特許第5741701号(P5741701)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741701
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/42 20060101AFI20150611BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20150611BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20150611BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   H01M10/42 P
   H01M10/48 P
   H01M10/48 301
   H01M10/44 A
   H02J7/00 U
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-538494(P2013-538494)
(86)(22)【出願日】2012年10月1日
(86)【国際出願番号】JP2012075316
(87)【国際公開番号】WO2013054672
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2014年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-223644(P2011-223644)
(32)【優先日】2011年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001203
【氏名又は名称】新神戸電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安部 圭子
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】澤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】高林 久顯
(72)【発明者】
【氏名】下浦 一朗
(72)【発明者】
【氏名】福原 啓介
【審査官】 松尾 俊介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−101565(JP,A)
【文献】 特開2003−259501(JP,A)
【文献】 特開2004−186087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42
H01M 10/44
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池又はこの鉛蓄電池を複数個直列に接続した鉛蓄電池モジュールを、1個又は複数個並列に接続した鉛蓄電池群の充電及び放電を制御可能とした鉛蓄電池システムであって、前記鉛蓄電池又は前記鉛蓄電池モジュールについて個別に電流、電圧及び温度を含む電池状態を測定する個別電池状態測定部と、前記電池状態と充電状態との相関関係である充電状態モデルを蓄積した充電状態モデル記憶部と、前記充電状態モデル及び前記電池状態からそれぞれの前記鉛蓄電池又は前記鉛蓄電池モジュールの充電状態である個別充電状態を推定する充電状態推定部と、充電状態極大値及び充電状態極小値を算出する充電状態バラツキ範囲把握部と、前記鉛蓄電池群の均等充電の実施を制御する均等充電実施管理部と、前記鉛蓄電池又は前記鉛蓄電池モジュールの劣化の影響を考慮して前記充電状態極大値及び前記充電状態極小値を更に狭い制限範囲に制限する充電状態使用範囲調整部と、前記充電状態極大値及び前記充電状態極小値が前記制限範囲から外れた場合に前記均等充電の実施の計画をする均等充電実施計画部と、前記均等充電の実施予定を通知する均等充電実施予定通知部と、前記均等充電計画部の前記計画に従って前記均等充電を実施する均等充電実施管理部とを備え、前記充電状態極大値は、前記個別充電状態の最大値とし、前記充電状態極小値は、前記個別充電状態の最小値とし、前記均等充電実施管理部は、前記充電状態極大値が過充電領域よりも低い範囲に入り、かつ、前記充電状態極小値がサルフェーション領域よりも高い範囲に入るように前記均等充電を実施することを特徴とする鉛蓄電池システム。
【請求項2】
前記充電状態バラツキ範囲把握部は、前記個別充電状態の平均値及びそのバラツキを算出し、前記充電状態極大値は、前記平均値と前記バラツキの1/2との和とし、前記充電状態極小値は、前記平均値と前記バラツキの1/2との差としたことを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池システム。
【請求項3】
さらに、前記充電状態極大値及び前記充電状態極小値又は前記バラツキを表示する充電状態バラツキ表示部と、前記劣化の状況を記憶する劣化モデル記憶部と、前記劣化モデル記憶部を用いて前記劣化の度合いである劣化度を推定する劣化度推定部と、前記劣化度と前記劣化度に応じた前記制限範囲との関係を記憶する劣化対応充電状態記憶部と、前記調整をした後の前記制限範囲を表示する充電状態使用範囲表示部とを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の鉛蓄電池システム。
