【実施例1】
【0035】
<放射線検出器の構成>
図1は、本発明に係る放射線検出器1の構成を示している。本発明に係る放射線検出器1は、γ線を検出することができ、PET(Positron Emission Tomography)装置などに搭載される。
【0036】
放射線検出器1の構成について簡単に説明する。放射線検出器1は、
図1に示すようにγ線を蛍光に変換するシンチレータ2と、蛍光を検出する光検出器3とを備えている。そして、シンチレータ2と光検出器3との介在する位置には、蛍光を授受するライトガイド4が備えられている。
【0037】
シンチレータ2は、シンチレータ結晶が二次元的に配列されて構成されている。シンチレータ結晶Cは、Ceが拡散したLu
2(1−X)Y
2XSiO
5(以下、LYSOとよぶ)によって構成されている。そして、光検出器3は、どのシンチレータ結晶が蛍光を発したかという蛍光発生位置を特定することができるようになっているとともに、蛍光の強度や、蛍光の発生した時刻をも特定することができる。放射線検出器1は、蛍光の強度により検出したγ線のエネルギーを求め、エネルギーデータを出力することができる。また、実施例1の構成のシンチレータ2は、採用しうる態様の例示にすぎない。したがって、本発明の構成は、これに限られるものではない。
【0038】
図2は、光検出器3の構成を説明している。光検出器3には、複数の半導体光電子増倍素子3aが2次元マトリックス状に配列されている。半導体光電子増倍素子3aは、例えば1ミリメートル×1ミリメートルの正方形の形状をしている。半導体光電子増倍素子3aは、蛍光が入射すると、蛍光の入射時間と、蛍光の強さを検出することができる。
【0039】
図3は、半導体光電子増倍素子3aの構成を説明している。半導体光電子増倍素子3aには、複数のフォトダイオードが2次元マトリックス状に配列している。フォトダイオードは、例えば、半導体光電子増倍素子に縦100列、横100行配列される。フォトダイオードは、蛍光を構成する光子が入射すると、ある一定の時間蛍光を検出した旨の信号を出力する。以降の説明において、半導体光電子増倍素子3aに設けられるフォトダイオードを単にダイオードDと呼ぶことにする。ダイオードDは、本発明のフォトダイオードに相当する。
【0040】
図4は、半導体光電子増倍素子3aの等価回路を表している。半導体光電子増倍素子3aには、複数のダイオードDが後述のアノード側抵抗Raおよびカソード側抵抗Rkを介して並列に接続されて構成される。半導体光電子増倍素子3aには、直列に接続された3つの素子Rk,D,Raから構成されるモジュールが極性が同じになるように並列に接続されていると表現することもできる。
【0041】
このダイオードDの各々には、様々な素子が取り付けられている。1つのダイオードDとこれに取り付けられる素子との接続の様子について説明する。1つのダイオードDのアノードa側には、アノード側抵抗Raが直列に接続されており、ダイオードDのカソードk側には、カソード側抵抗Rkが直列に接続されている。そして、ダイオードDのカソードkは、カソード側抵抗Rkを介してバイアス電圧供給端子Vb1に接続されている。同様に、ダイオードDのアノードaは、アノード側抵抗Raを介してバイアス電圧供給端子Vb2に接続されている。つまり、バイアス電圧供給端子Vb1は、カソード側抵抗RkにおけるダイオードDが接続されていないダイオード非接続ノードに接続され、バイアス電圧供給端子Vb2は、アノード側抵抗RaにおけるダイオードDが接続されていないダイオード非接続ノードに接続されている。バイアス電圧供給端子Vb1およびバイアス電圧供給端子Vb2は、本発明の供給端子に相当し、アノード側抵抗Raは、本発明のダイオード接続抵抗に相当する。また、カソード側抵抗Rkは、本発明のダイオード接続抵抗に相当する。
【0042】
バイアス電圧供給端子Vb1には、バイアス電圧供給端子Vb2よりも高い電圧が供給されている。したがって、ダイオードDには、逆方向にバイアス電圧が印加されていることになる。したがって、ダイオードDには、電流が流れていない状態となっている。しかし、ダイオードDの両極にかけられている電圧は、ブレークダウン電圧Vbdを超えているので、ダイオードDは、厳密には、バイアス電圧供給端子Vb1からバイアス電圧供給端子Vb2に向かう電流の通過を僅かに許容している。このダイオードDの両極にかけられている電圧は、ダイオードDが破壊し始める電圧よりも十分に低く抑えられている。
【0043】
