(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定手段が、前記第一要求負荷率が第一閾値以上であるときに、前記運転領域が前記アイドル制御領域から離脱したと判定し、前記第二要求負荷率が前記第一閾値よりも小さい第二閾値未満であるときに前記運転領域が前記アイドル制御領域へ進入したと判定する
ことを特徴とする、請求項3記載のエンジンの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照してエンジンの制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジンの制御装置は、
図1に示す車載のガソリンエンジン10に適用される。ここでは、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダーのうちの一つを示す。ピストン16は、中空円筒状に形成されたシリンダー19の内周面に沿って往復摺動自在に内装される。ピストン16の上面とシリンダー19の内周面及び頂面に囲まれた空間は、エンジンの燃焼室26として機能する。
ピストン16の下部は、コネクティングロッドを介して、クランクシャフト17の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに連結される。これにより、ピストン16の往復動作がクランクアームに伝達され、クランクシャフト17の回転運動に変換される。
【0020】
シリンダー19の頂面には、吸気を燃焼室26内に供給するための吸気ポート11と、燃焼室26内で燃焼した後の排気を排出するための排気ポート12とが穿孔形成される。また、吸気ポート11,排気ポート12の燃焼室26側の端部には、吸気弁14及び排気弁15が設けられる。これらの吸気弁14,排気弁15は、エンジン10の上部に設けられる図示しない動弁機構によって各々の動作を個別に制御される。また、シリンダー19の頂部には、点火プラグ13がその先端を燃焼室26側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ13による点火時期は、後述するエンジン制御装置1で制御される。
シリンダー19の周囲には、その内部をエンジン冷却水が流通するウォータージャケット27が設けられる。エンジン冷却水はエンジン10を冷却するための冷媒であり、ウォータージャケット27とラジエータとの間を環状に接続する冷却水循環路内を流通している。
【0021】
[1−2.吸気系]
吸気ポート11内には、燃料を噴射するインジェクター18が設けられる。インジェクター18から噴射される燃料量は、後述するエンジン制御装置1によって制御される。また、インジェクター18よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド20(以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。このインマニ20には、吸気ポート11側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、各シリンダー19の吸気ポート11に向かって分岐するように形成され、サージタンク21はその分岐点に位置する。サージタンク21は、各々のシリンダーで発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
【0022】
インマニ20の上流側には、スロットルボディ22が接続される。スロットルボディ22の内部には電子制御式のスロットルバルブ23が内蔵され、インマニ20側へと流れる空気量がスロットルバルブ23の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、エンジン制御装置1によって制御される。
スロットルボディ22のさらに上流側には、吸気通路24が接続され、吸気通路24のさらに上流側にはエアフィルタ25が介装される。これにより、エアフィルタ25で濾過された新気が吸気通路24及びインマニ20を介してエンジン10の各シリンダー19に供給される。
【0023】
[1−3.検出系]
スロットルバルブ23の下流側には、圧力を検出するインマニ圧センサー31が設けられる。インマニ圧センサー31はスロットルバルブ23よりも下流側の吸気圧力(サージタンク21内の圧力)を下流圧P
IMとして検出するものである。また、エンジン制御装置1の内部又は車両の任意の位置には、大気圧センサー32が設けられる。
【0024】
大気圧センサー32は大気の圧力(大気圧)P
BPを検出するものである。大気圧P
BPは、吸気通路24入口での圧力(エアフィルター25よりも上流側の圧力)としても取扱うことができる。したがって、大気圧P
BPに基づいてスロットルバルブ23の上流圧P
THU(スロットルバルブ23よりも上流側の吸気通路24内の圧力)を推定することも可能であり、スロットルバルブ23の上流側に圧力センサーを設けなくてもよい。
例えば、エンジン10の実回転速度Neや吸気流量Q
INに応じた吸気通路入口からスロットルバルブ23までの吸気系圧損値をエンジン制御装置1に予め記憶させておき、大気圧P
BPから吸気系圧損値を減算することによってスロットルバルブ23の上流圧P
THUを得ることができる。
【0025】
また、吸気通路24内には、吸気流量Q
INを検出するエアフローセンサー33が設けられる。吸気流量Q
INは、スロットルバルブ23を通過する実際の空気の流量に対応するパラメーターである。スロットルバルブ23からシリンダー19への吸気流には、いわゆる吸気遅れ(流通抵抗や吸気慣性に由来する遅れ)が生じるため、ある時刻にシリンダー19に導入される空気の流量は、その時点でスロットルバルブ23を通過する空気の流量とは必ずしも一致しない。一方、本実施形態のエンジン制御装置1では、このような吸気遅れを考慮してアイドル制御領域の判定が実施される。
