【実施例1】
【0031】
<X線撮影装置の全体構成>
まず、実施例1に係るX線撮影装置1の構成について説明する。X線撮影装置1は、
図1に示すように仰臥位の被検体Mを載置する天板2と、天板2の上側(一面側)に設けられたX線を照射するX線管3と、天板2の下側(他面側)に設けられたX線を検出するFPD4とを備えている。FPD4は、被検体Mの体軸方向または体側方向のいずれかに沿った4つの辺を有する矩形となっている。また、X線管3は、四角錐形状のX線をFPD4に向けて照射する。FPD4は、X線を全面で受光することになる。FPD4のX線を検出する検出面4aには、X線検出素子が体軸方向および体側方向に2次元的に配列されている。X線管3は、本発明の放射線源に相当する。FPD4は、本発明の検出手段に相当する。
【0032】
なお、実施例1に係るX線撮影装置1は、透視像P0を動画として取得した後、画像P1を撮影する構成となっている。透視像P0は、画像P1の撮影のに先立って被検体Mの位置決めを予めする目的で取得される。画像P1は、被検体Mの診断や病変・治療の記録を行う目的で取得される。
【0033】
X線管制御部6は、X線管3を制御する目的で設けられている。X線管制御部6は、X線管3の管電流・管電圧・X線照射時間の各種制御パラメータをX線管3に送出することでX線管3を制御する。X線管制御部6は、本発明の放射線源制御手段に相当する。
【0034】
透視像生成部11は、透視像P0を生成するものであり、FPD4から出力される検出信号を基に透視像P0の動画を生成する。動画となっている透視像P0は、輝度調整部24により輝度が調整された後、表示部25にリアルタイムに表示される。このとき、X線管3は、透視像P0を取得している間、弱いX線を経時的に被検体Mに向けて照射し続ける。透視像生成部11は、本発明の透視像生成手段に相当する。
【0035】
透視像P0は、輝度取得部12にも送出される。輝度取得部12は、動画に写り込んだ被検体Mの透視像P0の輝度を取得する。このとき、輝度取得部12は、透視像P0より測光領域を抽出し、ブラックピーク、ホワイトピークを除去した後、測光領域内の画素値を平均することで輝度を求める。例えば、透視像P0の輝度が基準よりも明るい場合は、被検体Mの体厚が薄くX線が被検体Mを透過しやすいことを表している。また、透視像P0の輝度が基準よりも暗い場合は、被検体Mの体厚が厚くX線が被検体Mを透過しにくいことを表している。透視像P0は動画となっていることからすると、輝度取得部12は、その時々の輝度をリアルタイムに取得することになる。輝度取得部12は、本発明の輝度取得手段に相当する。
【0036】
輝度取得部12が取得した輝度はリアルタイムに撮影条件取得部13に送出される。この撮影条件取得部13には、X線管制御部6よりX線管3の制御条件もリアルタイムに送出されている。撮影条件取得部13は、被検体Mの透視像P0の輝度および透視像取得時におけるX線管3の制御条件に基づいて、続いて行われる静止画または動画撮影におけるX線管3の制御条件(撮影条件)を取得する。撮影条件取得部13は、本発明の撮影条件取得手段に相当する。
【0037】
この撮影条件取得部13の具体的構成について説明する。撮影条件取得部13は、体厚推定部13aと、体厚対応条件取得部13bとを有している。体厚推定部13aは、透視像取得時におけるX線管3の制御条件および被検体Mの透視像P0の輝度を取得し、これらから被検体Mの体厚を推定する。体厚対応条件取得部13bは、推定された体厚に対応するX線管3の制御条件(撮影条件)を取得する。このように撮影条件取得部13は、X線管3の制御条件および被検体Mの透視像P0の輝度の入力に対して画像撮影時におけるX線管3の制御条件(撮影条件)を出力するようになっている。この撮影条件は、透視段階における最終的なX線管3の制御条件および最終的な透視像P0の輝度に基づいて出力される。体厚推定部13aは、本発明の体厚推定手段に相当し、体厚対応条件取得部13bは、本発明の体厚対応条件取得手段に相当する。
【0038】
体厚推定部13aの動作について説明する。体厚推定部13aは、透視像取得時のX線管3の制御条件と被検体Mの体厚とが関連したテーブルT1を記憶部28より読み出して、このテーブルT1を基に透視段階における最終的な制御条件に対応する被検体Mの体厚を取得する。テーブルT1は、
