特許第5742969号(P5742969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5742969
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】スケール析出試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20150611BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20150611BHJP
   F03G 4/00 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   G01N33/00 D
   G01N33/18 Z
   F03G4/00 551
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-556301(P2013-556301)
(86)(22)【出願日】2013年1月17日
(86)【国際出願番号】JP2013050728
(87)【国際公開番号】WO2013114950
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2014年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-16204(P2012-16204)
(32)【優先日】2012年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 邦幸
(72)【発明者】
【氏名】川原 義隆
【審査官】 加々美 一恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−213703(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/038479(WO,A1)
【文献】 特開2004−12303(JP,A)
【文献】 日本地熱学会誌,1986年,第8巻第3号,P229−241
【文献】 Proceedings of the New Zealand Geothermal Workshop,1983年,第5巻,p157−161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00
F03G 4/00
G01N 33/18
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状物を充填した複数のスケール析出容器と、
各前記スケール析出容器に熱水を流通させる熱水供給手段と、
前記スケール析出容器の上流側で前記熱水を滞留させる滞留装置と、
前記熱水の流量、温度、圧力および成分のうち少なくとも1つを、スケール析出容器毎に変化させる熱水条件変更手段と、
各前記スケール析出容器を流れる熱水の流量、温度、圧力のうち少なくとも1つを測定する測定手段と、
前記測定手段のデータを受信する記録装置とを備え、
前記滞留装置は、前記熱水の滞留時間を変更可能に構成されていることを特徴とするスケール析出試験装置。
【請求項2】
前記滞留装置は、複数の熱水滞留タンクと、各熱水滞留タンクどうしを接続する滞留配管と、前記熱水滞留タンクをバイパスするバイパス配管とを備える、請求項1に記載のスケール析出試験装置。
【請求項3】
前記滞留装置は、熱水滞留タンクと、該熱水滞留タンクに耐熱性材料を導入して該熱水滞留タンクが収容可能な熱水容量を調整する熱水容量調整装置とを備える、請求項1に記載のスケール析出試験装置。
【請求項4】
前記耐熱性材料が、ポリテトラフルオロエチレンボールである、請求項3に記載のスケール析出試験装置。
【請求項5】
前記滞留装置は、バッフルプレートが配設されて熱水の流路が形成された熱水滞留タンクと、前記熱水滞留タンクの前記熱水の流路に沿って設けられた複数の熱水取出し口とを備える、請求項1に記載のスケール析出試験装置。
【請求項6】
前記熱水条件変更手段は、各前記スケール析出容器の上流側に設けた流量制御装置である請求項1〜5のいずれか1つに記載のスケール析出試験装置。
【請求項7】
前記熱水条件変更手段は、各前記スケール析出容器に流通させる熱水の温度を調整する温度調整装置である請求項1〜5のいずれか1つに記載のスケール析出試験装置。
