(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1電圧制御率指令が前記所定値よりも大きいときに、前記補正係数を、前記交流電流の振幅が小さいほど大きく算出する、請求項1に記載の電力変換装置の制御方法。
前記補正量が正の上限制限値を超えるときに、前記補正量を前記上限制限値に制限し、前記補正量が負の下限制限値を下回るときに、前記補正量を前記下限制限値に制限し、
前記上限制限値および前記下限制限値の絶対値は、前記第1電圧制御率指令が大きいほど大きい、請求項1から3のいずれか一つに記載の電力変換装置の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
第1の実施の形態.
<1.電力変換装置の構成>
図1に示すように、本電力変換装置は整流部1とコンデンサC1とリアクトルL1と電力変換部2とを備えている。
【0024】
整流部1は交流電源E1から入力されるN(Nは自然数)相交流電圧を直流電圧に変換し、この直流電圧を直流線(電源線)LH,LLの間に出力する。
図1の例示では、整流部1はダイオード整流回路である。なお整流部1は、ダイオード整流回路に限らず、他励式整流回路であってもよく、あるいは自励式整流回路であってもよい。他励式整流回路としては例えばサイリスタブリッジ整流回路を採用でき、自励式整流回路としては例えばPWM(Pulse-Width-Modulation:パルス幅変調)方式のAC−DCコンバータを採用できる。
【0025】
また
図1の例示では整流部1は、三相交流電圧が入力される三相の整流回路である。ただし整流部1に入力される交流電圧の相数、即ち整流部1の相数は三相に限らず適宜に設定されればよい。
【0026】
コンデンサC1は直流線LH,LLの間に設けられている。コンデンサC1は例えばフィルムコンデンサである。このようなコンデンサC1は電解コンデンサに比べて安価である。一方で、このようなコンデンサC1の静電容量は電解コンデンサの静電容量に比べて小さく、直流線LH,LLの間の直流電圧Vdcを十分に平滑しない。言い換えれば、コンデンサC1は整流部1が整流した整流電圧の脈動を許容する。よって直流電圧VdcはN相交流電圧の整流による脈動成分(例えば全波整流を用いれば、N相交流電圧の周波数の2N倍の周波数を有する脈動成分)を有する。
図1の例示では、三相交流電圧を全波整流するので、直流電圧Vdcは三相交流電圧の周波数の6倍の周波数で脈動することとなる。
【0027】
リアクトルL1はコンデンサC1とともにLCフィルタを形成する。
図1の例示ではリアクトルL1はコンデンサC1よりも整流部1側で直流線LH又は直流線LL(
図1の例示では直流線LH)に設けられる。ただしこれに限らず、リアクトルL1は整流部1の入力側に設けられても良い。
【0028】
このようなリアクトルL1とコンデンサC1とは、交流電源E1の出力端の間で互いに直列に接続されることになるので、いわゆるLCフィルタを形成する。コンデンサC1の静電容量が上述の通り小さければ、このLCフィルタの共振周波数は高くなる傾向にある。同様にリアクトルL1のインダクタンスを小さくするほど、共振周波数は高くなる傾向にある。例えば
図1において、コンデンサC1の静電容量が40μFであり、リアクトルL1のインダクタンスが0.5mHである場合、共振周波数は約1.125kHz程度になる。
【0029】
電力変換部2は例えば電圧形インバータであって、直流線LH,LLの間の直流電圧(コンデンサC1が支持する直流電圧)Vdcを入力する。そして電力変換部2は、制御部3からのスイッチング信号Sに基づいて直流電圧Vdcを交流電圧に変換し、この交流電圧を負荷M1へと出力する。以下では、電力変換部2が出力する交流電圧を出力電圧とも呼ぶ。
【0030】
図1では、例えば電力変換部2は直流線LH,LLの間で互いに直列に接続される一対のスイッチング部を、三相分有している。
図1の例示では、一対のスイッチング部Sup,Sunが互いに直列に接続され、一対のスイッチング部Svp,Svnが互いに直列に接続され、一対のスイッチング部Swp,Swnが互いに直列に接続される。そして各相の一対のスイッチング部Sxp,Sxn(xはu,v,wを代表する、以下同様)の間の接続点が出力線Pxを介して負荷M1に接続される。これらのスイッチング部Sxp,Sxnが適切なスイッチング信号に基づいて導通/非導通することで、電力変換部2は直流電圧Vdcを三相交流電圧に変換してこれを負荷M1へと出力する。これにより、負荷M1には交流電流が流れる。
