特許第5743388号(P5743388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5743388有機電界発光素子用組成物、有機薄膜、有機電界発光素子、有機EL表示装置および有機EL照明
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  • 特許5743388-有機電界発光素子用組成物、有機薄膜、有機電界発光素子、有機EL表示装置および有機EL照明 図000043
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5743388
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】有機電界発光素子用組成物、有機薄膜、有機電界発光素子、有機EL表示装置および有機EL照明
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20150611BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   H05B33/14 B
   C09K11/06 602
   H05B33/22 D
【請求項の数】9
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2009-178826(P2009-178826)
(22)【出願日】2009年7月31日
(65)【公開番号】特開2010-56547(P2010-56547A)
(43)【公開日】2010年3月11日
【審査請求日】2012年2月14日
【審判番号】不服2014-6258(P2014-6258/J1)
【審判請求日】2014年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2008-198250(P2008-198250)
(32)【優先日】2008年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敦史
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英明
【合議体】
【審判長】 西村 仁志
【審判官】 鉄 豊郎
【審判官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−124156(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/082705(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/016018(WO,A1)
【文献】 特開2008−78181(JP,A)
【文献】 特開2006−257409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/00 - 33/28
H01L 51/50
C09K 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の有機電界発光素子材料および溶剤を含有する有機電界発光素子用組成物であって、
該有機電界発光素子材料のうち、少なくとも1種は蛍光発光材料であり、該蛍光発光材料のトルエンに対する飽和溶解度が2wt%以上であり、下記式(1)を満たし、下記EL材料Nが電荷輸送材料で、下記EL材料Sが蛍光発光材料であることを特徴とする有機電界発光素子用組成物。
【数1】
(上記式(1)中、
EL材料S:該組成物中の最も重量が少ない有機電界発光素子材料
EL材料N:該組成物中の最も重量が多い有機電界発光素子材料
重量比 :EL材料SとEL材料Nとの重量比における当該材料の値
飽和溶解度:該組成物中に含有される溶剤に対する、20℃、1気圧における当該材料の飽和溶解度(wt%)
但し、EL材料NおよびEL材料Sの、20℃、1気圧におけるトルエンに対する飽和溶解度は、各々1wt%以上である。)
【請求項2】
前記蛍光発光材料が、分子量10000以下の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて形成されたことを特徴とする、有機薄膜。
【請求項4】
陽極および陰極の間に発光層を有する有機電界発光素子において、該発光層が、請求項1又は2に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層であることを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項5】
該発光層に隣接して、正孔輸送層を有し、該正孔輸送層が湿式成膜法で形成された層であることを特徴とする、請求項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
該正孔輸送層が架橋性化合物を架橋させて形成された層であることを特徴とする、請求項に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
該陽極と該発光層との間に、正孔注入層を有し、該正孔注入層が、湿式成膜法により形成された、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含有する層であることを特徴とする、請求項ないしのいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
請求項ないしのいずれか1項に記載の有機電界発光素子を用いることを特徴とする、有機EL表示装置。
【請求項9】
請求項ないしのいずれか1項に記載の有機電界発光素子を用いることを特徴とする、有機EL照明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子の発光層を湿式成膜法で形成するために用いられる有機電界発光素子用組成物に関する。
本発明はまた、この有機電界発光素子用組成物を用いた有機電界発光素子と、この有機電界発光素子を用いた有機EL表示装置および有機EL照明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや照明などの発光装置を製造するための技術として、有機電界発光(有機EL)素子の開発が盛んに行われており、主に小型から中型サイズのディスプレイ用途を中心として、実用化が始まっている。
有機電界発光素子は、電極間の有機層に正負の電荷(キャリア)を注入し、このキャリアを再結合させることにより発光を得るものである。
【0003】
現在実用化されている有機電界発光素子は、一般に比較的低分子量の化合物を高真空条件下で加熱し、上方に設置した基板に蒸着する手法を用いて製造されている。しかしながら、この真空蒸着法は大面積基板への均質な蒸着が困難であり、大型ディスプレイや大面積の面発光照明のなどの大面積の有機ELパネルの製造には適していない。また、蒸着源である有機材料の利用効率が低く、製造コストが高くなりやすいという問題も有している。
【0004】
一方で、このような大面積の有機ELパネルを製造する手段として、スピンコート法やインクジェット法、ディップコート法、各種印刷法などに代表される湿式成膜法による有機ELパネルの製造方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、湿式成膜法により形成した発光層を有する有機電界発光素子は、寿命が短いという問題点があった。
【0006】
そこで、このような問題を解決するために、例えば、特許文献1では、湿式成膜法に用いるインクにおける材料の溶剤に対する溶解度に着目し、溶解性の高い材料を開発している。
しかしながら、この特許文献1の技術では、材料の溶解度に関しては向上したものの、得られた素子は依然として十分な寿命を得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−224766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、湿式成膜法で形成される発光層を有する有機電界発光素子において、長寿命な有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、湿式成膜法により形成される発光層を有する有機電界発光素子の寿命が向上しないのは、単純な材料の溶剤に対する溶解度の低さに起因するものではないと考え、これらの課題解決に向けて鋭意検討した。
その結果、これらの問題の原因が単純な材料の溶解度の問題ではなく、成膜後のインクの乾燥に伴う複数の固体成分間の相互の析出速度に大きく依存していることを見出した。すなわち、インクの乾燥過程において、ドーパントなど、各層を形成する主成分に対して少量添加される材料が、主成分として用いられる材料よりも先に析出する、あるいは凝集してしまい、固体成分が均一な相溶状態にある薄膜の形成が困難となり、上記課題が生じていると推測された。
【0010】
この推測のもとに、更に検討を重ねた結果、ある特定の条件を満たすインク(成膜用組成物)を用いることにより、塗布膜の乾燥工程において、各材料の析出速度を制御することが可能であることを知見した。また、溶解度の小さい材料を使用した場合でも、偏析や凝集を起こすことなく、均質な薄膜を形成することができ、その結果、長寿命の有機電界発光素子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]にある。
【0012】
[1] 2種以上の有機電界発光素子材料および溶剤を含有する有機電界発光素子用組成物であって、該有機電界発光素子材料のうち、少なくとも1種は蛍光発光材料であり、該蛍光発光材料のトルエンに対する飽和溶解度が2wt%以上であり、下記式(1)を満たし、下記EL材料Nが電荷輸送材料で、下記EL材料Sが蛍光発光材料であることを特徴とする有機電界発光素子用組成物。
【0013】
【数1】
【0014】
(上記式(1)中、
EL材料S:該組成物中の最も重量が少ない有機電界発光素子材料
EL材料N:該組成物中の最も重量が多い有機電界発光素子材料
重量比 :EL材料SとEL材料Nとの重量比における当該材料の値
飽和溶解度:該組成物中に含有される溶剤に対する、20℃、1気圧における当該材料の飽和溶解度(wt%)
但し、EL材料NおよびEL材料Sの、20℃、1気圧におけるトルエンに対する飽和溶解度は、各々1wt%以上である。)
【0021】
本発明の別の要旨は、上記本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成されたことを特徴とする有機薄膜、に存する。
【0022】
本発明の別の要旨は、陽極および陰極の間に発光層を有する有機電界発光素子において、該発光層が、上記本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された層であることを特徴とする有機電界発光素子、に存する。
【0023】
本発明の更に別の要旨は、このような有機電界発光素子を用いることを特徴とする有機EL表示装置、および有機EL照明、に存する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の有機電界発光素子用組成物であれば、主成分に対して少量配合される副成分の材料が、主成分材料より先に析出したり、凝集したりすることが防止される。この結果、均一状態ないしはほぼ均一な擬均一状態に分散した薄膜を形成することができる。
【0025】
本発明の有機電界発光素子用組成物によれば、湿式成膜法で形成される発光層等の有機層を有する有機電界発光素子において、成膜された有機層が均一で、膜質に優れ、この結果、長寿命で、駆動電圧の低い有機電界発光素子を提供することができ、このような有機電界発光素子を用いて、高品質の有機EL表示装置および有機EL照明を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の有機電界発光素子の一例を示した模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0028】
なお、本発明において、「発光材料」には「蛍光発光材料」と「燐光発光材料」とがあり、単に「発光材料」と記載した場合は、「蛍光発光材料」と「燐光発光材料」との両方を含むものとする。
また、「本発明の有機電界発光素子用組成物」とは、「本発明の有機電界発光素子用組成物A」、「本発明の有機電界発光素子用組成物B」、「本発明の有機電界発光素子用組成物C」の総称である。
