【文献】
S. Goto, T. Matsunaga, Y. Matsuoka, K. Kuroda, M. Esashi, Y. Haga,Development of high-resolution intraluminal and intravascular MRI probe using microfabrication on cylindrical substrates,Micro Electro Mechanical Systems, 2007. MEMS. IEEE 20th International Conference on (proceedings),IEEE,2007年 1月21日,329-332
【文献】
Stephan Fandrey, Steffen Weiss, Jorg Muller,A Novel Intravascular MRI Coil with Optimized Sensitivity,Proceedings of International Society for Magnetic Resonance in Medicine (ISMRM2008),2008年 5月 3日,1209
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
チューブ上に、円筒面フォトリソグラフィによってチューブの直径を挟んだ両円筒面にそれぞれ下層のコイル部とその一端に連続する一対のリード線部を形成し、上層のコイル部と該上層のコイル部の一端を連続する接続線部を形成するとともに、上層のコイル部の他端をそれぞれ下層のコイル部の他端に連続したサドル型受信コイルであって、チューブの直径を挟んだ両円筒面における下層のコイル部と上層のコイル部の開き角を一致させ、上下でコイル部の配線が完全に重なり合ったことを特徴とするMRI受信コイル。
直径2mm以下のチューブ上に形成する配線パターンを多層に形成してコイル部とリード線部を形成し、少なくとも1箇所以上の配線交差部分を有する請求項1記載のMRI受信コイル。
【背景技術】
【0002】
近年の医療技術の発展に伴って従来の治療中心の医療だけでなく予防・診断の医療が益々重要となっている。そのため、画像診断技術の発展に大きな期待が寄せられている。画像診断には様々な技術があるが、その中でも磁気共鳴撮像法(以下、MRIという)は体内の軟組織まで精度よく撮像でき、任意の方向の断面像を得られるなど優れた撮像方法として知られている。
【0003】
しかし、このように優れたMRIでも、通常の装置では体内深部まで高分解能には描写できないのが現状である。体内深部には放置すると重篤疾患に至る病変が存在する場合がある。例えば、心臓の冠動脈内や頚動脈の動脈硬化症によってできた粥状プラークは、その破裂によって末梢塞栓が引き起こされて心筋梗塞や脳梗塞に至る。また、胆管や膵管は管径が細く、胃・肝臓の裏側という体深部に位置するため管壁や管内の病変の発見が困難な臓器である。これらの臓器にできる癌は致死率が非常に高いが、その最大の要因は早期発見の難しさにある。したがって、これら体内深部の血管や消化管を精密に診断できるデバイスの開発は臨床上大きな意義を持つのである。
【0004】
従来から、カテーテルや内視鏡にMRI受信コイルを搭載するこことは公知である。例えば、特許文献1には、カテーテルの先端部にゴム材からなる外側袋状体と内側袋状体を内外二層構造として設けるとともに、この内外袋状体の間に柔軟な1回巻きの受信コイルを配置し、内側袋状体を膨張させて体腔内に位置決めした状態でNMR信号を受信する点が開示されている。この受信コイル搭載カテーテルは、直腸や膣内に挿入し、前立腺や子宮頸部を局部的に造影することを目的とするので、比較的大きな径を有している。
【0005】
受信コイルは導電体でループを構成するため小型化が難しく、血管等への挿入が困難なため、特許文献2及び3には血管等の生体内の微小部分に挿入できるように、NMR信号を直線状の導電体からなるモノポールアンテナ又はダイポールアンテナで受信するようにしたプローブが提案されている。しかし、静磁場強度が1.5Tの場合、水素を対象に撮像を行うとすれば、共鳴周波数が約64MHzであるので、特許文献2では、半波長ダイポールアンテナの全長は約2.4m(材質が銅の場合)にもなる。静磁場強度が4.7T(共鳴周波数約200MHz)の場合でも半波長ダイポールアンテナの全長は約0.75mになるので、取り扱いが難しく、セッティングも容易ではない。特許文献3では、カテーテルのガイドワイヤーをモノポールアンテナとして利用し、撮像範囲(視野)が狭いことを利用してガイドワイヤーの位置と方向を正確に検知することを目的としている。
