特許第5741816号(P5741816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5741816-発光性化合物 図000033
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741816
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】発光性化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20150611BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20150611BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   C08G61/12
   C09K11/06 660
   H05B33/14 B
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2011-53380(P2011-53380)
(22)【出願日】2011年3月10日
(65)【公開番号】特開2012-188551(P2012-188551A)
(43)【公開日】2012年10月4日
【審査請求日】2014年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】小松 陽子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 万紀
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−265786(JP,A)
【文献】 特開2004−231709(JP,A)
【文献】 特開2006−032689(JP,A)
【文献】 特開2006−037098(JP,A)
【文献】 特開2006−117672(JP,A)
【文献】 特開2009−197218(JP,A)
【文献】 特表2013−509474(JP,A)
【文献】 特開2011−012176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00−61/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部位と、電子および正孔を輸送する移送部位とを有し、
前記発光部位が、下記式(1)に示すベンザゾール構造からなり、
前記移送部位が、オリゴチオフェン構造を繰り返し単位とするオリゴチオフェン分子鎖からなり、前記オリゴチオフェン構造は、当該オリゴチオフェン構造の分子鎖方向略全長を覆うよう前記オリゴチオフェン分子鎖に沿った空間に存在してオリゴチオフェン分子鎖間の相互作用を抑制する被覆基と、飽和炭化水素基とで置換されていることを特徴とする発光性化合物。
【化1】
[式(1)において、A1およびA2は各々独立して、
【化2】
で表される基である。XとYは、いずれか一方が窒素原子であり、他方が酸素原子、硫黄原子または−NR1−基であり、ここでR1は、水素原子、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、ベンジル基、p−tert−ブチルフェニル基、p−tert−ブチルベンジル基、フェニル基またはフェネチル基である。ここで、一つの5員環に属するXとYは互いに入れ替わっていてもよい。]
【請求項2】
前記被覆基は、非共役性の置換基である請求項1に記載の発光性化合物。
【請求項3】
前記オリゴチオフェン構造が下記式(2)に示す構造である請求項1または2に記載の発光性化合物。
【化3】
[式(2)において、R2〜R5は、少なくとも一つが炭素数1〜20の飽和炭化水素基であり、残りが水素原子または炭素数1〜20の飽和炭化水素基である。R6〜R13は各々独立して炭素数1〜3のアルキル基である。nは1〜128の整数である。B1およびB2は各々独立して、
【化4】
で表される基であり、ここでkは2〜12の整数である。]
【請求項4】
前記ベンザゾール構造を示す前記式(1)において、A1およびA2の少なくとも一方がメチレン基を有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の発光性化合物。
【請求項5】
前記移送部位の両端に、電極に接続するための接続部位を備えている請求項1〜4のいずれかに記載の発光性化合物。
【請求項6】
前記接続部位が、−SCN基、−SH基、−SCOCH基、−SCCHCH基、−SCHCHCN基、−SCHCHSi(CH基、−SeOH基、−TeOH基、−COOH基、および−OH基からなる群より選ばれる1種からなる請求項5に記載の発光性化合物。
【請求項7】
下記式(3)に示す構造を有する請求項1〜6のいずれかに記載の発光性化合物。
【化5】
[式(3)において、A1、A2、XおよびYは前記式(1)と同義であり、R2〜R5、R6〜R13、B1およびB2は前記式(2)と同義である。m、lは各々独立して1〜128の整数である。Q1およびQ2は各々独立して、水素原子または、−SCN基、−SH基、−SCOCH基、−SCCHCH基、−SCHCHCN基、−SCHCHSi(CH基、−SeOH基、−TeOH基、−COOH基、および−OH基からなる群より選ばれる1種もしくは当該1種を備えた有機基である。]
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の発光性化合物が単一分子でナノギャップを有する一対の電極間を接続していること特徴とする単一分子発光デバイス。
【請求項9】
下記式(4)中(a)で示す両末端にハロゲン原子を有するベンザゾール化合物と、下記式(4)中(b)で示す片末端にトリアルキルスズ基を有するオリゴチオフェンとをカップリング反応させる工程を含むことを特徴とする発光性化合物の合成方法。
【化6】
[式(4)において、R14およびR15は各々独立して、
【化7】
で表される基であり、ここでZはハロゲン原子である。XとYは、いずれか一方が窒素原子であり、他方が酸素原子、硫黄原子または−NR1−基であり、ここでR1は、水素原子、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、ベンジル基、p−tert−ブチルフェニル基、p−tert−ブチルベンジル基、フェニル基、またはフェネチル基である。ここで、一つの5員環に属するXとYは互いに入れ替わっていてもよい。R16は、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基である。R2〜R5は、少なくとも一つが炭素数1〜20の飽和炭化水素基であり、残りが水素原子または炭素数1〜20の飽和炭化水素基である。R6〜R13は各々独立して炭素数1〜3のアルキル基である。nは1〜128の整数である。B1およびB2は各々独立して、
【化8】
で表される基であり、ここでkは2〜12の整数である。A1およびA2は各々独立して、
【化9】