【請求項4】
前記制限範囲は、前記サルフェーション領域の上限値に前記充電状態極大値と前記充電状態極小値との差の1/2を加えた値と、前記過充電領域の下限値から前記充電状態極大値と前記充電状態極小値との差の1/2を引いた値との間としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池システム。
【請求項5】
前記均等充電の実施の間隔は、毎回異なることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の鉛蓄電池システム。
【請求項6】
前記均等充電の実施の間隔は、前記バラツキに応じて変わることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の鉛蓄電池システム。
【請求項7】
前記均等充電の実施の際、前記電池状態から前記鉛蓄電池又は前記鉛蓄電池モジュールについて個別に満充電状態を検知し、前記満充電状態となった前記鉛蓄電池又は前記鉛蓄電池モジュールは、充電回路を開として過充電を防止する制御を行うことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の鉛蓄電池システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化は、全人類にとって重大な問題である。各国において、温暖化の進行を遅らせ、食い止めるため、スマートグリッドを構築し、省エネルギーを推進するとともに、COを排出しない新エネルギー、即ち、太陽光や風力発電等の大量導入を推進しようとしている。
【0003】
風力発電は、自然エネルギーを利用しており、COを排出しないというメリットがあるものの、風まかせのため、発電出力が安定せず、電力系統への悪影響として電力品質の低下が懸念されている。このような電力系統への悪影響を防ぎ、エネルギーを有効利用するため、鉛蓄電池などを用いた風力発電・蓄電システムに期待が集まっている。
【0004】
風力発電の出力の変動を抑制するための蓄電池システムは、短時間に大きく変動する風力発電の出力を平滑化するように蓄電池の充放電を行う。これにより、風力発電及び蓄電池システムの出力が合成され、電力系統に安定した電力を供給することができる。
【0005】
この蓄電池システムは、風力発電機と同等程度に長寿命であることや低コストであることが求められている。
【0006】
この蓄電池システムに用いる蓄電池は、風力発電の出力変動に合わせ、放電も充電もできるように半放電状態(PSOC:Partial State of Charge)で運用される。従来の非常用(通常は満充電にしておき、必要な時に放電する。)や、産業用(夜間は満充電にしておき、昼間負荷の多い時に放電する。)とは異なり、通常の運用状態では満充電とならない。このように特殊な用途であるため、定期的(通常、1〜2週間毎)に蓄電池を満充電とする均等充電(回復充電)が実施されている。
【0007】
特許文献1には、蓄電池の均等充電の頻度を気温に応じて変更する例が開示されている。特許文献2には、蓄電池の均等充電の際、過充電量を従来(110%〜115%)より低い設定(99%〜102%)とし、正極の劣化を防止する旨の開示がある。
【0008】
特許文献3には、蓄電池運用・蓄電池劣化データ収集部により収集されたデータをもとに蓄電池の運用と寿命及び劣化の関係を評価し、得られた情報に基づいて必要な寿命要件を満足する蓄電池の運用方法を計画し、その計画に従って蓄電池の運用する風力発電用蓄電池制御システムが開示されている。
【0009】
特許文献4には、測定された端子電圧、電流と電池状態の関係モデルを劣化度ごとに複数用意した多次元の特性モデルを用いて現在の電池状態を推定する蓄電池装置が開示されている。
【0010】
非特許文献1には、鉛蓄電池の電圧、電流及び温度と鉛蓄電池の充電状態(SOC)との関係を表すSOCモデル(放電モデル)の作成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−288947号公報
【特許文献2】特開2004−39434号公報
【特許文献3】特開2010−159661号公報
【特許文献4】特開2011−75364号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】階段状電流を用いた鉛蓄電池シミュレーションモデリング手法:電気学会論文誌B,128巻8号,2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
風力発電装置に組み合わせた鉛蓄電池システムにおいては、現在は、定期的(2週間毎)に均等充電を実施している。しかし、充電状態(SOC)の低下に伴う負極のサルフェーションによる劣化を防止する観点からは、均等充電の頻度を少なくしても間に合うことがわかってきた。
【0014】
一方、SOCの把握を目的として過頻度に均等充電を実施すると、正極の過充電による劣化を引き起こしてしまい、寿命が短くなってしまうという問題がある。
【0015】
