【実施例1】
【0038】
図1から
図3を参照しながら本発明の実施例1を説明する。
図1は本発明の実施例1に係る樹脂成形品が平板形状の場合の金型キャビティと樹脂成形品との型締め時の弾性変形を示す概略縦断面図である。
図1(a)左側が、固定金型と可動金型とが型合わせされた型締力が付与される前の状態の金型キャビティで、
図1(a)右側が型締力により弾性変形している金型キャビティを示す。
図1(b)左側が、
図1(a)の金型キャビティで成形される平板形状の樹脂成形品の仕様形状で、右側が実際に成形される平板形状の樹脂成形品の形状を示す。
図2は本発明の実施例1に係る樹脂成形品が凸形状(凹形状)の場合の金型キャビティと樹脂成形品との型締め時の弾性変形を示す概略縦断面図である。
図2(a)左側が、固定金型と可動金型とが型合わせされた型締力が付与される前の状態の金型キャビティで、
図2(a)右側が型締力により弾性変形している金型キャビティを示す。
図2(b)左側が、
図1(a)の金型キャビティで成形される凸形状(凹形状)の樹脂成形品の仕様形状で、右側が実際に成形される凸形状(凹形状)の樹脂成形品の形状を示す。
図3は本発明の実施例1に係る射出成形方法の型締力及び型開量の制御系の動作説明図である。
【0039】
最初に、
図1を参照しながら、樹脂成形品が平板形状の場合の型締力に対する金型キャビティの弾性変形量及び樹脂成形品の許容変形量について説明する。
図1(a)左側に示すように、固定金型7と可動金型8とが型合わせされて、平板形状の樹脂成形品10を成形するための金型キャビティ10aが形成されている。これは、金型に型締力が付与されておらず、金型が型合わせされただけで弾性変形していない状態を示す。この状態において、金型キャビティ10a内のある1点20における金型キャビティ厚みは、金型キャビティ10aの型開閉方向の最端部の一方に接する平面でかつ金型分割面に平行な平面20aから、ある1点20を通って、平面20aと対向する金型キャビティ面20bまでの型開閉方向の距離T(矢印)で表す。平板形状の樹脂成形品を成形する金型キャビティなのでその型開閉方向の金型キャビティ厚みは一定であり、金型キャビティ10a内のどの点においても金型キャビティ厚みはTである。これを前提に型締力に対する金型キャビティの弾性変形量について説明する。
【0040】
実施例1において、射出成形機の型締装置はトグル式型締装置とする。型合わせされた金型にある型締力が付与されると、金型及び金型取付盤は先に説明したようにタイバー間で湾曲するように弾性変形するので、金型キャビティ10aも
図1(a)右側に示すように弾性変形する。この状態における金型キャビティ10a内のある1点20における金型キャビティ厚みを、金型キャビティ10aの型開閉方向の最端部の一方に接する平面でかつ金型分割面に平行な平面20aから、ある1点20を通って、平面20aと対向する金型キャビティ面20bまでの型開閉方向の距離T
1’(矢印)で表す。先に説明したように型開閉方向の弾性変形量は金型キャビティ10a内で均等でないため、例えば違う点20’の金型キャビティ厚みはT
2’(矢印)となる。ここで、ある1点20における金型キャビティ10aの金型キャビティ厚みの変位量THをT
1’−Tとする。型締力が付与される前の金型キャビティ厚みTは一定であるが、型締め後の金型キャビティ厚みT’はT
1’、T
2’と様々な数値になるため、金型キャビティ厚みの変位量THも様々な値になる。変位量THの数値は型開閉方向の弾性変形量の大きな金型キャビティ10aのタイバー近傍部分や金型の剛性が低い部分で大きくなる。よって、本発明においては、ある型締力に対する金型キャビティ形状の変形をこの弾性変形による金型キャビティ厚みの変位量THのうち最も大きな変位量TH
MAXで定義し、ある型締力に対する金型キャビティの弾性変形量と呼称する。よって、型締力に対する金型キャビティの弾性変形量の関係とは、型締力を変化させた場合のそれら型締力に対する金型キャビティの弾性変形量の変化を意味する。
【0041】