で表される基である。m、lは各々独立して1〜128の整数である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば表示装置等に用いられる発光デバイスに利用可能な発光性化合物に関するものである。詳しくは、本発明にかかる発光性化合物は、有機分子を用いて接続された電極間において一方の電極から注入された電子と他方の電極から注入された正孔とが結合し発光する分子発光デバイスであって、実質的に一分子で電極間の接続がなされている単一分子発光デバイスに利用することができるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機分子を用いた発光デバイスとしては、主に芳香族基を主体とした共役系の有機分子を用いてそれぞれ電子輸送層、発光層および正孔輸送層としての特性を持つよう形成された各層が、電子注入電極と正孔注入電極との間に、電子注入電極側から上述した順で各々数十nm程度の厚みで積層されてなる、積層型分子発光デバイスが知られていた(非特許文献1)。このような積層型分子発光デバイスによれば、薄型、平滑性、柔軟性といった優れた特長を発現させることが可能になるので、液晶表示デバイスに代わる新たな高性能表示デバイスとして実用化が大いに期待されている。ところが、従来の積層型分子発光デバイスは、実用化に向けては様々な問題点を抱えていた。
【0003】
詳しくは、積層型分子発光デバイスの問題点としては、(1)注入電極と分子間の接触抵抗が大きく、電子、正孔の注入効率が低いこと、(2)分子間の導電機構がトンネル電導あるいはホッピング電導であるため、電導効率が非常に低く、注入したキャリアが途中で再結合してしまい、発光に必ずしも寄与できないこと、(3)発光中心に到達したキャリアが、発光に寄与する分子を励起する確率が低く、発光効率が高くならないこと、(4)励起分子から放出された光が途中で吸収あるいは反射され、デバイス外部に出てこない確率が高く、総合的な発光効率が低いこと、が挙げられる。これらのことから積層デバイスの理論効率は5%と言われており、しかも実際の効率はこれよりもかなり低くなると考えられる。これは、例えば蛍光灯の効率が25%程度であることなどに鑑みると、現存の発光デバイスに比して著しく低い。このように従来の積層型分子発光デバイスは実用化に向けては様々な問題点を抱えていた。
【0004】
そこで、上記問題を一挙に解決し発光効率を向上させることを目指し、電子注入電極と正孔注入電極の間を単一の有機発光分子を直接化学結合させることにより接続した単一分子発光デバイスが提案されている(特許文献1)。この特許文献1では、かかる単一分子発光デバイスによって上記(1)〜(4)に示した従来の問題が解決できることの理論が以下のように説明されている。
【0005】
すなわち、上記(1)の問題については、従来の積層型分子発光デバイスにおいては、空気中あるいは低真空中で電極上に分子層(電子輸送層、発光層、正孔輸送層の各層)を形成する際に、電極表面の酸化物層や、周囲からのコンタミネーション等が電極と分子層との間に形成されてしまい、これが抵抗を大きくする原因となっていたところ、前記単一分子発光デバイスによれば電極と有機分子との間が化学結合で接続されるので、接触抵抗を十分に低くでき、その結果、電子、正孔の注入効率を高めることが可能になる。
【0006】
上記(2)の問題については、従来の積層型分子発光デバイスにおいて分子層内の電導効率が低かった理由は、各々の分子が独立し、互いに化学結合をしていないからであり、両電極間を単一の分子で結合した前記単一分子発光デバイスによれば、単一分子内の電導効率が高いため、十分な電導効率を確保できる。
【0007】
上記(3)の問題については、従来の積層型分子発光デバイスにおいて発光中心に到達したキャリアが発光に寄与する分子を励起する確率が低くなるのは、主に、分子間の相互作用により、励起状態になった分子からフォノンが放出されて失活するからと考えられる。積層型分子発光デバイスにおいてフォノンを放出する確率が高いことは一般によく知られている。それに対して、前記単一分子発光デバイスでは、分子内の励起状態が基底状態に戻る過程は決まった確率で起こることが予見され、物理的、化学的に最大値をとることが可能であるので、発光中心に到達したキャリアをほぼ100%発光に寄与させることができる。
【0008】
上記(4)の問題については、従来の積層型分子発光デバイスにおいては、励起状態の分子から放出された光は隣接分子に再吸収される可能性があるが、前記単一分子発光デバイスでは発光波長が吸収波長よりも長くなると考えられるため、このような吸収による発光効率の低下は少なくなることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−265786号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】アイ・イー・イー・イー トランスアクション オブ エレクトロン デバイセズ(IEEE Trans. Electron Devices)、vol.44,No. 8,1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1において具体的に開示されている有機発光分子は、いずれも従来の積層型分子発光デバイスにおいて用いられていた有機発光分子である。そのため、特許文献1に記載の有機発光分子は、電極間を単一分子で接続するが故に生じる単一分子発光デバイス独自の下記課題(i)〜(iii)は全く解決できていないものであった。
(i)一方の電極から注入された電子と他方の電極から注入された正孔とが結合したときの衝突で生じるエネルギーに耐えうるだけの耐熱性を有していること。
(ii)分子内を電子が輸送する間に当該電子が分子の外へ飛び出してしまうことを防止すること。
(iii)分子同士の凝集や絡まり合いなどが抑制されて一分子に単離しやすい構造であること。
【0012】
詳しくは、上記(i)の課題については、従来の積層型分子発光デバイスにおいても衝突エネルギーが発生していたが、従来の積層型分子発光デバイスにおいては電極間の発光層には多数の分子が存在しているので、例えばそのうちの一つが熱の影響を受けても発光効率にはさほど影響は及ばなかった。ところが、単一分子発光デバイスにおいては、電極間には一つの分子しか存在しないので、この唯一の分子が衝突エネルギーの影響を受けることは、直ちに発光効率の低下に繋がるのである。
【0013】
上記(ii)の課題については、従来の積層型分子発光デバイスにおいても電子の飛び出しは起こりうるが、積層型分子発光デバイスの場合には注入される電子および正孔が多数であるので、注入したうちの一部が飛び出しによって消失しても発光効率にはさほど影響は及ばなかった。ところが、単一分子発光デバイスにおいては、注入される電子および正孔が一つであるので、衝突エネルギーや電子の飛び出しによる消失を確実に回避することが重要となるのである。
上記(iii)の課題については、単一分子発光デバイスの作製に際し、分子1個を電極間に接続するにあたり必要な性質である。
以上のように上記(i)〜(iii)の課題を解決することは、単一分子発光デバイスにおいて実用に供しうるだけの良好な発光効率を実現するうえで不可欠である。
