(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ディスオーダー低減領域は、水素のイオン注入によって導入されたディスオーダーが残留した残留ディスオーダーを有することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
前記ドリフト層を挟んで前記ベース層に隣接する前記フィールドストップ層のキャリア濃度が最大濃度となる位置の前記第2の主面からの深さが、15μmよりも深いことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
前記ドリフト層に接する前記中間層において前記フィールドストップ層が前記ドリフト層に接しており、前記コレクタ層に接する前記中間層において前記ディスオーダー低減領域が前記コレクタ層に接していることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
前記フィールドストップ層を形成する工程と前記ディスオーダー低減領域を形成する工程が、前記半導体基板の裏面を研削するよりも後であり裏面電極を形成するよりも前であることを特徴とする請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
前記フィールドストップ層を形成する工程が、前記プロトン注入を行う工程よりも後であり、前記ディスオーダー低減領域を形成する工程よりも前であることを特徴とする請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
前記ディスオーダー低減領域を形成する工程が、前記プロトン注入を行う工程よりも後であり、前記フィールドストップ層を形成する工程よりも前であることを特徴とする請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
前記プロトン注入した後で前記レーザーアニール処理の前に、前記一方の主面から前記プロトン注入による飛程より浅い表面層に不純物をイオン注入し、当該不純物を前記レーザーアニール処理で活性化する工程を含むことを特徴とする請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
前記プロトン注入による飛程Rpの前記フィールドストップ層を形成するときのプロトンの加速エネルギーEは、前記プロトン注入による飛程Rpの対数log(Rp)をx、前記プロトン注入の加速エネルギーEの対数log(E)をyとして、下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項10〜20のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
y=−0.0047x4+0.0528x3−0.2211x2+0.9923x+5.0474 ・・・(2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プロトン注入により導入される欠陥は、プロトンの飛程Rp(イオン注入によって注入されたイオンが最も高濃度に存在する位置の注入面からの距離)だけでなく、注入面から飛程Rpまでのプロトンの通過領域や、注入面近傍に多く残留する。この残留した欠陥は残留欠陥と呼ばれ、格子位置からの原子(この場合シリコン)のずれが大きく、また結晶格子自体の強い乱れにより、アモルファスに近い状態である。そのため、電子および正孔といったキャリアの散乱中心となってキャリア移動度を低下させて導通抵抗を増加させるほか、キャリアの発生中心となって漏れ電流を増加させる等、素子の特性不良をもたらす。
【0007】
このように、プロトンの注入により、プロトンの注入面から飛程Rpまでのプロトン通過領域に残留し、キャリア移動度の低下や漏れ電流の増加の原因となるような、結晶状態から強く乱れた欠陥を、特にディスオーダーと呼ぶ。プロトン注入時に生成した結晶欠陥を電気炉による熱処理で回復させて水素誘起ドナーを形成する方法もあるが、プロトン注入時に生成した結晶欠陥がディスオーダーを形成している場合、電気炉による熱処理だけでは、水素誘起ドナーを形成するだけでなく、プロトン通過領域のディスオーダーも残留する。そのため、キャリア移動度が低下し、漏れ電流や導通損失の増加等の特性不良をもたらす。
【0008】
特許文献3に記載されているように、プロトン注入後に、プロトン注入面とは反対のMOSゲート形成面側を冷却しながらプロトン注入面をレーザーでアニールする方法もあるが、残留するディスオーダーとその素子特性への影響についての議論はされていない。
【0009】
特許文献4に記載されているように、プロトン注入後、アニールをおこなう前にプロトンの外方拡散を抑制する為に、注入面に対して電子線加熱あるいはレーザー加熱をもちいて結晶欠陥を回復させる方法もあるが、残留したディスオーダーとその素子特性への影響については議論されていない。
【0010】
特許文献5のように、あらかじめシリコン基板に高濃度の酸素を導入する場合、高温(1000℃以上)による酸素の拡散工程が必要になる。そのため、工程数が増加するほか、酸素誘起欠陥(OSF)の発生などの課題も生じ得る。
【0011】
特許文献6では、2種類の波長によるレーザー照射により、プロトン注入面から30μmまで欠陥を回復させてキャリアライフタイムを高く維持させているが、プロトン通過領域のディスオーダーの残留については議論がなされていない。また、異なる波長のレーザーを組み合わせても、深さ方向には必ず温度分布が生じるので、任意の深さで安定的に水素誘起ドナーを形成することと、注入面近傍および通過領域のディスオーダーを低減することを両立させるのは難しい。さらに、異なる2つの波長のレーザーを照射するには、それぞれ別個にレーザー光源とレーザー照射設備が必要となり、コスト増が避けられない。
【0012】
特に、注入するプロトンの注入面からの飛程Rpが15μmを超える場合において、特許文献6の方法では、注入面近傍および通過領域のディスオーダー低減が十分ではないことが分かった。
図6は、従来の方法で製作した半導体装置のキャリア濃度分布を飛程ごとに比較した特性図である。具体的には、
図6において、プロトン注入の飛程Rpが15μm前後のキャリア濃度分布について、特許文献6に記載の方法で試料を形成し、飛程Rpごとに比較した。(a)は飛程Rpが50μm、(b)は飛程Rpが20μm、(c)は飛程Rpが10μmである。(c)の飛程Rp=10μmの場合は、注入面近傍(深さが0〜5μm)および通過領域のキャリア濃度が、シリコン基板の濃度1×10
14(/cm
