特許第5742883号(P5742883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5742883
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20150611BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20150611BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   F02D29/02 321C
   F02D29/02 321A
   F02D29/02 K
   B60R16/02 650J
   B60T7/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-115860(P2013-115860)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-234748(P2014-234748A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2014年6月13日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】舟越 浩
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/011568(WO,A1)
【文献】 特開2012−255383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 − 28/00
F02D 29/00 − 29/06
F02D 41/00 − 41/40
F02D 43/00 − 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が所定の設定車速以下で走行中であることを含む所定の走行時アイドルストップ条件、及び前記車両が停車中であることを含む所定の停車時アイドルストップ条件の何れかが成立した際に前記車両に搭載されたエンジンを自動的に停止させるアイドルストップ制御手段と、
前記アイドルストップ制御手段による前記エンジンの自動停止中に所定の再始動条件が成立した際に前記エンジンを自動的に再始動させるアイドルスタート制御手段と、
前記車両の位置する路面の勾配を取得する路面勾配取得手段と、
を備えたエンジン制御装置において、
前記アイドルストップ制御手段による前記エンジンの初回の自動停止を経験するまでは、前記走行時アイドルストップ条件に前記路面勾配取得手段により取得された路面勾配が所定の第一勾配値以下であることを含み、
前記アイドルストップ制御手段による前記エンジンの初回の自動停止を経験した後には、前記走行時アイドルストップ条件に前記路面勾配取得手段により取得された路面勾配が前記第一勾配値よりも大きい第二勾配値以下であることを含み、
前記アイドルストップ制御手段による前記エンジンの初回の自動停止を経験するまでは、前記停車時アイドルストップ条件に前記路面勾配取得手段により取得された路面勾配が前記第一勾配値よりも大きい第三勾配値以下であることを含み、
前記アイドルストップ制御手段による前記エンジンの初回の自動停止を経験した後には、前記停車時アイドルストップ条件に前記路面勾配取得手段により取得された路面勾配が前記第三勾配値よりも大きい第四勾配値以下であることを含み、
前記路面勾配取得手段は、
前記車両の停車中には、前記車両の前後加速度を用いて推定された路面勾配を取得し、
前記車両の走行中には、前記車両の前後加速度及び前記車両の車両加速度を用いて推定された路面勾配を取得する
ことを特徴とする、エンジン制御装置
【請求項2】
前記車両に搭載される装置が正常か異常かを診断する診断手段を備え、
前記アイドルスタート制御手段は、前記エンジンの自動停止中に前記診断手段により前記装置が異常と診断された場合、前記エンジンを再始動させる
ことを特徴とする、請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記アイドルストップ制御手段は、前記診断手段により前記装置が異常と診断された場合、前記エンジンの自動停止を禁止する
ことを特徴とする、請求項に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記診断手段は、前記エンジンの自動停止中又は再始動中に作動する前記装置が正常か異常かを前記エンジンの自動停止中又は再始動中に診断する
ことを特徴とする、請求項又はに記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記装置は、前記エンジンの自動停止中かつ前記車両の停車中に前記車両の制動力を維持して停車状態を保持する停車保持手段を含む
ことを特徴とする、請求項の何れか一項に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたエンジンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジン制御の一つとして、アイドルストップアンドスタート制御(以下、「ISS制御」と略称する)が開発されている。このISS制御では、所定のアイドルストップ条件が成立するとエンジンを自動的に停止させるアイドルストップを実施し、その後、所定の再始動条件が成立するとエンジンを自動的に再始動させるアイドルスタートを実施する。このような技術が特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0003】
特許文献1の技術では、停車時の路面勾配が第一の所定値以下であることを含むアイドルストップ条件が成立すると、ISS制御部(自動停止制御手段)によりアイドルストップが実施される。このISS制御部は、アイドルスタートを実施する際にバッテリ電圧が低下するのを回避するための補助電源装置やエンジン停止中における車両の移動を規制するブレーキ装置などを含んでおり、その作動時には故障判定が実施される。
【0004】
この特許文献1の技術では、ISS制御部の故障判定が完了するまで、路面勾配が第一の所定値よりも小さい第二の所定値以下であることがアイドルストップ条件に含められ、第二の所定値よりも大きい勾配でのアイドルストップの実施が禁止される。つまり、ISS制御部の故障判定前には、アイドルストップ及びアイドルスタートが第二の所定値以下の路面勾配でのみ実施される。したがって、ISS制御部が正常に作動するか否かが低傾斜路(第二の所定値以下の傾斜路)で判定され、仮にISS制御部が故障していたとしても、車両が予期せずに移動することを回避又は抑制することができるとしている。
【0005】
特許文献2の技術では、車速が所定速度以下であることを含むアイドルストップ条件が成立すると、アイドルストップが実施される。つまり、アイドルストップの開始時点を停車時点から停車直前の走行中(所謂コースト中)に前倒しして、アイドルストップが実施される。これにより、更に燃費を向上させている。
【0006】
