特許第5741516号(P5741516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5741516フルオロアルキルアイオダイドの製造方法
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  • 特許5741516-フルオロアルキルアイオダイドの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741516
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】フルオロアルキルアイオダイドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/278 20060101AFI20150611BHJP
   C07C 19/16 20060101ALI20150611BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150611BHJP
【FI】
   C07C17/278
   C07C19/16
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-95934(P2012-95934)
(22)【出願日】2012年4月19日
(65)【公開番号】特開2013-224266(P2013-224266A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2014年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平坂 岳臣
(72)【発明者】
【氏名】市田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 知邦
【審査官】 岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−239335(JP,A)
【文献】 特開2010−155742(JP,A)
【文献】 特開2009−132869(JP,A)
【文献】 特開平08−239336(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152499(WO,A1)
【文献】 特開2002−316956(JP,A)
【文献】 特開2002−316957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/278
C07C 19/16
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内で、テロゲンとしての下記式(I):
RfI (I)
(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基である。)
で示されるフルオロアルキルアイオダイドと、タクソゲンとしてのテトラフルオロエチレンとをテロメル化反応させて、下記式(II):
Rf−(CFCF−I (II)
(式中、Rfは式(I)と同じであり、nは1〜4の整数である。)
で示されるフルオロアルキルアイオダイドを製造する方法であって、
前記反応器内の反応液を抜き出して、該反応器に備えられたエジェクターの入り口からエジェクター内に供給し、該反応液が該エジェクターを通過する際に、エジェクターの吸引口より前記反応器内の気相であるテトラフルオロエチレンを含む気体を該エジェクター内に吸引し、
前記反応液と、テトラフルオロエチレンを含む気体との混合物を、該エジェクターの出口から反応器中に噴出させて、前記式(I)で示されるフルオロアルキルアイオダイドと、テトラフルオロエチレンとを反応させることを特徴とする、
フルオロアルキルアイオダイドの製造方法。
【請求項2】
前記テロメル化反応は触媒の存在下で行われ、前記触媒は、銅触媒、有機過酸化物、及びIF・SbFからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレンを、反応器の気相部に連続的に供給する、請求項1又は2に記載のフルオロアルキルアイオダイドの製造方法。
【請求項4】