【0014】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、単一分子発光デバイスにおいて良好な発光効率を発揮しうる発光性化合物およびその合成方法と、これを用いた単一分子発光デバイスとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、1分子内に、発光層として機能する発光部位と、電子輸送層および正孔輸送層として機能する移送部位とを具備させるようにし、前記発光部位を特定のベンザゾール構造で構成することにより耐熱性を向上させ、かつ、前記移送部位をオリゴチオフェン分子鎖で構成し、その構成単位であるオリゴチオフェン構造に、当該オリゴチオフェン構造の分子鎖方向略全長を覆うようオリゴチオフェン分子鎖に沿った空間に存在してオリゴチオフェン分子鎖間の相互作用を抑制する置換基(被覆基)を導入しておくことにより、移送部位であるオリゴチオフェン分子鎖の周りを覆うように前記被覆基が存在することとなり、該被覆基が電極から注入した電子の飛び出しを防ぐとともに、分子間の凝集や絡み合いを抑制して一分子を容易に単離できるようになることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の発光性化合物は、発光部位と、電子および正孔を輸送する移送部位とを有し、前記発光部位が、下記式(1)に示すベンザゾール構造からなり、前記移送部位が、オリゴチオフェン構造を繰り返し単位とするオリゴチオフェン分子鎖からなり、前記オリゴチオフェン構造は、当該オリゴチオフェン構造の分子鎖方向略全長を覆うよう前記オリゴチオフェン分子鎖に沿った空間に存在してオリゴチオフェン分子鎖間の相互作用を抑制する被覆基と、飽和炭化水素基とで置換されていることを特徴とする。
【0017】
【化1】
[式(1)において、A1およびA2は各々独立して、
【0018】
【化2】
で表される基である。XとYは、いずれか一方が窒素原子であり、他方が酸素原子、硫黄原子または−NR1−基であり、ここでR1は、水素原子、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、ベンジル基、p−tert−ブチルフェニル基、p−tert−ブチルベンジル基、フェニル基またはフェネチル基である。ただし、一つの5員環に属するXとYは互いに入れ替わっていてもよい。]
【0019】
本発明において発光部位とは、電子と正孔とが結合して発光を生じる部分であり、従来の積層型分子発光デバイスにおける発光層としての機能を果たす部分である。
前記発光部位は、前記式(1)に示すベンザゾール構造からなる。かかるベンザゾール構造は、良好な耐熱性を有しているので、電子と正孔とが当該発光部位で結合する際に衝突エネルギーが生じても、分子がダメージを受けて発光効率が低下することはない。
【0020】
前記式(1)においては、A1およびA2の少なくとも一方はメチレン基(―CH―)を有するものであることが好ましい。これにより、移送された電子を発光部位にトラップすることができ、電子と正孔とをより確実に結合させて発光効率を高めることができる。
前記式(1)において、XおよびYとし得る−NR1−基のR1の例である炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基とは、炭素数が1以上、12以下の直鎖または分岐の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。好ましくは、直鎖の炭化水素基が好ましく、炭素数は4以上が好ましい。
【0021】
本発明において移送部位とは、電極から注入されたキャリア(電子および正孔)を前記発光部位へ輸送する部分であり、従来の積層型分子発光デバイスにおける電子輸送層および正孔輸送層としての機能を果たす部分である。したがって、該移送部位は、前記発光部位の両端に配される。本発明においては、1分子内に発光部位とともに、電子輸送機能および正孔輸送機能を有する移送部位とを兼ね備えることにより、1分子内に発光部位のみを有する場合に比べ、より高い発光効率を得ることが可能になる。移送部位を具備しない場合、発光部位が電極と化学結合することになり、そうすると発光性化合物(発光部位)の分子軌道が電極の影響を受け、設定した通りの電流が得られないことがある。電極と発光部位との間に移送部位を設けることにより、このような電極の影響を排除し、所期の電流が得られるのである。
【0022】
前記移送部位は、特定の被覆基と飽和炭化水素基とに置換されたオリゴチオフェン構造を繰り返し単位とするオリゴチオフェン分子鎖からなる。つまり、該オリゴチオフェン分子鎖は、チオフェンが連なってなる主鎖に前記被覆基と前記飽和炭化水素基とが置換したものである。このように前記オリゴチオフェン構造が飽和炭化水素基で置換されていることにより、発光性化合物の溶媒への溶解性を高めることができる。一方、前記被覆基で置換されていることにより、主鎖の周囲の空間に嵩高い被覆基が存在することになるので、前記主鎖において輸送される電子の飛び出しを防ぐことができるとともに、飽和炭化水素基が置換されていても分子鎖間の相互作用による分子の凝集や絡み合いを防ぎ、1分子を容易に単離できるようになる。
【0023】
本発明において「被覆基」とは、オリゴチオフェン構造の分子鎖方向略全長を覆うよう前記オリゴチオフェン分子鎖に沿った空間に存在してオリゴチオフェン分子鎖間の相互作用を抑制する置換基である。具体的には、被覆基は、オリゴチオフェン構造の分子鎖方向略全長を覆うような立体的な嵩高さを持つものであればよく、例えば、窒素原子と珪素原子を含む炭化水素基でありオリゴチオフェンの2つの水素原子と置換する基などが挙げられる。なお、オリゴチオフェン構造の分子鎖方向略全長を覆うとは、必ずしも一つの被覆基がオリゴチオフェン構造の分子鎖方向略全長を覆うだけの大きさを有している必要はなく、例えば後述するように複数の被覆基が置換されている場合には、一つの被覆基ではオリゴチオフェン構造の分子鎖方向略全長を覆えなくても、複数の被覆基によってオリゴチオフェン構造の分子鎖方向略全長を覆えるようになっていればよい。前記被覆基は、非共役性の置換基であることが電子の飛び出しを防止するうえで好ましい。
【0024】
前記飽和炭化水素基としては、脂肪族また脂環族炭化水素基が挙げられる。その炭素数は、1以上20以下が好ましく、より好ましくは2以上、さらに好ましくは6以上であり、より好ましくは20以下、さらに好ましくは16以下である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ドデシル基等の直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられるが、中でも直鎖の炭化水素基がよく、例えば、ヘキシル基、ドデシル基等が好ましく挙げられる。
【0025】
前記オリゴチオフェン分子鎖の繰り返し単位(オリゴチオフェン構造)におけるチオフェンの数は、2個以上10個以下が好ましく、3個以上5個以下がより好ましい。またチオフェンが連なった主鎖に置換する前記被覆基と前記飽和炭化水素基の数は、それぞれ1個であってもよいし、複数であってもよい。前記被覆基と前記飽和炭化水素基とは、別々のチオフェンに置換されていることが好ましく、例えば、被覆基が置換されたチオフェンの片隣りまたは両隣りのチオフェンに飽和炭化水素基が置換されている態様が好ましい。
【0026】
前記オリゴチオフェン分子鎖における繰り返し単位(オリゴチオフェン構造)の数は、発光性化合物の分子長が適用しようとする分子発光デバイスの電極間を接続しうる長さとなるように適宜設定すればよいが、通常1〜128、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上であり、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは20以下である。
【0027】
前記オリゴチオフェン構造の具体例としては、例えば下記式(2)に示す構造が好ましく挙げられる。
【0028】
【化3】
[式(2)において、R2〜R5は、少なくとも一つが炭素数1〜20の飽和炭化水素基であり、残りが水素原子または炭素数1〜20の飽和炭化水素基である。R6〜R13は各々独立して炭素数1〜3のアルキル基である。nは1〜128の整数である。B1およびB2は各々独立して、
