(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741569
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】高純度芳香族メチルアルコールの製造方法及び保存安定性に優れた高純度芳香族メチルアルコール組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 43/23 20060101AFI20150611BHJP
C07C 41/42 20060101ALI20150611BHJP
C07C 41/46 20060101ALI20150611BHJP
C07D 317/54 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
C07C43/23 ACSP
C07C41/42
C07C41/46
C07D317/54
【請求項の数】20
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2012-501887(P2012-501887)
(86)(22)【出願日】2011年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2011054349
(87)【国際公開番号】WO2011105565
(87)【国際公開日】20110901
【審査請求日】2013年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2010-43878(P2010-43878)
(32)【優先日】2010年3月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-39618(P2010-39618)
(32)【優先日】2010年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100122736
【弁理士】
【氏名又は名称】小國 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100173912
【弁理士】
【氏名又は名称】塩見 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100116919
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 房幸
(72)【発明者】
【氏名】土井 隆志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】堂山 大介
(72)【発明者】
【氏名】桂 良輔
(72)【発明者】
【氏名】藤津 悟
(72)【発明者】
【氏名】安田 真治
(72)【発明者】
【氏名】木村 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】大森 潔
【審査官】
増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭54−036223(JP,A)
【文献】
特開2004−262771(JP,A)
【文献】
特開2011−021013(JP,A)
【文献】
米国特許第01933064(US,A)
【文献】
特開昭61−183243(JP,A)
【文献】
モリソンボイド有機化学(中)第3版,東京化学同人,1977年,628〜629頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 43/23
C07C 41/42
C07C 41/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
(式中、
R
1及びR
2は、水素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アリル基又はプロパルギル基を示し、これらの基は置換基を有していても良い。
nは、置換基OR
2の個数であり、0から3の整数を示す。nが2以上の場合、R
2は、互いに同一又は異なっていてもよい。芳香族環上の置換基(OR
1,OR
2)が、芳香環上の隣接する炭素上に存在する場合、R
1とR
2とが互いに結合して、環状構造を形成しても良い。
R
3は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を示す。R
3と芳香族環上の置換基OR
1又はOR
2とが、芳香族環上の隣接する炭素上に存在する場合、R
3とR
1又はR
2とが互いに結合して、環状構造を形成しても良い。
mは、置換基R
3の個数であり、0から3の整数を示す。なお、mが2以上の場合、R
3は、互いに同一又は異なっていてもよい。但し、n+mは0から4の整数である。)
で示される芳香族メチルアルコール含有粗製物を、
アルカリ性固体、その溶液及びその懸濁液からなる群より選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤の存在下にて蒸留し、一般式(1)で示される高純度芳香族メチルアルコールを得る工程を含む、高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【請求項2】
前記分解抑制剤が、アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【請求項3】
芳香族メチルアルコール含有粗製物が、一般式(2):
【化2】
(式中、R
1からR
3、n及びmは請求項1の一般式(1)におけるのと同じであり、Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。)
で示される芳香族メチルハライドを加水分解反応させて得られたものである、請求項1
又は2に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【請求項4】
芳香族メチルハライドが、下記一般式(2a)〜(2g):
【化3】
(式中、
R
1からR
3、X及びmは、請求項
3の式(2)におけるのと同じである。なお、R
1からR
3は、互いに同一又は異なってもよい。
式(2e)から式(2g)中、R
4からR
9は、水素原子、フッ素原子又はメチル基を示す。なお、R
4からR
9は、互い
に同一又は異なってもよい)
で示される化合物から選ばれる、請求項
3に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【請求項5】
芳香族メチルハライドが、4−メトキシベンジルクロリド、3,4−ジメトキシベンジルクロリド、3,4,5−トリメトキシベンジルクロリド、3,4−エチレンジオキシベンジルクロリド、又は3,4−メチレンジオキシベンジルクロリドである、請求項3又は4に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【請求項6】
蒸留を、蒸留釜の液温70〜240℃にて行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【請求項7】
蒸留を、蒸留釜の内容物のpHが、pH8〜14にて行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【請求項8】
一般式(3):
【化4】
(式中、R
1からR
3、n及びmは請求項1の一般式(1)におけるのと同義である)
で示されるビス(アリールメチル)エーテルの含有率を、下記数式1:
【数1】
を用いて算出した場合、当該含有率が10%以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【請求項9】
一般式(1):
【化5】
(式中、R
1からR
3、n及びmは請求項1の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される高純度芳香族メチルアルコールと、アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤とを含む、高純度芳香族メチルアルコール組成物。
【請求項10】
高純度芳香族メチルアルコールが、請求項8に記載された方法で製造された高純度芳香族メチルアルコールである、請求項9に記載された高純度芳香族メチルアルコール組成物。
【請求項11】
分解抑制剤の使用量が、高純度芳香族メチルアルコール中の芳香族メチルアルコールの純分質量に対して、200〜50,000ppmである、請求項9又は10に記載された高純度芳香族メチルアルコール組成物。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載された高純度芳香族メチルアルコール組成物が保存された容器。
【請求項13】
一般式(1):
【化6】
(式中、R
1からR
3、n及びmは請求項1の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される高純度芳香族メチルアルコールに、保存剤として、アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤を加えて保存することを含む、高純度芳香族メチルアルコールの保存方法。
【請求項14】
アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤の存在下にて、一般式(1):
【化7】
(式中、R
1からR
3、n及びmは請求項1の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される芳香族メチルアルコール含有粗製物から前記芳香族メチルアルコールの蒸留精製を行う工程を含む、芳香族メチルアルコールの蒸留方法。
【請求項15】
蒸留を、蒸留釜の内容物のpHが、pH8〜14にて行うことを特徴とする、請求項14に記載された芳香族メチルアルコールの蒸留方法。
【請求項16】
芳香族メチルアルコール含有粗製物が、一般式(2):
【化8】
(式中、R
1からR
3、n、m及びXは請求項
3の一般式(2)におけるのと同義である。)
で示される芳香族メチルハライドを加水分解反応させて得られた芳香族メチルアルコール含有粗製物である、請求項14又は15に記載された芳香族メチルアルコールの蒸留方法。
【請求項17】
アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤を安定剤として、一般式(1):
【化9】
(式中、R
1からR
3、n及びmは請求項1の一般式(1)におけるのと同義である。)
で示される高純度芳香族メチルアルコールに加える、高純度芳香族メチルアルコールの安定化方法。
【請求項18】