【請求項8】
前記熱水条件変更手段は、各前記スケール析出容器の下流側に設けた背圧制御弁である請求項1〜5のいずれか1つに記載のスケール析出試験装置。
【請求項9】
前記熱水条件変更手段は、少なくとも1つの前記スケール析出容器の上流側で、該スケール析出容器に流入する前記熱水に薬剤を添加する薬剤添加装置である請求項1〜5のいずれか1つに記載のスケール析出試験装置。
【請求項10】
前記熱水供給手段は、前記スケール析出容器に流入する熱水を加圧する加圧ポンプと、前記スケール析出容器を流通する熱水の流量を測定する流量計と、前記加圧ポンプをフィードバック制御して前記熱水の流量を調整する制御装置とを備える請求項1〜5のいずれか1つに記載のスケール析出試験装置。
【請求項11】
前記各スケール析出容器は、熱水の流入口が下方に、流出口が上方になるように配置されている請求項1〜5のいずれか1つに記載のスケール析出試験装置。
【請求項12】
前記スケール析出容器の少なくとも1つに、前記スケール析出容器の温度を調節する温度調整装置が設けられている請求項1〜5のいずれか1つに記載のスケール析出試験装置。
【請求項13】
前記測定手段は、前記スケール析出容器の上流側及び下流側に設けられた圧力計である請求項1〜5のいずれか1つに記載のスケール析出試験装置。
【請求項14】
前記スケール析出容器は、前記熱水の流通方向に沿って圧力計が複数個設けられている請求項1〜5のいずれか1つに記載のスケール析出試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱発電後の熱水などを地中に還元する際におけるスケールの析出状況を評価するスケール析出試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地熱発電は、生産井から採取した熱水(以下、地熱水という)を利用して発電を行うものである。発電に供した後の地熱水は、再び地中に還元される。
【0003】
地熱水は、井戸水や河川水よりもカルシウムイオンや、溶存シリカなどを多く含んでおり、炭酸カルシウムや非晶質シリカなどのスケールが析出しやすい。このため、地熱発電プラントの流路や、発電後の地熱水を還元する井戸(以下、還元井という)にスケールが付着して、流路が狭くなったり、閉塞するなどして、必要な熱水還元量を確保できなくなるおそれがある。熱水還元量を確保できないと、還元井を新たに浚渫する必要があり、費用がかかる。この浚渫費用が事業リスクとなるため、事前に還元井の詰まり具合(閉塞速度)を予測できないと事業リスクが大きい。
【0004】
そこで、非特許文献1,2に記載されるように、スケールの析出状況を事前に評価する試みがなされている。
【0005】
非特許文献1には、多孔質媒体からなる充填層に熱水を供給し、充填層出入口の差圧を求めて、スケールの付着に伴う充填層の透水係数の変化、スケールの付着量の距離的な分布などを観測することが開示されている。
【0006】
非特許文献2には、口径の異なる配管に熱水を流通させて、スケールの析出状況を観測することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】糸井 日本地熱学会誌 第8巻 第3号(1986)P229−241
【非特許文献2】E.K.Mroczek Geothermics 29 (2000) P737−757
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、実際の地熱発電プラントでは、生産井から採取した地熱水は、還元井へ還元されるまでの間にシリカの析出や成長、凝集が進むことがある。このため、地熱発電プラントで実際に起こる地熱水の滞留による影響を考慮する必要があった。
【0009】