【0026】
クランクシャフト17には、その回転角を検出するエンジン回転速度センサー34が設けられる。回転角の単位時間あたりの変化量(角速度)はエンジン10の実回転速度Ne(単位時間あたりの実回転数)に比例する。したがって、エンジン回転速度センサー34は、エンジン10の実回転速度Neを取得する機能を持つ。なお、エンジン回転速度センサー34で検出された回転角に基づき、エンジン制御装置1の内部で実回転速度Neを演算する構成としてもよい。
また、エンジン10のオイルパン又はエンジンオイルの循環経路上の任意の位置には、エンジンオイルの温度(油温O
T)を検出するエンジン油温センサー35が設けられる。上記の大気圧P
BPやこの油温O
Tは、無負荷損失(エンジン10自体に内在する機械的な損失等)を把握するために用いられるパラメーターである。
【0027】
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み操作量(アクセル開度A
PS)を検出するアクセル開度センサー36,変速機のレンジ情報(シフトポジション)を検出するシフトポジションセンサー37,車速Vを検出する車速センサー38が設けられる。これらのパラメーターは、アイドル制御領域の判定に使用される。
上記の各種センサー31〜38で取得(又は演算)された大気圧P
BP,上流圧P
THU,下流圧P
IM,吸気流量Q
IN,実回転速度Ne,油温O
T,アクセル開度A
PS,レンジ情報,車速Vの各情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0028】
[1−4.制御系]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置)が設けられる。このエンジン制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。なお、車載ネットワーク上には、例えばブレーキ制御装置,変速機制御装置,車両安定制御装置,空調制御装置,電装品制御装置といったさまざまな公知の電子制御装置が、互いに通信可能に接続される。エンジン制御装置1以外の電子制御装置のことを外部制御システムと呼び、外部制御システムによって制御される装置のことを外部負荷装置と呼ぶ。
【0029】
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダー19に供給される空気量や燃料噴射量、各シリンダー19の点火時期を制御するものである。ここでは、エンジン10に要求されるトルクの大きさを基準としたトルクベース制御が実施される。エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、インジェクター18から噴射される燃料量や噴射時期,点火プラグ13での点火時期,スロットルバルブ23の開度などが挙げられる。
【0030】
以下、エンジン制御装置1によって実施される制御のうち、エンジン10のアイドル運転時に実施されるアイドル点火時期制御について説明する。このアイドル点火時期制御とは、点火時期を進角,遅角方向に調整することによってトルク増加余裕代(トルクリザーブ量)を確保し、負荷変動に伴うエンジン回転速度Ne(エンジン回転数)の挙動を安定化させる制御である。なお、ここでいうアイドル運転時には、アクセル開度A
PSがゼロである車両の停止時にエンジン10が低速度で回転するような、一般的なアイドリング状態だけでなく、コースト走行時(惰性走行時)であってスロットル開度が全閉で車両が減速しているような状態が含まれるものとしてもよい。
【0031】
本実施形態のエンジン制御装置1は、アクセルペダルが踏み込まれていない状態で実施される一般的なアイドリング用の運転領域よりも拡大された運転領域で、アイドル点火時期制御を実施する。例えば、アクセルペダルが僅かに踏み込まれているような状態であっても、アクセルペダルが踏み込まれていないときと同じように、エンジン10をアイドル運転させる制御を実施する。ここでは、アイドル点火時期制御が実施される運転領域をアイドル制御領域と呼び、アイドル点火時期制御を実施するための運転領域に関する条件のことを、アイドル条件と呼ぶ。一般的なアイドル条件がアクセルオフ(アクセル開度A
PSがゼロ)のときに成立するものであるのに対し、本エンジン制御装置1ではアクセルペダルが踏み込まれているときであってもアイドル条件が成立しうる。
【0032】
[2.制御構成]
図1に示すように、エンジン制御装置1の入力側には、インマニ圧センサー31,大気圧センサー32,エアフローセンサー33,エンジン回転速度センサー34,エンジン油温センサー35,アクセル開度センサー36,シフトポジションセンサー37及び車速センサー38が接続される。また、エンジン制御装置1の出力側には、トルクベース制御の制御対象である点火プラグ13,インジェクター18,スロットルバルブ23等が接続される。
【0033】
このエンジン制御装置1には、トルク演算部2,要求負荷率演算部3,アイドル領域判定部4及びアイドル制御部5が設けられる。これらのトルク演算部2,要求負荷率演算部3,アイドル領域判定部4及びアイドル制御部5の各機能は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0034】
[2−1.トルク演算部]
トルク演算部2は、エンジン10の運転状態がアイドル制御領域にあるか否かを判定するために用いられる各種トルクを演算するものである。
図1に示すように、トルク演算部2にはアイドル目標トルク演算部2a,全開時トルク演算部2b及びアクセル要求トルク演算部2cが設けられる。
【0035】
