106586(JP,A)
【文献】 特開昭63−030192(JP,A)
【文献】 特開2001−053358(JP,A)
【文献】 特開平01−178393(JP,A)
【文献】 実開平05−021219(JP,U)
【文献】 再公表特許第2005/104111(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
教示ペンダントによって教示した移動経路に沿って、移動先端部を移動させるよう構成したロボットと、
該ロボットの移動先端部に装着し、焦点距離及び照射方向を調整して被加工対象における加工設定位置にレーザー光を照射するよう構成したレーザー加工手段と、
該レーザー加工手段から、所定の可視光を含む光又は上記レーザー光である測定光を一端開口部から通過させる貫通穴が形成された測定用治具と、
該測定用治具の上記貫通穴の他端開口部の外方に対向して配置され、上記測定光の光量又は熱量を測定する測定器と、
上記レーザー加工手段を所定の基準位置に移動させ、上記焦点距離及び照射方向を所定の基準状態にして、上記貫通穴の一端開口部と他端開口部との間に焦点位置を設定して上記測定光を照射したときに、上記測定器によって測定される上記光量又は熱量が、所定の初期設定量よりも小さくなったときには、上記レーザー加工手段による上記レーザー光の上記焦点距離及び照射方向の少なくとも一方に位置ずれが生じていることを検出する検出装置と、を備えていることを特徴とするレーザー加工ロボットシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザー加工ロボットシステムにおいて、上記基準位置に移動させた上記レーザー加工手段の上記基準状態は、上記貫通穴の一端開口部の外形と、該貫通穴の一端開口部における上記測定光の断面形状とが一致するとともに、上記貫通穴の他端開口部の外形と、該貫通穴の他端開口部における上記測定光の断面形状とが一致する状態で、上記ロボット及び上記レーザー加工手段の教示を行って形成したことを特徴とするレーザー加工ロボットシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーザー加工ロボットシステムにおいて、上記測定用治具は、上記貫通穴の一端開口部が形成された一端側治具部と、上記貫通穴の他端開口部が形成された他端側治具部とに分割され、該一端側治具部の上記貫通穴と該他端側治具部の上記貫通穴との軸心を一致させて形成されていることを特徴とするレーザー加工ロボットシステム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザー加工ロボットシステムにおいて、該レーザー加工ロボットシステムは、上記レーザー加工手段に装備され、上記レーザー光と同軸状に上記測定光としての可視光を照射する可視光照射手段を備えていることを特徴とするレーザー加工ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの移動先端部に装着したレーザー加工手段によって、被加工対象における加工設定位置にレーザー光を照射するレーザー加工ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場の生産ライン等においてはロボットが多用されている。例えば、レーザー光によって溶接、切断等の加工を行う工程においては、レーザー照射装置をロボットの移動先端部に装着し、レーザー照射装置における反射ミラーによって焦点距離及び照射方向を調整して、被加工対象における加工設定位置にレーザー光を照射するリモートレーザー加工方法が知られている。