安定化剤を、pH8〜14となるように、前記高純度芳香族メチルアルコールに加えることを含む、請求項17に記載された高純度芳香族メチルアルコールの安定化方法。
【請求項19】
アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、一般式(1):
【化10】
(式中、R
1からR
3、n及びmは請求項1の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される芳香族メチルアルコール用保存剤。
【請求項20】
アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、一般式(1):
【化11】
(式中、R
1からR
3、n及びmは請求項1の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される芳香族メチルアルコール用安定化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度の芳香族メチルアルコールを製造する方法及び保存安定性に優れた高純度芳香族メチルアルコール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明が対象とする芳香族メチルアルコールは、例えば、医農薬品或いは有機材料等の各種化学製品やその合成中間体として広く使用されている。その中でも特にピペロニルアルコール、ベラトリルアルコール、及びアニスアルコールは、香粧品や殺虫剤等の成分並びに合成中間体として有用であることが知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
これらの芳香族メチルアルコールの製造方法としては、アルカリ性条件下での芳香族メチルハライドの加水分解反応が、一般的には広く知られている。
【0004】
しかしながら、この反応条件下にて芳香族メチルハライドの加水分解反応を行った場合、生成物である芳香族メチルアルコールと併せてビス(アリールメチル)エーテルが副生することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
特に、芳香族メチルアルコールを医農薬品或いは有機材料等の精密化学製品に使用する場合、このような混入物の分離、除去を要求されることがあり、実際には煩雑な工程となってしまうことがあった。
【0005】
そこで、このような副生物の生成を回避する方法として、例えば、芳香族メチルハライドと酢酸ナトリウムとを反応させて、一旦、中間体として酢酸の芳香族メチルエステルを取得し、これを加水分解して目的物である芳香族メチルアルコールを取得する方法が報告されている(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献5記載の方法のような中間体を経由する製造方法では、反応工程数が増えるため、明らかに工業的に有利な方法とは言い難く、更に、例えば、前記非特許文献1では、加水分解時の副生物としてビス(アリールメチル)エーテルの存在は知られているものの、当該エーテル化合物の生成を抑制する方法に関しては、十分な調査や検討どころか、一切の記載すらされておらず、工業的に好適な高純度芳香族メチルアルコールの製造方法については、依然として問題が残ったままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−336086号
【特許文献2】特開平10−121089号
【特許文献3】特開2004-262771号
【特許文献4】特表2002−531511号
【特許文献5】国際公開公報第2005/042512号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jingxi Huagong Zhongjianti(2004) 34(6) pages 24-26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
製造工程を増やすことなく、副生物を除去し、高純度の芳香族メチルアルコールを得る方法としては、一般的には蒸留が簡便で効果的な方法として知られている。しかしながら、本発明者の検討によれば、例えば、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などの電子供与基で置換された芳香族メチルアルコールは、蒸留中に目的物である芳香族メチルアルコールが熱分解し、この分解物が、しばしば目的物の蒸留画分に混入することがあり、得られた蒸留品(蒸留画分)の純度や蒸留収率の低下を招くことがわかった(例えば、本願比較例1参照)。
【0010】
その上、たとえ蒸留により高純度の芳香族メチルアルコールを得たとしても、本発明者の検討によれば、保存中に周囲からの光や熱等の影響により様々な分解物を与えることがわかっており、保存環境下での安定性も問題となることが分かった(例えば、本願比較例2参照)。
【0011】
したがって、本発明の課題は、上記の問題を解決すべく、簡便な方法により高純度芳香族メチルアルコールを取得する方法、及び得られた高純度芳香族メチルアルコールから保存安定性に優れた高純度芳香族メチルアルコール組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明の課題は、以下に示す[1]から[21]に記載の発明により解決される。
【0013】
[1]
一般式(1):
【化1】
(式中、
R
1及びR
2は、水素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アリル基又はプロパルギル基を示し、これらの基は置換基を有していても良い。
nは、置換基OR
2の個数であり、0から3の整数を示す。nが2以上の場合、R
2は、互いに同一又は異なっていてもよい。芳香族環上の置換基(OR
1,OR
2)が、芳香環上の隣接する炭素上に存在する場合、R
1とR
2とが互いに結合して、環状構造を形成しても良い。
R
3は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を示す。R
3と芳香族環上の置換基OR
1又はOR
2とが、芳香族環上の隣接する炭素上に存在する場合、R
3とR
1又はR
2とが互いに結合して、環状構造を形成しても良い。
mは、置換基R
3の個数であり、0から3の整数を示す。なお、mが2以上の場合、R
3は、互いに同一又は異なっていてもよい。但し、n+mは0から4の整数である)
で示される芳香族メチルアルコール含有粗製物を分解抑制剤の存在下にて蒸留し、一般式(1)で示される高純度芳香族メチルアルコールを得る工程を含む、高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【0014】
[2]
芳香族メチルアルコール含有粗製物が、一般式(2):
【化2】
(式中、R
1からR
3、n及びmは前記[1]の一般式(1)におけるのと同じであり、Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す)
で示される芳香族メチルハライドを加水分解反応させて得られたものである、前記[1]に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【0015】
[3]
芳香族メチルハライドが、下記一般式(2a)〜(2g):
【化3】
(式中、
R
1からR
3、X及びmは、前記[2]の式(2)におけるのと同じである。なお、R
1からR
3は、互いに同一又は異なってもよい。
式(2e)から式(2g)中、R
4からR
9は、水素原子、フッ素原子又はメチル基を示す。なお、R
4からR
9は、互いに同一又は異なってもよい)
で示される化合物から選ばれる、前記[2]に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【0016】
[4]
芳香族メチルハライドが、4−メトキシベンジルクロリド、3,4−ジメトキシベンジルクロリド、3,4,5−トリメトキシベンジルクロリド、3,4−エチレンジオキシベンジルクロリド、又は3,4−メチレンジオキシベンジルクロリドである、前記[2]又は[3]に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【0017】
[5]
分解抑制剤が、アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種である、前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【0018】
[6]
蒸留を、蒸留釜の液温70〜240℃にて行うことを特徴とする、前記[1]〜[5]のいずれか一項に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
【0019】
[7]
蒸留を、蒸留釜の内容物のpHが、pH8〜14にて行うことを特徴とする、前記[1]〜[6]のいずれか一項に記載された高純度芳香族メチルアルコールの製造方法。
[8]
一般式(3):
【化4】
(式中、R
1からR
3、n及びmは前記[1]の一般式(1)におけるのと同義である)
で示されるビス(アリールメチル)エーテルの含有率を、下記数式1:
【数1】
を用いて算出した場合、当該含有率が10%以下である、一般式(1):
【化5】
(式中、R
1からR
3、n及びmは前記[1]の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される高純度芳香族メチルアルコール。
【0020】
[9]
前記[1]〜[7]のいずれか一項に記載した方法により製造された、前記[8]に記載された高純度芳香族メチルアルコール。
【0021】
[10]
一般式(1):
【化6】
(式中、R
1からR
3、n及びmは前記[1]の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される高純度芳香族メチルアルコールと、アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤とを含む、高純度芳香族メチルアルコール組成物。
【0022】
[11]
高純度芳香族メチルアルコールが、前記[9]に記載された高純度芳香族メチルアルコールである、前記[10]に記載された高純度芳香族メチルアルコール組成物。
【0023】
[12]
分解抑制剤の使用量が、高純度芳香族メチルアルコール中の芳香族メチルアルコールの純分質量に対して、200〜50,000ppmである、前記[10]又は[11]に記載された高純度芳香族メチルアルコール組成物。
【0024】
[13]
前記[10]〜[12]のいずれか一項に記載された高純度芳香族メチルアルコール組成物が保存された容器。