【0006】
特許文献4には、バルーンカテーテルのバルーン内に受信コイルを配置するとともに、バルーンの挿入方向前部と後部とにそれぞれ開口部を有する連通管を設けたMRI用プローブが開示されている。このMRI用プローブは、バルーンを膨張させて血管内に固定し、NMR信号を受信しているときに、連通管を通して血液を還流させることができるものであるが、受信コイルに対する工夫は見られない。つまり、受信コイルは、バルーンの内面に接着しているので、バルーンの膨張と収縮に応じて、受信コイルを構成する導電体に対して引張り、圧縮、曲げ、捩れが生じ、これを繰り返せば断線やバルーンからの剥離等の不具合が生じることが容易に予測できる。
【0007】
このように、カテーテル先端に受信コイルを搭載させる方法は有効な手段として以前から注目されてきた。しかし、従来のものは、カテーテル内腔を犠牲にしたもの、体内管腔への挿入が困難なほど太いもの、手巻きのコイルで均一な磁場が作れないものなど実用面での課題が大きかった。
【0008】
我々は独自に開発した円筒面フォトリソグラフィを用いて受信コイルの作製を目指しており、従来に例を見ない細径チューブ上への受信コイルの作製に既に成功している(特許文献5を参照)。この技術の優れた点として、プローブの内腔維持の実現と微細加工性が挙げられる。内腔維持によって、造影剤・薬剤の投与、ガイドワイヤー等の治療ツールの挿入などが可能となる。また、その微細加工性によって直径2mm以下の細径チューブ上でも複雑な形状のコイルの精密な作製が可能となり、粥状プラークの性状や消化管壁に潜む病変の診断に有効な受信コイルなど患部・用途に応じた多彩な受信コイル設計を実現できる。例えば、チューブ上に等ピッチで軸方向に巻いた通常形状のソレノイドコイルでは、軸方向前方の撮像が可能であり、軸方向に対して傾斜させて巻いた傾斜ソレノイドコイルでは、傾斜面が向いた斜め前方の撮像が可能であり、チューブを周回することなく側面でループを形成したサドルコイルでは、側方の撮像が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明で使用する円筒面フォトリソグラフィ装置の説明図である。
【
図2】配線パターン作製のための1層目プロセスを示す説明図である。
【
図3】配線パターン作製のための2層目プロセスを示す説明図である。
【
図4】ソレノイド型の受信コイルを示し、(a)は受信コイルの斜視図、(b)は (a)のブリッジ部分Aの拡大断面図である。
【
図5】サドル型の受信コイルを示し、(a)は受信コイルの斜視図、(b)は(a )の重なり部分Bの拡大断面図、(c)は(a)の交差部分Cの拡大断面図、(d) は(a)のブリッジ部分Dの拡大断面図である。
【
図6】変形ソレノイド型の受信コイルの第1例を示し、(a)は概観斜視図であり 、(b)はコイル部の展開図を示している。
【
図7】変形ソレノイド型の受信コイルの第2例を示し、(a)は概観斜視図であり 、(b)はコイル部の展開図を示している。
【
図8】コイル部が2層である変形ソレノイド型の受信コイルの第3例を示し、1層 目と2層目のコイル部の展開図を示している。
【
図9】変形ソレノイド型の受信コイルの第4例を示し、(a)は概観斜視図であり 、(b)はコイル部の展開図を示している。
【
図10】変形ソレノイド型の受信コイルの第5例を示し、(a)は概観斜視図であ り、(b)はコイル部の展開図を示している。
【
図11】凹部の形状に対するバリエーションを示し、(a)はV字形、(b)はU 字形、(c)は多角形の場合を図式的に示している。
【
図12】変形ソレノイド型の受信コイルの第6例を示し、(a)は概観斜視図であ り、(b)はコイル部の展開図を示している。
【
図13】作製したサドル型の受信コイルの概略の展開図を示し、(a)は単層構造 、(b)は2層のコイル開き角が同じで完全にコイル部が重なった2層構造、(c) は4層のコイル開き角が同じで完全にコイル部が重なった4層構造、(d)は2層の コイル開き角が異なる2層構造を示している。
【
図14】2層のコイル開き角が同じで完全にコイル部が重なった2層構造のサドル 型の受信コイルの1層目と2層目の配線パターンを示した展開図である。
【
図15】作製した受信コイルを用いて寒天ファントムに埋めたアクリル格子を撮像 するための実験配置を示し、(a)はサドル型受信コイルを用いて撮像する配置図、 (b)は変形ソレノイド型受信コイルを用いて撮像する配置図である。