この特許文献2の技術では、初回のアイドルストップ条件の判定に当たっては、車速条件を、車速がゼロ又は所定速度よりも低速に設定された設定速度以下であることに制限している。この初回の再始動条件が成立した際にアイドルストップシステムの異常有無が診断される。これらより、アイドルストップシステムの診断がされていない状態でISS制御が実施されたときに、アイドルストップシステムが異常であったとしても、車両走行中の不具合を回避することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012―255383号公報
【特許文献2】特開2011―196288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術のように停車時にだけアイドルストップが実施されれば、特許文献2の技術のように走行中からアイドルストップが実施されるよりも、燃費の点で不利である。一方、特許文献2の技術のように車速条件を厳しくするだけで路面勾配を考慮せずに初回のアイドルストップ及び故障診断を実施すれば、特許文献1のように低傾斜路でのみ故障診断を実施するよりも、アイドルストップ中の車両の予期せぬ挙動を回避する上で不利である。
【0009】
本発明の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、アイドルストップ中の車両の予期せぬ挙動を回避しやすくするとともに燃費を向上させることができるようにした、エンジン制御装置を提供することである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施する形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するために、本発明のエンジン制御装置は、車両が所定の設定車速以下で走行中であることを含む所定の走行時アイドルストップ条件、及び前記車両が停車中であることを含む所定の停車時アイドルストップ条件の何れかが成立した際に前記車両に搭載されたエンジンを自動的に停止させるアイドルストップ制御手段と、前記アイドルストップ制御手段による前記エンジンの自動停止中に所定の再始動条件が成立した際に前記エンジンを自動的に再始動させるアイドルスタート制御手段と、前記車両の位置する路面の勾配を取得する路面勾配取得手段と、を備えたエンジン制御装置において、前記アイドルストップ制御手段による前記エンジンの初回の自動停止を経験するまでは、前記走行時アイドルストップ条件に前記路面勾配取得手段により取得された路面勾配が所定の第一勾配値以下であることを含み、前記アイドルストップ制御手段による前記エンジンの初回の自動停止を経験した後には、前記走行時アイドルストップ条件に前記路面勾配取得手段により取得された路面勾配が前記第一勾配値よりも大きい第二勾配値以下であることを含むことを特徴としている。
【0011】
ここで、「前記エンジンの初回の自動停止」とは、「前記エンジンを手動で始動させて車両を発進させてから初めてアイドルストップ制御手段により行われた自動停止」をいう。
なお、前記第一勾配値は、平坦路と見做すことのできる勾配値の上限として設定され、例えば2°に設定される。また、前記第二勾配値は例えば4°に設定される。
車両の停止前の走行中にエンジン自動停止を実施する際には、車両の加減速などにより前後加速度が作用したり走行振動が作用するので、路面勾配の精度を確保することが難しい。精度の低い路面勾配を用いてエンジン自動停止を実施した場合、エンジン自動停止の実施にかかる不具合を招くおそれがあるため、この点を考慮することも有効である。
【0012】
そこで、前記アイドルストップ制御手段による前記エンジンの初回の自動停止を経験するまでは、前記停車時アイドルストップ条件に前記路面勾配取得手段により取得された路面勾配が前記第一勾配値よりも大きい第三勾配値以下であることを含み、前記アイドルストップ制御手段による前記エンジンの初回の自動停止を経験した後には、前記停車時アイドルストップ条件に前記路面勾配取得手段により取得された路面勾配が前記第三勾配値よりも大きい第四勾配値以下であることを含むことを特徴としている。
さらに、前記路面勾配取得手段は、前記車両の停車中には、前記車両の前後加速度を用いて推定された路面勾配を取得し、前記車両の走行中には、前記車両の前後加速度及び前記車両の車両加速度を用いて推定された路面勾配を取得することを特徴としている。
【0013】
)前記車両に搭載される装置が正常か異常かを診断する診断手段を備え、前記アイドルスタート制御手段は、前記エンジンの自動停止中に前記診断手段により前記装置が異常と診断された場合、前記エンジンを再始動させることが好ましい。この再始動は、前記所定の再始動条件が成立しなくても行う。
)前記アイドルストップ制御手段は、前記診断手段により前記装置が異常と診断された場合、前記エンジンの自動停止を禁止することが好ましい。
)前記診断手段は、前記エンジンの自動停止中又は再始動中に作動する前記装置が正常か異常かを前記エンジンの自動停止中又は再始動中に診断することが好ましい。
)前記装置は、前記エンジンの自動停止中かつ前記車両の停車中に前記車両の制動力を維持して停車状態を保持する停車保持手段を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエンジン制御装置によれば、アイドルストップ制御手段によるエンジンの初回の自動停止を経験するまでは、路面勾配取得手段により取得された路面勾配が、例えば平坦路と見做すことのできる勾配値の上限として設定された所定の第一勾配値以下であることを走行時アイドルストップ条件に含むため、初回のエンジン自動停止が車両の走行中に実施される場合には、エンジン自動停止が第一勾配値以下の路面勾配において実施される。これにより、アイドルストップアンドスタート制御装置などの本エンジン制御装置にかかる装置に異常があったとしても、エンジン自動停止が実施された車両の予期せぬ挙動を回避しやすくすることができる。
また、エンジンの初回の自動停止を経験した後には、路面勾配取得手段により取得された路面勾配が第一勾配値よりも大きい第二勾配値以下であることを走行時アイドルストップ条件に含むため、初回のエンジン自動停止を経験した後には、第一勾配値よりも大きい第二勾配値以下であれば、エンジン自動停止を走行中に実施することができる。つまり、初回のエンジン自動停止を経験した後には、平坦路に加えて第二勾配値以下の傾斜路においても、エンジン自動停止を走行中に実施することができる。したがって、走行中のエンジン自動停止の実施頻度を増やすことにより、燃費を向上させることができる。
これらより、エンジン自動停止中の車両の予期せぬ挙動を回避しやすくするとともに、エンジン自動停止の実施頻度を増やすことにより燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態にかかるエンジン制御装置を模式的に示す全体図である。
図2】本発明の一実施形態にかかるエンジン制御装置により実施される制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施の形態について説明する。本実施形態のエンジン制御装置は、車両に搭載される。この車両には、乗用自動車等の軽自動車や普通自動車や、トラックやバスなどの中型自動車或いは大型自動車が含まれる。
