特許第5741561号(P5741561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741561
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】ペリクル枠及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/64 20120101AFI20150611BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20150611BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20150611BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20150611BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20150611BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150611BHJP
【FI】
   G03F1/64
   C22F1/053
   C22C21/00 C
   C25D11/04 306
   C25D11/04 308
   C25D11/06 A
   !C22F1/00 670
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 683
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-265281(P2012-265281)
(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公開番号】特開2014-109748(P2014-109748A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年1月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(72)【発明者】
【氏名】田口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】小泉 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 章
(72)【発明者】
【氏名】古賀 聖和
(72)【発明者】
【氏名】谷津倉 政仁
【審査官】 松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−126762(JP,A)
【文献】 特開平08−283892(JP,A)
【文献】 特開2001−279359(JP,A)
【文献】 特開2009−003111(JP,A)
【文献】 特開2010−146027(JP,A)
【文献】 特開2010−237282(JP,A)
【文献】 特開2013−007762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00−1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Zn−Mg系アルミニウム合金からなるアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠であって、アルミフレーム材は、Mg2Si晶出物の円相当径が7μm以下であると共に、円相当径1μm以上のMg2Si晶出物の占める面積比が0.10%未満であり、かつ、AlCuMg晶出物、Al−Fe系晶出物、及びAl2CuMg晶出物の円相当径がいずれも9μm以下であると共に、円相当径1μm以上のAlCuMg晶出物、Al−Fe系晶出物、及びAl2CuMg晶出物の占める面積比の合計が0.20%未満である組織を有し、また、陽極酸化皮膜は、ジカルボン酸塩、及びトリカルボン酸塩からなる群より選ばれたいずれか1種又は2種以上を電解質として含んだアルカリ性の電解液で陽極酸化処理して得られたものであることを特徴とするペリクル枠。
【請求項2】
アルミフレーム材は、JIS A7075規格を満たし、かつ、Mgを2.6質量%以下、Cuを1.6質量%以下、Crを0.28質量%以下、Feを0.07質量%以下、及び、Siを0.04質量%以下に規制した成分組成を有するDC鋳造ビレットを460℃以上の温度で合計12時間以上加熱保持する均質化処理が施されて得られたものである請求項1に記載のペリクル枠。
【請求項3】
前記均質化処理が、460℃以上の温度で合計12時間以上加熱保持する第1の均質化処理と、第1の均質化処理より高い温度で合計1時間以上保持する第2の均質化処理とを含む請求項2に記載のペリクル枠。
【請求項4】
陽極酸化皮膜が黒色染料で染色されている請求項1〜3のいずれかに記載のペリクル枠。
【請求項5】