【0031】
負荷M1は例えば回転機(例えば誘導機又は同期機)であってもよい。また
図1の例示では三相の負荷M1が例示されているものの、その相数はこれに限らない。換言すれば、電力変換部2は三相の電力変換部に限らない。
【0032】
<2.制御>
ここでは電圧制御率ksを導入して電力変換部2の制御を行う。ここでいう電圧制御率ksとは直流電圧Vdcに対する電力変換部2の出力電圧の振幅Vmの比(=Vm/Vdc)である。つまり電圧制御率ksは、直流電圧Vdcに対してどの程度の割合で交流電圧を出力するかを示す値となる。
【0033】
さて、電力変換部2はスイッチング動作を行うので、スイッチングに伴って直流電圧Vdcが変動する。つまり直流電圧Vdcに高調波成分が生じる。なお、スイッチング周波数は、整流による直流電圧Vdcの脈動の周波数(以下、脈動周波数とも呼ぶ)よりも高いので、ここでいう高調波成分の周波数は脈動周波数よりも高い。また本電力変換装置は、上述のように、コンデンサC1とリアクトルL1とによって形成されるLCフィルタを有している。よって、スイッチング周波数がLCフィルタの共振周波数に近いほど、コンデンサC1の直流電圧Vdcの高調波成分の変動幅が増大する。
【0034】
このような直流電圧Vdcの高調波成分は、例えば整流部1に入力される交流電流の高調波成分を招くので、好ましくない。
【0035】
そこで、このような直流電圧Vdcの高調波成分を低減すべく、電圧制御率ksを補正する。より詳細には、直流電圧Vdcの高調波成分が増大するときに電圧制御率ksを増大する補正を行う。これにより、直流電圧Vdcの高調波成分が高いときに出力電圧の振幅Vmが増大する。このとき電力変換部2の出力電力が高まるので、直流電圧Vdcが低減される。したがって直流電圧Vdcの高調波成分を低減できるのである。
【0036】
このような補正はリアクトルL1が支える電圧VLに基づいて行われる。整流部1に入力されるN相交流電圧を理想的な電圧源と見なすと、電圧VLとして直流電圧Vdcの高調波成分が現れると考えることができるからである。ただし電圧VLに現れる高調波成分は、電圧VLの基準電位の採り方によって、直流電圧Vdcの高調波成分と同相または逆相となる。例えば
図1のようにリアクトルL1のコンデンサC1側の電位を基準として採用すると、電圧VLには直流電圧Vdcの高調波成分とは逆相の高調波成分が現れる。またリアクトルL1のコンデンサC1とは反対側の(つまり整流部1側の)電位を基準として採用すると、直流電圧Vdcの高調波成分と同相の高調波成分が電圧VLに現れる。
【0037】
よって例えばコンデンサC1側の電位を基準とした場合、電圧VLが増大するほど電圧制御率ksを低減する補正を行い、反対側の電位を基準とした場合、電圧VLが増大するほど電圧制御率ksを増大する補正を行う。これによって、直流電圧Vdcの高調波成分が増大するときに電圧制御率ksを増大する補正を行うことができる。
【0038】
コンデンサC1側の電位を基準とした電圧VLを採用する場合について、より具体的に従来の電圧制御率ksの補正について説明する。電圧VLと所定のゲインKとの積たる補正量H(=K・VL)を、補正前の電圧制御率指令ks**から減算することで、補正後の電圧制御率指令ks*を算出する。これを定式化すると以下の式が導かれる。
【0039】
ks*=ks**−K・VL ・・・(1)
これにより、電圧VLが増大するほど、電圧制御率指令ks*を低減することができる。ひいては、直流電圧Vdcの高調波成分が増大するときに電圧制御率指令ks*を増大する補正を行うことができる。
【0040】
ゲインKは、電圧VLの値、即ち直流電圧Vdcの高調波成分に対して、どの程度で電圧制御率指令ks*を低減させるかを決定するパラメータである。ゲインKが大きいほど、補正量(電圧制御率指令ks*の低減量)は大きい。
【0041】
なお、整流部1側の電位を基準とした電圧VLを採用する場合には、補正量Hを、補正前の電圧制御率指令ks**に加算することで、補正後の電圧制御率指令ks*を算出する。これを定式化すると以下の式が導かれる。
【0042】
ks*=ks**+K・VL ・・・(2)
電圧制御率指令ks**が小さいほど、電圧制御率指令ks**に対するゲインKの割合(K/ks**)が増大する。そして電圧制御率指令ks**に対してゲインKが過大となる場合には、VL制御系の安定性を損なう場合がある。
