特許第5741893号(P5741893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5741893
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】カムシャフト装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/04 20060101AFI20150611BHJP
   F01L 1/356 20060101ALI20150611BHJP
   F16C 21/00 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   F01L1/04 D
   F01L1/356 E
   F16C21/00
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-198015(P2010-198015)
(22)【出願日】2010年9月3日
(65)【公開番号】特開2012-52512(P2012-52512A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2013年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137062
【弁理士】
【氏名又は名称】五郎丸 正巳
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和生
(72)【発明者】
【氏名】上野 弘
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 功雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 寛規
【審査官】 安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−106114(JP,A)
【文献】 特開2009−019728(JP,A)
【文献】 特表2007−527968(JP,A)
【文献】 特開2006−30067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/04
F01L 1/356
F16C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
シャフト本体と、前記シャフト本体の軸方向に沿って設けられた複数のカムとを備え、前記ハウジング内を挿通するカムシャフトと、
複数の歯部を有し、前記カムシャフトの中心軸線まわりに回転可能に当該カムシャフトに取り付けられた歯車と、
前記複数の歯部を含みかつ前記中心軸線に直交する平面内に配設された転がり軸受と、前記転がり軸受と前記軸方向に隣接して配設されたすべり軸受とを備え、前記ハウジング内において、前記カムシャフトを回転可能に支持する複数の軸受と、
前記ハウジングと前記転がり軸受および前記すべり軸受との間に配置され、前記転がり軸受および前記すべり軸受を支持する支持部材と、
前記歯車および前記カムシャフトの位相を変化させるための油圧式のバルブタイミング機構とを含み、
前記歯車には、動力を伝達するための伝動部材が掛け渡されており、
記歯車は、前記転がり軸受に対して前記すべり軸受の軸方向反対側に設けられ、前記中心軸線を中心とする円筒状の周壁部を含み、当該周壁部の軸方向一方側の端部に前記複数の歯部が設けられており、
前記すべり軸受および前記支持部材に、前記バルブタイミング機構に前記シャフト本体内を通して油を供給/排出するための油通路、前記すべり軸受および前記支持部材の双方を径方向に貫通して形成されている、カムシャフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のカムを有するカムシャフトと、このカムシャフトを回転可能に支持する軸受とを含むカムシャフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車エンジンの吸排気弁を作動させるためのカムが軸方向に複数個設けられたカムシャフトが知られている。カムシャフトには、当該カムシャフトに動力を付与するチェーンを掛け渡すためのスプロケットが取り付けられている。