ある型締力が付与された場合の金型キャビティの弾性変形による変形は3次元で定義された方がより正確にその変形を定義することができる。しかしながら、これらの変形を3次元で定義すれば、樹脂成形品の許容変形量において品質管理値の1つとしてこれを規定すること自体が複雑な作業となることは先に説明したとおりである。よって、金型キャビティの変形量を表す弾性変形量が、主として型開閉方向の変形であることに着目して、金型キャビティの変形が金型キャビティの弾性変形量として、上記のような弾性変形による金型キャビティ厚みの変位量THのうち最も大きな変位量TH
MAXで定義されれば、簡略な1次元の数値で定義されるので、樹脂成形品の許容変形量において品質管理値の1つとしてこれを規定することが容易であり、それぞれの変形をこの定義により求められた1次元の数値で直接比較することができる。また、金型キャビティ10a内のある1点20における金型キャビティ厚みを、単純にそのある点20における型開閉方向の距離とせず、すべての点において一方のみ共通する基準面(20a)としたのは、樹脂成形品の許容変形量との相関性を鑑みたものであり、詳細は後述する。
【0042】
続いて、樹脂成形品の許容変形量について説明する。
図1(b)左側は、平板形状の樹脂成形品10の仕様形状である。この状態において、樹脂成形品10内のある1点30における樹脂成形品10の厚みは、樹脂成形品10が成形される金型キャビティ10aの型開閉方向の最端部の一方に接する平面でかつ金型分割面に平行な平面30aから、ある1点30を通って、平面30aと対向する樹脂成形品表面30bまでの平面30aに垂直な方向の距離t(矢印)で表す。これを仕様厚みと呼称する。平板形状の樹脂成形品なのでその仕様厚みは一定であり、樹脂成形品10内のどの点であっても樹脂成形品厚みは仕様厚みtである。本樹脂成形品10と本樹脂成形品10が成形される金型キャビティ10aとの関係は、金型設計時に考慮されるべき冷却固化収縮等の樹脂成形品仕様からの変更点を除けば、形状及び寸法は同一と考えて良い。(すなわちT=t)これを前提に樹脂成形品の許容変形量について説明する。
【0043】
金型にある型締力が付与されて、金型キャビティ10aが
図1(a)右側に示すように弾性変形すると、その変形した金型キャビティ10a内で成形される樹脂成形品10も
図1(b)左側に示す仕様形状ではなく、
図1(a)右側に示す弾性変形した金型キャビティ10aの形状と同じ
図1(b)右側に示す形状で成形される。
図1(b)右側の2点鎖線は樹脂成形品10の仕様形状を示す。この状態における樹脂成形品10内のある1点30における樹脂成形品厚みも、樹脂成形品10が成形される金型キャビティ10aの型開閉方向の最端部の一方に接する平面でかつ金型分割面に平行な平面30aから、ある1点30を通って、平面30aと対向する樹脂成形品表面30bまでの平面30aに垂直な方向の距離t
1’(矢印)で表す。先に説明したように、型開閉方向の弾性変形量と同様に、樹脂成形品厚みも樹脂成形品10内で均等でないため、例えば違う点30’の樹脂成形品厚みはt
2’(矢印)となる。ここで、ある1点30における樹脂成形品10の厚みと仕様厚みtとの厚み誤差thをt
1’−tとする、樹脂成形品の仕様厚みtは一定であるが、型締め後のt’はt
1’、t
2’と様々な数値になるため、樹脂成形品10の厚み誤差thも様々な値になる。よって、本発明においては、樹脂成形品に許容される変形をこの厚み誤差thのうち最も大きな厚み誤差th
MAXで定義し、樹脂成形品の許容変形量と呼称する。この樹脂成形品の変形の定義は、樹脂成形品の製造業者において樹脂成形品の品質管理項目の1つとして一般的である。
【0044】
樹脂成形品の変形も3次元で定義された方がより正確にその変形を定義することができる。しかしながら、先に説明した金型キャビティの弾性変形による変形と同様に、樹脂成形品に許容される変形が、樹脂成形品の許容変形量として上記のような樹脂成形品の仕様厚みに対する実成形品の厚み誤差thのうち最も大きな厚み誤差th
MAXで定義されれば、簡略な1次元の数値での定義なので、品質管理値の1つとしてこれを規定することが容易である。また、金型キャビティ10a内のある1点20における金型キャビティ厚みを、単純にそのある点20における金型厚み方向の距離とせず、すべての点において一方のみ共通する基準面(20a)としたのは、金型キャビティの変形の定義を、樹脂成形品の製造業者において樹脂成形品の品質管理項目の1つとして一般的な、先に説明した樹脂成形品の変形の定義と実質的に同一にするためであり、それぞれの変形をこの定義により求められた1次元の数値で直接比較することができるからである。
