(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記大径部はその外径を、隣接する前記テーパ部の最大径部よりも小径とし、前記拡径保持用筒体を外周面上で保持する構造としたことを特徴とする請求項1又は2記載の拡径部材。
【背景技術】
【0002】
従来から、電力ケーブルの端部同士を接続する中間接続部には、絶縁を施すために、該中間接続部の外周に絶縁材料からなる常温収縮チューブを被せることが行われている。
上記電力ケーブルの接続部の絶縁作業は以下のようにして行われる。
まず、常温収縮チューブの中心孔に、筒状に形成された拡径支持体を挿入して、常温収縮チューブを予め拡径しておく。この拡径した常温収縮チューブを一方の電力ケーブルに被せ、接続処理する箇所から外れた位置に退避させておく。この状態で2本の電力ケーブルの導体を接続する。
この後、導体接続処理をした箇所(中間接続部)に常温収縮チューブを引き戻し、しかる後に、常温収縮チューブを拡径していた拡径支持体を取り除き、常温収縮チューブを収縮させる。これによって中間接続部を常温収縮チューブで覆って絶縁を施す。
なお、上記拡径支持体としては、例えば、プラスチック製紐状体を螺旋状に巻回して円筒状に形成したものが提供されている。このタイプの拡径支持体は、プラスチック製紐状体の一端部を引きほどくことで常温収縮チューブと中間接続部の間から取り除くことが可能となっている。
【0003】
上記のように常温収縮チューブは、電力ケーブルの接続作業前に予め内側に拡径支持体を挿入して拡径しておく必要がある。
かかる常温収縮チューブ130の拡径作業には
図8に示す拡径部材100が使用される。この拡径部材100は、内部中空の大径部111と、大径部よりも外径が小さい小径部112と、この小径部112と大径部111との間で小径部112の外径から大径部111の外径に徐々に拡径する形状に形成されたテーパ部113とを備えている。
また、大径部111の内側には当該大径部111の中心に支柱114が設けられており、常温収縮チューブに拡径支持体120を挿入する場合には、図示のように、大径部111と支柱114との間に拡径支持体120がセットされる。なお、その場合、拡径支持体120は、その一端部の外周面が大径部111の一端部から突出するようにセットされる。
【0004】
上記構成の拡径部材100を使用して常温収縮チューブ130を拡径するには、拡径部材100の小径部112を常温収縮チューブ130の内側に挿入し、当該常温収縮チューブ130を小径部112,テーパ部113,大径部111の順番に外周面上を滑らせて拡径支持体120側に相対的に移動させる。
この際、拡径部材100の外周面或いは常温収縮チューブ130の内側には、常温収縮チューブ130に浸透しない成分からなる潤滑剤が予め塗布されている。
そして、常温収縮チューブ130の端部が大径部111の端部を越えると自己収縮して拡径支持体120の外周面上に乗り、更に大径部111の外周面上を滑らせて常温収縮チューブ130を押し込むと、常温収縮チューブ130は拡径支持体120上に完全に乗り移り、拡径支持体120上に拡径状態で支持される(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、拡径部材100を用いて常温収縮チューブ130を拡径するときに、常温収縮チューブが座屈することがある。常温収縮チューブ130に座屈を生じると、その内部に剥離を生じたり、表面に皺が形成されたりして、電気特性や絶縁性能の低下等が生じる原因となることから、座屈の防止は重要な課題となっている。
本発明者の経験では、常温収縮チューブ130の内周面と小径部112の隙間が大きい場合に、常温収縮チューブ130の内周面は小径部112から接触圧を得ることが出来ず、不安定な状態で拡径が行われることから、
図9に示すように、常温収縮チューブ130の端部近傍に座屈が発生し易くなる傾向がある。
また、常温収縮チューブ130の内周面と小径部112との間の隙間が小さい場合でも、テーパ部113における拡径量が大きくなると、やはり、常温収縮チューブ130を拡径する過程で座屈が生じてしまう場合があった。
特に、近年は、常温収縮チューブ130は、製造コスト低減、中間接続部への装着後の外径の拡大防止などの観点から薄肉化の要求が高くなっているが、常温収縮チューブ130を薄肉化すると、上記の座屈が発生し易くなることから、常温収縮チューブの薄肉化の障害にもなっていた。
【0007】
