(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記先端側嵌合部又は前記後端側嵌合部には、前記駆動軸と前記筒状体との間をシールするシール手段が備えられていることを特徴とする請求項3又は4記載のピストン型圧縮機。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係るピストン型圧縮機としての斜板式可変容量圧縮機について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る斜板式可変容量圧縮機(以下「圧縮機」と表記する)は車両に搭載される車両空調用の圧縮機である。
【0022】
図1に示す圧縮機では、シリンダブロック11の前端にはフロントハウジング12が接合され、シリンダブロック11の後端にはリヤハウジング13が接合されている。
シリンダブロック11、フロントハウジング12及びリヤハウジング13は、複数の通しボルト(
図1においては1つのみ示す)14により相互に接続されている。
シリンダブロック11には、通しボルト14を挿通するボルト通孔(図示せず)が形成されているほか、フロントハウジング12にはボルト通孔15が形成されている。
また、リヤハウジング13には、雌ねじを有するボルト孔(図示せず)が形成され、ボルト孔には通しボルト14の雄ねじ部が螺入される。
シリンダブロック11、フロントハウジング12及びリヤハウジング13は、圧縮機のハウジングの全体を構成する要素である。
【0023】
フロントハウジング12とシリンダブロック11との接合により、フロントハウジング12内に制御圧室16が形成される。
シリンダブロック11には軸孔17が形成されている。
軸孔17には駆動軸18が挿通され、駆動軸18はシリンダブロック11に回転自在に支持されている。
本実施形態では、駆動軸18のシリンダブロック11と摺接する外周面には、潤滑剤を含むコーティング層が形成されている。
また、フロントハウジング12には、軸孔20が形成されており、軸孔20に駆動軸18が挿通されている。
軸孔20には軸封装置21が設けられている。軸封装置21には主にゴム材料により形成されたリップシールが用いられている。
制御圧室16から外部へ突出する駆動軸18は、エンジン等の外部駆動源(図示せず)から回転駆動力を得る。
【0024】
駆動軸18には回転支持体22が固定されている。
回転支持体22はラジアル軸受23を介してフロントハウジング12に回転自在に支持されており、駆動軸18と一体回転可能である。
回転支持体22が備えるボス部とフロントハウジング12の内壁面との間には、駆動軸18の軸心P方向への荷重を受けるスラスト軸受24が介在されている。
フロントハウジング12には、制御圧室16の外周域からフロントハウジング12と回転支持体22との間まで延び、スラスト軸受24に臨むオイル経路25が形成されており、オイル経路25は軸孔20まで達している。
回転支持体22には、斜板26が駆動軸18の軸心P方向へスライド可能かつ傾動可能に支持されている。
【0025】
回転支持体22には一対のアーム27(
図1では一方のアーム27のみ図示され、他方のアーム27は図示されない)が斜板26に向けて突設されており、斜板26には一対の突起部28が回転支持体22に向けて突設されている。
突起部28は、回転支持体22における一対のアーム27間に形成された凹部に挿入されている。
突起部28は、一対のアーム27に挟まれた状態で凹部内を移動可能である。
アーム27において凹部の底部となる面にはカム面29が形成されており、突起部28の先端部はカム面29と摺接する。
斜板26は、一対のアーム27に挟まれた突起部28と、カム面29との連係により駆動軸18の軸方向へ傾動可能かつ駆動軸18と一体的に回転可能である。
斜板26の傾動は、カム面29と突起部28とのスライドガイド関係と駆動軸18のスライド支持作用とにより案内される。
一対のアーム27、突起部28およびカム面29は、斜板26と回転支持体22との間に設けられる変換機構30を構成する。
変換機構30は、回転支持体22に対して斜板26を傾動可能、かつ駆動軸18から斜板26へトルク伝達可能に連結する。
【0026】
駆動軸18にはコイルスプリング31が嵌挿されており、コイルスプリング31は回転支持体22と斜板26との間に位置する。
コイルスプリング31は斜板26を回転支持体22から離す付勢力を斜板26に付与する。
【0027】
斜板26の径中心部が回転支持体22側へ移動すると、駆動軸18の径方向に対する斜板26の傾斜角度が増大する。
