(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、耐熱性、耐薬品性、非粘着性等に優れることから、幅広い用途で使用されている。また、本来的に優れた性質を有するフッ素樹脂を改良する試みも多くなされてきた。
【0003】
特許文献1には、耐熱性、耐薬品性等に優れる溶融成形性テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体(PFA)組成物に対して、305℃以上の結晶化温度と50J/g以上の結晶化熱を有するポリテトラフルオロエチレンを含有させることにより、PFAの特性を損なうことなく、溶融押し出し成形品の表面平滑性を著しく改善できることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(A)に対して、共重合体(A)よりもパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)による重合単位の含有量が少ないテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(B)を混合することにより、PFA本来の物性や成形加工性を保持したまま、成形体中の球晶サイズを小さくでき、また成形体表面を平滑にできることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(A)およびテトラフルオロエチレン重合体(B)からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、かつ容量流速(X)が0.1mm
3/秒以上であるパーフルオロ重合体が分散した媒体中で、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)を共重合せしめて、共重合体(A)よりパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく重合単位の含有量が多いテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(C)を生成させることにより、前記パーフルオロ重合体と生成する共重合体(C)の混合物からなる組成物を得ることにより、PFA本来の物性や成形加工性を保持したまま、PFAの成形体中の球晶サイズを小さくでき、また成形体表面を平滑にできるテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体組成物の製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、溶融加工可能な結晶性含フッ素樹脂に対して、非晶質含フッ素ポリマーまたは非晶質含フッ素ポリマー鎖セグメントをもつ含フッ素多元セグメント化ポリマーを添加することにより、溶融成形して得られる成形品の表面を高度に平滑化できると共に、パーティクルなどの発生の低減を達成し得ることが記載されている。
【0007】
特許文献5には、結晶性のPFAに対して非晶質含フッ素ポリマーを配合することにより、成形品の表面平滑性および透明性を向上させることが記載されている。
【0008】
特許文献6には、フッ素樹脂を含む定着器外層材料にフッ素化ダイヤモンド含有粒子を添加することによって、定着器部材の最外層を形成する塗膜の機械的性質、表面耐摩耗性、及び寿命を改善できると記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂、及び、フッ素化ナノダイヤモンドを含む組成物であって、上記フッ素化ナノダイヤモンドをフッ素樹脂に対して0.001〜5質量%の量で含む。
【0021】
フッ素樹脂組成物から得られる成形品の引張強度及び耐屈曲性を改良するためには、フッ素化ナノダイヤモンドをフッ素樹脂に対して0.001〜5質量%の量で含むことが重要である。フッ素化ナノダイヤモンドを添加することによりフッ素樹脂成形品の引張強度及び耐屈曲性が向上する理由は明確ではないが、フッ素化ナノダイヤモンドが核となってフッ素樹脂の球晶の形成を助けており、しかも形成されたフッ素樹脂の球晶が小さいことが理由であると推測される。
【0022】
結晶性であるフッ素樹脂の球晶の大きさが特定の条件下で小さくなる現象は、特許文献1〜5に記載されているとおり公知である。しかしながら、従来の技術では、成形品の表面の平滑性を改善することはできても、引張強度及び耐屈曲性を改善することはできなかった。この理由は、通常、添加剤の濃度が高くなると、耐屈曲性を悪化させるためである。従来技術と同じ平均球晶径を実現するために、球晶微細化効果の高いフッ素化ナノダイヤモンドは、従来技術より添加剤量が少なくてすむので、結果として、従来技術よりも耐屈曲性を高くすることができるものと推測される。