発明者は、これまでに、特許文献4に記載した多次元の特性モデルを用いてSOCを推定することを可能とした。
【0016】
しかしながら、鉛蓄電池群を構成するそれぞれの鉛蓄電池のSOCを考慮した制御としては十分ではなかった。
【0017】
本発明の目的は、鉛蓄電池群を構成するそれぞれの鉛蓄電池の劣化を抑制し、鉛蓄電池の寿命を長くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明においては、鉛蓄電池群を構成する鉛蓄電池又は鉛蓄電池モジュールについて個別に電流、電圧及び温度を含む電池状態を測定し、充電状態モデルを用いた推定を実施することにより、それぞれの充電状態の極大値及び極小値を算出する。そして、これらの充電状態を有する鉛蓄電池又は鉛蓄電池モジュールが劣化しないように均等充電を実施することにより、鉛蓄電池群の充電及び放電を制御する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、それぞれの鉛蓄電池について劣化を抑制した状態で運用することができ、鉛蓄電池の寿命を長くすることができる。
【0020】
また、本発明によれば、均等充電のための電力コストを低減することができる。
【0021】
さらに、本発明によれば、鉛蓄電池を長寿命化することができるため、風力発電蓄電システムの運用を停止する頻度を減らすことができ、運用の管理をしやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】鉛蓄電池システムの構成を示すブロック図である。
図2】鉛蓄電池システムの処理を示すフロー図である。
図3】SOCのバラツキの経時変化の例を示すグラフである。
図4】SOCの調整範囲の例を示すグラフである。
図5】SOCのバラツキに基づいて均等充電を実施するタイミングを決定する状態を示すグラフである。
図6】風力発電装置に組み合わせた鉛蓄電池システムを示す概略構成図である。
図7】SOCモデルを利用したSOCの推定の例を示すグラフである。
図8】SOCモデルの一例を示すグラフである。
図9】鉛蓄電池システムの構成を示すブロック図である。
図10】SOCのバラツキの状況及び均等充電の予告を表示する出力画面の模式図である。
図11】劣化度とSOCの使用範囲との関係の例を示す図である。
図12】実施例1に係る鉛蓄電池システムの運用状況を示すグラフである。
図13】実施例2に係る鉛蓄電池システムの運用状況を示すグラフである。
図14】比較例に係る鉛蓄電池システムの運用状況を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、風力発電システムなどの自然エネルギーに対応した蓄電池の充電状態(SOC:State of Charge)の経時変化を把握し、これに応じて適切なタイミングで均等充電を実施することにより、蓄電池の寿命を長くし、かつ、均等充電のコストや風力発電蓄電システムの停止に伴う損失を低減することを可能とした蓄電池システムに関するものである。本発明は、特に、風力発電の変動抑制用途に適している。
【0024】
すなわち、風力変動抑制用の蓄電池システムは、風力発電機と同等の長寿命を有すること及び低コストであることが求められている。
【0025】
なお、本明細書においては、蓄電池システムは、蓄電池と、その運用を制御する制御部等とを含むものとする。
【0026】
以下では、蓄電池の例として鉛蓄電池を用いた場合について説明する。
【0027】
図6は、風力変動抑制用鉛蓄電池システムの例を示したものである。
【0028】
本図においては、変動が激しい風力発電機601の出力に対応する形で鉛蓄電池602を充放電し、その出力を合成することにより、系統出力603を安定化させている。これにより、電力系統に滑らかで安定した電力を供給することができる。
【0029】
風力発電変動抑制用の鉛蓄電池は、風力発電の出力変動に合わせて、放電も充電もできるように半放電状態(PSOC:Partial State of Charge)で運用される。従来の非常用(通常は満充電にしておき、必要な時に放電する。)や、産業用(夜間は満充電にしておき、昼間負荷の多い時に放電する。)と異なり、通常運用状態では満充電とならない。
【0030】
このような特殊な用途においては、下記(a)及び(b)の目的から、定期的(通常、1〜2週間毎)に鉛蓄電池を満充電とする均等充電(回復充電)を実施することが望ましいとされている。
【0031】
(a)SOCの低い状態が続くことによる負極のサルフェーションを原因とする劣化を防止する。
【0032】
(b)均等充電後にSOCを100%とすることにより SOCを把握する。
【0033】
しかし、負極のサルフェーションによる劣化を防止するためには、均等充電の頻度を現状の約2週間より少なくしてもよいことがわかってきた。一方、SOCの把握が目的で過頻度に均等充電を実施すると、正極の過充電による劣化を引き起こしてしまい、寿命が短くなってしまうという問題がある。
【0034】
本発明においては、上記(a)及び(b)に加えて、それぞれの鉛蓄電池のSOCのバラツキ(以下、「SOCバラツキ」とも呼ぶ。)を均一化する目的、すなわち、SOCのバラツキが拡大したとしても、鉛蓄電池群を構成する多くの鉛蓄電池のSOCが、劣化加速領域であるサルフェーション領域又は過充電領域に達してしまうことを防止することを目的とする。SOCのバラツキを把握せずにSOCの平均値を指標として鉛蓄電池システムを運用した場合の問題点に着目したものである。
