特許第5743318号(P5743318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5743318
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】踏切しゃ断機
(51)【国際特許分類】
   B61L 29/16 20060101AFI20150611BHJP
【FI】
   B61L29/16
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-26589(P2011-26589)
(22)【出願日】2011年2月9日
(65)【公開番号】特開2012-166578(P2012-166578A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2014年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106345
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 香
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳貴
(72)【発明者】
【氏名】木村 実
(72)【発明者】
【氏名】播磨 義憲
【審査官】 岩田 玲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−160635(JP,A)
【文献】 特開2006−069333(JP,A)
【文献】 特開2010−228580(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/284987(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮断桿を揺動可能に保持する遮断桿保持部と、双方向回転可能なモータと、前記モータの回転運動を前記遮断桿保持部に伝達する伝動機構と、前記モータの回転運動を制御して前記遮断桿を昇降させる制御部と、機械的当接にて前記遮断桿の下降を下降限界位置で止める下限ストッパと、前記遮断桿が前記下降限界位置に近づいたときに前記下限ストッパの当接時の衝撃を緩和する緩衝部材とを備えた踏切しゃ断機において、前記下限ストッパを当接方向へ進退させるストッパ位置調整機構が、前記下限ストッパに付設され、前記制御部は、前記遮断桿の下降制御時に前記遮断桿の下降停止位置が下降目標位置になるようフィードバック制御するとともに、そのフィードバック制御を前記遮断桿の下降後も継続するものであって、更に、前記モータの駆動電流がゼロに近づくよう前記ストッパ位置調整機構を作動させるようになっている、ことを特徴とする踏切しゃ断機。
【請求項2】
前記制御部は、前記遮断桿の下降停止位置が所定時間以上継続して下降目標位置になっているときに限って、前記ストッパ位置調整機構を作動させるようになっている、ことを特徴とする請求項1記載の踏切しゃ断機。
【請求項3】
前記緩衝部材が直には前記伝動機構に作用することで前記遮断桿に対して間接的に作用を及ぼすものであり、前記下限ストッパと前記緩衝部材と前記ストッパ位置調整機構と前記モータと前記伝動機構と前記制御部が共通の筐体に内蔵されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された踏切しゃ断機。
【請求項4】
前記緩衝部材が前記下限ストッパ及び前記伝動機構の何れか一方または双方に付設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載された踏切しゃ断機。
【請求項5】
前記制御部は、外部から受けた指示に応じて前記下降目標位置を設定するようになっている、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載された踏切しゃ断機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の踏切しゃ断機に関し、詳しくは、片持ちの遮断桿が下降したときにバネ等の緩衝部材や下限ストッパが働くようになっている踏切しゃ断機に関する。
【背景技術】
【0002】
