特許第5742533号(P5742533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5742533ポリエステルフィルムロールおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5742533
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムロールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20150611BHJP
   B65H 18/10 20060101ALI20150611BHJP
   B65H 18/28 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   C08J5/18CFD
   B65H18/10
   B65H18/28
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-158716(P2011-158716)
(22)【出願日】2011年7月20日
(65)【公開番号】特開2012-46736(P2012-46736A)
(43)【公開日】2012年3月8日
【審査請求日】2014年7月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-169000(P2010-169000)
(32)【優先日】2010年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良史
(72)【発明者】
【氏名】中島 知子
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−252853(JP,A)
【文献】 特開2010−013275(JP,A)
【文献】 特開2008−138103(JP,A)
【文献】 特開平01−127545(JP,A)
【文献】 特開平04−280756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/02;5/12− 5/22
B65H 18/00−18/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムを巻取コアに巻き取ってなるポリエステルフィルムロールであって、ポリエステルフィルムロールの直径方向10mm毎の位置においてJIS K−6253により測定される硬度を前記位置に対応させて描画した硬度曲線において、該硬度曲線の始点と終点とを直線で結んだ際の交点が唯1個のみ存在し、始点−交点間の範囲において始点と交点とを結ぶ直線から最も距離の離れた硬度曲線上の点をピーク点Aとし、交点−終点間の範囲において交点と終点とを結ぶ直線から最も距離の離れた硬度曲線上の点をピーク点Bとしたとき、下記式(1)および(2)を満足しているポリエステルフィルムロール。
(1)0度ショア≦(ピーク点Aの硬度−ピーク点Bの硬度)≦3度ショア
(2)91度ショア≦終点の硬度
【請求項2】
硬度曲線上の始点の硬度と終点の硬度との差が2〜6度ショアの範囲内である、請求項1に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項3】
硬度曲線上のピーク点Aの硬度が93度ショア以上96度ショア以内であり、硬度曲線上のピーク点Bの硬度が92度ショア以上95度ショア以内である、請求項1または2の記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項4】
ポリエステルフィルムロールの直径方向におけるピーク点Aの位置が始点から40mm以内であるか、および/または、ポリエステルフィルムロールの直径方向におけるピーク点Bの位置が終点から30mm以内である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項5】
ポリエステルフィルムの一方の中心線表面粗さRaが1〜6nmであり、他方の面の中心線表面粗さRaが1〜30nmである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項6】
デジタル記録方式の磁気テープ用ベースフィルムとして用いられる、請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項7】
ポリエステルフィルムを巻取コアに巻き取るに際し、巻取速度が最大となるまでは巻取速度を徐々に増速し、その後、巻取速度を徐々に減速すると共に、巻取速度が最大となる位置を巻取長さの1.0%以内の位置になるように制御する、請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステルフィルムロールの製造方法。
【請求項8】
巻取速度の最大値を巻取速度の平均値よりも25m/min以上高くする、請求項7に記載のポリエステルフィルムロールの製造方法。
【請求項9】
巻取張力を10〜50N/mとし、かつ、巻取中にポリエステルフィルムロールに接触するコンタクトロールの圧力を200〜400N/mとする、請求項7または8に記載のポリエステルフィルムロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムロールに関する。詳しくはフィルム表面突起によるフィルム表面突起の転写跡を軽減し、真空蒸着工程にて適用される真空脱気時の表層ずれや内層ずれおよび初動時のフィルム搬送の蛇行を防止することができるポリエステルフィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、加工性、耐熱性、耐久性、表面特性等の性能に優れているので、様々な用途において使用される。特にポリエステルフィルムの表面に磁性金属薄膜を蒸着した磁気記録媒体テープ用途や、金属類を蒸着して電極層とするコンデンサ用途、ガスバリア層を有する包装用途などのフィルム材料として用いられているが、これらの用途に用いられている蒸着方法は、ポリエステルフィルムを巻き取ったポリエステルフィルムロールを蒸着機内に挿入し、蒸着機内を真空下にした後、ポリエステルフィルムロールを巻出しながら冷却キャン上に搬送され、その冷却キャン上で蒸着加工された後、巻き取られ製品化されるといった方法が一般的である。
【0003】