Al−Zn−Mg系アルミニウム合金からなるアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠の製造方法であって、JIS A7075規格を満たし、かつ、Mgを2.6質量%以下、Cuを1.6質量%以下、Crを0.28質量%以下、Feを0.07質量%以下、及び、Siを0.04質量%以下に規制した成分組成を有するDC鋳造ビレットを460℃以上の温度で12時間以上加熱保持して均質化処理した後、押出加工してアルミ押出形材を得て、該アルミ押出形材から所定の形状のアルミフレーム材を切り出し、ジカルボン酸塩、及びトリカルボン酸塩からなる群より選ばれたいずれか1種又は2種以上を電解質として含んだアルカリ性の電解液で陽極酸化処理して陽極酸化皮膜を形成することを特徴とするペリクル枠の製造方法。
【請求項6】
前記均質化処理が、460℃以上の温度で合計12時間以上加熱保持する第1の均質化処理と、第1の均質化処理より高い温度で合計1時間以上保持する第2の均質化処理とを含む請求項5に記載のペリクル枠の製造方法。
【請求項7】
陽極酸化皮膜を形成した後、更に黒色染料を用いて染色処理を行う請求項5又は6に記載のペリクル枠の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体基板にICやLSIの回路パターンを転写する場合などに用いられるペリクル装置のペリクル枠、及びその製造方法に関し、詳しくは、ヘイズの発生を防ぐことができると共に、集光灯下で表面がきらつく欠陥を低減したペリクル枠、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペリクル装置は、フォトマスクやレティクルに合わせた形状を有するペリクル枠に透明な光学的薄膜体(ペリクル膜)を展張して接着したものであり、異物がフォトマスクやレティクル上に直接付着するのを防止する。また、仮にペリクル膜に異物が付着したとしても、半導体基板等にこれらの異物は結像しないため、正確な回路パターンが転写できるなど、フォトリソグラフィー工程における製造歩留まりを向上させることができる。
【0003】
近年、半導体装置等の高集積化に伴い、より狭い線幅で微細な回路パターンの描画が求められるようになり、フォトリソグラフィー工程で使用される露光光源は短波長光が主になっている。この短波長の光源は高出力であって光のエネルギーが高いことから、ペリクル枠を形成するアルミフレーム材の表面の陽極酸化皮膜に硫酸やリン酸等の無機酸が残存すると、露光雰囲気中に存在するアンモニア等の塩基性物質と反応して硫酸アンモニウム等の反応生成物が生じ、この反応生成物(ヘイズ)がくもりを生じさせて転写像に影響を与える問題がある。
【0004】
そこで、酒石酸又はその塩を含んだ電解液による陽極酸化処理によってアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を形成することで、硫酸やリン酸等の無機酸の量を低減して、高エネルギーの光の照射下においてもヘイズの発生を可及的に防止したペリクル枠が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
一方で、半導体装置等の製造過程ではパーティクルの管理を厳重に行なう必要があり、ペリクル装置においても、通常は、目視又は検査装置で塵が付着していないかどうかの確認が行なわれる。その際、ペリクル枠の表面で白点として視認される皮膜欠陥が細かな塵と紛らわしいため、この検査作業を妨げてしまうといった問題がある。
【0006】
このような白点の皮膜欠陥について、アルミフレーム材を形成する金属組織に含まれる晶出物が陽極酸化皮膜を黒色に染色する際の染色液によって腐食し、陽極酸化皮膜から欠落するのが原因であるとの推考のもと、アルミフレーム材を形成するJIS 7075アルミニウム合金の成分組成を特定し、更に、陽極酸化処理後のアルミフレーム材を黒色系染料で染色する際に、アルミフレーム材を染料液内で揺動させることで、染色抜けや白点の発生を少なくできることが報告されている(特許文献2参照)。
【0007】
ところが、上述したような半導体装置等における回路パターンの細線化は益々進行しており、それに伴い、ペリクル装置における検査基準もより一層厳しくなっている。そのため、蛍光灯下の目視による検査のみならず、集光灯を照射したときに光の反射を伴う白点、すなわち集光灯下でペリクル枠の表面がきらつく欠陥についても塵と誤認される可能性があるとして、それを減らすことが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−237282号公報
【特許文献2】特許第3777987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況のもと、ヘイズの発生を防ぐために硫酸を用いずに、ジカルボン酸やトリカルボン酸等の有機酸の塩を電解質として含んだアルカリ性の電解液で陽極酸化皮膜を形成した場合に、集光灯下で表面がきらつく欠陥が低減され難いといった新たな問題が発生した。その原因について、本発明者らが鋭意研究を行ったところ、上記特許文献2で検討されているような、陽極酸化処理後の染色工程において染色液によって晶出物が腐食し、それが皮膜から欠落して白点として視認される皮膜欠陥とは異なり、アルミフレーム材に含まれた晶出物そのものが集光灯下できらつくことが判明した。なかでもMg2Siがきらつきの主たる原因であり、それと共にAlCuMg、Al−Fe系晶出物(AlmFe或いはAl7Cu2Fe)、及びAl2CuMgもその原因となることを突き止めた。