【0045】
次に、
図2を参照しながら、樹脂成形品が凸形状(凹形状)の場合の型締力に対する金型キャビティの弾性変形量及び樹脂成形品の許容変形量について説明する。”凸形状(凹形状)”と表記したのは、意匠面が凸側、凹側のいずれであるかにより、いずれの形状としても定義できるためである。基本的に樹脂成形品が平板形状の場合の型締力に対する金型キャビティの弾性変形量及び樹脂成形品の許容変形量とそれぞれの定義は同じなので、相違点のみ説明する。
図2(a)左側に示すように、固定金型7’と可動金型8’とが型合わせされて、凸形状(凹形状)の樹脂成形品10’を成形するための金型キャビティ10a’が形成されている。この状態において、平板形状の樹脂成形品10の場合は、金型キャビティ10a内のすべての点で金型キャビティ10aの型開閉方向の距離Tは同じであるが、凸形状(凹形状)の樹脂成形品の場合は、金型キャビティ10a’型開閉方向の最端部の一方に接する平面でかつ金型分割面に平行な平面40aから、ある1点40を通って、平面40aと対向する金型キャビティ面40bまでの型開閉方向の距離T
1(矢印)が、別の点40’においては距離T
2(矢印)となるように一定ではない。実際の樹脂成形品においては、先に説明したような理想的な平板形状の樹脂成形品はほとんどなく、このように基準となる平面40aからの型開閉方向の距離が一定でない形状の樹脂成形品がほとんどである。この
図2(a)左側で示す状態から、金型にある型締力が付与されて、金型キャビティ10a’が弾性変形すると
図2(a)右側に示す状態になる。(T
1→T
1’、T
2→T
2’)この金型キャビティ10a’の弾性変形により、凸形状(凹形状)の樹脂成形品10’も
図2(b)左側に示す仕様形状ではなく
図2(b)右側に示す形状で成形される。ある1点における金型キャビティの金型キャビティ厚み、この金型キャビティ厚みの金型の弾性変形前後の変位量TH、ある型締力に対する金型キャビティ形状の変形をこの変位量THのうち最も大きな変位量TH
MAXで定義し、ある型締力に対する金型キャビティの弾性変形量と呼称すること等、金型キャビティの変形に係る内容については先に説明したとおりなので説明は割愛する。
【0046】
凸形状(凹形状)の樹脂成形品の場合も、それを成形する金型キャビティ10a’と同様に仕様厚みt(t
1、t
2)は一定ではない。ある1点における樹脂成形品10の仕様厚み、この仕様厚みtとの厚み誤差th、樹脂成形品に許容される変形をこの厚み誤差thのうち最も大きな厚み誤差th
MAXで定義し、樹脂成形品の許容変形量と呼称すること等、樹脂成形品の変形に係る内容についても先に説明したとおりなので割愛する。
【0047】
以上説明したように、樹脂成形品の形状によらず、金型キャビティ及び樹脂成形品のそれぞれの変形が、形状内のある1点における、共通基準面からその1点を通る共通基準面と対向する形状面までの変形前後の厚み方向の距離の相違量の最大値で定義されれば、それぞれの変形が同一の簡略な1次元の数値で定義されるので、それぞれの変形をこの定義により求められた1次元の数値で直接比較することができる。
【0048】
次に、
図3他を参照しながら本発明の実施例1に係る射出成形方法を説明する。まず、射出成形の準備工程について
図7を参照しながら説明する。成形対象は、平板形状の樹脂成形品10とする。成形する平板形状の射出成形品10、射出成形品10の許容変形率を含む各種品質管理許容値、固定金型7及び可動金型8とからなる成形用金型及び使用する射出成形機1が決定された後、最初に、使用する樹脂、射出成形品10、成形用金型及び射出成形機1の仕様等から、樹脂成形品10の冷却固化収縮量を算出する。次に、市販の射出成形用シュミレーションソフト等を活用し、これら仕様から得られる成形条件を入力し、型締力を変えながら金型キャビティの弾性変形を解析し、金型キャビティに係る型締力に対する弾性変形量の関係を求める。このとき、金型キャビティ及び樹脂成形品の共通するある点における金型キャビティの型開閉方向の弾性変形量と樹脂成形品の厚み方向の変形量も同時に解析しておけば、後述する補正において有効に活用できる。求められた金型キャビティに係る型締力に対する弾性変形量の関係は、射出成形機の制御装置に記憶させ、射出成形機の制御プログラムで使用可能な状態にさせておく。この解析において、後述する保圧工程における型締力緩和制御は考慮する必要はない。