アイドル目標トルク演算部2a(無負荷運転目標トルク演算手段)は、エンジン10の無負荷損失に基づいて、アイドル運転時のトルク目標値であるアイドル目標トルクPi
obj_ID(無負荷運転目標トルク)を演算するものである。ここでは、エンジン10を目標回転速度N
objで回転させたときの損失トルクに相当する無負荷損失トルクPi
objBが演算されるとともに、エンジン10の補機負荷に相当する補機負荷トルクやエンジン10の個体差及び制御偏差を相殺するための学習トルク等が演算され、これらを合算したものがアイドル目標トルクPi
obj_IDとして演算される。
【0036】
アイドル目標トルクPi
obj_IDは、エンジン10を目標回転速度N
objで駆動し続けるのに要求されるトルクであり、エンジン10のアイドル運転時の出力目標値のベースとなるパラメーターである。言い換えると、アイドル目標トルクPi
obj_IDは、エンジン10が無負荷に相当する運転状態であるときに目標とすべきトルク(無負荷相当運転時の目標トルク)である。ここで演算されたアイドル目標トルクPi
obj_IDの値は、アクセル要求トルク演算部2c及び要求負荷率演算部3に伝達される。なお、ここでいう無負荷とは、エンジン10が外部に仕事をしていない状態ということもできる。
【0037】
なお、無負荷損失トルクPi
objBとは、エンジン10に内在する、負荷の大きさに依らない機械的な損失に対応するトルクである。例えば、アクセルペダルが踏み込まれていない状態で、エンジン10を一定の回転速度で駆動したときに失われる摩擦損失や機械損失を含む。無負荷損失トルクPi
objBの値は、エンジン回転速度Neやインマニ20で発生した負圧(大気圧P
BP−下流圧P
IM),油温O
T等に基づいて算出される。無負荷損失トルクPi
objBを算出するための負圧(P
BP−P
IM)や油温O
T等は、外気温や外気圧といった環境条件に応じて変動する。したがって、アイドル目標トルクPi
obj_IDには、環境条件が反映される。
【0038】
全開時トルク演算部2b(全開時トルク演算手段)は、その時点のエンジン10の運転状態で、仮にスロットルバルブ23のスロットル開度を全開にした場合に出力しうる最大のトルクを全開時トルクPi
MAXとして演算するものである。この全開時トルクPi
MAXは、アクセルペダルを完全に踏み込んだとき(アクセル開度A
PSが最大のとき)にエンジン10が出力可能なトルクの最大値に相当し、エンジン回転速度Neやスロットルバルブ23の前後圧力比(上流圧P
THU÷下流圧P
IM)に基づいて算出されるスロットル開度全開時の充填効率である最大充填効率をスロットル開度の全開時のトルク値に換算したものに基づいて演算される。ここで演算された全開時トルクPi
MAXの値は、アクセル要求トルク演算部2c及び要求負荷率演算部3に伝達される。なお、全開時トルクPi
MAXの演算に用いられる前後圧力比(P
THU/P
IM)は外気温や外気圧といった環境条件に応じた値となるため、全開時トルクPi
MAXにも環境条件が反映される。
【0039】
アクセル要求トルク演算部2c(要求トルク演算手段)は、運転者からエンジン10に要求されている要求トルクを演算するものである。ここでは、アクセル開度A
PSに応じたアクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0と、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0に対して遅れ処理を施したアクセル要求トルクPi
APSとの二種類の要求トルクが演算される。
【0040】
前者のアクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0は、エンジン回転速度Neとアクセル開度A
PSとに基づいて演算される。例えば、予め設定されたエンジン回転速度Ne及びアクセル開度A
PSとアクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0との対応マップや数式,関係式等に基づいて、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0が演算される。ただし、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0が取り得る範囲は、アイドル目標トルク演算部2aで演算されたアイドル目標トルクPi
obj_ID以上、かつ、全開時トルク演算部2bで演算された全開時トルクPi
MAX以下とされる。したがって、たとえエンジン回転速度Neとアクセル開度A
PSとが一定であったとしても、環境条件によってエンジン10の運転状態が変化した場合には、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0の値も変化しうる。
【0041】
なお、後述する第一要求負荷率R
Piを用いて、アイドル目標トルクPi
obj_IDと全開時トルクPi
MAXとの間を補完することでアクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0を求めてもよい。この場合、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0は以下の式1を用いて求めることができる。
【数1】
【0042】
後者のアクセル要求トルクPi
APSは、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0に対して、スロットルバルブ23からシリンダー19までの吸気遅れを模擬した一次遅れ演算を施したものである。したがって、アクセル要求トルクPi
APSは、常にアクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0よりも遅れて、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0に追従するように変化する。
