特許第5741431号(P5741431)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5741431-複合半透膜およびその製造方法 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741431
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】複合半透膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/56 20060101AFI20150611BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20150611BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20150611BHJP
   C08G 69/00 20060101ALI20150611BHJP
   C08G 69/48 20060101ALI20150611BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20150611BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   B01D71/56
   B01D69/12
   B01D69/10
   C08G69/00
   C08G69/48
   B32B5/18
   B32B27/36
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2011-514956(P2011-514956)
(86)(22)【出願日】2011年2月17日
(86)【国際出願番号】JP2011053375
(87)【国際公開番号】WO2011105278
(87)【国際公開日】20110901
【審査請求日】2014年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-36952(P2010-36952)
(32)【優先日】2010年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-60296(P2010-60296)
(32)【優先日】2010年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴史
(72)【発明者】
【氏名】富岡 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 将弘
(72)【発明者】
【氏名】東 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】高谷 清彦
(72)【発明者】
【氏名】小岩 雅和
【審査官】 長谷川 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−224452(JP,A)
【文献】 特開2002−095938(JP,A)
【文献】 特開2009−057654(JP,A)
【文献】 特開2007−090192(JP,A)
【文献】 特開2006−021094(JP,A)
【文献】 特開2005−186059(JP,A)
【文献】 特開2005−177741(JP,A)
【文献】 特開2002−177749(JP,A)
【文献】 特開2001−179061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を有し、
該ポリアミド分離機能層はアゾ基を有するとともに、黄色度が10以上40以下であり、かつ
微多孔性支持膜1μm長さあたりのポリアミド分離機能層の実長さが2μm以上5μm以下であ
複合半透膜。
【請求項2】
微多孔性支持膜の基材がポリエステルにより形成されており、
該基材が長繊維不織布である
請求項1記載の複合半透膜。
【請求項3】
基材が長繊維不織布からなり、
長繊維不織布の微多孔性支持膜側に配置される繊維が、微多孔性支持膜の非製膜面側に配置される繊維よりも縦配向である
請求項2記載の複合半透膜。
【請求項4】
長繊維不織布からなる基材が、微多孔性支持体と反対側に配置される繊維の繊維配向度が0°〜25°であり、
微多孔性支持体側に配置される繊維との配向度差が10°〜90°である
請求項3記載の複合半透膜。
【請求項5】
微多孔性支持膜上で、多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させてポリアミド分離機能層を形成した後、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させる工程、第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬に接触させる工程、ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬と接触させる工程を行う複合半透膜の製造方法であって、
多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させた直後の膜面の温度が25〜60℃の範囲内であり、かつ、
該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させた後の該ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度が30×10−6〜160×10−6mol/gの範囲内である
複合半透膜の製造方法。
【請求項6】
微多孔性支持膜上で、多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させてポリアミド分離機能層を形成した後、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させる工程、第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬に接触させる工程、ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬と接触させる工程を行う複合半透膜の製造方法であって、
多官能アミン水溶液および/または多官能酸ハロゲン化物含有溶液にアシル化触媒を含有しており、かつ、
該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させた後の該ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度が30×10−6〜160×10−6mol/gの範囲内である
複合半透膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜およびその製造方法に関する。本発明によって得られる複合半透膜は、例えば海水やかん水の淡水化に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがあり、これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられている。
【0003】
現在市販されている逆浸透膜およびナノろ過膜の大部分は複合半透膜であり、多孔性支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、多孔性支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものとの2種類がある。なかでも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を多孔性支持膜上に被覆して得られる複合半透膜は、透過性や選択分離性の高い分離膜として広く用いられている。
【0004】
ホウ素は、人体及び動植物に対して神経障害の発症や成長阻害を引き起こすなどの毒性を持つが、海水に多く含まれていることから、海水淡水化においてホウ素除去は重要である。そこで、複合半透膜のホウ素除去性能を向上させる手段が種々提案されてきている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