ダイオードDのアノードaとアノード側抵抗Raとの間に位置する中間ノードは、AD変換回路11の入力に接続されている。このAD変換回路11の機能については後述のものとする。AD変換回路11の出力は、後述の変換抵抗Roを介して半導体光電子増倍素子3aの出力端子Ioutに接続されている。AD変換回路11は、本発明の2値化回路に相当する。
【0044】
このように、ダイオードDの各々には、3つの抵抗Ra,Rk,Roと1つのAD変換回路11とが
図4に示すように接続され、1つのモジュールが構成されている。このモジュールが同極性に複数個並列に接続されて半導体光電子増倍素子3aが構成されている。半導体光電子増倍素子3aが有するAD変換回路11の出力端子の各々は、変換抵抗Roを介して共通の出力端子Ioutに接続される。したがって、出力端子Ioutからは半導体光電子増倍素子3aが有する全てのAD変換回路11の出力の合計が出力されることになる。正確には、出力端子Ioutの出力は、AD変換回路11の各々が発生させた電圧変化が電流に変換されたものである。
【0045】
AD変換回路11の機能について説明する。AD変換回路11は、アナログデータとなっているダイオードDからの出力信号をデジタルデータに変換する回路であり、具体的には、インバータ回路で構成される2値化回路である。つまりAD変換回路11は、ダイオードの出力を、パルス状に整形して出力するのである。
【0046】
AD変換回路11が行う波形の整形について具体的に説明する。
図5上側は、ダイオードDからの出力信号を模式的に表している。ダイオードDからの出力は、実は、図のような三角波形状の電圧変化である。このような信号をAD変換回路11に入力すると、AD変換回路11からは、
図5下側のような井戸型の波形の電圧変化が出力される。具体的には、AD変換回路11には閾値が設けられており、AD変換回路11は、入力の電圧が増加して閾値を超えるまで所定の電圧Vhを出力し続ける。そして、AD変換回路11は、入力の電圧が閾値を超えると、Vlを出力し始める。その後、AD変換回路11は、入力の電圧が減少して閾値を下回るまでVlVを出力する。そして、AD変換回路11は、入力の電圧が閾値を下回ると、再び所定の電圧Vhを出力し始め、ダイオードDから次の信号が入力されるまで、この状態を維持する。
図5上側のVsは、AD変換回路11に設定された閾値を表している。また、
図5下側のVhは、AD変換回路11に設定された所定の電圧を表している。
【0047】
変換抵抗Roについて説明する。この変換抵抗Roは、AD変換回路11の動作を信号として取り出す目的で設けられている。AD変換回路11は単に電圧の変化を出力するに過ぎないので、出力からなにかしらの電流信号が出力されるというわけではない。そこで、この電圧変化を電流の増減に変換する変換抵抗RoがAD変換回路11に接続されている。変換抵抗Roを通過する電流は、AD変換回路11の出力の電圧に応じて変化する。そして、変換抵抗Roを通過した電流は、半導体光電子増倍素子3aの出力端子Ioutに出力される。このようにして、AD変換回路11の出力端子の電圧変化は、変換抵抗Roにより電流信号に変換されて半導体光電子増倍素子3aの出力端子Ioutに出力されるのである。
【0048】
<半導体光電子増倍素子の動作>
次に、半導体光電子増倍素子3aの動作について説明する。半導体光電子増倍素子3aの有するダイオードDのうちの1つに光子が入射すると、ダイオードDがガイガー放電を起こし、バイアス電圧供給端子Vb1からバイアス電圧供給端子Vb2に向けて電流(Vb1_Vb2間電流)が流れる。すると、ダイオードDのアノードaとアノード側抵抗Raとの間に位置する中間ノードの電圧が変化する。このようにダイオードDがガイガー放電を起こすと、ダイオードDの両極にかかる電圧が低下するので、ダイオードDは、ガイガー放電状態から復旧し、再びVb1_Vb2間電流を流さなくなる。すると、ダイオードDのアノードaの電圧(中間ノードの電圧)は光子入射前に戻る。この様にして、ダイオードDに光子が入射すると、
図5上側で説明した三角形状の電圧変化が中間ノードに発生するのである。中間ノードにおける三角形状の電圧変化は、AD変換回路11により2値化されたあと、変換抵抗Roにより電流信号に変換され、出力端子Ioutに流れる。
【0049】
<実施例1の構成における利点>
ところで、ダイオードDは、寄生容量を有している。この寄生容量は、従来構成において、正確な光検出の妨げとなっている。しかし、実施例1の構成によれば、寄生容量の影響を受けずに光検出が可能となっている。実施例1に係る信号の取り出しと寄生容量との関係について具体的に説明する。