【0025】
[14]
一般式(1):
【化7】
(式中、R
1からR
3、n及びmは前記[1]の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される高純度芳香族メチルアルコールに、保存剤として、アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤を加えて保存することを含む、高純度芳香族メチルアルコールの保存方法。
【0026】
[15]
アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤の存在下にて、一般式(1):
【化8】
(式中、R
1からR
3、n及びmは前記[1]の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される芳香族メチルアルコール含有粗製物から前記芳香族メチルアルコールの蒸留精製を行う工程を含む、芳香族メチルアルコールの蒸留方法。
【0027】
[16]
蒸留を、蒸留釜の内容物のpHが、pH8〜14にて行うことを特徴とする、前記[15]に記載された芳香族メチルアルコールの蒸留方法。
[17]
芳香族メチルアルコール含有粗製物が、一般式(2):
【化9】
(式中、R
1からR
3、n、m及びXは前記[2]の一般式(2)におけるのと同義である)
で示される芳香族メチルハライドを加水分解反応させて得られた芳香族メチルアルコール含有粗製物である、前記[15]又は[16]に記載された芳香族メチルアルコールの蒸留方法。
【0028】
[18]
アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤を安定剤として、一般式(1):
【化10】
(式中、R
1からR
3、n及びmは前記[1]の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される高純度芳香族メチルアルコールに加えることを含む、高純度芳香族メチルアルコールの安定化方法。
[19]
安定化剤を、pH8〜14となるように、前記高純度芳香族メチルアルコールに加えることを含む、前記[18]に記載された高純度芳香族メチルアルコールの安定化方法。
[20]
アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、一般式(1):
【化11】
(式中、R
1からR
3、n及びmは前記[1]の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される芳香族メチルアルコール用保存剤。
【0029】
[21]
アルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、一般式(1):
【化12】
(式中、R
1からR
3、n及びmは前記[1]の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される芳香族メチルアルコール用安定化剤。
【発明の効果】
【0030】
本発明の高純度芳香族メチルアルコールの製造方法により、例えば、特許文献5のように製造工程を増やす煩雑さはなく、また、反応に伴う様々な副生物や分解物の生成を低減し、収率及び純度良く芳香族メチルアルコールを製造することができる。
【0031】
更に、これらの高純度の芳香族メチルアルコールと分解抑制剤とから製造される芳香族メチルアルコール組成物は、保存中に周囲からの光や熱等の影響により様々な分解物を与えることなく、安定に保存することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
≪高純度芳香族メチルアルコールの製造方法≫
本発明は、下記反応式〔I〕に示す工程(A)を含む高純度芳香族メチルアルコールの製造方法、及び反応式〔II〕に示す工程(A−0)と工程(A)を含む高純度芳香族メチルアルコールの製造方法である。
【0033】
【化13】
【0034】
(式中、R
1からR
3、X、n及びmは前記と同義である)
【0035】
<工程(A)>
本発明の製造方法の工程(A)は、分解抑制剤の存在下に、一般式(1)で示される芳香族メチルアルコール含有粗製物から前記芳香族メチルアルコールを蒸留精製する方法により、前記一般式(1)で示される高純度芳香族メチルアルコールを得る工程である。
【0036】
(芳香族メチルアルコール含有粗製物:工程(A)の出発原料)
本発明の工程(A)の原料として使用される芳香族メチルアルコール含有粗製物は、一般式(1)で示される芳香族メチルアルコールを含有するものであれば特に限定されないが、例えば、一般式(1)で示される芳香族メチルアルコールを90質量%未満の量で含むものが好ましい。芳香族メチルアルコール含有粗製物として、特に好ましいのは、後述するような工程(A−0)の反応終了後に得られた芳香族メチルアルコール含有粗製物1a〜1dのいずれかである。なお、これらの粗製物には水分が含有していても良く、その水分量は、特に限定されない。これらの水分は、工程(A)の蒸留時に共沸(azeotrope)にて除去される。しかしながら、次工程の蒸留の精製効率を考慮した場合、少なくとも前記粗製物は、水分が分離しない程度の水分含有量が望ましい。
【0037】
(分解抑制剤)
本発明における分解抑制剤は、本発明の工程(A)における蒸留の際、芳香族メチルアルコールの分解を抑制する目的で使用される剤を示す。
【0038】
本発明で使用できる分解抑制剤としては、アルカリ性固体及びその溶液又は懸濁液が挙げられ、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸化合物(例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等);アルカリ金属の炭酸水素化合物(例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等);アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等);アルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩化合物(例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等)及び陰イオン交換樹脂(例えば、Amberlite IRA−400(商品名;Aldrich社製)、Amberjet 1200(商品名;Aldrich社製)等の三級または四級アンモニウム基を有する樹脂等)などが挙げられる。本発明の工程(A)で使用される分解抑制剤は、それぞれ単独又は二種以上混合して使用してもよい。
【0039】
前記分解抑制剤として、好ましくはアルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤;更に好ましくはアルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物;更に好ましくは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤;より好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤;特に好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤が使用される。
なお、上記の分解抑制剤を固体のまま使用しても良いし、また、芳香族メチルアルコール含有粗製物が液体又は溶液の場合、分解抑制剤を溶解又は懸濁させて使用しても良い。
【0040】
更に、本発明の分解抑制剤は、工程(A)の蒸留釜の内容物のpHが、8以上となるような条件下にするために使用することが好ましい。従って、上記より、特に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の分解抑制剤は、いずれも弱アルカリ性から強アルカリ性を示すことがわかっており有用である。
【0041】
〔分解抑制剤の使用量〕
本発明の工程(A)で使用される分解抑制剤は、工程(A)の蒸留釜の内容物のpHが、好ましくは8〜14、より好ましくは9〜14、特に好ましくは10〜13となるような条件下にするための必要量が使用される。例えば、その使用量の目安としては、芳香族メチルアルコール含有粗製物に含まれる芳香族メチルアルコールの純分質量に対して、好ましくは10〜500,000ppm、更に好ましくは200〜50,000ppm、より好ましくは200〜30,000ppm、特に好ましくは500〜15,000ppm、特により好ましくは1000〜10,000ppmである。
分解抑制剤を上記のよう
な使用量
とすることで、本発明の工程(A)は、芳香族メチルアルコール自体の分解や副反応等を抑えながら、高純度メチルアルコールを取得することが可能となる(本願実施例2及び3参照)。
【0042】
(蒸留精製条件)
本発明の工程(A)で使用される蒸留方法
における、蒸留前仕込み物は、上述の通り、場合により水分を含む前記芳香族メチルアルコール含有粗製物と分解抑制剤とを含む混合物である。
本発明の工程(A)における蒸留は、蒸留開始前〜蒸留終了時に渡って、蒸留釜の内容物のpHが、好ましくは8〜14、より好ましくは9〜14、特に好ましくは10〜14未満であるpH条件下で行われる。なお、pHの確認は、適宜サンプリングし、例えば、pH試験紙、pHメーター等を用いて行う。また、pHの調整も、同様に確認して、適宜分解抑制剤を追加する。
【0043】
〔蒸留装置〕
本発明の工程(A)で使用される蒸留方法は、例えば、単蒸留、精留精製等のいずれの方法であってもよい。また、蒸留方式は、バッチ方式、半連続方式、連続方式のいずれの方式であってもよい。目的物である高純度芳香族メチルアルコール(一般式(1))の主留分における含有量を微調整しながら蒸留する必要があるため、これらの蒸留装置には、精留塔を設けることが好ましい。なお、精留塔としては、例えば、棚段式精留塔や充填式精留塔等の通常の蒸留で用いられるものを使用することができ、精留塔の本数、及び蒸留回数は特に制限されない。
【0044】
また、本発明の工程(A)の蒸留においては、蒸留装置の加熱方法に特に制限はなく、例えば、通常使用されるジャケット式、コイル式、流下膜式又は薄膜式等の熱交換器等を使用することが出来る。その際、芳香族メチルアルコール自体の熱分解を抑制するため、伝熱面との接触滞留時間が短い薄膜蒸発器や流下膜式蒸発器を加熱装置として、これと精留塔とを接続した装置を用いることが好ましい。また、例えば、前記棚段式精留塔を使用する場合、棚板(トレイ)の種類は特に限定されない。
【0045】