【0043】
そこで、本実施の形態では、電圧制御率指令ks**が小さいほど小さい補正係数αを導入する。より詳細には、電圧VLとゲインKと補正係数αとの積を補正量Hとして採用し、この補正量Hを電圧制御率指令ks**から減算する。これを定式化すると、以下の式が導かれる。なお以下では一例として、リアクトルの電圧VLの基準として、コンデンサC1側の電位を採用する場合について述べるものの、式(2)を用いてもよい。
【0044】
ks*=ks**−α・K・VL ・・・(3)
なお、電圧VLの係数として機能する、補正係数αとゲインKとの積を補正係数(α・K)と把握しても良い。またこの補正係数(α・K)は、電圧VLについてのゲインとして機能する。このとき補正係数(α・K)も、電圧制御率指令ks**が小さいほど小さい。
【0045】
式(3)によれば、電圧制御率指令ks**が小さいほど補正係数(α・K)も小さくなる。よって従来に比べて、電圧制御率指令ks**に対する補正係数の割合(=α・K/ks**)の増大を抑制できる。換言すれば、電圧制御率指令ks**に対して補正係数が過大となることを抑制できる。よって、制御の不安定を抑制することができる。
【0046】
なお補正係数αとしては、例えば電圧制御率指令ks**に比例する値を採用してもよい。これによれば、簡単に補正係数αを算出することができる。
【0047】
<3.制御構成>
具体的な制御構成について説明する。
図1に示すように、本電力変換装置にはリアクトル電圧検出部4が設けられる。リアクトル電圧検出部4はリアクトルL1の電圧VLを検出し、例えばこれにアナログ/デジタル変換を施して、制御部3に出力する。ここでは一例として、電圧VLはリアクトルL1の両端の電位のうちコンデンサC1側の電位を基準とした電圧である。リアクトル電圧検出部4によって検出される電圧VLは、上述のように、電圧制御率ksの補正に用いられる。
【0048】
また本電力変換装置には、電流検出部5が設けられている。電流検出部5は、電力変換部2が出力する交流電流(負荷M1を流れる交流電流)を検出し、例えばこれにアナログ/デジタル変換を施して、制御部3に出力する。
図1の例示では、電力変換部2が三相(u相、v相、w相)の交流電流を出力し、そのうち二相(u相、v相)の交流電流iu,ivが検出されている。三相の交流電流の和は理想的には零であるので、制御部3は、二相の交流電流iu,ivから残りの一相の交流電流iwを算出することができる。これらの電流はスイッチング信号Sを生成するために、公知の手法で適宜に用いられる。
【0049】
制御部3は
図1に例示するように、高調波抑制制御部31と、電圧制御率補正部32と、スイッチング信号生成部33とを備えている。
【0050】
制御部3は例えばマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部3はこれに限らず、制御部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0051】
高調波抑制制御部31は直流電圧Vdcの高調波成分を抑制するための機能部である。高調波抑制制御部31は、電圧制御率指令ks**と、電圧VLとを入力し、これらに基づいて、高調波抑制に用いる上記補正量Hを算出する。
【0052】
図2は高調波抑制制御部31の具体的な内部構成の一例を示す機能ブロック図である。高調波抑制制御部31は、補正係数演算部311と、ゲイン部312と、乗算部313とを備えている。
【0053】
補正係数演算部311には、電圧制御率指令ks**が入力される。補正係数演算部311は、電圧制御率指令ks**が小さいほど小さい補正係数αを算出する。例えば電圧制御率指令ks**に所定の比例係数(>0)を乗算して補正係数αを算出する。この補正係数αは乗算部313へと出力される。
【0054】
ゲイン部312は電圧VLを入力する。そして、電圧VLとゲインKとを乗算し、その結果を乗算部313へと出力する。
【0055】
乗算部313はゲイン部312の結果(K・VL)と、補正係数αとを入力する。そして、これらを乗算して補正量H(=α・K・VL)を算出し、この補正量Hを電圧制御率補正部32へと出力する。
【0056】
再び