例えば、特許文献1では、界面重合により製膜された複合半透膜を熱処理して性能向上させる方法が開示されている。特許文献2では、界面重合により製膜された複合半透膜を臭素含有遊離塩素水溶液に接触させる方法が開示されている。
【0006】
また、逆浸透膜を用いる造水プラントではランニングコストの一層の低減を図るため、より高い透水性能が求められている。このような要求に対し、分離活性層として架橋ポリアミド重合体を設けた複合半透膜について亜硝酸を含む水溶液に接触処理させる方法が知られている(特許文献3)。
【0007】
また、複合半透膜の透水性に影響を及ぼす因子として、ひだ構造があげられる。ひだを大きくすることによって、実質的な膜面積を大きくし、透水性をあげられることが提示されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開平11-19493号公報
【特許文献2】特開2001-259388号公報
【特許文献3】特開2007-090192号公報
【特許文献4】特開平9-19630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載された膜でも、25℃、pH6.5、ホウ素濃度5ppm、TDS濃度3.5重量%の海水を5.5MPaの操作圧力で透過させたときに、膜透過流束が0.5m/m・日以下、ホウ素除去率はせいぜい91〜92%程度であり、さらに高いホウ素阻止性能を有する複合半透膜の開発が望まれていた。
【0009】
また、特許文献3に記載された処理により、処理前のホウ素除去率を維持しつつ、透水性能を向上させることができるが、さらなる高ホウ素除去率、高透水性能が望まれている。
【0010】
特許文献4に記載された技術、すなわち、界面重合時に種々の添加物を加えることにより、ひだは大きくなり透水性は向上するものの、除去率の低下が懸念されている。
【0011】
本発明は、これら従来の欠点を解消せしめ、高いホウ素除去性能と高い透水性能を有する複合半透膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の複合半透膜は、次の[1]または[2]の構成を有する。すなわち、
[1]微多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を有し、該ポリアミド分離機能層の黄色度が10以上40以下であり、かつ微多孔性支持膜1μm長さあたりのポリアミド分離機能層の実長さが2μm以上5μm以下である複合半透膜、または、
[2]微多孔性支持膜上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を有し、該ポリアミド分離機能層が(A)多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを40℃〜70℃で接触させる界面重縮合と、続いて(B)70℃〜150℃の加熱処理、の工程によって形成される複合半透膜である。
【0013】
また、本発明の複合半透膜は、微多孔性支持膜の基材がポリエステルにより形成されており、該基材が長繊維不織布であることが好ましい。
【0014】
さらに本発明の上記複合半透膜は、基材が長繊維不織布からなり、微多孔性支持体と反対側に配置される長繊維不織布の繊維が、微多孔性支持体側に配置される繊維よりも製膜方向に対して縦配向であることが好ましい。
【0015】
本発明の上記複合半透膜は、長繊維不織布からなる基材が、微多孔性支持体と反対側に配置される繊維の繊維配向度が0°〜25°であり、微多孔性支持体側に配置される繊維との配向度差が10°〜90°であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の複合半透膜[1]の製造方法は、次の[3]または[4]のいずれかの構成を有する。すなわち、
[3]微多孔性支持膜上で、多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させてポリアミド分離機能層を形成した後、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させる工程、第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬に接触させる工程、ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬と接触させる工程を行う複合半透膜の製造方法であって、多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させた直後の膜面の温度が25〜60℃の範囲内であり、かつ、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させた後の該ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度が30×10−6〜160×10−6mol/gの範囲内である複合半透膜の製造方法、または、
[4]微多孔性支持膜上で、多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させてポリアミド分離機能層を形成した後、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させる工程、第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬に接触させる工程、ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬と接触させる工程を行う複合半透膜の製造方法であって、多官能アミン水溶液および/または多官能酸ハロゲン化物含有溶液にアシル化触媒を含有しており、かつ、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させた後の該ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度が30×10−6〜160×10−6mol/gの範囲内である複合半透膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高いホウ素除去性能と高い透水性能を有する複合半透膜を得ることができ、この膜を用いることで、省エネルギー化、透過水の高品質化が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】分離機能層表面の実長さを表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の複合半透膜は、 [1]微多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を有し、該ポリアミド分離機能層の黄色度が10以上40以下であり、かつ微多孔性支持膜1μm長さあたりのポリアミド分離機能層の実長さが2μm以上5μm以下である複合半透膜、または、[2]微多孔性支持膜上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を有し、該ポリアミド分離機能層が(A)多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを40℃〜70℃で接触させる界面重縮合と、続いて(B)70℃〜150℃の加熱処理、の工程によって形成される複合半透膜である。
【0020】
本発明において微多孔性支持膜は、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有する分離機能層に強度を与えるためのものである。孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような微多孔性支持膜が好ましい。
【0021】
微多孔性支持膜に使用する材料やその形状は特に限定されないが、例えば基材に多孔性支持体を形成した膜を例示することができる。
【0022】