【0023】
この推測を裏付ける可能性があるデータとして表1を示す。表1には、実施例1〜6として、本発明のフッ素樹脂組成物から形成された成形品を溶融してから冷却して再結晶化させた時に形成される球晶の大きさ(再結晶化球晶径)が示されている。これらの結果から、本発明のフッ素樹脂組成物から形成された成形品においては、フッ素化ナノダイヤモンドを含まないフッ素樹脂組成物から得られる成形品よりもはるかに小さな球晶が形成されていると予想される。また、特許文献1に記載されている平均球晶径と対比すると、ポリテトラフルオロエチレンを添加するよりもフッ素化ナノダイヤモンドを添加するほうが相対的に少ない添加量でもより小さな球晶が形成されることが分かる。
【0024】
表1には、また、本発明のフッ素樹脂組成物の結晶化温度を示す。本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素化ナノダイヤモンドを含まないフッ素樹脂組成物よりも高い結晶化温度を有しており、ポリテトラフルオロエチレンを含むフッ素樹脂組成物と比較する場合でも、同じ添加量であれば高い結晶化温度を有している。なお、ポリテトラフルオロエチレンを含むフッ素樹脂組成物の結晶化温度は、特許文献1に記載されている。
【0025】
以上のことから、本発明のフッ素樹脂組成物においては、フッ素化ナノダイヤモンドが高度に分散した状態で存在し、従来の技術と比べて、フッ素樹脂の結晶化の過程で効果的に球晶を形成させていることが推測される。
【0026】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素化ナノダイヤモンドの含有量がフッ素樹脂に対して0.001〜5質量%である。フッ素化ナノダイヤモンドの含有量は、0.005〜4質量%であることが好ましく、0.01〜3質量%であることがより好ましく、0.01〜2質量%であることが更に好ましく、0.01〜1質量%であることが特に好ましい。フッ素化ナノダイヤモンドの量が多すぎると、添加量に見合った効果が得られないばかりか、却って引張強度及び耐屈曲性を損なうこととなり、フッ素化ナノダイヤモンドの量が少なすぎると、引張強度及び耐屈曲性を向上させることができない。
【0027】
上記フッ素樹脂は、フッ化ビニル〔VF〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ビニリデンフルオライド〔VdF〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、へキサフルオロプロピレン〔HFP〕、へキサフルオロイソブテン、CH
2=CZ
1(CF
2)
nZ
2(式中、Z
1はH又はF、Z
2はH、F又はCl、nは1〜10の整数である。)で示される単量体、CF
2=CF−ORf
1(式中、Rf
1は、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、及び、CF
2=CF−O−CH
2−Rf
2(式中、Rf
2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体に由来する繰り返し単位を有することが好ましい。
【0028】
上記フッ素樹脂は、フッ素原子を有さないエチレン性単量体に由来する繰り返し単位を有してもよく、耐熱性や耐薬品性等を維持する点で、炭素数5以下のエチレン性単量体に由来する繰り返し単位を有することも好ましい形態の一つである。上記フッ素樹脂は、エチレン〔Et〕、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン及び不飽和カルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素非含有エチレン性単量体を有することも好ましい。
【0029】
上記フッ素樹脂としては、溶融加工可能な結晶性のフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂が結晶性であるとは、示差走査熱量計(DSC)を使用してフッ素樹脂を測定した場合に結晶化ピーク温度を有することをいう。上記フッ素樹脂としては、例えば、TFE/PAVE共重合体、TFE/HFP共重合体、TFE/Et共重合体、TFE/HFP/Et共重合体、TFE/HFP/VdF共重合体、TFE/PAVE/CTFE共重合体、CTFE/Et共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリフッ化ビニルなどが挙げられる。
【0030】
上記フッ素樹脂としては、なかでも、TFE/PAVE共重合体(PFA)、TFE/HFP共重合体(FEP)が好ましく、TFE/PAVE共重合体(PFA)がより好ましい。