【0029】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物Aにおいて、EL材料N、EL材料S、発光材料、および電荷輸送材料の溶解性を示すための溶剤として「トルエン」を挙げているが、これは、本発明に係る有機電界発光素子用材料の溶解性の指標として、この技術分野で汎用の溶剤である「トルエン」を選択したものにすぎず、本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる溶剤をトルエンに限定するものではない。
【0030】
[有機電界発光素子用組成物]
本発明の有機電界発光素子用組成物Aは、2種以上の有機電界発光素子材料および溶剤を含有する有機電界発光素子用組成物であって、該有機電界発光素子材料のうち、少なくとも1種は蛍光発光材料であり、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【0031】
【数4】
【0032】
(上記式(1)中、
EL材料S:該組成物中の最も重量が少ない有機電界発光素子材料
EL材料N:該組成物中の最も重量が多い有機電界発光素子材料
重量比 :EL材料SとEL材料Nとの重量比における当該材料の値
飽和溶解度:該組成物中に含有される溶剤に対する、20℃、1気圧における当該材料の飽和溶解度(wt%)
但し、EL材料NおよびEL材料Sの、20℃、1気圧におけるトルエンに対する飽和溶解度は、各々1wt%以上である。)
【0033】
本発明の有機電界発光素子用組成物Bは、2種以上の有機電界発光素子材料および溶剤を含有する有機電界発光素子用組成物であって、該溶剤の沸点は150℃以上であり、該有機電界発光素子材料のうち、少なくとも1種は燐光発光材料であり、下記式(2)を満たすことを特徴とする。
【0034】
【数5】
【0035】
(上記式(2)中、
EL材料S:該組成物中の最も重量が少ない有機電界発光素子材料
EL材料N:該組成物中の最も重量が多い有機電界発光素子材料
重量比 :EL材料SとEL材料Nとの重量比における当該材料の値
飽和溶解度:該組成物中に含有される溶剤に対する、20℃、1気圧における当該材料の飽和溶解度(wt%)
である。)
【0036】
本発明の有機電界発光素子用組成物Cは、2種以上の有機電界発光素子材料および溶剤を含有する有機電界発光素子用組成物であって、該有機電界発光素子材料のうち、少なくとも1種は発光材料であり、下記式(3)を満たすことを特徴とする。
【0037】
【数6】
【0038】
(上記式(3)中、
EL材料S:該組成物中の最も重量が少ない有機電界発光素子材料
EL材料N:該組成物中の最も重量が多い有機電界発光素子材料
重量比 :EL材料SとEL材料Nとの重量比における当該材料の値
飽和溶解度:シクロヘキシルベンゼンに対する、20℃、1気圧における当該材料の飽和溶解度(wt%)
である。)
【0039】
なお、以下において、上記式(1)〜(3)の左辺で算出される値を「本発明のパラメータ値」と称す場合がある。
【0040】
{有機電界発光素子材料}
まず、本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる有機電界発光素子材料について説明する。
本発明における有機電界発光素子材料とは、有機電界発光素子の陽極と陰極の間の層に含有される材料である。有機電界発光素子材料としては、例えば、正孔輸送能や電子輸送能を有する電荷輸送材料、発光材料、電子受容性化合物などが挙げられる。
【0041】
本発明の有機電界発光素子用組成物における有機電界発光素子材料の含有量は、通常0.0001wt%以上、好ましくは0.001wt%以上、より好ましくは0.1wt%以上、また、通常90wt%以下、好ましくは70wt%以下、より好ましくは50wt%以下である。この含有量が上記下限より少ないと塗布膜の膜厚が薄くなり、素子としたときに、黒点や短絡の原因となる恐れがある。この含有量が上記上限より多いと塗布膜の膜厚が厚くなり、素子としたときに、駆動電圧が上昇したりする恐れや、塗布ムラが生じやすくなり、素子としたときに、輝度ムラが生じたりする恐れがある。
【0042】
本発明における有機電界発光素子材料の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。
有機電界発光素子材料の分子量が小さ過ぎると、ガラス転移温度や融点、分解温度等が低くなりやすく、有機電界発光素子材料および有機薄膜の耐熱性が著しく低下し、再結晶化や分子のマイグレーションなどに起因する膜質の低下や、材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇などを引き起こし、素子性能の低下を引き起こす場合がある。
一方、分子量が大きすぎると、有機電界発光素子材料の構造や組成物(インク)の調製に使用する溶剤の種類によっては溶剤に対する有機電界発光素子材料の溶解度が小さくなりすぎる場合があり、例えば材料製造工程における精製が困難となる場合がある。また、成膜時に薄膜が形成されない部分が生じたり、形成された有機薄膜の膜厚が薄くなりすぎるなどの問題が生じ、素子としたときに、黒点の発生や短絡の原因となる場合がある。
【0043】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物Aに含有される有機電界発光素子材料の、20℃、1気圧でのトルエンに対する飽和溶解度は、通常1wt%以上、好ましくは2wt%以上、また通常30wt%以下、好ましくは20wt%以下である。有機電界発光素子材料の溶解性としてのトルエンに対する飽和溶解度が上記範囲内であると、均一な膜が形成されやすく、短絡や欠陥などが起き難いため、素子とした場合、駆動寿命が長いものとなる。
【0044】
<発光材料>
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される2種以上の有機電界発光素子材料のうち、少なくとも1種は発光材料であり、本発明の有機電界発光素子用組成物は、通常、有機電界発光素子の発光層を形成するために使用される。
【0045】
発光材料とは、不活性ガス雰囲気下、室温で、希薄溶液中における、発光量子収率が30%以上である材料であって、希薄溶液中における蛍光または燐光スペクトルとの対比から、それを用いて作製された有機電界発光素子に通電した際に得られるELスペクトルの一部または全部が、該材料の発光に帰属される材料、と定義される。
【0046】
ここで、発光材料の発光量子収率、溶液中における蛍光または燐光スペクトル、有機電界発光素子とした際のELスペクトルの各々の測定方法は次の通りである。
【0047】
(発光量子収率の測定方法)
発光材料の発光量子収率は、例えば、絶対PL量子収率測定装置C9920−02(浜松ホトニクス社製)を用いて測定することが出来る。
尚、測定に際しては、発光材料が溶剤に対して0.01mmol/L程度に希釈され、不活性ガス(例えば窒素)で充分に脱酸素処理された溶液が用いられる。
【0048】
(溶液中における蛍光または燐光スペクトルの測定方法)
上記の発光量子収率の測定に用いたのと同様の溶液に対して、例えば分光光度計F−4500(日立製作所社製)を用いて、任意の波長の光を照射して、発光材料を励起することにより得られるスペクトルを測定する。
尚、用いる測定機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよい。
【0049】
(有機電界発光素子とした場合のELスペクトルの測定方法)
有機電界発光素子のELスペクトルは、スペクトルを分光することにより得られる。具体的には、作成した素子に所定の電流を印加し、得られるELスペクトルを瞬間マルチ測光システムMCPD−2000(大塚電子社製)で測定する。
尚、用いる測定機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよい。
【0050】
発光材料としては、通常、有機電界発光素子の発光材料として使用されているものであれば限定されない。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよい。
蛍光発光材料は、原理上、有機電界発光素子の発光効率が燐光発光材料よりも低くなるが、励起一重項状態のエネルギーギャップが同一発光波長の燐光発光材料よりも小さく、更に励起子寿命がナノ秒オーダーと非常に短いため、発光材料に対する負荷が小さく素子の駆動寿命が長くなりやすい。
一方、燐光発光材料は原理上、有機電界発光素子の発光効率が非常に高いが、励起一重項状態のエネルギーギャップが同一発光波長の蛍光材料よりも大きく、更に励起子寿命がマイクロ秒からミリ秒オーダーと長いため、蛍光発光材料と比較して駆動寿命は短くなりやすい。したがって、寿命よりも発光効率を重視する用途には、燐光発光材料を使用することが好ましい。また、例えば、青色は蛍光発光材料、緑色および赤色は燐光発光材料を用いるなど、組み合わせて用いてもよい。
【0051】
なお、発光材料としては、溶剤への溶解性を向上させる目的で、分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基が導入されたりしている材料を用いることが好ましい。
【0052】
以下、発光材料のうち蛍光発光材料の例を挙げるが、蛍光発光材料は以下の例示物に限定されるものではない。
【0053】
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光色素)としては、例えば、ナフタレン、クリセン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン、アリールアミンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。中でも、アントラセン、クリセン、ピレン、アリールアミンおよびそれらの誘導体等が好ましい。
【0054】
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン、クマリン、Al(CNO)などのアルミニウム錯体およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0055】
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0056】
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチレン)−4H−ピラン)系化合物、ベンゾピラン、ローダミン、ベンゾチオキサンテン、アザベンゾチオキサンテン等のキサンテンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0057】
上記青色蛍光を与える誘導体であるアリールアミン誘導体としては、より具体的には、下記式(X)で表される化合物が、素子の発光効率、駆動寿命等の観点から、蛍光発光材料として好ましい。
【0058】
【化1】
【0059】
(式中、Ar21は、核炭素数10〜40の置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、Ar22およびAr23は、それぞれ独立に炭素数6〜40の置換もしくは無置換の1価の芳香族基を示し、pは1〜4の整数を示す。)
【0060】
Ar21として具体的には、ナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、ペリレン、コロネン、クリセン、ピセン、ジフェニルアントラセン、フルオレン、トリフェニレン、ルビセン、ベンゾアントラセン、フェニルアントラセン、ビスアントラセン、ジアントラセニルベンゼンまたはジベンゾアントラセンの残基が挙げられる。
【0061】
以下に、蛍光発光材料としてのアリールアミン誘導体の好ましい具体例を示すが、本発明に係る蛍光発光材料はこれらに限定されるものではない。以下において、「Me」はメチル基を、「Et」はエチル基を表す。
【0062】
【化2】
【0063】
【化3】
【0064】
【化4】
【0065】
【化5】
【0066】
本発明において、発光材料として蛍光発光材料を採用した場合、以下の理由により、前記式(1)を満たすことによる本発明の効果をより有効に得ることができると考えられる。
即ち、蛍光発光材料は、燐光発光材料に比べて、同化合物間でエネルギーの受け渡しが行われやすい。具体的には、膜が均質ではなく、蛍光発光材料の極近傍に同じ蛍光発光材料が存在する場合、励起状態から基底状態に戻る時に放出されるエネルギーが、発光に用いられず、近傍の同化合物の励起に用いられてしまう。つまり、この繰り返しによって、発光に用いられるエネルギーが、熱振動等に用いられ、素子とした場合の電流効率や駆動寿命などに影響すると推測される。