前記反応液と、テトラフルオロエチレンを含む気体との混合物を反応器に連続的または間欠的に供給し、反応器から液相の一部分を連続的または間欠的に取り出すことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のフルオロアルキルアイオダイドの製造方法。
【請求項5】
前記反応器の気相部に、テトラフルオロエチレンを含む気体を存在させ、該気相部のテトラフルオロエチレンを含む気体をエジェクター吸引口から吸引して、前記反応液中に噴出させる、請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキルアイオダイドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、テロメル化反応により、フルオロアルキルアイオダイドを製造する製造方法が知られている。
【0003】
このようなテロメル化反応では、通常反応器内で、テロゲンである1−パーフルオロエタン(CI)と、タクソゲンであるテトラフルオロエチレンとを逐次反応させることにより、フルオロアルキルアイオダイドが製造される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような方法では、反応器内で1−パーフルオロエタン(CI)とテトラフルオロエチレンとを反応させた反応液を液相として存在させ、その液相に隣接する気相にテトラフルオロエチレンを供給して、更にフルオロアルキルアイオダイドの生成を促進させる。
【0005】
このような製造方法も優れた製造方法ではあるが、テロメル化反応は気液反応であるので、気相と液相との接触効率が低いと、反応速度が低下するという問題がある。反応速度が低下すると、滞留時間が長くなるため反応器内で逐次反応が進行してしまい、得られるフルオロアルキルアイオダイドの鎖長が長くなることにより、例えば、1−パーフルオロヘキサン(C13I;重合度n=2)や1−パーフルオロオクタン(C17I;重合度n=3)等の、重合度nが2以上の所望のフルオロアルキルアイオダイドの選択率が低下するという問題がある。
【0006】
また、所定の生産量を確保するために、気液接触面積を大きくして上記気相と液相との接触効率を高めることが必要であり、反応器を大きくしなければならないという設備的な問題がある。このため、上記製造方法は、必ずしも工業的に満足しうる方法であるとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2002/036530号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、高い選択率で目的とするフルオロアルキルアイオダイドを製造することが可能であるとともに、コンパクトなサイズの反応器を用いることができ、生産効率に優れた、新たなフルオロアルキルアイオダイドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、反応器内で、テロゲンとしてのフルオロアルキルアイオダイドと、タクソゲンとしてのテトラフルオロエチレンとをテロメル化反応させてフルオロアルキルアイオダイドを製造する方法において、上記反応器内の反応液を抜き出して、該反応器に備えられたエジェクターから反応器中に噴出させる構成とすることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のフルオロアルキルアイオダイドの製造方法に関する。
1.反応器内で、テロゲンとしての下記式(I):
RfI (I)
(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基である。)
で示されるフルオロアルキルアイオダイドと、タクソゲンとしてのテトラフルオロエチレンとをテロメル化反応させて、下記式(II):
Rf−(CFCF−I (II)
(式中、Rfは式(I)と同じであり、nは1〜4の整数である。)
で示されるフルオロアルキルアイオダイドを製造する方法であって、
前記反応器内の反応液を抜き出して、該反応器に備えられたエジェクターの入り口からエジェクター内に供給し、該反応液が該エジェクターを通過する際に、エジェクターの吸引口より前記反応器内の気相であるテトラフルオロエチレンを含む気体を該エジェクター内に吸引し、
前記反応液と、テトラフルオロエチレンを含む気体との混合物を、該エジェクターの出口から反応器中に噴出させて、前記式(I)で示されるフルオロアルキルアイオダイドと、テトラフルオロエチレンとを反応させることを特徴とする、