このリモートレーザー加工方法としては、例えば、十字の可視光を被加工対象に照射(投影)し、この十字の可視光の交点と、レーザー光と同軸状に出射したポインターレーザーから出射した直進可視光とが一致したときに、レーザー光の焦点が被加工対象における加工設定位置に合ったことを示すようにしたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1のレーザ加工機においては、レーザ出力を吸収するためのビームアブソーバを加工機上の所定位置に設け、加工性能の維持確認を行う際に、ビームアブソーバにレーザビームを照射することが開示されている。そして、ビームアブソーバにレーザ出力を測定するパワーメータを用い、パワーメータの出力を基にビーム伝送系が原因で生じる加工性能の低下を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−263583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のリモートレーザー加工においては、ロボットの移動先端部を移動させて、加工設定位置について焦点距離及び照射方向の教示を行った教示データに位置ずれが生じていないかの確認は作業者が目視で行っている。そのため、この目視による確認作業に時間がかかるといった問題がある。
また、特許文献1においては、ビーム伝送系が原因で生じる加工性能の低下を検出できるのみであり、ロボット又はレーザー照射装置に位置ずれが生じていないかを検出することはできない。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、レーザー加工手段によるレーザー光の焦点距離及び照射方向の少なくとも一方に位置ずれが生じていないかを簡単な方法によって検出することができるレーザー加工ロボットシステムを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、教示ペンダントによって教示した移動経路に沿って、移動先端部を移動させるよう構成したロボットと、
該ロボットの移動先端部に装着し、焦点距離及び照射方向を調整して被加工対象における加工設定位置にレーザー光を照射するよう構成したレーザー加工手段と、
該レーザー加工手段から、所定の可視光を含む光又は上記レーザー光である測定光を一端開口部から通過させる貫通穴が形成された測定用治具と、
該測定用治具の上記貫通穴の他端開口部の外方に対向して配置され、上記測定光の光量又は熱量を測定する測定器と、
上記レーザー加工手段を所定の基準位置に移動させ、上記焦点距離及び照射方向を所定の基準状態にして、上記貫通穴の一端開口部と他端開口部との間に焦点位置を設定して上記測定光を照射したときに、上記測定器によって測定される上記光量又は熱量が、所定の初期設定量よりも小さくなったときには、上記レーザー加工手段による上記レーザー光の上記焦点距離及び照射方向の少なくとも一方に位置ずれが生じていることを検出する検出装置と、を備えていることを特徴とするレーザー加工ロボットシステムにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0008】
本発明のレーザー加工ロボットシステムは、測定用治具及び測定器を用いることによって、レーザー加工手段によるレーザー光の焦点距離及び照射方向の少なくとも一方に位置ずれが生じているか否かを検出することができるものである。
具体的には、レーザー加工手段から照射される測定光を通過させる貫通穴が形成された測定用治具を用いる。そして、ロボット又はレーザー加工手段に生じた不具合に起因して、レーザー加工手段によるレーザー光の焦点距離及び照射方向の少なくとも一方に位置ずれが生じた場合には、測定光が、貫通穴の一端開口部の付近と、他端開口部の付近との少なくとも一方に干渉し、貫通穴を通過する量が減少することを利用する。
【0009】
基準位置に移動させたレーザー加工手段の基準状態において、測定光の焦点位置が貫通穴の一端開口部と他端開口部との間に設定されていることにより、測定光は、貫通穴の一端開口部においては、焦点が絞られていく途中の断面となり、貫通穴の他端開口部においては、焦点が絞られた後に広がっていく途中の断面となる。
そして、基準位置に移動させたレーザー加工手段の基準状態において、測定光を貫通穴へ通過させる。このとき、ロボット又はレーザー加工手段に生じた不具合に起因して、レーザー光の照射方向(平面方向)の位置ずれが生じている場合には、測定光が、貫通穴の一端開口部の付近及び他端開口部の付近に接触する量が増加することになる。この増加には、接触しない状態から接触する状態になることも含む。これにより、レーザー光の一部が測定用治具によって遮られ、測定器によって測定される光量又は熱量が減少することになる。
【0010】