よって、本発明の目的は、実際の地熱発電プラントで生じる地熱水の滞留による影響を考慮して、スケールの析出状況を精度よく評価できるスケール析出試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスケール析出試験装置は、粒状物を充填した複数のスケール析出容器と、各前記スケール析出容器に熱水を流通させる熱水供給手段と、前記スケール析出容器の上流側で前記熱水を滞留させる滞留装置と、前記熱水の流量、温度、圧力および成分のうち少なくとも1つを、スケール析出容器毎に変化させる熱水条件変更手段と、各前記スケール析出容器を流れる熱水の流量、温度、圧力のうち少なくとも1つを測定する測定手段と、前記測定手段のデータを受信する記録装置とを備え、前記滞留装置は、前記熱水の滞留時間を変更可能に構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、スケール析出容器に、還元井の地層を構成する粒状物や、配管と同じ成分の粒状物を充填することで、スケール析出容器を、還元井の地層を模擬した模擬地層や、熱水を流通させる配管内壁とみなして、熱水のスケール発生状況を評価できる。そして、各スケール析出容器に、流量、温度、圧力および成分のうち少なくとも1つをスケール析出容器毎に変化させた熱水を流通させて、熱水の流量、温度、圧力のうち少なくとも1つを測定することにより、スケール析出容器に流入する熱水の性状の違いに対するスケール発生状況の違いを同時に試験して評価することができる。また、滞留装置が、熱水の滞留時間を変更可能に構成されているので、地上配管等の滞留時間を模擬し、実際の地熱発電プラントで生じる地熱水の滞留による影響を考慮して、スケールの析出状況を精度よく評価できる。
【0012】
本発明のスケール析出試験装置の前記滞留装置は、複数の熱水滞留タンクと、各熱水滞留タンクどうしを接続する滞留配管と、前記熱水滞留タンクをバイパスするバイパス配管とを備えることが好ましい。この態様によれば、熱水の流路を、滞留配管を流通する流路と、バイパス配管を流通する流路とに切り替えることで、熱水の滞留時間を変更することができる。
【0013】
本発明のスケール析出試験装置の前記滞留装置は、熱水滞留タンクと、該熱水滞留タンクに耐熱性材料を導入して該熱水滞留タンクが収容可能な熱水容量を調整する熱水容量調整装置とを備えることが好ましい。そして、前記耐熱性材料は、ポリテトラフルオロエチレンボールであることが好ましい。この態様によれば、耐熱性材料を導入して該熱水滞留タンクが収容可能な熱水容量を調整することで、熱水の滞留時間を変更できる。
【0014】
本発明のスケール析出試験装置の前記滞留装置は、バッフルプレートが配設されて熱水の流路が形成された熱水滞留タンクと、前記熱水滞留タンクの前記熱水の流路に沿って設けられた複数の熱水取出し口とを備えることが好ましい。この態様によれば、バッフルプレートによって熱水滞留タンク内に熱水の流路が形成されているので、熱水取出し口を適宜選択して熱水を取り出すことで、熱水の滞留時間を変更することができる。
【0015】
本発明のスケール析出試験装置の前記熱水条件変更手段は、各前記スケール析出容器の上流側に設けた流量制御装置であることが好ましい。この態様によれば、流量制御装置により、各スケール析出容器に流入する熱水の流量を調整することができ、流量を変えた場合のスケール発生状況などを同時に試験して比較評価することができる。
【0016】
本発明のスケール析出試験装置の前記熱水条件変更手段は、各前記スケール析出容器に流通させる熱水の温度を調整する温度調整装置であることが好ましい。この態様によれば、熱水の温度を変えて流通させたときのスケール発生状況などの違いを、同時に試験して比較評価することができる。
【0017】
本発明のスケール析出試験装置の前記熱水条件変更手段は、各前記スケール析出容器の下流側に設けた背圧制御弁であることが好ましい。この態様によれば、スケール析出容器の下流側に設けた背圧制御弁によって、スケール析出容器内での熱水の圧力を変化させることができるので、熱水の圧力条件を変えた場合のスケールの発生状況を調べることができる。
【0018】
本発明のスケール析出試験装置の前記熱水条件変更手段は、少なくとも1つの前記スケール析出容器の上流側で、該スケール析出容器に流入する前記熱水に薬剤を添加する薬剤添加装置であることが好ましい。この態様によれば、薬剤を添加されていない熱水、薬剤を添加された熱水、種類の異なる薬剤が添加された熱水などを、各スケール析出容器に同時に流通させてその性状の変化を調べることができ、その結果を比較することによって、薬剤注入による効果を評価することができる。
【0019】
本発明のスケール析出試験装置の前記熱水供給手段は、前記スケール析出容器に流入する熱水を加圧する加圧ポンプと、前記スケール析出容器を流通する熱水の流量を測定する流量計と、前記加圧ポンプをフィードバック制御して前記熱水の流量を調整する制御装置とを備えていることが好ましい。この態様によれば、スケール析出容器に流入する熱水の流量を一定に調整して、各スケール析出容器に流通させる熱水のスケール発生状況などを調べることができる。