フルオロアルキルアイオダイドの製造方法。
2.前記テトラフルオロエチレンを、反応器の気相部に連続的に供給する、上記項1に記載のフルオロアルキルアイオダイドの製造方法。
3.前記反応液と、テトラフルオロエチレンを含む気体との混合物を反応器に連続的または間欠的に供給し、反応器から液相の一部分を連続的または間欠的に取り出すことを特徴とする、上記項1又は2に記載のフルオロアルキルアイオダイドの製造方法。
4.前記反応器の気相部に、テトラフルオロエチレンを含む気体を存在させ、該気相部のテトラフルオロエチレンを含む気体をエジェクター吸引口から吸引して、前記反応液中に噴出させる、上記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0011】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明の製造方法は、反応器内で、テロゲンとしての下記式(I):
RfI (I)
(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基である。)
で示されるフルオロアルキルアイオダイドと、タクソゲンとしてのテトラフルオロエチレンとをテロメル化反応させて、下記式(II):
Rf−(CFCF−I (II)
(式中、Rfは式(I)と同じであり、nは1〜4の整数である。)
で示されるフルオロアルキルアイオダイド(以下、単に「テロマー」とも言う。)を製造する方法であって、前記反応器内の反応液を抜き出して、該反応器に備えられたエジェクターの入り口からエジェクター内に供給し、該反応液が該エジェクターを通過する際に、エジェクターの吸引口より前記反応器内の気相であるテトラフルオロエチレンを含む気体を該エジェクター内に吸引し、前記反応液と、テトラフルオロエチレンを含む気体との混合物を、該エジェクターの出口から反応器中に噴出させて、前記式(I)で示されるフルオロアルキルアイオダイドと、テトラフルオロエチレンとを反応させることを特徴とする。
【0013】
上記特徴を有する本発明の製造方法は、反応液が反応器内から抜き出され、循環されて当該反応器に備えられたエジェクターを介して反応器中に噴出させることにより、上記エジェクター内で、反応器内の気相であるテトラフルオロエチレンを含む気体と、反応液とが接触して、気相と液相との接触効率が向上し、反応速度が上昇する。ここで、上記フルオロアルキルアイオダイドとテトラフルオロエチレンとの反応は、逐次反応である。エジェクターを使用しない反応器とエジェクターを使用した反応器の容量が一定とした場合、上述のように反応速度が上昇すると、滞留時間が短くなるので、反応器内で逐次反応が進行し難く、得られるフルオロアルキルアイオダイドの鎖長が長くなり難い。このため、1−パーフルオロヘキサン(C13I;重合度n=2)や1−パーフルオロオクタン(C17I;重合度n=3)等の、重合度nが2以上の所望のフルオロアルキルアイオダイドを高い選択率で得ることが可能となる。
【0014】
更に、本発明の製造方法は、気相と液相との接触効率が向上し、反応効率に優れるので、従来法に比べて非常にコンパクトなサイズの反応器で所定の生産量を確保することが可能である。
【0015】
本発明では、テロゲンとしての下記式(I):
RfI (I)
(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基である。)
で示されるフルオロアルキルアイオダイドを含む反応液に、タクソゲンとしてのテトラフルオロエチレンを供給する方法として、反応器内の反応液を該反応器から抜き出して、反応器に備えられたエジェクターの入口からエジェクター内に供給し、上記反応液が該エジェクターを通過する際に、反応器内の気相であるテトラフルオロエチレンを含む気体を該エジェクターの吸引口よりエジェクター内に吸引して、該反応液とテトラフルオロエチレンを含む気体との混合物を、該エジェクターの出口から反応器中に噴出させる方法を採用することが必要である。
【0016】