図1を参照して、電圧制御率補正部32は、補正量Hと電圧制御率指令ks**とを入力し、電圧制御率指令ks*を出力する。電圧制御率補正部32は、電圧制御率指令ks**から補正量Hを減算して、電圧制御率指令ks*を算出する。電圧制御率指令ks*はスイッチング信号生成部33へと出力される。
【0057】
スイッチング信号生成部33は、電力変換部2が出力する交流電圧についての電圧指令(例えばd−q軸回転座標系におけるd軸電圧指令およびq軸電圧指令)を、公知の手法(例えば特許文献1)に基づいて生成する。そして、例えばその電圧指令に、電圧制御率指令ks*を乗算することで補正を行なう。そして、補正後の電圧指令に基づいて、公知の手法(例えば補正後の電圧指令を三相の電圧指令に座標変換し、三相の電圧指令とキャリアとを比較する手法)により、スイッチング信号Sを生成する。このスイッチング信号Sは電力変換部2へと出力される。
【0058】
これにより、電圧制御率指令ks*に基づいた交流電圧が出力される。よって、直流電圧Vdcの高調波成分を抑制することができる。しかも、補正係数α(或いはα・K)は電圧制御率指令ks**が小さいほど小さいので、電圧制御率指令ks**に対する補正係数α(或いはα・K)の割合が増大することを抑制できる。よって当該増大に起因する制御の不安定を抑制することができる。
【0059】
第2の実施の形態.
第2の実施の形態は、補正係数αの算出方法という点で第1の実施の形態と相違する。第2の実施の形態では、電圧制御率指令ks**が所定値よりも小さい
ときには、第1の実施の形態のように、電圧制御率指令ks**が小さいほど小さくなるように補正係数αを算出し、その一方で電圧制御率指令ks**が所定値よりも大きいときには、交流電流の振幅が小さいほど大きくなるように補正係数αを算出する。この所定値は、例えば実験またはシミュレーションにより、予め決定される。
【0060】
電圧制御率指令ks**が所定値よりも大きい領域(以下、高負荷領域とも呼ぶ)においては、たとえ従来の式(1)を採用したとしても、電圧制御率指令ks**に対する補正係数(ゲインK)の割合は比較的に小さい。よって、高負荷領域においては、当該割合の増大はVL制御系の安定性を損ないにくい。
【0061】
その一方で、高負荷領域におけるVL制御系の安定性は、交流電流の振幅の変動に伴うVL制御系のゲイン(ここでいうゲインは伝達関数の大きさ、以下、伝達ゲインと呼ぶ)の変動の影響を大きく受ける。この伝達ゲインについて以下に詳述する。
【0062】
以下では、説明を順序立てて行うため、まずα=1とする場合を説明し、更にその後にα=α2(α2は交流電流の振幅が小さいほど大きい)とする場合を説明する。
【0063】
図3は、
図1の電力変換装置の簡易的な等価回路を示している。ここではまず、
図3の簡易的な等価回路を用いて伝達関数を考慮したうえで、
図7の等価回路における伝達関数を導く。
図3の例示では、負荷M1が誘導性負荷であり、電力変換部2以降の後段を電流源として把握している。また交流電源E1と整流部1との間の電源インピーダンスもLCフィルタの共振周波数に影響するため、
図3の等価回路においては、電源インピーダンスも示されている。
【0064】
ここで、電源インピーダンスの抵抗値およびインダクタンス、リアクトルL1のインダクタンスおよびコンデンサC1の静電容量をそれぞれr,l,L,Cで示し、またリアクトルL1に流れる電流、コンデンサC1に流れる電流および電流源に流れる電流をそれぞれIL,Ic,Ioで示す。これらの諸量は
図3において、対応する構成に隣接して示されている。
【0065】
図4はVL制御系についてのブロック線図を示している。本制御方法では、電圧VLに基づく電圧制御率指令についての補正によって、直流電圧Vdcの高調波成分(電圧VLの逆相)を低減する。よって電圧VLを、目標値に近づける制御を行うフィードバックの概念が存在する。ここでは、VL制御系の安定性を考慮するので、
図4において電圧VLのフィードバック制御系のブロック線図が示される。
【0066】
図4の例示では、無駄時間要素としての「K・e
−st」が示されている。これは、電圧VLの検出時点から、電圧VLに基づく制御が反映されるまでの無駄時間tに起因する要素を示したものである。換言すれば、無駄時間tは、電圧VLの検出時点から、電圧制御率指令ks*(=ks**−K・VL)を用いて生成されたスイッチング信号Sに基づいて電力変換部2が交流電圧を出力するまでの時間である。
【0067】
図4のブロック線図に対して公知の変換を行うと、