【0017】
〔一実施形態〕
〔構成〕
図1を参照して、一実施形態にかかるエンジン制御装置の全体構成を説明する。このエンジン制御装置は、所定のアイドルストップ条件が成立した際にエンジン1を自動的に停止させるアイドルストップを実施し、このアイドルストップの実施中に再始動条件が成立した際にエンジン1を自動的に再始動するアイドルスタート(エンジン再始動)を実施するアイドルストップアンドスタート制御(以下、「ISS制御」と略称する)を実施する。
【0018】
このエンジン制御装置は、ECU(Electronic Control Unit)10を有する。このECU10は、マイクロプロセッサやROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory)等を集積したLSI(Large Scale Integration)デバイスや組み込み電子デバイスとして構成される電子制御装置である。
このECU10の出力側には、ECU10によって制御される各種の装置1,3〜5が接続され、これらの装置1,3〜5に電力を供給するバッテリ2が設けられている。一方、ECU10の入力側には、ISS制御及びこれに伴う制御に必要な情報を検出する各種の検出器6〜9が接続されている。さらに、ECU10の入力側には、イグニッションスイッチ(イグニッションSW)20が接続されている。なお、エンジン制御装置には、ECU10に加えて、その出力側の各装置1〜5及び入力側の各検出器6〜9が含まれる。
【0019】
まず、ECU10の出力側に設けられた各装置1〜5について説明する。
エンジン1は、ISS制御の対象となる内燃機関である。図示省略するが、このエンジン1には、自身を始動(クランキング)するためのスタータモータが付設されている。バッテリ2からスタータモータに給電することで、エンジン1が始動される。
【0020】
バッテリ2は、上述のように装置1,3〜5をはじめとした車載の電装機器に電力を供給する二次電池である。このバッテリ2は、エンジン1の駆動で作動するオルタネータ(図示略)により充電され、各種の装置1,3〜5をはじめとした車載の電装機器の作動により放電される。
このバッテリ2は、その容量に限りがあるため、各種の装置1,3〜5などの消費電力が大きくなると電圧降下が発生するおそれがある。例えば、エンジン1が停止しているときにはオルタネータが作動していないため電圧降下が発生しやすい。特に、エンジン1の始動時には、オルタネータが作動していないうえに大量の電力を必要とするため、電圧降下が発生しやすい。
【0021】
そこで、バッテリ2によう印加電圧の降下を補償する昇圧デバイスとして、DC/DCコンバータ3が備えられている。このDC/DCコンバータ3は、その入力側にバッテリ2が接続され、その出力側には電力供給線(実線で示す)を介して以下に説明する停車保持装置(停車保持手段)4,その他の装置5が接続されている。
DC/DCコンバータ3は、切替スイッチ(図示略)などにより、バッテリ2からの入力電圧を昇圧して出力する作動モードと、バッテリ2からの入力電圧を昇圧せずに(その電圧のまま)出力する非作動モードとが切り替え可能に構成されている。
【0022】
停車保持装置4は、車両の制動力を維持して車両の停止状態を保持するための電動のものであり、車両を制動する制動装置(所謂ブレーキ装置)4aとこれを作動させる作動油を吐出する電動ポンプ4bとを有する。この停車保持装置4では、電動ポンプ4bを作動させて作動油を吐出することにより制動装置4aが作動する。すなわち、停車時に電動ポンプ4bを作動させると制動装置4aが作動して車両の停止状態が保持され、電動ポンプ4bを停止させると制動装置4aは作動せず車両の停止が解放される。
その他の装置5(破線で示す)は、例えばカーナビゲーション装置やECU10以外のECUといった印加電圧の降下で不具合を起こし得る装置である。なお、その他の装置5は設けられていなくてもよい。
【0023】
次に、ECU10の入力側に設けられた各検出器6〜9について説明する。
ブレーキスイッチ(ブレーキSW)6は、運転者の制動操作を検出するものである。このブレーキスイッチ6により検出された制動操作の情報は、ECU10に伝達される。なお、運転者の制動操作を検出するものであれば、ブレーキスイッチ6に限らず、ブレーキ液圧センサといった他の検出器を用いてもよい。この場合、ブレーキ液圧センサにより検出されたブレーキ液圧の情報がECU10に伝達される。
車速センサ7は、車両の速度(車速)を検出するものである。この車速センサ7により検出された車速Vの情報は、ECU10に伝達される。
【0024】
Gセンサ8は、車両の前後加速度αSを検出するものである。このGセンサ8は、車両の走行路面の勾配を検出するために設けられている。Gセンサ8により検出された車両の前後加速度αSは、ECU10に伝達される。
その他の検出器9(破線で示す)は、ECU10がISS制御を実施するにあたって、ブレーキスイッチ6,車速センサ7及びGセンサ8により検出された各情報の他に必要な情報(例えば運転者によるアクセル操作の情報或いはステアリング操作の情報やバッテリ2の充電状態の情報)があれば、その他の必要な情報を検出するものである。もちろん、その他の情報が必要なければ、その他の検出器9を設けなくてよい。
【0025】
イグニッションスイッチ20は、ロック,アクセサリ,イグニッションオン,スタートの各ポジションを有し、スタートポジションに操作すればスタータスイッチとして機能し、運転者により手動でエンジン1を始動させることができる。このイグニッションスイッチ20をイグニッションオンにすれば、エンジン1のほか、ECU10などを含む本エンジン制御装置などの車両にかかる種々のシステムを起動状態とすることができる。このイグニッションスイッチ20に接続されたECU10は、イグニッションスイッチ20の操作信号から運転者による手動でのエンジン1の始動を検知する。
【0026】
ECU10はエンジン1に関する広汎なシステムを制御するが、以下の説明では、ISS制御にかかる構成に着目してECU10を説明する。
ECU10は、各機能要素として、車両の位置する路面の勾配(以下、「路面勾配」と略称する)θを取得する路面勾配取得部(路面勾配取得手段)11と、車両に搭載される各種装置、特にアイドルストップ制御の実施中に作動する各要素が正常か異常かを診断する診断部(診断手段)12と、アイドルストップ条件判定部14と、アイドルストップ制御部(アイドルストップ制御手段)15と、アイドルスタート制御部(アイドルスタート制御手段)16とを有する。
【0027】
このECU10は、アイドルストップの実施によりエンジン1が自動停止され、かつ車両が停車している時に、車両の制動力を維持して車両の停止状態を保持する制御信号を停車保持装置4に出力する。具体的には、アイドルストップが実施され、且つ、車速センサ7により検出された車速Vが停車を示すときには、ECU10が停車保持装置4の電動ポンプ4bを作動させることで制動装置4aの作動を維持させることにより、車両の停止状態を保持する。この後、アイドルスタートの実施が完了すると、ECU10が停車保持装置4の電動ポンプ4bを停止させ制動装置4aの作動を停止することで車両の停止が解放される。
