特許第5741633号(P5741633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741633
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】摺動式トリポード型等速ジョイント
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/205 20060101AFI20150611BHJP
【FI】
   F16D3/205 M
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-123277(P2013-123277)
(22)【出願日】2013年6月12日
(62)【分割の表示】特願2009-240059(P2009-240059)の分割
【原出願日】2009年10月19日
(65)【公開番号】特開2013-174362(P2013-174362A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2013年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2008-324502(P2008-324502)
(32)【優先日】2008年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2008-325882(P2008-325882)
(32)【優先日】2008年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】水野 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 良成
(72)【発明者】
【氏名】吉井 辰也
【審査官】 河端 賢
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−144118(JP,A)
【文献】 特開昭59−040016(JP,A)
【文献】 特開平06−074244(JP,A)
【文献】 特開2008−064252(JP,A)
【文献】 実開昭47−019647(JP,U)
【文献】 実公昭39−033008(JP,Y1)
【文献】 実開平04−017513(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状からなり、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝が形成された外輪と、
シャフトに連結されるボス部、および、前記ボス部の外周面からそれぞれ前記ボス部の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの前記軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を備えるトリポードと、
前記トリポード軸部の外周に前記トリポード軸部に対して揺動可能に設けられ、外面に前記軌道溝の側面と対向する動力伝達面を有する中間部材と、
前記軌道溝の側面と前記動力伝達面との間に、前記軌道溝の側面に沿って転動可能に設けられる複数の軸状転動体と、
前記軸状転動体が前記中間部材の外周を循環可能となるように前記軸状転動体を支持する保持器と、
を備え、
前記軌道溝の側面には、前記外輪回転軸方向に延びる軌道凹部が形成され、
前記軸状転動体は、前記軌道溝の側面側に位置する部分が前記軌道凹部に嵌め込まれ、
且つ、前記軌道凹部の底面に沿って転動可能であり、
前記保持器は、前記軌道凹部の外部に配置され、
前記軸状転動体は、外周に転動面を備える転動面部と、該転動面部の軸方向両端面から軸方向外方にそれぞれ突出した突起部とを備え、
前記転動面部は、前記軌道凹部に嵌め込まれ、
前記転動面部の前記転動面は、前記軌道凹部の底面に沿って転動可能であり、
各前記突起部は、前記軌道凹部の外部に位置し、前記保持器に支持され、
前記保持器は、
それぞれ環状に形成することにより前記軸状転動体の循環路を形成し、前記軸状転動体を挟むように相互に対向して配置され、それぞれ対向するコの字型断面形状に形成されることにより前記軸状転動体の両前記突起部を支持する一対の循環路形成部材と、
前記一対の循環路形成部材を前記循環路より内側にて連結する連結部と、
を備え、
前記一対の循環路形成部材は、対向する一対の直線部と、前記一対の直線部を連結する一対の半円弧状の湾曲部と、からそれぞれ構成され
前記連結部は、前記一対の循環路形成部材の前記湾曲部に一体にそれぞれ形成される一対のL字型部材を備え、前記一対のL字型部材を連結することにより、前記保持器の外側に開口するコの字形状に形成されていることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項2】
請求項1において、
前記軸状転動体が前記軌道凹部において最も前記軌道溝の溝底側に位置し、且つ、前記保持器が前記軸状転動体に対して最も前記軌道溝の溝底側に位置する状態において、前記保持器と前記軌道溝の溝底面との間に隙間を設けることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記保持器は、前記軌道溝の側面に対して隙間を隔てて配置されることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記保持器の前記外輪の径方向内方には、前記軌道溝の開口部が位置することを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