【
図16】各種サドル型受信コイルを用いて寒天ファントムに埋めたアクリル格子を 撮像した結果を示すMRI断層像である。
【
図17】完全に重なった2層サドル型受信コイルと単層サドル型受信コイルのSN比 を比較した結果のグラフである。
【
図18】変形ソレノイド型受信コイルを用いて寒天ファントムに埋めたアクリル格 子を撮像した結果を示すMRI断層像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
一般的に、MRI装置は、0.5T〜7Tといった強力な静磁場と該静磁場に直交する方向の傾斜磁場の中に配置した被検体の観察部位に対して、外部から水素原子核のラーモア周波数に対応する高周波パルスを照射し、被検体を構成する水素原子核から発生するNMR信号を、被検体の外部に配置した多チャンネルの受信コイルで受信し、そのNMR信号データをフーリエ変換処理して信号発生位置、強度及び緩和時間を導き出し、水素原子の分布として画像化するのである。生体組織の場合、臓器や器官、あるいは体内物質によって水素原子の数密度が異なるので、結局水素原子の分布から生体組織の構造が判るのである。本発明のMRI受信コイルは、通常の被検体の外部に配置する受信コイルではなく、被検体の内部に挿入するものであり、通常のMRI診断と同時に又は交互に受信することができ、本発明のMRI受信コイルで受信して取得した被検体の内部の局部画像を、全体の被検体の診断画像に重ねて表示することもできる。尚、水素原子核以外にも核スピンが0でない原子核であれば利用でき、例えば炭素、リン、ナトリウムなどの分布を画像化することは原理的に可能である。
【0028】
先ず、細径チューブ上に配線の微細パターンを形成するための円筒面フォトリソグラフィの主要部を構成する点照射露光装置を
図1に基づいて簡単に説明する。この点照射露光装置は、固定された微小点の露光光に対してサンプルを多軸ステージで制御しながら描画する点照射露光を原理としている。円筒面フォトリソグラフィには、点照射露光装置以外にも、図示しないが、現像装置、スパッタリング成膜装置、レジスト膜塗布装置、電解めっき装置、エッチング装置、洗浄装置等を用いる。
【0029】
点照射露光装置は、多軸ステージ1とバイオレットレーザー(ネオアーク(株)、TC20-4060-15(405nm))を露光光源とした同軸観察照射光学系2から構成される。多軸ステージ1は、サンプルSの位置決めに用いるX、Y、パターン描画に用いるZ、θ、円筒の軸ずれや傾きを補正するX’、Y’、θ’、ならびにゴニオステージのα、βから構成され、ピンバイス式のチャック3で鉛直方向に保持した円筒サンプルSの中心軸が光軸に対して正確に垂直になるように調整する。各ステージは、パーソナルコンピュータ4で制御されたステージコントローラ5で駆動される。一方、同軸観察照射光学系2は、レーザー6から射出されたレーザー光をシャッター7とアパーチャ8を通してビームスプリッター9で露光光を反射させて対物レンズ10で集光し、サンプルSの表面を照射する。また、円筒サンプルSの露光光の照射部の映像は、ビームスプリッター9を通してCCDカメラ11で受光してモニター12に表示する。尚、初期アライメントのために、前記ビームスプリッター9とCCDカメラ11の間にハーフミラー13を配置し、LED14からの光を、前記ビームスプリッター9を透過させて対物レンズ10でサンプルSの表面に集光するようにしている。前記レーザー6には電源15から電力を供給するが、レーザー6の発振に同期させてAD変換器16を介して前記パーソナルコンピュータ4に同期信号を送り、一連の描画作業が開始される。ここで、露光光のスポットサイズはアパーチャ8と対物レンズ10の組み合わせで決まり、更に光強度はアパーチャ8に組み込んだフィルター17とレーザー出力の組み合わせから調節する。
【0030】
前述の円筒面フォトリソグラフィによって微細チューブ上に配線パターンを形成する工程を
図2及び
図3に基づいて簡単に説明する。代表的なサイズを示せば、チューブは外径2mm以下、配線の線幅は150μm、厚さは35μmである。配線には、抵抗率が比較的低く、作製プロセスが容易で、磁化率アーティファクトが比較的小さい点から銅を選択した。1.5TのMRI装置の場合の受信信号の周波数63.865MHzでは銅の表皮深さは8.15μmとなるが、表皮深さの約4倍の配線厚に設定することで高周波抵抗を低減できると期待される。従って、配線の厚みを35μmとした。また、配線幅は、抵抗値を考慮して150μmとした。