基材としては、ポリエステルまたは芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛が例示される。機械的、熱的に安定性の高いポリエステルを使用するのが特に好ましい。基材に用いられる布帛には、長繊維不織布や短繊維不織布を好ましく用いることができるが、基材には高分子重合体の溶液を流延した際にそれが過浸透により裏抜けしたり、微多孔性支持膜が剥離したり、さらには基材の毛羽立ち等により膜の不均一化やピンホール等の欠点が生じたりすることがないような優れた製膜性が要求されることから、中でも長繊維不織布をより好ましく用いることができる。基材が熱可塑性連続フィラメントより構成される長繊維不織布からなることにより、短繊維不織布を用いたときに起こる、毛羽立ちによって生じる高分子溶液流延時の不均一化や、膜欠点を抑制することができる。また、複合半透膜の連続製膜においては、製膜方向に対し張力がかけられることからも、基材にはより寸法安定性に優れる長繊維不織布を用いることが好ましく、特に、微多孔性支持体と反対側に配置される繊維が、製膜方向に対して縦配向であることにより、強度を保ち、膜破れ等を防ぐことができる。基材の微多孔性支持体と反対側に配置される繊維の繊維配向度としては0°〜25°の範囲にあることが好ましい。ここで繊維配向度とは、微多孔性支持膜を構成する不織布基材の繊維の向きを示す指標であり、連続製膜を行う際の製膜方向を0°とし、製膜方向と直角方向、すなわち不織布基材の幅方向を90°としたときの、不織布基材を構成する繊維の平均の角度のことを言う。よって、繊維配向度が0°に近いほど縦配向であり、90°に近いほど横配向であることを示す。また、複合半透膜の製造工程やエレメントの製造工程においては加熱する工程が含まれるが、加熱により微多孔性支持膜または複合半透膜が収縮する現象が起きる。特に連続製膜において張力が付与されていない幅方向において顕著である。収縮することにより、寸法安定性等に問題が生じるため、基材としては熱寸法変化率が小さいものが望まれる。不織布基材において微多孔性支持体と反対側に配置される繊維と微多孔性支持体側に配置される繊維との配向度差が10°〜90°であると、熱による幅方向の変化を抑制することができ好ましい。
【0023】
多孔性支持体の素材としては、ポリスルホンや酢酸セルロースやポリ塩化ビニル、あるいはそれらを混合したものが好ましく使用され、化学的、機械的、熱的に安定性の高いポリスルホンを使用するのが特に好ましい。
【0024】
具体的には、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、孔径が制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
【0025】
【化1】
【0026】
例えば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)溶液を、基材上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有する微多孔性支持膜を得ることができる。
【0027】
上記の微多孔性支持膜の厚みは、複合半透膜の強度およびそれを膜エレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、30〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは50〜250μmの範囲内である。また、多孔性支持体の厚みは、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20〜100μmの範囲内である。
【0028】
微多孔性支持膜の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材から微多孔質支持体を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金−パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3〜6kVの加速電圧で、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR-FE-SEM)で観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S-900型電子顕微鏡などが使用できる。得られた電子顕微鏡写真から微多孔性支持膜の膜厚や表面孔径を決定する。なお、本発明における厚みや孔径は平均値を意味する。ここで平均とは相加平均を表し、支持膜の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向に20μm間隔で測定し、20点測定の平均値である。また、孔径は、孔を200個カウントし、各投影面積円相当径の平均値である。
【0029】
本発明に使用する微多孔性支持膜は、ミリポア社製“ミリポアフィルターVSWP”や、東洋濾紙社製“ウルトラフィルターUK10”のような各種市販材料から選択することもできるが、「オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート(Office
of saline Water Research and Development Progress Report)」No.359(1968)に記載された方法に従って製造することができる。
【0030】
本発明において、分離機能層を構成するポリアミドは、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、多官能アミンまたは多官能酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0031】
ポリアミド分離機能層の厚みは、十分な分離性能および透過水量を得るために、通常0.01〜1μmの範囲内が好ましく、0.1〜0.5μmの範囲内がより好ましい。
【0032】
ここで、多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有し、そのアミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基であるアミンをいい、例えば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、3−アミノベンジルアミン、4−アミノベンジルアミンなどの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4−アミノピペリジン、4−アミノエチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有する芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m-フェニレンジアミン(以下、m-PDA)を用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。2種以上を同時に用いる場合、上記アミン同士を組み合わせてもよく、上記アミンと一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンを組み合わせてもよい。一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンとして、例えば、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン等を挙げることができる。
【0033】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物としては、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物としては、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましい。また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、多官能酸塩化物は一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることがより好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとさらに好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0034】
本発明の複合半透膜[1]は、複合半透膜における分離機能層の黄色度を10以上40以下とするものである。分離機能層の黄色度を10以上とすることでホウ素除去性能を十分に発揮させることができ、40以下とすることで高透水性の高い半透膜を得ることができる。
