(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
変異ペプチド配列を含む単離されたG−CSFポリペプチドであって、前記変異ペプチド配列が、前記単離されたポリペプチドに対応する野生型ポリペプチドには存在しないO結合型グリコシル化部位を含み、且つ、前記変異ペプチド配列が、GalNAcトランスフェラーゼであるGalNAc−T2にGalNAc受容体として認識される配列であり、前記変異ペプチド配列は、M1APTPLGPAであり、
前記O結合型グリコシル化部位は、プロリン残基に隣接している、単離されたG−CSFポリペプチド。
Xが、シアリル、ガラクトシル、およびGal−Sia部分から選択される基を含み、前記シアリル、ガラクトシル、およびGal−Siaのうちの少なくとも1つが修飾基を含む、請求項5に記載のポリペプチド。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
略語
PEG、ポリエチレングリコール;m−PEG、メトキシポリエチレングリコール;PPG、ポリプロピレングリコール;m−PPG、メトキシポリプロピレングリコール;Fuc、フコシル;Gal、ガラクトシル;GalNAc、N−アセチルガラクトサミニル;Glc、グルコシル;GlcNAc、N−アセチルグルコサミニル;Man、マンノシル;ManAc、マンノサミニルアセタート;Sia、シアル酸;NeuAc、N−アセチルノイラミニル。
【0048】
定義
別段の定めが無い限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、通常、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用する命名法、ならびに細胞培養、分子遺伝学、有機化学、核酸化学、およびハイブリダイゼーションにおける実験手順は、当技術分野で周知であり一般に使用されるものである。核酸およびペプチドの合成には標準技術が使用される。これらの技術および手順は、本明細書の全体を通じて提供される、当技術分野の従来の方法および様々な一般的参考文献(一般には、参照により本明細書に組み込むSambrook他、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、第2版、(1989年)Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーを参照のこと)に従って一般に実施される。本明細書で使用する命名法、ならびに後述する分析化学および有機合成における実験手順は、当技術分野で周知であり一般に使用されるものである。標準技術またはその改変法が、化学合成および化学的分析に使用される。
【0049】
本明細書で記述するすべてのオリゴ糖は、非還元糖の名称または略語(すなわち、Gal)、その後にグリコシド結合の立体配置(αまたはβ)、環結合(1または2)、結合に関与している還元糖の環の位置(2、3、4、6、または8)、次に、還元糖の名称または略語(すなわち、GlcNAc)を書いて記述する。各糖はピラノースであることが好ましい。標準的な糖鎖生物学命名法の総説については、Essentials of Glycobiology、Varki他編、CSHL Press(1999年)を参照のこと。
【0050】
オリゴ糖は、還元末端の糖が実際に還元糖であるかどうかに関わらず、還元末端および非還元末端を有しているとみなされている。一般に認められている命名法に従い、本明細書では、左側に非還元末端、右側に還元末端を書いてオリゴ糖を表現する。
【0051】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、1本鎖または2本鎖の型のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)およびそのポリマーを意味する。具体的に限定されない限り、この用語は、参照核酸に類似した結合特性を有し、天然のヌクレオチドに類似した様式で代謝される、天然ヌクレオチドの公知の類似体を含む核酸を包含する。別段の定めが無い限り、個々の核酸配列は、保存的に改変されたその変異体(例えば、縮重コドン置換体)、対立遺伝子、オルソログ、SNP、および相補配列、ならびに、明示的に示される配列も暗黙的に包含する。詳細には、縮重コドン置換体は、1つまたは複数の選択された(またはすべての)コドンの第3位が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を作製することによって、実現することができる(Batzer他、Nucleic Acid Res.19:5081頁(1991年);Ohtsuka他、J.Biol.Chem.260:2605〜2608頁(1985年);Rossolini他、Mol.Cell.Probes8:91〜98頁(1994年))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、および遺伝子によってコードされているmRNAと交換可能に使用される。
【0052】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の作製に関与しているDNA部分を意味する。これは、コード領域の前後の領域(リーダーおよびトレイラー)、ならびに個々のコード部分(エキソン)の間の介在配列(イントロン)を含んでもよい。
【0053】
「単離された」という用語は、核酸またはタンパク質に対して使用するとき、その核酸またはタンパク質が、天然の状態では結合している他の細胞成分を本質的に含まないことを意味する。核酸またはタンパク質は、乾燥状態でも水溶液でもよいが、均質な状態であることが好ましい。純度および均質性は、一般に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動や高速液体クロマトグラフィーなどの分析化学技術によって決定される。調製物中に存在する主な化学種であるタンパク質は、実質的に精製されている。具体的には、単離された遺伝子は、その遺伝子に隣接しタンパク質をコードしている、目的の遺伝子以外のオープンリーディングフレームから分離されている。「精製された」という用語は、核酸またはタンパク質が、電気泳動ゲル中に本質的に1つのバンドを生じることを意味する。特に、この用語は、核酸またはタンパク質が少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも95%の純度、最も好ましくは少なくとも99%の純度を有することを意味する。
【0054】
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸、合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同じ様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸ミメティックを意味する。天然アミノ酸は、遺伝コードにコードされているもの、ならびに後で修飾されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリンである。アミノ酸類似体とは、天然アミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合しているα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを意味する。このような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド主鎖を有するが、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を保持している。「アミノ酸ミメティック」とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と同じ様に機能する化学化合物を意味する。
【0055】
当技術分野では、ポリペプチド鎖に部位特異的に非天然のアミノ酸誘導体または類似体を組み込むことを可能にする様々な公知の方法がある。例えば、WO02/086075号を参照のこと。
【0056】
本明細書では、一般に知られている3文字の記号によって、または、IUPAC−IUB生化学命名法委員会により推奨される1文字の記号によって、アミノ酸を呼んでよい。同様に、ヌクレオチドも、一般に認められている1文字の記号によって呼んでよい。
【0057】
「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸および核酸配列の双方に適用される。個々の核酸配列に関して、「保存的に改変された変異体」とは、同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を意味し、あるいは、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合は、本質的に同一な配列を意味する。遺伝コードの縮重により、多数の機能的に同一な核酸が任意の所与のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸のアラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンによって指定されるすべての位置において、コードされるポリペプチドを変えることなく、記述した対応するコドンのいずれかにコドンを変更することができる。このような核酸変異は、保存的に改変される変異の1種である「サイレント変異」である。あるポリペプチドをコードする本明細書のすべての核酸配列は、その核酸の起こりうるすべてのサイレント変異も説明する。ある核酸の(通常、メチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常、トリプトファンの唯一のコドンであるTGG以外の)各コドンを改変して機能的に同一な分子を得られることが、当業者には認識されよう。したがって、あるポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記述した各配列に潜在的に含まれる。
【0058】
アミノ酸配列に関しては、コードされている配列中の単一のアミノ酸または低い比率のアミノ酸を改変、追加、または除去する、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の配列に対する個々の置換、欠失、または付加が、「保存的に改変された変異体」であり、その際、その改変によって、あるアミノ酸が化学的に類似したアミノ酸で置換されることが、当業者には認識されよう。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野で周知である。これら保存的に改変された変異体は、本発明の多形性変異体、種間相同体、および対立遺伝子に追加するものであり、それらを除外するものではない。
【0059】
以下の8種のグループはそれぞれ、互いに保存的置換体であるアミノ酸を含む。
1)アラニン(A)、グリシン(G)
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)
4)アルギニン(R)、リシン(K)
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)
7)セリン(S)、トレオニン(T)、および
8)システイン(C)、メチオニン(M)
(例えば、Creighton、Proteins(1984年)を参照のこと)。
【0060】
本明細書では、一般に知られている3文字の記号によって、または、IUPAC−IUB生化学命名法委員会により推奨される1文字の記号によって、アミノ酸を呼んでよい。同様に、ヌクレオチドも、一般に認められている1文字の記号によって呼んでよい。
【0061】
本出願では、1番の番号をつけられる、未修飾の野生型ポリペプチド配列中の最もN末端にある残基からの相対的な位置に従って、アミノ酸残基に番号をつける。
【0062】
「ペプチド」とは、モノマーがアミノ酸であり、アミド結合を介してそれらが相互に結合しているポリマーを意味する。本発明のペプチドは、例えば、2つのアミノ酸から数百または数千のアミノ酸まで、様々な大きさのものでよく、代わりにポリペプチドとも呼ばれる。さらに、非天然アミノ酸、例えば、β−アラニン、フェニルグリシン、およびホモアルギニンも含まれる。遺伝子によってコードされていないアミノ酸も本発明で使用してよい。さらに、反応性基、グリコシル化部位、ポリマー、治療効果を有する部分、生体分子などを含むように修飾されたアミノ酸も、本発明で使用してよい。本発明で使用するアミノ酸はすべて、D型異性体でもL型異性体でもよい。一般にL型異性体が好ましい。さらに、他のペプチドミメティックも、本発明で有用である。本明細書では、「ペプチド」とは、グリコシル化ペプチドと非グリコシル化ペプチドの双方を意味する。ペプチドを発現する系によって不完全にグリコシル化されたペプチドも含まれる。一般的な総説については、Spatola,A.F.、CHEMISTRY AND BIOCHEMISTRY OF AMINO ACIDS、PEPTIDES AND PROTEINS、B.Weinstein編、Marcel Dekker、ニューヨーク、267頁(1983年)を参照のこと。
【0063】
本出願では、1番の番号をつけられる、ペプチド配列中のN末端、例えば、最も左の残基からの相対的な位置に従って、アミノ酸残基に番号をつける。
【0064】
「変異ポリペプチド」または「変異タンパク質」という用語は、その対応する野生型または天然に存在する型と異なるペプチドの型を意味する。変異ペプチドは、変異ペプチドをもたらす1つまたは複数の変異、例えば、置換、挿入、欠失などを含んでよい。
【0065】
「ペプチドコンジュゲート」という用語は、ペプチドが、本発明で説明するような修飾された糖と複合糖質を形成している、本発明の化学種を意味する。代表的な例では、このペプチドは、野生型ペプチドには存在しないO結合型グリコシル化部位を有する変異ペプチドである。
【0066】
本明細書では、「プロリン残基の近位」とは、プロリン残基からの距離がアミノ酸約10個未満、好ましくは、プロリン残基からの距離がアミノ酸約9、8、7、6または5個、より好ましくは、プロリン残基からの距離が残基約4、3、2または1個未満であるアミノ酸を意味する。「プロリン残基の近位の」アミノ酸は、プロリン残基のC末端側にあってもN末端側にあってもよい。
【0067】
「シアル酸」という用語は、炭素9個のカルボキシル化糖ファミリーの任意のメンバーを意味する。シアル酸ファミリーの最も一般的なメンバーは、N−アセチル−ノイラミン酸(2−ケト−5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクトノヌロピラノス−1−オン酸(しばしばNeu5Ac、NeuAc、またはNANAと略される)である。ファミリーの第2のメンバーは、NeuAcのN−アセチル基がヒドロキシル化されているN−グリコリル−ノイラミン酸(Neu5GcまたはNeuGc)である。第3のシアル酸ファミリーメンバーは、2−ケト−3−デオキシ−ノヌロソン酸(KDN)である(Nadano他、(1986年)J.Biol.Chem.261:11550〜11557頁;Kanamori他、J.Biol.Chem.265:21811〜21819頁(1990年))。9−O−ラクチル−Neu5Acや9−O−アセチル−Neu5Acのような9−O−C
1〜C
6アシル−Neu5Ac、9−デオキシ−9−フルオロ−Neu5Ac、および9−アジド−9−デオキシ−Neu5Acなどの9位置換シアル酸も含まれる。シアル酸ファミリーの総説については、例えば、Varki、Glycobiology 2:25〜40頁(1992年);Sialic Acids:Chemistry、Metabolism and Function、R.Schauer編、(Springer−Verlag、ニューヨーク(1992年))を参照のこと。シアル酸付加手順におけるシアル酸化合物の合成および使用は、1992年10月1日に公開された国際出願WO92/16640号で開示されている。
【0068】
本明細書では、「修飾された糖」という用語は、本発明の方法においてペプチドのアミノ酸またはグリコシル残基上に酵素的に付加される、天然または非天然の糖を意味する。修飾された糖は、それだけには限らないが、糖ヌクレオチド(1リン酸型、2リン酸型、および3リン酸型)、活性化糖(例えば、グリコシルハライド、グリコシルメシラート)、および活性化されてもおらず、ヌクレオチドでもない糖を含めて、いくつかの酵素基質から選択される。「修飾された糖」は、「修飾基」によって共有結合によって官能化されている。有用な修飾基には、それだけには限らないが、水溶性ポリマー、治療効果を有する部分、診断用の部分、生体分子などが含まれる。修飾基は、天然、すなわち未修飾の糖ではないことが好ましい。修飾基による官能化の位置は、「修飾された糖」が酵素的にペプチドに付加されるのを妨げないように、選択する。
【0069】
「水溶性」という用語は、水中でいくらかの検出可能な程度の溶解性を示す部分を意味する。水溶性を検出および/または定量する方法は、当技術分野で周知である。例示的な水溶性ポリマーには、ペプチド、糖、ポリエーテル、ポリアミン、ポリカルボン酸などが含まれる。ペプチドは、混合配列を有するものでも、単一のアミノ酸から構成されるもの、例えば、ポリリシンでもよい。例示的な多糖はポリシアル酸である。例示的なポリエーテルは、ポリエチレングリコール、例えば、m−PEGである。ポリエチレンイミンは、例示的なポリアミンであり、ポリアクリル酸は、代表的なポリカルボン酸である。
【0070】
水溶性ポリマーのポリマー主鎖は、ポリエチレングリコール(すなわちPEG)でよい。しかし、他の関連ポリマーも、本発明の実施において使用するのに適していること、ならびに、PEGまたはポリエチレングリコールという用語の使用は、この点に関して包括的であり排他的ではないことを理解すべきである。PEGという用語は、アルコキシPEG、2官能性PEG、マルチアームPEG、分岐PEG、分枝PEG、ペンダント型PEG(すなわち、ポリマー主鎖につり下がった1つまたは複数の官能基を有するPEGまたは関連ポリマー)、あるいは、内部に分解性の結合を有するPEGを含めて、任意の形態のポリエチレングリコールを含む。
【0071】
ポリマー主鎖は、直鎖状でも分枝状でもよい。分枝状のポリマー主鎖は、一般に、当技術分野で公知である。一般に、分枝ポリマーは、中央の分枝コア部分と、中央の分枝コア部分に連結されている複数の直鎖状ポリマー鎖とを有する。PEGは、グリセロール、ペンタエリトリトール、およびソルビトールなどの様々な多価アルコールにエチレンオキシドを付加することにより調製できる分枝型で一般に使用される。中央の分枝部分は、リシンなどいくつかのアミノ酸から誘導することもできる。分枝ポリエチレングリコールは、R(−PEG−OH)
m(式中、Rは、グリセロールやペンタエリトリトールなどのコア部分を表し、mは、アームの数を表す)として一般的な形式で表すことができる。参照によりその全体を本明細書に組み入れる米国特許第5932462号で記載されているものなどのマルチアームPEG分子も、ポリマー主鎖として使用することができる。
【0072】
多くの他のポリマーも、本発明に適している。2〜約300の末端を有する水溶性非ペプチド性ポリマー主鎖が、本発明において特に有用である。適切なポリマーの例としては、それだけには限らないが、ポリプロピレングリコール(「PPG」)など他のポリアルキレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールなどとの共重合体、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリオレフィンアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリビニルアルコール、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、参照によりその全体を本明細書に組み入れる米国特許第5629384号で記載されているようなポリ(N−アクリロイルモルホリン)、ならびに、それらの共重合体、三元重合体、および混合物が挙げられる。ポリマー主鎖の各鎖の分子量は変わり得るが、通常、約100Da〜100,000Da、しばしば、約6,000Da〜約80,000Daの範囲である。
【0073】
本明細書では、「複合糖質形成」という用語は、ポリペプチド、例えば、本発明の変異ヒト成長ホルモンのアミノ酸またはグリコシル残基への修飾された糖種の酵素を介した結合を意味する。「複合糖質形成」の小区分は、修飾された糖の修飾基がポリエチレングリコール、およびそのアルキル誘導体(例えば、m−PEG)または反応性誘導体(例えば、H
2N−PEG、HOOC−PEG)である「グリコール−PEG化」である。
【0074】
「大規模」および「工業規模」という用語は、同義的に使用され、1回の反応サイクルの完了時に少なくとも約250mg、好ましくは少なくとも約500mg、より好ましくは少なくとも約1gの複合糖質を生成する反応サイクルを意味する。
【0075】
「グリコシル結合基」という用語は、本明細書では、修飾基(例えば、PEG部分、治療効果を有する部分、生体分子)が共有結合しているグリコシル残基を意味する。グリコシル結合基は、コンジュゲートの残りの部分に修飾基を連結する。本発明の方法では、「グリコシル結合基」は、グリコシル化ペプチドまたは非グリコシル化ペプチドに共有結合し、それによって、ペプチド上のアミノ酸残基および/またはグリコシル残基に作用物質を結合させる。「グリコシル結合基」は、通常、ペプチドのアミノ酸残基および/またはグリコシル残基に「修飾された糖」を酵素的に付加させることによって、「修飾された糖」から誘導される。グリコシル結合基は、修飾基によって修飾された糖のカセットを形成する間に分解される(酸化→シッフ塩基形成→還元)、糖から誘導された構造体でよく、あるいは、グリコシル結合基は完全なものでもよい。「完全なグリコシル結合基」とは、修飾基をコンジュゲートの残りの部分に連結している糖モノマーが分解されていない、例えば、例えばメタ過ヨウ素酸ナトリウムによって酸化されていないグリコシル部分から誘導される結合基を意味する。本発明の「完全なグリコシル結合基」は、1つもしくは複数のグリコシル単位を付加することにより、または親となる糖構造体から1つもしくは複数のグリコシル単位を除去することにより、天然のオリゴ糖から誘導することができる。
【0076】
「標的性部分」という用語は、本明細書では、身体の特定の組織または領域に選択的に局在すると考えられる化学種を意味する。この局在は、分子決定基の特異的認識、標的性作用物質または標的性コンジュゲートの分子サイズ、イオン性相互作用、疎水性相互作用などによって起こる。作用物質を特定の組織または領域に標的化する他の機序は、当業者に公知である。例示的な標的性部分としては、抗体、抗体断片、トランスフェリン、HS−糖タンパク質、凝固因子、血清タンパク質、β−糖タンパク質、G−CSF、GM−CSF、M−CSF、EPOなどが挙げられる。
【0077】
本明細書では、「治療効果を有する部分」とは、それだけには限らないが、抗生物質、抗炎症物質、抗腫瘍薬、サイトトキシン、および放射性物質を含めて、治療に有用な任意の作用物質を意味する。「治療効果を有する部分」には、生理活性物質のプロドラッグ、複数の治療効果を有する部分が担体に結合している構築体、例えば、多効果性の(multivalent)作用物質が含まれる。治療効果を有する部分には、タンパク質およびタンパク質を含む構築体も含まれる。例示的なタンパク質としては、それだけには限らないが、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、インターフェロン(例えば、インターフェロンα、β、γ)、インターロイキン(例えば、インターロイキンII)、血清タンパク質(例えば、第VII、VIIa、VIII、IX、X因子)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、ろ胞刺激ホルモン(FSH)、および黄体形成(Lutenizing)ホルモン(LH)および抗体融合タンパク質(例えば、腫瘍壊死因子レセプター((TNFR)/Fcドメイン融合タンパク質))が挙げられる。
【0078】
本明細書では、「抗腫瘍薬」とは、それだけには限らないが、サイトトキシン、ならびに代謝拮抗剤、アルキル化剤、アントラサイクリン、抗生物質、有糸分裂阻害剤、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、アスパラギナーゼ、コルチコステロイド、インターフェロン、放射性物質などの作用物質を含めて、癌と闘うのに有用な任意の作用物質を意味する。抗腫瘍活性を有するペプチド、例えばTNF−αのコンジュゲートも、「抗腫瘍薬」という用語の範囲に包含される。コンジュゲートには、それだけには限らないが、治療効果を有するタンパク質と本発明の糖タンパク質との間で形成されるものも含まれる。代表的なコンジュゲートは、PSGL−1とTNF−αの間で形成されるものである。
【0079】
本明細書では、「サイトトキシンまたは細胞障害性物質」とは、細胞に対して有害である任意の作用物質を意味する。例としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシネジオン(anthracinedione)、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、糖質コルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、ピューロマイシン、ならびにそれらの類似体または相同体が挙げられる。他の毒素としては、例えば、ヒマ毒、CC−1065および類似体、デュオカルマイシン類が挙げられる。さらに他の毒素としては、ジフテリア毒素およびヘビ毒液(例えば、コブラ毒液)が挙げられる。
【0080】
本明細書では、「放射性物質」には、腫瘍を診断および撲滅するのに有効な任意の放射性同位体が含まれる。例としては、それだけには限らないが、インジウム−111、コバルト−60が挙げられる。さらに、一般に放射性同位体の混合物である、ウラン、ラジウム、およびトリウムなど天然の放射性成分が、放射性物質の適切な例である。金属イオンは、一般に有機キレート化成分とキレートを形成している。
【0081】
クラウンエーテル、クリプタンドなど多くの有用なキレート基が当技術分野では公知であり、本発明の化合物に組み入れることができる(例えば、EDTA、DTPA、DOTA、NTA、HDTAなど、およびDTPP、EDTP、HDTP、NTPなどそれらのホスホン酸類似体)。例えば、Pitt他「The Design of Chelating Agents for the Treatment of Iron Overload」、INORGANIC CHEMISTRY IN BIOLOGY AND MEDICINE、Martell編、American Chemical Society、ワシントンD.C.、1980年、279〜312頁、Lindoy、THE CHEMISTRY OF MACROCYCLIC LIGAND COMPLEXES、Cambridge University Press、ケンブリッジ、1989年、Dugas、BIOORGANIC CHEMISTRY、Springer−Verlag、ニューヨーク、1989年、ならびにそれらに含まれる参考文献を参照のこと。
【0082】
さらに、キレート剤、すなわちクラウンエーテルおよびシクロデキストリンの他の分子への結合を可能にする多種多様の経路が、当業者には利用可能である。例えば、Meares他、「Properties of In Vivo Chelate−Tagged Proteins and Polypeptides」、MODIFICATION OF PROTEINS:FOOD,NUTRITIONAL,AND PHARMACOLOGICAL ASPECTS、Feeney他編、American Chemical Society、ワシントンD.C.、1982年、370〜387頁、Kasina他、Bioconjugate Chem.、9:108〜117頁(1998年)、Song他、Bioconjugate Chem.、8:249〜255頁(1997年)を参照のこと。
【0083】
本明細書では、「製薬上許容される担体」には、コンジュゲートと混合したときにコンジュゲートの活性を保持し、対象の免疫系と反応しない任意の物質が含まれる。例として、それだけには限らないが、リン酸緩衝化生理食塩水、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、および様々なタイプの湿潤剤など標準的な薬剤用担体のうちの任意のものが挙げられる。他の担体として、滅菌液剤、被覆錠剤を含む錠剤、およびカプセル剤を挙げることができる。通常、このような担体は、デンプン、乳、糖、いくつかのタイプの粘土、ゼラチン、ステアリン酸もしくはその塩、ステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム、タルク、植物性の脂肪もしくは油、ガム、グリコール、または他の公知の賦形剤などの賦形剤を含有する。このような担体は、香料添加剤および着色添加剤または他の成分も含んでよい。このような担体を含む組成物は、周知の従来の方法によって調製される。
【0084】
本明細書では、「投与すること」とは、経口投与、坐剤としての投与、局所的接触、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、病巣内投与、もしくは皮下投与、吸入による投与、または徐放装置、例えばミニ浸透圧ポンプの対象への埋め込みを意味する。非経口投与および経粘膜投与(例えば、口、鼻、膣、直腸、または経皮)を含めて、任意の経路により、特に吸入によって投与を行う。非経口投与としては、例えば、静脈内、筋肉内、細動脈内、皮内、皮下、腹腔内、心室内、および頭蓋内が挙げられる。さらに、注射で腫瘍を治療しようとする場合、例えば、アポトーシスを誘発しようとする場合は、投与は、腫瘍への直接投与および/または腫瘍周辺の組織中への投与でよい。他の送達形態には、それだけには限らないが、リポソーム製剤、静脈内注入、経皮パッチなどの使用が含まれる。
【0085】
「改善すること」または「改善する」という用語は、症状の緩和、寛解、もしくは低減、または患者の肉体的健康もしくは精神的健康の改善など任意の客観的または主観的パラメータを含めて、病状または病態の治療の成功を示す任意の徴候を意味する。症状の改善は、理学的検査および/または精神鑑定の結果を含めて、客観的または主観的パラメータに基づくことができる。
【0086】
「療法」という用語は、ある疾患に罹患しやすい可能性があるが、その疾患の症状をまだ経験および提示していない動物において、その疾患または病態が生じるのを防ぐこと(予防治療)、その疾患を抑制すること(発達を遅らせることもしくは阻止すること)、その疾患の症状または副作用からの軽減を提供すること(対症治療を含む)、ならびにその疾患を軽減すること(疾患の消退を引き起こすこと)を含めて、ある疾患または病態を「治療すること」またはそれらの「治療」を意味する。
【0087】
「有効量」、「有効な量」、「治療有効量」という用語、または文法的に等価な任意の用語は、ある疾患を治療するために動物に投与したときに、その疾患に対する治療を実施するのに十分である量を意味する。
【0088】
「単離された」という用語は、その物質を作製するのに使用される成分を実質的にまたは本質的に含まない物質を意味する。本発明のペプチドコンジュゲートの場合、「単離された」という用語は、そのペプチドコンジュゲートを調製するのに使用される混合物中で通常はその物質に付随する成分を実質的にまたは本質的に含まない物質を意味する。「単離された」と「純粋な」は、同義的に使用される。通常、本発明の単離されたペプチドコンジュゲートは、好ましくはある範囲として示されるレベルの純度を有する。ペプチドコンジュゲートの純度範囲の下限は約60%、約70%、または約80%であり、純度範囲の上限は約70%、約80%、約90%、または約90%より高い。
【0089】
ペプチドコンジュゲートの純度が約90%より高いとき、それらの純度も、好ましくはある範囲として示される。この純度範囲の下限値は、約90%、約92%、約94%、約96%、または約98%である。この純度範囲の上限値は、約92%、約94%、約96%、約98%、または約100%の純度である。
【0090】
純度は、当業者に認知されている任意の分析方法(例えば、銀染色ゲル上でのバンド強度、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC、または類似の手段)によって、測定される。
【0091】
本明細書では、「集団のほぼすべてのメンバー」とは、選択された比率の、あるペプチドに付加される修飾された糖が、そのペプチド上の複数かつ同一の受容体部位に付加されているという、本発明のペプチドコンジュゲート集団の特徴を説明している。「集団のほぼすべてのメンバー」とは、修飾された糖に結合されるペプチド上の部位の「均質性」を説明しており、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%均質である本発明のコンジュケートに関する。
【0092】
「均質性」とは、修飾された糖が結合される受容体部分の集合全体にわたる構造の一貫性を意味する。したがって、修飾された各糖部分が、他のすべての修飾された糖が結合されている受容体部位と同じ構造を有する受容体部位に結合されている本発明のペプチドコンジュゲートでは、そのペプチドコンジュゲートは、約100%均質であると称される。均質性は、通常、ある範囲として示される。ペプチドコンジュゲートの均質性の範囲の下限値は、約60%、約70%、または約80%であり、純度範囲の上限値は、約70%、約80%、約90%、または約90%より高い。
【0093】
ペプチドコンジュゲートが約90%以上均質であるとき、それらの均質性も、好ましくはある範囲として示される。この均質性の範囲の下限値は、約90%、約92%、約94%、約96%、または約98%である。この純度の範囲の上限値は、約92%、約94%、約96%、約98%、または約100%の均質性である。ペプチドコンジュゲートの純度は、通常、当業者には公知の1種または複数の方法、例えば、液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDITOF)、キャピラリー電気泳動法などによって測定される。
【0094】
糖ペプチド種に言及するときの「実質上同一のグリコフォーム」または「実質上同一のグリコシル化パターン」とは、当該のグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フコシルトランスフェラーゼ)によってグリコシル化されている受容体部分の比率に関係する。例えば、α1,2フコシルトランスフェラーゼの場合、Galβ1,4−GlcNAc−Rおよびシアル酸付加されたその類似体の(以下に定義するように)ほぼすべてが本発明のペプチドコンジュゲートにおいてフコシル化されている場合、実質上同一のフコシル化パターンが存在する。出発原料が、グリコシル化された受容体部分(例えば、フコシル化されたGalβ1,4−GlcNAc−R部分)を含む場合があることが、当業者には理解されよう。したがって、算出されるグリコシル化比率は、本発明の方法によってグリコシル化される受容体部分、ならびに出発原料中で既にグリコシル化されている受容体部分を含むと考えられる。
【0095】
上記の「実質上同一の」の定義における「実質上」という用語は、一般に、ある特定のグリコシルトランスフェラーゼに対する受容体部分の少なくとも約40%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%がグリコシル化されていることを意味する。
【0096】
置換基が従来の化学式によって指定され、左から右に書かれている場合、それらは、その構造を右から左に書くことにより得られるであろう化学的に同一な置換基も等しく包含する。例えば、−CH
2O−は、−OCH
2−も示すものとする。
【0097】
「アルキル」という用語は、別段の定めが無い限り、それ自体でまたは別の置換基の一部分として、直鎖もしくは分枝鎖、または環状の炭化水素基、あるいはそれらの組合せ物を意味し、これらは、完全に飽和されているものでも、1価不飽和もしくは多価不飽和のものでもよく、2価の基および多価の基が含まれてよく、指定の炭素原子数を有する(すなわち、C
1〜C
10は、1〜10個の炭素を意味する)。飽和炭化水素基の例としては、それだけには限らないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、シクロプロピルメチル、例えば、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチルなどの同族体および異性体などの基が挙げられる。不飽和アルキル基は、1つまたは複数の二重結合または三重結合を有する基である。不飽和アルキル基の例としては、それだけには限らないが、ビニル、2−プロペニル、クロチル、2−イソペンテニル、2−(ブタジエニル)、2,4−ペンタジエニル、3−(1,4−ペンタジエニル)、エチニル、1−および3−プロピニル、3−ブチニル、ならびにより高次の同族体および異性体が挙げられる。「アルキル」という用語は、別段の注記の無い限り、「ヘテロアルキル」など以下により詳細に定義するアルキルの誘導体も含むことを意図されている。炭化水素基に限定されているアルキル基は、「ホモアルキル」と呼ばれる。
【0098】