ここで演算されたアクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0及びアクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0の値はそれぞれ、要求負荷率演算部3に伝達される。
【0043】
[2−2.要求負荷率演算部]
要求負荷率演算部3(要求負荷率演算手段)は、アクセル要求トルク演算部2cで演算された二種類の要求トルクのそれぞれについての要求負荷率を演算するものである。要求負荷率とは、要求トルクがエンジン10の負荷として作用する度合いに相当するパラメーターであり、アイドル目標トルク演算部2aで演算されたアイドル目標トルクPi
obj_IDを基準として演算される。ここには、第一要求負荷率演算部3aと第二要求負荷率演算部3bとが設けられる。
【0044】
第一要求負荷率演算部3aは、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0に基づく第一要求負荷率R
Piを演算するものである。第一要求負荷率R
Piは、エンジン回転速度Neとアクセル開度A
PSとに基づいて演算される。例えば、予め設定されたエンジン回転速度Ne及びアクセル開度A
PSと第一要求負荷率R
Piとの対応マップや数式,関係式等に基づいて、第一要求負荷率R
Piが演算される。あるいは、式2に示すように、アイドル目標トルクPi
obj_IDを基準とした全開時トルクPi
MAXに対するアクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0の割合(百分率[%])を求め、これを第一要求負荷率R
Piとしてもよい。
【数2】
【0045】
第一要求負荷率R
Piは、アクセル操作にリアルタイムに連動する要求負荷率であり、応答性を重視して負荷の度合いを把握したい場合に用いて好適である。第一要求負荷率R
Piは、エンジン10のその時点でのトルク出力能力に対するアクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0の割合(0〜100[%])を意味する。ここで演算された第一要求負荷率R
Piの値はアイドル領域判定部4に伝達される。
【0046】
第二要求負荷率演算部3bは、アクセル要求トルクPi
APSに基づく第二要求負荷率R
Pi_AIRを演算するものである。第二要求負荷率R
Pi_AIRは、式3に示すように、アイドル目標トルクPi
obj_IDを基準とした全開時トルクPi
MAXに対するアクセル要求トルクPi
APSの百分率[%]として演算される。
【数3】
【0047】
あるいは、第一要求負荷率演算部3aで演算された第一要求負荷率R
Piに対し、スロットルバルブ23からシリンダー19までの吸気遅れを模擬した一次遅れ演算を施すことによって第二要求負荷率R
Pi_AIRを求めてもよい。
【0048】
第二要求負荷率R
Pi_AIRは、吸気応答遅れが考慮された要求負荷率であり、実際にシリンダー19内に吸入された空気量や実際のエンジン出力に着目して負荷の度合いを把握したい場合に用いて好適である。第二要求負荷率R
Pi_AIRは、エンジン10のその時点でのトルク出力能力に対するアクセル要求トルクPi
APSの割合(0〜100[%])を意味する。ここで演算された第二要求負荷率R
Pi_AIRの値も、アイドル領域判定部4に伝達される。
【0049】
[2−3.アイドル領域判定部]
アイドル領域判定部4(判定手段)は、要求負荷率演算部3で演算された第一要求負荷率R
Pi及び第二要求負荷率R
Pi_AIRに基づいてアイドル制御領域を判定するものである。ここでは、以下のアイドル条件が全て成立したときに、エンジン10の運転状態がアイドル制御領域にあるものと判定される。一方、条件1〜条件3の少なくとも何れか一つが不成立のときには、アイドル制御領域にないと判定される。これらの判定結果は、アイドル制御部5に伝達される。
条件1:車速Vが予め設定された判定車速V
HI,V
LO以下である
条件2:第一要求負荷率R
Piが判定要求負荷率R
HI,R
LO未満である
条件3:第二要求負荷率R
Pi_AIRが判定要求負荷率R
HI,R
LO未満である
【0050】
条件1〜条件3の判定閾値である判定車速V
HI,V
LO及び判定要求負荷率R
HI,R
LOは、前回の演算周期での判定結果に応じて何れか一方が使用される。これらの値の大小関係を、V
HI>V
LO,R
HI>R
LOとすると、前記の演算周期でアイドル条件が成立していた場合には、大きい方の閾値が条件1〜条件3のそれぞれの判定で用いられる。一方、前回の演算周期でアイドル条件が成立していない場合には、小さい方の閾値が用いられる。これにより、現在のアイドル条件が過去の判定結果(判定履歴)の影響を受けて変更され、現在の判定結果にヒステリシスが与えられる。
【0051】
以下、上記の個々の閾値のことを、第一判定車速V
HI,第二判定車速V
LO,第一判定要求負荷率R
HI(第一閾値),第二判定要求負荷率R
LO(第二閾値)とも呼ぶ。また、第一判定車速V
HIと第二判定車速V
LOとの差を判定車速のヒス値V
HISと呼び、第一判定要求負荷率R
HIと第二判定要求負荷率R
LOとの差を判定要求負荷率のヒス値R
HISと呼ぶ。
【0052】
第一判定車速V
HI,第二判定車速V
LOは、エンジン10の特性やエンジン10が搭載される車種等に応じて予め設定された値である。一方、第一判定要求負荷率R
HI,第二判定要求負荷率R
LOは、エンジン回転速度Neに基づいて設定される。ここでは、エンジン回転速度Neが高いほど、各判定要求負荷率R
HI,R
LOが小さい値(ただし0以上の範囲)に設定される。
例えば