【0010】
そこで、上記特許文献2に記載されたアルミフレーム材について更なる改良を重ねたところ、アルミフレーム材を形成するAl−Zn−Mg系アルミニウム合金について、JIS A7075規格を満たしながら、尚且つ、Mg、Cu、Cr、Fe、及び、Siの含有量を規制した成分組成にすることで、上記のような有機酸塩を電解質として含んだアルカリ性の電解液で陽極酸化皮膜を形成した場合であっても、皮膜内に残存するMg2Si等の特定の晶出物に起因した集光灯下でのきらつきを低減することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
したがって、本発明の目的は、ヘイズの発生を防ぐことができると共に、集光灯下で表面がきらつく欠陥を低減したペリクル枠を提供することにある。
【0012】
また、本発明の別の目的は、ヘイズの発生を防ぐことができると共に、集光灯下で表面がきらつく欠陥を低減することができるペリクル枠の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金からなるアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠であって、アルミフレーム材は、Mg2Si晶出物の円相当径が7μm以下であると共に、円相当径1μm以上のMg2Si晶出物の占める面積比が0.10%未満であり、かつ、AlCuMg晶出物、Al−Fe系晶出物、及びAl2CuMg晶出物の円相当径がいずれも9μm以下であると共に、円相当径1μm以上のAlCuMg晶出物、Al−Fe系晶出物、及びAl2CuMg晶出物の占める面積比の合計が0.20%未満である組織を有し、また、陽極酸化皮膜は、ジカルボン酸塩、及びトリカルボン酸塩からなる群より選ばれたいずれか1種又は2種以上を電解質として含んだアルカリ性の電解液で陽極酸化処理して得られたものであることを特徴とするペリクル枠である。
【0014】
また、本発明は、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金からなるアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠の製造方法であって、JIS A7075規格を満たし、かつ、Mgを2.6質量%以下、Cuを1.6質量%以下、Crを0.28質量%以下、Feを0.07質量%以下、及び、Siを0.04質量%以下に規制した成分組成を有するDC鋳造ビレットを460℃以上の温度で12時間以上加熱保持して均質化処理した後、押出加工してアルミ押出形材を得て、該アルミ押出形材から所定の形状のアルミフレーム材を切り出し、ジカルボン酸塩、及びトリカルボン酸塩からなる群より選ばれたいずれか1種又は2種以上を電解質として含んだアルカリ性の電解液で陽極酸化処理して陽極酸化皮膜を形成することを特徴とするペリクル枠の製造方法である。
【0015】
本発明において、ペリクル枠を形成するアルミフレーム材は、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金を用いるようにする。Al−Zn−Mg系アルミニウム合金は、アルミニウム合金のなかでも最も強度を有するものであり、高い寸法精度が実現されるほか、使用時の外力による変形や傷付きを防ぐことができるなど、ペリクル枠を得るのに適している。
【0016】
このようなAl−Zn−Mg系アルミニウム合金の代表例はJIS規定のA7075アルミニウム合金であり、本発明では、JIS A7075規格を満たしながら、その成分組成を更に特定することで、Mg2Si晶出物の円相当径が7μm以下、好ましくは4μm以下であると共に、円相当径1μm以上のMg2Si晶出物の占める面積比が0.10%未満、好ましくは0.05%未満であり、かつ、AlCuMg晶出物、AlmFe(3≦m≦6)あるいはAl7Cu2FeのAl−Fe系晶出物、及びAl2CuMg晶出物の円相当径がいずれも9μm以下、好ましくは6μm以下であると共に、円相当径1μm以上のAlCuMg晶出物、Al‐Fe系晶出物(AlmFeあるいはAl7Cu2Fe)、及びAl2CuMg晶出物の占める面積比の合計が0.20%未満、好ましくは0.1%未満の組織を有するアルミフレーム材を用いるようにする。
【0017】
ここで、各晶出物の円相当径とは、アルミフレーム材の切断面を測定面とし、そこに存在する晶出物の各個の面積を円相当に置き換えた時の直径を指すものである。また、各晶出物の占める面積比とは、測定面を画像解析して求めたそれぞれの晶出物の占める面積割合をいう。各晶出物は、それぞれX線回折で同定することができ、また、Mg2Siについては、水酸化ナトリウム液、ふっ酸等のようなエッチング液を用いて同定することも可能である(40周年記念事業実行委員会記念出版部会編,『アルミニウムの組織と性質』,1991,軽金属学会,p15参照)。
