(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
強化繊維(A)を10〜40質量%、ポリアリーレンスルフィドを主成分とするマトリックス樹脂(B)を60〜90質量%含んでなる成形品であり、以下の(I)〜(IV)の条件を満足し、かつ成形品中における強化繊維(A)の主配向方向への引張強度が240MPa以上である、成形品。
(I)強化繊維(A)のストランド引張強度が1.5〜5.5GPa
(II)成形品中の強化繊維(A)の数平均繊維長が0.4〜10mm
(III)マトリックス樹脂(B)の引張伸度が1.5〜10%
(IV)強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)との界面せん断強度が20MPa以上
マトリックス樹脂(B)が、ポリアリーレンスルフィドとカルボジイミド化合物から得られるカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィドであって、マトリックス樹脂(B)を100質量%とした際の、カルボジイミド化合物の含有量が0.1〜10質量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の成形品。
強化繊維(A)が、カルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を1分子中に3個以上有する化合物で表面処理された炭素繊維である、請求項1〜11のいずれかに記載の成形品。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の成形品は、強化繊維(A)を10〜40質量%と、ポリアリーレンスルフィドを主成分とするマトリックス樹脂(B)を60〜90質量%とを含んでなる成形品であり、以下に説明する(I)〜(IV)の条件を満足し、かつ成形品中における強化繊維の主配向方向への引張強度が240MPa以上である成形品である。
【0016】
本発明の成形品は、引張強度の向上および、成形材料から成形品を得る際の成形加工性の観点から、強化繊維(A)を10〜40質量%とポリアリーレンスルフィドを主成分とするマトリックス樹脂(B)を60〜90質量%の割合で含む。強化繊維(A)の質量割合が10質量%未満とする(マトリックス樹脂(B)の質量割合が90質量%を超える)ことにより、成形品を得る際の成形性は向上するものの、成形品の引張強度に劣るものとなる。また、強化繊維(A)の質量割合が40質量%を超える(マトリックス樹脂(B)の質量割合が60質量%未満)と、成形品への成形性が著しく劣ることに加え、強化繊維(A)を必要以上に多く含むため、成形品の引張強度と軽量性および経済性のバランスに劣ることとなる。
【0017】
さらに、本発明の成形品は、強化繊維(A)20〜40質量%と、マトリックス樹脂(B)60〜80質量%とを含んでなる成形品であることが好ましい。かかる範囲とすることで、成形品を得る際の成形性を維持しつつ、引張強度により優れた成形品が得られる。
【0018】
さらに、本発明の成形品は、成形品中における強化繊維(A)の主配向方向への引張強度が240MPaである。成形品中における強化繊維(A)の主配向方向への引張強度とは、成形品中における強化繊維(A)の主配向方向を0°とした場合の0°方向引張強度である。かかる引張強度が240MPa以上であることにより、成形品を製品化する場合の設計の幅が広がり多種多様な製品に適用することが出来るとともに、製品設計上においても薄肉に設計できるなど有益な特徴となる。かかる引張強度が240MPa未満であるということは成形品の適用できる用途限定が多くなり製品設計の幅が制限される。同様の観点から、さらに好ましくは280MPa以上、とりわけ好ましくは300MPa以上である。特に、射出成形品の場合、シート形状の成形材料を用いた成形品(例えばプレス成形品)と比べ、強化繊維(A)の長繊維化が難しく、高強度化が困難である。複雑形状が短時間で成形可能な射出成形品において、このような引張強度の高い成形品が得られることは設計の幅を飛躍的に広げることができる。
【0019】
また、成形品における引張強度については、成形品中における強化繊維の主配向方向に直交する方向への引張強度が150MPa以上であることが、特性の方向による均一性の観点から好ましい。成形品中における強化繊維の主配向方向に直交する方向への引張強度とは、成形品中における強化繊維(A)の主配向方向を0°とした場合の90°方向引張強度である。主配向方向に直交する方向の引張強度は高いほど、成形品における強度設計の幅が広がるため好ましく、より好ましくは200MPa以上である。
【0020】
ここで、成形品中における強化繊維の主配向方向とは、成形品の表面から観察される強化繊維の配置方向をいう。測定方法としては、成形品の表面の強化繊維を顕微鏡観察することにより求める。成形品表面に観察される強化繊維単糸について、任意の基準方向をDとし、このDと強化繊維単糸がなす角度αを強化繊維単糸400本分を測定する。ついで、測定された400本分の角度αの総和を測定本数の400で除することにより、最も配向の強い方向を成形品における強化繊維の主配向方向とし、改めて0°と定義する。さらに本測定より求めた0°と直交する方向を90°とする。
【0021】
本発明で規定する(I)の条件は、強化繊維(A)のストランド引張強度が1.5〜5.5GPaの範囲である。1.5〜5.5GPaの範囲内であることにより、成形品の強度発現の主要因である強化繊維(A)が強いため、成形品の引張特性を効率的に高めることができる。ストランド引張強度は高いほど成形品の強度発現には好ましいが、ストランド引張強度の高い強化繊維はコスト面では高価になる傾向があり、経済性、成形品の引張強度発現のバランスの観点から、より好ましくは、3〜5.5GPaであり、とりわけ好ましくは4〜5GPaである。
【0022】
上記の強化繊維(A)のストランド引張強度は、JIS R7608(2007)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。強化繊維束のストランド10本についてそれぞれ測定し、その平均値をストランド引張強度とする。
【0023】
本発明において、成形品を構成する強化繊維(A)としては、例えば、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属からなる金属繊維や、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維や黒鉛繊維の他、ガラス繊維などの絶縁性繊維や、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維などの無機繊維が挙げられる。また、これらの繊維に表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、導電体として金属の被着処理のほかに、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、結束剤による処理、添加剤の付着処理などがある。
【0024】
特に、強化繊維(A)は、後述するカルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を1分子中に3個以上有する化合物で表面処理された炭素繊維であることが好ましい。表面処理に用いる化合物(以下単に表面処理剤ともいう)に前記官能基を1分子中に3個未満有する化合物のみを用いた場合、強化繊維(A)やマトリックス樹脂(B)との反応点が不十分となり、得られる成形品の引張強度や伸度といった力学特性を向上させる効果が得られない場合がある。
【0025】
表面処理剤は、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)との界面に存在することが好ましい。この為、表面処理剤は、強化繊維(A)の単糸の表面に塗布して用いられる。表面処理剤を強化繊維(A)に予め付与することで、少量の付着量であっても強化繊維(A)の表面を効果的に改質することができる。
【0026】
また、前記特定構造の表面処理剤は、強化繊維(A)100質量部に対して0.01〜5質量部含有していることが好ましく、0.1〜2質量部含有していることがさらに好ましい。かかる表面処理剤の含有率が0.01質量部未満では、前記特定構造の表面処理剤で強化繊維(A)の表面を十分に被膜できない場合があり、得られる成形品の引張強度や伸度といった力学特性の向上効果が現れにくくなる。また、かかる表面処理剤の含有率が5質量部を越えると、表面処理剤が強化繊維(A)の表面上に形成する被膜の厚みが増加しすぎるため、得られる成形品中での強化繊維(A)を単糸状に分散させるのが困難となったり、引張強度や伸度といった力学特性を低下させる場合がある。表面処理剤が強化繊維(A)の表面上に形成する被膜の厚みの好ましい範囲としては、10〜150nmが例示できる。
【0027】
表面処理剤を強化繊維(A)に付与する手段としては、例えばローラーを介して強化繊維(A)を表面処理剤に浸漬させる方法、表面処理剤を霧状にして強化繊維(A)に吹き付ける方法などが挙げられる。この際、強化繊維(A)に対する表面処理剤の付着量がより均一となるように、表面処理剤を溶媒で希釈したり、付与する際の温度、糸条張力などをコントロールすることが好ましい。表面処理剤を希釈する溶媒は、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトンなどが挙げられるが、取扱いが容易で防災の観点から水が好ましい。かかる溶媒は、表面処理剤を強化繊維(A)に付与した後は加熱により蒸発させて除去される。また、水に不溶、もしくは難溶の化合物を表面処理剤として用いる場合には、乳化剤または界面活性剤を添加し、水分散して用いることが好ましい。乳化剤または界面活性剤としては、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤などを用いることができる。これらの中でも相互作用の小さいノニオン系乳化剤を用いることが表面処理剤の効果を阻害しにくく好ましい。
【0028】
また、これらの強化繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、軽量化効果の観点から、比強度、比剛性に優れるPAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が好ましく用いられる。これらの中で、強度と弾性率などの力学的特性に優れるPAN系の炭素繊維をより好ましく用いることができる。
【0029】
さらに、本発明において炭素繊維を用いる場合は、X線光電子分光法(XPS)により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比(O/C)が、0.05〜0.50であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.40であり、さらに好ましくは0.10〜0.30である。表面酸素濃度比(O/C)が高いほど、炭素繊維表面の官能基量が多く、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を高めることができる一方で、表面酸素濃度比(O/C)が高すぎると、炭素繊維表面の結晶構造の破壊が懸念され、炭素繊維自体の強度が低下する懸念があるため、表面酸素濃度比(O/C)が上記好ましい範囲内であるときに、力学特性にとりわけ優れた成形品を得ることが出来る。