図2中に実線で示すように、第一判定要求負荷率R
HIは、エンジン回転速度Neが第一回転速度Ne
1以下のときに所定値R
HI_1をとり、第一回転速度Ne
1を超えると急激に減少する特性を持つように設定される。また、エンジン回転速度Neが第二回転速度Ne
2(Ne
1<Ne
2)を超えているときには、第一判定要求負荷率R
HIがゼロに設定される。
【0053】
第二判定要求負荷率R
LOは、第一判定要求負荷率R
HIよりも小さく設定され、例えば第一判定要求負荷率R
HIから判定要求負荷率のヒス値R
HISを減じた値に設定される。この場合、第二判定要求負荷率R
LOは、
図2中に破線で示すように、エンジン回転速度Neが第一回転速度Ne
1以下のときに所定値R
HI_1-R
HISをとり、第一回転速度Ne
1を超えると急激に減少する特性が与えられる。なお、第二判定要求負荷率R
LOがゼロに設定される最小のエンジン回転速度Neは、第二回転速度Ne
2よりも小さくなる。
【0054】
なお、上記の条件1〜3に代えて、あるいは加えて、変速機のレンジ情報R
NGやクラッチの制御状態,エンジン10が始動してからの経過時間に関する条件等を判定してもよい。例えば、エンジン10の始動後の点火数IGが予め設定された所定点火数IG
0以下であるときには、条件1〜条件3の成否にかかわらず、アイドル条件が成立しないと判断してもよいし、変速機のレンジ(シフトポジション)がNレンジであるときやクラッチが長時間切断されているときには、車速Vの大きさにかかわらず、条件1が成立すると判断してもよい。
【0055】
この場合、アイドル領域判定部4に各シリンダー19の点火数IGを計測する機能を与えて、エンジン10が始動した時点から少なくとも数行程〜数十行程分の点火数IGをカウントさせることが好ましい。点火数IGは、始動直後において、エンジンが目標とする回転速度に収束し、安定して無負荷運転状態である場合よりも、各シリンダー19に導入される空気量が大きい状態であるか否かを判断するための指標となる。
【0056】
一般的なエンジン10の始動時には、吸気通路内の圧力がほぼ大気圧と同一であることから、実際にシリンダー19に導入される筒内吸入空気量が、一時的にエンジンが目標とする回転速度に収束し、安定して無負荷運転状態である場合よりも大きいという特性がある。このような期間においては、失火等がなく燃焼が正常あれば、比較的エンジン回転速度の低下のおそれが小さい状態であると考えられる。つまり、エンジン回転安定化を図る必要性が小さい結果、アイドル領域判定を行う必要性は小さい期間であるということができる。
一方、このような状態となるのはエンジン10が始動した直後の短い期間に限られる。そこで、エンジン10の始動後の点火数IGが所定点火数IG
0を超えていることをアイドル条件に付加することで、アイドル点火時期制御時のエンジン10の回転安定性を向上させることが可能となる。
【0057】
[2−4.アイドル制御部]
アイドル制御部5は、エンジン10の運転状態がアイドル制御領域にあると判定されたときに、アイドル点火時期制御を実施するものである。ここでは、その時点での実充填効率Ecで最大のトルクが発生する最適点火時期(MBT,Minimum spark advance for Best Torque)を基準とした点火時期のリタード量が演算される。実充填効率Ecは、エアフローセンサー33検出された吸気流量Q
INに基づいて演算される。
また、リタード量の演算では、アイドル時におけるエンジン10の目標熱効率の指標の一つである目標点火効率係数が用いられる。点火効率係数とは、その時点での実充填効率Ecで点火時期をMBTに設定したときに発生する最大トルクに対する、実際のトルクの比である。
【0058】
目標点火効率係数を大きく設定することでエンジン10の熱効率が向上し、吸入空気量の余剰が少ない運転状態(燃焼反応から無駄なくトルクを抽出している状態)となる。つまり、ノッキングの発生限界まで点火時期を進角させるときの進角量が小さい状態となる。言い換えると、点火時期を進角方向にあまり移動させることができない状態であり、シリンダー19内での燃焼効率をそれ以上高めにくい運転状態〔トルクの余裕(トルクリザーブ量)が少ない状態〕となる。
反対に、目標点火効率係数を小さく設定すれば、エンジン10の熱効率が低下し、すなわち吸入空気量の余剰が多い運転状態となる。つまり、シリンダー19内での燃焼効率が若干低いものの、点火時期を進角方向に移動させれば即座に燃焼効率を高めやすい運転状態であって、トルクの余裕が多い状態となる。そこで、アイドル制御部5は、アイドル制御領域内での点火プラグ13の点火時期をアイドル制御領域外での点火時期よりリタードさせて、トルクリザーブ量を確保する制御を実施する。
【0059】
[3.フローチャート]
図3は、エンジン制御装置1で実行されるアイドル制御領域の判定手順を説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示された制御は、エンジン10の始動後に開始され、予め設定された所定周期(例えば、数十[ms]サイクル)で繰り返し実施される。また、このフローチャートは、エンジン10の停止時には実行されないものとする。本フローチャート内の判定ステップは全てアイドル条件に関する条件を判定するステップであり、おもにアイドル領域判定部4内で実行される。
【0060】
フローチャート内のフラグFはエンジン10の運転状態の履歴を把握するためのフラグである。ここでは、アイドル条件が成立したときにフラグFがF=1に設定され、アイドル条件が不成立のときにはフラグFがF=0に設定される。また、設定されたフラグFの値は、エンジン制御装置1内の図示しない記憶装置やメモリ上に、少なくとも次回の演算周期まで記憶される。
ステップA10では、各シリンダー19の点火数IGが所定点火数IG