このような工程で、ポリエステルフィルムロールのフィルム層間にエアーが大量に存在すると、真空下に置かれた時、ポリエステルフィルムロール内のエアーが吸い出されると共に、フィルムロールのところどころの層で、フィルムが端部にずり出されてしまう場合や、減圧下での蒸着機の巻取り初動時に巻出しフィルムが蛇行する場合があり、フィルム層間のエアーをなるべく介在させないことが必要となってくる。このため、フィルムロールの表層硬度を規定したり、フィルム層間のエアー量を規定したフィルムロールが提案されている。例えば、特許文献1に記載される発明では、ポリエステルフィルムの巻き始め、中間、巻き終わりのそれぞれの区間において区間ごとにエアー含有量を規定しているが、フイルムロールの外層硬度が内層硬度よりも高いため内層ずれが発生するという問題を有している。
【0004】
また、特許文献2に記載される発明は、内層から外層に向かうにつれ徐々に硬度を低くする手段を用いて、上記した内層ずれの問題を改善しているが、内層硬度が高いため、フィルムの巻き始め部にて、フィルムが有する表面粗さが次の巻き層となるフィルム面に転写し、フィルム表面が変形する問題を有している。このフィルム表面の変形により形成された凹凸部は、蒸着工程において、例えば、最終製品となった磁気記録テープにおいて、読み取りヘッドとの空間、スペーシングロスが生じ、凹凸が激しい場合には、データを正しく読み取りができなくなってしまうという問題を有している。さらに、特許文献2の手法は、外層硬度が内層硬度より低いために、真空下では、フィルムロールの表層ずれの発生や、真空下での巻出しにおいて外層の硬度が低いためにフィルムロール自体が初動時に幅方向に蛇行し始め、蒸着後のフィルムを巻き取った時の端部ずれによる製品ロスが発生するという問題を有している。このような表層ずれや蛇行は、フィルムが決められた蒸着範囲内に搬送されず蒸着物が冷却キャン上に直接、蒸着される結果、冷却キャンを汚すだけではなく、搬送されてくるフィルムの冷却キャンと接触する面も傷付けるという問題が発生する原因となっている。また、冷却キャンに蒸着物が堆積すると、冷却キャンの冷却効果が低下し、該蒸着物が高温であるために、搬送フィルムが熱負けし、フィルムが溶け破断するという問題も有している。
【0005】
更に、特許文献3に記載される発明は、フィルムロールの巻取り速度を巻き始めは加速し、加速後は一定速度で巻取り、巻取り収束にかけて減速して巻き取り、その速度にあわせたフィルムロールの加圧でフィルムロールにエアーが巻き込まれることを防止したフィルムの巻き取り方法を開示しているが、巻き始めは内層硬度が高くなり、巻き終わりは外層硬度が低くなり、中間の一定速度でフィルムを巻取った部分については、フィルムの巻き内層硬度が高くなり、特許文献2と同様、フィルムロールの内層巻き始め部の表面転写問題は改善されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−346373号公報
【特許文献2】特開2008−138103号公報
【特許文献3】特開2006−176308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題に着目し、フィルムの巻き取りによるフィルム表面突起の転写跡と、真空下におけるフィルムロールの表層ずれと内層ずれの問題を解決し、加工性の良いポリエステルフィルムロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、ポリエステルフィルムを巻取コアに巻き取ってなるポリエステルフィルムロールであって、ポリエステルフィルムロールの直径方向10mm毎の位置においてJIS K−6253により測定される硬度を前記位置に対応させて描画した硬度曲線において、該硬度曲線の始点と終点とを直線で結んだ際の交点が唯1個のみ存在し、始点−交点間の範囲において始点と交点とを結ぶ直線から最も距離の離れた硬度曲線上の点をピーク点Aとし、交点−終点間の範囲において交点と終点とを結ぶ直線から最も距離の離れた硬度曲線上の点をピーク点Bとしたとき、下記式(1)および(2)を満足しているポリエステルフィルムロールであることを特徴とする。
【0009】
(1)0度ショア≦(ピーク点Aの硬度−ピーク点Bの硬度)≦3度ショア
(2)91度ショア≦終点の硬度
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蒸着加工工程を有する製品にて、フィルムの巻き取りによるフィルム表面突起の転写跡を軽減しつつ、真空脱気時のフィルムロールの表層ずれや内層ずれの問題を解決することで、蒸着工程下における蒸着ムラの抑制や、蒸着初動時のフィルムロールの蛇行問題を改善し、生産性を向上し、生産ラインの防汚効果をも有するポリエステルフィルムロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のポリエステルフィルムロールについて、測定位置を説明するための概略横断面図である。
図2】本発明のポリエステルフィルムロールについて、幅方向の測定ポイントを説明するための概略図である。
図3】本発明のポリエステルフィルムロールについて、幅方向の測定ポイントを説明するための概略図である。
図4】ポリエステルフィルムの硬度曲線を表す概略図である。
図5】巻取速度波形を表す概略図である。
図6】巻取速度波形を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリエステルフィルムロールについて、詳細に説明する。
【0013】
本発明は、ポリエステルフィルムを巻取コアに巻き取ってなるポリエステルフィルムロールであって、ポリエステルフィルムロールの直径方向10mm毎の位置においてJIS K−6253により測定される硬度を前記位置に対応させて描画した硬度曲線において、該硬度曲線の始点と終点とを直線で結んだ際の交点が唯1個のみ存在し、始点−交点間の範囲において始点と交点とを結ぶ直線から最も距離の離れた硬度曲線上の点をピーク点Aとし、交点−終点間の範囲において交点と終点とを結ぶ直線から最も距離の離れた硬度曲線上の点をピーク点Bとしたとき、下記式(1)および(2)を満足しているポリエステルフィルムロールであることを特徴とする。
【0014】
(1)0度ショア≦(ピーク点Aの硬度−ピーク点Bの硬度)≦3度ショア
(2)91度ショア≦終点の硬度
本発明において、硬度は、フィルムを巻取コアに巻き取り後、12時間以上経過したポリエステルフィルムロールについて測定する。また、測定はJIS K−6253に準じて、1kgの荷重を付したショア硬度計を用いて行う(詳細については後述する)。
【0015】
測定個所の選定は以下の通りとする。
【0016】