このような蛍光発光材料に対して、前記式(1)を満たすように組成物の設計を行うことにより、成膜状態の均質化、膜質の向上により、発光効率や寿命の改善効果がより一層有効に得られることが予測される。
【0067】
一方、燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を中心金属として含むウェルナー型錯体または有機金属錯体が挙げられる。
【0068】
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられ、中でもより好ましくはイリジウムまたは白金である。
【0069】
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0070】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0071】
特に、燐光発光材料の燐光性有機金属錯体としては、好ましくは下記式(III)または式(IV)で表される化合物が挙げられる。
ML(q−j)L′ (III)
(式(III)中、Mは金属を表し、qは上記金属の価数を表す。また、LおよびL′は二座配位子を表す。jは0、1または2の数を表す。)
【0072】
【化6】
【0073】
(式(IV)中、Mは金属を表し、Tは炭素原子または窒素原子を表す。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表す。但し、Tが窒素原子の場合は、R94およびR95は無い。)
【0074】
以下、まず、式(III)で表される化合物について説明する。
【0075】
式(III)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
【0076】
また、式(III)中、二座配位子Lは、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【0077】
【化7】
【0078】
上記Lの部分構造において、環A1は、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
【0079】
該芳香族炭化水素基としては、5または6員環の単環または2〜5縮合環が挙げられる。具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0080】
該芳香族複素環基としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環が挙げられる。具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0081】
また、上記Lの部分構造において、環A2は、置換基を有していてもよい、含窒素芳香族複素環基を表す。
【0082】
該含窒素芳香族複素環基としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基が挙げられる。具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0083】
環A1または環A2がそれぞれ有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基;芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0084】
また、式(III)中、二座配位子L′は、以下の部分構造を有する配位子を示す。但し 、以下の式において、「Ph」はフェニル基を表す。
【0085】
【化8】
【0086】
中でも、L′としては、錯体の安定性の観点から、以下に挙げる配位子が好ましい。
【0087】
【化9】
【0088】
式(III)で表される化合物として、更に好ましくは、下記式(IIIa),(IIIb),(IIIc)で表される化合物が挙げられる。
【0089】
【化10】
【0090】
(式(IIIa)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0091】
【化11】
【0092】
(式(IIIb)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0093】
【化12】
【0094】
(式(IIIc)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、jは、0、1または2を表し、環A1および環A1′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2および環A2′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0095】
上記式(IIIa),(IIIb),(IIIc)において、環A1および環A1′の好ましい例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0096】
上記式(IIIa)〜(IIIc)において、環A2および環A2′の好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
【0097】
上記式(IIIa)〜(IIIc)で表される化合物が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
なお、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、または、環A1′が有する置換基と環A2′が有する置換基とが結合することにより、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
【0098】
中でも、環A1、環A1′、環A2および環A2′の置換基として、より好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。
【0099】
また、式(IIIa)〜(IIIc)におけるM〜Mの好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられる。
【0100】
上記式(III)および(IIIa)〜(IIIc)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されるものではない。
【0101】
【化13】
【0102】
【化14】
【0103】
上記式(III)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子Lおよび/またはL′として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、および、これに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
【0104】
また、国際公開第2005/019373号パンフレットに記載の化合物も、発光材料として使用することが可能である。
【0105】
次に、式(IV)で表される化合物について説明する。
【0106】
式(IV)中、Mは金属を表す。具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0107】
また、式(IV)において、R92およびR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
【0108】
更に、Tが炭素原子の場合、R94およびR95は、それぞれ独立に、R92およびR93と同様の例示物で表される置換基を表す。また、Tが窒素原子の場合は、R94およびR95は無い。
【0109】
また、R92〜R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、その種類に特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
【0110】
更に、R92〜R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0111】
式(IV)で表される有機金属錯体の具体例(T−1、T−10〜T−15)を以下に示すが、下記の例示物に限定されるものではない。また、以下の化学式において、「Me」はメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0112】
【化15】
【0113】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0114】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される発光材料の、20℃、1気圧でのトルエンに対する飽和溶解度は、通常1wt%以上、好ましくは2wt%以上、また通常30wt%以下、好ましくは20wt%以下である。発光材料の溶解性としてのトルエンに対する飽和溶解度が上記範囲内であると、均一な膜が形成されやすく、短絡や欠陥などが起き難いため、素子とした場合、駆動寿命が長いものとなる。
【0115】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0116】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる発光材料の含有量は、0.000001wt%以上が好ましく、0.0001wt%以上がより好ましく、0.01wt%以上が特に好ましく、25wt%以下が好ましく、15wt%以下がより好ましく、15wt%以下が特に好ましい。
有機電界発光素子用組成物中の発光材料の含有量がこの下限を下回ると、有機電界発光素子用組成物中の固形分含有量が不足することにより成膜時に薄膜が形成されない部分が生じる、あるいは形成された薄膜の膜厚が薄くなりすぎるなどの問題が生じ、最終的に得られた素子の黒点の発生や短絡の原因となる等、所望の機能を十分に得ることが出来ない場合がある。また、有機電界発光素子用組成物に通常含まれる電荷輸送材料に対する濃度の相対値が低下してしまい、電荷輸送材料からの電荷あるいはエネルギーの移動が不十分となり、無効電流の増大による消費電力の低下や電荷輸送材料そのものからの発光による色ずれなどが生じる場合もある。
一方、有機電界発光素子用組成物中の発光材料の含有量がこの上限を上回ると、成膜時に得られる薄膜の膜厚が厚くなりすぎ、素子の駆動電圧が上昇する、塗布ムラが生じやすくなり、素子発光面の輝度ムラの原因となる等、やはり所望の機能を十分に得られない場合がある。また、一般に濃度消光と呼ばれる発光材料分子間の相互作用の増大による消光現象や、乾燥時の発光材料の凝集、発光材料が発光層へ注入された電荷のトラップとして作用することによる駆動電圧の上昇や素子の耐久性の低下などが起こりやすくなる場合もある。
該含有量は、本発明の有機電界発光素子用組成物中に含まれる発光材料が複数ある場合には、その合計量を表す。
【0117】
<電荷輸送材料>
有機電界発光素子において、発光材料は、電荷輸送性能を有するホスト材料から電荷またはエネルギーを受け取って発光することが好ましい。従って、発光材料以外に本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される有機電界発光素子材料としては、例えば、このホスト材料として使用されるような、電荷輸送材料であることが好ましい。電荷輸送材料としては、正孔輸送能を有する化合物や電子輸送能を有する化合物が挙げられる。
【0118】
ここで、電荷輸送材料の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、チオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン系化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物、トリフェニレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピレン系化合物、アントラセン系化合物、フェナントロリン系化合物、キノリン系化合物、ピリジン系化合物、トリアジン系化合物、オキサジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0119】
