(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5742913
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】シェルフィード型ガス分離膜モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20150611BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20150611BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D63/02
B01D63/00 500
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-226809(P2013-226809)
(22)【出願日】2013年10月31日
(62)【分割の表示】特願2007-338752(P2007-338752)の分割
【原出願日】2007年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-14820(P2014-14820A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2013年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2006-356810(P2006-356810)
(32)【優先日】2006年12月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】中村 智英
(72)【発明者】
【氏名】谷原 望
(72)【発明者】
【氏名】中西 俊介
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−006203(JP,A)
【文献】
特開昭63−001404(JP,A)
【文献】
特開昭64−063020(JP,A)
【文献】
特開昭61−057207(JP,A)
【文献】
特開昭62−007407(JP,A)
【文献】
米国特許第04622143(US,A)
【文献】
特開平05−212253(JP,A)
【文献】
米国特許第05160042(US,A)
【文献】
国際公開第03/039720(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0178136(US,A1)
【文献】
特開昭52−063179(JP,A)
【文献】
米国特許第04781834(US,A)
【文献】
米国特許第04378981(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 63/00
B01D 63/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に中空糸エレメントを脱着可能な状態で収納した、高圧の混合ガスを容器内の中空糸膜の外側空間へ供給してガス分離を行うためのシェルフィード型ガス分離膜モジュールであって、
(1)ガス分離膜モジュールが、少なくとも、a)中空糸エレメント、b)中空糸エレメントを出し入れする開口、芯管を容器に固定し且つ芯管内のガス流路からのガスを容器外へ導く機能を備えた芯管固定部、及び混合ガス導入口を備えた容器、c)透過ガス排出口を有し且つ中空糸エレメントを出し入れする開口を塞ぐための蓋、及びd)中空糸エレメントと蓋との間に装着する多孔板、から構成され、
(2)中空糸エレメントが、少なくとも、e)多数本の中空糸膜をループさせて中空糸膜の開口が束の一方の端部で揃うように束ねた中空糸束、f)中空糸束の開口側端部に位置し開口が保持されるようにして中空糸束を固着した、エポキシ樹脂からなる管板、及びg)中空糸束の略中心部に配置され、一方の端部が管板に固着され、他方の端部が容器の芯管固定部に固定されるように構成された芯管、から構成され、
(3)芯管には、容器内の中空糸膜の外側空間から管板とは反対側の芯管固定部を介して容器外へ通じるガス流路が形成され、
(4)多孔板は、装着時に管板側表面の少なくとも一部が管板に接し、その他の部分に深さが1mm以上のガス流路になる凹部が形成され、
(5)中空糸束の外側表面の少なくとも中空糸膜のループされた側の端部が、実質的にガスを透過しない部材で覆われ、そのガスを透過しない部材は芯管に固定されている、
ことを特徴とするシェルフィード型ガス分離膜モジュール。
【請求項2】
ガスを透過しない部材は、中空糸束の側面部を覆うフィルム状物および中空糸膜がループしている端部を覆うキャップであることを特徴とする請求項1に記載のシェルフィード型ガス分離膜モジュール。
【請求項3】