まず、ポリエステルフィルムロールの直径方向(断面方向)における測定位置を決定する。図1はポリエステルフィルムロールの概略横断面図である。図1において、ポリエステルフィルムロール1は、巻取コア2上にポリエステルフィルム3が巻き取られた状態で示されている。最も内層における測定位置は巻取コア2の中心点4から直径方向に延ばした線分上において、巻取コア2の外径位置から6mm離れた位置(測定位置a)である。後述するように、この測定位置aにおける硬度を始点硬度とする。以降、直径方向に10mm間隔にて測定位置b、c、d・・・を10mmの間隔が取れなくなるまで設定し、ポリエステルフィルムのロール表面を最後の測定位置とする。この表面における硬度を終点硬度とする。従って、10mm間隔で決定した最も外層における測定位置と最後の測定位置はロール表面において一致することがある。
【0017】
次に、上記した各測定位置における幅方向の測定ポイントについて説明する。図2はポリエステルフィルムの外観図であり、図3は、ポリエステルフィルムロールを横から見た概略図である。幅方向の測定ポイントは、両端部各2mmを除いた部分について9等分し、図3に示すように計10個(測定ポイント(1)、(2)、(3)、・・・、(10))を設定する。この各測定ポイントにおける測定値10個を平均した値を上記した測定位置a、b、c、d、・・・、ロール表面における硬度とする。すなわち、測定位置a、b、c、d、・・・、ロール表面に対応した硬度の値が唯1個決定される。
【0018】
本発明において、硬度曲線は、上記のようにして得られた硬度を各測定位置に対してプロットした点を結んだものである。
【0019】
なお、実際の測定に際しては、上記のようにして決定された測定位置について、ロール表面から測定を開始し、巻取コア上のポリエステルフィルムを切開しながら測定を進めるため、終点硬度の測定から始まって、最後に始点硬度の測定を行うことになる。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムロールは、上記した硬度曲線において、その始点と終点を直線で結んだ際の交点が唯1個のみ存在することを特徴としている(以下、硬度曲線の始点と終点とを結んだ直線を硬度直線ということがある)。この交点の数が1個のみであることは、ピーク点Aまたはピーク点Bが交点までのどちらか一方に位置することを意味し、ピーク点Aの硬度−ピーク点Bの硬度(以下、ピーク硬度差という場合がある。)が、0度ショア以上3度ショア以下であることで、フィルムロール全体としてのフィルム表面突起の転写跡と減圧下での内層ずれとを顕著に防止することができる。これは、ピーク硬度差が上記範囲内にあることで、フィルムロールが安定したフィルムの巻き硬度を有していることを意味するからである。ピーク硬度差が0度ショア以上3度ショア以下であることで、上述した内層ずれが発生しにくくなる。ピーク硬度差は、好ましくは、0.5度ショア以上1.5度ショア以下である。これにより、フィルムロール全体として、より安定したフィルムロールを得ることができる。
【0021】
この交点が2個以上発生する場合は、各交点間の領域において硬度直線から最も距離の離れた硬度曲線上のピーク点が、本発明のピーク点Aとピーク点B以外に存在することとなり、フィルムロールの内層硬度のばらつきが大きいか、もしくは、内層硬度が高いことを意味する。内層硬度のばらつきは、減圧下での内層ずれの発生原因となる。内層硬度が高い場合はフィルム表面突起の転写跡がフィルムに発生する傾向がある。
【0022】
一方、この交点の数が0個の場合は、硬度曲線が硬度直線の上側に位置する場合と、下側に位置する場合の2通りがある。前者は、巻き硬度が巻き始めから巻き終わりまで高い水準となるため、ポリエステルフィルムの表面突起の転写跡がフィルムに発生する傾向がある。後者は、巻き硬度が低い水準となるため、フィルムの巻き始めから巻き終わりまでフィルムがゆるく巻かれていることとなり、フィルムロールの内層ずれや外層ずれが発生しやすくなる。つまり、本発明のポリエステルフィルムロールは、硬度曲線と硬度直線との交点が1個のみ存在し、その交点の前後の範囲それぞれにおいて、硬度直線の上側領域と下側領域に上記したピーク点A、Bを有することにより、フィルム表面突起の転写跡を低減し、かつ減圧下での巻きズレを防止することを可能としたものである。
【0023】
逆に、このピーク硬度差が開けば開くほど、硬度直線に近い硬度曲線を有することとなるため、フィルムロールに一定範囲内の硬度を有した区間が少ないということとなってしまう。つまり、ピーク点Aが高い硬度位置に現れ、ピーク点Bが低い硬度位置に現れた場合には、徐々にフィルムロールの硬度を下げる区間を長区間に渡って与えるということになり、ピーク点Bは必ず硬度の低い領域にしか位置できず、減圧下での外層ずれが発生しやすくなるという結果を生じる。
【0024】
また、本発明のポリエステルフィルムロールは、硬度曲線の終点の硬度が91度ショア以上である。硬度曲線の終点の硬度が91度ショア以上であることで、減圧下での外層ずれが改善される。より好ましくは、終点の硬度は92度ショア以上である。終点の硬度が91度ショア未満であると、外層層間内のエアー量が増加し、減圧下での表層ずれが発生し易くなる。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムロールは、硬度曲線上の始点の硬度と終点の硬度の差(以下、始終硬度差という場合がある。)が2度ショア以上、6度ショア以内であることが好ましい。これは、上述したピーク硬度差規定による技術思想や効果をさらに顕著にするものである。始終硬度差は、より好ましくは2度ショア以上、4度ショア以内であることで、さらにフィルム表面突起の転写跡と減圧下での内層ずれと外層ずれを安定して防止できるフィルムロールを得ることができる。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムロールは、硬度曲線上のピーク点Aの硬度が93度ショア以上96度ショア以内であることが好ましい。ピーク点Aの硬度が、93度ショア未満になるとフィルムロール内層全体の硬度が低いため、減圧下で内層ずれが発生し易くなる。ピーク点Aの硬度が96度ショアを超えると、フィルムロール内層全体の硬度が高くなるため、前述したフィルム表面突起の転写跡が発生しやすくなる。ピーク点Aの硬度は、より好ましくは93.5度ショア以上95.5度ショア以内である。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムロールは、ピーク点Bの硬度が92度ショア以上95度ショア以内であることが好ましい。