より具体的には、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン系化合物(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(Journal of Luminescence, 1997年, Vol.72−74, pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chemical Communications, 1996年, pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synthetic Metals, 1997年,Vol.91 ,pp.209)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。
【0120】
本発明における電荷輸送材料の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。
電荷輸送材料の分子量が小さ過ぎると、発光材料の場合と同様に、ガラス転移温度や融点、分解温度等が低くなりやすく、有機電界発光素子材料および得られた有機薄膜の耐熱性が著しく低下し、再結晶化や分子のマイグレーションなどに起因する膜質の低下や、材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇などを引き起こし、素子性能の低下を引き起こす場合がある。
一方、電荷輸送材料の分子量が大きすぎると、有機電界発光素子材料の構造やインクの調製に使用する溶剤の種類によっては溶剤に対する材料の溶解度が小さくなりすぎ、例えば材料製造工程における精製が困難となるため不純物濃度が高くなり、有機電界発光素子の発光効率や耐久性の低下の原因となる、あるいは塗布成膜時に薄膜が形成されない部分が生じる、形成された薄膜の膜厚が薄くなりすぎるなどの問題が生じ、最終的に得られた素子の黒点の発生や短絡の原因となる等、所望の機能を十分に得ることが出来ない場合がある。
【0121】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される電荷輸送材料の、20℃、1気圧でのトルエンに対する飽和溶解度は、通常1wt%以上、好ましくは2wt%以上、また通常30wt%以下、好ましくは20wt%以下である。電荷輸送材料の溶解性としてのトルエンに対する飽和溶解度が、上記範囲内であると、有機電界発光素子用組成物の保存安定性が良好である。
【0122】
なお、上述した電荷輸送材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0123】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる電荷輸送材料の含有量は、0.000001wt%以上が好ましく、0.0001wt%以上がより好ましく、0.01wt%以上が更に好ましい。また、50wt%以下が好ましく、30wt%以下がより好ましく、15wt%以下が更に好ましい。有機電界発光素子用組成物中の電荷輸送材料の含有量がこの下限を下回ると、薄膜中の電荷輸送能力が低下することによる駆動電圧の上昇、あるいは発光効率の低下を引き起こす場合がある。加えて、有機電界発光素子用組成物中の固形分含有量が不足することにより、塗布成膜時に薄膜が形成されない部分が生じる、あるいは形成された薄膜の膜厚が薄くなりすぎるなどの問題が生じ、最終的に得られた素子の黒点の発生や短絡の原因となる等、所望の機能を十分に得ることが出来ない場合もあるため好ましくなく、一方、含有量がこの上限を上回ると、成膜時に得られる薄膜の膜厚が厚くなりすぎ、素子の駆動電圧が上昇する、塗布ムラが生じやすくなり、素子発光面の輝度ムラの原因となる等、やはり所望の機能を十分に得られない場合があるため、好ましくない。
【0124】
また、有機電界発光素子用組成物中における電荷輸送材料の含有量に対する発光材料の含有量の割合は、0.01wt%以上が好ましく、0.1wt%以上がより好ましく、1wt%以上が更に好ましい。また、50wt%以下が好ましく、30wt%以下がより好ましく、10wt%以下が更に好ましい。有機電界発光素子用組成物中の電荷輸送材料の含有量に対する発光材料の含有量の割合がこの下限を下回ると、電荷輸送材料からの電荷あるいはエネルギーの移動が不十分となり、無効電流の増大による消費電力の低下や電荷輸送材料そのものからの発光による色ずれなどが生じるようになる。一方、この割合が上記上限を上回ると、一般に濃度消光と呼ばれる発光材料分子間の相互作用の増大による消光現象や、乾燥時の発光材料の凝集、発光材料が発光層へ注入された電荷のトラップとして作用することによる駆動電圧の上昇や素子の耐久性の低下などが起こりやすくなる。尚、電荷輸送材料を2種以上含有する場合も、その合計量が上記範囲内となる様にする。
【0125】
{溶剤}
本発明の有機電界発光素子用組成物は溶剤を含有する。ここで、本発明における溶剤とは、20℃、1気圧の雰囲気において液体であり、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される発光材料や電荷輸送材料を溶解することが可能な化合物である。
【0126】
溶剤としては、水、並びに一般的に市販されている極性または無極性の溶剤であれば特に制限は無いが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の置換または無置換の芳香族炭化水素系溶剤、アニソール、安息香酸エステル、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤、芳香族エステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状または環状アルカン系溶剤、酢酸エチル等のカルボン酸エステル系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン等の含カルボニル系溶剤、アルコール、環状エーテルなどが好ましく、芳香族炭化水素系溶剤がより好ましく、中でも、ベンゼン、トルエン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼンが好ましい。
【0127】
本発明の有機電界発光素子用組成物中に、溶剤は1種類が含有されていてもよいし、2種類あるいはそれ以上の溶剤の組合せで含まれていてもよいが、通常1種類以上、好ましくは2種類以上、通常10種類以下、好ましくは8種類以下、より好ましくは6種類以下の組み合わせで含有されることが好ましい。
【0128】
また、2種以上の溶剤を混合して使用する場合、その混合比についても、何ら限定されることはないが、最も混合比が多い溶剤が全溶剤中に通常1wt%以上、好ましくは5wt%以上、より好ましくは10wt%以上、また、通常100wt%以下、好ましくは90wt%以下、より好ましくは80wt%以下であり、最も混合比が少ない溶剤が全溶剤中に通常0.0001wt%以上、好ましくは0.001wt%以上、より好ましくは0.01wt%以上、また、通常50wt%以下となるような混合比であることが好ましい。
【0129】
なお、発光材料として燐光発光材料を有する本発明の有機電界発光素子用組成物Bにおいては、以下の理由により、溶剤としては、沸点150℃以上の溶剤を用いる。
即ち、燐光発光材料は、蛍光発光材料に比べて、酸素分子による消光を受けやすい。その為、膜を形成した時に、燐光発光材料の近傍に酸素分子が存在すると、素子の電流効率や駆動寿命が低下する場合がある。
しかし、沸点150℃以上の溶剤を含む組成物を用いて膜を形成すると、成膜時の加熱で、膜中に含まれる水分や酸素を除去しやすくなり、酸素分子による消光を抑制しやすくなる。この結果、電流効率が高く、また駆動寿命が長いという本発明の効果を有効に発揮する素子が得られるようになる。
【0130】
本発明の有機電界発光素子用組成物Bで用いる沸点150℃以上の溶剤としては、上述の沸点150℃以上の溶剤を用いる理由から、水分や酸素を取り込みにくい溶剤が好ましい。
水分を取り込みにくい溶剤としては、誘電率または双極子モーメントの大きい極性溶剤以外のものが好ましい。
酸素に関しては、溶剤温度と飽和溶解度に相関があり、温度が高いほうが溶存酸素は少ない。このことから、沸点が高いほうが好ましく、沸点150℃以上、特に160℃以上、とりわけ180℃以上の溶剤が好ましい。
【0131】
このような溶剤としては、具体的には、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、ジクロロベンゼン等の置換または無置換の芳香族炭化水素系溶剤、アニソール、安息香酸エステル、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤、芳香族エステル系溶剤などが挙げられ、これらのうち、芳香族炭化水素系溶剤より好ましく、中でも、メシチレン、シクロヘキシルベンゼンが好ましい。
【0132】
本発明の有機電界発光素子用組成物Bが含む、沸点が150℃以上の溶剤の組成物中の含有量は、通常30wt%以上、好ましくは60wt%、更に好ましくは70wt%以上、また通常99.99wt%以下、好ましくは99.9wt%以下、更に好ましくは99wt%以下である。有機電界発光素子用組成物B中の沸点が150℃以上の溶剤の含有量が上記範囲内であると、膜を形成した際に含まれる水分や酸素を良好に除去できて、消光現象が起きにくく、素子の電流効率や駆動寿命が良好である。
【0133】
なお、有機電界発光素子用組成物Bは、沸点が150℃以上の溶剤と共に、沸点が150℃より低い溶剤を含んでいてもよい。
即ち、例えば、組成物中の溶質の溶解度や成膜性(膜質や膜厚)を調整する為に、塗布方法等に合わせて適宜沸点150℃未満の溶剤を用いてもよい。この場合、調製された混合溶剤の沸点が、塗布方法に即した沸点となるよう、適宜調整される。例えば、インクジェット法で塗布する場合は、混合溶剤の沸点は180℃以上、好ましくは200℃以上となる範囲で、沸点150℃未満の溶剤を併用することが可能である。
【0134】
有機電界発光素子用組成物Bが含有し得る沸点が150℃未満の溶剤としては、水分や酸素を取り込みにくい溶剤であれば、特に限定はされない。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の置換または無置換の芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状または環状アルカン系溶剤、酢酸エチル等のカルボン酸エステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等の含カルボニル系溶剤、アルコール、環状エーテルなどが好ましく、芳香族炭化水素系溶剤がより好ましく、中でも、ベンゼン、トルエン、キシレンが好ましい。
【0135】
有機電界発光素子用組成物Bが、沸点150℃以上の溶剤と共に、沸点150℃未満の溶剤を含む場合、有機電界発光素子用組成物B中の沸点150℃以上の溶剤の含有量が上記好適範囲を満たし、また、混合溶剤の沸点が塗布方法に即した沸点であれば、沸点150℃未満の溶剤は、任意の割合で含有することができる。
本発明の有機電界発光素子用組成物Bが含む、全溶剤に対する沸点が150℃未満の溶剤の割合(組成物中の沸点150℃未満の溶剤の重量/組成物中の全溶剤の重量)は、通常90%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下である。
【0136】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物Cは、上記のような溶剤を含有する。その溶剤はシクロヘキシルベンゼンを含有することが好ましい。
シクロヘキシルベンゼンは、剛直なベンゼン環とフレキシブルなシクロアルカンを同一分子内に含む溶剤であるため、トルエンやキシレンなどのベンゼン系溶剤に対する溶解度が高い有機電界発光素子材料と、シクロヘキサンやシクロヘキサノンの様なシクロアルカン系溶剤に対する溶解度が高い有機電界発光素子材料の両方を、よりバランスよく溶解させることが可能である。また、無極性で高沸点の炭化水素溶剤であるため、組成物中に水素や水分を取り込み難く、更に組成物を塗布した後の乾燥において、塗布膜中に取り込まれやすい酸素や水分の除去が容易である。
【0137】
なお、上述の如く、本発明の有機電界発光素子用組成物Aについても、本発明の有機電界発光素子用組成物Bや本発明の有機電界発光素子用組成物Cのように、溶剤として、沸点150℃以上の溶剤やシクロヘキシルベンゼンを含むものであってもよく、その場合においても、それぞれの溶剤を含むことによる上述の効果を得ることができる。その場合の各溶剤の含有量や、併用する溶剤の含有量についても、それぞれ、上記と同様である。