踏切しゃ断機は、鉄道の踏切に設置され、遮断桿を装着されて、踏切開閉のため遮断桿を水平から鉛直へ鉛直から水平へ揺動させるものであり、そのために、保持機構と揺動機構とを具備しており遮断桿を保持して揺動する作動部と、電動モータを具備していて運動する駆動部と、駆動部の運動を作動部に伝達する伝動機構とを具えている。さらに、遮断桿の片持ち状態に基づいて遮断桿保持部から揺動軸・回転軸へ不所望に掛かる負荷側回転力を減殺するバランサーをも具えているものもあるが、そうでないものもある。
【0003】
バランサーとしてウェイトを用いた踏切しゃ断機では、バランサーが本体・筐体の外に設置されるため、機構部が大掛かりになるうえ、動作が雪などの悪影響を受けやすい。そこで、バランサーにバネを採用し、伝動機構を減速ギヤ機構からボールねじ機構に換える等のことで、バランサーを本体・筐体に内蔵したものが開発されている(例えば特許文献1参照)。この踏切しゃ断機では、遮断桿の全動作範囲すなわち遮断桿が鉛直状態と水平状態との間で揺動する全域において、バネがバランサーとしての付勢力を出すようになっている。そして、広範・広域でバランスさせるためにリンク等が併用されている。
【0004】
電動モータについては、ブラシレスモータやサーボモータ等の採用が増えており、コイル等の電流検出器やロータリエンコーダ等の回転検出器を付設して、その検出に基づいてフィードバック制御するとともに機能を向上させたものも多い(例えば特許文献2〜6参照)。検出信号利用の機能向上例としては、モータ動作中のモータ駆動電流等を検出して下降中の跳ね上がり制御や上昇中の振りほどき制御を行うようになったものや(例えば特許文献2参照)、モータ回転位置等を検出して遮断桿の下降時間と上昇時間と下降停止位置と上昇停止位置とを外部から設定できるようになったもの(例えば特許文献3参照)、伝動機構の所で位置検出を行うもの(例えば特許文献5参照)、モータ駆動電流等の検出結果を設定部に表示して可視化したものが挙げられる(例えば特許文献6参照)。
【0005】
また、モータの駆動については、遮断桿の昇降時にはモータを駆動するが遮断桿が下降したらモータを停止するとともにブレーキで遮断桿を停止させるものや(例えば特許文献2,3参照)、遮断桿の昇降時ばかりか停止時にも、目標位置を変化させるか固定し続けるかしながら、モータに電流を流して又は流せる状態でモータの駆動を継続して行うものもある(例えば特許文献5の背景技術を参照)。
【0006】
さらに、バランサーを無くしてその代わりに機械的当接利用の下限ストッパを設けるとともに、遮断桿の下降限界位置で下限ストッパに遮断桿保持部材の揺動アームを当接させて下降を止めるとともにモータの駆動を停止させるようにしたものも開発されている(例えば特許文献5参照)。この踏切しゃ断機では、下限ストッパと揺動アームとの当接部には、当接時の衝撃を緩和するため、スプリング等の緩衝部材が組み込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−154433号公報
【特許文献2】特開2002−160634号公報
【特許文献3】特開2002−160635号公報
【特許文献4】特開2005−112151号公報
【特許文献5】特開2006−069333号公報
【特許文献6】特開2010−228580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような従来の踏切しゃ断機では、簡素化や小形化のため、バランサーがウェイトから昇降範囲全域付勢のバネになり更には機械的ストッパ及び緩衝バネで代用されるという開発の流れがみられる。最後の機械的ストッパと緩衝バネは、昇降範囲全域でなく下降停止位置直前の下降終末時と下降停止位置の維持時とにだけ働けば良いので、簡素化や小形化といった目的の達成度が高い。
また、遮断桿の下降停止位置を設定器等で設定できる制御を採用しているものでは、踏切しゃ断機が実際に踏切で稼働しているときでも、動作状態の目視確認などを行いながら、下降目標位置を設定し直すことで、容易に、遮断桿の下降停止位置を調整できる。
【0009】