斜板26の最大傾斜角度は、回転支持体22と斜板26との当接により規定される。
因みに、
図1に示す斜板26は最大傾斜角度の状態にある。
【0028】
図1に示すように、シリンダブロック11に形成された複数のシリンダボア32内には、ピストン33が往復動自在となるように収容されている。
斜板26の回転運動は、シュー35を介してピストン33の前後往復運動に変換され、ピストン33がシリンダボア32内を往復動する。
【0029】
リヤハウジング13内には隔壁36が形成されており、隔壁36により吸入室37と吐出室38が区画形成されている。
シリンダブロック11とリヤハウジング13との間には、バルブプレート39、弁形成プレート40、41及びリテーナ形成プレート42が介在されている。
バルブプレート39、弁形成プレート41及びリテーナ形成プレート42には吸入ポート43が形成されている。
バルブプレート39及び弁形成プレート40には吐出ポート44が形成されている。
弁形成プレート40には吸入弁45が形成されており、弁形成プレート41には吐出弁46が形成されている。
リテーナ形成プレート42には、吐出弁46の開度を規制するリテーナ47が形成されている。
【0030】
軸孔17と吸入室37を連絡するように貫通孔48がバルブプレート39、弁形成プレート40、41及びリテーナ形成プレート42の中心に貫通して形成されている。
因みに、
図2に示すように、シリンダボア32におけるリヤハウジング13側と連通する空間49がシリンダブロック11の軸孔17側に形成されており、吸入弁45の開度は、空間49を形成するシリンダブロック11の端面50により規制される。
【0031】
吸入室37内の冷媒は、ピストン33の復動動作(
図1において右側から左側への移動)により吸入ポート43から吸入弁45を開弁してシリンダボア32内へ流入する。
シリンダボア32内へ流入したガス状の冷媒は、ピストン33の往動動作(
図1において左側から右側への移動)により吐出ポート44から吐出弁46を開弁して吐出室38へ吐出される。
吐出弁46は、リテーナ形成プレート42上のリテーナ47に当接して開度規制される。
【0032】
吸入室37へ冷媒を導入する吸入通路51と、吐出室38から冷媒を排出する吐出通路52とは、外部冷媒回路53で接続されている。
外部冷媒回路53上には、冷媒から熱を奪うための熱交換器54、膨張弁55および周囲の熱を冷媒に移すための熱交換器56が介在されている。
膨張弁55は、熱交換器56の出口側における冷媒ガスの温度の変動に応じて冷媒流量を制御する。
【0033】
吐出室38へ吐出された冷媒ガスは吐出通路52を通って外部冷媒回路53へ流出する。
外部冷媒回路53へ流出した冷媒ガスは、吸入通路51を通り吸入室37へ還流する。
吐出室38と制御圧室16は給気通路57により連通している。
リヤハウジング13には容量制御弁59が設けられており、容量制御弁59は給気通路57を通る冷媒ガスの流量を制御する。
【0034】
容量制御弁59の弁開度の増大により、給気通路57を通る冷媒ガスの流量が増大すると、制御圧室16内の圧力が高くなる。
これにより、斜板26の傾斜角度が減少する。
容量制御弁59の弁開度の減少により給気通路57を通る冷媒ガスの流量が減少すると、制御圧室16内の圧力が低くなる。これにより、斜板26の傾斜角度が増大する。
【0035】
ところで、本実施形態の圧縮機は、シリンダボア32に残留する高圧の冷媒ガス(以下「高圧残留ガス」と表記する)を低圧のシリンダボア32へとバイパスするための残留ガスバイパス通路を備えている。
図4に示すように、シリンダボア32毎に設けられた空間49と軸孔17とを連通する導通路60(
図4では導通路60A〜60Eと区別し、ピストン33の図示を省略している)がシリンダブロック11にそれぞれ形成されている。
従って、導通路60はシリンダボア32と軸孔17との間を結ぶ要素である。
導通路60の数はシリンダボア32の数に対応しており、複数の導通路60はシリンダブロック11において放射状に配置されている。
図1、
図2に示すように、導通路60は駆動軸18の径方向に対して軸方向に傾斜しており、導通路60の空間49側の開口はリヤハウジング13側に位置し、導通路60の軸孔17側の開口は、導通路60の空間49側の開口よりも制御圧室16側に位置する。
【0036】
一方、駆動軸18には、軸心Pを中心に軸方向へ形成された連通孔61が形成されている。
駆動軸18内部の連通孔61は、リヤハウジング13側の一端からフロントハウジング12側へ向けて形成されている。