【0018】
すなわち、本発明においては、JIS A7075規格を満たし、かつ、Mgが2.6質量%以下、Cuが1.6質量%以下、Crが0.28質量%以下、Feが0.07質量%以下、及び、Siが0.04質量%以下の成分組成を有したAl−Zn−Mg系アルミニウム合金からアルミフレーム材を形成するようにする。なお、参考までに、JIS規格のA7075アルミニウム合金の化学成分を表1に示す(旧軽金属圧延工業会 アルミニウムハンドブック編集委員会編,1978,『アルミニウムハンドブック』,社団法人軽金属協会,p13の表2.1より引用)。
【0019】
【表1】
【0020】
Mg及びSiがそれぞれ上記範囲を超えて含まれると、アルミフレーム材におけるMg2Siの量が増して、Mg2Si晶出物の円相当径が7μm以下である条件と、円相当径1μm以上のMg2Si晶出物の占める面積比が0.10%未満である条件とを共に満たすことができなくなる。このMg2Siは、一般に、硫酸浴電解による陽極酸化処理では溶解するため(例えば、アルミニウム材料の基礎と工業技術編集委員会編,1985,『アルミニウム材料の基礎と工業技術』,社団法人軽金属協会,p226参照)、上記特許文献2記載の発明においては、集光灯下で表面がきらつく欠陥の原因にならなかったことが予想される。これに対して、アルカリ性の電解液では、Mg2Siは溶解し難いことから(例えば、40周年記念事業実行委員会記念出版部会編,『アルミニウムの組織と性質』,1991,軽金属学会,p15参照)、本発明では、JIS規格のA7075アルミニウム合金について、上記のように更にその成分組成を特定し、Mg2Si晶出物の円相当径及び面積比を制御する。
【0021】
同様に、Cu及びFeについては、上記範囲を超えると、Al−Cu−Fe系の化合物やAl−Cu−Mg系の化合物等の量が多くなり、これらの晶出物も集光灯下でペリクル枠の表面がきらつく欠陥の要因になるため、成分組成において規制する必要がある。すなわち、従来技術での一般的なJIS規格のA7075アルミニウム合金では、最大長が20μm程度の粗大な晶出粒と、最大長が10μm程度の比較的小さな晶出粒とが集光灯下できらつく原因と考えられる。このうち粗大な晶出粒はMg2Siであり、比較的小さな晶出粒にはMg2Siのほか、AlCuMg、Al‐Fe系晶出物(AlmFe或いはAl7Cu2Fe)、及びAl2CuMgが含まれることから(Mg2Siは比較的大きな晶出粒と小さな晶出粒との両方に認められる)、Al−Cu−Fe系やAl−Cu−Mg系の化合物の量を減らすために、Cu及びFeについてもその含有量を規制する必要がある。
【0022】
更に、Crについては、DC鋳造ビレットの押出時の繊維状組織を微細化させると共に溶体化熱処理における再結晶粒の成長を防止し、一部再結晶組織が生じたとしても実質的に繊維状組織による強度を付与するためのもので、下限値未満ではその効果が少なく、上限値を超えると系の粗大な晶出粒が生じて、陽極酸化処理後の染色時に白点の欠陥を生じるおそれがあり、また、押出性も低下させてしまう。
【0023】
本発明におけるアルミフレーム材を得るにあたっては、上述したような化学成分組成を有するDC鋳造ビレットを460℃以上の温度で合計12時間以上加熱保持して均質化処理した後、押出加工してアルミ押出形材を得て、所定の形状のアルミフレーム材を切り出すようにすればよい。鋳造に際して、DC鋳造法は溶湯が急冷されて晶出物が小さく晶出する点で好適である。合金組成の溶湯を溶製する際には、例えば、Al溶湯中に合金元素を金属のまま添加したり、或いは母合金で添加することができる。そして、脱ガス処理後、必要に応じてフィルターを通過してビレットに鋳造する。
【0024】
また、均質化処理については、必ずしも一定の温度で保持する必要はなく、例えば460℃で2時間保持した後、470℃で10時間保持するなどして460℃以上の温度での加熱時間が合計で12時間以上になるようにしてもよい。ここで、Mg2Si、AlCuMg、Al‐Fe系晶出物(AlmFe或いはAl7Cu2Fe)、及びAl2CuMgの各晶出物の円相当径及び面積比の制御をより確実にする観点から、好ましくは、460℃以上の温度で合計12時間以上加熱保持する第1の均質化処理に加えて、この第1の均質化処理より高い温度で合計1時間以上保持する第2の均質化処理を行うようにするのがよい。すなわち、上記例の460℃×2時間+470℃×10時間を第1の均質化処理とすれば、第2の均質化処理として、例えば480℃×10時間+500℃×10時間の加熱保持を行うようにする。その際、Mg2Siは500℃まで加熱すると固溶することから、第2の均質化処理には500℃以上の温度で1時間以上加熱保持する工程を含むようにするのがより好ましい。なお、母材のアルミニウムが溶出してしまうことなどを考慮すると、均質化処理の加熱温度の上限は実質的に600℃である。また、第1及び第2の均質化処理は、いずれもその効果が飽和することや経済性等を考慮すると、その上限は40時間である。