図5のブロック線図が導かれる。よって一巡伝達関数G0は、
図6のブロック線図で示される。一巡伝達関数G0は、
図6の2つの要素で示された式の積である。
【0068】
次に
図7に示すように、電力変換部2を、電流源と電圧源とに分離して把握する。負荷M1は誘導性負荷であり、電流源として把握される。
【0069】
かかる等価回路において、電力変換部2に入力される直流電圧Vdcと、電力変換部2の出力電圧の振幅Vmとは、以下の式を満たす。
【0070】
Vm=(ks−K・VL)・Vdc ・・・(4)
また理想的には電力変換部2の入力側の電力と出力側の電力とは互いに等しい。ここでは簡単のために電力変換部2の出力側の力率(いわゆる負荷力率)を1と仮定すると、以下の式が成立する。
【0071】
√3・Vrsm・Irms=Vdc・Idc ・・・(5)
Vrmsは電力変換部2の出力電圧の実効値であり、Irmsは電力変換部2の出力電流(負荷M1を流れる交流電流)の実効値であり、Idcは電力変換部2に入力される直流電流である。ここでは一例として電力変換部2が三相の交流電圧を出力する態様を想定している。よって、式(5)の左辺には√3が因数として存在する。また等価回路の電流Io1は実効値として把握され、実効値Irmsと等しいと解される。後に説明するブロック線図では、実効値Imsの代わりに等価回路の電流Io1を用いる。
【0072】
また出力電圧の振幅Vmと実効値Vrmsとは以下の式を満たす。
【0073】
Vm=√2・Vrms ・・・(6)
式(4)〜式(6)を用いて、実効値Vrmsと振幅Vmとを消去すると、以下の式が導かれる。
【0074】
√(3/2)・(ks−K・VL)・Vdc・Irms=Vdc・Idc・・・(7)
両辺にそれぞれ直流電圧Vdcの逆数を乗算すると以下の式が導かれる。
【0075】
√(3/2)・ks・Irms−√(3/2)・Irms・(K・VL)=Idc ・・・(8)
式(8)の左辺の第1項は直流電流Idcの一定成分であり、電圧制御率指令について補正をしない場合の直流電流Idcである。よって、これと区別すべく、電圧制御率指令について補正を行なった場合の直流電流Idcを直流電流Idc’とすると、以下の式が導かれる。
【0076】
Idc−√(3/2)・Irms・(K・VL)=Idc’・・・(9)
式(9)の左辺の第2項は電圧制御率ksに対する補正量(K・VL)を因数として含んでいるので、電圧VLに基づく補正による変動成分である。また電圧VLには直流電圧Vdcの高調波成分が現れるので、第2項は直流電圧Vdcの高調波成分に基づく変動成分と把握することができる。この第2項は、出力電流の実効値Irmsも因数として含む。
【0077】
このように、電圧VLに基づいて電圧制御率ksを補正することは、直流電流Idcに対して補正を行うこととなる。そしてそれにより必然的に直流電流Idcが実効値Irmsの影響を受けることとなる。具体的には、電圧VLに基づく補正量(K・VL)に実効値Irmsに基づく係数√(3/2)・Irmsを乗じた結果(積)を減算することで直流電流Idcに補正を行うこととなる。
【0078】
値(K・VL)に√(3/2)・Irmsを乗じた値が直流電流Idcに対する補正量となるので、VL制御系のブロック線図は
図8で示すとおり、
図5のブロック線図に対して「√(3/2)・Io1」(ここでIo1=Irms)の要素が追加されることとなる。一巡伝達関数G0’を求めるべく
図8のブロック線図を変換すると、
図9のブロック線図が導かれる。
図9のブロック線図は
図6のブロック線図に対して「√(3/2)・Io1」の要素が追加された構成を有する。以下では、「K・e
−st」、「√(3/2)・Io1」、「(L・s/C)/{(L+l)s
2+r・s+1/C}」で示される要素の伝達関数をそれぞれG1〜G3と呼ぶ。
【0079】
図9のブロック線図から理解できるように、この一巡伝達関数G0’の伝達ゲイン(dB)は、伝達関数G1〜G3の伝達ゲイン(dB)の和である。伝達関数G2は実効値Irms(=Io1)に比例するので、一巡伝達関数G0’の伝達ゲインは実効値Irmsに応じて変動する。
図10は、実効値Irmsが5A,10A,20Aであるときの、一巡伝達関数G0’の伝達ゲインと位相とを示す。
図10では実効値Irmsが5A,10A,20Aであるときの伝達ゲインがそれぞれ一点差線、点線、実線で示されている。実効値Irmsは正であるので、