更に、本発明の工程(A)で使用される蒸留塔の実段数は、好ましくは1〜200段、より好ましくは2〜120段、特に好ましくは3〜70段が使用される。本発明の工程(A)では、少なくとも上記範囲内の実段数で、分離効率及び蒸留効率がよいことがわかっている。
【0046】
〔還流比〕
本発明の工程(A)における蒸留精製の還流比は、各精留塔の分離状態を確認して適宜決められる。しかしながら、過剰な還流比は、長時間の加熱が必要になり、一般式(1)で示される芳香族メチルアルコールの分解やその他の副反応が促進されるため好ましくない。従って、本発明の工程(A)の蒸留における還流比(=還流量/留出量)は、好ましくは0〜50、更に好ましくは0.1〜30、特に好ましくは1〜15である。
【0047】
〔充填物〕
前記充填式精留塔を使用する場合、充填物の種類は特に限定されない。しかしながら、芳香族メチルアルコールは、蒸留温度が高くなると分解し易くなるため、蒸留釜の液温を高く設定しなくてすむよう、精留塔の塔頂部と塔底部との差圧が小さくなるように規則充填物を使用することが好ましい。
【0048】
使用できる規則充填物としては、例えば、スルーザーケムテック株式会社製「スルーザーパッキング」(金網成型タイプ)、「メラパック」(多孔金属シート成型タイプ)、グリッチ社製「ジェムパック」、モンツ社製「モンツパック」、日本フイルコン株式会社製「グッドロールパッキング」、日本ガイシ株式会社製「ハニカムパック」、株式会社ナガオカ製「インパルスパッキング」、MCパック(金網成型タイプ又は金属シート成型タイプ)又はテクノパック等が挙げられる。また、精留塔や充填物の材質は、例えば、ステンレス製、ハステロイ製、セラミックス製又は樹脂製等の通常の蒸留で用いられるものを使用することが出来る。
【0049】
〔蒸留温度〕
本発明の工程(A)における蒸留精製において、蒸留装置の蒸留釜の液温は、前記一般式(3)で示されるビス(アリールメチル)エーテルの副生成物の生成状態により適宜設定される。しかしながら、芳香族メチルアルコールは、蒸留温度が高くなると分解し易くなるため、好ましくは70〜240℃、更に好ましくは90〜210℃である。
【0050】
具体例として、一般式(1)で示される芳香族メチルアルコールがピペロニルアルコールの場合、式(3d):
【0051】
【化14】
【0052】
で示されるビス(3,4−メチレンジオキシベンジル)エーテルが混入していることが多い。そこで、この場合、上記化合物の混入を少なくするために、蒸留装置の蒸留釜の液温は、好ましくは70〜240℃、より好ましくは90〜210℃、特に好ましくは100〜180℃である。特にバッチ方式で蒸留する場合は、連続式精留方法と比較して、精留塔内でのピペロニルアルコールの滞留時間が長くなるため熱分解により、更に式(3d)の副生物が生成し易くなり、その結果、蒸留収率が低下し、更にこれが目的物に同伴すること等により蒸留留分に混入し問題となることが多い。そこで、ピペロニルアルコールをバッチ方式にて蒸留精製する場合、蒸留装置の蒸留釜の液温は、好ましくは90〜210℃、更に好ましくは100〜190℃、特に好ましくは110〜180℃で行う。なお、蒸留原料の仕込み、留分(初留等)及び最終製品(主留分)の取り出し、並びに最終製品の取り出し及び保存は、例えば、通常の大気圧環境下で行うことも出来るが、好ましくは不活性ガス環境下、より好ましくは減圧蒸留中においても系内に不活性ガスフィードする環境下、又は不活性ガス気流下で行われる。
【0053】
〔蒸留圧力〕
本発明の工程(A)における蒸留において、蒸留装置の圧力は、蒸留装置の蒸留釜の液温と前記一般式(3)で示されるビス(アリールメチル)エーテル等の副生物等の生成状態により適宜設定される。
具体例として、一般式(1)で示される芳香族メチルアルコールがピペロニルアルコールの場合、蒸留装置の蒸留釜の液温が240℃を超えると、ピペロニルアルコール自体の分解や、前記式(3d)で示されるビス(3,4−メチレンジオキシベンジル)エーテルの副生成やその他の反応が促進され、これらが主留分に混入する恐れがあるので好ましくない。従って、ピペロニルアルコール含有粗製物を蒸留精製する場合、本発明の工程(A)の蒸留圧力は、ピペロニルアルコールの沸点133℃/0.66kPa(133℃/5Torr)を考慮し、好ましくは0.013〜26.6kPa(0.1〜200Torr)、更に好ましくは0.066〜13.3kPa(0.5〜100Torr)、特に好ましくは0.50〜3.9kPa(1〜30Torr)で行う。
【0054】
<本発明で得られる芳香族メチルアルコール>
上記の本発明の製造方法より、簡便な操作かつ、好適な反応時間にて、例えば、前記一般式(3)のような副生物の生成、混入等を抑えた高純度の芳香族メチルアルコールを収率良く製造することが出来る。
【0055】
<高純度芳香族メチルアルコール中のビス(アリールメチル)エーテル(一般式(3))の含有率>
本発明の工程(A)により得られる一般式(1)で示される高純度芳香族メチルアルコールは、蒸留時に前記一般式(3)で示されるビス(アリールメチル)エーテルを不純物として混入することがある。従って、本発明の製造方法で高純度芳香族メチルアルコールが得られるかどうかどうかをあらかじめ確認するために、一般式(1)で示される芳香族メチルアルコール含有粗製物に混入してくる前記一般式(3)で示される副生物の含有率を調べておくことが望ましい。
【0056】
本発明の一般式(1)で示される高純度芳香族メチルアルコールにおいて、前記一般式(3)で示される副生物(ビス(アリールメチル)エーテル)の含有率は、下記の(数式1)を用いて算出される。なお、(数式1)において、HPLCの検出波長は、目的とする高純度芳香族メチルアルコールと前記一般式(3)で示される副生物との両方が検出できる波長を適宜使用する。ちなみに、本発明では、後述の実施例、比較例等でその検出波長(λmax)を256nmとして測定した。また、芳香族メチルアルコールの純分含量及び一般式(3)で示される副生物の含量は、絶対検量線法にて算出される。
【0057】
【数2】
【0058】
本発明の一般式(1)で示される高純度芳香族メチルアルコールは、上記により測定した一般式(3)で示される副生物の含有量が、好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下、特により好ましくは1.5%以下のものである。なお、前記一般式(3)で示される副生物の含有量が10%を超えるものも、本発明の保存方法、安定化方法により、安定に保存できる。しかしながら、前記含有量が10%を超えるものは、もはや高純度芳香族メチルアルコールとは言い難い。
【0059】
<高純度芳香族メチルアルコールの純度>
本発明の一般式(1)で示される高純度芳香族メチルアルコールの純度は、好ましくは90%以上、更に好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、特により好ましくは98.5%以上のものである。なお、前記純度は、上記同様、HPLC分析(絶対検量線法)から算出される値である。
【0060】
<回収された芳香族メチルアルコール留分>
蒸留により得られる高純度芳香族メチルアルコール留分以外の初留分及び釜残分等は、例えば、濾別や水洗等の処理により不純物を除き、再度、芳香族メチルアルコール含有粗製物として、工程(A)の蒸留原料に使用してもよい。
【0061】
<工程(A−0)>
本発明の製造方法の工程(A−0)は、前記一般式(2)で示される芳香族メチルハライドと水とを反応させて、前記一般式(1)で示される芳香族メチルアルコール含有粗製物を得る工程である。この芳香族メチルアルコール含有粗製物は、工程(A)における蒸留原料である芳香族メチルアルコール含有粗製物として好適に使用できる。
【0062】
(一般式(2)で示される芳香族メチルハライド:工程(A−0)の出発原料)
本発明の工程(A−0)において、合成原料である芳香族メチルハライドは、下記一般式(2):
【化15】
で示される。
【0063】
一般式(2)で示される芳香族メチルハライドにおいて、R
1及びR
2は、水素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アリル基、又はプロパルギル基を示す。
【0064】
前記R
1及びR
2の炭素原子数1〜12のアルキル基は、炭素原子数1〜12の直鎖状アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基等)、炭素原子数3〜12の分岐鎖状アルキル基(例えば、イソプロピル基、イソブチル基、イソアミル基等)、炭素原子数3〜12の環状アルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基等)を示し、更にこれらの基は位置異性体等の各種異性体も含む。
【0065】
前記R
1及びR
2は、置換基を有していても良い。その置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子)、ニトロ基、シアノ基、水酸基、フェニル基、フェニルオキシ基、炭素原子数1〜12のアルキルオキシ基が挙げられる。
【0066】
nは、置換基OR
2の個数であり、0から3の整数を示す。なお、nが2以上の場合、それぞれのR
2は、互いに同一でも異なっていてもよい。更に、芳香族環上の2つの置換基(例えば、OR
1とOR
2、又は2つのOR
2同士)が、芳香族環上の隣接する炭素原子上に存在する場合、これらは互いに結合して、メチレンジオキシベンゼン環やエチレンジオキシベンゼン環などのアルキレンジオキシベンゼン環のような環状構造を形成してもよい。
【0067】
前記置換基R
3としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を示す。また、R
3が芳香族環上の置換基(OR
1,OR
2)が、芳香族環上の隣接する炭素上に存在する場合、R
3とR
1又はR
2とが互いに結合して、例えば、テトラヒドロベンゾピラン環などの環状構造を形成しても良い。
mは、置換基R
3の個数であり、0から3の整数を示す。mが2以上の場合、それぞれのR
3は、互いに同一でも異なっていてもよい。
但し、n+mは0から4の整数となる。
【0068】
一般式(2)において、Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、好ましくは塩素原子、臭素原子であり、更に好ましくは塩素原子である。
【0069】
本発明の反応において使用される芳香族メチルハライドとしては、好ましくは下記一般式(2a)〜(2g)が挙げられる。
【0070】
【化16】
【0071】
(式中、R
1からR
3、X及びmは、前記と同義である。また、R
4からR
9は、水素原子、フッ素原子又はメチル基を示し、互いに同一又は異なってもよい)
また、更に好ましくは下記一般式(2a−1)、(2b−1)、(2d−1)、(2e−1)が挙げられる。