ピーク点Bの硬度が、92度ショア未満になると製品表層の硬度が低くなるため、減圧下で表層ずれが発生し易くなる。ピーク点Bの硬度が95度ショアを超えると、フィルムロール内層の硬度より表層側の硬度が高くなるため、減圧下で内層ずれが発生し易くなる。ピーク点Bの硬度は、好ましくは93度ショア以上95度ショア以内である。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムロールは、その直径方向について、ピーク点Aが硬度曲線の始点から40mm以内に位置することが好ましい。ピーク点Aが始点から40mmを超えるところに位置すると、ポリエステルフィルムロールの内層巻き始め部にて、フィルムが有する表面粗さ(突起)が隣接するフィルム面に表面転写される領域が増える傾向となる。ピーク点Aの位置は、より好ましくは始点から30mm以内、さらに好ましくは始点から20mm以内である。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムロールは、その直径方向について、ピーク点Bが硬度曲線の終点から30mm以内に位置することが好ましい。ピーク点Bが終点から30mmを超えるところに位置すると、表面軟巻き領域が増加することにより、経時での表層しわ等の問題が発生するためである。ピーク点Bの位置は、より好ましくは終点から20mm以内、さらに好ましくは終点から15mm以内である。
【0030】
なお、上記したピーク点A、Bの位置は、両方が上記規定を満足していることが好ましいが、どちらか一方であってもよい。
【0031】
本発明におけるポリエステルフィルムに用いられるポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールを構成成分とするポリエステルが好適である。
【0032】
ここで、芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等を用いることができる。中でもテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いることが好ましい。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、さらには、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸等を一部共重合してもよい。また、ジオール成分として例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール等を用いることができる。中でも、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートを用いることができる。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムロールの製造法を、以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
ポリエステルは、次の方法で製造することができる。
【0035】
例えば、酸成分をジオール成分と直接エステル化反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造する方法や、酸成分としてジアルキルエステルを用い、これとジオール成分とでエステル交換反応させた後、上記と同様に重縮合させることによって製造する方法等がある。この際、必要に応じて、反応触媒としてアルカリ金属、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛、アンチモン、ゲルマニウム、チタン化合物を用いることもできる。
【0036】
また、必要に応じて、着色防止剤(リン化合物)、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤、あるいはポリシロキサン等の消泡剤等を配合することができる。
【0037】
ポリエステルフィルムは二軸方向に延伸されたフィルムであることが好ましく、フィルムを二軸延伸する場合の方法は、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法のいずれの方法であってもよい。逐次二軸延伸法の場合、例えば、熱可塑性樹脂をTダイ押し出し法によってキャストドラム上に押し出すことによって未延伸フィルムとし、次いで、縦方向、横方向の順に延伸するのが一般的であるが、横方向、縦方向の順に延伸してもよい。同時二軸延伸法の場合、例えば、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法等いずれの延伸方式を採用してもよいが、製膜安定性、厚み均一性の点からステンター同時二軸延伸法が好ましい。延伸温度は、延伸に用いるポリエステルのガラス転移温度(Tg)と昇温結晶化温度(Tcc)との間であることが好ましい。延伸倍率は、特に限定されるものではなく、用いるフィルムポリマの種類によって適宜決定されるが、好ましくは縦、横それぞれ2〜8倍、より好ましくは3〜8倍が適当である。また、二軸延伸後、縦または横、あるいは縦横に再延伸してもかまわない。
【0038】
さらにその後、二軸延伸後のフィルムを熱処理してもよい。熱処理温度は、フィルムの温度にして180℃〜240℃の範囲で、2〜30秒間行うのが熱収縮特性の点で好ましい。熱処理に引き続き、弛緩処理1〜10%の範囲で行なってもよい。
【0039】
ポリエステルフィルムの一方の面の中心線表面粗さRa(以下、単にRaという場合がある。)は1〜6nmが好ましく、更に好ましくは2〜5nmである。Raが1nm未満になると、巻取り中の巻き込みエアー抜け量が低下し、内層硬度が低下し内層ずれが発生し易くなる。ポリエステルフィルムの他方の面の中心線表面粗さRaは、易滑性付与のために一方の面よりも大きい中心線表面粗さRaを有していてもよく、Raは1〜30nm、好ましくは5〜25nm、更に好ましくは10〜25nmである。また、ポリエステルフィルムの一方の中心線表面粗さRaが1〜6nmであり、かつ他方の面の中心線表面粗さRaが1〜30nmであることが好ましい。なお、本発明によれば、一方の面と他方の面のRaの差が小さくても(例えば、同じ値(差が0)であっても)、内層ずれを防止することが可能である。
【0040】
また、蒸着型の磁気記録媒体に本発明のフイルムを適用する場合、走行面側添加粒子突起が蒸着面側へ表面転写を抑制することができるので、電磁変換特性が低下する問題も解消されやすくなる。
【0041】