本発明は、常温収縮チューブの拡径作業において座屈の発生の低減を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電力ケーブルの接続部に被覆装着される常温収縮チューブを拡径し、その中心孔に拡径保持用筒体を挿入するための拡径部材であって、拡径前の前記常温収縮チューブの中心孔に挿入される小径部と、前記拡径保持用筒体を保持する大径部とを備え、
中心線方向について前記小径部と前記大径部との間
となる配置で、円錐面を有する大小複数のテーパ部を段階的に形成すると共に、
中心線方向についてテーパ部とテーパ部との間
となる配置で、かつ前記中心線方向に同じ外径となる段部を形成し
、前記小径部と前記大径部と前記複数のテーパ部と前記段部とを同心で一体的に連結したことを特徴とする。
【0009】
上記構成からなる拡径部材は、小径部から大径部までの間に、大小複数のテーパ部が順番に設けられているため、複数のテーパ部に目標とする径差を分配することができ、常温収縮チューブの座屈の発生を低減することが可能となる。
本発明より座屈を防止できる原理は明確ではないが、複数のテーパ部により、常温収縮チューブが複数回に分けて拡径されると共に、テーパ部の間の段部で拡径の過程が一次的に休止されることが、座屈防止に寄与しているものと、本発明者は考察している。
【0010】
また、常温収縮チューブは、その内周面と拡径部材の小径部との間の隙間が大きくなると、拡径に常温収縮チューブの先端部が不安定となって座屈を生じやすくなるが、本発明の場合には、常温収縮チューブの拡径率が小さいうちに常温収縮チューブの内周面に拡径部材の段部が入り接触支持するので、常温収縮チューブの先端部を安定させた状態で拡径を行うことができ、かかる作用によっても座屈の発生を効果的に低減することが可能となる。
【0011】
また、本発明は、複数のテーパ部について、大径部に近いものほど円錐面における中心線に対する傾斜角度を小さくすることが望ましい。
複数のテーパ部は、大径部に近いものほど外径が大きいので、当該テーパ部を通過する際に常温収縮チューブの座屈を生じる可能性が高くなるが、外径の大きなテーパ部ほど傾斜角度を緩やかにすることで、座屈の発生を低減させることが可能である。従って、この構成により、より大きな径差での拡径を行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明は、前記大径部は内部を中空として、前記拡径保持用筒体を格納保持する構造としても良い。
かかる構造とした場合、拡径作業時に拡径部材に対して移動する常温収縮チューブによって拡径保持用筒体が後方に押し出されて位置ズレを生じないように大径部が拡径保持用筒体をカバーするので、常温収縮チューブに対して拡径保持用筒体を適正な位置まで挿入することが容易となる。
【0013】
また、本発明は、前記大径部はその外径を、隣接する前記テーパ部の最大径部よりも小径とし、前記拡径保持用筒体を外周面上で保持する構造としても良い。
その場合、拡径保持用筒体が大径部により内側から支持されるので、常温収縮チューブの収縮による圧力で拡径保持用筒体が損傷しないよう保護することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、拡径部材に大小のテーパ部と段部とを設けることにより、常温収縮チューブの座屈の発生を効果的に低減することができるので、これにより、表面の皺、内部剥離等による常温収縮チューブの電気特性や絶縁性能の低下を回避することができ、常温収縮チューブが電力ケーブルの中間接続部に取り付けられた場合に、高い絶縁性を安定的に発揮ことが可能となる。
また、常温収縮チューブの座屈の発生を低減することが可能となるので、常温収縮チューブをより薄肉化して常温収縮チューブの材料コスト低減や当該チューブを装着した中間接続部の細径化を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】電力ケーブルの中間接続部に常温収縮チューブを配置した状態を示すケーブルの中心線に沿った断面による断面図である。
【
図2】常温収縮チューブを電力ケーブルの中間接続部に取り付ける作業を順番に示した説明図であって、
図2(A)は常温収縮チューブの位置を中間接続部に合わせた状態、
図2(B)は拡径保持用筒体の解体を開始した状態、
図2(C)は拡径保持用筒体の除去が完了した状態を示す。
【
図3】常温収縮チューブの中心孔を拡径するための拡径部材の側面図である。
【
図4】拡径部材の中心線に沿った断面による断面図である。
【
図5】常温収縮チューブに対する拡径保持用筒体の装着のための拡径作業を示す工程図であって、
図5(A)拡径開始前の各部の配置を示し、
図5(B)は拡径部材の前進移動開始状態を示し、