【0035】
この問題点について図を用いて説明する。
【0036】
図3は、SOCのバラツキの経時変化の例を示すグラフである。
【0037】
本図においては、鉛蓄電池の劣化が加速しないSOCの範囲を30%〜90%と仮定している。SOCが30%未満の領域では、負極のサルフェーションによる劣化を促進してしまう領域(サルフェーション領域)となり、SOCが90%を超えた領域では、正極に過充電による劣化が起こる領域(過充電領域)となる。よって、本図においては、サルフェーション領域の上限値が30%であり、過充電領域の下限値が90%である。
【0038】
均等充電を実施した直後は、全ての鉛蓄電池のSOCが100%となっている。その後、充放電を繰り返していくに従って、SOCが高めの鉛蓄電池と低めの鉛蓄電池との間のSOCの差が次第に大きくなっていく。平均的なSOCの値を指標として鉛蓄電池を制御していると、例えば、SOCの平均値(平均SOC)では、30%〜90%のSOC使用範囲内となっているにもかかわらず、SOCが低い鉛蓄電池(電池個体)では、サルフェーション領域で使用してしまうといった問題が起こる。
【0039】
このようなバラツキの原因としては、製造の際に生じる微妙な個体差、設置された位置が異なることによる充放電の繰り返しにおけるそれぞれの鉛蓄電池の温度のバラツキ、それぞれの鉛蓄電池の電圧や電流のバラツキ、充放電において鉛蓄電池の内部の電解液や電極表面で生じる電気化学反応のバラツキ等が考えられる。
【0040】
したがって、現在は、このように予想される電池個体毎のSOCのバラツキが大きくなる前に、定期的(2週間毎)に均等充電を実施している。
【0041】
しかしながら、均等充電を頻繁に行い過ぎると、正極に過充電による劣化が起こり、寿命を早めるなどの問題があった。さらに、均等充電の頻度が多いと、その間は風力発電の変動抑制ができないため、運用管理面及びコスト面でもデメリットとなっていた。
【0042】
以下、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池システムについて説明する。
【0043】
前記鉛蓄電池システムは、鉛蓄電池又はこの鉛蓄電池を複数個直列に接続した鉛蓄電池モジュールを、1個又は複数個並列に接続した鉛蓄電池群の充電及び放電を制御可能とした鉛蓄電池システムであって、鉛蓄電池又は鉛蓄電池モジュールについて個別に電流、電圧及び温度を含む電池状態を測定する個別電池状態測定部と、電池状態と充電状態(SOC)との相関関係である充電状態モデル(SOCモデル)を蓄積した充電状態モデル記憶部と、充電状態モデル及び電池状態からそれぞれの鉛蓄電池又は鉛蓄電池モジュールの充電状態である個別充電状態を推定する充電状態推定部と、充電状態極大値及び充電状態極小値を算出する充電状態バラツキ範囲把握部と、鉛蓄電池群の均等充電の実施を制御する均等充電実施管理部とを備え、充電状態極大値は、個別充電状態の最大値とし、充電状態極小値は、個別充電状態の最小値とし、均等充電実施管理部は、充電状態極大値が過充電領域よりも低い範囲に入り、かつ、充電状態極小値がサルフェーション領域よりも高い範囲に入るように上記の均等充電を実施することを特徴とする。
【0044】
ここで、「充電状態極大値」及び「充電状態極小値」とは、有限個の充電状態の値について統計的な処理を行った場合における充電状態の値の分布に関して、それぞれ、指標となる上端の値及び下端の値とみなしたものをいう。よって、上記のように、「充電状態極大値」を個別充電状態の最大値とし、「充電状態極小値」を個別充電状態の最小値としてもよい。また、次に述べるように、「充電状態極大値」及び「充電状態極小値」を個別充電状態の平均値及びそのバラツキに基づいて設定してもよい。
【0045】
前記鉛蓄電池システムは、充電状態バラツキ範囲把握部は、個別充電状態の平均値及びそのバラツキを算出し、充電状態極大値は、上記の平均値と上記のバラツキの1/2との和とし、充電状態極小値は、上記の平均値と上記のバラツキの1/2との差としたものであることが望ましい。
【0046】
前記鉛蓄電池システムは、さらに、鉛蓄電池又は鉛蓄電池モジュールの劣化の影響を考慮して充電状態極大値及び充電状態極小値を更に狭い制限範囲に制限する充電状態使用範囲調整部と、充電状態極大値及び充電状態極小値が上記の制限範囲から外れた場合に均等充電の実施の計画をする均等充電実施計画部と、均等充電の実施予定を通知する均等充電実施予定通知部と、均等充電計画部の上記の計画に従って均等充電を実施する均等充電実施管理部とを備えたものであることが望ましい。
【0047】
前記鉛蓄電池システムは、さらに、充電状態極大値及び充電状態極小値又は上記のバラツキを表示する充電状態バラツキ表示部と、上記の劣化の状況を記憶する劣化モデル記憶部と、劣化モデル記憶部を用いて上記の劣化の度合いである劣化度を推定する劣化度推定部と、劣化度と劣化度に応じた上記の制限範囲との関係を記憶する劣化対応充電状態記憶部と、上記の調整をした後の上記の制限範囲を表示する充電状態使用範囲表示部とを備えたものであることが望ましい。