【0020】
本発明のスケール析出試験装置の前記各スケール析出容器は、熱水の流入口が下方に、流出口が上方になるように配置されていることが好ましい。この態様によれば、熱水から脱ガスしたガスを、スケール析出容器から除去しやすくなる。
【0021】
本発明のスケール析出試験装置は、前記スケール析出容器の少なくとも1つに、前記スケール析出容器の温度を調節する温度調整装置が設けられていることが好ましい。この態様によれば、実際の還元井の地層や地熱発電プラントの地上配管の温度を模擬できる。
【0022】
本発明のスケール析出試験装置の前記測定手段は、前記スケール析出容器の上流側及び下流側に設けられた圧力計であることが好ましい。この態様によれば、スケール析出容器を流通する熱水の流入時及び流出時の圧力を測定して、その差圧を求めることにより、スケール発生状況を把握することができる。
【0023】
本発明のスケール析出試験装置の前記スケール析出容器は、前記熱水の流通方向に沿って圧力計が複数個設けられていることが好ましい。この態様によれば、スケール析出容器内のスケール析出強度とスケール析出範囲の広がり状況をリアルタイムで検出することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のスケール析出試験装置によれば、スケールの析出状況を精度よく評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のスケール析出試験装置の一実施形態の概略図である。
図2】同スケール析出試験装置の記録装置及び制御装置の概略構成図である。
図3】同スケール析出試験装置の熱水滞留装置の別の実施形態である。
図4】同スケール析出試験装置の熱水滞留装置の更に別の実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明のスケール析出試験装置について説明する。
【0027】
図1には、本発明のスケール析出試験装置の一実施形態の概略図が記載されている。
【0028】
熱水源から伸びた配管L1が、スケール析出容器17が配設された第1のスケール検出系100へと向かう配管L10と、スケール析出容器27が配設された第2のスケール検出系200へと向かう配管L20とに分岐している。熱水源は、実際の地熱発電プラントの生産井であってもよく、該生産井から採取される地熱水と同じpH、成分、温度となるように調整して、地熱水を模擬した熱水の貯留槽であってもよい。
【0029】
第1のスケール検出系100及び第2のスケール検出系200は、この実施形態では同じ構造をなしているので、両者を併せて説明する。
【0030】
配管L1から分岐して伸びる配管L10(L20)には、スタティックミキサー11(21)、温度計T11(T21)が配置されて、温度調整装置12(22)に接続している。また、配管L10(L20)のスタティックミキサー11(21)より上流には、薬剤添加装置13(23)が設けられている。
【0031】
薬剤添加装置13(23)は、薬剤貯留タンク13a(23a)と、薬剤貯留タンクから伸びて配管L10(L20)に接続する薬剤注入配管L11(L21)と、薬剤注入配管L11(L21)に介装された薬液注入ポンプ13b(23b)とで構成されている。
【0032】
温度調整装置12(22)は、スケール析出容器17(27)に通水させる熱水の温度を調整するものであって、ヒータ、クーラ、熱交換器などで構成される。温度調整装置12(22)にて熱水温度を調整することで、例えば、バイナリー発電装置の導入前の熱水温度と、導入後の熱水温度とを模擬して、バイナリー発電装置の導入による影響を評価することができる。
【0033】
温度調整装置12(22)からは、配管L12(L22)が伸びて熱水滞留装置15(25)に接続している。配管L12(L22)には、温度計T12(T22)、加圧ポンプ14(24)が配置されている。また、配管L12(L22)には、加圧ポンプ14(24)の下流側から加圧ポンプ14(24)の上流側へ熱水を循環させるバイパス配管L13(L23)が設けられている。バイパス配管L13(L23)には、背圧制御弁V11(V21)が配置されている。この実施形態では、背圧制御弁V11(V21)、バイパス配管L13(L23)、加圧ポンプ14(24)が、本発明における「流量制御装置」に相当する。加圧ポンプ14(24)の駆動及び背圧制御弁V11(V21)の開度を調整して、バイパス配管L13(L23)を循環する熱水の流量を調整することで、スケール析出容器17(27)に流入する熱水の流量を調整できる。