キャップと芯管はシール材によって気密にされていることを特徴とする請求項2に記載のシェルフィード型ガス分離膜モジュール。
【請求項4】
中空糸膜のループした端部がシール材に包埋されていることを特徴とする請求項3に記載のシェルフィード型ガス分離膜モジュール。
【請求項5】
多孔板が、装着時に中心部と外周部で管板に接していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシェルフィード型ガス分離膜モジュール。
【請求項6】
混合ガス導入口が、装着時に中空糸エレメントの管板が位置する側とは反対側の容器端部近傍に位置することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシェルフィード型ガス分離膜モジュール。
【請求項7】
高圧の混合ガスを容器内の中空糸膜の外側空間へ供給してガス分離を行うためのシェルフィード型ガス分離膜モジュールであって、中空糸膜の開口を有する、エポキシ樹脂からなる管板の表面に接して多孔板が設けられて前記中空糸膜の開口から多孔板を介して透過ガスが回収されるように構成されたシェルフィード型ガス分離膜モジュールにおいて、多数本の前記中空糸膜をループさせて開口を一方の端部で揃うように束ねた中空糸束と、前記中空糸束の略中心部に配置され、一方の端部が前記管板に固着された芯管とを有し、前記多孔板の管板側表面の一部に深さ1mm以上の凹部からなるガス流路が設けられ、中空糸束の外側表面の少なくともループされた側の端部が、実質的にガスを透過しない部材で覆われ、そのガスを透過しない部材は芯管に固定されていることを特徴とするシェルフィード型ガス分離膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧の混合ガスを容器内の中空糸膜の外側の空間へ供給してガス分離を行うためのシェルフィード型ガス分離膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シェルフィード型のガス分離膜モジュールにおいて、蓋と管板との間に通気性を有する押え部材を配置した構造が開示されているが、蓋と押え部材の他に更に多孔質層などを必要とする複雑なものであった。また中空糸束は管板の反対側の端部が合成樹脂板によって固着されていてバラバラにならないように揃えられているが、このような中空糸束は、例えばモジュールを横にして用いると中空糸膜が破断し易くなるので、縦置きで取扱わなければならないなどの不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−57207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、構造が簡単で、中空糸エレメントの脱着が可能で、高圧の混合ガスを用いても中空糸膜が破損する危険性が少なく、ガス分離効率が良好な、改良した構造を有するシェルフィード型のガス分離膜モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、容器内に中空糸エレメントを脱着可能な状態で収納した、高圧の混合ガスを容器内の中空糸膜の外側空間へ供給してガス分離を行うためのシェルフィード型ガス分離膜モジュールであって、
(1)ガス分離膜モジュールが、少なくとも、a)中空糸エレメント、b)中空糸エレメントを出し入れする開口、芯管を容器に固定し且つ芯管内のガス流路からのガスを容器外へ導く機能を備えた芯管固定部、及び混合ガス導入口を備えた容器、c)透過ガス排出口を有し且つ中空糸エレメントを出し入れする開口を塞ぐための蓋、及びd)中空糸エレメントと蓋との間に装着する多孔板、から構成され、
(2)中空糸エレメントが、少なくとも、e)多数本の中空糸膜をループさせて中空糸膜の開口が束の一方の端部で揃うように束ねた中空糸束、f)中空糸束の開口側端部に位置し開口が保持されるようにして中空糸束を固着した管板、及びg)中空糸束の略中心部に配置され、一方の端部が管板に固着され、他方の端部が容器の芯管固定部に固定されるように構成された芯管、から構成され、
(3)芯管には、容器内の中空糸膜の外側空間から管板とは反対側の芯管固定部を介して容器外へ通じるガス流路が形成され、
(4)多孔板は、装着時に管板側表面の少なくとも一部が管板に接し、その他の部分に深さが1mm以上のガス流路になる凹部が形成されている、
ことを特徴とするシェルフィード型ガス分離膜モジュールに関する。
【0006】
また、本発明は、多孔板が装着時に中心部と外周部で管板に接していること、中空糸エレメントが管板近傍を除いた中空糸束のほとんどの外側表面が実質的にガスを透過しないフィルム状物で覆われたものであること、混合ガス導入口が、装着時に中空糸エレメントの管板が位置する側とは反対側の容器端部近傍に位置することを特徴とする前記シェルフィード型ガス分離膜モジュールに関する。
【0007】