【0029】
【化4】
で表される基であり、ここでkは2〜12の整数である。]
【0030】
前記式(2)において、R2〜R5の例である炭素数1〜20の飽和炭化水素基としては、炭素数が1以上、20以下の直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。
前記式(2)においては、R2〜R5のうち2つが飽和炭化水素基であり、残りの2つが水素原子であることが好ましく、より好ましくはR2とR3のいずれか一方が飽和炭化水素基、他方が水素原子であり、R4とR5のいずれか一方が飽和炭化水素基、他方が水素原子である態様がよい。
【0031】
なお、前記式(2)で示すオリゴチオフェン構造においてnの数が2以上である場合には、前記式(2)で示される繰り返し単位は、紙面に表記した状態で連続して結合していく場合(具体的には、n番目の繰り返し単位におけるR2およびR3が置換したチオフェンが、(n−1)番目の繰り返し単位におけるR4およびR5が置換したチオフェンと結合する場合)もあるが、一部の繰り返し単位が紙面の表記を反転させた状態で別の繰り返し単位と結合する場合(具体的には、n番目の繰り返し単位におけるR2およびR3が置換したチオフェンが、(n−1)番目の繰り返し単位におけるR2およびR3が置換したチオフェンと結合する場合)も起こりうる。
【0032】
前記式(2)において、R6〜R13の例である炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられるが、中でもメチル基が好ましい。またR6〜R13は各々異なっていてもよいが、全て同じであることが好ましい。
【0033】
前記式(2)において、B1およびB2で示される基の繰り返し単位であるkは、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2であることが最も好ましい。
【0034】
本発明の単一分子発光デバイスは、前記本発明の発光性化合物が単一分子でナノギャップを有する一対の電極間を接続していること特徴とする。
【0035】
本発明の発光性化合物の合成方法は、下記式(4)中(a)で示す両末端にハロゲン原子を有するベンザゾール化合物と、下記式(4)中(b)で示す片末端にトリアルキルスズ基を有するオリゴチオフェンとをカップリング反応させる工程を含むことを特徴とする。
【0036】
【化5】
[式(4)において、R14およびR15は各々独立して、
【0037】
【化6】
で表される基であり、ここでZはハロゲン原子である。XとYは、いずれか一方が窒素原子であり、他方が酸素原子、硫黄原子または−NR1−基であり、ここでR1は、水素原子、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、ベンジル基、p−tert−ブチルフェニル基、p−tert−ブチルベンジル基、フェニル基、またはフェネチル基である。ただし、一つの5員環に属するXとYは互いに入れ替わっていてもよい。R16は、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基である。R2〜R5は、少なくとも一つが炭素数1〜20の飽和炭化水素基であり、残りが水素原子または炭素数1〜20の飽和炭化水素基である。R6〜R13は各々独立して炭素数1〜3のアルキル基である。nは1〜128の整数である。B1およびB2は各々独立して、
【0038】
【化7】
で表される基であり、ここでkは2〜12の整数である。A1およびA2は各々独立して、
【0039】
【化8】
で表される基である。m、lは各々独立して1〜128の整数である。]
【0040】
前記式(4)において、R14およびR15の例中Zで示されるハロゲン原子としては、Cl、Br、I等が挙げられるが、反応性の観点からはBrが好ましい。
前記式(4)において、R16の例である炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基とは、炭素数が1以上、12以下の直鎖または分岐の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。好ましくはR16がブチル基であるトリブチルスズ基(−SnBu)が反応性や入手し易さの点で好ましい。
なお、前記式(4)におけるR1〜R13については、前記式(1)または前記式(2)と同義である。
【0041】
なお、前記移送部位は、前記発光部位の両端にそれぞれ設けられるものであり、一端(電子注入電極側)の移送部位が電子輸送用として、他端(正孔注入電極側)の移送部位が正孔輸送用として機能するのであるが、電子注入電極側の移送部位を構成するオリゴチオフェン分子鎖の構造と正孔注入電極側の移送部位を構成するオリゴチオフェン分子鎖の構造は、異なっていてもよいし、同じであってもよい。注入された電子と正孔を効率よく結合させるうえでは、両者のオリゴチオフェン分子鎖は、同じかもしくは近似した構造であることが好ましい。
【0042】
本発明の発光性化合物は、前記移送部位の両端に、電極に接続するための接続部位を備えていることが好ましい。接続部位は、電極の構成元素と化学結合しうる基であればよく、電極に応じて適宜設定すればよいが、例えば、−SCN基、−SH基、−SCOCH基、−SCCHCH基、−SCHCHCN基、−SCHCHSi(CH基、−SeOH基、−TeOH基、−COOH基、および−OH基からなる群より選ばれる1種からなることが好ましい。特に、金電極に対しては−SCN基、−SH基、−SCOCH基、−SCCHCH基、−SCHCHCN基、−SCHCHSi(CH基が好ましく、金電極や銀電極に対しては−SeOH基や−TeOH基などが好ましく、シリコン電極に対しては−COOH基や−OH基などが好ましい。なお、電子注入電極側の接続部位と、正孔注入電極側の接続部位とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0043】
本発明の発光性化合物は、発光部位として特定のベンザゾール構造を備えているので、耐熱性に優れるとともに、移送部位とするオリゴチオフェン分子鎖の繰り返し単位であるオリゴチオフェン構造が該分子鎖を覆う特定の被覆基を備えているので、移送中の電子の飛び出しを防ぐことができ、さらに1分子を容易に単離できるようになる。これにより、単一分子発光デバイスにおいて良好な発光効率を実現させることが可能になり、有機発光デバイスの実用化に大きな進展をもたらすことができる。さらに、かかる単一分子発光デバイスのごとく発光効率を高めることができると、電界強度を十分に低くできるので、信頼性の点でも実用的な有機発光デバイスになるという効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、本発明の単一分子発光デバイスの主要部(電極間部分)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の発光性化合物の好ましい構造の一例を挙げると、下記式(3)に示すとおりである。
【0046】
【化9】
[式(3)において、A1、A2、XおよびYは前記式(1)と同義であり、R2〜R5、R6〜R13、B1およびB2は前記式(2)と同義である。m、lは各々独立して1〜128の整数である。Q1およびQ2は各々独立して、水素原子または、−SCN基、−SH基、−SCOCH基、−SCCHCH基、−SCHCHCN基、−SCHCHSi(CH基、−SeOH基、−TeOH基、−COOH基、および−OH基からなる群より選ばれる1種もしくは当該1種を備えた有機基である。]