両前記突起部の先端間距離は、前記軌道凹部の開口幅よりも大きく設定されていることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式トリポード型等速ジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の摺動式トリポード型等速ジョイントとして、例えば、特開2003−65350号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1に記載の摺動式トリポード型等速ジョイントは、転動体は相互に中間部材に対して位置決めされた状態で保持器によって支持されている。この構成により動力を伝達すると、転動体と中間部材、および転動体と軌道溝の間には転がり抵抗の他に、滑りによって大きな抵抗が発生する。
【0003】
そこで、この抵抗を低減するために、例えば、特許第2763624号公報(特許文献2)に記載されたものがある。特許文献2に記載の摺動式トリポード型等速ジョイントは、転動体をニードルとし、その転動体が、中間部材の外周を循環可能に保持器によって支持されている。これにより、転動体と中間部材、および転動体と軌道溝の間の滑りによる抵抗が大幅に低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−65350号公報
【特許文献2】特許第2763624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、転動体としてニードルを用いる場合には、ニードルにスキューが発生する。スキューとは、ニードルの軸中心が、ニードルの転がる方向に対して傾斜する状態のことである。ニードルにスキューが発生することにより、ニードルには、軸方向への力が発生する。
【0006】
そのため、特許文献2に記載の等速ジョイントにおいては、ニードルが、スキューにより、外輪の軌道溝に対してニードルの軸方向に往復移動する。このニードルの軸方向の両端は、保持器によって挟まれるように保持されている。従って、ニードルが軌道溝に対してその軸方向へ移動することに伴って、ニードルを保持する保持器も軌道溝に対してニードルの軸方向へ移動する。
【0007】
ここで、当該等速ジョイントにおいては、保持器が外輪の軌道溝に嵌合されている構成となっている。そのため、ニードルにスキューが発生する場合、保持器が、ニードルと軌道溝との間に挟圧される状態となる。挟圧された場合にも保持器の十分な耐久性を確保するため、保持器の曲げ剛性を高く設定しなければならない。例えば、保持器の板厚を厚くしたり、保持器に熱処理を施したりする。これらの処理は、保持器の高コスト化および質量増化の要因となる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、保持器がニードルおよび外輪から受ける荷重を低減することにより、保持器の低コスト化および軽量化を図ることができる摺動式トリポード型等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、
筒状からなり、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝が形成された外輪と、
シャフトに連結されるボス部、および、前記ボス部の外周面からそれぞれ前記ボス部の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの前記軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を備えるトリポードと、
前記トリポード軸部の外周に前記トリポード軸部に対して揺動可能に設けられ、外面に前記軌道溝の側面と対向する動力伝達面を有する中間部材と、
前記軌道溝の側面と前記動力伝達面との間に、前記軌道溝の側面に沿って転動可能に設けられる複数の軸状転動体と、
前記軸状転動体が前記中間部材の外周を循環可能となるように前記軸状転動体を支持する保持器と、
を備え、
前記軌道溝の側面には、前記外輪回転軸方向に延びる軌道凹部が形成され、
前記軸状転動体は、前記軌道溝の側面側に位置する部分が前記軌道凹部に嵌め込まれ、
且つ、前記軌道凹部の底面に沿って転動可能であり、
前記保持器は、前記軌道凹部の外部に配置され、
前記軸状転動体は、外周に転動面を備える転動面部と、該転動面部の軸方向両端面から軸方向外方にそれぞれ突出した突起部とを備え、
前記転動面部は、前記軌道凹部に嵌め込まれ、
前記転動面部の前記転動面は、前記軌道凹部の底面に沿って転動可能であり、
各前記突起部は、前記軌道凹部の外部に位置し、前記保持器に支持され、
前記保持器は、
それぞれ環状に形成することにより前記軸状転動体の循環路を形成し、前記軸状転動体を挟むように相互に対向して配置され、それぞれ対向するコの字型断面形状に形成されることにより前記軸状転動体の両前記突起部を支持する一対の循環路形成部材と、
前記一対の循環路形成部材を前記循環路より内側にて連結する連結部と、
を備え、
前記一対の循環路形成部材は、対向する一対の直線部と、前記一対の直線部を連結する一対の半円弧状の湾曲部と、からそれぞれ構成され
前記連結部は、前記一対の循環路形成部材の前記湾曲部に一体にそれぞれ形成される一対のL字型部材を備え、前記一対のL字型部材を連結することにより、前記保持器の外側に開口するコの字形状に形成されていることである。

【0010】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記軸状転動体が前記軌道凹部において最も前記軌道溝の溝底側に位置し、且つ、前記保持器が前記軸状転動体に対して最も前記軌道溝の溝底側に位置する状態において、前記保持器と前記軌道溝の溝底面との間に隙間を設けることである。
【0011】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または2において、前記保持器は、前記軌道溝の側面に対して隙間を隔てて配置されることである。
