特許第5742161号(P5742161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5742161離型剤組成物、離型フィルム及び粘着フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5742161
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】離型剤組成物、離型フィルム及び粘着フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20150611BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20150611BHJP
   C09J 7/00 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   C09K3/00 R
   B32B27/00 L
   B32B27/00 M
   C09J7/00
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-228798(P2010-228798)
(22)【出願日】2010年10月8日
(65)【公開番号】特開2011-99097(P2011-99097A)
(43)【公開日】2011年5月19日
【審査請求日】2013年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2009-234011(P2009-234011)
(32)【優先日】2009年10月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長島 稔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 育巳
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−136572(JP,A)
【文献】 特公昭49−047155(JP,B1)
【文献】 特開2004−091754(JP,A)
【文献】 特開2009−088465(JP,A)
【文献】 特開2001−115111(JP,A)
【文献】 特開2003−020347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
B32B 27/00
C09J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加反応型シリコーンと、
前記付加反応型シリコーンを硬化させるための硬化触媒と、
熱可塑性飽和ポリエステル樹脂と
を含有する離型剤組成物であって、
該離型剤組成物が、更に、溶剤として、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、ヘキサン、酢酸エチル、及びメチルイソブチルケトンの少なくとも一種と、前記ポリエステル樹脂を架橋させるブロックイソシアネート架橋剤とを含有し、
該ブロックイソシアネート架橋剤はイソシアネート基が保護基でブロックされており、該保護基は前記付加反応型シリコーンの硬化温度以上の温度に加熱されると解離する離型剤組成物。
【請求項2】
塗膜を130〜180℃、10〜30秒で加熱することにより、シリコーンによる連続相中にポリエステル樹脂の塊が分散している海島構造を形成する請求項1記載の離型剤組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂の固形成分は、前記シリコーンの固形成分100重量部に対して5重量部以上100重量部以下の範囲で含有された請求項1記載の離型剤組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂の固形成分は、前記シリコーンの固形成分100重量部に対して10重量部以上50重量部以下の範囲で含有された請求項記載の離型剤組成物。
【請求項5】
フィルム基材に、請求項1〜のいずれか1項記載の離型剤組成物によって形成された離型層が積層されている離型フィルム。
【請求項6】
請求項記載の離型フィルムと、該離型フィルムの離型層に積層された粘着層とを有する粘着フィルム。
【請求項7】