0(例えば数〜数十回)を超えたか否かが判定される。ここでIG>IG
0である場合にはステップA20へ進み、引き続きアイドル条件が判定される。一方、IG≦IG
0である場合にはアイドル条件が不成立であると判断し、ステップA70へ進んでフラグFをF=0に設定する。
【0061】
また、ステップA20では、フラグFがF=1であるか否かが判定される。ここで、F=1の場合には、前回の演算周期ですでにアイドル条件が成立しており、すなわち、エンジン10の運転状態がアイドル制御領域内に位置していたものと判断され、ステップA30に進む。一方、F≠1(F=0)の場合にはステップA90に進む。
図3に示すように、ステップA30〜A60での判定内容は、ステップA90〜A120での判定内容と閾値のみが相違する。つまりここでは、前回の演算周期での判定結果に応じて、アイドル条件の判定閾値が異なる二通りの判定ルートが設定されている。
【0062】
ステップA30では、車速Vが第一判定車速V
HI以下であるか否か(条件1)が判定される。ここでV≦V
HIである場合にはステップA50に進み、V>V
HIである場合にはステップA40に進む。また、ステップA40では、変速機のシフトポジションがNレンジであるか否かが判定される。ここでシフトポジションがNレンジのときにはステップA50へ進み、他のレンジである場合にはステップA70に進む。なお、クラッチの切断状態に関する条件がアイドル条件に含まれる場合には、ステップA40でクラッチの切断時間が所定時間以上であることを判定してもよい。
【0063】
ステップA50では、第一要求負荷率R
Piが第一判定要求負荷率R
HI未満であるか否か(条件2)が判定される。ここでR
Pi<R
HIである場合にはステップA60へ進み、引き続きアイドル条件が判定される。一方、R
Pi≧R
HIである場合にはアイドル条件が不成立であると判断し、ステップA70へ進む。
ステップA60では、第二要求負荷率R
Pi_AIRが第一判定要求負荷率R
HI未満であるか否か(条件3)が判定される。ここでR
Pi_AIR<R
HIである場合にはアイドル条件が成立するものと判断し、ステップA80へ進んでフラグFをF=1に設定する。一方、R
Pi_AIR≧R
HIである場合にはアイドル条件が不成立であると判断し、ステップA70へ進む。
【0064】
なお、第二要求負荷率R
Pi_AIRの値が第一要求負荷率R
Piの値に遅れて追従するように変化している限り、ステップA50の条件の成立時には必ずステップA60の条件が成立する。したがって、ステップA60は省略してもよい。つまり、前回の演算周期でアイドル条件が成立した場合には、今回の演算周期で上記の条件3が成立するものとみなしてよい。
【0065】
また、ステップA20からステップA90へ進んだ場合、ステップA90では、車速Vが第二判定車速V
LO以下であるか否か(条件1)が判定される。ここでV≦V
LOである場合にはステップA110に進み、V>V
LOである場合にはステップA100に進む。また、ステップA100では、変速機のシフトポジションがNレンジであるか否かが判定される。ここでシフトポジションがNレンジのときにはステップA110へ進み、他のレンジである場合にはステップA70に進む。ステップA100の判定条件は、ステップA40と同様に、クラッチの切断状態に関する条件としてもよい。
【0066】
ステップA110では、第一要求負荷率R
Piが第二判定要求負荷率R
LO未満であるか否か(条件2)が判定される。ここでR
Pi<R
LOである場合にはステップA120へ進み、引き続きアイドル条件が判定される。一方、R
Pi≧R
LOである場合にはアイドル条件が不成立であると判断し、ステップA70へ進む。
ステップA120では、第二要求負荷率R
Pi_AIRが第二判定要求負荷率R
LO未満であるか否か(条件3)が判定される。ここでR
Pi_AIR<R
LOである場合にはアイドル条件が成立するものと判断し、ステップA80へ進んでフラグFをF=1に設定する。一方、R
Pi_AIR≧R
LOである場合にはアイドル条件が不成立であると判断し、ステップA70へ進む。
【0067】
上記のステップA30,A50,A60で判定される閾値は、ステップA90,A110,A120で判定される閾値よりも大きい値である。したがって、エンジン10の運転状態がアイドル制御領域に属している間は、車速Vや第一要求負荷率R
Piが比較的大きくなるまでアイドル点火時期制御が継続される。一方、エンジン10の運転状態が一旦アイドル制御領域を脱すると、その後は車速Vや第二要求負荷率R
Pi_AIRが比較的小さくなるまでアイドル点火時期制御が不実施とされる。
【0068】
上記のフローチャートでフラグFがF=1に設定されると、アイドル制御部5はアイドル点火時期制御を実施する。すなわち、目標点火効率係数を小さく設定して点火プラグ13での点火時期を遅角方向に移動させ、トルクリザーブ量を確保する。これにより、アイドル運転時の回転安定性が確保され、アイドル運転中の外部負荷の増大に対する耐性が向上する。一方、フラグFがF=0に設定されると、アイドル制御部5はアイドル点火時期制御を終了し、通常の点火制御(例えば、アイドル点火時期制御の実施時よりもトルクリザーブ量を小さくする制御や、点火時期をMBT近傍とする制御等)を実施する。これにより、エンジン10の熱効率が向上し、燃費が改善される。
【0069】
[4.作用]
[4−1.要求負荷率による判定]
上記のエンジン制御装置1を搭載した車両のアイドル制御領域の判定について、
図4(a)〜(d)を用いて説明する。ここでは、エンジン回転速度Neが一定であるとし、アクセル開度A
PSがゼロの状態から僅かにアクセルペダルを踏み込んだ後、アクセルペダルを踏み戻したときの判定内容について説明する。
【0070】
時刻t
0のエンジン10はアイドル運転中であり、アイドル制御部4によりアイドル点火時期制御が実施されている。その後、時刻t