【0031】
先ず、
図2に基づいて1層目のコイルパターンを形成するプロセスを説明する。最初に、円筒サンプルのポリイミドチューブ20上にスパッタリングによって銅シード層21(膜厚約200nm)を成膜した。サンプルが円筒であるため、回転機構をスパッタリング装置に導入している(
図2(1))。次に、スプレーコータによりレジスト22をスプレー塗布した。レジスト22には厚膜用ポジ型レジスト(Az社、Az P4210(49 cP))を用いた(
図2(2))。そして、前述の点照射露光装置を用いて露光・現像を実施してパターン形成部分のシード層21を露出させ(
図2(3))、この部分に硫酸銅水溶液を用いた電解めっきによって厚膜の銅23を形成した(
図2(4))。めっき後はアセトンでレジストを除去し(
図2(5))、さらにアンモニア過水(10%過酸化水素を含んだアンモニア水)への浸漬により銅シード層21を剥離することで(
図2(6))、ポリイミドチューブ上に銅配線のコイルパターン(1層目)を得た。その後、パリレンSR(KISCO(株)、diX-SR)によって絶縁層24を成膜し(
図2(7))、上層との電気接続を得るためにYAGレーザーの第3高調波(355nm)によって部分的にパリレン絶縁層24のアブレーションを行った(
図2(8))。このようにして1層目プロセスを完了する。
【0032】
次に、
図3に基づいて2層目のコイルパターンを形成するプロセスを説明する。2層目プロセスも基本的には1層目プロセスと同様である。先ず、1層目の絶縁層24上にスパッタリングによって銅シード層25(膜厚約200nm)を成膜した(
図3(9))。次に、スプレーコータによりレジスト26をスプレー塗布した(
図3(10))。そして、前述の点照射露光装置を用いて露光・現像を実施してパターン形成部分のシード層25を露出させ(
図3(11))、この部分に硫酸銅水溶液を用いた電解めっきによって厚膜の銅27を形成した(
図3(12))。めっき後はアセトンでレジスト26を除去し、さらにアンモニア過水への浸漬により銅シード層25を剥離することで、2層目のコイルパターンを得た(
図3(13))。その後、パリレン絶縁層28を成膜し、上層との電気接続を得るためにYAGレーザーによって部分的にパリレン絶縁層28のアブレーションを行った(
図3(14))。
【0033】
更に、配線を多層化する場合はこの一連のプロセスを繰り返せばよい。尚、2層目は、単純なパターンのリード線となる場合もある。上層に設けない場合、あるいは上層との電気的接続が不要な場合には、レーザーアブレーションによるパリレン絶縁層の剥離工程を省略する。これら一連のフォトリソグラフィによる微細パターンの形成は、半導体製造プロセス、特にプリント配線プロセスと基本的には同じである。
【0034】
以上に示した円筒面フォトリソグラフィによって作製した多層コイルを
図4及び
図5に示している。
図4にソレノイド型の受信コイル30を示し、
図5にサドル型の受信コイル40を示している。何れの受信コイルも基板には外径1.92mm、内径1.8mmのポリイミドチューブを用いて、その上に2層構造のコイルを形成した。
【0035】
ここで、ソレノイド型の受信コイル30は、コイル前方に磁場感度分布を示すことが期待され、例えばコイルを挿入できないような狭窄および閉塞病変において管壁まで含めた前方撮像で安全かつ適切な診断を実現できる。この場合、ソレノイドの形状を後述のように変形することにより、前方から斜め前方にかけて磁場感度分布をある程度制御でき、撮像範囲を対象部位に応じて設定可能である。一方、サドル型の受信コイル40は、コイル周囲に均一な磁場感度分布を示し、コイル周囲の撮像(側方視)に適しており、例えば病変の管壁および管腔内断層撮像に適している。
【0036】
図4に示したソレノイド型の受信コイル30の構成は、巻き数10回、コイル長さ3mm(コイルピッチ300μm)である。チューブ31の先端部にコイル部32を1層目プロセスで作製し、該コイル部32の両端部からチューブ31の基端側へ接続するリード線部33,34を2層目プロセスで作製した。ここで、前記コイル部32の基準形状は、コイル部32の中心軸とチューブ31の中心軸が略一致したソレノイドコイルであり、図中に破線Nで示している。チューブ31の先端側のコイル端から基端側へチューブ31に沿って引き出すリード線部34が、コイル部32と交差してブリッジを形成する。このブリッジ部分Aの拡大を