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1〜3の何れか一項において、前記保持器の前記外輪の径方向内方には、前記軌道溝の開口部が位置することを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【0013】
請求項に係る発明の特徴は、請求項1〜4の何れか一項において、
両前記突起部の先端間距離は、前記軌道凹部の開口幅よりも大きく設定されていることである。
【発明の効果】
【0020】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、軸状転動体は軌道凹部に嵌め込まれている。これにより、スキューにより軸状転動体にその軸方向へ移動しようとする力が発生した場合には、軸状転動体は軌道凹部により当該移動を規制される。さらに、保持器は、軌道凹部の外部に配置されている。つまり、保持器は、軌道凹部の内部に収容されていない。従って、軌道凹部のみが、スキューによる軸状転動体の移動を規制する効果を発揮し、保持器は当該移動規制効果を発揮しないような構成とされている。このように、本発明は、従来のように保持器自体が外輪に接触することにより保持器および軸状転動体のスキューによる移動を規制していない。そのため、保持器が外輪と接触することによって大きな荷重を受けることを抑制できる。その結果、保持器の曲げ剛性を高めるための処理、例えば、板厚を厚くしたり、熱処理を施したりすることをしなくてもよくなる。つまり、保持器の低コスト化および軽量化を図ることができる。
さらに、本発明によれば、保持器が、軌道凹部の外部に位置する突起部を支持している。これにより、保持器が、軌道凹部の外部に配置される状態を、確実に達成することができる。従って、本発明によれば、従来のように保持器自体が外輪に接触することにより保持器および軸状転動体のスキューによる移動を規制しない構成とできる。
【0021】
請求項2に係る発明において、軸状転動体は、軌道凹部において、軸状転動体の軸方向の移動を規制されている場合と、当該軸方向への僅かな移動を許容している場合とがある。本発明における「軸状転動体が軌道凹部において最も軌道溝の溝底側に位置する」とは、軸状転動体が軌道凹部において移動規制されている場合は規制されているその位置を意味し、移動を許容されている場合には軸状転動体が軌道凹部において軌道溝の溝底側へ移動してそれ以上移動できなくなる位置を意味する。
【0022】
また、保持器は、軸状転動体に対して、外輪の径方向への移動を規制されている場合と、外輪の径方向への僅かな移動を許容している場合とがある。本発明における「保持器が軸状転動体に対して最も軌道溝の溝底側に位置する」とは、保持器が軸状転動体に対して移動規制されている場合は規制されているその位置を意味し、移動を許容されている場合には保持器が軸状転動体に対して軌道溝の溝底側へ移動してそれ以上移動できなくなる位置を意味する。
【0023】
そして、上記状態において、保持器と軌道溝の溝底面との間に隙間が設けられている。これにより、スキューが生じた場合であっても、保持器が外輪の軌道溝の溝底面に接触することを防止できる。つまり、保持器は、軌道凹部から荷重を受けることなく、且つ、軌道溝の溝底面からも荷重を受けることを防止できる。これにより、保持器の曲げ剛性を高くすることを抑制できる。
【0024】
請求項3に係る発明によれば、保持器が、軌道溝の側面と接触することを防止できる。つまり、保持器は、軌道溝の側面から荷重を受けることを防止できる。これにより、保持器の曲げ剛性を高くすることをより抑制できる。
【0025】
請求項4に係る発明によれば、保持器の外輪径方向内方において、外輪の部位が何ら存在しない。従来は、保持器そのものを規制するために、軌道溝の開口部において、保持器の外輪径方向内方に突起が形成されていた。これに対して、本発明においては、保持器の外輪径方向内方には突起が存在しないように、軌道溝の開口部が位置するようにしている。従って、保持器が外輪に対して外輪径方向内方へ移動した場合であっても、保持器が外輪の構成部位から荷重を受けることを防止できる。これにより、保持器の曲げ剛性を高くすることをより抑制できる。
【0027】
請求項5に係る発明によれば、突起部が軌道凹部の内部に入り込まないような、軸状転動体の形状とすることができる。これにより、確実に、突起部を支持する保持器が、軌道凹部に入り込まないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】等速ジョイント1の斜視図であり、外輪10を軸方向に切断した状態を示す。
図2】等速ジョイント1の一部の組み付け状態における、外輪10の開口側から見た図である。
図3】等速ジョイント1の一部の径方向断面図である。
図4】中間部材40の分割部材41の斜視図である。括弧書きにて、分割部材42を示す。
図5】(a)〜(e)は、順に分割部材41の正面図(図4の上から見た図)、左側面図、右側面図、平面図、底面図である。
図6】保持器60に軸状転動体50を組み付けた状態の斜視図である。
図7】(a):保持器60の正面図である。(b):(a)のA−A断面図である。(c):(a)のB−B断面図である。
図8】外輪10を除く、等速ジョイント1の外輪回転軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の摺動式トリポード型等速ジョイント(以下、単に「等速ジョイント」と称する)を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。ここで、本実施形態の等速ジョイントは、車両の動力伝達シャフトの連結に用いる場合を例に挙げて説明する。例えば、ディファレンシャルギヤに連結された軸部とドライブシャフトの中間シャフトとの連結部位に用いる場合である。