さらに、下降停止位置で遮断桿に静止姿勢を維持させているときにモータを停止させる踏切しゃ断機では、下降停止位置で遮断桿を停止保持するのにブレーキやストッパを用いることで、モータ消費電力の節約も図っている。そのうち、ブレーキ併用のモータ停止方式には、ブレーキ一時解除機能を追加することで、下降目標位置の設定等にて遮断桿の下降停止位置を調整する手法が容易に導入できるという利点がある一方、下降停止位置の遮断桿をブレーキで停止しているときに、風や雪などの自然的要因あるいは人や車両などの人為的要因によって遮断桿に不所望な外力が作用し、それが踏切しゃ断機の遮断桿停止保持力を上回ると、遮断桿が位置ずれしてしまい、状況が良くてもブレーキ解除まで、状況が悪いと下降目標位置の再設定等にて遮断桿の下降停止位置を調整し直すまで、遮断桿がずれたままとなる。
【0010】
これに対し、ストッパ併用のモータ停止方式には、下降停止位置で働く機械的ストッパに加えて下降停止位置とその近傍で働く緩衝バネも設けられているので、下降停止位置で停止中の遮断桿に外力が作用した場合、外力の作用中は遮断桿の姿勢が乱れるが、外力が無くなれば緩衝バネの弾撥力によって遮断桿の姿勢が元に戻るという利点がある一方、ストッパ等での停止位置が一点だけで停止位置にブレーキのような幅がないので、下降目標位置の設定等にて遮断桿の下降停止位置を簡便に調整する手法を併用するのが難しい。
【0011】
もっとも、ブレーキ併用方式ではブレーキが昇降いずれも強制的に固定するの対し、ストッパ併用方式では、強制固定でなく、緩衝バネが下降停止位置での昇降程度に応じて反力を強化するようになっているので、下降停止位置でもモータを停止させず駆動を継続するように制御内容を変更すれば、下降目標位置の設定等にて遮断桿の下降停止位置を簡便に調整する手法が併用可能になると考えられる。しかも、そのように改造したストッパ併用方式にあっては、遮断桿の下降停止位置の調整に際し、ブレーキ併用方式のようなブレーキの一時解除が必要ないので、踏切に監視員を配置するまでもなく何時でも安全に遮断桿の下降停止位置の調整を行なえるという更なる利点も享受することができる。
【0012】
しかしながら、下降停止位置でもモータを停止させないで駆動を継続すると、モータの消費電力が増加する。特に、機械的ストッパ及び緩衝バネを用いるストッパ併用方式では、作用範囲の小さい緩衝バネは全域付勢バネより短くて、下降目標位置の変更が僅かなものであっても緩衝バネの反力は大きく変化しがちなので、モータの消費電力が大きく増加するおそれがある。このため、省エネ指向の強い現在では、モータの消費電力を節約できる対策まで施さなければ、下降停止位置でもモータ駆動を継続するという手法は実用化が叶わない。
そこで、機械的ストッパ及び緩衝バネ等で遮断桿を下降停止位置に停止させながらモータ駆動を継続して下降停止位置を下降目標位置に追随させてもモータ消費電力が少なくて済む踏切しゃ断機を実現することが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の踏切しゃ断機は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、遮断桿を揺動可能に保持する遮断桿保持部と、双方向回転可能なモータと、前記モータの回転運動を前記遮断桿保持部に伝達する伝動機構と、前記モータの回転運動を制御して前記遮断桿を昇降させる制御部と、機械的当接にて前記遮断桿の下降を下降限界位置で止める下限ストッパと、前記遮断桿が前記下降限界位置に近づいたときに前記下限ストッパの当接時の衝撃を緩和する緩衝部材とを備えた踏切しゃ断機において、前記下限ストッパを当接方向へ進退させるストッパ位置調整機構が、前記下限ストッパに付設され、前記制御部は、前記遮断桿の下降制御時に前記遮断桿の下降停止位置が下降目標位置になるようフィードバック制御するとともに、そのフィードバック制御を前記遮断桿の下降後も継続するものであって、更に、前記モータの駆動電流が小さくなるよう前記ストッパ位置調整機構を作動させるようになっている、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段2)、上記解決手段1の踏切しゃ断機であって、前記制御部は、前記遮断桿の下降停止位置が所定時間以上継続して下降目標位置になっているときに限って、前記ストッパ位置調整機構を作動させるようになっている、ことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