【実施例1】
【0023】
本発明の踏切しゃ断機の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1は、踏切しゃ断機10の全体概要ブロック図であり、
図2は、踏切しゃ断機10の立面図であり、
図3は下限ストッパ60と緩衝部材70とストッパ位置調整機構80の断面図と伝動機構40の正面図である。
【0024】
踏切しゃ断機10は、従来品と同様、図示しない遮断桿を揺動可能に保持する遮断桿保持部20と、双方向回転可能なモータ30と、モータ30の回転運動を遮断桿保持部20の回転軸21に伝達する伝動機構40と、モータ30の回転運動を制御して遮断桿を昇降させる制御部50と、機械的当接にて遮断桿の下降を下降限界位置で止める下限ストッパ60と、遮断桿が下降限界位置に近づいたときに下限ストッパ60の当接時の衝撃を緩和する緩衝部材70とを備えている。また、踏切しゃ断機10は、従来品には無かったストッパ位置調整機構80を具備するとともに、ストッパ位置調整機構80の動作を制御して下限ストッパ60を当接部に向けて進退させるよう制御部50を機能を拡張したものとなっている。これらは、遮断桿保持部20と回転軸21の端部とを除き、総て、地上に立設された支柱11の上端に固定された筐体12に格納装着されており、点検や修理時には蓋部13を開けることで筐体12の中の各部材を露出させようになっている。
【0025】
本例では、セクタギヤ41とピニオン42とを噛合させた歯車減速機構が伝動機構40に採用されており、ピニオン42がモータ30の回転出力軸に噛合し、セクタギヤ41が、回転軸嵌入穴41aに挿通させた回転軸21を介して、遮断桿保持部20に連結されている。伝動機構40には下限検出器43と上限検出器44も付設されている。また、セクタギヤ41の揺動端面には緩衝部材70が装着され、下限ストッパ60がストッパ位置調整機構80を介して筐体12の内枠等に装着されていて、遮断桿が下降して下降限界位置に近づくと先ず下限ストッパ60と緩衝部材70とが軽く当接し、更に遮断桿が下降すると反力を増しながら緩衝部材70が変形し、遂に遮断桿が下降限界位置まで下降すると緩衝部材70の変形が止まって機械的当接状態になり遮断桿の下降が強く押し止められるようになっている。
【0026】
緩衝部材70は、圧縮コイルばね・スプリングを図示したが、引張バネでも良く、十分な変形能を持ち必要な弾撥力を出せるものであれば、他の弾性体であっても良い。緩衝部材70は、下降限界位置の近傍で働けば足り、遮断桿が上昇したら速やかに下限ストッパ60から離れるほど小さく済む。なお、緩衝部材70を伝動機構40に付設するのは必須でなく、緩衝部材70は、下限ストッパ60の方に付設しても良く、伝動機構40と下限ストッパ60とに分けて付設しても良い。緩衝部材70を下限ストッパ60に付設した場合、緩衝部材70は下降限界位置の近傍だけで伝動機構40と当接することになる。
【0027】
本例では、緩衝部材70がスプリングからなり、緩衝部材70の一端面がセクタギヤ41に当接されており、セクタギヤ41に植設されたガイド71の案内によってヘッド72が進退可能になっており、そのヘッド72が緩衝部材70の先端に装着されている。そして、ヘッド72が下限ストッパ60に対して直に当接することで、緩衝部材70や伝動機構40が下限ストッパ60に対して間接的に当接するものとなっている。下限ストッパ60は、ガイド71を逃げるために一端面の中央部分が刳り抜かれてカップ状になっており、他端面の中央には雌ネジ62が形成されており、外周には突出61が突き出ている。
【0028】
ストッパ位置調整機構80は、上述したように下限ストッパ60と筐体12との間に介在するものであるが、具体的には、モータマウントにて筐体12の内枠に固定された小型のモータ81と、モータ81の回転出力軸に雄ねじを形成したかのような調整ネジ82と、調整ネジ82と平行な案内溝が複数本形成されているガイド83とを具備している。そして、調整ネジ82を下限ストッパ60の雌ネジ62に螺合させるとともに、ガイド83の溝に下限ストッパ60の突出61を遊嵌させることで、下限ストッパ60を支持するとともに、モータ81の回転出力にて下限ストッパ60を進退させるようになっている。
【0029】