【0049】
次に、
図3及び
図5を参照しながら、実際の射出成形方法について説明する。
図3は本発明の実施例1に係る射出成形方法の型締力及び型開量の制御系の動作説明図である。
図5(a)に示すように、固定金型7と可動金型8とが組み合わされて形成される金型キャビティ10aに、固定金型7に配置された樹脂流路7aを介して射出ユニット9から溶融樹脂10bが射出充填される射出充填工程が行われる。型締力0〜Fの間で設定される型締力F‘で型閉じされている金型キャビティに射出充填して、充填樹脂圧力と型締力F’のバランスによって金型を距離Sだけ微小型開きさせる射出圧縮成形方法の射出充填工程が
図3に示すB‘−B1−B2−Cのラインである。また、予め距離Sだけ微小型開きさせた金型に射出充填する射出プレス成形方法の射出充填工程が
図3に示すA’−A−Cのラインである。それぞれの成形方法の実際の射出充填開始点は、前者がB1、後者がAである。なお本実施例では射出圧縮成形方法と射出プレス成形方法における微小型開量Sは、便宜的に両者同じとした。本発明の射出充填工程においては、成形する樹脂成形品に基づき予め算出された冷却固化収縮量が加算された樹脂量が射出充填されるので、金型キャビティ内の樹脂の冷却固化が進行し樹脂容積が収縮しても、圧縮工程から保圧工程を経て型開きされるまで、金型キャビティが隙間なく樹脂で満たされるため、金型を介して金型キャビティ内の樹脂に均等に型締力(圧縮力)を付与させることができることは先に説明したとおりである。尚、射出圧縮成形方法及び射出プレス成形方法は、射出充填時に金型を距離Sだけ微小型開きさせる方法が相違するがその目的は同じあることについても先に説明したとおりであり、詳細な説明は割愛する。
【0050】
次に、
図3のC−Kのラインで示すように、射出充填工程の途中から圧縮工程が開始される。(射出充填工程が完了してから開始される場合もある。)
図5(b)に示すように、距離Sだけ微小型開きされた状態から、図示しない型締装置により可動金型8が固定金型7側へ型閉じされ、金型厚みLの型合わせ状態になり、金型キャビティ10aも正規の金型キャビティ厚みl(エル)として形成される。これは、
図3の圧縮工程中の成形時間軸との交点Kで表され、金型に型締力はまだ付与されていない。金型キャビティ10a内の溶融樹脂10bは、充填樹脂圧力によってではなく、この圧縮工程開始時の型締装置による可動金型8の固定金型7側への型閉じ動作による金型キャビティの容積減少によって、金型キャビティ10a内に充填されるため、射出ユニット9の射出充填圧力による充填と比較して、金型キャビティ内の溶融樹脂の流動抵抗を低下させることができ、溶融樹脂内圧力分布の不均等化を抑制した状態で圧縮工程へと移行させることができることは先に説明したとおりである。
【0051】
圧縮工程は、
図3のC−KのラインからK−D−Eのラインで示すように継続される。
図5(b)に示す型合わせ状態(
図3のK点)からそのまま金型に型締力を付与させ型締状態にさせると金型に付与される型締力は大きくなり、
図5(c)に示すように、最終的に樹脂成形品10の賦形に必要な第1型締力Fに到達し(
図3のD点)圧縮工程中維持される。(
図3のE点)また、型締力の付与に伴い金型は型開閉方向に圧縮され弾性変形し、型締力が第1型締力Fに到達した時点で、金型厚みはLからL’(L>L’)となり、金型キャビティ10aの金型キャビティ厚みもlからl’(l>l’)となる。実際には、樹脂成形品10及び金型キャビティ10aは、
図5(c)のように型開閉方向に均等に圧縮され弾性変形するのではなく、
図1、
図2、
図7、
図8に示すようにタイバー間で湾曲するように弾性変形することは先に説明したとおりである。この圧縮工程の第1型締力Fの大きさは、樹脂成形品10及び成形用金型等の仕様及び成形条件等により適宜、好適なものが選択されればよい。
【0052】
次に、
図3のE−F−Gのラインで示すように、圧縮工程に引き続いて保圧工程が行われる。一般的な射出圧縮成形方法及び射出プレス成形方法においては、