【0035】
黄色度とは、日本工業規格JIS K7373に規定されているとおり、ポリマーの色相が無色または白色から黄方向に離れる度合いのことで、プラスの量として表される。
【0036】
なお、分離機能層の黄色度は、カラーメーターにより測定する。複合半透膜を分離機能層面が下になるようにガラス板に乗せてから、微多孔性支持膜のみを溶解する溶媒にて微多孔性支持膜を溶解・除去し、ガラス板上に残る分離機能層試料の透過測定によって測定することができる。なお、複合半透膜をガラス板に乗せる際、後述の微多孔性支持膜を強化するための布帛は、あらかじめ剥離しておく。カラーメーターは、スガ試験器株式会社製SMカラーコンピュータSM−7などが使用できる。
【0037】
黄色度10以上のポリアミド分離機能層とは、ポリアミド分離機能層に、芳香環に電子供与基と電子吸引基を有する構造、および/または共役を延長する構造を持つポリアミド分離機能層である。電子供与基とは、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基が挙げられる。電子吸引基とは、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、アルデヒド基、アシル基、アミノカルボニル基、アミノスルホニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基が挙げられる。共役を延長する構造とは、例えば、多環芳香環、多環複素環、エテニレン基、エチニレン基、アゾ基、イミノ基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基およびこれらの構造の組み合わせが挙げられる。これらの構造を持つことにより、ポリアミド分離機能層は黄色度10以上を呈する。ただし、これらの構造の量を多くした場合、黄色度は40より大きくなる。また、これら構造を多重に組み合わせた場合、その構造部位が大きくなり、赤色を呈し、黄色度が40より大きくなる。黄色度が40より大きくなる程に、その構造の量を多く、構造部位を大きくすると、ポリアミド分離機能層表面・内部の孔を塞ぎ、ホウ素除去率は高くなるものの、透水量が大きく低下してしまう。黄色度が10以上40以下であれば、透水量を低下しすぎることなく、ホウ素除去率を高めることができる。
【0038】
ポリアミド分離機能層に上記構造を付与するためには、上記構造を持つ化合物をポリアミド分離機能層に担持させる方法、および/またはポリアミド分離機能層を化学的に処理し、上記構造を付与させる方法が挙げられる。長期にわたって上記構造を保持させるためには、ポリアミド分離機能層を化学的に処理し、上記構造を付与させる方法が好ましい。
【0039】
ポリアミド分離機能層を化学的に処理する方法としては、ポリアミド分離機能層が第一級アミノ基を有する複合半透膜を、第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬に接触させる方法が挙げられる。生成したジアゾニウム塩またはその誘導体は、芳香族化合物と反応してアゾ基を形成する。このアゾ基により共役が延長され、ポリアミド分離機能層は黄色〜橙色を呈色し、黄色度10以上となる。
【0040】
ポリアミド分離機能層が第一級アミノ基を有する複合半透膜とは、分離機能層を形成するポリアミドの部分構造または末端官能基として第一級アミノ基を有する複合半透膜であり、さらに分離機能層を形成するポリアミドの部分構造または末端官能基として第一級アミノ基を有する複合半透膜の分離機能層に第一級アミノ基を持つ化合物を保持させた複合半透膜でもよい。より高いホウ素除去率を得るために、分離機能層に第一級アミノ基を持つ化合物を保持させることが好ましい。
【0041】
第一級アミノ基を持つ化合物としては、脂肪族アミン、環状脂肪族アミン、芳香族アミン、ヘテロ芳香族アミンなどが挙げられる。生成するジアゾニウム塩またはその誘導体の安定性の観点から、芳香族アミン、ヘテロ芳香族アミンが好ましい。
【0042】
第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬としては、亜硝酸およびその塩、ニトロシル化合物などの水溶液が挙げられる。亜硝酸やニトロシル化合物の水溶液は気体を発生して分解しやすいので、例えば、亜硝酸塩と酸性溶液との反応によって亜硝酸を逐次生成するのが好ましい。
【0043】
微多孔性支持膜1μm長さあたりの分離機能層の実長さとは、以下に述べる方法により測定される値をいう。まず、透過型電子顕微鏡(TEM)用の超薄切片作製のため、サンプルを水溶性高分子で包埋する。水溶性高分子としては、サンプルの形状を保持できるものであればよく、例えばPVA等を用いることができる。次に、断面観察を容易にするためにOsOで染色し、これをウルトラミクロトームで切断して超薄切片を作製する。得られた超薄切片を、TEMを用いて断面写真を撮影する。観察倍率は、分離機能層の膜厚により適宜決定すればよい。断面写真を画像解析ソフトに読み込み、解析を行うことができる。分離機能層表面の実長さは、微多孔性支持膜の長さ1μmに対応する部分の分離機能層表面の実長さをいい、図1中の実線Mで表される部分の長さをいう。
【0044】
本発明の複合半透膜[1]においては、微多孔性支持膜1μm長さあたりのポリアミド分離機能層の実長さを2μm以上5μm以下とするものである。実長さが2μm未満の場合、膜表面積が小さく、透過流束が確保できず、後処理により透過流束を大きく向上させると、除去率が低下する。実長さが5μmより大きい場合、運転した際にひだ構造がつぶれ、透過流束が低下する。
【0045】
本発明の構成[2]の複合半透膜を得るためには、界面重縮合工程(A)の温度が40℃〜70℃の範囲内であることが必要であり、40℃〜60℃の範囲内であると好ましい。界面重縮合時の温度が40℃未満の場合には、ひだが大きくならず、透過流束の低下の問題があり、一方、70℃を越えると、除去率が低下する問題がある。
【0046】
界面重縮合時の温度手段は、多官能アミン水溶液を接触させた微多孔性支持膜を加温してもよく、加温した多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を接触させてもよい。界面重縮合時の温度は、放射温度計のような非接触型温度計による測定や熱電対温度計を膜面に接触させることによる測定などで知ることができる。
【0047】
本発明の構成[2]の複合半透膜を得るためには、上記の界面重縮合工程(A)に引き続き、架橋ポリアミド形成にさらなる促進のために加熱処理工程(B)を行う。この加熱処理の温度は70〜150℃の範囲であることが必要であり、80〜120℃の範囲内であると好ましい。加熱処理の温度が70℃未満であると、支持膜上の架橋ポリアミド形成を十分促進するのに長時間必要であったり、長時間加熱しても架橋ポリアミド形成を十分促進できない問題があり、一方、加熱処理の温度が150℃を越えると、複合半透膜が乾燥し透過水量が低下する問題がある。
【0048】
この加熱処理時の加熱手段としては、界面重縮合後の複合半透膜を、加熱したオーブン内へ静置したり、温風を当てることによって加温したり、加熱した多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を再度接触させたりすればよい。
【0049】
加熱処理を実施する時間は5秒から3分間が好ましく、10秒〜1分間であるとより好ましい。界面重縮合を実施する時間を5秒〜3分間とすることで、微多孔性支持膜上の架橋ポリアミド形成を十分促進することができ、かつ微多孔性支持膜を湿潤状態に保持し、複合半透膜の性能を高度に維持できる。
【0050】
上述の方法により得られた複合半透膜[2]は、好ましくは40〜100℃の範囲内、より好ましくは60〜100℃の範囲内で、好ましくは1〜10分間、より好ましくは2〜8分間熱水処理する工程などを付加することで、複合半透膜の溶質阻止性能や透水性をより一層向上させることができる。
【0051】
得られた複合半透膜は、そのまま用いることも可能であるが、任意の化学的後処理、コーティングを行うことにより、異なる性能へと変化させることも可能である。例えば、複合半透膜[2]のポリアミド分離機能層に、第一級アミノ基を有する化合物を接触させる工程、次いで第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬に接触させる工程、さらにジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬と接触させる工程をこの順に行うことは好ましい。