【0050】
図6は、あるダイオードDに蛍光が入射した状態を示している。
図6においては、光子が入射したダイオードDの隣に配列しているフォトダイオードをダイオードの記号を用いて描いていない。
図6においては、隣のダイオードは寄生容量を有するコンデンサとして表すことにし、符号D_cpを付すことにする。従って、
図6中の符号D_cpで表されるコンデンサは、実際にはフォトダイオードの寄生容量である。
【0051】
図6のダイオードDに光子が入射するとガイガー放電が起こりVb1_Vb2間電流が流れる。この電流の一部は、点線で示すように隣のダイオード(
図6においてはD_cp)に回り込んでしまう。この回り込んだ電流は、寄生容量D_cpに充電され、徐々に解放される。この解放された電流は、AD変換回路11に阻まれて出力端子Iout側に流れることはできない。従って、従来構成のように寄生容量D_cpから解放された電流が徐々に出力端子Ioutに向けて流れるということはないのである。
【0052】
ところで、電流の解放に伴い、AD変換回路11に電圧変化が入力される。仮に、この電圧変化に応じてAD変換回路11が動作してしまうと、光が入射していないダイオードから光入射を示す信号が出力端子Ioutから出力されてしまうことになる。しかし、実施例1の構成によれば、このようなAD変換回路11の誤作動が起こらないように工夫されている。
【0053】
すなわち、AD変換回路11に設定されているオンオフに関する閾値が上述のような誤作動を引き起こさないように十分に高く設定されている。寄生容量D_cpに充電された電流は僅かなものであり、これに伴う中間ノードの電圧変化も僅かである。実施例1の構成によればAD変換回路11に設定されている閾値は、寄生容量D_cpに起因する電圧の変動よりも高い値が設定されている。したがって、寄生容量D_cpが電流を解放することによってAD変換回路11の入力に電圧の僅かな変動が入力されたとしても、この電圧の変動は、AD変換回路11にとって閾値に満たない変動に過ぎない。したがって、AD変換回路11は、この電圧の変動によって、出力電圧を変更させることがないのである。このようにして、AD変換回路11は、寄生容量D_cpに起因する電圧の変動により誤作動することがない。
【0054】
なお、実施例1の構成においては、従来の構成と比べて、寄生容量D_cpに回り込む電流も抑制されている。すなわち、電流が寄生容量D_cpまで到達するまでにアノード側抵抗Raを通過しなければならないからである。
【0055】
<実施例1の構成における別の利点>
実施例1の構成は、上述の利点の他に別の利点を有しているのでこれについて説明する。ダイオードDは、室温条件により特性が変化する。実施例1の構成によれば、この特性の変化の影響を受けることなく蛍光を検出できる。
【0056】
図7は、室温が低温の条件でダイオードDが動作する様子を示しており、
図8は、室温が高温の条件でダイオードDが動作する様子を示している。
図7左側は、ダイオードDにかけられる電圧を電位として表している。図中の点線は、ブレークダウン電圧を表す電位で、ブレークダウン電圧は符号Vbdで表すものとする。このとき、ダイオードDのカソードkの電位は、このブレークダウン電圧Vbdに相当する電位よりも高い必要がある。さもなければ、ダイオードDのガイガー放電現象が生じず、蛍光の検出ができなくなるからである。
図7中央は、ダイオードDに蛍光(光子)が入射した場合を表している。すなわち、ダイオードDに蛍光が入射すると、Vb1_Vb2間電流が流れる。図中においてVb1_Vb2間電流は、I(Vb1_Vb2)として表している。
図7右側は、低温状態においてダイオードDが出力した電圧変化を表している。この電圧変化の発生の詳細は既に説明済みである。
【0057】
図8左側は、高温状態のダイオードDにかけられる電圧を電位として表している。図中の点線は、ブレークダウン電圧Vbdを表す電位である。
図7と
図8とを比較することにより、ダイオードDが高温となるに従いブレークダウン電圧Vbdが上昇することがわかる。このようなブレークダウン電圧Vbdの温度による変動は、ダイオードDが有する特性の一つである。
【0058】
ところでダイオードDの両極にかけられる電圧は、室温によらず一定である。ということは、ダイオードDが高温となると、