3)よりも高くなっており、ディスオーダーは十分低減されている。一方、(b)の飛程Rp=20μmと(a)の飛程Rp=50μmでは、注入面近傍および通過領域のキャリア濃度が大きく低下しており、ディスオーダーが低減されていないことがわかる。このようにディスオーダーが残留すると、素子の漏れ電流や導通損失が高くなってしまう。このため、プロトン注入の飛程Rpが15μmを超える場合、ディスオーダーを低減する新たな方法の検討が必要である。
【0013】
この発明の目的は、前記の課題を解決して、所定の深さにn型フィールドストップ層を形成し、プロトン注入により生成されるディスオーダーを低減し、キャリア移動度の低下、損失の増加や発生中心による漏れ電流の増加といった電気的特性の不良を改善できる、安定で安価な半導体装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、次の特徴を有する。n導電型のドリフト層となる半導体基板の第1の主面の表面層に、当該ドリフト層よりも高濃度のp導電型のベース層が設けられている。また、前記ベース層の内部に、当該ベース層よりも高濃度のn導電型のエミッタ層が設けられている。前記ベース層、前記エミッタ層および前記ドリフト層に接するようにゲート絶縁膜が設けられている。前記ゲート絶縁膜の表面に、前記ベース層、前記エミッタ層および前記ドリフト層に対向するようにゲート電極が設けられている。前記エミッタ層および前記ベース層の表面に、層間絶縁膜によって前記ゲート電極と絶縁されたエミッタ電極が設けられている。前記半導体基板の第2の主面の表面に、p導電型のコレクタ層が設けられている。また、前記ドリフト層と前記コレクタ層との間に、
飛程が15μm以上のプロトン注入により形成した、前記ドリフト層よりも高濃度のn導電型のフィールドストップ層と、当該フィールドストップ層よりも
前記コレクタ層側に隣接して形成され、当該フィールドストップ層よりも低濃度のn導電型のディスオーダー低減領域と、の2層を対とするn導電型の中間層を、少なくとも1つ有している。
前記ディスオーダー低減領域におけるキャリア移動度の最小値が、結晶状態の当該キャリア移動度の20%以上である。
【0015】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記フィールドストップ層が水素誘起ドナーを有することを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記ディスオーダー低減領域のドーピング濃度は前記ドリフト層の濃度以上であることを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記ディスオーダー低減領域は、水素のイオン注入によって導入されたディスオーダーが残留した残留ディスオーダーを有することを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記残留ディスオーダーは、前記水素のイオン注入によって導入されたディスオーダーが熱処理により低減されてなることを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記ドリフト層を挟んで前記ベース層に隣接する前記フィールドストップ層のキャリア濃度が最大濃度となる位置の前記第2の主面からの深さが、15μmよりも深いことを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、qを電荷素量、N
dを前記ドリフト層の平均濃度、ε
Sを前記半導体基板の誘電率、V
rateを定格電圧、J
Fを定格電流密度、v
satをキャリアの速度が所定の電界強度で飽和した飽和速度として、距離指標Lが下記式(1)で表わされ、前記ドリフト層を挟んで前記ベース層に隣接する前記フィールドストップ層のキャリア濃度が最大濃度となる位置の前記第2の主面からの深さをXとし、前記半導体基板の厚さをW0として、X=W0−γLであり、γは0.2以上1.5以下であることを特徴とする。
【0023】
【数1】
【0024】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記ドリフト層に接する前記中間層において前記フィールドストップ層が前記ドリフト層に接しており、前記コレクタ層に接する前記中間層において前記ディスオーダー低減領域が前記コレクタ層に接していることを特徴とする。
【0025】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記中間層が2つ以上形成されていることを特徴とする。
【0026】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体
装置の製造方法は、次の特徴を有する。半導体基板の一方の主面からプロトン注入を行う
。つぎに、前記半導体基板の全体を高温にすることで前記プロトン注入による水素誘起ド
ナーを形成し前記半導体基板内にn導電型のフィールドストップ層を形成する。そして、
前記一方の主面から前記プロトン注入による飛程内を加熱して、プロトン通過領域に生成
されたディスオーダーを低減しn導電型のディスオーダー低減領域を形成する。
前記プロトン注入による飛程が15μm以上である。
【0027】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記フィールドストップ層を形成する工程において、前記半導体基板の全体を高温にする処理が炉アニール処理であり、前記ディスオーダー低減領域を形成する工程において、前記一方の主面から前記プロトン注入による飛程内を加熱する処理が、当該一方の主面からレーザー光を照射するレーザーアニール処理であることを特徴とする。
【0029】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記レーザーアニール処理により前記一方の主面から少なくとも5μm深さまでの前記ディスオーダーを低減することを特徴とする。
【0030】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記ディスオーダーにより前記プロトン通過領域のキャリア移動度が、前記半導体基板のうち前記プロトン通過領域以外の領域よりも低くなることを特徴とする。
【0031】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記炉アニール処理および前記レーザーアニール処理により、前記プロトン通過領域のキャリア移動度が増加することを特徴とする。
【0032】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記フィールドストップ層を形成する工程と前記ディスオーダー低減領域を形成する工程が、前記半導体基板の裏面を研削するよりも後であり裏面電極を形成するよりも前であることを特徴とする。