図2に示すように、駆動軸18の連通孔61は、リヤハウジング13側の一端側からフロントハウジング12側の他端側へ向けて内径を大きく設定した大径孔部62と、大径孔部62から他端側へ向けて内径を小さく設定した小径孔部63と、が形成されている。
【0037】
小径孔部63のフロントハウジング12側の端部は、軸孔20において駆動軸18の軸方向において軸封装置21と回転支持体22との間に達している。
図1に示すように、小径孔部63のフロントハウジング12側の端部から、径方向に駆動軸18の外周まで至る孔64が形成され、孔64は軸孔20を介してオイル経路25と連通している。
従って、制御圧室16と吸入室37は貫通孔48、連通孔61、孔64により連通している。
制御圧室16内の冷媒ガスは貫通孔48、連通孔61、孔64を介して吸入室37へ流出する。
従って、貫通孔48と、駆動軸18の連通孔61および孔64は、オイルの流通路としての機能のほか、抽気通路として機能し、容量制御弁59および給気通路57との協働により制御圧室16の圧力を制御する要素である。
【0038】
図2〜
図4に示すように、駆動軸18には、大径孔部62から径方向に駆動軸18の外周まで至る高圧側連絡孔65と低圧側連絡孔66が形成されている。
高圧側連絡孔65および低圧側連絡孔66は、圧縮機の運転時においてシリンダボア32の導通路60と連通する位置に形成されている。
【0039】
図3に示すように、本実施形態では、高圧側連絡孔65がシリンダボア32の導通路60(60A)と連通するとき、低圧側連絡孔66がシリンダボア32の導通路60(60D)と連通する関係となっている。
高圧側連絡孔65の導通路60側の開口は高圧側開口部67であり、低圧側連絡孔66の導通路60側の開口は低圧側開口部68である。
なお、導通路60の軸孔17側の開口が楕円形に形成されるため、高圧側開口部67および低圧側開口部68は導通路60の軸孔17側の開口に近い形状の長孔状に形成されている。
【0040】
駆動軸18の連通孔61には、リヤハウジング13側の一端側から筒状体70が圧入されている。
本実施形態の筒状体70は、駆動軸18のリヤハウジング側への移動を規制するシャフトストッパである。
本実施形態の筒状体70は、連通孔61の大径孔部62に圧入可能な外径寸法を有する大径筒部71と、小径孔部63に圧入可能な外形寸法を有する小径筒部72を有する。
大径筒部71と小径筒部72との間には、径方向に張設された環状の接続部73が形成されている。
大径筒部71の端部には径方向に張設された円環部74が形成されている。
従って、大径筒部71は大径孔部62において駆動軸18と嵌合可能であって、小径筒部72は小径孔部63において駆動軸18と嵌合可能である。
【0041】
大径筒部71において圧入により駆動軸18に固定される部位は、筒状体70の挿入方向において後端側となる後端側嵌合部(
図3においてハッチングにより図示)E1である。
小径筒部72において圧入により駆動軸18に固定される部位は、筒状体70の挿入方向において先端側となる先端側嵌合部(
図3においてハッチングにより図示)E2である。
筒状体70における後端側嵌合部E1および先端側嵌合部E2は、筒状体70を駆動軸18に固定する機能のほか、冷媒ガスの漏洩を防止するシール機能を果たす。
【0042】
筒状体70が駆動軸18の連通孔61に圧入される状態では、小径孔部63において先端側嵌合部を除く部位の外周側には、筒状体70と同心状の環状空間75が区画される。
小径孔部63において先端側嵌合部E2を除く部位は大径孔部62を臨む部位であり、すなわち環状空間75と対向する空間対向部E3に相当する。
小径孔部63と連通する筒状体70の内側の空間は中心空間に相当する。
また、本実施形態では、後端側嵌合部E1は大径筒部71の大半を占めている。
環状空間75は、中心空間の外側のほぼ密閉された空間となるように、大径孔部62の軸方向において後端側嵌合部E1と先端側嵌合部E2との間に形成されている。
【0043】
環状空間75と高圧側連絡孔65が連通するほか、環状空間75と低圧側連絡孔66と連通している。
つまり、高圧側連絡孔65は高圧側開口部67と環状空間75を連通し、また、低圧側連絡孔66は低圧側開口部68と環状空間75を連通する。
従って、高圧側連絡孔65および低圧側連絡孔66は、環状空間75を導通路60と連通する複数の連絡孔に相当する。
環状空間75は、高圧側連絡孔65および低圧側連絡孔66とともに、導通路60を介して吐出終了時のシリンダボア32の残留ガスを圧縮過程中のシリンダボア32へ通す残留ガスバイパス通路を形成する。
本実施形態の圧縮機では、残留ガスバイパス通路を備え、軸孔17内にて駆動軸18と一体的に作動される弁機構が備えられている。