図4(b)に示している。前記リード線部34は、コイル部32を構成する配線の間に形成される幅150μmの溝に架橋されている。
【0037】
また、
図5に示したサドル型の受信コイル40は、コイル長さを5mm、コイル開き角を160°とし、2層が重なった構造になっている。ここで、開き角とは、円筒面に形成されたコイル部の外形に対応するチューブの中心角度である。チューブ41の先端部で直径を挟んだ両円筒面にそれぞれ下層のコイル部42,43とその一端に連続する一対のリード線部44,45を1層目プロセスで作製し、各コイル部42,43に重なるように上層のコイル部46,
47と該コイル部46,47の一端を連続する接続線部48を2層目プロセスで作製した。
図5(a)中に示した重なり部分Bを
図5(b)に拡大して示し、交差部分Cを
図5(c)に拡大して示し、ブリッジ部分Dを
図5(d)に拡大して示している。
【0038】
我々は過去に単層コイルを作製しているが、厚い銅配線の形状の制御が困難であるため、多層化したときに配線段差部、特に前記ブリッジ部分A,Bや交差部分Cでの断線や配線の薄肉化が生じるなど、良好な形状の多層コイルが得られなかった。そこで今回、多層化のためのプロセスの最適化を行った。
【0039】
このプロセスにおいて重要となるのがレジスト塗布における膜厚の制御と露光条件である。本実施形態では、レジスト塗布においては膜厚が50μm程度になるように塗布条件を調節し、露光はスポットサイズφ100μm、レーザー出力80mW、ND2フィルターの条件で実施した。レジストが50μm以上の厚みになると2回以上の露光が必要になる。多重露光の場合、段差のなだらかな幅広いレジスト形状、つまり断面が逆台形の凹溝になる。また、50μm以上の厚みのレジストを1回の露光で済むようにレーザー出力を上げて露光光をこれ以上強くした場合も段差のなだらかな幅広いレジスト形状になる。このような形状の場合、めっき後の配線断面は逆台形となるためこの段差を越えて上層に形成した配線が薄肉化や切断(段切れ)する原因となる。一方、今回改善した条件の場合、幅が約150μmの凹溝が形成され、レジストの段差が垂直に近い形状になる。このとき電解めっき後に断面が長方形の良好な形状の配線が得られ、その結果、上層配線が下層配線の段差に滑らかに沿うことが可能になった。今回の条件の改善によりこれまで作製が困難であった2層コイルを良好な形状で得るに至った。
【0040】
また、プロセス改善のその他の検討として、液体ポリイミドの塗布によって配線段差を平坦化して段切れの危険を軽減する方法も好ましい。この方法は、現状よりさらに多層になるなど、段差がより大きく複雑になった場合に有効と考えられる。
【0041】
次に、ソレノイド型の受信コイルとサドル型の受信コイルの形状及び多層構造に対する改良を行った。
図6〜
図12は通常のソレノイドの形状に対して変形を加えたものであり、変形ソレノイド型の受信コイルと称する。
図6〜
図8に示した変形ソレノイド型の受信コイルは、コイル部32の1ループを略円盤とみなした時に、略円盤の垂線とチューブ31の中心軸が略一致したソレノイドコイルである。言い換えれば、変形ソレノイド型の受信コイルは、等ピッチのソレノイドコイル形状Nを基準として、コイル部32を形成する1ループの配線の一部にチューブ31の軸方向Pの遠位側に突出した凸部35を形成し、各ループで同一パターンに形成したものである。ここで、軸方向Pは、チューブ31の遠位側に向いた方向である。前記凸部35は、コイル部32の1ループ当たり2〜4箇所設けることが好ましい。凸部35が1箇所の場合はそれを設ける効果に乏しく、5箇所以上の場合は作製が困難になるばかりでなく、変形量が少なくなって効果も乏しくなる。
【0042】
図6は、第1例の変形ソレノイド型の受信コイル301を示し、(a)は概観斜視図であり、(b)はコイル部32の展開図を示している。前記凸部35は、1ループに2箇所ずつ180°毎に設けられている。この場合、凸部35を有する部位から軸方向Pに対して広がった磁場感度分布が得られる。
【0043】
図7は、第2例の変形ソレノイド型の受信コイル302を示し、(a)は概観斜視図であり、(b)はコイル部32の展開図を示している。前記凸部35は、1ループに4箇所ずつ90°毎に設けられている。この場合も、凸部35を有する部位から軸方向Pに対して広がった磁場感度分布が得られる。
【0044】