【0033】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記フィールドストップ層を形成する工程が、前記プロトン注入を行う工程よりも後であり、前記ディスオーダー低減領域を形成する工程よりも前であることを特徴とする。
【0034】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記ディスオーダー低減領域を形成する工程が、前記プロトン注入を行う工程よりも後であり、前記フィールドストップ層を形成する工程よりも前であることを特徴とする。
【0035】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記炉アニール処理の温度が、350℃以上で550℃以下であり、前記炉アニール処理の処理時間が1時間以上で10時間以下であることを特徴とする。
【0036】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記レーザーアニール処理に用いるレーザーが、YAGレーザーまたは半導体レーザーであることを特徴とする。
【0037】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記プロトン注入した後で前記レーザーアニール処理の前に、前記一方の主面から前記プロトン注入による飛程より浅い表面層に不純物をイオン注入し、当該不純物を前記レーザーアニール処理で活性化する工程を含むことを特徴とする。
【0038】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記プロトン注入による飛程Rpの前記フィールドストップ層を形成するときのプロトンの加速エネルギーEは、前記プロトン注入による飛程Rpの対数log(Rp)をx、前記プロトン注入の加速エネルギーEの対数log(E)をyとして、下記式(2)を満たすことを特徴とする。
【0039】
y=−0.0047x
4+0.0528x
3−0.2211x
2+0.9923x+5.0474 ・・・(2)
【0040】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した半導体装置の製造方法を用いて作製される半導体装置が、前記フィールドストップ層を有するIGBTであることを特徴とする。
【0041】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した半導体装置の製造方法を用いて作製される半導体装置が、前記フィールドストップ層を有するFWDであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
この発明によれば、プロトン注入した後、炉アニール処理により水素誘起ドナーを形成してn型フィールドストップ層を形成することができる。また、レーザーアニール処理によりプロトン通過領域に生成したディスオーダーを低減させ、ディスオーダー低減領域を形成することができる。このディスオーダー低減領域を形成することで半導体装置の導通抵抗の増加や漏れ電流の増加などの電気的特性不良を改善できる。その結果、安定で安価な半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置およびその製造方法の好適な実施例を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。すなわち、nは導電型がn型、pは導電型がp型を示す。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0045】
<実施例1>
図1は、この発明の実施例1にかかる半導体装置(IGBT100)の製造方法を示すプロセスフロー図である。
図3は、
図1のプロセスフローで製作したIGBT100の要部断面図(a)とn型フィールドストップ層3付近のキャリア濃度プロファイル(b)の図である。
図1のプロセスフローおよび
図3(a)の要部断面図を参照して、この発明の実施例1にかかる半導体装置の製造方法について説明する。
【0046】
まず、
図1(a)のおもて面形成工程において、n半導体基板(ウェハ)11の一方の主面(おもて面11a)にpベース層22、nエミッタ層2、ゲート絶縁膜23、ゲート電極24、層間絶縁膜28などからなるMOSゲート構造を形成する。但し、nエミッタ層2はpベース層22内に形成される。MOSゲート構造の構成については後述する。
【0047】
つぎに、
図1(b)のおもて面電極工程において、pベース層22とnエミッタ層2の両表面に共通に導電接触する金属膜でおもて面電極となるエミッタ電極25を形成する。エミッタ電極25を構成する金属は、例えばAl(アルミニウム),Al−Si(シリコン),Al−Cu(銅)などのAl合金やCu,Au(金),Ni(ニッケル)などである。
【0048】
つぎに、
図1(c)の表面保護膜形成工程において、おもて面11aを保護する表面保護膜を形成する。表面保護膜は保護テープやフォトレジスト、ポリイミドで形成される。つぎに、
図1(d)の裏面研削工程において、n半導体基板11(nドリフト層1)を、耐圧との関係で決まる所要の厚さに減ずるために、裏面11b側を研削(バックグラインド)する。
【0049】
つぎに、
図1(e)のプロトン注入工程において、裏面11b側からプロトン注入16を行う。このプロトン注入16の照射エネルギーを選択することで所定の深さにn型フィールドストップ層3を形成することができる。注入するプロトンの裏面11b(研削面)からの飛程Rpは、15μmよりも深く、素子の定格電圧に応じてさらに深い場合(20〜400μm)もある。注入するプロトンの裏面11b(研削面)からの飛程Rpは、具体的には、例えば20〜60μmである。裏面11bから最も深く形成するFS層の定格電圧に応じた深さについては、後述する。
【0050】
つぎに、
図1(f)の炉アニール処理工程において、炉アニール処理を行って、プロトンのドナー化によりn型フィールドストップ層3を形成する。この炉アニール処理とは、一定の温度の電気炉などの恒温炉にウェハを入れて熱処理することであり、ウェハ全体が加熱される。炉アニール処理の処理温度は350℃〜550℃の範囲で、時間は1時間〜10時間の範囲で行う。この温度範囲では、プロトンの飛程Rpおよびプロトン通過領域14には結晶欠陥が残留し、プロトン注入16による水素誘起ドナーの形成が促進される。この炉アニールのほかに、ランプアニールなどを用いてウェハ全体を加熱しても構わない。一方、この温度範囲では、プロトン通過領域14(プロトンの注入面から飛程Rpまでの間の領域)には、プロトン注入16によって導入されたディスオーダーも残留し、ディスオーダー領域15が形成される。この残留したディスオーダーが、キャリアの移動度の低下、あるいは漏れ電流の原因となるキャリアの発生中心となる。