【0047】
前記式(3)において、Q1およびQ2の例である有機基は、共役性の基であって上記群から選ばれる置換基を有するものである。例えば、Q1およびQ2が前記有機基である場合、上記群から選ばれる置換基(すなわち、−SCN基、−SH基、−SCOCH基、−SCCHCH基、−SCHCHCN基、−SCHCHSi(CH基、−SeOH基、−TeOH基、−COOH基、−OH基)が接続部位となって、電極の構成原子と化学結合を形成する。したがって、該接続部位と移送部位との間に介在する基は、芳香環やチオフェン等のように電極から注入されたキャリアを輸送しうる共役性の基でなければならない。Q1およびQ2の例である有機基の具体例としては、例えば、上記群から選ばれる置換基を少なくとも有する置換チエニル基または置換フェニル基が挙げられる。この置換チエニル基または置換フェニル基は、上記群から選ばれる置換基のほかに、さらに別の置換基を有するものであってもよい。なお、前記式(3)において、Q1およびQ2が水素原子である場合には、当該発光性化合物に接続部位を導入した後、電極との接続に供することになる。
【0048】
なお、前記式(3)においては、繰り返し数がmである方のオリゴチオフェン構造単位と、繰り返し数がlである方のオリゴチオフェン構造単位は、便宜上同一の構造(符号)で記載したが、両単位の構造は同一であってもよいし異なっていてもよい(換言すれば、繰り返し数がmである方のオリゴチオフェン構造単位におけるR2〜R5と、繰り返し数がlである方のオリゴチオフェン構造単位におけるR2〜R5とは必ずしも各々同一でなくてもよい)。
【0049】
以下、前記式(3)におけるQ1およびQ2が水素原子である場合の本発明の発光性化合物を合成する方法(本発明の発光性化合物の合成方法)について説明する。かかる合成方法においては、前記式(4)に示すスキームの通り、前記式(4)中(a)で示す両末端にハロゲン原子を有するベンザゾール化合物と、前記式(4)中(b)で示す片末端にトリアルキルスズ基を有するオリゴチオフェンとをカップリング反応させる工程を必須とする。
【0050】
まず、前記カップリング反応で原料とするベンザゾール化合物は、所望する発光性化合物の発光部位となるベンザゾール構造の両末端にハロゲン原子を導入した化合物であり、具体的には、例えば、実施例で後述するベンザゾール化合物(A)〜(I)等が挙げられる。
【0051】
前記ベンザゾール化合物は、常法により容易に調製できる。例えば、ベンゼン環の1位,2位,4位および5位に各々アミノ基、水酸基またはチオール基等が置換したベンゼン誘導体(例えば、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジチオールなど)に対して、ハロゲン原子を有するカルボキシル基含有化合物(例えば、4−ブロモ安息香酸、4−ブロモメチル安息香酸、4−ブロモフェニル酢酸など)を反応させて縮合させればよい。この方法によれば、用いるベンゼン誘導体とカルボキシル基含有化合物との組み合わせを適宜変更することで、所望の構造のベンザゾール化合物を合成することができる。このとき、ベンゼン誘導体とカルボキシル基含有化合物との使用割合は、理論的にはベンゼン誘導体1モルに対してカルボキシル基含有化合物が2モルとなるようにすればよく、通常は、ベンゼン誘導体1モルに対してカルボキシル基含有化合物1.5モル以上、2.8モル以下とするのが好ましく、より好ましくは1.8モル以上、2.5モル以下、さらに好ましくは1.9モル以上、2.2モル以下である。なお、この反応は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、溶媒としては、ポリリン酸、脱水N−メチル−2−ピロリドン、脱水N,N−ジメチルホルムアミド、脱水ジメチルスルホキシド等を用いることができるが、中でもポリリン酸を用いると、収率良くベンザゾール化合物を得られるので好ましい。溶媒としてポリリン酸を用いる場合、その濃度は、オルトリン酸に換算して110〜120質量%のものが好ましく、112〜116質量%のものがより好ましい。110質量%未満のポリリン酸では収率が低くなる傾向があり、120質量%を超えるポリリン酸は粘稠で操作が困難になる虞がある。反応は、温度は通常40℃以上、200℃以下の範囲で設定するのが好ましく、より好ましくは50℃以上、150℃以下である。反応時の加熱は、所定の温度まで一段で昇温することもできるが、2段階に分けて昇温すると、収率良くベンザゾール化合物を得られる点で好ましい。
【0052】
前記カップリング反応で原料とするオリゴチオフェンは、所望する発光性化合物の移送部位となるオリゴチオフェン構造の片末端にトリアルキルスズ基を導入し、もう一方の末端には水素原子を導入した化合物であり、具体的には、例えば、実施例で後述するオリゴチオフェン(J)〜(M)等が挙げられる。これらオリゴチオフェンは公知化合物であり、例えば「Synthetic Metals」、2001年、第119巻、p67−p68に記載された方法に従い適宜合成することができる。
【0053】
前記ベンザゾール化合物と前記オリゴチオフェンとのカップリング反応は、不活性ガス雰囲気下、溶媒中に触媒を共存させて加熱還流することにより行うことができる。触媒としては、例えば、Pd(PPh32Cl2、Pd(PPh34、Pd2(dba)3、(dba)2Pd、PdCl2、(C65CN)2PdCl2、Pd(dppf)2Cl2、Pd(OAc)2、Pd(C1714O)2等のパラジウム触媒に塩化リチウム等のリチウム化合物を併用するか、CuCl、CsF等を用いることができる(ここで、「Ph」はフェニルを意味し、「dba」はジベンジリデンアセトンを意味し、「dppf」はジフェニルホスフィノフェロセンを意味し、「Ac」はアセチルを意味するものとする)。触媒の使用量は、適宜設定すればよいが、例えば、前記ベンザゾール化合物1モルに対して、0.01モル%以上20モル%以下が好ましく、より好ましくは0.02モル%以上18モル%以下、さらに好ましくは0.03モル%以上16モル%以下が好ましい。触媒使用量が0.01モル%未満であると、目的物の収率が低下する虞があり、一方20モル%を超えて使用しても、それ以上の触媒効果は見込めず反応コストの点で不利となる傾向がある。反応溶媒としては、クロロベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を用いることができる。反応温度は、適宜設定すればよく、溶媒に応じて加熱還流可能な温度とするか、もしくは室温付近の温度とすることが好ましい。かかるカップリング反応により、ベンザゾール構造の両端にオリゴチオフェン分子鎖が結合した発光性化合物が生成する。カップリング反応後の生成物は、例えば適当な有機層に抽出して取り出した後、カラムクロマトグラフィー等により分離精製すればよい。
【0054】