【0030】
表面酸素濃度比(O/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められる。まず、溶剤で不純物を除去した後の炭素繊維をカットして銅製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgK
α1、2を用い、試料チャンバー中を1×10
−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正としてC1Sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を969eVに合わせる。C1Sピーク面積は、K.E.として958〜972eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1Sピーク面積は、K.E.として714〜726eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。ここで表面酸素濃度比(O/C)とは、上記O1Sピーク面積とC1Sピーク面積の比から、装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。
【0031】
強化繊維(A)は、取り扱い性の面から、複数本の単糸を束ねた強化繊維束として用いても良い。強化繊維束を構成する単糸数としては、取り扱い性の面から100本以上、350,000本以下が好ましく、1,000本以上、250,000本以下がより好ましく、10,000本以上、100,000本以下がさらに好ましい。強化繊維束を構成する単糸数をこのような範囲とすることで、本発明の成形品が経済性良く得られる。
【0032】
表面酸素濃度比(O/C)を制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法を取ることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0033】
本発明で規定する(II)の条件は、成形品中の強化繊維(A)の数平均繊維長が0.4〜10mmの範囲にあることである。成形品中の強化繊維(A)の数平均繊維長を0.4〜10mmとすることで、成形品におけるマトリックス樹脂(B)を強化繊維(A)で補強する効果および効率を高め、成形品の引張強度を十分高めることが出来ることに加えて、強化繊維(A)の添加量も抑えることができ、成形加工性とのバランスに優れる。強化繊維(A)の数平均繊維長は、0.5〜7mmがより好ましく、0.6〜5mmがさらに好ましく、0.6〜2mmがとりわけ好ましい。かかる範囲内とすることで、複雑形状の成形品を得る際の流動性に優れ、さらに、例えば成形品をリサイクルする際の成形流動性とリサイクル成形品の強度とを両立できるため好ましい。
【0034】
ここで、成形品中の数平均繊維長の測定方法について説明する。成形品に含有される強化繊維(A)の数平均繊維長の測定方法としては、例えば、溶解法、あるいは焼き飛ばし法により、成形品に含まれる樹脂成分を除去し、残った強化繊維(A)を濾別した後、顕微鏡観察により測定する方法や、溶融法で成形品を薄く引き伸ばして強化繊維(A)を透過観察して測定する方法がある。測定は強化繊維(A)を無作為に400本選び出し、その長さを1μm単位まで光学顕微鏡にて測定し、繊維長の合計を本数で除することで数平均繊維長を算出する。なお、溶融法、焼き飛ばし法、溶解法などの、成形品から強化繊維(A)を摘出する方法に依存して、得られる結果に特別な差異を生じることはない。
【0035】
本発明の成形品において好ましい条件は、強化繊維(A)の単糸状に分散している繊維の本数割合(繊維分散率P)が90〜100%である。本発明において、単糸状に十分に分散しているとは、この繊維分散率Pが90〜100%となる状態のことを示す。強化繊維(A)の補強効果を効率的に発揮する為には、成形品中において、強化繊維(A)が単糸状に分散していることが重要である。単糸状に分散しているとは、近接する複数の強化繊維単糸が、その長さ方向に互いに並行でないまたは平行な状態であっても接触していない状態のことを示す。近接する複数の強化繊維単糸が、互いに並行でありかつ接触している場合、それらは束状である。束状の強化繊維が多数存在する場合、応力が集中しやすい強化繊維(A)の端部が束状で大きくなり、該部分より破断につながる亀裂が発生しやすくなることにより、得られる成形品の引張特性が低下する。また、束状の強化繊維(A)はマトリックス樹脂(B)が束内部まで含浸しにくくなるためボイドが発生して、得られる成形品の引張特性が低下する要因となる。
【0036】
強化繊維(A)が単糸状に分散している本数の割合については、繊維分散率Pで評価する。繊維分散率Pとは、成形品表面を顕微鏡観察した場合に、任意の強化繊維単糸(s)と該強化繊維単糸(s)と近接する強化繊維単糸(t)とで形成される二次元交差角度を、0°から90°までの鋭角側で計測した際に、5°以上である強化繊維単糸(t)の数をもとに以下の式で算出される。
P=n/N×100(単位:%)
・P:強化繊維(A)の単糸状に分散している本数割合(繊維分散率)
・n:二次元交差角度が5°以上である強化繊維単糸数
・N:二次元交差角度を計測した強化繊維単糸(t)の総数。
【0037】
測定は、無作為に強化繊維単糸(s)を選び出し、該強化繊維単糸(s)と交差する強化繊維単糸(t)すべてについて、二次元交差角度を計測する。交差角度は0°から90°までの鋭角側で計測し、二次元交差角度を計測した強化繊維単糸(t)の総数から交差角度が5°以上ある強化繊維単糸(t)の割合を算出する。強化繊維単糸(s)を100本選んで測定をおこなう。
【0038】
また、強化繊維の二次元交差角度を測定する部分としては、特に制限はないが、成形品端部を避け、できるだけ成形品の中央近辺で、さらにボス、リブなどの形状および成形品の厚み変化がない部分を用いて測定することが好ましい。具体的な観察方法は、例えば成形品の表面から強化繊維を観察する方法が例示できる。この場合成形品表面を100μmほど研磨して繊維を露出させると、より強化繊維を観察しやすくなるため好ましい。なお、観察される強化繊維単糸(s)と強化繊維単糸(t)は必ずしも繊維表面同士が接触している必要はなく、観察面において俯瞰した場合に交差しているものを計測対象とする。具体的には
図2(a)において、強化繊維単糸8を基準とすると、強化繊維単糸8は強化繊維単糸12、13と交差している。この場合、強化繊維単糸8と強化繊維単糸12との二次元交差角度は14で示される。同様に
図2(b)では、強化繊維単糸8を基準とすると、強化繊維単糸8は強化繊維単糸12とのみ交差している。この場合、強化繊維単糸8と強化繊維単糸12との二次元交差角度は14で示される。
【0039】
本発明で規定する(III)の条件は、ポリアリーレンスルフィドを主成分とするマトリックス樹脂(B)の引張伸度が1.5〜10%である。かかる引張伸度が1.5〜10%の範囲内であることで、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)との伸度のバランスにより、強化繊維(A)自体の引張強度を効率よく活用できるためである。1.5%より下回ると、マトリックス樹脂の伸度が低いことから、強化繊維のポテンシャルを十分に発揮する前に樹脂が破壊することとなり、成形品の引張強度を十分に発現させることが出来ない。かかる観点から、マトリックス樹脂(B)の引張伸度は、2.0%以上が好ましく、2.5%以上がより好ましい。また、かかる引張伸度が10%を超える場合はマトリックス樹脂の主成分であるポリアリーレンスルフィドの分子量が大きい場合に相当し、その結果成形時の流動性に劣ることとなる。成形時の流動性が低下すると、成形中の損傷により強化繊維(A)の繊維長が短くなったり、ボイドが混入したりするため、得られる成形品の引張強度が低下することになる。かかる観点から、マトリックス樹脂(B)の引張伸度は、4%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
【0040】
マトリックス樹脂(B)の引張伸度はASTM D638に準拠し、Type−Iダンベル試験片からひずみゲージを用いて測定した破断点ひずみのことを指す。
【0041】
ここで、マトリックス樹脂(B)の主成分であるポリアリーレンスルフィド(以下、ポリアリーレンスルフィドをPASと略することもある)は、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては次の式(a)〜式(k)などで表される単位などがあるが、なかでも式(a)で表される単位が特に好ましい。
【0043】
(R1,R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
【0044】
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、次の式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0046】
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0047】
本発明におけるPASの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド(前記式(a)、式(b)、式(f)〜式(k))、ポリフェニレンスルフィドスルホン(前記式(d))、ポリフェニレンスルフィドケトン(前記式(c))、ポリフェニレンスルフィドエーテル(前記式(e))、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0049】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、ポリフェニレンスルフィドをPPSと略すこともある)が挙げられる。
【0050】
本発明におけるPASは、その質量平均分子量が、好ましくは10,000〜80,000であり、より好ましくは10,000〜60,000であり、さらに好ましくは10,000〜40,000である。質量平均分子量の小さいPASほど溶融粘度が低く、複雑形状の成形性に優れ、さらに成形中の損傷によって強化繊維(A)の繊維長が短くなることを抑えることが出来る。
【0051】
なお、PASの質量平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)などの一般的に公知なGPC(ゲルパーミレーションクロマトグラフィー)を使用して測定することができる。溶離液には1−クロロナフタレンを使用し、カラム温度を210℃とし、ポリスチレン換算の質量平均分子量を算出することで求めることができる。
【0052】
