特許第5742144号(P5742144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5742144複合体の製造方法、複合体及びそれを備えたアルカリ金属二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5742144
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】複合体の製造方法、複合体及びそれを備えたアルカリ金属二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20150611BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20150611BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150611BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20150611BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20150611BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M4/485
   H01M10/052
   H01M10/0562
   !H01B1/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2010-201351(P2010-201351)
(22)【出願日】2010年9月8日
(65)【公開番号】特開2012-59529(P2012-59529A)
(43)【公開日】2012年3月22日
【審査請求日】2013年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】太田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】佐和田 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 賢彦
(72)【発明者】
【氏名】関 純太郎
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−301726(JP,A)
【文献】 特開2008−112635(JP,A)
【文献】 特開2010−102929(JP,A)
【文献】 特開2008−251225(JP,A)
【文献】 特表2010−534383(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/003695(WO,A2)
【文献】 特開2001−143697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 4/485
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質と活物質とを含む複合体の製造方法であって、
アルカリ金属と反応することにより活物質を形成可能な該活物質の原料を少なくとも含む原料材料を、アルカリ金属を伝導する固体電解質の表面に形成した原料形成体を作製する原料形成工程と、
前記原料形成体を焼成し、前記固体電解質の表面に存在し固体電解質に起因するイオン伝導性の低い抵抗層に含まれるアルカリ金属をも活物質の原料として利用して該固体電解質の表面に活物質を形成させる活物質形成工程と、
を含む複合体の製造方法。
【請求項2】
前記活物質は、遷移金属とアルカリ金属とを含む複合酸化物であり、
前記原料形成工程では、前記原料材料として、前記複合酸化物の理論配合量に比してより多くの前記遷移金属を含む配合量とした前記原料材料を前記固体電解質の表面に形成する、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】
前記固体電解質は、Li及びZrを含有したガーネット型酸化物である、請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
固体電解質と活物質とを含む複合体であって、
アルカリ金属を伝導する固体電解質の層の表面に密接して活物質粒子の層が形成されており(但し、固体電解質の構成材料と活物質の構成材料とが混ざり合った混合領域が存在するものを除く)
前記活物質粒子は、前記固体電解質の表面に存在した固体電解質に起因するイオン伝導性の低い抵抗層に含まれるアルカリ金属を利用して形成されている、
複合体。
【請求項5】
前記固体電解質と前記活物質との間に、該固体電解質及び該活物質以外のアルカリ金属化合物層が形成されていない、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の複合体を備えた、アルカリ金属二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体の製造方法、複合体及びそれを備えたアルカリ金属二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ金属二次電池としては、固体電解質と活物質層とを備える全固体型のリチウム二次電池が提案されている。このようなリチウム二次電池では、例えば、固体電解質と活物質層との固体−固体界面におけるリチウムイオンの伝導性が問題となることがある。このような問題に対して、例えば、電解質グリーンシート及び正極グリーンシートを重ねて積層体を作製する工程と、積層体を焼成する工程とを含み、電解質グリーンシート及び正極グリーンシートの少なくとも一方は、焼成工程においてリチウムイオン伝導性の結晶が析出する非晶質の酸化物ガラス粉末を含むものが提案されている(例えば特許文献1参照)。このリチウム二次電池では、固体電解質と活物質層との間に生成する、イオン伝導度の低い非晶質酸化物を、リチウムイオン伝導性を有する物質に変えることにより境界層における高いイオン伝導性を備えることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−206090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のリチウム二次電池では、エネルギー密度をより高めることが望まれている。