図8左側に示すように、ダイオードDの両極間の電圧がブレークダウン電圧Vbdに近づいてしまうことになる。このような状態で蛍光がダイオードDに入射すると、
図8中央に示すようにVb1_Vb2間電流が小さくなってしまう。
図8右側は、高温状態においてダイオードDが出力した電圧変化を表している。
【0059】
この様に、ダイオードDの出力は、室温の変化に応じて、見かけ上変化する。従来の構成においては、この影響を除く目的で補正をする必要がある。すなわち、従来構成によれば室温に応じて半導体光電子増倍素子3aの出力信号の増幅率を調整、あるいは印加するバイアス電圧を調整する必要がある。
【0060】
一方、実施例1の構成によれば、この様な増幅率の調整をする必要がない。
図9は、実施例1の構成を説明している。図中の左上のグラフは、低温状態のダイオードDの出力を表し、右上のグラフは、高温状態のダイオードDの出力を表している。このうち、図中の左上に係る低温状態における電圧変化は、AD変換回路11により図中の左下のように変換される。同様に図中の右上に係る高温状態における電圧変化は、AD変換回路11により図中の右下のように変換される。高温状態と低温状態とを比較すれば分かるように、AD変換回路11がオンオフすることで出力される電圧の変動幅は、温度によらず一定となっている。したがって、AD変換回路11から出力される電圧の変動幅は、温度によって変動しないのである。この様な構成とすることで、室温変化に影響を受けず一定の検出信号を出力できる半導体光電子増倍素子3aが提供できる。
【0061】
また、ダイオードDのブレークダウン電圧には、バラツキがある。したがって従来の構成によれば、ダイオードDの各々によって出力のバラツキが生じてしまう。Vb1_Vb2間電流は、ブレークダウン電圧とダイオードDに印加される電圧との関係により決まるからである。一方、実施例1の構成によれば、この様な出力のバラツキが生じない。AD変換回路11がオンオフすることで出力される電圧の変動幅は、ダイオードDのブレークダウン電圧によらず一定となっているからである。したがって、AD変換回路11から出力される電圧の変動幅は、ダイオードDのブレークダウン電圧のバラツキによって変動しない。この様な構成とすることで、ダイオードDの個体差に影響を受けず一定の検出信号を出力できる半導体光電子増倍素子3aが提供できる。
【0062】
以上のように、本発明の構成によれば、ダイオードDに接続されたAD変換回路11を有している。この様な構成することにより、ダイオードDから出力された電圧変化は、AD変換回路11によりデジタル化されて出力されることになる。あるダイオードDが光子を検出したときに生じた電流の一部は、ダイオードDと並列に接続されている隣のダイオードDに流れ込む。このときの電流は、隣のダイオードDの寄生容量Cpに充電され、しばらくして半導体光電子増倍素子3aの出力端子Ioutに流れ込もうとする。しかし、この寄生容量Cpから解放される電流は、AD変換回路11によって阻まれて出力端子Iout側に流れることができない。しかもこの電流は、光子を検出したときに生じた電流の一部であり、微弱である。したがって、寄生容量Cpから解放される電流によってAD変換回路11に入力される電圧変化は、AD変換回路11をオンオフできるほど強いものではない。したがって、本発明の構成によれば、寄生容量Cpから解放される電流の影響を受けずに光を検出することができる。したがって、本発明によれば高い検出精度および良好な時間分解能を有する半導体光電子増倍素子3aが提供できる。
【0063】
また、本発明の半導体光電子増倍素子3aを備えた光検出器および放射線検出器は、信号精度および時間分解能が改善され、鮮明な放射線画像を生成するのに適したものとなっている。
【0064】
本発明は、上述の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0065】
(1)上述の実施例においては、AD変換回路11は、変換抵抗Roに直接接続されていたが、本発明はこの構成に限られない。すなわち、
図10に示すように、AD変換回路11は、パルス幅調整回路12を介して変換抵抗Roに接続されるようにしてもよい。パルス幅調整回路12は、ダイオードDの出力をAD変換回路11が整形したものを更に整形するものである。
【0066】
パルス幅調整回路12は、入力されるパルスの時間幅が、ある下限値と上限値との間にあるとき、所定の時間幅のパルスを出力するようになっている。したがって、パルス幅調整回路12は、下限値、上限値、出力されるパルスの時間幅を示す設定値が設けられていることになる。このパルス幅調整回路12は、AD変換回路11が出力するパルスの時間的な長さを一定にして出力するものであり、AD変換回路11と変換抵抗Roとの間に設けられる。