図2に示すように透視段階におけるX線管3の制御条件と被検体Mの体厚が関連づけられている。テーブルT1の左欄にリスト化されている制御条件は、右欄にリスト化されている体厚を有する被検体Mの透視をするときに好適な制御条件となっている。このとき取得される被検体Mの体厚を標準体厚STと呼ぶことにする。なお、テーブルT1におけるX線管3の制御条件とは具体的には、例えばX線管3の管電流および管電圧のことである。記憶部28は、本発明の記憶手段に相当する。
【0039】
体厚推定部13aは、透視像P0の輝度を基に、実際の体厚が標準体厚STとどの程度かけ離れているかを推定して被検体Mの実際の体厚を推定する。それには、まず、体厚推定部13aは、標準輝度から透視段階における透視像P0に写り込んだ被検体Mの最終的な輝度を減算して輝度差Dを取得する。標準輝度とは、被検体Mの透視をするときに好適な輝度のことである。なお、テーブルT1の左欄の条件でX線管3を制御し、テーブルT1の右欄の体厚の被検体Mの透視を行ったとすると、取得される透視像P0の輝度は標準輝度となっている。
【0040】
体厚推定部13aは取得した輝度差Dを基に、体厚の補正値T_compを取得する。この補正値T_compは、体厚推定部13aが補正値と輝度差Dとが対応したテーブルT2を記憶部28より読み出して、取得した輝度差Dに対応する補正値T_compを取得する(テーブルT2については、
図3参照)。この補正値T_compは、この標準体厚STに対する実際の体厚の違いを表したものである。例えば、輝度差Dが正の値をとると、実際の透視像P0の輝度は標準よりも小さく、透視像P0に被検体Mが暗く写っているのであるから、被検体Mの実際の体厚は、標準体厚STよりもより厚い(補正値T_compは正の値である)ことになる。また、例えば輝度差Dが負の値をとると、実際の透視像P0の輝度は標準よりも大きく、透視像P0に被検体Mが明るく写っているのであるから、被検体Mの実際の体厚は、標準体厚STよりもより薄い(補正値T_compは負の値である)ことになる。
【0041】
体厚推定部13aは、標準体厚STに補正値T_compを合計して被検体Mの実際の体厚を推定する。また、体厚推定部13aはログ変換された輝度に基づいて実際の体厚の推定を行うようにしても良い。
【0042】
体厚推定部13aが推定した実際の体厚は体厚対応条件取得部13bに送出される。体厚対応条件取得部13bは、
図4に示す体厚と撮影条件とが関連したテーブルT3を記憶部28から読み出して、体厚推定部13aが推定した体厚に対応する撮影条件を取得する。このときの撮影条件とは、被検体Mの診断を行う目的で取得される画像P1を撮影する際のX線管3の制御条件のことである。体厚対応条件取得部13bは、取得した撮影条件をX線管制御部6に送出する。この撮影条件は、画像P1を撮影するときに使用される。
【0043】
輝度取得部12が取得する輝度は、撮影条件取得部13のみならずX線管制御部6にリアルタイムに送出されている。X線管制御部6がこの輝度に基づいてX線管3を制御する様子について説明する。X線管制御部6は、輝度取得部12より輝度を取得すると、透視像P0の輝度が標準輝度に近づくようにX線管3を制御する。この様に制御が変更されて照射されたX線はFPD4に検出され、このときの透視像P0の輝度がX線管制御部6に送出される。X線管制御部6は、再び透視像P0の輝度が標準輝度に近づくようにX線管3を制御する。このように、X線管制御部6は、透視像P0の輝度の実測を基にX線管3をフィードバック制御するようになっている。ここでいう標準輝度とは、透視像P0を好適に視認できる輝度をいう。
【0044】
画像生成部14は、撮影段階においてFPD4が出力する検出信号に基づいて画像P1(静止画)を生成する。すなわち、画像生成部14は、撮影条件取得部13が取得した撮影条件に基づいてX線管3が照射したX線を検出したFPD4の検出信号より画像P1を生成する。画像生成部14は、本発明の画像生成手段に相当する。
【0045】
表示部25は、透視像P0および画像P1を表示する目的で設けられている。輝度調整部24は、動画となっている透視像P0をリアルタイムに輝度調整して透視段階におけるX線の線量不足・線量過多による像の視認のしにくさを補完する。
【0046】
操作卓26(