弁機構は、連通孔61における筒状体70の外周側に区画された環状空間75、高圧側連絡孔65および低圧側連絡孔66を備え、駆動軸18の回転に伴って残留ガスバイパス通路と導通路60との連通、遮断を行う。
【0044】
筒状体70が駆動軸18に圧入されることにより、駆動軸18の連通孔61は、筒状体70の内側の空間と連通する小径孔部63と環状空間75とに区画され、小径孔部63と環状空間75は互いに連通しない。
つまり、筒状体70は、残留ガスバイパス通路と連通孔61とを非接続状態とするとともに筒状体70の内周側を連通孔61に開放する。
なお、筒状体70が連通孔61に圧入されて駆動軸18に固定された状態では、円環部74が弁形成プレート40と当接し、筒状体70は駆動軸18のリヤハウジング側への移動を規制し、シャフトストッパとして機能する。
【0045】
次に、本実施形態の圧縮機の作用について説明する。
圧縮機が運転されると、冷媒ガスが外部冷媒回路53より吸入通路51を通じて吸入室37に導入される。
シリンダボア32内を往復動するピストン33が上死点位置から下死点位置へ移動する吸入工程では、吸入弁45が開弁され、このとき、吸入室37内の冷媒ガスは、吸入弁45の開弁時に吸入ポート43を通じてシリンダボア32内へ導入される。
なお、吸入工程では、シリンダボア32内の圧力低下および吐出室38の圧力が高いことと相まって、吐出弁46は湾曲することなくバルブプレート39に密着して吐出ポート44を閉じる。
この後、ピストン33が下死点位置から上死点位置へ移動する圧縮工程では、シリンダボア32内の圧力が増大し、シリンダボア32内の冷媒ガスは圧縮される。
【0046】
圧縮工程では、シリンダボア32内の圧力が上昇する。
吐出工程では吐出弁46が湾曲して吐出ポート44を開き、シリンダボア32内の冷媒ガスは吐出ポート44を通じて吐出室38へ吐出される。
同時に、シリンダボア32の圧力上昇と吸入室37の圧力が低いことと相まって、吸入弁45はバルブプレート39に密着して吸入ポート43を閉じる。
ピストン33が上死点位置に達し、冷媒ガスがシリンダボア32内から吐出室38に吐出されてシリンダボア32内の圧力が低下すると、湾曲により吐出弁46に蓄えられた弾性復元力が吐出弁46を復元し、吐出弁46はリテーナ47から離れて吐出ポート44を閉じる。
そして、シリンダボア32から吐出室38に吐出された冷媒ガスは吐出通路52を通じて外部冷媒回路53へ導出される。
【0047】
ところで、圧縮機が運転されて駆動軸18が回転すると、斜板26は駆動軸18とともに回転する。
斜板26の回転に伴い各ピストン33が対応するシリンダボア32内において往復動する。
シリンダボア32内においてピストン33が上死点から下死点へ向かう移動を始めるとシリンダボア32では吸入行程に入る。
また、シリンダボア32内においてピストン33が下死点から上死点へ向かう移動を始めるとシリンダボア32では圧縮・吐出行程に入る。
【0048】
例えば、
図4に示す状態では、シリンダボア32(32A)は、ピストン33が上死点位置となる吐出行程の完了直後の状態で、吸入行程に入る直前の状態にある。
シリンダボア32(32B、32C)は、ピストン33が上死点へ向けて移動する位置にある圧縮行程の状態である。
また、シリンダボア32(32D)はピストンが下死点位置となる吸入行程の完了直後の状態であり、圧縮行程に入る直前の状態にある。
シリンダボア32(32E)はピストン33が下死点へ向けて移動する位置にある吸入行程の状態である。
【0049】
図4に示す状態では、弁機構により駆動軸18の高圧側連絡孔65が高圧のシリンダボア32(32A)と連通する導通路60(60A)と連通する。
このとき、駆動軸18の低圧側連絡孔66は、低圧のシリンダボア32(32D)と連通する導通路60(60D)と連通する。
このため、シリンダボア32(32A)内の高圧残留ガスは、導通路60(60A)を通って環状空間75へ導入され、環状空間75から低圧側連絡孔66を通り、さらに導通路60(60D)を通り、シリンダボア32(32D)へ導入される。
なお、
図4では矢印Rにより冷媒ガスの流れを示す。
駆動軸18の軸方向において高圧側開口部67(および低圧側開口部68)から制御圧室16へ至る間の駆動軸18の外周面は全周にわたってシリンダブロック11と摺接し、軸孔17からの冷媒ガスの漏洩を抑制するシール機能を果たす。
また、駆動軸18の軸方向において高圧側開口部67(および低圧側開口部68)と駆動軸18のリヤ側端の間となる駆動軸18の外周面もシリンダブロック11と摺接し、軸孔17からの冷媒ガスの漏洩を抑制するシール機能を果たす。
【0050】
