(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記内側ビードフィラーの100%伸長時モジュラスは、前記外側ビードフィラーの100%伸長時モジュラスよりも小さい、請求項1乃至5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1の実施形態>
以下、本発明の空気入りタイヤについて、実施形態に基づいて説明する。以下に説明する実施形態の空気入りタイヤは、JATMA YEAR BOOK 2009(日本自動車タイヤ協会規格)のC章に規定されているトラック及びバス用の重荷重用タイヤに適用することができる。
【0019】
なお、以下の説明において、タイヤ回転軸方向とは、空気入りタイヤの回転軸と平行な方向である。また、タイヤ回転軸方向外方とは、タイヤ回転軸方向において、タイヤ赤道線CLから離れる方向である。また、タイヤ回転軸方向内方とは、タイヤ回転軸方向において、タイヤ赤道線CLに近づく方向である。また、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤの回転軸と直交する方向である。また、タイヤ径方向外側とは、タイヤ径方向において空気入りタイヤの回転軸から離れる側である。
【0020】
まず、
図1を参照して、本実施形態の空気入りタイヤの概略構成を説明する。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤの一例を示す半断面図である。
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤは、トレッド部10と、サイドウォール部20と、ビード部30と、ベルト層50と、カーカス層60と、を備える。
図1に示されるように、空気入りタイヤはリム80に装着される。
【0021】
図1に示されるように、サイドウォール部20は、サイドゴム層22を備える。また、ビード部30は、ビードコア32と、下側ビードフィラー34と、上側ビードフィラー36と、を備える。本実施形態のビードコア32の断面形状は、六角形である。また、ビードコア32の周囲には、タイヤ回転軸方向内方からタイヤ回転軸方向外方に向かってカーカス層60が折り返されて設けられている。ここで、カーカス層60のうち、ビードコア32で折り返されていない部分をカーカス本体部62と定義し、ビードコア32で折り返された部分を折り返し部64と定義する。
【0022】
カーカス層60に沿って、カーカス補強層66が設けられている。カーカス補強層66は、スチールコードを備える。
また、カーカス層60とサイドウォールゴム層22との間には、カーカス補強層68,70が設けられている。カーカス補強層68,70は、ナイロンコードを備える。
また、ビード部30には、リムクッションゴム層72が設けられている。リムクッションゴム層72は、リム80と直接接触する。
【0023】
ここで、
図2を参照して、本実施形態のビード部30の構成を詳細に説明する。
図2は、本実施形態の空気入りタイヤのビード部30を拡大した図である。
図2に示されるように、下側ビードフィラー34は、ビードコア32の上部(タイヤ径方向外側の面)を覆っている。また、ビードコア32から離れるにつれて、下側ビードフィラー34の厚さは薄くなる。
ここで、下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスは、13.0MPa以上であることが好ましい。下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスを13.0MPa以上とすることにより、操縦安定性を向上させることができる。また、下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスは、18.0MPa以下であることが好ましい。なお、100%モジュラスは、JIS K 6250の規定により測定される値である。
【0024】
また、上側ビードフィラー36は、下側ビードフィラー34を挟むように、下側ビードフィラー34とカーカス本体部62との間、及び、下側ビードフィラー34と折り返し部64との間に配置される。また、上側ビードフィラー36の100%伸長時モジュラスは、下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスよりも小さい。例えば、上側ビードフィラー36の100%伸長時モジュラスは、1.5MPa以上3.0MPa以下である。
【0025】