この点において、上述の特許文献1のリチウム二次電池では、境界層における高いイオン伝導性を有するものとしたが、まだ十分でなく、更なる改良が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、エネルギー密度をより高めると共に内部抵抗をより低減することができる複合体の製造方法、複合体及びそれを備えたアルカリ金属二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、固体電解質の表面に存在するアルカリ金属をも利用して固体電解質の表面に活物質を形成するものとすると、エネルギー密度をより高めると共に内部抵抗をより低減することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の複合体の製造方法は、
固体電解質と活物質とを含む複合体の製造方法であって、
アルカリ金属と反応することにより活物質を形成可能な該活物質の原料を少なくとも含む原料材料を、アルカリ金属を伝導する固体電解質の表面に形成した原料形成体を作製する原料形成工程と、
前記原料形成体を焼成し、前記固体電解質の表面に存在するアルカリ金属をも利用して該固体電解質の表面に活物質を形成させる活物質形成工程と、
を含むものである。
【0008】
本発明の複合体は、固体電解質と活物質とを含む複合体であって、アルカリ金属を伝導する固体電解質の表面に密接して活物質粒子が形成されているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合体の製造方法、複合体及びそれを備えたアルカリ金属二次電池は、エネルギー密度をより高めると共に内部抵抗をより低減することができる。一般的に、固体電解質を用いたアルカリ金属二次電池では、固体電解質と活物質層との固体−固体界面に起因するインピーダンスの大きさが課題である。この固体電解質と活物質層との界面には、アルカリ金属イオン伝の導性が低いアルカリ金属化合物層(抵抗層)が生成することがあり、この抵抗層の生成により内部抵抗が大きくなることが考えられる。これに対し、本発明では、例えば、固体電解質の表面に生成するアルカリ金属化合物をも利用して活物質層を形成するため、抵抗層の生成をより抑制可能であり、固体−固体界面でのインピーダンスの低減を図ることができる。また、固体電解質の表面に存在するアルカリ金属化合物を活物質とするため、アルカリ金属化合物を利用してアルカリ金属伝導性の高い材料を生成させるのに比して、エネルギー密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】固体電解質上に活物質の原料を形成する説明図である。
図2】アルカリ金属二次電池20の構成の概略を示す説明図である。
図3】実験例1,3,5,7のXRDパターンを示すグラフである。
図4】実験例1〜7(4を除く)の格子定数のX値依存性を示すグラフである。
図5】実験例1〜7のリチウムイオン伝導度のX値依存性を示すグラフである。
図6】ガーネット型酸化物の結晶構造に含まれる部分構造の説明図である。
図7】ガーネット型酸化物の結晶構造の説明図であり、(a)は全体像、(b)は六面体のLiO6(II)を露出させた様子を示す。
図8】実験例1,3,5〜7のLiO4(I)結晶構造のX値依存性を示すグラフであり、(a)は酸素イオンが形成する三角形の辺a,bのX値依存性を示し、(b)は該三角形の面積のX値依存性を示す。
図9】実験例1,3,5〜7の各回折強度を(220)回折強度で規格化したときの規格化後強度のX値依存性を示すグラフである。
図10】実験例1,3,5〜7の(024)の規格化後強度のX値依存性を示すグラフである。
図11】実験例1〜7のアレニウスプロットのグラフである。
図12】実験例1〜7の活性化エネルギーのX値依存性を示すグラフである。
図13】実験例5の室温大気中での化学的安定性を示すグラフである。
図14】実験例5の電位窓の測定結果を示すグラフである。
図15】実施例1の複合体のX線回折測定結果。
図16】実施例1の複合体の断面のSEM写真。
図17】比較例1の複合体の断面のSEM写真。
図18】実施例1及び比較例1の電池特性評価の測定結果。
図19】比較例1を「1」に規格化した際の実施例1及び比較例1の面積容量及び界面抵抗の測定結果。
図20】負極活物質を形成したX線回折測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、固体電解質と活物質とを含む複合体の製造方法である。この製造方法は、(1)アルカリ金属と反応することにより活物質を形成可能な活物質の原料を少なくとも含む原料材料を、アルカリ金属を伝導する固体電解質の表面に形成した原料形成体を作製する原料形成工程と、(2)原料形成体を焼成し、固体電解質の表面に存在するアルカリ金属をも利用して固体電解質の表面に活物質を形成させる活物質形成工程と、を含むものである。ここで、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられ、このうちリチウムがエネルギー密度の観点から好ましい。また、活物質は、固体電解質の表面に形成した正極活物質としてもよいし、固体電解質の表面に形成した負極活物質としてもよいし、固体電解質の表裏に形成した正極活物質及び負極活物質としてもよい。即ち、本発明の複合体は、固体電解質と正極活物質とを備えたものとしてもよいし、固体電解質と負極活物質とを備えたものとしてもよいし、固体電解質と正極活物質と負極活物質とを備えたものとしてもよい。ここでは、説明の便宜のため、アルカリ金属をリチウムとし、正極活物質を固体電解質表面に形成した複合体の製造方法及びその複合体について主として説明する。
【0012】
(1)原料形成工程