なお、「車速センサ7により検出された車速Vが停車を示す」とは、車速センサ7により検出された車速Vが0km/hやその極近傍の停車判定車速以下であることを意味する。
【0028】
また、ECU10は、アイドルストップの実施によりエンジン1が停止されるとDC/DCコンバータ3を作動させる制御信号を出力し、アイドルスタートの実施によるエンジン1の再始動が完了すると、DC/DCコンバータ3を停止させる制御信号を出力する。つまり、ECU10は、アイドルストップ制御によりエンジン1が停止されてからアイドルスタート制御により再始動が完了するまでの間にDC/DCコンバータ3を作動させ、バッテリ2の電圧降下を補償する。特にアイドルスタートの実施中には、エンジン1の始動に大量の電力を必要とするためバッテリ2からの電圧が降下しやすいが、この間にもDC/DCコンバータ3が作動しており、停車保持装置4やその他の装置5への印加電圧の降下は補償される。
【0029】
以下、路面勾配取得部11,診断部12,アイドルストップ条件判定部14,アイドルストップ制御部15,アイドルスタート制御部16の順に説明する。
路面勾配取得部11は、路面勾配θを取得するものであるが、ここでは、演算推定された路面勾配θを取得するものを説明する。この路面勾配取得部11は、その機能要素として、停車中路面勾配推定部11aと走行中路面勾配推定部11bとを有し、停車中路面勾配推定部11aにより推定された路面勾配θS又は走行中路面勾配推定部11bによって推定された路面勾配θCを取得する。この路面勾配取得部11は、車速センサ7により検出された車速Vが停車を示していれば停車中路面勾配推定部11aによって路面勾配θSを推定し、車速センサ7により検出された車速Vが停車を示していなければ走行中路面勾配推定部11bによって路面勾配θCを推定する。
【0030】
まず、停車中路面勾配推定部11aについて説明する。停車中に路面勾配θSを推定するときには、車両の走行による前後加速度を考慮せずにGセンサ8により検出される前後加速度αSを用いる。
停車中路面勾配推定部11aは、Gセンサ8により検出された車両の前後加速度αSと重力加速度gとを用いて、下記の式(1)により停車中における路面勾配θSを推定する。
sinθS=αS/g ・・・式(1)
【0031】
次に、走行中路面勾配推定部11bについて説明する。車両の走行中には、同じ路面勾配であっても、走行状態によってGセンサ8により検出される前後加速度αSが変動する。このため、Gセンサ8により検出された前後加速度αSを車両の走行状態に応じて補正して、路面勾配θCを推定している。詳細には、以下の式(2)及び式(3)を用いて路面勾配θCが推定される。
【0032】
まず、車速センサ7により検出された車速Vを時間微分する下記の式(2)により車両加速度αVを算出する。
αV=dV/dt ・・・式(2)
そして、Gセンサ8により検出された前後加速度αSと式(2)で算出された車両加速度αVとの差分を重力加速度gで除算する下記の式(3)により路面勾配θCを求める。
sinθC=(αS−αV)/g ・・・式(3)
【0033】
さらに、走行中路面勾配推定部11bは、ブレーキスイッチ6により制動操作が検出されていれば、上記の式(3)により算出された路面勾配を登坂勾配側(登坂路であれば急勾配側,降坂路であれば緩勾配側)に補正して路面勾配θCを推定してもよい。これは、同じ路面勾配を走行する車両の姿勢は、制動操作がされていないときよりも制動操作がされている時の方が所謂ダイブした姿勢となるため、路面勾配に対して車両の姿勢が傾いた分を補正することにより、路面勾配の推定精度を向上させることができるからである。
【0034】
このように、走行中路面勾配推定部11bは、Gセンサ8により検出された前後加速度αSや車速センサ7により検出された車速Vやブレーキスイッチ6により検出された制動操作の有無といった車両の走行状態に対応するパラメータに基づいて、走行中の路面勾配θCを推定する。
【0035】
診断部12は、車両に搭載された各種装置を診断する。診断部12により診断される各種装置は、作動中であっても非作動中であっても診断の精度が略変わらない装置と、非作動中よりも作動中の方が高い精度で診断することができる装置とに大別することができる。また、各種装置には、本エンジン制御装置の一部装置も含まれる。このため、診断部12は、エンジン制御装置の自己診断を実施するものとも言える。
【0036】
診断部12による各種装置の診断は、任意のタイミングで実施することができるが、ここでは、エンジン1が手動で始動されたときと、アイドルストップが実施されたときと、アイドルスタートが実施されたときとを例示して説明する。例えば、エンジン1が手動で始動されたときには各種センサが診断され、アイドルストップが実施されたときには停車保持装置4などのアイドルストップ制御にかかる各装置が診断され、アイドルスタートが実施されたときには後述するDC/DCコンバータ3などのエンジン1の始動にかかる各装置が診断される。
【0037】
この診断部12は、アイドルストップ制御の実施中に作動する各要素を何れも診断しうるが、ここでは、ISS制御の実施中、即ち、エンジン1の自動停止中及び再始動中に作動し、その作動中に診断するのに適したDC/DCコンバータ3及び停車保持装置4に着目して説明する。
【0038】
DC/DCコンバータ3はエンジン1の始動に伴う電圧降下時に作動するので、DC/DCコンバータ3を診断するタイミングは、エンジン1が再始動されるアイドルスタート時となる。なお、アイドルスタート時以外に、運転者により手動でエンジン1が始動されたときにもDC/DCコンバータ3は作動するが、この場合には診断を実施しない。その理由は、手動によるエンジン1の始動時には、アイドルスタート時と同様に電圧降下が発生しやすいが、このときに、診断部12を有するECU10を含むエンジン制御装置の各要素の起動が完了していないおそれがあるので、診断を正常に実施することができないおそれがあるからである。
【0039】
はじめに、診断部12によるDC/DCコンバータ3の診断を説明する。
診断部12は、アイドルスタートの実施中にDC/DCコンバータ3を診断するが、これは、DC/DCコンバータ3がバッテリ2の電圧を大きく昇圧させるように作動するときに診断することで、診断精度を高めることができるからである。
この診断部12は、例えばDC/DCコンバータ3の出力電圧と所定の判定電圧とを比較することで、DC/DCコンバータ3を診断することができる。この場合、所定の判定電圧よりも出力電圧の方が高ければDC/DCコンバータ3は正常と判定され、出力電圧が所定の判定電圧以下であればDC/DCコンバータ3は異常と判定される。ここでいう所定の判定電圧とは、例えば停車保持装置4やその他の装置5などの印加電圧が降下することで不具合を起こし得る電装機器が正常に作動する最低電圧にマージンを加えたものとして予め実験的又は経験的に設定されたものである。
【0040】