この方法によれば、反応器中の反応液はエジェクター内へ入口から供給され、テトラフルオロエチレンを含む気体はエジェクター内へ吸引口から吸引され、これらの液体と気体からなる混合物がエジェクター出口から反応器中へ排出される。吸引口が位置する管の内部は一部細くなっており、エジェクター内に反応液を流すと、エジェクター内の細くなった部分で流速が増すため、ベンチュリ効果によって圧力が低下する。この減圧になった液相流にテトラフルオロエチレンを含む気体が流れ込み、結果として吸引口が減圧となる。これによって、エジェクターの吸引口より気相であるテトラフルオロエチレンを含む気体が吸引され、吸引されたテトラフルオロエチレンを含む気体は、エジェクターを通過する反応液中に混入されて微細気泡化され、反応液と共に、反応器中に噴出され、反応液中のテロゲンとしてのフルオロアルキルアイオダイドと反応して、フルオロアルキルアイオダイドが形成される。このようにエジェクターを用いてテトラフルオロエチレンを含む気体を供給することにより、微細な気泡として、フルオロアルキルアイオダイドを含む反応液中に供給することができ、気液界面積の増大により反応性が大幅に向上し、反応速度が上昇する。上記フルオロアルキルアイオダイドとテトラフルオロエチレンとの反応は、逐次反応であるが、エジェクターを使用しない反応器とエジェクターを使用した反応器の容量が一定とした場合、反応速度が上昇した結果、滞留時間が短くなり、反応器内で逐次反応が進行し難く、得られるフルオロアルキルアイオダイドの鎖長が長くなり難い。このため、1−パーフルオロヘキサン(C13I;重合度n=2)や1−パーフルオロオクタン(C17I;重合度n=3)等の、重合度nが2以上の所望のフルオロアルキルアイオダイドを高い選択率で得ることが可能となる。
【0017】
また、気相と液相との接触効率が向上し、反応効率に優れるので、従来法に比べて非常にコンパクトなサイズの反応器で所定の生産量を確保することが可能となる。
【0018】
本発明では、使用するエジェクターの種類については特に限定的ではなく、フルオロアルキルアイオダイドを含む反応液を供給できる入口と、該溶液を排出できる出口とを有する管を含み、該管には、気相であるテトラフルオロエチレンを含む気体を吸引できる吸引口が備えられていればよい。エジェクターは、例えば、十字形状になっていてもよい。この場合、エジェクターの十字の水平線にあたる管が吸引口となり、垂直線にあたる管の上方に入口、下方に出口が位置し、垂直線にあたる管の内部は、吸引口が取り付けられた位置で他の部分より細くなっていてもよい。
【0019】
本発明では、特に、上述したエジェクターの吸引口からテトラフルオロエチレンを含む気体を吸引してフルオロアルキルアイオダイドを含む反応液と共に反応器中に供給する方法において、反応器中に収容した反応液を抜き出して、エジェクター入口から該エジェクターに供給し、該エジェクター出口から反応器内の反応液中に噴出させることによって、反応液を循環させる方法を採用することが好ましい。この方法では、上記したエジェクターを用いることによる効果が奏されることに加えて、更に気相と液相との接触効率が向上し、従来法に比べて非常にコンパクトな反応器サイズで所定の生産量を確保することができる。更に、反応器内の反応液の全体にテトラフルオロエチレンを含む気体の気泡を分散させることができ、エジェクターによる撹拌効果で反応液中のテトラフルオロエチレンの濃度は均一になる。よって、反応器に撹拌機は不要であり、撹拌機の軸オイルシール漏れによる内部汚染を回避できる。
【0020】
また、本発明では、上記反応液と、テトラフルオロエチレンを含む気体との混合物を、エジェクターを介して反応器に連続的または間欠的に供給し、反応器から液相である反応液の一部分を連続的または間欠的に取り出して、循環させることが好ましい。
【0021】
上記反応器については、この反応に通常用いられている装置を使用できる。例えば、一般的に用いられる槽型の反応器、凝縮器付き反応器等を使用することができる。本発明で用いる反応器にはエジェクター装置を設置することが必要である。
【0022】
本発明のフルオロアルキルアイオダイドの製造方法では、テロゲンとしての下記式(I):
RfI (I)
(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基である。)
で示されるフルオロアルキルアイオダイドを、液相である反応液に溶解した状態で、気相である、タクソゲンとしてのテトラフルオロエチレンとテロメル化反応させて、下記式(II):
Rf−(CFCF−I (II)
(式中、Rfは式(I)と同じであり、nは1〜4の整数である。)
で示されるフルオロアルキルアイオダイドを製造する。
【0023】