高圧のシリンダボア32(32A)内の高圧残留ガスが低圧のシリンダボア32(32D)へ導入されることにより、シリンダボア32(32A)内の圧力が吸入圧近くまで低下する。
シリンダボア32(32D)では、シリンダボア32(32A)内の高圧残留ガスが導入されることにより、シリンダボア32(32D)の圧力が吸入圧より僅かに高くなる。
【0051】
その後、駆動軸18が
図4に示す矢印方向へ回転し、弁機構により高圧側連絡孔65が導通路60(60A)と連通せず、また、低圧側連絡孔66がシリンダボア32(32D)と連通しない状態では、シリンダボア32(32A)は吸入行程にあり、シリンダボア32(32D)は圧縮行程にある。
さらに駆動軸18が回転し、弁機構により高圧側連絡孔65が導通路60(60E)と連通し、低圧側連絡孔66がシリンダボア32(32C)と連通する状態となる。
このとき、シリンダボア32(32E)内の高圧残留ガスは、導通路60(60E)を通って環状空間75へ導入され、環状空間75から低圧側連絡孔66を通り、さらに導通路60(60C)を通り、シリンダボア32(32C)へ導入される。
【0052】
ところで、圧縮機の運転中において、制御圧室16内におけるオイルは、ラジアル軸受、スラスト軸受24等の摺動部を潤滑する。
例えば、スラスト軸受24を潤滑したオイルはオイル経路25を通り、軸孔20において軸封装置21を冷却する。
さらに、オイルは孔64から連通孔61の小径孔部63を通り、筒状体の内側を通過し、貫通孔48を通じて吸入室へ導入される。
【0053】
この実施形態では以下の効果を奏する。
(1)駆動軸18に形成した高圧側連絡孔65、環状空間75および低圧側連絡孔66は、高圧のシリンダボア32の高圧残留ガスを低圧のシリンダボア32へバイパスする残留ガスバイパス通路を形成し、弁機構は軸孔17において残留ガスバイパス通路と導通路60との連通を可能とする。筒状体70を連通孔61に圧入することにより、連通孔61の空間の一部が残留ガスバイパス通路の一部である環状空間75を形成することができるほか、環状空間75の中心側となる小径孔部63はオイルを通す通路や、制御圧室16の冷媒ガスを制御する通路等、残留ガスバイパス通路以外の通路としての機能を果たすことが可能である。また、高圧側連絡孔65や低圧側連絡孔66は、簡単な孔加工により形成することができる。
(2)後端側嵌合部E1および先端側嵌合部E2を圧入の部位とすることにより筒状体70を駆動軸18に固定することができる。筒状体70を駆動軸18に固定することにより、環状空間75を形成することができる。筒状体70の後端側嵌合部E1および先端側嵌合部E2は冷媒ガスの漏洩を抑制するシール機能を果たすことができる。
【0054】
(3)連通孔61には、リヤハウジング13側の一端側からフロントハウジング12側の他端側へ向けて内径を大きく設定した大径孔部62と、大径孔部62から他端側へ向けて内径を小さく設定した小径孔部63とが形成される。このため、連通孔61の加工は高い加工技術を要求されることはなく生産性向上を図ることができる。また、筒状体70については、小径孔部63において駆動軸18と嵌合可能な小径筒部72と、大径孔部62において駆動軸18と嵌合可能な大径筒部71を形成すればよく、筒状体70の製作も容易である。
(4)残留ガスバイパス通路の一部である環状空間75が駆動軸18の内部に形成されることから、駆動軸18とシリンダブロック11との間の摺接面を多くすることができ、軸孔17からの冷媒ガスの漏洩を抑制しやすい構造とすることができる。
【0055】
(5)筒状体70は、駆動軸18の軸方向の移動を規制するシャフトストッパであり、シャフトストッパとしての筒状体70を利用することにより、部品点数を増やすことなく残留ガスバイパス通路の一部である環状空間75を形成することができる。従って、圧縮機の製作コストを抑制することができる。
(6)大径孔部62を軸方向において拡張すれば、環状空間75の空間を広くすることができるから、駆動軸18の外周面に連通溝を形成する場合と比較すると環状空間75の設定自由度が高くなる。このため、圧縮機に必要諸条件に対して適切な環状空間75を形成することができる。
【0056】
(7)残留ガスバイパス通路の一部となる環状空間75では、高圧残留ガスが筒状体70の小径筒部72の周囲を2方向から回り込むことができ、残留ガスバイパス通路における冷媒ガスの圧力損失を抑制することができる。また、残留ガスバイパス通路の一部が駆動軸18に形成した環状空間75であることから、環状空間75を設けても駆動軸18は回転時に安定したバランスを保つことができる。