前記粘着層が導電性粒子を含有し、異方性導電膜として使用される請求項記載の粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型剤組成物、離型フィルム及び粘着フィルムに関し、特に異方性導電膜の保護フィルムとして有用な離型フィルム及びその離型層を形成する離型剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムなどの剥離ベース基材の片面に離型剤の塗膜(離型層)を設けた離型フィルムは、異方性導電膜(Anisotropic Conductive Film:ACF)に代表される電子デバイス用粘着剤被膜をはじめとして、各種粘着剤被膜の保護フィルムとして広範に使用されている。即ち、電子デバイス用粘着剤被膜は、通常ベースフィルムの表面に粘着剤と溶剤とを含む塗液を塗工した後、加熱して溶媒を除去する方法で形成される。離型フィルムは、この粘着剤被膜の表面に積層され、保護フィルムとして用いられる。
【0003】
離型フィルムの離型層の形成には、一般的にその表面エネルギーを小さくするためにシリコーン系の離型剤が用いられ、中でも比較的低温で短時間に硬化する付加反応型シリコーン系の離型剤が用いられている(特許文献1、2)。付加反応型シリコーン系の離型剤は白金などの金属触媒により硬化(架橋反応)され、所望の離型機能を持つように作成される(例えばシリコーン系離形層の表面張力(γS)は19〜21 dyne/cm程度)。
【0004】
しかしながら、表面エネルギーの小さな離形層と、粘着剤被膜との親和性が悪いと、離型層と粘着剤被膜との接着力は、全体としては弱いながらも、離型フィルムを粘着剤被膜から剥離する際の切っ掛けとなる部分では強く、剥離開始から剥離終了までの間で剥離力が安定しないという所謂ジャーキー現象が現れる。
【0005】
ジャーキー現象が現れると、大きな剥離力が必要とされる部分で異方性導電膜である粘着剤被膜の一部がベースフィルム側から離型フィルム側へ剥ぎ取られる所謂ブロッキング現象が発生して、異方性導電膜としての性能が大きく損なわれるという問題があった。
【0006】
そこで最近では、離型フィルムの離型層に、粘着剤被膜に対するある程度の親和性を与えることが求められるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−115111号公報
【特許文献2】特開2004−91754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、ジャーキー現象が出現しない離型フィルムや粘着フィルムを提供すること、及びそのような離型フィルムや粘着フィルムの離型層を形成する離型剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この問題を解決するために、本発明の発明者等は、離型剤組成物の塗液にシリコーン以外の熱可塑性飽和ポリエステル樹脂を添加し、シリコーンと熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の混合物を成膜すると、シリコーンが連続相となっている海の中に熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の多数の領域が不均一に分散している海島構造(不均一構造)が得られ、これにより剥離力が安定しないジャーキー現象を改善できることを見出した。
【0010】
本発明は上記発見に基づいて創作されたものであり、付加反応型シリコーンと、前記付加反応型シリコーンを硬化させるための硬化触媒と、熱可塑性飽和ポリエステル樹脂とを含有する離型剤組成物である。
【0011】
また、本発明の離型剤組成物の好ましい態様は、該離型剤組成物を製膜すると、シリコーンによる連続相中に上記ポリエステル樹脂の領域が不均一に分散している海島構造が形成されるものである。
【0012】
本発明の離型剤組成物には、上記ポリエステル樹脂を架橋させるブロックイソシアネート架橋剤が含有されていることが好ましい。ブロックイソシアネート架橋剤は、イソシアネート基が保護基でブロックされた架橋剤であり、該保護基は前記付加反応型シリコーンの硬化温度以上の温度に加熱されると解離するものである。
【0013】