【0034】
加圧ポンプ14(24)により、熱水の圧力を高めることで、熱水がスケール析出容器17(27)を通過する際にフラッシュ(蒸発)することを防止できる。加圧ポンプ14(24)の駆動及び背圧制御弁V11(V21)の開閉は、温度調整装置12(22)の下流(この実施形態では、熱水滞留装置15(25)の下流)に配置した流量計F11(F21)の測定値に基づき、流量計F11(F21)の測定値が所定の範囲となるように制御装置51によって、フィードバック制御される。
【0035】
熱水滞留装置15(25)は、熱水滞留タンク15a(25a),15b(25b)が配設された滞留配管L14a(L24a)と、熱水滞留タンク15a(25a),15b(25b)をバイパスする配管L14b(L24b)と、滞留配管L14a(L24a)及びバイパス配管L14b(L24b)に配置された流路替えバルブV12〜V16(V22〜V26)とで構成されている。熱水滞留装置を設けることで、実際の地熱発電プラントにおける、熱水の地上配管等における滞留時間を模擬して評価することができる。なお、この実施形態では、熱水貯留タンクは2槽備えているが、3槽以上であってもよいし、1槽のみであってもよい。熱水貯留タンクを複数設けることで熱水の滞留時間をより細かく調整でき、滞留時間による影響を精度よく検出できる。
【0036】
熱水滞留装置15(25)から伸びた配管L15(L25)には、流量計F11(F21)、圧力計P11(P21)、テストピース16(26)、圧力計P12(P22)が配置され、スケール析出容器17(27)の熱水流入口に接続している。なお、テストピース16(26)は、地熱発電プラントで使用する配管と同じ材質で構成された配管を配設して、配管のスケール発生状況を評価するためのものである。なお、後述するように、スケール析出容器に、地熱発電プラントで使用する配管と同じ成分の粒状物を充填することで、同様の評価を行うことができる。また、配管の閉塞状況の評価を必要としない場合もあるので、そのような場合は、テストピースは設置しなくてもよい。
【0037】
この実施形態では、スケール析出容器17(27)は、下方に熱水流入口が設けられており、上方に熱水流出口が設けられている。すなわち、熱水がスケール析出容器17(27)の下方から上方に向かって流通するようになっている。熱水を、スケール析出容器17(27)の下方から上方に向かって流通させることで、熱水に溶存しているガスがスケール析出容器17(27)を通過するまでの間に脱ガスしても、ガス抜きを容易に行うことができる。なお、熱水にガスが殆ど溶存していない場合や、熱水からの脱ガスが微量である場合や、熱水の流速が速い場合(例えば、熱水の流速が1m/s以上の場合)は、熱水をスケール析出容器17(27)の上方から下方に向かって流通させてもよい。
【0038】
スケール析出容器17(27)は、容器内に、ビーズや岩石等の還元井の地層を構成する粒状物や、地熱発電プラントで使用する配管と同じ成分の粒状物が充填されている。還元井の地層を構成する粒状物が充填されたスケール析出容器は、還元井の地層を模擬した模擬地層とみなすことができ、還元井でのスケール発生状況を評価できる。また、配管と同じ成分の粒状物が充填されたスケール析出容器は、地熱発電プラントの熱水を流通させる配管内壁とみなすことができ、配管でのスケール発生状況を評価できる。
【0039】
この実施形態では、スケール析出容器17(27)に、圧力計P13〜P15(P23〜P25)が、熱水の流通方向に沿って設けられている。スケール析出容器17(27)に、熱水の流通方向に沿って圧力計を複数設けることにより、スケール析出容器内のスケール析出強度とスケール析出範囲の広がり状況をリアルタイムで検出することができる。
【0040】
スケール析出容器17(27)の外周には、スケール析出容器17(27)の温度を調節する温度調整装置18(28)が設けられている。温度調整装置18(28)によってスケール析出容器17(27)の温度を調整することで、実際の還元井の地層や地熱発電プラントの地上配管の温度を模擬できる。
【0041】