【0052】
次に、本発明の複合半透膜の製造方法について説明する。
【0053】
本発明の複合半透膜[1]を得るための製造方法は、次の[3]または[4]のいずれかの構成を有する。すなわち、
[3]微多孔性支持膜上で、多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させてポリアミド分離機能層を形成した後、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させる工程、第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬に接触させる工程、ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬と接触させる工程を行う複合半透膜の製造方法であって、多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させた直後の膜面の温度が25〜60℃の範囲内であり、かつ、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させた後の該ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度が30×10−6〜160×10−6mol/gの範囲内である複合半透膜の製造方法、または、
[4]微多孔性支持膜上で、多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させてポリアミド分離機能層を形成した後、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させる工程、第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬に接触させる工程、ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬と接触させる工程を行う複合半透膜の製造方法であって、多官能アミン水溶液および/または多官能酸ハロゲン化物含有溶液にアシル化触媒を含有しており、かつ、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させた後の該ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度が30×10−6〜160×10−6mol/gの範囲内である複合半透膜の製造方法、である。以下、各製造工程を詳細に説明する。
【0054】
複合半透膜[1]における分離機能層は、複合半透膜[5]と同様に、例えば、前述の多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する、水と非混和性の有機溶媒溶液とを用い、微多孔性支持膜の表面で界面重縮合を行うことによりその骨格を形成できる。
【0055】
ここで、多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1〜20重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5〜15重量%の範囲内である。この範囲であると十分な塩除去性能および透水性を得ることができる。多官能アミン水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、微多孔性支持膜表面の濡れ性を向上させ、アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重宿合反応を効率よく行える場合がある。
【0056】
界面重縮合を微多孔性支持膜上で行うために、まず、上述の多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させる。接触は、微多孔性支持膜面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜にコーティングする方法や微多孔性支持膜を多官能アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。微多孔性支持膜と多官能アミン水溶液との接触時間は、1〜10分間の範囲内であることが好ましく、1〜3分間の範囲内であるとさらに好ましい。
【0057】
多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。十分に液切りすることで、膜形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、例えば、特開平2-78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0058】
次いで、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜に、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合により架橋ポリアミド分離機能層の骨格を形成させる。
【0059】
有機溶媒溶液中の多官能酸ハロゲン化物の濃度は、0.01〜10重量%の範囲内であると好ましく、0.02〜2.0重量%の範囲内であると、より好ましい。0.01重量%以上とすることで十分な反応速度が得られ、また、10重量%以下とすることで副反応の発生を抑制することができる。この有機溶媒溶液にDMFのようなアシル化触媒を含有させると、界面重縮合が促進され、好ましい。
【0060】
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し、微多孔性支持膜を破壊しないものが望ましく、多官能アミン化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、n-ヘキサン、n-オクタン、n-デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。
【0061】
多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を多官能アミン化合物水溶液相へ接触させる方法は、前記した多官能アミン水溶液の微多孔性支持膜へのコーティング方法や浸漬方法と同様に行えばよい。
【0062】
複合半透膜[1]において、分離機能層の実長さを大きくするためには、次のいずれかの方法が挙げられる。すなわち、(i)多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させた直後の膜面の温度を室温より高温にする方法、または、(ii)界面重合時にアシル化触媒を共存させる方法である。
【0063】
(i)の方法においては、多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させた直後の膜面の温度は25〜60℃の範囲内とする。膜面の温度は30〜50℃の範囲内であると好ましい。温度が25℃以下では、ひだが大きくならず、透過流束の低下につながり、一方、温度が60℃より高温では、除去率が低下する傾向がある。多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させた直後の膜面の温度を25〜60℃の範囲内にすることにより、微多孔性支持膜1μm長さあたりの分離機能層の実長さを2μm以上5μm以下にすることができ、高い透過流束とホウ素除去率を得ることができる。
【0064】
温度を上記範囲に制御するには、微多孔性支持膜を加温してもよく、加温した多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を接触させてもよい。多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物含有溶液とを接触させた直後の膜面の温度は、放射温度計のような非接触型温度計により測定することができる。
【0065】