図8は、第3例の変形ソレノイド型の受信コイル303を示している。この場合は、コイル部が2層であり、1層目と2層目のコイル部の展開図を示している。1層目と2層目のコイル部32には、それぞれ前記凸部35が1ループに2箇所ずつ180°毎に設けられているが、1層目と2層目では凸部35の位置を90°ずらせている。つまり、2層のコイル部による磁場感度分布の合成を考えれば、前記凸部35が1ループに4箇所ずつ90°毎に設けられていることになる。この場合、
図7のものと比較してより大きなパターンの凸部35を形成できる。尚、変形ソレノイドを多層に形成する場合、各層の形状は異なってもよく、任意でよい。
【0045】
図9は、第4例の変形ソレノイド型の受信コイル304を示し、(a)は概観斜視図であり、(b)はコイル部32の展開図を示している。この場合、コイル部32の1ループを略円盤とみなした時に、略円盤の垂線とチューブ31の中心軸がずれを有しているソレノイドコイルである。具体的には、略円盤の垂線とチューブの中心軸のなす角度を30°より大きくしている。
図9に示した変形ソレノイドコイルを別の表現で表せば、コイル部32の中心軸は軸方向Pに対して傾斜した方向を向いており、磁場感度分布がチューブ31の斜め前方を向いているというものである。特に、この受信コイル304を傾斜ソレノイド型と称する。
【0046】
図10及び
図11に示した変形ソレノイド型の受信コイルは、等ピッチのソレノイドコイル形状Nを基準として、コイル部32を形成する1ループの配線の一部にチューブ31の軸方向Pの近位側に凹んだ凹部36を形成し、各ループで同一パターンに形成したものである。
【0047】
図10は、第5例の変形ソレノイド型の受信コイル305を示し、(a)は概観斜視図であり、(b)はコイル部32の展開図を示している。前記凹部36は、1ループに2箇所ずつ180°毎に設けられている。この場合、凹部36を有する部位から軸方向Pに対して狭まった磁場感度分布が得られる。
【0048】
図11は、凹部36の形状に対するバリエーションを示し、(a)は凹部36がV字形、(b)は凹部36がU字形、(c)は凹部36が多角形の場合を図式的に示している。この凹形状の変形ソレノイド型の受信コイルは、局所撮像用に適している。
【0049】
図11に示すように、カテーテル遠位側に対して配線が凹形状である場合、単純なソレノイド型コイルNに比較して、磁場の感度領域がカテーテル先端の配線の凹部分の前方に集中する。コイル配線を多層化してループ数を増やせば感度が向上するため、より好ましい。配線の凹み部分の形状は、直線で凹んだ形状(V字形)、曲線で凹んだ形状(U字形)、多角的に凹んだ形状(多角形)など多様な形状を取りうる。凹部の個数は2つ以上であり、同一の層で複数形成してもよいし、多層にして凹部を増やしてもよい。例えば、凹部が4つである場合、同一層で4つ形成してもよいし、下層に2つの凹部を形成してから上層に1/4周期ずらした2つの凹部を形成して計4つの凹部分を形成してもよい。また、凹部をオーバーラップさせてもよい。この場合も、変形ソレノイドを多層に形成する場合、各層の形状は異なってもよく、任意でよい。
【0050】
配線を載せる基板は断面が真円の円筒でも良いが、磁場感度域を局所に集中させるために楕円円筒や円錐の基板を用いてもよい。例えば楕円円筒の長径方向に凹型部分を配置することで、磁場感度域を集中させる面積が大きくなり、より大きな効果が得られる。基板に用いる素材は生体使用に適して絶縁性に優れた材質であれば特に制限はなく、例えば耐熱性に優れ円筒面フォトリソグラフィのプロセスでも問題なく使用できるポリイミドチューブなどが挙げられる。
【0051】
本発明で用いる円筒面フォトリソグラフィであれば、カテーテルの内腔を維持したままコイル作製できるため、ガイドワイヤー挿入や生理食塩水の注入によるカテーテル抜去などの従来のカテーテル機能を損なうことがなく、脳などの細い血管でもスムーズに挿入できる極細径の受信コイルの設計が可能となる。さらに、コイルを多層にすることで、コイルの受信感度を向上させられるだけでなく、目的に合わせて硬性部分を設計できるため、例えばカテーテルに搭載した際に、カテーテルの操作性を損なうことがない。
【0052】
そして、本発明の凹形状の変形ソレノイド型の受信コイルを使用すれば、体内に挿入したまま局所を高感度に撮像できるため、例えば従来は不可能であった生体内でのNMRスペクトロスコピーによる生体組織の代謝測定などに有効となる。
【0053】