本発明で規定する(IV)の条件は、強化繊維(A)とPASを主成分とするマトリックス樹脂(B)との界面せん断強度が20MPa以上である。強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)との接着性は界面せん断強度(以下、界面せん断強度をIFSSと略すこともある)で表され、接着性が高い場合、IFSSは高い値を示す。成形品の引張強度を向上させるために、IFSSは20MPa以上であることが重要である。IFSSが20MPa未満の場合、成形品にかかる荷重がマトリックス樹脂(B)から強化繊維(A)に伝達され、強化繊維(A)が荷重を十分に負担する前に、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)との界面が破壊してしまい、成形品の引張強度は十分に発揮できない。前記観点より、より好ましくはIFSSは25MPa以上、とりわけ好ましくは35MPa以上である。IFSSは、用いるマトリックス樹脂(B)の特性によって変わってくるが、50MPaもあれば、本発明の目的とする引張強度を十分に高めた成形品を提供することができる。かかる範囲とすることで、強化繊維(A)の引張強度やマトリックス樹脂(B)の引張伸度を向上させることによる利点を効果的に発現できるようになる。
【0053】
ここで、IFSSの評価詳細について説明する。評価にあたっては非特許文献1を参考にした。強化繊維束より、長さ20cmの強化繊維単糸1本を取り出す。続いて厚み150μmのマトリックス樹脂フィルムを20×20cm角の大きさで2枚作製し、前記取り出した強化繊維単糸を1枚目のマトリックス樹脂フィルム上に直線状に配置する。もう1枚のマトリックス樹脂フィルムを、前記強化繊維単糸を挟むように重ねて配置し、320℃で3分間、0.5MPaの圧力で加圧プレスし、強化繊維単糸がマトリックス樹脂に埋め込まれたサンプルを作製する。得られたサンプルを切り出し、強化繊維単糸が中央に埋没した厚さ0.2mm、幅10mm、長さ70mmの試験片を得る。前記と同様にして試験片を10ピース作製する。
【0054】
この試験片を通常の引張試験治具を用いて、試験長25mmに設定し、歪速度0.5mm/minで引張試験を行う。強化繊維単糸の破断が起こらなくなった時の、強化繊維単糸の全ての断片の長さを透過型顕微鏡で測定し、それを平均することにより平均破断繊維長Lを得る。IFSS(τ)は下式より求める。
τ=(σf・d)/(2・Lc)
Lc=(4/3)・L
・τ:IFSS(界面せん断強度)(単位:MPa)
・L:平均破断繊維長(単位:μm)
・σf:強化繊維単糸の引張強さ(単位:MPa)
・d:強化繊維単糸の直径(単位:μm)。
【0055】
σfは、強化繊維単糸の引張強度分布がワイブル分布に従うとして次の方法により求める。即ち、マトリックス樹脂に埋め込まずに強化繊維単糸のみの引張試験を用い、試料長がそれぞれ5mm、25mm、50mmで得られた平均引張強度から最小2乗法により、試料長と平均引張強度との関係式を求め、試料長Lcの時の平均引張強度を算出することにより求める。
【0056】
マトリックス樹脂(B)には、カルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基から選択される少なくとも1種の官能基を1分子内に3個以上有する化合物を0.1〜10質量%含むことが、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)との界面接着性を向上させ、成形品の引張強度を向上させる観点から好ましい。より好ましくは0.2〜8質量%、0.6〜5質量%がとりわけ好ましい。かかる官能基は1分子中に2種類以上が混在しても良く、1種類の官能基を1分子中に3個以上有する化合物を2種類以上併用しても良い。
【0057】
さらに前記官能基を1分子内に3個以上有する化合物は脂肪族化合物であることが好ましい。ここでの脂肪族化合物とは、非環式直鎖状飽和炭化水素、分岐状飽和炭化水素、環式飽和炭化水素、非環式直鎖状不飽和炭化水素、分岐状不飽和炭化水素、または、これらの炭化水素の炭素原子(CH
3、CH
2、CH、C)を、酸素原子(O)、窒素原子(NH、N)、カルボニル原子団(CO)に置き換えた鎖状構造の化合物をいう。すなわち、脂肪族化合物は、ベンゼン環などの芳香族骨格を有していない。前記した特定の官能基を1分子内に3個以上有する化合物を脂肪族化合物とすることで、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)との親和性が高まるため力学特性に優れた成形品が得られるため好ましい。
【0058】
前記した特定の官能基を1分子内に3個以上有する化合物の具体例としては、多官能エポキシ樹脂、アクリル酸系ポリマー、多価アルコール、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、とりわけ強化繊維(A)の表面官能基やマトリックス樹脂(B)の双方との反応性が高い多官能エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0059】
多官能エポキシ樹脂としては、3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、反応点が複数で反応性が高く、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)との親和性が良好となる観点から、3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。なお、3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂とは、1分子中にエポキシ基を3個以上有する脂肪族エポキシ樹脂を意味する。
【0060】
3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これら脂肪族エポキシ樹脂の中でも、反応性の高いエポキシ基を1分子中に多く含み、かつ水溶性が高く、強化繊維(A)への塗布が容易なことから、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが本発明では好ましく用いられる。
【0061】
アクリル酸系ポリマーとは、アクリル酸、メタクリル酸およびマレイン酸の重合体であって、1分子中にカルボキシル基を3個以上含有するポリマーの総称である。具体的には、ポリアクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、あるいはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。さらに、アクリル酸系ポリマーは、前記官能基の数が1分子中に3個以上となる限り、カルボキシル基をアルカリで部分的に中和した(即ち、カルボン酸塩とした)ものであっても良い。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。アクリル酸系ポリマーとしては、カルボキシル基を1分子中により多く含むポリアクリル酸が好ましく用いられる。
【0062】
多価アルコールの具体例としては、ポリビニルアルコール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、ソルビトール、アラビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。多価アルコールとしては、水酸基を1分子中により多く含むポリビニルアルコールが好ましく用いることができる。
【0063】
ポリエチレンイミンとは、エチレンイミンを開環重合して得られる、1級、2級、3級アミノ基による分岐構造を有するポリアミンである。ポリエチレンイミンとしては、アミノ基を1分子中により多く含むポリエチレンイミンが好ましく用いられる。
【0064】
前記した特定の官能基を1分子内に3個以上有する化合物は、その質量平均分子量を1分子中の前記官能基の数(カルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基の総数)で除した値が40〜150であることが好ましい。かかる範囲とすることで、強化繊維(A)の表面官能基やマトリックス樹脂(B)の官能基との反応点の密度をより均一とすることができ、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)との親和性を高め、得られる成形品の引張強度をより高めることができるため好ましい。
【0065】
本発明では、マトリックス樹脂(B)には、さらに、カルボジイミド構造、ウレア構造およびウレタン構造から選択される少なくとも1種の構造を1分子内に2個以上有する化合物を0.1〜10質量%含むことが、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)との親和性をさらに高め、得られる成形品の引張特性の向上の観点から好ましい。配合量は0.3〜8質量%が好ましく、マトリックス樹脂との混練時の分解ガス発生などの観点も含めると0.5〜5質量%の範囲がとりわけ好ましい。
【0066】
カルボジイミド構造を有する化合物、すなわちカルボジイミド化合物としては、ポリカルボジイミドがあり、脂肪族ポリカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミドが挙げられるが、強化繊維(A)およびマトリックス樹脂(B)との親和性や反応性の観点から脂肪族ポリカルボジイミドが好ましく用いられる。
【0067】
脂肪族ポリカルボジイミド化合物とは、一般式 −N=C=N−R
3 − (式中、R
3 はシクロヘキシレンなどの脂環式化合物の2価の有機基、またはメチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレンなどの脂肪族化合物の2価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。
【0068】
ウレア構造を有する化合物としては、ジイソシアネートを、複数のアミノ基を含む化合物(例えば、ヒドラジン、ジヒドラジドなど)を含むジアミンと反応させる事により得られたものを使用できる。別法として、ポリウレアは、イソシアネートを水と反応させて不安定なカルバミン酸を形成する事により合成し得る。カルバミン酸は分解して二酸化炭素を発生し、直ちに過剰のイソシアネートと反応してウレア架橋を形成するアミノ基を形成する。または、カルボジイミド構造を有する化合物を水で処理して、カルボジイミドをウレアへと反応させることでも得られる。
【0069】
ウレタン構造を有する化合物としては、ビスクロロホルメートをジアミンと反応させる事により得られたものを使用できる。別法として、ポリウレタンは、ジイソシアネートをマクログリコールなどのジオール、ポリオール、またはマクログリコールと単鎖グリコール延長剤の組合せと反応させる事により合成し得る。
【0070】
前記構造を有する化合物の中でも、強化繊維(A)との界面接着の観点からポリカルボジイミドが好ましく用いられる。
【0071】