この工程では、アルカリ金属と反応することにより活物質を形成可能な活物質の原料を少なくとも含む原料材料を、アルカリ金属を伝導する固体電解質の表面に形成した原料形成体を作製する処理を行う。活物質は、例えば遷移金属とアルカリ金属とを含む複合化合物としてもよい。この複合化合物としては、例えば、遷移金属とアルカリ金属とを含む複合酸化物や、遷移金属とアルカリ金属とを含むリン酸化合物などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、Li(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)、Li(1-x)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物などが挙げられる。また、リン酸化合物としては、LiFePO4などが挙げられる。活物質が遷移金属とアルカリ金属とを含む複合酸化物であるとき、原料材料として、複合酸化物の理論配合量に比してより多くの遷移金属を含む配合量とした原料材料を固体電解質の表面に形成するものとしてもよい。こうすれば、固体電解質の表面に析出するアルカリ金属を含有した化合物を活物質の原料として利用することができる。このとき、原料材料としては、例えば理論配合量に対して過剰量の遷移金属化合物とアルカリ金属化合物とを含むものとしてもよいし、活物質となる原料としての遷移金属化合物と活物質自体とを含むものとしてもよい。即ち、活物質が遷移金属を含む複合化合物である場合は、原料材料としては遷移金属を少なくとも含むものとしてもよい。例えば、活物質がリチウム−コバルト複合酸化物の場合、活物質となる原料としては、炭酸リチウムと過剰の一酸化コバルトとが含まれていてもよいし、活物質であるリチウム−コバルト複合酸化物と過剰成分としての一酸化コバルトとが含まれていてもよい。ここで、固体電解質上に形成するのが正極活物質の場合、遷移金属としては、例えば、Fe,Co,Ni,Mnなどが挙げられる。また、固体電解質上に形成するのが負極活物質の場合、遷移金属としては、例えば、Ti,Vなどが挙げられる。この原料としては、液体、固体及びゾルなどの形態で用いることができる。また、原料材料として用いる遷移金属は、例えば、酸化物、炭酸塩、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩などとしてもよい。例えば、Coの場合、一酸化コバルト、炭酸コバルト、Co塩の溶液などを用いることができる。なお、「アルカリ金属と反応することにより活物質を形成可能な活物質の原料」としては上記一酸化コバルト、炭酸コバルト、塩化コバルトなどのコバルト化合物(遷移金属化合物)が挙げられる。原料材料として用いるアルカリ金属としては、例えば、酸化物、炭酸塩、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩などとしてもよい。例えば、Liの場合、酸化リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、Li塩の溶液などを用いることができる。この工程において、遷移金属化合物が多すぎるとエネルギー密度が低下することから、遷移金属の配合量は、経験的に求めることが好ましい。各原料の配合量について、例えば、固体電解質の大きさ及び厚さと、複合体の作製時に固体電解質の表面に析出するアルカリ金属化合物の量と、の関係を経験的に求め、アルカリ金属化合物と反応するよう遷移金属の配合量を決定するものとしてもよい。あるいは、固体電解質と活物質との間にリチウムの伝導性が低いリチウム化合物層が生成しているか否かと、過剰に加える遷移金属の量との関係より、複合体の作製後に、このリチウム化合物層が生成しないような遷移金属の量に経験的に定めるものとしてもよい。
【0013】
固体電解質上に原料材料を形成するに際して、例えば、原料材料に結着材を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の原料合材としたものを、固体電解質の表面に塗布乾燥するものとしてもよい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。原料材料、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。
【0014】
固体電解質は、特に限定されるものではないが、アルカリイオンの伝導度の高い固体電解質とすることができる。例えば、アルカリ金属をLiとすると、LiN,LISICON類、La0.55Li0.35TiO3などのリチウムイオン伝導性を示すペロブスカイト構造の結晶や、NASICON型を有するLiTi2312、ガラスセラミックスLi1.5Al0.5Ge1.5(PO43(以下、LAGPともいう)の結晶、ガラスセラミックスLi1+XTi2SiX3-X12・AlPO4(以下、オハラ電解質ともいう)、Li2O−P25−PON(以下LIPONともいう)などが固体電解質として挙げられる。また、固体電解質としては、Li及びZrを含有したガーネット型酸化物なども挙げられる。このガーネット型酸化物は、例えば、Li7La3Zr212を基本組成とする酸化物や、Li5+XLa3(ZrX,A2-X)O12(式中、AはSc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,Ga,Ge及びSnからなる群より選ばれた1種類以上の元素、Xは1.4≦X<2)で表される酸化物とすることが好ましい。リチウムの伝導度がより高いからである。このうち、Li5+XLa3(ZrX,A2-X)O12)がリチウム伝導性が高く、且つ電位窓が広くより好ましい。
【0015】