図1参照)は、術者によるX線照射開始などの指示を入力させる目的で設けられている。術者はこの操作卓26を通じて透視上取得時におけるX線照射条件を変更することができる。また、主制御部27は、各制御部を統括的に制御する目的で設けられている。この主制御部27は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することによりX線管制御部6および各部を実現している。また、上述の各部は、それらを担当する演算装置に分割されて実行されてもよい。記憶部28は、透視像取得時(透視段階)におけるX線管3の制御条件と標準体厚STとの関係であるテーブルT1,輝度差Dと補正値との関係であるテーブルT2,および体厚と撮影条件との関係であるテーブルT3を記憶する。操作卓26は、本発明の入力手段に相当する。
【0047】
<実施例1の効果>
次に、実施例1の効果について説明する。
図5は、従来のX線撮影装置のX線撮影の様子を示した透視像の輝度の経時変化である。縦軸は透視像P0の輝度を示しており、横軸は時間の経過を示している。
図5におけるA1〜A4で示す期間は、透視像P0の動画が取得されている期間であり、この間に術者が被検体Mの位置合わせを行う。
図5におけるBで示す期間は、透視像P0の動画の取得が終了し、画像P1が撮影される期間を表している。
【0048】
図5における符号Kは、標準輝度を表している。ここでいう標準輝度とは、透視像P0を好適に視認できる輝度をいう。したがって、
図5の透視段階の当初においては、透視像P0の輝度は標準輝度Kと比較してかなり暗いものとなっている。
【0049】
この状態からX線管制御部6は、X線管3をフィードバック制御するので、透視像P0の輝度が次第に標準輝度Kに近づいていく。すなわち、X線管制御部6は、A1の期間におけるX線管3の制御条件を3回に分けて段階的に変更させていって、透視像P0の輝度を標準輝度Kに近づける。X線管制御部6が制御条件を切り替える度に透視像P0が明るくなっていき、透視像P0の視認性が改善される。
【0050】
図5のA4の期間は、X線管制御部6のフィードバック制御により遂に透視像P0の輝度が標準輝度Kに達した状態を表している。このとき、術者は、被検体Mの位置合わせをするには十分に鮮明となっている透視像P0を視認しながら被検体Mの位置合わせを完了する。この時点で透視段階A1〜A4が終了し、X線照射が止む。
【0051】
透視段階には、被検体の位置合わせを行う目的の他に、撮影条件を決定する目的もある。すなわち、透視段階A1〜A4が終了すると、透視段階における最終のX線管制御条件に基づいて画像P1撮影における撮影条件が取得される。このときの撮影条件を撮影条件4とする。取得された撮影条件4に基づいてX線管3が制御され、画像P1の撮影が行われる。画像P1の撮影は
図5におけるBの期間中に行われる。これが、従来構成の撮影手法である。このときの撮影条件の決定は、透視像P0の輝度が標準輝度Kに達したことを前提になされている。
【0052】
しかしながら、最近では輝度調整部24などの構成を備える。これにより、透視像P0は輝度調整されて視認性を良くしてから表示部25に表示されるようになる。したがって、X線管3のフィードバック制御により透視像P0の輝度が標準輝度Kに達する前に、表示部25には輝度調整された鮮明な透視像P0が表示される。したがって、術者は
図5における期間A4に至る前に被検体Mの位置合わせを完了する場合がある。
【0053】
被検体Mの位置合わせが完了すると、術者は、被検体Mの無用な被曝を避ける目的で透視像P0の取得を直ちに終了させる。すると、
図6に示すように、フィードバック制御によって透視像P0が標準輝度Kに達する前に透視段階が終了してしまう。画像P1撮影における撮影条件は、透視段階における最終のX線管制御条件に基づいて決定されるのである。したがって、
図6の場合に取得される撮影条件は、
図5の場合に取得された撮影条件4とは異なる撮影条件3となっている。したがって、
図6の場合においては、続いて行われる画像P1の撮影は、撮影条件3に基づいてされることになる。
【0054】
撮影条件3に基づいて撮影された画像P1は、X線量が不足しており、鮮明な画像とならない。撮影条件3は、期間A3において透視像P0の輝度が標準輝度Kとなっている場合において適正となる条件であり、
図6のように透視像P0の輝度が標準輝度Kから外れている場合においては適正ではないのである。この現象は、透視段階を早めに切り上げることにより、装置が被検体の体厚を誤認してしまうことにより、適切な撮影条件が取得できなくなってしまうと捉えることもできる。
【0055】
図7は実施例1の構成を示している。実施例1の構成は、透視段階終了時における透視像P0の輝度と標準の輝度Kとの差(輝度差D)を取得し、輝度差Dを基に補正を施すことにより撮影条件を取得するようにしている。したがって、実施例1の構成によれば、期間A3の段階で透視が終了しているにも関わらず、適正な撮影条件4が取得され、後段の画像P1の撮影に用いられる。このようにすれば、フィードバック制御により透視像P0の輝度が標準輝度Kまで達していなくとも適正な撮影条件でX線管3を制御して画像P1が取得できるのである。