前記したように、本発明において、マトリックス樹脂(B)の主成分であるPASは、その質量平均分子量が小さいほど溶融粘度が低く、成形品を得る際の成形加工性に優れる。また、本発明の成形品は、質量平均分子量の小さいPASを用いるほど、得られる成形品の引張強度や伸度といった力学特性が向上する傾向がある。この原因は、PASが有する官能基が強化繊維表面に存在する官能基と化学反応しているためであると推測している。これらの理由から、本発明の成形品において、マトリックス樹脂(B)の主成分であるPASの質量平均分子量を10,000〜40,000の範囲とすることが、得られる成形品の力学特性と成形加工性の両立を高レベルで達成できるため、とりわけ好ましい。
【0072】
さらに、マトリックス樹脂(B)が、ポリアリーレンスルフィドとカルボジイミド化合物から得られるカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィドである場合、質量平均分子量の小さいポリアリーレンスルフィドであっても引張伸度が大きいマトリックス樹脂(B)が得られる。ポリアリーレンスルフィドの質量平均分子量が小さい為、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)の複合化が容易となり、得られる成形品中の強化繊維(A)の数平均繊維長が長くなり高強度な成形品が得られるようになる。これらの理由から、本発明の成形品において、マトリックス樹脂(B)が、ポリアリーレンスルフィドとカルボジイミド化合物から得られるカルボジイミド変性ポリアリーレンスルフィドである場合は、ポリアリーレンスルフィドの質量平均分子量を10,000〜40,000の範囲とすることが、得られる成形品の引張強度と生産性および成形加工性の両立を高レベルで達成できる為とりわけ好ましい。
【0073】
本発明で用いるPASは、成形時の作業環境や成形品中への空隙の発生量低減や、アルミニウムなどの金属部材と一体化して使用する場合や、使用部位により高温になる金属部材と組み合わせて使用する場合に金属側への発生ガスによる汚染を防ぐ観点から320℃で120分間加熱溶融した際の揮発性成分量が0.8質量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、0.5質量%以下である。揮発性成分の発生量は、理学電機社製示差熱天秤(TG−DTA)標準形CN8078B1を用いて、窒素流量30mL/分、昇温速度20℃/分後、320℃にて、120分間保持したときの測定前の試料からの質量減少率により測定することが出来る。
【0074】
本発明の成形品において、成形品の引張破断後の破断断面から観察される繊維長さの平均値が、0.2mm以下であることが、成形品の引張強度向上効果が十分であることから好ましい。通常、マトリックス樹脂(B)と強化繊維(A)からなる成形品では、引張試験後の破断面を観察すると強化繊維(A)がマトリックス樹脂(B)から、素抜けている様相が観察される。これはマトリックス樹脂(B)と強化繊維(A)の界面接着性が十分でないことが原因と考えられる。素抜けている強化繊維(A)の長さと引張強度には一定の相間関係があり、通常、引張強度を発現するに足る繊維長さを臨界繊維長と呼ぶ。繊維長さの平均値が0.2mm以下であれば、臨界繊維長の観点から十分であり、より好ましくは、0.15mm以下、とりわけ好ましくは0.1mm以下である。
【0075】
ここで、成形品の引張破断後の破断断面から観察される繊維長さの平均値の測定方法について、
図1を用いて説明する。試験片を引張試験後の破断面が試料台と水平となるように配置し、走査型電子顕微鏡を用いて表面部分の繊維長さを観察する。破断面から突出した強化繊維単糸(
図1(a)における3)とマトリックス樹脂(B)との接触末端(
図1(a)における7)を直線で結び、その中心から、突出した強化繊維単糸の先端に垂線を引き(
図1(a)における4)、その垂線の長さを1μmの単位まで計測する。なお、強化繊維単糸がマトリックス樹脂(B)に被覆されている場合(
図1(b))においても同様に測定することができる。繊維長さを合計400本になるまで計測し、計測した長さの合計を測定した本数で除することで繊維長さの平均値を求めることが出来る。なお、1試験片中に測定可能な強化繊維が400本存在しない場合や、強化繊維が400本存在するが400本測定することが困難な場合は、試料数を増やすことにより計400本として測定してもよい。
【0076】
本発明の成形品は、成形品の引張破断後の破断断面から観察される強化繊維(A)の表面に、マトリックス樹脂(B)が付着している状態であることが好ましい。かかる状態は、破断断面から観察した強化繊維(A)の本数に対して、表面の少なくとも一部に塊状のマトリックス樹脂(B)が付着している強化繊維(A)の本数が占める割合で評価できる。表面にマトリックス樹脂(B)が付着している強化繊維(A)の割合は、10%以上が好ましく、40%以上がさらに好ましく、70%以上がより好ましい。この割合が大きいほど、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)の接着力が十分に大きく、マトリックス樹脂(B)の引張強度の向上による効果を効果的に発揮できるため好ましい。
【0077】
表面にマトリックス樹脂(B)が付着している強化繊維(A)の割合の測定方法は、試験片を引張試験後の破断面が試料台と水平となるように配置し、走査型電子顕微鏡を用いて、破断面から突出した強化繊維(A)の単糸を合計400本観察し、表面の少なくとも一部に塊状のマトリックス樹脂(B)が付着している強化繊維(A)の単糸の数を計測し、以下の式を用いることで求められる。
Q=w/M×100(単位:%)
・Q:表面の少なくとも一部に塊状のマトリックス樹脂(B)が付着している強化繊維(A)の割合
・w:表面の少なくとも一部に塊状のマトリックス樹脂(B)が付着している強化繊維(A)の単糸数
・M:マトリックス樹脂(B)の付着を確認した強化繊維(A)の単糸の総数
【0078】
本発明の成形品を得る方法として、複雑形状への加工のし易さや、貯蔵安定性、生産性の観点から、成形材料を一旦用意して、これを成形加工することにより成形品を製造する方法が好ましい。成形材料を製造する第1の好ましい方法は、例えば、強化繊維(A)と、マトリックス樹脂(B)を同時に溶融混練した後、ストランドバスにて冷却、カットしペレット化する方法であり、成形材料を製造する第2の好ましい方法は、溶融させたマトリックス樹脂(B)を強化繊維(A)からなる基材に含浸および/または被覆した後、冷却し、カットし、ペレット形状とする方法である。さらに第3成分を加える場合には、強化繊維(A)に予め第3成分を付与しておく方法(サイジング法)や、マトリックス樹脂(B)とドライブレンドする方法などが挙げられる。
【0079】
成形材料を製造する第1の方法において、前記溶融混練の方法は特に限定されず、公知の加熱溶融混合装置を使用することができる。具体的には、単軸押出機、二軸押出機、それらの組み合わせの二軸押出機、ニーダー・ルーダーなどを使用することができる。中でも、混合力の観点から二軸押出機を用いることが好ましく、ニーディングゾーンが2箇所以上ある二軸押出機を用いることがより好ましい。ニーディングゾーンは、二軸押出機のスクリューに設置された1個以上のニーディングディスクから構成される領域であり、強化繊維(A)を単糸状に分散させる効果と、数平均繊維長を低下させる効果が他のゾーンより大きい領域である。この為、ニーディングゾーンを制御することが好ましく、ニーディングゾーンの合計長さは、スクリュー全長の1〜30%が好ましく、1〜20%がさらに好ましく、1〜15%がより好ましい。ニーディングゾーン以外の領域は、スクリューに設置された1個以上のフルフライトから構成されるフルフライトゾーンであることが好ましい。
【0080】
二軸押出機としては、生産性の観点から、(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)が20〜100のものを選択することが好ましい。溶融混練の際のシリンダー温度は、250〜400℃が好ましく、280〜350℃がさらに好ましい。かかる温度範囲とすることで、溶融混練中の強化繊維(A)の折損が抑えられ、得られる成形材料や成形品の内部の強化繊維(A)の繊維長を長繊維化できるため好ましい。
【0081】
強化繊維(A)を上記加熱溶融混合装置に投入する際の強化繊維(A)の形態は、連続繊維状、特定の長さに切断した不連続繊維状のいずれでも用いることができる。連続繊維状で直接、加熱溶融混合装置に投入した場合(ダイレクトロービングの場合)、強化繊維(A)の折損が抑えられ、成形材料と成形品の中でも繊維長を確保できるため、力学特性に優れた成形品を得ることができる。また、強化繊維(A)を切断する工程が省けるため、生産性が向上する。
【0082】
前記第1の方法において得られる成形材料の好ましい態様では、成形材料中に強化繊維(A)が単糸状に分散している。強化繊維(A)があらかじめ分散していることにより、成形品への成形過程において、強化繊維(A)の折損を低減できるため好ましい。
【0083】
成形材料を製造する第2の方法において、強化繊維(A)からなる基材の具体例としては、連続した強化繊維(A)を収束してなる強化繊維束(以下単に強化繊維束ともいう)、連続した強化繊維を一方向に配向させた基材(以下、単に一方向配列基材ともいう)、織物(クロス)、不織布、マット、編み物、組み紐、ヤーン、トウなどが例示できる。中でも、連続して高速で引き取ることが可能であり、生産性に優れることから強化繊維束を用いることが好ましい。
【0084】
強化繊維束は、強化繊維(A)の単糸数が多いほど経済性には有利であることから、単糸数は10,000本以上が好ましい。他方、強化繊維(A)の単糸数が多いほどマトリックス樹脂(B)の含浸性には不利となる傾向があるため、経済性と含浸性の両立を図る観点から、10,000本以上100,000本以下がより好ましく、10,000本以上50,000本以下がとりわけ好ましく使用できる。
【0085】
マトリックス樹脂(B)を溶融させる方法については、前記した加熱溶融混合装置を用いる方法が例示できる。溶融させたマトリックス樹脂(B)を含浸槽に送り、強化繊維(A)からなる基材と接触させることでマトリックス樹脂(B)を強化繊維(A)からなる基材に含浸および/または被覆させることが出来る。なお、ここでの含浸槽とは、強化繊維(A)からなる基材を溶融させたマトリックス樹脂(B)に浸漬させ、引き取る工程を連続的に行える機構を具備した容器のことである。前記含浸槽はさらに、マトリックス樹脂(B)を溶融状態のまま所定時間貯蔵する為の加熱源を具備することが好ましい。さらに、含浸槽内には、マトリックス樹脂(B)を強化繊維(A)の単糸間に含浸させる効果を高める為に、キャビティの間隔に傾斜を持たせたスリット構造や可動式のロール、固定式のバーを備えていることが好ましい。
【0086】
成形材料を製造する第2の方法において、マトリックス樹脂(B)の主成分であるPASの質量平均分子量が小さいほど、マトリックス樹脂(B)を強化繊維(A)からなる基材に含浸させることが容易になるため好ましい。かかる条件を満たすPASの質量平均分子量は10,000〜40,000の範囲が例示できる。
【0087】
前記第2の方法において得られる成形材料の好ましい態様では、
図3に示すように、強化繊維(A)が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ強化繊維(A)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。なお、