段3)、上記解決手段1,2の踏切しゃ断機であって、前記緩衝部材が直には前記伝動機構に作用することで前記遮断桿に対して間接的に作用を及ぼすものであり、前記下限ストッパと前記緩衝部材と前記ストッパ位置調整機構と前記モータと前記伝動機構と前記制御部が共通の筐体に内蔵されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段4)、上記解決手段1〜3の踏切しゃ断機であって、前記緩衝部材が前記下限ストッパ及び前記伝動機構の何れか一方または双方に付設されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の踏切しゃ断機は(解決手段5)、上記解決手段1〜4の踏切しゃ断機であって、前記制御部は、外部から受けた指示に応じて前記下降目標位置を設定するようになっている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
このような本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段1)、遮断桿の位置のフィードバック制御が下降時ばかりか下降維持中にも継続して行われるようにしたにもかかわらず、そのときのモータ駆動電流がストッパ位置の自動調整にて小さくなるようにしたことにより、モータ駆動電流は、例えば下降目標位置の変更直後など一時的には増えることがあっても、常態としては僅少なものとなる。
したがって、この発明によれば、機械的ストッパ及び緩衝部材で遮断桿を下降停止位置に停止させながらモータ駆動を継続して下降停止位置を下降目標位置に追随させてもモータ消費電力が少なくて済む踏切しゃ断機を実現することができる。
【0019】
また、本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段2)、遮断桿の下降停止位置のフィードバック制御が安定しているときだけ、ストッパ位置調整の自動制御が働くようにしたことにより、簡便かつ的確に、二重の自動制御の相互干渉による不所望な発振の発生を回避することができる。
【0020】
さらに、本発明の踏切しゃ断機にあっては(解決手段3)、できるだけ多くの可動部材その他の部材を筐体の中に格納したので、外部環境の影響が弱くて済むこととなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1について、踏切しゃ断機の全体構造を示す概要ブロック図である。
図2】その踏切しゃ断機の機械的構造を示す立面図である。
図3】下限ストッパと緩衝部材とストッパ位置調整機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
このような本発明の踏切しゃ断機について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1により説明する。
図1〜3に示した実施例1は、上述した解決手段1〜5(出願当初の請求項1〜5)を総て具現化したものである。
なお、それらの図示に際し、形状表示に関しては、簡明化等のため、ボルト等の締結具や,ヒンジ等の連結具,電動モータ等の駆動源,モータドライバ等の電気回路,コントローラ等の電子回路,電気配線などは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心に図示した。
【実施例1】
【0023】
本発明の踏切しゃ断機の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、踏切しゃ断機10の全体概要ブロック図であり、図2は、踏切しゃ断機10の立面図であり、図3は下限ストッパ60と緩衝部材70とストッパ位置調整機構80の断面図と伝動機構40の正面図である。
【0024】