(8)駆動軸18のシリンダブロック11と摺接する外周面には、潤滑剤を含むコーティング層が形成されている。駆動軸18を軸受によって支持する場合、駆動軸18とシリンダブロックの間には、軸受の厚さ分を含むクリアランスが生じる。クリアランスが大きいと、導通路60と高圧側連絡孔65、低圧側連絡孔66と導通路60との間で、軸孔17を介して冷媒ガスの漏れが生じるため、駆動軸18とシリンダブロック11のクリアランスを小さくするためにシリンダブロック11を段差形状に形成する等、加工する必要がある。駆動軸18の外周面にコーティング層を形成することにより、駆動軸18を回転可能に支持しつつ、駆動軸18とシリンダブロック11間のクリアランスを小さくすることができ、より適切に管理することができる。
【0057】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る圧縮機について説明する。
本実施形態の圧縮機も、車両に搭載される車両空調用の圧縮機であるが、筒状体の構成が先の実施形態と異なる。
第1の実施形態と共通の構成については、第1の実施形態の説明を援用して共通の符号を用いる。
【0058】
本実施形態の圧縮機では、
図5(a)および
図5(b)に示す筒状体80が圧入により駆動軸18に固定される。
本実施形態の筒状体80は、駆動軸18のリヤハウジング13側への移動を規制するシャフトストッパである。
本実施形態の筒状体80は、連通孔61の大径孔部62に挿入可能な外径寸法を有する大径筒部81と、小径孔部63に圧入可能な外形寸法を有する小径筒部82を有する。
大径筒部81と小径筒部82との間には、径方向に張設された環状の接続部83が形成されている。
大径筒部81の端部には径方向に張設された円環部84が形成されている。
筒状体80を内側の空間は小径筒部82より小さく設定された内径に設定されている。
従って、大径筒部81は大径孔部62に挿入可能であって、小径筒部82は小径孔部63において駆動軸18と圧入により嵌合可能である。
筒状体80の内側の空間は中心空間に相当する。
【0059】
大径筒部81の外周にわたって環状溝86が形成されており、環状溝86にシール手段としてのシール部材87が装着されている。
本実施形態のシール部材87は、弾性を有するゴム系材料に形成されたOリングである。
駆動軸18に筒状体80が固定された状態では、シール部材87は環状空間75から大径孔部62を通じた冷媒ガスの漏洩を防止する。
【0060】
筒状体80の小径筒部82における先端側嵌合部E2は、圧入により駆動軸18に固定され、筒状体80を駆動軸18に固定する機能のほか、冷媒ガスの漏洩を防止するシール機能を果たす。
筒状体80の小径筒部82における空間対向部E3は、小径孔部63において先端側嵌合部E2を除く部位は大径孔部62を臨む部位である。
【0061】
本実施形態によれば、第1の実施形態の作用効果(1)、(4)〜(8)と同等の作用効果を奏する。
さらに言うと、筒状体80は、駆動軸18に圧入される部位を小径筒部82先端側嵌合部E2のみとし、大径筒部81にシール部材を設ける構成としたため、複数の圧入の部位における圧入の荷重のばらつきは解消される。
従って、第1の実施形態と比較して筒状体80の製作がさらに容易となる。
また、シール部材87を用いているため、環状空間75から大径孔部62を通じた冷媒ガスの漏洩を確実に防止することができる。
【0062】
なお、第2の実施形態の変更例として、筒状体80の大径筒部81の外周面に環状溝86を形成せず、大径筒部81の外周面にわたって薄いゴム皮膜を形成したラバーコート部をシール手段として設けてもよい。
この場合、連通孔61の大径孔部62において筒状体80のラバーコート部が駆動軸18と密着して、環状空間75から大径孔部62を通じた冷媒ガスの漏洩を確実に防止することができる。
また、シール手段としては、ラバーコート部の形成に代えてシリコーンゴム等の流動性のある材料による液状ガスケットを用いてもよい。
なお、第1の実施形態の筒状体70についても、大径筒部71にラバーコート部を形成してもよく、あるいは、液状ガスケットを適用してもよい。
【0063】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る圧縮機ついて説明する。
本実施形態の圧縮機も、車両に搭載される車両空調用の圧縮機であるが、主に筒状体の構成が先の実施形態と異なる。
第1の実施形態と共通の構成については、第1の実施形態の説明を援用して共通の符号を用いる。
【0064】
本実施形態の圧縮機では、
図6(a)および
図6(b)に示す筒状体90が圧入により駆動軸18に固定される。