一方、測定光を貫通穴へ通過させるとき、ロボット又はレーザー加工手段に生じた不具合に起因して、レーザー光の焦点距離(平面方向に垂直な方向の距離)の位置ずれが生じている場合には、測定光が、貫通穴の一端開口部の付近又は他端開口部の付近に接触する量が増加することになる。この増加には、接触しない状態から接触する状態になることも含む。これにより、レーザー光の一部が測定用治具によって遮られ、測定器によって測定される光量又は熱量が減少することになる。
【0011】
こうして、検出装置は、測定器によって測定される光量又は熱量が、所定の初期設定量よりも小さくなったときには、レーザー加工手段によるレーザー光の焦点距離及び照射方向の少なくとも一方に位置ずれが生じていることを検出することができる。一方、検出装置は、測定器によって測定される光量又は熱量が、所定の初期設定量以上にあるときには、上記位置ずれが生じていないことを検出することができる。
それ故、上記レーザー加工ロボットシステムによれば、レーザー加工手段によるレーザー光の焦点距離及び照射方向の少なくとも一方に位置ずれが生じていないかを簡単な方法によって検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例にかかる、レーザー加工手段によって被加工対象における加工設定位置にレーザー加工を行う状態を模式的に示す説明図。
図2】実施例にかかる、レーザー加工ロボットシステムの電気的な構成を示す説明図。
図3】実施例にかかる、レーザー加工ロボットシステムにおいて、位置ずれの検出を行う状態を模式的に示す説明図。
図4】実施例にかかる、測定用治具を示す斜視図。
図5】実施例にかかる、レーザー光に照射方向の位置ずれが生じている場合について、測定用治具の貫通穴にレーザー光(測定光)を照射する状態を模式的に示す説明図。
図6】実施例にかかる、レーザー光の焦点距離が短くなった場合について、測定用治具の貫通穴にレーザー光(測定光)を照射する状態を模式的に示す説明図。
図7】実施例にかかる、レーザー光の焦点距離が長くなった場合について、測定用治具の貫通穴にレーザー光(測定光)を照射する状態を模式的に示す説明図。
図8】実施例にかかる、他の測定用治具の貫通穴にレーザー光(測定光)を照射する状態を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述したレーザー加工ロボットシステムにおける好ましい実施の形態につき説明する。
上記レーザー加工ロボットシステムにおいて、上記検出装置における所定の初期設定量は、上記基準位置に移動させたレーザー加工手段の基準状態における測定光の最大測定量とすることができ、この最大測定量から若干の余裕量(誤差範囲量)を差し引いた量とすることができる。
上記測定光の焦点位置は、上記貫通穴の一端開口部と他端開口部との間にあれば、これらの中心位置に設定するだけでなく、どちらかに近づいた位置に設定することもできる。
【0014】
また、上記基準位置に移動させた上記レーザー加工手段の上記基準状態は、上記貫通穴の一端開口部の外形と、該貫通穴の一端開口部における上記測定光の断面形状とが一致するとともに、上記貫通穴の他端開口部の外形と、該貫通穴の他端開口部における上記測定光の断面形状とが一致する状態で、上記ロボット及び上記レーザー加工手段の教示を行って形成してもよい(請求項2)。
この場合には、検出装置によって、レーザー加工手段によるレーザー光の焦点距離及び照射方向の少なくとも一方に位置ずれが生じているか否かを、より正確に検出することができる。
なお、上記貫通穴の一端開口部の外形と、貫通穴の一端開口部における測定光の断面形状との一致、及び上記貫通穴の他端開口部の外形と、貫通穴の他端開口部における測定光の断面形状との一致には、完全一致となる状態だけでなく、若干の許容幅を持って一致する状態も含む。
【0015】
また、上記測定用治具は、上記貫通穴の一端開口部が形成された一端側治具部と、上記貫通穴の他端開口部が形成された他端側治具部とに分割され、該一端側治具部の上記貫通穴と該他端側治具部の上記貫通穴との軸心を一致させて形成されていてもよい(請求項3)。
この場合には、一端側治具部と他端側治具部とに分割することにより、測定用治具を容易に形成することができる。
測定用治具は、耐熱性に優れた部材から構成することが好ましい。
【0016】