【0039】
本実施形態の等速ジョイント1について、図1図8を参照して説明する。図1図3に示すように、等速ジョイント1は、外輪10と、トリポード20と、ローラユニット30とから構成される。
【0040】
図1に示すように、外輪10は、筒状部11と、連結軸部12とから構成される。筒状部11は、有底筒状に形成されている。連結軸部12は、筒状部11の底部から軸方向外方に延びるように、筒状部11と同軸的に且つ一体に形成されている。この連結軸部12は、ディファレンシャルギヤ(図示せず)に連結されている。
【0041】
そして、図1図3に示すように、筒状部11の内周面には、外輪回転軸方向(図2の前後方向)に延びる軌道溝16が、外輪回転軸の周方向に等間隔に3本形成されている。各軌道溝16における溝延伸方向に直交する断面形状が、外輪10の回転軸中心に向かって開口するコの字形をなしている。つまり、各軌道溝16は、ほぼ平面状に形成された溝底面161と、溝底面に直交するようなほぼ平面状に形成され且つそれぞれ平行に対向する側面162、163とを備える。
【0042】
それぞれの側面162、163には、外輪回転軸方向に延びる軌道凹部17、18が形成されている。この軌道凹部17、18は、軌道溝16の側面162、163のうち、外輪10の径方向のほぼ中央部に形成されている。この軌道凹部17、18の開口幅(図2、3の上下幅)が、徐々に大きくなるように形成されている。つまり、軌道凹部17、18は、ほぼ平面状の底面17a、18aと傾斜する壁部17b、18bとを有している。
【0043】
図1および図3に示すように、トリポード20は、外輪10の筒状部11の内側に配置されている。このトリポード20は、ボス部21と、3本のトリポード軸部22とを備える。ボス部21は、環状からなり、その内周側には内歯スプライン21aが形成されている。この内歯スプライン21aは、中間シャフト2の端部の外歯スプラインに嵌合連結される。また、ボス部21の外周面は、ほぼ球面凸状に形成されている。
【0044】
それぞれのトリポード軸部22は、ボス部21の外周面からそれぞれボス部21の径方向外方に延びるように立設されている。これらのトリポード軸部22は、ボス部21の周方向に等間隔(120deg間隔)に形成されている。そして、それぞれのトリポード軸部22の少なくとも先端部は、外輪10の筒状部11のそれぞれの軌道溝16内に挿入されている。それぞれのトリポード軸部22の外周面は、球面凸状に形成されている。ここで、当該球面凸状の曲率中心付近を通りトリポード20の回転軸(中間シャフト2の回転軸)に直交する直線が、トリポード軸部22の中心軸(以下、「トリポード軸」とも称する)となる。
【0045】
ローラユニット30は、図1に示すように、全体形状としては環状からなり、トリポード軸部22の外周側に配置されている。さらに、ローラユニット30は、軌道溝16が延びる方向に移動可能となるように、軌道溝16に嵌合されている。このローラユニット30は、中間部材40と、複数の軸状転動体50と、保持器60とから構成される。
【0046】
図1および図3に示すように、中間部材40は、一対の分割部材41、42から構成される。一対の分割部材41、42を一体的に見た場合に、中間部材40の全体形状としての外形はほぼ矩形に形成されている。さらに、中間部材40を全体としてみた場合に、中間部材40の中央には、円形孔に相当する部分が形成されている。
【0047】
一対の分割部材41、42は、トリポード軸(図3の上下方向)および中間シャフト2の回転軸(図3の前後方向)を通る平面に対して、面対称な形状からなるように別体で構成され、それぞれ独立している。そして、一対の分割部材41、42は、図1および図3に示すように、軌道溝16の側面162、163の両側からトリポード軸部22を挟むように配置されている。つまり、両分割部材41、42は、動力伝達方向(外輪回転軸回りまたは中間シャフト回転軸回りの方向)の両側からトリポード軸部22を挟むように配置されている。そして、一対の分割部材41、42は、トリポード軸部22に対して、トリポード軸部22の軸直交方向の全ての方向から見た場合に、揺動可能に設けられている。
【0048】
ここで、図4および図5を参照して、分割部材41の詳細な形状について説明する。なお、他の分割部材42は、上述したように、一の分割部材41を対称としたものであるため、図中に括弧書きで符号を付すのみとして、詳細な説明は省略する。
【0049】
分割部材41は、矩形ブロック状に形成されている。この分割部材41の周面は、トリポード接触面41aと、動力伝達面41bと、軸方向端面41c、41dを有している。ここで、中間部材40を一体として見た場合に、トリポード接触面41aが内周面を形成し、動力伝達面41bおよび軸方向端面41c、41dが外周面を形成する。
【0050】
トリポード接触面41aは、トリポード軸部22に対して、トリポード軸部22の軸直交方向の全ての方向から見た場合に揺動可能に接触するような部分球面凹状に形成されている。そして、トリポード接触面41aにおける球面中心は、トリポード接触面41aの図3の上下方向幅(分割部材41の厚み)の中央付近であって、トリポード軸部22の図3の前後方向幅(分割部材41の長手方向の長さ)の中央付近に位置している。つまり、トリポード接触面41aは、トリポード軸部22の外周面に嵌合され、嵌合された状態でトリポード軸部22の軸方向に離脱しない形状をなしている。
【0051】
動力伝達面41bは、トリポード接触面41aの裏面側、すなわち図4の右手前側に設けられている。動力伝達面41bは、ほぼ平面状で矩形状に形成されている。この動力伝達面41bの外輪回転軸方向の両端側は、僅かに湾曲するように形成されている。つまり、図3において、動力伝達面41bの中央部が、図3の左右方向の外方に最も突出している。