踏切しゃ断機10は、従来品と同様、図示しない遮断桿を揺動可能に保持する遮断桿保持部20と、双方向回転可能なモータ30と、モータ30の回転運動を遮断桿保持部20の回転軸21に伝達する伝動機構40と、モータ30の回転運動を制御して遮断桿を昇降させる制御部50と、機械的当接にて遮断桿の下降を下降限界位置で止める下限ストッパ60と、遮断桿が下降限界位置に近づいたときに下限ストッパ60の当接時の衝撃を緩和する緩衝部材70とを備えている。また、踏切しゃ断機10は、従来品には無かったストッパ位置調整機構80を具備するとともに、ストッパ位置調整機構80の動作を制御して下限ストッパ60を当接部に向けて進退させるよう制御部50を機能を拡張したものとなっている。これらは、遮断桿保持部20と回転軸21の端部とを除き、総て、地上に立設された支柱11の上端に固定された筐体12に格納装着されており、点検や修理時には蓋部13を開けることで筐体12の中の各部材を露出させようになっている。
【0025】
本例では、セクタギヤ41とピニオン42とを噛合させた歯車減速機構が伝動機構40に採用されており、ピニオン42がモータ30の回転出力軸に噛合し、セクタギヤ41が、回転軸嵌入穴41aに挿通させた回転軸21を介して、遮断桿保持部20に連結されている。伝動機構40には下限検出器43と上限検出器44も付設されている。また、セクタギヤ41の揺動端面には緩衝部材70が装着され、下限ストッパ60がストッパ位置調整機構80を介して筐体12の内枠等に装着されていて、遮断桿が下降して下降限界位置に近づくと先ず下限ストッパ60と緩衝部材70とが軽く当接し、更に遮断桿が下降すると反力を増しながら緩衝部材70が変形し、遂に遮断桿が下降限界位置まで下降すると緩衝部材70の変形が止まって機械的当接状態になり遮断桿の下降が強く押し止められるようになっている。
【0026】
緩衝部材70は、圧縮コイルばね・スプリングを図示したが、引張バネでも良く、十分な変形能を持ち必要な弾撥力を出せるものであれば、他の弾性体であっても良い。緩衝部材70は、下降限界位置の近傍で働けば足り、遮断桿が上昇したら速やかに下限ストッパ60から離れるほど小さく済む。なお、緩衝部材70を伝動機構40に付設するのは必須でなく、緩衝部材70は、下限ストッパ60の方に付設しても良く、伝動機構40と下限ストッパ60とに分けて付設しても良い。緩衝部材70を下限ストッパ60に付設した場合、緩衝部材70は下降限界位置の近傍だけで伝動機構40と当接することになる。
【0027】
本例では、緩衝部材70がスプリングからなり、緩衝部材70の一端面がセクタギヤ41に当接されており、セクタギヤ41に植設されたガイド71の案内によってヘッド72が進退可能になっており、そのヘッド72が緩衝部材70の先端に装着されている。そして、ヘッド72が下限ストッパ60に対して直に当接することで、緩衝部材70や伝動機構40が下限ストッパ60に対して間接的に当接するものとなっている。下限ストッパ60は、ガイド71を逃げるために一端面の中央部分が刳り抜かれてカップ状になっており、他端面の中央には雌ネジ62が形成されており、外周には突出61が突き出ている。
【0028】
ストッパ位置調整機構80は、上述したように下限ストッパ60と筐体12との間に介在するものであるが、具体的には、モータマウントにて筐体12の内枠に固定された小型のモータ81と、モータ81の回転出力軸に雄ねじを形成したかのような調整ネジ82と、調整ネジ82と平行な案内溝が複数本形成されているガイド83とを具備している。そして、調整ネジ82を下限ストッパ60の雌ネジ62に螺合させるとともに、ガイド83の溝に下限ストッパ60の突出61を遊嵌させることで、下限ストッパ60を支持するとともに、モータ81の回転出力にて下限ストッパ60を進退させるようになっている。
【0029】
また、このストッパ位置調整機構80の動作制御に供するため、モータ30の駆動電流を検出する電流検出器32が、モータ30の駆動ラインに付設されている。さらに、モータ30には、モータ30の昇降動作や姿勢維持のフィードバック制御に供するため、モータ30の回転状態たとえば位相角などを検出する回転検出器31が付設されている。回転検出器31の検出結果も電流検出器32の検出結果も制御部50の制御用論理回路51に送出されるようになっている。制御部50は、遮断桿昇降制御部52とストッパ進退制御部53とを有する制御用論理回路51と、モータ30に駆動電流を供給するモータ駆動回路54と、モータ81に駆動電流を供給するモータ駆動回路55とを備えている。
【0030】