なお、診断部12によるDC/DCコンバータ3の診断は、アイドルスタートの実施中に限らず、アイドルストップによりエンジン1が停止されたときに実施してもよい。この場合、アイドルスタート中の診断に比較してDC/DCコンバータ3による電圧の昇圧分が低いため診断精度は低下するが、アイドルスタート時以外におけるDC/DCコンバータ3の作動を診断することができる。
【0041】
次に、診断部12による停車保持装置4の診断を説明する。
診断部12は、アイドルストップの実施によりエンジン1が停止されてからアイドルスタートの実施が完了するまでに停車保持装置4を診断する。すなわち、停車保持装置4がアイドルストップの実施によるエンジン1の停止中に車両の停止状態を保持するためのものであるため、診断部12は、車両を停止保持すべき期間に停車保持装置4を診断する。具体的には、診断部12は、停車保持装置4における制動装置4a及び電動ポンプ4bの作動状態が正常か異常かを判定する。
【0042】
例えば、制動装置4aを作動させる作動油の油圧又は電動ポンプ4bから吐出される作動油の油圧を所定の判定油圧と比較することで、停車保持装置4を診断することができる。この場合、所定の判定油圧よりも制動装置4a又は電動ポンプ4bにかかる作動油の油圧の方が高ければ正常と判定され、低ければ異常と判定される。ここでいう所定の判定油圧とは、車両の停止状態を保持することができるように制動装置4aを作動させる作動油の油圧の最低油圧にマージンを加えたものとして予め実験的又は経験的に設定されたものである。
なお、DC/DCコンバータ3の診断で上述のように、制動装置4aや電動ポンプ4bに印加される電圧と所定の判定電圧とを比較しても、停車保持装置4を診断することができる。
【0043】
ECU10は、診断部12を用いて「診断条件」の成否を判定し、診断条件が成立下で詳細を後述するアイドルストップ条件が成立すると、アイドルストップ制御部15によりアイドルストップを実施する。
「診断条件」とは、「診断部12により各種装置の異常が診断されていないこと」である。この診断条件は、診断部12により各種装置の正常が診断されていればもちろん成立するが、これに加えて、各種装置が診断部12により未だ診断されていないときにも成立する。言い換えれば、診断条件は、各種装置が正常か異常か不明なときにも成立する。
【0044】
アイドルストップ条件は、「車速条件」,「路面勾配条件」及び「その他の条件」とからなる。すなわち、アイドルストップ条件の成立には、「車速条件」の成立と、「路面勾配条件」の成立と、「その他の条件」の成立との何れもが必要である。
「車速条件」とは、「車速センサ7により検出された車速Vが所定の設定車速V1を下回ったこと」である。ここでいう所定の設定車速V1は、運転者が停車させようとしていると見做すことのできる停車直前の上限車速として予め実験的又は経験的に設定されており、例えば10km/h〜15km/hの車速を用いることができる。
【0045】
この車速条件の成立時には、車速センサ7により検出された車速Vが所定の設定車速V1を下回っているだけなので、車速Vが停車を示す(V≒0km/h)場合とそうでない場合とが含まれる。車速Vが停車を示すときに成立するアイドルストップ条件が停車時アイドルストップ条件であり、そうでないときに成立するアイドルストップ条件が走行時アイドルストップ条件である。
【0046】
「路面勾配条件」は、車両の停車中と走行中とでそれぞれ異なり、さらに、初回のアイドルストップ(エンジン1の自動停止)を経験したか否かで異なる。なお、初回のアイドルストップとは、運転者により手動でエンジン1を始動させて車両を発進させてから初めて実施されるエンジン1の自動停止をいう。また、アイドルストップの経験は、運転者による手動でのエンジン1の停止によりリセットされる。
【0047】
以下、「路面勾配条件」について、停車中のものを説明し、その次に走行中のものを説明する。この路面勾配条件の判定では、路面勾配取得部11により取得された路面勾配θを用いる。具体的には、車速に応じて、停車中路面勾配推定部11aにより推定された路面勾配θS、又は走行中路面勾配推定部11bにより推定された路面勾配θCを用いる。
停車中の路面勾配条件は、初回のアイドルストップを経験するまで、即ち、初回のアイドルストップを未経験である場合と、初回のアイドルストップを経験した後の場合とでは異なる。
【0048】
初回のアイドルストップを経験するまでの停車中の路面勾配条件は、停車中路面勾配推定部11aにより推定された路面勾配θSが第一停車中路面判定勾配(第三勾配値)θPS1を含んでこれよりも緩やかであることである。
このように、初回のアイドルストップを経験するまでは、停車中路面勾配推定部11aにより推定された路面勾配θSが第一停車中路面判定勾配θPS1を含んでこれよりも緩やかであることが、停車時アイドルストップ条件に含まれる。
【0049】
一方、初回のアイドルストップを経験した後の停車中の路面勾配条件は、停車中路面勾配推定部11aにより推定された路面勾配θSが第二停車中路面判定勾配(第四勾配値)θPS2を含んでこれよりも緩やかであることである。この第二停車中路面判定勾配θPS2は、第一停車中路面判定勾配θPS1よりも大きく設定されている。
このように、初回のアイドルストップを経験した後には、停車中路面勾配推定部11aにより推定された路面勾配θSが第二停車中路面判定勾配θPS2を含んでこれよりも緩やかであることが、停車時アイドルストップ条件に含まれる。
【0050】
また、走行中の路面勾配条件は、初回のアイドルストップを経験するまでの場合と、初回のアイドルストップを経験した後の場合とでは異なる。
初回のアイドルストップを経験するまでの走行中の路面勾配条件は、走行中路面勾配推定部11bにより推定された路面勾配θCが第一走行中路面判定勾配(第一勾配値)θPC1を含んでこれよりも緩やかであることである。この第一走行中路面判定勾配θPC1は、第一停車中路面判定勾配θPS1よりも小さく設定されている。
【0051】
このように、初回のアイドルストップを経験するまでは、走行中路面勾配推定部11bにより推定された路面勾配θCが第一走行中路面判定勾配θPC1を含んでこれよりも緩やかであることが、走行時アイドルストップ条件に含まれる。
【0052】
一方、初回のアイドルストップを経験した後の走行中の路面勾配条件は、走行中路面勾配推定部11bにより推定された路面勾配θCが第二走行中路面判定勾配(第二勾配値)θPC2を含んでこれよりも緩やかであることである。
このように、初回のアイドルストップを経験した後には、走行中路面勾配推定部11bにより推定された路面勾配θCが第二走行中路面判定勾配θPC2を含んでこれよりも緩やかであることが、走行時アイドルストップ条件に含まれる。
【0053】
上記の停車中路面判定勾配θPS及び走行中路面判定勾配θPCは、予め実験的又は経験的に設定されたものであるが、停車中路面判定勾配θPSよりも走行中路面判定勾配θPCの方が平坦(勾配値が小さい)側に設定されている。逆に言えば、走行中路面判定勾配θPCよりも停車中路面判定勾配θPSの方が急勾配(勾配値が大きい)側に設定されている。