図5(C)は常温収縮チューブに対する拡径部材の挿入完了状態を示し、
図5(D)はこの挿入が完了した拡径部材と常温収縮チューブを一旦後退させた状態を示し、
図5(E)は拡径部材が常温収縮チューブから完全に脱した状態を示す。
【
図7】
図7(A)は本発明の拡径部材の他の実施形態の要部の側面図、
図7(B)は本発明の拡径部材の他の実施形態の要部の側面図、
図7(C)は本発明の拡径部材の他の実施形態の要部の側面図である。
【
図9】従来の拡径部材による常温収縮チューブの座屈発生状況を示す説明図であって、
図9(A)は常温収縮チューブを断面視した側面図を示し、
図9(B)は側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の実施形態の概要]
本発明の実施の形態を
図1〜
図4に基づいて説明する。
本実施形態は、電力ケーブル90,90の中間接続部91を絶縁するために被覆装着される常温収縮チューブ80の中心孔81に予め拡径保持用筒体70を挿入するための拡径部材10に関するものである。
【0017】
[電力ケーブル]
図1は、電力ケーブル90,90の中間接続部91に常温収縮チューブ80を配置した状態を示している。
上記電力ケーブル90,90の端部は、ビニールシース94、絶縁層93を順次段剥ぎして導体92を露出させ、導体92,92同士を接続管で接続するなど周知の手法で中間接続部91を形成する。
【0018】
[常温収縮チューブ]
常温収縮チューブ80は、
図1に示すように、中心孔81が形成された筒状の絶縁層82と、絶縁層82の内周面上であって長手方向中間位置に形成された内部半導電層84と、絶縁層82の外周面全体を覆うように形成された外部半導電層83とを備えている。
上記絶縁層82は、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレン等の絶縁性材料から形成され、内部半導電層84及び外部半導電層83は上記絶縁性材料にカーボンを添加した半導電性ゴムから形成されている。さらに、絶縁層82、内部半導電層84及び外部半導電層83は、一体成型されている。
【0019】
上記常温収縮チューブ80の中心孔81の内径は、電力ケーブル90及び中間接続部91の外径よりも小さく設定されている。この常温収縮チューブ80は、中間接続部91に装着する前に、その内径が電力ケーブル90の外径よりも大きな拡径保持用筒体70が中心孔81に装着され、電力ケーブル90を容易に挿入できるようにされる。そして、電力ケーブル90の中間接続部91が形成された後に拡径保持用筒体70を除去して、常温収縮チューブ80を収縮させて電力ケーブル90及び中間接続部91の外周面への密着を可能としている。
【0020】
[拡径保持用筒体]
拡径保持用筒体70は、例えば、プラスチック製の紐状体71を螺旋状に巻回し、互いに隣接する紐状体71の側面同士を融着もしくは接着することで全体を円筒状に形成している。
拡径保持用筒体70の内径寸法は、電力ケーブル90の外径よりも大きく設定されており、拡径保持用筒体70を常温収縮チューブ80の中心孔81に装着することで、電力ケーブル90の挿入を容易とし、また、電力ケーブル90に対して常温収縮チューブ80を任意に移動させることができる。
この拡径保持用筒体70は、全体を構成する紐状体71の一端部をその中心線方向に沿って引っ張ることで紐状体71の接合面同士を剥離させることができ、これにより、拡径保持用筒体70を一端部から順次解体して、常温収縮チューブ80の内側から除去することが可能となっている。
【0021】
[常温収縮チューブの取り付け作業]
図2は常温収縮チューブ80を電力ケーブル90,90の中間接続部91に取り付ける作業を順番に示した説明図である。
まず、一方の電力ケーブル90を常温収縮チューブ80の内側の拡径保持用筒体70に通した状態で、接続を行う電力ケーブル90,90の導体92,92を接続し、所定の処理を施して中間接続部91を形成する。
この後、
図2(A)に示すように、常温収縮チューブ80を中間接続部91の周囲に配置し、拡径保持用筒体70の紐状体71の一端部を当該拡径保持用筒体70の内側から逆側の端部に引っ張り出して、拡径保持用筒体70を一端側から解体する。これにより、
図2(B)に示すように、常温収縮チューブ80は一端側から収縮し、その内周面が電力ケーブル90の段剥ぎ部分及び中間接続部91等の外周面に密着する。
そして、
図2(C)に示すように、拡径保持用筒体70の解体除去が完了すると、常温収縮チューブ80が完全に電力ケーブル90,90の段剥ぎ部分及び中間接続部91に密着し、これら全てを被覆して、その取り付けが完了する。