ここで、一般に、操縦安定性を向上させるために、下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスを大きくすることが好ましい。しかし、100%伸長時モジュラスが大きい下側ビードフィラー34がカーカス層60に接触すると剛性差が大きくなり、下側ビードフィラー34とカーカス層60との間にクラックが発生し、ビード部30にセパレーションが発生しやすい。
これに対し、本実施形態の空気入りタイヤは、下側ビードフィラー34を挟むように、下側ビードフィラー34とカーカス本体部62との間、及び、下側ビードフィラー34と折り返し部64との間に、下側ビードフィラー34よりも100%伸長時モジュラスが小さい上側ビードフィラー36が配置される。そのため、下側ビードフィラー34がカーカス層60と接触するのを抑制することができる。その結果、本実施形態の空気入りタイヤによれば、操縦安定性の低下を抑制しつつ、ビード部の耐セパレーション性を向上させることができる。
【0026】
以下、下側ビードフィラー34、上側ビードフィラー36のより具体的な形状について説明する。まず、ビードコア32の上端(タイヤ径方向外側の端)を通り、タイヤ回転軸と平行な直線をL
1と定義する。また、折り返し部64の上端を通り、タイヤ回転軸と平行な直線をL
2と定義する。また、ビードコア32の上端と折り返し部64の上端との中点を通り、タイヤ回転軸と平行な直線をL
3と定義する。
また、直線L
3上における下側ビードフィラー34の厚さをt
1と定義する。また、直線L
3上における上側ビードフィラー36のうち、下側ビードフィラー34とカーカス本体部62との間の部分の厚さをt
2と定義する。また、直線L
3上における上側ビードフィラー36のうち、下側ビードフィラー34と折り返し部64との間の部分の厚さをt
3と定義する。また、直線L
3上におけるビードフィラーの厚さをT
1と定義する。ここで、T
1は、t
1とt
2とt
3の和に等しい。
【0027】
直線L
3上において、下側ビードフィラー34の厚さt
1は、ビードフィラーの厚さT
1の40%以上であることが好ましい。下側ビードフィラー34の厚さt
1を、ビードフィラーの厚さT
1の40%以上とすることにより、操縦安定性の低下を抑制することができる。
また、直線L
3上において、上側ビードフィラー36のうち、下側ビードフィラー34とカーカス本体部62との間の部分の厚さt
2は、ビードフィラーの厚さT
1の5%以上であることが好ましい。t
2をT
1の5%以上とすることにより、下側ビードフィラー34とカーカス本体部62との間にクラックが発生するのを抑制し、ビード部の耐セパレーション性を向上させることができる。
また、直線L
3上において、上側ビードフィラー36のうち、下側ビードフィラー34と折り返し部64との間の部分の厚さt
3は、ビードフィラーの厚さT
1の5%以上であることが好ましい。t
3をT
1の5%以上とすることにより、下側ビードフィラー34と折り返し部64との間にクラックが発生するのを抑制し、ビード部の耐セパレーション性を向上させることができる。
【0028】
また、直線L
2上において、下側ビードフィラー34の厚さをt
4と定義する。また、直線L
2上におけるビードフィラーの厚さをT
2と定義する。直線L
2上において、下側ビードフィラー34の厚さt
4は、ビードフィラーの厚さT
2の20%以下であることが好ましい。例えば、本実施形態では、下側ビードフィラー34の厚さt
4は、ビードフィラーの厚さT
2の10%である。
直線L
2上において、下側ビードフィラー34の厚さt
4が、ビードフィラーの厚さT
2の20%以下となる程度に、下側ビードフィラー34がビードコア32から離れるにつれて次第に薄くなることにより、カーカス端部でのセパレーションを抑制することができる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の空気入りタイヤによれば、操縦安定性の低下を抑制しつつ、ビード部の耐セパレーション性を向上させることができる。
【0030】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態の空気入りタイヤの構成を説明する。本実施形態の空気入りタイヤの基本的な構成は、
図1を参照して説明した実施形態と同様である。本実施形態では、上側ビードフィラー36の構成が第1の実施形態と異なる。以下、第1の実施形態と同様の部分の説明は省略し、第1の実施形態と異なる部分について説明する。
【0031】
図3を参照して、本実施形態の上側ビードフィラー36の構成を説明する。
図3は、本実施形態の空気入りタイヤのビード部30を拡大した図である。