上記テトラフルオロエチレンは、反応器の気相部に存在させることが好ましい。この場合には、エジェクターの吸引口が反応器の気相部に位置し、エジェクター出口が、反応器の気相中、又は、フルオロアルキルアイオダイドを含む反応液中に位置するようにして、エジェクターを反応器中に設置すればよい。反応器内の反応液中に供給されたテトラフルオロエチレンを含む気体の内で、未反応のテトラフルオロエチレンは、反応器内の気相中に戻り、再度、エジェクターにより吸引されて反応液中に供給され、反応液中のフルオロアルキルアイオダイドと反応してフルオロアルキルアイオダイドが製造される。特に、エジェクター出口を反応液中に位置するようにしてエジェクターを設置した場合、反応器から気体を排出する配管への未反応のテトラフルオロエチレンの流出が抑制され、未反応テトラフルオロエチレンのロスを減らすことができる。
【0024】
フルオロアルキルアイオダイドとテトラフルオロエチレンとを反応させる条件は、特に限定されるものではなく、通常、この反応で用いられている条件を採用できる。
【0025】
具体的には、温度条件としては、例えば30〜150℃程度とすればよい。この温度範囲より低い温度では、上記反応が進行しにくいおそれがあり、この温度範囲より高い温度では、反応が進行し過ぎて、所望の鎖長のフルオロアルキルアイオダイドの選択率が低下してしまうおそれがある。
【0026】
反応圧力についても特に限定されるものではなく、反応器内において、フルオロアルキルアイオダイドが反応液に液相として存在できる圧力であればよい。例えば0.01〜2MPa程度の圧力で実施することが好ましい。
【0027】
テロメル化反応は、触媒の存在下で行うことができる。上記触媒としては、例えば、金属触媒、有機過酸化物、またはIF・SbF等が挙げられる。
【0028】
上記金属触媒が銅粉である場合、触媒粒子は、0.1μm〜1mm、好ましくは20μm〜0.3mmの粒子径を有し、20μm〜200μm、好ましくは45μm〜100μmの平均粒子径を有するものが用いられる。上記金属触媒が銅粉の場合、触媒の量は、フルオロアルキルアイオダイド(RfI)1 モルに対して、0.001〜1モル程度であることが好ましい。また、その粒子形態は、特に限定されず、銅塊を切削や粉砕などのように物理的に加工して得られる粒子の形態、及び銅イオンを含む電解質から電気的及び/又は化学的に析出させて得られる粒子の形態などの種々のものであってよい。このような銅粉としては、例えば、キシダ化学(株)から試薬として市販されている1級銅粉325meshという銅粉を使用することができる。
【0029】
また、上記金属触媒としては、本発明において実施しようとするテロメル化反応に実質的に触媒作用を示すその他の金属物質を用いることもできる。そのような物質には、例えば、亜鉛、マグネシウム、バナジウム、レニウム、ロジウム、ルテニウム、白金、銀、又はこれらの金属に遷移金属を少量添加した物質、例えばそのような組成を有する合金等がある。また、上記のような銅粉と混合しても本発明のテロメル化反応に悪影響を示さない場合には、銅粉とこれらの物質との混合物を触媒として用いることもできる。このように、銅粉以外の物質を触媒として用いる場合、及び銅粉以外の物質と銅粉との混合物を触媒として用いる場合にも、銅粉について上述したような粒子径及び平均粒子径を有することが必要である。
【0030】
上記有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルパーオキシピバレートのようなカルボン酸エステルパーオキサイド化合物、t−ブチル過炭酸イソプロピルのようなパーオキシモノカーボネート、およびビス−(4−アルキルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートのようなパーオキシジカーボネート化合物が挙げられる。上記触媒が有機過酸化物の場合、上記触媒の量は、フルオロアルキルアイオダイド(RfI)1 モルに対して、0.001〜0.1モル程度であることが好ましい。
【0031】
エジェクターを介して循環させる反応液の循環速度については特に限定はなく、エジェクターの構造に応じて、反応に必要な量のテトラフルオロエチレンを含む気体を吸引して反応器中に供給できる条件であればよい。
【0032】