【0052】
そして、一方の分割部材41の動力伝達面41bが軌道溝16の側面162に対してほぼ平行に対向するように、分割部材41が配置されている。なお、他方の分割部材42についても、同様に、動力伝達面42bが軌道溝16の側面163に対してほぼ平行に対向するように、分割部材42が配置されている。つまり、外輪10の回転軸と中間シャフト2の回転軸が一致している姿勢(ジョイント角0deg)において、動力伝達面41bは、トリポード軸部22の中心軸と中間シャフト2の回転軸を通る平面にほぼ平行となる。そして、動力伝達面41bは、複数(本実施形態では、3〜4個)の軸状転動体50に接触し得る範囲を有している。
【0053】
軸方向端面41c、41dは、図4の左手前側および右奥側、すなわち分割部材41の長手方向の両端に位置する部位である。この両軸方向端面41c、41dは、動力伝達面41bにほぼ直交する平面からなる。つまり、軸方向端面41c、41dは、軌道溝16の側面162にほぼ直交する平面からなる。
【0054】
この軸方向端面41c、41dのうち、分割部材42が存在する側の部位に、凹部41e、41fが形成されている。凹部41e、41fは、分割部材41がトリポード軸部22に組み付けられた状態において、トリポード軸部22の軸方向を長手方向とする矩形状をなしている。この凹部41e、41fは、図5(b)の左右両側、すなわち外輪10の径方向の両側に、後述する保持器60の突起63c、64cが係止される鍔部を有している。そして、この凹部41e、41fの長手方向の幅W、すなわち両鍔部の離間距離Wは、トリポード軸部22が保持器60に対して外輪10の径方向へ移動可能な距離以上に設定されている。
【0055】
軸状転動体50は、図1図3および図6に示すように、大径のニードルである。そして、図1に示すように、複数の軸状転動体50が、中間部材40を一体として見た場合の外周を循環するように設けられている。複数の軸状転動体50のうち一部(本実施形態においては、3〜4個)は、軌道溝16の側面と一対の分割部材41、42の動力伝達面41b、42bとの間に、軌道溝16の側面162、163および動力伝達面41b、42bに沿って転動可能に設けられている。つまり、軸状転動体50を介して動力伝達面41b、42bと軌道溝16の側面162、163との間で動力が伝達される。
【0056】
この軸状転動体50は、外周に転動面51aを有する円柱状の転動面部51と、柱延伸直交方向(図2の左右方向)に切断した断面が円形からなり、転動面部51の軸方向両端面からそれぞれ突出した突起部52とを備える。転動面部51の外周面に形成される転動面51aの柱延伸長さは、軌道凹部17、18の底面17a、18aの幅と同等、もしくは、底面17a、18aの幅より僅かに短く設定されている。
【0057】
この転動面部51の両端面は、テーパ状に形成されている。このテーパ状の端面51bは、軌道凹部17、18の壁部17b、18bとほぼ同様のテーパ状をなしている。つまり、転動面部51は、転動面部51の軌道溝の側面側に位置する部位が軌道凹部17、18に嵌め込まれるように設けられている。詳細には、テーパ状端面51bが軌道凹部17、18の壁部17b、18bに対して、軸状転動体50の軸方向に係合する関係となる。つまり、軸状転動体50は、軌道凹部17、18により軸状転動体50の軸方向へ移動することを規制されている。そして、転動面部51の外周の転動面51aが、軌道凹部17、18の底面17a、18aに沿って転動可能となる。
【0058】
突起部52は、転動面部51の外径よりも小径に形成されている。そして、両側の突起部52の先端間距離、すなわち、軸状転動体50の軸方向長さは、軌道凹部17、18の底面17a、18aの開口幅よりも大きく形成されている。つまり、突起部52は、軌道凹部17、18の外部に位置している。
【0059】
保持器60は、図6および図7(a)〜(c)に示すように、全体形状としては環状からなる。保持器60は、軸状転動体50が中間部材40の外周を循環可能となるように、軸状転動体50を支持している。そして、保持器60は、軌道溝16の内部にほぼ収容されている。この保持器60は、軸状転動体50の循環路を形成する一対の循環路形成部材61、62と、一対の循環路形成部材61、62を連結する一対の連結部63、64とから構成される。
【0060】
一対の循環路形成部材61、62は、保持器60の周縁に位置し、長円形をなしている。この一対の循環路形成部材61、62は、一対の分割部材41、42を囲む形状をなしている。具体的には、循環路形成部材61は、対向する直線部61a、61bと、直線部61a、61bを連結する半円弧状の湾曲部61c、61dとから構成される。また、もう一つの循環路形成部材62は、上記循環路形成部材61と同様に、直線部と湾曲部とから構成される。
【0061】
さらに、一対の循環路形成部材61、62は、軸状転動体50をその軸方向に挟むように、相互に対向して配置されている。この一対の循環路形成部材61、62には、それぞれ、軸状転動体50の突起部52が挿入され、且つ、転動面部51のテーパ状端面51bに係合するようなコの字形断面形状に形成されている。このようにして、一対の循環路形成部材61、62は、両突起部52を支持している。つまり、一対の循環路形成部材61、62の径方向幅(内周縁と外周縁との距離)は、軸状転動体50の転動面部51の最大径よりも小さく形成されている。従って、軸状転動体50の転動面部51は、一対の循環路形成部材61、62の外周縁から外側に突出しており、且つ、一対の循環路形成部材61、62の内周縁から内側に突出している。
【0062】