また、このストッパ位置調整機構80の動作制御に供するため、モータ30の駆動電流を検出する電流検出器32が、モータ30の駆動ラインに付設されている。さらに、モータ30には、モータ30の昇降動作や姿勢維持のフィードバック制御に供するため、モータ30の回転状態たとえば位相角などを検出する回転検出器31が付設されている。回転検出器31の検出結果も電流検出器32の検出結果も制御部50の制御用論理回路51に送出されるようになっている。制御部50は、遮断桿昇降制御部52とストッパ進退制御部53とを有する制御用論理回路51と、モータ30に駆動電流を供給するモータ駆動回路54と、モータ81に駆動電流を供給するモータ駆動回路55とを備えている。
【0030】
制御部50のうち、モータ駆動回路54は、遮断桿の昇降に要する電力をモータ30に供給できれば、従来品と同じで良く、モータ駆動回路55は、小規模なストッパ位置調整機構80の低速動作に要する電力をモータ81に供給できれば良いので、モータ駆動回路54より小規模な同様回路で足りる。制御用論理回路51は、制御信号等の入出力と論理演算とが行えて、次に挙げる遮断桿昇降制御部52とストッパ進退制御部53の機能を具現化できるものであれば、プログラマブルなマイクロプロセッサシステムでも良く、ハードワイヤードのデジタル回路でもアナログ回路でもリレー回路でも良い。
【0031】
遮断桿昇降制御部52は、回転検出器31と下限検出器43と上限検出器44との検出結果に基づいてモータ30の回転位置ひいては遮断桿保持部20の保持する遮断桿の昇降位置を求める位置検出手段と、例えば暗号化赤外線通信等で外部の設定器から送信されて来た設定指示を受信するとそれに含まれている上昇目標位置や下降目標位置を記憶保持する設定手段と、外部の踏切制御装置から受けた列車入信号TERに応じて上昇制御すべきか下降制御すべきか判別して上昇制御時には上昇目標位置を制御目標に採択し下降制御時には下降目標位置を制御目標に採択する目標選択手段と、その制御目標と上述した遮断桿の昇降位置とを比較して遮断桿の昇降位置を制御目標に追随させるフィードバック制御の演算を行って制御指令をモータ駆動回路54に送出する昇降制御手段とを具えている。
【0032】
このような遮断桿昇降制御部52を具備した制御部50は、遮断桿の上昇制御時には遮断桿の上昇停止位置が上昇目標位置になるようモータ駆動回路54を介してモータ30の回転動作をフィードバック制御するとともに、遮断桿の下降制御時には遮断桿の下降停止位置が下降目標位置になるようモータ駆動回路54を介してモータ30の回転動作をフィードバック制御するものとなっている。また、電源断時には安全のため遮断桿が自重で下降するようにしておかなければならないので、遮断桿の上昇制御時には、遮断桿の上昇停止位置を上昇目標位置に追随させるフィードバック制御を遮断桿の上昇後も継続するようになっていても、遮断桿の下降制御時にはそうでないのが一般的であるが、この制御部50にあっては、遮断桿の下降制御時にも、遮断桿の下降停止位置を下降目標位置に追随させるフィードバック制御を遮断桿の下降後も継続するようになっている。
【0033】
ストッパ進退制御部53は、電流検出器32の検出結果と目標の値“0”とに基づいてモータ30の駆動電流が小さくなってゼロに近づくような制御量を算出してそれをモータ駆動回路55に制御指令として送出するようになっている。ただし、その指令送出は、遮断桿昇降制御部52の目標選択手段が下降制御すべきと判別しているときだけ、さらには遮断桿昇降制御部52の昇降制御手段での演算において遮断桿の昇降位置と制御目標との差が全く無いか実用上無いと言える状態が既定の時間たとえば数秒に亘って続いた後であってその後も継続している間だけ、しか行われない。このようなストッパ進退制御部53を具備した制御部50は、遮断桿の下降停止位置が所定時間以上継続して下降目標位置になっているときに限ってストッパ位置調整機構80を作動させるものとなっている。
【0034】
この実施例1の踏切しゃ断機10について、使用態様と動作を説明する。設置当初から説明すると、先ず、鉄道の踏切道に踏切しゃ断機10を設置して、その遮断桿保持部20に遮断桿を装着する。次に、設定器を一時接続して、その設定器にて外部から設定指示を与えることで、制御部50の制御用論理回路51に上昇目標位置と下降目標位置とを初期設定する。また、外部の踏切制御装置と又は調整用の模擬装置とケーブルで接続して制御部50の制御用論理回路51が外部から列車入信号TERを受け取れるようにする。