【0138】
{その他の成分}
本発明の有機電界発光素子用組成物は、その他、レベリング剤、消泡剤、増粘剤等の塗布性改良剤、電子受容性化合物や電子供与性化合物などの電荷輸送補助剤、バインダー樹脂などを含有していてもよい。これらのその他の成分の有機電界発光素子用組成物中の含有量は、薄膜の電荷移動を著しく阻害しないこと、発光材料の発光を阻害しないこと、薄膜の膜質を低下させないことなどの観点から、通常50wt%以下である。
【0139】
{溶剤濃度・固形分濃度}
本発明の有機電界発光素子用組成物を、後述の本発明の有機電界発光素子の発光層を形成するための発光層形成用組成物として用いる場合、有機電界発光素子用組成物中の溶剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30wt%以上、通常99.99wt%以下、である。なお、溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。

また、発光材料、電荷輸送材料等の全固形分濃度としては、通常0.01wt%以上、通常70wt%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0140】
{式(1)〜(3)}
次に、式(1)〜(3)について説明する。
【0141】
【数7】
【0142】
(上記式(1)中、
EL材料S:該組成物中の最も重量が少ない有機電界発光素子材料
EL材料N:該組成物中の最も重量が多い有機電界発光素子材料
重量比 :EL材料SとEL材料Nとの重量比における当該材料の値
飽和溶解度:該組成物中に含有される溶剤に対する、20℃、1気圧における当該材料の飽和溶解度(wt%)
但し、EL材料NおよびEL材料Sの、20℃、1気圧におけるトルエンに対する飽和溶解度は、各々1wt%以上である。)
【0143】
【数8】
【0144】
(上記式(2)中、
EL材料S:該組成物中の最も重量が少ない有機電界発光素子材料
EL材料N:該組成物中の最も重量が多い有機電界発光素子材料
重量比 :EL材料SとEL材料Nとの重量比における当該材料の値
飽和溶解度:該組成物中に含有される溶剤に対する、20℃、1気圧における当該材料の飽和溶解度(wt%)
である。)
【0145】
【数9】
【0146】
(上記式(3)中、
EL材料S:該組成物中の最も重量が少ない有機電界発光素子材料
EL材料N:該組成物中の最も重量が多い有機電界発光素子材料
重量比 :EL材料SとEL材料Nとの重量比における当該材料の値
飽和溶解度:シクロヘキシルベンゼンに対する、20℃、1気圧における当該材料の飽和溶解度(wt%)
である。)
【0147】
上記式(1),(2)において、組成物中に含有される溶剤に対する飽和溶解度とは、本発明の有機電界発光素子用組成物A,B中に2種以上の溶剤が含まれる場合、該2種以上の溶剤よりなる混合溶剤に対する飽和溶解度である。
式(1)〜(3)において、EL材料Nの飽和溶解度は、通常0.01wt%以上、好ましくは1wt%以上、更に好ましくは5wt%以上であり、通常90wt%以下、好ましくは70wt%以下、更に好ましくは50wt%以下である。
また、EL材料Sの飽和溶解度は、通常0.001wt%以上、好ましくは0.01wt%以上、更に好ましくは0.1wt%以上であり、通常90wt%以下、好ましくは70wt%以下、更に好ましくは40wt%以下である。
【0148】
また、上記式(1)〜(3)において、EL材料SとEL材料Nとの重量比における当該材料の値とは、本発明の有機電界発光素子用組成物中のEL材料SとEL材料Nとの含有重量比が、EL材料S:EL材料N=a:bで表される場合、EL材料Sの重量比=aであり、EL材料Nの重量比=bである。
【0149】
有機電界発光素子材料中のEL材料Nの含有割合は、通常1wt%以上、好ましくは5wt%以上、より好ましくは10wt%以上、また、通常99.999wt%以下、好ましくは99.9wt%以下、より好ましくは99wt%以下である。
また、有機電界発光素子材料中のEL材料Sの含有割合は、通常0.0001wt%上、好ましくは0.001wt%以上、より好ましくは0.01wt%以上、また、通常50wt%以下、好ましくは45wt%以下、より好ましくは40wt%以下である。
【0150】
なお、本発明の有機電界発光素子用組成物において、有機電界発光素子材料中の最も重量の多い成分であるEL材料Nとは、通常、電荷輸送材料であり、最も重量の少ない成分であるEL材料Sとは、通常、発光材料である。
【0151】
前記式(1)の左辺で算出される本発明のパラメータ値は、2.0以上であって、好ましくは2.1以上、より好ましくは2.5以上、特に好ましくは3.0以上であり、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは100以下である。
また、前記式(2)の左辺で算出される本発明のパラメータ値は、2.0以上であって、好ましくは2.5以上、より好ましくは3.0以上、特に好ましくは5.0以上であり、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは100以下である。
さらに、前記式(3)の左辺で算出される本発明のパラメータ値は、2.0以上であって、好ましくは2.1以上、より好ましくは2.5以上、特に好ましくは3.0以上であり、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは100以下である。
この値が、上記上限を超えると、最も多い有機電界発光素子材料であるEL材料Nの析出速度が速くなりすぎ、乾燥工程の初期において、最も少ない有機電界発光素子材料であるEL材料Sの濃度ムラが生じやすくなる恐れがあり好ましくなく、下限を下回ると最も少ない有機電界発光素子材料であるEL材料Sの析出速度が速くなりすぎ、凝集や偏析が生じる恐れがあり好ましくない。
【0152】
有機電界発光素子用組成物中に、EL材料Nに該当する有機電界発光素子材料が2種類以上ある場合、すなわち、2種類以上の有機電界発光素子材料が、有機電界発光素子用組成物中において同重量含まれており、それぞれの含有量が、有機電界発光素子用組成物中の有機電界発光素子材料の中で最も多い場合、組成物中の溶剤に対する飽和溶解度の高い方の材料が前記式(1)〜(3)を満たせばよく、好ましくはこれら2種以上のEL材料Nが前記式(1)〜(3)を満たすようにするのが好ましい。
また、同様に、有機電界発光素子用組成物中にEL材料Sに該当する有機電界発光素子材料が2種類以上ある場合、すなわち、2種類以上の有機電界発光素子材料が、有機電界発光素子用組成物中において同重量含まれており、それぞれの含有量が、有機電界発光素子用組成物中の有機電界発光素子材料の中で最も少ない場合、組成物中の溶剤に対する飽和溶解度の低い方の材料が前記式(1)〜(3)を満たせばよく、好ましくはこれら2種以上のEL材料Sが前記式(1)〜(3)を満たすようにするのが好ましい。
【0153】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物中に発光材料が2種以上含まれている場合、(組成物中に最も多く含有されている電荷輸送材料に対する当該発光材料の重量比)/(組成物中に含有される溶剤に対する当該発光材料の飽和溶解度)の差の絶対値が、通常0.1以上、また通常10以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下であることが望ましい。
即ち、例えば、有機電界発光素子用組成物中に以下の発光材料1および発光材料2を以下の含有量で含有し、組成物中に最も多く含有されている電荷輸送材料の含有量がW(wt%)である場合、|(W/W/S)−(W/W/S)|で算出される値が、通常0.1以上、また、通常10以下、特に5以下、とりわけ3以下であることが好ましい。
発光材料1:組成物中の溶剤に対する飽和溶解度(20℃、1気圧)=S(wt%)
組成物中の含有量=W(wt%)
発光材料2:組成物中の溶剤に対する飽和溶解度(20℃、1気圧)=S(wt%)
組成物中の含有量=W(wt%)
この値が上記範囲内であると、2種以上の発光材料の析出速度が異なることによって生じる、発光材料の凝集が抑えられ、素子の発光効率が良好となる。なお、この値は、小さい程好ましいため、下限値は理想的には「0」である。
【0154】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物中に電荷輸送材料が2種以上含まれている場合、(組成物中に含まれる最も少ない発光材料に対する当該電荷輸送材料の重量比)/(組成物中に含有される溶剤に対する当該電荷輸送材料の飽和溶解度)の差の絶対値が、通常10以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下であることが望ましい。
即ち、例えば、有機電界発光素子用組成物中に以下の電荷輸送材料3および電荷輸送材料4を以下の含有量で含有し、組成物中に最も少なく含有されている発光材料の含有量がW(wt%)である場合、|(W×W/S)−(W×W/S)|で算出される値が、通常500以下、特に100以下、とりわけ30以下であることが好ましい。
電荷輸送材料3:組成物中の溶剤に対する飽和溶解度(20℃、1気圧)=S(wt%)
組成物中の含有量=W(wt%)
電荷輸送材料4:組成物中の溶剤に対する飽和溶解度(20℃、1気圧)=S(wt%)
組成物中の含有量=W(wt%)
この値が上記上限以下であると、2種以上の電荷輸送材料の析出速度が違うことによって生じる、膜内の相分離が起こりにくくなり、素子の駆動寿命が良好となる。なお、この値は、小さい程好ましいため、下限値は理想的には「0」である。
【0155】
溶剤と2種以上の有機電界発光素子材料を含み、前記式(1)〜(3)を満たす本発明の有機電界発光素子用組成物を調製する方法としては特に制限は無いが、例えば、EL材料Nとして電荷輸送材料を含み、EL材料Sとして発光材料を含み、前記(1)式を満たすように、有機電界発光素子用組成物を構成する電荷輸送材料と発光材料の組み合わせを設定する方法としては、次のような方法が挙げられる。
(i)まず、電荷輸送材料および発光材料の、20℃、1気圧でのトルエンに対する飽和溶解度を測定する。各々の飽和溶解度が、1wt%以上であることを確認する。
(ii)上記(i)で決定した電荷輸送材料および発光材料の各々に対して、組成物の調製に用いる溶剤に対する飽和溶解度を測定して溶剤を決定する。
この場合、前述の如く、組成物中に含有される電荷輸送材料の溶剤に対する飽和溶解度が、通常0.001wt%以上、好ましくは1wt%以上、更に好ましくは5wt%以上であり、通常90wt%以下、好ましくは70wt%以下、更に好ましくは50wt%以下となり、組成物中に含有される発光材料の溶剤に対する飽和溶解度が、通常0.001wt%以上、好ましくは0.01wt%以上、更に好ましくは0.1wt%以上であり、通常90wt%以下、好ましくは70wt%以下、更に好ましくは40wt%以下となるように、溶剤を選択する。
(iii)次いで、前記式(1)を満たす様に、適宜発光材料と電荷輸送材料の組成比を調整する。
【0156】
前記式(2),(3)を満たす本発明の有機電界発光素子用組成物についても、上記手順と同様にして調製することができる。
【0157】
このような本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成された有機薄膜は、通常、有機電界発光素子の発光層に使用される。
【0158】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、陽極および陰極の間に発光層を有し、この発光層が、上述の本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、好ましくは湿式成膜法により形成された層であることを特徴とするものである。
【0159】
尚、本発明において湿式成膜法とは、成膜方法、即ち、塗布方法として、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法を採用し、この塗布膜を乾燥して膜形成を行う方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、が好ましい。これは、湿式成膜法において、塗布用組成物として用いられる本発明の有機電界発光素子用組成物に特有の液性に合うためである。