「アルキレン」という用語は、それ自体でまたは別の置換基の一部分として、それだけには限らないが、−CH
2CH
2CH
2CH
2−で例示されるような、アルカンから誘導される2価の基を意味し、さらに、「ヘテロアルキレン」として以下に説明するような基も含む。一般的に、アルキル(またはアルキレン)基は、1〜24個の炭素原子を有すると考えられ、10個以下の炭素原子を有する基が本発明では好ましい。「低級アルキル」または「低級アルキレン」とは、より短い鎖のアルキル基またはアルキレン基であり、通常、8個以下の炭素原子を有する。
【0099】
「アルコキシ」、「アルキルアミノ」、および「アルキルチオ」(またはチオアルコキシ)という用語は、従来の意味で使用され、それぞれ、酸素原子、アミノ基、または硫黄原子を介して分子の残りの部分に結合されているアルキル基を意味する。
【0100】
「ヘテロアルキル」という用語は、別段の定めが無い限り、それ自体でまたは別の用語と組み合わせて、指定された数の炭素原子とO、N、Si、およびSからなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子とからなり、その窒素原子および硫黄原子が場合によっては酸化されてよく、その窒素ヘテロ原子が場合によっては四級化されてよい、安定な直鎖もしくは分枝鎖、または環状の炭化水素基、あるいはそれらの組合せ物を意味する。ヘテロ原子O、N、S、およびSiは、ヘテロアルキル基の任意の内部位置に存在しても、アルキル基が分子の残りの部分に結合されている位置に存在してもよい。例としては、それだけには限らないが、−CH
2−CH
2−O−CH
3、−CH
2−CH
2−NH−CH
3、−CH
2−CH
2−N(CH
3)−CH
3、−CH
2−S−CH
2−CH
3、−CH
2−CH
2、−S(O)−CH
3、−CH
2−CH
2−S(O)
2−CH
3、−CH=CH−O−CH
3、−Si(CH
3)
3、−CH
2−CH=N−OCH
3、および−CH=CH−N(CH
3)−CH
3が挙げられる。例えば、−CH
2−NH−OCH
3や−CH
2−O−Si(CH
3)
3など、最大2個のヘテロ原子が連続していてよい。同様に、「ヘテロアルキレン」という用語は、それ自体でまたは別の置換基の一部分として、それだけには限らないが、−CH
2−CH
2−S−CH
2−CH
2−および−CH
2−S−CH
2−CH
2−NH−CH
2−で例示されるような、ヘテロアルキルから誘導される2価の基を意味する。ヘテロアルキレン基の場合、ヘテロ原子は、鎖の末端の一方または双方を占めてもよい(例えば、アルキレンオキシ、アルキレンジオキシ、アルキレンアミノ、アルキレンジアミノなど)。さらに、アルキレン結合基およびヘテロアルキル結合基の場合、結合基の式が書かれる方向によっては、結合基の向きは示されない。例えば、式−C(O)
2R’−は、−C(O)
2R’−と−R’C(O)
2−の双方を表す。
【0101】
「シクロアルキル」および「ヘテロシクロアルキル」という用語は、別段の定めが無い限り、それ自体でまたは別の用語と組み合わせて、それぞれ、「アルキル」および「ヘテロアルキル」の環状型を表す。さらに、ヘテロシクロアルキルの場合、ヘテロ原子は、ヘテロ環が分子の残りの部分に結合されている位置を占めてもよい。シクロアルキルの例としては、それだけには限らないが、シクロペンチル、シクロヘキシル、1−シクロヘキセニル、3−シクロヘキセニル、シクロヘプチルなどが挙げられる。ヘテロシクロアルキルの例としては、それだけには限らないが、1−(1,2,5,6−テトラヒドロピリジル)、1−ピペリジニル、2−ピペリジニル、3−ピペリジニル、4−モルホリニル、3−モルホリニル、テトラヒドロフラン−2−イル、テトラヒドロフラン−3−イル、テトラヒドロチエン−2−イル、テトラヒドロチエン−3−イル、1−ピペラジニル、2−ピペラジニルなどが挙げられる。
【0102】
「ハロ」または「ハロゲン」という用語は、別段の定めが無い限り、それ自体でまたは別の置換基の一部分として、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子を意味する。さらに、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキルおよびポリハロアルキルも含むことを意図されている。例えば、「ハロ(C
1〜C
4)アルキル」という用語は、それだけには限らないが、トリフルオロメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、4−クロロブチル、3−ブロモプロピルなどを含むことを意図されている。
【0103】
「アリール」という用語は、別段の定めが無い限り、多価不飽和な芳香族置換基を意味し、この置換基は、単環でも、相互に融合されまたは共有結合された多環(好ましくは1〜3個の環)でもよい。「ヘテロアリール」という用語は、その窒素原子および硫黄原子が場合によっては酸化されており、その1つまたは複数の窒素原子が場合によっては四級化されている、N、O、およびSから選択される1〜4個のヘテロ原子を有するアリール基(または環)を意味する。ヘテロアリール基は、ヘテロ原子を介して分子の残りの部分に結合されることができる。アリール基およびヘテロアリール基の非限定的な例としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、4−ビフェニル、1−ピロリル、2−ピロリル、3−ピロリル、3−ピラゾリル、2−イミダゾリル、4−イミダゾリル、ピラジニル、2−オキサゾリル、4−オキサゾリル、2−フェニル−4−オキサゾリル、5−オキサゾリル、3−イソオキサゾリル、4−イソオキサゾリル、5−イソオキサゾリル、2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリル、2−フリル、3−フリル、2−チエニル、3−チエニル、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、2−ピリミジル、4−ピリミジル、5−ベンゾチアゾリル、プリニル、2−ベンゾイミダゾリル、5−インドリル、1−イソキノリル、5−イソキノリル、2−キノキサリニル、5−キノキサリニル、3−キノリル、テトラゾリル、ベンゾ[b]フラニル、ベンゾ[b]チエニル、2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン−6−イル、ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルおよび6−キノリルが挙げられる。上記に示したアリールおよびヘテロアリール環系のそれぞれに対する置換基は、後述の許容される置換基の群から選択される。
【0104】
簡潔のために、他の用語と組み合わせて使うときの「アリール」という用語は(例えば、アリールオキシ、アリールチオキシ、アリールアルキル)、上記に定義したアリール環およびヘテロアリール環の双方を含む。したがって、「アリールアルキル」という用語は、アルキル基の炭素原子(例えばメチレン基)が、例えば酸素原子によって置換されているもの(例えば、フェノキシメチル、2−ピリジルオキシメチル、3−(1−ナフチルオキシ)プロピルなど)を含めて、アルキル基にアリール基が結合されているような基(例えば、ベンジル、フェネチル、ピリジルメチルなど)を含むことを意図されている。
【0105】
上記の用語(例えば、「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」、および「ヘテロアリール」)のそれぞれは、示された基の置換型と非置換型の双方を含むことを意図されている。各タイプの基に対して好ましい置換基を、以下に提供する。
【0106】
(しばしば、アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、およびヘテロシクロアルケニルと呼ばれる基を含めた)アルキルおよびヘテロアルキル基に対する置換基は、総称的に「アルキル基置換基」と呼ばれ、これらは、それだけには限らないが、−OR’、=O、=NR’、=N−OR’、−NR’R’’、−SR’、−ハロゲン、−SiR’R’’R’’’、−OC(O)R’、−C(O)R’、−CO
2R’、−CONR’R’’、−OC(O)NR’R’’、−NR’’C(O)R’、−NR’−C(O)NR’’R’’’、−NR’’C(O)
2R’、−NR−C(NR’R’’R’’’)=NR’’’’、−NR−C(NR’R’’)=NR’’’、−S(O)R’、−S(O)
2R’、−S(O)
2NR’R’’、−NRSO
2R’、−CN、−NO
2から、0から(2m’+1)(式中、m’は、このような基の中の炭素原子の総数である)までの範囲の数で選択される様々な基のうちの1種または複数でよい。R’、R’’、R’’’、およびR’’’’は、好ましくは、水素、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のアリール、例えば、1〜3個のハロゲンで置換されたアリール、置換もしくは非置換のアルキル、アルコキシ、もしくはチオアルコキシ基、またはアリールアルキル基をそれぞれ独立に意味する。例えば、本発明の化合物が複数のR基を含むときは、R’、R’’、R’’’、およびR’’’’基のそれぞれが、これらの基のうちの複数が存在するときにされるのと同じように、R基のそれぞれは、独立に選択される。R’およびR’’が同じ窒素原子に結合されているとき、それらは、窒素原子と結合して5、6、または7員環を形成することができる。例えば、−NR’R’’は、それだけには限らないが、1−ピロリジニルおよび4−モルホリニルを含むことを意図されている。置換基に関する上記の考察から、当業者には、「アルキル」という用語が、ハロアルキル(例えば、−CF
3および−CH
2CF
3)やアシル(例えば、−C(O)CH
3、−C(O)CF
3、−C(O)CH
2OCH
3など)など、水素基以外の基に結合された炭素原子を含む基を含むように意図されていることが理解されよう。
【0107】
アルキル基について説明した置換基と同様に、アリール基およびヘテロアリール基に対する置換基は、総称的に「アリール基置換基」と呼ばれる。これらの置換基は、例えば、ハロゲン、−OR’、=O、=NR’、=N−OR’、−NR’R’’、−SR’、−ハロゲン、−SiR’R’’R’’’、−OC(O)R’、−C(O)R’、−CO
2R’、−CONR’R’’、−OC(O)NR’R’’、−NR’’C(O)R’、−NR’−C(O)NR’’R’’’、−NR’’C(O)
2R’、−NR−C(NR’R’’R’’’)=NR’’’’、−NR−C(NR’R’’)=NR’’’、−S(O)R’、−S(O)
2R’、−S(O)
2NR’R’’、−NRSO
2R’、−CN、−NO
2、−R’、−N
3、−CH(Ph)
2、フルオロ(C
1〜C
4)アルコキシ、およびフルオロ(C
1〜C
4)アルキルから、0から芳香族環系上の空の原子価の総数までの範囲の数で選択され、式中、R’、R’’、R’’’、およびR’’’’は、好ましくは、水素、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のアリール、および置換もしくは非置換のヘテロアリールからそれぞれ独立に選択される。例えば、本発明の化合物が複数のR基を含むときは、R’、R’’、R’’’、およびR’’’’基のそれぞれが、これらの基のうちの複数が存在するときにされるのと同じように、R基のそれぞれは、独立に選択される。以下のスキームにおいて、記号Xは、前述の「R」を表す。
【0108】
アリール環またはヘテロアリール環の隣接した原子上の置換基のうちの2つは、式−T−C(O)−(CRR’)
q−U−(式中、TおよびUは、それぞれ独立に−NR−、−O−、−CRR’−、または一重結合であり、qは0〜3の整数である)で表される置換基で場合によっては置換されてよい。あるいは、アリール環またはヘテロアリール環の隣接した原子上の置換基のうちの2つが、式−A−(CH
2)
r−B−(式中、AおよびBは、それぞれ独立に−CRR’−、−O−、−NR−、−S−、−S(O)−、−S(O)
2−、−S(O)
2NR’−、または一重結合であり、rは1〜4の整数である)で表される置換基で場合によっては置換されてもよい。このようにして形成された新しい環の一重結合のうちの1つは、場合によっては、二重結合に置き換えられてよい。あるいは、アリール環またはヘテロアリール環の隣接した原子上の置換基のうちの2つが、式−(CRR’)
s−X−(CR’’R’’’)
d−(式中、sおよびdは、それぞれ独立に0〜3の整数であり、Xは、−O−、−NR’−、−S−、−S(O)−、−S(O)
2−、または−S(O)
2NR’−である)で表される置換基で場合によっては置換されてもよい。置換基R、R’、R’’、およびR’’’は、好ましくは、水素または置換もしくは非置換の(C
1〜C
6)アルキルからそれぞれ独立に選択される。
【0109】
本明細書では、「ヘテロ原子」という用語は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、およびケイ素(Si)を含むことを意図されている。
【0110】
序論
本発明は、修飾された糖部分が、ペプチド上のO結合型グリコシル化部位に直接的または間接的に(例えば、介在するグリコシル残基によって)結合している、糖ペプチドのコンジュゲートを提供する。また、本発明のコンジュゲートを作製するための方法も提供される。
【0111】
O結合型グリコシル化部位は、通常、天然アミノ酸(例えば、セリン、トレオニン)または非天然アミノ酸(例えば、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシン)のヒドロキシ側鎖である。例示的なO結合型サッカリル残基としては、N−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、マンノース、GlcNAc、グルコース、フコース、またはキシロースが挙げられる。
【0112】
本発明の方法は、O結合型グリコシル化部位を有する任意のペプチド上で実施することができる。例えば、これらの方法は、野生型ペプチド中に存在するO結合型グリコシル化部位にグリコシル部分が結合しているO結合型複合糖質を作製するのに有用である。したがって、本発明は、O結合型グリコシル化部位を含む、野生型ペプチドの複合糖質を提供する。本明細書による例示的なペプチドには、G−CSF、GM−CSF、IL−2、およびインターフェロンが含まれる。
【0113】
例示的な実施形態では、本発明は、対応する野生型ペプチドには存在しない1つまたは複数のO結合型グリコシル化部位を含む新規な変異ペプチドも提供する。一実施形態では、変異ポリペプチドは、G−CSFポリペプチドである。他の例示的な実施形態では、変異ポリペプチドは、hGHポリペプチド、IFNαポリペプチド、またはGM−CSFポリペプチドである。変異ペプチドのO結合型グリコシル化された種、およびO結合型グリコシル化変異ペプチドを調製する方法も提供される。追加の方法は、O結合型グリコシル残基、およびO結合型ではなくN結合型のグリコシル残基の合成、トリミング、および/または修飾を含む。
【0114】
例示的な態様では、本発明は、以下の式を有する変異ペプチドを提供する。
【0115】
【化5】
(式中、AAは、ヒドロキシル部分を含む側鎖を有するアミノ酸である。)例示的なヒドロキシアミノ酸は、トレオニンおよびセリンである。GalNAc部分は、ヒドロキシル部分の酸素原子を介してAAに結合している。AAは、野生型ペプチド中に存在するものでもよく、あるいは、野生型ペプチドの配列を変異させることによって追加または移動させたものでもよい。Xは、修飾基、サッカリル部分、例えば、シアリル、ガラクトシル、Gal−Sia基、あるいは、サッカリル部分および修飾基である。Xがサッカリル部分である例示的な実施形態では、本明細書で説明するように、Xは修飾基を含む。グリコシル化されるアミノ酸は、ペプチド配列のNもしくはCペプチド末端にあっても、ペプチド配列の内部にあってもよい。
【0116】
例示的な実施形態では、Xは、シアリル、ガラクトシル、およびGal−Sia部分から選択される基を含み、前記シアリル、ガラクトシル、およびGal−Siaのうちの少なくとも1つは、修飾基を含む。さらに例示的な実施形態では、Xは、以下の部分を含む。
【0117】
【化6】
(式中、Dは、−OHおよびR
1−L−HN−から選択されるメンバーであり、Gは、R
1−L−および−C(O)(C
1〜C
6)アルキルから選択されるメンバーであり、R
1は、直鎖状または分枝状のポリエチレングリコール残基を含む部分から選択されるメンバーを含む部分であり、Lは、結合、置換または非置換のアルキル、および置換または非置換のヘテロアルキルから選択されるメンバーであるリンカーであり、DがOHであるとき、GはR
1−L−であり、Gが−C(O)(C
1〜C
6)アルキルであるとき、DはR
1−L−NH−である。)
【0118】
別の例示的な実施形態では、Xは、以下の構造体を含む。
【0119】
【化7】
(式中、Lは、置換もしくは非置換のアルキル、または置換もしくは非置換のヘテロアルキル基であり、nは、0〜約2500の整数から選択される。)さらに別の例示的な実施形態では、Xは、以下の構造体を含む。
【0120】
【化8】
(式中、sは、0〜20の整数から選択される。)
【0121】
別の例示的な実施形態では、AAは、変異ペプチドのプロリンに富む部分内に位置しており、かつ/または、AAは、プロリン残基の近位にある。O結合型グリコシル化部位を形成する適切な配列は、1つまたは複数の推定上のO結合型グリコシル化部位を含んでいる短いペプチドの酵素的なO結合型グリコシル化を調べることによって、容易に決定される。
【0122】
本発明のコンジュゲートは、ペプチドと、水溶性ポリマー、治療効果を有する部分、診断用の部分、標的性部分など多様な化学種との間で形成される。リンカーアームを介して相互に結合した2つ以上のペプチドを含むコンジュゲート、すなわち、多機能性コンジュゲートも提供される。その際、少なくとも1つのペプチドがO−グリコシル化されており、あるいは、O−グリコシル化変異部位を含んでいる。本発明の多機能性コンジュゲートは、同じペプチドの2つ以上のコピー、あるいは、様々な構造および/または諸特性を有する多様なペプチドの集団を含むことができる。この実施形態による例示的なコンジュゲートでは、2つのペプチド間のリンカーは、O結合型グリコシルの完全なグリコシル結合基などO結合型グリコシル残基を介して、ペプチドのうちの少なくとも1つに結合している。
【0123】
本発明のコンジュゲートは、グリコシル化ペプチドまたは非グリコシル化ペプチドへの修飾された糖の酵素的付加によって形成される。この修飾された糖は、O結合型グリコシル化部位に、あるいは、直接的または間接的に(例えば、1つまたは複数のグリコシル残基を介して)O結合型グリコシル化部位に結合しているグリコシル残基に直接付加される。本発明は、修飾された糖が、N結合型部位、あるいはN結合型グリコシル化部位に直接的または間接的に結合しているグリコシル残基に直接結合されている、O結合型グリコシル化ペプチドのコンジュゲートも提供する。
【0124】
この修飾された糖は、ペプチド(またはグリコシル残基)と糖上の修飾基の間に介在しているとき、本明細書で「完全なグリコシル結合基」と呼ぶものとなる。グリコシルトランスフェラーゼなどの酵素の精巧な選択性を用いて、本発明の方法は、1つまたは複数の特定の位置に所望の基を有するペプチドを提供する。したがって、本発明によれば、修飾された糖は、ペプチド鎖上の選択された位置に直接結合されており、あるいは、修飾された糖は、糖ペプチドの糖部分に付加されている。修飾された糖が、糖ペプチドの糖にも、直接ペプチド主鎖のアミノ酸残基にも結合されているペプチドも、本発明の範囲内である。
【0125】
公知の化学的および酵素的ペプチド合成戦略とは対照的に、本発明の方法は、実質上均質な誘導体化パターンを有するペプチドおよび糖ペプチドを構築することを可能にする。本発明で使用する酵素は、一般に、ペプチドの特定のあるアミノ酸残基または複数のアミノ酸残基の組合せ物に対して選択的である。これらの方法は、修飾されたペプチドおよび糖ペプチドの大量生産にも実用的である。したがって、本発明の方法は、予め選択した均一な誘導体化パターンを有する糖ペプチドを大量調製するための実用的手段を提供する。これらの方法は、それだけには限らないが、細胞培養用の細胞(例えば、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌細胞、酵母細胞、もしくは原核細胞)またはトランスジェニック植物もしくは動物中で作製される間に不完全にグリコシル化される糖ペプチドを含めて、治療用ペプチドを修飾するのに特によく適している。
【0126】
本発明は、例えば、クリアランス速度の低減によって、または免疫もしくは細網内皮系(RES)による取込み速度の低減によって、治療効果の半減期を延長したグリコシル化ペプチドおよび非グリコシル化ペプチドのコンジュゲートも提供する。さらに、本発明の方法は、ペプチド上の抗原決定基をマスキングし、それによって、そのペプチドに対する宿主の免疫応答を低減または消失させるための方法も提供する。適切な修飾された糖による、ペプチドへの標的性作用物質の選択的結合を用いて、特定の標的性作用物質に特異的な特定の組織または細胞表面受容体にペプチドを導くこともできる。さらに、グリコシル結合基を介して結合された治療効果を有する部分によって特異的に修飾されるペプチドのクラスも提供される。
【0127】
O−グリコシル化
本発明は、O結合型グリコシル化ペプチド、これらの化学種のコンジュゲート、および選択されたアミノ酸配列(「O結合型グリコシル化部位」)を含むO結合型グリコシル化ペプチドを形成させるための方法を提供する。対応する野生型ペプチドには存在しないO結合型グリコシル化部位を含む変異ペプチドが特に興味深い。O結合型グリコシル化部位は、修飾基を有するグリコシル残基が付加するための部位である。
【0128】
ムチン型のO結合型グリコシル化は、タンパク質グリコシル化の最も豊富な型の1つであり、すべての真核細胞の分泌糖タンパク質および細胞表面結合糖タンパク質上でみとめられる。O結合型グリコシル化によって作り出される構造体は非常に多様であり(何百種類もの潜在的な構造体)、これらは、ゴルジ複合体に内在する何百ものグリコシルトランスフェラーゼ酵素の触媒活性によって産生される。グリカン構造のレベル、およびタンパク質主鎖へのO−グリカンの付加位置において多様性が存在する。潜在的な多様性の程度は高いものの、O結合型グリコシル化は、多細胞生物間で高度の保存を示す高度に調節されたプロセスであることが明らかとなっている。
【0129】
ムチン型のO結合型グリコシル化の第1段階は、GalNAcをセリンおよびトレオニン受容体部位に転移させるUDP−GalNac、すなわち、ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(GalNAc−トランスフェラーゼ)(EC2.4.1.41)の大ファミリーの1種または複数のメンバーによって触媒される(Hassan他、J.Biol.Chem.275:38197〜38205頁(2000年))。これまでに、哺乳動物のGalNAcトランスフェラーゼファミリーの12種のメンバーが同定され、特徴を決定されており(Schwientek他、J.Biol.Chem.277:22623〜22638頁(2002年))、また、ゲノムデータベースの解析により、この遺伝子ファミリーの数種の推定上の追加メンバーが予測されている。GalNAcトランスフェラーゼのアイソフォームは様々な動力学的諸特性を有し、時間的かつ空間的に示差的な発現パターンを示す。これは、それらの生物学的機能が異なることを示唆している(Hassan他、J.Biol.Chem.275:38197〜38205頁(2000年))。GalNAcトランスフェラーゼの配列解析により、これらの酵素が2種の異なるサブユニットを有するという仮説が導かれた。これらのサブユニットは、中央の触媒ユニット、ならびに、「レクチンドメイン」と呼ばれる、植物のレクチンリシンに配列が類似したC末端ユニットである(Hagen他、J.Biol.Chem.274:6797〜6803頁(1999年)、Hazes、Protein Eng.10:1353〜1356頁(1997年)、Breton他、Curr.Opin.Struct.Biol.9:563〜571頁(1999年))。選択された保存残基の部位特異的変異誘発を伴う以前の実験により、触媒ドメインの変異は触媒活性を消失させることが確認された。一方、「レクチンドメイン」における変異は、GalNAcトランスフェラーゼのアイソフォームであるGalNAc−T1の触媒活性に対して有意な影響を及ぼさなかった(Tenno他、J.Biol.Chem.277(49):47088〜96頁(2002年))。したがって、C末端の「レクチンドメイン」は、機能的ではなく、GalNAcトランスフェラーゼの酵素機能に対して役割を果たしていないと考えられていた(Hagen他、J.Biol.Chem.274:6797〜6803頁(1999年))。
【0130】
しかし、最近の証拠により、一部のGalNAcトランスフェラーゼが、部分的にGalNAc−グリコシル化された糖ペプチドによる特有の活性を示すことが実証されている。少なくとも3種のGalNacトランスフェラーゼアイソフォーム、すなわち、GalNAc−T4、−T7、および−T10の触媒作用は、クラスター形成された潜在的なグリコシル化部位の一部だけが他のGalNacトランスフェラーゼによってGalNacグリコシル化されているムチンのタンデムリピート領域に対応する糖ペプチドに選択的に作用する(Bennett他、FEBS Letters 460:226〜230頁(1999年)、Ten Hagen他、J Biol.Chem.276:17395〜17404頁(2001年)、Bennett他、J Biol.Chem.273:30472〜30481頁(1998年)、Ten Hagen他、J Biol.Chem.274:27867〜27874頁(1999年)、)GalNAc−T4および−T7は、様々なGalNAc−グリコシル化ペプチドを認識し、以前に利用されていた部位の他の受容体基質部位へのGalNAcの転移を触媒する。このようなGalNAcトランスフェラーゼ活性の機能のうちの1つは、高密度のO結合型グリコシル化を有するムチンおよびムチン様糖タンパク質におけるOグリカン占有の密度を制御するステップに相当すると予測されている。
【0131】
この一例は、癌関連ムチンMUC1のグリコシル化である。MUC1は、5箇所の潜在的なO結合型グリコシル化部位を有する20残基(HGVTSAPDTRPAPGSTAPPA)
(配列番号:138)からなるタンデムリピートO結合型グリコシル化領域を含んでいる。GalNAc−T1、GalNAc−T2、およびGalNAc−T3は、MUC1タンデムリピートのグリコシル化を開始し、3つの部位だけに(HGV
TSAPDTRPAPG
STAPPA、GalNAc結合部位に下線)
(配列番号:139)組み込むことができる。GalNAc−T4は、乳癌関連ムチンMUC1の20アミノ酸からなるタンデムリピート配列中の5つの受容体部位すべてへのO結合型グリカン付加を完了することができる、これまでに確認されている唯一のGalNAcトランスフェラーゼアイソフォームであるという点で、特有である。GalNAc−T4は、GalNAc
4TAP24糖ペプチド(
TAPPAHGV
TSAPDTRPAPG
STAPP
(配列番号:140)、特有のGalNAc−T4付加部位は太字体である)上の、他のGalNAcトランスフェラーゼアイソフォームによって使用されていない少なくとも2つの部位にGalNAcを転移させる(Bennett他、J.Biol.Chem.273:30472〜30481頁(1998年))。GalNAc−T4によって示されるもののような活性は、潜在的な部位がすべてグリコシル化されている、癌細胞によって発現されるMUC1のグリコフォームの作製に必要と思われる(Muller他、J Biol.Chem.274:18165〜18172頁(1999年)。泌乳中の乳腺に由来する正常なMUC1は、1リピート当たり約2.6個のO結合型グリカンを有しており(Muller他、J Biol.Chem.272:24780〜24793頁(1997年))、癌細胞系統T47Dに由来するMUC1は、1リピート当たり4.8個のO結合型グリカンを有している(Muller他、J Biol.Chem.274:18165〜18172頁(1999年))。したがって、MUC1の癌関連型は、より高密度のO結合型グリカンによる占有に関連しており、これは、GalNAc−T4の活性と同一または類似したGalNAcトランスフェラーゼ活性によって実現されている。
【0132】
ポリペプチドGalNAcトランスフェラーゼも、明らかなGalNAc糖ペプチド特異性は示していないが、その推定上のレクチンドメインによって調節されているようである(PCT出願WO01/85215 A2号)。最近、GalNAc−T1の推定上のレクチンドメインにおける変異が、GalNAc−T4において以前に分析された変異と同様に(Hassan他、J.Biol.Chem.275:38197〜38205頁(2000年))、GalNAc−T4と同様の様式で酵素の活性を変更することが発見された。すなわち、野生型のGalNAc−T1は、複数の受容体部分を有するペプチド基質に複数のGalNAc残基を連続的に付加したが、変異GalNAc−T1は、同じ基質に複数のGalNAc残基を付加することができなかった(Tenno他、J Biol.Chem.277(49):47088〜96頁(2002年))。
【0133】
野生型酵素によって産生されるものとは異なるグリコシル化パターンを得るためにGalNAcトランスフェラーゼの変異を利用できることが実証されているため、本発明のO結合型グリコシル化ペプチドを調製する際に1種または複数の変異GalNAcトランスフェラーゼを利用することは、本発明の範囲内である。
【0134】
O結合型グリコシル化部位を有する変異ペプチド
本発明によって提供されるペプチドは、1種または複数の野生型または変異GalNacトランスフェラーゼによってGalNAc受容体として認識されているアミノ酸配列を含む。このペプチドのアミノ酸配列は、O結合型グリコシル化部位を含むペプチドの場合の野生型、非天然のO結合型グリコシル化部位を導入される変異配列、または、天然および非天然のO結合型グリコシル化部位の双方を含むポリペプチドである。本発明を実施するのに用いる例示的なペプチドとしては、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、例えば、175アミノ酸および178アミノ酸の野生型(N末端メチオニン残基があるものとないもの)、インターフェロン(例えば、インターフェロンα、例えばインターフェロンα2bもしくはインターフェロンα2a)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、ヒト成長ホルモン、およびインターロイキン(例えば、インターロイキン2)が挙げられる。G−CSF、GM−CSF、およびIFN−α2βに関する以下の考察を強調するのは、例示を明確にするためである。アミノ酸の上付き文字の任意の数字は、そのポリペプチドのN末端メチオニンに対するそのアミノ酸の位置を示す。ポリペプチドのN末端がメチオニン無しで始まる場合は、N末端メチオニンが無いことを示すようにこれらの数字を容易に調整することができる。例示的なペプチドのN末端は、メチオニンで始まることもメチオニン無しで始まることもできることが理解されよう。さらに、野生型ペプチドおよび変異ペプチドのO結合型の複合糖質を形成された類似体を調製するための本発明で説明する戦略は、任意のペプチドに適用可能であることも当業者には理解されよう。
【0135】
例示的な実施形態では、このペプチドは、N末端、H
53、P
61、P
129、P
133、およびP
175に隣接またはそれらを含む部位から選択される部位に1つまたは複数の変異を含む、生物学的に活性なG−CSF変異体である。本発明の生物学的に活性なG−CSF変異体は、当業者に公知である任意の適切な機能アッセイによって測定したときにその生物活性の実質的または完全な消失をもたらさない1つまたは複数の変異を有する任意のG−CSFポリペプチドの一部または全体を含む。一実施形態では、本発明の生物学的に活性なG−CSF変異体内の変異は、野生型G−CSFに天然には存在していない1つまたは複数のO結合型グリコシル化部位内に位置している。別の実施形態では、本発明の生物学的に活性なG−CSF変異体内の変異は、G−CSF変異体の1つまたは複数のO結合型グリコシル化部位の内部にも外部にも存在している。
【0136】
代表的な野生型G−CSFポリペプチドおよび変異G−CSFポリペプチドは、以下から選択される配列を有する。
配列番号
:141(178アミノ酸からなる野生型)
【数1】
配列番号
:142(N末端にメチオニンを有さない、178アミノ酸からなる野生型)
【数2】
【数3】
配列番号
:143(175アミノ酸からなる野生型)
【数4】
配列番号
:144(N末端にメチオニンを有さない、175アミノ酸からなる野生型)
【数5】
配列番号
:145
【数6】
配列番号
:146
【数7】
配列番号
:147
【数8】
配列番号
:148
【数9】
【数10】
配列番号
:149
【数11】
配列番号
:150
【数12】
配列番号
:151
【数13】
配列番号
:152
【数14】
配列番号
:153
【数15】
配列番号
:154
【数16】
【数17】
配列番号
:155
【数18】
配列番号
:156
【数19】
配列番号
:157
【数20】
配列番号
:158
【数21】
【0137】
別の例示的な実施形態では、このペプチドは、N末端、または、P
133に隣接もしくはP
133を含む部位から選択される部位に1つまたは複数の変異を含む、生物学的に活性なhGH変異体である。本発明の生物学的に活性なhGH変異体は、当業者に公知である任意の適切な機能アッセイによって測定したときにその生物活性の実質的または完全な消失をもたらさない1つまたは複数の変異を有する任意のhGHポリペプチドの一部または全体を含む。一実施形態では、本発明の生物学的に活性なhGH変異体内の変異は、野生型hGHに天然には存在していない1つまたは複数のO結合型グリコシル化部位内に位置している。別の実施形態では、本発明の生物学的に活性なhGH変異体内の変異は、hGH変異体の1つまたは複数のO結合型グリコシル化部位の内部にも外部にも存在している。
【0138】
代表的な野生型hGHポリペプチドおよび変異hGHポリペプチドは、以下から選択される配列を有する。
配列番号
:159(N末端メチオニンを含む、192アミノ酸からなる野生型の脳下垂体由来hGH)
【数22】
配列番号
:160(N末端メチオニンを欠いている、191アミノ酸からなる野生型の脳下垂体由来hGH)
【数23】
配列番号
:159(野生型)
【数24】
【0139】
以下は、配列番号
:159の野生型で下線を引いた領域に対応する代表的な変異ペプチド配列である。
LEDGSPTTGQIFKQTYS
(配列番号:161)、LEDGSPTTAQIFKQTYS
(配列番号:162)、LEDGSPTATQIFKQTYS
(配列番号:163)、LEDGSPTQGAMFKQTYS
(配列番号:164)、LEDGSPTQGAIFKQTYS
(配列番号:165)、LEDGSPTQGQIFKQTYS
(配列番号:166)、LEDGSPTTLYVFKQTYS
(配列番号:167)、LEDGSPTINTIFKQTYS
(配列番号:168)、LEDGSPTTVSIFKQTYS
(配列番号:169)、LEDGSPRTGQIPTQTYS
(配列番号:170)、LEDGSPRTGQIPTQAYS
(配列番号:171)、LEDGSPTTLQIFKQTYS
(配列番号:172)、LETETPRTGQIFKQTYS
(配列番号:173)、LVTETPRTGQIFKQTYS
(配列番号:174)、LETQSPRTGQIFKQTYS
(配列番号:175)、LVTQSPRTGQIFKQTYS
(配列番号:176)、LVTETPATGQIFKQTYS
(配列番号:177)、LEDGSPTQGAMPKQTYS
(配列番号:178)、およびLEDGSPTTTQIFKQTYS
(配列番号:179)
【0140】
別の例示的な実施形態では、このペプチドは、INFα2のT
106に対応する部位、例えば、INFα2のT
106に対応またはT
106とともに並んでいるIFNα野生型におけるアミノ酸位置に隣接またはその位置を含む部位に1つまたは複数の変異を含む、生物学的に活性なIFNα変異体である。本発明の生物学的に活性なIFNα変異体は、当業者に公知である任意の適切な機能アッセイによって測定したときにその生物活性の実質的または完全な消失をもたらさない1つまたは複数の変異を有する任意のIFNαポリペプチドの一部または全体を含む。一実施形態では、本発明の生物学的に活性なIFNα変異体内の変異は、野生型IFNαに天然には存在していない1つまたは複数のO結合型グリコシル化部位内に位置している。別の実施形態では、本発明の生物学的に活性なIFNα変異体内の変異は、IFNα変異体の1つまたは複数のO結合型グリコシル化部位の内部にも外部にも存在している。
【0141】
野生型IFNαポリペプチドおよび変異IFNαポリペプチドを以下に示す。
配列番号
180(野生型IFN2bに由来)
【数26】
【0142】
G−CSFおよびG−CSF以外のペプチドに対する他の適切なO結合型グリコシル化配列は、推定上のO結合型グリコシル化部位を組み込んだポリペプチドを調製し、そのポリペプチドを適切なO結合型グリコシル化条件下におき、その結果、そのポリペプチドがGalNacトランスフェラーゼに対する受容体となる能力を確認することによって、決定することができる。さらに、1つまたは複数の変異を含むペプチドが本発明の範囲内であることも、当業者には明らかであろう。これらの変異は、ペプチドの望ましい特性、例えば、活性、ならびにペプチド上のO結合型および/またはN結合型グリコシル化部位の数および位置の調整を可能にするように設計される。