本発明の発光性化合物の合成方法は、上述したカップリング反応で得られた生成物(ベンザゾール構造の両端にオリゴチオフェン分子鎖が結合した発光性化合物)のオリゴチオフェン分子鎖をさらに延長する工程を含んでいてもよい。オリゴチオフェン分子鎖を延長するには、上述した1段目のカップリング反応の後、得られた生成物にさらにハロゲン化合物(例えば臭素化合物であれば、N−ブロモこはく酸イミド、臭素、テトラブチルアンモニウムトリブロミド、過臭素酸等)を反応させてオリゴチオフェン分子鎖の末端にハロゲン原子を導入し、次いでこれを、1段目のカップリング反応と同様、片末端にトリアルキルスズ基を有する所定のオリゴチオフェンとともに溶媒中、触媒の存在下で加熱還流することにより2段目のカップリング反応を行えばよい。このようにしてカップリング反応を繰り返すことにより、発光性化合物のオリゴチオフェン分子鎖を任意の長さに延長できる。なお、各段のカップリング反応で用いるオリゴチオフェンは同じであってもよいが、例えば各段のカップリング反応で異なるオリゴチオフェンを用いれば、オリゴチオフェン分子鎖を所望の構造および長さに設計することができる。
【0055】
以上のようにして合成された発光性化合物(前記式(3)におけるQ1およびQ2は水素原子)には、オリゴチオフェン分子鎖の末端のチオフェン環のアルファ位に、電極と接続するための接続部位(例えば、−SCN基、−SH基、−SCOCH基、−SCCHCH基、−SCHCHCN基、−SCHCHSi(CH基、−SeOH基、−TeOH基、−COOH基、および−OH基からなる群より選ばれる1種)を導入することができる。接続部位の導入方法としては、導入しようとする置換基の種類に応じて適宜常法を採用すればよく、例えば−SCOCH基は「Chemistry Letters」、2000年、p570−p571などに記載された公知の方法に従い、容易に導入できる。また、例えば−SCHCHCN基を導入する場合であれば、発光性化合物(前記式(3)におけるQ1およびQ2は水素原子)の両末端をn−ブチルリチウム等によってリチオ化し、次いでBuSnCl等と反応させることにより両末端をトリブチルスズ化し、その後、4−(2−シアノエチルチオ)ブロモベンゼンをカップリング反応させることにより、−SCHCHCN基を導入できる。発光性化合物の両末端をリチオ化する際の反応は、例えば、不活性ガス雰囲気下、テトラヒドロフラン等の溶媒中で行うことが好ましく、また必要に応じて、n−ブチルリチウム等を反応させる前に、予め、発光性化合物に対してハロゲン化合物(例えばN−ブロモこはく酸イミド、臭素、テトラブチルアンモニウムトリブロミド、過臭素酸等)を反応させて、両末端をブロモ化しておいてもよい。なお、4−(2−シアノエチルチオ)ブロモベンゼンは公知化合物であり、例えば、「Organic Letters」、2001年、第3巻、p271−p273に記載された公知の方法に従い合成できる。
【0056】
なお、上記接続部位が末端に保護基を有するもの(例えば、−SCN基、−SCOCH基、−SCCHCH基、−SCHCHCN基、−SCHCHSi(CH基など)である場合には、接続部位を導入した発光性化合物を電極との接続に供する際に、例えば強塩基(好ましくは、リチウムジイソプロピルアミドとテトラヒドロフランとの混合溶媒、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネンなど)により保護基を外す脱保護化処理を施し、チオレート等に変換することが望ましい。
【0057】
本発明の発光性化合物は、例えば従来の積層型分子発光デバイスに適用することもできるが、本発明の発光性化合物は上述したように単一分子発光デバイスに求められる特性を具備したものであるので、以下に説明するような単一分子発光デバイスに用いることが望ましい。
【0058】
本発明の単一分子発光デバイスは、上記本発明の発光性化合物が単一分子でナノギャップを有する一対の電極間を接続しているものである。
図1に単一分子発光デバイスの主要部(電極間部分)を模式的に示す。図1において、発光性化合物1は、その接続部位1cを介して電子注入側電極2および正孔注入側電極3と接続されている。この接続部位1cと各電極2、3との接続は、化学結合によりなされている。
【0059】
電子注入側電極2と正孔注入側電極3との距離は5nm以上100nm以下であることが好ましく、より好ましくは7nm以上60nm以下、さらに好ましくは9nm以上30nm以下である。
電子注入側電極2および正孔注入側電極3は、例えば、金、銀、シリコン等で構成されており、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。各電極2、3の厚みは、特に制限されないが、通常0.1nm以上100nm程度、好ましくは1nm以上20nm以下程度である。
【0060】
上記の単一分子発光デバイスを作製するには、例えば、接続部位を備えた本発明の発光性化合物を適当な溶媒(例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフランなど)に所定の濃度で溶解させた溶液(電極結合溶液)を調製し、かかる電極結合溶液を一対の電極間に供給した後、溶媒を除去すればよい。電極結合溶液の供給手段は、例えば一対の電極間に電極結合溶液を滴下するか、一対の電極を電極結合溶液中に一定時間浸漬するなど、適宜選択すればよく特に限定されない。電極結合溶液の濃度は、0.5μmol/L以上、100mmol/L以下、好ましくは1μmol/L以上、90mmol/L以下、より好ましくは5μmol/L以上、80mmol/L以下である。一対の電極を電極結合溶液中に浸漬する場合の、浸漬時間は、0.1〜48時間程度、好ましくは0.2〜36時間程度、より好ましくは0.5〜24時間程度である。溶媒の除去は、特に制限されないが、例えば、窒素気流下、室温で行うことが好ましい。また、接続部位を備えた本発明の発光性化合物を電極に向けて真空蒸着させることによっても、単一分子発光デバイスを作製することができる。
【実施例】
【0061】
ベンザゾール化合物の調製
(製造例1−ベンザゾール化合物(A)の調製)
ポリリン酸(オルトリン酸換算で濃度116質量%)58.5gに、アルゴン雰囲気下、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン四塩酸塩4.0gと、4−ブロモ安息香酸5.8gとを加え、60℃で30分間攪拌した後、さらに120℃で5時間撹拌した。得られた反応液を水5L中へ投入し再沈させて、粉末を吸引ろ過により取り出した。この粉末を水で十分に洗浄した後、真空乾燥して、表1に示すベンザゾール化合物(A)を得た。
【0062】
(製造例2−ベンザゾール化合物(B)の調製)
ポリリン酸(オルトリン酸換算で濃度116質量%)58.5gに、アルゴン雰囲気下、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン四塩酸塩4.0gと、4−(ブロモメチル)安息香酸6.2gとを加え、60℃で30分間攪拌した後、さらに120℃で5時間撹拌した。得られた反応液を水5L中へ投入し再沈させて、粉末を吸引ろ過より取り出した。この粉末を水で十分に洗浄した後、真空乾燥して、表1に示すベンザゾール化合物(B)を得た。
【0063】
(製造例3−ベンザゾール化合物(C)の調製)
製造例1で得たベンザゾール化合物(A)4.7gに、アルゴン雰囲気下、N,N−ジメチルホルムアミド300mLを加え、室温でしばらく撹拌した後、水素化ナトリウム0.5gを加えた。その後、1−ヨードブタン3.7gとN,N−ジメチルホルムアミド30mLとの混合液を滴下して、室温で17時間撹拌した後、水5L中へ投入し再沈させて、白色固体を得た。この白色固体5.0gにメタノール100mLを加えて加熱還流した後、室温まで冷却し、析出した固体を吸引ろ過して、表1に示すベンザゾール化合物(C)を得た。
【0064】
(製造例4−ベンザゾール化合物(D)の調製)