図12は、第6例の変形ソレノイド型の受信コイル306を示し、(a)は概観斜視図であり、(b)はコイル部32の展開図を示している。この場合、前記コイル部32の基準形状が、コイル部32の中心軸とチューブ31の中心軸が傾斜した傾斜ソレノイドコイルであり、図中に破線Mで示している。この第6例の受信コイル306は、傾斜ソレノイド型と凹形状の変形ソレノイド型を合成したものである。つまり、コイル部32の中心軸は軸方向Pに対して傾斜した方向を向いており、1ループに2箇所ずつ180°毎に凹部36が設けられている。図中には、基準となる単純な傾斜ソレノイドMも併せて表示している。この場合、チューブ31の斜め前方に収束した磁場感度分布を有している。尚、この傾斜ソレノイド型の場合も、前記凹部36に変えて凸部35を形成することも可能である。
【実施例1】
【0054】
側方視用のサドル型受信コイルと前方視用の変形ソレノイド型受信コイルを製作し、MRIによる撮像を試みた。
図13は、作製したサドル型受信コイルの概略の展開図を示し、各コイル部の軸方向長さは5mmで共通である。
図13(a)は、単層構造であり、各コイル開き角は166°である。
図13(b)は、2層のコイル部が完全に重なった構造であり、各コイル開き角は160°である。
図13(c)は、4層のコイル部が完全に重なった構造であり、各コイル開き角は160°である。
図13(d)は、比較のためのものであり、2層のコイル部がずれた構造であり、内側のコイル開き角は120°、外側のコイル開き角は160°である。
図13(b)の2層サドル型受信コイルは、
図5に示したものと同じであり、
図14にその1層目と2層目の配線パターンを分けて表している。また、変形ソレノイド型受信コイルは、
図6に示したような凸部35を180°毎に形成したものである。
【0055】
作製した2層サドル型受信コイル及び変形ソレノイド型受信コイルの電気特性をインピーダンスアナライザによって測定し、サドル型受信コイルについては単層サドル型受信コイルと特性を比較した。各受信コイルの電気特性の測定結果を表1にまとめた。
【0056】
【表1】
【0057】
サドル型受信コイルに注目すると、2層コイルは単層よりインダクタンスLが約5.4倍になり、高いQ値を示している。この電気特性の向上はコイルループ数の増加に伴うインダクタンスLの増加によるものであり、Lが巻数の二乗に比例するという理論とおおよそ一致している。多層化によって電気特性を向上させられることが示された。また、ソレノイドコイルも2層サドルと同様に、高いLおよびQ値を示した。
【0058】
次に、作製した受信コイルを用いて寒天ファントムに埋めたアクリル格子を撮像してその撮像性能を確認した。その実験配置の概要を
図15に示す。アクリル格子50は、平板51に直方体の突起52が1mmピッチ、2mmピッチで格子状に突設した形状のものである。
図15(a)に示すように、アクリル格子50の平板51に開けた穴53に、サドル型受信コイル54を平板51と直交状態で挿入し、コイル部55の長手方向中央部に穴53が位置するように設定する。つまり、アクリル格子をコイルの長軸に垂直に配置し、コイルは静磁場B
0と平行にして撮像した。一方、
図15(b)に示すように、アクリル格子50の平板51と変形ソレノイド型受信コイル57を平行状態に配置するとともに、平板51の一辺部に設けた切欠部56内に、変形ソレノイド型受信コイル57のコイル部58の先端部を位置させて設定した。つまり、アクリル格子はコイル前方に水平に配置し、コイルは静磁場B
0と直交にして撮像した。
【0059】
そして、
図13に示した各サドル型受信コイル及び変形ソレノイド型受信コイルを用いてアクリル格子のMRI撮像を行った。作製した受信コイルにチューニング・マッチング回路、デカップリング回路および同軸ケーブルを接続してMRIプローブを構成した。チューニング回路はプローブの共振点を受信信号の周波数63.865MHzに一致させ、マッチング回路は回路末端のインピーダンスを同軸ケーブルの特性インピーダンス50Ωに一致させて伝送の反射ロスを抑える。デカップリング回路はコンダンサC
2、インダクタL
d及びC
2と並列に接続したPINダイオードからなり、受信コイル周辺の磁場乱れとMRI装置への過大電流の流入を防止する。プローブで受信した信号は、ケーブル長を周波数63.865 MHzの電流の半波長の整数倍に制御した同軸ケーブル(長さλ/2=約1.6m)によってMRI装置へ伝送される。
【0060】
