【実施例】
【0026】
次に、防振部材が取り付けられたエンドミルの実施例と、防振部材のないエンドミルの比較例について、防振効果等を確認するための各種測定を行った。
検証は、チッピング量による比較、タッピング試験による比較、表面粗度による比較、工具損傷の検査による比較、の4つの観点から行った。
【0027】
工作機械は、横マシニングセンタを用いた。エンドミルは、φ14の6刃エンドミルを使用した。テストピースは、時効処理済みの角材(幅×高さ×奥行き=122×109×76(mm))とした。径方向と軸方向の切り込み、及び回転数は、実施例及び比較例で一定とした。
【0028】
<チッピング量による比較>
実施例のエンドミルと、比較例のエンドミルとで、テストピースを加工し、加工後のチッピング量(摩耗量)を計測し、比較した。テストピースの加工は、2面加工を行った。
【0029】
<実施例1>
実施例1は、防振部材を取り付けたエンドミルを用いて、表1に示す条件でテストピースを加工した。防振部材は、外径=40mm、内径=13mm、長さ=50mm、のものを用い、外径14mmのエンドミルに締まり嵌めにより嵌め合わせて固定した。
【0030】
<比較例1>
比較例1は、防振部材を取り付けないエンドミルを用いて、表1に示す条件でテストピースを加工した。
【0031】
表1にテストピースの端面を2面加工した後の、エンドミルのチッピング量を示す。チッピング量は、エンドミルの逃げ面、及び掬い面についてそれぞれ計測した。また、1面の切削距離は約2.68mとした。
表1より、各切れ刃にチッピング量のバラつきはあるものの、2面加工の時点では、逃げ面の評価で平均49%のチッピング量の低減が確認できた。掬い面の評価では、平均31%のチッピング量の低減が確認できた。
【0032】
【表1】
【0033】
<タッピング試験による比較>
防振部材の効果要因を確認するために、工具回転を停止した状態でタッピング試験を実施した。タッピング試験は、工具先端位置を加振入力位置とし、当該位置をインパクトハンマーで打点することにより実施した。振動の計測位置は、工具先端位置とした。
【0034】
<実施例2−1,2−2>
実施例2−1として、エンドミルの胴部を全長に亘って覆う防振部材を用意した。実施例2−2として、エンドミルの胴部の約半分を覆う防振部材、即ち、実施例2−1と比較して約半分の全長を有する防振部材を用意した。
【0035】
<比較例2>
比較例2は、防振部材を取り付けないエンドミルとした。
【0036】
図6は、比較例1(防振部材なし)のタッピング試験結果である。
図7は、実施例2−1(全長に亘る防振部材)のタッピング試験結果である。
図8は、実施例2−2(全長の半分に亘る防振部材)のタッピング試験結果である。何れのグラフも水平方向の振動加速度を示すものである。
図6〜8に示すように、比較例1と比較して、実施例2−1及び実施例2−2の減衰効果が高いことがわかる。
【0037】
図9は、周波数応答のグラフである。ハーフパワー法により算出した減衰比は、比較例2では約1.5%、実施例2−1では5.0%、実施例2−2では3.0%であり、防振部材の取り付けによる減衰効果があることを確認することができた。
図9に示すように、比較例2、実施例2−1、2−2における工具の振動のピークは900Hz付近と1,200Hz付近であり、工具の回転数と刃数より算出される加振振動数は上述したピークから十分離れている。そのため、防振部材を取り付けたことによる効果は共振回避ではなく減衰によるものであると考えられる。また、実施例2−2は、エンドミルの胴部の約半分しか覆っていないため、防振効果がやや少ないものの、やはり防振効果を有することが示された。
【0038】
<表面粗度による比較>
実施例のエンドミルと、比較例のエンドミルとで、テストピースを加工し、加工後の表面粗度を計測し、比較した。テストピースの加工は、5面加工を行った。
【0039】
<実施例3>
実施例1と同様の条件とした。即ち、防振部材を取り付けたエンドミルを用いて、テストピースを加工した。
【0040】
<比較例3>
比較例1と同様の条件とした。即ち、防振部材を取り付けないエンドミルを用いて、テストピースを加工した。
【0041】
表2にツールパス(工具経路)方向の表面粗度の値を示す。また、
図10に比較例3の表面粗度測定結果を、
図11に実施例3の表面粗度測定結果を示す。
図10、及び
図11共、ツールパスの方向の表面粗度を示している。また、高さ方向の尺度は同一としている。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、ツールパス方向の表面粗度はRa:算術平均粗さ、Rz:最大高さ粗さ、Rt:最大断面高さの何れの数値も、実施例3が低い数値となった。特に、実施例3において防振部材を取り付けたことによって、最大高さ粗さRzが4.3μmから3.7μmに減少している。この要因として、工具振動の振幅の減少が考えられる。
また、
図10及び
図11に示すように、加工面を測定した形状を見ると、実施例3では、加工面が、周期の短い波形が連続した形状をなし、さらにその波形の高さが、個々の波形よりも長い周期で見た場合に規則的に増減する。即ち、振動が抑制されていることによって、波形がやや滑らかになっていることがわかる。これに対し、比較例3では、加工面の波形は不規則で、実施例3のような傾向を見ることができず、波形の外形が長い周期で増減する規則性を見取るのが難しい。即ち、振動の抑制が実施例3と比較して少ないことによって、細かい波形が不規則に並んでいることがわかる。
【0044】
<工具損傷の検査による比較>
実施例1の防振部材を取り付けた切削工具について、蛍光浸透深傷試験と放射線試験を実施し、工具自体の損傷状態について確認した。
その結果、切削加工前、切削加工後(切削距離13.4m)ともに異常はなく、切削初期の段階でも工具シャンク部分に工具の損傷は確認されなかった。
【0045】
以上の比較により、以下の結果を得た。
(1)エンドミルに防振部材を取り付けることにより、工具の減衰効果が高くなり、切れ刃のチッピングを低減する効果があることを確認できた。
(2)切れ刃のチッピング低減効果は、切削初期に有効であり、工具のプリセット時の振れよりも防振部材の取り付けによるチッピング低減効果の方が大きいことがわかった。
【0046】
なお、本発明の技術範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。例えば、以上で説明した各実施形態では、工作機械として横型マシニングセンタを用いているが、長尺形状の刃物を使用する工作機械であれば、これに限ることはない。例えば、防振部材をボール盤のドリルや旋盤のバイトに使用する構成としてもよい。