また、上記レーザー加工ロボットシステムは、上記レーザー加工手段に装備され、上記レーザー光と同軸状に上記測定光としての可視光を照射する可視光照射手段を備えていてもよい(請求項4)。
この場合には、可視光照射手段から照射される可視光を用いて、レーザー加工手段によるレーザー光の焦点距離及び照射方向の少なくとも一方に位置ずれが生じていないかを検出することができる。また、ロボット及びレーザー加工手段の教示を行った後に、加工設定位置に、レーザー加工手段からレーザー光を照射する代わりに、可視光照射手段から可視光を照射させて、作業者は、レーザー光が意図する加工設定位置に照射されるかの確認を行うことができる。
【実施例】
【0017】
以下に、上記レーザー加工ロボットシステムにかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例のレーザー加工ロボットシステム1は、以下のロボット7、レーザー加工手段2、可視光照射手段5、測定用治具3、測定器4、検出装置61を備えている。
図1には、レーザー加工手段2によって被加工対象8における加工設定位置81にレーザー加工を行う状態を模式的に示す。図2には、レーザー加工ロボットシステム1の電気的な構成を示す。
各図に示すごとく、ロボット7は、教示ペンダント62によって教示した移動経路に沿って、移動先端部72を移動させるよう構成されている。レーザー加工手段2は、ロボット7の移動先端部72に装着し、焦点距離L及び照射方向Dを調整して被加工対象8における加工設定位置81にレーザー光Aを照射するよう構成されている。可視光照射手段5は、レーザー加工手段2に装備され、レーザー光Aと同軸状に、可視光Bを照射するよう構成されている。
【0018】
図3には、レーザー加工ロボットシステム1において、位置ずれの検出を行う状態を模式的に示す。
同図に示すごとく、測定用治具3は、レーザー加工手段2から、レーザー光Aを一端開口部311から通過させる貫通穴31を有している。測定器4は、測定用治具3の貫通穴31の他端開口部312の外方に対向して配置され、レーザー光(測定光)Aの熱量を測定するよう構成されている。検出装置61は、レーザー加工手段2を所定の基準位置に移動させ、焦点距離L及び照射方向Dを所定の基準状態にして、貫通穴31の一端開口部311と他端開口部312との間に焦点位置Xを設定してレーザー光(測定光)Aを照射したときに、測定器4によって測定される熱量が、所定の初期設定量よりも小さくなったときには、レーザー加工手段2によるレーザー光Aの焦点距離L及び照射方向Dの少なくとも一方に位置ずれが生じていることを検出するよう構成されている。
【0019】
以下に、本例のレーザー加工ロボットシステム1につき、図1図8を参照して詳説する。
図1に示すごとく、本例のレーザー加工ロボットシステム1は、ロボット7の移動先端部72に装着したレーザー加工手段(レーザー加工装置)2によって、被加工対象8における複数の加工設定位置81にレーザー光Aを順次照射してレーザー加工を行うよう構成したものである。本例のロボット7及びレーザー加工手段2は、リモートレーザー加工を行うものであり、ロボット7の制御手段6による加工位置及び加工姿勢のティーチングを行ってレーザー加工動作を行う。
本例においては、レーザー光Aによって、被加工対象8としての鋼板同士、あるいは鋼板と他の部品とのレーザー溶接を行う。これ以外にも、レーザー光Aによってレーザー切断等を行うこともできる。
【0020】
本例においては、レーザー光Aによって被加工対象8としての金属部品(車両用フレーム、車両用鋼板等)における加工設定位置81にレーザー溶接を行う。このとき、加工設定位置81に対するレーザー光Aの照射は、加工設定位置81としての1点のみに集中して行うのではなく、円、直線、曲線等を描くように設定したライン状の加工設定位置81に対して行う。すなわち、加工設定位置81は、レーザー光Aの照射位置の移動を伴って設定される位置である。
図1においては、レーザー加工手段2におけるレーザー光Aの照射可能範囲(加工可能範囲)Rを点線によって示す。この照射可能範囲Rは、レーザー加工手段2におけるレーザー光Aの出射中心位置231から略三角錐状に広がる形状の頂点部を除く範囲として設定されている。
【0021】