【0160】
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成およびその一般的形成方法等について、図1を参照して説明する。
図1は本発明の有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0161】
{基板}
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0162】
{陽極}
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
【0163】
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、
カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0164】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0165】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
【0166】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0167】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
【0168】
{正孔注入層}
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
【0169】
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0170】
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0171】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0172】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物および溶剤を含有する。
【0173】
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送能を有する化合物であれば、高分子化合物であっても、低分子化合物であってもよい。
【0174】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物等が挙げられる。
【0175】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物の1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物の1種または2種以上を併用することが好ましい。
【0176】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0177】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0178】
【化16】
【0179】
[式(I)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar〜Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar〜Arのうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0180】
【化17】
(上記各式中、Ar〜Ar16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または任意の置換基を表す。)]
【0181】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
【0182】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
【0183】
およびRが任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0184】
前記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、WO2005/089024号公報に記載のものが挙げられる。
【0185】
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01wt%以上、好ましくは0.1wt%以上、さらに好ましくは0.5wt%以上、また、通常70wt%以下、好ましくは60wt%以下、さらに好ましくは50wt%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0186】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
【0187】
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0188】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(WO2005/089024号公報);塩化鉄(いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素等が挙げられる。
【0189】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
【0190】
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0191】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよいが、陽極からの正孔注入能および陰極側への正孔輸送能を確保する点から、その正孔注入層中の含有量は、80wt%以下であることが好ましい。
【0192】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0193】
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
【0194】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0195】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
【0196】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
【0197】
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
【0198】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成することができる。
【0199】
成膜工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。
【0200】
成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
【0201】
成膜後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブンおよびホットプレートが好ましい。
【0202】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0203】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0204】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0205】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。 蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0206】
{正孔輸送層}
本発明の有機電界発光素子は正孔輸送層4を有することが好ましい。
本発明に係る正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
特に、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて発光層を形成してなる本発明の有機電界発光素子においては、正孔注入層と発光層との間の正孔注入障壁を緩和し、駆動電圧の低減や層界面への正孔の蓄積による材料の劣化の抑制や、発光層への正孔注入効率の向上による発光効率の向上などの観点から正孔輸送層を有し、また、この正孔輸送層は、正孔注入層を均一に被覆し、更には陽極由来の突起部や、パーティクルなどによる微小な異物を洗い流す、あるいは被覆する等の観点から、湿式成膜法により形成されることが好ましい。
【0207】
正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。ただし、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0208】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送能が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0209】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フ
ェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等が挙げられる。
【0210】
湿式成膜で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、塗布成膜後、加熱乾燥させる。
【0211】
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0212】
真空蒸着により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0213】
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
【0214】
正孔輸送層4は架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。ここで、架橋性化合物は、架橋基を有する化合物であって、架橋することによりポリマーを形成する。架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で有していてもよい。
【0215】
架橋性化合物の架橋基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合;ベンゾシクロブタンなどが挙げられる。
【0216】
架橋性化合物、すなわち、架橋基を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーが有する架橋基の数に特に制限はないが、単位電荷輸送ユニットあたり通常2.0未満、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下となる数が好ましい。これは正孔輸送層形成材料の比誘電率を好適な範囲に調整するためである。また、架橋基の数が多すぎると、反応活性種が発生し、他の材料に悪影響を与える可能性があるためである。ここで、単位電荷輸送ユニットとは、架橋性ポリマーを形成する材料がモノマー体の場合、モノマー体そのものであり、架橋基を除いた骨格(主骨格)のことを示す。他種類のモノマーを混合する場合においても、それぞれのモノマーの主骨格のことを示す。架橋性ポリマーを形成する材料がオリゴマーやポリマーの場合、有機化学的に共役がとぎれる構造の繰り返しの場合は、その繰り返しの構造を単位電荷輸送ユニットとする。また、広く共役が連なっている構造の場合には、電荷輸送能を有する最小繰り返し構造、乃至はモノマー構造を示す。例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ピレン、ペリレンなどの多環系芳香族、フルオレン、トリフェニレン、カルバゾール、トリアリールアミン、テトラアリールベンジジン、1,4−ビス(ジアリールアミノ)ベンゼンなどが挙げられる。
【0217】