【0143】
ペプチドコード配列の取得
一般的な組換え技術
本発明は、組換え遺伝学の分野の慣用技術を利用する。本発明で有用な一般的方法を開示している基本的な教科書としては、Sambrook and Russell、Molecular Cloning、A Laboratory Manual(第3版、2001年)、Kriegler、Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990年)、およびAusubel他編、Current Protocols in Molecular Biology(1994年)が挙げられる。
【0144】
核酸のサイズは、キロベース(kb)または塩基対(bp)で与えられる。これらは、アガロースまたはアクリルアミドゲル電気泳動、配列決定された核酸、公開されているDNA配列から導かれた概算値である。タンパク質のサイズは、キロダルトン(kDa)またはアミノ酸残基数で与えられる。タンパク質のサイズは、ゲル電気泳動、配列決定されたタンパク質、演繹されたアミノ酸配列、または公開されているタンパク質配列から概算される。
【0145】
例えば、BeaucageおよびCaruthers、Tetrahedron Lett.22:1859〜1862頁(1981年)によって最初に説明された固相ホスホルアミダイトトリエステル法に従い、Van Devanter他、Nucleic Acids Res.12:6159〜6168頁(1984年)で記載されているように自動合成機を用いて、市販されていないオリゴヌクレオチドを化学的に合成することができる。遺伝子全体も、化学的に合成することができる。オリゴヌクレオチドの精製は、当技術分野において認識されている任意の戦略、例えば、未変性アクリルアミドゲル電気泳動、またはPearsonおよびReanier、J Chrom.255:137〜149頁(1983年)で説明されている陰イオン交換HPLCを用いて、実施される。
【0146】
クローン化した野生型ペプチド遺伝子、変異ペプチドをコードするポリヌクレオチド、および合成オリゴヌクレオチドの配列は、例えば、Wallace他、Gene16:21〜26頁(1981年)で説明されている2本鎖鋳型の配列決定を行うためのチェーンターミネーション法によって、クローニング後に確認することができる。
【0147】
野生型ペプチドコード配列のクローニングおよびサブクローニング
野生型ペプチドをコードしている多数のポリヌクレオチド配列が決定されており、商業的な供給業者から入手可能である。例えば、ヒト成長ホルモン、例えば、ジェンバンクアクセッション番号NM000515、NM002059、NM022556、NM022557、NM022558、NM022559、NM022560、NM022561、およびNM022562である。
【0148】
ヒトゲノム研究の急速な発展により、以前に同定されているペプチドのコード配列など、ある公知のヌクレオチド配列に対してある程度の比率の配列相同性を有する任意の遺伝子セグメントを調べるためにヒトDNA配列データベースを検索することができるクローニング手法が可能になった。このようにして確認した任意のDNA配列は、続いて、化学合成および/またはオーバーラップ伸長法などのポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)によって得ることができる。短い配列の場合は、完全に新規の合成で十分となり得るが、より大きな遺伝子を得るには、合成プローブを用いてヒトcDNAまたはゲノムのライブラリーから完全長コード配列をさらに単離することが必要となることがある。
【0149】
あるいは、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)などの標準のクローニング技術を用いて、あるペプチドをコードしている核酸配列をヒトcDNAまたはゲノムDNAのライブラリーから単離することもできる。その際、相同性に基づくプライマーは、多くの場合、ペプチドをコードしている公知の核酸配列から誘導することができる。この目的のために最もよく使用される技術は、標準の教科書、例えば、上述のSambrookおよびRussellの著書で説明されている。
【0150】
野生型ペプチドのコード配列を得るのに適したcDNAライブラリーは、市販されているものでもよく、あるいは、構築することもできる。mRNAを単離し、逆転写によってcDNAを作製し、cDNAを組換えベクター中に連結し、組換え宿主にトランスフェクトして増やし、スクリーニングし、クローニングする一般的方法は、周知である(例えば、GublerおよびHoffman、Gene、25:263〜269頁(1983年)、上述のAusubel他を参照のこと)。PCRによってヌクレオチド配列の増幅されたセグメントを得た直後に、そのセグメントをプローブとしてさらに使用して、野生型ペプチドをコードしている完全長ポリヌクレオチド配列をcDNAライブラリーから単離することができる。適切な手順の概要は、上述のSambrookおよびRussellの著書で確認することができる。
【0151】
同様の手順に従って、野生型ペプチド、例えば、前述のジェンバンクアクセッション番号のうちの任意のものをコードしている完全長配列をヒトゲノムライブラリーから得ることができる。ヒトゲノムライブラリーは市販されており、または、当技術分野において認識されている様々な方法に従って構築することができる。通常、ゲノムライブラリーを構築するためには、最初に、ペプチドがおそらく存在している組織からDNAを抽出する。次に、そのDNAを機械で切断し、または、酵素で消化して、長さ約12〜20kbの断片を得る。続いて、それらの断片を勾配遠心分離によって、望ましくないサイズのポリヌクレオチド断片から分離し、バクテリオファージλベクター中に挿入する。これらのベクターおよびファージを、in vitroパッケージングする。BentonおよびDavis、Science、196:180〜182頁(1977年)で説明されているように、プラークハイブリダイゼーションによって組換えファージを解析する。Grunstein他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,72:3961〜3965頁(1975年)で説明されているようにして、コロニーハイブリダイゼーションを実施する。
【0152】
配列相同性に基づき、プライマーセットとして縮重オリゴヌクレオチドを設計することができ、また、適切な条件下でPCRを実施して(例えば、White他、PCR Protocols:Current Methods and Applications、1993年、GriffinおよびGriffin、PCR Technology、CRC Press Inc.1994年を参照のこと)、cDNAまたはゲノムライブラリーからヌクレオチド配列のセグメントを増幅させることができる。増幅されたセグメントをプローブとして用いて、野生型ペプチドをコードしている完全長核酸を得る。
【0153】
野生型ペプチドをコードしている核酸配列を得たすぐ後に、そのコード配列をベクター、例えば発現ベクター中にサブクローニングして、得られた構築体から組換え野生型ペプチドを作製できるようにすることができる。分子の特質を改変するために、野生型ペプチドのコード配列にさらなる改変、例えば、ヌクレオチド置換を続けて行ってもよい。
【0154】
ペプチド配列中への変異の導入
コード性のポリヌクレオチド配列から、野生型ペプチドのアミノ酸配列を決定することができる。続いて、このアミノ酸配列を改変して、アミノ酸配列中の様々な位置に追加のグリコシル化部位を導入することにより、タンパク質のグリコシル化パターンを変えることができる。
【0155】
タンパク質グリコシル化部位のいくつかのタイプは、当技術分野で周知である。例えば、真核生物では、コンセンサス配列Asn−X
aa−Ser/Thr(式中、X
aaはプロリン以外の任意のアミノ酸である)のアスパラギン上でN結合型グリコシル化が起こる(Kornfeld他、Ann Rev Biochem 54:631〜664頁(1985年)、Kukuruzinska他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA84:2145〜2149頁(1987年)、Herscovics他、FASEB J7:540〜550頁(1993年)、およびOrlean、Saccharomyces Vol.3(1996年))。O結合型グリコシル化は、セリンまたはトレオニン残基上で起こる(Tanner他、Biochim.Biophys.Acta.906:81〜91頁(1987年)およびHounsell他、Glycoconj.J13:19〜26頁(1996年))。他のグリコシル化パターンは、タンパク質のカルボキシル末端のカルボキシル基にグリコシルホスファチジルイノシトールを連結することによって形成される(Takeda他、Trends Biochem.Sci.20:367〜371頁(1995年)およびUdenfriend他、Ann.Rev.Biochem.64:593〜591頁(1995年))。この知識に基づき、適切な変異を野生型ペプチド配列にこのように導入して、新しいグリコシル化部位を形成させることができる。
【0156】
ペプチドポリペプチド配列内のアミノ酸残基の直接的な改変が、新しいN結合型またはO結合型グリコシル化部位の導入に適していることもあるが、より頻繁には、ペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列を変異させることによって、新しいグリコシル化部位の導入が行われる。これは、公知の変異誘発方法のうちのいずれかによって実現することができ、そのうちのいくつかを以下に考察する。G−CSFペプチドに対する例示的な改変には、配列番号5〜18で例示されているものが含まれる。
【0157】
変異を起こすための様々なプロトコールが確立されており、当技術分野で説明されている。例えば、Zhang他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、94:4504〜4509頁(1997年)、およびStemmer、Nature、370:389〜391頁(1994年)を参照のこと。これらの手順を別々にまたは組み合わせて使用して、1組の核酸の変異体、その結果、コードされているポリペプチドの変異体を得ることができる。変異誘発、ライブラリー構築、および他の多様性を生成する方法のためのキットが市販されている。
【0158】
多様性を生成する変異的方法としては、例えば、部位特異的変異誘発(BotsteinおよびShortle、Science、229:1193〜1201頁(1985年))、ウラシル含有鋳型を用いた変異誘発(Kunkel、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82:488〜492頁(1985年))、オリゴヌクレオチドを用いた変異誘発(ZollerおよびSmith、Nucl.Acids Res.、10:6487〜6500頁(1982年))、ホスホロチオエート修飾によるDNA変異誘発(Taylor他、Nucl.Acids Res.、13:8749〜8764頁および8765〜8787頁(1985年)、およびギャップを形成した二重鎖DNAによる変異誘発(Kramer他、Nucl.Acids Res.、12:9441〜9456頁(1984年))が挙げられる。
【0159】
変異を生じさせるための他の方法としては、点ミスマッチ修復(Kramer他、Cell、38:879〜887頁(1984年))、修復能欠損宿主系統を用いた変異誘発(Carter他、Nucl.Acids Res.、13:4431〜4443頁(1985年))、欠失による変異誘発(EghtedarzadehおよびHenikoff、Nucl.Acids Res.、14:5115頁(1986年))、制限選択および制限精製(Wells他、Phil.Trans.R.Soc.Lond.A,317:415〜423頁(1986年))、遺伝子全体の合成による変異誘発(Nambiar他、Science、223:1299〜1301頁(1984年))、二重鎖切断修復(Mandecki、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、83:7177〜7181頁(1986年))、ポリヌクレオチドチェーンターミネーション法(米国特許第5965408号)による変異誘発、およびエラープロンPCR(Leung他、Biotechniques、1:11〜15頁(1989年))が挙げられる。
【0160】
宿主生物における好ましいコドン使用のための核酸改変
特定の宿主の好ましいコドン使用に合致するように、変異ペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列をさらに改変することができる。例えば、細菌細胞のある系統の好ましいコドン使用を利用して、本発明の変異ペプチドをコードし、この系統にとって好ましいコドンを含むポリヌクレオチドを誘導することができる。宿主細胞によって示される好ましいコドン使用頻度は、その宿主細胞によって発現されている多数の遺伝子における好ましいコドン使用頻度を平均することによって算出することができる(例えば、算出サービスは、かずさDNA研究所(Kazusa DNA Research Institure)(日本)のウェブサイトから利用可能である)。この解析は、好ましくは、宿主細胞によって高発現されている遺伝子に限定される。例えば、米国特許第5824864号は、双子葉植物および単子葉植物によって示されている高発現遺伝子によるコドン使用頻度を提供している。
【0161】
改変の完了時に、配列決定によって変異ペプチドコード配列を確認し、次いで、野生型ペプチドと同様の方式で、組換え作製用の適切な発現ベクター中にサブクローニングする。
【0162】
変異ペプチドの発現および精製
配列を確認した後、組換え遺伝学の分野の慣用技術により、本明細書で開示するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列を使用して、本発明の変異ペプチドを作製することができる。
【0163】
発現系
本発明の変異ペプチドをコードしている核酸の高レベルな発現を得るためには、一般に、転写を指示する強力なプロモーター、転写/翻訳ターミネーター、および翻訳を開始するためのリボソーム結合部位を含む発現ベクター中に、変異ペプチドをコードしているポリヌクレオチドをサブクローニングする。適切な細菌プロモーターは当技術分野で周知であり、例えば、SambrookおよびRussellの前掲書、ならびにAusubel他の前掲書に記載されている。野生型ペプチドまたは変異ペプチドを発現するための細菌発現系は、例えば、大腸菌(E.coli)、バチルス種(Bacillus sp)、サルモネラ属(Salmonella)、およびコーロバクター属(Caulobacter)において利用可能である。このような発現系のためのキットが市販されている。哺乳動物細胞、酵母、および昆虫細胞の真核生物発現系が当技術分野で周知であり、同様に、市販されている。一実施形態では、真核細胞用発現ベクターはアデノウイルスベクター、アデノ随伴ベクター、またはレトロウイルスベクターである。
【0164】
異種核酸を直接発現させるのに使用されるプロモーターは、個々の用途に応じて変わる。このプロモーターは、場合によっては、天然の設定においてプロモーターが転写開始部位から離れている距離とおよそ同じ距離だけ、異種の転写開始部位から離れた位置にある。しかし、当技術分野で公知であるように、この距離のいくらかの変化は、プロモーター機能を失わずに受け入れられることができる。
【0165】
プロモーターに加えて、発現ベクターは一般に、転写単位、または宿主細胞で変異ペプチドを発現するのに必要とされる追加の要素すべてを含む発現カセットを含む。すなわち、一般的な発現カセットは、変異ペプチドをコードしている核酸配列に作動可能に連結したプロモーターおよび転写物の効率的なポリアデニル化に必要とされるシグナル、リボソーム結合部位、ならびに翻訳終結部位を含む。ペプチドをコードしている核酸配列は、一般に、形質転換細胞によるペプチド分泌を促進するための切断可能なシグナルペプチド配列に連結されている。このようなシグナルペプチドとしては、特に、組織プラスミノーゲン活性化因子、インスリン、および神経成長因子、ならびにオオタバコガ(Heliothis virescens)の幼虫ホルモンであるエステラーゼに由来するシグナルペプチドが挙げられる。このカセットの追加要素として、エンハンサー、また、ゲノムDNAが構造遺伝子として使用される場合は、機能性のスプライス供与部位および受容部位を有するイントロンも挙げることができる。
【0166】
プロモーター配列に加えて、発現カセットは、効率的な終結をもたらすために構造遺伝子の下流に転写終結領域も含むべきである。この終結領域は、プロモーター配列と同じ遺伝子から得てもよく、あるいは、異なる遺伝子から得てもよい。
【0167】
遺伝情報を細胞中に送り込むのに使用する個々の発現ベクターは特に重要ではない。真核細胞または原核細胞での発現用に使用される従来のベクターのうちの任意のものを使用してよい。標準の細菌発現ベクターとしては、pBR322ベースのプラスミド、pSKF、pET23Dなどのプラスミド、およびGSTやLacZなどの融合発現系が挙げられる。便利な単離方法を提供するために、エピトープタグ、例えば、c−mycを組換えタンパク質に付加してもよい。
【0168】
真核生物ウイルス由来の調節エレメントを含む発現ベクターが、通常、真核細胞用発現ベクター、例えば、SV40ベクター、パピローマウイルスベクター、およびエプスタインバー(Epstein−Barr)ウイルス由来のベクターで使用されている。他の例示的な真核細胞用ベクターとしては、pMSG、pAV009/A
+、pMTO10/A
+、pMAMneo−5、バキュロウイルスpDSVE、ならびに、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳癌ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、または、真核細胞での発現に有効であることが示されている他のプロモーターの指示のもとでタンパク質を発現させることができる他の任意のベクターが挙げられる。
【0169】
いくつかの例示的な実施形態では、発現ベクターは、参照により本明細書に組み込む2004年4月9日出願の共有の米国特許出願明細書で開示されているように、pCWin1、pCWin2、pCWin2/MBP、pCWin2−MBP−SBD(pMS
39)、およびpCWin2−MBP−MCS−SBD(pMXS
39)から選択される。
【0170】
一部の発現系は、チミジンキナーゼ、ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、およびジヒドロ葉酸レダクターゼなど、遺伝子増幅をもたらすマーカーを有する。あるいは、ポリヘドリンプロモーターまたはその他の強力なバキュロウイルスプロモーターの指示下で変異ペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列を有する、昆虫細胞中のバキュロウイルスベクターなど、遺伝子増幅を伴わない高収率発現系も適している。
【0171】
発現ベクター中に一般に含まれる構成要素としては、大腸菌(E.coli)中で機能するレプリコン、組換えプラスミドを含む細菌の選定を可能にする抗生物質耐性をコードする遺伝子、および真核生物の配列の挿入を可能にする、プラスミドの非必須領域中の特有の制限酵素認識部位も挙げられる。選択される個々の抗生物質耐性遺伝子は重要ではなく、当技術分野で公知の多くの耐性遺伝子のうちの任意のものが適している。必要な場合には、原核生物の配列を場合によっては選択し、その際は、原核生物の配列が真核細胞中のDNAの複製を妨害しないようにする。
【0172】
組換えタンパク質(例えば、本発明のhgh変異体)のペリプラズム発現が望まれるとき、発現ベクターは、発現しようとするタンパク質のコード配列の5’に直接結合している、大腸菌OppA(ペリプラズム中のオリゴペプチド結合タンパク質)分泌シグナルやその修飾型などの分泌シグナルをコードしている配列もさらに含む。このシグナル配列は、細胞質で産生された組換えタンパク質を、細胞膜を通してペリプラズム空間中へと導く。この発現ベクターはさらに、組換えタンパク質がペリプラズム空間に入るときにシグナル配列を酵素的に切断することができるシグナルペプチダーゼ1のコード配列も含んでよい。組換えタンパク質のペリプラズムでの作製に関するより詳細な説明は、例えば、Gray他、Gene39:247〜254頁(1985年)、米国特許第6160089号、および米国特許第6436674号で確認することができる。
【0173】
上述したように、ぺプチドの生物活性をなお保持しつつ、任意の野生型ペプチドもしくは変異ペプチドまたはそのコード配列に様々な保存的置換を施すことができることが、当業者には認識されよう。さらに、得られるアミノ酸配列を変えずに個々の発現宿主での好ましいコドン使用を提供するために、ポリヌクレオチドコード配列の改変を行ってもよい。
【0174】
トランスフェクション法
標準のトランスフェクション法を用いて、大量の変異ペプチドを発現する細菌、哺乳動物、酵母、または昆虫の細胞系を作製し、次いで、それら変異ペプチドを標準技術によって精製する(例えば、Colley他、J:Biol.Chem.264:17619〜17622頁(1989年)、Guide to Protein Purification、Methods in Enzymology、182巻(Deutscher編、1990年)を参照のこと)。標準技術に従って、真核細胞および原核細胞の形質転換を実施する(例えば、Morrison、J Bact.132:349〜351頁(1977年)、ならびにClark−CurtissおよびCurtiss、Methods in Enzymology 101:347〜362頁(Wu他編、1983年)を参照のこと)。
【0175】
宿主細胞中に外来のヌクレオチド配列を導入するための周知の手順のうちの任意のものを使用してよい。これらの手順としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリブレン、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソーム、マイクロインジェクション、細胞質内発現用ベクター(plasma vector)、ウイルスベクター、ならびにクローン化されたゲノムDNA、cDNA、合成DNA、または他の外来遺伝子物質を宿主細胞に導入するための他の周知の方法のうちのいずれかの使用が挙げられる(例えば、SambrookおよびRussellの前掲書を参照のこと)。使用される個々の遺伝子工学手順が、変異ペプチドを発現することができる宿主細胞中に少なくとも1つの遺伝子を成功裡に導入できることのみ必要である。
【0176】
宿主細胞における変異ペプチド発現の検出
適切な宿主細胞中に発現ベクターを導入した後、変異ペプチドの発現を促進する条件下で、トランスフェクトされた細胞を培養する。次に、標準技術によって続いて培養物から回収される組換えポリペプチドの発現について細胞をスクリーニングする(例えば、Scopes、Protein Purification:Principles and Practice(1982年)、米国特許第4673641号、Ausubel他の前掲書、およびSambrookおよびRussellの前掲書を参照のこと)。
【0177】
遺伝子発現をスクリーニングするためのいくつかの一般的な方法は、当業者の間では周知である。第1に、核酸レベルで遺伝子発現を検出することができる。核酸ハイブリダイゼーション技術による特異的なDNAおよびRNA測定を行う様々な方法が、通常使用される(例えば、SambrookおよびRussellの前掲書)。一部の方法は、電気泳動による分離(例えば、DNA検出用のサザンブロットおよびRNA検出用のノーザンブロット)を要するが、電気泳動無しでも(ドットプロット法によってなど)DNAまたはRNAの検出を同様に実施することができる。トランスフェクトされた細胞における変異ペプチドをコードしている核酸の存在も、配列特異的プライマーを用いたPCRまたはRT−PCRによって検出することができる。
【0178】
第2に、ポリペプチドレベルで遺伝子発現を検出することができる。遺伝子産物のレベルを測定するために、様々な免疫学的アッセイ、特に、配列番号1〜7のアミノ酸配列を有するポリペプチドなど本発明の変異ペプチドと特異的に反応するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いたアッセイが、当業者によって通常使用される(例えば、HarlowおよびLane、Antibodies、A Laboratory Manual、14章、Cold Spring Harbor、1988年、ならびにKohlerおよびMilstein、Nature、256:495〜497頁(1975年))。これらの技術は、変異ペプチドまたはその抗原性部分に対する高い特異性を有する抗体を選別することによる抗体調製を必要とする。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を産生させる方法は確立されており、それらの説明は、文献、例えば、HarlowおよびLaneの前掲書、ならびに、KohlerおよびMilstein、Eur.J Immunol.、6:511〜519頁(1976年)で確認することができる。本発明の変異ペプチドに対する抗体の調製および変異ペプチドを検出する免疫学的アッセイの実施に関するより詳細な説明は、後述のセクションで提供される。
【0179】
組換えによって作製した変異ペプチドの精製
トランスフェクトされた宿主細胞における組換え変異ペプチドの発現を確認した後、次いで、組換えポリペプチドを精製するために、適切なスケールで宿主細胞を培養する。
【0180】
1.組換えによって作製した変異ペプチドの細菌からの精製
一般にはプロモーター導入後、形質転換された細菌により、本発明の変異ペプチドが組換えによって大量に作製されるとき、発現は構成的となり得るが、それらのタンパク質は不溶性の凝集体を形成することがある。タンパク質封入体を精製するのに適したいくつかのプロトコールがある。例えば、タンパク質凝集体(以下、封入体と呼ぶ)の精製は、一般に、細菌細胞を破壊することにより、例えば、約100〜150μg/mlのリゾチームと非イオン系界面活性剤の0.1% Nonidet P40を含む緩衝液中でのインキュベーションにより、封入体を抽出、分離、および/または精製することを伴う。細胞懸濁液は、ポリトロン(Polytron)粉砕機(Brinkman Instruments社製、ウェストベリー(Westbury)、ニューヨーク州)を用いて粉砕することができる。あるいは、細胞を氷上で超音波処理することもできる。細菌を溶解する代替方法は、Ausubel他の前掲書、ならびにSambrookおよびRussellの前掲書に記載されており、当業者には明らかであろう。
【0181】
一般に、細胞懸濁液を遠心分離し、封入体を含有している沈殿物を、封入体を溶解しないが洗浄する緩衝液、例えば、20mM Tris−HCl(pH7.2)、1mM EDTA、150mM NaCl、および非イオン系界面活性剤の2%Triton−X100に再懸濁する。できるだけ多くの細胞片を除去するために洗浄工程を繰り返すことが必要な場合がある。適切な緩衝液(例えば、20mMリン酸ナトリウム、pH6.8、150mM NaCl)中に封入体の残存沈殿物を再懸濁してよい。他の適切な緩衝液は、当業者には明らかであろう。
【0182】
洗浄工程の後に、強力な水素受容体でもあり強力な水素供与体でもある溶剤(または、これらの特性のうちの1つをそれぞれ有する溶剤の組合せ物)を添加することによって、封入体を可溶化する。次に、封入体を形成していたタンパク質を、化学反応を起こさない緩衝液で希釈または透析することによって再生することができる。適切な溶媒としては、それだけには限らないが、尿素(約4M〜約8M)、ホルムアミド(少なくとも約80%(基準は体積/体積)、およびグアニジン塩酸塩(約4M〜約8M)が挙げられる。SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)や70%ギ酸など、凝集体形成タンパク質を可溶化することができるいくつかの溶媒は、タンパク質を不可逆的に変性させ、免疫原性および/または活性の欠如を伴う可能性があるため、この手順で使用するのに適さない場合がある。グアニジン塩酸塩および類似の作用物質は変性剤であるが、この変性は不可逆的ではなく、変性剤を除去(例えば、透析による)または希釈すると再生が起こり、免疫学的および/または生物学的に活性な目的タンパク質の再形成を可能にし得る。可溶化の後、標準の分離技術によって、他の細菌タンパク質からそのタンパク質を分離することができる。細菌の封入体からの組換えペプチド精製に関するさらなる説明については、例えば、Patra他、Protein Expression and Purification 18:182〜190頁(2000年)を参照のこと。
【0183】
あるいは、組換えポリペプチド、例えば変異ペプチドを細菌のペリプラズムから精製することも可能である。組換えタンパク質が細菌のペリプラズム中に移行している場合、細菌のペリプラズム部分は、当業者に公知の他の方法に加えて低温浸透圧ショックを施すことによって単離することができる(例えば、Ausubel他の前掲書を参照のこと)。組換えタンパク質をペリプラズムから単離するために、細菌細胞を遠心分離して沈殿物を形成させる。沈殿物を20%スクロース含有緩衝液中に再懸濁させる。細胞を溶解するために、細菌を遠心分離し、氷冷した5mM MgSO
4に沈殿物を再懸濁し、氷浴中で約10分間保存する。細胞懸濁液を遠心分離し、上清を静かに他の容器に移し、取っておく。当業者には周知の標準的な分離技術によって、上清中に存在する組換えタンパク質を宿主のタンパク質から分離することができる。
【0184】
2.精製のための標準的なタンパク質分離技術
組換えポリペプチド、例えば本発明の変異ペプチドが可溶型で宿主細胞において発現されるとき、その精製は、後述する標準のタンパク質精製手順に従うことができる。
【0185】
i.溶解性による分画
しばしば最初の工程として、また、タンパク質混合物が複雑な場合に、最初に塩分画を行って、不必要な宿主細胞タンパク質(または細胞培養培地に由来するタンパク質)の多くを、目的の組換えタンパク質、例えば、本発明の変異ペプチドから分離することができる。好ましい塩は、硫酸アンモニウムである。硫酸アンモニウムは、タンパク質混合物中の水の量を効果的に低減させることによって、タンパク質を沈殿させる。そのとき、タンパク質は、溶解性に基づいて沈殿する。タンパク質の疎水性が高いほど、より低濃度の硫酸アンモニウムで沈殿が起こる可能性が高い。一般的なプロトコールは、結果として生じる硫酸アンモニウム濃度が20〜30%になるように、タンパク質溶液に飽和硫酸アンモニウムを加えるものである。これにより、大半の疎水性タンパク質は沈殿すると考えられる。(目的タンパク質が疎水性ではない場合は)この沈殿物を廃棄し、目的タンパク質を沈殿させることが分かっている濃度になるまで、上清に硫酸アンモニウムを加える。次に、緩衝液中で沈殿物を可溶化し、必要であれば、透析またはダイアフィルトレーションによって過剰な塩を除去する。低温エタノールによる沈殿などタンパク質の溶解性に依拠する他の方法は、当業者には周知であり、複雑なタンパク質混合物を分画するのに使用することができる。
【0186】
ii.サイズの差を利用したろ過
計算された分子量に基づき、限外ろ過により様々なポアサイズの膜(例えば、Amicon社製またはMillipore社製の膜)を通して、サイズのより大きなタンパク質およびサイズのより小さなタンパク質を単離することができる。第1の工程として、目的タンパク質、例えば、変異ペプチドの分子量より低分子量のカットオフ値を有するポアサイズの膜を用いてタンパク質混合物を限外ろ過する。次に、目的タンパク質の分子量より大きな分子カットオフ値を有する膜を用いて限外ろ過の濃縮液を限外ろ過する。組換えタンパク質は、膜を通過してろ液に溶出すると考えられる。次に、このろ液を後述するようにクロマトグラフィーにかけることができる。
【0187】
iii.カラムクロマトグラフィー
(本発明の変異ペプチドなどの)目的タンパク質は、サイズ、正味の表面電荷、疎水性、またはリガンドに対する親和性に基づいて他のタンパク質から分離することもできる。さらに、ペプチドに対して産生させた抗体を、カラムのマトリックスに結合させ、ペプチドを免疫精製することもできる。これらの方法はすべて、当技術分野で周知である。
【0188】
任意のスケールで、また、多くの様々な製造業者(例えば、Pharmacia Biotech社)の機器を用いて、クロマトグラフィー法を実施できることは、当業者には明らかであろう。
【0189】
変異ペプチド発現を検出するためのイムノアッセイ
組換え変異ペプチドの産生を確認するために、イムノアッセイが、サンプル中でポリペプチドの発現を検出するのに有用となり得る。イムノアッセイは、組換えホルモンの発現レベルを定量するのにも有用となり得る。変異ペプチドに対する抗体が、これらのイムノアッセイを実施するのに必要である。
【0190】
変異ペプチドに対する抗体の作製
目的の免疫原と特異的に反応するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を作製する方法は、当業者には公知である(例えば、Coligan、Current Protocols in Immunology Wiley/Greene、ニューヨーク、1991年、HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、ニューヨーク、1989年、Stites他(編)Basic and Clinical Immunology(第4版)Lange Medical Publications、ロスアルトス(Los Altos)、カリフォルニア州、ならびにその中で引用されている参考文献、Goding、Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(第2版)Academic Press、ニューヨーク市、ニューヨーク州、1986年、ならびにKohlerおよびMilstein Nature 256:495〜497頁、1975年を参照のこと)。このような技術は、ファージまたは類似のベクター中の組換え抗体ライブラリーから抗体を選択することによる抗体調製を含む(Huse他、Science 246:1275〜1281頁、1989年、およびWard他、Nature 341:544〜546頁、1989年を参照のこと)。
【0191】
所望の特異性を有する抗体を含有する抗血清を調製するために、目的ポリペプチド(例えば、本発明の変異ペプチド)またはその抗原性断片を用いて、適切な動物、例えば、マウス、ウサギ、または霊長類を免疫化することができる。標準の免疫感作プロトコールに従って、フロイントのアジュバントなど標準のアジュバントを使用することができる。あるいは、その特定のポリペプチドから誘導した合成の抗原ペプチドを担体タンパク質に結合し、続いて免疫原として使用することもできる。
【0192】
試験血液を採取し、目的の抗原に対する反応性の力価を測定することにより、免疫原調製物に対する動物の免疫応答をモニターする。抗原に対する抗体の力価が適切に高くなったとき、動物から血液を採取し、抗血清を調製する。抗原に特異的に反応する抗体を濃縮するための抗血清のさらなる分画および抗体の精製を続いて行うことができる。HarlowおよびLaneの前掲書、ならびに前述したタンパク質精製に関する一般的な説明を参照のこと。
【0193】
モノクローナル抗体は、当業者にはよく知られている様々な技術を用いて得られる。典型的には、一般に骨髄腫細胞と融合させることによって、所望の抗原で免疫化した動物に由来する脾臓細胞を不死化する(KohlerおよびMilstein、Eur.J.Immunol.6:511〜519頁、1976年を参照のこと)。不死化の代替方法としては、例えば、エプスタインバーウイルス(Epstein Barr virus)、癌遺伝子、もしくはレトロウイルスによる形質転換、または当技術分野で周知の他の方法が挙げられる。単一の不死化細胞から生じるコロニーを、所望の特異性および抗原に対する親和性を有する抗体の産生に関してスクリーニングし、また、脊椎動物宿主の腹腔への注射を含めて、様々な技術により、これらの細胞によって産生されるモノクローナル抗体の収率を高めることができる。
【0194】
さらに、Huse他の前掲書に概説がある一般的なプロトコールに従ってヒトB細胞cDNAライブラリーをスクリーニングすることによる、所望の特異性を有する抗体またはそのような抗体の結合フラグメントをコードしている核酸配列の同定に基づいて、モノクローナル抗体を組換えによって作製することもできる。前述の組換えポリペプチド作製の一般的な原理および方法は、組換法による抗体作製にも応用できる。
【0195】
望むなら、本発明の変異ペプチドを特異的に認識することができる抗体を、野生型ペプチドに対する交叉反応性について試験し、それによって、野生型タンパク質に対する抗体と区別することができる。例えば、変異ペプチドで免疫化した動物から得た抗血清を、野生型ペプチドを表面に固定化したカラムに通すことができる。カラムを通過する抗血清部分は、変異ペプチドのみを認識し、野生型ペプチドは認識しない。同様に、変異ペプチドに対するモノクローナル抗体も、変異体のみを認識するが野生型ペプチドは認識しない際の排他性をもとにスクリーニングすることができる。