このLi5+XLa3(ZrX,A2-X)O12において、Xが1.4≦X<2を満たすため、公知のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物Li7La3Zr212 (つまりX=2)と比べて、伝導度が高くなり且つ活性化エネルギーも小さくなる。Aは、NbやNbとイオン半径が同等のTaが好ましい。例えば、AがNbの場合、伝導度が2.5×10-4Scm-1以上、活性化エネルギーが0.34eV以下になる。したがって、この酸化物をリチウム二次電池に用いた場合、リチウムイオンが伝導しやすくなるため、電池の出力が向上する。また、活性化エネルギーが小さい、つまり温度に対する伝導度の変化の割合が小さいため、電池の出力が安定する。Li5+XLa3(ZrX,A2-X)O12において、Xは、1.6≦X≦1.95の範囲であることがより好ましく、Xが1.65≦X≦1.9の範囲であることが更に好ましい。Xが1.6≦X≦1.95の範囲であれば、伝導度がより高く、活性化エネルギーがより低くなるためである。あるいは、リチウムイオン伝導性を有するガーネット型酸化物は、組成式Li7La3Zr212 のZrサイトをZrとはイオン半径の異なる元素(たとえば、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,Ga,Ge及びSnからなる群より選ばれた1種類以上の元素)で置換したガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物であって、XRDにおける(220)回折の強度を1に規格化したときの(024)回折の規格化後の強度が9.2を超えるものである。(024)回折の規格化後の強度が9.2を超えると、Li(I)O4の四面体の酸素イオンが形成する三角形が正三角形に近づき、その三角形の面積が大きくなるため、リチウムイオン伝導性を有するガーネット型酸化物Li7La3Zr212 (つまりX=2)と比べて、伝導度が高くなり且つ活性化エネルギーも小さくなる。また、(024)回折の規格化後の強度が10.0以上がより好ましく、10.2以上が更に好ましい。10.0以上であれば、伝導度がより高く、活性化エネルギーがより低くなるため、より好ましい。
【0016】
この原料形成工程を具体例を用いて説明する。図1は、固体電解質上に活物質の原料を形成する説明図である。ここでは、アルカリ金属をLiとし、活物質をLiCoO2とし、リチウム原料をLi2CO3又はLi溶液、コバルト原料をCoO又はCo溶液、結着材としてPVDF、溶剤としてNMPを用いる場合について説明する。例えば、に示すように、原料材料としてLi2CO3、CoO、PVDF及びNMPを混合したものを固体電解質上に塗布したり(図1(a))、更に活物質をも含むLi2CO3、CoO、LiCoO2、PVDF及びNMPを混合したものを固体電解質上に塗布したり(図1(b))するものとしてもよい。あるいは、Co溶液を固体電解質上に塗布したり(図1(c))、Co溶液及びLiCoO2を混合したものを固体電解質上に塗布したり(図1(d))するものとしてもよい。あるいは、Co溶液とLi溶液とを混合したものを固体電解質上に塗布したり(図1(e))、Co溶液とLi溶液及びLiCoO2を混合したものを固体電解質上に塗布したり(図1(f))するものとしてもよい。これらに示したいずれの方法によって、原料形成工程を行ってもよい。
【0017】
(2)活物質形成工程
この工程では、原料形成体を焼成し、固体電解質の表面に存在するアルカリ金属をも利用して固体電解質の表面に活物質を形成させる処理を行う。原料形成体の焼成は、例えば、焼成雰囲気を、酸化雰囲気としてもよいし、大気雰囲気としてもよいが、大気雰囲気とすることが好ましい。こうすれば、焼成処理をより容易に行うことができる。特に、本発明の製造方法によれば、固体電解質と活物質との間にイオン伝導性の低い、この固体電解質及びこの活物質以外のアルカリ金属化合物層(以下、抵抗層とも称する)が生成することがないことから、大気雰囲気で焼成することが可能となるのである。焼成温度は、例えば、原料材料に含まれる原料から活物質が生成する温度に経験的に定めることができる。例えば、図1に示すように、活物質がLiCoO2であるときには、焼成温度を600℃以上900℃以下の範囲、より好ましくは650℃以上750℃以下の範囲とすることができる。また、焼成時間は、例えば、2時間以上24時間以下とすることが好ましいが、原料の種類や配合量などに応じて経験的に定めるものとしてもよい。例えば、イオン伝導度の高いものなどでは、固体電解質の表面にアルカリ金属が析出することなどがあり、この析出したアルカリ金属が化合物化してイオン伝導性の低いアルカリ金属化合物層(抵抗層)が存在することがある。この抵抗層としては、例えばアルカリ金属酸化物(Li2Oなど)や、アルカリ金属炭酸塩(Li2CO3など)が挙げられる。ここでは、この焼成処理により、固体電解質の表面に存在するアルカリ金属をも利用して固体電解質の表面に活物質を形成させるため、このような抵抗層の生成を防止する、あるいは抵抗層を除去することができ、ひいては、固体電解質と活物質との界面の抵抗をより低減することができる(図1参照)。
【0018】
本発明の複合体は、固体電解質と活物質とを含む複合体であって、アルカリ金属を伝導する固体電解質の表面に密接して活物質粒子が形成されているものである。また、この複合体は、固体電解質と活物質との間に、この固体電解質及びこの活物質以外のアルカリ金属化合物層(抵抗層)が形成されていないものとしてもよい。この複合体は、上述した製造方法によって作製することができる。この複合体は、固体電解質と活物質との間に抵抗層が存在しないため、界面でのイオン伝導性が高い。この活物質粒子は、固体電解質の表面に存在したアルカリ金属を利用して形成されているものとしてもよい。この固体電解質としては、上述のように、アルカリ金属をLiとすると、LiN,LISICON類、La0.55Li0.35TiO3、LiTi2312、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43、Li1+XTi2SiX3-X12・AlPO4、Li2O−P25−PON、Li及びZrを含有したガーネット型酸化物(Li7La3Zr212、Li5+XLa3(ZrX,A2-X)O12)などが挙げられる。このうちLi及びZrを含有したガーネット型酸化物が好ましく、Li5+XLa3(ZrX,A2-X)O12)がリチウム伝導性が高く、且つ電位窓が広く好ましい。また、活物質としては、上述のように、例えば、複合酸化物やリン酸化合物などを含む、遷移金属とアルカリ金属とを含む複合化合物などが挙げられる、この活物質としては、例えば、Li(1-x)MnO2、Li(1-x)Mn24、Li(1-x)CoO2、Li(1-x)NiO2、LiFePO4などが挙げられる。
【0019】