図10に示すように、実効値Irmsが大きいほど伝達ゲインは大きい。
【0080】
一方、伝達関数G2は実数であるので、その位相は0度である。よって実効値Irmsが変動しても一巡伝達関数G0’の位相には影響を与えない。よって
図10では、実効値Irmsが5A,10A,20Aであるときの、一巡伝達関数G0’の位相が共通して実線で表されている。従って、一巡伝達関数G0’の位相が−180度を採るときの周波数f1は実効値Irmsには依存しない。
【0081】
以上のように、周波数f1は実効値Irmsによって変動しないものの、伝達ゲインは実効値Irmsが増大するほど増大する。よって実効値Irmsが大きくなるほどゲイン余裕(位相が−180度のときの伝達ゲインの絶対値)が小さくなり、制御の不安定を招きえる。
【0082】
そこで、第2の実施の形態では、高負荷領域においては、電圧制御率ksを次のように補正する。即ち、交流電流の実効値Irmsが小さいほど、大きい補正係数α2(<1)を採用する。これを式で表すと以下の式が導かれる。
【0083】
ks*=ks**−α2・K・VL ・・・(10)
このような補正を採用すれば、式(9)は以下の式に変更される。換言すれば式(9)は式(3)においてα=1を採用する場合に対応し、式(11)は式(3)において、α=α2を採用する場合に対応する。
【0084】
Idc−√(3/2)・Irms・α2・(K・VL)=Idc’・・・(11)
式(12)の左辺の第2項が補正量となるので、かかる補正を採用したときのVL制御系のブロック線図は、
図11に示すように、
図8のブロック線図に対して「α2」の要素が追加される。一巡伝達関数G0’’を求めるべく
図11のブロック線図を変換すると、
図12のブロック線図が導かれる。
図12のブロック線図は、
図9のブロック線図に対して「α2」の要素が追加された構成を有する。なお以下ではこの要素の伝達関数を伝達関数G4と呼ぶ。
【0085】
したがって一巡伝達関数G0’’の伝達ゲインは伝達関数G1〜G4の伝達ゲインの和となる。補正係数α2は1よりも小さいので、伝達関数G4の伝達ゲインは単位dBを採用すると負の値を有する。また補正係数α2は実効値Irmsが高いほど小さい値を採るので、伝達関数G4の伝達ゲインは実効値Irmsが高いほど小さい。したがって、実効値Irmsの増大によって伝達関数G2の伝達ゲインが増大しても、伝達関数G4の伝達ゲインが低減するので、一巡伝達関数G0’’の伝達ゲインの増大を抑制することができる。よって実効値Irmsの増大によるゲイン余裕の低減を抑制することができ、制御の安定に資する。
【0086】
また、補正係数α2として実効値Irmsの逆数(1/Irms)を採用することが望ましい。言い換えれば、電圧VLと
ゲインKと実効値Irmsの逆数との積(補正量H)を、電圧制御率指令ks**から減算する補正を行うことが望ましい。これによって、
図12のブロック線図から理解できるように、補正係数α2と実効値Irmsとの乗算により実効値Irmsをキャンセルすることができる。よって、この場合、実効値Irmsの変動に起因して一巡伝達関数G0’’の伝達ゲインが変動することを回避できる。したがって、実効値Irmsが増大してもゲイン余裕が低減せず、制御の安定に資することができる。
【0087】
なお、補正係数α2として
図12のブロック線図において実効値Irmsをキャンセルしても、係数√(3/2)が残る。これは単位dBを採れば伝達ゲインのオフセットと見なすことができる。これもキャンセルする場合、補正係数α2としては√(2/3)/Irmsを採用すると良い。これにより、伝達関数G3,G4の伝達ゲイン(dB)の和が零(伝達ゲインの値は1)となる。
【0088】
なお、式(12)の√3は式(5)の√3に起因する。よって電力変換部2が単相交流電圧を出力する場合には、補正係数α2として√2/Irmsを採用するとよい。
【0089】
以上のように、電圧制御率指令ks**が所定値よりも大きい高負荷領域においては、交流電流の振幅が小さいほど大きい補正係数α2を採用する。つまり、電圧制御率指令ks**に対する補正係数(α・K)の割合が比較的小さく、当該割合に起因する制御の不安定が生じにくい高負荷領域では、当該割合に起因する制御の不安定ではなく、交流電流の振幅の増大に起因する制御の不安定を抑制するために、補正係数α2を採用するのである。
【0090】