【0031】
上記フッ素樹脂は、融点が100〜347℃であることが好ましく、150℃〜322℃であることがより好ましい。上記融点は、示差走査型熱量計(DSC)を使用して得られる曲線の溶融ピーク温度として求めることができる。
【0032】
上記フッ素樹脂は、メルトフローレートが0.1〜100g/10minであることが好ましく、1〜70g/10minであることがより好ましい。上記メルトフローレートは、ASTM D3307−01に準拠し、メルトインデクサー(東洋精機社製)を用いて求めることができる。
【0033】
PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位とPAVE単位とのモル比(TFE単位/PAVE単位)が70〜99/30〜1である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、80〜98.5/20〜1.5である。球晶微細化の効果が顕著である点で、更に好ましいモル比は、97〜98.5/3〜1.5である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記PFAは、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90〜99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びPAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ
3Z
4=CZ
5(CF
2)
nZ
6(式中、Z
3、Z
4及びZ
5は、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Z
6は、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF
2=CF−OCH
2−Rf
7(式中、Rf
7は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0034】
FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位とHFP単位とのモル比(TFE単位/HFP単位)が70〜99/30〜1である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、80〜97/20〜3である。球晶微細化の効果が顕著である点で、更に好ましいモル比は、91〜97/9〜3である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90〜99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、PAVE、アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0035】
上述した共重合体の各単量体の含有量は、NMR、FT−IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0036】
上記フッ素化ナノダイヤモンドとしては、爆射法で得られたナノダイヤモンドをフッ素化したものが好ましい。爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンドの表面をグラファイト系炭素が覆ったコア/シェル構造を有しており黒く着色している。未精製のナノダイヤモンドを用いてもよいが、より着色の少ない成形品を得るために、未精製のナノダイヤモンドを酸化処理し、グラファイト相の一部又はほぼ全部を除去してから用いるのが好ましい。
【0037】
上記ナノダイヤモンドのフッ素化は、例えば、第26回フッ素化学討論会要旨集、平成14年11月14日発行、第24〜25頁において開示された公知の方法で行うことができる。すなわち、ニッケルもしくはニッケルを含む合金等の、フッ素に耐食性を有する材料からなる反応器中に、ナノダイヤモンドを封入し、フッ素ガスを導入してフッ素化すればよい。
【0038】
フッ素化反応圧力は、0.002〜1.0MPaであることが好ましい。低すぎるとフッ素化速度が遅くなり、高すぎると反応装置が大がかりとなり、生産性、経済性が低くなる。フッ素化反応圧力は、0.005〜0.2MPaがより好ましい。
【0039】
用いるフッ素化用のガスは、純度が高い方が好ましいが、フッ素濃度が1.0質量%以上であればよく、99質量%以下のチッ素やアルゴン、ヘリウムにより希釈されていてもよい。フッ素化用のガスのフッ素濃度は、反応途中で随時変化させることができるが、生産性の観点から10質量%以上がより好ましい。
【0040】