また、本発明の離型剤組成物では、前記ポリエステル樹脂の固形成分が、前記シリコーンの固形成分100重量部に対して、好ましくは5重量部以上100重量部以下、より好ましくは7重量部以上50重量部以下、特に好ましくは10重量部以上30重量部以下の範囲で含有されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、フィルム基材に上記の離型剤組成物によって形成された離型層が積層されている離型フィルムを提供し、この離型フィルムと、該離型フィルムの離型層に積層された粘着層とを有する粘着フィルムを提供する。特に、この粘着フィルムとして、粘着層が導電性粒子を含有し、異方導電膜として使用される態様を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の離型剤組成物は、付加反応型樹脂であるシリコーン樹脂と、熱可塑性飽和ポリエステル樹脂が含有されており、この離型剤組成物を製膜することにより形成される剥離層ではシリコーン樹脂を連続相とする海の中に熱可塑性飽和ポリエステル樹脂が不定形の島状に不均一に分散した海島構造が形成される。海島構造の島であるポリエステル樹脂により、離型層と該離型層が接する粘着層との親和性が向上するので、離型層と粘着層が積層した粘着フィルムにおいて、それらを剥離する際のジャーキー現象が著しく抑制され、剥離力が安定する。よって、離型層と粘着層との剥離時に、離型層に含まれていたポリエステル樹脂が離型層から粘着層に転着したり、脱落したり、粘着層が離型層に剥ぎ取られたりするなどの不都合がなく、粘着フィルムから離型層を剥離した後の粘着層において残留接着率の低下を防止することができる。
【0016】
特に、ポリエステル樹脂を架橋させるブロックイソシアネート架橋剤を添加しておくと、離型剤組成物の製膜時にポリエステル樹脂を架橋させることができるので、離型層からのポリエステル樹脂の脱落や転着等の現象が無くなり、離型層を剥離した後の粘着層に残留接着力の低下を引き起こさず、さらに離型層の耐溶剤性残留接着率も向上する。
【0017】
このような離型層の特性は、粘着層が導電性粒子を含有した異方導電膜の場合にも有効である。したがって、本発明の離型剤組成物を離型層に用いた離型フィルムは異方性導電膜の保護フィルムとして好適となり、本発明の離型フィルムに異方性導電膜を積層した粘着フィルムは、異方性導電フィルムとして有用である。
【0018】
また、導電性粒子を含有しない粘着層も、電気部品と基板の間に配置されて電気部品を基板に固定し、電気部品の接続端子と基板の接続端子とを接触させて電気的に導通させる用途に使用することができる。従って、本発明の粘着フィルムは、粘着層での導電性粒子の含有の有無にかかわらず、電気部品配置のためのジャーキー現象の無い粘着フィルム(接着テープ)として有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】ジャーキー性を説明するための、実施例の剥離層と異方性導電膜との剥離時の経過時間と初期剥離力の関係図である。
図1B】ジャーキー性を説明するための、比較例の剥離層と異方性導電膜との剥離時の経過時間と初期剥離力の関係図である。
図2】剥離層と異方性導電膜との剥離力と、該離型層に添加するポリエステルの種類との関係図である。
図3】剥離層と異方性導電膜との剥離力及び耐溶剤残留接着率と、該剥離層におけるポリエステル添加量との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の離型剤組成物は、付加反応型シリコーンと、付加反応型シリコーンを硬化させるための硬化触媒と、熱可塑性飽和ポリエステル樹脂とを含有する。
【0021】
シリコーンとして付加反応型シリコーンを使用することにより、縮合型シリコーンに比して離型層を低温短時間で硬化させることができる。付加反応型シリコーンとしては、例えば、分子中にアルケニル基(例えばビニル基、ヘキセニル基など)を有する公知のポリジメチルシロキサン等を使用することができる。付加反応型シリコーンの具体例としては、信越化学工業株式会社の商品名X52−9201B、KS847、KS830等の材料が挙げられる。
【0022】
付加反応型シリコーンの硬化触媒としては、例えば、公知の白金系の硬化触媒を好ましく挙げることができる。白金系の硬化触媒の例としては、塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類との錯塩、塩化白金酸とアルコール類との化合物等が挙げられる。
【0023】