【0025】
均質化処理後は、押出加工してペリクル枠の寸法に相当する中空のアルミ押出形材を得るようにするが、このアルミ押出形材を溶体化焼入処理したり、更に時効硬化処理を行うようにしてもよい。このうち、溶体化焼入処理は、その後の処理で強度を出すためのものであり、例えば480℃程度の温度までの間で加熱し、0.5〜5時間程度保持するのが一般的である。また、焼入処理は、高温で処理した固溶状態から急冷し、室温において過飽和固溶状態にしてその後の処理で強度を出すためのものである。更に、時効硬化処理は、合金元素を含む化合物を時効析出させて強度を付与するためのものであり、好適には、JIS H0001記載の調質条件に従うのがよく、最も好適には調質記号T651で処理するのがよい。
【0026】
上記で得られたアルミ押出形材から所定の形状のアルミフレーム材を切り出した後に、本発明では、ジカルボン酸塩及び/又はトリカルボン酸塩を電解質として含んだアルカリ性の電解液で陽極酸化処理し、アルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を形成する。上記のような有機酸塩としては、水に可溶な有機酸の塩であればよく、例えば、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩等を挙げることができる。このうち、酒石酸塩を例にとると、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、酒石酸アンモニウム等の酒石酸塩等を好適に用いることができ、他のジカルボン酸塩、トリカルボン酸塩についても同様の塩を好適に用いることができる。なお、少なくとも上記のようなジカルボン酸塩やトリカルボン酸塩の1種を電解質として含んだアルカリ性の電解液であればよく、また、2種以上を電解質として含むようにしてもよい。
【0027】
ジカルボン酸塩やトリカルボン酸塩を電解質として含んだ電解液のpHや、電解液に含まれるジカルボン酸塩やトリカルボン酸塩の濃度、更には、浴温度、陽極酸化処理の電圧、電気量等の各処理条件については、それぞれ使用するジカルボン酸塩やトリカルボン酸塩の種類によっても異なるため一概に特定するのは難しい。そのため、酒石酸塩の場合を例にして説明すると以下のとおりである。
【0028】
すなわち、酒石酸塩の濃度については13〜200g/Lであるのがよく、好ましくは25〜150g/Lであるのがよい。濃度が13g/Lより低いと陽極酸化皮膜は形成され難く、反対に200g/Lより高いと低温での陽極酸化の際に酒石酸塩が析出するおそれがある。また、pHは12.25〜13.25であるのがよく、好ましくは12.5〜13.0であるのがよい。pHが12.25より低いと皮膜の生成速度が遅くなる傾向があり、反対に13.25より高くなると皮膜の溶解速度が速くなって、粉吹き等が発生するおそれがある。また、浴温度については0〜15℃にするのがよく、好ましくは5〜10℃にするのがよい。浴温度が0℃より低くなると皮膜の生成速度が遅くなり効率的ではなく、反対に15℃より高くなると皮膜の溶解速度が速くなり成膜に時間を要したり、粉吹き等が生じるおそれがある。更に、陽極酸化処理の電圧は10〜60Vであるのがよく、好ましくは20〜40Vであるのがよい。電圧が10Vより低いと皮膜が弱くなるおそれがあり、反対に60Vより高くなるとポアの面積が少なくなり、後に黒色染料等で染色する際に十分黒色化するのが困難になる。
【0029】
また、先に述べたように、Mg2Siはアルカリ性の電解液では溶解し難いが、AlCuMg、Al‐Fe系晶出物(AlmFe或いはAl7Cu2Fe)、及びAl2CuMgはわずかながらに溶解すると考えられる。そのため、陽極酸化の速度を遅くなるようにすると、陽極酸化皮膜内に残存してきらつきの原因となるこれらの晶出物を小さくすることも可能である。陽極酸化処理の速度は、電解液中のアルカリ濃度が一定の場合でも溶存アルミニウム(Al)量で変化させることができ、この溶存Al量が多いほど陽極酸化の速度は遅くなる。そこで、好ましくは、陽極酸化処理の際に溶存Al量を0.2〜0.4g/Lの範囲内に制御するのがよい。
【0030】
陽極酸化処理後は、露光光の散乱防止や使用前の異物付着検査を容易にするなどの目的から、陽極酸化皮膜を黒色化するのがよい。この黒色化処理は公知の方法を採用することができ、黒色染料による処理や電解析出処理(二次電解)等が挙げられるが、好ましくは黒色染料を用いた染色処理であるのがよく、より好ましくは有機系の黒色染料を用いるのがよい。一般に有機系染料は酸成分の含有量が少ないとされ、なかでも、硫酸、酢酸、及びギ酸の含有量が少ない有機系染料を用いるのが最も好適である。このような有機系染料として、市販品の「TAC411」、「TAC413」、「TAC415」、「TAC420」(以上、奥野製薬製)等を挙げることができ、所定の濃度に調製した染料液に陽極酸化処理後のアルミフレーム材を浸漬させて、処理温度40〜60℃、pH5〜6の処理条件で10分間程度の染色処理を行うようにするのがよい。
【0031】