なお、上述のように固体電解質に正極活物質が形成された複合体とした場合、アルカリ金属二次電池の構成としての負極活物質は、例えば、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、導電性ポリマーなどとしてもよい。炭素質材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。また、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、Li4Ti512などのリチウムチタン複合酸化物、Li3-yCoyN(0.3≦y≦0.5)などの窒化物などとしてもよい。アルカリ金属二次電池の作製において、これらの負極活物質は、板状に形成して複合体に接合してもよいし、結着材、溶剤などを加えペースト状の負極合材としたものを、固体電解質の他方の面に塗布乾燥するものとしてもよい。
【0020】
本発明のアルカリ金属二次電池は、上述した複合体を備えるものである。即ち、アルカリ金属を吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、アルカリ金属を吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導する固体電解質と、を備えている。このアルカリ金属二次電池は、全固体型のアルカリ金属二次電池としてもよい。本発明のアルカリ金属二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、こうしたアルカリ金属二次電池を複数直列に接続して電気自動車用電源としてもよい。電気自動車としては、例えば、電池のみで駆動する電池電気自動車や内燃機関とモータ駆動とを組み合わせたハイブリッド電気自動車、燃料電池で発電する燃料電池自動車等が挙げられる。
【0021】
本発明のアルカリ金属二次電池の構造は、特に限定されないが、例えば図2に示す構造が挙げられる。図2は、アルカリ金属二次電池20の構成の概略を示す説明図である。このアルカリ金属二次電池20は、ガーネット型酸化物からなる固体電解質層10と、この固体電解質層10の片面に形成された正極12と、この固体電解質層10のもう片面に形成された負極14とを有する。このうち、正極12は、固体電解質層10に接する正極活物質層12a(正極活物質を含む層)とこの正極活物質層12aに接する集電体12bとにより構成されている。負極14は、固体電解質層10に接する負極活物質層14a(負極活物質を含む層)とこの負極活物質層14aに接する集電体14bとにより構成されている。
【0022】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0023】
例えば、上述した実施形態では、正極活物質を固体電解質表面に形成した複合体を主として説明したが、特にこれに限定されず、負極活物質を固体電解質表面に形成した複合体としてもよい。この負極活物質としては、アルカリ金属(例えばLiなど)を吸蔵・放出するものであれば特に限定されず、例えば、遷移金属とアルカリ金属とを含む複合化合物としてもよい。この複合化合物としては、例えば、遷移金属とアルカリ金属とを含む複合酸化物や、遷移金属とアルカリ金属とを含む窒化物などが挙げられる。具体的には、アルカリ金属をリチウムとした場合、例えば、複合酸化物としては、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、Li4Ti512などのリチウムチタン複合酸化物などが挙げられる、また、窒化物としては、Li3-yCoyN(0.3≦y≦0.5)などが挙げられる。なお、負極活物質が固体電解質上に形成された複合体とした場合、アルカリ金属二次電池の構成としての正極活物質は、例えば、上記複合酸化物以外に、遷移金属元素を含む硫化物、具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物などとしてもよい。アルカリ金属二次電池の作製において、これらの正極活物質は、板状に形成して複合体に接合してもよいし、結着材、溶剤などを加えペースト状の正極合材としたものを、固体電解質の他方の面に塗布乾燥するものとしてもよい。
【0024】
あるいは、固体電解質の一方の面に正極活物質の原料を形成し、他方の面に負極活物質の原料を形成した原料形成体を作製し、これを焼成して複合体を得るものとしてもよい。こうすれば、1回の焼成処理で正極活物質及び負極活物質が形成された複合体を作成することができ、より作製効率がよい。
【実施例】
【0025】
以下には、本発明のアルカリ金属二次電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0026】
[ガーネット型酸化物の作製]
ガーネット型酸化物Li5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(X=0〜2)は、Li2CO3、La(OH)3、ZrO2、およびNb25を出発原料に用いて合成を行った。ここで、実験例1〜7のXの値は、それぞれX=0,1.0,1.5,1.625,1.75,1.875,2.0とした(表1参照)。はじめに、出発原料を化学量論比になるように秤量し、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間、混合・粉砕を行った。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離したのち、Al23製のるつぼ中にて、950℃、10時間大気雰囲気で仮焼を行った。その後、本焼結でのLiの欠損を補う目的で、仮焼した粉末に、Li5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(X=0〜2)の組成中のLi量に対して Li換算で10at.%になるようにLi2CO3を過剰添加した。この混合粉末を、混合のためエタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間処理した。得られた粉末を再び950℃、10時間大気雰囲気の条件下で再度仮焼した。その後、成型したのち、1200℃、36時間大気中の条件下で本焼結を行い、試料(実験例1〜7)を作製した。
【0027】
【表1】
【0028】
[ガーネット酸化物の物性の測定及び結果]
1.相対密度
電子天秤にて測定した乾燥重量をノギスを用いて測定した実寸から求めた体積で除算することにより、各試料の測定密度を算出した。また、理論密度を算出し、測定密度を理論密度で除算し100を乗算した値を相対密度(%)とした。実験例1〜7の相対密度は、88〜92%であった。