本実施形態の筒状体90は、駆動軸18のリヤハウジング13側への移動を規制するシャフトストッパである。
本実施形態の筒状体90は、連通孔61の大径孔部62に圧入可能な外径寸法を有する大径筒部91と、小径孔部63に挿入可能な外形寸法を有する小径筒部92を有する。
大径筒部91と小径筒部92との間には、径方向に張設された環状の接続部93が形成されている。
大径筒部91の端部には径方向に張設された円環部94が形成されている。
大径筒部91は大径孔部62に圧入により駆動軸18と嵌合可能であって、小径筒部92は小径孔部63において挿入可能である。
筒状体90の内側の孔は小径筒部92より小さく設定された内径に設定されている。
筒状体90の内側の空間は中心空間に相当する。
【0065】
本実施形態では、筒状体90が駆動軸18に固定された状態において、小径孔部63の内壁を形成する駆動軸18には、小径孔部63の全周にわたる環状溝96が形成されており、環状溝96にシール手段としてのシール部材97が装着されている。
本実施形態のシール部材97は、弾性を有するゴム系材料に形成されたOリングである。
駆動軸18に筒状体90が固定された状態では、シール部材97は環状空間75から小径孔部63を通じた冷媒ガスの漏洩を防止する。
なお、
図6(b)に示す筒状体90において、シール部材97が密着する密着部位Sを示す。
【0066】
本実施形態によれば、第1の実施形態の作用効果(1)、(4)〜(8)と同等の作用効果を奏する。
さらに言うと、筒状体90は、駆動軸18に圧入される部位を大径筒部91の後端側嵌合部E1のみとし、小径筒部92に環状溝を設ける必要がないため、第2の実施形態と比較して筒状体90の製作がさらに容易となる。
また、小径孔部63の内壁を形成する駆動軸18にシール部材97が装着されるため、環状空間75から大径孔部62を通じた冷媒ガスの漏洩を確実に防止することができる。
【0067】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係る圧縮機について説明する。
本実施形態の圧縮機も、車両に搭載される車両空調用の圧縮機であるが、筒状体の構成が第1の実施形態と異なる。
第1の実施形態と共通の構成については、第1の実施形態の説明を援用して共通の符号を用いる。
【0068】
本実施形態の圧縮機では、
図7(a)および
図7(b)に示すように、連通孔61の大径孔部62が、第1の実施形態の大径孔部62と比較して軸方向に大きく設定されている。
本実施形態の筒状体100は、駆動軸18のリヤハウジング13側への移動を規制するシャフトストッパであり、連通孔61の大径孔部62に圧入可能な外径寸法を有する。
【0069】
筒状体100は、外周には全周にわたり形成された環状凹部101を備える。
筒状体100において環状凹部101より軸方向における後端側には、大径孔部62に挿入可能な外形寸法を有する後端側筒部102が備えられている。
筒状体100において環状凹部101より軸方向における圧入の先端側には、大径孔部62に圧入可能な先端側筒部103が備えられている。
つまり、筒状体100には、環状凹部101を境にして同じ外径を有する後端側筒部102と先端側筒部103が形成されている。
後端側筒部102の外周面は、後端側嵌合部E1を形成し、先端側筒部103の外周面の殆どは先端側嵌合部E2を形成する。
後端側筒部102の端部には径方向に張設された円環部104が形成されている。
【0070】
本実施形態では、筒状体100が圧入により駆動軸18に固定されると、環状凹部101と大径孔部62を形成する駆動軸18の内壁により環状空間105が形成される。
環状空間105は第1の実施形態の環状空間75に相当する。
【0071】
本実施形態によれば、第1の実施形態の作用効果(1)、(4)〜(8)と同等の作用効果を奏する。
さらに言うと、筒状体100において駆動軸18に圧入される部位が後端側筒部102および先端側筒部103の2箇所であるが、後端側筒部102および先端側筒部103は互いに同径であるため、筒状体100は製作しやすい。
【0072】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態に係る圧縮機ついて説明する。
本実施形態の圧縮機も、車両に搭載される車両空調用の圧縮機であるが、主に筒状体の構成が第1の実施形態と異なるほか、駆動軸を支持するラジアル軸受を備える点で第1の実施形態と異なる。
第1の実施形態と共通の構成については、第1の実施形態の説明を援用して共通の符号を用いる。
【0073】
本実施形態の圧縮機では、
図8に示すように、駆動軸18はラジアル軸受115を介してシリンダブロック11に回転自在に支持されている。