【0051】
つぎに、
図1(g)のボロン注入工程において、裏面11b側にボロンのイオン注入を行う。このボロンのイオン注入はプロトンの飛程(Rp)より浅くなるように裏面11bの表面層に行う。
【0052】
つぎに、
図1(h)のレーザーアニール工程において、プロトン注入16した裏面11b側からレーザー光を照射して、前記の炉アニールで残留したディスオーダーを低減させてn型ディスオーダー低減領域18を形成するとともに、裏面11bの浅い箇所に注入されたボロンを活性化させてpコレクタ層4を形成する。このレーザーアニール処理は、例えば、YAGレーザーを使用して、裏面11bから照射されたプロトンの飛程Rp以内を加熱して行う。レーザー光のパルス幅(半値幅)は、例えば、300ns〜800nsの範囲であり、同一箇所に、例えば、数回程度のレーザー照射を行う。この照射箇所のシリコンの温度は3000℃程度になるが昇温時間および降温時間は極めて短時間(10ns〜1μsのオーダー)である。
【0053】
レーザー光の浸透深さはプロトンの浸透深さ(飛程Rp)以内にする。具体的にはプロトンによるドナー生成濃度(キャリア濃度)のピークを持つ山(凸部)の裏面11b側の裾(n型フィールドストップ層3の裏面11b側の端部3a)の位置からプロトン注入面(裏面11b)までの間(プロトン通過領域14の一部)になるようにレーザー光の波長を選定する。レーザー光の波長は、10μm〜1000μmの範囲が好ましい。こうすることでn型ディスオーダー低減領域18の形成とボロンの活性化とを同時に効率よく行うことができる。また、レーザー光の照射箇所の温度を1000℃以上にすることで、n型ディスオーダー低減領域18を効率的に形成することができる。好ましくは、この温度を2000℃以上でありかつSiの沸点(3266℃)以下に抑えるとよい。特に、シリコンの融点を超えないようにすることで、レーザー照射後の照射面のアブレーション(面荒れ)を抑えることができる。また、レーザーアニール処理の代わりにランプアニール処理を行ってもよい。以上の工程により、プロトン注入面と飛程(Rp)の間に、n型ディスオーダー低減領域18を形成することが可能となる。
【0054】
つぎに、
図1(i)の裏面電極形成工程において、pコレクタ層4の表面に導電接触するコレクタ電極(不図示)を真空スパッタなどで形成する。これで本発明に係るIGBT100が完成する。このスパッタを行った後、必要に応じてメタルアニール処理を行う場合もある。このように、本実施例の製造方法のポイントは、炉アニール処理と、レーザーアニール処理のいずれも行うことである。この方法の効果について、以下に説明する。
【0055】
図11は、プロトン注入の飛程Rpが15μm前後のキャリア濃度分布について、炉アニールのみで試料を形成し、飛程Rpごとに比較したグラフである。(a)は飛程Rpが50μm、(b)は飛程Rpが20μm、(c)は飛程Rpが10μmである。炉アニール温度は、400℃である。
図11のように、いずれの飛程Rpにおいても、炉アニールのみの場合は、注入面から5μm程度のキャリア濃度が大きく低下している。すなわち、炉アニールのみの場合は注入面から5μm程度のディスオーダーが残留しており、炉アニールだけの場合でも、注入面近傍領域のキャリア移動度の回復は難しいことが分かった。
【0056】
前記したように、プロトンのドナー化のための炉アニール処理を行った後、レーザーアニール処理を行うと、水素誘起ドナーの効率的な形成とともに、炉アニールで残留したディスオーダーが低減し、n型ディスオーダー低減領域18を形成することができる。一方、前記の炉アニール処理のみではディスオーダーの低減は不十分となり、また、レーザーアニール処理のみでは水素誘起ドナーの形成が不十分となる。レーザーアニール処理がありとなしの場合のn型フィールドストップ層3付近のキャリア濃度プロファイルについて検証した結果を
図2に示す。
【0057】
図2は、レーザーアニール処理がありとなしの場合のn型フィールドストップ層3付近のキャリア濃度プロファイル12、13である。シリコン基板にプロトン注入した後、炉アニール処理(ここでは400℃)をする。その後、炉アニールで残留したディスオーダーをレーザーアニール処理により低減し、n型ディスオーダー低減領域18を形成する。
図2のキャリア濃度プロファイル12は、n型ディスオーダー低減領域18を形成した後のプロファイルである。比較のために、レーザーアニール処理をしないでディスオーダーが残留した場合のキャリア濃度プロファイル13も点線で示した。プロトンの飛程Rpは25μmで、対応するプロトンの加速エネルギーは1.35MeVである。レーザーアニール処理のエネルギー密度は2.8J/cm
2である。
【0058】
レーザーアニール処理をしない場合のキャリア濃度プロファイル13では、プロトンの飛程17(Rp)となるピーク(山)の裏面11b側の裾(すなわちn型フィールドストップ層3の裏面11b側の端部3a)からプロトン注入面(裏面11b)までの間(プロトン通過領域14の一部)に相当する領域に、ディスオーダー領域15が広がっている。ピーク(山)の裏面11b側の裾の端部3aは、注入面から約5μmの深さである。このディスオーダー領域15があると、その領域では電子と正孔との移動度が低下するため、ディスオーダー領域15のキャリア濃度が、見かけ上低下(高抵抗層化)しているように見える。また、ディスオーダーがキャリアの発生中心となり、電圧印加時の漏れ電流が増加する。
【0059】
一方、レーザーアニール処理ありの場合のキャリア濃度プロファイル12では、プロトン通過領域14のうち、注入面(裏面11b)からn型フィールドストップ層3の裏面11b側の端部3aまでの間のキャリア濃度が、飛程17より深いシリコン基板の濃度と概ね一致している。すなわち、炉アニール処理だけではプロトン通過領域14に残留していたディスオーダーが、レーザーアニール処理と炉アニール処理の両方を行うことによって低減されたことを示す。このようにディスオーダーが低減された領域を、n型ディスオーダー低減領域18と呼ぶ。また、1つのn型フィールドストップ層3と注入面側に隣接する1つのn型ディスオーダー低減領域18の対をn型中間層27と呼ぶ。
【0060】
次に、レーザーアニール処理ありの場合のキャリア濃度プロファイル12におけるn型ディスオーダー低減領域18と、レーザーアニール処理無しの場合のキャリア濃度プロファイル13におけるディスオーダー領域15との相違について、説明する。
図2では、前述のように、ディスオーダー領域15は見かけ上キャリア濃度が低下した状態として表されている。すなわち、