従来のカムシャフトは、その外周面が、エンジンのハウジング内に固定された複数のすべり軸受のそれぞれによって直接的に支持されている(たとえば特許文献1)。
【0003】
しかしながら、この場合、すべり摩擦による回転摺動抵抗の増大により、カムシャフトの高トルク化が生じ易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−220417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、すべり軸受を、転がり軸受(深溝玉軸受)に置き換えた構造のカムシャフト装置を検討している。転がり軸受の採用により、カムシャフトの回転摺動摩擦を低減させることができるので低トルク化を図ることができる。しかしながら、カムシャフトを支持するすべての軸受を転がり軸受とすると、構造が複雑になるおそれがある。
そこで、この発明の目的は、カムシャフト装置の構成を複雑化することなく、カムシャフトの低トルク化を実現することができ、これにより、燃費効率の向上を図ることができるカムシャフト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、ハウジング(20)と、シャフト本体(7)と、前記シャフト本体の軸方向に沿って設けられた複数のカム(19A,19B,19C,19D,19E,19F)とを備え、前記ハウジング内を挿通するカムシャフト(4)と、複数の歯部(71)を有し、前記カムシャフトの中心軸線(C)まわりに回転可能に当該カムシャフトに取り付けられた歯車(9)と、前記複数の歯部を含みかつ前記中心軸線に直交する平面内に配設された転がり軸受(15)と、前記転がり軸受と前記軸方向に隣接して配設されたすべり軸受(17)とを備え、前記ハウジング内において、前記カムシャフトを回転可能に支持する複数の軸受(15,16,17,18)と、前記ハウジングと前記転がり軸受および前記すべり軸受との間に配置され、前記転がり軸受および前記すべり軸受を支持する支持部材と、前記歯車および前記カムシャフトの位相を変化させるための油圧式のバルブタイミング機構(11)とを含み、前記歯車には、動力を伝達するための伝動部材(6)が掛け渡されており、前記歯車は、前記転がり軸受に対して前記すべり軸受の軸方向反対側に設けられ、前記中心軸線を中心とする円筒状の周壁部(32)を含み、当該周壁部の軸方向一方側の端部に前記複数の歯部が設けられており、前記すべり軸受および前記支持部材に、前記バルブタイミング機構に前記シャフト本体内を通して油を供給/排出するための油通路(47,48,43,44)が、前記すべり軸受および前記支持部材の双方を径方向に貫通して形成されている、カムシャフト装置(1)である。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。以下、この項において同じ。
この構成によれば、転がり軸受と、この転がり軸受に軸方向に隣接して配設されたすべり軸受とを含む複数の軸受によって、カムシャフトが回転可能に支持されている。歯車に巻き掛けられる伝動部材の荷重は、カムシャフトにおける、歯車の複数の歯を含みかつカムシャフトの中心軸線と直交する平面上の部分に集中して作用する。この部分に転がり軸受が配設されている。カムシャフトにおける伝動部材の荷重を主に受ける部分を、回転摺動摩擦の小さい転がり軸受で支持するので、これにより、カムシャフト装置の低トルク化を図ることができる。
【0008】
また、転がり軸受に隣接してすべり軸受が配設されている。これら転がり軸受およびすべり軸受の双方によってカムシャフトを支持するので、カムシャフト装置の低トルク化をより一層図ることができる。
以上により、カムシャフト装置の構成を複雑化することなく、カムシャフトの低トルク化を実現することができる。これにより、自動車の燃費効率の向上を図ることができる。
【0009】
また、シャフト本体の軸方向に沿って、バルブタイミング機構、転がり軸受およびすべり軸受がこの順で配置されている。バルブタイミング機構には、すべり軸受の流通孔からの油が、シャフト本体内を通って供給/排出されている。すべり軸受が転がり軸受に隣接しているので、シャフト本体内に形成される油流通用の通路(50,54)の軸方向距離を短くすることができる。