付加反応型シリコーンの硬化触媒の離型剤組成物中の配合量は、少なすぎると硬化反応が十分に進行せず、多すぎても添加量に見合う効果が得られないので、付加反応型シリコーン溶液100重量部(溶剤を含む)に対し、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.5〜2重量部(溶剤を含む)である。
【0024】
一方、熱可塑性飽和ポリエステル樹脂としては、数平均分子量1000〜50000、更に好ましくは、5000〜30000、軟化点50℃〜250℃、更に好ましくは130℃〜200℃、ガラス転移点40℃〜90℃のものが好ましい。好ましい熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の具体例としては、ユニチカ社製エリーテルUE−3200(数平均分子量16000、軟化点165℃、ガラス転移点65℃)、エリーテルUE−3201(数平均分子量20000、軟化点165℃、ガラス転移点65℃)、エリーテルUE−3210(数平均分子量20000、軟化点155℃、ガラス転移点45℃)、エリーテルUE−3400(数平均分子量25000、軟化点105℃、ガラス転移点-20℃)、エリーテルUE−9200(数平均分子量15000、ガラス転移点65℃)等が挙げられる。
【0025】
本発明の離型剤組成物における熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の含有量は、シリコーンの固形成分100重量部に対し、熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の固形成分が好ましくは5〜100重量部、より好ましくは7〜50重量部、さらに好ましくは10〜30重量部である。
ポリエステルの含有量が過度に少ないと、離型剤組成物から形成した離型層において、効果的に海島構造を形成することができず、離型層と粘着層との親和性を改善できない。反対にポリエステルの含有量が過度に多いと塗膜性能に悪影響を与え、ハジキ、ムラ、スジなどが発生しやすくなり、離型性能にも悪影響を与える。
【0026】
また本発明の離型剤組成物においては、熱可塑性飽和ポリエステル樹脂が架橋されていても架橋されていなくても、この離型剤組成物から形成した離型層では、シリコーン硬化物中にポリエステル樹脂の塊が島状に散在していることにより剥離力を調整することができるが、熱可塑性飽和ポリエステル樹脂は架橋されている方が好ましく、本発明の離型剤組成物には熱可塑性飽和ポリエステル樹脂を架橋させるための架橋剤を含有させることが好ましい。
【0027】
即ち、上述の熱可塑性飽和ポリエステル樹脂と付加反応型シリコーンとの混合物において、付加反応型シリコーンを硬化させる白金系硬化触媒を含有させても、熱可塑性飽和ポリエステル樹脂自体は架橋反応が進行しない。そのため、離型層と積層する粘着層の溶剤としてポリエステル樹脂溶解性のものやポリエステル樹脂と相溶性の大きなものが使用されると、離型層と粘着層との剥離時に、離型層に含まれていたポリエステル樹脂が粘着層に対して転着や脱落などを起こし、剥離力が大きくなって剥離性が低下したり、剥離後の粘着層における残留接着率が低下する。
【0028】
このため、離型剤組成物にポリエステル樹脂を架橋させるイソシアネート系架橋剤を配合することが考えられるが、イソシアネート系架橋剤はシリコーンを硬化させるための白金系硬化触媒の触媒毒となるため、イソシアネート系架橋剤を配合することはできない。
【0029】
一方、ポリイソシアネートのNCO基が保護基で封鎖された架橋剤はブロックイソシアネート架橋剤と呼ばれており、保護基が解離する温度以上に加熱されると、保護基が解離したNCO基とポリエステル樹脂のヒドロキシ基とが反応してポリエステル樹脂間を架橋させることができる。
【0030】
そこで、離型剤組成物中のポリエステル樹脂の架橋剤として、付加反応型シリコーンを硬化させる際の温度では、硬化触媒の触媒毒とならず、付加反応型シリコーンの硬化温度より高い温度に加熱されると保護基が解離するブロックイソシアネート架橋剤を含有させる。これにより、離型剤組成物を用いて剥離層を形成する際に、付加反応型シリコーンの硬化反応終了後に剥離剤組成物の温度を上昇させると該架橋剤は活性化し、ポリエステル樹脂を架橋させることができる。したがって、離型層に積層された粘着層を該離型層から剥離する際に、離型層からポリエステル樹脂が粘着層に転着することを防止することができる。
【0031】