さらに、本発明は、高圧の混合ガスを容器内の中空糸膜の外側空間へ供給してガス分離を行うためのシェルフィード型ガス分離膜モジュールであって、中空糸膜の開口を有する管板表面に接して多孔板が設けられて前記中空糸膜の開口から多孔板を介して透過ガスが回収されるように構成されたシェルフィード型ガス分離膜モジュールにおいて、前記多孔板の管板側表面の一部に深さ1mm以上の凹部からなるガス流路が設けられていることを特徴とするシェルフィード型ガス分離膜モジュールに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、構造が簡単で、中空糸エレメントの脱着が可能で、高圧の混合ガスを用いても中空糸膜が破損する危険性が少なく、ガス分離効率が良好な、改良した構造を有するシェルフィード型のガス分離膜モジュールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】中空糸エレメントの一例を示す概略図(断面図)である。
【
図3】中空糸エレメントを容器に収納し蓋をしてガス分離膜モジュールを組立てた一例の様子を説明するための模式図である。
【
図4】管板に接して配置した多孔板の一例を示す概略図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、容器内に中空糸エレメントを脱着可能な状態で収納した、高圧の混合ガスを容器内の中空糸膜の外側空間へ供給してガス分離を行うためのシェルフィード型ガス分離膜モジュールであって、
(1)ガス分離膜モジュールが、少なくとも、a)中空糸エレメント、b)中空糸エレメントを出し入れする開口、芯管を容器に固定し且つ芯管内のガス流路からのガスを容器外へ導く機能を備えた芯管固定部、及び混合ガス導入口を備えた容器、c)透過ガス排出口を有し且つ中空糸エレメントを出し入れする開口を塞ぐための蓋、及びd)中空糸エレメントと蓋との間に装着する多孔板、から構成され、
(2)中空糸エレメントが、少なくとも、e)多数本の中空糸膜をループさせて中空糸膜の開口が束の一方の端部で揃うように束ねた中空糸束、f)中空糸束の開口側端部に位置し開口が保持されるようにして中空糸束を固着した管板、及びg)中空糸束の略中心部に配置され、一方の端部が管板に固着され、他方の端部が容器の芯管固定部に固定されるように構成された芯管、から構成され、
(3)芯管には、容器内の中空糸膜の外側空間から管板とは反対側の芯管固定部を介して容器外へ通じるガス流路が形成され、
(4)多孔板は、装着時に管板側表面の少なくとも一部が管板に接し、その他の部分に深さが1mm以上のガス流路になる凹部が形成されている、
ことを特徴とするシェルフィード型ガス分離膜モジュールである。
【0011】
以下、
図1〜4を参照しながら本発明を説明する。
図1は中空糸エレメントの一例を示す概略図であり、
図2は容器の一例を示す概略図であり、
図3は中空糸エレメントを容器に収納し蓋をしてガス分離膜モジュールを組立てた一例の様子を説明するための模式図であり、
図4は管板に接して配置した多孔板の一例を示す概略図である。なお、本発明は
図1〜
図4に示された態様に限定されるものではない。
【0012】
本発明において、中空糸エレメントは、多数本の中空糸膜1が、ループされて中空糸膜の両端の開口が束の一方の端部で揃うように束ねられており、その端部は管板2によって前記多数本の中空糸膜の開口が保持されるようにして包埋されて固着されている。また中空糸束の略中心部には芯管3が配置されている。そして好ましくは、中空糸束の管板近傍を除いたほとんどの外側表面(側面の面積の60%以上特に80%以上とループ側の端面)が実質的にガスを透過しないフィルム状物4で覆われている。また中空糸束のフィルム状物4で覆われていない部分(管板2とフィルム状物4との間)については、ガスを容易に透過する例えば網状物によって中空糸束の周囲を覆うと、中空糸束がバラバラにならないで取り扱いが容易になるので好適である。さらに、中空糸膜がループしている端部では中空糸束を覆うフィルム状物4が芯管3に隙間なく気密性が保持されて固定されることが好適である。このため、例えば、フィルム状物4が中空糸束の側面部を一つのフィルム状物で覆うと共に、中空糸膜がループしている端部はフィルム状物とは別にガスを透過しない樹脂や金属であらかじめ成形されたキャップ20を用いるのが好適である。キャップは好適には構造体としてフィルム状物を保持する役割も有するから、機械的強度を備えた樹脂や金属で成形されたものが好適である。キャップを用いた場合は、芯管とキャップ及びキャップと中空糸束の側面を覆ったフィルム状物とは、接着剤やシール材を用いたり、ねじ込み或いは嵌合等の手段を用いたりして気密性が保たれるようにすることが好適である。さらにその際、芯管とキャップ或いはキャップと中空糸束の側面を覆ったフィルム状物とを気密にするシール材で、中空糸膜のループした端部をも包埋して、気密性を高めると共に中空糸膜のループした端部を固定することが好適である。