製造例1で得たベンザゾール化合物(A)4.7gに、アルゴン雰囲気下、N,N−ジメチルホルムアミド300mLを加え、室温でしばらく撹拌した後、水素化ナトリウム0.5gを加えた。その後、1−ヨードドデカン5.9gとN,N−ジメチルホルムアミド30mLとの混合液を滴下して、室温で17時間撹拌した後、水5L中へ投入し再沈させて、白色固体を得た。この白色固体5.0gにメタノール100mLを加えて加熱還流した後、室温まで冷却し、析出した固体を吸引ろ過して、表1に示すベンザゾール化合物(D)を得た。
【0065】
(製造例5−ベンザゾール化合物(E)の調製)
ポリリン酸(オルトリン酸換算で濃度116質量%)58.5gに、アルゴン雰囲気下、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン四塩酸塩4.0gと、4−ブロモフェニル酢酸6.2gとを加え、60℃で30分間攪拌した後、さらに120℃で5時間撹拌した。この反応液を水5L中へ投入し再沈させて、粉末を吸引ろ過より取り出した。この粉末を水で十分に洗浄した後、真空乾燥した。次に、この粉末5.0gに、アルゴン雰囲気下、N,N−ジメチルホルムアミド300mLを加え、室温でしばらく撹拌した後、水素化ナトリウム0.5gを加えた。その後、1−ヨードブタン3.7gとN,N−ジメチルホルムアミド50mLとの混合液を滴下して、室温で17時間撹拌した後、吸引ろ過して得られた母液を水5L中へ投入し再沈させて、白色固体を得た。この白色固体6.95gにメタノール100mLを加えて加熱還流した後、室温まで冷却し、析出した固体を吸引ろ過して、表1に示すベンザゾール化合物(E)を得た。
【0066】
(製造例6−ベンザゾール化合物(F)の調製)
ポリリン酸(オルトリン酸換算で濃度116質量%)58.5gに、アルゴン雰囲気下、4,6−ジアミノレゾルシノール・二塩酸塩3.0gと、4−ブロモ安息香酸5.8gとを加え、60℃で30分間攪拌した後、さらに120℃で5時間撹拌した。この反応液を水5L中へ投入し再沈させて、粉末を吸引ろ過より取り出した。この粉末を水で十分に洗浄した後、真空乾燥して、表1に示すベンザゾール化合物(F)を得た。
【0067】
(製造例7−ベンザゾール化合物(G)の調製)
ポリリン酸(オルトリン酸換算で濃度116質量%)58.5gに、アルゴン雰囲気下、4,6−ジアミノレゾルシノール・二塩酸塩3.0gと、4−ブロモフェニル酢酸6.2gとを加え、60℃で30分間攪拌した後、さらに120℃で5時間撹拌した。得られた反応液を水5L中へ投入し再沈させて、粉末を吸引ろ過より取り出した。この粉末を水で十分に洗浄した後、真空乾燥して、表1に示すベンザゾール化合物(G)を得た。
【0068】
(製造例8−ベンザゾール化合物(H)の調製)
ポリリン酸(オルトリン酸換算で濃度116質量%)58.5gに、アルゴン雰囲気下、2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジチオール二塩酸塩3.4gと、4−ブロモ安息香酸5.8gとを加え、60℃で30分間攪拌した後、さらに120℃で5時間撹拌した。得られた反応液を水5L中へ投入し再沈させて、粉末を吸引ろ過より取り出した。この粉末を水で十分に洗浄した後、真空乾燥して、表1に示すベンザゾール化合物(H)を得た。
【0069】
(製造例9−ベンザゾール化合物(I)の調製)
ポリリン酸(オルトリン酸換算で濃度116質量%)58.5gに、アルゴン雰囲気下、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン四塩酸塩4.0gと、5−ブロモ−2−ピリジンカルボン酸5.9gとを加え、60℃で30分間攪拌した後、さらに120℃で5時間撹拌した。得られた反応液を水5L中へ投入し再沈させて、粉末を吸引ろ過より取り出した。この粉末を水で十分に洗浄した後、真空乾燥した。次いで、得られた粉末5.0gに、アルゴン雰囲気下、N,N−ジメチルホルムアミド300mLを加え、室温でしばらく撹拌した後、水素化ナトリウム0.5gを加えた。その後、1−ヨードドデカン5.9gとN,N−ジメチルホルムアミド50mLとの混合液を滴下して、室温で17時間撹拌した後、水5L中へ投入し再沈させて、白色固体を得た。この白色固体5.0gにメタノール100mLを加えて加熱還流した後、室温まで冷却し、析出した固体を吸引ろ過して、表1に示すベンザゾール化合物(I)を得た。
【0070】
【表1】
【0071】
オリゴチオフェンの調製
表2に示すオリゴチオフェン(J)〜(M)を「Synthetic Metals」、2001年、第119巻、p67−p68に記載された方法に従い調製した。
【0072】
【表2】
【0073】
(実施例1)
アルゴン雰囲気下、ベンザゾール化合物(A)23mgと、オリゴチオフェン(J)262mgと、さらに触媒としてパラジウム触媒(Pd(PPhCl)3mgおよび塩化リチウム4mgとをフラスコに加えた後、クロロベンゼン3mLを注入し、3時間145℃で加熱還流した。その後、反応溶液にジエチルエーテルおよび飽和食塩水を加えて分液操作を行い、有機層を分離し、回収した有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させた。その後、溶媒を留去し、残留物をカラムクロマトグラフィー (シリカゲル:富士シリシア化学製「NH−DM1020」を使用、溶出液:トルエン/酢酸エチル=1/1(v/v))を用いて分離精製して、油状物質を得た。
次いで、得られた油状物質90mgと、N−ブロモこはく酸イミド11mgとを5mLバイアルに入れ、テトラヒドロフラン1mLを加えて溶かした後、空気中、−10℃に保ち、145分間撹拌した。その後、溶媒を留去し、残留物にジエチルエーテルおよび飽和食塩水を加えて分液操作を行い、有機層を分離し、回収した有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させた。
【0074】
次に、乾燥した有機層に、アルゴン雰囲気下、オリゴチオフェン(K)263mgと、さらに触媒としてパラジウム触媒(Pd(PPhCl)2mgおよび塩化リチウム9mgとを加えた後、クロロベンゼン10 mLを注入し、5時間135℃で加熱還流した。その後、反応溶液にジエチルエーテルおよび飽和食塩水を加えて分液操作を行い、有機層を分離し、回収した有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させた。その後、溶媒を留去し、残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:富士シリシア化学製「NH−DM1020」を使用、溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=19/1(v/v)からヘキサン/酢酸エチル=4/1(v/v)まで徐々に極性を上げていった)で分離精製し、さらに得られた油状物質をGPCカラム(日本分析工業製「JAIGEL−2H」)を用いてリサイクル分取(装置:日本分析工業製「LC−9201」、溶出液:トルエン)して、下記に示す構造を有する発光性化合物(N)を得た。
【0075】
【化10】
【0076】
(実施例2)
実施例1において、ベンザゾール化合物(A)に代えてベンザゾール化合物(B)25mgを用いたこと以外は、実施例1と同様にリサイクル分取の手前まで操作して(GPCカラムによるリサイクル分取は行わない)、GPCカラムによるリサイクル分取に供する前の油状物質(ベンザゾール化合物(B)の両端に6量体からなるオリゴチオフェン分子鎖が結合した化合物)を得た。