図2に示すごとく、ロボット7、レーザー加工手段2及び可視光照射手段5は、コンピュータから構成された制御手段6によって動作する。制御手段6には、ロボット7の移動先端部72の位置及び姿勢、並びにレーザー加工手段2における焦点距離L及び照射方向Dが教示された制御プログラムが構築されている。
本例のレーザー加工手段2は、複数(本例では6つ)の回転軸71を備えた多関節ロボット7の移動先端部72に配設してある。多関節ロボット7における各回転軸71はサーボモータによって駆動するよう構成されており、各サーボモータは、制御手段(制御コントローラ)6によって制御される。また、移動先端部72の位置・姿勢、移動軌道、移動速度、各回転軸71の角度等は、教示ペンダント62によって調整、教示が可能である。
【0022】
本例のレーザー加工手段2は、ロボット7の移動先端部72に取り付けたレーザー照射本体部20と、このレーザー照射本体部20に供給するレーザーエネルギーを発生させるレーザーエネルギー発生装置200とを備えている。レーザー照射本体部20は、レーザー光Aを出射するレーザー光源21と、レーザー光源21から出射されたレーザー光Aの焦点距離Lを可変させる焦点レンズ22と、焦点レンズ22を通過したレーザー光Aの照射方向Dを可変させる反射ミラー23とを有している。なお、反射ミラー23は、図3に示すごとく、照射方向D(平面方向)を決定するX軸ミラー23AとY軸ミラー23Bの2つがあるが、図2においては1つに省略して記載している。焦点レンズ22は、Z軸として、焦点距離L(平面方向に垂直な垂直方向の距離)を決定する。
また、レーザーエネルギー発生装置200は、発振機、チラー等から構成されている。レーザー光源21は、ファイバーケーブル等を介してレーザーエネルギー発生装置200に接続されている。
【0023】
図1図2に示すごとく、焦点レンズ22及び反射ミラー23は、それぞれサーボモータ等の駆動源によって移動動作が可能であり、これらの駆動源は、多関節ロボット7の制御手段6によって制御される。また、焦点レンズ22及び反射ミラー23を構成する駆動源の移動動作は、教示ペンダント62によって調整、教示が可能である。
本例において、レーザー加工手段2による焦点距離Lとは、反射ミラー23の中心から焦点位置Xまでのレーザー光Aの照射距離のことをいう。また、レーザー加工手段2による照射方向Dとは、反射ミラー23の中心から出射されるレーザー光Aの方向のことをいう。
【0024】
本例の可視光照射手段(可視光発生装置)5は、レーザー光源21と同軸上に可視光Bを出射するガイド光源を有している。このガイド光源は、焦点レンズ22と反射ミラー23とを通過させて可視光Bを被加工対象8へ照射するよう構成してある。可視光Bは、レーザー光Aの代わりに照射するものであり、レーザー光Aの照射可能範囲Rと同じ範囲に照射できるようになっている。
【0025】
作業者が教示ペンダント62を用いて、移動先端部72の位置及び姿勢と、レーザー加工手段2の焦点距離L及び照射方向Dとの教示(ティーチング)を行う際には、レーザー光Aの照射可能範囲Rを、可視光Bによって視認できるようにすることができる。この照射可能範囲Rは、可視光Bを利用して示すことができ、可視光B以外の可視光によって示すこともできる。
【0026】
ロボット7の移動先端部72の位置及び姿勢と、レーザー加工手段2の焦点距離L及び照射方向Dとの教示は、教示ペンダント62を使って実際の被加工対象8に対してオンライン作業によって行う。そして、各加工設定位置81に対して、移動先端部72の位置及び姿勢と、レーザー加工手段2の焦点距離L及び照射方向Dとのティーチングポイント(教示点)を設定、記憶する。本例においては、加工設定位置81の直上位置に、レーザー加工手段2の出射中心位置231(反射ミラー23の中心)を位置させた状態で、教示点(ティーチングポイント)の教示を行う。
レーザー加工手段2による加工設定位置81へのレーザー光Aの照射は、ロボット7の移動先端部72が移動している最中に行う。
【0027】
なお、互いに近くに位置する複数の加工設定位置81に対しては、ロボット7(移動先端部72)のティーチングポイントを固定した状態で、レーザー加工手段2(焦点レンズ22及び反射ミラー23)のティーチングポイントを複数の位置に変更して設定、記憶することもできる。