図3において、符号3は黒部分を指しており、符号2は白部分を指している。
【0088】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維(A)の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれは、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維(A)が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維(A)が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維(A)の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維(A)の含有量が30質量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維(A)が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維(A)の含有量は20質量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維(A)の配向方向の長さである。強化繊維(A)が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維(A)の繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
【0089】
かかる成形材料は、成形品への成形過程において、強化繊維(A)を単糸状に分散させるが、マトリックス樹脂(B)の主成分であるPASの質量平均分子量が小さいほど、強化繊維(A)の折損が抑えられるため好ましい。かかる条件を満たすPASの質量平均分子量は10,000〜40,000の範囲が例示できる。
【0090】
本発明における成形材料は、内部に含む強化繊維(A)の数平均繊維長が4〜10mmであることが好ましい。かかる範囲内とすることで、成形加工時の流動性に優れ、かつ成形品中の繊維長が長く、引張強度により優れた成形品が得られる場合がある。なお、ここでの数平均繊維長は、前記成形品中の数平均繊維長の測定方法を、成形材料に対して適用することで測定できる。このような成形材料が生産性良く得られる観点から、前記第2の方法が成形材料を製造する方法としてより好ましい。
【0091】
本発明の成形品は、成形性の観点から、ペレット形状の形態を有する成形材料を使用し、それを成形して得ることが好ましい。上記成形材料を用いた成形方法としては、例えば、射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形およびインサート成形など)、が挙げられる。中でも、生産性と複雑形状の成形性の観点から射出成形が好ましく用いられる。射出成形の際のシリンダー温度は、250〜400℃が好ましく、280〜350℃がさらに好ましい。射出成形の際の金型温度は、40〜250℃が好ましく、120〜200℃がさらに好ましい。かかる温度範囲とすることで、射出成形中の強化繊維(A)の折損が抑えられ、成形品の中でも繊維長を確保できるため、力学特性に優れた成形品を得ることができる。これらの成形方法により、成形品を得ることができる。
【0092】
本発明の成形品には、本発明の効果を損なわない範囲で、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。添加剤の例としては、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、あるいは制泡剤が挙げられる。
【0093】
本発明の成形品は、電子機器筐体として好適であり、コンピューター、テレビ、カメラ、オーディオプレイヤーなどに好適に使用される。
【0094】
本発明の成形品は、電気電子部品用途に好適であり、コネクター、LEDランプ、ソケット、光ピックアップ、端子板、プリント基板、スピーカー、小型モーター、磁気ヘッド、パワーモジュール、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーターなどに好適に使用される。
【0095】
本発明の成形品は、自動車用部品や車両関連部品などに好適であり、安全ベルト部品、インストルメントパネル、コンソールボックス、ピラー、ルーフレール、フェンダー、バンパー、ドアパネル、ルーフパネル、フードパネル、トランクリッド、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、ガーニッシュ、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、ウィンドウォッシャーノズル、ワイパー、バッテリー周辺部品、ワイヤーハーネスコネクター、ランプハウジング、ランプリフレクター、ランプソケットなどに好適に使用される。
【0096】
本発明の成形品は、建材として好適であり、土木建築物の壁、屋根、天井材関連部品、窓材関連部品、断熱材関連部品、床材関連部品、免震制振部材関連部品、ライフライン関連部品などに好適に使用される。
【0097】
本発明の成形品は、スポーツ用品として好適であり、ゴルフクラブのシャフト、ゴルフボールなどのゴルフ関連用品、テニスラケットやバトミントンラケットなどのスポーツラケット関連用品、アメリカンフットボールや野球、ソフトボールなどのマスク、ヘルメット、胸当て、肘当て、膝当てなどのスポーツ用身体保護用品、釣り竿、リール、ルアーなどの釣り具関連用品、スキー、スノーボードなどのウィンタースポーツ関連用品などに好適に使用される。
【実施例】
【0098】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。まず、本発明に使用した評価方法を下記する。
【0099】
(1)強化繊維(A)のストランド引張強度
強化繊維(A)からなる強化繊維束を用いて、JIS R7608(2007)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従いストランド引張強度を求めた。
【0100】
樹脂組成として、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分にて行った。強化繊維束のストランド10本について測定し、その平均値をストランド引張強度とした。
【0101】
(2)成形品、および成形材料中に含まれる強化繊維(A)の数平均繊維長
成形品の一部を切り出したサンプル、または成形材料を、300℃で加熱プレスし、30μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムを光学顕微鏡にて観察される強化繊維(A)の繊維長に応じて、25〜150倍に拡大観察し、フィルム内で分散した繊維を観察した。その長さを1μm単位まで測定して、次式により数平均繊維長(Ln)を求めた。
数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/Ntotal
・Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n)
・Ntotal:繊維長さを測定した総本数。
【0102】
(3)成形品中における強化繊維(A)の主配向方向の計測
引張試験に供する成形品と同じ条件で成形した成形品を、エポキシ樹脂中に包埋した。包埋した成形品の表面を、表面から100μmの深さまで研磨し観察用試験片を作製した。研磨した成形品の表面を顕微鏡観察することにより主配向方向を求めた。顕微鏡観察画面において、任意の方向を基準方向Dとし、強化繊維単糸を任意に400本選んで基準方向Dに対してなす角度α(単位:°)を測定した。ここでαは基準方向Dに対して2種類(鋭角、鈍角)形成されることになるが、鋭角(−90°≦α≦90°)を測定した。さらに、前記鋭角が基準方向Dに対して時計回りの方向に形成される場合はαを正の角度とし、反対に、前記鋭角が基準方向Dに対して反時計回りの方向に形成される場合はαを負の角度として測定した。ついで、測定された強化繊維単糸400本の基準方向Dに対してなす角度αの総和Σαを求め、測定本数の400で除することにより、αの平均値を計算した。成形品で最も配向の強い方向が基準方向Dに対して前記αの平均値の方向とし、この最も配向の強い方向を成形品における強化繊維の主配向方向とし、0°とした。本測定より求められた0°に対し、その直交方向を90°とした。
【0103】
(4)成形品の主配向方向、および主配向方向に直交する方向における引張試験
上記(3)により求めた主配向方向(0°方向)、および主配向方向に直交する方向(90°方向)における引張試験は、ASTM D638に準拠し、試験片はType−Iダンベル試験片に加工したものを用い、試験機として、“インストロン(登録商標)”万能試験機(インストロン社製)を用いた。本測定において引張強度はASTM D638に規格される測定において、試験片が引張破断を示した破断点における荷重を、試験に供したダンベル試験片の平行部の断面積にて除した数値を用いた。また、引張伸度とは、平行部に貼り付けたひずみゲージを用いて測定した破断点ひずみを用いた。成形品に凹凸が存在する場合、あるいは成形品が小さい場合など、試験片形状が上記規格に準拠できない場合は、できるだけ平板形状の成形品部位より、規格に準拠した試験片サイズに対して形状を維持したまま等倍率に縮小した引張試験片を切り出して評価をおこなった。
【0104】
(5)成形品中における強化繊維(A)の単糸状に分散している本数割合
成形品の一部を切り出し、切り出した試験片をエポキシ樹脂中に包埋し、成形品の表面を、表面から100μmの深さまで研磨し観察用試験片を作製した。
【0105】
成形品の観察用試験片を光学顕微鏡にて観察し、無作為に基準となる強化繊維単糸(s)を選び出し、該強化繊維単糸(s)と接触する強化繊維単糸(t)すべてについて、二次元交差角度を計測した。二次元接触角度を、0°から90°までの鋭角側で計測し、二次元交差角度を計測した強化繊維単糸(t)の総数から、二次元交差角度が5°以上である強化繊維単糸の割合を算出した。本計測を100回繰り返した。
P=n/N×100(単位:%)
・P:強化繊維(A)の単糸状に分散している本数割合(繊維分散率)
・n:二次元交差角度が5°以上である強化繊維単糸数
・N:二次元交差角度を計測した強化繊維単糸(t)の総数
【0106】
(6)強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)の界面せん断強度(IFSS)
評価詳細については非特許文献1を参考にした。各実施例および比較例にて用いた強化繊維(A)より長さ20cmの単糸1本を取り出した。各実施例および比較例にて用いた樹脂フィルムを2枚用意し、前記取り出した単糸を1枚目の樹脂フィルム上に直線状に配置した。もう1枚の樹脂フィルムを、前記単糸を挟むように重ねて配置し、320℃で3分間、0.5MPaの圧力で加圧プレスし、単糸が樹脂に埋め込まれたサンプルを作製した。得られたサンプルを切り出し、単糸が中央に埋没した厚さ0.2mm、幅10mm、長さ70mmの試験片を得た。上記と同様にして試験片を10ピース作製した。なお、IFSSの測定には、各実施例および比較例にて用いた強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)の組み合わせにてサンプルの作製を行い、評価に供した。