ブロックイソシアネート系架橋剤の具体例としては、日本ポリウレタン工業株式会社の商品名コロネート2513(解離条件:120℃×30分)、コロネート2507(解離条件:130℃×30分)等が挙げられる。
【0032】
ブロックイソシアネート系架橋剤の配合量は、熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の固形分とブロックイソシアネート系架橋剤との重量比が、5:5から9:1が好ましい。 5:5よりブロックイソシアネートが多いと、塗膜中に残存し離型性能に影響を与えてしまい、9:1よりポリエステル樹脂が多いと、反応が完結せず好ましくない。
【0033】
本発明の離型剤組成物は、塗工性の向上のためにトルエン、メチルエチルケトン(MEK)、キシレン、アセトン、ヘキサン、酢酸エチル、MIBK等の溶剤や、剥離コントロール剤等を含有することができる。また、上述した成分を常法により均一に混合することにより調製することができる。
【0034】
本発明の離型フィルムは、フィルム基材に離型層が積層されたものであって、その離型層を本発明の離型剤組成物の製膜によって形成したものである。
【0035】
ここで、フィルム基材としては、ポリエステルフィルム等の公知のフィルム基材を使用することができる。フィルム基材には、離型層との密着性を向上させるためにコロナ処理等の表面処理を施しておくことができる。フィルム基材の厚みに特に制限はなく、離型フィルムの使用目的などに応じて適宜決定することができる。
【0036】
また、離型組成物の製膜は、次のように行うことができる。即ち、本発明の離型剤組成物をフィルム基材にコイルバー等によって塗布して離型剤組成物の塗膜を形成し、これを昇温して付加反応型シリコーンを硬化させ、離型剤組成物にブロックイソシアネート系架橋剤が含まれる場合には、ブロックイソシアネート系架橋剤の解離温度を超えるまでさらに昇温してポリエステル樹脂を架橋させることにより離型層を形成する。
【0037】
この場合の離型剤組成物の具体的な硬化条件としては、海島構造が形成されるようにするため、離型剤組成物を塗工後、急激に乾燥加熱硬化させることが好ましい。そこで、例えば室温(10〜35℃)で離型剤組成物をフィルム基材に塗布した後、好ましくは130〜180℃、より好ましくは150〜170℃の定温加熱室で、好ましくは10〜300秒、より好ましくは40〜120秒加熱する。加熱温度が130℃より低いとシリコーンの硬化が不十分となり、180℃を超えると基材の耐熱性、熱収縮性の点から好ましくない。また、加熱時間が10秒よりも短いとシリコーンの硬化が不十分となり、300秒を超えると硬化反応が過剰に進行するので好ましくない。このような製膜方法により、フィルム基材上に、海島構造を有する離型層が配置された離型フィルムを得ることができる。
【0038】
また、本発明の粘着フィルムは、上述の離型フィルムの離型層に粘着層が積層されたものである。
【0039】
ここで、粘着層は、常温で粘着性を発揮するものに限らない。粘着層は、その主成分が熱可塑性樹脂で形成されていてもよく、加熱により粘着性を発揮するものでもよい。
【0040】
粘着層は導電性粒子の含有により異方性導電膜に形成することができる。したがって、粘着層に導電性粒子を含有した本発明の粘着フィルムは、異方導電性接着フィルムとして有用なものとなる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
<実施例1>
ポリエステル(ユニチカ株式会社製商品名UE3200、数平均分子量16000、ガラス転移点65℃)の20%溶液10重量部、30%付加反応型シリコーン溶液(信越化学工業株式会社製商品名KS−3703)15重量部、30%付加反応型剥離コントロール剤(信越化学工業株式会社製商品名KS−3800)20重量部、白金硬化触媒(信越化学工業株式会社製商品名PL−50T)0.3重量部、ブロックイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社製商品名コロネート2513)1重量部、トルエン30重量部及びMEK33重量部を、均一に混合して離型剤組成物を調製した。
【0042】
得られた離型剤組成物をフィルム基材である50μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に乾燥厚で0.3μmとなるようにコイルバーで塗工し、160℃のオーブンに入れ、その温度を1分間保持した後、オーブンより取り出し、これにより、フィルム基材の片面に離型層が設けられた離型フィルムを得た。