【0013】
本発明において、中空糸膜1はガス分離性能を有せばどのような素材のものでも構わないが、例えば高分子材料特にポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネートなどの常温(23℃)でガラス状の高分子材料からなるものが、容易にループさせることができ、しかもガス分離性能が良好であるので好適である。
【0014】
管板2は、中空糸束を中空糸膜1の開口が保持された状態で包埋して固着するものであり、ポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂、或いはエポキシ樹脂やウレタン樹脂などからなる熱硬化性樹脂によって好適に形成される。また、管板2は、容器内の空間を管板によって分離し、容器内の中空糸膜の外側の空間と中空糸膜の内側から蓋に形成された透過ガス排出口へ連通した空間とを隔絶する役割を有する。なお、中空糸エレメントを容器内に収納するに際に、容器と管板との間の嵌合や出し入れを容易にするために容器と管板との間に例えば円筒状の補助部材を用いるのが好適である。また、Oリングなどの手段により、管板と補助部材との間、及び補助部材と容器との間を気密化するのが好適である。
【0015】
フィルム状物4は、実質的にガスを透過しないフィルム状物であれば特に限定されるものではなく、高分子材料からなるフィルムや金属箔などを好適に用いることができる。このフィルム状物は、容器内のガス混合物の流れを制御する役割と、芯管3を中心に中空糸束全体を一つのまとまった構造体として、その形状を保持する役割を有する。
【0016】
また、中空糸束のフィルム状物で覆われていない部分を好適に覆う網状物は、ガスを透過するシート状物、特に空隙率が30体積%以上好ましくは50体積%以上のシート状物が好適である。したがって網状物は、必ずしも網状である必要はない。繊維材料や高分子材料や紙材料や金属材料などからなる織物、編物、布状或いは網状のシート状物が好適であるが、特に好ましくは弾性を有する網状のものである。この網状物は、ガスの透過を阻害しないで、芯管3を中心に中空糸束全体を一つのまとまった構造体としてその形状を保持し、特にガス流の変動によって中空糸膜が変動するのを抑制する役割を有する。このために、網状物の端部は中空糸膜と共に管板に包埋されて固定されることが好適である。
【0017】
芯管3は、中空糸束の略中心部に位置し外周の前記フィルム状物4や必要に応じて採用される網状物と共に、中空糸束をひとまとめにして中空糸エレメントの変形を防ぎ形状を保持する役割を有する。芯管3の一方の端部は管板2に固着されることが好適である。固着は、芯管それ自体が管板に包埋されても良いが、例えばネジを形成した樹脂製の接続部材5を包埋させ、それに芯管をネジ止めによって接続するなどの方法でも構わない。芯管3は内部にガス流路6が形成されている。このガス流路は容器内の中空糸膜の外側の空間と容器外の空間とを連通するためのガス流路の少なくとも一部を構成する。すなわち、芯管3のガス流路6は一つ以上の孔7を芯管の所定位置に有して芯管の外部と連通するようになっている。また芯管の管板に固着していない側の端部は、中空糸束よりも長く延び出て、そこに芯管のガス流路から容器外の空間へ連通するための孔8(端部をそのまま開口させるのが好適である)が配置される。そして、芯管3の前記端部は、芯管のガス流路からのガスを更に容器外へ導くガス流路が形成された芯管固定部12に、芯管のガス流路と芯管固定部のガス流路が連通するようにして装着される。芯管の管板に固着していない側の端部が芯管固定部に装着された結果、中空糸エレメントが容器内に装着されるが、中空糸エレメントは必要に応じて脱着されるから、芯管は気密化用のOリングと共に芯管を芯管固定部のガス流路に差込嵌合して装着するのが好適である。なお、芯管の端部と芯管固定部との装着は、前記方法に限定されるものではなく、例えば芯管固定部の形状に合わせた接続部材を介して装着されても構わない。さらに、芯管固定部は容器の一部を形成するものであるから、容器と別部材ではなくて、容器と一体の構造で、容器の一部が芯管固定部の機能を有するような構造であっても構わない。また、芯管固定部のガス流路は、直接容器外の空間へ連通していなくても、容器外の空間へ導くものであれば構わない。
【0018】
容器10は、少なくとも、中空糸エレメントを出し入れする開口11、芯管3を容器に固定し且つ芯管内のガス流路からのガスを容器外へ導く機能を備えた芯管固定部12、及び混合ガス導入口13を備えた容器であり、金属材料や繊維強化樹脂などの複合材料で好適に形成することができる。
【0019】