また、黒色化後は陽極酸化皮膜を封孔処理するのがよい。封孔処理は特に制限されず、水蒸気や封孔浴を用いるような公知の方法を採用することができるが、なかでも、不純物の混入のおそれを排除しながら、酸成分の封じ込めを行う観点から、好ましくは、水蒸気による封孔処理であるのがよい。水蒸気による封孔処理の条件については、例えば、温度105〜130℃、相対湿度90〜100%(R.H.)、圧力0.4〜2.0kg/cm2Gの設定で12〜60分程度処理すればよい。また、封孔処理後は、例えば純水を用いて洗浄するのが望ましい。
【0032】
更に、本発明においては、陽極酸化処理に先駆けて、アルミフレーム材の表面をブラスト加工等による機械的手段や、エッチング液を用いる化学的手段によって粗面化処理を行うようにしてもよい。このような粗面化処理を事前に施しておくことで、得られるペリクル枠が艶消しされたような低反射性の黒色になる。
【0033】
本発明のペリクル枠は、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金の成分組成を規制して、Mg2Si等の晶出物の円相当径、及びそれらの晶出物のうち円相当径が1μm以上のものが占める面積比が所定の条件を満たす組織を有したアルミフレーム材を用いることから、所定の有機酸塩を電解質として含んだアルカリ性の電解液で陽極酸化皮膜を形成しても、集光灯下で表面がきらつく欠陥を低減することができる。加えて、本発明のペリクル枠は、80℃の純水に4時間浸漬させて溶出したイオン濃度を測定するイオン溶出試験において、以下のような特性を示すことができる。
【0034】
すなわち、すなわち、ペリクル枠表面積100cm2あたりの純水100ml中への溶出濃度で、ヘイズの発生に最も影響を与えるイオンである硫酸イオン(SO42-)が0.01ppm以下、好ましくは0.005ppm未満(定量限界)であり、硫酸イオンの溶出量を制御したことで、ヘイズの発生を可及的に低減できる。なお、溶出イオンの検出はイオンクロマトグラフ分析により行うことができ、詳細な測定条件については実施例に記載するとおりである。
【0035】
本発明のペリクル枠は、その片側に石英等の無機物質や、ニトロセルロース、ポリエチレンテレフタレート、セルロースエステル類、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル等の高分子膜からなる光学的薄膜体(ペリクル膜)を展張して貼着し、また、光学的薄膜体を設けた面とは反対側のペリクル枠の端面には、フォトマスクやレティクルに装着するための粘着体を備えるようにすることでペリクル装置として使用することができる。また、光学的薄膜体には、CaF2等の無機物やポリスチレン、テフロン(登録商標)等のポリマーからなる反射防止層などを備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、所定の有機酸塩を電解質として含んだアルカリ性の電解液で陽極酸化皮膜を形成したことでヘイズの発生を可及的に抑えることができ、しかも、Mg2Si、AlCuMg、Al‐Fe系晶出物(AlmFe或いはAl7Cu2Fe)、及びAl2CuMgに着目して、これらの晶出物の円相当径と組織内で占める面積比とを特定したアルミフレーム材を用いたことで、集光灯下で表面がきらつく欠陥を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、実施例で作製した中空押出形材、及び、これから切り出したアルミフレーム材を説明する模式図である。
図2図2は、実施例で使用したアルミフレーム材の切断面を光学顕微鏡で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明の好適な実施の形態を説明する。
【実施例】
【0039】
(アルミフレーム材iの作製)
表2に示した合金組成Aを有するように、DC鋳造法によりビレットを作製した後、大気中で460℃、2時間加熱保持し、その後100℃/時の速度で昇温して470℃で10時間加熱保持する均質化処理を行った。次いで、均質化処理後のビレットを所定の長さに切断した後、押出加工を行い、図1に示したような長方形型の中空押出形材1を得た。そして、この中空押出形材1をJIS H0001に示される調質条件T651で人工時効硬化処理を施し、押出方向に対して垂直になるように切断し(輪切り)、機械加工して、枠型形状をなす外形寸法149mm×122mm×厚さ5.8mmのアルミフレーム材iを合計50枚作製した。
【0040】
(アルミフレーム材iiの作製)
上記アルミフレーム材iでの均質化処理に加えて、更に100℃/時の速度で480℃に昇温し、480℃で10時間加熱保持し、その後100℃/時の速度で昇温して、500℃で10時間加熱保持する均質化処理を追加して行った以外は上記アルミフレーム材iの場合と同様にして、合計50枚のアルミフレーム材iiを作製した。
【0041】
(アルミフレーム材iiiの作製)
表2に示した合金組成Bを有するように、DC鋳造法によりビレットを作製した後、上記アルミフレーム材iの場合と同様にして、合計50枚のアルミフレーム材iiiを作製した。