なお、前記伝動部材としてチェーンが採用される場合には、前記歯車としてスプロケットを採用することができる
【0011】
また、1つの支持部材が転がり軸受およびすべり軸受の双方を支持するので、支持部材の部品点数を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るカムシャフト装置が適用された吸気カムシャフト装置が搭載されるタイミングチェーン機構の構成を示す側面図である。
図2図1に示す吸気カムシャフト装置の構成を示す断面図である。
図3図2の切断面線III−IIIから見た断面図である。
図4】第1転がり軸受、第1すべり軸受および押さえキャップの構成を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るカムシャフト装置が適用された吸気カムシャフト装置1が搭載されるタイミングチェーン機構2の構成を示す図である。タイミングチェーン機構2は、クランクシャフト(図示しない)と、吸気カムシャフト(カムシャフト)4と、排気カムシャフト5と、これらクランクシャフト、吸気カムシャフト4および排気カムシャフト5間に動力を伝達するための伝動部材としてのタイミングチェーン6とを備えており、内燃機関としての自動車用エンジン(図示しない。たとえば4気筒直列エンジン)内に搭載されている。
【0014】
クランクシャフトの先端部(図1では紙面に直交する方向の手前側の端部)にはクランク用スプロケット8が固定されている。吸気カムシャフト4の先端部(図1では紙面に直交する方向の手前側の端部)には吸気カム用スプロケット(歯車)9が固定されている。排気カムシャフト5の先端部(図1では紙面に直交する方向の手前側の端部)には排気用スプロケット10が固定されている。これら3つのスプロケット8,9,10間に1本のタイミングチェーン6が掛け渡されている。言い換えれば、タイミングチェーン機構2は、吸気カムシャフト4および排気カムシャフト5を1本のタイミングチェーン6で駆動するシングルステージチェーンである。
【0015】
クランクシャフトの回転駆動に伴ってタイミングチェーン6が所定の一方向(図1で示す時計回り)に回転するとともに、このタイミングチェーン6の回転に伴って、吸気カムシャフト4および排気カムシャフト5がそれぞれ回転するようになっている。吸気カムシャフト4には、吸気バルブ(図示しない)の開閉タイミング(以下、「バルブタイミング」という)を変更するための可変バルブタイミング(以下、「VVT」という)機構11が設けられている。具体的には、VVT機構11は油圧を用いて吸気カムシャフト4と吸気カム用スプロケット9との間の位相を変化させ、これにより吸気バルブの開閉タイミングを変更する。
【0016】
また、タイミングチェーン機構2は、タイミングチェーン6の張り側と当接するチェーンガイド12と、タイミングチェーン6の弛み側を内側に向けて押圧して、タイミングチェーン6にテンションを付与するテンション付与アーム13とを備えている。
図2は、吸気カムシャフト4を含む吸気カムシャフト装置1の構成を示す断面図である。
【0017】
吸気カムシャフト装置1は、自動車用エンジンのハウジング20内に回転可能に収容されている。
吸気カムシャフト装置1は、吸気カムシャフト4と、吸気カムシャフト4の両端部を回転可能に支持する第1転がり軸受15および第2転がり軸受16と、吸気カムシャフト4を、第1および第2転がり軸受15,16の間で回転可能に支持する第1すべり軸受17および第2すべり軸受18とを備えている。第1転がり軸受15と第1すべり軸受17とが軸方向に隣接して配置されている。吸気カムシャフト4は、直線状のシャフト本体7と、このシャフト本体7の軸方向に沿って設けられた複数のカム19A〜19Fとを有している。シャフト本体7は、円柱状または円筒状の軸体である。カム19A〜19Fは、シャフト本体7とは別材に形成されており、シャフト本体7に外嵌固定されている。なお、図2に示すカムシャフト4では、シャフト本体7とカム19A〜19Fとが組み立てにより一体化されているが、吸気カムシャフト4が鋳造により一体的に形成されていてもよい。
【0018】