その一方で、電圧制御率指令ks**が所定値よりも小さい低負荷領域においては、第1の実施の形態で述べた補正係数αを採用して、当該割合に起因する制御の不安定を抑制するのである。
【0091】
これにより第2の実施の形態では、低負荷領域および高負荷領域において効果的に制御を安定化することができる。
【0092】
<構成>
第2の実施の形態にかかる電力変換装置は、高調波抑制制御部の内部構成という点で、
図1の電力変換装置と相違する。
図13は、第2の実施の形態にかかる高調波抑制制御部31の内部構成の一例を概念的に示す機能ブロック図である。高調波抑制制御部31は、
図2の高調波抑制制御部31に比して、補正係数演算部314と、判定部315とを更に備えている。
【0093】
補正係数演算部314は、負荷M1を流れる交流電流の実効値Irmsを入力する。補正係数演算部314は実効値Irmsが小さいほど大きい補正係数α2を算出する。例えば実効値Irmsに反比例する補正係数α2を算出する。
【0094】
なお以下では、補正係数演算部311が算出する補正係数αを補正係数α1と呼び、補正係数α1,α2を総括した補正係数を補正係数αと呼ぶ。補正係数α1は、第1の実施の形態で説明したように、電圧制御率指令ks**が小さいほど小さく算出される。例えば補正係数α1は電圧制御率指令ks**に比例する。
【0095】
補正係数α1,α2は判定部315に入力される。また判定部315には電圧制御率指令ks**も入力する。そして判定部315は、電圧制御率指令ks**に応じて、補正係数α1,α2のうち一方を選択する。より詳細には、電圧制御率指令ks**が所定値よりも小さいときに、補正係数α1を選択し、これを補正係数αとして乗算部313へと出力する。一方で、電圧制御率指令ks**が所定値よりも大きいときに、補正係数α2を選択し、これを補正係数αとして乗算部313へと出力する。この所定値は予め実験またはシミュレーションによって決定されて、例えば判定部315内に格納される。
【0096】
乗算部313は、第1の実施の形態と同様にして、ゲイン部312からの出力(K・VL)に補正係数αを乗算して、これを補正量Hとして、電圧制御率補正部32へと出力する。
【0097】
これにより、電圧制御率指令ks**が所定値よりも大きい高負荷領域においては、補正係数αとして補正係数α2が採用され、電圧制御率指令ks**が所定値Irefよりも小さい低負荷領域においては、補正係数αとして補正係数α1が採用される。
【0098】
<効果の説明>
もし低負荷領域および高負荷領域によらず、交流電流の振幅に反比例する補正係数α2を採用するならば、低負荷領域では補正係数α2が非常に高くなる(
図14参照)。なおここでは簡単のために、低負荷領域において電流が小さいと考えている。この場合、電圧制御率指令ks**に対する補正係数の割合が増大して、VL制御系が不安定になり得る。そこで、本実施の形態とは異なって、低負荷領域において補正係数αを零に設定することが考えられる。この場合、低負荷領域では電圧制御率が補正されない。よって低負荷領域において直流電圧Vdcの高調波成分を低減することができない。
図15は、低負荷領域で電圧制御率を補正しない場合の、低負荷領域における整流部1の入力電流と直流電圧Vdcとの一例を模式的に示している。
【0099】
一方で、本実施の形態では、低負荷領域においても、電圧制御率ksが補正される。よって低負荷領域においても直流電圧Vdcの高調波成分を低減することができる。
図16は、本実施の形態のように低負荷領域で電圧制御率を補正した場合の、低負荷領域における整流部1の入力電流と直流電圧Vdcとの一例を模式的に示している。
【0100】
図15及び
図16の比較から理解できるように、本実施の形態では、直流電圧Vdcの高調波成分を低減でき、ひいては、入力電流の高調波成分も低減できる。
【0101】
また、低負荷領域において補正係数αを零にすれば、低負荷領域と高負荷領域との境界で、入力電流および直流電圧Vdcが比較的大きく変化する。なぜなら、低負荷領域では高調波成分が大きいのに対して、高負荷領域では高調波成分が低減するからである。このような変化は振動の原因となる。
【0102】
一方で、本実施の形態では、低負荷領域と高負荷領域との両方において、高調波成分を低減できる。よって、低負荷領域と高負荷領域との境界の前後において、入力電流および直流電流の波形が大きく変わらない。したがって、上述の振動を抑制することができる。
【0103】
第3の実施の形態.