図2の点線で示すレーザーアニール処理なしの場合のキャリア濃度プロファイル13では、n型フィールドストップ層3が形成されている手前(裏面側からn型フィールドストップ層3よりも浅い)のディスオーダー領域15で、キャリア濃度が見かけ上低く見えている。この見かけ上のキャリア濃度の低下は、周知の広がり抵抗測定法(SR法)によって測定した広がり抵抗から比抵抗を算出し、さらにキャリア濃度に換算するときの換算方法に起因する。すなわち、結晶格子が乱れたディスオーダー領域15では、電子や正孔が強い乱れにより散乱されるため、これらキャリアの移動度が低下する。
【0061】
一般には、測定装置ではキャリア移動度の値には結晶状態での理論値が設定されているため、キャリア濃度の算出が、次のようにディスオーダー領域15によるキャリアの移動度の低下に影響される。例えば室温(300K程度)におけるシリコンの電子の移動度は1360(cm
2/V・s)であり、正孔の移動度は495(cm
2/V・s)である。広がり抵抗から比抵抗への換算にはキャリアの移動度は寄与しないが、比抵抗からキャリア濃度への換算式は、キャリア濃度をN(cm
-3)、比抵抗をρ(Ω・cm)として、ρ=1/(μ・q・N)で表される。但し、μは電子もしくは正孔の移動度(cm
2/V・s)、qは素電荷(1.6×10
-19C)である。この換算式において、比抵抗ρがある一定値ρ
0のとき、本来は低下した移動度を代入するべきところにそれより値の大きな結晶状態の理想移動度の値を代入すると、比抵抗ρ
0は一定値であるから、キャリア濃度Nは小さく算出される。これが、見かけ上のキャリア濃度の低下として
図2のレーザーアニール処理なしの場合のキャリア濃度プロファイル13に現れているのである。したがって、本発明のように、裏面11b側のプロトン通過領域14に存在するディスオーダー領域15のディスオーダーをレーザーアニール処理で低減し、n型ディスオーダー低減領域18を形成することで、漏れ電流などの電気的特性が改善される。
【0062】
以上より、水素誘起ドナーのドナー生成率を高めるためには炉アニール処理が必要となり、一方プロトン通過領域14に残留したディスオーダーを低減してn型ディスオーダー低減領域18を形成するためには炉アニール処理に加えレーザーアニール処理が必要となるのである。なお、炉アニール処理の温度が高すぎると、プロトン注入で生成したディスオーダー低減は早まるが、プロトンによる水素誘起ドナーの形成で必要となる結晶欠陥量が不足するようになり、その結果、ドナー生成率が低下してしまう。そのため、炉アニール処理は前記した温度範囲と処理時間範囲で行うのがよい。
【0063】
また、レーザーアニール処理におけるエネルギー密度についても、高すぎるとアブレーションが生じて、裏面に荒れが生じる。pコレクタ層のpn接合面は平坦が好ましく、荒れが生じると荒れの形状に応じたpn接合面となる。一方、低すぎれば注入面近傍(注入面〜深さ5μm)のディスオーダーが十分除去できず、残留してキャリア移動度が低い状態となる。発明者らが鋭意研究を重ねた結果、レーザーアニールにおけるレーザー照射面のエネルギー密度の合計は、1J/cm
2以上4J/cm
2以下が好ましいことを見出した。
【0064】
n型ディスオーダー低減領域18におけるキャリア移動度が少なくともどの程度まで回復すべきか、については、
図2より検討できる。
図2の場合、n半導体基板11のキャリア濃度は約6×10
13(/cm
3)である。これに対して、レーザーアニール処理ありの場合は、注入面から5μmの間(プロトン通過領域の一部)のキャリア濃度が約5×10
12(/cm
3)であり、基板濃度の83%まで回復している。これは、すなわちキャリア移動度が結晶理論値の約83%まで回復していることを示す。一方、レーザーアニール処理なし(炉アニール処理のみ)の場合は、最もキャリア濃度が低い注入面で、約1.2×10
13(/cm
3)であり、およそ20%まで低下している。導通損失(IGBTの飽和電圧V
CE(sat))の低下具合によるが、n型ディスオーダー低減領域18におけるキャリア移動度の最小値が結晶状態の理論値に対して20%以上、好ましくは50%以上であれば、キャリア移動度が低下しない場合の導通損失に比べてその影響は十分無視できる程度となる。なお、n型ディスオーダー低減領域18におけるキャリア移動度の最小値の上限が、結晶状態の理論値に対して100%となることが好ましいのは、言うまでもない。
【0065】
炉アニール処理の温度は、350℃以上550℃以下が好ましい。350℃より低い温度の場合は、注入面から飛程Rpまでのプロトン注入領域全体でディスオーダーが残留し、キャリア移動度の最小値は10%を下回るようになる。一方、550℃以上の温度では、水素誘起ドナーそのものが消失する。より好ましくは、380℃以上450℃以下、さらに好ましくは400℃以上420℃以下であれば、水素誘起ドナーの形成とキャリア移動度低下の抑制とを両方達成することができる。
【0066】
また、n型ディスオーダー低減領域18のキャリア濃度は、n型フィールドストップ層3の濃度よりも低い範囲でn半導体基板11の濃度よりも高濃度となることがある。これは、プロトン通過領域14に残留する水素イオンが、周辺の点欠陥と複合欠陥を形成するためである。この場合も、プロトン通過領域14の濃度がn半導体基板11の濃度と同じかそれよりも高濃度であれば、ディスオーダーが低減されたn型ディスオーダー低減領域18ということができる。
【0067】
図1のプロセスフローで製作したIGBT100について、
図3を参照して詳細に説明する。前記したように、n半導体基板11のおもて面11aにpベース層22を形成し、pベース層22の表面層にnエミッタ層2を形成する。nエミッタ層2とn半導体基板11に挟まれたpベース層22上にゲート絶縁膜23を介してゲート電極24を形成する。このゲート電極24、ゲート絶縁膜23、n半導体基板11およびnエミッタ層2でMOSゲート構造が構成される。ゲート電極24上に層間絶縁膜28を形成し、この層間絶縁膜28上にnエミッタ層2およびpベース層22に導電接触するエミッタ電極25が形成される。
【0068】
n半導体基板11の裏面11bにn半導体基板11より高いキャリア濃度のn型フィールドストップ層3をプロトン注入と炉アニールにより形成する。このn型フィールドストップ層3より浅い箇所にボロンのイオン注入とディスオーダー低減のためのレーザーアニール処理により、pコレクタ層4とn型ディスオーダー低減領域18を形成する。このpコレクタ層4上にコレクタ電極(不図示)を形成してIGBT100が完成する。尚、n型フィールドストップ層3からpベース層22までの間のn半導体基板11が、主電流が流れ主耐圧を維持するnドリフト層1である。このように形成したIGBT100の断面図は、
図12に示すようになる。