その理由は、走行中の路面勾配θCの推定には、車速の増減度合や制動操作の有無といった車両の走行状態の変化が外乱成分として作用し得るのに対し、停車中の路面勾配θSの推定にかかる外乱成分が作用し難いからである。例えば、車両の走行中には車両の姿勢等が変化し易いが、停車中には車両の姿勢等は基本的に変化しないため、停車中の方が走行中よりも路面勾配θの推定精度を確保しやすいからである。
【0054】
したがって、より確実に推定精度が確保された停車中の路面勾配θSを判定するための停車中路面判定勾配θPSを、走行中の路面勾配θCを判定するための走行中路面判定勾配θPCよりも急勾配側に設定することで、路面勾配条件が成立する勾配の範囲が走行中よりも停車中の方が広くなるようにして、路面勾配条件が走行中よりも停車中の方が成立しやすくなるようにしている。
【0055】
なお、第一停車中路面判定勾配θPS1としては、例えば5°といった値を用いることができ、第二停車中路面判定勾配θPS2としては、例えば10°といった値を用いることができる。また、第一走行中路面判定勾配θPC1としては、平坦路と見做すことのできる勾配値の上限として例えば2°といった値を用いることができ、第一停車中路面判定勾配θPC2としては、例えば4°といった値を用いることができる。
【0056】
次に、「その他の条件」について説明する。
「その他の条件」は、「アイドルストップを実施するのに支障がない諸々の前提条件が何れも成立するとともに運転者による車両停止意志が検出された」ことである。
その他の条件にかかる「諸々の前提条件」には、エンジン1が暖気運転を完了していること、エンジン1で駆動される機器が非作動或いは作動要求がないこと(例えば、エンジン1で駆動されるコンプレッサを用いるエアコンが非作動であることや、エンジン1で駆動されるオルタネータによる発電電力を使用する車両の機器類が非作動であること、エンジン2の吸気負圧を利用するブレーキのマスタバック負圧が所定値以上であること等)、排気浄化用の触媒が活性化していること、エンジン1の作動にかかるセンサ類が正常であること等などが含まれる。
【0057】
「運転者による車両停止意思が検出される」とは、「サービスブレーキが操作されていることが検出される」ことであるが、アクセル操作がされていないこと(エンジン1がアイドリング状態であること)も必要な前提条件である。
なお、上記したアイドルストップ条件に、例えば運転者によりステアリング操作がされていないことやバッテリ2の充電状態がスタータモータ(図示略)でエンジン1を始動させるのに十分であることなどの条件を加重してもよい。この場合、アイドルストップ制御部15は、その他の検出器9による検出情報に基づき加重された条件の成否を判定して各アイドルストップ実施条件の成否を判定する。
【0058】
アイドルストップ条件判定部14は、アイドルストップ条件の成否を判定するものである。
具体的に言えば、アイドルストップ条件判定部14は、「車速条件」,「路面勾配条件」及び「その他の条件」の何れもが成立していれば、アイドルストップ条件の成立を判定し、「車速条件」,「路面勾配条件」及び「その他の条件」の何れかでも不成立であれば、アイドルストップ条件の不成立を判定する。
【0059】
アイドルストップ制御部15は、アイドルストップ条件判定部14によりアイドルストップ条件の成立が判定されるとアイドルストップを実施するものである。言い換えれば、アイドルストップ制御部15は、アイドルストップ条件が成立した際にエンジン1を自動停止させるものである。
さらに、アイドルストップ制御部15は、診断部12によりDC/DCコンバータ3や停車保持装置4をはじめとした各種装置が異常と診断された場合、アイドルストップの実施を禁止する。つまり、ECU10により「診断条件」の不成立が判定されると、アイドルストップ制御部15は、アイドルストップの実施を禁止する。
アイドルスタート制御部16は、再始動条件の成立を判定するとアイドルスタートを実施するものである。
【0060】
「再始動条件」とは、「運転者による車両発進意思が検出されたこと、及び、上記の各アイドルストップ条件の諸々の前提条件の何れかが不成立となったこと、の少なくとも何れかが成立すること」である。「運転者による車両発進意思が検出された」とは、「運転者によるサービスブレーキの操作解除が検出された」ことである。したがって、本実施形態では、アイドルストップ条件が成立すると再始動条件は非成立となり、逆に、再始動条件が成立するとアイドルストップ条件は非成立となる。
【0061】
アイドルスタート制御部16は、アイドルストップが実施されているときに再始動条件の成立を判定するとアイドルスタートを実施する。逆に、アイドルストップが実施されているときに再始動条件の非成立を判定するとアイドルスタートを実施しない。
このアイドルスタート制御部16は、ブレーキスイッチ6からの検出信号に基づいて運転者による車両の制動操作の有無を判定すると共に、上記の諸々の前提条件の成立,不成立を判定して、再始動条件の成否を判定する。
【0062】
なお、運転者の車両発進意思にかかる再始動条件は、上記のものに限らず、例えば運転者によりアクセル操作やステアリング操作がされたこととしてもよい。この場合、アイドルスタート制御部16は、その他の検出器9からの検出情報に基づいて再始動条件の成否を判定する。
さらに、アイドルスタート制御部16は、アイドルストップ中に診断部12によりDC/DCコンバータ3や停車保持装置4をはじめとした各種装置が異常と診断された場合、再始動条件が成立していなくても、アイドルスタートを実施する。
【0063】
〔フローチャート〕
次に、図2に示すフローチャートを参照して、ECU10で実施される制御手順を説明する。この図2中に示すフラグFは、0であれば診断部12により装置の異常が診断されたことを示し、1であれば診断部12により装置の異常が診断されていないことを示す。このフラグFは、診断条件の成否にも対応しており、1であれば診断条件の成立を示し、0であれば診断条件の不成立を示す。このフローは、手動によりエンジン1が始動(イグニッションオン)されると開始され、所定の制御処理周期で繰り返し実施される。また、フローチャート中の各ステップは、ECU10のハードウェアに割り当てられた各機能がソフトウェア(コンピュータプログラム)によって動作することで実施される。
【0064】
まず、ステップS10では、フラグFが0か否かを判定する。つまり、ステップS10では、診断条件の成否を判定している。診断条件が成立(F=1)であればステップS20へ移行し、診断条件が不成立(F=0)であればステップS100へ移行する。
ステップS20では、診断部12により各種装置が正常か異常かを診断する。そして、ステップS22へ移行する。
ステップS22では、ステップS20の診断によって各種装置が異常診断されたか否かを判定する。異常診断されていればステップS23へ移行し、正常診断されていれば、ステップS30へ移行する。
【0065】
ステップS30では、アイドルストップ条件にかかる「その他の条件」が成立したか否かを判定する。この「その他の条件」が成立していればステップS31へ移行し、成立していなければ本制御処理周期を終了(以下、「リターン」という)する。