【0072】
【化17】
【0073】
(式中、R
1、R
2、R
4及びXは、前記と同義である)
【0074】
そして、より好ましくは4−メトキシベンジルクロリド、4−エトキシベンジルクロリド、4−プロポキシベンジルクロリド、4−シクロプロポキシベンジルクロリド、4−ブトキシベンジルクロリド、4−シクロブトキシベンジルクロリド、4−ペンチルオキシベンジルクロリド、4−シクロペンチルオキシベンジルクロリド、4−ヘキシルオキシベンジルクロリド、4−シクロヘキシルオキシベンジルクロリド、4−フェノキシベンジルクロリド、3,4−ジメトキシベンジルクロリド、3,4−ジエトキシベンジルクロリド、3−メトキシ−4−ヒドロキシベンジルクロリド、3−ヒドロキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−メトキシ−4−エトキシベンジルクロリド、3−エトキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−ベンジルオキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−メトキシ−4−ベンジルオキシベンジルクロリド、3−アリルオキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−エチニルオキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−メトキシ−4−シクロペンチルオキシベンジルクロリド、3−トリフロエトキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−メトキシ−4−トリフロエトキシベンジルクロリド、3,4−ジヒドロキシベンジルクロリド、3,4,5−トリメトキシベンジルクロリド、3,4−メチレンジオキシベンジルクロリド、3,4−ジフルオロメチレンジオキシベンジルクロリド、3,4−ジメチルメチレンジオキシベンジルクロリド、3,4−エチレンジオキシベンジルクロリドが挙げられる。
【0075】
そして、特に好ましくは4−エトキシベンジルクロリド、4−プロポキシベンジルクロリド、4−ブトキシベンジルクロリド、4−シクロブトキシベンジルクロリド、4−ペンチルオキシベンジルクロリド、4−シクロペンチルオキシベンジルクロリド、4−ヘキシルオキシベンジルクロリド、4−シクロヘキシルオキシベンジルクロリド、4−フェノキシベンジルクロリド、3,4−ジメトキシベンジルクロリド、3,4−ジエトキシベンジルクロリド、3−メトキシ−4−エトキシベンジルクロリド、3−エトキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−ベンジルオキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−メトキシ−4−ベンジルオキシベンジルクロリド、3−アリルオキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−エチニルオキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−メトキシ−4−シクロペンチルオキシベンジルクロリド、3−トリフロエトキシ−4−メトキシベンジルクロリド、3−メトキシ−4−トリフロエトキシベンジルクロリド、3,4−ジヒドロキシベンジルクロリド、3,4−メチレンジオキシベンジルクロリド、3,4−ジフルオロメチレンジオキシベンジルクロリド、3,4,5−トリメトキシベンジルクロリド、3,4−ジメチルメチレンジオキシベンジルクロリド、3,4−エチレンジオキシベンジルクロリドが挙げられる。
【0076】
そして、特により好ましくは4−メトキシベンジルクロリド、3,4−ジメトキシベンジルクロリド、3,4,5−トリメトキシベンジルクロリド、3,4−メチレンジオキシベンジルクロリド、3,4−エチレンジオキシベンジルクロリドである。
【0077】
前記一般式(2)で示される芳香族メチルハライドは、市販品をそのまま使用してもよいが、好ましくはBlanc−Quelet反応(L.F.Fieser and M.Fieser, Advanced Organic Chemistry, p778 (New York, 1961))を参照することにより、対応する芳香族化合物から製造してもよい。
【0078】
<加水分解反応>
(水の使用量)
本発明の工程(A−0)の加水分解反応で使用される水の量は、前記芳香族メチルハライド1モルに対して、当モル以上あれば特に制限されないが、反応時の撹拌性や反応後の単離・精製操作の効率性を考慮すると、芳香族メチルハライド1モルに対して、好ましくは1〜1000モル、更に好ましくは1.25〜500モル、より好ましくは1.5〜250モル、特に好ましくは2.0〜100モル使用される。
【0079】
(反応溶媒)
本発明の工程(A−0)は、無溶媒で行うことも、別途有機溶媒の存在下にて行うことも出来る。また、その反応系は均一系或いは不均一系のどちらでもよく、更に、均一系の場合、単相系であっても、例えば、水−有機相からなる二相系のような多相系であってもいずれの場合でもあってもよい。
【0080】
〔反応溶媒の種類〕
本発明の工程(A−0)で使用できる有機溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素類(例えば、n−ペンタン、n−へキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等);脂肪族ハライド類(例えば、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等);エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等);芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等);芳香族エーテル類(例えば、アニソール、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、1,4−ジメトキシベンゼン、1,2−メチレンジオキシベンゼン、1,2−エチレンジオキシベンゼン、ジフェニルエーテル等);芳香族ハライド類(例えば、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン等);芳香族ニトロ化合物類(例えば、ニトロベンゼン等);スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等);スルホン類(例えば、スルホラン等)などが挙げられるが、好ましくはn−ペンタン、n−へキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、1,4−ジメトキシベンゼン、1,2−メチレンジオキシベンゼン、1,2−エチレンジオキシベンゼン、ジフェニルエーテル、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、更に好ましくはn−ペンタン、n−へキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ジイソプロピルエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,2−ジメトキシベンゼン、1,2−メチレンジオキシベンゼン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロエタンが使用される。なお、これらの溶媒は、単独又はそれらのうち二種以上を混合して使用してもよい。
【0081】
〔反応溶媒の使用量〕
本発明の工程(A−0)で使用される有機溶媒の量は、反応溶液の均一性や攪拌性等により適宜調節するが、前記芳香族メチルハライド1gに対して、好ましくは0.1〜1000mL、更に好ましくは0.3〜500mL、特に好ましくは0.5〜200mL使用される。
【0082】
<添加物>
本発明の工程(A−0)は、別途相間移動触媒やリン酸緩衝剤などの添加物を加えて反応を行ってもよい。
【0083】
(相間移動触媒)
本発明の工程(A−0)の反応は、反応を促進させるために、例えば、有機アンモニウム塩化合物(テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド等)、及び有機ホスホニウム塩化合物(テトラメチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラメチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリメチルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド及びテトラフェニルホスホニウムブロミド等)よりなる群から選ばれる少なくとも一種の相間移動触媒の存在下にて反応を行ってもよい。なお、本発明の相間移動触媒は、それぞれ単独又は二種以上を混合して使用しても良い。また、そのまま使用しても、例えば、水、前記有機溶媒或いはこれらの混合溶媒に溶解又は懸濁させて使用しても良い。
【0084】
(リン酸緩衝剤)
本発明の工程(A−0)は、リン酸緩衝剤の存在下にて反応を行ってもよい。本発明の工程(A−0)で使用されるリン酸緩衝剤として、例えば、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩化合物が挙げられる。なお、前記リン酸緩衝剤は、それぞれ単独で使用しても、二種類以上を混合して使用してもよい。また、そのまま使用しても、例えば、水、有機溶媒或いはこれらの混合溶媒に、溶解又は懸濁させて使用してもよい。
【0085】
(反応条件:工程(A−0))
〔反応方法〕
本発明の工程(A−0)は、例えば、大気中または不活性ガス雰囲気下にて、前記芳香族メチルハライドと有機溶媒の混合液と水とを混合し、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われ得る。なお、本発明の工程(A−0)の反応は、酸性条件下、中性条件下又はアルカリ性条件下のいずれの条件下でも行うことは出来る。
【0086】
〔反応温度、反応圧力〕
また、反応温度は、好ましくは10℃〜110℃、更に好ましくは0℃〜100℃、特に好ましくは20℃〜90℃であり、反応圧力は、特に限定されない。
【0087】
(本発明の芳香族メチルアルコール含有粗製物)
本発明の工程(A−0)で得られる芳香族メチルアルコール含有粗製物は、以下の芳香族メチルアルコール含有粗製物1aから当該粗製物1dの状態のものを含み得る。
なお、これらの芳香族メチルアルコール含有粗製物中には、前記非特許文献1にも、開示されている、一般式(3):