【0107】
この試験片を通常の引張試験治具を用いて、試験長25mmに設定し、歪速度0.5mm/minで引張試験を行った。単糸の破断が起こらなくなった時の、単糸の全ての断片の長さを透過型顕微鏡で測定し、それを平均することにより平均破断繊維長Lを得た。
【0108】
IFSS(τ)を下式より求めた。
τ=(σf・d)/(2・Lc)
Lc=(4/3)・L
・τ:IFSS(界面せん断強度)(単位:MPa)
・L:上記の平均破断繊維長(単位:μm)
・σf:単糸の引張強さ(単位:MPa)
・d:強化繊維単糸の直径(単位:μm)。
【0109】
σfは、強化繊維(A)の引張強度分布がワイブル分布に従うとして次の方法により求めた。即ち、強化繊維(A)の単糸を用い、試料長がそれぞれ5mm、25mm、50mmにおける単糸の引張強度をJIS R7606に基づいて求めた。具体的には、強化繊維束を4等分し、4つの束から順番に単糸を100本サンプリングした。このとき、束全体からできるだけ均等にサンプリングした。サンプリングした単糸は、穴あき台紙に接着剤を用いて固定した。単糸を固定した台紙を引張り試験機に取り付け、歪速度1mm/min、試料数100で引張り試験を行った。各試料長について得られた平均引張り強度から最小2乗法により、試料長と平均引張り強度との関係式を求め、試料長Lcの時の平均引張り強度を算出し、それをσfとした。
【0110】
(7)マトリックス樹脂(B)の引張伸度
実施例および比較例に用いたマトリックス樹脂(B)単体を、射出成形機(JSW社 J150EII−P)を使用し、射出成形を行うことで引張評価用の試験片を作製した。射出成形は、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で行った。引張伸度の測定はASTM D638に準拠し、Type−Iダンベル試験片を用い、試験機として、“インストロン(登録商標)”万能試験機(インストロン社製)を用いた。引張伸度は、平行部に貼り付けたひずみゲージを用いて測定した破断点ひずみを測定値として用いた。
【0111】
(8)PASの質量平均分子量
PASの質量平均分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100(カラム名:センシュー科学 GPC3506)
溶離液:1−クロロナフタレン、流量:1.0mL/minカラム温度:210℃、検出器温度:210℃。
【0112】
(9)引張試験後の破断面観察による繊維長さ
試験片を引張試験後の破断面が試料台と水平となるように配置し、走査型電子顕微鏡を用いて表面部分の繊維長さを観察した。破断面から突出した強化繊維単糸とマトリックス樹脂(B)の接触末端を直線で結び、その中心から突出した強化繊維単糸の先端に垂線を引き、その垂線の長さを1μmの単位まで計測した。なお、強化繊維単糸がマトリックス樹脂(B)に被覆されている場合においても上記と同様に測定した。繊維長さを合計400本になるまで計測し、計測した長さの合計を測定した本数で除することで、繊維長さの平均値を求めた。
【0113】
(10)引張試験後の破断面での強化繊維(A)表面におけるマトリックス樹脂(B)の付着
試験片を引張試験後の破断面が試料台と水平となるように配置し、走査型電子顕微鏡を用いて破断面から突出した強化繊維(A)の単糸を観察した。合計400本の強化繊維(A)の単糸を観察し、表面の少なくとも一部に塊状のマトリックス樹脂(B)が付着している強化繊維(A)の単糸の数を計測した。表面の少なくとも一部に塊状のマトリックス樹脂(B)が付着している強化繊維(A)の割合を以下の式から求め、以下の4段階で評価し、fair以上を合格とした。
Q=w/M×100(単位:%)
・Q:表面の少なくとも一部に塊状のマトリックス樹脂(B)が付着している強化繊維(A)の割合
・w:表面の少なくとも一部に塊状のマトリックス樹脂(B)が付着している強化繊維(A)の単糸数
・M:マトリックス樹脂(B)の付着を確認した強化繊維(A)の単糸の総数
excellent:Qが70%以上であり、マトリックス樹脂(B)の強化繊維(A)への接着力が特に優れる。
good:Qが40%以上、70%未満であり、マトリックス樹脂(B)の強化繊維(A)への接着力が優れる。
fair:Qが10%以上、40%未満であり、マトリックス樹脂(B)が強化繊維(A)に接着する。
bad:Qが10%未満であり、マトリックス樹脂(B)が強化繊維(A)に接着しない。
【0114】
次に、実施例および比較例に用いた材料について説明する。
【0115】
<強化繊維(A)>
(CF−1)ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体を用いて、紡糸、焼成処理、および表面酸化処理を行うことによって、総単糸数1.2万本の連続した炭素繊維ストランドを得た。この炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
引張強度:4900MPa
引張弾性率:240GPa
引張伸度:2%
比重:1.8
単糸直径:7μm。
【0116】
(CF−2)ピッチ系炭素繊維、三菱樹脂株式会社製“Dialead(登録商標)” K223Y1、を用いた。この炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
引張強度:1000MPa
引張弾性率:50GPa
引張伸度:1.8%
比重:1.5
単糸直径:13μm。
【0117】
(GF−1)E−Glass製、総単糸数1600本の連続したガラス繊維ストランドであり、このガラス繊維の特性は次に示す通りであった。
引張強度:3400MPa
引張弾性率:72GPa
引張伸度:3%
比重:2.6
単糸直径:13μm。
【0118】
<表面処理剤>
(SZ−1)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(SIGMA−ALDRICH社製)
質量平均分子量:340
1分子当りのエポキシ基数:2
質量平均分子量を1分子当りのカルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基、の総数で除した値:170。
【0119】
(SZ−2)グリセロールトリグリシジルエーテル(和光純薬工業社製)
質量平均分子量:260
1分子当りのエポキシ基数:3
質量平均分子量を1分子当りのカルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基、の総数で除した値:87。
【0120】
(SZ−3)(3−グリシジルオキシプロピル)トリエトキシシラン(SIGMA−ALDRICH社製)
質量平均分子量:278
1分子当りのエポキシ基数:1
質量平均分子量を1分子当りのカルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基、の総数で除した値:278。
【0121】
<マトリックス樹脂(B)の成分>
(PPS−1)フェニル基末端品のポリフェニレンスルフィド
融点:285℃
質量平均分子量:4.5万
引張伸度:2.0%
揮発性成分量:0.6%。
【0122】
(PPS−2)酸末端品のポリフェニレンスルフィド
融点:285℃
質量平均分子量:5万
引張伸度:2.5%
揮発性成分量:0.7%。
【0123】
(PPS−3)酸末端品のポリフェニレンスルフィド
融点:285℃
質量平均分子量:5.5万
引張伸度:3.3%
揮発性成分量:0.7%。
【0124】
(PPS−4)酸末端品のポリフェニレンスルフィド
融点:285℃
質量平均分子量:6万
引張伸度:4.5%
揮発性成分量:0.7%。
【0125】
(PPS−5)酸末端品のポリフェニレンスルフィド
融点:285℃
質量平均分子量:9万
引張伸度:11%
揮発性成分量:0.8%。
【0126】
(PPS−6)酸末端品のポリフェニレンスルフィド
融点:285℃
質量平均分子量:3万
引張伸度:0.8%
揮発性成分量:0.5%。
【0127】
(PPS−7)酸末端品のポリフェニレンスルフィド
融点:285℃
質量平均分子量:4万
引張伸度:1.3%
揮発性成分量:0.5%。
【0128】
(Epoxy−1)グリセロールトリグリシジルエーテル(和光純薬工業社製)
質量平均分子量:260
1分子当りのエポキシ基数:3
質量平均分子量を1分子当りのカルボキシル基、アミノ基、水酸基およびエポキシ基、の総数で除した値:87。
【0129】
(CDI−1)脂肪族ポリカルボジイミド(“カルボジライト(登録商標)”HMV−8CA(日清紡ケミカル社製))
カルボジイミド基当量:278
質量平均分子量:3,000。
【0130】
(参考例1)
強化繊維(A)からなる強化繊維束を連続的に引き取り、これを表面処理剤を2質量%含む水系の表面処理剤母液に浸漬し、次いで230℃で加熱乾燥することで、表面処理剤を付着させた強化繊維(A)を得た。強化繊維(A)をCF−1とし、表面処理剤にSZ−1を用いて得られた、表面処理剤を付着させた強化繊維(A)をCF−3とした。CF−3において、乾燥後のSZ−1の付着量は、CF−1の100質量部に対して1質量部であった。
【0131】
(参考例2)
表面処理剤をSZ−1からSZ−2に代えた以外は、参考例1と同様にして表面処理剤を付着させた強化繊維(A)を得た。得られた表面処理剤を付着させた強化繊維(A)をCF−4とした。CF−4において、乾燥後のSZ−2の付着量は、CF−1の100質量部に対して1質量部であった。
【0132】
(参考例3)
表面処理剤をSZ−1からSZ−3に代えた以外は、参考例1と同様にして表面処理剤を付着させた強化繊維(A)を得た。得られた表面処理剤を付着させた強化繊維(A)をCF−5とした。CF−5において、乾燥後のSZ−3の付着量は、CF−1の100質量部に対して1質量部であった。
【0133】
(参考例4)
CDI−1を80℃の熱水中で5日間浸漬し、カルボジイミド基がウレア基へと変性した化合物を得、これをUrea−1とした。なお、カルボジイミド基がウレア基へと変性したことは、IRスペクトル測定で、カルボジイミド基の吸収ピーク(2119cm
−1)が消失することで確認した。
【0134】
(実施例1)
強化繊維(A)としてCF−1を、マトリックス樹脂(B)としてPPS−2を用いて、以下の手順により、成形材料を作製し、次いで射出成形により成形品を得た。
【0135】
CF−1を6mmの長さに切断することでチョップドストランドとした。これを、二軸押出機(JSW社 TEX−30α、(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)=31.5)を使用し、PPS−2をメインフィード、前記チョップドストランドをサイドフィードして各成分の溶融混練を行った。溶融混練はシリンダー温度290℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/時で行い、吐出物を引き取りながら水冷バスで冷却することでガットとし、前記ガットを5mmの長さに切断することでペレットとした。配合量はCF−1を20質量%、PPS−2を80質量%となるように調整した。