ステップS31では、車速Vが所定の設定車速V1未満か否かを判定している。すなわち、このステップS31では、車速Vが所定の設定車速V1を下回ったか否かを判定している。車速Vが所定の設定車速V1未満であればステップS32へ移行し、そうでなければリターンする。
【0066】
ステップS32では、車速Vが停車を示す(V≒0)か否かを判定する。車速Vが停車を示してればステップS33へ移行し、車速Vが停車を示していない(走行中を示す)場合にはステップS36へ移行する。
ステップS33では、初回のアイドルストップ(初回IS)を経験していない(未経験)か否かを判定する。初回のアイドルストップを経験していなければステップS34へ移行し、経験していればステップS35へ移行する。
【0067】
ステップS34では、停車中路面勾配推定部11aにより推定された路面勾配θSが第一停車中路面判定勾配θPS1以下か否かを判定する。路面勾配θSが第一停車中路面判定勾配θPS1以下であればステップS40へ移行し、そうでなければリターンする。
同様に、ステップS35では、停車中路面勾配推定部11aにより推定された路面勾配θSが第二停車中路面判定勾配θPS2以下か否かを判定する。路面勾配θSが第二停車中路面判定勾配θPS2以下であればステップS40へ移行し、そうでなければリターンする。
【0068】
ステップS36では、ステップS33と同様のステップであり、初回のアイドルストップ(初回IS)を経験していない(未経験)か否かを判定する。初回のアイドルストップを経験していなければステップS37へ移行し、経験していればステップS38へ移行する。
【0069】
ステップS37では、走行中路面勾配推定部11bにより推定された路面勾配θCが第一走行中路面判定勾配θPC1以下か否かを判定する。路面勾配θCが第一走行中路面判定勾配θPC1以下であればステップS40へ移行し、そうでなければリターンする。
同様に、ステップS38では、走行中路面勾配推定部11bにより推定された路面勾配θCが第二走行中路面判定勾配θPC2以下か否かを判定する。路面勾配θCが第二走行中路面判定勾配θPC2以下であればステップS40へ移行し、そうでなければリターンする。
【0070】
これらのステップS30〜S38は、アイドルストップ条件を判定するステップである。詳細には、アイドルストップ条件にかかる「その他の条件」の成否がステップS30で判定され、「車速条件」の成否がステップS31及びS32で判定され、「路面勾配条件」の成否がステップS33〜S38で判定される。
【0071】
ステップS40では、アイドルストップを指令する。これによりアイドルストップが実施される。そして、ステップS50へ移行する。
ステップS50では、ステップS20と同様に、診断部12により各種装置が正常か異常かを診断し、ステップS52では、ステップS22と同様に、ステップS50の診断によって各種装置が異常診断されたか否かを判定する。ただし、アイドルストップに特有の診断も可能となる。異常診断されていればステップS82へ移行し、正常診断されていればステップS60へ移行する。
【0072】
ステップS60では、再始動条件が成立したか否かを判定する。再始動条件が成立していればステップS70へ移行し、再始動条件が成立していなければリターンする。
ステップS70では、アイドルスタートを指令する。これにより、アイドルスタートが実施される。そして、ステップS80へ移行する。
【0073】
ステップS80はステップS20及びS50と同様のステップであり、その次のステップS81はステップS22及びS52と同様のステップであり、診断部12により各種装置が正常か異常かを診断し、その診断によって各種装置が異常診断されたか否かを判定する。ただし、アイドルスタートに特有の診断も可能となる。異常診断されていればステップS82へ移行し、正常診断されていればリターンする。
【0074】
ステップS82では、フラグFを0にセットする。そしてリターンする。
また、ステップS23では、フラグFを0にセットする。そしてステップS100へ移行する。
ステップS100では、アイドルストップの実施を禁止する。例えば、アイドルストップが実施されていれば、アイドルスタートを実施する。そしてリターンする。
【0075】
〔効果〕
本実施形態のエンジン制御装置は、上述のように構成されるため、以下のような効果を得ることができる。
本実施形態のエンジン制御装置によれば、アイドルストップ制御部15によるアイドルストップを経験するまでは、走行中路面勾配推定部11bにより推定された路面勾配θCが、平坦路と見做すことのできる勾配値の上限として設定された所定の第一走行中路面判定勾配θPC1以下であることを走行時アイドルストップ条件に含むため、初回のアイドルストップが車両の走行中に実施される場合には、アイドルストップが第一走行中路面判定勾配PC1以下の路面勾配θCが推定されているときに実施される。これにより、本エンジン制御装置にかかる装置が正常か異常か不明な状態あっても、更に言えば、かかる装置に異常があったとしても、アイドルストップが実施された車両の予期せぬ挙動を回避しやすくすることができる。
【0076】
また、初回のアイドルストップを経験した後には、走行中路面勾配推定部11bにより推定された路面勾配θCが第一走行中路面判定勾配θPC1よりも大きい第二走行中路面判定勾配θPC2以下であることを走行時アイドルストップ条件に含むため、初回のアイドルストップを経験した後には、第一走行中路面判定勾配θPC1よりも大きい第二走行中路面判定勾配θPC2以下であれば、アイドルストップを走行中に実施することができる。つまり、初回のアイドルストップを経験した後には、平坦路に加えて第二走行中路面判定勾配θPC2以下の傾斜路においても、アイドルストップを走行中に実施することができる。したがって、走行中のアイドルストップの実施頻度を増やすことにより、燃費を向上させることができる。
これらより、アイドルストップ中の車両の予期せぬ挙動を回避しやすくするとともに、アイドルストップの実施頻度を増やすことにより燃費を向上させることができる。
【0077】
初回のアイドルストップを経験した後には、例えばエンジン制御装置にかかる装置が正常である確度が高く、このような場合に、路面勾配θSが第一停車中路面判定勾配θPS1よりも大きい第二停車中路面判定勾配θPS2以下であることを停車時アイドルストップ条件に含むため、停車時のアイドルストップの実施頻度を増やすことにより、車両の予期せぬ挙動を回避しやすくしながら、燃費を向上させることができる。
【0078】
一方、初回のアイドルストップを経験するまでは、路面勾配θSが第二停車中路面判定勾配θPS2よりも小さい第一停車中路面判定勾配θPS1以下であることを停車時アイドルストップ条件に含むため、初回のアイドルストップが停車時に実施される場合には、緩傾斜路や平坦路といった第一停車中路面判定勾配θPS1以下の傾斜路に車両が位置するため、車両に装備された装置が正常か異常か不明な状態あっても、更に言えば、仮に装置に異常があったとしても、車両の予期せぬ挙動を回避しやすくすることができる。
【0079】