こうして、被加工対象8におけるすべての加工設定位置81に対してティーチングを行い、制御プログラム41として、制御手段6に格納しておく。
【0028】
図4には、測定用治具3を示す。同図に示すごとく、本例の測定用治具3は、貫通穴31の一端開口部311が形成された一端側治具部32と、貫通穴31の他端開口部312が形成された他端側治具部33とに分割され、一端側治具部32の貫通穴31と他端側治具部33の貫通穴31との軸心を一致させて形成されている。一端側治具部32と他端側治具部33とは、耐熱性を考慮してセラミックスから形成されており、取付フレーム35の上側取付面351と下側取付面352とに取り付けられている。一端側治具部32と他端側治具部33とには、貫通穴31と、上側取付面351又は下側取付面352に取り付けるための取付部321,331とが形成されている。
【0029】
なお、一端側治具部32と他端側治具部33とは、位置決めピン322,332によって位置決めを行って、互いに形成された貫通穴31の軸心同士を一致させている。
一端側治具部32及び他端側治具部33における各貫通穴31は、真円形状に形成されている。また、レーザー加工手段2によるレーザー光Aは、断面が真円形状となる状態で照射される。なお、貫通穴31の形状及びレーザー光Aの断面形状は、真円形状とする以外にも、例えば、楕円形状とすることもできる。
【0030】
本例においては、図3に示すごとく、ロボット7によって基準位置に移動させたレーザー加工手段2の基準状態は、レーザー光(測定光)Aを貫通穴31へ照射する際に、貫通穴31の一端開口部311の外形と、貫通穴31の一端開口部311におけるレーザー光(測定光)Aの断面形状とが一致するとともに、貫通穴31の他端開口部312の外形と、貫通穴31の他端開口部312におけるレーザー光(測定光)Aの断面形状とが一致する状態で、ロボット7及びレーザー加工手段2の教示を行って形成した。本例の一端開口部311は、一端側治具部32の上面に形成され、他端開口部312は、他端側治具部33の下面に形成される。
この教示作業は、測定器4によって測定するレーザー光Aの熱量が最大になるように、ロボット7の移動先端部72の位置・姿勢及びレーザー加工手段2の焦点距離L及び照射方向Dを変化させて行うことができる。
【0031】
測定用治具3は、レーザー加工ロボットシステム1において、ロボット7を載置した架台又は被加工対象8を載置した載置台等に配設しておくことができる。また、測定用治具3は、床面に固定することもできる。
また、ロボット7を原点位置に固定し、ロボット7自体に生じた位置ずれ誤差の影響を取り除いておくことにより、検出装置61によって、レーザー加工手段2のみに生じる位置ずれ誤差を検出することができる。
【0032】
図3に示すごとく、本例の測定器4は、レーザー光Aの出力(熱量)を測定するパワーメータである。測定器4は、レーザー光(測定光)Aの光量を測定するものとすることができる。また、測定器4によって測定する測定光は、レーザー光Aとする以外にも、可視光照射手段5から照射される可視光Bとすることができる。この場合、測定器4は、可視光Bの光量を測定するものとすることができる。
測定器4によって測定した測定値は、制御手段6に送られるよう構成されている。検出装置61は、制御手段6内において、測定器4から送られる熱量の測定値が、所定の初期設定量よりも小さくなったか否かを判定するよう構成されている。
【0033】
次に、本例のレーザー加工ロボットシステム1の動作及び作用効果につき説明する。
本例においては、レーザー加工手段2から照射されるレーザー光Aを通過させる貫通穴31が形成された測定用治具3を用いる。そして、ロボット7又はレーザー加工手段2に生じた不具合に起因して、レーザー加工手段2によるレーザー光Aの焦点距離L及び照射方向Dの少なくとも一方に位置ずれが生じた場合には、レーザー光(測定光)Aが、貫通穴31の一端開口部311の付近と、他端開口部312の付近との少なくとも一方に干渉し、貫通穴31を通過する量が減少することを利用する。
【0034】
図5図7には、測定用治具3の貫通穴31に、レーザー光(測定光)Aを照射する状態を模式的に示す。図5は、レーザー加工手段2によるレーザー光Aに照射方向(平面方向)Dの位置ずれが生じている場合を示し、図6図7は、レーザー加工手段2によるレーザー光Aに焦点距離(垂直方向の距離)Lの位置ずれが生じている場合を示す。