式(3)から理解できるように、電圧VLが大きいときには
、電圧制御率指令ks**に対して補正量Hの割合が大きくなる。この割合が過大となると、制御の安定性を損ない得る。
【0104】
そこで第3の実施の形態では、補正量H(=α・K・VL)に制限を設けることを考える。なお電圧VLには直流電圧Vdcの高調波成分が現れることに鑑みると、電圧VLは正負の値を採る。そこで、補正量Hが正の上限制限値HPlimitを超えるときに、補正量Hを上限制限値HPlimitに制限し、補正量Hが負の下限制限値HMlimitを下回るときに、補正量Hを下限制限値HMlimitに制限する。例えば、上限制限値HPlimitと下限制限値HMlimitの絶対値とが互いに等しくできる。このとき、上述の制限により、補正量Hの絶対値が制限値Hlimit(=HPlimit=|HMlimit|)に制限されることになる。
【0105】
しかるに補正量Hを一定値で制限しても、電圧制御率指令ks**が小さくなれば、当該割合は増大することになる。そこで、第3の実施の形態では、制限値Hlimitを、電圧制御率指令ks**が小さいほど小さく設定する。例えば
図18に示すように、電圧制御率指令ks**に比例するように制限値Hlimitを設定する。これを定式化すると以下の式が導かれる。
【0106】
Hlimit=B・ks** ・・・(12)
比例係数Bは適宜に設定され、例えば0.2〜0.25程度の値を採用できる。これにより、当該割合(H/ks**)を比例係数B以下に制限することができる。よって、制御の不安定を抑制することができる。
【0107】
<構成>
第3の実施の形態にかかる電力変換装置は、高調波抑制制御部31という点で、
図1の電力変換装置と相違する。
図17は、高調波抑制制御部31の概念的な構成の一例を示す図である。高調波抑制制御部31は、
図13の高調波抑制制御部31に比して、可変リミッタ316を更に備えている。可変リミッタ316は外部から電圧制御率指令ks**を入力する。可変リミッタ316は、電圧制御率指令ks**が大きいほど大きい制限値Hlimitを算出する。例えば電圧制御率指令ks**に比例係数Bを乗算して制限値Hlimitを算出する。
【0108】
また可変リミッタ316は、乗算部313から乗算結果(α・K・VL)を入力する。可変リミッタ316は、当該乗算結果が上限値(制限値Hlimit)よりも大きいときに、補正量Hとして当該上限値(制限値Hlimit)を出力し、当該乗算結果が下限値(制限値Hlimitに−1を乗じた値)よりも小さいときに、補正量Hとして当該下限値を出力する。また当該演算結果が上限値よりも小さく下限値よりも大きいときには、補正量Hとして当該演算結果を出力する。この補正量Hは電圧制御率補正部32へと出力される。これにより、補正量Hの絶対値を制限値Hlimitに制限することができる。
【0109】
上記の種々の実施の形態は、互いの機能を損なわない限り、適宜に組み合わせることができる。
【解決手段】コンデンサC1側の電位を基準としたリアクトルL1の電圧VLを検出する。電力変換部2が出力する交流電圧の振幅の直流電圧Vdcの平均値に対する比たる第1電圧制御率指令ks**が小さいほど小さい補正係数を算出する。リアクトルL1の電圧VLと補正係数との積で求まる補正量Hを、第1電圧制御率指令ks**から減算する補正を行なうことで、第2電圧制御率指令ks*を生成する。第2電圧制御率指令ks*に基づいて生成したスイッチング信号Sを電力変換部2へと与える。