スケール析出容器17(27)の上方の熱水流出口からは、圧力計P16(P26)、背圧制御弁V17(V27)が配置された配管L16(L26)が伸びて、熱水出口へと接続している。
【0042】
温度計T11(T12、T21、T22)、流量計F11(F21)、圧力計P11(P12〜P16、P21〜P26)の検出結果は、図2に示されるように、記録装置50に入力されて、測定時刻と共に測定値として記録される。また、各測定器の検出結果が制御装置51に入力される。制御装置51は、検出結果に応じた信号を、温度調整機12(22)、薬液注入ポンプ13b(23b)、加圧ポンプ14(24)、背圧制御弁V11(V21)、流路切り替えバルブV12(V13〜V16、V22〜V26)、背圧制御弁V17(V27)に出力して、これらの動作を制御する。さらに、記録装置50は、制御装置51の出力情報、すなわち、温度調整機12(22)、薬液注入ポンプ13b(23b)、加圧ポンプ14(24)、背圧制御弁V11(V21)、流路切り替えバルブV12(V13〜V16、V22〜V26)、背圧制御弁V17(V27)の動作状況も記録する。
【0043】
この実施形態において、熱水源から供給される熱水が流通する、配管L1、L10、L12〜15、L20、L22〜25が、本発明における「熱水供給手段」に相当する。また、薬剤添加装置13(23)が、本発明における「熱水条件変更手段」のうち、熱水の成分を変化させるものに相当する。また、温度調整装置18(28)が、本発明における「熱水条件変更手段」のうち、熱水の温度を変化させるものに相当する。また、背圧制御弁V11(V21)、バイパス配管L13(L23)、加圧ポンプ14(24)が、本発明における「熱水条件変更手段」のうち、熱水の流量を変化させるものに相当する。また、加圧ポンプ14(24)、背圧制御弁V17(V27)が、本発明における「熱水条件変更手段」のうち、熱水の圧力を変化させるものに相当する。
【0044】
このスケール析出試験装置によれば、熱水滞留装置15(25)における熱水の流路を変えることで、熱水の滞留時間を容易に変更できる。
【0045】
すなわち、熱水滞留装置15(25)において、流路切り替えバルブV13(V23),V14(V24),V15(V25)を閉じ、流路切り替えバルブV12(V22),V16(V26)を開いた場合、熱水滞留装置15(25)における熱水の流路は、熱水滞留タンク15a(25a),15b(25b)をバイパスする流路となるので、滞留時間を設けることなく、テストピース16(26)、スケール析出容器17(27)に熱水を流通させることができる。
【0046】
また、熱水滞留装置15(25)において、流路切り替えバルブV12(V22),V15(V25)を閉じ、流路切り替えバルブV13(V23),V14(V24),V16(V26)を開いた場合、熱水滞留装置15(25)における熱水の流路は、熱水滞留タンク15a(25a)を経由する流路となるので、熱水滞留タンク15a(25a)で設定した滞留時間を経過した後、テストピース16(26)、スケール析出容器17(27)に熱水を流通させることができる。
【0047】
また、熱水滞留装置15(25)において、流路切り替えバルブV12(V22),V14(V24),V16(V26)を閉じ、流路切り替えバルブV13(V23),V15(V25)を開いた場合、熱水滞留装置15(25)における熱水の流路は、熱水滞留タンク15a(25a),15b(25b)を経由する流路となるので、熱水滞留タンク15a(25a),15b(25b)で設定した滞留時間を経過した後、テストピース16(26)、スケール析出容器17(27)に熱水を流通させることができる。
【0048】
地熱発電プラントの装置規模により、熱水の滞留時間が異なる場合があるが、本発明のスケール析出試験装置によれば、熱水を滞留させるためのタンクなどの設備をその都度変更しなくても滞留時間を容易に変更できる。このため、実際の地熱発電プラントで生じる、熱水の地上配管等における滞留時間を模擬して、スケールの析出状態を評価できる。
【0049】