【0088】
【化18】
【0089】
で示されるビス(アリールメチル)エーテルが副生物として混入していることがある。
【0090】
〔芳香族メチルアルコール含有粗製物1a〕
芳香族メチルアルコール含有粗製物1aは、本発明の工程(A−0)の反応終了直後の反応混合物を示す。
【0091】
〔芳香族メチルアルコール含有粗製物1b〕
前記芳香族メチルアルコール含有粗製物1aが、例えば、目的物である芳香族メチルアルコールや反応溶媒などを含む有機層−水層溶液である場合、芳香族メチルアルコール含有粗製物1bは、芳香族メチルアルコール含有粗製物1aから分液・抽出操作により得られた有機層溶液を示す。なお、分液・抽出操作には、前記反応溶媒と同義の有機溶媒を使用してもよい。さらに、不要物があれば、必要に応じて不要物
を取り除いてもよい。
【0092】
より具体的には、本発明の工程(A−0)の反応終了後に得られた反応混合物(芳香族メチルアルコール含有粗製物1a)は、通常、均一溶液、不均一溶液又は多層溶液のいずれかの状態となっている。そこで、例えば、この反応混合物を更に分液・抽出、不要物の除去等の操作を行い、芳香族メチルアルコール含有粗製物1bとして有機層溶液を取得し、これを工程(A)における蒸留原料として使用して、本発明の方法で蒸留することで、蒸留操作時間を短くすることが出来る。
【0093】
〔芳香族メチルアルコール含有粗製物1c〕
芳香族メチルアルコール含有粗製物1cは、前記有機層溶液(芳香族メチルアルコール含有粗製物1b)をアルカリ性水溶液等で洗浄して得られる有機層溶液を示す。このように芳香族メチルアルコール含有粗製物1cは、得られた有機層溶液から、水、飽和食塩水、或いは酸性又はアルカリ性溶液等で、適宜洗浄することで、含有する水溶性成分、酸性又はアルカリ性成分をなるべく除いた後、これを工程(A)の蒸留に使用することで、蒸留時の芳香族メチルアルコールの分解を抑えることが出来る。なお、使用されるアルカリ性水溶液としては、例えば、前述の分解抑制剤を水に溶かしたものを使用することができる。
また、前記工程(A−0)の加水分解反応を、アルカリ性条件下にて行った場合、反応終了後、水を投入して洗浄を行うことが出来る。
【0094】
〔芳香族メチルアルコール含有粗製物1d〕
芳香族メチルアルコール含有粗製物1dは、前記水、飽和食塩水、或いは酸性又はアルカリ性溶液等で洗浄して得られた有機層溶液(芳香族メチルアルコール含有粗製物1c)から、更に反応溶媒等の有機溶媒を留去して得られる濃縮物、又は芳香族メチルアルコール含有粗製物1b(但し、純分含量が90%以上)から更に反応溶媒を留去して得られる濃縮物を示す。
例えば、前記芳香族メチルアルコール含有粗製物1cから工程(A−0)で使用した反応溶媒や分液・抽出に使用した有機溶媒等を除き、濃縮物として芳香族メチルアルコール含有粗製物1dを取得し、これをそのまま工程(A)の蒸留精製に使用することで、蒸留精製の操作時間を短くすることが出来る。即ち、工程(A)の蒸留精製時間を短くすればするほど、芳香族メチルアルコールの分解や目的物である蒸留された芳香族メチルアルコール中への分解物の混入をより抑えることが出来る。なお、工程(A−0)の反応溶媒の留去の際、前述の工程(A)における分解抑制剤を予め必要量入れて行うことが好ましい。
【0095】
また、本発明の芳香族メチルアルコール含有粗製物1dは、芳香族メチルアルコール含有粗製物1aから当該粗製物1bへの処理工程で精製され、更に有機溶媒等を留去すれば、既に、本発明の芳香族メチルアルコールと同程度の高純度(90質量%以上)を示すことがある。従って、場合により、この芳香族メチルアルコール含有粗製物1dを本発明の高純度芳香族メチルアルコールとして、後述の方法での保存や高純度芳香族メチルアルコール組成物の製造原料として使用することができる。
【0096】
芳香族メチルアルコール含有粗製物1aから当該粗製物1dの関係をまとめると下記のようになる。なお、得られた当該粗製物1aから当該粗製物1dは、いずれも本発明の工程(A)の蒸留原料として好適に使用することが出来る。
【0097】
【表1】
【0098】
上記より、本発明は、前記工程(A)を含む製造方法又は前記工程(A−0)と工程(A)とを含む製造方法により、好適な反応時間で、かつ簡便な操作にて、例えば、前記一般式(3)で示される副生物の生成、混入等を抑えて、高純度の芳香族メチルアルコールを収率良く製造することが出来る。
【0099】
≪高純度芳香族メチルアルコール組成物及び高純度芳香族メチルアルコール組成物を含有する保存容器の製造方法≫
次に、本発明の高純度芳香族メチルアルコール組成物及び高純度芳香族メチルアルコール組成物を含有する保存容器の製造方法について説明する。本発明の高純度芳香族メチルアルコール組成物は、高純度芳香族メチルアルコールと分解抑制剤を含む組成物である。この組成物の製造方法としては、下記に示す方法1及び方法2がある。
【0100】
<方法1>
方法1は、固体状態の高純度芳香族メチルアルコールに、本発明の分解抑制剤を加えて、例えば、震とう、攪拌等により混合させて高純度芳香族メチルアルコール組成物を製造し、これを保存容器に充填する方法である。ここで、分解抑制剤の添加は、高純度芳香族メチルアルコールを保存容器に加える前又は加えた後、いずれの場合であってもよい。
【0101】
<方法2>
方法2は、例えば、加熱等により融解させた高純度芳香族メチルアルコールを保存容器に移す際に、分解抑制剤を加えて、高純度芳香族メチルアルコール組成物として充填された保存容器を製造し、これを保存する方法である。ここで、分解抑制剤の添加は、前記融解した高純度芳香族メチルアルコールを保存容器に加える前又は加えた後、いずれの場合であってもよいが、好ましくは前記融解した高純度芳香族メチルアルコールを保存容器に加えた後に、これが固化する前に分解抑制剤を加える方法である。
【0102】
<使用される高純度芳香族メチルアルコール>
本発明の高純度芳香族メチルアルコール組成物では、高純度芳香族メチルアルコールは、前記工程(A)にて、蒸留精製された一般式(1)で示される高純度芳香族メチルアルコール、又は一般式(1)で示される芳香族メチルアルコールの純度が95%以上の芳香族メチルアルコール含有粗製物1dが使用され得る。
【0103】
<分解抑制剤>
上記の高純度芳香族メチルアルコール組成物並びにその製造方法及び保存方法において使用される分解抑制剤は、前記工程(A)における蒸留の際、芳香族メチルアルコールの分解を抑制する目的で使用される剤と同義のものが使用される。なお、高純度芳香族メチルアルコール組成物並びにその製造方法及び保存方法において、分解抑制剤は、水溶液として使用してもよい。
【0104】
(分解抑制剤の使用量)
本発明の高純度芳香族メチルアルコール組成物における分解抑制剤の使用量は、前記保存容器の内容物のpHが、好ましくは8〜14、より好ましくは9〜14、特に好ましくは10〜13となるような条件下にするための必要量が使用される。例えば、その使用量の目安としては、芳香族メチルアルコール含有粗製物に含まれる芳香族メチルアルコールの純分含量に対して、好ましくは10〜500,000ppm、更に好ましくは200〜50,000ppm、より好ましくは200〜30,000ppm、特に好ましくは500〜15,000ppm、特により好ましくは1000〜10,000ppmである。
なお、
前記内容物のpHの確認は、適宜サンプリングし、例えば、pH試験紙、pHメーター等を用いて行う。また、pHの調整も、同様に確認して、適宜分解抑制剤を追加する。なお、分解抑制剤の使用量が、例えば、上記の範囲より少ない場合には、芳香族メチルアルコールの分解抑制効果が十分でなく、また多い場合には、懸濁、スラリー状になりハンドリング性が悪くなったり、芳香族メチルアルコール組成物から芳香族メチルアルコールを取り出して使用する際に中和が必要になったり、更には経済的にも望ましくない。
【0105】
<保存容器>
本発明の高純度芳香族メチルアルコール、特に、ピペロニルアルコール、ベラトリルアルコール、及びアニスアルコールなどのアルコキシ基を有する高純度芳香族メチルアルコールは、例えば、周囲からの光や熱等の影響により分解し、前記一般式(3)などの分解物を生成することがある(例えば、本願比較例2参照)。
従って、本発明の上記の方法(方法1、方法2)で得られた高純度芳香族メチルアルコール組成物は、遮光性のある保存容器での保存が望ましい。その材質は、例えば、ガラス、セラミック、プラスチック、金属、紙、木、竹、麻等が挙げられるが、特に制限されない。また、例えば、使用前に汎用の容器の内面を分解抑制剤又はその溶液で洗浄し、乾燥する等の前処理を行った容器を使用してもよい。更に、蒸留時に使用した主留分の受器をそのまま保存容器として使用してもよい。なお、前記保存容器は、その内部が窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスで充填されていてもよい。
【0106】
≪芳香族メチルアルコール組成物の保存方法≫
次に、高純度芳香族メチルアルコールの保存方法について説明する。
【0107】
<使用される芳香族メチルアルコール>
本発明で得られる高純度芳香族メチルアルコールを含め、芳香族メチルアルコールが電子供与基を有する芳香族メチルアルコールである場合、特にピペロニルアルコール、ベラトリルアルコール、及びアニスアルコールなど、アルコキシ基を有する芳香族メチルアルコールである場合には、その純度に関係なく、以下に示す本発明の保存方法により、保存中の分解を抑制することは可能である。
従って、本発明の保存方法で使用される芳香族メチルアルコールは、前記工程(A)にて、蒸留精製された一般式(1)で示される高純度芳香族メチルアルコール、又は一般式(1)で示される芳香族メチルアルコールの純度が90%以上の芳香族メチルアルコール含有粗製物1d、及び本発明の方法で製造された前記高純度芳香族メチルアルコール組成物である。しかしながら、芳香族メチルアルコール化合物は、例えば、香料等の原料として産業上の使用されること考慮すれば、高純度品である本発明の高純度芳香族メチルアルコール、又は高純度芳香族メチルアルコール組成物を保存する方法として使用することが好ましい。
【0108】
<保存容器>
本発明の保存方法で使用される保存容器の材質は、特に制限されず、例えば、ガラス、セラミック、プラスチック、金属、紙(例えば、紙袋、ダンボール箱等)、木(例えば、木箱等)、竹(例えば、編みかご、竹筒等)、麻(例えば、麻袋等)等が挙げられる。
【0109】
<保存剤>
本発明の芳香族メチルアルコールの保存方法において使用される保存剤は、前記工程(A)における蒸留の際、芳香族メチルアルコールの分解を抑制する目的で使用される分解抑制剤と同義のものが、芳香族メチルアルコール用保存剤として使用される。
【0110】
(保存剤の使用量)