【0043】
<実施例2>
ブロックイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社製商品名コロネート2513)1重量部を添加しない以外は、実施例1と同様の方法で離型剤組成物を調整し、離型フィルムを得た。
【0044】
<比較例1>
ポリエステル(ユニチカ株式会社製商品名UE3200)の20%溶液10重量部の代わりに、10%エチルセルロース溶液(米国ハーキュレス社製商品名N100)20重量部を添加した以外は、実施例1と同様の方法で離型剤組成物を調整し、離型フィルムを得た。
【0045】
<比較例2>
ポリエステル(ユニチカ株式会社製商品名UE3200)を添加しない以外は、実施例1と同様の方法で離型剤組成物を調整し、離型フィルムを得た。
【0046】
<評価>
実施例1、2で得られた離型フィルムの離型層について、走査型顕微鏡写真を撮ると共に、電子線マイクロアナライザ(EPMA)でシリコンのマッピング像を得た。その結果、シリコーン樹脂の海の中にポリエステル樹脂の塊が散在した海島構造を確認することができた。
また、実施例1、2及び比較例1、2で得られた離型フィルムについて、「(a)初期剥離力」「(b)初期残留接着率」「(c)耐溶剤性残留接着率」「(d)異方性導電膜剥離力」「(e)ジャーキー性」を以下に説明するように試験し、評価した。
【0047】
(a)初期剥離力
離型フィルムの離型層の面に、アクリル樹脂を主成分とする粘着フィルム(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製商品名T4090)を貼り合わせ、長さ200mmで幅50mmの短冊状にカットし、得られた短冊状サンプルに2kgの荷重を載せたまま70℃で20時間エージングした。
エージング終了後、25℃でT型剥離試験を行い、初期剥離力(g/5cm)を剥離強度試験機(株式会社オリエンテック製商品名テンシロン)を用いて測定した。得られた結果を表1に示す。
【0048】
(b)初期残留接着率
初期剥離力の試験において引き剥がしたアクリル系粘着フィルムを、平坦なステンレス板にハンドローラで剤り付け、剥離力を上述と同様に測定し、残留剥離力とした。
これとは別に未使用のアクリル系粘着フィルムを平滑なステンレス板にハンドローラで貼り付け、剥離力を上述と同様に測定し、基準剥離力とした。
そして基準剥離力に対する残留剥離力の割合を算出して初期残留接着率(%)とした。得られた結果を表1に示す。
【0049】
(c)耐溶剤性残留接着率
異方性導電膜の構成材料となる液状反応性エポキシ(ピイ・ティ・アイ・ジャパン株式会社製商品名PF−55TA)を、離型フィルムの離型層上に塗布し、80℃オーブンで5分乾燥して溶媒を飛ばし、更に80℃オーブンにて5時間エージングして乾燥させ、離型フィルム上でエポキシ樹脂膜を作成した後、エポキシ樹脂膜を剥離した。
【0050】
その離型フィルムの剥離面にアクリル樹脂を主成分とする粘着フィルム(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製商品名T4090)を貼り合わせ、上述と同様に残留剥離力を測定し、残留接着率(基準剥離力に対する割合(%))を算出し、得られた値を耐溶剤性残留接着率とした。得られた結果を表1に示す。
【0051】
なお、残留接着率と耐溶剤性残留接着率について、一般的な粘着剤では80%以上の値が求められ、異方性導電膜では95%以上の値が求められている。
【0052】
(d)異方性導電膜剥離力
まず、フェノキシ樹脂(東都化成株式会社製商品名YP50)50重量部、エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名エピコート828)60重量部、イミダゾール系硬化剤(旭化成株式会社製商品名HX3941HP)70重量部、シランカップリング剤(日本ユニカー株式会社製商品名A187)3.2重量部、無機粒子として平均粒径1μmのSiO2粒子(株式会社龍森製の二酸化ケイ素)123.2重量部(40重量%)を、溶剤トルエンに溶解して固形分50%の絶縁性接着剤樹脂、すなわち、バインダー溶液を調製した。
【0053】
そして、このバインダー溶液100重量部に、導電性粒子として、平均粒径5.0μmのジビニルベンゼン粒子にニッケル−金めっきを施したものを7重量部(12.3重量%)加えてバインダーペーストとした。