図3のE−g−iのライン(破線)で示すように、圧縮工程(第1型締力F)をそのまま継続し保圧工程となし樹脂成形品10を冷却固化させることは先に説明したとおりである。本発明においては、特許文献1から特許文献4のような、成形中の型締力(圧縮力)を緩和させる様々な型締力緩和制御方法に対して、保圧工程中に、樹脂成形品10の賦形に必要な第1型締力Fが所定の第2型締力fまで減圧される型締力緩和制御が行われる。この、所定の第2型締力fまで減圧される型締力緩和制御によって、特許文献1から特許文献4のような樹脂内残留応力緩和効果の向上に加えて、この第2型締力fが、予め解析によって求められた、型締力に対する金型キャビティの弾性変形量の関係に基づき、型締め時の金型の弾性変形量が樹脂成形品の許容変形率以下になる型締力なので、
図3のF−Gで示す保圧工程の最終段階では、金型キャビティの弾性変形量、すなわち金型キャビティの変形量が樹脂成形品の許容変形量以下になり、その金型キャビティ内で成形される樹脂成形品の歪み量や変形量をその許容変形量以下にすることができる。
【0053】
この圧縮工程から保圧工程への切り替えは、金型キャビティ内の溶融樹脂内圧力を低下させ、スキン層内部のまだ流動性を有する溶融樹脂を移動させ樹脂内残留応力を緩和し、冷却固化進行に伴い凝固収縮する樹脂成形品の各部位に流動可能な樹脂を供給するために、また、金型に型締力を付与させることにより金型キャビティ内の樹脂成形品と金型キャビティ内面との密着性を維持させて、金型を介した樹脂成形品の冷却を進行させ成形サイクルタイムを短縮させるために、樹脂成形品10の樹脂が非晶性樹脂の場合はガラス転移点温度以上の状態、結晶性樹脂の場合は結晶化温度以上の状態で開始させる必要がある。また、ASTM D648等で樹脂毎に規定される熱変形温度に到達した後、所定時間経過してから保圧工程を完了させることで、金型キャビティの弾性変形量が樹脂成形品の許容変形量以下に固定された状態で製品取り出しを行うことができる。ここで、保圧工程の完了タイミング、すなわち、熱変形温度に到達した後の所定時間は、型締力緩和制御の効果と製品を取り出した後の製品自重などによる変形防止及び成形サイクルタイムのバランスを鑑みて、適時、好適な時間が選択される。
【0054】
本発明は使用される樹脂について特に指定はなく、射出圧縮成形方法や射出プレス成形方法に使用可能であれば、成形される樹脂成形品の用途、形状、コスト等の仕様を満たす好適な樹脂が適宜選択されれば良い。具体的には、非晶性樹脂としては、PC(ポリカーボネート)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル(アクリル)樹脂)、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂)等があり、結晶性樹脂としては、POM(ポリオキシメチレン(アセタール)),PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PA(ポリアミド)等がある。
【0055】
次に、
図3のG−Hラインで示すように、保圧工程に引き続いて、平板形状の樹脂成形品10が可動金型8に保持されて型開きされる型開き/製品取出工程を示す。その
図5(e)に示すように、型開き後、可動金型8に配置された図示しない製品押出手段により、可動金型8より押し出され、図示しない製品取出手段により金型外へ搬出されることは先に説明したとおりである。
【実施例2】
【0056】
図4を参照しながら本発明の実施例2を説明する。
図4は本発明の実施例2に係る射出成形方法の型締力及び型開量の制御系の動作説明図である。実施例2における実施例1との相違点は、実施例1における
図3のE−F−Gのラインで示す保圧工程の内、E−Fのラインで示す線形で減圧するのではなく、
図4のE−e1〜e4−Fのラインで示す3段のステップ状に減圧する点と、
図3のF−Gのライン間で
図4のh1−h2−h3のラインで示す微小型開きが行われる点の2点である。それ以外の構成要件や射出成形方法は実施例1と基本的に同じため、
図4中の射出充填工程等、C点以前のラインの表示は省略し、実施例1との相違点についてのみ説明する。
【0057】