(ii)の方法において、アシル化触媒は、多官能アミン水溶液または多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒に溶解すればよく、多官能アミン水溶液、多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒のどちらか、または両方に添加すればよい。
【0066】
アシル化触媒としてはアミド基を含む化合物が挙げられる。アミド基を含む化合物としては、鎖状アミド化合物、環状アミド化合物が上げられる。鎖状アミド化合物として、例えば、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N,−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミドが挙げられる。環状アミド化合物として、例えば、N−メチルピロリジノン、γ−ブチロラクタム、ε−カプロラクタムが挙げられる。
【0067】
アシル化触媒を多官能アミン水溶液に添加する場合は、0.1〜10重量%の範囲が好ましく、膜性能のバランスを考慮すると0.1〜5重量%の範囲がより好ましい。また、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒中にアシル化触媒を添加する場合は、10〜1,000ppmの範囲が好ましく、膜性能のバランスを考慮すると、10〜500ppmの範囲がより好ましい。アシル化触媒の濃度が上記範囲であると、分離機能層の実長さを大きくする効果が得られ、塩およびホウ素の除去性能に優れる。アシル化触媒の種類、濃度により、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を制御することができ、分離機能層の実長さを制御することができる。
【0068】
本発明の構成[1]および[2]の複合半透膜を製造するに際しては、上述したように、多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を接触させて界面重縮合を行い、微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成したあとは、余剰の溶媒を液切りして除去するとよい。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1〜5分の間にあることが好ましく、1〜3分間であるとより好ましい。この好ましい把持時間の範囲であると分離機能層が完全に形成され、一方、有機溶媒が乾燥しすぎて欠点が発生することはないので、性能低下が起こらない。
【0069】
上述の方法により得られたポリアミド分離機能層を有する複合半透膜は、好ましくは40〜100℃の範囲内、より好ましくは60〜100℃の範囲内で、好ましくは1〜10分間、より好ましくは2〜8分間熱水処理する工程などを付加することで、複合半透膜の溶質阻止性能や透水性をより一層向上させることができる。
【0070】
次に、複合半透膜[1]を製造するには、上記により得られたポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を、第一級アミノ基を有する化合物と接触させる。第一級アミノ基は、ジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬と反応し、さらに芳香族化合物と反応してアゾ基を形成し、それによりホウ素除去率の向上が望める。
【0071】
接触させる濃度と時間は、目的の効果を得るために適宜調節することができる。
【0072】
第一級アミノ基を持つ化合物としては、脂肪族アミン、環状脂肪族アミン、芳香族アミン、ヘテロ芳香族アミンなどが挙げられる。生成するジアゾニウム塩またはその誘導体の安定性の観点から、芳香族アミン、ヘテロ芳香族アミンが好ましい。ただし、黄色度が10以上40以下であるためには、第一級アミノ基を有する化合物の官能基を除く炭素骨格の分子量を500以下とするのが好ましい。分離機能層に第一級アミノ基を持つ化合物を接触させる方法は特に限定されず、第一級アミノ基を持つ化合物の溶液を塗布しても、第一級アミノ基を持つ化合物の溶液に上記複合半透膜を浸漬させてもよく、均一にかつ連続的に行うことが好ましい。
【0073】
第一級アミンを持つ化合物を溶かす溶媒は、該化合物が溶解し、該複合半透膜が侵食されなければ、いかなる溶媒を用いてもかまわない。また、溶液には、第一級アミノ基とジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や酸性化合物、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。
【0074】
ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度は、以下に述べる方法により測定される値をいう。ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させた後、液滴を除き、複合半透膜を切り出して、基材を剥離し、ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物を得る。これを、第一級アミノ基を有する化合物は溶解し、ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜を溶解しない溶媒に浸漬し、第一級アミノ基を有する化合物を溶媒中に抽出する。抽出された成分をあらかじめ検量線を得た紫外可視分光光度計、高速液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィー等で測定し、ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の化合物重量を算出する。次いで、溶媒中から、ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物を取り出し、加熱して乾燥させ、デシケータ内で室温まで冷却させた後、重量測定を行い、次の式から、ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度を求める。
【0075】
化合物濃度(mol/g)=100×(化合物重量/化合物の分子量)/乾燥膜重量
本発明の複合半透膜[1]において、黄色度を10以上40以下とするためには、該ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させた後の該ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度が30×10−6〜160×10−6mol/gの範囲内である必要がある。第一級アミノ基を有する化合物濃度が30×10−6mol/gに満たないと、アゾ基形成による除去率向上の効果が小さく、160×10−6mol/gを越える場合には、アゾ基形成が多く、透過水量が低下する問題がある。
【0076】
本発明の複合半透膜[1]を製造するには、次に、上記の分離機能層に第一級アミノ基を有する複合半透膜を、第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬と接触させる。接触させる第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬としては、亜硝酸およびその塩、ニトロシル化合物などの水溶液が挙げられる。亜硝酸やニトロシル化合物の水溶液は気体を発生して分解しやすいので、例えば、亜硝酸塩と酸性溶液との反応によって亜硝酸を逐次生成するのが好ましい。一般に、亜硝酸塩は水素イオンと反応して亜硝酸(HNO)を生成するが、水溶液のpHが7以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下で効率よく生成する。中でも、取り扱いの簡便性から水溶液中で塩酸または硫酸と反応させた亜硝酸ナトリウムの水溶液が特に好ましい。
【0077】
前記第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬中の亜硝酸や亜硝酸塩の濃度は、好ましくは0.01〜1重量%の範囲である。この範囲であると十分なジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する効果が得られ、溶液の取扱いも容易である。