また、フッ素化用のガスは、テトラフルオロエタンやヘキサフルオロエタンのようなフルオロカーボン類、又は、フッ化水素、三フッ化窒素、五フッ化ヨウ素等の無機フッ化物等や酸素、水蒸気などを含んでいても差し支えない。特に微量のフッ化水素の含有は、その触媒効果により反応速度を加速する効果があることがグラファイトのフッ素化に於いて知られているので、積極的に添加してもよい。
【0041】
フッ素化反応は、十分な容積を有する反応器においてバッチ式で行ってもよく、適宜、フッ素ガスを置換しながら行うセミバッチ式としてもよく、さらに、流通式で行ってもよい。また、一度に大量のナノダイヤモンドのフッ素化を行う場合は、反応を均一化するために反応器に適当な撹拌機構を設けることが好ましい。撹拌機構としては、各種撹拌翼による撹拌、反応器を機械的に回転あるいは振動させる方法、ナノダイヤモンドの粉体層を気体の流通により流動させる方法等が用いられるが、過度の撹拌は粉塵爆発するおそれがあるので注意しなければならない。
【0042】
フッ素化反応温度は、−100℃〜600℃の範囲で生産性、経済性、安全性を考慮して選定すればよく、より好ましくは室温(25℃)〜350℃であり、更に好ましくは室温〜300℃である。反応温度が低すぎるとフッ素化の速度が遅くなり、高すぎるとナノダイヤモンドの分解反応が早くなるので、注意を要する。
【0043】
反応時間は、反応方式、反応条件にもよるが、特に限定されず10秒間から1000時間の範囲内で適宜設定することが望ましい。短すぎると充分なフッ素化を行うことが難しくなり、十分なフッ素化の効果を得ることが出来ない傾向にあり、また長くなりすぎるとナノダイヤモンドの分解反応を助長するだけでなく、長時間を要するため工業的に生産効率が低くなる。
【0044】
得られたフッ素化ナノダイヤモンドは、元素分析(酸素フラスコ法)により求めたフッ素含有量が0.1〜20.0質量%であることが好ましい。フッ素含有量が少ないと、十分なフッ素化の効果を得ることができなくなるという問題があり、多すぎると、ナノダイヤモンドとしての効果を得ることができなくなるという問題がある。
【0045】
上記フッ素含有量は、1.0質量%以上がより好ましく、5.0質量%以上が更に好ましく、10.0質量%以下がより好ましい。
【0046】
本発明のフッ素樹脂組成物の形態は特に限定されず、粉体、ペレット、ビーズ、ディスパージョン等であってよい。ディスパージョンであると塗料として利用でき、塗膜の形成させることができる。しかしながら、本発明の効果が成形品の引張強度及び耐屈曲性の向上であることから、本発明のフッ素樹脂組成物は、成形品を製造することが容易である形態、すなわち、粉体、ペレット又はビーズであることが好ましい。同じ理由で、本発明のフッ素樹脂組成物は、成形用材料であることが好ましく、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成型、トランスファー成形、キャスト成形、射出圧縮成形、インサート成形、インフレーション成形等に用いる成形用材料であることがより好ましい。
【0047】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂とフッ素化ナノダイヤモンドとをドライブレンド法により混合することにより製造することもできるし、フッ素樹脂の水性分散液にフッ素化ナノダイヤモンドを添加して共凝析することにより製造することもできるし、フッ素樹脂とフッ素化ナノダイヤモンドとをフッ素樹脂の融点以上の温度で溶融混練することにより製造することもできる。溶融混練は、公知の方法により行うことができ、混練機、押出機等を使用して混練することができる。溶融混練により得られる組成物の形態は、ペレット又はビーズであってよく、それらを粉砕して得られる粉体であってもよい。
【0048】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂とフッ素化ナノダイヤモンドとをドライブレンド法により混合して混合粉体を得る工程、混合粉体とフッ素樹脂とをフッ素樹脂の融点以上の温度で溶融混練してマスターバッチを得る工程、及び、マスターバッチとフッ素樹脂とをフッ素樹脂の融点以上の温度で溶融混練して、所望の組成を有するフッ素樹脂組成物を得る工程、を含む製造方法により特に好適に製造することができる。
【0049】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂及びフッ素化ナノダイヤモンドの混合粉体であってもよい。フッ素樹脂の粉体としては、平均粒子径が50〜1000μmであるものが好ましく、フッ素化ナノダイヤモンドの粉体としては、平均粒子径が1〜1000nmであるものが好ましく、1〜100nmであるものが更に好ましい。平均粒子径は、例えば、レーザー光散乱式粒子分布計により容易に測定することができる。粉体をそのまま測定に供してもよく、また、2−ブタノン等の適当な有機溶剤に適宜分散させた状態で測定してもよい。樹脂に分散し成形した状態では、走査型電子顕微鏡あるいはミクロトームで薄くスライスした上で透過型電子顕微鏡によりフッ素化ナノダイヤモンドの分散状態を撮影した上、適宜画像処理を行う事で粒子径分布を見積もることができる。押出成形等により混合粉体から直接成形品を得てもよいし、混合粉体を混練機により溶融混練して混練物としてから、混練物を成形することにより成形品を得てもよい。