図2に示す吸気カムシャフト装置1では、一方向側(図2で示す左側)から順に第1カム19A、第2カム19B、第3カム19C、第4カム19D、第5カム19Eおよび第6カム19Fの合計6個のカム19A〜19Fが取り付けられている。第1および第2カム19A,19Bはエンジンの第1気筒(図示しない)用のカムであり、第3カム19Cはエンジンの第2気筒(図示しない)用のカムであり、第4カム19Dは、エンジンの第3気筒(図示しない)用のカムであり、第5および第6カム19E,8Fは、エンジンの第4気筒(図示しない)用のカムである。
【0019】
第1転がり軸受15としてたとえば深溝玉軸受が採用されている。第1転がり軸受15は、吸気カムシャフト4に外嵌固定される内輪21と、エンジンのハウジング20の内周に内嵌固定された外輪22とを備えている。内輪21には、複数の転動体23が転動するための内輪軌道溝24(図4参照)が形成されている。外輪22には、複数の転動体23が転動するための外輪軌道溝25(図4参照)が形成されている。内輪21と外輪22との間には、一列に配列された複数の転動体23が介在されている。
【0020】
第2転がり軸受16としてたとえば深溝玉軸受が採用されている。第2転がり軸受16は、吸気カムシャフト4に外嵌固定される内輪26と、エンジンのハウジング20の内周に内嵌固定された外輪27とを備えている。内輪26には、複数の転動体28が転動するための内輪軌道溝29が形成されている。外輪22には、複数の転動体28が転動するための外輪軌道溝30が形成されている。内輪26と外輪27との間には、一列に配列された複数の転動体28が介在されている。
【0021】
また、第1すべり軸受17は、一対の略半円状の押さえキャップ(支持部材)41,42を介してハウジング20に固定支持されている。この一対の押さえキャップ41,42は、第1すべり軸受17だけではなく第1転がり軸受15をも固定支持するものである。押さえキャップ41および押さえキャップ42は、吸気カムシャフト4、第1すべり軸受17および第1転がり軸受15を挟み込んだ状態で、治具(図示しない)によって互いに連結されている。第1転がり軸受15および第1すべり軸受17という2つの軸受を一対の押さえキャップ41,42を用いて支持するので、これにより、押さえキャップの部品点数を低減させることができる。
【0022】
第2すべり軸受18は、シャフト本体7における第3カム19Cの取付け位置と第4カム19Dの取付け位置との間の部分を支持している。
前述の説明では、シャフト本体7を円柱体または円筒体としたが、具体的には、シャフト本体7における第2カム19Bの取付け位置と第3カム19Cの取付け位置との間の部分、およびシャフト本体7における第4カム19Dの取付け位置と第5カム19Eの取付け位置との間の部分は、シャフト本体7における他の部分よりもやや小径にされている。
【0023】
VVT機構11は、吸気カム用スプロケット9のハウジングをなすスプロケットアッシ31を備えている。スプロケットアッシ31は、吸気カム用スプロケット9のハウジングとVVT機構11のハウジングとを兼ねている。スプロケットアッシ31は、吸気カムシャフト4における第1転がり軸受15よりも前方(図2に示す左側)の部分の周囲を取り囲むように配置されている。言い換えれば、シャフト本体7の軸方向に沿って、VVT機構11(主として後述するロータ34)、第1転がり軸受15および第1すべり軸受17が前方(図2に示す左側)からこの順で配置されていることになる。スプロケットアッシ31は後方(図2に示す右側)が開放する有底円筒状をなしている。より詳しくは、スプロケットアッシ31は、円筒状の周壁部32と、周壁部32の前端面(図2に示す左側の端面)を閉塞する底面部33とを備えている。
【0024】
周壁部32の後端面(図2に示す右端面)に円環状の吸気カム用スプロケット9が設けられている。吸気カム用スプロケット9は、図2に示すようにスプロケットアッシ31に一体的に形成されていてもよいし、別体に形成されていてもよい。吸気カム用スプロケット9は吸気カムシャフト4の中心軸線Cまわりに回転する。吸気カム用スプロケット9の歯部71(図3参照)は、当該吸気カム用スプロケット9の外周面に形成されている。
【0025】