【0136】
射出成形機(JSW社 J150EII−P)を使用し、前記ペレットの射出成形を行うことで成形品を作製した。射出成形は、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で行った。
【0137】
得られた成形品から試験片を用意し、150℃で2時間アニール処理した後に、空冷して試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0138】
さらに射出成形機(JSW社 J150EII−P)を使用し、PPS−2の射出成形を行うことで引張評価用の試験片を作製した。射出成形は、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で行った。得られた試験片は、150℃で2時間アニール処理した後に、空冷して引張試験に供した。これにより得られたマトリックス樹脂(B)の引張伸度を表1に記載した。
【0139】
(実施例2)
強化繊維(A)としてCF−1を30質量%、マトリックス樹脂(B)としてPPS−2を70質量%の配合量とした以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0140】
(実施例3)
強化繊維(A)としてCF−1を40質量%、マトリックス樹脂(B)としてPPS−2を60質量%の配合量とした以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0141】
(実施例4)
強化繊維(A)としてCF−1を30質量%、マトリックス樹脂(B)としてPPS−2に代わりPPS−3を70質量%の配合量とした以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0142】
(実施例5)
強化繊維(A)としてCF−1を30質量%、マトリックス樹脂(B)としてPPS−2に代わりPPS−4を70質量%の配合量とした以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0143】
(実施例6)
強化繊維(A)としてCF−1を、マトリックス樹脂(B)としてPPS−3およびEpoxy−1を用いて、以下の手順により成形材料を作製し、次いで射出成形により成形品を得た。
【0144】
CF−1を6mmの長さに切断することでチョップドストランドとした。二軸押出機(JSW社 TEX−30α、(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)=31.5)を使用し、マトリックス樹脂(B)の原料としてPPS−3とEpoxy−1からなり、PPS−3が95質量%に対し、Epoxy−1を5質量%の配合量でドライブレンドした混合物をメインフィードし、さらに前記チョップドストランドをサイドフィードして各成分の溶融混練を行った。溶融混練はシリンダー温度290℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/時で行い、吐出物を引き取りながら水冷バスで冷却することでガットとし、前記ガットを5mmの長さに切断することでペレットとした。配合量はCF−1を30質量%、PPS−3とEpoxy−1からなるマトリックス樹脂(B)を70質量%となるように調整した。
【0145】
射出成形機(JSW社 J150EII−P)を使用し、前記ペレットの射出成形を行うことで成形品を作製した。射出成形は、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で行った。
【0146】
得られた成形品から試験片を用意し、150℃で2時間アニール処理した後に、空冷して試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0147】
さらに前記マトリックス樹脂(B)の原料のみを、二軸押出機(JSW社 TEX−30α、(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)=31.5)にメインフィードして溶融混練を行った。溶融混練はシリンダー温度290℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/時で行い、吐出物を引き取りながら水冷バスで冷却することでガットとし、前記ガットを5mmの長さに切断することでマトリックス樹脂(B)からなる樹脂ペレットを得た。
【0148】
射出成形機(JSW社 J150EII−P)を使用し、前記樹脂ペレットの射出成形を行うことで引張評価用の試験片を作製した。射出成形は、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で行った。得られた試験片は、150℃で2時間アニール処理した後に、空冷して引張試験に供した。これにより得られたマトリックス樹脂(B)の引張伸度を表1に記載した。
【0149】
(実施例7)
マトリックス樹脂(B)としてPPS−3にドライブレンドする成分をEpoxy−1からCDI−1に代えた以外は、実施例6と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0150】
(実施例8)
マトリックス樹脂(B)としてPPS−3にドライブレンドする成分をEpoxy−1からCDI−1に代え、その配合量をPPS−3が99.5質量%に対し、CDI−1が0.5質量%となるように調整した以外は、実施例6と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0151】
(実施例9)
強化繊維(A)としてCF−1の代わりにGF−1を用いた以外は、実施例8と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0152】
(実施例10)
マトリックス樹脂(B)としてPPS−3にドライブレンドする成分をEpoxy−1からUrea−1に代え、その配合量をPPS−3が99.5質量%に対し、Urea−1が0.5質量%となるように調整した以外は、実施例6と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0153】
(実施例11)
射出成形において、背圧を実施例1の50%に下げて成形した以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作成し、試験に供した。評価結果を表1に記載した。
【0154】
【表1】
【0155】
(比較例1)
強化繊維(A)としてCF−1の代わりにCF−2を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表2に記載した。
【0156】
(比較例2)
強化繊維(A)としてCF−1の代わりにCF−2を用い、その配合量を30質量%とし、マトリックス樹脂(B)としてPPS−2を70質量%の配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表2に記載した。
【0157】
(比較例3)
強化繊維(A)としてCF−1の配合量を20質量%から30質量%に変更し、マトリックス樹脂(B)としてPPS−2をPPS−1に変更し、その配合量を80質量%から70質量%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表2に記載した。
【0158】
(比較例4)
強化繊維(A)としてCF−1を用い、その配合量を20質量%から30質量%に変更し、マトリックス樹脂(B)としてPPS−2をPPS−5に変更し、その配合量を80質量%から70質量%と変更した以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表2に記載した。
【0159】
(比較例5)
強化繊維(A)としてCF−1を用い、マトリックス樹脂(B)が60質量%に対し、CF−1の配合量が40質量%となるように変更し、マトリックス樹脂(B)としてPPS−2からPPS−3とEpoxy−1の混合物に変更し、PPS−3が95質量%に対し、Epoxy−1を5質量%の配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表2に記載した。
【0160】
(比較例6)
強化繊維(A)としてCF−1を用い、マトリックス樹脂(B)が60質量%に対し、CF−1の配合量が40質量%となるように変更し、マトリックス樹脂(B)をPPS−3とCDI−1の混合物に変更し、PPS−3が95質量%に対し、CDI−1を5質量%の配合量に変更した以外は、実施例6と同様の方法で、試験片を作製し、試験に供した。評価結果を表2に記載した。
【0161】
【表2】
【0162】
実施例1〜11と比較例1〜6の比較により、以下が明らかである。
【0163】
強化繊維(A)のストランド強度を確保し、かつマトリックス樹脂(B)の伸度を選択し、さらに強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)のIFSSを十分なものとし、また、成形品中の数平均繊維長を特定の範囲内とした、実施例1〜11は240MPa以上の高い、主配向方向への引張強度を発現した。さらにマトリックス樹脂(B)中に特定の官能基を有する化合物、もしくは特定の構造を有する化合物を混合した実施例6〜10については、実施例1〜5と比較しさらに引張強度に優れる成形品であった。
【0164】
比較例1および2については、強化繊維のストランド強度が不足しており、さらに強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)とのIFSSが低いために、得られる成形品は、引張強度に劣るものとなった。
【0165】
比較例3については、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)とのIFSSが低いために、得られる成形品は、引張強度に劣るものとなった。
【0166】
比較例4については、マトリックス樹脂(B)の質量平均分子量が大きく、成形品中での強化繊維(A)の数平均繊維長が短かった。さらに、強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)とのIFSSが低いために、得られる成形品は、引張強度に劣るものとなった。
【0167】
比較例5、6については、成形品中での強化繊維(A)の数平均繊維長が0.4mmよりも短かく、このため強化繊維(A)とマトリックス樹脂(B)とのIFSSが20以上であっても得られる成形品は、引張強度に劣るものとなった。
【0168】
(実施例12)
強化繊維(A)としてCF−1を、マトリックス樹脂(B)としてPPS−6とCDI−1を用いて、以下の手順により成形材料を作製し、次いで射出成形により成形品を得た。
【0169】