1.5 T MRI装置(Signa EXCITE XI TwinSpeed 1.5 T, GE Healthcare)に作製したMRIプローブを接続し、アクリル格子(1mmピッチ、2mmピッチ)を埋め込んだ平滑筋等価寒天ファントムを用いて撮像した。寒天ファントムはプロトン緩和時間をヒト平滑筋と等価に調整してあり(T1=920 msec、T2=55 msec)、純水、寒天2.5%wt、食塩0.22%wt、アジ化ナトリウム0.1%wt(防腐剤)、Gd造影剤(MRI造影剤、エーザイ(株) プロハンス注)120 μmol/kgから構成される。撮像のパルスシーケンスにはSPGR (SPoiled Gradient Recalled acquisition in steady state)を用いた。撮像時間は1分43秒、撮像野は20mm×20mm、TE=10.8msec、TR=100msecである。撮像データは、撮像範囲が明確になるように、アクリル格子での撮像データに、寒天のみの撮像データの輝度値の逆数を掛け合わせる画像補正を実施した。
【0061】
図16に、今回作製した各サドル型受信コイルによる寒天ファントム中のアクリル格子の撮像結果と、体外コイルの撮像結果を示した。
図16はMRI断層撮像であり、サドル型受信コイルが各断層画像中央に紙面に直交する方向に存在する。
図16(a)は
図13(a)に示した単層コイル、
図16(b)は
図13(b)に示した完全にコイル部が重なり合った2層コイル、
図16(c)は
図13(c)に示した完全にコイル部が重なり合った4層コイル、
図16(d)は
図13(d)に示したコイル部がずれた配線分離2層コイル、
図16(e)は体外コイルの撮像結果である。この結果から明らかなように、格子の形状が判別できない体外コイルに比較して単層コイル、2層コイル、4層コイルともにアクリル格子の形状が鮮明に描出されており、作製したMRIプローブが体内深部の極小領域に対して高い撮像能を有することが示された。
【0062】
特に、完全にコイル部が重なり合った2層コイルと完全にコイル部が重なり合った4層コイルは、全周にわたって均一な感度分布を有するが、配線分離2層コイルでは感度分布が不均一であり、完全にコイル部が重なり合った2層コイルの方が撮像性能が高いことが判った。また、完全にコイル部が重なり合った2層コイルと完全にコイル部が重なり合った4層コイルでは、感度分布に関しては有意な差は見られない。従って、製造の容易性から判断すると、完全にコイル部が重なり合った4層コイルよりも完全にコイル部が重なり合った2層コイルの方が有利である。
【0063】
次に、完全にコイル部が重なり合った2層コイルと単層コイルでの撮像領域の比較を行った。MRIでは、撮像法、撮像パラメータによってコントラストが変化するため、組織分解能や診断可能範囲を定量化することは困難であるが、本実施例ではアクリル格子と寒天の境界が識別できる限界の領域を撮像領域とした。
図16から完全にコイル部が重なり合った2層コイルは半径6mm程度の撮像領域を有し、半径4.5mmの撮像領域の単層コイルよりも拡大していることが分かる。これは内径3〜5mm程度の冠動脈や内径5〜8mm程度の胆管および内径3mm程度の膵管といった体深部管腔の断層撮像には有効な撮像領域であると期待される。また図から完全にコイル部が重なり合った2層コイルと単層コイルの何れのコイルも、コイル周囲への均一な磁場感度分布を実現できていることが推測される。
【0064】
更に、完全にコイル部が重なり合った2層コイルと単層コイルのSN比の比較を行った。コイルの感度分布を反映する寒天ファントムのみでの撮像結果を用いて、コイルから離れたノイズ領域に対する信号強度の比(SN比)がコイル表面から離れるに従ってどのように変化するかを求めた結果を
図17に示す。この結果から、完全にコイル部が重なり合った2層コイルのSN比が単層コイルよりも向上していることが分かる。高いSN比は受信コイルに求められる能力の一つであり、診断可能領域の見かけ上の拡大と、撮像時間の短縮につながる。
【0065】
次に、
図18に変形ソレノイド型受信コイルによる、寒天ファントム中のアクリル格子の撮像結果を示した。SPGRによるT1強調画像を取得した。撮像時間は1分43秒、撮像野は20mm×20mm、TE=10msec、TR=100msecである。図中左側からMRIプローブを配置しており、コイル先端が図の中央に右側を向いて存在する。図から明らかなようにコイルの磁場感度分布はコイル前方域で、コイル径よりも幅広く前方領域を撮像できることが示された。その撮像域は長軸方向4.5mm、短軸方向5.5mmであり、例えば狭窄・閉塞血管内における診断・治療に役立つ診断領域であると期待される。