【0022】
[拡径部材]
上述したように、常温収縮チューブ80を電力ケーブル90の中間接続部91に装着するには、予め、拡径保持用筒体70を常温収縮チューブ80の中心孔81に挿入する必要があるが、収縮性を有する常温収縮チューブ80に対してその中心孔81よりも大径の拡径保持用筒体70を挿入するには、常温収縮チューブ80の中心孔81を拡径させるための拡径部材10が必須となる。
図3は常温収縮チューブ80を拡径するための拡径部材10の側面図、
図4は拡径部材10の中心線に沿った断面による断面図である。
【0023】
拡径部材10は、拡径作業において最初に常温収縮チューブ80の中心孔81に挿入される小径部20と、当該小径部20に連接される第一のテーパ部41と、当該第一のテーパ部41に連接される段部43と、当該段部43に連結される第二のテーパ部42と、当該第二のテーパ部42に連結されると共に拡径保持用筒体70を保持する大径部30とを備えており、これらはいずれも回転体形状であって全てが同心となるように一体的に連結されている。
また、拡径部材10は、その一端部に小径部20が設けられ、他端部に大径部30が設けられている。以下の説明では、小径部20側を拡径部材10における「前」、大径部30側を「後」と定義して説明する。
【0024】
上記小径部20は、その外径が長手方向に渡って一定であって常温収縮チューブ80の中心孔81の内径よりも小さい断面円形のロッドであり、拡径作業時にはその前端部側から常温収縮チューブ80の中心孔81に挿入される。
【0025】
大径部30は、円筒状に形成されると共にその後端部が開口している。さらに、大径部30の内部の中心位置には、
図4に示すように、拡径作業時に、拡径部材10全体を支持するための支柱31が設けられている。この支柱31の前端部は、大径部30の奥部に設けられた隔壁32に固定支持されている。また、拡径作業時には、支柱31の後端部は、油圧装置に保持されて、拡径部材10を常温収縮チューブ80に挿入するために前進移動の動力が付与される。
また、大径部30は、内部が拡径保持用筒体70の格納保持スペースとなっている。大径部30に格納された拡径保持用筒体70は、その後端部が大径部30の後端部から幾分突出した状態となり、拡径作業時には、当該拡径保持用筒体70の突出端部の外周面に大径部30の外周面上を通過した常温収縮チューブ80の後端部が乗り移って密着する。そして、拡径部材10に対して後方に移動する常温収縮チューブ80は、拡径保持用筒体70との密着部位を足がかりにして大径部30から拡径保持用筒体70を後方に引き出して、常温収縮チューブ80の内周面全体が拡径保持用筒体70の外周面に密着し、挿入状態を形成するようになっている。
【0026】
第一のテーパ部41は、前端部が小径、後端部が大径となる円錐台形状であり、前端部の外径は小径部20の外径と一致し、後端部の外径は後述する段部43の外径と一致している。また、その外周面は円錐面となっており、当該円錐面における中心線に対する傾斜角は5〜30°程度となっている。
【0027】
第二のテーパ部42は、前端部が小径、後端部が大径となる円錐台形状であり、前端部の外径は段部43及び第一のテーパ部41の後端部の外径と一致し、後端部の外径は、大径部30の外径と一致している。即ち、この第二のテーパ部42はその最小外径が第一のテーパ部41の最大外径と一致し且つ全体的に外径が大きく設定されている。
また、その外周面は円錐面となっており、当該円錐面における中心線に対する傾斜角は5〜30°程度となっている。但し、このCの傾斜角度は第一のテーパ部41の傾斜角度よりも小さくなるように設定されている。
【0028】
段部43は、第一のテーパ部41側の端部の外径R1と第二のテーパ部42側端部の外径R2とが均一となるように、全体的に同じ外径に形成されており、その前端部が第一のテーパ部41の後端部に連結され、その後端部は第二のテーパ部42の前端部に連結されている。これにより、小径部20から大径部30に常温収縮チューブ80を移動させるとき、途中で一端拡径ペースを緩めて二段階で拡径させることができる。言い換えると、段部43で拡径工程を一次的に休止して、全体的に穏やかなベースで常温収縮チューブ80を拡径することができる。
図3に示すように、第一テーパ部41における常温収縮チューブ80の内径より大径となる部分の長さと当該段部43の長さの和L2は、常温収縮チューブ80の長さL1と同じ長さになっている。
【0029】
なお、小径部20、第一のテーパ部41、段部43、第二のテーパ部42、大径部30は、一部又は全部について一部材で形成してもよいし、各々を別のパーツで形成して一体的に組み上げても良い。