図3に示されるように、本実施形態の上側ビードフィラー36は、内側ビードフィラー38と、外側ビードフィラー40と、を備える。内側ビードフィラー38は、下側ビードフィラー34とカーカス本体部62との間に配置される。また、外側ビードフィラー40は、下側ビードフィラー34と折り返し部64との間に配置される。内側ビードフィラー38と外側ビードフィラー40とは、下側ビードフィラー34よりもタイヤ径方向外側で互いに接している。
【0032】
内側ビードフィラー38の100%伸長時モジュラスは、外側ビードフィラー40の100%伸長時モジュラスよりも小さい。例えば、内側ビードフィラー38の100%伸長時モジュラスは、1.5MPa以上2.5MPa以下である。また、外側ビードフィラー40の100%伸長時モジュラスは、2.0MPa以上3.0MPa以下である。
また、折り返し部64の上端を通り、タイヤ回転軸と平行な直線L
2上において、内側ビードフィラー38の厚さは、外側ビードフィラー40の厚さより薄いことが好ましい。
【0033】
本実施形態の空気入りタイヤの上側ビードフィラー36は、内側ビードフィラー38と、外側ビードフィラー40と、を備える。また、内側ビードフィラー38の100%伸長時モジュラスは、外側ビードフィラー40の100%伸長時モジュラスよりも小さい。そのため、本実施形態の空気入りタイヤによれば、操縦安定性の低下を抑制しつつ、ビード部の耐セパレーション性を更に向上させることができる。
【実施例】
【0034】
種々の空気入りタイヤを用いて、本発明の効果を確認する試験を行った。タイヤサイズは、295/80R22.5であり、JATMA YEAR BOOK 2009(日本自動車タイヤ協会規格)に規定された空気圧の条件を用いた。各試験タイヤを2−D車両に装着し、以下のような試験を行った。
【0035】
(操縦安定性)
各試験タイヤを2−D車両の総輪に装着し、JATMA YEAR BOOK 2009に規定される最大荷重の条件下で、テストコースにおいて、テストドライバーによる官能試験を実施した。従来例を100とする指数値で評価結果を示す。この値が大きいほど、操縦安定性が優れている。なお、指数値が90以上の場合に、操縦安定性の低下を抑制することができると判断した。
【0036】
(耐セパレーション性)
各試験タイヤを2−D車両の後輪に装着し、JATMA YEAR BOOK 2009に規定される最大荷重の120%とした条件下で5万km走行させた後に、ビードセパレーションの発生の有無を調べた。
更に、ドラム耐久試験でJATMA最大荷重の160%とした条件下で1万km走行させた後に、ビードセパレーションの発生の有無を調べた。
【0037】
(従来例、実施例1〜6)
従来例、実施例1〜6の空気入りタイヤを用いて、直線L
3上における下側ビードフィラー34の厚さt
1、上側ビードフィラー36のうち、下側ビードフィラー34とカーカス本体部62との間の部分の厚さt
2、上側ビードフィラー36のうち、下側ビードフィラー34と折り返し部64との間の部分の厚さt
3を変えることの効果を調べた。
【0038】
まず、従来例の空気入りタイヤについて説明する。従来例の空気入りタイヤの基本的な構成は、
図1を参照して説明した第1の実施形態と同様である。従来例の空気入りタイヤは、下側ビードフィラー34と上側ビードフィラー36の構成が第1の実施形態とは異なる。以下、
図4を参照して、従来例の下側ビードフィラー34と上側ビードフィラー36について説明する。
【0039】
図4は、従来例の空気入りタイヤのビード部30を拡大した図である。
図4に示されるように、従来例の下側ビードフィラー34は、ビードコア32の上部を覆っている。また、従来例の下側ビードフィラー34は、カーカス本体部62と接触しており、ビードコア32から離れるにつれて、下側ビードフィラー34の厚さは薄くなる。
また、従来例の上側ビードフィラー36は、下側ビードフィラー34と折り返し部64との間に配置される。
【0040】
また、各実施例の空気入りタイヤの概略構成は、
図1、
図2を参照して説明した第1の実施形態と同様である。実施例1〜6の空気入りタイヤは、直線L
3上における下側ビードフィラー34の厚さt
1、上側ビードフィラー36のうち、下側ビードフィラー34とカーカス本体部62との間の部分の厚さt
2、上側ビードフィラー36のうち、下側ビードフィラー34と折り返し部64との間の部分の厚さt
3が互いに異なる。
従来例、実施例1〜6の各空気入りタイヤのt
1/T
1、t
2/T
1、t
3/T
1は、以下の表1に示される通りである。
【0041】
従来例、実施例1〜6の空気入りタイヤの直線L
2上における下側ビードフィラー34の厚さt
4は、いずれもビードフィラーの厚さT
2の10%である。
従来例、実施例1〜6の空気入りタイヤの下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスは、いずれも13.0MPaである。また、従来例、実施例1〜6の空気入りタイヤの上側ビードフィラー36の100%伸長時モジュラスは、いずれも2.0MPaである。