なお、この実施形態では、2系統のスケール検出系を備えているが、3系統以上のスケール検出系を設けてもよい。また、各スケール検出系は、必ずしも同じ装置構成にする必要はない。また、制御装置51が、温度計T11(T12、T21、T22)、流量計F11(F21)、圧力計P11(P12〜P16、P21〜P26)の計測データを受信して、この計測データに応じた演算をした後、制御信号を温度調整機12(22)、薬液注入ポンプ13b(23b)、加圧ポンプ14(24)、背圧制御弁V11(V21)、流路切り替えバルブV12(V13〜V16、V22〜V26)、背圧制御弁V17(V27)に送信し、測定時刻と共に上記計測データと制御信号データを記録装置50に送信するようにしてもよい。
【0050】
次に、本発明のスケール析出試験装置を用いたスケール析出試験の一例について説明する。
【0051】
(薬剤による影響の評価)
薬剤による影響を評価する場合は、まず、熱水源から供給される熱水のうち、第1のスケール検出系100側に流入する熱水に対し、薬剤添加装置13から薬剤を添加する。そして、スタティックミキサー11にて熱水と薬剤とを混合し、温度調整装置12、加圧ポンプ14、熱水滞留装置15、テストピース16を通過させてスケール析出容器17に供給する。そして、背圧制御弁V17でスケール析出容器17内が所定圧力となるように調整しながら、スケール析出容器17を通過した熱水を熱水出口へと送る。
【0052】
一方、第2のスケール検出系200側に流入する熱水は、薬剤を添加せずに(すなわち薬剤添加装置23を作動させない)、温度調整装置22、加圧ポンプ24、熱水滞留装置25、テストピース26を通過させてスケール析出容器27に供給する。そして、背圧制御弁V27でスケール析出容器27の流量が一定となるように調整しながら、スケール析出容器27を通過した熱水を熱水出口へと送る。スケール析出容器27を通過させる熱水の温度、圧力、流量、滞留時間は、第1のスケール検出系100と同じになるように、温度調整装置22、加圧ポンプ24、熱水滞留装置25、背圧制御弁V21,V27を調整する。
【0053】
このようにして、テストピース及びスケール析出容器に熱水を流通させつつ、各スケール検出系に設けられた圧力計の測定値をモニタリングして、テストピースの閉塞速度、スケール析出容器内のスケール析出強度とスケール析出範囲の広がり状況、スケール析出容器の閉塞速度を評価する。テストピースの閉塞速度は、テストピース16(26)の前後に設けられた圧力計P11(P21)と圧力計P12(P22)との差圧より求めることができる。また、スケール析出容器内のスケール析出強度とスケール析出範囲の広がり状況は、スケール析出容器17(27)に設けられた、圧力計P13〜P15(P23〜P25)の測定値から求めることができる。また、スケール析出容器の閉塞速度は、スケール析出容器17(27)の前後に設けられた圧力計P12(P22)と圧力計P16(P26)との差圧より求めることができる。
【0054】
そして、第1のスケール検出系100での各項目の測定結果と、第2のスケール検出系200での各項目の測定結果とを比較することで、薬剤注入による効果を評価することができる。
【0055】
また、第1のスケール検出系100で熱水に添加する薬剤の種類と、第2のスケール検出系200で熱水に添加する薬剤の種類とを変化させることで、薬剤の種類による効果を評価できる。
【0056】
また、第1のスケール検出系100で熱水に添加する薬剤の濃度と、第2のスケール検出系200で熱水に添加する薬剤の濃度とを変化させることで、薬剤の濃度による効果を評価できる。
【0057】
(熱水の温度による影響の評価)
熱水の温度による影響を評価する場合は、各スケール検出系の温度調整機12,22にて、各スケール検出系を流通する熱水の温度のみの条件を変化させ、それ以外の条件は同一にして、テストピース及びスケール析出容器に熱水を流通させる。そして、各スケール検出系に設けられた圧力計の測定値をモニタリングして、テストピースの閉塞速度、スケール析出容器内のスケール析出強度とスケール析出範囲の広がり状況、スケール析出容器の閉塞速度を評価する。
【0058】
第1のスケール検出系100での各項目の測定結果と、第2のスケール検出系200での各項目の測定結果とを比較することで、熱水の温度による影響を評価でき、例えばバイナリー発電装置の導入による影響を評価できる。
【0059】
(スケール析出容器を通過する熱水の流量による影響の評価)