また、上記構成からなる拡径部材10は、ステンレス等の硬質金属又は強化プラスチック等、拡径時に各部に生じる応力に耐久し得る材料を用いて形成される。
【0030】
また、拡径部材10の外面と常温収縮チューブ80の内面のいずれか一方又は双方には,拡径作業時に、摩擦低減のための潤滑剤をとすることが望ましい。その場合、潤滑剤は、常温収縮チューブ80に浸透しにくく、膨潤等の劣化を生じさせないオイル又はグリスを用いることが望ましい。
また、段部43は、テーパ部41、42より緩いテーパに形成してもよく(
図7により後述する)、必ずしも全体を同じ外径(軸方向に平らに)に形成する必要はない。
【0031】
[実施例]
上述の各構成を適用して常温収縮チューブ80に拡径保持用筒体70を装着する拡径作業を
図5の工程図に示す。
なお、ここでは、常温収縮チューブ80の中心孔81の内径がφ48[mm]、拡径保持用筒体70の外径がφ144[mm]、拡径部材10の段部43の外径がφ127[mm]、大径部30の外径がφ152[mm]の場合を例示する。
【0032】
拡径作業時には、
図5(A)に示すように、常温収縮チューブ80に対して拡径部材10を前進移動させるための油圧装置51に拡径部材10の支柱31の後端部が保持される。
このとき、拡径保持用筒体70は拡径部材10の大径部30の内部に格納保持されている。
また、常温収縮チューブ80は、拡径部材10の小径部20が挿入された状態にあり、常温収縮チューブ80の前方には常温収縮チューブ80の前進移動を規制するストッパ52が配置されている。
【0033】
次に、
図5(B)に示すように、油圧装置51の作動により拡径部材10の前進移動が開始される。このとき、常温収縮チューブ80はストッパ52により前進移動が規制されるため、その後端部から拡径部材10の第一のテーパ部41,段部43,第二のテーパ部42,大径部30が順番に挿入される。
そして、
図5(C)に示すように、常温収縮チューブ80の後端部が拡径保持用筒体70の段部43の後端部に到達するまで拡径部材10の前進移動が行われると、一旦、拡径部材10は常温収縮チューブ80と共に元の位置まで後退移動を行う。
【0034】
そして、
図5(D)に示すように、常温収縮チューブ80の前進移動を規制し、拡径部材10の前進移動を許容する新たなストッパ53を設置し、油圧装置51により再び拡径部材10を前進移動させる。
これにより、拡径部材10のみが前進移動し、常温収縮チューブ80は拡径部材10に対して相対的に後退移動する。このとき、拡径保持用筒体70の後端部の外周面に常温収縮チューブ80の後端部の内周面が密着するので、拡径保持用筒体70は拡径部材10の後方に引き出され、拡径保持用筒体70は常温収縮チューブ80と共にその場に滞留する。
そして、
図5(E)に示すように、拡径部材10が常温収縮チューブ80から完全に脱することで、常温収縮チューブ80内に拡径保持用筒体70が挿入された状態となり、拡径作業が完了する。
【0035】
上記実施例における拡径部材10は、内径がφ48[mm]の常温収縮チューブ80を大径部30の外径であるφ152[mm]まで拡径しても座屈が発生せず、外径がφ144[mm]の拡径保持用筒体70を良好に装着することが可能であった。
【0036】
[拡径部材による技術的効果]
上記構成からなる拡径部材10は、小径部20から大径部30までの間に、第一のテーパ部41,段部43,第二のテーパ部42が順番に設けられているため、二つのテーパ部41,42により二段階で拡径が行われることとなる。
従来、常温収縮チューブ80の先端部に座屈を発生させる原因の一つとして、テーパ部により拡径が行われる場合の径差(径の変化量)が大きいこと挙げられているが、この実施例の拡径部材10では、目標となる径差が大きい場合であっても、二つのテーパ部41,42により2回に分けて拡径するので、個々のテーパ部41,42における径差を低減することができると共に、テーパ部41,42の間の段部で拡径ペースを緩めるため、座屈の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0037】
また、常温収縮チューブ80の中心孔81と拡径部材10の小径部20との間の隙間が大きくなると、拡径に常温収縮チューブ80の先端部が不安定となって座屈の発生原因となるが、本実施例の拡径部材10の場合には、小径部20に加えて段部43が常温収縮チューブ80の内周面を接触支持するので、常温収縮チューブ80の先端部を安定させた状態で拡径を行うことができ、かかる作用からも座屈の発生を効果的に低減することが可能となる。