【0042】
【表2】
【0043】
上記で得られたアルミフレーム材i〜iiiについて、それぞれ1枚を抜き出して、各アルミフレーム材の切断面(中空押出形材1の押出方向に対して垂直な面)を光学顕微鏡で撮影した。そして、撮影画像から9.96×105μm2の観察視野を任意に選び出し、画像解析装置(ルーゼックス)を用いて、観察視野内の晶出物の円相当径と円相当径が1μm以上の晶出物の面積を測定した。
【0044】
ここで、アルミフレーム材iiiの切断面の写真を図2(A)に示す。この写真において、比較的濃く写っているものがMg2Si晶出物であり(実線円で囲ったもの)、最も大きなものでその最大長はおよそ20μmである。一方、Mg2Si晶出物よりも薄く写っているものがそれ以外の晶出物である(破線円で囲ったもの)。これに対して、アルミフレーム材iの切断面の写真は図2(B)であり、アルミフレーム材iiiに比べて、いずれの晶出物も微細化され、その数も少なくなっていることが分かる。また、アルミフレーム材iiの切断面の写真は図2(C)であり、アルミフレーム材i、iiiに比べて、いずれの晶出物も更に微細化され、その数も少なくなっていることが分かる。そして、アルミフレーム材i及びiiiにおけるその切断面で観察されたMg2Si晶出物以外の晶出物について、それらの成分組成をX線解析により同定したところ、表3に示したように、AlCuMg、Al−Fe系晶出物(AlmFe(3≦m≦6)或いはAl7Cu2Fe)、及びAl2CuMgであることが分かった。なお、Mg2Si晶出物は、ふっ酸を用いたエッチングによりMg2Siであることを確かめた。また、図2(A)〜(C)において、向かって左側の写真に示された四角の破線囲みは、向かって右側の写真の中で示された最も大きいMg2Siを表す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示したX線回折結果から分かるように、アルミフレーム材iiiでは、Mg2Si、AlCuMg、Al−Fe系(AlmFe又はAl7Cu2Fe)、及びAl2CuMgのうち、これら全てが検出されるのに対して、アルミフレーム材iからはAlCuMgのみしか検出されていない。すなわち、AlmFe、Al2CuMg、及びMg2Siの量は少なく、小さくなっていることが確認された。なお、表3に示したX線回折の結果は、各相を代表するピークの回折角度(2θ)と積分回折強度の値(単位:kcounts)を示す。これらは、アルミフレーム材ごとに3回測定して、その平均(ave.)と標準偏差(std.)を併せて示している。
【0047】
上記のような画像解析装置を用いた測定を、各アルミフレーム材についてそれぞれ58の累積視野数に対して行い、Mg2Si晶出物の円相当径の最大値及び平均値を求めると共に、累積視野の総面積に対して円相当径が1μm以上のMg2Si晶出物が占める面積の割合(面積比)を求めた。結果を表4に示す。同様にして、AlCuMg晶出物、Al−Fe系晶出物(AlmFe或いはAl7Cu2Fe)、及びAl2CuMg晶出物の円相当径の最大値及び平均値を求めると共に、累積視野の総面積に対して円相当径1μm以上のAlCuMg晶出物、Al−Fe系晶出物(AlmFe或いはAl7Cu2Fe)、及びAl2CuMg晶出物の占める合計面積の割合(面積比)を求めた。結果を表5に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
[実施例1]
上記で得られたアルミフレーム材iに対して、平均粒径が約100μmのステンレスを用いてショットブラスト処理を行った後、酒石酸ナトリウム2水和物(Na2C4H4O6・2H2O)53g/L、及び水酸化ナトリウム4g/Lが溶解したアルカリ性水溶液(pH=13.0)を電解液として、浴温度5℃、電解電圧40Vの定電圧電解を15分間行って、上記アルミフレーム材iを陽極酸化処理した。その際、ダミー材の陽極酸化を実施して電解液中の溶存Al量が0.3g/Lになるように制御した。そして、純水にて洗浄した後、アルミフレーム材の表面に形成された陽極酸化皮膜を渦電流式膜厚計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ社製)にて確認したところ、膜厚は5μmであった。
【0051】
次いで、陽極酸化処理したアルミフレーム材に対して、有機染料(奥野製薬製TAC411)を濃度10g/Lで含有した水溶液に入れ、温度55℃にて10分間浸漬して染色処理した。染色処理後、蒸気封孔装置に入れて、相対湿度100%(R.H.)、2.0kg/cm2G、及び温度130℃の水蒸気を発生させながら30分の封孔処理を行い、実施例1に係る試験用ペリクル枠を得た。
【0052】
上記のようにして実施例1に係る試験用ペリクル枠を合計50枚作製し、これら全ての試験用ペリクル枠について、蛍光灯下の目視、及び、照度30万1x(ルックス)の集光灯下での目視によって、それぞれ光の反射を伴う白点の発生している枚数を確認した(白点がひとつでも存在すれば1枚と数える)。結果は表6に示したとおりであり、蛍光灯下の目視、及び、照度30万1xの集光灯下の目視によって、いずれも白点は観察されなかった。