【0029】
2.相及び格子定数
各試料の相及び格子定数は、XRDの測定結果から求めた。XRDの測定は、XRD測定器(ブルカー(Buruker)製、D8ADVANCE)を用いて、試料粉末をCuKα、2θ:10〜120°,0.01°step/1sec.の条件で測定した。結晶構造解析は、結晶構造解析用プログラム:Rietan−2000(Mater. Sci. Forum, p321−324(2000),198)を用いて解析を行った。代表例として実験例1,3,5,7つまりLi5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(X=0,1.5,1.75,2)のXRDパターンを図3に示す。図3から、各試料は不純物を含まず単相であることがわかる。また、実験例1〜3,5〜7につき、XRDパターンより求めた格子定数のX値依存性を図4に示す。図4から、Zrの割合が増えるほど格子定数が増大することがわかる。これは、Zr4+のイオン半径(rZr4+=0.79Å)がNb5+のイオン半径(rNb5+=0.69Å)よりも大きいためである。格子定数が連続的に変化していることから、NbはZrサイトに置換されていると考えられる(全率固溶が可能と考えられる)。
【0030】
3.伝導度
伝導度は、恒温槽中にてACインピーダンスアナライザーを用い(周波数:0.1Hz〜1MHz、振幅電圧:100mV)、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から算出した。ACインピーダンスアナライザーで測定する際のブロッキング電極にはAu電極を用いた。Au電極は市販のAuペーストを850℃、30分の条件で焼き付けることで形成した。実験例1〜7つまりLi5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(X=0〜2)の25℃での伝導度のX値依存性を図5に示す。図5から、伝導度は、Xが1.4≦X<2のとき、公知のLi7La3Zr212(つまりX=2、実験例7)に比べて高くなり、Xが1.6≦X≦1.95のとき、実験例7に比べて一段と高くなり、Xが1.65≦X≦1.9の範囲のとき、ほぼ極大値(6×10-4Scm-1以上)を取ることがわかる。上記1.で述べたとおり、各試料の相対密度は88〜92%であったことから、伝導度がX値に応じて変化するのは、密度による影響ではないと考えられる。
【0031】
ここで、ニオブを適量添加することで、伝導度が向上した理由について考察する。ガーネット型酸化物の結晶構造には、図6に示すように、リチウムイオンが酸素イオンと4配位してなる四面体のLiO4(I)と、リチウムイオンが酸素イオンと6配位してなる八面体のLiO6(II)と、ランタンイオンが酸素イオンと8配位してなる十二面体のLaO8(I)と、ジルコニウムイオンが酸素イオンと6配位してなる八面体のZrO6とが含まれている。この結晶構造の全体像を図7(a)に示す。この図7(a)の結晶構造では、六面体のLiO6(II)は八面体のZrO6と十二面体のLaO8とによって囲まれているため見えない状態となっている。図7(b)は、図7(a)の結晶構造からLiO8(I)を削除して六面体のLiO6(II)を露出させた様子を示す。このように、6配位しているリチウムイオンは、6個の酸素イオンと、3個のランタンイオンと、2個のジルコニウムイオンに囲まれた位置にあり、恐らく、伝導性にはほとんど寄与していないと考えられる。一方、4配位しているリチウムイオンは、酸素イオンを頂点とする四面体を形成している。リートベルド(Rietveld)構造解析より求めたLiO4(I)四面体構造の変化を図8に示す。LiO4(I)四面体を形成する酸素イオン間距離は二つの長さがある。ここでは長尺の二辺をa、短尺の一辺をbとする。図8(a)に示すように、長尺の辺aは、Nbの置換量によらずほとんど一定の値を示すのに対し、短尺の辺bは、Nbを適量置換することで長くなっている。つまり、酸素イオンが形成する三角形はNbを適量置換することで、正三角形に近付きつつ面積は増大している(図8(b)参照)。このことから、適量のNbをZrと置換すると、伝導するリチウムイオン周りの構造(酸素イオンが形成している四面体)が最適となり、リチウムイオンの移動を容易にする効果があると考えられる。なお、Zrと置換する元素は、Nb以外の元素、たとえばSc,Ti,V,Y,Hf,Taなどであっても、同様の構造変化が見込まれることから、同様の効果が得られる。
【0032】
ここで、XRDの回折ピークの強度は、LiO4(I)四面体構造を反映して変化する。すなわち、ZrサイトをNbで置換することによりLiO4(I)四面体をなす三角形が上述したように変化するため、当然、XRDの各回折ピークの強度比も変化するのである。実験例1〜3,5,7の各試料の(220)回折の強度を1に規格化したときの各回折の規格化後強度のX値依存性を図9に示す。代表的なピークとして(024)回折の規格化後強度に注目する(図10参照)。(024)回折に関して言えば、公知のLi7La3Zr212(つまりX=2、実験例7)に比べて伝導度が高くなる1.4≦X<2に対応する規格化後強度は9.2以上であり、一段と伝導度が高くなる1.6≦X≦1.95に対応する規格化後強度は10.0以上であり、伝導度がほぼ極大値を取る1.65≦X≦1.9に対応する規格化後強度は10.2以上であることがわかる。
【0033】
4.活性化エネルギー(Ea)