上記の芳香族メチルアルコールの保存方法における保存剤の使用量は、前記高純度芳香族メチルアルコール組成物の製造方法に記載のpH範囲(pH8以上)を達成する量であれば、特に制限はない。但し、分解抑制剤の使用量があまりにも多い場合、二次加工の際に、これを取り除くことが煩雑になるので、例えば、その使用量の目安としては、芳香族メチルアルコール組成物に含まれる芳香族メチルアルコール純分含量に対して、好ましくは10〜500,000ppm、更に好ましくは200〜50,000ppm、より好ましくは200〜30,000ppm、特に好ましくは500〜15,000ppm、特により好ましくは1000〜10,000ppmである。ここで、例えば、保存剤がこの範囲より少ない場合には、高純度芳香族メチルアルコールの分解抑制効果が不十分であり、また多い場合には、懸濁、スラリー状になりハンドリングが悪くなったり、芳香族メチルアルコール組成物から芳香族メチルアルコールを取り出して使用する際に中和が必要になったり、更には経済的にも望ましくない。
なお、本発明の方法で製造された前記高純度芳香族メチルアルコール組成物には、既に保存剤が、上記の量含有している。
【0111】
(保存状態)
本発明で得られた高純度芳香族メチルアルコール組成物の保存状態は、特に制限されないが、保存容器の内部が、遮光状態で、かつ窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス気流下、又はガス充填下であることが望ましい。
【0112】
(保存温度)
本発明の高純度芳香族メチルアルコール組成物の保存は、通常の室温環境下(例えば、0〜50℃)でも、安定に保存することはできる。
しかしながら、本発明の高純度芳香族メチルアルコール、特にアルコキシ基を有する高純度芳香族メチルアルコールは、たとえ遮光状態で保存したとしても加熱環境下のみでも分解することがある。
【0113】
従って、本発明で得られた高純度芳香族メチルアルコール組成物は、対象となる高純度芳香族メチルアルコールの融点(文献値)以下の温度で固体として保存することが望ましい。より具体的にはそのハンドリング性を考慮して、保存温度は、好ましくは対象となる100〜−10℃、より好ましくは90〜−10℃、特に好ましくは70〜−5℃である。なお、融点が、10℃以下のものは、前記室温環境下にて液体として保存しても、固化させて保存してもどちらでもよい。
【0114】
より具体的には、高純度芳香族メチルアルコールがピペロニルアルコールの場合、前記室温温度環境下でも保存できるが、好ましくは100〜−10℃、より好ましくは90〜−10℃、特に好ましくは70〜−10℃で保存する。
【0115】
≪芳香族メチルアルコールの安定化方法≫
本発明は、前記分解抑制剤であるアルカリ金属の炭酸化合物、アルカリ土類金属の炭酸化合物、アルカリ金属の炭酸水素化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のリン酸塩化合物、アルカリ土類金属のリン酸塩化合物及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の分解抑制剤を安定剤として、一般式(1):
【0116】
【化19】
(式中、R
1からR
3、n及びmは前記[1]の一般式(1)におけるのと同義である)
で示される高純度芳香族メチルアルコール又は前記芳香族メチルアルコール含有粗製物に加えることを含む、高純度芳香族メチルアルコールの安定化方法に関する。より詳しくは、前記安定剤を、pH8〜14の条件となるように、前記高純度芳香族メチルアルコール又は前記芳香族メチルアルコール含有粗製物に加えることを含む、芳香族メチルアルコールの安定化方法に関する。
【0117】
(使用される芳香族メチルアルコール)
本発明で使用される芳香族メチルアルコールは、前記≪芳香族メチルアルコール組成物の保存方法≫に記載の<使用される芳香族メチルアルコール>及び前記≪芳香族メチルアルコールの製造方法≫に記載の(本発明の芳香族メチルアルコール含有粗製物)と同じである。なお、産業の有用性を考慮すれば、好ましくは前記<使用される芳香族メチルアルコール>、(本発明の芳香族メチルアルコール含有粗製物)に記載の芳香族メチルアルコール含有粗製物1b、1c及び1dである。
【0118】
(安定化剤)
前記芳香族メチルアルコールの安定化方法において使用される安定化剤は、前記工程(A)における蒸留の際の分解抑制剤と同義のものが、芳香族メチルアルコール用安定化剤として使用される。
【0119】
〔安定化剤の使用量〕
前記安定化剤の使用量は、前記工程(A)における蒸留の際の分解抑制剤の使用量と同義である。また、安定化剤は、前記工程(A)における蒸留の際の分解抑制剤の使用と同様に、pH8〜14となるように、前記高純度芳香族メチルアルコールに加える。
【0120】
本発明は、前記安定化剤を使用することにより、例えば、前記蒸留時の温度条件でもある160℃という高温下においても、一般式(1)で示される芳香族メチルアルコールを安定に存在させることができる。
【実施例】
【0121】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、「%」は特記しない限り、「質量%」を意味する。
<後述の実施例1〜3及び比較例1の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の分析条件>
カラム:ODS−80TsQA φ4.6mm×250mm(TOSOH製)
溶離液:アセトニトリル/H2O=270/400[質量/質量](トリフルオロ酢酸でpH=2.5に調整)
カラム温度:40℃
検出器:256nm
流量:0.6mL/min
【0122】
<実施例4〜13及び比較例2〜4の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の分析条件>
カラム:ODS−80TsQA φ4.6mm×250mm(TOSOH製)
溶離液:アセトニトリル/H2O=520/1000[質量/質量](トリフルオロ酢酸でpH=2.5に調整)
カラム温度:40℃
検出器:256nm
流量:1.0mL/min
【0123】
参考例1(ピペロニルクロリドのトルエン溶液の調製)
温度計、温度調整装置、滴下装置及び撹拌措置を備えたガラス製反応容器に、1,2−メチレンジオキシベンゼン4.89kg(40mol)、トルエン3.9kg(42mol)、パラホルムアルデヒド1.41kg(43.2mol)及び36%塩酸水溶液9.10kg(90.8mol)とから、非特許文献2に記載の方法に従って、目的物であるピペロニルクロリドをトルエン溶液として9.90kg得た。
【0124】
≪工程(A−0)≫
実施例1(ピペロニルアルコール粗製物1bの合成)
温度計、温度調整装置、滴下装置及び撹拌措置を備えたガラス製反応容器に、水6.9L、リン酸二水素ナトリウム・二水和物(NaH2PO4・2H2O)32g(0.20mol)を加え、液温を48℃にした。この溶液に、参考例1で合成したピペロニルクロリドのトルエン溶液9.88kg(20.1mol、ピペロニルクロリドの含量:3.45kg)を、37%水酸化ナトリウム水溶液2.50kg(23.1モル)を加え、2時間攪拌した後、引き続き、液温90℃にて3時間撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、有機相を抽出した。また、水相は、再度トルエンを加えて分液し、有機相を抽出した。得られた有機相は、先の有機層と混合し、目的物であるピペロニルアルコール粗製物のトルエン溶液として、ピペロニルアルコール粗製物1bを10.4kg得た。
【0125】
得られたピペロニルアルコール粗製物1bの分析値は、以下のとおりであった。
ピペロニルアルコールの含量(HPLC分析、絶対検量線法):2.73kg。
ピペロニルアルコールの含有率(HPLC分析、絶対検量線法):26質量%)。
ピペロニルアルコールの収率(ピペロニルクロリドの使用量基準):88.7%。
【0126】
なお、主な副生物は、下記式(3d)に記載のビス(3,4−メチレンジオキシベンジル)エーテルであった。
【0127】
【化20】
【0128】
得られたピペロニルアルコールのトルエン溶液中の式(3d)で示される副生物の含有率を、検出波長を256nmとした高速液体クロマトグラフィー分析(絶対検量線法)から、得られたピペロニルアルコール及び式(3d)で示される副生物の含有量を下記の(数式1d):
【0129】
【数3】
【0130】
より算出したところ、3.8%であった。
【0131】
参考例2(ピペロニルアルコールの精製)
次に、実施例1と同様の方法にて得られたピペロニルアルコールのトルエン溶液から、その一部を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、ピペロニルアルコールを白色固体として得た。本発明ではこれをHPLC分析の分析標品として使用した。
【0132】
得られた化合物(ピペロニルアルコール)の物性値は、以下のとおりであった。
MSスペクトル〔CI−MS〕:152[M+1]
1H−NMRスペクトル〔300MHz,CDCl3,δ(ppm)〕:1.83(1H,brs),4.56(2H,s),5.94(2H,s),6.78−6.85(3H,m)。
融点:48.0〜53.5℃
【0133】
実施例2(高純度ピペロニルアルコールの蒸留:工程(A)、分解抑制剤;炭酸ナトリウム)
温度計、温度調整装置、滴下装置及び撹拌措置を備えたガラス製反応容器に、実施例1と同様の方法で製造したピペロニルアルコール130.24gを純分として含むトルエン溶液(ピペロニルアルコール粗製物1b)577.32gを加えた。次に、このトルエン溶液に分解抑制剤として炭酸ナトリウム2.89g(ピペロニルアルコール粗製物中のピペロニルアルコールの純分質量に対して22000ppm)を加え、減圧にて溶媒を留去した。次いで、得られた残渣を釜温127℃、真空度0.64kPa(4.8Torr)の条件にて単蒸留を行い、主留分として、純度98.0%のピペロニルアルコールを125.92g(回収率94.8%)得た。なお、蒸留中の内容物のpHは、pH試験紙で約10であった。また、主留分、釜残分、溶媒混入分中のピペロニルアルコールを合計すると130.24g(回収率100%)であった。また、得られたピペロニルアルコール中には、式(3d)に記載のビス(3,4−メチレンジオキシベンジル)エーテルは混入していなかった。
【0134】
実施例3(高純度ピペロニルアルコールの蒸留:工程(A)、分解抑制剤;水酸化ナトリウム)