さらに、架橋性化合物としては、架橋基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。この場合の正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0218】
架橋性化合物の分子量は、通常5000以下、好ましくは2500以下であり、また好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上である。
【0219】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解または分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜法により成膜し、その後架橋性化合物を架橋させる。
【0220】
この正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤および重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0221】
また、正孔輸送層形成用組成物は、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤、電子受容性化合物、バインダー樹脂などを含有していてもよい。
【0222】
この正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01wt%以上、好ましくは0.05wt%以上、さらに好ましくは0.1wt%以上、通常50wt%以下、好ましくは20wt%以下、さらに好ましくは10wt%以下含有する。
【0223】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させてポリマー化する。
【0224】
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。
【0225】
成膜後の加熱の手法は特に限定されないが、例としては加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の場合の加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
【0226】
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0227】
光などの電磁エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の電磁エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0228】
加熱および光などの電磁エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
【0229】
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0230】
{発光層}
正孔注入層3の上、または正孔輸送層4を設けた場合には正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0231】
<発光層の材料>
発光層5は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送能を有する化合物(正孔輸送性化合物)、あるいは、電子輸送能を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有する。発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などをホスト材料として使用してもよい。発光材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。更に、発光層5は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、湿式成膜法で発光層5を形成する場合は、何れも低分子量の材料を使用することが好ましい。
【0232】
本発明の有機電界発光素子において、発光層5は、前述の本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて形成される。従って、本発明に係る発光層5に含まれる発光材料、電荷輸送性化合物、および正孔輸送性化合物の具体例としては、前述の本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる発光材料、電荷輸送材料の具体例として例示したものと同様であり、これらはそれぞれいずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0233】
本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて発光層5を形成するには、この有機電界発光素子用組成物を塗布成膜後、得られた塗膜を乾燥し、溶剤を除去する。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、前述のいかなる方式も用いることができる。湿式成膜の具体的な方法は、上記正孔注入層3の形成において記載した方法と同様である。
【0234】
このようにして形成される発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0235】
また、発光層5における発光材料の含有割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05wt%以上、通常35wt%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0236】
また、発光層5が電子輸送性化合物を含む場合、発光層5における電子輸送性化合物の含有割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1wt%以上、通常65wt%以下である。電子輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の電子輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0237】
また、発光層5が正孔輸送性化合物を含む場合、発光層5における正孔輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1wt%以上、通常65wt%以下である。正孔輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の正孔輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0238】
{正孔阻止層}
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0239】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔が陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0240】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0241】
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0242】
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
【0243】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0244】
{電子輸送層}
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
【0245】
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0246】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9または電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0247】
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0248】
電子輸送層7の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
【0249】
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0250】
{電子注入層}
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率良く発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0251】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0252】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子注入層8の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
【0253】
{陰極}
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8または発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0254】
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0255】
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0256】
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
【0257】
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0258】
{その他の層}
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0259】
上記説明にある層の他に有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
電子阻止層は、正孔注入層3または正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は、電子阻止層を設けることが効果的である。
【0260】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法で作製する場合、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号公報記載)等が挙げられる。
【0261】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0262】
電子阻止層の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
【0263】
さらに陰極9と発光層5または電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(II)(CsCO)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0264】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。
【0265】
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0266】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0267】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
【0268】
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0269】
[有機EL表示装置]
本発明の有機EL表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0270】
[有機EL照明]