図9(a)および
図9(b)に示すように、連通孔61は、第1の実施形態における小径孔部63と同径にて形成され、リヤハウジング13側の端部から、フロントハウジング12側の端部まで同一径に設定されている。
図9(a)に示すように、駆動軸18における連通孔61を形成する内壁には環状凹部110が形成されている。
環状凹部110は、径方向において連通孔61から駆動軸18の外周面へ窪む凹部であり、連通孔61を形成する駆動軸18の内壁全周にわたり形成され、高圧側連絡孔65および低圧側連絡孔66と連通する。
【0074】
本実施形態の筒状体111は、駆動軸18のリヤハウジング13側への移動を規制するシャフトストッパであり、筒状体111は、外径寸法が一定の筒部112を有する。
筒部112には連通孔61に圧入可能な外径寸法が設定されている。
筒部112の端部には径方向に張設された円環部113が形成されている。
筒状体111の外周面において軸方向における円環部113側には、圧入の部位としての後端側嵌合部E1が形成されている。
筒状体111の外周面において軸方向における円環部113の反対側の端部側には、圧入の部位としての先端側嵌合部E2が形成されている。
さらに、筒状体100の外周面における後端側嵌合部E1と先端側嵌合部E2との間には、環状凹部110と対向する空間対向部E3が形成されている。
【0075】
筒状体111が駆動軸18に圧入により固定された状態では、環状凹部110と筒部112とにより環状空間114が形成される。
環状空間114は第1の実施形態の環状空間75に相当する。
【0076】
本実施形態によれば、第1の実施形態の作用効果(1)、(4)〜(7)と同等の作用効果を奏する。
さらに言うと、筒部112において駆動軸18に圧入される部位が後端側嵌合部E1と先端側嵌合部E2の2箇所であるが、筒部112は外径寸法が一定に設定されているため、筒状体111は製作しやすい。
【0077】
なお、上記の実施形態(変形例を含む)は、本発明の一実施形態を示すものであり、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、下記のように発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【0078】
○ 上記の実施形態では、筒状体をシャフトストッパとしたが、筒状体はシャフトストッパに限定されない。駆動軸の軸方向の移動を規制する手段が別に設けられる場合、筒状体にシャフトストッパとしての機能を付加しなくてもよい。
○ 上記の実施形態では、高圧側開口部および低圧側開口部を長孔状に形成したが、長孔状に限定されない。高圧側開口部および低圧側開口部の形状は、例えば、円形であってもよい。また、高圧側連絡孔および低圧側連絡孔は断面円形の孔に限定されず、孔断面は長孔や楕円形であってもよい。
○ 上記の実施形態では、ピストン型圧縮機としての斜板式可変容量圧縮機について説明したが、ピストン型圧縮機は、斜板式固定容量圧縮機やワッブル式可変容量圧縮機でもよい。また、ピストン型圧縮機は、車両空調用の圧縮機に限定されない。
○ 上記の実施形態では、低圧側連絡孔を圧縮過程中のシリンダボアと連通させる構成としたが、低圧側連絡孔を吸入工程中のシリンダボアに連通させる構成としてもよい。
○ 上記の実施形態では、導通路はシリンダブロックに形成される構成としたが、弁機構がシリンダブロック後端より突出する場合、導通路をリヤハウジグングや別部材に形成してもよい。
○ 上記の第2、第3の実施形態では、筒状体又は駆動軸にシール部材を設ける構成としたが、第2、第3の実施形態を組み合わせ、筒状体および駆動軸の両方にそれぞれシール部材を設けてもよい。
○ 上記の第5を除く実施形態では、駆動軸のシリンダブロックと摺接する外周面には、潤滑剤を含むコーティング層を形成したが、コーティング層に含まれる潤滑剤は、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤であってもよい。また、コーティング層にはポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂をバインダ樹脂とし、二酸化チタン等の無機粒子、およびシランカップリング剤等のカップリング剤を含んでいてもよい。
○ 上記の第5の実施形態では、駆動軸がラジアル軸受を介してシリンダブロックに回転自在に支持されたが、第1〜第4の実施形態のように、ラジアル軸受を設けない構成でもよい。また、第1〜第4の実施形態において、駆動軸がラジアル軸受を介してシリンダブロックに回転自在に支持されてもよい。