【0196】
本発明の変異ペプチドのみを特異的に認識するが野生型ペプチドは認識しないポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、例えば、固体支持体上に固定化された、変異ペプチドに特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体とともにサンプルをインキュベートすることにより、野生型タンパク質から変異タンパク質を単離するのに有用である。
【0197】
変異ペプチド発現を検出するためのイムノアッセイ
本発明の変異ペプチドに対して特異的な抗体が利用可能になった後、サンプル中のポリペプチド、例えば、細胞溶解産物の量は、当業者に質的および定量的結果を与える様々なイムノアッセイ法により測定することができる。一般的な免疫学的手順およびイムノアッセイ手順の総説については、例えば、Stitesの前掲書、米国特許第4366241号、米国特許第4376110号、米国特許第4517288号、米国特許第4837168号を参照のこと。
【0198】
イムノアッセイにおける標識化
イムノアッセイは、抗体および標的タンパク質によって形成された結合複合体に特異的に結合し、それを標識する標識物質をしばしば利用する。標識物質は、それ自体が、抗体/標的タンパク質複合体を含む部分のうちの1つでもよく、あるいは、別の抗体など、抗体/標的タンパク質複合体に特異的に結合する第3の部分でもよい。標識は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的、または化学的手段によって検出可能なものでよい。例としては、それだけには限らないが、磁性ビーズ(例えば、「Dynabeads(登録商標)」)、蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアナート、テキサスレッド(Texas red)、ローダミンなど)、放射性同位体(例えば、
3H、
125I、
35S、
14C、または
32P)、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびELISAで一般に使用される他の酵素)、およびコロイド金や有色のガラスもしくはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズなどの比色標識物質が挙げられる。
【0199】
いくつかの場合では、標識物質は、検出可能な標識を有する二次抗体である。あるいは、二次抗体は標識を欠いていてもよいが、代わりに、二次抗体が由来する種の抗体に特異的な、標識された三次抗体が結合していてもよい。酵素標識ストレプトアビジンなど第3の標識化分子が特異的に結合することができるビオチンなどの検出可能部分で二次抗体を修飾することができる。
【0200】
タンパク質Aやタンパク質Gなど、免疫グロブリンの定常領域に特異的に結合することができる他のタンパク質も、標識物質として使用することができる。これらのタンパク質は、連鎖球菌の細胞壁の通常の構成成分である。それらは、様々な種に由来する免疫グロブリンの定常領域との非免疫原性の強い反応性を示す。(一般には、Kronval他J.Immunol.、111:1401〜1406頁(1973年)、およびAkerstrom、他、J:Immunol.、135:2589〜2542頁(1985年)を参照のこと)。
【0201】
イムノアッセイの形式
サンプルから標的目的タンパク質(例えば、ヒト成長ホルモン変異体)を検出するためのイムノアッセイは、競合的でも非競合的でもよい。非競合イムノアッセイは、捕捉された標的タンパク質の量が直接測定されるアッセイである。1つの好ましい「サンドイッチ」アッセイでは、例えば、標的タンパク質に特異的な抗体を固体基板に直接結合させ、その基板上でその抗体を固定化してよい。次に、その抗体は、試験サンプル中の標的タンパク質を捕捉する。次に、このようにして固定化された抗体/標的タンパク質複合体に、標識を有する前述したような二次抗体や三次抗体などの標識物質を結合させる。
【0202】
競合アッセイでは、サンプル中に存在する標的タンパク質によって標的タンパク質に特異的な抗体から移動させられた(または競争して追いやられた)、追加された(外因性の)標的タンパク質の量を測定することにより、サンプル中の標的タンパク質の量を間接的に測定する。このようなアッセイの典型的な例では、抗体を固定化し、外因性の標的タンパク質を標識化する。抗体に結合する外因性標的タンパク質の量は、サンプル中に存在する標的タンパク質の濃度に反比例するため、結果として、抗体に結合し、そうして固定化された外因性標的タンパク質の量に基づいてサンプル中の標的タンパク質レベルを決定することができる。
【0203】
いくつかの場合では、サンプル中の変異ペプチドの存在を検出および定量するために、ウエスタンブロット(イムノブロット)解析を使用する。この技術は、一般に、分子量を基準にしてゲル電気泳動によってサンプルのタンパク質を分離するステップと、分離されたタンパク質を適切な固体支持体(ニトロセルロースフィルター、ナイロンフィルター、またはナイロン誘導体のフィルターなど)に移すステップと、標的タンパク質に特異的に結合する抗体とともにサンプルをインキュベートするステップとを含む。これらの抗体を直接標識してもよく、あるいは、変異ペプチドに対する抗体に特異的に結合する標識化抗体(例えば、標識化したヒツジの抗マウス抗体)によって、続いて検出してもよい。
【0204】
他のアッセイ形式としては、特定の分子(例えば、抗体)に結合するように設計されたリポソームを使用し、封入された試薬またはマーカーを放出する、リポソームイムノアッセイ(LIA)が挙げられる。次いで、標準技術に従って、放出された化学物質を検出する(Monroe他、Amer.Clin.Prod.Rev.、5:34〜41頁(1986年))。
【0205】
コンジュゲート
代表的な態様では、本発明は、ペプチドと選択された修飾基の間の複合糖質であって、その修飾基が、グリコシル結合基、例えば、完全なグリコシル結合基を介してペプチドに結合されている複合糖質を提供する。グリコシル結合基は、ペプチド上のO結合型グリコシル化部位に直接結合しており、あるいは、1つまたは複数の追加のグリコシル残基を介して、O結合型グリコシル化部位に結合している。コンジュゲートの調製方法は、本明細書、ならびに米国特許第5876980号、米国特許第6030815号、米国特許第5728554号、米国特許第5922577号、WO98/31826号、US2003180835号、およびWO03/031464号において説明されている。
【0206】
例示的なペプチドとしては、GalNAcトランスフェラーゼの作用によってO結合型グリコシル化部位に結合しているO結合型GalNAc残基が挙げられる。GalNAcそれ自体が完全なグリコシル結合基でもよい。例えば、Gal残基またはSia残基によって、GalNAcをさらに精巧に作ることもできる。その際、Gal残基またはSia残基のいずれかが、完全なグリコシル結合基の役割を果たすことができる。代表的な実施形態では、O結合型サッカリル残基は、GalNAc−X、GalNAc−Gal−Sia−X、またはGalNAc−Gal−Gal−Sia−X(Xは修飾基である)である。
【0207】
例示的な実施形態では、ペプチドは、野生型ペプチドには存在しないO結合型グリコシル化部位を含む変異ペプチドである。ペプチドは、好ましくは、変異部位で、GalNAc残基によってOグリコシル化される。サッカリル部分の構造に関する直前の考察が、ここでも同様に該当する。
【0208】
ペプチドと選択された部分の間の結合は、ペプチドと修飾部分の間に介在している完全なグリコシル結合基を含む。本明細書で論じるように、選択された部分は、糖単位に結合され、その結果、修飾された糖をペプチドに付加させる適切なトランスフェラーゼ酵素によって認識される「修飾された糖」を生じることができる、本質的に任意の化学種である。修飾された糖の糖部分は、ペプチドと選択された部分の間に介在しているとき、「完全なグリコシル結合基」となる。グリコシル結合基は、選択された部分で修飾された後に適切なトランスフェラーゼの基質となる、任意の単糖またはオリゴ糖から形成される。
【0209】
本発明のコンジュゲートは、通常、以下の一般的な構造に対応すると考えられる。
【0210】
【化9】
式中、記号a、b、c、d、およびsは、ゼロではない正の整数を表し、tは0または正の整数である。「作用物質」は、治療薬、生理活性物質、検出可能な標識、水溶性部分などである。「作用物質」は、ペプチド、例えば、酵素、抗体、抗原などでもよい。リンカーは、下記の多彩な結合基のうちの任意のものでよい。あるいは、リンカーは、一重結合または「ゼロ次のリンカー」でもよい。ペプチドのアイデンティティには制限はない。
【0211】
例示的な実施形態では、選択された部分は水溶性のポリマー、例えば、PEG、m−PEG、PPG、m−PPGなどである。この水溶性のポリマーは、グリコシル結合基を介してペプチドに共有結合している。このグリコシル結合基は、ペプチドのアミノ酸残基またはグリコシル残基に共有結合している。あるいは、グリコシル結合基は、糖ペプチドの1つまたは複数のグリコシル単位に結合している。本発明は、グリコシル結合基(例えば、GalNAc)がアミノ酸残基(例えばThrまたはSer)に結合しているコンジュゲートも提供する。
【0212】
例示的な実施形態では、タンパク質は、インターフェロンである。インターフェロンは、ヒトにおいて、ウイルスまたは2本鎖RNAによる誘導後に、ヒト初代線維芽細胞によって分泌される、抗ウイルス性糖タンパク質である。インターフェロンは、治療薬、例えば、抗ウイルス剤(例えば、B型肝炎およびC型肝炎)、抗腫瘍剤(例えば、肝細胞癌)として、また、多発性硬化症の治療において注目に値する。インターフェロンαに関連する参考文献については、Asano他、Eur.J.Cancer、27(補遺4):21〜25頁(1991年)、Nagy他、Anticancer Research、8(3):467〜470頁(1988年)、Dron他、J Biol.Regul.Homeost.Agents,3(1):13〜19頁(1989年)、Habib他、Am.Surg.、67(3):257〜260頁(2001年3月))、およびSugiyama他、Eur.J.Biochem.、217:921〜927頁(1993年)を参照のこと。インターフェロンβに関連する参考文献については、例えば、Yu他、J.Neuroimmunol.、64(1):91〜100頁(1996年)、Shumidt,J.、J.Neurosci.Res.、65(1):59〜67頁(2001年)、Wender他、Folia Neuropathol.、39(2):91〜93頁(2001年)、Martin他、Springer Semin.Immunopathol.、18(1):1〜24頁(1996年)、Takane他、J.Pharmacol.Exp.Ther.、294(2):746〜752頁(2000年)、Sburlati他、Biotechnol.Prog.、14:189〜192頁(1998年)、Dodd他、Biochimica et Biophysica Acta、787:183〜187頁(1984年)、Edelbaum他、J.Interferon Res.、12:449〜453頁(1992年)、Conradt他、J.Biol.Chem.、262(30):14600〜14605頁(1987年)、Civas他、Eur.J.Biochem.、173:311〜316頁(1988年)、Demolder他、J.Biotechnol.、32:179〜189頁(1994年)、Sedmak他、J.Interferon Res.、9(補遺1):61〜65頁(1989年)、Kagawa他、J.Biol.Chem.、263(33):17508〜17515頁(1988年)、Hershenson他、米国特許第4894330号、Jayaram他、J.Interferon Res.、3(2):177〜180頁(1983年)、Menge他、Develop.Biol.Standard.、66:391〜401頁(1987年)、Vonk他、J.Interferon Res.、3(2):169〜175頁(1983年)、およびAdolf他、J.Interferon Res.、10:255〜267頁(1990年)を参照のこと。
【0213】
例示的なインターフェロンコンジュゲートでは、インターフェロンα、例えば、インターフェロンα2bおよび2aが、完全なグリコシルリンカーを介して水溶性ポリマーに結合している。
【0214】
さらに例示的な実施形態では、本発明は、ヒト顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)のコンジュゲートを提供する。G−CSFは、機能的に成熟した好中球への好中球を新生する前駆細胞の増殖、分化、および活性化を刺激する糖タンパク質である。注射されたG−CSFは、身体から迅速に除去される。例えば、Nohynek他、Cancer Chemother.Pharmacol.、39:259〜266頁(1997年)、Lord他、Clinical Cancer Research、7(7):2085〜2090頁(2001年7月)、Rotondaro他、Molecular Biotechnology、11(2):117〜128頁(1999年)、およびBonig他、Bone Marrow Transplantation、28:259〜264頁(2001年)を参照のこと。
【0215】
本発明は、GM−CSFを修飾するための方法を包含する。GM−CSFは、活性化T−細胞、マクロファージ、内皮細胞、および間質線維芽細胞によって産生されるサイトカインとして当技術分野で周知である。GM−CSFは、主として骨髄に作用して炎症性白血球の産生を増大させ、さらに、炎症作用の間に消費される好中球の補充を開始させる内分泌ホルモンとしても作用する。さらに、GM−CSFは、マクロファージ活性化因子であり、ランゲルハンス細胞の樹状細胞への分化を促進する。G−CSFと同様に、GM−CSFも、化学療法の後の骨髄置換において臨床応用されている。
【0216】
酵素的に付加される完全なグリコシル結合基を通じて形成されるコンジュゲートを提供することに加えて、本発明は、置換パターンが極めて均質なコンジュゲートを提供する。本発明の方法によって、本発明のコンジュゲートの集合全体における修飾された糖部分のほぼすべてが、構造的に同一のアミノ酸残基またはグリコシル残基に結合されている、ペプチドコンジュゲートを形成させることが可能である。したがって、第2の態様では、本発明は、完全なグリコシル結合基を介してペプチドに共有結合している水溶性のポリマー部分の集合を有する、ペプチドコンジュゲートを提供する。本発明の別のコンジュゲートでは、その集団のほぼすべてのメンバーは、グリコシル結合基を介してペプチドのグリコシル残基に結合しており、グリコシル結合基が結合しているペプチドの各グリコシル残基は同じ構造を有している。
【0217】
水溶性ポリマー部分の集団がグリコシル結合基を介して共有結合しているペプチドコンジュゲートも提供される。別の実施形態では、水溶性ポリマー部分の集団のほぼすべてのメンバーは、完全なグリコシル結合基を介してペプチドのアミノ酸残基に結合しており、完全なグリコシル結合基が結合している各アミノ残基は同じ構造を有している。
【0218】
本発明は、ペプチドが、治療効果を有する部分、診断用の部分、標的性部分、毒性部分などにグリコシル結合基を介して結合されている、前述したものに類似したコンジュゲートも提供する。前述した部分はそれぞれ、小分子、天然ポリマー(例えばポリペプチド)、または合成ポリマーでよい。
【0219】
さらに別の実施形態では、本発明は、コンジュゲートの構成要素として標的性作用物質が存在するために、特定の組織中に選択的に局在化するコンジュゲートを提供する。例示的な実施形態では、この標的性作用物質はタンパク質である。例示的なタンパク質としては、トランスフェリン(脳、血液プール)、HS−糖タンパク質(骨、脳、血液プール)、抗体(脳、抗体に特異的な抗原を有する組織、血液プール)、凝固因子V〜XII(損傷組織、血餅、癌、血液プール)、血清タンパク質、例えば、α−酸糖タンパク質、フェチュイン、α−胎児タンパク質(脳、血液プール)、β2−糖タンパク質(肝臓、アテローム性動脈硬化症のプラーク、脳、血液プール)、G−CSF、GM−CSF、M−CSF、EPO(免疫刺激、癌、血液プール、赤血球過剰産生、神経保護)、アルブミン(半減期の延長)、IL−2、およびIFN−αが挙げられる。
【0220】
例示的な標的化コンジュゲートでは、インターフェロンα2β(IFN−α2β)は、PEG部分の各末端に完全なグリコシル結合基を含む二官能性リンカーを介してトランスフェリンに結合している(スキーム1)。例えば、PEGリンカーの一方の末端は、トランスフェリンに結合した完全なシアル酸リンカーで官能化され、他方は、IFN−α2βに結合した完全なO結合型GalNAcリンカーで官能化されている。
【0221】
本発明のコンジュゲートは、一価または多価(例えば、アンテナ構造)であるグリコシル結合基を含み得る。したがって、本発明のコンジュゲートは、選択された部分が一価のグリコシル結合基を介してペプチドに結合している、双方の化学種を含む。複数の選択された部分が多価の結合基を介してペプチドに結合しているコンジュゲートも、本発明の範囲に含まれる。
【0222】
方法
上述のコンジュゲートに加えて、本発明は、これらおよび他のコンジュゲートを調製するための方法も提供する。さらに、本発明は、ある疾患を発症する危険にさらされている対象またはその疾患を罹患している対象に本発明のコンジュゲートを投与することによって、疾患状態を予防、治癒、または改善する方法も提供する。さらに、本発明は、身体の特定の組織または領域に本発明のコンジュゲートを標的化させるための方法も提供する。
【0223】
したがって、本発明は、選択された部分とペプチドの間の共有結合性コンジュゲートを形成させる方法を提供する。例示的な実施形態では、コンジュゲートは、水溶性ポリマー、治療効果を有する部分、標的性部分、または生体分子とグリコシル化ペプチドまたは非グリコシル化ペプチドとの間で形成される。ポリマー、すなわち治療効果を有する部分または生体分子は、ペプチドと修飾基(例えば、水溶性ポリマー)の間に介在しそれらの双方に共有結合しているグリコシル結合基を介してペプチドに結合している。この方法は、修飾された糖と、その修飾された糖を基質とするグリコシルトランスフェラーゼとを含有する混合物にペプチドを接触させることを含む。反応は、修飾された糖とペプチドの間に共有結合を形成させるのに適した条件のもとで実施する。修飾された糖の糖部分は、好ましくは、ヌクレオチド糖、活性化糖、およびヌクレオチドでもなく活性化もされていない糖から選択される。
【0224】
受容体ペプチド(O−グリコシル化もしくは非グリコシル化)は、通常、新規に合成され、あるいは、原核細胞(例えば、大腸菌などの細菌細胞)中、または哺乳動物、酵母、昆虫、真菌、もしくは植物の細胞など真核細胞中で組換えによって発現される。ペプチドは、完全長タンパク質でも断片でもよい。さらに、ペプチドは、野生型ペプチドでも変異ペプチドでもよい。例示的な実施形態では、ペプチドは、1つまたは複数のN結合型またはO結合型グリコシル化部位をペプチド配列に加える突然変異を含んでいる。
【0225】
例示的な実施形態では、ペプチドは、以下の方法でO−グリコシル化され、水溶性ポリマーで官能化される。ペプチドは、利用可能なアミノ酸グリコシル化部位を用いて作製され、または、グリコシル化される場合は、アミノ酸が露出されるようにそのグリコシル部分がトリミングされる。例えば、GalNAcをセリンまたはトレオニンに付加し、そのガラクトシル化ペプチドを、ST6Gal−1を用いて、シアル酸−修飾基カセットによってシアル酸付加する。あるいは、ガラクトシル化ペプチドをCore−1−GalT−1によってガラクトシル化し、ST3GalT1を用いてシアル酸−修飾基カセットによってその生成物にシアル酸付加する。この方法による例示的なコンジュゲートは、以下の結合、すなわち、Thr−α−1−GalNAc−β−1,3−Gal−α2,3−Sia*(Sia*はシアル酸−修飾基カセットである)を有する。
【0226】
複数の酵素およびサッカリル供与体を用いる、前述したもののような本発明の方法では、個々のグリコシル化ステップは、別々に実施しても、「ワンポット」反応系で組み合わせてもよい。例えば、上述した3種の酵素を用いる反応では、GalNAcトランスフェラーゼ、GalT、SiaT、およびそれらの供与体を、1つの容器中で混合してよい。あるいは、GalNAc反応を単独で実施し、GalTとSiaTの双方と適切なサッカリル供与体を1つのステップとして加えてもよい。反応を行う他の態様は、各酵素および適切な供与体を順次添加し、「ワンポット」の形式で反応を実施するものである。前述した各方法を組み合わせると、本発明の化合物を調製するのに有用である。
【0227】
本発明のコンジュゲートでは、Sia−修飾基カセットは、α−2,6結合またはα−2,3結合でGalに結合することができる。
【0228】
例えば、一実施形態では、G−CSFを哺乳動物の系で発現させ、シアリダーゼ処理によって末端のシアル酸残基をトリミングし、続いて、ST3Gal3およびPEG−シアル酸供与体を用いてPEG化することにより、G−CSFを修飾する。
【0229】
本発明の方法は、組換えによって作製される不完全なグリコシル化ペプチドの修飾法も提供する。多くの組換えによって作製される糖タンパク質は、不完全にグリコシル化されており、望ましくない特性、例えば、免疫原性、RESによる認識などを有する可能性がある糖残基を露出している。本発明の方法で修飾された糖を使用すると、ペプチドをさらにグリコシル化し、同時に、例えば、水溶性ポリマーや治療薬などで誘導体化することができる。修飾された糖の糖部分は、完全なグリコシル化ペプチドの受容体に適切に結合すると考えられる残基でも、所望の特性を有する別の糖部分でもよい。
【0230】
本発明の方法によって修飾されるペプチドは、合成ペプチドでも野生型ペプチドでもよく、あるいは、それらは、部位特異的変異誘発など当技術分野で公知の方法によって作製される変異ペプチドでもよい。ペプチドのグリコシル化は、通常、N−結合型またはO−結合型である。例示的なN−結合は、アスパラギン残基の側鎖への修飾された糖の付加である。トリペプチド配列のアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−トレオニン(Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である)は、糖部分がアスパラギン側鎖に酵素的に付加するための認識配列である。したがって、これらのトリペプチド配列のいずれかがポリペプチド中に存在することにより、潜在的なグリコシル化部位が作り出される。O−結合型グリコシル化とは、1つの糖(例えば、N−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、マンノース、GlcNAc、グルコース、フコース、またはキシロース)がヒドロキシアミノ酸のヒドロキシ側鎖に付加することを意味する。ヒドロキシアミノ酸は、珍しいアミノ酸または非天然アミノ酸、例えば、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンも使用してよいが、好ましくは、セリンまたはトレオニンである。
【0231】
さらに、ペプチドに加えて、本発明の方法は、他の生物学的構造体(例えば、O結合型グリコシル化部位を有する糖脂質、脂質、スフィンゴイド、セラミド、細胞全体など)を用いて実施することもできる。
【0232】
ペプチドまたは他の構造体へのグリコシル化部位の追加は、アミノ酸配列が1つまたは複数のグリコシル化部位を有するようにアミノ酸配列を改変することによって、好都合に実現される。−OH基を提示している1種または複数の化学種、好ましくはセリンまたはトレオニン残基をペプチドの配列内部に組み込むことによっても追加を行うことができる(O−結合型グリコシル化部位の場合)。突然変異によって、またはペプチドを完全に化学合成することによって追加を行うことができる。ペプチドアミノ酸配列は、好ましくは、DNAレベルでの変化を通じて、具体的には、所望のアミノ酸に翻訳されるコドンが生じるように、予め選択した塩基の位置で、そのペプチドをコードするDNAを突然変異させることによって改変される。DNA突然変異は、好ましくは、当技術分野で公知の方法を用いて行われる。
【0233】
例示的な実施形態では、グリコシル化部位は、ポリヌクレオチドをシャッフリングすることによって追加される。DNAシャッフリングプロトコールを用いて、候補のペプチドをコードしているポリヌクレオチドを改変することができる。DNAシャッフリングは、関連遺伝子のプールのランダム断片化と、それに続くポリメラーゼ連鎖反応法と同様のプロセスによる断片の再構築によって実施される、組換えおよび突然変異を繰り返すプロセスである。例えば、Stemmer、Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:10747〜10751頁(1994年)、Stemmer、Nature370:389〜391頁(1994年)、および、米国特許第5605793号、米国特許第5837458号、米国特許第5830721号、米国特許第5811238号を参照のこと。
【0234】
本発明は、1つまたは複数の選択されたグリコシル残基をペプチドに付加し(またはそれから除去し)、その後に、そのペプチドの選択されたグリコシル残基うちの少なくとも1つに修飾された糖を結合させる手段も提供する。この実施形態は、例えば、ペプチド上に存在していない、または所望の量が存在していない選択されたグリコシル残基に修飾された糖を結合することが望ましいときに、有用である。すなわち、修飾された糖をペプチドに結合させる前に、酵素的または化学的結合によって、選択されたグリコシル残基をペプチドに結合させる。別の実施形態では、糖ペプチドから糖残基を除去することによって、修飾された糖を結合させる前に糖ペプチドのグリコシル化パターンを改変する。例えば、WO98/31826を参照のこと。
【0235】
糖ペプチド上に存在する任意の糖部分の付加または除去は、化学的または酵素的に遂行する。化学的脱グリコシル化は、好ましくは、ポリペプチド変異体を化合物トリフルオロメタンスルホン酸、または等価な化合物に曝露させることによってもたらされる。この処理により、結合している糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)以外の大半またはすべての糖が切断されるが、ペプチドは損なわれずに残る。化学的脱グリコシル化は、Hakimuddin他、Arch.Biochem.Biophys.259:52頁(1987年)およびEdge他、Anal.Biochem.118:131頁(1981年)で記載されている。ポリペプチド変異体上の糖部分の酵素的切断は、Thotakura他、Meth.Enzymol.138:350頁(1987年)で記載されているように、様々なエンドグリコシダーゼおよびエキソグリコシダーゼを使用することによって達成することができる。
【0236】
グリコシル部分の化学的付加は、当業者に認知されている任意の方法によって実施される。糖部分の酵素的付加は、好ましくは、本明細書で説明する方法の変法により、本発明で使用する修飾された糖の代わりに天然のグリコシル単位を用いて実施される。糖部分を付加する他の方法は、米国特許第5876980号、米国特許第6030815号、米国特許第5728554号、および米国特許第5922577号で開示されている。
【0237】
選択されたグリコシル残基の例示的な付加位置としては、それだけには限らないが、(a)N結合型グリコシル化のためのコンセンサス部位およびO結合型グリコシル化のための部位、(b)グリコシルトランスフェラーゼに対する受容体である末端グリコシル部分、(c)アルギニン、アスパラギン、およびヒスチジン、(d)遊離のカルボキシル基、(e)システインのものなど遊離のスルフヒドリル基、(f)セリン、トレオニン、またはヒドロキシプロリンのものなど遊離のヒドロキシル基、(g)フェニルアラニン、チロシン、またはトリプトファンのものなどの芳香族残基、あるいは(h)グルタミンのアミド基が挙げられる。本発明において有用である例示的な方法は、1987年9月11日公開のWO87/05330、ならびにAplinおよびWriston、CRC CRIT.REV.BIOCHEM.、259〜306頁(1981年)で記載されている。
【0238】
一実施形態では、本発明は、結合基を介して2つ以上のペプチドを連結するための方法を提供する。結合基は、任意の有用な構造を有し、直鎖構造体および分枝構造体から選択され得る。好ましくは、ペプチドに結合されるリンカーの各末端は、修飾された糖を含む(すなわち、新生の完全なグリコシル結合基)。
【0239】
本発明の例示的な方法では、2つのペプチドが、PEGリンカーを含むリンカー部分を介して相互に連結される。この構築体は、上記の図で説明した一般構造に一致する。本明細書で記述するように、本発明の構築体は、2つの完全なグリコシル結合基(すなわち、s+t=1)を含む。2つのグリコシル基を含むPEGリンカーに焦点をあわせるのは、明確にするためであって、本発明の本実施形態において有用なリンカーアームのアイデンティティを限定するものとして解釈されるべきではない。
【0240】
したがって、PEG部分は、第1の末端を第1のグリコシル単位で、また、第2の末端を第2のグリコシル単位で官能化されている。第1および第2のグリコシル単位は、好ましくは、第1および第2のペプチドをそれぞれ第1および第2のグリコシル単位に相互作用しないように結合させることができる様々なトランスフェラーゼの基質である。実際には、(グリコシル)
1−PEG−(グリコシル)
2リンカーを、第1のペプチドと、第1のグリコシル単位を基質とする第1のランスフェラーゼとに接触させ、それによって、(ペプチド)
1−(グリコシル)
1−PEG−(グリコシル)
2を形成させる。次に、場合によっては、トランスフェラーゼおよび/または未反応ぺプチドを反応混合物から除去する。第2のペプチドと、第2のグリコシル単位を基質とする第2のトランスフェラーゼとを(ペプチド)
1−(グリコシル)
1−PEG−(グリコシル)
2コンジュゲートに加え、(ペプチド)
1−(グリコシル)
1−PEG−(グリコシル)
2−(ペプチド)
2を形成させる。この際、グリコシル残基のうちの少なくとも1つは、直接または間接的にO結合している。上記に概説した方法は、例えば、分枝状PEG、デンドリマー、ポリアミノ酸、多糖(polsaccharide)などの使用による、2つ以上のペプチド間のコンジュゲート形成にも適用可能であることが、当業者には理解されよう。
【0241】
例示的な実施形態では、インターフェロンα2β(IFN−α2β)は、PEG部分の各末端に完全なグリコシル結合基を含む二官能性リンカーを介してトランスフェリンに結合される(スキーム1)。IFNコンジュゲートのin vivo半減期は、コンジュゲートの分子サイズが大きくなることにより、IFN単独での半減期より長くなる。さらに、トランスフェリンにIFNを結合させると、コンジュゲートを脳に選択的に導くのに役立つ。例えば、PEGリンカーの一方の末端は、CMPシアル酸で官能化され、他方は、UDP GalNAcで官能化される。リンカーは、GalNAcトランスフェラーゼの存在下でIFNと結合し、リンカーアームのGalNAcをIFN上のセリンおよび/またはトレオニン残基に結合させる。
【0242】
【化10】
【0243】
前述のプロセスは、所望の回数繰り返して実施することができ、また、単一のリンカーを用いて2つのペプチド間のコンジュゲートを形成することに限定されない。さらに、PEG(または他の)リンカー末端の完全なグリコシル結合基をペプチドで官能化する反応は、同じ反応容器中で同時に起こすこともでき、あるいは、それらの反応を段階的に実施することもできることが、当業者には理解されよう。反応を段階的に実施するとき、場合によっては、各ステップで作製されるコンジュゲートを1種また複数の反応成分(例えば、酵素、ペプチド)から精製する。
【0244】
さらに別の例示的な実施形態をスキーム2で説明する。スキーム2は、選択されたタンパク質、例えば、GM−CSFを、骨へと導き、選択されたタンパク質の循環半減期を延長させるコンジュゲートを調製する方法を示す。
【0245】
【化11】
(式中、Gは、コンジュゲート中の完全なグリコシル結合基に変換される、活性化糖部分(例えば、糖ヌクレオチド)上のグリコシル残基である。)sが0より大きいとき、Lは、GalNAcやGalNAc−Galなどのサッカリル結合基である。
【0246】
1つまたは複数のペプチド部分をリンカーに結合させるためにPEG(または他のリンカー)の反応性誘導体を使用することは、本発明の範囲内である。本発明は、反応性のPEG類似体のアイデンティティによって制限されない。ポリエチレングリコールの多くの活性化誘導体が市販されており、また、文献に記載されている。本発明において有用な基質を調製するのに用いる適切な活性化PEG誘導体を選択し、また、必要な場合には合成することは、当業者の能力で十分に対応できる範囲内である。例えば、Abuchowski他、Cancer Biochem.Biophys.、7:175〜186頁(1984年)、Abuchowski他、J.Biol.Chem.、252:3582〜3586頁(1977年)、Jackson他、Anal.Biochem.、165:114〜127頁(1987年)、Koide他、Biochem Biophys.Res.Commun.、111:659〜667頁(1983年)、トレシラート(Nilsson他、Methods Enzymol.、104:56〜69頁、Delgado他、Biotechnol.Appl.Biochem.、12:119〜128頁(1990年))、N−ヒドロキシスクシンイミドにより誘導した活性エステル(Buckmann他Makromol.Chem.、182:1379〜1384頁(1981年)、Joppich他、Makromol.Chem.、180:1381〜1384頁(1979年)、Abuchowski他、Cancer Biochem.Biophys.7:175〜186頁(1984年)、Katre他Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、84:1487〜1491頁(1987年)、Kitamura他、Cancer Res.、51:4310〜4315頁(1991年)、Boccu他、Z.Naturforsch.、38C:94〜99頁(1983年))、カルボナート(Zalipsky他、POLY(ETHYLENE CLYCOL)CHEMISTRY:BIOTECHNICAL AND BIOMEDICAL APPLICATIONS、Harris編Plenum Press、ニューヨーク、1992年、347〜370頁、Zalipsky他、Biotechnol.Appl.Biochem.、15:100〜114頁(1992年)、Veronese他、Appl.Biochem.Biotech.、11:141〜152頁(1985年))、イミダゾリルホルマート(Beauchamp他、Anal.Biochem.、131:25〜33頁(1983年)、Berger他、Blood.71:1641〜1647頁(1988年))、4−ジチオピリジン(Woghiren他、Bioconjugate Chem.、4:314〜318頁(1993年))、イソシアナート(Byun他、ASAIO Journal.649〜653頁(1992年))、ならびにエポキシド(Noishiki他らに発行された(1989年)米国特許第4806595号)を参照のこと。他の結合基としては、アミノ基と活性化PEG間のウレタン結合が挙げられる。Veronese他、Appl.Biochem.Bioteohnol.、11:141〜152頁(1985年)を参照のこと。
【0247】
反応性PEG誘導体が利用される別の例示的な実施形態では、本発明は、糸球体によるタンパク質のろ過を遅延させるのに十分なサイズの合成ポリマーまたは天然ポリマー(例えば、アルブミン)にペプチドを結合させることによって、選択されたペプチドの血液循環半減期を延長させるための方法、要するに、血液プールにそのペプチドを導くための方法を提供する。スキーム3を参照のこと。本発明のこの実施形態をスキームに示す。図中、G−CSFは、化学的修飾および酵素的修飾の組合せを用いて、PEGリンカーを介してアルブミンに結合されている。
【0248】
【化12】
【0249】
したがって、スキーム3で示されるように、アルブミンの残基(例えば、アミノ酸側鎖)は、X−PEG−(CMP−シアル酸)(式中、Xは、活性化基(例えば、活性エステル、イソチオシアナートなど)である)などの反応性PEG誘導体で修飾される。PEG誘導体およびG−CSFを混合し、CMP−シアル酸を基質とするトランスフェラーゼに接触させる。別の例示的な実施形態では、リシンのε−アミンをPEGリンカーのN−ヒドロキシスクシンイミドエステルと反応させて、アルブミンコンジュゲートを形成させる。リンカーのCMP−シアル酸をGCSF上の適切な残基、例えば、GalまたはGalNacに酵素的に結合させ、それによってコンジュゲートを形成させる。前述の方法は説明した反応相手に限定されないことが、当業者には理解されよう。さらに、この方法を実施して、例えば、2つより多い末端を有する分枝リンカーを利用することにより、2つより多いタンパク質部分を含むコンジュゲートを形成させることもできる。
【0250】
修飾された糖