スケール析出容器を通過する熱水の流量による影響を評価する場合は、流量計F11(F21)で測定される流量が所定の値となるように、各スケール検出系の加圧ポンプ14(24)の駆動、背圧制御弁V11(V21)の開度を調整して、各スケール検出系を流通する熱水の流量のみの条件を変化させ、それ以外の条件は同一にして、テストピース及びスケール析出容器に熱水を流通させる。そして、各スケール検出系に設けられた圧力計の測定値をモニタリングして、テストピースの閉塞速度、スケール析出容器内のスケール析出強度とスケール析出範囲の広がり状況、スケール析出容器の閉塞速度を評価する。
【0060】
第1のスケール検出系100での各項目の測定結果と、第2のスケール検出系200での各項目の測定結果とを比較することで、スケール析出容器を通過する熱水の流量による影響を評価できる。
【0061】
(スケール析出容器内の熱水の圧力による影響の評価)
スケール析出容器内の熱水の圧力による影響を評価する場合は、スケール析出容器の下流に設けたスケール背圧制御弁V17(V27)の開度を調整して、各スケール検出系の圧力のみの条件を変化させ、それ以外の条件は同一にして、テストピース及びスケール析出容器に熱水を流通させる。そして、各スケール検出系に設けられた圧力計の測定値をモニタリングして、テストピースの閉塞速度、スケール析出容器内のスケール析出強度とスケール析出範囲の広がり状況、スケール析出容器の閉塞速度を評価する。
【0062】
第1のスケール検出系100での各項目の測定結果と、第2のスケール検出系200での各項目の測定結果とを比較することで、スケール析出容器内の熱水の圧力による影響を評価できる。
【0063】
図3には、本発明のスケール析出試験装置で用いることのできる熱水滞留装置の別の実施形態が記載されている。
【0064】
この熱水滞留装置15’(25’)は、熱水滞留タンク40の上部に、耐熱性材料投入口42が形成されている。熱水の滞留時間に応じて、耐熱性材料投入口42から耐熱性材料41を投入することで、熱水滞留タンク40が収容可能な熱水容量を調整できるように構成されている。
【0065】
すなわち、耐熱性材料41の投入量を減らして熱水滞留タンク40が収容可能な熱水容量を増やすことで、熱水の滞留時間を長くすることができる。また、耐熱性材料41の投入量を増やして熱水滞留タンク40が収容可能な熱水容量を減らすことで、熱水の滞留時間を短くできる。
【0066】
耐熱性材料41は、200℃に加熱しても成分の溶出や変形をしない材料であればよい。例えば、ポリテトラフルオロエチレンボール等が好ましく用いられる。
【0067】
図4には、本発明のスケール析出試験装置で用いることのできる熱水滞留装置の更に別の実施形態が記載されている。
【0068】
この熱水滞留装置15’’(25’’)は、熱水滞留タンク45の内部にバッフルプレート46が複数配設されて、熱水の流路が形成されている。また、熱水の流路の始端部には、配管L12(L22)が接続している。この配管L12(L22)には、開閉弁V41が介装されている。そして、熱水の流路に沿って、熱水取出し口が複数(この実施形態では4個)設けられており、各熱水取出し口には、開閉弁V42(V43,V44,V45)が介装した、熱水取出し配管L41(L42,L43,L44)が接続して、配管L15(L25)に接続している。
【0069】
この熱水滞留装置15’’(25’’)によれば、熱水の取出し位置を変えることで熱水の滞留時間を変更できる。すなわち、開閉弁V41とV42のみを開き、その他の開閉を閉じることで、熱水の流路が短くなり、熱水の滞留時間を短くすることができる。また、開閉弁V41とV43のみを開き、その他の開閉を閉じた場合においては、開閉弁V41とV42のみを開いた場合に比べて熱水の流路が長くなるので、熱水の滞留時間を長くすることができる。
【符号の説明】
【0070】
11,21:スタティックミキサー
12,22:温度調整機
13,23:薬剤添加装置
13a,23a:薬剤貯留タンク
13b,23b:薬液注入ポンプ
14,24:加圧ポンプ
15,15’,15’’,25,25’,25’’:熱水滞留装置
15a,15b,25a,25b,40,45:熱水滞留タンク
16,26:テストピース
17,27:スケール析出容器
18,28:温度調整装置
50:記録装置
51:制御装置
100:第1のスケール検出系
200:第2のスケール検出系
F11,F21:流量計
P11〜P16,P21〜P26:圧力計
T11,T12,T21,T22:温度計
V11,V21:背圧制御弁
V12〜V16,V22〜V26:流路切り替えバルブ
V17,V27:背圧制御弁
V41〜V45:開閉弁
図1
図2
図3
図4