【0050】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂及びフッ素化ナノダイヤモンドをフッ素樹脂の融点以上の温度で混練することにより得られる組成物であってもよい。このような組成物では、フッ素化ナノダイヤモンドがフッ素樹脂中に分散して存在している。フッ素樹脂中にフッ素化ナノダイヤモンドが分散していることは、走査型電子顕微鏡あるいはミクロトームで薄くスライスした上で透過型電子顕微鏡により観察することができる。また、フッ素樹脂組成物をレーザーラマンスペクトル法により、フッ素樹脂とは異なる位置に生ずる、ナノダイヤモンドコアに特有のピーク(1332〜1325cm
−1)およびXPS(X線光電子分光法)により得られるフッ素化されたグラファイト相に特有のピーク(約288eV)を検出することにより確認することができる。
【0051】
本発明のフッ素樹脂組成物は、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、核剤、滑剤、充填剤、分散剤、金属不活性剤、中和剤、加工助剤、離型剤、発泡剤、着色剤、指紋付着防止剤等の添加剤を含むものであってもよい。本発明のフッ素樹脂組成物は、添加剤を本発明の効果を損なわない量で含むことができ、フッ素樹脂及びフッ素化ナノダイヤモンドの合計質量に対して0.001〜1.000質量%の添加剤を含むものであってもよい。
【0052】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂及びフッ素化ナノダイヤモンドを合計で99.000〜99.999質量%含むことが好ましい。フッ素樹脂及びフッ素化ナノダイヤモンドの質量比は、99.999/0.001〜97.000/3.000であることが好ましい。本発明のフッ素樹脂組成物は、実質的に水を含まないことが好ましく、1.000質量%以上の水を含まないことがより好ましい。
【0053】
本発明は、上記のフッ素樹脂組成物からなることを特徴とする成形品でもある。本発明の成形品は、上記フッ素樹脂組成物を成形して得られるものであるので、引張強度及び耐屈曲性に優れる。フッ素樹脂組成物の成形方法は特に限定されないが、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成型、トランスファー成形、キャスト成形、射出圧縮成形、インサート成形、インフレーション成形等が挙げられる。
【0054】
本発明の成形品は、再結晶化平均球晶径が15μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。再結晶化平均球晶径が小さいほど、引張強度及び耐久性が優れる。上記再結晶化平均球晶径は、フッ素樹脂及びフッ素化ナノダイヤモンドを溶融混練することにより得られた成形品から約0.1mmの厚みの試験片を切り出し、顕微鏡ステージ(Linkam Scientific Instruments社製 TST350)に載せて、室温から40℃/minの速度で350℃まで昇温し、350℃に5分間保持した後、10℃/minで200℃まで冷却し、更に30℃/minで室温まで冷却し、冷却後の試験片の表面を偏光顕微鏡(オリンパス社製BX51)及び走査型電子顕微鏡(日立社製S−4000)により観察して、連続する60個の球晶の直径の平均値として求めることができる。
【0055】
本発明によれば、MIT値が15万回以上である成形品を得ることもできる。上記MIT値は、ASTM D−2176準拠の標準折曲耐久試験機により測定することができる。
【0056】
本発明の成形品の形状は、特に限定されず、例えば、フィルム、シート、板、ロッド、ブロック、円筒、容器、電線、チューブ等が挙げられる。
【0057】
本発明の成形品は、フッ素樹脂成形品の一般的な用途に利用できるが、引張強度及び耐屈曲性が優れることから、シール材、薬液チューブ、薬液ボトル、燃料チューブ、ナット、バルブのボディ、ユニオンの継手、ダイヤフラム、ベローズ、スリーブ等の成形材料として特に好適に使用することができる。また、透明であり耐熱性にも優れることから、反応容器の覗き窓としても好適に使用することができる。更に、半導体製造等の高純度の薬液や超純水が必要とされる分野においても好適に利用できる。