【0078】
亜硝酸水溶液の温度は15℃〜45℃が好ましい。この範囲だと反応に時間がかかり過ぎることもなく、亜硝酸の分解が早過ぎず取り扱いが困難容易である。
【0079】
亜硝酸水溶液との接触時間は、ジアゾニウム塩および/またはその誘導体が生成する時間であればよく、高濃度では短時間で処理が可能であるが、低濃度であると長時間必要である。そのため、上記濃度の溶液では10分間以内であることが好ましく、3分間以内であることがより好ましい。また、接触させる方法は特に限定されず、該試薬の溶液を塗布(コーティング)しても、該試薬の溶液に該複合半透膜を浸漬させてもよい。該試薬を溶かす溶媒は該試薬が溶解し、該複合半透膜が侵食されなければ、いかなる溶媒を用いてもかまわない。また、溶液には、第一級アミノ基と試薬との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や酸性化合物、アルカリ性化合物などが含まれていてもよい。
【0080】
接触により生成したジアゾニウム塩またはその誘導体の一部は、水と反応することにより、フェノール性水酸基へと変換される。また、微多孔性支持膜や分離機能層を形成する構造の芳香環、または分離機能層に保持した第一級アミノ基を有する化合物の芳香環とも反応し、アゾ基を形成する。それによりホウ素除去率の向上が望める。
【0081】
次に、ジアゾニウム塩またはその誘導体が生成した複合半透膜を、ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬と接触させる。ここでジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬とは、塩化物イオン、臭化物イオン、シアン化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化ホウ素酸、次亜リン酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸イオン、芳香族アミン、フェノール類、硫化水素、チオシアン酸等が挙げられる。亜硫酸水素ナトリウム、および亜硫酸イオンと反応させると瞬時に置換反応が起こり、アミノ基がスルホ基に置換される。また、芳香族アミン、フェノール類と接触させることでジアゾカップリング反応が起こり膜面に芳香族を導入することが可能となる。これらの試薬は単一で用いてもよく、複数混合させて用いてもよく、異なる試薬に複数回接触させてもよい。接触させる試薬として、好ましくは亜硫酸水素ナトリウム、および亜硫酸イオンである。
【0082】
ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬と接触させる濃度と時間は、目的の効果を得るために適宜調節することができる。
【0083】
ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬と接触させる温度は10〜90℃が好ましい。この温度範囲であると反応が進みやすく、一方ポリマーの収縮による透過水量の低下も起こらない。
【0084】
このように製造される本発明の複合半透膜[1]および[2]は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムや不織布と共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0085】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0086】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、1.0MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0087】
本発明に係る複合半透膜によって処理される原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L〜100g/LのTDS(Total Dissolved
Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5〜40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【実施例】
【0088】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0089】
比較例、実施例における分離機能層の黄色度、実長さは以下のように測定した。
(多官能アミン水溶液と多官能酸ハライド溶液とを接触させた直後の膜面の温度)
多官能アミン水溶液と接触した微多孔性支持膜に多官能酸ハライド溶液を塗布した直後の膜面温度を、放射温度計(MINOLTA製 TA-0510F)により測定した。放射率εは0.95とした。
(ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度)
ポリアミド分離機能層に第一級アミノ基を有する化合物を接触させた後、液滴を除き、複合半透膜を10×10cm切り出して、基材を剥離し、ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物を得た。これを、エタノール50gに8時間浸漬し、エタノールに抽出された成分をあらかじめ検量線を得た紫外可視分光光度計(島津製作所製 UV-2450)で測定し、ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の化合物重量を算出した。次いで、エタノール中から、ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物を取り出し、120℃で2時間加熱して乾燥させ、デシケータ内で室温まで冷却させた後、重量測定を行い、次の式により、ポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内の第一級アミノ基を有する化合物濃度を求めた。
【0090】
化合物濃度(mol/g)=100×(化合物重量/化合物の分子量)/乾燥膜重量)
(黄色度)
複合半透膜を室温で8時間乾燥したのち基材を剥離し、分離機能層面が下になるようにガラス板に乗せてから、ジクロロメタンにて微多孔性支持膜を溶解・除去し、ガラス板上に残る分離機能層を、スガ試験器株式会社製SMカラーコンピュータSM−7により測定した。
(微多孔性支持膜1μm長さあたりのポリアミド分離機能層の実長さ)
複合半透膜をPVAで包埋し、OsOで染色し、これをウルトラミクロトームで切断して超薄切片を作製する。得られた超薄切片を、TEMを用いて断面写真を撮影する。TEMにより撮影した断面写真を、画像解析ソフトImage
Proに取り込み、解析を行い、微多孔性支持膜1μm長さあたりの分離機能層の実長さを求めた。
【0091】
比較例、実施例における複合半透膜の各種特性は、複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調整した海水(TDS濃度約3.5%)を操作圧力5.5MPaで供給して膜ろ過処理を24時間行ない、その後の透過水、供給水の水質を測定することにより求めた。
(脱塩率(TDS除去率))
次の式により脱塩率すなわちTDS除去率を求めた。
【0092】
TDS除去率(%)=100×{1−(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
(膜透過流束)
供給水(海水)の膜透過水量を、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)でもって膜透過流束(m/m/日)を表した。
(ホウ素除去率)
供給水と透過水中のホウ素濃度をICP発光分析装置(日立製作所製 P-4010)で分析し、次の式により求めた。
【0093】
ホウ素除去率(%)=100×{1−(透過水中のホウ素濃度/供給水中のホウ素濃度)}
(基材の繊維配向度)
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡で100〜1000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維について、不織布の長手方向(縦方向)を0°とし、不織布の幅方向(横方向)を90°としたときの角度を測定し、それらの平均値を小数点以下第一位を四捨五入して繊維配向度を求めた。