【0053】
また、実施例1に係る試験用ペリクル枠の1枚をポリエチレン袋に入れて、純水100mlを加えて密封し、80℃に保って4時間浸漬した後、溶出成分を抽出した抽出水をセル温度35℃、カラム(IonPacAS11-HC)温度40℃とし、1.5ml/minの条件でイオンクロマトグラフ分析装置(日本ダイオネクス社製ICS-2000)を用いて分析した。この抽出水から酢酸イオン、ギ酸イオン、塩酸イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン及びシュウ酸イオンを検出し、ペリクル枠表面積100cm2あたりの純水100ml中への溶出濃度を求めた。そして、ヘイズと最も密接に関係している硫酸イオンが、ここで使用したイオンクロマトグラフ分析装置の定量限界(下限)0.005ppm未満のものについてヘイズ評価を○とし、0.005ppm以上のものについてヘイズ評価を×とした。結果は表4に示したとおりであり、上記評価によれば、実施例1に係る試験用ペリクル枠はヘイズの発生が抑制されることが分かった。
【0054】
【表6】
【0055】
[実施例2]
アルミフレーム材iiを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る試験用ペリクル枠を合計50枚作製した。これら全ての試験用ペリクル枠について、蛍光灯下の目視、及び、照度30万1x(ルックス)の集光灯下での目視によって、それぞれ光の反射を伴う白点の発生している枚数を確認したところ、いずれも白点は観察されなかった。また、実施例1と同様にして、ペリクル枠表面積100cm2あたりの純水100ml中への各イオンの溶出濃度を測定し、ヘイズの発生の有無を評価した。これらの結果をまとめて表6に示す。
【0056】
[実施例3]
クエン酸ナトリウム2水和物(Na3C6H5O7・2H2O)120g/L、及び水酸化ナトリウム4g/Lが溶解したアルカリ性水溶液(pH=13.0)を電解液としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る試験用ペリクル枠を合計50枚作製した。これら全ての試験用ペリクル枠について、蛍光灯下の目視、及び、照度30万1x(ルックス)の集光灯下での目視によって、それぞれ光の反射を伴う白点の発生している枚数を確認したところ、いずれも白点は観察されなかった。また、実施例1と同様にして、ペリクル枠表面積100cm2あたりの純水100ml中への各イオンの溶出濃度を測定し、ヘイズの発生の有無を評価した。これらの結果をまとめて表6に示す。
【0057】
[比較例1]
アルミフレーム材iiiを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る試験用ペリクル枠を合計50枚作製した。これら全ての試験用ペリクル枠について、蛍光灯下の目視、及び、照度30万1x(ルックス)の集光灯下での目視によって、それぞれ光の反射を伴う白点の発生している枚数を確認したところ、蛍光灯下で白点が観察されたものが18枚あり、集光灯下で白点が観察されたものが25枚存在した。また、実施例1と同様にして、ペリクル枠表面積100cm2あたりの純水100ml中への各イオンの溶出濃度を測定してヘイズの発生の有無を評価したところ、実施例1の場合と同様の結果であることが分かった。
【0058】
[比較例2〜4]
電解液として160g/Lの硫酸水溶液を用い、浴温度20℃で電解電圧17Vの定電圧電解を19分行った以外は実施例1と同様にし、アルミフレーム材iを用いた場合(比較例2)、アルミフレーム材iiを用いた場合(比較例3)、及びアルミフレーム材iiiを用いた場合(比較例4)について、それぞれ合計50枚の試験用ペリクル枠を作製した。
【0059】
得られた比較例2〜4に係る各試験用ペリクル枠について、実施例1と同様に蛍光灯下の目視、及び、照度30万1x(ルックス)の集光灯下での目視によって、それぞれ光の反射を伴う白点の発生している枚数を確認したところ、比較例2及び3の試験用ペリクル枠では、いずれも白点は観察されなかった。一方、比較例4の試験用ペリクル枠では、蛍光灯下で白点が観察されたものが2枚あり、集光灯下で白点が観察されたものが3枚確認された。
【0060】
また、実施例1と同様にして、ペリクル枠表面積100cm2あたりの純水100ml中への各イオンの溶出濃度を測定したところ、比較例2〜4のペリクル枠では、いずれもヘイズが発生する可能性が高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のペリクル枠を用いたペリクル装置は、高エネルギーの露光環境下において特に優れた効果を発揮し、また、塵と誤認されるようなペリクル枠の表面がきらつく欠陥が低減されたことから、今後益々細線化が進む半導体装置等の製造の分野において、極めて好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1:中空押出形材
2:アルミフレーム材
2a:アルミフレーム材の切断面
図1
図2