【実施例】
【0058】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0060】
融点及び結晶化温度
実施例及び比較例で得られた物性測定用のサンプル3mgを、METTLER TOLEDO社製示差熱量計を用いて、昇温速度10℃/minで350℃まで昇温後、冷却速度10℃/minで200℃まで冷却する過程で生ずる結晶化ピークから結晶化温度を求め、200℃から350℃までの昇温過程で生ずる溶融ピークから融点を求めた。
【0061】
再結晶化最大球晶径、再結晶化平均球晶径、再結晶化最小球晶径
実施例及び比較例で得られた物性測定用のサンプルから約0.1mmの厚みの試験片を切り出し、顕微鏡ステージ(Linkam Scientific Instruments社製 TST350)に載せて、室温から40℃/minの速度で350℃まで昇温し、350℃に5分間保持した後、10℃/minで200度まで冷却し、更に30℃/minで室温まで冷却した。得られた試験片の表面を偏光顕微鏡(オリンパス社製BX51)及び走査型電子顕微鏡(日立社製S−4000)により観察して連続する60個の球晶の直径の平均値を平均球晶径とし、そのなかで最大の球晶径を最大球晶径とし、最小の球晶径を最小球晶径として評価した。
【0062】
MIT
実施例及び比較例で得られた物性測定用のサンプルをホットプレス上の360℃に加熱された金型中で20分間加熱した後、約45kgf/cm
2の圧力で3分間加圧し、次いで金型を室温のプレス上に移して約45kgf/cm
2に加圧し、15分間放置して冷却する。このようにして作成された厚さ0.20〜0.23mmの圧縮成形されたフィルムから長さ約90mm、幅13mmの試験片を切り出した。本明細書におけるMIT値は、ASTM D2176に準拠してMIT式耐屈曲疲労試験機(安田精機製作所社製)を用い、試験片に9.8Nの荷重をかけ、屈曲速度175回/分、屈曲角度135度にて測定を5回行った平均値である。
【0063】
引張強度及び引張伸び
実施例及び比較例で得られた物性測定用のサンプルをホットプレス上の360℃に加熱された金型中で30分間加熱した後、約25kgf/cm
2の圧力で3分間加圧し、次いで金型を室温のプレス上に移して約25kgf/cm
2に加圧し、15分間放置して冷却して、シートを得た。本明細書において引張強度および引張伸びの値は、このようにして作成された厚さ2.0mmの圧縮成形されたシートをASTM D3307に準拠して、テンシロン万能試験機(ORIENTIC社製RTC−1225A)を用いて、チャック間22.5mm、クロスヘッドスピード50mm/minで引張試験を5回行った平均値である。
【0064】
調製例1:フッ素化ナノダイヤモンドの調製
ナノダイヤモンドとして、爆射法により合成された一次粒子径4〜6nm、比表面積250〜350m
2/g、純度90重量%以上のものを用いた。
上記ナノダイヤモンド10.0gをニッケル製の皿に載せ、ニッケル製反応容器(内容積約2000cm
3)に封入した。そして、反応器内部に高純度窒素ガス(純度99.999%)を流速300ml/minにて流通させて、反応器内の空気を十分に置換した。その後、高純度窒素ガスを流通したまま反応器を250℃まで加熱し、反応器内温が安定したところで、高純度フッ素ガス(純度99.5%)と高純度窒素ガスとの混合ガス(フッ素濃度:15容積%以下)を流速300ml/min以下で流通した。フッ素ガス吸蔵に伴う発熱が収束し安定となってから、反応温度の急激な上昇に留意しながら100%まで徐々に上げた。その後、フッ素ガスの流通を中止して反応器の圧力変化を監視し、1時間で0.5kPa以下の圧力変化となったことを確認し、フッ素化の終点とした。反応終了後35℃以下まで放冷してから、高純度窒素ガスを流速300ml/minで30分以上流通させて反応器内部に残存するフッ素ガスを十分に置換したのち反応器を開放し、ニッケル製の皿に付着した分、飛散により反応器内外に散逸した分を除いて質量9.72gの灰白色を呈するフッ素化ナノダイヤモンドを回収し、ガラス製容器内に保存した。
得られたフッ素化ナノダイヤモンドのフッ素含有量は、9.1質量%であった。元素分析の結果、水素、炭素、窒素の含有量は、それぞれ、H:0.32、C:86.49、N:2.56質量%であった。また、XPS測定によると、F/Cは0.20、O/Cは0.1以下であった。
【0065】
実施例1〜3
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粉体(PPVE含量1.5モル%、MFR15.0g/10分、融点304.1℃)と上記のとおり調製されたフッ素化ナノダイヤモンドとを、フッ素化ナノダイヤモンドがPFAに対して1質量%となるように、家庭用ミルサー(岩谷産業社製、商品名IMF−800DG)を使用して、室温で3分間混合した後、ラボプラストミル(東洋精機社製、品番:100C100)を使用して350℃で10分間混練して、マスターバッチを得た。