活性化エネルギー(Ea)はアレニウス(Arrhenius)の式:σ=Aexp(−Ea/kT)(σ:伝導度、A:頻度因子、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)を用い、アレニウスプロットの傾きより求めた。代表例として実験例1〜7のLi5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(X=0〜2)の伝導度の温度依存性(アレニウスプロット)を図11に示す。図11には、併せてLiイオン伝導性酸化物の中でも特に高い伝導度を示すガラスセラミックスLi1+XTi2SiX3-X12・AlPO4(オハラ電解質、X=0.4)とLi1.5Al0.5Ge1.5(PO43(LAGP)の伝導度の温度依存性(いずれも文献値)を示す。実験例1〜7につき、アレニウスプロットより求めた活性化エネルギーEa(25℃)のX値依存性を図12に示す。図12から、Xが1.4≦X<2のとき、Li7La3Zr212(つまりX=2、実験例7)より低い活性化エネルギーEa(つまり0.34eV未満)を示すことから、広い温度域で伝導度が安定した値をとるといえる。また、Xが1.5≦X≦1.9のときには活性化エネルギーが0.32eV以下となり、特にXが1.75のときに極小値0.3eVとなった。0.3eVという値は既存のLiイオン伝導性酸化物中で最も低い値と同等の値である(オハラ電解質:0.3eV、LAGP:0.31eV)。
【0034】
5.化学的安定性
ガーネット型酸化物Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(つまりX=1.75、実験例5)の室温大気中での化学的安定性を調べた。具体的には、大気中に放置したLi6.75La3Zr1.75Nb0.2512の伝導度の経時変化(0〜7日)の有無を確認することで行った。その結果を図13に示す。バルクの抵抗成分が大気中に放置していた時間によらず一定であることから、ガーネット型酸化物は室温大気中でも安定と言える。
【0035】
6.電位窓
ガーネット型酸化物Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(つまりX=1.75、実験例5)の電位窓を調べた。電位窓は、Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512のバルクペレットの片面に金を、もう片面にLiメタルを貼り付け、0〜5.5V(対Li+)および−0.5V〜9.5V(対Li+)の範囲で電位をスイープ(1mV/sec.)させることで調べた。その測定結果を図14に示す。電位を0〜5.5Vの範囲で走査しても、電流は全く流れなかった。このことからLi6.75La3Zr1.75Nb0.2512は0〜5.5Vの範囲で安定と言える。走査する電位を−0.5 〜9Vに広げると、0Vを境にして、酸化・還元電流が流れた。これはリチウムの酸化・還元に起因すると思われる。また、約7V以上でわずかに酸化電流が流れ始めた。しかし、流れる酸化電流量が非常に微弱であること、目視で色に変化が無いことなどから、流れる酸化電流は電解質の分解ではなく、セラミックス中に含まれている微量の不純物や粒界の分解が原因だと考えている。
【0036】
[実施例1]
ガーネット型酸化物Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(つまりX=1.75、実験例5)を固体電解質とするリチウム二次電池を作製した。ここでは、固体電解質の形状は、直径13mm、2mm厚のペレットとした。原料材料の作製では、コバルト源として一酸化コバルト(CoO)、リチウム源として炭酸リチウム(Li2CO3)をモル比で1:0.8となるように、即ち、遷移金属が過剰となる条件で混合した。この混合体を75重量部と、揮発成分であるN−メチルピロリドン(NMP)を25重量部とを加え、分散させ合材化したものをスクリーン印刷法により固体電解質の表面に塗布した。これを乾燥させ、原料形成体とした。次に、この原料形成体を650℃、10時間、大気雰囲気の条件で焼成し、固体電解質上に正極活物質としてのコバルト酸リチウムを形成し、これを実施例1の複合体とした(図1(a)参照)。次に、この複合体の固体電解質の裏面に負極活物質としての金属リチウム箔を圧着した。この複合体の正極側に集電体としての金箔を圧着し、負極側に集電体としての銅箔を圧着し、得られたものを実施例1の全固体型リチウム二次電池とした。
【0037】
[実施例2〜4]
原料材料の作製において、コバルト源として一酸化コバルト(CoO)、リチウム源として炭酸リチウム(Li2CO3)、更に活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2:日本化学工業製セルシード)をモル比で1:0.8:4となるように混合した以外は、実施例1と同様の工程を経て得られたものを実施例2の全固体型リチウム二次電池とした(図1(b)参照)。また、原料材料の作製において、コバルト源としてCo溶液(高純度化学研究所製MOD溶液)を約10μmの厚さとなるように固体電解質上に形成した以外は、実施例1と同様の工程を経て得られたものを実施例3の全固体型リチウム二次電池とした(図1(c)参照)。また、原料材料の作製において、コバルト源を溶液(高純度化学研究所製MOD溶液)とし、これに活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2:日本化学工業製セルシード)をモル比で1:4となるように混合した以外は、実施例1と同様の工程を経て得られたものを実施例4の全固体型リチウム二次電池とした(図1(d)参照)。
【0038】
[比較例1]
原料材料の作製において、活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2:日本化学工業製セルシード)のみを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られたものを比較例1の全固体型リチウム二次電池とした(図1(g)参照)。
【0039】
[X線回折測定]
作製した実施例1の複合体をX線回折測定を行った。図15は、実施例1の複合体のX線回折測定結果である。図15に示すように、過剰量のコバルト源を含む原料材料を用いて作製したが、炭酸コバルトなどは検出されず、コバルト酸リチウムが生成していることが確認された。
【0040】
[SEM観察]
作製した実施例1の複合体をX線回折測定を行った。図16は、実施例1の複合体の断面のSEM写真であり、図17は、比較例1の複合体の断面のSEM写真である。図16に示すように、実施例1の複合体では、固体電解質の表面に密接して活物質粒子が形成されていることが観察された。一方、比較例1の複合体では、固体電解質と活物質粒子との間に化合物層を確認することができた。この化合物層は、おそらくLiを含む化合物層であり、酸化リチウムを含む抵抗層であると推察された。実施例1の複合体では、固体電解質と活物質粒子との間に化合物層は存在せず、固体電解質の表面に存在するリチウムをも利用して活物質が生成されているものと推察された。また、比較例1のように固体電解質上に活物質を直接塗布して焼成すると、この界面近傍で比較的大きい空隙領域が観察されたが、実施例1のように固体電解質上のリチウムをも利用して活物質を形成すると固体電解質と活物質との密度がより高まることが観察された。