スプロケットアッシ31は、全体として、後方(図2に示す右側)が開放する有底円筒状をなしている。VVT機構11は、スプロケットアッシ31内に収容され、中心軸線Cまわりに回転可能に設けられたロータ34を備えている。ロータ34はボルト(図示しない)の締結により吸気カムシャフト4に固定されている。VVT機構11はロータ34をエンジンの油圧により回転駆動することにより、吸気カム用スプロケット9と、ロータ34により固定された吸気カムシャフト4との間の位相を変化させる。
【0026】
図3は、図2の切断面線III−IIIから見た断面図である。VVT機構11のロータ34は、当該ロータ34の回転中心に位置し、吸気カムシャフト4に固定される円環状部35と、円環状部35の外周に扇状に形成された複数(たとえば3つ)のベーン36とを備えている。
スプロケットアッシ31は、円筒状の周壁部32の全周にわたって周壁部32の内周面から吸気カムシャフト4の径方向内方に向けて突出する複数の突状部37を備えている。この状態で、各突状部37の内周面は、円環状部35の外周面に摺接している。隣接する一対の突状部37同士の間は凹部38を構成している。各ベーン36は各凹部38内に収容されている。この状態で、各ベーン36の外周面は周壁部32の内周面に摺接している。各ベーン36によって各凹部38は2つの圧力室に仕切られている。具体的には、各凹部38における、吸気カムシャフト4に対し回転方向と反対側には進角側油圧室40が形成される。各凹部38における、吸気カムシャフト4に対し回転方向側には遅角側油圧室39が形成されている。進角側油圧室40および遅角側油圧室39には、それぞれ油が供給されるようになっている。ベーン36は、これら各油圧室39,40に供給された油の油圧の大きさに応じた量だけ、吸気カムシャフト4の中心軸線Cまわりに双方向に回動する。
【0027】
図4は、第1転がり軸受15、第1すべり軸受17および押さえキャップ41,42の構成を拡大して示す断面図である。以下、図2図4を適宜参照して説明する。
図4に示すように、第1転がり軸受15は、吸気カム用スプロケット9の回転面と同一の面上に配置されている。言い換えれば、第1転がり軸受15は、複数の歯部71(図3参照)を含みかつ中心軸線Cに直交する平面P(図4参照)内に位置している。そして、その第1転がり軸受15の軸方向後方(図4で示す右側)に隣接して第1すべり軸受17が配置されている。
【0028】
一方の押さえキャップ41には、進角キャップ油流通路(油通路)43が、その内外周面を貫通して形成されている。進角キャップ油流通路43には進角側油圧通路P1の一端部が接続されている。またこの押さえキャップ41には、遅角キャップ油流通路(油通路)44が、その内外周面を貫通して形成されている。遅角キャップ油流通路44には遅角側油圧通路P2の一端部が接続されている。
【0029】
第1すべり軸受17には進角キャップ油流通路43の形成位置に対応する部分に、第1すべり軸受17の内周面と外周面とを径方向に貫通する進角軸受油路(油通路)47が形成されている。進角軸受油路47は、周方向のほぼ全域に延びて形成されている。また、第1すべり軸受17には遅角キャップ油流通路44の形成位置に対応する部分に、第1すべり軸受17の内周面と外周面とを径方向に貫通する遅角軸受油路(油通路)48が形成されている。遅角軸受油路48は、周方向のほぼ全域に延びて形成されている。遅角軸受油路48は進角軸受油路47に対し、中心軸線Cまわりに回転方向に90°ずれている。
【0030】
吸気カムシャフト4の外周面には進角軸受油路47に対応する位置に第1外周側油流通口49が形成されている。また、吸気カムシャフト4の先端部には、各進角側油圧室40に臨む位置に各第1先端側油流通口(図示しない)が形成されている。吸気カムシャフト4内には、第1外周側油流通口49と第1先端側油流通口とを接続する進角側シャフト油路(油流通用の通路)50が形成されている。進角側シャフト油路50は、第1外周側油流通口49から径方向に沿って吸気カムシャフト4の中心軸線C付近の所定の第1位置まで延びる第1径方向路51と、第1径方向路51の端部(中心軸側端部)と第1先端側油流通口を接続し、軸方向に沿って延びる第1軸方向路52とを備えている。
【0031】