【0048】
前記鉛蓄電池システムにおいて、上記の制限範囲は、サルフェーション領域の上限値に充電状態極大値と充電状態極小値との差の1/2を加えた値と、過充電領域の下限値から充電状態極大値と充電状態極小値との差の1/2を引いた値との間としたものであってもよい。
【0049】
前記鉛蓄電池システムは、均等充電の実施の間隔は、毎回異なってもよい。
【0050】
前記鉛蓄電池システムは、均等充電の実施の間隔は、上記のバラツキに応じて変わる。
【0051】
前記鉛蓄電池システムは、均等充電の実施の際、上記の電池状態から鉛蓄電池又は鉛蓄電池モジュールについて個別に満充電状態を検知し、満充電状態となった鉛蓄電池又は鉛蓄電池モジュールは、充電回路を開として過充電を防止する制御を行うことが望ましい。ここで、「満充電状態」とは、充電状態100%をいう。この制御により、均等充電における過充電による正極の劣化を抑制することができる。
【0052】
以下、図面を用いて詳しく説明する。
【0053】
図1は、実施形態に係る鉛蓄電池システムの構成を示すブロック図である。
【0054】
鉛蓄電池システム1は、鉛蓄電池群101、個別電池状態測定部102、SOCモデル記憶部103(充電状態モデル記憶部)、SOC推定部104(充電状態推定部)、SOCバラツキ範囲把握部105(充電状態バラツキ範囲把握部)、SOC使用範囲調整部106(充電状態使用範囲調整部)、均等充電実施計画部107、均等充電実施予定通知部108及び均等充電実施管理部109を含む。
【0055】
これらの機能について説明する。
【0056】
鉛蓄電池群101は、複数個の鉛蓄電池を直列又は並列に接続したものである。更に具体的には、複数個の鉛蓄電池151(以下、「セル」又は「電池」とも呼ぶ。)を直列に接続した鉛蓄電池モジュール152を1個又は複数個並列に接続したものである。鉛蓄電池群101は、一個の鉛蓄電池モジュール152であってもよく、複数個の鉛蓄電池151を並列に接続したもの一組であってもよい。
【0057】
個別電池状態測定部102は、電流測定部161、電圧測定部162及び温度測定部163を含み、鉛蓄電池群101のそれぞれの鉛蓄電池151(以下、「個別セル」若しくは「個別電池」とも呼ぶ。)又はそれぞれの鉛蓄電池モジュール152(以下、「個別セルモジュール」若しくは「個別電池モジュール」とも呼ぶ。)の電流(A)、電圧(V)、温度(℃)など、鉛蓄電池の状態(電池状態と呼ぶ。)を測定する。
【0058】
SOCモデル記憶部103は、SOCモデルを記憶した部位である。SOCモデルは、鉛蓄電池151の電流、電圧、温度などと鉛蓄電池151の電池充電状態(SOC)との関係を表すモデルである。このSOCモデルは、予め、鉛蓄電池151の特性を調べて作成しておく。
【0059】
なお、SOCモデルの作成方法については、一例として、非特許文献1にモデルの作成手順を含め、詳しく記載されている。
【0060】
SOC推定部104は、個別電池状態測定部102によって測定した鉛蓄電池群101の個別セル又は個別電池モジュールの電流(A)、電圧(V)、温度(℃)などに関する測定情報と、SOCモデル記憶部103に格納されている電流(A)、電圧(V)、温度(℃)等の鉛蓄電池の状態と鉛蓄電池の充電状態(SOC)との関係に関する情報とから、個別の鉛蓄電池の充電状態(SOC)を推定する。
【0061】
なお、SOCモデルを用いた蓄電池の充電状態(SOC)の推定方法については、特許文献4に詳しく実施方法を記載している。
【0062】
SOCバラツキ範囲把握部105は、SOC推定部104が算出した個別電池のSOCから、鉛蓄電池群101又は鉛蓄電池モジュール152におけるSOCの極大値及び極小値(充電状態極大値及び充電状態極小値)を算出する。すなわち、SOCの統計的な処理を行い、そのバラツキの範囲がどのように変化しているか、バラツキの状態を把握するとともに、バラツキが所定のしきい値を超えないか、あるいは超えたかの判定も行う部位である。
【0063】
SOC使用範囲調整部106は、SOCバラツキが所定のしきい値内の場合にSOCの使用範囲を鉛蓄電池151が劣化の影響を受けない範囲に調整するものである。すなわち、SOCの使用範囲を、過充電領域の下限値とサルフェーション領域の上限値との間の更に狭い範囲(制限範囲)に制限し、劣化に対応するものである。
【0064】
均等充電実施計画部107は、SOCバラツキが所定のしきい値を超えた場合に均等充電の実施を計画するものである。
【0065】
また、本図においては、均等充電実施予定通知部108が均等充電の実施予定を通知するようになっている。従来は、定期的に(2週間毎に)均等充電を実施していたので、均等充電の実施時期が明確であったが、本発明のようにSOCのバラツキに応じて均等充電を実施する場合には、予め、次回の均等充電の実施時期(予測時期)を予告するようにすると、鉛蓄電池システムの利用者にとって管理が容易となる。
【0066】
均等充電実施管理部109は、均等充電実施計画部107の計画に従って均等充電を実施するものである。
【0067】
