【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水が最低共沸組成物(液液分離する場合は、異相共沸組成物という)を形成するという従来知られていない現象を見出した。そして、この性質を利用することで、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン中に含まれる水を効率的に除去できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記の共沸又は共沸様組成物、及び水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法を提供するものである。
1. 2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水からなる共沸又は共沸様組成物。
2. 2,3,3,3-テトラフルオロプロペン99重量%〜99.995重量%と水0.005〜1重量%からなる共沸又は共沸様組成物。
3. 水と2,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる混合物を蒸留して、該混合物より水分濃度の高い2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む第1ストリームと、該混合物より水分濃度の低い2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む第2ストリームに分離し、第二ストリームから水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
4. 大気圧〜2MPaの圧力範囲で蒸留を行う上記項3に記載の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
5. 更に、上記項3又は4の方法で分離された第1ストリームの混合物を冷却して水を多く含む液相Aと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを多く含む液相Bに分離する工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
6. 更に、上記項5の方法で分離された液相Bを蒸留塔に再循環する工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【0012】
以下、本発明の共沸又は共沸様組成物、及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について具体的に説明する。
【0013】
共沸又は共沸様組成物
本発明の共沸又は共沸様組成物は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水からなるものである。
【0014】
本発明者の研究によれば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物の精留を行う際に、精留塔の塔頂に向かって水分濃度が増加し、一定の水分濃度に達するとこれ以上濃度が上昇しない現象が見出された。このことから、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水が最低共沸組成物を形成することが明らかとなった。具体的な共沸組成は、温度及び圧力によって変動するが、圧力0.55MPa、温度16℃においては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン99.979重量%と水0.021重量%からなる組成が共沸組成である。
【0015】
本発明では、後述する通り、水分除去のための蒸留操作に適する圧力は、大気圧〜2MPa程度の範囲である。この圧力範囲においては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン99重量%〜99.995重量%程度と水0.005〜1重量%程度の範囲の混合物が共沸又は共沸様組成物となる。
【0016】
ここで、共沸組成物とは、液相と平衡にある気相が液相と同一の組成を示す混合物を意味し、共沸様組成物とは、液相と平衡にある気相が液相と類似の組成を示す混合物を意味する。
【0017】
水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法
本発明の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法では、まず、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物の蒸留を行う。蒸留は、大気圧(0.1013MPa)〜2MPa程度の圧力で行えばよい。圧力が低すぎると還流温度が低くなり、塔内で分液する可能性があるため、0.4MPa〜2MPa程度の圧力範囲で行うのが好適である。
【0018】
原料として用いるHFO-1234yfに含まれる水分量は任意であるが、両者の相互溶解度には限界がある。このため、原料とするHFO-1234yf中の水分量が多すぎるときは、精留塔内で液液分離を生じることがあり、三相蒸留となって、これにより精留塔の効率が低下する。このため、蒸留塔の前に、デカンターなどを用いて水相とHFO-1234yfリッチの有機相に分液させてHFO-1234yf中の水分濃度をある程度低下させた後、水分量の低下したHFO-1234yfを精留塔に供給してもよい。
【0019】
上記した通り、大気圧(0.1013MPa)〜2MPaの圧力範囲において、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン99重量%〜99.995重量%と水0.005〜1重量%程度の範囲の混合物、即ち、水の含有量が50〜10000ppm(重量基準、以下同様)の範囲の混合物が共沸又は共沸様組成物となる。
【0020】
従って、水の含有率が上記した共沸組成を下回る2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物を蒸留する場合に、水分が濃縮された2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物、即ち、蒸留塔に供給された混合物より水分濃度が高い2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物が、蒸留塔の塔頂部から得られる。
【0021】
塔頂部から得られた水分の濃縮された2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物については、モレキュラーシーブなどの吸着剤を用いて乾燥すれば、従来の方法に比べて乾燥塔を小さくすることができる。また、塔頂部から得られた2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物について、デカンタ等を用いて冷却して、水を多く含む液相Aと、2,3,3,3-−テトラフルオロプロペンを多く含む液相Bに分離することにより、さらに効率的に水分の分離を行うことができる。デカンタにおいては、蒸留塔から抜き出した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物よりも低い温度に冷却して二液相に分離を行えばよい。温度は分液した水が凍らない温度とすればよい。
【0022】
上記した蒸留操作と液液分離を連続した操作として行うことによって、効率良く水分を分離することができる。
【0023】
上記方法で分離された水を多く含む相は廃棄すればよい。また、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを多く含む相については、精留塔に戻して再度精留することもできるし、これのみモレキュラーシーブで乾燥すれば、乾燥塔を大幅に小さくすることができる。
【0024】
塔底から得られる水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンについても、モレキュラーシーブ等で乾燥することによって、規模の小さい乾燥塔を用いて水分を除去することができる。
【0025】
上記した方法によれば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の混合物から、水分濃度の低下した2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得ることができる。
【0026】
尚、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと水の蒸留においては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンに含まれる不純物、例えば脱フッ化水素反応の原料で未反応物として残留する1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)や1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)などの物質を含んでいてもよい。その場合は2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと一緒に抜き出して、別の蒸留塔で分離すればよい。
【0027】
なお、「濃縮」および「除去」なる用語は、相対する概念を意味するものとして使用している。即ち、混合物においてある成分を濃縮することは、その成分以外の他の成分を除去することになる。