本発明のテロメル化反応に関して、原料である、テロゲンとしてのフルオロアルキルアイオダイド、及びタクソゲンとしてのテトラフルオロエチレンの導入速度又は流量、及び反応液の排出速度又は流量は、必要とするテロマー分布によって変動する。従って、反応器内で目的とするテロメル化反応生成物が生成するのに適すると考えられる、反応器内でのテロゲン及びタクソゲンの平均滞留時間、及び反応器内に存在するテロゲンとタクソゲンとの割合などを考慮することによって、原料としてのテロゲン及びタクソゲンの導入流量、及び反応液の排出流量を選択することができる。
【0033】
その場合に、一般に、反応液中のタクソゲン濃度が理想的な値よりも高くなると、生成するフルオロアルキルアイオダイド分子の鎖長は目的とする鎖長よりも長い方へシフトする傾向があり、逆に、反応液中のタクソゲン濃度が理想的な値よりも低くなると、生成するフルオロアルキルアイオダイド分子の鎖長は目的とする鎖長よりも短い方へシフトする傾向があることを考慮に入れることができる。
【0034】
また、反応装置内でのテロゲン及びタクソゲンの平均滞留時間は、予備的な実験によって予め求めておくことができ、平均滞留時間は反応器から反応液を流出させる速度又は流量を調節することによって、容易に調節することができる。従って、反応液の流出速度に応じて、反応器内の反応液の量が実質的に一定に保たれるように原料物質を供給することが好ましい。
【0035】
本発明では、使用するテロゲン及びタクソゲンの種類によって、生成物であるフルオロアルキルアイオダイドの種類が決まる。
【0036】
例えば、テロゲン/タクソゲン及び生成物テロマーの組合せの例として、以下の組合せ;2−ヨードパーフルオロプロパン/テトラフルオロエチレンの組合せから、2−トリフルオロメチル−パーフルオロブチルアイオダイド、2−トリフルオロメチル−パーフルオロヘキシルアイオダイド、2−トリフルオロメチル−パーフルオロオクチルアイオダイド;1−ヨードパーフルオロエタン/テトラフルオロエチレンの組合せから、1−ヨードパーフルオロブタン、1−ヨードパーフルオロヘキサン、1−ヨードパーフルオロオクタン、1−ヨードパーフルオロデカン;1−ヨードパーフルオロブタン/テトラフルオロエチレンの組合せから、1−ヨードパーフルオロヘキサン、1−ヨードパーフルオロオクタン、1−ヨードパーフルオロデカン、1−ヨードパーフルオロドデカン;1−ヨードパーフルオロヘキサン/テトラフルオロエチレンの組合せから、1−ヨードパーフルオロオクタン、1−ヨードパーフルオロデカン、1−ヨードパーフルオロドデカン、1−ヨードパーフルオロテトラデカンを挙げることができる。しかしながら、上記の例以外の物質であっても、本発明の方法を適用することができるのであれば、本発明に用いることができるものもある。
【0037】
また、1−ヨードパーフルオロヘキサン、1−ヨードパーフルオロブタン及び1−ヨードパーフルオロエタンの各々についてテトラフルオロエチレンとの反応速度を測定した結果、1−ヨードパーフルオロヘキサン及び1−ヨードパーフルオロブタンの反応速度は1−ヨードパーフルオロエタンの反応速度の4倍高いことが確認された。従って、このような反応速度の関係を予め調べておき、反応の際に考慮に入れて、本発明のテロゲンとして、純粋なテロゲンのみ、又はテロゲンと低級フルオロアルキルアイオダイドとの混合物、又は低級フルオロアルキルアイオダイドどうしの混合物を用いることによって、目的とするフルオロアルキルアイオダイドを得ることができる。
【0038】
エジェクターを用いてフルオロアルキルアイオダイドを溶解した反応液を循環させる方法では、フルオロアルキルアイオダイドを反応器に供給した後、該溶液を更に添加しなくてもよいが、反応によって減少するフルオロアルキルアイオダイドを補うために、フルオロアルキルアイオダイドを連続的または間欠的に反応器に供給することが好ましい。また、気相部については、反応器にテトラフルオロエチレンを含む気体を供給した後には、テトラフルオロエチレンを供給しなくてもよいが、反応によって減少するテトラフルオロエチレンを反応器の気相部に連続的または間欠的に供給することが好ましい。
【0039】