遅角軸受油路48に対応する位置に第2外周側油流通口53が形成されている。また、吸気カムシャフト4の先端部には、各遅角側油圧室39に臨む位置に各第2先端側油流通口(図示しない)が形成されている。吸気カムシャフト4内には、各第2外周側油流通口53と第2先端側油流通口とを接続する遅角側シャフト油路(油流通用の通路)54が形成されている。遅角側シャフト油路54は、第2外周側油流通口53から径方向に沿って吸気カムシャフト4の中心軸線C付近の所定の第2位置まで延びる第2径方向路55と、第2径方向路55の端部(中心軸側端部)と第2先端側油流通口を接続し、軸方向に沿って延びる第2軸方向路56とを備えている。
【0032】
第1すべり軸受17が第1転がり軸受15に隣接配置されているので、軸受油路47,48を有する第1すべり軸受17とVVT機構11との軸方向位置が近い。これにより、シャフト本体7内に形成されるシャフト油路50,54の軸方向距離を短くすることができる。
前述のように、押さえキャップ41の外周面における進角キャップ油流通路43が開口する部分には、進角側油圧通路P1の一端部が接続されている。また、押さえキャップ41の外周面における遅角キャップ油流通路44が開口する部分には、遅角側油圧通路P2の一端部が接続されている。
【0033】
進角側油圧通路P1の他端部および遅角側油圧通路P2の他端部は、それぞれオイルコントロールバルブ(以下、「OCV」という)60に接続されている。また、油圧室39,40に対して供給される油を貯留するためのオイルパン61には、油が循環する循環配管62の上流端および下流端が接続されている。循環配管62は、OCV60を経由してオイルパン61へと再び戻っている。循環配管62の途中部には、オイルパン61に溜められている油を、汲み出すためのオイルポンプ64が介装されている。また、循環配管62の上流端には、濾過器63が介装されている。
【0034】
OCV60は、複数のポートを有するケーシングを備えている。これら複数のポートには、それぞれ進角側油圧通路P1の一端、遅角側油圧通路P2の一端、循環配管62の上流側部分の下流端および循環配管62の下流側部分の上流端が接続されている。ケーシング内には、弁体を有するスプール(図示しない)が移動可能に収容されている。また、ケーシングには、スプールを移動させるためのたとえば電磁ソレノイドからなる駆動部が内蔵されている。駆動部は、エンジンの運転状態を統括制御するECU70によって制御される。
【0035】
エンジンの運転に伴ってオイルポンプ64が駆動されると、オイルパン61に貯留されている油は濾過器63を介してオイルポンプ64内に吸引されるとともに、同オイルポンプ64により加圧されて吐出される。そして、吐出された油はOCV60において、進角側油圧通路P1、遅角側油圧通路P2または循環配管62における下流側部分へ選択的に圧送される。
【0036】
このときECU70が駆動部に対する通電を停止しているときは、進角側油圧通路P1内と循環配管62における上流側部分の内部との間が連通するとともに、遅角側油圧通路P2内と循環配管62における下流側部分の内部との間が連通する。その結果、オイルポンプ64から吐出された油は、循環配管62における上流側部分、進角側油圧通路P1、進角キャップ油流通路43、進角軸受油路47および進角側シャフト油路50を通って進角側油圧室40に供給される。また、遅角側油圧室39内の油は、遅角側シャフト油路54、遅角軸受油路48、遅角キャップ油流通路44、遅角側油圧通路P2および循環配管62における下流側部分を通って、オイルパン61に戻される。
【0037】
また、ECU70が駆動部を100%のデューティ比で駆動しているときは、進角側油圧通路P1内と循環配管62における下流側部分の内部との間が連通するとともに、遅角側油圧通路P2内と循環配管62における上流側部分の内部との間が連通する。その結果、オイルポンプ64から吐出された油は、循環配管62における下流側部分、遅角側油圧通路P2、遅角キャップ油流通路44、遅角軸受油路48および遅角側シャフト油路54を通って遅角側油圧室39に供給される。また、進角側油圧室40内の油は、進角側シャフト油路50、進角軸受油路47、進角キャップ油流通路43、進角側油圧通路P1および循環配管62における上流側部分を通って、オイルパン61に戻される。
【0038】