制御部50のうち、モータ駆動回路54は、遮断桿の昇降に要する電力をモータ30に供給できれば、従来品と同じで良く、モータ駆動回路55は、小規模なストッパ位置調整機構80の低速動作に要する電力をモータ81に供給できれば良いので、モータ駆動回路54より小規模な同様回路で足りる。制御用論理回路51は、制御信号等の入出力と論理演算とが行えて、次に挙げる遮断桿昇降制御部52とストッパ進退制御部53の機能を具現化できるものであれば、プログラマブルなマイクロプロセッサシステムでも良く、ハードワイヤードのデジタル回路でもアナログ回路でもリレー回路でも良い。
【0031】
遮断桿昇降制御部52は、回転検出器31と下限検出器43と上限検出器44との検出結果に基づいてモータ30の回転位置ひいては遮断桿保持部20の保持する遮断桿の昇降位置を求める位置検出手段と、例えば暗号化赤外線通信等で外部の設定器から送信されて来た設定指示を受信するとそれに含まれている上昇目標位置や下降目標位置を記憶保持する設定手段と、外部の踏切制御装置から受けた列車入信号TERに応じて上昇制御すべきか下降制御すべきか判別して上昇制御時には上昇目標位置を制御目標に採択し下降制御時には下降目標位置を制御目標に採択する目標選択手段と、その制御目標と上述した遮断桿の昇降位置とを比較して遮断桿の昇降位置を制御目標に追随させるフィードバック制御の演算を行って制御指令をモータ駆動回路54に送出する昇降制御手段とを具えている。
【0032】
このような遮断桿昇降制御部52を具備した制御部50は、遮断桿の上昇制御時には遮断桿の上昇停止位置が上昇目標位置になるようモータ駆動回路54を介してモータ30の回転動作をフィードバック制御するとともに、遮断桿の下降制御時には遮断桿の下降停止位置が下降目標位置になるようモータ駆動回路54を介してモータ30の回転動作をフィードバック制御するものとなっている。また、電源断時には安全のため遮断桿が自重で下降するようにしておかなければならないので、遮断桿の上昇制御時には、遮断桿の上昇停止位置を上昇目標位置に追随させるフィードバック制御を遮断桿の上昇後も継続するようになっていても、遮断桿の下降制御時にはそうでないのが一般的であるが、この制御部50にあっては、遮断桿の下降制御時にも、遮断桿の下降停止位置を下降目標位置に追随させるフィードバック制御を遮断桿の下降後も継続するようになっている。
【0033】
ストッパ進退制御部53は、電流検出器32の検出結果と目標の値“0”とに基づいてモータ30の駆動電流が小さくなってゼロに近づくような制御量を算出してそれをモータ駆動回路55に制御指令として送出するようになっている。ただし、その指令送出は、遮断桿昇降制御部52の目標選択手段が下降制御すべきと判別しているときだけ、さらには遮断桿昇降制御部52の昇降制御手段での演算において遮断桿の昇降位置と制御目標との差が全く無いか実用上無いと言える状態が既定の時間たとえば数秒に亘って続いた後であってその後も継続している間だけ、しか行われない。このようなストッパ進退制御部53を具備した制御部50は、遮断桿の下降停止位置が所定時間以上継続して下降目標位置になっているときに限ってストッパ位置調整機構80を作動させるものとなっている。
【0034】
この実施例1の踏切しゃ断機10について、使用態様と動作を説明する。設置当初から説明すると、先ず、鉄道の踏切道に踏切しゃ断機10を設置して、その遮断桿保持部20に遮断桿を装着する。次に、設定器を一時接続して、その設定器にて外部から設定指示を与えることで、制御部50の制御用論理回路51に上昇目標位置と下降目標位置とを初期設定する。また、外部の踏切制御装置と又は調整用の模擬装置とケーブルで接続して制御部50の制御用論理回路51が外部から列車入信号TERを受け取れるようにする。
【0035】
それから、列車入信号TERに応じて又は調整用の模擬信号に応じて遮断桿昇降制御部52がモータ30の回転動作ひいては遮断桿保持部20の揺動をフィードバック制御することにより遮断桿が昇降するので、踏切道を開ける遮断桿の上昇停止位置と踏切道を閉める遮断桿の下降停止位置が所望の位置になるよう、設定器を操作して、制御用論理回路51の記憶保持する上昇目標位置と下降目標位置を設定し直す。その位置調整が済んだら、調整用の模擬装置を接続した場合にはそれを外して踏切制御装置に接続し直し、列車入信号TERに応じて遮断桿が的確に昇降し所望の目標位置で静止することを確認する。
【0036】