図12は、本発明にかかるIGBTの断面図である。なお、pコレクタ層4とn型ディスオーダー低減領域18との間に、n型フィールドストップ層3よりは高濃度でpコレクタ層4よりは低濃度のリークストップ層32を形成しておいてもよい。このリークストップ層32は、例えばリンのイオン注入で形成する。
【0069】
このIGBT100のn型フィールドストップ層3は、前記したように、裏面11bからプロトン注入16し、炉アニール処理によって適度に結晶欠陥を残すことでプロトンのドナー化を行って形成される。また、プロトン通過領域14に形成されたディスオーダーの低減によるn型ディスオーダー低減領域18の形成は、裏面11bからレーザー光を照射するレーザーアニール処理により効率的に行われる。
図3に示すIGBT100と
図12に示すIGBT100とではMOSゲート構造の構成が異なって図示されているが(
図3ではプレーナゲート構造、
図12ではトレンチゲート構造)、裏面11b側にn型フィールドストップ層3およびn型ディスオーダー低減領域18との対であるn型中間層27が形成されていれば同様の効果を奏する。
図12に示すように2つ以上のn型中間層27を有することについては後述する。なお、
図12においても、
図3と同様に符号22をpベース層とし、符号23をゲート絶縁膜とし、符号24をゲート電極とし、符号25をエミッタ電極とし、符号28を層間絶縁膜としている。また、符号33はコレクタ電極である。
【0070】
<実施例2>
実施例2にかかる半導体装置について説明する。
図4は、この発明の実施例2にかかる半導体装置の製造方法を示すプロセスフロー図である。
【0071】
実施例1との違いは、プロトン注入に続いてボロン注入し(
図4(e)の工程)、その後でレーザーアニール処理(
図4(f)の工程)とそれに続く炉アニール処理(
図4(g)の工程)を行う点である。この場合、先に行うレーザーアニール処理では、プロトン注入16で生成したプロトン通過領域14にn型ディスオーダー低減領域18を形成すると同時に、ボロンを活性化してpコレクタ層4を形成する。また、後工程で行う炉アニール処理では、プロトンのドナー化を行いn型フィールドストップ層3を形成する。この場合も実施例1と同様にレーザーアニール処理と炉アニール処理とを組み合わせることで、n型ディスオーダー低減領域18を形成し、ドナー生成率を高めてn型フィールドストップ層3を形成することができる。n型ディスオーダー低減領域を形成することで半導体装置の漏れ電流などの電気的特性を改善できる。
【0072】
また、
図1のプロセスフローでは、
図3に示すプロトン注入面(裏面11b)に対して反対側のおもて面11aを保護膜で被覆し、プロトン注入16後にこの保護膜を除去して炉アニールを行う。続いて、再度ボロンのイオン注入のための保護膜として2度目の保護膜を被覆してレーザーアニールを行う。すなわち保護膜の被覆が2回必要になる。それに対して、
図4のプロセスフローでは、レーザーアニール処理後に1回の保護膜除去でよいため、製造コストを
図1のプロセスフローの場合より低減できる。
【0073】
尚、
図4のプロセスフローで製作した半導体装置(IGBT100)も
図3と同じ構成となる。
【0074】
<実施例3>
実施例3にかかる半導体装置について説明する。実施例3は、n型フィールドストップ層3とn型ディスオーダー低減領域18との対であるn型中間層27を1つ以上、例えば本実施例のように3つ形成した場合のIGBTである。
図5は、この発明の実施例3にかかる半導体装置(IGBT100)の要部断面図(a)とn型フィールドストップ層3付近のキャリア濃度プロファイル(b)の図である。このように複数のn型中間層27を形成することで、ターンオフにおける空乏層の広がりを緩和することができるので、スイッチング時(ターンオフ時)の発振現象を抑制することができる。
【0075】
<実施例4>
次に、実施例4として、本発明の半導体装置の製造方法において複数回のプロトン照射における1段目のプロトンピーク位置の好ましい位置について説明する。
【0076】
図8は、一般的なIGBTのターンオフ発振波形である。コレクタ電流が定格電流の1/10以下の場合、蓄積キャリアが少ないために、ターンオフが終わる手前で発振することがある。コレクタ電流をある値に固定して、異なる電源電圧V
CCにてIGBTをターンオフさせる。このとき、電源電圧V
CCがある所定の値を超えると、コレクタ・エミッタ間電圧波形において、通常のオーバーシュート電圧のピーク値を超えた後に、付加的なオーバーシュートが発生するようになる。そして、この付加的なオーバーシュート(電圧)がトリガーとなり、以降の波形が振動する。電源電圧V
CCがこの所定の値をさらに超えると、付加的なオーバーシュート電圧がさらに増加し、以降の振動の振幅も増加する。このように、電圧波形が振動を始める閾値電圧を発振開始閾値V
RROと呼ぶ。このV
RROが高ければ高いほど、IGBTはターンオフ時に発振しないことを示すので好ましい。
【0077】
発振開始閾値V
RROは、IGBTのpベース層とnドリフト層との間のpn接合からnドリフト層を広がる空乏層(厳密には、正孔が存在するので空間電荷領域)が、複数のプロトンピークのうち最初に達する1段目(最もpベース層側)のプロトンピークの位置に依存する。その理由は、次のとおりである。ターンオフ時に空乏層がpベース層とnドリフト層との間のpn接合からnドリフト層を広がるときに、空乏層端が1つ目(最もpベース層側)のFS層(フィールドストップ層)に達することでその広がりが抑えられ、蓄積キャリアの掃き出しが弱まる。その結果、キャリアの枯渇が抑制され、発振が抑えられる。
【0078】
ターンオフ時の空乏層は、pベース層とnドリフト層との間のpn接合(以下、単にpn接合とする)からコレクタ電極に向かって深さ方向に沿って広がる。このため、空乏層端が最初に達するFS層のピーク位置は、pn接合に最も近いFS層となる。そこで、n半導体基板11の厚さ(エミッタ電極とコレクタ電極とに挟まれた部分の厚さ)をW0、空乏層端が最初に達するFS層のピーク位置の、コレクタ電極とn半導体基板11の裏面との界面からの深さ(以下、裏面からの距離とする)をXとする。ここで、距離指標Lを導入する。距離指標Lは、下記の(1)式であらわされる。
【0080】
上記(1)式に示す距離指標Lは、ターンオフ時に、増加するコレクタ・エミッタ間電圧V
CEが電源電圧V
CCに一致するときに、pn接合からnドリフト層1に広がる空乏層(正しくは空間電荷領域)の端部(空乏層端)の、pn接合からの距離を示す指標である。平方根の内部の分数の中で、分母はターンオフ時の空間電荷領域(空乏層)の空間電荷密度を示している。周知のポアソンの式は、divE=ρ/εで表され、Eは電界強度、ρは空間電荷密度でρ=q(p−n+N
d−N
a)である。qは電荷素量、pは正孔濃度、nは電子濃度、N
dはドナー濃度、N