混合ガス導入口は、装着時に中空糸エレメントの管板が位置する側とは反対側の容器端部近傍に位置することが好ましい。特に、混合ガス導入口から導入される混合ガスが、中空糸エレメントのキャップと容器との間に形成された、容器内の中空糸エレメントの占めていない空間に導入され、中空糸膜に直接吹き付けることがない様に構成されることが、中空糸膜の破損の可能性を低下させ、かつ、混合ガスの流れが均一になりやすいため好ましい。
【0020】
中空糸エレメントは、中空糸エレメントを出し入れする開口11から容器内に挿入して収納され、中空糸エレメントの管板とは反対側の芯管3の端部を芯管固定部12に接続され、中空糸エレメントの管板2は必要に応じて補助部材と共に容器内の開口11部の所定位置に配置される。そして、中空糸エレメントが収納された容器の開口11部は、管板2の外側に多孔板15を挿入し更にその外側に透過ガス排出口17を備えた蓋16を配し、ボルトやナットなどの固定手段によって固定される。
【0021】
多孔板15は、厚み方向に多数の貫通した孔を有しており、構造体としての機能とガスを流す流路としての機能とを併せ有する。特に限定されるものではないが金属、樹脂、セラミックスなどで好適に形成される。貫通孔の形状は、貫通していれば複雑な形態の孔(回路状のもの)であっても構わないが、加工性を考慮すると直径(最大径)が1mm〜50mm特に2mm〜20mm程度の円柱状、円錐状或いは楕円柱状などの貫通孔が好適である。
【0022】
多孔板15は、中空糸エレメントの管板2と蓋16の間に介在し、管板2から受ける圧力を蓋16と共に受け止めて管板2の変形を防ぐ構造体としての役割を有する。このため、多孔板15は少なくとも一部が管板2に接して管板を支持するように装着される。特に多孔板15は中心部と外周部で管板2に接して管板を支持するように装着することが好適である。管板の中心部で接するようにすると、管板2の中心部には芯管3が配置されているから、多孔板15で管板2の芯管3が位置する部分を直接支持することになり、管板2の変形をより効果的に防ぐことができる。すなわち、多孔板の管板と相対する表面は、中心部で全表面積の0〜40%、外周部で全表面積の5〜50%で管板と接するようにし、1mm以上の深さのガス流路になる凹部が全表面積の30〜90%になるようにするのが好適である。
【0023】
さらに、多孔板15の役割は、管板2の表面に位置する中空糸膜の開口から排出される透過ガスの流路を確保して蓋16の透過ガス排出口17へ導いて透過ガスを容器外へ排出し回収することである。このために、多孔板15の管板に相対する表面に深さが1mm以上、好ましくは1mm〜10mm、より好ましくは2mm〜5mmの凹部が形成される。この凹部は管板と接しないで、管板との間に少なくとも1mm以上の間隔からなるガス流路9を形成する。このガス流路9は、中空糸膜の開口に面していると共に多孔板の貫通孔とも連通しているから、中空糸膜の内部空間が、凹部からなるガス流路及び貫通孔を介して、蓋16の透過ガス排出口17へ連通する。
【0024】
さらに、多孔板の凹部からなるガス流路9は、管板の中空糸膜の開口が位置する領域に対応して配置されることが好適であり、管板の中空糸膜の開口がない領域で管板と接するようにすることが好適である。また、多孔板の蓋側は、多孔板を流通するガス流が好適に透過ガス排出口の流れることが好適であり、多孔板の蓋側表面も同様に、蓋と接する領域と深さが1mm以上の凹部からなるガス流路を設けた領域とを備えるのが好適である。
【0025】
蓋16は、容器内に高圧の混合ガスを導入した時に、管板2に加わる圧力を多孔板15を介して支持する役割を有する。このための、蓋の多孔板側表面の一部、好ましくは蓋の多孔板側表面の外周部が多孔板と接して支持できるようにすることが好適である。そしてボルトやボルトを取り付ける穴などが必要に応じて備えられ、このような固定手段によって容器と蓋とは好適に固定される。なお、多孔板の貫通孔を通じて排出される透過ガスは全てが透過ガス排出口へ導かれるように、蓋と多孔板との接触面を配置すること(特に接触面を外周領域に限定すること)が好適である。
【0026】
多孔板15の変形を防ぐ構造体としての役割と透過ガス流路を確保する役割を両立させるために、多孔板15は、管板2の中心部と管板の外周部で管板2と接するようにするのが好ましい。中心部と外周部が直接接して支持することによって十分な管板の耐圧性を確保することができる。しかも、管板2の中心部(芯管が配置されている)も外周部も中空糸膜の開口を配置しないようにすることが容易である。したがって、中空糸膜の開口領域の全てを深さが1mm以上の凹部からなるガス流路に面するように容易に配置できる。この時、蓋16と多孔板15との接触面は外周部のみにすることが好適である。
【0027】