そして、それぞれの循環路形成部材61、62のコの字形の開口側が、軸状転動体50の転動面部51の軸方向長さより僅かに長い距離だけ離間した状態で、対向するように設けられている。従って、一対の循環路形成部材61、62の対向方向の最大幅は、軌道凹部17、18の開口幅より大きく設定されている。そして、一対の循環路形成部材61、62は、軌道溝16の内部に収容されており、且つ、軌道凹部17、18の外部に位置している。
【0063】
さらに、一対の循環路形成部材61、62の直線部61a、61b間の幅は、軌道溝16の溝幅(軌道凹部17の開口部と軌道凹部18の開口部との距離)よりも小さく設定されている。つまり、一対の循環路形成部材61、62は、軌道溝16の側面162、163に対して隙間を隔てて配置されている。
【0064】
一対の連結部63、64は、一対の循環路形成部材61、62の湾曲部61c、61dのうち周方向中央部分(図7(a)の上下端部分)をそれぞれ連結する。つまり、一対の循環路形成部材61、62の間は、連結部63、64以外の部位において開口している。
【0065】
図7(c)に示すように、連結部63、64は、全体としては、保持器60の外側に開口するコの字形形状に形成されている。連結部63、64は、第一L字型部材63a、64aと、第二L字型部材63b、64bと、突起63c、64cとから構成される。
【0066】
第一L字型部材63a、64aは、L字型形状からなる。この第一L字型部材63a、64aのL字型一方壁は、循環路形成部材61の湾曲部61c、61dの内側のそれぞれの周方向中央部分に連結され、循環路形成部材61とほぼ同一平面状に位置している。第一L字型部材63a、64aのL字型他方壁が、相互に平行に対向するように、且つ、L字型一方壁から循環路形成部材61のコの字開口側に向かって屈曲形成されている。
【0067】
第二L字型部材63b、64bは、第一L字型部材63a、64aとほぼ同様のL字型形状からなる。この第二L字型部材63b、64bのL字型一方壁が、循環路形成部材62の湾曲部(61c、61dに相当する部分)の内側のそれぞれの周方向中央部分に連結され、循環路形成部材62とほぼ同一平面状に位置している。第二L字型部材63b、64bのL字型他方壁が、相互に平行に対向するように、且つ、L字型一方壁から循環路形成部材62のコの字開口側に向かって屈曲形成されている。このとき、第二L字型部材63b、64bのL字型他方壁は、第一L字型部材63a、64aのL字型他方壁のうち保持器60の中心側の面に、溶接などにより接着されている。
【0068】
そして、突起63c、64cが、第二L字型部材63b、64bのL字型他方壁から僅かに湾曲して、一体的に設けられている。つまり、突起63c、64cは、第一L字型部材63a、64aのL字型他方壁および第二L字型部材63b、64bのL字型他方壁よりも、保持器60の中心側に向かって突出している。ここで、突起63c、64cは、第一L字型部材63a、64aに支持された板バネとして機能する。つまり、突起63c、64cは、弾性変形可能となる。この突起63c、64cは、分割部材41、42の凹部41e、41f、42e、42fに向かって突出し、凹部41e、41f、42e、42fに挿入されている(図8参照)。
【0069】
そして、軸状転動体50が軌道凹部17、18において最も軌道溝16の溝底側(図3の上側)に位置し、且つ、保持器60が軸状転動体50に対して最も軌道溝16の溝底側に位置する状態において、保持器60と軌道溝16の溝底面161との間に隙間を設けるように設定されている。これは、軌道凹部17、18と転動面部51との軸方向移動量、軸状転動体50と保持器60との軸方向移動量、保持器60の一対の循環路形成部材61、62の軸方向厚みなどに基づいて決定される。
【0070】
さらに、保持器60の外輪10の径方向内方には、軌道溝16の開口部が位置するように設けられている。つまり、保持器60の径方向内方に位置する循環路形成部材62は、外輪10の径方向外方には軸状転動体50に当接するが、外輪10の径方向内方には何ら規制されない。
【0071】
次に、上述した等速ジョイント1の組み付け手順について説明する。まず、保持器60をプレス成形する。詳細には、一方の循環路形成部材61と第一L字型部材63a、64aは、鋼板をプレス成形することにより形成されている。また、他方の循環路形成部材62と第二L字型部材63b、64bおよび突起63c、64cもまた、鋼板をプレス成形することにより形成されている。そして、第一L字型部材63a、64bと第二L字型部材63b、64bとをスポット溶接により接合する。このようにして、保持器60を形成する。この保持器60を3つ準備する。
【0072】
続いて、それぞれの保持器60の循環路、すなわち、一対の循環路形成部材61、62の間に、複数の軸状転動体50を挿入する。続いて、一対の分割部材41、42をトリポード20のトリポード軸部22の外周を挟むように配置する。この状態において、一対の分割部材41、42の外周に、保持器60を嵌め込む。
【0073】
このとき、突起63c、64cが凹部41e、41f、42e、42fの鍔部に引っ掛かる。そのため、突起63c、64cを保持器60の中心から遠ざかるように弾性変形させながら、突起63c、64cが凹部41e、41f、42e、42fの鍔部を通過させる。突起63c、64cが凹部41e、41f、42e、42fの鍔部を通過した後において、突起63c、64cは凹部41e、41f、42e、42fに挿入される。従って、突起63c、64cは、凹部41e、41f、42e、42fの両鍔部により係止された状態となる。同様に、他のトリポード軸部22に対しても一対の分割部材41、42および保持器60を嵌め込む。
【0074】
このようにして、トリポード20、一対の分割部材41、42、保持器60および軸状転動体50が一体的に保持された状態を維持する。従って、突起63c、64cは、凹部41e、41f、42e、42fの内部において、凹部41e、41f、42e、42fの長手方向幅Wの分だけ、相対移動可能となる。