1にアクセルペダルが踏み込まれると、
図4(a)に示すように、アクセル開度A
PSが増大する。これに応じて、アクセル要求トルク演算部2cでは、エンジン回転速度Ne及びアクセル開度A
PSに基づいて、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0及びアクセル要求トルクPi
APSが演算される。また、要求負荷率演算部3では、第一要求負荷率R
Pi及び第二要求負荷率R
Pi_AIRのそれぞれが演算される。
【0071】
第一要求負荷率R
Piは、
図4(b)中に実線で示すように、アクセル開度A
PSの増大に対して高応答で増大する。このとき、第一要求負荷率R
Piが第一判定要求負荷率R
HIを超えると、上記の条件2が不成立となり、アイドル条件が不成立となる。したがって、
図4(c)に示すように、エンジン10の運転状態がアイドル制御領域を離脱し、アイドル点火時期制御が解除される。
また、第二要求負荷率R
Pi_AIRは、
図4(b)中に破線で示すように、アクセル開度A
PSの増大に対して遅れて増大する。第二要求負荷率R
Pi_AIRの変動グラフは、
図4(d)に示す実際の吸入空気量の挙動に類似した軌跡を持ち、すなわち実際のエンジン出力に対応するものとなる。時刻t
1から吸気応答の一次遅れ演算によって与えられる遅れ時間が経過した時刻t
2には、上記の条件3も不成立となる。
【0072】
一方、時刻t
3にアクセルペダルが完全に踏み戻されると、
図4(a)に示すように、アクセル開度A
PSが減少してゼロとなる。第一要求負荷率R
Piはこれに高応答で追従してゼロとなり、上記の条件2が成立した状態となる。しかしこのとき、条件3がまだ成立していないため、アイドル条件は不成立のままとされる。
この時刻t
3から吸気応答の一次遅れ演算によって与えられる遅れ時間が経過した時刻t
4になると、第二要求負荷率R
Pi_AIRが第二判定要求負荷率R
LO以下となり、アイドル条件が成立する。したがって、
図4(c)に示すように、エンジン10の運転状態がアイドル制御領域に突入し、アイドル点火時期制御が再び実施される。時刻t
4以降の吸入空気量は、
図4(d)に示すように、所定の空気量Ec
1を下回るほど十分に減少している。したがって、エンジン出力が十分に低下した状態でアイドル点火時期制御が開始されることになり、エンジン10の回転安定性が向上する。
【0073】
[4−2.車速による判定]
上記の車両の発進時におけるアイドル制御領域の判定について、
図5(a)〜(d)を用いて説明する。ここでは、停車状態からアクセルペダルが踏み込まれた場合を例示する。なお、時刻t
5の時点では、
図5(c)に示すようにアイドル条件が成立した状態であって、アイドル点火時期制御が実施されている。
【0074】
時刻t
5にアクセル操作がなされると、
図5(a),(b)に示すように、エンジン回転速度Neは徐々に増大し、これに応じて車速Vも増大する。また、アイドル領域判定部4では、エンジン回転速度Neに基づいて第一判定要求負荷率R
HI及び第二判定要求負荷率R
LOが演算される。
図5(d)中に細実線で示す第一判定要求負荷率R
HIと一点鎖線で示す第二判定要求負荷率R
LOとの縦軸方向の距離が、判定要求負荷率のヒス値R
HISに相当する。
一方、要求負荷率演算部3では、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0,アクセル要求トルクPi
APSに基づいて、第一要求負荷率R
Pi,第二要求負荷率R
Pi_AIRが演算される。
図5(d)中に破線で示す第二要求負荷率R
Pi_AIRの変動は、太実線で示す第一要求負荷率R
Piの変動に対する一次遅れの変動となる。
【0075】
図5(b)に示すように、車速Vがさらに増加し、時刻t
6に第一判定車速V
HIを超えると、上記の条件1が不成立となる。このとき、
図5(d)に示すように、第一要求負荷率R
Pi及び第二要求負荷率R
Pi_AIRは第一判定要求負荷率R
Pi_AIR未満であり、条件2,条件3は成立している。しかし、条件1〜条件3の全てが成立しない限りアイドル条件は成立しないため、
図5(c)に示すように、この時点でエンジン10の運転状態がアイドル制御領域を離脱し、アイドル点火時期制御が解除される。
なお、
図5(b)中に細実線で示す第一判定車速V
HIと破線で示す第二判定車速V
LOとの距離が、判定車速のヒス値V
HISに相当する。時刻t
6以降に車速Vが第二判定車速V
LO以下になった場合には、条件1が成立する。このとき、条件2,条件3がともに成立していれば、エンジン10の運転状態がアイドル制御領域に進入し、アイドル点火時期制御が実施されることになる。
【0076】
[5.効果]
このように、本実施形態のエンジン制御装置1によれば、以下のような効果が得られる。
(1)上記のエンジン制御装置1で、演算される第一要求負荷率R
Pi及び第二要求負荷率R
Pi_AIRは、アイドル目標トルクPi
obj_IDを基準とした要求負荷率である。一方、アイドル要求トルクPi
obj_IDは、エンジン10の無負荷損失トルクPi
objBに基づいて演算される目標値であり、外気温や外気圧といった環境条件に応じた値となる。これにより、第一要求負荷率R
Pi及び第二要求負荷率R
Pi_AIRの値の下限基準値(零点)は、環境条件に合わせて自動的に移動することになる。
【0077】
したがって、環境条件が変化したとしても適切にアイドル制御領域を判定することができ、環境条件に沿った適切なアイドル制御領域を規定することができるとともに、様々な環境条件下でのアイドル安定性や耐エンスト性を向上させることができる。例えば、高圧環境下であっても低圧環境下であっても、アイドル運転時の回転安定性を向上させることができる。また、環境条件の異なる様々な走行態様を見込んで予めアイドル制御領域を広めに設定しておくような必要がなく、アイドル制御領域の設定が適正化されるため、アイドル点火時期制御が過剰に実施されるような事態を回避することができ、燃費を向上させることができる。