このバインダーペーストを離型フィルムの離型層上に、乾燥後の厚みが40μmになるようにコーティングし、80℃のオーブンで1分間保持して溶媒除去し、異方性導電膜を形成して接着フィルムを得た。
【0054】
この接着フィルムの異方性導電膜上に、ポリプロピレン基材上にアクリル系粘着剤層を設けた粘着フィルム(日東電工株式会社製のPPテープ)を貼り合わせ、長さ200mmで幅50mmの短冊状にカットし、25℃で、剥離フィルムから異方性導電膜を剥離するT型剥離試験を行い、初期剥離力(g/5cm)を剥離強度試験機(株式会社オリエンテック製商品名テンシロン)を用いて測定した。得られた結果を表1に示す。
【0055】
(e)ジャーキー性
そこで、これらの剥離力チャートにおける測定開始30分の時点から1分間の最大値(Max)、最小値(Min)、及び平均値(Ave)を求め、ジャーキー性の指標としてMaxとMinの差のAve剥離力に対する割合R(R=(Max―Min)/Ave×100)を算出し、次の評価基準で判断した。得られた結果を表1に示す。
[評価基準]
A:Rの値が20%以下
B:Rの値が20%以上50%未満
C:Rの値が50%以上
【0056】
【表1】
【0057】
表1の実施例1から分かるように、ポリエステル樹脂の架橋剤としてブロックイソシアネート系架橋剤を使用することにより、初期剥離力、初期残留接着率、耐溶剤性残留接着率、異方性導電膜剥離力及びジャーキー性のいずれも改善されており、異方性導電膜用の離型フィルムとして好適であることがわかる。
実施例2の場合には、ブロックイソシアネート系架橋剤を使用していないので、ポリエステル樹脂が架橋反応しておらず、実施例1に比べると、異方性導電膜剥離力と耐溶剤性残留接着率が小さいが、ジャーキー性は良好であり、一般向け粘着剤の離型フィルムとしては十分に好適なことがわかる。
【0058】
比較例1の場合には、ポリエステル樹脂の代わりにセルロース系樹脂を使用したことにより、ポリエステル樹脂を使用している実施例1に比べ、初期残留接着率と耐溶剤性残留接着率が大きく劣り、ポリエステル架橋反応をしていない実施例2に比しても劣っている。
比較例2の場合には、ポリエステル樹脂を使用していないので、粘着剤との親和性が悪く、ジャーキー現象が発生した。
【0059】
<実施例3>
ポリエステルの種類によるジャーキー性に対する影響を調べるために、実施例1と同じ量でポリエステルの種類だけ変更した離型剤組成物を調整し、得られた離型剤組成物を実施例1と同様に処理して複数の離型フィルムを得て、前述の(d)異方性導電膜剥離力(接着強度)の試験を行った。
【0060】
使用したポリエステル樹脂の名称と、測定した接着強度の値を図2に示す。各商品名は、ユニチカ社製のポリエステル樹脂である。剥離力の測定値の変動が小さいポリエステルは、ジャーキー現象が発生しなかったことを意味している。
図2の測定結果から、添加するポリエステルはUE3200若しくはUE9200が好ましい。より好ましいのはUE3200である。
【0061】
<実施例4>
ポリエステル樹脂の添加量は、ジャーキー現象に与える影響は少ないが、添加量が多くなるとACFを塗布した後の離型層の被膜性能、即ち、耐溶剤性が低下してしまう。
実施例1と同じ種類のポリエステル(UE3200)を用い、ポリエステル以外の成分の量は実施例1と同じで、シリコーンの固形成分100重量部に対し、ポリエステルの添加量を固形成分で0〜200%の範囲で変更して離型剤組成物を調整し、得られた離型剤組成物を実施例1と同様に処理して複数種類の離型フィルムを作成した。
【0062】
得られた離型フィルムについて前述の(d)異方性導電膜剥離力(接着強度)及び(c)耐溶剤性残留接着率(残接率)の測定を行った。測定結果を図3のグラフに示す。
図3のグラフから、ポリエステルの添加量は、ジャーキー現象に与える影響は少ないが、添加量が多くなると、異方性導電膜を塗布した後の離型層の耐溶剤性が低下することがわかる。
【0063】
従って、シリコーンの固形成分100重量部に対し、ポリエステルの好ましい添加量は、固形成分で5〜100重量部(即ち、図3の5〜100%)、より好ましくは10〜30重量部(即ち、図3の10〜30%)である。
またポリエステルの添加量がシリコーン樹脂に対し、図3の150%を超えると残留接着率が低下し、好ましくないことがわかる。
図1A
図1B
図2
図3