【0056】
<X線撮影装置の動作>
次に、実施例1に係るX線撮影装置の動作について説明する。X線撮影装置1を用いて被検体Mの撮影をするには、
図8に示すように、まず天板2に被検体Mが載置される(被検体載置ステップS1)。そして、術者が操作卓26を通じてX線撮影装置1に透視開始の指示を与えると、X線管3は弱いX線の連続照射を開始し、動画となっている透視像P0の取得が開始される(透視ステップS2)。透視像P0は、表示部25にリアルタイムに表示される。
【0057】
術者は透視像P0を視認しながら天板上の被検体Mの位置合わせをする。こうしている間にもX線管3はフィードバック制御され、X線の強さはより適したものに更新されていく。被検体Mの位置合わせが終了すると、術者が操作卓26を通じてX線撮影装置1に透視終了の指示を与え、X線照射が止む。
【0058】
すると、撮影条件取得部13は、透視段階の最終的なX線管制御条件と最終的な透視像P0の輝度を基に好適な撮影条件を取得する(撮影条件取得ステップS3)。このとき、実施例1の構成によれば、X線管制御条件が透視に好適でなくても、適正な撮影条件が取得できる。これについては既に説明済みである。そして、術者が操作卓26を通じてX線撮影装置1に撮影開始の指示を与えると、X線管3は、撮影条件取得部13が取得した撮影条件に基づいて強いX線を一度だけ照射し、画像P1の撮影が行われる(撮影ステップS4)。画像P1が表示部25に表示されて一連の動作は終了となる。なお、撮影ステップS4においては、画像P1に代えて、動画を撮影するようにしてもよい。このとき、画像生成部14は、画像P1に代えて動画を生成することになる。
【0059】
以上のように、本発明の装置は、透視像P0の動画を取得し、その後いったん透視を終了して診断用の静止画または動画撮影を行うタイプのものである。本発明は、透視像P0の取得時におけるX線管3の制御条件に基づいて静止画撮影のX線管3の制御条件(撮影条件)を決定する。しかしこの状態では、被検体Mの体厚が考慮されずに撮影条件が決定されるので、撮影条件が適正となっているとは限らない。そこで、本発明によれば、撮影条件を決定する際に透視像P0に写り込んだ被検体Mの輝度をも考慮する。被検体Mの輝度は、被検体Mの体厚に応じて変動する。したがって、被検体Mの輝度に合わせて撮影条件を補正するようにすれば、被検体Mの体厚にあわせて適正な撮影条件が取得できることになる。したがって、本発明の装置によれば、露光が適正で鮮明な静止画または動画を取得することができる。
【0060】
また、上述のように、透視像P0の取得時にX線管3をフィードバック制御する構成に本発明を適用すれば、フィードバック制御により透視像P0の取得時におけるX線管3の制御条件が適正となる前に透視像P0の撮影を切り上げた場合であっても、露光が適正で鮮明な静止画または動画を取得することができる。
【0061】
上述のように透視像取得時における放射線照射条件の変更が可能な装置にも適用できる。術者が透視像取得時における放射線照射条件を適切にしようとして変更を加えた場合に、目測を誤るようなことがあっても、本発明の機能により撮影条件は自ずと適正なものとなる。
【0062】
本発明における撮影条件の取得は、被検体Mの体厚をいったん推定することにより行われる。この様にすることで、装置構成に変更などがあっても、速やかに対応することができるうえ、確実に撮影条件を取得することができる。
【0063】
また、撮影条件の取得が記憶部28に記憶されている情報に基づいて行うようにすれば、速やかかつ確実に撮影条件を取得することができる。
【0064】
本発明は、上述した実施例の構成に限られず、下記のように変形実施が可能である。
【0065】
(1)上述の構成によれば、体厚推定部13aおよび体厚対応条件取得部13bは記憶部28に記憶されている各種テーブルに基づいて動作していたが、本発明の構成はこれに限られない。各種テーブルに代えて、関数を用いることもできる。
【0066】
(2)上述した実施例は、医用の装置であったが、本発明は、工業用や、原子力用の装置に適用することもできる。
【0067】
(3)上述した実施例のいうX線は、本発明における放射線の一例である。したがって、本発明は、X線以外の放射線にも適用できる。