この中心線表面粗さRaを制御するには、それぞれの面を形成する層に粒子を添加する方法が好ましく採用される。例えば、クレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式あるいは乾式シリカなどの無機粒子や、アクリル酸系ポリマー類、シリコーンや架橋ポリスチレン等を構成成分とする有機粒子等を配合することもできる。また、ポリエステル重合反応時に添加する触媒等が失活して形成される、いわゆる内部粒子による方法も用いることができる。
【0042】
また、フィルム上に水溶性高分子および/または水分散性高分子からなる被膜層や、上述したRaをフィルムに付与するために該被膜層に粒子を添加した易滑被膜層を設ける手段も目的の表面粗さを形成させることができ有効である。
【0043】
易滑被膜層をのマトリクスに使用する有機化合物としては、たとえば、ポリビニルアルコール、トラガントゴム、カゼイン、ゼラチン、セルロース誘導体、水溶性ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、アクリル−ポリエステル樹脂、イソフタル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂等の有極性高分子、あるいはこれらのブレンド体が使用できる。
【0044】
水溶性高分子としては、ポリビニルアルコールや、トラガントゴム、アラビアゴム等の天然ゴムや、カゼインや、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体や、ポリエステルエーテル共重合体等の水溶性ポリエステル共重合体等を用いることができる。なかでも、セルロース誘導体と水溶性ポリエステル共重合体とをブレンドしたものが特に好ましい。水溶性ポリエステル共重合体はセルロース誘導体とポリエステルフィルム表面との接着性を増大させるために寄与し、セルロース誘導体はポリエステル分解物が析出することを防ぐために寄与する。
【0045】
水溶性ポリエステル共重合体としては、ジカルボン酸成分とグリコール成分とが重縮合してなるポリエステルについて、例えばスルホン酸基を有するジカルボン酸成分のような機能性酸成分を全カルボン酸成分の5モル%以上共重合せしめたり、グリコール成分としてポリアルキレンエーテルグリコール成分を2〜70質量%共重合せしめることによって水溶性を付与したものを好ましく採用することができる。スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸などや、それらの金属塩、ホスホニウム塩などを好ましく使用でき、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が特に好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合せしめる際の他のジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが好ましく、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましい。
【0046】
水分散性高分子としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エステル等が使用できる。
【0047】
さらに、被膜層や易滑被膜層は、易滑剤を含有することも可能である。易滑剤を含有することで、被覆層の易滑性が向上し、冷却キャンとの走行性、耐削れ性が確保され、ポリエステルフィルムを巻いたときのフィルム間のブロッキングが防止されるという効果を有する。
【0048】
易滑剤としては、シリコーンやフッ素化合物を用いることができる。さらにシリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン等の、シロキサン結合を分子骨格にもつ有機ケイ素化合物が共有結合で多数つながった重合体が使用できる。
【0049】
易滑剤としてシリコーンを採用する場合には、易滑被覆層がさらにシランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤はシリコーンが易滑剤層より遊離することを防ぐのに寄与し、さらに、易滑被覆層とポリエステルとの接着性を向上させることにも寄与する。シランカップリング剤としては、その分子中に2個以上の異なった反応基をもつ有機ケイ素単量体が挙げられる。反応基としては水溶性高分子の側鎖、末端基およびポリエステルと結合するものが選ばれ、その反応基の一つはメトキシ基、エトキシ基、シラノール基などであり、もう一つの反応基はビニル基、エポキシ基、メタアクリル基、アミノ基、メルカプト基などである。シランカップリング剤としては例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が適用できる。
【0050】
水溶性高分子としては、セルロース誘導体と水溶性ポリエステル共重合体とをブレンドしたものを採用し、シリコーンおよびシランカップリング剤と組み合わせて易滑被覆層とする場合のセルロース誘導体/水溶性ポリエステル共重合体/シリコーン/シランカップリング剤の質量比としては、100/(100〜500)/(1〜20)/(10〜50)が好ましい。
【0051】
ポリエステルフィルムは単層構成であっても複数層構成であってもよく、A層/B層の2層構成やA層/B層/C層の3層構成や、A層/B層/C層/D層などの4層構成でもよい。ここで、最外層に位置する各層は、共押出によるポリマー層であっても、上記した被膜層や易滑被膜層であってもよい。
【0052】
ポリエステルフィルムの厚みは1〜12μmであることが好ましく、より好ましくは2〜10μmであり、さらに好ましくは3〜8μmである。
【0053】
本発明のポリエステルフィルムロールの幅は、600〜1,000mmが好ましく、更に好ましくは600〜750mmである。600mm未満ではテープ生産性が低下し、1,000mmを超えると、巻姿が悪化しやすくなる。
【0054】
本発明のポリエステルフィルムロールの巻長さは20,000m以上60,000m未満であることが好ましい。20,000mを下回る場合は、1回の加工で得られる加工製品が少なく、切り替えにかかる手間や時間が増加し、生産性が低下する。60,000m以上になると巻姿が悪化し易くなる。
【0055】
次に、本発明のポリエステルフィルムの巻取り方法について説明する。
【0056】
本発明のポリエステルフィルムロールに用いられる巻取コアは、材質としては繊維強化プラスチック、鉄などを用いることができるが、中でも繊維強化プラスチックを用いると、経時による巻き締まりにより発生する原反形状の変化やしわの発生を軽減できる点で好ましい。