【0038】
特に、上記拡径部材10では、第一テーパ部41の常温収縮チューブ80の内径より大径の部分の長さと段部43の長さの和L2を常温収縮チューブ80の長さL1と同じ長さにしているので、常温収縮チューブ80を更に大きく拡径する第二のテーパ部42に移る前に、常温収縮チューブ80の内周面に拡径部材10の外周面が隙間無く接した状態になる。その結果、常温収縮チューブ80をより安定させた状態で拡径することが可能になる。なお、常温収縮チューブ80は拡径されると短くなるので、前記常温収縮チューブが拡径されていないときの長さL1よりも長さL2が短くても、その差が常温収縮チューブ80の収縮長さの範囲内であれば、前記の作用は奏される。言い換えると、段部43の第二テーパ部42側の端部に一端が達するまで常温収縮チューブ80押し込まれたとき、常温収縮チューブ80の他端の内周面全体が第一テーパ部41の外面に接した状態になっていれば、前記作用が奏される。
【0039】
そして、上述のように、常温収縮チューブ80の座屈の発生が効果的に低減されるので、表面の皺、内部剥離等による電気特性や絶縁性能の低下を回避することができ、常温収縮チューブ80が電力ケーブル90の中間接続部91に取り付けられた場合に、高い絶縁性を安定的に発揮することが可能である。
また、常温収縮チューブ80の座屈の発生を低減することが可能となるので、常温収縮チューブ80の薄肉化を促進して常温収縮チューブ80の材料コスト低減や、常温収縮チューブ80を装着した中間接続部91の細径化を実現することが可能となる。
【0040】
また、拡径部材10は、大径部30に近い第二のテーパ部42の円錐面における中心線に対する傾斜角度を第一のテーパ部41よりも小さくしているため、座屈を生じやすい外径の大きな第二のテーパ部42について、傾斜角度を緩やかにすることで座屈の発生を抑制することができ、より大きな径差での拡径も実現可能となっている。
【0041】
[その他]
なお、本発明の拡径部材は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、
図6に示す拡径部材10Aのように、大径部30Aの外径を第二のテーパ部42の後端部の外径よりも小さくして、その外周に拡径保持用筒体70を装着保持する構造としてもよい。この場合、第二のテーパ部42の後端部の外径は、大径部30Aの外周に装着された拡径保持用筒体70の外径以上となることが望ましい。
この場合、拡径保持用筒体70が大径部30Aにより内側から支持されるので、第二のテーパ部42を通過した常温収縮チューブ80が収縮し、その収縮圧力で拡径保持用筒体70が損傷しないよう保護することが可能である。
また、大径部30Aは内部に拡径保持用筒体70を格納保持しない構造であることから、内部が中空である必要はなく、例えば中実の円柱体を使用してもよい。
この拡径部材10Aの大径部30A以外の構成は、前述した拡径部材10の各部と同一であることから、同符号を付して説明は省略する。
【0042】
また、前述した拡径部材10では、段部43を平滑に(全体を同径に)形成したが、
図7(A)に示すように、段部43は第一のテーパ部41側の端部の外径R1より第二のテーパ部42側の端部の外径R2が大きいものであっても良い。
また逆に、
図7(B)に示すように、段部43は第一のテーパ部41側の端部の外径R1より第二のテーパ部42側の端部の外径R2が小さいものであっても良い(但し、外径R2は、拡径されいない常温収縮チューブ80の内径よりも大きい)。
但し、押し込まれた常温収縮チューブ80の一端が段部43の第二テーパ部42側の端部に達したとき、常温収縮チューブ80の他端の内周面が第一テーパ部41の外面に接した状態になっていることが望ましい。
また、複数のテーパ部は、大径部30に近づくにつれて、その円錐面の中心線に対する傾斜角を徐々に小さくすることが望ましいが、
図7(A)及び
図7(B)に示すように、大径部30側の第二のテーパ部42の傾斜角を第一のテーパ部41の傾斜角より大きくすることも可能である。
また、前述した拡径部材10では、テーパ部を二つとしたが、
図7(C)に示すように、3つのテーパ部41A、41B、42、あるいは更に多くのテーパ部を形成して順番に拡径を行う多段式のテーパ構造としても良い。その場合、テーパ部間に段部(
図7(C)においては、段部43A,43B)を設ける。
【0043】
また、前述した拡径部材10の段部43における中心線方向の長さについては、常温収縮チューブ80よりも長くするなどの制限はなく、より短く形成しても良い。