本明細書においてSOCの「バラツキ」とは、複数個の鉛蓄電池151又は複数個の鉛蓄電池モジュール152のそれぞれのSOCの差異を定量化したものをいう。当該バラツキは、推定したすべてのSOCの最大値と最小値との差と等しいとしてもよい。鉛蓄電池151又は鉛蓄電池モジュール152の個数は有限であるから、当該バラツキは、この場合に最大となる。そして、この場合、すべての鉛蓄電池151又は鉛蓄電池モジュール152についてサルフェーション領域又は過充電領域に達してしまうことを防止することができる。
【0068】
また、当該バラツキは、SOCの平均値の算出に伴って得られるSOCの誤差範囲の上限値と下限値との差であってもよい。すなわち、SOCのバラツキとして平均誤差の2倍、標準偏差(σ)の2倍(2σ)、半値全幅(FWHM:full width at half maximum)等を用いることができる。この場合、多くの鉛蓄電池151又は鉛蓄電池モジュール152についてサルフェーション領域又は過充電領域に達してしまうことを防止することができる。
【0069】
また、SOCのバラツキとして標準偏差の4倍又は6倍の値(4σ又は6σ)等を用いることができる。SOCのバラツキとして4σ又は6σを用いれば、大部分の鉛蓄電池151又は鉛蓄電池モジュール152についてサルフェーション領域又は過充電領域に達することを防止することができる。
【0070】
次に、処理フローについて説明する。
【0071】
図2は、実施形態に係る鉛蓄電池システムの処理を示すフロー図である。
【0072】
まず、個別電池状態測定部102が鉛蓄電池群101の個別のモジュール又はセルの状態(電流(A)、電圧(V)、温度(℃)など)を測定する(S−201)。
【0073】
次に、SOC推定部104が個別の鉛蓄電池(単に「電池」とも呼ぶ。)の電流・電圧・温度とSOCとの関係を示すSOCモデル記憶部103を利用し、現在の鉛蓄電池の個別モジュール又はセルのSOCを推定する(S−202)。
【0074】
そして、SOCバラツキ範囲把握部105が個別電池のSOCのバラツキの範囲を調べるとともに、バラツキが所定の範囲内か、所定の範囲を超えたか、について以下のステップで判定する(S−203)。
【0075】
バラツキが「所定の範囲内」?それとも「所定の範囲を超えた」?いずれの状況か?(S−204)。
【0076】
もし、「所定の範囲内」であるならば、SOC使用範囲調整部は、SOCの使用範囲を個別電池のSOCのバラツキ範囲をもとに調整する(S−204−a)。なお、SOCの使用範囲の調整の仕方は、図4の説明において後述する。
【0077】
また、もし、「所定の範囲を超えた」場合には、均等充実施計画部107が均等充電の実施(実施タイミング、実施方法など)を計画する(S−204−b1)。
【0078】
均等充電実施予定通知部108が均等充電実施予定情報を出力する(S−204−b2)。なお、均等充電実施予定情報の一例は、図10に示している。
【0079】
そして、均等充電実施管理部109が、均等充計画部107の計画に従って、鉛蓄電池群101に対して均等充電を実施する(S−204−b3)。
【0080】
以上の処理により、個別の電池セル又はモジュールのSOCバラツキに応じて適切なタイミングで均等充電を実施することができ、鉛蓄電池を長寿命化することができる。
【0081】
図4及び5を用いてSOCの使用範囲の調整の例を説明する。
【0082】
図4に示す例においては、通常のSOCの使用範囲(劣化を促進しないSOCの使用範囲)は、SOCが30%〜90%の領域である。すなわち、当該使用範囲の幅は60%である。
【0083】
均等充電を実施した後、しばらく充放電を繰り返しているうちに、電池個体毎(それぞれの鉛蓄電池)のSOCにバラツキが発生し、この例では、SOCの平均値が50%、SOCの高い方が55%(平均+5%)、SOCの低い方が45%(平均−5%)となってSOCのバラツキが発生している。
【0084】
この場合、SOCが高い個体(セル)及び低い個体(セル)のいずれも劣化を促進しない範囲内にSOCを収めようとすると、SOCの使用範囲(SOCの平均値を基準とし、バラツキ(±5%)を考慮したSOCの使用範囲)は、35%〜85%(30+5=35%から90−5=85%までの間の領域)に制限することが望ましい。この制限されたSOCの使用範囲を「制限範囲」と呼ぶ。この例における制限範囲の幅は50%である。
【0085】
また、図5に示す例において、通常のSOCの使用範囲(劣化を促進しないSOCの使用範囲)は、図4に示す例と同様に、SOCが30%〜90%の領域である。
【0086】
均等充電を実施した後、しばらく充放電を繰り返しているうちに、電池個体毎のSOCにバラツキが発生し、この例では、SOCの平均値が50%、SOCの高い方(最大値)が65%(平均+15%)、SOCの低い方(最小値)が35%(平均−15%)となってSOCのバラツキが増大している。
【0087】
この場合、SOCが高い個体及び低い個体のいずれも劣化を促進しない範囲内にSOCを収めようとすると、SOCの制限範囲(SOCの平均値を基準とし、バラツキ(±15%)を考慮したSOCの使用範囲)は、45%〜75%(30+15=45%から、90−15=75%までの領域)となる。
【0088】