【0057】
巻取コアの直径は50〜500mmが好ましく、更に好ましくは100〜350mmであリ、特に好ましくは150〜250mmである。
【0058】
本発明のポリエステルフィルムロールは、巻取速度が最大となるまでは巻取速度を徐々に増速し、その後、徐々に巻取速度を減速することにより得ることができる。その際、巻取速度が最大となる位置(以下、最速位置ということがある)を巻始めから巻取長さ(製品長さ)の1.0%以内に位置させることが好ましい。このような巻取りを行うことによって、本発明のポリエステルフィルムロールを得ることができる。
【0059】
上記のようにポリエステルフィルムの巻き始めから巻取速度が最大となるまで徐々に巻取速度を増速させることは、ポリエステルフィルムロールの内層にエアーを適量含ませることを意味する。ポリエステルフィルムの巻取速度が一定の場合には、エアーは外周に行くに従って増える傾向にあるが、本発明にあってはポリエステルフィルムの突起による転写跡の発生を防止するために、上記した増速を実施する。
【0060】
巻取速度が最大となった後は、徐々に巻取速度を減速するが、これは、巻取り速度が一定の場合にはエアーは外周に行くに従って増える傾向にあるため、硬度曲線の終点の硬度が91度ショア未満になりやすく表層ずれが発生するためである。巻取り速度を徐々に減速することにより、ピーク点Aからピーク点Bにおける硬度を一定値に保つことができ、内層ずれを防止することができる。
【0061】
また、上記した最速位置を、巻始めから巻取長さ(製品長さ)の1.0%以内に制御することで、ポリエステルフィルムの巻き始めの硬度を早く低くさせることができ好ましい。最速位置は、理論上は0%に近いことが好ましいが、巻始めは速度が0m/minであるため、現実にはある有限の位置が最速位置となる。最速位置は、好ましくは、巻始めから巻取り長さの0.5%以内である。また、この範囲にすることで、上述したポリエステルフィルムロールの好ましい巻取り長さにおいて、ピーク点Aを硬度曲線の始点から40mm以内に位置させることができる。最速位置が製品長さの1.0%を超える場合、ピーク点Aの位置が外層に近づくため(巻始め位置から離れるため)、ポリエステルフィルムの表面突起による転写跡の発生領域が増加する傾向がある。
【0062】
また、ポリエステルフィルムロールの巻取速度の最大値(以下、最高巻取速度ということがある)は、巻取速度の平均値(以下、平均巻取速度ということがある)より25m/min以上高いことが好ましい。ここで平均巻取速度とは、最高巻取速度と最終巻取り速度の平均速度を表す。なお、最終巻取り速度とは、巻き終わり(0m/min)に向けて巻き取り速度を大きく低下せしめる際の速度をいう(図5、6等参照)。最高巻取速度が平均巻取速度より25m/min以上高いことで、ポリエステルフィルムロールの内層にエアーを多く含ませることができ、ポリエステルフィルムの表面突起が転写跡となるのを防止することができる。最高巻取速度が平均巻取速度より25m/min未満の場合は、内層が硬く巻かれるためポリエステルフィルムの表面突起による転写跡の問題が発生しやすい。
【0063】
上記の最高巻取速度は、例えば、一方の面の中心線表面粗さRaが1〜6nmで、他方の面の中心線表面粗さRaが1〜30nmであるポリエステルフィルムを用いる場合、180〜300m/minが好ましく、更に好ましくは200〜280m/minであり、特に好ましくは220〜260m/minである。最高巻取速度が180m/min未満になると、内層が硬く巻かれるためポリエステルフィルムの表面突起による転写跡の問題が発生する傾向がある。最高巻取速度が300m/minを超えると、巻き始め部のスタートしわが発生し易くなる。
【0064】
最高巻取速度を上げることにより、ポリエステルフィルムロールの内層にエアーを多く含ませることができ、ポリエステルフィルムの表面突起が転写跡となるのを防止することができるが、表面粗さRaによって、転写の変形レベルが異なる。表面粗さRaが大きい値をとる(粗面である)場合、層間含有エアーは抜け易くなり、硬く巻かれる傾向があるため、転写跡を軽減するために最高巻取速度を上げる必要性が大きくなる。逆に表面粗さRaが小さい値をとる(平滑である)場合は、柔かく巻かれる傾向となるため最高巻取速度を下げることが可能である。
【0065】
最高巻取速度に達した後、徐々に巻取速度を減速する際の減速パターンは、直線減速パターンであっても、曲線減速パターンであってもよい。曲線減速パターンの例としては、双曲線となるパターンが挙げられる。減速パターンの減速レートは、巻長さ30,000m以上のフィルムロールで、1×10−4〜1m/min/mが好ましく、更に好ましくは1×10−3〜1×10−1m/min/mである。
【0066】
ポリエステルフィルムロールの巻取張力は10〜50N/mに制御することが好ましく、その際、巻取中にポリエステルフィルムロールに接触するコンタクトロールの圧力(以下、接圧ロール圧力ということがある)を200〜400N/mとすることが好ましい。巻取張力が、10N/m未満となった場合、スリット中のフィルム搬送状態が悪化する傾向がある。50N/mを超える場合、ポリエステルフィルムロール内での残存張力が大きくなるため、フィルム変形等の問題を起こす場合がある。なお、巻取張力は、巻取径に対応して、張力を徐々に低下させてもよい。
【0067】
接触ロール圧力が200N/m未満となった場合、巻き込みエアー量が増加し内層硬度が低下する傾向がある。接触ロール圧力が400N/mを超える場合、フィルム帯電による帯電欠陥が発生しやすくなる。なお、接触ロール圧力は、巻取径に対応して、接圧を徐々に上昇させてもよい。
【0068】
ポリエステルフィルムロールの平均巻取速度は、120〜200m/minが好ましい。120m/minを下回ると、製膜工程と追従性が低下し、結果、製膜速度を低下させることにより生産性が低下する。平均巻取速度が200m/minを超えると、内層硬度が全体的に低下する傾向にある。
【0069】
最高巻取速度が180m/min未満になると、巻き始め部が硬く巻かれ、ポリエステルフィルムロール巻き始め側で転写跡が発生しやすくなる。特に、蒸着型の磁気記録媒体に適用する場合、走行面側添加粒子突起が蒸着面側へ表面転写し電気変換特性が低下する問題が発生しやすくなる。
【0070】