こうして、設置の後の調整等の初期作業が完了し、以後は、自動運転にて通常の使用に供することになるが、この踏切しゃ断機10にあっては、遮断桿の下降時に特徴的な動作も行うので、以下、それを詳述する。遮断桿が下降したとき、踏切しゃ断機10の筐体内では、伝動機構40と下限ストッパ60とが近接して、緩衝部材70を介在させた状態で間接的に当接するが、そのときばかりかその後の姿勢維持時にも、遮断桿昇降制御部52によるモータ30のフィードバック制御が継続されていて、遮断桿の下降停止位置が下降目標位置に一致するようモータ30がトルクを出し続けるので、それで揺動位置の決まる伝動機構40とストッパ位置調整機構80にて位置決めされている下限ストッパ60とに挟まれて、緩衝部材70は縮んで反力を出している。
【0037】
緩衝部材70の反力は、遮断桿の重さとモータ30のトルクとが伝動機構40を介して伝達されながら加わった合力に対向するものであり、緩衝部材70の反力が遮断桿の重さと釣り合うと、モータ30がトルクを出さなくてよくなるので、モータ30の駆動電流が無くなるが、緩衝部材70の反力が遮断桿の重さと釣り合っていないときには、モータ30がトルクを出すので、モータ30の駆動電流が無くならない。このような動作状況で、踏切しゃ断機10にあっては、モータ30の駆動電流が電流検出器32によって検出され、その検出値がストッパ進退制御部53に入力されて、モータ30の駆動電流の検出値を目標“0”にする追随制御の指令演算が行われ、その指令に従うストッパ位置調整機構80によって下限ストッパ60の進退制御ひいては緩衝部材70の伸縮制御が行われる。
【0038】
具体的には、モータ30が遮断桿を下げる向きのトルクを出しているときには、下限ストッパ60が後退させられて、緩衝部材70が伸びる。これに対し、モータ30が遮断桿を上げる向きのトルクを出しているときには、下限ストッパ60が前進させられて、緩衝部材70が縮む。そして、何れの場合も、緩衝部材70の反力が遮断桿の重さと釣り合ったところで、下限ストッパ60の進退が止まり、モータ30の駆動電流が無くなるか最小になる。こうして、初期設定後は自動で勝手にモータ30の消費電力が節減される。
また、設置先の踏切形状や使用状況の変化や,踏切しゃ断機10の特性変化,遮断桿の変形などに起因して、上昇目標位置や下降目標位置を微調整したくなったときは、設定器を一時接続して上昇目標位置や下降目標位置を設定し直せば良く、その場合も、再設定後は自動で勝手にモータ30の消費電力が節減される。
【0039】
さらに、そのような下限ストッパ60の進退制御は、昇降制御に比べて桁違いに長い時間を掛けてゆっくり進められるうえ、遮断桿の下降停止位置が所定時間以上継続して下降目標位置になっているときに限って行われ、遮断桿が上昇しているときや,遮断桿が下降したときでも未だ姿勢が安定していないとき,さらには下降停止位置維持中でも遮断桿が通行人・通過車両・風などの外乱で姿勢が揺らいだとき等には行われないので、遮断桿の昇降状態にも踏切周囲の環境状態にも影響されることなく安定に動作する。
【0040】
[その他]
上記実施例では、遮断桿昇降制御部52が位置制御しか行っていないが、遮断桿昇降制御部52が昇降後の位置制御に加えて昇降途中の速度制御も行うようにしても良い。
また、上記実施例では、下限検出器43と上限検出器44と回転検出器31の検出結果から遮断桿の揺動状態・昇降状態を得るようになっていたが、それらの検出器に代えて又はそれに加えて変位計や距離計などを導入しても良い。
さらに、実施に際しては制御部50にフェールセーフ性が要求されるが、これは公知技術の組み合わせにより叶えられる。
【符号の説明】
【0041】
10…踏切しゃ断機、11…支柱、12…筐体、13…蓋部、
20…遮断桿保持部、21…回転軸、
30…モータ(電動機)、31…回転検出器、32…電流検出器、
40…伝動機構、41…セクタギヤ、41a…回転軸嵌入穴、
42…ピニオン、43…下限検出器、44…上限検出器、
50…制御部、51…制御用論理回路、52…遮断桿昇降制御部、
53…ストッパ進退制御部、54,55…モータ駆動回路、
60…下限ストッパ、61…突出、62…雌ネジ、
70…緩衝部材、71…ガイド、72…ヘッド、
80…ストッパ位置調整機構、81…モータ(電動機)、
82…調整ネジ、83…ガイド、TER…列車入信号
図1
図2
図3