基準位置に移動させたレーザー加工手段2の基準状態において、レーザー光Aの焦点位置Xが貫通穴31の一端開口部311と他端開口部312との間に設定されていることにより、レーザー光Aは、貫通穴31の一端開口部311においては、焦点が絞られていく途中の断面となり、貫通穴31の他端開口部312においては、焦点が絞られた後に広がっていく途中の断面となる。
【0035】
そして、基準位置に移動させたレーザー加工手段2の基準状態において、レーザー光Aを貫通穴31へ通過させる。
このとき、図5に示すごとく、ロボット7又はレーザー加工手段2に生じた不具合に起因して、レーザー光Aの照射方向Dの位置ずれが生じている場合には、レーザー光Aが、一端側治具部32における貫通穴31の一端開口部311の付近(上面の周縁部、貫通穴31の内面)、及び他端側治具部33における貫通穴31の他端開口部312の付近(上面の周縁部、貫通穴31の内面)に接触することになる。これにより、レーザー光Aの一部が、一端側治具部32及び他端側治具部33によって遮られ、測定器4によって測定される熱量が減少することになる。
図5図7において、一端側治具部32と他端側治具部33との少なくとも一方によって遮られるレーザー光Aの一部を、斜線部Gによって示す。
【0036】
一方、レーザー光Aを貫通穴31へ通過させるとき、ロボット7又はレーザー加工手段2に生じた不具合に起因して、レーザー光Aの焦点距離Lの位置ずれが生じている場合には、レーザー光Aが、一端側治具部32における貫通穴31の一端開口部311の付近(上面の周縁部、貫通穴31の内面)、又は他端側治具部33における貫通穴31の他端開口部312の付近(上面の周縁部、貫通穴31の内面)に接触することになる。これにより、レーザー光Aの一部が、一端側治具部32又は他端側治具部33によって遮られ、測定器4によって測定される熱量が減少することになる。
なお、図6には、焦点距離Lが短くなった場合を示す。この場合には、レーザー光Aは、他端側治具部33における貫通穴31の他端開口部312の付近に接触する。また、図7には、焦点距離Lが長くなった場合を示す。この場合には、レーザー光Aは、一端側治具部32における貫通穴31の一端開口部311の付近に接触する。
【0037】
こうして、検出装置61は、測定器4によって測定される熱量が、所定の初期設定量よりも小さくなったときには、レーザー加工手段2によるレーザー光Aの焦点距離L及び照射方向Dの少なくとも一方に位置ずれが生じていることを検出することができる。一方、検出装置61は、測定器4によって測定される光量又は熱量が、所定の初期設定量以上にあるときには、上記位置ずれが生じていないことを検出することができる。
【0038】
また、測定器4によって測定される熱量が減少する場合には、レーザー光A自体の強度に低下が生じている場合も考えらえる。この場合には、測定用治具3(一端側治具部32及び他端側治具部33)のないところで測定器4にレーザー光Aを照射して、レーザー照射本体部20又はレーザーエネルギー発生装置200に不具合が生じていないかを確認することができる。
それ故、上記レーザー加工ロボットシステム1によれば、レーザー加工手段2によるレーザー光Aの焦点距離L及び照射方向Dの少なくとも一方に位置ずれが生じていないかを簡単な方法によって検出することができる。
【0039】
なお、測定用治具3は、図8に示すごとく、セラミックス等からなる1つの部材に貫通穴31を形成したものとすることもできる。この場合には、貫通穴31が初めから連続して形成されており、2つに分割された場合に生じうる貫通穴31同士の中心位置ずれの問題がなくなる。
【符号の説明】
【0040】
1 レーザー加工ロボットシステム
2 レーザー加工手段
3 測定用治具
31 貫通穴
311 一端開口部
312 他端開口部
32 一端側治具部
33 他端側治具部
4 測定器
5 可視光照射手段
6 制御手段
61 検出装置
7 ロボット
72 移動先端部
8 被加工対象
81 加工設定位置
A レーザー光
B 可視光
X 焦点位置
L 焦点距離
D 照射方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8