得られたマスターバッチとPFA粉体とを、フッ素化ナノダイヤモンドがPFAに対して表1に記載した含有量になるように350℃で10分間混練して、物性測定用のサンプルを得た。融点及び結晶化温度、球晶径、MIT、引張強度、引張伸びを表1に示す。
【0066】
実施例4
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粉体(PPVE含量1.5モル%、MFR15.0g/10分、融点304.1℃)と上記のとおり調製されたフッ素化ナノダイヤモンドとを、フッ素化ナノダイヤモンドがPFAに対して2.00質量%となるように、家庭用ミルサー(岩谷産業社製、商品名IMF−800DG)を使用して、室温で3分間混合した後、ラボプラストミル(東洋精機社製、品番:100C100)を使用して350℃で10分間混練して、物性測定用のサンプルを得た。融点及び結晶化温度、球晶径、MIT、引張強度、引張伸びを表1に示す。
【0067】
実施例5
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粉体(PPVE含量1.5モル%、MFR15.0g/10分、融点304.1℃)と上記のとおり調製されたフッ素化ナノダイヤモンドとを、フッ素化ナノダイヤモンドがPFAに対して3.00質量%となるように、家庭用ミルサー(岩谷産業社製、商品名IMF−800DG)を使用して、室温で3分間混合した後、ラボプラストミル(東洋精機社製、品番:100C100)を使用して350℃で10分間混練して、物性測定用のサンプルを得た。融点及び結晶化温度、球晶径、MIT、引張強度、引張伸びを表1に示す。
【0068】
実施例6
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粉体(PPVE含量1.5モル%、MFR15.0g/10分、融点304.1℃)と上記のとおり調製されたフッ素化ナノダイヤモンドとを、フッ素化ナノダイヤモンドがPFAに対して5.00質量%となるように、家庭用ミルサー(岩谷産業社製、商品名IMF−800DG)を使用して、室温で3分間混合した後、ラボプラストミル(東洋精機社製、品番:100C100)を使用して350℃で10分間混練して、物性測定用のサンプルを得た。融点及び結晶化温度、球晶径、MIT、引張強度、引張伸びを表1に示す。
【0069】
比較例1
フッ素化ナノダイヤモンドをPFAに添加しなかった他は実施例1〜3と同様にして、物性測定用のサンプルを得た。結果を表1に示す。
【0070】
比較例2
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粉体(PPVE含量1.5モル%、MFR15.0g/10分、融点304.1℃)と上記のとおり調製されたフッ素化ナノダイヤモンドとを、フッ素化ナノダイヤモンドがPFAに対して10質量%となるように、家庭用ミルサー(岩谷産業社製、商品名IMF−800DG)を使用して、室温で3分間混合した後、ラボプラストミル(東洋精機社製、品番:100C100)を使用して350℃で10分間混練して、物性測定用のサンプルを得た。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示された結果から、フッ素化ナノダイヤモンドを未含有のPFAの再結晶化平均球晶径が40μmであったのに対して、フッ素化ナノダイヤモンドをPFAに対して0.01質量%添加することにより平均球晶径が6μm以下に微細化されており、フッ素化ナノダイヤモンドをPFAに対して0.1質量%添加することにより平均球晶径が2μm以下に微細化されており、フッ素化ナノダイヤモンドをPFAに対して1質量%添加することにより平均球晶径が1μm以下に微細化されており、フッ素化ナノダイヤモンドをPFAに添加することによる球晶微細化効果は明らかである。
【0073】
表1に示された結果から、フッ素化ナノダイヤモンドを未含有のPFAの引張強度が25.0MPaでありMIT値は約1.6万回であったのに対して、フッ素化ナノダイヤモンドをPFAに対して0.01質量%添加することにより引張強度が26.6MPaおよびMIT値が約4.3万回に向上しており、フッ素化ナノダイヤモンドをPFAに対して0.1質量%添加することにより引張強度が26.8MPaおよびMIT値が約8.8万回に向上しており、フッ素化ナノダイヤモンドをPFAに対して1質量%添加することにより引張強度が28.5MPaおよびMIT値が約15.8万回に向上しており、フッ素化ナノダイヤモンドをPFAに添加することによる引張強度とMITの向上は明らかである。