得られた油状物質100mgと、N−ブロモこはく酸イミド11mgとを5mLバイアルに入れ、テトラヒドロフラン2mLを加えて溶かした後、空気中、−10℃に保ち、145分間撹拌した。その後、溶媒を留去し、残留物にジエチルエーテルおよび飽和食塩水を加えて分液操作を行い、有機層を分離し、回収した有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させた。
【0077】
次に、乾燥した有機層に、アルゴン雰囲気下、オリゴチオフェン(K)263mgと、さらに触媒としてパラジウム触媒(Pd(PPhCl)2mgおよび塩化リチウム9mgとを加えた後、クロロベンゼン10 mLを注入し、5時間135℃で加熱還流した。その後、反応溶液にジエチルエーテルおよび飽和食塩水を加えて分液操作を行い、有機層を分離し、回収した有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥させた。その後、溶媒を留去し、残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:富士シリシア化学製「NH−DM1020」を使用、溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=19/1(v/v)からヘキサン/酢酸エチル=4/1(v/v)まで徐々に極性を上げていった)で分離精製し、さらに得られた油状物質をGPCカラム(日本分析工業製「JAIGEL−2H」)を用いてリサイクル分取(装置:日本分析工業製「LC−9201」、溶出液:トルエン) して、下記に示す構造を有する発光性化合物(O)を得た。
【0078】
【化11】
【0079】
(実施例3)
実施例1において、ベンザゾール化合物(A)に代えてベンザゾール化合物(C)29mgを用い、オリゴチオフェン(J)に代えてオリゴチオフェン(L)313mgを用い、オリゴチオフェン(K)に代えてオリゴチオフェン(M)318mgを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、下記に示す構造を有する発光性化合物(P)を得た。
【0080】
【化12】
【0081】
(実施例4)
実施例2において、ベンザゾール化合物(B)に代えてベンザゾール化合物(D)40mgを用い、オリゴチオフェン(J)に代えてオリゴチオフェン(L)313mgを用い、オリゴチオフェン(K)に代えてオリゴチオフェン(M)318mg(×2回)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、下記に示す構造を有する発光性化合物(Q)を得た。
【0082】
【化13】
【0083】
(実施例5)
実施例3において、ベンザゾール化合物(C)に代えてベンザゾール化合物(E)30mgを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、下記に示す構造を有する発光性化合物(R)を得た。
【0084】
【化14】
【0085】
なお、実施例5で得られた発光性化合物(5)の1Hスペクトルデータは、以下の通りであった。
1H-NMR (400 MHz, テトラヒドロフラン-d8) ; −0.23 (s, 12H), −0.16 (s, 12H), −0.13 (s, 120H), 0.38 (s, 12H), 0.40 (s, 12H), 0.44 (s, 12H), 0.45 (s, 120H), 0.60-076 (m, 96H), 0.83-0.89 (m, 78H), 1.27 (br s, 436H), 1.57−1.80 (m, 52H), 2.62−2.70 (m, 48H), 4.13 (br s, 4H), 4.46 (br s, 4H), 6.96 (d, J = 5.1 Hz, 2H), 7.10−7.15 (m, 21H), 7.25 (s, 2H), 7.35 (d, J = 5.1 Hz, 2H), 7.40 (d, J = 7.8 Hz, 4H), 7.57 (d, J = 7.8 Hz, 4H), 9.15 (s, 1H).
MALDI−TOFMS (DIT) m/z 11222.81 (M+)
【0086】
(実施例6)
実施例4において、ベンザゾール化合物(D)に代えてベンザゾール化合物(E)30mg(×2回)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、下記に示す構造を有する発光性化合物(S)を得た。
【0087】
【化15】
【0088】
(実施例7)
実施例3において、ベンザゾール化合物(C)に代えてベンザゾール化合物(F)24mgを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、下記に示す構造を有する発光性化合物(T)を得た。
【0089】
【化16】
【0090】
(実施例8)
実施例3において、ベンザゾール化合物(C)に代えてベンザゾール化合物(G)25mgを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、下記に示す構造を有する発光性化合物(U)を得た。
【0091】
【化17】
【0092】
(実施例9)
実施例3において、ベンザゾール化合物(C)に代えてベンザゾール化合物(H)25mgを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、下記に示す構造を有する発光性化合物(V)を得た。
【0093】
【化18】
【0094】
(実施例10)
実施例4において、ベンザゾール化合物(D)に代えてベンザゾール化合物(I)40mgを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、下記に示す構造を有する発光性化合物(W)を得た。
【0095】
【化19】
【0096】
(実施例11〜20)
上記実施例1〜10で得られた発光性化合物(N)〜(W)を用いて、一対の金電極間を接続し、単一分子発光デバイスを作製する。
すなわち、まず、各実施例で得られた発光性化合物を、不活性ガス雰囲気下、テトラヒドロフラン中で、N−ブロモこはく酸イミドと反応させてブロモ化した後、n−ブチルリチウムと反応させることにより、各発光性化合物の両末端(オリゴチオフェン分子鎖の末端)のチオフェン環のアルファ位をリチオ化する。次いで、BuSnClを添加することにより、両末端をトリブチルスズ化させた後、4−(2−シアノエチルチオ)ブロモベンゼンを加えてカップリング反応させ、各発光性化合物の両末端に接続部位として−SCHCHCN基を導入する。なお、4−(2−シアノエチルチオ)ブロモベンゼンは、「Organic Letters」、2001年、第3巻、p271−p273に記載された方法に従い調製することとする。
【0097】
次に、上記で得られた接続部位を導入した各発光性化合物に、ジアザビシクロウンデセンを加えることにより両末端のシアノエチル基を脱保護化してチオレートに変換した後、発光性化合物が10μmol/Lの濃度となるように溶媒(クロロベンゼン)中に溶解させて電極結合溶液を調製する。この電極結合溶液に、電極間の距離が表3に示す通りである一対の金電極を一定時間浸漬した後、窒素気流下、室温で溶媒を除去することで、単一分子発光デバイスを作製する。
【0098】
【表3】
【符号の説明】
【0099】
1 発光性化合物
1a 発光部位
1b 移送部位
1c 接続部位
2 電子注入側電極
3 正孔注入側電極
図1