aはアクセプタ濃度、ε
Sは半導体の誘電率である。特にドナー濃度N
dは、nドリフト層を深さ方向に積分し、積分した区間の距離で割った平均濃度とする。
図13(b)のネットドーピング濃度とは、N
d−N
aの正味のドーピング濃度のことであり、軸はN
d−N
aの絶対値で示している。
【0081】
この空間電荷密度ρは、ターンオフ時に空間電荷領域(空乏層)を駆け抜ける正孔の濃度pとnドリフト層の平均的なドナー濃度N
dで記述され、電子濃度はこれらよりも無視できるほど低く、アクセプタが存在しないため、ρ≒q(p+N
d)と表すことができる。このときの正孔濃度pは、IGBTの遮断電流によって決まり、特に素子の定格電流密度が通電している状況を想定するため、p=J
F/(qv
sat)で表され、J
Fは素子の定格電流密度、v
satはキャリアの速度が所定の電界強度で飽和した飽和速度である。
【0082】
上記ポアソンの式を距離xで2回積分し、電圧VとしてE=−gradV(周知の電界Eと電圧Vとの関係)であるため、境界条件を適当にとれば、V=(1/2)(ρ/ε)x
2となる。この電圧Vが、定格電圧V
rateの1/2としたときに得られる空間電荷領域の長さxを、上記の距離指標Lとしているのである。その理由は、インバーター等の実機では、電圧Vとなる動作電圧(電源電圧)を、定格電圧の半値程度とするためである。FS層は、ドーピング濃度をnドリフト層よりも高濃度とすることで、ターンオフ時に広がる空間電荷領域の伸びを、FS層において広がり難くする機能を有する。IGBTのコレクタ電流がMOSゲートのオフにより遮断電流から減少を始めるときに、空乏層が最初に達するFS層のピーク位置が、ちょうどこの空間電荷領域の長さにあれば、蓄積キャリアがnドリフト層に残存した状態で、空間電荷領域の伸びを抑えることができるので、残存キャリアの掃出しが抑えられる。
【0083】
実際のターンオフ動作は、例えばIGBTモジュールを周知のPWMインバーターでモーター駆動するときには、電源電圧や遮断電流が固定ではなく可変であることが多い。このため、このような場合では、空乏層が最初に達するFS層のピーク位置の好ましい位置に、ある程度の幅を持たせる必要がある。発明者らの検討の結果、空乏層が最初に達するFS層のピーク位置の裏面からの距離Xは、
図10に示す表のようになる。
図10は、本発明にかかる半導体装置において空乏層が最初に達するFS(フィールドストップ)層の位置条件を示す図表である。
図10には、定格電圧が600V〜6500Vのそれぞれにおいて、最初に空乏層端が達するFS層のピーク位置の裏面からの距離Xを示している。ここで、X=W0−γLとおき、γは係数である。このγを、0.7〜1.6まで変化させたときのXを示している。
【0084】
図10に示すように、各定格電圧では、素子(IGBT)が定格電圧よりも10%程度高い耐圧を持つように、安全設計をする。そして、オン電圧やターンオフ損失がそれぞれ十分低くなるように、
図10に示すようなn半導体基板11の総厚(研削等によって薄くした後の仕上がり時の厚さ)とし、nドリフト層1を平均的な比抵抗とする。平均的とは、FS層を含めたnドリフト層1全体の平均濃度および比抵抗である。定格電圧によって、定格電流密度も
図10に示したような典型値となる。定格電流密度は、定格電圧と定格電流密度との積によって決まるエネルギー密度が、およそ一定の値となるように設定され、ほぼ
図10に示す値のようになる。これらの値を用いて上記(1)式に従い距離指標Lを計算すると、
図10に記載した値となる。最初に空乏層端が達するFS層のピーク位置の裏面からの距離Xは、この距離指標Lに対してγを0.7〜1.6とした値をn半導体基板11の厚さW0から引いた値となる。
【0085】
これら距離指標Lおよびn半導体基板11の厚さW0の値に対して、ターンオフ発振が十分抑えられるような、最初に空乏層端が達するFS層のピーク位置の裏面からの距離Xを定める係数γは、次のようになる。
図7は、電圧波形が振動を始める閾値電圧について示す特性図である。具体的には、γに対するV
RROの依存性を、典型的ないくつかの定格電圧V
rate(600V、1200V、3300V)について示したグラフである。ここで、縦軸は、V
RROを定格電圧V
rateで規格化している。3つの定格電圧ともに、γが1.6以下でV
RROを急激に高くできることが分かる。
【0086】
前述のように、インバーター等の実機では、電圧Vとなる動作電圧(電源電圧V
CC)を定格電圧V
rateの半値程度とするため、V
CCをV
rateの半値とするときには、少なくともIGBTのターンオフ発振は生じないようにしなければならない。つまり、V
RRO/V
rateの値は0.5以上とする必要がある。
図7から、V
RRO/V
rateの値が0.5以上となるのは、γが0.2〜1.5であるので、少なくともγを0.2〜1.5とすることが好ましい。
【0087】
また、図示しない600V〜1200Vの間(800Vや1000Vなど)、1200V〜3300Vの間(1400V,1700V,2500Vなど)、および3300V以上(4500V、6500Vなど)のいずれにおいても、この3つの曲線からは大きく逸脱せず、同様の依存性(γに対するV
RROの値)を示す。
図7から、γが0.7〜1.4の範囲で、いずれの定格電圧もV
RROを十分高くできる領域であると分かる。
【0088】
γが0.7より小さくなると、V
RROは定格電圧のおよそ80%以上であるものの、FS層がpベース層に近くなるため、素子のアバランシェ耐圧が定格電圧より小さくなる場合が生じる。そのため、γは0.7以上が好ましい。また、γが1.4より大きくなると、V
RROは約70%から急速に減少し、ターンオフ発振が発生し易くなる。したがって、γは1.4以下であるのが好ましい。より好ましくは、γが0.8〜1.3の範囲、さらに好ましくはγが0.9〜1.2であれば、素子のアバランシェ耐圧を定格電圧よりも十分高くしつつ、V
RROを最も高くすることができる。
【0089】
この
図7に示す本願発明の効果で重要な点は、いずれの定格電圧においても、V
RROを十分高くできるγの範囲は、ほぼ同じ(例えば0.7〜1.4)ことである。これは、空乏層が最初に到達するFS層のピーク位置の裏面からの距離Xの範囲を、W0−L(つまりγ=1.0)を略中心に含むようにすることが最も効果的なためである。γ=1.0を含むことが最も効果的なのは、パワー密度(定格電圧と定格電流密度との積)が略一定(例えば1.8×10
5〜2.6×10
5 VA/cm
2)となることに起因する。つまり、ターンオフ等のスイッチング時に、素子の電圧が定格電圧相当になったときに、空間電荷領域端の距離(深さ)は上記(1)式で示す距離指標L程度となり、このLの位置に裏面から最も深いFS層のピーク位置があれば(すなわちγが約1.0)、スイッチング時の発振は抑制できる。そして、パワー密度が略一定なので、距離指標Lは定格電圧V