PPS−6とCDI−1を、PPS−6が95質量%に対して、CDI−1が5質量%となるようにドライブレンドし、二軸押出機(JSW社 TEX−30α、(スクリュー長さ)/(スクリュー直径)=31.5)にメインフィードして溶融混練を行った。溶融混練はシリンダー温度290℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/時で行い、吐出物を引き取りながら水冷バスで冷却することでガットとし、前記ガットを5mmの長さに切断することでマトリックス樹脂(B)からなる樹脂ペレットを得た。
【0170】
射出成形機(JSW社 J150EII−P)を使用し、前記樹脂ペレットの射出成形を行うことで引張評価用の試験片を作製した。射出成形は、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で行った。得られた試験片は、150℃で2時間アニール処理した後に、空冷して引張試験に供した。これにより得られたマトリックス樹脂(B)の引張伸度を表3に記載した。
【0171】
前記樹脂ペレットを320℃で単軸押出機にて溶融混練することで、溶融状態のマトリックス樹脂(B)とし、これを押出機の先端に取り付けた含浸槽に供給した。さらに、強化繊維(A)からなる強化繊維束としてCF−1を連続的に引き取り、前記含浸槽内を通過させることで、強化繊維束の単位長さあたりに一定量のマトリックス樹脂(B)を含浸させた含浸ストランドを得た。前記含浸ストランドを、水冷バスで冷却することでガットとし、前記ガットを7mmの長さに切断することで強化繊維含有ペレットとした。配合量は強化繊維(A)が20質量%、マトリックス樹脂(B)が80質量%となるように調整した。これにより得られた強化繊維含有ペレットから成形材料の数平均繊維長を測定し、表3に記載した。
【0172】
射出成形機(JSW社 J150EII−P)を使用し、前記強化繊維含有ペレットの射出成形を行うことで成形品を作製した。射出成形は、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で行った。
【0173】
得られた成形品から試験片を用意し、150℃で2時間アニール処理した後に、空冷して試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0174】
(比較例7)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いる化合物をCDI−1からEpoxy−1に変更した以外は、実施例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0175】
(比較例8)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いる化合物を無くし、PPS−6のみをマトリックス樹脂(B)とした以外は、実施例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0176】
(実施例13)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いるPASをPPS−6からPPS−7に変更した以外は、実施例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0177】
(比較例9)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いる化合物をCDI−1からEpoxy−1に変更した以外は、実施例13と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0178】
(比較例10)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いる化合物を無くし、PPS−7のみをマトリックス樹脂(B)とした以外は、実施例13と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0179】
(実施例14)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いるPASをPPS−6からPPS−4に変更した以外は、実施例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0180】
(実施例15)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いる化合物をCDI−1からEpoxy−1に変更した以外は、実施例14と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0181】
(比較例11)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いる化合物を無くし、PPS−4のみをマトリックス樹脂(B)とした以外は、実施例14と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0182】
(比較例12)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いるPASをPPS−6からPPS−5に変更した以外は、実施例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0183】
(比較例13)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いる化合物をCDI−1からEpoxy−1に変更した以外は、比較例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0184】
(比較例14)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いる化合物を無くし、PPS−5のみをマトリックス樹脂(B)とした以外は、比較例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表3に記載した。
【0185】
【表3】
【0186】
表3に記載の実施例および比較例から以下のことが明らかである。
【0187】
実施例12に記載の成形品と比較例7および8に記載の成形品の比較から、CDI−1の添加は、PPS−6の引張伸度の増加とIFSSの向上を両立し、これにより引張強度に優れた成形品が得られることが明らかである。
【0188】
実施例13に記載の成形品と比較例9および10に記載の成形品の比較から、CDI−1の添加は、PPS−7の引張伸度の増加とIFSSの向上を両立し、これにより引張強度に優れた成形品が得られることが明らかである。
【0189】
実施例14および15に記載の成形品と比較例11に記載の成形品の比較から、CDI−1の添加は、PPS−4の引張伸度を減少させるが、IFSSを向上させることが明らかである。さらに、強化繊維(A)の数平均繊維長が0.4mm以上の成形品とすることで引張強度に優れた成形品が得られることが明らかである。
【0190】
比較例12〜14に記載の成形品の比較から、CDI−1の添加は、PPS−5の引張伸度を減少させるが、IFSSを向上させることが明らかである。さらに、強化繊維(A)の数平均繊維長が0.4mm未満の成形品では、引張強度に優れた成形品が得られないことが明らかである。
【0191】
実施例12〜14と比較例12に記載の成形品の比較から、マトリックス樹脂(B)に用いるPASの質量平均分子量が小さい程、得られる成形品中の数平均繊維長が増加し、引張強度に優れた成形品が得られることが明らかである。
【0192】
(実施例16)
強化繊維(A)としてCF−1を用いたまま、その配合量を20質量%から30質量%に変更し、マトリックス樹脂(B)の配合量を80質量%から70質量%に変更した以外は、実施例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表4に記載した。
【0193】
(比較例15)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いる化合物を無くし、PPS−6のみをマトリックス樹脂(B)とした以外は、実施例16と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表4に記載した。
【0194】
(比較例16)
強化繊維(A)としてCF−1を用いたまま、その配合量を20質量%から50質量%に変更し、マトリックス樹脂(B)の配合量を80質量%から50質量%に変更した以外は、実施例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表4に記載した。
【0195】
(比較例17)
マトリックス樹脂(B)としてドライブレンドに用いる化合物を無くし、PPS−6のみをマトリックス樹脂(B)とした以外は、比較例16と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表4に記載した。
【0196】
(実施例17)
強化繊維(A)をCF−1からCF−3に変更した以外は、実施例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表4に記載した。
【0197】
(実施例18)
強化繊維(A)をCF−1からCF−4に変更した以外は、実施例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表4に記載した。
【0198】
(実施例19)
強化繊維(A)をCF−1からCF−5に変更した以外は、実施例12と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表4に記載した。
【0199】
(実施例20)
強化繊維(A)をCF−1からGF−1に変更した以外は、実施例16と同様の方法で成形材料を作製し、さらにこの成形材料を用いた成形品から試験片を準備し各種試験に供した。評価結果を表4に記載した。
【0200】
【表4】
【0201】
表3および表4に記載の実施例および比較例から以下のことが明らかである。
【0202】
実施例12および16と比較例7および15〜17に記載の成形品の比較から、強化繊維(A)の配合量を10〜40質量%の範囲外とすると、得られる成形品中の強化繊維(A)の繊維長が短く、成形品の強度に劣ることが明らかである。
【0203】
実施例12および17〜19の比較から、強化繊維(A)が、SZ−2で表面処理されたCF−1であることにより、IFSSが向上し、これにより引張強度に優れた成形品が得られることが明らかである。
【0204】
実施例16と実施例20の比較から、強化繊維(A)のストランド強度とIFSSが低下すると、得られる成形品の強度が大きく低下することが明らかである。
強化繊維(A)を10〜40質量%、ポリアリーレンスルフィドを主成分とするマトリックス樹脂(B)を60〜90質量%含んでなる成形品であり、以下の(I)〜(IV)の条件を満足し、かつ成形品中における強化繊維(A)の主配向方向への引張強度が240MPa以上である成形品、およびそれを得るための成形材料。