【0035】
それから、列車入信号TERに応じて又は調整用の模擬信号に応じて遮断桿昇降制御部52がモータ30の回転動作ひいては遮断桿保持部20の揺動をフィードバック制御することにより遮断桿が昇降するので、踏切道を開ける遮断桿の上昇停止位置と踏切道を閉める遮断桿の下降停止位置が所望の位置になるよう、設定器を操作して、制御用論理回路51の記憶保持する上昇目標位置と下降目標位置を設定し直す。その位置調整が済んだら、調整用の模擬装置を接続した場合にはそれを外して踏切制御装置に接続し直し、列車入信号TERに応じて遮断桿が的確に昇降し所望の目標位置で静止することを確認する。
【0036】
こうして、設置の後の調整等の初期作業が完了し、以後は、自動運転にて通常の使用に供することになるが、この踏切しゃ断機10にあっては、遮断桿の下降時に特徴的な動作も行うので、以下、それを詳述する。遮断桿が下降したとき、踏切しゃ断機10の筐体内では、伝動機構40と下限ストッパ60とが近接して、緩衝部材70を介在させた状態で間接的に当接するが、そのときばかりかその後の姿勢維持時にも、遮断桿昇降制御部52によるモータ30のフィードバック制御が継続されていて、遮断桿の下降停止位置が下降目標位置に一致するようモータ30がトルクを出し続けるので、それで揺動位置の決まる伝動機構40とストッパ位置調整機構80にて位置決めされている下限ストッパ60とに挟まれて、緩衝部材70は縮んで反力を出している。
【0037】
緩衝部材70の反力は、遮断桿の重さとモータ30のトルクとが伝動機構40を介して伝達されながら加わった合力に対向するものであり、緩衝部材70の反力が遮断桿の重さと釣り合うと、モータ30がトルクを出さなくてよくなるので、モータ30の駆動電流が無くなるが、緩衝部材70の反力が遮断桿の重さと釣り合っていないときには、モータ30がトルクを出すので、モータ30の駆動電流が無くならない。このような動作状況で、踏切しゃ断機10にあっては、モータ30の駆動電流が電流検出器32によって検出され、その検出値がストッパ進退制御部53に入力されて、モータ30の駆動電流の検出値を目標“0”にする追随制御の指令演算が行われ、その指令に従うストッパ位置調整機構80によって下限ストッパ60の進退制御ひいては緩衝部材70の伸縮制御が行われる。
【0038】
具体的には、モータ30が遮断桿を下げる向きのトルクを出しているときには、下限ストッパ60が後退させられて、緩衝部材70が伸びる。これに対し、モータ30が遮断桿を上げる向きのトルクを出しているときには、下限ストッパ60が前進させられて、緩衝部材70が縮む。そして、何れの場合も、緩衝部材70の反力が遮断桿の重さと釣り合ったところで、下限ストッパ60の進退が止まり、モータ30の駆動電流が無くなるか最小になる。こうして、初期設定後は自動で勝手にモータ30の消費電力が節減される。
また、設置先の踏切形状や使用状況の変化や,踏切しゃ断機10の特性変化,遮断桿の変形などに起因して、上昇目標位置や下降目標位置を微調整したくなったときは、設定器を一時接続して上昇目標位置や下降目標位置を設定し直せば良く、その場合も、再設定後は自動で勝手にモータ30の消費電力が節減される。
【0039】
さらに、そのような下限ストッパ60の進退制御は、昇降制御に比べて桁違いに長い時間を掛けてゆっくり進められるうえ、遮断桿の下降停止位置が所定時間以上継続して下降目標位置になっているときに限って行われ、遮断桿が上昇しているときや,遮断桿が下降したときでも未だ姿勢が安定していないとき,さらには下降停止位置維持中でも遮断桿が通行人・通過車両・風などの外乱で姿勢が揺らいだとき等には行われないので、遮断桿の昇降状態にも踏切周囲の環境状態にも影響されることなく安定に動作する。
【0040】
[その他]
上記実施例では、遮断桿昇降制御部52が位置制御しか行っていないが、遮断桿昇降制御部52が昇降後の位置制御に加えて昇降途中の速度制御も行うようにしても良い。
また、上記実施例では、下限検出器43と上限検出器44と回転検出器31の検出結果から遮断桿の揺動状態・昇降状態を得るようになっていたが、それらの検出器に代えて又はそれに加えて変位計や距離計などを導入しても良い。
さらに、実施に際しては制御部50にフェールセーフ性が要求されるが、これは公知技術の組み合わせにより叶えられる。