図4のC−K−D−Eのラインで示す圧縮工程に引き続いて保圧工程が行われる。実施例2では、最終的に減圧される第2型締力fは実施例1と同じであるが、保圧工程を、型締力F1(F>F1)まで減圧させる保圧1(E−e1−e2)、型締力F2(F1>F2)まで減圧させる保圧2(e2−e3−e4)、第2型締力f(F2>f)まで減圧させる保圧3(e4−F−h1)のように、減圧を3段のステップ状としている。ここで、保圧工程において行われる型締力緩和制御の減圧を複数のステップ状とすること自体に大きな意味はない。減圧を複数のステップ状とすることにより、第1型締力Fから第2型締力fまでの減圧を単なる線形での直線的な減圧ではなく、各ステップの減圧値、到達タイミング、維持時間等を詳細に設定することによって、2次曲線のような曲線状に近似される減圧工程を選択することができることに意味がある。例えば、
図4に示すような減圧が3段のステップ状であっても、各型締力F1〜F3を均等ではなく、F1まで大きめに減圧して型締力F2から型締力F3を小さめに減圧することにより2次曲線のような減圧が可能になる。また、各ステップのe1、e3、f1のタイミングも不均等にして、各型締力の保持時間e1−e2、e3−e4、F−f1も不均等にすれば、更に2次曲線に近い減圧が可能になる。このように、第1型締力Fから第2型締力fまでの減圧を複数のステップ状とすることにより、最適な型締力緩和制御が、冷却固化に進行に伴い刻々と変化する複雑な減圧であっても、各ステップ数及びそれぞれの変位点(開始点及び終了点)を任意に設定することで、より最適な曲線状の型締力緩和制御に近付けることができる。また、複雑な型締力緩和制御であっても、それを各ステップの変位点等(開始点及び終了点)で設定されれば、型締力緩和制御の設定・変更・管理が容易でかつ他の射出成形機や複数の射出成形機でも再現できる。
【0058】
次に、保圧工程の最終段階で、
図4のh1−h2−h3のラインで示すように、金型を距離S’だけ型開きさせる微小型開きが行われる。通常、型締状態で金型キャビティ内が樹脂で満たされ、その樹脂に小さくても所定の型締力が付与されていれば、金型キャビティ内の樹脂成形品と金型キャビティ内面との密着性と均等な型締力付与状態とが維持されて、金型を介した樹脂成形品の冷却が型開きまで継続される。この冷却が継続されている途中で
図5(e)に示すように、樹脂成形品10が可動金型8に保持された状態で型開き限まで型開きを行うと、樹脂成形品の固定金型7側のみが一気に常温下で大気放冷される。この型開きの時点において、金型キャビティ内の樹脂成形品は冷却固化がほぼ完了しているとは言え比較的高い温度を維持している。そのため、可動金型8に保持された樹脂成形品10内には、金型を介して冷却されている可動金型8側と、型開きにより一気に常温下で大気放冷される固定金型7側とで型開閉方向に急激な温度勾配が発生することになる。樹脂成形品10の型開閉方向の厚みや金型に対する製品投影面積によっては、この発生した型開閉方向の温度勾配が、成形後の歪みや変形を誘引する可能性もある。
【0059】
そこで、保圧工程の最終段階で、型開きする直前に
図4のh1−h2−h3のラインで示すような、金型を距離S’だけ型開きさせる微小型開きが行われると、以下に示すような型締力緩和制御の2つの波及効果を得ることができる。1つは、樹脂成形品にかかる型締力(圧縮力)を完全に開放することによって、金型キャビティの弾性変形量を完全にゼロにして、該弾性変形による樹脂成形品の残留応力を最小にすることができる。もう1つは、微小型開きにより樹脂成形品と金型キャビティとの間に微小隙間を形成させ、(ただし金型キャビティは密閉状態を維持している状態)この微小隙間を空気層として樹脂成形品と金型キャビティと間の伝熱を遮断させるとともに、樹脂成形品の熱量により該空気層が高い温度で維持されることにより、樹脂成形品は金型キャビティ内でアニール処理(応力除去のための熱処理)されて、その残留応力の多くを除去することができる。ここで、微小型開きさせるタイミングと微小型開き量とによってアニール処理効果の程度が決まる。例えば、保圧工程の早いタイミングで微小型開きさせると、樹脂成形品の熱量が大きいのでアニール処理効果も大きいが、樹脂成形品の冷却保持時間も長く設定することが必要になるので、アニール処理効果と成形サイクルタイムのバランスを鑑みて、微小型開きのタイミングと微小型開き量S’は適宜好適なものが選択されることは言うまでもない。