また、初回のアイドルストップを経験するまでは、路面勾配が第一走行中路面判定勾配θPC1よりも大きい第一停車中路面判定勾配θPS1以下であることを停車時アイドルストップ条件に含むため、初回のアイドルストップは走行中よりも停車時の方が実施されやすい。これにより、車両の走行中における予期せぬ挙動を更に回避しやすくすることができる。
【0080】
路面勾配取得部11は、停車中の路面勾配θSを推定する停車中路面勾配推定部11aと走行中の路面勾配θCを推定する走行中路面勾配推定部11bとを有するため、車両の走行中及び停止中のそれぞれに応じて適切に路面勾配θを推定することができる。
具体的には、停車中路面勾配推定部11aは、Gセンサ8により検出された前後加速度αSに基づいて停車中の路面勾配θCを推定し、走行中路面勾配推定部11bは、前後加速度αSに加えて、車速センサ7により検出された車速Vやブレーキスイッチ6により検出された制動操作の有無などの車両の走行状態に対応するパラメータに基づいて路面勾配θCを推定するため、勾配推定にかかる外乱を補償して、走行中における路面勾配θCの推定精度を確保することができる。よって、走行中の路面勾配θCをアイドルストップに用いることができ、車両の予期せぬ挙動回避と燃費の向上とを両立させることができる。
【0081】
アイドルスタート制御部16は、アイドルストップ中に各種装置が診断部12により異常と診断された場合にエンジン1をいわば強制的に再始動させるため、各種装置が異常診断されているにもかかわらず、エンジン1が停止し続ける状態を回避することができる。これにより、各種装置の異常による不具合を回避することができる。
【0082】
アイドルストップ制御部15は、診断部12により各種装置が異常と診断された場合にアイドルストップを禁止するため、各種装置が異常診断されているにもかかわらず、エンジン1が停止されるのを回避することができる。これにより、各種装置の異常による不具合を回避することができる。
【0083】
診断部12は、エンジン1の自動停止中又は再始動中に作動する各種装置が正常か異常かをエンジン1の自動停止中又は再始動中に診断するため、例えばDC/DCコンバータ3や停車保持装置4といった自動停止中又は再始動中に作動する各種装置を確実に診断することができる。また、作動中の診断が適切な各種装置を診断することができ、診断精度を向上させることができる。
診断部12は、アイドルストップの実施によりエンジン1が自動的に停止されるとエンジン制御装置が正常か異常かを診断するため、エンジン1の停止中に作動する各種装置の診断を適切に実施することができる。
【0084】
具体的には、診断部12は、アイドルストップの実施によるエンジン1の停止中に車両の停止状態を保持する停車保持装置4とこの停車保持装置4をはじめとした各電装機器に電力を供給するDC/DCコンバータ3を診断するため、エンジン1の停止中に、DC/DCコンバータ3や停車保持装置4の正常が診断されていない或いは異常が診断されている状況では、アイドルストップ及びアイドルスタートが平坦路又は略平坦路において実施されることになる。このため、仮にDC/DCコンバータ3や停車保持装置4が異常であった(故障していた)としても、車両の予期せぬ挙動を防止又は抑制することができる。また、かかる状況で走行時及び停車時のアイドルストップが実施されるため、車両の予期せぬ挙動回避と燃費の向上とを両立させることができる。
【0085】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の一実施形態では、ECU10は、「診断条件」及び「アイドルストップ条件」の何れもの成立を判定すると、アイドルストップを実施するものを示したが、少なくとも「アイドルストップ条件」の成立が判定されると、アイドルストップが実施されてもよい。この場合、ECU10から診断部12を省略することができ、アイドルストップにかかる制御負荷を軽減することができる。
【0086】
上述の一実施形態では、走行中路面勾配推定部11bがGセンサ8により検出された前後加速度αSを車両の走行状態に応じて補正して路面勾配θCを推定するものを示したが、これに替えて、停車中における路面勾配θSを示す「sinθS」に「(αS−αV)/αS」を乗算補正して走行中における路面勾配θCを求めてもよい。つまり、走行中路面勾配推定部11bは、停車中路面勾配推定部11aにより推定された路面勾配θSを車両の走行状態に応じて補正して、路面勾配θCを推定してもよい。この場合にも、停車中の路面勾配θSの推定精度はもちろん、走行中の路面勾配θCの推定精度を確保することができる。したがって、アイドルストップの実施を開始するための条件に走行中の路面勾配θCを用いることができ、車両の予期せぬ挙動を回避しやすくしながら燃費を向上させることができる。
【0087】
上述の一実施形態では、走行中路面勾配推定部11bが、車両の走行状態に対応するパラメータを用いて走行中の路面勾配を推定するものを示したが、その他、走行路面の画像を用いて走行中の路面勾配を推定してもよいし、広域ネットワーク回線等を介して走行中の路面勾配を取得してもよい。
【0088】
上述の一実施形態では、路面勾配条件の判定にかかる停車中路面判定勾配θPSが同判定にかかる走行中路面判定勾配θPCよりも急勾配(勾配値が大きい)側に設定されているものを示したが、走行中に推定された路面勾配θCの精度が十分に確保されていれば、停車中路面判定勾配θPSと走行中路面判定勾配θPCとが同勾配に設定されていてもよい。この場合、正常診断前の走行時におけるアイドルストップの実施機会を確保することができる。
【0089】
一方、ECU10は、路面勾配取得部11は、走行中であっても停車中の手法で路面勾配を推定演算して取得してもよいし、勾配センサを備え、この勾配センサにより検出された路面勾配をそのまま用いてもよい。この場合、ECU10の演算負荷を軽減することができ、走行中の路面勾配θCの推定演算にかかるセンサ等を省略すれば、簡素な構成に寄与しうる。
【0090】
上述の一実施形態では、診断部12による診断タイミングは任意でよいことを示したが、診断部12による診断タイミングを、初回のアイドルストップの実施時だけにしてもよい。この場合、診断部12による診断回数を少なくすることができ、ECU10の制御負荷を軽減することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 エンジン
2 バッテリ
3 DC/DCコンバータ
4 停車保持装置(停車保持手段)
4a 制動装置
4b 電動ポンプ
5 その他の装置
6 ブレーキスイッチ
7 車速センサ
8 Gセンサ
9 その他の検出器
10 ECU
11 路面勾配取得部(路面勾配取得手段)
11a 停車中路面勾配推定部
11b 走行中路面勾配推定部
12 診断部(診断手段)
14 アイドルストップ条件判定部
15 アイドルストップ制御部(アイドルストップ制御手段)
16 アイドルスタート制御部(アイドルスタート制御手段)
20 イグニッションスイッチ
θPC1 第一走行中路面判定勾配(第一勾配値)
θPC2 第二走行中路面判定勾配(第二勾配値)
θPS1 第一停車中路面判定勾配(第三勾配値)
θPS2 第二停車中路面判定勾配(第四勾配値)
図1
図2