【0041】
[電池特性評価]
実施例1及び比較例1の全固体型リチウム二次電池を用い、正極の集電体として金を貼り付け、2.5V〜4.4V(対Li+)の範囲で電位をスイープ(25℃、0.1mV/sec.)させることで電池特性を評価した。図18は、実施例1及び比較例1の電池特性評価の測定結果であり、図19は、比較例1を「1」に規格化した際の実施例1及び比較例1の面積容量及び界面抵抗の測定結果である。電位を走査したところ、図18,19に示すように、比較例1に比して実施例1では、約3倍の面積容量が得られた。また、界面抵抗も比較例に比して低い値が得られた。これは、正極活物質と固体電解質との間でのリチウム化合物層(抵抗層)の有無に起因していると推察された。
【0042】
[負極活物質の検討]
次に、固体電解質上への負極活物質の形成について検討した。ガーネット型酸化物Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(つまりX=1.75、実験例5)を固体電解質とし、Li4Ti512を負極活物質とする複合体の作製を行った。原料材料の作製では、チタン源としてチタン溶液(高純度化学製MOD溶液)、リチウム源としてリチウム溶液(高純度化学製MOD溶液)をモル比で1:0.8となるように、即ち、遷移金属が過剰となる条件で混合した。この混合溶液を固体電解質上に滴下して乾燥し、原料形成体とした。次に、この原料形成体を900℃、12時間、大気雰囲気の条件で焼成し、固体電解質上に負極活物質としてのチタン酸リチウムを形成し、複合体とした。この複合体では、うまくX線回折を測定できなかったことから、次のモデル反応も行った。固体電解質の代わりに、アルミナ板を用い、これに上記混合溶液を滴下して乾燥、焼成を行った。このサンプルのX線回折測定結果を測定した。図20は、負極活物質を形成したX線回折測定結果である。図20に示すように、負極活物質としてのチタン酸リチウムが検出された。なお、ここでは、負極活物質をLi4Ti512をとして検討したが、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、Li3-yCoyN(0.3≦y≦0.5)などの窒化物を負極活物質としても同様に作成できるものと推察された。この測定結果から、負極活物質であっても上記正極活物質と同様の工程で複合体を作製することができるものと推察された。この結果より、1回の焼成工程により正負極活物質を形成した複合体を作成することができることが示唆された。例えば、固体電解質の一方の面に正極活物質となる原料材料を焼成温度を調整した状態で形成すると共に、固体電解質の他方の面に負極活物質となる原料材料を焼成温度を調整した状態で形成し、この原料形成体を焼成することが考えられる。焼成温度の調整は、例えば、焼結助剤の添加などにより行うことが挙げられる。
【0043】
以下に従来のリチウムイオン二次電池と本実施例の全固体型リチウム二次電池との相違点をまとめて説明する。
(1)非水リチウムイオン二次電池との対比
非水リチウムイオン二次電池で用いる電解液は、本実施例の全固体型リチウム二次電池で用いたガーネット型酸化物と比べて高いリチウムイオン伝導度を有する。しかし、電解液は、高温(60℃)において分解による劣化や発火による危険性がある。このため高温では使用できない、もしくは、温度が上がらないよう、なんらかの冷却設備が必要である。これに対して、本実施例で用いたガーネット型酸化物は高温でも安定であり、発火の心配もない。そのため、安全性が高く、冷却設備が不要というメリットがある。また、これまでに報告されている電解液のほとんどは、高電位(4.5V以上)で分解してしまうため、高電位の正極活物質を使うのは困難である。これに対して、本実施例で用いたガーネット型酸化物は、8Vでも安定であるため(図14参照)、これまでに報告されているほぼ全ての正極活物質を利用することができる。
【0044】
(2)硫化物系電解質を用いる全固体型リチウム二次電池との対比
硫化物系電解質(例えばLi3.25Ge0.250.254など)の伝導度と本実施例で用いたガーネット型酸化物の伝導度との間にはほとんど差がないため、両者の間では電解質抵抗の差はほとんどない。また、硫化物系電解質の電位窓は広い(0〜10V程度)という報告が多く、その点でも大きな差はない。しかし、硫化物系電解質は大気中の水分などと反応して硫化水素ガスを発生させるという化学的安定性の点で問題があるのに対し、本実施例で用いたガーネット型酸化物はそのような問題がない。
【0045】
(3)他の酸化物を用いる全固体型リチウム二次電池との対比
本実施例で用いたガーネット型酸化物は、従来のガーネット型酸化物に比べてリチウムイオン伝導度が数倍大きい。そのため電解質抵抗は数分の1程度に低減できる。また、従来より知られているオハラ電解質(ガラスセラミックス)は、リチウムイオン伝導度が本実施例で用いたガーネット型酸化物と同等であるが、オハラ電解質は1.5V付近で還元されて絶縁性が低下してしまうため、高電圧の電池を作製するのが困難である(例えば、現在の電池の主流であるカーボン系の負極活物質を用いることができない)。これに対して、本実施例で用いたガーネット型酸化物は8Vでも還元されることなく安定なため(図14参照)、高電圧の電池を作製することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 固体電解質層、12 正極、12a 正極活物質層、12b 集電体、14 負極、14a 負極活物質層、14b 集電体、20 アルカリ金属二次電池。
図1
図2
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図9
図10
図11
図12
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図20