分解抑制剤として、水酸化ナトリウムをピペリニルアルコールの純分質量に対して0.1wt%添加した以外は、実施例2と同様の条件で蒸留を行った。その結果、主留分として純度98.9%のピペロニルアルコールを取得収率94.3%で得た。なお、蒸留中の蒸留釜内容物のpHは、pH試験紙で約10であった。また、主留分、釜残分、溶媒混入分中のピペロニルアルコールを合計すると130.24g(回収率100%)であった。また、得られたピペロニルアルコール中には、式(3d)に記載のビス(3,4−メチレンジオキシベンジル)エーテルは混入していなかった。
【0135】
比較例1(高純度ピペロニルアルコールの合成:分解抑制剤なし)
分解抑制剤を添加しない以外は、実施例2と同様の条件で蒸留を行った。その結果、主留分として純度96.2%のピペロニルアルコールを取得収率82.8%で得た。また、主留分、釜残分、溶媒混入分中のピペロニルアルコールを合計すると回収率は、わずか83.5%であり、工程(A)の蒸留操作中に16.5%のピペロニルアルコールが分解していることが確認された。また、実施例2と同じ主留分の取得条件下で得られたピペロニルアルコール中には、式(3d)に記載のビス(3,4−メチレンジオキシベンジル)エーテルが1.64%も混入していた。
なお、蒸留釜内容物を一部取り出し、pHメーターを用いて、pHを測定したところ、蒸留開始前の蒸留釜内容物のpHは6.0、蒸留開始後の蒸留釜内容物のpHは2.6であった。
【0136】
≪高純度芳香族メチルアルコールの安定化方法≫
実施例4(分解抑制剤(炭酸ナトリウム)の添加による分解抑制効果:ピペロニルアルコール)
参考例1及び実施例1と同様の方法で得たピペロニルアルコールのトルエン溶液から、トルエンを留去し、ピペロニルアルコールの濃縮物を得た。次に、得られた濃縮物に分解抑制剤として炭酸ナトリウムを、1000ppm加え、安定化測定用のサンプルを作製した。
これを、温度140℃の高温槽につけて、経時的(4時間後、8時間後、12時間後、16時間後、20時間後)に、高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)を行い、ピペロニルアルコールの純度(質量%換算)を測定した。なお、その保存率は、[各核時間経過後のピペロニルアルコールのHPLC純度(面積%)]/[測定開始のピペロニルアルコールのHPLC純度(面積%)]×100(%)とした。即ち、測定開始時の保存率を100%とし、一定時間経過後の数値が高いほど安定に保存できることを示す。その結果を以下の表1に示す。
【0137】
比較例2(高純度ピペロニルアルコールの保存安定性(140℃):分解抑制剤:なし)
分解抑制剤(炭酸ナトリウム)を使用しなかった以外は、前記実施例4の比較として、同様の実験を行った。その結果を以下の表2に示す。
【0138】
【表2】
*1:保存率(%)=[各時間経過後のピペロニルアルコールのHPLC純度(面積%)]/[測定開始のピペロニルアルコールのHPLC純度(面積%)]×100(%)とした。
【0139】
実施例5〜8(分解抑制剤(炭酸ナトリウム)の添加による分解抑制効果:ピペロニルアルコール)
参考例1及び実施例1と同様の方法で、ピペロニルアルコールの純度96.4%(HPLC:絶対検量線法)のピペロニルアルコールのトルエン溶液を得た。次に、得られた前記トルエン溶液を、20mlのガラスフラスコに小分けし、これに分解抑制剤として炭酸ナトリウムを、188ppm(実施例5)、489ppm(実施例6)、710ppm(実施例7)、950ppm(実施例8)をそれぞれ加えた後、トルエンを留去し、安定化測定用のサンプルを作製した。
次に、この安定化測定用のサンプルを、温度160℃の恒温槽につけ、経時的(7時間後、14時間後、21時間後)に、高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)を行い、ピペロニルアルコールの純度(質量%換算)を測定した。その結果を以下の表3に示す。
【0140】
比較例3(高純度ピペロニルアルコールの保存安定性(160℃):分解抑制剤:なし)
分解抑制剤(炭酸ナトリウム)を使用しなかった以外は、前記実施例4〜7の比較として、同様の実験を行った。その結果を以下の表3に示す。
【0141】
【表3】
*1:高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)によるピペロニルアルコールの純度(質量%:wt%)を示す。なお、測定開始時のピペロニルアルコールの純度は、96.4wt%、式(3d)の含有量:0wt%、含有水分量10,000ppm)。
*2:高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)によるビス(3,4−メチレンジオキシベンジル)エーテル(式(3d)の含有量(質量%:wt%)を示す。
*3:分解抑制剤は、炭酸ナトリウムを使用。
【0142】
実施例9(分解抑制剤(炭酸ナトリウム:10,000ppm)の添加による分解抑制効果:p−アニスアルコール)
p−アニスアルコール(和光純薬製)を用いて、これに分解抑制剤として炭酸ナトリウムを10,000ppm加えて、安定化測定用のサンプルを作成した。
次に、この安定化測定用のサンプルを、温度160℃の恒温槽につけ、経時的(5時間後、10時間後)に、高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)を行い、p−アニスアルコールの保存率(%)を測定した。なお、その保存率は、実施例4の算出方法同じである。また、実施例4と同様に、測定開始時の保存率を100%とし、一定時間経過後の数値が高いほど安定に保存できていることを示す。その結果を以下の表4に示す。
【0143】
比較例4(分解抑制剤(無し)の添加による分解抑制効果:p−アニスアルコール)
分解抑制剤(炭酸ナトリウム)を使用しなかった以外は、前記実施例8の比較として、同様の実験を行った。なお、その保存率は、実施例4の算出方法同じである。その結果を以下の表4に示す。表4より、分解抑制剤を入れなかった比較例4では、わずか10時間でほぼ10%の分解が確認された。
【0144】
【表4】
*1:保存率(%)=[各時間経過後のピペロニルアルコールのHPLC純度(面積%)]/[測定開始のピペロニルアルコールのHPLC純度(面積%)]×100(%)とした。
【0145】
≪高純度芳香族メチルアルコールの保存方法≫
実施例10(高純度ピペロニルアルコールの保存安定性(90℃):方法(2)、分解抑制剤:炭酸ナトリウム)
30mLのガラス製容器に、実施例2と同様の方法で得られた高純度ピペロニルアルコール5gを加熱融解して加え、更にこれに炭酸ナトリウム0.025g(高純度ピペロニルアルコールの使用量に対して、5000ppm)を加えた。得られた高純度ピペロニルアルコール組成物が入った容器は密栓し、放冷にて固化させて、固体として高純度ピペロニルアルコール組成物の保存容器を作成した。次に、これを90℃の恒温装置内で28日間保存する試験を行った(保存開始の内容物のpHは、pH試験紙で約10であった)。前記温度下で保存開始後、7日後、14日後、21日後、28日後に前記組成物の高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)を行い、純分含量(質量%)としてピペロニルアルコールの純度を算出した。その結果を以下の表5に示す。
【0146】
実施例11(高純度ピペロニルアルコールの保存安定性):方法(2)、分解抑制剤:炭酸ナトリウム)
保存温度を45℃に変えた以外は、実施例10と同じ方法により保存し、同様に保存開始後、7日後、14日後、21日後、28日後の高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)によるピペロニルアルコールの純度(質量%換算)を算出した。その結果を以下の表5に示す。なお、保存開始の内容物のpHは、pH試験紙で約10であった。
【0147】
比較例5〜6(高純度ピペロニルアルコールの保存安定性:方法(2)、分解抑制剤:なし)
分解抑制剤を加えなかった以外は、実施例10及び11とそれぞれ同じ方法で、保存温度を90℃(比較例5)、45℃(比較例6)下にて保存し、同様に保存開始後、7日後、14日後、21日後、28日後のピペロニルアルコールの純度を高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)で測定した。その結果を表5に示す。
【0148】
【表5】
*1:高純度ピペロニルアルコール組成物を示す。
*2:高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)によるピペロニルアルコールの純度(質量%:wt%)を示す。
*3:比較例(分解抑制剤なし)の実験結果を示す。
【0149】
実施例12〜15(高純度ピペロニルアルコールの保存安定性:方法(2)、分解抑制剤:炭酸ナトリウム)
実施例2と同様の方法で得られた高純度ピペロニルアルコール(ピペロニルアルコールの純度96.6wt%;HPLC:絶対検量線法、式(3)の純度0wt%)10gを用い、分解抑制剤(炭酸ナトリウム)の使用量を、200ppm(実施例12)、500ppm(実施例13)、750ppm(実施例14)、1000ppm(実施例15)に変えた以外は、実施例10と同じ方法により、保存温度を90℃にして保存開始した。なお、保存開始の内容物のpHは、pH試験紙で約10であった。
30日経過後、それぞれのサンプルを高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)により、ピペロニルアルコールの純度(質量%換算)を測定した。その結果を以下の表6に示す。
【0150】
【表6】
*1:高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)によるピペロニルアルコールの純度(質量%:wt%)を示す。
*2:高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC:絶対検量線法)によるビス(3,4−メチレンジオキシベンジル)エーテル(式(3d)の含有量(質量%:wt%)を示す。
【0151】
上記、表5及び6より、例えば、90℃の保存条件下では、分解抑制剤がない場合は、14日目には、ピペロニルアルコールが半分量以下にまで分解してしまうが、実施例
12より、少なくとも分解抑制剤が200ppm以上あれば、
ピペロニルアルコールの安定化が図れ、従って、長期
間保存することができる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明は、高純度の芳香族メチルアルコールを製造する方法及び保存安定性に優れた高純度芳香族メチルアルコール組成物に関する。本発明で得られた芳香族メチルアルコールは、医農薬品又は有機材料等の各種化学製品、或いはその原料又は中間体であることが知られている。特に、本発明のピペロニルアルコールは、香粧品や殺虫剤などの合成原料として有用である。