【0067】
パルス幅調整回路12を設けるような構成とすると、更に信頼性の高い信号が出力できる半導体光電子増倍素子3aが提供できる。実施例1の構成からの改善点について説明する。
図9の構成によれば、確かにAD変換回路11から出力される電圧の高さ(オンオフすることで出力される電圧の変動幅)に温度依存性はない。しかし、高温状態の時にAD変換回路11から出力されるパルスの時間幅は、低温状態のときよりも狭くなっている。高温状態のダイオードDのアノードaにおける電圧がAD変換回路11で設定された閾値を上回っている時間が低温状態のときと比べて短いからである。
【0068】
図11は、本変形例の構成によってダイオードDの出力がどのように整形されるかを表している。
図11左側は、ダイオードDの出力を表している。
図11左側を見れば分かるように、ダイオードDの温度が上昇するほど、ダイオードDから出力される電圧変化は小さくなっている。
図11中央は、AD変換処理後の電圧変化の波形を表している。これによれば、いずれの温度条件においても、ダイオードDの出力は、パルスの大きさ(電圧の変化の大きさ)が同じになるように電圧変化の波形が整形されている。しかし、この時点では、パルスの時間幅は温度によってバラツキがある。
【0069】
図11右側は、パルス幅調整処理後の電圧変化の波形を表している。これによれば、いずれの温度条件においても、ダイオードDの出力は、パルスの大きさが同じであるとともに、パルスの時間幅も同じとなっている。このような構成とすれば、半導体光電子増倍素子3aが有するダイオードDの各々は、室温によらず常に同じパルスを出力できるようになる。
【0070】
実施例1の構成では、AD変換回路11が出力するパルスの幅が一定とならない。ダイオードDがガイガー放電の放電量について温度依存性を有しているからである。上述の構成とすることにより、パルス幅調整回路12は、AD変換回路11から出力されるパルスの時間長を一定として出力する。これによりダイオードDの温度によらず、一定のパルスを出力できる半導体光電子増倍素子3aが提供できる。
【0071】
(2)上述の実施例においては、AD変換回路11は、ダイオードDとアノード側抵抗Raとの間の中間ノードに接続されていたが、本発明はこの構成に限られない。この構成に代えて、
図12に示すようにAD変換回路11の入力をダイオードDとカソード側抵抗Rkとの間の中間ノードに接続するようにしてもよい。なお、この場合にアノード側抵抗Raを省いた構成とすることもできる。
【0072】
(3)上述の構成によれば、1つのダイオードDに対しアノード側抵抗Ra,カソード側抵抗Rk,AD変換回路11,および変換抵抗Roが1つずつ備えられていたが、本発明はこの構成に限られない。複数のダイオードDに対しアノード側抵抗Ra,カソード側抵抗Rk,AD変換回路11,および変換抵抗Roを1つずつ備えるような構成としてもよい。すなわち、
図13に示すように、ダイオードDの両極に抵抗を介さずに補助ダイオードDhを極性を一致させた状態で並列に接続するようにしてもよい。すなわち、本変形例の構成は、ダイオードDのAD変換回路11の接続ノードに抵抗を介さずに極性を一致させた状態で補助フォトダイオード(ダイオードDh)がダイオードDと並列に設けられている。また、本変形例の構成はダイオードDのカソード側抵抗Rkの接続ノードに抵抗を介さずに極性を一致させた状態で補助フォトダイオード(ダイオードDh)がダイオードDと並列に設けられていると表現することもできる。
【0073】
このとき、ダイオードDおよび補助ダイオードDhは、抵抗を介さずに直接に並列接続されており、AD変換回路11の入力は、複数のダイオードに接続されていることになる。この構成において、抵抗を介さず並列に接続された各ダイオードD,Dhからの出力は、合計されてAD変換回路11に送出されることになる。
【0074】
このように、本変形例におけるダイオードDの各々には、3つの抵抗Ra,Rk,Ro,複数の補助ダイオードDhおよび1つのAD変換回路11が
図13に示すように接続され、1つのモジュールが構成されている。このモジュールが複数個並列に接続されて半導体光電子増倍素子3aが構成されている。この様な構成とすることにより、光検出器の配線を簡略化することができる。補助ダイオードDhは、本発明の補助フォトダイオードに相当する。