そうすると、実質使用できるSOCの幅は、75−45=30%分であり、もとの幅(90−30=60%分)の半分となってしまう。このようにバラツキが大きくなってしまうと、劣化を促進せずに使用できる電池のSOCの範囲が狭くなってしまうので、その場合には、均等充電を実施し、電池個体のSOCのバラツキを補正する必要がある。
【0089】
次に、図7及び図8を用いて、SOCモデル及びこれを用いた充電状態(SOC)の推定について説明する。
【0090】
図7は、鉛蓄電池の電流値を一定とし、かつ、温度を一定とした場合(温度:25℃、放電電流:8A)の鉛蓄電池の電圧と鉛蓄電池のSOCとの関係を表すSOCモデル(放電モデル)の例を示したものである。
【0091】
また、図8は、温度を一定とした場合に鉛蓄電池の電流値をパラメータとして、鉛蓄電池の電圧と鉛蓄電池のSOCとの関係を表すSOCモデル(放電モデル)の例を示したものである。
【0092】
図7及び図8においては、ともに、縦軸に電圧(V)(端子電圧(V))、横軸にSOCをとっている。
【0093】
図7に示すように、例えば、温度が25℃で8Aの電流を流している場合に端子電圧を測定した結果が2.04(V)であったとする。この場合、図7から、鉛蓄電池のSOCは0.85(85%)であると推定することができる。
【0094】
図7の例では、温度:25℃、放電電流:8Aのみの例を示したが、例えば、温度:25℃のSOCモデルであっても、図8に示すように、電流値毎に複数の特性カーブが存在する。また、異なる温度や異なる劣化度毎に、このような複数のカーブのSOCモデルが存在する。温度毎や劣化度毎にも、更に特性カーブを設けるとよい。
【0095】
なお、SOCモデルや、SOCモデルを用いたSOC推定方法(図7及び図8)の詳細は、特許文献4に詳しく実施方法を記載している。また、SOCモデルの作成方法については、一例として、非特許文献1にSOCモデルの作成手順を含め、詳しく記載されている。
【0096】
図9は、他の実施形態に係る鉛蓄電池システムの構成を示すブロック図である。
【0097】
本図に示す実施形態においては、劣化してきた鉛蓄電池のSOC使用範囲の変化も考慮することができる。
【0098】
本図においては、鉛蓄電池群101、個別電池状態測定部102、SOCモデル記憶部103、SOC推定部104(充電状態推定部)、SOCバラツキ範囲把握部105(充電状態バラツキ範囲把握部)、SOCバラツキ表示部901(充電状態バラツキ表示部)、劣化モデル記憶部902、劣化度推定部903、劣化対応SOC記憶部904(劣化対応充電状態記憶部:劣化度とSOC使用範囲との関係を記憶する部位)、SOC使用範囲調整部106、SOC使用範囲表示部905(充電状態使用範囲表示部)、均等充電実施計画部107、均等充電実施予定通知部108及び均等充電実施管理部109を含む。
【0099】
これらの機能のうち、図1と異なる部分を中心に説明する。
【0100】
SOCバラツキ表示部901は、SOCバラツキ範囲把握部105が保持している個別電池のSOCバラツキをユーザや外部のシステムに出力(表示等)するものである。
【0101】
劣化モデル記憶部902は、鉛蓄電池の劣化具合(劣化の度合い)のモデル(劣化モデル)を記憶した部位である。また、劣化度推定部903は、劣化モデルを用いて鉛蓄電池の劣化具合を推定する部分である。劣化モデル及び劣化の推定方法には様々な方法が考案されている。代表的な例としては、鉛蓄電池の内部抵抗の値から劣化度を推定する方法がある。これは、鉛蓄電池の劣化が進むに従って、内部抵抗が増大するという性質を利用したものである。他にも、特許文献3に示されるような方法を用いて劣化モデル記憶部902及び劣化度推定部903を構築しても良い。
【0102】
図10は、SOCのバラツキの状況(SOCバラツキ状況)及び均等充電の予告(通知)を出力した画面の例を示したものである。
【0103】
本図において画面には、次のものを表示している。
【0104】
(1)SOCバラツキ状況
(2)均等充電を実施するバラツキ(しきい値)
(3)均等充電の実施予定
(4)通常のSOCの使用範囲
(5)バラツキ・劣化防止を考慮し調整したSOC使用範囲
(6)均等充電からの経過時間、個別電池のSOCバラツキ状況、次回の均等充電実施予定などを表示するグラフ
上記(1)〜(5)のうち、(2)均等充電を実施するバラツキ(しきい値)については、鉛蓄電池を使って風力変動抑制を実施するシステム側で適切に定めることができる。即ち、風力変動抑制を行うために必要な鉛蓄電池の容量を、どの程度の余裕をもって備えているかによって、定めることができる。例えば、将来の電池の劣化(容量低下)やその他の変動要因も見越して、必要な容量の2倍の電池を設置しているならば、SOC使用幅が半分となるまでSOC使用範囲調整を実施し、半分となったところで均等充電を実施するということにすることができる。
【0105】
しかし、もし、鉛蓄電池の容量の余裕が30%しかないならば、SOCの使用範囲の調整で対応できるのは、SOCの使用範囲が30%減少するまでであり、それを超える前に均等充電を実施して、SOCのバラツキを補正する方法が考えられる。あるいは、状況によっては、推奨されるSOCの使用範囲を多少逸脱しても、それが短期間であればOKとするということも可能である。しきい値については、電池の容量(余裕具合)や、劣化をどの程度防ぎたいか(使用範囲の逸脱をどの程度許容するか)によって、定めることができる。