なお、アイドル制御領域の判定閾値は、百分率で表される第一要求負荷率R
Pi及び第二要求負荷率R
Pi_AIRが比較的小さい値をとる運転領域である。したがって、アイドル制御領域に関しては、要求負荷率の少なくとも基準点側を環境条件に適合させることで、判定精度を向上させることが可能である。
【0078】
(2)また、上記のエンジン制御装置1では、例えば式2,式3に示すように、第一要求負荷率R
Pi及び第二要求負荷率R
Pi_AIRがアイドル目標トルクPi
obj_IDを基準とした全開時トルクPi
MAXに対する百分率として演算される。この全開時トルクPi
MAXは、その時点のエンジン10の運転状態で、仮にスロットルバルブ23のスロットル開度を全開にした場合に出力しうる最大のトルクである。つまり、第一要求負荷率R
Pi及び第二要求負荷率R
Pi_AIRは、エンジン10のその時点でのトルク出力能力に対する要求トルクの割合(0〜100[%])を意味する値となる。
【0079】
ここで、全開時トルクPi
MAXもアイドル要求トルクPi
obj_IDと同様に、外気温や外気圧といった環境条件に応じた値である。これにより、第一要求負荷率R
Pi及び第二要求負荷率R
Pi_AIRの値の上限基準値(最大値をとる点)も、環境条件に合わせて自動的に移動することになる。したがって、環境条件に応じた全開時トルクPi
MAXに対する要求トルクの割合を要求負荷率として演算することで、環境条件が変化したとしても精度よくアイドル制御領域を判定することができ、環境変化に対する要求負荷率の耐外乱性を高めることができる。
【0080】
(3)また、要求負荷率の演算手法に関して、上記のエンジン制御装置1の第一要求負荷率演算部3aでは、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0に基づいて第一要求負荷率R
Piが演算される。これにより、例えばアクセルペダルの踏み込み操作による加速時のように、高い応答性を要求される状況に対するアイドル制御領域の判定レスポンスを向上させる(言い換えると、レスポンス時間を短縮する)ことができ、エンジン10の運転状態をアイドル制御領域から通常の走行領域へと迅速に移行させることができる。
【0081】
(4)一方、第二要求負荷率演算部3bでは、アクセル要求トルクPi
APSに基づいて第二要求負荷率R
Pi_AIRが演算される。これにより、例えば急激にアクセルペダルの踏み戻し操作がなされたときのように、吸気応答遅れを考慮すべき状況に対して、アイドル制御領域の判定精度を向上させることができる。つまり、エンジン10のシリンダー19に導入された筒内吸入空気量が実際に低下した状態を適切に判定することができ、アイドル安定性を向上させることができる。
【0082】
(5)また、上記のエンジン制御装置1では、
図2に示すように、第一判定要求負荷率R
HIと第二判定要求負荷率R
LOとが相違するように、判定要求負荷率のヒス値R
HISが設けられている。また、車速の判定用の閾値関しても同様であり、第一判定車速V
HIと第二判定車速V
LOとが相違するように、判定車速のヒス値V
HISが設けられている。これらの設定により、アイドル制御領域とそれ以外の運転領域との間でアイドル条件が繰り返し交互に成立するような、いわゆる制御ハンチングを効率的に回避することができる。
なお、アイドル制御領域への進入時の判定閾値(例えば、V
LO,R
LO)が、アイドル制御領域からの離脱時の判定閾値(例えば、V
HI,R
HI)よりも小さく設定されるため、筒内吸入空気量を十分に減少させた上でアイドル点火時期制御を開始することができる。したがって、アイドル安定性及び耐エンスト性をさらに向上させることができる。
【0083】
(6)また、上記のエンジン制御装置1では、
図2に示すように、エンジン回転速度Neに基づいて第一判定要求負荷率R
HI及び第二判定要求負荷率R
LOが設定される。これにより、エンジン10の特性に合わせてアイドル条件の成立性(アイドル条件の成立しやすさ)を容易に変更することができる。したがって、アイドル制御領域を適切に判定することができ、アイドル安定性や耐エンスト性を向上させることができる。
なお、エンジン回転速度Neだけでなく、エンジン10の油温O
Tや冷却水温に基づいて第一判定要求負荷率R
HI及び第二判定要求負荷率R
LOを設定する構成としてもよい。この場合、より柔軟にアイドル条件の成立性を調節することができ、アイドル制御領域の判定精度を高めることができる。
【0084】
[6.変形例]
上記のエンジン制御装置10で実施される制御の変形例は、多種多様に考えられる。例えば、上述の実施形態では、アイドル条件の成立時にアイドル点火時期制御を実施するものを例示したが、これに加えて、あるいは代えて、吸気量や燃料噴射量の制御を実施してもよい。
【0085】
また、トルク演算部2で演算される各種トルクの演算手法は、上述の実施形態の手法に限定されない。例えば、要求負荷率の演算に際し、アクセル要求トルク瞬時値Pi
APS0だけでなく、外部負荷装置から要求される外部負荷や補機負荷を考慮して算出されたトルクを用いてもよい。これにより、アイドル安定性や耐エンスト性をさらに向上させることができる。
【0086】
また、上述の実施形態では、ガソリンエンジン10の挙動を制御するエンジン制御装置1を例示したが、エンジン制御装置1の制御対象はこれに限定されない。上記のエンジン制御装置1は、例えば車両や船舶,航空機,産業用機械等に搭載されるガソリンエンジン,ディーゼルエンジン等の内燃機関の制御装置として適用することが可能である。