【0075】
続いて、上記のように組み付けられた一体部品を、外輪10の筒状部11の内部に嵌め込む。詳細には、それぞれの保持器60が筒状部11の軌道溝16に嵌め込まれるようにする。このようにして、等速ジョイント1の組み付けが完成する。
【0076】
上述した等速ジョイント1の動作について説明する。一端側がディファレンシャルギヤに連結された外輪10が動力を受けて回転すると、外輪10から、軌道溝16の軌道凹部17、18に嵌合している軸状転動体50に伝達される。そして、軸状転動体50から、一対の分割部材41、42のうち動力を伝達する当該軸状転動体50に接触している部材に動力が伝達される。そして、動力伝達側となる分割部材41、42から、トリポード軸部22に動力が伝達される。
【0077】
そして、軸状転動体50は、中間部材40の外周を循環可能に支持されている。従って、軸状転動体50は、分割部材41、42のうち動力伝達側の部材の動力伝達面41b、42bと軌道溝16の軌道凹部17、18との間にて、軌道凹部17、18および動力伝達面41b、42bに対して軌道溝16の延伸方向への滑りを生じることなく転動する。これにより、誘起スラスト力の発生を抑制できる。
【0078】
また、一対の分割部材41、42のうち複数の軸状転動体50を介して動力を受けた部材は、トリポード接触面41a、42aで当接するトリポード軸部22に動力伝達する。この時、前述したようにジョイント角が付加されていると、トリポード軸部22が外輪10の径方向に往復運動する。そのため、トリポード軸部22と球面嵌合する分割部材41、42は、トリポード軸部22に追従するので、軸状転動体50に対して外輪10の径方向に摺動する。これにより、動力伝達面41bにおける最も動力の加わる荷重点が、軸状転動体50の軸方向に往復運動する。
【0079】
しかし、一対の分割部材41、42は、動力伝達側とその背面側でそれぞれ独立している。これにより、動力伝達側で発生するトリポード軸部22による荷重位置が変化したとしても、一対の分割部材41、42のうち動力伝達側の部材の動作が、その背面側の分割部材41、42の動作へ影響を及ぼすことがない。従って、背面側に位置する分割部材41、42が軌道溝16に大きな力を付与することを防止できるので、このことによる誘起スラスト力の発生を抑制できる。
【0080】
さらに、上述した等速ジョイント1によれば、軸状転動体50は軌道凹部17,18に嵌め込まれている。これにより、スキューにより軸状転動体50にその軸方向へ移動しようとする力が発生した場合には、軸状転動体50は軌道凹部17、18により当該移動を規制される。ところで、保持器60は、軌道凹部17、18の外部に配置されている。従って、軌道凹部17、18のみが、スキューによる軸状転動体50の移動を規制する効果を発揮し、保持器60は当該移動規制効果を発揮しないような構成とされている。つまり、保持器60自体が外輪10に接触することにより保持器60および軸状転動体50のスキューによる移動を規制していない。
【0081】
特に、軸状転動体50が軌道凹部17、18において最も軌道溝16の溝底面161側に位置し、且つ、保持器60が軸状転動体50に対して最も軌道溝16の溝底面161側に位置する状態において、保持器60と軌道溝16の溝底面161との間に隙間が設けられている。これにより、スキューが生じた場合であっても、保持器60が外輪10の軌道溝16の溝底面161に接触することを防止できる。
【0082】
さらには、保持器60は、軌道溝16の側面162、163に対して隙間を隔てて配置されている。これにより、保持器60が、軌道溝16の側面162、163と接触することを防止できる。さらに加えて、保持器60の外輪10の径方向内方には、軌道溝16の開口部が位置している。従って、保持器60が外輪10に対して外輪径方向内方へ移動した場合であっても、保持器60が外輪10の構成部位に接触することを防止できる。
【0083】
これらによって、保持器60が外輪10と接触することによって大きな荷重を受けることを抑制できる。この結果、保持器60の曲げ剛性を高めるための処理、例えば、板厚を厚くしたり、熱処理を施したりすることをしなくてもよくなる。つまり、保持器60の低コスト化および軽量化を図ることができる。
【0084】
このように、保持器60は、外輪10との接触を回避できることにより、必要以上の高い曲げ剛性を有する必要がなくなる。つまり、保持器60は、軸状転動体50の循環路を形成することと、中間部材40と位置を規制することを達成することができる程度の曲げ剛性を有すれば足りる。そうすれば、保持器60は、例えば、金属製でなく、例えば、樹脂による一体成形も可能である。もちろん、金属製であってもよく、容易に成形でき且つ安価なプレス成形を行うとよい。
【0085】
ところで、等速ジョイント1の組み付け手順において説明したように、保持器60の突起63c、64cが一対の分割部材41、42の凹部41e、41f、42e、42fに挿入されている。そして、等速ジョイント1が動力伝達を行う際には、トリポード軸部22は外輪10の筒状部11の軌道溝16に対して、外輪10の径方向に相対移動する。この状態において、保持器60の突起63c、64c、一対の分割部材41、42の凹部41e、41f、42e、42fがどのような動作を行うかについて説明する。
【0086】
一対の分割部材41、42は、トリポード軸部22の外周面に嵌合されている。従って、一対の分割部材41、42は、トリポード軸部22に対して揺動しながら、トリポード軸部22と共に外輪10の径方向に移動する。一方、保持器60は、外輪10の筒状部11の軌道溝16に嵌め込まれている。従って、保持器60は、軌道溝16が延びる方向へ移動可能であるが、外輪10の径方向への移動は規制されている。