修飾されたグリコシル供与体種(「修飾された糖」)は、好ましくは、修飾された糖ヌクレオチド、活性化された修飾された糖、およびヌクレオチドでもなく活性化もされていない単純糖である修飾された糖から選択される。本発明の方法を用いて、所望の任意の糖構造体をペプチドに付加することができる。一般には、この構造体は単糖と考えられるが、本発明は、修飾された単糖の使用に限定されない。すなわち、オリゴ糖および多糖も同様に有用である。
【0251】
修飾基は、酵素的手段、化学的手段、またはそれらの組合せによって糖部分に結合され、それにより、修飾された糖を生じる。これらの糖は、修飾部分の結合を可能にし、さらに、修飾された糖をペプチドに連結するのに使用される酵素の基質として糖が機能することを可能にする任意の位置で置換される。別の実施形態では、シアル酸が糖であるとき、シアル酸は、ピルビル側鎖上の9位、またはシアル酸で通常アセチル化されているアミン部分上の5位で、修飾基に置換されている。
【0252】
本発明のいくつかの実施形態では、修飾された糖ヌクレオチドを利用して、修飾された糖をペプチドに付加する。修飾された形態で本発明において使用される例示的な糖ヌクレオチドには、1リン酸ヌクレオチド、2リン酸ヌクレオチド、もしくは3リン酸ヌクレオチド、またはその類似体が含まれる。別の実施形態では、修飾された糖ヌクレオチドは、UDP−グリコシド、CMP−グリコシド、またはGDP−グリコシドから選択される。さらにより好ましくは、修飾された糖ヌクレオチドは、UDP−ガラクトース、UDP−ガラクトサミン、UDP−グルコース、UDP−グルコサミン、GDP−マンノース、GDP−フコース、CMP−シアル酸、またはCMP−NeuAcから選択される。糖ヌクレオチドのN−アセチルアミン誘導体も、本発明の方法において有用である。
【0253】
本発明は、修飾された糖、例えば、修飾されたガラクトース、フコース、GalNAc、およびシアル酸を用いて修飾ペプチドを合成するための方法も提供する。修飾されたシアル酸を使用するとき、シアリルトランスフェラーゼまたはトランスシアリダーゼ(α2,3結合型シアル酸のみ)をこれらの方法で使用することができる。
【0254】
別の実施形態では、修飾された糖は、活性化糖である。本発明において有用な修飾された活性化糖は、一般に、活性化された脱離基を含むように合成によって改変されたグリコシドである。本明細書では、「活性化された脱離基」という用語は、酵素に調節された求核置換反応で容易に置換される部分を意味する。多くの活性化糖が、当技術分野では公知である。例えば、Vocadlo他、In CARBOHYDRATE CHEMISTRY AND BIOLOGY、2巻、Ernst他編、Wiley−VCH Verlag:バインハイム、ドイツ、2000年、Kodama他、Tetrahedron Lett.34:6419頁(1993年)、Lougheed他、J.Biol.Chem.274:37717頁(1999年)を参照のこと。
【0255】
活性化基(脱離基)の例としては、フルオロ、クロロ、ブロモ、トシラートエステル、メシラートエステル、トリフラートエステルなどが挙げられる。本発明で使用するための好ましい活性化脱離基は、受容体へのグリコシドの酵素的な転移を立体的にあまり妨害しないものである。したがって、活性化されたグリコシド誘導体の好ましい実施形態としては、グリコシルフルオリドおよびグリコシルメシラートが挙げられ、グリコシルフルオリドが特に好ましい。グリコシルフルオリドのうちでは、α−ガラクトシルフルオリド、α−マンノシルフルオリド、α−グルコシルフルオリド、α−フコシルフルオリド、α−キシロシルフルオリド、α−シアリルフルオリド、α−N−アセチルグルコサミニルフルオリド、α−N−アセチルガラクトサミニルフルオリド、β−ガラクトシルフルオリド、β−マンノシルフルオリド、β−グルコシルフルオリド、β−フコシルフルオリド、β−キシロシルフルオリド、β−シアリルフルオリド、β−N−アセチルグルコサミニルフルオリド、およびβ−N−アセチルガラクトサミニルフルオリドが最も好ましい。
【0256】
例示として、グリコシルフルオリドは、最初に糖をアセチル化し、次いで、HF/ピリジンでそれを処理することによって、遊離の糖から調製することができる。これにより、保護された(アセチル化された)グリコシルフルオリド(すなわち、α−グリコシルフルオリド)の熱力学的に最も安定なアノマーが生成される。安定性がより低いアノマー(すなわち、β−グリコシルフルオリド)が望ましい場合は、過アセチル化された糖をHBr/HOAcまたはHClを用いて変換してアノマーの臭化物または塩化物を生じさせることによって、調製することができる。この中間体をフッ化銀などのフッ化塩と反応させて、グリコシルフルオリドを得る。メタノールに溶かした緩和な(触媒作用の)塩基(例えばNaOMe/MeOH)と反応させることによって、アセチル化したグリコシルフルオリドを脱保護することができる。また、多くのグリコシルフルオリドが市販されている。
【0257】
当業者に公知である従来の方法を用いて、他の活性化されたグリコシル誘導体を調製することができる。例えば、糖の完全にベンジル化されたヘミアセタール型を塩化メシルで処理し、続いて接触水素化によってベンジル基を除去することによって、グリコシルメシラートを調製することができる。
【0258】
別の例示的な実施形態では、修飾された糖は、アンテナ構造を有するオリゴ糖である。別の実施形態では、アンテナの末端の1つまたは複数が、修飾部分を有する。複数の修飾部分がアンテナ構造を有するオリゴ糖に結合しているとき、このオリゴ糖は、修飾部分を「増幅する」のに有用であり、ペプチドに結合している各オリゴ糖単位は、修飾基の複数のコピーをペプチドに結合させる。上記の図面で説明した本発明の典型的なコンジュゲートの一般構造は、アンテナ構造を利用して本発明のコンジュゲートを調製した結果として生じる多価の種を包含する。多くのアンテナ型の糖構造体が当技術分野では公知であり、無制限にそれらを用いて本発明の方法を実施することできる。
【0259】
例示的な修飾基を以下に考察する。修飾基は、1種または複数の望ましい特性をペプチドに与えるそれらの能力に関して選択することができる。例示的な諸特性としては、それだけには限らないが、改善された薬物動態、改善された薬力学的特性、改善された体内分布、多価の種の提供、改善された水溶性、増大もしくは低減された親油性、および組織標的性が挙げられる。
【0260】
水溶性ポリマー
多くの水溶性ポリマーが当業者に公知であり、本発明を実施するのに有用である。水溶性ポリマーという用語は、糖(例えば、デキストラン、アミロース、ヒアルロン酸、ポリシアル酸、ヘパラン、ヘパリンなど);ポリアミノ酸、例えば、ポリアスパラギン酸およびポリグルタミン酸;核酸;合成ポリマー(例えば、ポリアクリル酸、ポリエーテル、例えば、ポリエチレングリコール);ペプチド、タンパク質などの化学種を包含する。本発明は、任意の水溶性ポリマーを用いて実施してよく、唯一の制約は、そのポリマーが、コンジュゲートの残りの部分が結合され得る箇所を含んでいなければならないことである。
【0261】
ポリマーを活性化するための方法も、WO94/17039号、米国特許第5324844号、WO94/18247号、WO94/04193号、米国特許第5219564号、米国特許第5122614号、WO90/13540号、米国特許第5281698号、さらにWO93/15189号で確認することができ、また、活性化ポリマーとペプチド、例えば、凝固因子VIII(WO94/15625号)、ヘモグロビン(WO94/09027号)、酸素運搬分子(米国特許第4412989号)、リボヌクレアーゼおよびスーパーオキシドジスムターゼ(Veronese他、App.Biochem.Biotech.11:141〜45頁(1985年))とを結合させる方法も各文献で確認できる。
【0262】
好ましい水溶性ポリマーは、ポリマーサンプル中のかなりの比率のポリマー分子が、ほぼ同じ分子量を有するものである。このようなポリマーは、「均一分散性」である。
【0263】
本発明は、ポリエチレングリコールコンジュゲートを参照することにより、さらに例示される。PEGの官能化および結合に関するいくつかの総説および研究論文が入手可能である。例えば、Harris、Macronol.Chem.Phys.C25:325〜373頁(1985年);Scouten、Methods in Enzymology 135:30〜65頁(1987年);Wong他、Enzyme Microb.Technol.14:866〜874頁(1992年);Delgado他、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 9:249〜304頁(1992年);Zalipsky、Bioconjugate Chem.6:150〜165頁(1995年);およびBhadra他、Pharmazie、57:5〜29頁(2002年)を参照のこと。反応性PEG分子を調製し、反応性分子を用いてコンジュゲートを形成させるための手段は、当技術分野で公知である。例えば、米国特許第5672662号は、直鎖状または分枝状のポリアルキレンオキシド、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリオレフィンアルコール、およびポリアクリロモルホリンから選択されるポリマー酸の活性エステルの水溶性で単離可能なコンジュゲートを開示している。
【0264】
米国特許第6376604号は、有機溶媒中でポリマーの末端ヒドロキシルとジ(1−ベンゾトリアゾリル)炭酸とを反応させることによって、非ペプチド性水溶性ポリマーの水溶性1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを調製するための方法を発表している。活性エステルは、タンパク質やペプチドなどの生物学的に活性な作用物質とのコンジュゲートを形成させるのに使用される。
【0265】
WO99/45964号は、生物学的に活性な作用物質と活性化された水溶性ポリマーを含むコンジュゲートを記述しており、その水溶性ポリマーは、少なくとも1つの末端が安定な結合によってそのポリマー主鎖に結合しているポリマー主鎖を含み、その少なくとも1つの末端は、近接した反応性基がその分枝部分に結合している分枝部分を含み、生物学的に活性な作用物質は、近接した反応性基のうちの少なくとも1つに結合している。他の分枝状ポリエチレングリコールが、WO96/21469号で記載されている。米国特許第5932462号では、反応性官能基を含む分枝状末端を含む分枝状PEG分子を用いて形成されるコンジュゲートが記載されている。タンパク質やペプチドなどの生物学的に活性な化学種と反応して、ポリエチレングリコールと生物学的に活性な化学種とのコンジュゲートを形成させるために、遊離の反応性基が利用可能である。米国特許第5446090号では、二官能性のPEGリンカー、およびPEGリンカー末端のそれぞれにペプチドを有するコンジュゲートを形成させる際のその使用が記載されている。
【0266】
分解性のPEG結合を含むコンジュゲートは、WO99/34833号およびWO99/14259号、ならびに米国特許第6348558号で記載されている。このような分解性の結合は、本発明で適用可能である。
【0267】
当業者に認知されている前述のポリマー活性化方法は、本発明において、本明細書で示す分枝状ポリマーを形成させるのに有用であり、また、それらの分枝状ポリマーを他の化学種、例えば、糖、糖ヌクレオチドなどに結合させるのにも有用である。
【0268】
本発明で有用である例示的なポリエチレングリコール分子には、それだけには限らないが、以下の式を有するものが含まれる。
【0269】
【化13】
(式中、R
8は、H、OH、NH
2、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、例えば、アセタール、OHC−、H
2N−(CH
2)
q−、HS−(CH
2)
q、または−(CH
2)
qC(Y)Z
1である。添字「e」は、1〜2500の整数を表す。添字b、d、およびqは、それぞれ独立に整数0〜20を表す。記号ZおよびZ
1は、それぞれ独立に、OH、NH
2、脱離基、例えば、イミダゾール、p−ニトロフェニル、HOBT、テトラゾール、ハライド、S−R
9、活性化エステルのアルコール部分;−(CH
2)
pC(Y
1)V、または−(CH
2)
pU(CH
2)
sC(Y
1)
Vを表す。記号Yは、H(2)、=O、=S、=N−R
10を表す。記号X、Y、Y
1、A
1、およびUは、それぞれ独立に、O、S、N−R
11部分を表す。記号Vは、OH、NH
2、ハロゲン、S−R
12、活性化エステルのアルコール成分、活性化アミドのアミン成分、糖ヌクレオチド、およびタンパク質を表す。添字p、q、s、およびvは、整数0〜20からそれぞれ独立に選択されるメンバーである。記号R
9、R
10、R
11、およびR
12は、H、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキル、および置換もしくは非置換のヘテロアリールをそれぞれ独立に表す。)
【0270】
他の例示的な実施形態では、ポリエチレングリコール分子は、以下のものから選択される。
【0271】
【化14】
【0272】
本発明のコンジュゲートを形成させるのに有用なポリエチレングリコールは、直鎖状または分枝状である。本発明で使用するのに適した分枝状ポリエチレングリコール分子には、それだけには限らないが、以下の式で示されるものが含まれる。
【0273】
【化15】
(式中、R
8およびR
8’は、R
8に関して上記に定義した群からそれぞれ独立に選択されるメンバーである。A
1およびA
2は、A
1に関して上記に定義した群からそれぞれ独立に選択されるメンバーである。添字e、f、o、およびqは、前述したとおりのものである。ZおよびYは、前述したとおりのものである。X
1およびX
1’は、S、SC(O)NH、HNC(O)S、SC(O)O、O、NH、NHC(O)、(O)CNH、およびNHC(O)O、OC(O)NHからそれぞれ独立に選択されるメンバーである。)
【0274】
他の例示的な実施形態では、分枝状PEGは、システイン、セリン、またはジリシンのコアをベースとしている。したがって、さらなる例示的な分枝状PEGには、以下のものが含まれる。
【0275】
【化16】
【0276】
さらに別の実施形態では、分枝状PEG部分は、トリリシンペプチドをベースとしている。トリリシンは、1箇所、2箇所、3箇所、または4箇所、PEG化され得る。この実施形態の例示的な化学種は、以下の式を有する。
【0277】
【化17】
(式中、e、f、およびf’は、それぞれ独立に選択された1〜2500の整数であり、q、q’、およびq’’は、それぞれ独立に選択された1〜20の整数である。)
【0278】
本発明の例示的な実施形態では、PEGは、m−PEG(5kD、10kD、または20kD)である。例示的な分枝状PEG種は、セリン−(m−PEG)
2またはシステイン−(m−PEG)
2(式中、m−PEGは20kDのm−PEGである)である。
【0279】
当業者には明らかであるように、本発明で有用な分枝状ポリマーには、前述した趣旨に基づく変形体が含まれる。例えば、上記に示したジリシン−PEGコンジュゲートは、3つの重合体サブユニットを含むことができ、第3のものは、上記の構造において未修飾として示されているαアミンに結合される。同様に、3つまたは4つの重合体サブユニットで官能化されたトリリシンの使用も、本発明の範囲内である。
【0280】
本発明の特定の実施形態は、以下のもの、
【0281】
【化18】
ならびに、以下のものなどこれらの化学種のカルボナートおよび活性エステルを含む。
【0282】
【化19】
【0283】
本明細書で説明する化合物を調製するのに有用な直鎖状PEGを活性化させるのに適した他の活性化基または脱離基には、それだけには限らないが、以下の化学種が含まれる。
【0284】
【化20】
【0285】
これらおよび他の化学種によって活性化されるPEG分子ならびに活性化PEGを作製する方法は、WO04/083259号で説明されている。
【0286】
分枝状ポリマーのm−PEGアームのうちの1つまたは複数を、異なる末端、例えば、OH、COOH、NH
2、C
2〜C
10アルキルなどを有するPEG部分で置換できることが、当業者には理解されよう。さらに、上記の構造体は、α炭素原子と側鎖の官能基との間にアルキルリンカーを挿入することによって(または、炭素原子を除去することによって)、容易に修飾される。したがって、「ホモ」誘導体および高級同族体、ならびに低級同族体は、本発明において有用な分枝状PEGのコアの範囲に含まれる。
【0287】
本発明書で説明する分枝状PEG種は、以下のスキームで示すものなどの方法によって容易に調製される。
【0288】
【化21】
(式中、X
aはOまたはSであり、rは、1〜5の整数である。添字eおよびfは、1〜2500からそれぞれ独立に選択される整数である。)
【0289】
すなわち、このスキームに従い、天然または非天然のアミノ酸を活性化m−PEG誘導体、この場合ではトシラートと接触させ、側鎖のヘテロ原子X
aをアルキル化することによって1を形成させる。モノ官能化されたm−PEGアミノ酸を、反応性m−PEG誘導体とともにN−アシル化条件下におき、それによって、2の分枝状m−PEGを構築する。当業者なら理解するように、トシラート脱離基は、任意の適切な脱離基、例えば、ハロゲン、メシラート、トリフラートなどに交換することができる。同様に、アミンをアシル化するのに利用する反応性カルボナートも、活性エステル、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミドなどに交換することができ、あるいは、酸は、ジシクロヘキシルカルボジイミドやカルボニルジイミダゾールなどの脱水剤によってin situで活性化することができる。
【0290】
例示的な実施形態では修飾基はPEG部分であるが、任意の修飾基、例えば、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマー、治療効果を有する部分などを、適切な結合を通じてグリコシル部分に組み込むことができる。修飾された糖は、酵素的手段、化学的手段、またはそれらの組合せによって形成され、それにより、修飾された糖を生じる。例示的な実施形態では、これらの糖は、修飾部分の結合を可能にし、さらに、修飾された糖をG−CSFペプチドに結合させることができる酵素の基質として糖が機能することを可能にする任意の位置で活性アミンに置換されている。例示的な実施形態では、ガラクトサミンが修飾された糖であるとき、アミン部分は6位の炭素原子に結合している。
【0291】
水溶性ポリマーで修飾された化学種
糖部分が水溶性ポリマーで修飾されている、水溶性ポリマーで修飾されたヌクレオチド糖種が、本発明において有用である。例示的な修飾された糖ヌクレオチドは、糖上のアミン部分を介して修飾されている糖基を有する。修飾された糖ヌクレオチド、例えば、糖ヌクレオチドのサッカリル−アミン誘導体も、本発明の方法において有用である。例えば、(修飾基の付いていない)サッカリルアミンをペプチド(または他の化学種)に酵素的に結合させ、続いて、その遊離なサッカリルアミン部分を所望の修飾基に結合させることができる。あるいは、修飾された糖ヌクレオチドが、基質、例えば、ペプチド、糖ペプチド、脂質、アグリコン、糖脂質などにあるサッカリル受容体に修飾された糖を転移させる酵素の基質として機能することもできる。
【0292】
糖コアがガラクトースまたはグルコースである一実施形態では、R
5はNHC(O)Yである。
【0293】
例示的な実施形態では、修飾された糖は、6−アミノ−N−アセチル−グリコシル部分をベースとしている。N−アセチルガラクトサミンについて以下に示すように、6−アミノ糖部分は、標準の方法によって容易に調製される。
【0294】
【化22】
【0295】
上記のスキームにおいて、添字nは、1〜2500、好ましくは10〜1500、より好ましくは10〜1200の整数を表す。記号「A」は、活性化基、例えば、ハロ、活性化エステルの成分(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)、カルボナートの成分(例えば、p−ニトロフェニルカルボナート)などを表す。他のPEG−アミドヌクレオチド糖は、この方法および類似した方法によって容易に調製されることが、当業者には理解されよう。
【0296】
他の例示的な実施形態では、アミド部分は、ウレタンや尿素などの基に置き換えられる。
【0297】
さらに別の実施形態では、R
1は、分枝状PEG、例えば、前述した化学種のうちの1つである。この実施形態の例示的な化合物には以下のものが含まれる。
【0298】
【化23】
(式中、X
4は、結合またはOであり、Jは、SまたはOである。)
【0299】
さらに、前述したように、本発明は、直鎖状または分枝状の水溶性ポリマーで修飾されたヌクレオチド糖を用いて形成されるペプチドコンジュゲートを提供する。例えば、以下に示す式を有する化合物は、本発明の範囲内である。
【0300】
【化24】
(式中、X
4は、Oまたは結合であり、Jは、SまたはOである。)
【0301】
同様に、本発明は、6位の炭素が修飾されている修飾された糖種のヌクレオチド糖を用いて形成されるペプチドコンジュゲートも提供する。
【0302】
【化25】
(式中、X
4は、結合またはOであり、Jは、SまたはOであり、yは0または1である。)
【0303】
本発明の組成物を含むペプチドおよび糖ペプチド、脂質および糖脂質のコンジュゲートも提供される。例えば、本発明は、以下の式を有するコンジュゲートを提供する。
【0304】
【化26】
(式中、Jは、SまたはOである。)
【0305】
水不溶性ポリマー
別の実施形態では、前述のものと類似して、修飾された糖は、水溶性ポリマーではなく水不溶性ポリマーを含む。本発明のコンジュゲートは、1種または複数の水不溶性ポリマーを含んでもよい。本発明のこの実施形態は、制御された方式で治療用ペプチドを送達するのに用いられるビヒクルとしてコンジュゲートを使用することによって例示される。高分子薬物の送達システムは、当技術分野で公知である。例えば、Dunn他編、POLYMERIC DRUGS AND DRUG DELIVERY SYSTEMS、ACS Symposium Series 469巻、American Chemical Society、ワシントン、D.C.1991年を参照のこと。実質上どの公知の薬物送達システムも本発明のコンジュゲートに適用可能であることが、当業者には理解されよう。
【0306】
代表的な水不溶性ポリマーとしては、それだけには限らないが、ポリホスファジン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリカルボナート、ポリアルキレン、ポリアクリルアミド、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンテレフタラート、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタン、ポリメチルメタクリラート、ポリエチルメタクリラート、ポリブチルメタクリラート、ポリイソブチルメタクリラート、ポリヘキシルメタクリラート、ポリイソデシルメタクリラート、ポリラウリルメタクリラート、ポリフェニルメタクリラート、ポリメチルアクリラート、ポリイソプロピルアクリラート、ポリイソブチルアクリラート、ポリ(オクタデシルアクリラート)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタラート、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、プルロニック、およびポリビニルフェノール、ならびにそれらの共重合体が挙げられる。
【0307】
本発明のコンジュゲートにおいて有用な合成により修飾された天然ポリマーとしては、それだけには限らないが、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、およびニトロセルロースが挙げられる。合成により修飾された天然ポリマーの広範なクラスのうちの特に好ましいメンバーとしては、それだけには限らないが、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、三酢酸セルロース、硫酸セルロースナトリウム塩、ならびにアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、およびアルギン酸のポリマーが挙げられる。
【0308】
本明細書で説明するこれらおよび他のポリマーは、Sigma Chemical社(セントルイス(St.Louis)、ミズーリ州)、Polysciences社(ワレントン(Warrenton)、ペンシルベニア州)、Aldrich社(ミルウォーキー(Milwaukee)、ウィスコンシン州)、Fluka社(ロンコンコマ(Ronkonkoma)、ニューヨーク州)、およびBioRad社(リッチモンド(Richmond)、カリフォルニア州)などの商業的供給業者から容易に入手することができ、あるいは、標準の技術を用いてこれらの供給業者から得たモノマーから合成することができる。
【0309】
本発明のコンジュゲートにおいて有用な代表的な生分解性のポリマーとしては、それだけには限らないが、ポリラクチド、ポリグリコリド、およびそれらの共重合体、ポリエチレンテレフタラート、ポリ酪酸、ポリ吉草酸、ポリ(ラクチド−co−カプロラクトン)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、それらの混合物および共重合体が挙げられる。コラーゲン、プルロニックなどを含むものなど、ゲルを形成する組成物が特に有用である。
【0310】
本発明において有用なポリマーには、その構造の少なくとも1部分の内部に生体吸収性分子を有する水不溶性物質を含む「ハイブリッド」ポリマーが含まれる。このようなポリマーの例は、水不溶性の共重合体を含むものであり、ポリマー鎖ごとに生体吸収性領域、親水性領域、および複数の架橋性官能基を有する。
【0311】
本発明の目的において、「水不溶性の物質」とは、水または水を含有する環境に実質上不溶性である物質を含む。したがって、共重合体の一部の領域または部分は親水性でも、さらには水溶性でもよいが、ポリマー分子は全体として、実質的な量としては水に溶解しない。
【0312】
本発明の目的において、「生体吸収性分子」という用語は、代謝もしくは分解され、通常の排出経路を通じて身体に再吸収および/または排除されることができる領域を含む。このような代謝産物または分解産物は、身体に対して実質上非毒性であることが好ましい。
【0313】
共重合体組成物が全体として水溶性に変えられない限りは、生体吸収性領域は疎水性でも親水性でもよい。したがって、生体吸収性領域は、ポリマーが全体として水不溶性のままであるという優先条件に基づいて選択される。したがって、相対的諸特性、すなわち、含まれる官能基の種類、ならびに、生体吸収性領域および親水性領域の相対的比率は、有用な生体吸収性組成物が水不溶性のままであることを確実にするように選択される。
【0314】
例示的な再吸収性ポリマーには、例えば、ポリ(α−ヒドロキシ−カルボン酸)/ポリオキシアルキレンの合成により作製された再吸収性のブロック共重合体が含まれる(Cohn他、米国特許第4826945号を参照のこと)。これらの共重合体は、架橋されておらず水溶性であり、したがって、身体は分解されたブロック共重合体組成物を排出することができる。Younes他、J Biomed.Mater.Res.21:1301〜1316頁(1987年)、およびCohn他、J Biomed.Mater.Res.22:993〜1009頁(1988年)を参照のこと。
【0315】
現在のところ好ましい生体吸収性ポリマーは、ポリエステル、ポリヒドロキシ酸、ポリラクトン、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリアミノ酸、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリカルボナート、ポリホスファジン、ポリリン酸エステル、ポリチオエステル、多糖、およびそれらの混合物から選択される1種または複数の成分を含む。さらにより好ましくは、生体吸収性ポリマーは、ポリヒドロキシ酸成分を含む。ポリヒドロキシ酸のうちでは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロン酸、ポリ酪酸、ポリ吉草酸、ならびにそれらの共重合体および混合物が好ましい。
【0316】
in vivoで吸収される(「生体吸収される」)断片を形成することに加えて、本発明の方法で使用するのに好ましいポリマー被膜は、排出可能および/または代謝可能な断片を形成することもできる。
【0317】
高次の共重合体も本発明で使用することができる。例えば、1984年3月20日発行のCasey他、米国特許第4438253号は、ポリグリコール酸およびヒドロキシル末端のポリアルキレングリコールのエステル転移反応から作製されるトリブロック共重合体を開示している。このような組成物は、再吸収性モノフィラメント縫合糸として使用するために開示されている。このような組成物の柔軟性は、tetra−p−トリルオルトカルボナートなどの芳香族オルトカルボナートを共重合体構造に組み込むことによって調節される。
【0318】
乳酸および/またはグリコール酸をベースとする他のポリマーも利用することができる。例えば、1993年4月13日発行のSpinu、米国特許第5202413号は、オリゴマージオールまたはジアミン残基上にラクチドおよび/またはグリコリドを開環重合させ、続いて、ジイソシアナート、ジアシルクロリド、ジクロロシランなどの二官能化合物を用いて鎖伸長させることにより作製される、ポリラクチドおよび/またはポリグリコリドの連続して配置されたブロックを有する生分解性マルチブロック共重合体を開示している。
【0319】
本発明において有用な被膜の生体吸収性領域は、加水分解および/または酵素によって切断可能となるように設計することができる。本発明の目的において、「加水分解により切断可能」とは、水または水を含有する環境における加水分解に対して、共重合体、特に生体吸収性領域が影響を受けやすいことを意味する。同様に、本明細書では「酵素により切断可能」とは、内因性または外因性の酵素による切断に対して、共重合体、特に生体吸収性領域が影響を受けやすいことを意味する。
【0320】
体内に入ると、親水性領域は、処理されて排出可能および/または代謝可能な断片になり得る。したがって、親水性領域としては、例えば、ポリエーテル、ポリアルキレンオキシド、多価アルコール、ポリビニルピロリジン、ポリビニルアルコール、ポリアルキルオキサゾリン、多糖、炭水化物、ペプチド、タンパク質、ならびにそれらの共重合体および混合物を挙げることができる。さらに、親水性領域は、例えば、ポリアルキレンオキシドでもよい。このようなポリアルキレンオキシドとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ならびにそれらの混合物および共重合体を挙げることができる。
【0321】
ヒドロゲルの成分であるポリマーも、本発明において有用である。ヒドロゲルは、比較的大量の水を吸収することができるポリマー物質である。ヒドロゲル形成化合物の例としては、それだけには限らないが、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジン、ゼラチン、カラゲナンおよび他の多糖、ヒドロキシエチレンメタクリル酸(HEMA)、ならびにそれらの誘導体などが挙げられる。安定で、生分解性かつ生体吸収性のヒドロゲルを作製することができる。さらに、ヒドロゲル組成物は、これらの特性のうちの1種または複数を示すサブユニットを含んでもよい。
【0322】
架橋によって完全性を調節することができる生体適合性ヒドロゲル組成物は公知であり、現在のところ、本発明の方法で使用するのに好ましい。例えば、Hubbell他、1995年4月25日発行の米国特許第5410016号および1996年6月25日発行の米国特許第5529914号は、水溶性の系を開示しており、これらは、水溶性の中央のブロック部分が加水分解に対して不安定な2つの伸長部分の間にはさまれている架橋ブロック共重合体である。さらに、このような共重合体は、光重合性のアクリル酸官能基でエンドキャップされている。架橋されると、これらの系はヒドロゲルになる。このような共重合体の水溶性の中央ブロックはポリエチレングリコールを含んでよく、一方、加水分解に対して不安定な伸長部分は、ポリグリコール酸やポリ乳酸などのポリ(α−ヒドロキシ酸)でよい。Sawhney他、Macromolecules26:581〜587頁(1993年)を参照のこと。
【0323】
別の実施形態では、ゲルは、熱可逆性ゲルである。プルロニック、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、多糖、ポリウレタンヒドロゲル、ポリウレタン尿素ヒドロゲル、およびそれらの組合せ物などの成分を含む熱可逆性ゲルが、現在のところ好ましい。
【0324】
さらに別の例示的な実施形態では、本発明のコンジュゲートは、リポソーム成分を含む。リポソームは、例えば1985年6月11日発行のEppstein他、米国特許第4522811号で記載されているような当業者に公知の方法に従って調製することができる。例えば、リポソーム製剤は、無機溶媒中で適切な脂質(ステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ステアロイルホスファチジルコリン、アラカドイルホスファチジルコリン、およびコレステロールなど)を溶解させ、次に溶媒を蒸発させて容器の表面に乾燥した脂質の薄い被膜を残すことによって、調製することができる。次に、活性な化合物または薬剤として許容されるその塩の水溶液が、その容器中に導入される。次に、手動でその容器を回転させて、容器の側面から脂質物質を遊離させ、脂質凝集体を分散させ、それにより、リポソーム懸濁液を形成させる。
【0325】
上記に挙げた微粒子および微粒子の調製方法が、例として提供されるが、それらは、本発明で有用な微粒子の範囲を限定するためのものではない。様々な方法によって作製された一連の微粒子が本発明において有用であることは、当業者には明らかであろう。
【0326】
水溶性ポリマーに関して前述した構造の形態は、直鎖状と分枝状のどちらも、一般に、水不溶性ポリマーにも同様に適用できる。したがって、例えば、システイン、セリン、ジリシン、およびトリリシン分岐コアは、2つの水不溶性ポリマー部分で官能化することができる。これらの化学種を作製するのに使用される方法は、一般に、水溶性ポリマーを作製するのに使用される方法に極めて類似している。
【0327】
治療用糖ペプチドのin vivo半減期も、ポリエチレングリコール(PEG)などのPEG部分を用いて向上させることができる。例えば、タンパク質をPEGで化学修飾(PEG化)すると、それらの分子サイズが大きくなり、表面および官能基の接近容易性が低減される。各接近容易性は、タンパク質に結合されるPEGのサイズに依存する。この結果、血漿半減期およびタンパク質分解に対する安定性が改善され、免疫原性および肝臓への取込みが低減される(Chaffee他、J.Clin.Invest.89:1643〜1651頁(1992年)、Pyatak他、Res.Commun.Chem.Pathol Pharmacol.29:113〜127頁(1980年))。インターロイキン−2をPEG化するとin vivoでの抗腫瘍力が増大されることが報告されており(Katre他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.84:1487〜1491頁(1987年))、また、モノクローナル抗体A7由来のF(ab’)2をPEG化すると、その腫瘍局在性が改善された(Kitamura他、Biochem.Biophys.Res.Commun.28:1387〜1394頁(1990年))。したがって、別の実施形態では、本発明の方法によってPEG部分で誘導体化されたペプチドのin vivo半減期は、非誘導体化ペプチドのin vivo半減期と比べて延長されている。
【0328】
ペプチドのin vivo半減期の増大は、その量の増大率の範囲として最もよく表現される。増大率の範囲の下限は、約40%、約60%、約80%、約100%、約150%、または約200%である。この範囲の上限は、約60%、約80%、約100%、約150%、または、約250%より高い。
【0329】
生体分子
別の実施形態では、修飾された糖は、生体分子を有する。さらに別の実施形態では、生体分子は、機能タンパク質、酵素、抗原、抗体、ペプチド、核酸(例えば、単一のヌクレオチドまたはヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ならびに1本鎖および多重鎖の核酸)、レクチン、レセプター、またはそれらの組合せ物である。
【0330】
好ましい生体分子は、本質的に非蛍光性であり、あるいは、アッセイで蛍光マーカーとして使用するのに不適切な程度の最低限の量しか蛍光を発しない。さらに、糖ではない生体分子を使用することが一般に好ましい。この選択に対する例外は、別の単位(例えば、PEG、生体分子、治療効果を有する部分、診断用の部分など)の共有結合によって修飾されている、別の様式で天然に存在する糖の使用である。例示的な実施形態では、生体分子である糖部分は、リンカーアームに結合しており、続いて、本発明の方法によって、糖−リンカーアームのカセットがペプチドに結合される。
【0331】