【0060】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できる。実施例1及び実施例2において、型締力に対する金型キャビティの弾性変形量を、市販の射出成形用シュミレーションソフト等を活用し、これら仕様から得られる成形条件を入力し、型締力を変えながら金型キャビティの弾性変形を解析し、金型キャビティに係る型締力に対する弾性変形量の関係を求めるとしたが、樹脂成形品及びその樹脂成形品が成形される金型キャビティの形状が単純な場合や、樹脂成形品が比較的小さく、型締め時の金型キャビティの変形が樹脂成形品の変形に及ぼす影響が少ない場合等においては、型締力に対する金型キャビティの弾性変形量の関係を、解析によってではなく、先に説明したように金型を無垢の金属製立方体と想定して計算により概算で求めたり、金型キャビティの形状を実際の形状より簡略化して解析の負荷を小さくした上で求めたりして、その関係に基づき本発明が実施されても良い。更に、型締力に対する金型キャビティの弾性変形量の関係を求める簡易的な方法として、タイバー全てに、その型締力(延び量)を検出するセンサを配置させ、ダミーブロック等を使用して全てのタイバーに掛かる型締力(延び量)が均一になるよう調整した上で、実際の金型を型締力Fで型締めした際の全てのタイバーで検出される延び量の相違をその金型の金型分割面における型開閉方向の弾性変形量分布の相違とみなし、この相違の割合が樹脂成形品の仕様厚みと許容厚みとの割合以下となる型締力をfとして、型締力をFからfに減圧する型締力緩和制御を行っても良い。
【0061】
また、実施例1及び実施例2において、型締力に対する金型キャビティの弾性変形量の関係は、予め、コンピュータや市販の解析ソフトウエア等を使用した解析によって求めるため、実際の成形による結果と解析による結果とが相違する場合も考えられる。そのため、その相違が所定量以上で、樹脂成形品の変形量がその許容変形量を超えて問題となるような場合に備えて、解析時に金型キャビティ及び樹脂成形品の共通するある点における金型キャビティの型開閉方向の弾性変形量と樹脂成形品の厚み方向の変形量も同時に解析しておけば、ある点における解析によって求められた樹脂成形品の厚み誤差thと、実際の射出成形によって成形された樹脂成形品の同じある点における厚み誤差実測値th’とを比較することができる。この比較を定期的に行えば、解析の信頼性を維持することができる。また、この比較の結果、その相違が所定量以上で、樹脂成形品の変形量がその許容変形量を超えて問題となるような場合、th=th’となるように、補正する項目を予め規定しておけば、そのような相違の要因追求に時間や費用を掛けることなく、補正内容を明確にした状態で本発明を実施することができる。この補正する項目は、型締力に対する金型キャビティの弾性変形量の関係を求める解析においては考慮していない、保圧工程で行われる型締力緩和制御に係る項目の少なくとも1つとすることが望ましい。
【0062】
更に、本発明に係る射出成形方法は積層成形にも採用できる。射出圧縮成形方法や射出プレス成形方法で成形される自動車等の外装パネルやサンルーフ等の樹脂成形品は、補強用のリブ構造部や組立用の取付部等が樹脂成形品の意匠面の裏面や周縁部に設けられることが多い。予め成形された自動車等の外装パネルやサンルーフ等の樹脂成形品を別の射出成形機の金型にインサートして、これら樹脂成形品の表面や周縁部に補強用のリブ構造部や組立用の取付部等を積層成形させる場合もあるが、1次成形用と2次成形用の金型を型締装置内において様々な方法で切り替えて、それら積層成形を1台の射出成形機で行う積層成形専用射出成形機も様々な形態が提案・実用化されており、これらの積層成形専用射出成形機で積層成形させる場合も多い。本発明は、特殊な機構や装置等を金型や射出成形機側に設ける必要がないため、これらの積層成形専用射出成形機における1次成形工程及び2次成形工程の少なくとも1つの工程で行われる射出圧縮成形方法や射出プレス成形方法に採用することができ、本発明に係る射出成形方法を採用することで、低歪みで部品寸法精度が高く、高い平滑性や透光性を備えた積層樹脂成形品を成形することができる。