【0087】
このとき、保持器60の突起63c、64cは、一対の分割部材41、42の凹部41e、41f、42e、42fの内部において、その幅Wの分だけ外輪10の径方向への相対移動が許容されていることになる。従って、保持器60が外輪10の径方向に規制され、一対の分割部材41、42が外輪10の径方向に移動可能となる場合に、突起63c、64cが凹部41e、41f、42e、42fに挿入されていることが何ら影響を及ぼさない。
【0088】
本実施形態によれば、保持器60の突起63c、64cと一対の分割部材41、42の凹部41e、41f、42e、42fが、トルク伝達中に保持器60が中間部材40に対して外輪10の径方向へ所定距離移動することを許容し、且つ、保持器60と中間部材40との外輪10の径方向への相対移動量が所定距離を超えたときに相対移動を規制する移動規制部として機能する。
【0089】
これにより、等速ジョイント1の組み付け時および分解時に、保持器60が中間部材40から離脱することを防止できる。従って、等速ジョイント1の組み付けが非常に容易となり、且つ、等速ジョイント1の分解時のメンテナンス性も非常に容易となる。また、突起63c、64cと凹部41e、41f、42e、42fとは、保持器60と中間部材40との相対移動を所定距離許容している。従って、組み付けられた後にトリポード20と外輪10との間で動力を伝達する際に、中間部材40がトリポード軸部22と共に、外輪10に対して外輪10の径方向へ移動するとしても、保持器60は軸状転動体50を所定位置にて安定して保持することができる。
【0090】
また、突起63c、64cが弾性変形可能な構成とすることで、凹部41e、41f、42e、42fの鍔部を容易に通過することができるため、中間部材40と保持器60との組み付けが容易となる。
【0091】
ここで、中間部材40は、トルク伝達に寄与する部材であるのに対して、保持器60は、トルク伝達には寄与せず、軸状転動体50を保持することができればよい部材である。そこで、比較的低剛性とすることができる保持器60に突起63c、64cを設けることで、突起63c、64cを容易に弾性変形可能とすることができる。特に、鋼板をプレス成形することにより保持器60を成形することで、突起63c、64cが弾性変形可能となるように容易に成形できる。
【0092】
また、突起63c、64cと凹部41e、41f、42e、42fは、トリポード軸部22を挟んだ両側に設けている。これにより、保持器60が中間部材40から離脱することを確実に防止できる。
【0093】
また、上述したように、本実施形態によれば、中間部材40は、分離した一対の分割部材41、42により構成されている。このようにすることで、中間部材40を容易にトリポード軸部に組み付けることができる。さらに、中間部材40を分離した一対の分割部材41、42により構成することで、上述したように、動力伝達を行う面の背面側において、中間部材40と外輪10の軌道溝16との接触を抑制できる。さらに、中間部材40を分離した一対の分割部材41、42としたとしても、一対の分割部材41、42をトリポード軸部22の外周面に嵌合可能な形状とすることで、保持器60を一対の分割部材41、42に組み付けた状態において、中間部材40および保持器60をトリポード軸部22から離脱することを防止できる。
【0094】
<その他の実施形態>
上記実施形態においては、中間部材40を独立した一対の分割部材41、42により構成するものとしたが、一体の中間部材40とすることも可能である。ただし、この場合には、上述した、分割部材41、42とすることによる効果を奏しない。
また、上記実施形態においては、壁部17b、18およびテーパ状端面51bは、テーパ状としたが、テーパ状に限られるものではない。
【0095】
また、上記実施形態においては、保持器60の突起63c、64cと一対の分割部材41、42の凹部41e、41f、42e、42fを、トリポード軸部22を挟んだ両側に設けた。この他に、十分な保持力を確保できれば、突起63cと凹部41e、42eのみの構成としてもよい。
【0096】
また、上記実施形態において、保持器60の突起63c、64cが弾性変形可能としたが、一対の分割部材41、42の凹部41e、41f、42e、42fの鍔部が、弾性変形可能に形成してもよい。ただし、分割部材41、42の材質によっては困難であるため、上述したように保持器60の突起63c、64cを弾性変形可能な構成とすることが容易である。
【0097】
また、保持器60に突起63c、64cを設け、一対の分割部材41、42に凹部41e、41f、42e、42fを設けた。突起と凹部を設ける部材を逆にしてもよい。この場合、突起と凹部の鍔部の少なくとも何れか一方を弾性変形可能な構成にするとよい。
【符号の説明】
【0098】
1:等速ジョイント、 2:中間シャフト、 10:外輪、 11:筒状部、12:連結軸部、 16:軌道溝、 161:溝底面、 162、163:側面、 17、18:軌道凹部、 17a、18a:底面、 17b、18b:壁部、 20:トリポード、 21:ボス部、 21a:内歯スプライン、 22:トリポード軸部、 30:ローラユニット、 40:中間部材、 41、42:分割部材、 41a、42a:トリポード接触面、 41b、42b:動力伝達面、 41c、41d:軸方向端面、 41e、41f、42e、42f:凹部、 50:軸状転動体、 51:転動面部、 51a:転動面、 51b:テーパ状端面、 52:突起部、 60:保持器、 61、62:循環路形成部材、 61a、61b:直線部、 61c、61d:湾曲部、 63、64:連結部、 63c、64c:突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8