本発明を実施するうえで有用な生体分子は、任意の供給源から得ることができる。生体分子は、天然供給源から単離することができ、あるいは、合成的な方法によってそれらを作製することもできる。ペプチドは、天然ペプチドでも変異ペプチドでもよい。変異は、化学変異誘発、部位特異的変異誘発または当業者に公知の他の変異誘発手段によって起こすことができる。本発明を実施するうえで有用なペプチドとしては、例えば、酵素、抗原、抗体、およびレセプターが挙げられる。抗体は、ポリクローナルでもモノクローナルでもよく、完全体でも断片でもよい。ペプチドは、場合によっては、指向性進化のプログラムの産物である。
【0332】
天然由来のペプチドおよび合成ペプチドの双方、ならびに核酸が、本発明と組み合わせると有用である。これらの分子は、任意の利用可能な反応性基によって、糖残基成分または架橋物質に結合させることができる。例えば、反応性のアミン、カルボキシル、スルフヒドリル、またはヒドロキシル基を通じて、ペプチドを結合させることができる。反応性基は、ペプチド末端、またはペプチド鎖の内部の部位に存在することができる。塩基上の反応性基(例えば環外のアミン)または糖部分上の利用可能なヒドロキシル基(例えば、3’−または5’−ヒドロキシル)を通じて、核酸を結合させることができる。1つまたは複数の部位でペプチドおよび核酸鎖をさらに誘導体化して、鎖上への適切な反応性基の結合を可能にさせることができる。Chrisey他、Nucleic Acids Res.24:3031〜3039頁(1996年)を参照のこと。
【0333】
別の実施形態では、本発明の方法によって修飾されたペプチドを特定の組織に誘導し、それによって、その組織に送達される非誘導体化ペプチドの量に比べて、その組織へのペプチドの送達が増大されるように、生体分子が選択される。さらに別の実施形態では、選択された期間内に特定の組織に送達される誘導体化ペプチドの量は、誘導体化によって、少なくとも約20%、より好ましくは、少なくとも約40%、さらにより好ましくは少なくとも約100%、増大される。現在、標的化用途に好ましい生体分子としては、抗体、ホルモン、細胞表面レセプターに対するリガンドが挙げられる。
【0334】
さらに別の例示的な実施形態では、ビオチンとのコンジュゲートとして提供される。すなわち、例えば、1つまたは複数の修飾基を有するアビジンまたはストレプトアビジン部分を結合させることによって、選択的にビオチン化されたペプチドを作製する。
【0335】
治療効果を有する部分
別の実施形態では、修飾された糖は、治療効果を有する部分を含む。治療効果を有する部分と生体分子の部類の間には重複があることが、当業者には理解されよう。多くの生体分子は、治療効果を有する諸特性または治療効果を有する可能性を有している。
【0336】
治療効果を有する部分は、臨床用途用にすでに容認されている薬剤でもよく、あるいは、その使用が実験的な薬物、または、その活性もしくは作用機序が調査中である薬物でもよい。治療効果を有する部分は、所与の疾患状態において証明された作用を有するものでもよく、あるいは、所与の疾患状態において望ましい作用を示すことが仮説立てられているだけのものでもよい。別の実施形態では、治療効果を有する部分は、選択した組織と相互に作用する能力についてスクリーニングされる化合物である。本発明を実施するうえで有用な治療効果を有する部分には、様々な薬理活性を有する広範な範囲の薬物クラスからの薬物が含まれる。好ましい治療効果を有する部分は、本質的に非蛍光性であり、あるいは、アッセイで蛍光マーカーとして使用するのに不適切な程度の最低限の量しか蛍光を発しない。さらに、糖ではない治療効果を有する部分を使用することが一般に好ましい。この選択に対する例外は、PEG、生体分子、治療効果を有する部分、診断用の部分など別の単位の共有結合によって修飾されている糖の使用である。別の例示的な実施形態では、治療効果を有する糖部分は、リンカーアームに結合しており、続いて、本発明の方法によって、糖−リンカーアームのカセットがペプチドに結合される。
【0337】
治療効果を有する作用物質および診断用作用物質を他の様々な化学種に結合させる方法は、当業者には周知である。例えば、Hermanson、BIOCONJUGATE TECHNIQUES、Academic Press、サンディエゴ、1996年、およびDunn他編、POLYMERIC DRUGS AND DRUG DELIVERY SYSTEMS、ACS Symposium Series 469巻、American Chemical Society、ワシントン、D.C.1991年を参照のこと。
【0338】
例示的な実施形態では、治療効果を有する部分は、選択された条件のもとで切断される結合を介して、修飾された糖に結合している。例示的な条件としては、それだけには限らないが、選択されたpH、(例えば、胃、腸、エンドサイトーシスの空胞)、活性酸素の存在(例えば、エステラーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ)、光、熱などが挙げられる。多くの切断可能な基が、当技術分野では公知である。例えば、Jung他、Biochem.Biophys.Acta、761:152〜162頁(1983年)、Joshi他、J:Biol.Chem.、265:14518〜14525頁(1990年)、Zarling他、J Immunol.、124:913〜920頁(1980年)、Bouizar他、Eur.J.Biochem.、155:141〜147頁(1986年)、Park他、J.Biol.Chem.、261:205〜210頁(1986年)、Browning他、J.Immunol.、143:1859〜1867頁(1989年)を参照のこと。
【0339】
有用な治療効果を有する部分のクラスには、例えば、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)が含まれる。NSAIDSは、例えば、以下のカテゴリー、すなわち、(例えば、プロピオン酸誘導体、酢酸誘導体、フェナム酸誘導体、ビフェニルカルボン酸誘導体、およびオキシカム);ヒドロコルチゾンなどを含むステロイド系抗炎症薬;抗ヒスタミン薬(例えば、クロルフェニラミン、トリプロリジン);鎮咳薬(例えば、デキストロメトルファン、コデイン、カラミフェン、およびカルベタペンタン);鎮痒薬(例えば、メトジラジンおよびトリメプラジン);抗コリン作用薬(例えば、スコポラミン、アトロピン、ホマトロピン、レボドパ);鎮吐薬および制嘔吐薬(例えば、シクリジン、メクリジン、クロルプロマジン、ブクリジン);摂食障害用の薬物(例えば、ベンズフェタミン、フェンテルミン、クロルフェンテルミン、フェンフルラミン);中枢興奮薬(例えば、アンフェタミン、メタンフェタミン、デキストロアンフェタミン、およびメチルフェニデート);抗不整脈薬(例えば、プロパノロール、プロカインアミド、ジソピラミド、キニジン、エンカイニド);βアドレナリン遮断薬(例えば、メトプロロール、アセブトロール、ベタキソロール、ラベタロール、およびチモロール);強心薬(例えば、ミルリノン、アムリノン、およびドブタミン);抗高血圧薬(例えば、エナラプリル、クロニジン、ヒドララジン、ミノキシジル、グアナドレル、グアネチジン);利尿薬(例えば、アミロリドおよびヒドロクロロチアジド);血管拡張薬(例えば、ジルチアゼム、アミオダロン、イソクスプリン、ナイリドリン、トラゾリン、およびベラパミル);血管収縮薬(例えば、ジヒドロエルゴタミン、エルゴタミン、およびメチルセルギド);抗潰瘍薬(例えば、ラニチジンおよびシメチジン);麻酔薬(例えば、リドカイン、ブピバカイン、クロロプロカイン、ジブカイン);抗うつ薬(例えば、イミプラミン、デシプラミン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン);精神安定薬および鎮静薬(例えば、クロルジアゼポキシド、ベナシチジン(benacytyzine)、ベンズキナミド、フルラゼパム、ヒドロキシジン、ロキサピン、およびプロマジン);抗精神病薬(例えば、クロルプロチキセン、フルフェナジン、ハロペリドール、モリンドン、チオリダジン、およびトリフロペラジン);抗微生物薬(抗菌薬、抗真菌薬、抗原虫薬、および抗ウイルス薬)から選択することができる。
【0340】
本発明の組成物に組み込むのに好ましい抗菌薬としては、例えば、β−ラクタム系薬物、キノロン系薬物、シプロフロキサシン、ノルフロキサシン、テトラサイクリン、エリスロマイシン、アミカシン、トリクロサン、ドキシサイクリン、カプレオマイシン、クロルヘキシジン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、クリンダマイシン、エタンブトール、ヘキサミジンイソチオナート(isothionate)、メトロニダゾール、ペンタミジン、ゲンタマイシン、カナマイシン、リネオマイシン、メタサイクリン、メテナミン、ミノサイクリン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、ミコナゾール、およびアマンタジンの薬剤として許容される塩が挙げられる。
【0341】
本発明を実施するうえで有用な他の薬物部分としては、抗腫瘍薬(例えば、抗アンドロゲン(例えば、ロイプロリドまたはフルタミド)、細胞破壊物質(例えば、アドリアマイシン、ドキソルビシン、タキソール、シクロホスファミド、ブスルファン、シスプラスチン、β−2−インターフェロン)、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン)、代謝拮抗物質(例えば、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン))が挙げられる。診断および治療の両方に用いる放射性同位体をベースとした薬剤、ならびに、リシン、ゲルダナマイシン、ミタンシン(mytansin)、CC−1065、デュオカルマイシン類、クリケアマイシン(Chlicheamycin)および関連構造体、ならびにそれらの類似体など結合された(conjugated)毒素もこのクラスに含まれる。
【0342】
治療効果を有する部分は、ホルモン(例えば、メドロキシプロゲステロン、エストラジオール、ロイプロリド、メゲストロール、オクトレオチド、またはソマトスタチン);筋弛緩薬(例えば、シンナメドリン、シクロベンザプリン、フラボキサート、オルフェナドリン、パパベリン、メベベリン、イダベリン、リトドリン、ジフェノキシラート、ダントロレン、およびアズモレン);鎮痙薬;骨活性化薬(例えば、ジホスホン酸およびホスホノアルキルホスフィン酸の薬物化合物);内分泌調節薬(例えば、避妊薬(例えば、エチノジオール、エチニルエストラジオール、ノルエチンドロン、メストラノール、デソゲストレル、メドロキシプロゲステロン)、糖尿病の調整物質(例えば、グリブリドまたはクロルプロパミド)、テストラクトンやスタノゾロールなどのアナボリック物質、アンドロゲン(例えば、メチルテストステロン、テストステロン、またはフルオキシメステロン)、抗利尿薬(例えばデスモプレシン)、ならびにカルシトニン)でもよい。
【0343】
エストロゲン(例えばジエチルスチルベステロール)、糖質コルチコイド(例えば、トリアムシノロン、ベタメタゾンなど)、およびノルエチンドロン、エチノジオール、ノルエチンドロン、レボノルゲストレルなどの黄体ホルモン;甲状腺剤(例えば、リオチロニンもしくはレボチロキシン)または抗甲状腺剤(例えば、メチマゾール);抗高プロラクチン血症薬(例えば、カベルゴリン);ホルモン抑制物質(例えば、ダナゾールもしくはゴセレリン)、子宮収縮薬(例えば、メチルエルゴノビンもしくはオキシトシン)、ならびにミオプロストール(mioprostol)、アルプロスタジル、もしくはジノプロストンなどのプロスタグランジンも使用することができる。
【0344】
他の有用な修飾基としては、免疫調節薬(例えば、抗ヒスタミン薬)、ロドキサミドおよび/またはクロモリンなどの肥満細胞安定化剤、ステロイド(例えば、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベクロメタゾン、またはクロベタゾール)、ヒスタミンH2拮抗薬(例えば、ファモチジン、シメチジン、ラニチジン)、免疫抑制薬(例えば、アザチオプリン、シクロスポリン)などが挙げられる。スリンダク、エトドラク、ケトプロフェン、およびケトロラクなど抗炎症活性を有する群も有用である。本発明組み合わせて有用な他の薬物は、当業者には明らかであろう。
【0345】
修飾された糖の調製
一般に、糖部分または修飾基は、反応性基の使用を通じて相互に結合され、それらは通常、結合プロセスによって、新しい有機官能基または非反応性化学種に変換される。糖の反応性官能基は、糖部分の任意の位置に位置する。本発明を実施する際に有用な反応性基および反応の種類は、通常、バイオコンジュゲート化学の分野で周知のものである。反応性の糖部分を用いて利用可能な反応の現時点で好ましい種類は、比較的緩和な条件下で進行する反応である。これらには、それだけには限らないが、求核置換反応(例えば、アミンおよびアルコールとハロゲン化アシル、活性エステルとの反応)、求電子置換反応(例えば、エナミン反応)、ならびに炭素−炭素および炭素−ヘテロ原子多重結合への付加反応(例えば、マイケル反応、ディールス−アルダー付加)が含まれる。これらおよび他の有用な反応は、例えば、March、ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY、第3版、John Wiley&Sons、ニューヨーク、1985年;Hermanson、BIOCONJUGATE TECHNIQUES、Academic Press、サンディエゴ(San Diego)、1996年;およびFeeney他、MODIFICATION OF PROTEINS;Advances in Chemistry Series、198巻、American Chemical Society、ワシントンD.C.、1982年で論じられている。
【0346】
糖の核または修飾基から張り出た有用な反応性官能基としては、それだけには限らないが、以下のものが挙げられる:
(a)それだけには限らないが、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、N−ヒドロキシベンゾトリアゾールエステル、酸ハロゲン化物、アシルイミダゾール、チオエステル、p−ニトロフェニルエステル、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族エステルを含めて、カルボキシル基および様々なその誘導体、
(b)例えば、エステル、エーテル、アルデヒドなどに変換することができるヒドロキシル基、
(c)例えば、アミン、カルボキシラートアニオン、チオールアニオン、カルボアニオン、またはアルコキシドイオンなどの求核基でハライドが後に置換され、それによって、ハロゲン原子の官能基位置に新しい基を共有結合させることができるハロアルキル基、
(d)ディールス−アルダー反応に参加することができる求ジエン体の基、例えば、マレイミド基、
(e)例えば、イミン、ヒドラゾン、セミカルバゾン、もしくはオキシムなどのカルボニル誘導体の形成を介して、または、グリニャール付加やアルキルリチウム付加などの機序を介して、その後に誘導体化することが可能であるようなアルデヒド基またはケトン基、
(f)例えば、スルホンアミドを形成するために、その後でアミンと反応させるためのスルホニルハライド基、
(g)例えば、ジスルフィドに変換させ、またはハロゲン化アシルと反応させることができる、チオール基、
(h)例えば、アシル化、アルキル化、または酸化することができる、アミン基またはスルフヒドリル基、
(i)例えば、環化付加、アシル化、マイケル付加などを受けることができるアルケン、ならびに、
(j)例えば、アミンおよびヒドロキシル化合物と反応することができるエポキシド。
【0347】
反応性官能基は、反応性の糖の核または修飾基を構築するために必要な反応に参加および干渉しないように選択することができる。あるいは、保護基の存在によって、反応に参加しないように反応性官能基を保護することもできる。当業者なら、選択された一連の反応条件に干渉しないように特定の官能基を保護する方法を理解している。有用な保護基の例としては、例えば、Greene他、PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS、John Wiley&Sons、ニューヨーク、1991年を参照のこと。
【0348】
以下の考察では、本発明を実施する際に有用な修飾された糖のいくつかの特定の例を説明する。例示的な実施形態では、修飾基が結合される糖の核としてシアル酸誘導体が利用される。シアル酸誘導体に基づいた考察の焦点は、例示を明確にするためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。例としてシアル酸を用いて説明する方法に類似した方法で、様々な他の糖部分を活性化および誘導体化できることが、当業者には理解されよう。例えば、いくつかの糖基質を挙げてみると、ガラクトース、グルコース、N−アセチルガラクトサミン、およびフコースなどを修飾するために多数の方法が利用可能であり、これらは、当業者に認知されている方法によって容易に修飾される。例えば、Elhalabi他、Curr.Med.Chem.6:93頁(1999年)、およびSchafer他、J.Org.Chem.65:24頁(2000年)を参照のこと。
【0349】
例示的な実施形態では、本発明の方法によって修飾されるペプチドは、原核細胞(例えば、大腸菌)、酵母および哺乳動物の細胞(例えば、CHO細胞)を含めた真核細胞、またはトランスジェニック動物で作製される糖ペプチドであり、したがって、不完全にシアル酸付加されたN−および/またはO−結合型オリゴ糖鎖を含む。シアル酸を欠き、末端ガラクトース残基を含む糖ペプチドのオリゴ糖鎖は、グリコPEG化し、グリコPPG化し、さもなければ修飾されたシアル酸を用いて修飾することができる。
【0350】
スキーム4では、保護されたアミノ酸(例えば、グリシン)誘導体の活性エステルでアミノグリコシド1を処理し、糖アミン残基を対応する保護されたアミノ酸アミド付加物に変換する。付加物をアルドラーゼで処理してα−ヒドロキシカルボキシラート2を形成させる。CMP−SAシンテターゼの作用によって、対応するCMP誘導体に化合物2を変換し、それに続いて、CMP誘導体の接触水素添加により化合物3を得る。グリシン付加物の形成を介して誘導されるアミンは、化合物3を活性化された(m−)PEGまたは(m−)PPG誘導体(例えば、PEG−C(O)NHS、PPG−C(O)NHS)と反応させることによるPEGまたはPPG結合の部位として利用され、それぞれ、4や5などの化学種を生じる。
【0351】
【化27】
【0352】
表2は、PEGまたはPPG部分で誘導体化される糖1リン酸の代表的な例を示す。表2の化合物のうちのいくつかは、スキーム4の方法によって調製される。他の誘導体は、当業者に認知されている方法によって調製される。例えば、Keppler他、Glycobiology11:11頁(2001年)およびCharter他、Glycobiology10:1049頁(2000年)を参照のこと。他のアミン反応性のPEGおよびPPG類似体は、市販されており、または、当業者が容易に利用可能な方法によってそれらを調製することができる。
【0353】
【表1】
【0354】
本発明を実施する際に有用な修飾された糖リン酸は、前述の位置だけでなく他の位置でも置換することができる。現時点で好ましいシアル酸の置換体を式Iに示す。
【0355】
【化28】
(式中、Xは、−O−、−N(H)−、−S、CH
2−、および−N(R)
2(各Rは、R
1〜R
5からそれぞれ独立に選択されるメンバーである)から好ましくは選択される、結合基である。記号Y、Z、A、およびBはそれぞれ、Xのアイデンティティに関して前述した群から選択される基を示す。X、Y、Z、A、およびBは、それぞれ独立に選択され、したがって、同じものでも異なるものでもよい。記号R
1、R
2、R
3、R
4、およびR
5は、H、水溶性ポリマー、治療効果を有する部分、生体分子、またはその他の部分を表す。あるいは、これらの記号は、水溶性ポリマー、治療効果を有する部分、生体分子、またはその他の部分に結合しているリンカーを表す。)
【0356】
本明細書で開示されるコンジュゲートに結合される例示的な部分としては、それだけには限らないが、PEG誘導体(例えば、アルキル−PEG、アシル−PEG、アシル−アルキル−PEG、アルキル−アシル−PEGカルバモイル−PEG、アリール−PEG)、PPG誘導体(例えば、アルキル−PPG、アシル−PPG、アシル−アルキル−PPG、アルキル−アシル−PPGカルバモイル−PPG、アリール−PPG)、治療効果を有する部分、診断用の部分、マンノース−6−ホスファート、ヘパリン、ヘパラン、SLe
x、マンノース、マンノース−6−ホスファート、Sialyl Lewis X、FGF、VFGF、タンパク質、コンドロイチン、ケラタン、デルマタン、アルブミン、インテグリン、アンテナリーオリゴ糖、ペプチドなどが挙げられる。様々な修飾基を糖部分に結合させる方法は、当業者には容易に利用可能である(POLY(ETHYLENE GLYCOL CHEMISTRY:BIOTECHNICAL AND BIOMEDICAL APPLICATIONS、J.Milton Harris編、Plenum Pub.Corp.、1992年;POLY(ETHYLENE GLYCOL)CHEMICAL AND BIOLOGICAL APPLICATIONS、J.Milton Harris編、ACS Symposium Series No.680、American Chemical Society、1997年;Hermanson、BIOCONJUGATE TECHNIQUES、Academic Press、サンディエゴ、1996年;およびDunn他編、POLYMERIC DRUGS AND DRUG DELIVERY SYSTEMS、ACS Symposium Series 469巻、American Chemical Society、ワシントン、D.C.1991年)。
【0357】
架橋基
本発明の方法で使用するための修飾された糖の調製は、糖残基に修飾基を付加し、グリコシルトランスフェラーゼの基質となる安定な付加物を形成させることを含む。糖および修飾基は、ゼロ次または高次の架橋剤によって結合させることができる。修飾基を糖部分に結合させるのに使用することができる例示的な二官能化合物としては、それだけには限らないが、二官能性ポリエチレングリコール、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルなどが挙げられる。糖を他の分子に結合させるための一般的手法は、文献で公知である。例えば、Lee他、Biochemistry 28:1856頁(1989年);Bhatia他、Anal Biochem.178:408(1989年);Janda他、J.Am.Chem.Soc.112:8886頁(1990年)、およびBednarski他、WO92/18135号を参照のこと。以下の考察では、反応性基は、新生の修飾された糖の糖部分上で好都合に処理される。考察の焦点は、例示を明確にするためのものである。この考察は、修飾基上の反応性基にも同様に関連していることが、当業者には理解されよう。
【0358】
例示的な戦略は、ヘテロ二官能性架橋剤SPDP(N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート)を用いて糖上に保護されたスルフヒドリルを組み込み、次いで、修飾基上の別のスルフヒドリルとの間にジスルフィド結合を形成させるためにそのスルフヒドリルを脱保護することを含む。
【0359】
SPDPが、修飾された糖がグリコシルトランスフェラーゼの基質の役割を果たす能力に悪影響を及ぼす場合は、2−イミノチオランやN−スクシンイミジルS−アセチルチオアセタート(SATA)など他の一連の架橋剤のうちの1つを使用してジスルフィド結合を形成させる。2−イミノチオランは、第1級アミンと反応して、直ちにアミン含有分子上に未保護のスルフヒドリルを組み込む。SATAも第1級アミンと反応するが、その後にヒドロキシルアミンによって脱アセチル化(deacetaylated)されて遊離のスルフヒドリルを生じる保護されたスルフヒドリルを組み込む。いずれの場合も、SPDPと同様に、組み込まれたスルフヒドリルは、他のスルフヒドリルまたは保護されたスルフヒドリルと自由に反応して、必要なジスルフィド結合を形成する。
【0360】
上述の戦略は、例示的なものであり、本発明において有用なリンカーを限定するものではない。ペプチドに修飾基を架橋させるための様々な戦略において使用できる他の架橋剤が利用可能である。例えば、TPCH(S−(2−チオピリジル)−L−システインヒドラジドおよびTPMPH(S−(2−チオピリジル)メルカプト−プロピオノヒドラジド)は、緩和な過ヨウ素酸塩処理により先に酸化された糖部分と反応し、それにより、架橋剤のヒドラジド部分と過ヨウ素酸塩により生成されたアルデヒドとの間のヒドラゾン結合を形成させる。TPCHおよびTPMPHは、DTTを用いて脱保護し、その後に続いて構成要素間のジスルフィド結合形成などの結合用に使用することができる2−ピリジルチオンに保護されたスルフヒドリル基を糖上に導入する。
【0361】
ジスルフィド結合が、安定な修飾された糖を作製するのに適さないことが判明した場合は、構成要素間により安定な結合を組み込む他の架橋剤を使用してよい。ヘテロ二官能性架橋剤のGMBS(N−ガマ−マルイミドブチルオキシ)(N−gama−malimidobutyryloxy)スクシンイミドおよびSMCC(スクシンイミジル4−(N−マレイミド−メチル)シクロヘキサン)は、第1級アミンと反応し、それにより、構成要素上にマレイミド基を導入する。そのマレイミド基は、前述の架橋剤によって導入することができる、他方の構成要素上のスルフヒドリルと続いて反応し、それにより、それらの構成要素間に安定なチオエーテル結合を形成させることができる。それらの構成要素間の立体障害が構成要素の活性、または修飾された糖がグリコシルトランスフェラーゼの基質の役割を果たす能力のいずれかを阻害する場合は、構成要素間に長いスペーサーアームを導入し、また、前述の架橋剤(すなわちSPDP)のうちのいくつかの誘導体を含む架橋剤を使用することができる。したがって、有用である適切な架橋剤が豊富にあり、各架橋剤は、最適なペプチドコンジュゲートおよび修飾された糖の作製に与える効果に応じて選択される。
【0362】
様々な試薬が、修飾された糖の構成要素を分子内化学架橋で修飾するのに使用される(架橋試薬および架橋手順の総説については、Wold,F.、Meth Enzymol.25:623〜651頁、1972年;Weetall,H.H.およびCooney,D.A.、ENZYMES AS DRUGS.(HolcenbergおよびRoberts編)395〜442頁、Wiley、ニューヨーク、1981年;Ji,T.H.、Meth.Enzymol.91:580〜609頁、1983年;Mattson他、Mol.Biol.Rep.17:167〜183頁、1993年を参照のこと。これらはすべて、参照により本明細書に組み込む)。好ましい架橋試薬は、様々なゼロ長、ホモ二官能性、およびヘテロ二官能性の架橋試薬から誘導される。ゼロ長架橋試薬は、外因性の物質を導入せずに、2つの内因性の化学基を直接結合することを含む。ジスルフィド結合の形成を触媒する薬剤は、この部類に属する。別の例は、カルボジイミド、エチルクロロホルマート、ウッドワードの試薬K(2−エチル−5−フェニルイソオキサゾリウム−3’−スルホナート)、およびカルボニルジイミダゾールなど、カルボキシル基と第1級アミノ基の縮合を誘導し、アミド結合を形成させる試薬である。これらの化学試薬の他に、酵素トランスグルタミナーゼ(グルタミル−ペプチドγ−グルタミルトランスフェラーゼ;EC2.3.2.13)も、ゼロ長架橋試薬として使用してよい。この酵素は、通常、第1級アミノ基を基質として用いて、タンパク質結合グルタミニル残基のカルボキサミド基でのアシル転移反応を触媒する。好ましいホモおよびヘテロ二官能試薬は、アミノ、スルフヒドリル、グアニジノ、インドール、または非特異的な基と反応し得る2つの同一部位または2つの異なる部位をそれぞれ含む。
【0363】
i.架橋試薬中の好ましい特異的部位
1.アミノ反応性基
一実施形態では、架橋剤上の部位は、アミノ反応性基である。アミノ反応性基の有用な非限定的例としては、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、イミドエステル、イソシアナート、ハロゲン化アシル、アリールアジド、p−ニトロフェニルエステル、アルデヒド、および塩化スルホニルが挙げられる。
【0364】
NHSエステルは、構成要素である修飾された糖の(芳香族を含めて)第1級アミノ基と優先的に反応する。ヒスチジンのイミダゾール基は、反応に際し第1級アミンと競合することが知られているが、その反応生成物は不安定であり、容易に加水分解される。この反応は、アミドを形成し、N−ヒドロキシスクシンイミドを遊離する、NHSエステルの酸カルボキシル上でのアミンの求核攻撃を伴う。したがって、元のアミノ基の正電荷は失われる。
【0365】
イミドエステルは、修飾された糖である構成要素のアミン基との反応に関して最も特異的なアシル化試薬である。pH7〜10では、イミドエステルは、第1級アミンとしか反応しない。第1級アミンは、イミダートを求核攻撃して、高pHではアミジンに、または、より低いpHでは新しいイミダートに分解する中間体を生じる。新しいイミダートは、別の第1級アミンと反応し、それにより、2つのアミノ基を架橋することができる。これは、単官能性と推定されるミダートが二官能的に反応する事例である。第1級アミンとの反応の主要生成物は、元のアミンより強い塩基であるアミジンである。したがって、元のアミノ基の正電荷は保持される。
【0366】
イソシアナート(およびイソチオシアナート)は、修飾された糖である構成要素の第1級アミンと反応して、安定な結合を形成させる。スルフヒドリル、イミダゾール、およびチロシル基との反応は、比較的不安定な生成物を生じる。
【0367】
アシルアジドも、親和性構成要素の求核性アミンがわずかにアルカリ性の条件下、例えばpH8.5で酸性のカルボキシル基を攻撃する、アミノ特異的試薬として使用される。
【0368】
1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンなどのハロゲン化アリールは、修飾された糖である構成要素のアミノ基およびチロシンフェノール基と優先的に反応するが、スルフヒドリル基およびイミダゾール基とも反応する。
【0369】
モノカルボン酸およびジカルボン酸のp−ニトロフェニルエステルも、有用なアミノ反応性基である。試薬特異性はあまり高くないが、α−アミノ基およびε−アミノ基が最も迅速に反応するようである。
【0370】
グルタルアルデヒドなどのアルデヒドは、修飾された糖の第1級アミンと反応する。アルデヒド類のアルデヒドとアミノ基が反応すると、不安定なシッフ塩基が形成されるが、グルタルアルデヒドは、安定な架橋結合によって修飾された糖を修飾することができる。一般的な架橋条件であるpH6〜8では、環状ポリマーは脱水を受けて、α,β−不飽和アルデヒドポリマーを形成する。しかし、シッフ塩基は、別の二重結合に結合されていると、安定である。双方の二重結合の共鳴相互作用により、シッフ結合の加水分解が防止される。さらに、アミンは、濃度が局部的に高くなると、エチレン二重結合を攻撃して、安定なマイケル付加生成物を形成させることができる。
【0371】
芳香族塩化スルホニルは、修飾された糖である構成要素の様々な部位と反応するが、アミノ基との反応が最も重要であり、安定なスルホンアミド結合を生じる。
【0372】
2.スルフヒドリル反応性基
別の実施形態では、これらの部位は、スルフヒドリル反応性基である。スルフヒドリル反応性基の有用な非限定的例としては、マレイミド、ハロゲン化アルキル、ピリジルジスルフィド、およびチオフタルイミドが挙げられる。
【0373】
マレイミドは、修飾された糖である構成要素のスルフヒドリル基と優先的に反応して、安定なチオエーテル結合を形成させる。それらは、第1級アミノ基およびヒスジチンのイミダゾール基とも、ずっと遅い速度で反応する。しかし、pH7では、単純チオールの反応速度は、対応するアミンの反応速度の1000倍であるため、マレイミド基は、スルフヒドリルに特異的な基とみなすことができる。
【0374】
ハロゲン化アルキルは、スルフヒドリル基、スルフィド、イミダゾール、およびアミノ基と反応する。しかし、中性からわずかにアルカリ性のpHでは、ハロゲン化アルキルは主にスルフヒドリル基と反応して安定なチオエーテル結合を形成させる。より高いpHでは、アミノ基との反応が好まれる。
【0375】
ピリジルジスルフィドは、ジスルフィド交換を介して遊離のスルフヒドリルと反応して混合性のジスルフィドを生じる。結果として、ピリジルジスルフィドは、最も特異的なスルフヒドリル反応性基である。
【0376】
チオフタルイミドは、遊離のスルフヒドリルと反応してジスルフィドを形成する。
【0377】
3.カルボキシル反応性残基
別の実施形態では、水にも有機溶媒にも可溶性のカルボジイミドが、カルボキシル反応性試薬として使用される。これらの化合物は、遊離のカルボキシル基と反応して、利用可能なアミンとその後に結合してアミド結合を生じることができるプソイド尿素を形成し、これはカルボキシル基をカルボジイミドでどのように修飾するかを教示している(Yamada他、Biochemistry 20:4836〜4842頁、1981年)。
【0378】
ii.架橋試薬中の好ましい非特異的部位
部位特異的な反応性部分の使用に加えて、本発明は、修飾基に糖を結合するための非特異的な反応性基の使用も企図する。
【0379】
例示的な非特異的架橋剤としては、適切なエネルギーの光子を吸収すると反応性化学種に変換される、暗所で完全に不活性な光活性化型の基が挙げられる。一実施形態では、光活性化型の基は、アジドを加熱または光分解すると生じるニトレンの前駆物質から選択される。電子不足のニトレンは、極めて反応性であり、N−H、O−H、C−H、およびC=Cを含めて様々な化学結合と反応することができる。3つのタイプのアジド(アリール、アルキル、およびアシル誘導体)を使用してもよいが、アリールアジドが現在のところ使用される。光分解の際のアリールアジドの反応性は、C−H結合よりN−HおよびO−Hとの方がよい。電子不足のアリールニトレンは、迅速に環を拡大して、C−H挿入生成物を形成するよりも求核剤と反応する傾向があるデヒドロアゼピンを形成する。アリールアジドの反応性は、環中にニトロ基やヒドロキシル基などの電子求引性置換基が存在することによって、増大され得る。このような置換基は、アリールアジドの吸収極大をより長い波長に押し上げる。置換されていないアリールアジドの吸収極大は260〜280nmの範囲であるのに対し、ヒドロキシおよびニトロアリールアジドは、305nmを超える有効な光を吸収する。したがって、ヒドロキシおよびニトロアリールアジドは、置換されていないアリールアジドより、より害の少ない光分解条件を親和性の構成要素に対して使用することを可能にするため、最も好ましい。
【0380】
他の好ましい実施形態では、光活性化型の基は、フッ化アリールアジドから選択される。フッ化アリールアジドの光分解生成物は、アリールニトレンであり、これらはすべて、C−H結合挿入を含めて、この基の特徴的な反応を高い効率で受ける(Keana他、J Org.Chem.55:3640〜3647頁、1990年)。
【0381】
別の実施形態では、光活性化型の基は、ベンゾフェノン残基から選択される。ベンゾフェノン試薬は、一般に、アリールアジドより高い架橋形成率を与える。
【0382】
別の実施形態では、光活性化型の基は、光分解すると電子不足のカルベンを形成するジアゾ化合物から選択される。これらのカルベンは、C−H結合中への挿入、(芳香族系を含めて)二重結合への付加、水素の吸引、および炭素イオンを生じる、求核中心への配位を含めて、様々な反応を受ける。
【0383】
さらに別の実施形態では、光活性化型の基は、ジアゾピルバートから選択される。例えば、p−ニトロフェニルジアゾピルバートのp−ニトロフェニルエステルは、脂肪族アミンと反応して、紫外光分解を受けてアルデヒドを形成するジアゾピルビン酸アミドを生じる。光分解されたジアゾピルバートに修飾された親和性の構成要素は、架橋を形成するホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドと同様に反応すると考えられる。
【0384】
iii.ホモ2官能性試薬
1.第1級アミンと反応するホモ2官能性架橋剤
アミン反応性の架橋剤の合成、諸特性、および用途は、商業的に文献で記載されている(架橋の手順および試薬の総説については、上記を参照のこと)。多くの試薬が入手可能である(例えば、Pierce Chemical社、ロックフォード、イリノイ州;Sigma Chemical社、セントルイス(St.Louis)、ミズーリ州;Molecular Probes社、ユージーン(Eugene)、オレゴン州)。
【0385】