(基材の熱寸法変化率)
基材を製膜方向と並行に縦25cm横25cmのサンプルを3枚切り出し、それぞれに製膜方向と並行に20cmの長さを示す印を3箇所、製膜方向と直角に20cmの長さを示す印を3箇所つける。100°の熱水に10分間浸漬した後、取り出し自然乾燥する。3枚のサンプルについて、印を付けた3カ所の長さを0.01cm単位まで測定し、次式より求める。3枚のサンプルの縦(9ヶ所)、横(9ヶ所)それぞれ平均を取り算出する。浸漬後の線の長さが浸漬前の線の長さより短い場合、すなわち収縮している場合はプラス、浸漬後の線の長さが浸漬前の線の長さより長い場合はマイナスでそれぞれ表される。
【0094】
熱寸法変化率=((浸漬前の線の長さ)−(浸漬後の線の長さ))/(浸漬前の線の長さ)×100
(参考例1)
基材としてポリエステル短繊維不織布(通気度0.5〜1cc/cm/sec、繊維配向度:表28°、裏28°)を用い、不織布の表上にポリスルホンの15.7重量%DMF溶液を200μmの厚みで室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に5分以上浸漬して、連続的に微多孔性支持膜(厚さ210〜215μm)を作製した。
【0095】
(参考例2、3)
基材として表1に示す長繊維不織布を用いた以外は、参考例1と同様にして、微多孔性支持膜を作製した。
【0096】
【表1】
【0097】
(参考例4)
参考例1で得られた微多孔性支持膜を、m-PDAの4.5重量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.175重量%を含む25℃のn-デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために膜を1分間垂直に保持して液切りした。その後、90℃の熱水で2分間洗浄して複合半透膜を得た。トリメシン酸クロライドのデカン溶液を塗布した直後の膜面の温度は23℃であった。
(参考例5〜9)
使用する微多孔性支持膜、塗布するトリメシン酸クロライドのデカン溶液の温度を表2に記載した温度に変更した以外は参考例2と同様にして複合半透膜を作製した。トリメシン酸クロライドのデカン溶液を塗布した直後の膜面の温度は表2に示す値であった。
【0098】
【表2】
【0099】
(参考例10)
参考例1で得られた微多孔性支持膜を、m-PDAの5.0重量%、DMFの0.5重量%の水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.175重量%を含むn-デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために膜を1分間垂直に保持して液切りした。その後、90℃の熱水で2分間洗浄して複合半透膜を得た。
(参考例11〜15)
アシル化触媒を表3に記載した量を添加した以外は参考例6と同様にして複合半透膜を作製した。
【0100】
【表3】
【0101】
(実施例1)
参考例5で得られた複合半透膜を、m-PDA500ppmの水溶液に60分間浸漬し、硫酸によりpH3に調整した0.3重量%の亜硝酸ナトリウム水溶液により室温(35℃)で1分間処理した。複合半透膜を亜硝酸水溶液から取り除いた後、水洗し0.1重量%の亜硫酸ナトリウム水溶液に2分間浸漬した。このようにして得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表4に示す値であった。また、この複合半透膜の分離機能層の黄色度と実長さは表4に示す値であった。さらに、m-PDA溶液浸漬後のポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内のm-PDA濃度は表5に示す値であった。また、m-PDAの官能基を除く炭素骨格の分子量は76である。
【0102】
(実施例2〜11、比較例1〜6)
処理する複合半透膜、m-PDA濃度、浸漬時間、亜硝酸ナトリウム濃度を表5に記載した条件に変更した以外は実施例1と同様にして処理した。各実施例、比較例の複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表4に示す値であった。各実施例、比較例の複合半透膜の分離機能層の黄色度と実長さは表4に記載した。また、各実施例、比較例のm-PDA溶液浸漬後のポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内のm-PDA濃度を表5に記載した。
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
また、実施例10、実施例11、比較例1に用いた基材の繊維配向度、熱寸法変化率は表6に示す値であり、微多孔性支持体と反対側に配置される長繊維不織布の繊維が、微多孔性支持体側に配置される繊維よりも製膜方向に対して縦配向であると、熱寸法変化率が小さく寸法安定性が高かった。
【0106】
【表6】
【0107】
以上のように、本発明の構成[1]によりにより得られる複合半透膜は、高いホウ素除去性能と高い透水性能を有している。
(実施例12〜17および比較例7〜13)
参考例1で得られた微多孔性支持膜を、m-PDAの3.8重量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け微多孔性支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロライド0.165重量%を含む表1に記載する界面重縮合温度のn-デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して10秒間静置した。続いて、表7に記載する加熱処理温度に熱したオーブン中に、表7に記載する加熱処理時間静置した。その後、90℃の熱水で2分間洗浄して複合半透膜を得た。このようにして得られた複合半透膜を評価したところ、TDS除去率、膜透過流速、ホウ素除去率はそれぞれ表7に示す通りであった。
【0108】
【表7】
【0109】
(実施例18、19)
処理する複合半透膜、m-PDA濃度、浸漬時間、亜硝酸ナトリウム濃度を表9に記載した条件に変更した以外は実施例1と同様にして処理した。各実施例の複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、TDS除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表7に示す値であった。各実施例の複合半透膜の分離機能層の黄色度と実長さは表8に記載した。また、各実施例のm-PDA溶液浸漬後のポリアミド分離機能層と微多孔性支持膜の混合物内のm-PDA濃度を表9に記載した。
【0110】
【表8】
【0111】
【表9】
【0112】
(比較例14)
参考例1で得られた微多孔性支持膜を、m-PDAの3.8重量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け微多孔性支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロライド0.165重量%を含む表7に記載する界面重縮合温度のn-デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して10秒間静置した。次に膜から余分な溶液を除去するために、膜を1分間垂直に保持して液切りし、送風機で20℃の気体を吹きつけて膜面から溶液を除去した。続いて、120℃に熱したオーブン中に、15秒間静置した。その後、90℃の熱水で2分間洗浄して複合半透膜を得た。このようにして得られた複合半透膜を評価したところ、TDS除去率、膜透過流速、ホウ素除去率はそれぞれ表7に示す通りであった。
【0113】
以上のように本発明の構成[2]により得られる複合半透膜は、高い塩およびホウ素除去性能と高い透水性能を有している。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の複合半透膜は、特に、かん水や海水の脱塩に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0115】
1:微多孔性支持膜
M:微多孔性支持膜の長さ1μmに対応する部分の分離機能層表面の実長さ
図1