【0042】
従来例、実施例1〜6における操縦安定性、耐セパレーション性の試験結果を表1に示す。
【表1】
【0043】
表1に示されるように、実施例1〜6の空気入りタイヤは、下側ビードフィラー34を挟むように、下側ビードフィラー34とカーカス本体部62との間、及び、下側ビードフィラー34と折り返し部64との間に、下側ビードフィラー34よりも100%伸長時モジュラスが小さい上側ビードフィラー36が配置されるため、操縦安定性の低下を抑制しつつ、ビード部の耐セパレーション性を向上させることができることが分かった。
また、下側ビードフィラー34の厚さt
1をビードフィラーの厚さT
1の40%以上とすることにより、操縦安定性が向上することが分かった。
【0044】
(従来例、実施例4,7,8)
従来例、実施例4,7,8の空気入りタイヤを用いて、下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスを変えることの効果を調べた。
従来例、実施例4,7,8の各空気入りタイヤのt
1/T
1、t
2/T
1、t
3/T
1は、以下の表2に示される通りである。また、従来例、実施例4,7,8の空気入りタイヤの直線L
2上における下側ビードフィラー34の厚さt
4は、いずれもビードフィラーの厚さT
2の10%である。また、従来例、実施例4,7,8の空気入りタイヤの上側ビードフィラー36の100%伸長時モジュラスは、いずれも2.0MPaである。
【0045】
従来例の空気入りタイヤの下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスは、13.0MPaである。
実施例7の空気入りタイヤの下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスは、12.0MPaである。
実施例7の空気入りタイヤの下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスは、13.0MPaである。
実施例7の空気入りタイヤの下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスは、13.5MPaである。
【0046】
従来例、実施例4,7,8における操縦安定性、耐セパレーション性の試験結果を表2に示す。
【表2】
【0047】
表2に示されるように、下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスを13.0MPa以上とすることにより、操縦安定性が向上することが分かった。
【0048】
(従来例、実施例4,9)
従来例、実施例4,9の空気入りタイヤを用いて、上側ビードフィラー36が内側ビードフィラー38と外側ビードフィラー40を備えることの効果を調べた。
実施例9の空気入りタイヤの概略構成は、
図1、
図3を参照して説明した第2の実施形態と同様である。
従来例、実施例4,9の各空気入りタイヤのt
1/T
1、t
2/T
1、t
3/T
1は、以下の表3に示される通りである。
【0049】
従来例、実施例4,9の空気入りタイヤの直線L
2上における下側ビードフィラー34の厚さt
4は、いずれもビードフィラーの厚さT
2の10%である。
従来例、実施例4,9の空気入りタイヤの下側ビードフィラー34の100%伸長時モジュラスは、いずれも13.0MPaである。
また、従来例、実施例4の空気入りタイヤの上側ビードフィラー36の100%伸長時モジュラスは、いずれも2.0MPaである。実施例9の空気入りタイヤの内側ビードフィラー38の100%伸長時モジュラスは、2.0MPaである。また、実施例9の空気入りタイヤの外側ビードフィラー40の100%伸長時モジュラスは、2.6MPaである。
【0050】
従来例、実施例4,9における操縦安定性、耐セパレーション性の試験結果を表3に示す。
【表3】
【0051】
表3に示されるように、上側ビードフィラー36が内側ビードフィラー38と外側ビードフィラー40を備える実施例9では、ドラム耐久試験後においてもビードセパレーションが発生しなかった。そのため、上側ビードフィラー36が内側ビードフィラー38と外側ビードフィラー40とを備えることにより、ビード部の耐セパレーション性が更に向上することが分かった。
【0052】
表1〜表3に示される結果より、本発明の空気入りタイヤによれば、操縦安定性の低下を抑制しつつ、ビード部の耐セパレーション性を向上させることができることが分かった。
【0053】
以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。