ホモ2官能性NHSエステルの好ましい非限定的な例としては、グルタル酸ジスクシンイミジル(DSG)、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート(BS)、酒石酸ジスクシンイミジル(DST)、酒石酸ジスルホスクシンイミジル(スルホ−DST)、ビス−2−(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチルスルホン(BSOCOES)、ビス−2−(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチルスルホン(スルホ−BSOCOES)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシナート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシナート)(スルホ−EGS)、ジチオビス(プロピオン酸スクシンイミジル)(DSP)、およびジチオビス(プロピオン酸スルホスクシンイミジル)(スルホ−DSP)が挙げられる。ホモ2官能性イミドエステルの好ましい非限定的な例としては、ジメチルマロンイミダート(DMM)、ジメチルスクシンイミダート(DMSC)、ジメチルアジピミダート(DMA)、ジメチルピメリミダート(DMP)、ジメチルスベリミダート(DMS)、ジメチル−3,3’−オキシジプロピオンイミダート(DODP)、ジメチル−3,3’−(メチレンジオキシ)ジプロピオンイミダート(DMDP)、ジメチル−,3’−(ジメチレンジオキシ)ジプロピオンイミダート(DDDP)、ジメチル−3,3’−(テトラメチレンジオキシ)−ジプロピオンイミダート(DTDP)、およびジメチル−3,3’−ジチオビスプロピオンイミダート(DTBP)が挙げられる。
【0386】
ホモ2官能性イソチオシアナートの好ましい非限定的な例としては、p−フェニレンジイソチオシアナート(DITC)および4,4’−ジイソチオシアノ−2,2’−ジスルホン酸スチルベン(DIDS)が挙げられる。
【0387】
ホモ2官能性イソシアナートの好ましい非限定的な例としては、キシレン−ジイソシアナート、トルエン−2,4−ジイソシアナート、トルエン−2−イソシアナート−4−イソチオシアナート、3−メトキシジフェニルメタン−4、4’−ジイソシアナート、2,2’−ジカルボキシ−4,4’−アゾフェニルジイソシアナート、およびヘキサメチレンジイソシアナートが挙げられる。
【0388】
ホモ2官能性ハロゲン化アリールの好ましい非限定的な例としては、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(DFDNB)および4,4’−ジフルオロ−3,3’−ジニトロフェニルスルホンが挙げられる。
【0389】
ホモ2官能性脂肪族アルデヒド試薬の好ましい非限定的な例としては、グリオキサール、マロンジアルデヒド、およびグルタルアルデヒドが挙げられる。
【0390】
ホモ2官能性アシル化試薬の好ましい非限定的な例としては、ジカルボン酸のニトロフェニルエステルが挙げられる。
【0391】
ホモ2官能性の芳香族塩化スルホニルの好ましい非限定的な例としては、フェノール−2,4−ジスルホニルクロリド、およびα−ナフトール−2,4−ジスルホニルクロリドが挙げられる。
【0392】
追加のアミノ反応性のホモ2官能性試薬の好ましい非限定的な例としては、アミンと反応してビスカルバマートを生じるエリスリトールビスカルボナートが挙げられる。
【0393】
2.遊離のスルフヒドリル基と反応するホモ2官能性架橋剤
これらの試薬の合成、諸特性、および用途は、文献で記載されている(架橋の手順および試薬の総説については、上記を参照のこと)。これらの試薬のうちの多くが市販されている(例えば、Pierce Chemical社、ロックフォード、イリノイ州;Sigma Chemical社、セントルイス、ミズーリ州;Molecular Probes社、ユージーン、オレゴン州)。
【0394】
ホモ2官能性マレイミドの好ましい非限定的な例としては、ビスマレイミドヘキサン(BMH)、N,N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−(1,2−フェニレン)ビスマレイミド、アゾフェニルジマレイミド、およびビス(N−マレイミドメチル)エーテルが挙げられる。
【0395】
ホモ2官能性ピリジルジスルフィドの好ましい非限定的な例としては、1,4−ジ−3’−(2’−ピリジルジチオ)プロピオンアミドブタン(DPDPB)が挙げられる。
【0396】
ホモ2官能性ハロゲン化アルキルの好ましい非限定的な例としては、2,2’−ジカルボキシ−4,4’−ジヨードアセトアミドアゾベンゼン、α,α’−ジヨード−p−キシレンスルホン酸、α,α’−ジブロモ−p−キシレンスルホン酸、N,N’−ビス(b−ブロモエチル)ベンジルアミン、N,N’−ジ(ブロモアセチル)フェニルチドラジン(phenylthydrazine)、および1,2−ジ(ブロモアセチル)アミノ−3−フェニルプロパンが挙げられる。
【0397】
3.ホモ2官能性の光活性化型架橋剤
これらの試薬の合成、諸特性、および用途は、文献で記載されている(架橋の手順および試薬の総説については、上記を参照のこと)。これらの試薬のうちのいくつかは、市販されている(例えば、Pierce Chemical社、ロックフォード、イリノイ州;Sigma Chemical社、セントルイス、ミズーリ州;Molecular Probes社、ユージーン、オレゴン州)。
【0398】
ホモ2官能性の光活性化型架橋剤の好ましい非限定的な例としては、ビス−β−(4−アジドサリチルアミド)エチルジスルフィド(BASED)、ジ−N−(2−ニトロ−4−アジドフェニル)−シスタミン−S,S−ジオキシド(DNCO)、および4,4’−ジチオビスフェニルアジドが挙げられる。
【0399】
iv.ヘテロ2官能性試薬
1.ピリジルジスルフィド部分を有するアミノ反応性ヘテロ2官能性試薬
これらの試薬の合成、諸特性、および用途は、文献で記載されている(架橋の手順および試薬の総説については、上記を参照のこと)。これらの試薬のうちの多くは市販されている(例えば、Pierce Chemical社、ロックフォード、イリノイ州;Sigma Chemical社、セントルイス、ミズーリ州;Molecular Probes社、ユージーン、オレゴン州)。
【0400】
ピリジルジスルフィド部分およびアミノ反応性のNHSエステルを有するヘテロ2官能性試薬の好ましい非限定的な例としては、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル6−3−(2−ピリジルチオ)プロピオンアミドヘキサノアート(LC−SPDP)、スルホスクシンイミジル6−3−(2−ピリジルチオ)プロピオンアミドヘキサノアート(スルホ−LCSPDP)、4−スクシンイミジルオキシカルボニル−α−メチル−α−(2−ピリジルチオ)トルエン(SMPT)、およびスルホスクシンイミジル6−α−メチル−α−(2−ピリジルチオ)トルアミドヘキサノアート(スルホ−LC−SMPT)が挙げられる。
【0401】
2.マレイミド部分を有するアミノ反応性ヘテロ2官能性試薬
これらの試薬の合成、諸特性、および用途は、文献で記載されている。マレイミド部分およびアミノ反応性のNHSエステルを有するヘテロ2官能性試薬の好ましい非限定的な例としては、スクシンイミジルマレイミジルアセタート(AMAS)、スクシンイミジル3−マレイミジルプロピオナート(BMPS)、N−γ−マレイミドブチリルオキシスクシンイミドエステル(GMBS)、N−γ−マレイミドブチリルオキシスルホスクシンイミドエステル(スルホ−GMBS)、スクシンイミジル6−マレイミジルヘキサノアート(EMCS)、スクシンイミジル3−マレイミジルベンゾアート(SMB)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(スルホ−MBS)、スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシラート(SMCC)、スルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート(スルホ−SMCC)、スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート(SMPB)、およびスルホスクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート(スルホ−SMPB)が挙げられる。
【0402】
3.ハロゲン化アルキル部分を有するアミノ反応性ヘテロ2官能性試薬
これらの試薬の合成、諸特性、および用途は、文献で記載されている。ハロゲン化アルキル部分およびアミノ反応性のNHSエステルを有するヘテロ2官能性試薬の好ましい非限定的な例としては、N−スクシンイミジル−(4−ヨードアセチル)アミノベンゾアート(SIAB)、スルホスクシンイミジル−(4−ヨードアセチル)アミノベンゾアート(スルホ−SIAB)、スクシンイミジル−6−(ヨードアセチル)アミノヘキサノアート(SIAX)、スクシンイミジル−6−(6−((ヨードアセチル)−アミノ)ヘキサノイルアミノ)ヘキサノアート(SIAXX)、スクシンイミジル−6−(((4−(ヨードアセチル)−アミノ)−メチル)−シクロヘキサン−1−カルボニル)アミノヘキサノアート(SIACX)、およびスクシンイミジル−4((ヨードアセチル)−アミノ)メチルシクロヘキサン−1−カルボキシラート(SIAC)が挙げられる。
【0403】
アミノ反応性NHSエステルおよびジハロゲン化アルキル部分を有するヘテロ2官能性試薬の例は、N−ヒドロキシスクシンイミジル2,3−ジブロモプロピオナート(SDBP)である。SDBPは、そのアミノ基を結合させることによって、親和性構成要素に分子内架橋を導入する。第1級アミン基に対するジブロモプロピオニル部分の反応性は、反応温度によって制御される(McKenzie他、Protein Chem.7:581〜592頁(1988年))。
【0404】
ハロゲン化アルキル部分およびアミノ反応性のp−ニトロフェニルエステル部分を有するヘテロ2官能性試薬の好ましい非限定的な例としては、p−ニトロフェニルヨードアセタート(NPIA)が挙げられる。
【0405】
他の架橋剤は、当業者には公知である。例えば、Pomato他、米国特許第5965106号を参照のこと。個々の用途に対して適切な架橋剤を選択することは、当業者の能力の範囲内である。
【0406】
v.切断可能なリンカー基
さらに別の実施形態では、リンカー基は、切断されて糖残基から修飾基を遊離することができる基とともに提供される。多くの切断可能な基が当技術分野では公知である。例えば、Jung他、Biochem.Biophys.Acta761:152〜162頁(1983年)、Joshi他、J.Biol.Chem.265:14518〜14525頁(1990年)、Zarling他、J.Immunol.124:913〜920頁(1980年)、Bouizar他、Eur.J.Biochem.155:141〜147頁(1986年)、Park他、J.Biol.Chem.261:205〜210頁(1986年)、Browning他、J.Immunol.143:1859〜1867頁(1989年)を参照のこと。さらに広範囲にわたる切断可能な2官能性(ホモ2官能性およびヘテロ2官能性の双方)リンカー基が、Pierce社などの製造業者から市販されている。
【0407】
例示的な切断可能部分は、光、熱、またはチオール、ヒドロキシルアミン、塩基、過ヨウ素酸塩などの試薬を用いて切断することができる。さらに、いくつかの好ましい基は、エンドサイトーシスが行われるのに応じてin vivoで切断される(例えば、cis−アコニチル。Shen他、Biochem.Biophys.Res.Commun.102:1048頁(1991年)を参照のこと)。好ましい切断可能な基は、ジスルフィド、エステル、イミド、カルボナート、ニトロベンジル、フェナシル、およびベンゾイン基からなる基から選択されるメンバーである切断可能な部分を含む。
【0408】
修飾された糖のペプチドへの結合
修飾された糖は、結合を媒介する適切な酵素によって、グリコシル化ペプチドまたは非グリコシル化ペプチドに結合される。修飾された糖供与体、酵素、受容体ペプチドの濃度は、受容体が使い尽くされるまでグリコシル化が進行するように選択されることが好ましい。以下に論じる考察はシアリルトランスフェラーゼの場合で説明するが、通常、他のグリコシルトランスフェラーゼ反応に適用可能である。
【0409】
グリコシルトランスフェラーゼを用いて所望のオリゴ糖構造体を合成するいくつかの方法が公知であり、通常、本発明に適用可能である。例示的な方法は、例えば、WO96/32491号、Ito他、Pure Appl.Chem.65:753頁(1993年)、米国特許第5352670号、米国特許第5374541号、米国特許第5545553号で記載されている。
【0410】
本発明は、単一のグリコシルトランスフェラーゼまたは複数のグリコシルトランスフェラーゼの組合せ物を用いて実施される。例えば、シアリルトランスフェラーゼおよびガラクトシルトランスフェラーゼの組合せ物を使用することができる。複数の酵素を使用する実施形態では、酵素および基質が、好ましくは最初の反応混合物中で混合され、あるいは、第2の酵素反応用の酵素および試薬が、最初の酵素反応が完了またはほぼ完了した後に反応媒体に添加される。1つの容器中で2種の酵素反応を順に実施することによって、中間種を単離する手順よりも全収率が改善される。さらに、余分な溶媒および副産物の洗浄および廃棄が軽減される。
【0411】
別の実施形態では、第1および第2の酵素はそれぞれグリコシルトランスフェラーゼである。追加の実施形態では、1つの酵素はエンドグリコシダーゼである。追加の実施形態では、2つより多い酵素を使用して本発明の修飾された糖タンパク質を構築する。これらの酵素は、修飾された糖をペプチドに付加する前または後の任意の時点にペプチド上の糖構造体を改変するのに使用される。
【0412】
本発明のコンジュゲートのO結合型グリコシル部分は、一般に、ペプチドに結合しているGalNAc部分に由来する。GalNAcトランスフェラーゼのファミリーの任意のメンバーを用いて、GalNAc部分をペプチドに結合させることができる(Hassan H、Bennett EP、Mandel U、Hollingsworth MA、およびClausen H(2000年)、Control of Mucin−Type O−Glycosylation:O−Glycan Occupancy is Directed by Substrate Specificities of Polypeptide GalNAc−Transferases(Ernst、HartおよびSinay編)Wiley−VCH 章「Carbohydrates in Chemistry and Biology−a Comprehension Handbook」、273〜292頁)。GalNAc部分それ自体が完全なグリコシルリンカーになり得る。あるいは、1種または複数の酵素およびその酵素に対する1種または複数の適切なグリコシル基質を用いて、サッカリル残基を付け足し、付け足されたグリコシル部分に修飾された糖を付加する。
【0413】
別の実施形態では、この方法は、1種または複数のエキソグリコシダーゼまたはエンドグリコシダーゼを利用する。グリコシダーゼは、通常、グリコシル結合を切断するのではなく形成させるように改変された変異体である。変異体グリカナーゼは、通常、活性部位の酸性アミノ酸残基をあるアミノ酸残基で置換されている。例えば、エンドグリカナーゼがエンド−Hであるとき、置換される活性部位残基は、通常、130位のAsp、132位のGlu、またはそれらの組合せである。これらのアミノ酸は、通常、セリン、アラニン、アスパラギン、またはグルタミンで置換される。
【0414】
変異体酵素は、通常、エンドグリカナーゼ加水分解ステップの逆反応に類似した合成ステップによって、反応を触媒する。これらの実施形態では、グリコシル供与体分子(例えば、所望のオリゴ糖構造体または単糖構造体)は脱離基を含み、反応は、タンパク質上のGlcNAc残基への供与体分子の付加とともに進行する。例えば、脱離基は、フルオリドなどのハロゲンでよい。別の実施形態では、脱離基は、Asn、またはAsn−ペプチド部分である。さらに別の実施形態では、グリコシル供与体分子上のGlcNAc残基が修飾される。例えば、GlcNAc残基は、1,2オキサゾリン部分を含んでよい。
【0415】
別の実施形態では、本発明のコンジュゲートを作製するのに利用される各酵素は、触媒量で存在している。個々の酵素の触媒量は、その酵素の基質の濃度、ならびに温度、時間、pH値などの反応条件に応じて変動する。予め選択された基質濃度および反応条件における所与の酵素の触媒量を決定するための手段は、当業者には周知である。
【0416】
上記の方法が実施される温度は、氷点をちょうど上回る温度から最も敏感な酵素が変性する温度までの範囲をとり得る。好ましい温度範囲は、約0℃〜約55℃、より好ましくは約20℃〜約30℃である。別の例示的な実施形態では、本発明の方法の1つまたは複数の構成要素が、好熱性酵素を用いて高温で実施される。
【0417】
受容体がグリコシル化されるのに十分な期間、反応混合物を維持し、それによって、所望のコンジュゲートを形成させる。多くの場合、コンジュゲートの一部を数時間後に検出することができ、回収可能な量が通常24時間以内に得られる。反応速度は、選択された系に対して最適化されるいくつかの変動要因(例えば、酵素濃度、供与体濃度、受容体濃度、温度、溶媒体積)に依存していることが、当業者には理解される。
【0418】
本発明は、修飾ペプチドの工業規模の作製も提供する。本明細書では、工業規模では、通常、少なくとも約250mg、好ましくは少なくとも約500mg、より好ましくは少なくとも1グラムの完成され精製されたコンジュゲートを作製する。その際、1回の反応サイクルの後であること、すなわち、コンジュゲートは、連続的に反復された同一の合成サイクルから得られた反応生成物の組合せ物ではないことが好ましい。
【0419】
以下の考察において、本発明は、グリコシル化ペプチドへの修飾されたシアル酸部分の結合によって例示される。例示的な修飾されたシアル酸は、(m−)PEGで標識される。PEG修飾されたシアル酸およびグリコシル化ペプチドの使用に関する以下の考察の焦点は、例示を明確にするためのものであり、本発明がこれら2つのパートナーの結合に限定されることを意味するためのものではない。以下の考察は通常、シアル酸以外の修飾されたグリコシル部分の付加に適用可能であることが、当業者には理解される。さらに、以下の考察は、他の水溶性ポリマー、治療効果を有する部分、および生体分子を含めて、PEG以外の作用物質によるグリコシル単位の修飾にも同様に適用可能である。
【0420】
(m−)PEG化または(m−)PPG化された糖をペプチドまたは糖ペプチド上に選択的に導入するために、酵素的手法を使用することができる。この方法は、PEG、PPG、またはマスクされた反応性官能基を含む修飾された糖を利用し、また、適切なグリコシルトランスフェラーゼまたはグリコシンターゼと併用される。所望の糖結合を作ると考えられるグリコシルトランスフェラーゼを選択し、修飾された糖を供与体基質として利用することによって、ペプチド主鎖、糖ペプチドの既存の糖残基、またはペプチドに付加された糖残基上に直接PEGまたはPPGを導入することができる。
【0421】
シアリルトランスフェラーゼの受容体は、本発明の方法によって修飾しようとするペプチド上に、天然の構造体として、または組換えにより、酵素的に、もしくは化学的にそこに配置されたものとして存在する。適切な受容体としては、例えば、GalNAc、Galβ1,4GlcNAc、Galβ1,4GalNAc、Galβ1,3GalNAc、ラクト−N−テトラオース、Galβ1,3GlcNAc、Galβ1,3Ara、Galβ1,6GlcNAc、Galβ1,4Glc(ラクトース)、および当業者に公知の他の受容体などのガラクトシル受容体が挙げられる(例えば、Paulson他、J.Biol.Chem.253:5617〜5624頁(1978年)を参照のこと)。
【0422】
一実施形態では、シアリルトランスフェラーゼの受容体は、糖ペプチドのin vivo合成の際に修飾される糖ペプチド上に存在する。特許請求の範囲の方法によって、糖ペプチドのグリコシル化パターンを前もって変えずに、これらの糖ペプチドにシアル酸付加することができる。あるいは、本発明の方法を使用して、適切な受容体を含まないペプチドにシアル酸付加をすることもできる。その際、当業者に公知の方法によって、最初にペプチドを修飾して受容体を含むようにする。例示的な実施形態では、GalNAcトランスフェラーゼの作用によって、O結合型グリコシル化部位にGalNAc残基を付加する。Hassan H、Bennett EP、Mandel U、Hollingsworth MA、およびClausen H(2000年)、Control of Mucin−Type O−Glycosylation:O−Glycan Occupancy is Directed by Substrate Specificities of Polypeptide GalNAc−Transferases(Ernst、HartおよびSinay編)Wiley−VCH 章「Carbohydrates in Chemistry and Biology−a Comprehension Handbook」、273〜292頁。
【0423】
例示的な実施形態では、ペプチドに結合している適切な受容体、例えば、GalNAcにガラクトース残基を結合させることによって、ガラクトシル受容体を構築する。この方法は、修飾しようとするペプチドを、適切な量のガラクトシルトランスフェラーゼ(例えば、Galβ1,3またはGalβ1,4)と適切なガラクトシル供与体(例えばUDP−ガラクトース)とを含有する反応混合物とともにインキュベートすることを含む。反応は、ほぼ完了するまで進行させ、あるいは、予め設定した量のガラトース残基が付加された時点で終結させる。選択された糖受容体を構築する他の方法は、当業者には明らかであろう。
【0424】
さらに別の実施形態では、糖ペプチドが結合したオリゴ糖の全体または一部分を最初に「トリミング」し、シアリルトランスフェラーゼの受容体、または適切な受容体を得るために1つもしくは複数の適切な残基を付加させることができる部分を露出させる。グリコシルトランスフェラーゼやエンドグリコシダーゼなどの酵素(例えば、米国特許第5716812号を参照のこと)は、結合反応およびトリミング反応に有用である。
【0425】
以下の考察において、本発明の方法は、水溶性ポリマーが結合している修飾された糖を用いて例示される。考察の焦点は、例示を明確にするためのものである。以下の考察は、修飾された糖が治療効果を有する部分や生体分子などを有している実施形態にも同様に該当することが、当業者には理解されよう。
【0426】
例示的な実施形態では、O結合型糖残基は、修飾された糖を付加する前に「トリミング」される。例えば、GalNAc−Gal残基はトリミングされてGalNAcになる。水溶性ポリマーを有する修飾された糖が、「トリミング」によって露出された糖残基のうちの1つまたは複数に結合される。一実施例では、糖ペプチドが「トリミング」され、水溶性ポリマーは、生じたO側鎖のアミノ酸または糖ペプチドグリカンに、水溶性ポリマーに結合しているサッカリル部分、例えば、Sia、Gal、またはGalNAc部分を介して付加される。修飾されたサッカリル部分は、「トリミングされた」糖ペプチド上の受容体部位に結合される。あるいは、未修飾のサッカリル部分、例えば、GalをO結合型グリカンの末端に付加させることもできる。
【0427】
別の例示的な実施形態では、水溶性ポリマーは、ガラクトース残基を有する修飾された糖を介して、GalNAc残基に付加される。あるいは、末端GalNAc残基に未修飾のGalを付加させることもできる。
【0428】
さらに別の実施例では、修飾されたシアル酸を用いて、Gal残基に水溶性ポリマーを付加させる。
【0429】
別の例示的な実施形態では、O結合型グリコシル残基が「トリミング」されて、アミノ酸に結合したGalNAcを生じる。一実施例では、水溶性ポリマーは、ポリマーで修飾されたGalを介して付加される。あるいは、未修飾のGalが、GalNAc、次いで水溶性ポリマーが結合したGalに付加される。さらに別の実施形態では、1つまたは複数の未修飾のGal残基が、GalNAc、次いで水溶性ポリマーで修飾されたシアル酸部分に付加される。
【0430】
前述した例示的な実施形態は、本明細書で説明する方法の権利の例示を提供する。本発明の方法によって、ほぼすべての所望の構造の糖残基を「トリミング」および構築することが可能である。修飾された糖は、前述したように糖部分の末端に付加させることもでき、あるいは、ペプチドコアと糖末端の間の介在物になることもできる。
【0431】
例示的な実施形態では、ポリマーで修飾されたシアル酸を用いて、水溶性ポリマーを末端のGal残基に付加する。適切なシアリルトランスフェラーゼを用いて、修飾されたシアル酸を付加する。この手法をスキーム5に要約する。
【0432】
【化29】
【0433】
スキーム6に要約するさらに別の手法では、マスクされた反応性官能基がシアル酸上に存在している。マスクされた反応性基は、修飾されたシアル酸をペプチドに付加するのに使用される条件によって影響されないことが好ましい。修飾されたシアル酸がペプチドに共有結合した後、マスク部分を除去し、ペプチドをPEG、PPG、治療効果を有する部分、生体分子、または他の作用物質などの作用物質と結合させる。修飾された糖残基上のマスクされていない反応性基と反応することにより、作用物質は特異的にペプチドに結合される。
【0434】
【化30】
【0435】
任意の修飾された糖を、糖ペプチドのオリゴ糖側鎖の末端糖に応じて、適切なグリコシルトランスフェラーゼとともに使用することができる(表3)。前述したように、PEG化またはPPG化構造を導入するのに必要とされる糖ペプチドの末端糖は、発現する間に自然に導入されることがあり、あるいは、適切なグリコシダーゼ、グリコシルトランスフェラーゼ、またはグリコシダーゼとグリコシルトランスフェラーゼの混合物を用いて発現後に作製することができる。
【0436】
【表2】
【0437】
代替の実施形態では、修飾された糖は、ペプチド主鎖上のO結合型グリコシル化部位に糖残基を転移させることが知られているグリコシルトランスフェラーゼによって、ペプチド主鎖に直接付加される。この例示的な実施形態をスキーム7で説明する。本発明を実施するのに有用である例示的なグリコシルトランスフェラーゼには、それだけには限らないが、GalNAcトランスフェラーゼ(GalNAc T1〜20)、GlcNAcトランスフェラーゼ、フコシルトランスフェラーゼ、グルコシルトランスフェラーゼ、キシロシルトランスフェラーゼ、マンノシルトランスフェラーゼなどが含まれる。この手法を使用することにより、任意の糖を欠くペプチド上に、あるいは、既存の糖ペプチド上に、修飾された糖を直接付加することが可能になる。いずれの場合も、修飾された糖の付加は、グリコシルトランスフェラーゼの基質特異性によって定められ、ペプチド主鎖上の特定の位置で起こり、化学的方法によるタンパク質ペプチド主鎖の修飾の最中に起こるようにランダムな方式では起こらない。ポリペプチド鎖中に適切なアミノ酸配列を人工的に作製することによって、グリコシルトランスフェラーゼ基質のペプチド配列を欠くタンパク質または糖ペプチドに、一連の作用物質を導入することができる。
【0438】
【化31】
【0439】
前述した例示的な各実施形態では、修飾された糖をペプチドに結合した後に、1種または複数の追加の化学的または酵素的修飾ステップを利用することができる。例示的な実施形態では、酵素(例えば、フコシルトランスフェラーゼ)を用いて、ペプチドに結合されている末端の修飾された糖にグリコシル単位(例えばフコース)を付加させる。別の実施例では、酵素反応を利用して、修飾された糖が結合することができなかった部位を「キャップ」(例えば、シアル酸付加)する。あるいは、化学反応を利用して、結合された修飾された糖の構造を改変する。例えば、結合された修飾された糖を、その修飾された糖が結合しているペプチド成分との結合を安定化または不安定化させる作用物質と反応させる。別の実施例では、修飾された糖の成分を、ペプチドへの結合の後に脱保護する。修飾された糖がペプチドに結合された後の段階で、本発明の方法において有用な一連の酵素的手順および化学的手順があることが、当業者には理解されよう。修飾された糖とペプチドのコンジュゲートのさらなる加工も本発明の範囲内である。
【0440】
別の例示的な実施形態では、糖ペプチドは、標的性作用物質、例えば、トランスフェリン(血液脳関門を越え、また、エンドソームへとペプチドを送達する)、カルニチン(ペプチドを筋肉細胞に送達する;例えば、LeBorgne他、Biochem.Pharmacol.59:1357〜63頁(2000年)を参照のこと)、ならびにホスホナート、例えば、ビスホスホナート(骨および他の石灰質組織にペプチドを標的化する;例えば、Modern Drug Discovery、2002年8月、10頁を参照のこと)に結合される。標的化に有用な他の作用物質は、当業者には明らかである。例えば、グルコース、グルタミン、およびIGFも、筋肉を標的とするのに有用である。
【0441】
標的性部分および治療用ペプチドは、本明細書で論じた任意の方法によって、または当技術分野公知の別の方法によって結合される。前述したものの他のペプチドも、本明細書で説明するように誘導体化できることが、当業者には理解されよう。例示的なペプチドは、本願の権利者が所有する同時係属中の2001年10月10日に出願された米国仮出願第60/328523号の付属書類において説明されている。
【0442】
例示的な実施形態では、標的性作用物質および治療用ペプチドは、リンカー部分を介して結合している。この実施形態では、治療用ペプチドまたは標的性作用物質のうちの少なくとも1つが、本発明の方法による完全なグリコシル結合基を通じてリンカー部分に結合している。例示的な実施形態では、リンカー部分は、ポリエチレングリコールなどのポリ(エーテル)を含む。別の例示的な実施形態では、リンカー部分は、in vivoで分解されて、身体の標的とされている組織または領域にそのコンジュゲートを送達した後、標的性作用物質から治療用ペプチドを放出させる少なくとも1つの結合を含む。
【0443】
さらに別の例示的な実施形態では、標的性部分に治療用ペプチドを結合させずに治療用部分上のグリコフォームを改変することによって、治療効果を有する部分のin vivoでの分布を変える。例えば、グリコシル基の末端ガラクトース部分をシアル酸(またはその誘導体)でキャップすることによって、細網内皮系による取込みから、治療用ペプチドを回避させることができる。
【0444】
i.酵素
1.グリコシルトランスフェラーゼ
グリコシルトランスフェラーゼは、タンパク質、糖ペプチド、脂質もしくは糖脂質、または、伸長中のオリゴ糖の非還元末端に、活性化された糖(供与体のNDP−糖)を段階的に付加する反応を触媒する。N−結合型糖ペプチドは、トランスフェラーゼおよび脂質結合型オリゴ糖供与体Dol−PP−NAG
2Glc
3Man
9によって、ひとまとめの転移とそれに続くコアのトリミングによって合成される。この場合、「コア」の糖の性質は、後続の付加物とはいくらか異なる。非常に多くのグリコシルトランスフェラーゼが、当技術分野では公知である。
【0445】
本発明で使用するグリコシルトランスフェラーゼは、修飾された糖を糖供与体として利用することができる限り、どれでもよい。このような酵素の例には、ガラクトシルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、フコシルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ、マンノシルトランスフェラーゼ、キシロシルトランスフェラーゼ、グルクロノニルトランスフェラーゼ(glucurononyltransferase)などルロワール経路のグリコシルトランスフェラーゼが含まれる。
【0446】
グリコシルトランスフェラーゼ反応を使用する酵素的糖合成のために、グリコシルトランスフェラーゼをクローン化し、または、任意の供給源から単離することができる。多くのクローン化グリコシルトランスフェラーゼが公知であり、それらのポリヌクレオチド配列が知られている。例えば、「The WWW Guide To Cloned Glycosyltransferases」(http://www.vei.co.uk/TGN/gt_guide.htm)を参照のこと。グリコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列、およびアミノ酸配列をそれから推測できる、グリコシルトランスフェラーゼをコードしているヌクレオチド配列は、Genbank、Swiss−Prot、EMBL、およびその他のものを含めて、公的に入手可能な様々なデータベースにある。
【0447】
本発明の方法で使用できるグリコシルトランスフェラーゼとしては、それだけには限らないが、ガラクトシルトランスフェラーゼ、フコシルトランスフェラーゼ、グルコシルトランスフェラーゼ、N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、グルクロニルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ、マンノシルトランスフェラーゼ、グルクロン酸トランスフェラーゼ、ガラクツロン酸トランスフェラーゼ、およびオリゴサッカリルトランスフェラーゼが挙げられる。適切なグリコシルトランスフェラーゼとしては、真核生物、ならびに原核生物から得られるものが挙げられる。
【0448】
グリコシルトランスフェラーゼをコードしているDNAは、化学合成によって、適切な細胞もしくは細胞系統培養物に由来するmRNAの逆転写物のスクリーニングによって、適切な細胞に由来するゲノムライブラリーのスクリーニングによって、または、これらの手順の組合せによって、得ることができる。mRNAまたはゲノムDNAのスクリーニングは、グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子配列から作製したオリゴヌクレオチドプローブを用いて実施することができる。プローブは、公知の手順に従って、蛍光基、放射性原子、または化学発光基などの検出可能な基で標識し、従来のハイブリダイゼーションアッセイで使用することができる。代替方法では、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)手順により、グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子配列から作製されるPCRオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、グリコシルトランスフェラーゼの遺伝子配列を得ることができる。Mullis他、米国特許第4683195号、およびMullis他、米国特許第4683202号を参照のこと。
【0449】
グリコシルトランスフェラーゼ酵素をコードしているDNAを含むベクターで形質転換させた宿主細胞中で、グリコシルトランスフェラーゼを合成することができる。ベクターを用いて、グリコシルトランスフェラーゼ酵素をコードしているDNAを増幅させ、かつ/または、グリコシルトランスフェラーゼ酵素をコードしているDNAを発現させる。発現ベクターは、グリコシルトランスフェラーゼ酵素をコードしているDNA配列が、適切な宿主中でグリコシルトランスフェラーゼ酵素の発現をもたらすことができる適切な制御配列に作動可能に連結している、複製可能なDNA構築体である。このような制御配列の必要性は、選択される宿主および選択される形質転換方法によって変わると考えられる。通常、制御配列は、転写プロモーター、転写を制御するための任意選択のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の終結を制御する配列を含む。増幅ベクターは、発現制御ドメインを必要としない。必要とされるのは、複製起点によって通常与えられる、宿主中で複製する能力と、形質転換体の認識を容易にするための選択遺伝子のみである。
【0450】
例示的な実施形態では、本発明は、原核生物の酵素を利用する。このようなグリコシルトランスフェラーゼとしては、多くのグラム陰性細菌によって産生される、リポオリゴ糖(LOS)の合成に関与する酵素が挙げられる(Preston他、Critical Reviews in Microbiology23(3):139〜180頁(1996年))。このような酵素には、それだけには限らないが、大腸菌やネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)などの種のrfaオペロンのタンパク質が含まれ、β1,6ガラクトシルトランスフェラーゼおよびβ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ(例えば、EMBLアクセッション番号M80599およびM86935(大腸菌);EMBLアクセッション番号S56361(ネズミチフス菌)、グルコシルトランスフェラーゼ(Swiss−Protアクセッション番号P25740(大腸菌)、β1,2−グルコシルトランスフェラーゼ(rfaJ)(Swiss−Protアクセッション番号P27129(大腸菌)およびSwiss−Protアクセッション番号P19817(ネズミチフス菌))、ならびにβ1,2−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(rfaK)(EMBLアクセッション番号U00039(大腸菌)が挙げられる。アミノ酸配列が公知である他のグリコシルトランスフェラーゼとしては、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、大腸菌、ネズミチフス菌、サルモネラエンテリカ(Salmonella enterica)、腸炎エルシニア(Yersinia enterocolitica)、らい菌(Mycobacterium leprosum)などの生物で特徴付けられているrfaBや緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のrh1オペロンなどのオペロンによってコードされているものが挙げられる。
【0451】