上記のようにして得られる本発明のポリエステルフィルムロールは、特に蒸着加工工程を有する製品に適用することにより、ポリエステルフィルムの表面突起の転写跡を軽減しつつ、減圧下での外層ずれとポリエステルフィルムロールの初動時の蛇行問題を解決することができ、生産性を向上し、蒸着操作を中断させることなく蒸着工程を行うことができる。なお、初動時の蛇行問題とは、蒸着機内を減圧にした後、ポリエステルフィルムロールの巻取りを開始直後に、ポリエステルロール内の含有エアーによって巻出し直後の搬送ロール上でフィルムが蛇行することをいう。
【0071】
上記した蒸着加工工程を有する製品としては、例えば磁性層を蒸着工程により設ける磁気記録媒体(磁気記録テープ)がある。この場合、特にデジタル記録方式の磁気テープ用ベースフィルムとして本発明のポリエステルフィルムロールから得られるフィルムを用いると好適である。
【0072】
この他に、コンデンサ、包装材料、一般工業材料などの蒸着加工工程を有する製品においても、本発明のポリエステルフィルムロールから得られるフィルムを用いると好適である。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例を用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0074】
[測定方法]
(1)硬度測定
硬度は、フィルムを巻取り後、12時間以上経過したポリエステルフィルムロールの幅方向のロール端部から2mm内側の点より幅方向に10等分した測定点をJIS K6253(2006)に準じ1kgの加重を付したショア硬度計(高分子計器(株)製、アスカーゴム硬度計D型)を用いて測定した値の平均値を硬度とした。
【0075】
(2)硬度曲線
図1〜3を用いて説明したように、フィルムロールの直径方向における測定位置(a、b、c、・・・)と、幅方向における測定ポイント((1)、(2)、(3)、・・・、(10))とを決定し、測定位置に対応した硬度値をプロットする。このプロットした点を結んだものを硬度曲線とした。
【0076】
(3)フィルム厚み測定
マイクロメータを用いて、フィルムの幅と長さ方向にそれぞれ10点を測定しその平均値を用いた。
【0077】
(4)算術平均粗さRa値
原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)を用いて測定した。セイコーインスツルメント社製の卓上小型プローブ顕微鏡(Nanopics 1000)を用い、ダンピングモードでフィルムの表面を5μm角の範囲で原子間力顕微鏡計測走査を行い、得られる表面のプロファイル曲線よりJIS B0601(2001) Raに相当する算術平均粗さよりRa値を求めた。面内方向の拡大倍率は2万倍、高さ方向の拡大倍率は100万倍程度とした。測定方向はフィルム幅方向とし、測定本数は256本とした。単位はnmで表示した。
【0078】
(5)固有粘度(IV)
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
【0079】
(6)減圧下における表層ずれ評価(真空脱気時の表層ずれ)
ポリエステルフィルムロールを蒸着機に装着し、蒸着機チャンバー内の減圧度を2×10−2Pa以下とした際に観察される、幅方向のフィルムずれを評価した。評価対象は、フィルムロール表面から厚み10mmの表層部分に含まれるフィルムとした。幅方向の基準位置を、巻取コア直上に巻回した第1層目のフィルム端部とし、この位置からの幅方向のずれ量を上記測定対象となる表層部のフィルムに対しメジャーにて計測し、その最大値を下記基準にて評価した。
【0080】
◎:1.0mm未満
○:1.0mm以上2.0mm未満
△:2.0mm以上4.0mm未満
×:4.0mm以上
(7)減圧下における内層ずれ評価(真空脱気時の内層ずれ)
評価対象を、フィルムロール表面から厚み10mmの表層部分を除いた内層部分とした以外は、上記(6)と同様にして計測し、その最大値を下記基準にて評価した。
【0081】
◎:1.0mm未満
○:1.0mm以上2.0mm未満
△:2.0mm以上4.0mm未満
×:4.0mm以上
(8)蒸着初動時の蛇行
蒸着機チャンバー内の減圧度を2×10−2Pa以下とし、100m/minまで加速したときの、100m時の蛇行量(搬送ロール上における、標準位置からの幅方向のずれ量(絶対値))を計測して、下記の基準で評価した。
【0082】
◎:1.0mm未満
○:1.0mm以上2.0mm未満
△:2.0mm以上4.0mm未満
×:4.0mm以上
(9)フィルムロール内層巻き始め部の電気変換特性の評価(巻芯部の電気特性)
ポリエステルフィルムロールのコア表面から直径方向に10mm離れた部分のフィルムを用いて、磁気記録テープ(フィルムロール巻芯側テープ)を作成し、周波数21MHzの出力を測定し、ポリエステルフィルムロールの表層に位置するフィルムを用いて同様に磁気記録テープ(フィルムロール表層側テープ)を用いて測定した出力の差を下式に基づき算出し、下記の基準で評価した。
出力の差=フィルムロール巻芯側テープの出力−フィルムロール表層側のテープの出力
◎:−0.1dB未満
○:−0.1dB以上−0.6dB未満
△:−0.6dB以上−0.8dB未満
×:−1.0dB以上
[実施例1]
A層の原料(原料A)として、実質的に不活性粒子を含有しないポリエチレンテレフタレート原料A(固有粘度IV0.66)を準備した。
【0083】
一方、B層を形成するため、PETをベースに、さらに不活性粒子αとして平均粒子径300nmの架橋シリコーン粒子を0.80質量%、不活性粒子βとして平均粒径800nmのシリカ粒子を0.02質量%含有させたチップ原料を準備した。
【0084】
またA層側に被覆層C層を形成するための塗液(塗液C)として、下記組成・濃度の水溶液を調製した。
【0085】
C層用塗液(溶液C):
メチルセルロース(メトキシル基置換度1.8):0.10質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体):0.30質量%
アミノエチルシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリメトキシシラン):0.01質量%
微細粒子(平均粒径18nm(長径/短径比1.1、相対標準偏差0.1)のシリカ):0.03質量%。
【0086】
またB層側の表面に易滑被覆層D層を形成するための塗液(塗液D)として、下記組成・濃度の水溶液を調製した。
【0087】
D層用塗液(溶液D):
メチルセルロース(メトキシル基置換度1.8):0.15質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体):0.25質量%
アミノエチルシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリメトキシシラン):0.03質量%
ポリジメチルシロキサン(重合度100のジメチルポリシロキサン、202個のメチル基の2個をアミノ基にかえたもの):0.01質量%。
【0088】
原料Aと原料Bとを厚み比9:1の割合で共押出しした。原料A、B合計の吐出量は、積層ポリエステルフィルムの全体の厚みが後述の目標値(6.3μm)となるように微調整した。これをキャスティングドラム上で冷却固化し、ロール延伸法で105℃で3.0倍に縦延伸した。
【0089】
次いで、A層の表面に塗液Cを、メタリングバー方式にて塗布厚み4.0μmで塗布しC層を設けた。また、B層の表面に塗液Dを、エアーナイフ方式にて塗布厚み2.5μmで塗布しD層を設けた。
【0090】
その後、テンターにて98℃で横方向に4.2倍に延伸し、210℃で熱処理した後、中間スプールに巻取り、該フィルムのC層平均表面粗さ3.5nm、D層平均表面粗さ15.0nmの2軸延伸ポリエステルフィルム原反を得た。
【0091】
この原反フィルムを外径167mm、内径152.5mmの繊維強化プラスチック(FWP)コアA(天龍工業(株)製FWP10)にスリッターを用いて、巻取り速度を260m/minまで昇速し41,400m部で120m/minになるように減速する速度パターンを用いて巻き取った。この巻取り時の巻取り張力は20N/mとし、41,400m時に15%ダウンするように直線的に下げた。更にクロロプレンゴム製のコンタクトロールにて200N/mの圧力で押さえながら、620mm幅にスリットし巻長さ41,500mの本発明のポリエステルフィルムロールを得た。
【0092】
このポリエステルフィルムロールを、25℃環境下で24時間保管し、硬度曲線を確認した。始点と終点を直線で結んだ際の交点の数が1つであった。始点の硬度は95度ショア、終点の硬度は91.1度ショアで始点と終点の硬度差は3.9度ショアであった。また、ピーク点Aの硬度は93.0度ショア、ピーク点Bの硬度は92.0度ショアであり、ピーク点Aとピーク点Bの差は1.0度ショアであった。
【0093】
また、上記した硬度評価に供したポリエステルフィルムロールの製造条件と全く同じ条件で得たポリエステルフィルムロールを用いて、蒸着機にセットし蒸着機チャンバー内の減圧度を2×10−2Pa以下し、表層ずれおよび内層ずれ量を確認した。表層ずれ量は3.0mmであった。内層ずれ量は2.0mmであった。
【0094】
その後、蒸着機を駆動させ100m/minまで昇速し100m巻き取った際の蛇行量を確認した。蛇行量は2.5mmであった。
【0095】
そのポリエステルフィルムのC層表面に強磁性金属薄膜として、真空蒸着によりコバルト−酸素薄膜を150nmの膜厚で形成した。次に、コバルト−酸素薄膜層上に、スパッタリング法によりダイヤモンド状カーボン膜を10nmの厚みで形成させ、ダイヤモンド状カーボン膜上に潤滑剤としてトップコートを施した。
【0096】
続いて、D層表面に、カーボンブラック、ポリウレタン、シリコーンからなるバックコート層を400nm厚さで設けた。
【0097】
これをスリッターにより幅6.35mm、長さ73mにスリットして磁気記録テープとし、リールに巻き取りDVCカセットテープを得た。
【0098】
得られたDVCカセットテープの特性を、フィルムロールの表層側のDVCカセットテープとフィルムロールの内層巻き始め部のDVCカセットテープにて、周波数21MHzの出力を比較した。出力差は0.0dBであった。
【0099】
[実施例2〜24、比較例1〜8]
巻取り長さ、スリット速度パターン、巻取り張力、コンタクトロール接圧条件などを変更し、実施例16乃至23は下記に示す以外は実施例1と同様にポリエステルフィルムロールを得、得られたポリエステルフィルムロールについて、25℃で24時間保管後、硬度曲線を確認し評価した。
【0100】
さらに、硬度評価に供したポリエステルフィルムロールの製造条件と全く同じ条件で得たポリエステルフィルムロールについて、実施例1と同様に減圧下での表層および内層ずれ評価と初動時の蛇行評価をした後、実施例1と同様の方法で磁気記録テープDVCカセットテープを得、電気変換特性の出力を評価した。これらの結果を表1、2に示した。
【0101】
(実施例16、17)
原料Aと原料Bとを厚み比9:1の割合で共押出しした。原料A、B合計の吐出量は、積層ポリエステルフィルムの全体の厚みが後述の目標値をそれぞれ、表1に表すように微調整した。
【0102】
(実施例18)
B層を形成するため、PETをベースに、さらに不活性粒子αとして平均粒子径300nmの架橋シリコーン粒子を1.0質量%、不活性粒子βとして平均粒径800nmのシリカ粒子を0.03質量%含有させたチップ原料を準備した。
【0103】
また、C層用塗液(溶液C)に含有される微細粒子を、平均粒径18nm(長径/短径比1.1、相対標準偏差0.1)のシリカ:0.04質量%とした。
【0104】
(実施例19)
B層を形成するため、PETをベースに、さらに不活性粒子αとして平均粒子径300nmの架橋シリコーン粒子を0.3質量%、不活性粒子βとして平均粒径800nmのシリカ粒子を0.01質量%含有させたチップ原料を準備した。
【0105】
また、C層用塗液(溶液C)に含有される微細粒子を、平均粒径12nm(長径/短径比1.1、相対標準偏差0.1)のシリカ:0.03質量%とした。
【0106】
(実施例20)
B層を形成するため、PETをベースに、さらに不活性粒子αとして平均粒子径300nmの架橋シリコーン粒子を0.05質量%、不活性粒子βとして平均粒径200nmのシリカ粒子を0.01質量%含有させたチップ原料を準備した。
【0107】
(実施例21、22、23)
B層を形成するため、PETをベースに、さらに不活性粒子αとして平均粒子径300nmの架橋シリコーン粒子を0.07質量%、不活性粒子βとして平均粒径200nmのシリカ粒子を0.01質量%含有させたチップ原料を準備した。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明によれば、蒸着工程において表層ずれや内層ずれ、蒸着機初動時の蛇行問題および内層巻き始め部の表面転写問題等の工程問題を解決し、生産性よく加工することを可能とするポリエステルフィルムロールを提供することができる。本発明のポリエステルフィルムロールは、特に生産性、加工性に優れている。
【符号の説明】
【0112】
1 ポリエステルフィルムロール
2 巻取コア
3 ポリエステルフィルム
4 中心点4
図1
図2
図3
図4
図5
図6