進角側油圧室40に油が供給されるとともに、遅角側油圧室39内の油が遅角側油圧室39から排出されると、各ベーン36(ロータ34)が吸気カムシャフト4の回転方向と同方向に相対回動するようになる。各ベーン36の回転により、進角側油圧室40が拡大するとともに、遅角側油圧室39が縮小する。これにより、吸気カムシャフト4の回転位相が吸気カム用スプロケット9に対して進められ、バルブタイミングが早められる。
【0039】
一方、遅角側油圧室39に油が供給されるとともに、進角側油圧室40内の油が進角側油圧室40から排出されると、各ベーン36(ロータ34)が吸気カムシャフト4の回転方向と同方向に相対回動するようになる。各ベーン36の回転により、遅角側油圧室39が拡大するとともに、進角側油圧室40が縮小する。これにより、吸気カムシャフト4の回転位相が吸気カム用スプロケット9に対して遅れ、バルブタイミングが遅らされることとなる。
【0040】
以上によりこの実施形態によれば、第1転がり軸受15と、第1転がり軸受15に軸方向に隣接して配設されたすべり軸受17とを含む複数の軸受15〜18によって、吸気カムシャフト4が回転可能に支持されている。吸気カム用スプロケット9に掛け渡されるタイミングチェーン6のチェーン荷重は、吸気カムシャフト4における、吸気カム用スプロケット9の複数の歯を含みかつ吸気カムシャフト4の中心軸線Cと直交する平面上の部分に集中して作用する。吸気カムシャフト4における、タイミングチェーン6のチェーン荷重を主に受ける部分を回転摺動摩擦の小さい第1転がり軸受15で支持するので、これにより、吸気カムシャフト装置1の低トルク化を図ることができる。
【0041】
また、第1転がり軸受15に隣接して第1すべり軸受17が配設されている。これら第1転がり軸受15および第1すべり軸受17の双方によって吸気カムシャフト4を支持するので、吸気カムシャフト装置1の低トルク化をより一層図ることができる。
したがって、吸気カムシャフト装置1の構成を複雑化することなく、吸気カムシャフト4の低トルク化を実現することができる。これにより、自動車の燃費効率の向上を図ることができる。
【0042】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は他の形態でも実施することができる。
たとえば、第1転がり軸受15として深溝玉軸受を採用したが、アンギュラ玉軸受など他のラジアル玉軸受であってもよい。また、玉軸受でなくころ軸受を採用することもできる。
【0043】
また、キャップ油流通路43,44は、押さえキャップ42に設けられてもよいし、押さえキャップ41,42に1つずつ設けられていてもよい。
伝動部材としてタイミングチェーン6が採用される場合には、回転部材としてスプロケット(吸気カム用スプロケット)9が採用されるが、伝動部材としてタイミングベルトが採用される場合には、回転部材としてたとえばタイミングプーリを採用することもできる。
【0044】
また、本発明を、排気カムシャフト5に適用することもできる。すなわち、排気カムシャフト5における排気カム用スプロケットの回転面と同一の面上に配置された転がり軸受と、第1転がり軸受15に軸方向に隣接配置されたすべり軸受とによって、排気カムシャフト5を支持させてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…吸気カムシャフト装置(カムシャフト装置)、4…吸気カムシャフト(カムシャフト)、6…タイミングチェーン(伝動部材)、7…シャフト本体(シャフト本体)、9…吸気カム用スプロケット(歯車)、11…VVT機構(バルブタイミング機構)、15…第1転がり軸受、16…第2転がり軸受、17…第1すべり軸受、18…第2すべり軸受、19A…第1カム、19B…第2カム、19C…第3カム、19D…第4カム、19E…第5カム、19F…第6カム、32…周壁部、41…押さえキャップ(支持部材)、42…押さえキャップ(支持部材)、43…進角キャップ油流通路(油流通路)、44…遅角キャップ油流通路(油流通路)、47…進角軸受油路(流通孔)、48…遅角軸受油路(流通孔)、50…進角側シャフト油路(油流通用の通路)、54…遅角側シャフト油路(油流通用の通路)、71…歯部、C…中心軸線
図1
図2
図3
図4