具体的には、テトラフルオロエチレンの供給とフルオロアルキルアイオダイドの供給の双方についてバッチ式で間欠的に行う方法、テトラフルオロエチレンを連続的に供給し、フルオロアルキルアイオダイドをバッチ式で間欠的に供給する方法(いわゆるセミバッチ式)、テトラフルオロエチレンの供給とフルオロアルキルアイオダイドの供給の双方を連続的に行う方法などを採用できる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の製造方法は、反応液が反応器内から抜き出され、循環されて当該反応器に備えられたエジェクターを介して反応器中に噴出させることにより、上記エジェクター内で、反応器内の気相であるテトラフルオロエチレンを含む気体と、反応液とが接触して、気相と液相との接触効率が向上し、反応速度が上昇する。これにより滞留時間が短くなるので、反応器内で逐次反応が進行し難く、得られるフルオロアルキルアイオダイドの鎖長が長くなり難い。このため、1−パーフルオロヘキサン(C13I;重合度n=2)や1−パーフルオロオクタン(C17I;重合度n=3)等の、重合度nが2以上の所望のフルオロアルキルアイオダイドを高い選択率で得ることが可能となる。
【0041】
更に、本発明の製造方法は、気相と液相との接触効率が向上し、反応効率に優れるので、従来法に比べて非常にコンパクトなサイズの反応器で所定の生産量を確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明のフルオロアルキルアイオダイドの製造方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に
限定されない。
【0044】
実施例1
図1に示す反応装置を使用して、テロメル化反応を行った。撹拌機2を有する容量3Lのステンレス製加圧反応器1に、テロゲンとして1−ヨードパーフルオロブタン(CI)3.0kgおよび金属触媒として銅粉150gを仕込み、撹拌機2により撹拌した。これを循環ポンプ3により循環し、100℃まで加熱した。反応器内の温度を100℃に保ちながら、タクソゲンとしてテトラフルオロエチレンを、原料タクソゲン仕込み配管9を介してエジェクター8に供給した。反応液を撹拌しつつ反応器内の圧力が0.38MPa(ゲージ圧)となるまで加圧した。
【0045】
その後、上記の温度及び圧力条件を保ったまま、1−ヨードパーフルオロブタン(CI)を3.0kg/hr、及び金属触媒としての銅粉を150g/hrの流量で、原料テロゲン仕込み配管6から反応液循環配管7に供給した。更に、テトラフルオロエチレンを90g/hrの流量で、原料タクソゲン仕込み配管9を介してエジェクター8に供給し、循環ポンプ3により反応液循環配管7を循環している金属触媒を含む反応液に巻き込ませながらステンレス製加圧反応器1内に噴出させた。
【0046】
更に、金属触媒を含む反応液を3.2kg/hrの速度で、反応液抜出配管5より排出させ、テロメル化反応を行った。
【0047】
反応開始後2時間の反応液をサンプリングし、ガスクロマトグラフにより組成分析を行った。組成分析の結果により求めた1−ヨードパーフルオロブタン(CI)の転化率ならびに反応液におけるフルオロアルキルアイオダイド(C(CFCFI)の重合度分布を表1に示す。
【0048】
なお、テロゲン転化率は、下記式によって算出した値である。
[テロゲン転化率(mol%)]=[(サンプリングした反応液に含まれる重合度nが1以上のフルオロアルキルアイオダイドのモル数)/(サンプリングした反応液に含まれるフルオロアルキルアイオダイドのモル数)]×100
比較例1
エジェクターを備えない反応装置を用い、金属触媒を含む反応液を3.2kg/hrの速度で、反応液抜出配管5より排出させた以外は実施例1と同様にして、テロメル化反応、及び組成分析を行った。組成分析の結果により求めた1−ヨードパーフルオロブタン(CI)の転化率ならびに反応液におけるフルオロアルキルアイオダイド(C(CFCFI)の重合度分布を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
結果
エジェクターを用いた製造方法によってフルオロアルキルアイオダイドを製造した実施例1では、エジェクター内で反応器内の気相であるテトラフルオロエチレンを含む気体と、反応液とが接触して、気相と液相との接触効率が向上し、エジェクターを用いない製造方法によってフルオロアルキルアイオダイドを製造した比較例1より大幅に反応速度が上昇した。これにより、フルオロアルキルアイオダイドを高い転化率で得る事ができた。
【符号の説明】
【0051】
1 ステンレス製加圧反応器
2 撹拌機
3 循環ポンプ
4 冷却器
5 反応液抜出配管
6 原料テロゲン仕込み配管
7 反応液循環配管
8 エジェクター
9 原料タクソゲン仕込み配管
図1