【0106】
また、本図において画面には、上記(6)のグラフを表示している。このグラフにおいては、個別電池のSOCのバラツキを、SOCの平均値、SOCのうち高い値及びSOCのうち低い値で表示しているが、SOCのバラツキの表示方法は、他にも、平均値及び標準偏差で表してもよいし、他の一般に用いられるバラツキ具合の表示方法を用いてもよい。
【0107】
図11は、劣化度とSOCの使用範囲との関係の例を示したものである。
【0108】
「鉛蓄電池が劣化する」とは、電気的な測定データの観点からは、容量が少なくなることを意味する。例えば、容量が定格容量から30%減少した場合をその電池の寿命と定める場合もある。
【0109】
鉛蓄電池の容量が減少してきた場合、均等充電を実施した後のSOCを100%であると規定すると、見かけ上は、SOCの使用範囲が低い方から減っていくように見える。例えば、容量が定格容量から10%減少してしまった場合、その電池はSOC10%(=0+10%)〜100%の電池(推奨されるSOCの使用範囲が40%(=30+10%)〜90%)の電池というように捉えることができる。
【0110】
このような劣化に伴う容量低下を考慮した場合、劣化対応SOC記憶部904に記憶された劣化度とSOCの使用範囲(劣化を促進しない推奨されるSOCの使用範囲)との関係は、本図に示す通りである。このような電池の劣化に伴う容量低下を考慮して、SOCの使用範囲を定めておくと、SOC使用範囲調整部106は、電池の劣化具合及び個別電池のバラツキ具合の両方を考慮して、適切なSOCの使用範囲を定めることができる。
【0111】
具体的には、例えば、容量が10%減少した劣化電池においてSOCのバラツキが平均値から高い方が+5%、平均値から低い方が−5%である場合、電池の劣化を促進しないように調整した後のSOCの使用範囲を45%(=40+5%)〜85%(=90−5%)と定めることができる。
【0112】
以上の説明においては、蓄電池の例として鉛蓄電池を用いて説明したが、他の種類の蓄電池の場合も、蓄電池の適正な充電状態の範囲(上限値及び下限値)が設定できる場合は、同様の手段を用いて均等充電を制御することができる。
【0113】
以下、鉛蓄電池システムの運用状況に関する実施例及び比較例について説明する。
【実施例1】
【0114】
図12は、実施例に係る鉛蓄電池システムの運用状況を示したものである。横軸に均等充電実施後の経過時間をとり、縦軸にSOCをとっている。SOCの使用範囲(SOCの許容範囲)は、30%〜90%である。
【0115】
本図においては、SOCのバラツキの下限値が30%に達する前に次の均等充電を実施する。一方、SOCのバラツキの上限値が90%に達する前にも均等充電を実施することができる。
【0116】
これにより、多くの鉛蓄電池がサルフェーション領域に達することなく充電されるため、鉛蓄電池の劣化を抑制することができる。
【実施例2】
【0117】
図13は、鉛蓄電池の劣化度を考慮した実施例に係る鉛蓄電池システムの運用状況を示したものである。横軸に均等充電実施後の経過時間をとり、縦軸にSOCをとっている。運用開始時におけるSOCの使用範囲(SOCの許容範囲)は、30%〜90%である。
【0118】
本図においては、SOCのバラツキの下限値が30%から時間の経過とともに上昇する。一方、SOCのバラツキの上限値は90%から時間の経過とともに下降する。このように鉛蓄電池の劣化が進行する場合も、SOCの使用範囲に収まるように均等充電を実施することができる。
【0119】
これにより、多くの鉛蓄電池がサルフェーション領域に達することなく充電されるため、鉛蓄電池の劣化を抑制することができる。
【0120】
(比較例)
図14は、比較例に係る鉛蓄電池システムの運用状況を示したものである。横軸に均等充電実施後の経過時間をとり、縦軸にSOCをとっている。SOCの使用範囲(SOCの許容範囲)は、30%〜90%である。
【0121】
本図においては、SOCの平均値は30%より大きい値を示しているが、SOCの平均値よりも低いSOCとなった鉛蓄電池が30%以下に達している。この状態から次の均等充電を実施したとしても、このような運用を繰り返していると、鉛蓄電池の半数程度が劣化しやすくなる。
【0122】
以上より、SOCのバラツキを考慮することにより、多くの鉛蓄電池の劣化を抑制することができるようになることがわかる。
【符号の説明】
【0123】
1:鉛蓄電池システム、101:鉛蓄電池群、102:個別電池状態測定部、103:SOCモデル記憶部、104:SOC推定部、105:SOCバラツキ範囲把握部、106:SOC使用範囲調整部、107:均等充電実施計画部、108:均等充電実施予定通知部、109:均等充電実施管理部、151:鉛蓄電池、152:鉛蓄電池モジュール、161:電流測定部、162:電圧測定部、163:温度測定部、901:SOCバラツキ表示部、902:劣化モデル記憶部、903:劣化度推定部、904:劣化対応SOC記憶部、905:SOC使用範囲表示部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14