本発明のガス分離膜モジュールでは、混合ガス導入口13から導入された高圧の混合ガスは、容器内の中空糸膜の外側の空間を中空糸膜の表面に接しながら流れて、芯管3の孔7、ガス流路6及び端部の孔8を経由し、芯管固定部12を介して容器の外側の空間へ排出され回収される。混合ガスが容器内に導入された際、フィルム状物4はガス流を制御する役割を有する。すなわち、導入された混合ガスは、先ずフィルム状物4の外側を管板側へ流れ、その後でフィルム状物の内側に配置された中空糸束の内部の方向及び管板とは反対の端部の方向へ中空糸束の内部を流れて行く。そして、混合ガスが中空糸膜に接して流れる際、混合ガスの特定の成分ガスが中空糸膜を選択的に透過する。中空糸膜を選択的に透過した透過ガスは、中空糸膜内を流れて中空糸膜の開口から多孔板に形成された凹部からなるガス流路及び多孔板の貫通孔を流れ、蓋16に形成された透過ガス排出口17から排出されて回収される。
【0028】
本発明の分離膜モジュールでは、蓋16を外せば、開口11から、多孔板15及び中空糸エレメントが脱着可能であり、例えば中空糸エレメントの取替えなどを容易に行うことができる。
【0029】
本発明の分離膜モジュールでは、中空糸膜の外側の空間及びそれに連通した空間と、中空糸膜の内側の空間及びそれに連通した空間とは、中空糸分離膜を除いて気密性が保たれる必要があり、そのために必要に応じて例えばOリングなどの気密化手段によって気密化される。さらに、本発明の分離膜モジュールは、処理される混合ガスに対する耐性を有する材料で構成される。また、高圧の混合ガスを容器内に導入するのであるから、機械的な強度が十分に得られるように配慮される。
【0030】
本発明の分離膜モジュールは、ゲージ圧で概ね0.1〜30MPa、好ましくは0.2〜25MPa、特に1〜25MPa程度の混合ガスから特定のガス成分を分離及び回収するために好適に用いることができる。特に限定するものではないが、例えば空気から酸素富化空気や窒素富化空気を分離回収したり、水素やヘリウムを含む混合ガスから水素やヘリウムを分離回収したりするメタンガスと炭酸ガスとを含む混合ガスからメタンガスと炭酸ガスとを選択的に分離-回収したりする用途で好適に使用できる。
【実施例】
【0031】
〔実施例1〕
図3のように、混合ガス導入口、芯管固定部を有する容器に、ポリイミド製の非対称中空糸膜(P’O2/P’N2=6.5)からなり膜面積が80m
2であり、芯管を有し、管板がエポキシ樹脂からなり、束の外周面にポリイミドフィルムからなるフィルム状物を巻き付けた中空糸エレメントを装填し、管板に接して、ステンレス材からなり64個の直径12mmの連通孔を有し、
図4のような3mmの深さの凹部からなるガス流路を形成した多孔板(多孔板の管板と相対する表面は、中心部で全表面積の5%、外周部で全表面積の40%で管板と接し、3mmの深さのガス流路になる凹部が全表面積の55%)を配置し、その上から蓋をしたガス分離膜モジュールを準備した。この分離膜モジュールの分離性能を種々の圧力の圧縮空気を用いて測定した。このときの結果を表1に示す。なお、圧力はゲージ圧である。
【0032】
【表1】
【0033】
〔比較例1〕
多孔板として深さ3mmの凹部からなるガス流路を形成しない同形状の多孔板を用いた以外は実施例1のガス分離膜モジュールと同様のガス分離膜モジュールを準備した。この分離膜モジュールの分離性能を実施例1と同様にして測定した。このときの結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例1と比較例1とを比較すれば、多孔板の3mmの深さの凹部からなるガス流路の有無は、圧力が1.5kgf/cm
2程度の高圧の混合ガスで分離性能に少し影響を与え始め、2kgf/cm
2以上のより高圧の混合ガスでは透過ガス流量及び透過ガス濃度に好適な影響があることがわかる。すなわち、高圧の混合ガスを導入した時には、3mmの深さの凹部からなるガス流路を多孔板に設けることにより、透過ガスの酸素濃度が最大2.7%程度向上し且つ得られる透過ガス流量を維持ないし向上することが確認された。
一般的にガス分離膜でガスを分離するときには、透過ガス濃度と透過ガス流量とは相反することが知られているが、本発明では多孔板の構造によって透過ガス流量を維持ないし向上させながら、透過ガスの酸素濃度を大幅に向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によって、構造が簡単で、中空糸エレメントの脱着が可能で、高圧の混合ガスを用いても中空糸膜が破損する危険性が少なく、ガス分離効率が良好な、改良した構造を有するシェルフィード型のガス分離膜モジュールを提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
1:中空糸膜
2:管板
3:芯管
4:フィルム状物
5:接続部材
6:ガス流路
7:孔
8:孔
9:凹部からなるガス流路
10:容器
11:開口
12:芯管固定部
13:混合ガス導入口
15:多孔板
16:蓋
17:透過ガス排出口
20:キャップ