rateに比例するようになる。これにより、どの定格電圧V
rateにおいても、γを1.0を略中心に含む範囲とすればV
RROを十分高くでき、スイッチング時の発振抑制効果を最も大きくできる。
【0090】
以上より、最初に空乏層端が達するFS層のピーク位置の裏面からの距離Xを上記範囲とすることで、ターンオフ時にIGBTは蓄積キャリアを十分残存させることができ、ターンオフ時の発振現象を抑えることができる。したがって、いずれの定格電圧においても、最初に空乏層端が達するFS層のピーク位置の裏面からの距離Xは、距離指標Lの係数γを上述の範囲とすることがよい。これにより、ターンオフ時の発振現象を効果的に抑制することができる。
【0091】
また、
図10では、定格電圧が600V以上において、上述のように裏面から最も深い1つ目のFS層の裏面からの深さをγ=1程度とする場合、距離指標Lはいずれの定格電圧も20μmより深いことがわかる。すなわち1段目のプロトンピークを形成するためのプロトンの飛程Rp1を基板裏面から15μmよりも深く、20μm以上とする理由は、まさにこの発振抑制効果を最も高くするためである。
【0092】
<実施例5>
実施例5として、本発明にかかる半導体装置の製造方法におけるプロトンの加速エネルギーについて説明する。上記のγの範囲を満たすように、空乏層が最初に達するFS層のピーク位置の裏面からの距離Xを有するFS層を実際にプロトン照射で形成するには、プロトンの加速エネルギーを、以下に示す
図9の特性グラフから決めればよい。
図9は、本発明にかかる半導体装置のプロトンの飛程とプロトンの加速エネルギーとの関係を示す特性図である。
【0093】
発明者らは鋭意研究を重ねた結果、プロトンの飛程Rp(FS層のピーク位置)と、プロトンの加速エネルギーEについて、プロトンの飛程Rpの対数log(Rp)をx、プロトンの加速エネルギーEの対数log(E)をyとすると、下記(2)式の関係があることを見出した。
【0094】
y=−0.0047x
4+0.0528x
3−0.2211x
2+0.9923x+5.0474 ・・・(2)
【0095】
上記(2)式を示す特性グラフを
図9に示す。
図9は、プロトンの所望の飛程を得るためのプロトンの加速エネルギーを示している。
図9の横軸はプロトンの飛程Rpの対数log(Rp)であり、log(Rp)の軸数値の下側の括弧内に対応する飛程Rp(μm)を示す。また、縦軸はプロトンの加速エネルギーEの対数log(E)であり、log(E)の軸数値の左側の括弧内に対応するプロトンの加速エネルギーEを示す。上記(2)式は、実験等によって得られた、プロトンの飛程Rpの対数log(Rp)と加速エネルギーの対数log(E)との各値を、x(=log(Rp))の4次の多項式でフィッティングさせた式である。
【0096】
なお、上記のフィッティング式を用いて所望のプロトンの平均飛程Rpからプロトン照射の加速エネルギーEを算出(以下、算出値Eとする)して、この加速エネルギーの算出値Eでプロトンをシリコン基板に注入した場合における、実際の加速エネルギーE'と実際に広がり抵抗(SR)測定法等によって得られた平均飛程Rp'(プロトンピーク位置)との関係は、以下のように考えればよい。
【0097】
加速エネルギーの算出値Eに対して、実際の加速エネルギーE'がE±10%程度の範囲にあれば、実際の平均飛程Rp'も所望の平均飛程Rpに対して±10%程度の範囲に収まり、測定誤差の範囲内となる。そのため、実際の平均飛程Rp'の所望の平均飛程Rpからのバラつきが、IGBTの電気的特性へ与える影響は、無視できる程度に十分小さい。したがって、実際の加速エネルギーE'が算出値E±10%の範囲にあれば、実際の平均飛程Rp'は実質的に設定どおりの平均飛程Rpであると判断することができる。あるいは、実際の加速エネルギーE'を上記(2)式に当てはめて算出した平均飛程Rpに対して、実際の平均飛程Rp'が±10%以内に収まれば、問題ない。
【0098】
実際の加速器では、加速エネルギーEと平均飛程Rpはいずれも上記の範囲(±10%)に収まり得るので、実際の加速エネルギーE'および実際の平均飛程Rp'は、所望の平均飛程Rpと算出値Eで表される上述のフィッティング式に従っていると考えて、全く差支えない。さらに、バラつきや誤差の範囲が、平均飛程Rpに対して±10%以下であればよく、好適には±5%に収まれば、申し分なく上記(2)式に従っていると考えることができる。
【0099】
上記(2)式を用いることにより、所望のプロトンの飛程Rpを得るのに必要なプロトンの加速エネルギーEを求めることができる。上述したFS層を形成するためのプロトンの各加速エネルギーEも、上記(2)式を用いており、実際に上記の加速エネルギーE'でプロトンを照射した試料を周知の広がり抵抗測定法(SR法)にて測定した実測値ともよく一致する。したがって、上記(2)式を用いることで、極めて精度よく、プロトンの飛程Rpに基づいて必要なプロトンの加速エネルギーEを予測することが可能となった。
【0100】
<実施例6>
実施例6にかかる半導体装置について説明する。
図1のプロセスフローはIGBT100の例を挙げたが、ダイオードに適応することもできる。その場合は、
図1(a)の工程はアノード層を形成する工程になる。また
図1(e)の工程のボロンはリンまたは砒素に代わり、
図1(f)の工程でカソード層が形成される。このようにして形成したダイオードの断面図を、
図13に示す。
図13は、本発明にかかるダイオードの断面図である。nドリフト層1となる半導体基板のおもて面にpアノード層52を形成し、裏面にはnカソード層53を形成している。符号51はアノード電極であり、符号54はカソード電極である。フィールドストップ層3、n型ディスオーダー低減領域18、これらの対であるn型中間層27は、IGBTの場合と同様であり、その位置や濃度等は適宜調整される。また、実施例6で述べた、複数回のプロトン照射における1段目のプロトンピーク位置の好ましい位置についても、ダイオードの場合ではターンオフ発振を逆回復発振に読み替えて、発振開始閾値V
RROをダイオードの電圧波形が振動を始める電源電圧V
ccの閾値電圧とすれば、同様に成り立つ。
【0101】
なお、以上の各実施例では、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、半導体基板に注入する水素イオンをプロトンとして記載しているが、二重水素イオン、三重水素イオンでも構わない。二重水素イオンおよび三重水素イオンは、中性子による質量の増加でプロトンよりも飛程が短くなるので、半導体基板の表面から深いところにn型中間層27を形成するには、プロトンが好ましい。