【0075】
また、
図13の構成において、補助ダイオードDhのカソード側の各々に抵抗を直列に挿入するような構成としてもよい。この構成では、補助ダイオードDhは、ダイオードDに極性を一致させた状態で補助フォトダイオードDhのカソードk側に接続された抵抗を介してフォトダイオードDと並列に設けられている。また、この構成は、ダイオードDのAD変換回路11の接続ノードに抵抗を介さずに極性を一致させた状態で補助フォトダイオードDhがダイオードDおよびダイオード接続抵抗と並列に設けられていると表現することもできる。
【0076】
(4)また、本発明の実施に際しては、
図14に示すように、ダイオードDの両端にAD変換回路を設けるようにしてもよい。この構成によれば、入力端子がダイオードDとアノード側抵抗Raとの間の中間ノードに接続されたアノード側AD変換回路11aと、入力端子がダイオードDとカソード側抵抗Rkとの間の中間ノードに接続されたカソード側AD変換回路11kとを有している。なお、この構成において、アノード側AD変換回路11aに接続された変換抵抗Roを符号Ro_aで表すことにし、カソード側AD変換回路11kに接続された変換抵抗Roを符号Ro_kで表すことにする。アノード側AD変換回路11aは、本発明のアノード側2値化回路に相当し、カソード側AD変換回路11kは、本発明のカソード側2値化回路に相当する。すなわち、本変形例の構成は、ダイオードDにAD変換回路を介して接続された複数の変換抵抗Ro_a,Ro_kの出力のそれぞれに接続された複数の出力端子Iout_a,Iout_kを有している。
【0077】
本変形例においては、半導体光電子増倍素子3aは、2系統の出力端子を有している。すなわち、
図15に示すように、アノード側AD変換回路11aが有する出力のそれぞれは、共通の出力端子Iout_aに接続され、カソード側AD変換回路11kが有する出力のそれぞれは、共通の出力端子Iout_kに接続されている。この様にすることで、より正確な光の検出が可能な半導体光電子増倍素子3aが提供できる。すなわち、例えば、出力端子Iout_aを入射光の強度を弁別する回路に接続し、出力端子Iout_kを入射光の発生時間を弁別する回路に接続することができる。この様にすることで、2種類の弁別回路が干渉してノイズを発生させてしまうことがないので、半導体光電子増倍素子3aの精度は向上する。なお、上述の例において、出力端子Iout_aの代わりに出力端子Iout_kを用いてもよく、出力端子Iout_kの代わりに出力端子Iout_aを用いてもよい。
【0078】
また、出力端子Iout_kの出力を各種弁別に用い、出力端子Iout_aの出力を参照用として用いるようにすることもできる。この様にすることで信頼性の高い半導体光電子増倍素子3aが提供できる。なお、この構成において、出力端子Iout_aの出力を各種弁別に用い、出力端子Iout_kの出力を参照用として用いるようにしてもよい。
【0079】
このように、上述のようにフォトダイオード1つにつき2種類のAD変換回路11を有するようにすれば、AD変換回路11のそれぞれを異なる用途に用いることができる。例えば、AD変換回路11のうちの一つを蛍光強度弁別用とし、もう一つを検出時刻弁別用として、検出精度が向上した半導体光電子増倍素子3aを提供することができる。
【0080】
(5)なお、出力端子Iout_kおよびIout_aの出力を差動信号として用いるようにすることもできる。この様にすることでノイズ耐性の高い半導体光電子増倍素子3aが提供できる。
【0081】
(6)また、実施例の構成を、多チャンネルタイプの半導体光電子増倍素子としてもよい。このような多チャンネルタイプの半導体光電子像倍素子は、素子のどの位置に光が入射したのかを区別できるようになっている。このような素子は、出力端子が1つではなく任意のフォトダイオードに接続されたAD変換回路11および変換抵抗Roの出力を接続した複数の出力端子が設けられている。すなわち、素子におけるダイオードD群が配列されている全領域を例えば4つの領域に分け、この4つの領域ごとに独立した出力端子を備えるように構成されている。したがって、この様な素子には、
図4で説明したダイオードDの並列接続回路が独立に4つ設けられていることになる。このように、4つの出力端子は、光の入射位置を区別する目的で設けられている。なお、この場合においても、バイアス電圧供給端子Vb1, Vb2は、4回路の間で共通としてもよい。