ラクト−N−ネオテトラオース、D−ガラクトシル−β−1,4−N−アセチル−D−グルコサミニル−β−1,3−D−ガラクトシル−β−1、4−D−グルコース、ならびに、粘膜病原菌の淋菌(Neisseria gonnorhoeae)および髄膜炎菌(N.meningitidis)のLOS中で同定されたP
k血液型の3糖配列、D−ガラクトシル−α−1,4−D−ガラクトシル−β−1,4−D−グルコース(Scholten他、J.Med.Microbiol.41:236〜243頁(1994年))を含む構造体を作るのに関与しているグリコシルトランスフェラーゼも本発明で使用するのに適している。これらの構造体の生合成に関与しているグリコシルトランスフェラーゼをコードしている、髄膜炎菌および淋菌由来の遺伝子は、髄膜炎菌の免疫型L3およびL1(Jennings他、Mol.Microbiol.18:729〜740頁(1995年))ならびに淋菌変異体F62(Gotshlich、J.Exp.Med.180:2181〜2190頁(1994年))から同定されている。髄膜炎菌では、3種の遺伝子、lgtA、lgtB、およびlgEからなる部位が、ラクト−N−ネオテトラオース鎖中の糖の最後の3つを付加するのに必要なグリコシルトランスフェラーゼ酵素をコードしている(Wakarchuk他、J.Biol.Chem.271:19166〜73頁(1996年))。最近、lgtBおよびlgtA遺伝子産物の酵素活性が実証され、提唱されているそれらのグリコシルトランスフェラーゼ機能に関して初めて直接的な証拠が提供された(Wakarchuk他、J.Biol.Chem.271(45):28271〜276頁(1996年))。淋菌では、2種の追加の遺伝子、すなわち、β−D−GalNAcをラクト−N−ネオテトラオース構造体の末端ガラクトースの3位に付加するlgtDと、切り縮められたLOSのラクトース成分に末端α−D−Galを付加し、それによって、P
k血液型の抗原構造を作り出すlgtCがある(Gotshlich(1994年)、前掲書)。髄膜炎菌では、分離した免疫型L1も、P
k血液型抗原を発現し、また、lgtC遺伝子を有することが示されている(Jennings他、(1995年)、前掲書)。ナイセリア(Neisseria)のグリコシルトランスフェラーゼおよび関連遺伝子は、米国特許第5545553号(Gotschlich)でも記載されている。ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)に由来するα1,2−フコシルトランスフェラーゼおよびα1,3−フコシルトランスフェラーゼの遺伝子も、特徴付けられている(Martin他、J.Biol.Chem.272:21349〜21356頁(1997年))。また、カンピロバクタージェジュニ(Campylobacter jejuni)のグリコシルトランスフェラーゼも本発明において有用である(例えば、http://afmb.cnrs−mrs.fr/〜pedro/CAZY/gtf_42.htmlを参照のこと)。
【0452】
a)フコシルトランスフェラーゼ
いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用するグリコシルトランスフェラーゼは、フコシルトランスフェラーゼである。フコシルトランスフェラーゼは、当業者には公知である。例示的なフコシルトランスフェラーゼとしては、L−フコースをGDP−フコースから受容体糖のヒドロキシ位置に転移させる酵素が挙げられる。ヌクレオチドを含まない糖を受容体に転移させるフコシルトランスフェラーゼも、本発明において有用である。
【0453】
いくつかの実施形態では、受容体糖は、例えば、オリゴ糖グリコシド中のGalβ(1→3,4)GlcNAcβ基のGlcNAcである。この反応に適したフコシルトランスフェラーゼとしては、ヒトの乳から最初に特徴を明らかにされたGalβ(1→3,4)GlcNAcβ1−α(1→3,4)フコシルトランスフェラーゼ(FTIII E.C.No.2.4.1.65)(Palcic他、Carbohydrate Res.190:1〜11頁(1989年);Prieels他、J.Biol.Chem.256:10456〜10463頁(1981年)、およびNunez他、Can.J.Chem.59:2086〜2095頁(1981年)を参照のこと)、ならびにヒト血清中に存在するGalβ(1→4)GlcNAcβ−αフコシルトランスフェラーゼ(FTIV、FTV、FTVI)が挙げられる。FTVII(E.C.No.2.4.1.65)、すなわちシアリルα(2→3)Galβ(1→3)GlcNAcβフコシルトランスフェラーゼも特徴を明らかにされている。Galβ(1→3,4)GlcNAcβ−α(1→3,4)フコシルトランスフェラーゼの組換型も特徴を明らかにされている(Dumas他、Bioorg.Med.Letters 1:425〜428頁(1991年)、およびKukowska−Latallo他、Genes and Development 4:1288〜1303頁(1990年)を参照のこと)。他の例示的なフコシルトランスフェラーゼとしては、例えば、α1,2フコシルトランスフェラーゼ(E.C.No.2.4.1.69)が挙げられる。Mollicone他、Eur.J.Biochem.191:169〜176頁(1990年)または米国特許第5374655号で記載されている方法によって、酵素的フコシル化を実施することができる。フコシルトランスフェラーゼを得るのに使用される細胞は、GDP−フコースを合成するための酵素系も含むと考えられる。
【0454】
b)ガラクトシルトランスフェラーゼ
実施形態の別の群では、グリコシルトランスフェラーゼは、ガラクトシルトランスフェラーゼである。例示的なガラクトシルトランスフェラーゼとしては、α(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼが挙げられる(E.C.No.2.4.1.151、例えば、Dabkowski他、Transplant Proc.25:2921(1993年)およびYamamoto他、Nature 345:229〜233頁(1990年)を参照のこと。ウシ由来(Genbank j04989、Joziasse他、J.Biol.Chem.264:14290〜14297頁(1989年))、マウス由来(GenBank m26925;Larsen他、Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA86:8227〜8231頁(1989年))、ブタ由来(GenBank L36152;Strahan他、Immunogenetics 41:101〜105頁(1995年))。他の適切なα(1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼは、B血液型抗原の合成に関与しているものである(EC2.4.1.37、Yamamoto他、J.Biol.Chem.265:1146〜1151頁(1990年)(ヒト))。さらに別の例示的なガラクトシルトランスフェラーゼは、コアGal−T1である。
【0455】
β(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼも本発明の方法で使用するのに適しており、例えば、EC2.4.1.90(LacNAcシンテターゼ)およびEC2.4.1.22(ラクトースシンテターゼ)(ウシ由来(D’Agostaro他、Eur.J.Biochem.183:211〜217頁(1989年))、ヒト由来(Masri他、Biochem.Biophys.Res.Commun.157:657〜663頁(1988年))、マウス由来(Nakazawa他、J.Biochem.104:165〜168頁(1988年))、ならびにE.C.2.4.1.38およびセラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.45、Stahl他、J.Neurosci Res.38:234〜242頁(1994年))が挙げられる。他の適切なガラクトシルトランスフェラーゼとしては、例えば、α1,2ガラクトシルトランスフェラーゼ(例えば、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)由来のもの、Chapell他、Mol.Biol.Cell 5:519〜528頁(1994年))が挙げられる。
【0456】
Cho,S.K.およびCummings,R.D.(1997年)J.Biol.Chem.、272、13622〜13628頁によって報告されているものなどα1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼの可溶型も、本発明を実施するうえで適切である。
【0457】
c)シアリルトランスフェラーゼ
シアリルトランスフェラーゼは、組換え細胞および本発明の反応混合物において有用な別のタイプのグリコシルトランスフェラーゼである。組換型シアリルトランスフェラーゼを産生する細胞は、シアリルトランスフェラーゼに対するシアル酸供与体であるCMP−シアル酸も産生すると考えられる。発明で使用するのに適したシアリルトランスフェラーゼの例としては、ST3Gal III(例えば、ラットまたはヒトのST3Gal III)、ST3Gal IV、ST3Gal I、ST6Gal I、ST3Gal V、ST6Gal II、ST6GalNAc I、ST6GalNAc II、およびST6Gal NAc IIIが挙げられる(本明細書で使用するシアリルトランスフェラーゼの命名法は、Tsuji他、Glycobiology6:5〜14頁(1996年)で記載されているものである)。α(2,3)シアリルトランスフェラーゼ(EC2.4.99.6)と呼ばれる例示的なα(2,3)シアリルトランスフェラーゼは、2糖Galβ1→3Glcの非還元末端Galまたはグリコシドにシアル酸を転移させる。Van den Eijnden他、J.Biol.Chem.256:3159頁(1981年)、Weinstein他、J.Biol.Chem.257:13845頁(1982年)、およびWen他、J.Biol.Chem.267:21011頁(1992年)を参照のこと。別の例示的なα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(EC 2.4.99.4)は、2糖の非還元末端Galまたはグリコシドにシアル酸を転移させる。Rearick他、J.Biol.Chem.254:4444頁(1979年)およびGillespie他、J.Biol.Chem.267:21004頁(1992年)を参照のこと。別の例示的な酵素としては、Gal−β−1,4−GlcNAc α−2,6シアリルトランスフェラーゼが挙げられる(Kurosawa他、Eur.J.Biochem.219:375〜381頁(1994年)を参照のこと)。
【0458】
好ましくは、糖ペプチドの糖をグリコシル化する場合、シアリルトランスフェラーゼは、完全にシアル酸付加された糖構造体上で末端シアル酸の土台となる最も一般的な末端から2番目の配列であるGalβ1,4GlcNAc配列にシアル酸を転移させることができると考えられる(表5を参照のこと)。
【0459】
【表3】
【0460】
特許請求の範囲の方法で有用なシアリルトランスフェラーゼの例は、α(2,3)シアリルトランスフェラーゼ(EC2.4.99.6)とも呼ばれるST3Gal IIIである。この酵素は、Galβ1,3GlcNAcまたはGalβ1,4GlcNAcグリコシドのGalへのシアル酸の転移を触媒し(例えば、Wen他、J.Biol.Chem.267:21011頁(1992年)、Van den Eijnden他、J:Biol.Chem.256:3159頁(1991年))を参照のこと)、糖ペプチド中のアスパラギン結合型オリゴ糖のシアル酸付加を司っている。シアル酸は、Galに結合し、2つの糖の間にα結合が形成される。これらの糖の間の結合形成(結合)は、NeuAcの2位とGalの3位の間にある。この特定の酵素は、ラットの肝臓から単離することができる(Weinstein他、J.Biol.Chem.257:13845頁(1982年))。ヒトcDNA(Sasaki他、(1993年)J.Biol.Chem.268:22782〜22787頁;Kitagawa&Paulson(1994年)J.Biol.Chem.269:1394〜1401頁(1993年)およびゲノム(Kitagawa他、(1996年)J.Biol.Chem.271:931〜938頁)DNA配列が公知であり、組換え発現によってこの酵素を作製することを容易にしている。別の実施形態では、特許請求の範囲のシアル酸付加の方法は、ラットST3Gal IIIを使用する。
【0461】
本発明において有用な他の例示的なシアリルトランスフェラーゼとして、α(2,3)を含めて、カンピロバクタージェジュニから単離されるものが挙げられる。例えば、WO99/49051号を参照のこと。
【0462】
表5に記載したもの以外のシアリルトランスフェラーゼも、商業的に重要な糖ペプチドにシアル酸付加するための経済的かつ効率的な大規模プロセスにおいて有用である。これら他の酵素の有用性を調べるための簡単な試験として、様々な量の各酵素(1〜100mU/mgタンパク質)を、(1〜10mg/mlで)アシアロ−α
1AGPと反応させて、問題のシアリルトランスフェラーゼが糖ペプチドにシアル酸付加する能力を、ウシのST6Gal I、ST3Gal III、または両方のシアリルトランスフェラーゼに対して比較する。あるいは、他の糖ペプチドもしくは糖ペプチド、または、ペプチド主鎖から酵素的に遊離されたN−結合型オリゴ糖を、アシアロ−α
1AGPの代わりにこの評価に使用することができる。(本開示においてST3Gal IIIに関して例示するように)ST6Gal Iより効率的に糖ペプチドのN−結合型オリゴ糖にシアル酸付加する能力を有するシアリルトランスフェラーゼは、ペプチドにシアル酸付加するための実用的な大規模プロセスにおいて有用である。他の例示的なシアリルトランスフェラーゼは、
図10に示す。
【0463】
d)GalNAcトランスフェラーゼ
N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼは、本発明を実施する際、特に、ペプチドのO−結合型グリコシル化部位のアミノ酸にGalNAc部分を結合させるのに有用である。適切なN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼとしては、それだけには限らないが、α(1,3)N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、β(1,4)N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(Nagata他、J.Biol.Chem.267:12082〜12089頁(1992年)およびSmith他、J.Biol Chem.269:15162頁(1994年))、ならびにポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(Homa他、J.Biol.Chem.268:12609頁(1993年))が挙げられる。
【0464】
遺伝子工学によって、クローン化された遺伝子から酵素GalNAc T
I〜XXなどのタンパク質を作製することは周知である。例えば、米国特許第4761371号を参照のこと。1つの方法は、十分なサンプルを収集し、次に、N末端配列決定によって酵素のアミノ酸配列を決定する。次に、この情報を用いて、昆虫細胞系統Sf9で発現されると十分に活性な酵素の合成をもたらした、完全長の(膜結合型)トランスフェラーゼをコードしているcDNAクローンを単離する。次に、16種の異なるタンパク質の公知のグリコシル化部位の周囲のアミノ酸を半定量的に解析し、続いて、in vitroで合成ペプチドのグリコシル化を調査することによって、その酵素の受容体特異性を決定する。この研究は、いくつかのアミノ酸残基がグリコシル化ペプチド部分で過剰であること、およびグリコシル化されたセリンおよびトレオニン残基の周囲の特定の位置の残基が、他のアミノ酸部分よりも受容体の効率に対してより著しい影響を及ぼし得ることを実証した。
【0465】
2.スルホトランスフェラーゼ
本発明は、例えば、ヘパリン、ヘパラン硫酸、カラゲネン(carragenen)、および関連化合物などの硫酸化多糖を含めて、硫酸化分子を含むペプチドを作製するための方法も提供する。適切なスルホトランスフェラーゼとしては、例えば、コンドロイチン−6−スルホトランスフェラーゼ(Fukuta他、J.Biol.Chem.270:18575〜18580頁(1995年)によって記載されているニワトリcDNA;GenBankアクセッション番号D49915)、グリコサミノグリカンN−アセチルグルコサミンN−デアセチラーゼ/N−スルホトランスフェラーゼ1(Dixon他、Genomics 26:239〜241頁(1995年);UL18918)、ならびにグリコサミノグリカンN−アセチルグルコサミンN−デアセチラーゼ/N−スルホトランスフェラーゼ2(Orellana他、J.Biol.Chem.269:2270〜2276頁(1994年)およびEriksson他、J.Biol.Chem.269:10438〜10443頁(1994年)で記載されているマウスcDNA;GenBankアクセッション番号U2304で記載されているヒトcDNA)が挙げられる。
【0466】
3.細胞結合型グリコシルトランスフェラーゼ
別の実施形態では、本発明の方法で使用される酵素は、細胞結合型グリコシルトランスフェラーゼである。多くの可溶性グリコシルトランスフェラーゼが公知であるが(例えば、米国特許第5032519号を参照のこと)、グリコシルトランスフェラーゼは一般に、細胞と結合するとき、膜結合型である。これまで研究されている膜結合型酵素の多くは、内因性のタンパク質とみなされている。すなわち、それらは、超音波処理によっては膜から遊離されず、可溶化するために界面活性剤を必要とする。表面型のグリコシルトランスフェラーゼが、脊椎動物細胞および無脊椎動物細胞の表面で確認されており、これらの表面型トランスフェラーゼは生理的条件下で触媒活性を維持することも認識されている。しかし、細胞表面型グリコシルトランスフェラーゼのより知られている機能は、細胞間認識のためのものである(Roth、MOLECULAR APPROACHES to SUPRACELLULAR PHENOMENA、1990年)。
【0467】
細胞によって発現されるグリコシルトランスフェラーゼを改変するための方法が開発されている。例えば、Larsen他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:8227〜8231頁(1989年)は、細胞表面のオリゴ糖構造体およびそれらの同起源のグリコシルトランスフェラーゼの発現を決定するクローン化cDNA配列を単離するための遺伝的手法を報告している。UDP−ガラクトースおよびβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα−1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼを発現することが知られているマウス細胞系統から単離したmRNAから作製したcDNAライブラリーを、COS−1細胞にトランスフェクトした。次いで、トランスフェクトされた細胞を培養し、α1−3ガラクトシルトランスフェラーゼ活性について解析した。
【0468】
Francisco他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:2713〜2717頁(1992年)は、β−ラクタマーゼを大腸菌の外表面に固着する方法を開示している。(i)外膜タンパク質のシグナル配列、(ii)外膜タンパク質の膜貫通部分、および(iii)完全に発達したβ−ラクタマーゼ配列からなる3種間の融合物が作製されて、活性な表面結合型β−ラクタマーゼ分子を生じる。しかし、Franciscoの方法は、原核細胞系のみに限定されており、著者が認識しているように、適切に機能するためには3種間の完全な融合が必要とされる。
【0469】
4.融合タンパク質
他の例示的な実施形態では、本発明の方法は、所望の糖ペプチドコンジュゲートの合成に関与している複数の酵素活性を有する融合タンパク質を利用する。融合ポリペプチドは、例えば、補助酵素の触媒活性ドメインに結合しているグリコシルトランスフェラーゼの触媒活性ドメインから構成されるものでよい。補助酵素の触媒ドメインは、例えば、グリコシルトランスフェラーゼのための供与体であるヌクレオチド糖を形成するステップを触媒することができ、または、グリコシルトランスフェラーゼサイクルに関与している反応を触媒することができる。例えば、グリコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを、ヌクレオチド糖合成に関与している酵素をコードするポリヌクレオチドにインフレームで結合させることができる。得られた融合タンパク質は、次に、ヌクレオチド糖の合成だけでなく、受容体分子への糖部分の転移も触媒することができる。融合タンパク質は、1つの発現可能なヌクレオチド配列に結合された2種以上のサイクル酵素になることができる。他の実施形態では、融合タンパク質は、2種以上のグリコシルトランスフェラーゼの触媒活性ドメインを含む。例えば、5641668を参照のこと。本発明の修飾された糖ペプチドは、様々な適切な融合タンパク質を利用することによって、容易に設計し製造することができる(例えば、1999年6月24日にWO99/31224号として公開されたPCT特許出願PCT/CA98/01180号を参照のこと)。
【0470】
5.固定化酵素
細胞結合型酵素に加えて、本発明は、固体および/または可溶性の支持体上に固定化された酵素の使用も提供する。例示的な実施形態では、本発明の方法による完全なグリコシルリンカーを介してPEGに結合されているグリコシルトランスフェラーゼが提供される。PEG−リンカー−酵素コンジュゲートは、場合によっては、固体支持体に結合されている。本発明の方法において固体に支持された酵素を使用することにより、反応混合物の精密な検査および反応生成物の精製が簡易になり、また、酵素を容易に回収することも可能になる。グリコシルトランスフェラーゼコンジュゲートは、本発明の方法で利用される。酵素および支持体の他の組合せ物は、当業者には明らかであろう。
【0471】
ペプチドコンジュゲートの精製
上記の方法で作製した生成物は、精製せずに使用することができる。しかし、通常は、生成物を回収することが好ましい。薄層もしくは厚層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、または膜ろ過など、グリコシル化された糖を回収するための標準的な周知の技術を使用することができる。以下および本明細書に引用する文献で説明されているように、より好ましくは逆浸透膜による膜ろ過、または、1種もしくは2種のカラムクロマトグラフィー法を回収のために使用することが好ましい。例えば、分子量カットオフ値が約3000〜10,000の膜による膜ろ過を用いて、グリコシルトランスフェラーゼなどのタンパク質を除去することができる。次に、ナノろ過または逆浸透法を用いて、塩類の除去および/または糖生成物の精製を行うことができる(例えば、WO98/15581号を参照のこと)。ナノフィルター膜は、使用する膜に応じて、1価の塩類を通過させるが多価の塩類および約100〜約2000ダルトンより大きい非荷電の溶質は保持する、ある種類の逆浸透膜である。したがって、典型的な適用例では、本発明の方法によって調製される糖は膜内に保持され、混入している塩は通過すると考えられる。
【0472】
修飾された糖タンパク質が細胞内で作製される場合は、第1のステップとして、粒子状の破片、すなわち、宿主細胞または溶解された断片を、例えば、遠心分離または限外ろ過によって除去する。場合によっては、市販のタンパク質濃縮フィルターを用いてタンパク質を濃縮し、続いて、イムノアフィニティークロマトグラフィー、(例えば、ジエチルアミノエチル(DEAE)、またはカルボキシメチルもしくはスルホプロピル基を含むマトリックスでの)イオン交換カラムによる分画、Blue−セファロース、CM Blue−セファロース、MONO−Q、MONO−S、レンチルレクチン−セファロース、WGA−セファロース、Con A−セファロース、エーテルトヨパール、ブチルトヨパール、フェニルトヨパール、SP−セファロース、もしくはタンパク質Aセファロース上でのクロマトグラフィー、SDS−PAGEクロマトグラフィー、シリカクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、逆相HPLC(例えば、脂肪族基を付加されたシリカゲル)、例えばセファデックスの分子ふるいもしくはサイズ排除クロマトグラフィーを用いたゲルろ過、ポリペプチドを選択的に結合するカラムでのクロマトグラフィー、およびエタノールもしくは硫酸アンモニウム沈殿から選択される1種または複数のステップによって、他の不純物からポリペプチド変異体を分離してよい。
【0473】
培養状態で作製される修飾された糖ペプチドは、通常、細胞、酵素などから最初に抽出し、続いて、1種もしくは複数の濃縮、塩析、水系イオン交換、またはサイズ排除クロマトグラフィーのステップ、例えば、SPセファロースを用いたステップを行うことによって単離される。さらに、修飾された糖タンパク質をアフィニティクロマトグラフィーによって精製してもよい。HPLCを1つまたは複数のステップ用に使用してもよい。
【0474】
タンパク分解を阻害するために、前述のステップのいずれかに、プロテアーゼ阻害剤、例えばメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を含めてよく、また、外因性の汚染菌の増殖を防止するために、抗生物質を含めてよい。
【0475】
別の実施形態では、本発明の修飾された糖ペプチドを作製する系から得た上清を、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon限外ろ過ユニットを用いて、最初に濃縮する。濃縮ステップの後、適切な精製マトリックスに濃縮物を加えてよい。例えば、適切な親和性マトリックスは、ペプチドに対するリガンド、すなわち適切な支持体に結合されたレクチンまたは抗体分子を含んでよい。あるいは、陰イオン交換樹脂、例えば、DEAE基が張り出たマトリックスまたは基材を使用してよい。適切なマトリックスとしては、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、セルロース、または、タンパク質精製で一般に使用される他のタイプのものが挙げられる。あるいは、陽イオン交換ステップを使用してもよい。適切な陽イオン交換体には、スルホプロピル基またはカルボキシメチル基を含む様々な不溶性マトリックスが含まれる。スルホプロピル基が特に好ましい。
【0476】
最後に、疎水性RP−HPLC媒体、例えばメチル基または他の脂肪族基が張り出たシリカゲルを使用する1種または複数のRP−HPLCステップを使用して、ポリペプチド変異体組成物をさらに精製してよい。前述した精製ステップのうちの一部またはすべてを様々な組合せで実施して、均質な修飾された糖タンパク質を提供することもできる。
【0477】
大規模な発酵から得られる本発明の修飾された糖ペプチドを、Urdal他、J.Chromatog.296:171頁(1984年)によって開示されているものに類似した方法によって精製してよい。この参考文献では、分取HPLCカラムで組換えヒトIL−2を精製するための2回連続したRP−HPLCステップを記載している。あるいは、アフィニティクロマトグラフィーなどの技術を利用して、修飾された糖タンパク質を精製してもよい。
【0478】
医薬組成物
本発明の方法によって様々なO結合型グリコシル化部位で修飾されたポリペプチドには、広い範囲の医薬用途がある。例えば、修飾されたエリスロポエチン(EPO)は、一般的な貧血、再生不良性貧血、化学療法により誘発された傷害(骨髄傷害など)、慢性腎不全、腎炎、およびサラセミアを治療するのに使用することができる。さらに、修飾されたEPOは、脳/脊椎障害、多発性硬化症、およびアルツハイマー病などの神経障害を治療するのにも使用することができる。
【0479】
第2の例は、AIDSおよび肝炎BまたはC、ヒトパピローマウイルス(HBV)、コロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)など様々なウイルスによって引き起こされるウイルス感染症、ヘアリー細胞白血病などの癌、AIDS関連カポジ肉腫、悪性黒色腫、濾胞性非ホジキンリンパ腫、フィラデルフィア染色体(Ph)陽性の慢性期の骨髄性白血病(CML)、腎臓癌、骨髄腫、慢性骨髄性白血病、頭部および頸部の癌、骨癌、ならびに子宮頚部異形成、および多発性硬化症など中枢神経系(CNS)の障害を治療するのに使用することができるインターフェロンα(IFN−α)である。さらに、本発明の方法によって修飾されたIFN−αは、シェーグレン症候群(自己免疫疾患)、ベーチェット病(自己免疫性炎症性疾患)、線維筋痛症(筋骨格の疼痛/疲労を伴う疾患)、アフタ性潰瘍(口内糜爛)、慢性疲労症候群、および肺線維症など他の疾患および病態の組合せを治療するのにも有用である。
【0480】
別の例は、多発性硬化症(再発寛解型または慢性進行性)などのCNS障害、AIDSおよび肝炎BまたはC、ヒトパピローマウイルス(HBV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)など様々なウイルスによって引き起こされるウイルス感染症、耳感染症、筋骨格感染症、ならびに、乳癌、脳の癌、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、頭部および頸部の癌、基底細胞癌、子宮頚部異形成、黒色腫、皮膚癌、肝臓癌を含めて、癌を治療するのに有用であるインターフェロンβである。本発明の方法によって修飾されたIFN−βは、移植拒絶(例えば、骨髄移植)、ハンチントン舞踏病、大腸炎、脳炎、肺線維症、黄斑変性症、肝硬変、角結膜炎など他の疾患および病態を治療する際にも使用される。
【0481】
顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)は、さらなる例である。本発明の方法により修飾されたG−CSFは、癌を治療するための化学療法における補助剤として使用することができ、また、一部の医療処置に関連した病態または合併症、例えば、化学療法により誘発された骨髄傷害、白血球減少症(全般的)、化学療法により誘発された発熱性好中球減少症、骨髄移植に関連した好中球減少、および重度の慢性好中球減少を予防または軽減するのに使用することができる。修飾されたG−CSFは、移植、末梢血細胞動員、骨髄破壊的化学療法または骨髄抑制性化学療法を受ける予定の患者において採取するための末梢血前駆細胞動員、ならびに、急性骨髄性白血病(AML)に対する導入/地固め治療の後の好中球減少、発熱、抗生物質使用、入院期間の低減に使用してもよい。喘息およびアレルギー性鼻炎を含めて、他の病態または障害を、修飾されたG−CSFで治療することができる。
【0482】
1つの追加の例として、本発明の方法により修飾されたヒト成長ホルモン(hGH)を、小人症、小児および成人における低身長、カヘキシー/筋衰弱、全身の筋萎縮、および性染色体異常(例えばターナー症候群)など成長に関連した病態の治療に使用することもできる。修飾されたhGHを用いて、短腸症候群、リポジストロフィー、骨粗しょう症、尿毒症(uraemaia)、火傷、女性の不妊症、骨再生、一般の糖尿病、II型糖尿病、変形性関節炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および不眠症(insomia)を含めて、他の病態を治療することもできる。さらに、様々なプロセス、例えば、全組織の再生、骨再生、および創傷治癒を促進するために、または、ワクチン補助剤として、修飾されたhGHを使用してもよい。
【0483】
したがって、本発明は、別の態様では医薬組成物を提供する。この医薬組成物は、製薬上許容される希釈剤、ならびに非天然の水溶性ポリマー、治療効果を有する部分または生体分子と、グリコシル化ペプチドまたは非グリコシル化ペプチドとの共有結合性コンジュゲートを含む。ポリマー、すなわち治療効果を有する部分または生体分子は、ペプチドとポリマー、すなわち治療効果を有する部分または生体分子の双方の間に介在し、かつそれらに共有結合している完全なグリコシル結合基を介してペプチドに結合している。
【0484】
本発明の医薬組成物は、様々な薬物送達システムで使用するのに適している。本発明で使用するのに適した製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mace Publishing Company、フィラデルフィア(Philadelphia)、ペンシルベニア州、第17版(1985年)に記載されている。薬物送達のための方法の簡潔な総説については、Langer、Science249:1527〜1533頁(1990年)を参照のこと。
【0485】
例えば、局所、経口、経鼻、静脈、頭蓋内、腹腔内、皮下、または筋肉内の投与を含めて、任意の適切な投与方法のために医薬組成物を調製することができる。皮下注射などの非経口投与の場合は、担体は、好ましくは、水、生理食塩水、アルコール、脂肪、ワックス、または緩衝液を含む。経口投与の場合は、上記の担体のうちの任意のもの、または、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース、および炭酸マグネシウムなどの固形担体を使用してよい。マイクロスフェア(例えば、ポリラクタートポリグリコラート)など生分解性のマトリックス(matrises)も、本発明の医薬組成物用の担体として使用してよい。適切な生分解性マイクロスフェアは、米国特許第4897268号および米国特許第5075109号で開示されている。
【0486】
一般に、医薬組成物は、皮下または非経口的に、例えば静脈内に投与される。したがって、本発明は、許容される担体、好ましくは水性の担体、例えば、水、緩衝水、生理食塩水、PBSなどに溶解または懸濁された化合物を含む、非経口投与用の組成物を提供する。この組成物は、Tween20やTween80などの界面活性剤、マンニトール、ソルビトール、スクロース、トレハロースなどの安定化剤、および、EDTAやm−クレゾールなどの保存剤を含んでもよい。この組成物は、pH調整剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、湿潤剤、界面活性剤など、近似的生理条件に必要な製薬上許容される補助剤を含んでよい。
【0487】
これらの組成物は、従来の滅菌技術によって滅菌してもよく、または、滅菌ろ過してもよい。得られた水性液剤は、そのまま使用するために包装しても、凍結乾燥してもよい。凍結乾燥した調製物は、投与する前に無菌の水性担体と混合する。調製物のpHは、通常、3〜11、より好ましくは5〜9、最も好ましくは7〜8である。
【0488】
いくつかの実施形態では、標準の小胞形成脂質から形成させたリポソーム中に本発明の糖ペプチドを組み込むことができる。例えば、Szoka他、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467頁(1980年)、米国特許第4235871号、米国特許第4501728号、および米国特許第4837028号で記載されているように、様々な方法が、リポソームを調製するのに利用可能である。様々な標的性作用物質(例えば、本発明のシアリルガラクトシド)を用いたリポソームの標的化は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第4957773号および米国特許第4603044号を参照のこと)。
【0489】
標的性作用物質をリポソームに結合させるための標準的な方法を使用することができる。これらの方法は、一般に、標的性作用物質を結合するために活性化され得る、ホスファチジルエタノールアミンなどの脂質成分、または、脂質誘導体化された本発明の糖ペプチドなど誘導体化された親油性化合物をリポソーム中に組み込むものである。
【0490】
標的化の機序は、通常、標的性部分が、標的、例えば、細胞表面の受容体との相互作用に利用可能となるように、標的性作用物質がリポソームの表面に位置していることを必要とする。本発明の糖は、リポソームが形成される前に、当業者に公知の方法(例えば、それぞれ長鎖ハロゲン化アルキルまたは脂肪酸による、糖上に存在するヒドロキシル基のアルキル化またはアシル化)を用いて、脂質分子に結合させてよい。あるいは、膜形成時に、連結部分が最初に膜中に組み込まれるような形で、リポソームを作製してもよい。連結部分は、膜中に堅く埋め込まれ固定される親油性部分を有していなければならない。それは、リポソームの水性表面上で化学的に利用可能な反応性部分も有していなければならない。後で加えられる標的性作用物質または糖と安定な化学結合を形成するのに化学的に適するように、反応性部分を選択する。いくつかの場合では、標的性作用物質を連結分子に直接結合させることが可能であるが、大半の場合、化学架橋の役目を果たす第3の分子を使用し、それによって、膜中の連結分子を標的性作用物質または糖と連結させ、それらを小胞表面から3次元的に離れて伸長させることがより適切である。
【0491】
本発明の方法によって調製される化合物は、診断試薬としても使用することができる。例えば、標識した化合物を用いて、炎症を有することが疑われる患者の炎症または腫瘍転移の領域を特定することができる。この用途のために、化合物を
125I、
14C、またはトリチウムで標識することができる。
【0492】
以下の実施例は、本発明のコンジュゲートおよび方法を例示するために提供されるが、特許請求の範囲の発明を限定するためのものではない。