本発明の有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0271】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0272】
なお、以下の実施例、参考例および比較例において、発光層の形成に用いた有機電界発光素子用組成物中の有機電界発光素子材料としての各化合物の、20℃、1気圧でのトルエンに対する飽和溶解度は下記表1に示す通りである。
【0273】
【表1】
【0274】
参考例1]
図1に示す有機電界発光素子を製造した。
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を厚さ150nmに成膜したもの(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術により2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。陽極2を形成した基板1を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄等の処理を行った。
【0275】
該処理後の基板上に以下の通り、正孔注入層3を形成した。
正孔注入材料として、以下に示す繰り返し構造の芳香族アミン系高分子化合物PB−1(重量平均分子量:29400、数平均分子量:12600)、以下に示す構造の電子受容性化合物Pl−1、および溶剤として安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用組成物を調製した。該正孔注入層形成用組成物における、芳香族アミン系高分子化合物PB−1および電子受容性化合物Pl−1の合計の濃度は2wt%であり、芳香族アミン系高分子化合物PB−1および電子受容性化合物Pl−1の重量比は、(芳香族アミン系高分子化合物PB−1):(電子受容性化合物Pl−1)=10:4であった。
【0276】
【化18】
【0277】
該正孔注入層形成用組成物を上記処理後の基板上に、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒でスピンコートした。その後、260℃で、180分間、加熱乾燥を行った。
以上の操作により膜厚30nmの均一な正孔注入層3の薄膜が形成された。
【0278】
次いで、形成された正孔注入層3上に、以下の通り、正孔輸送層4を形成した。
以下に示す繰り返し構造の高分子化合物HT−1(重量平均分子量:17000、数平均分子量:9000)および溶剤としてトルエンを含有する正孔輸送層形成用組成物を調製した。該正孔輸送層形成用組成物における、該高分子化合物HT−1の濃度は0.4wt%であった。
【0279】
【化19】
【0280】
該正孔輸送層形成用組成物を正孔注入層3上に、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒でスピンコートした。その後、230℃で、60分間、加熱して、該高分子化合物HT−1を架橋反応させて硬化させた。
以上の操作により、膜厚20nmの均一な正孔輸送層4の薄膜が形成された。
【0281】
次いで、形成された正孔輸送層4上に、以下の通り、発光層5を形成した。
発光層5の形成には、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いた。すなわち、まず、発光材料(ドーパント材料)として以下に示す構造の化合物D−1、電荷輸送材料(ホスト材料)として以下に示す構造の化合物E−1、溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを含有する有機電界発光素子用組成物を調製した。
【0282】
【化20】
【0283】
有機電界発光素子用組成物中における、化合物D−1および化合物E−1の合計の濃度は2.3wt%であった。また、化合物D−1および化合物E−1の重量比は、(化合物D−1):(化合物E−1)=1:20であった。
【0284】
尚、20℃、1気圧におけるシクロヘキシルベンゼンに対する飽和溶解度は、化合物D−1が0.25wt%、化合物E−1が2.5wt%である。
【0285】
また、有機電界発光素子用組成物中の最も重量の多い有機電界発光素子材料(EL材料N)を化合物E−1、最も重量の少ない有機電界発光素子材料(EL材料S)を化合物D−1としたときの、前記式(1)で算出される本発明のパラメータ値は2.0であった。
【0286】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値については、以下の表2に示す。
【0287】
該有機電界発光素子用組成物を正孔輸送層4上に、スピナ回転数1000rpm、スピナ回転時間30秒でスピンコートした。その後、130℃で、60分間、加熱して乾燥させた。
以上の操作により、膜厚40nmの均一な発光層5の薄膜が形成された。
【0288】
次いで、形成された発光層5上に、真空蒸着法により正孔阻止層6として以下に示す化合物HB−1を膜厚10nmとなるように形成した。
【0289】
【化21】
【0290】
次いで、形成された正孔阻止層6上に、真空蒸着法により電子輸送層7として以下に示す化合物ET−1を膜厚30nmとなるように形成した。
【0291】
【化22】
【0292】
次いで、形成された電子輸送層7上に、真空蒸着法により電子注入層8としてフッ化リチウム(LiF)を膜厚0.5nm、陰極9としてアルミニウムを膜厚80nmとなるように、陽極2と直交する2mm幅のストライプ状に形成した。
【0293】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0294】
この素子からは、ELピーク波長462nmの青色発光が得られることを確認した。
この素子を用い、室温条件下、初期輝度500cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は500時間であった。また、正面輝度100cd/mの時の駆動電圧は、5.6Vであった。
結果を表2に示す。
【0295】
[比較例1]
発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物に含有される発光材料(化合物D−1)と電荷輸送材料(化合物E−1)の重量比を、(化合物D−1):(化合物E−1)=1:10としたこと以外は、参考例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0296】
有機電界発光素子用組成物中の最も重量の多い有機電界発光素子材料(EL材料N)を化合物E−1、最も重量の少ない有機電界発光素子材料(EL材料S)を化合物D−1としたときの、前記式(1)で算出される本発明のパラメータ値は1.0であった。
【0297】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値を表2に示す。
【0298】
この素子からは、ELピーク波長465nmの青色発光が得られることを確認した。
この素子を用い、室温条件下、初期輝度500cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は220時間であった。また、正面輝度100cd/mの時の駆動電圧は、7.0Vであった。
結果を表2に示す。
【0299】
[実施例2]
正孔輸送層形成用組成物に用いる高分子化合物を、高分子化合物HT−1に換えて、以下に示す繰り返し構造の高分子化合物HT−2(重量平均分子量:38000、数平均分子量:18000)を用いたこと、および、発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物に含有される発光材料(化合物D−1)に換えて、以下の構造で示される発光材料(化合物D−2)を使用し、発光材料(化合物D−2)と電荷輸送材料(化合物E−1)の重量比を、(化合物D−2):(化合物E−1)=1:10としたこと以外は、参考例1と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0300】
【化23】
【0301】
尚、化合物D−2の20℃、1気圧におけるシクロヘキシルベンゼンに対する飽和溶解度は2.5wt%である。
【0302】
また、有機電界発光素子用組成物中の最も重量の多い有機電界発光素子材料(EL材料N)を化合物E−1、最も重量の少ない有機電界発光素子材料(EL材料S)を化合物D−2としたときの、前記式(1)で算出される本発明のパラメータ値は10.0であった。
【0303】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値を表2に示す。
【0304】
この素子からは、ELピーク波長464nmの青色発光が得られることを確認した。
この素子を用い、室温条件下、初期輝度500cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は900時間であった。また、正面輝度100cd/mの時の駆動電圧は、5.1Vであった。
結果を表2に示す。
【0305】
[実施例3]
発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物に含有される電荷輸送材料(化合物E−1)に換えて、以下の構造で示される電荷輸送材料(化合物E−2)を使用し、発光材料(化合物D−2)と電荷輸送材料(化合物E−2)の重量比を、(化合物D−2):(化合物E−2)=1:10としたこと以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0306】
【化24】
【0307】
尚、化合物E−2の20℃、1気圧におけるシクロヘキシルベンゼンに対する溶解度は1.2wt%であり、常温では2.3wt%の濃度の溶液を調製することが困難であるため、化合物D−2、化合物E−2およびシクロヘキシルベンゼンを混合した後、80℃に設定したホットプレート上で加熱し、化合物E−2を溶解したものを、再び結晶が析出する前に使用した。
【0308】
また、有機電界発光素子用組成物中の最も重量の多い有機電界発光素子材料(EL材料N)を化合物E−2、最も重量の少ない有機電界発光素子材料(EL材料S)を化合物D−2としたときの、前記式(1)で算出される本発明のパラメータ値は20.8であった。
【0309】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値を表2に示す。
【0310】
この素子からは、ELピーク波長464nmの青色発光が得られることを確認した。
この素子を用い、室温条件下、初期輝度500cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は2440時間であった。また、正面輝度100cd/mの時の駆動電圧は、6.0Vであった。
結果を表2に示す。
【0311】
【表2】
【0312】
[実施例4]
正孔輸送層形成用組成物に用いる高分子化合物を、高分子化合物HT−2に換えて、以下に示す繰り返し構造の高分子化合物HT−3(重量平均分子量:52000、数平均分子量:25000)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0313】
【化25】
【0314】
有機電界発光素子用組成物中の最も重量の多い有機電界発光素子材料(EL材料N)は化合物E−2、最も重量の少ない有機電界発光素子材料(EL材料S)は化合物D−2であり、前記式(1)で算出される本発明のパラメータ値は、実施例3と同様20.8であった。
【0315】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値については、表3に示す。
【0316】
この素子からは、ELピーク波長464nmの青色発光が得られることを確認した。
この素子を用い、室温条件下、初期輝度1000cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は1800時間であった。また、正面輝度100cd/mの時の駆動電圧は、5.9Vであった。
結果を表3に示す。
【0317】
[実施例5〜実施例6]
発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物に含有される発光材料(化合物D−2)に換えて、以下の構造で示される発光材料(化合物D−3)を用い、化合物E−2と化合物D−3の混合重量比をそれぞれ10:1(実施例5)、10:0.5(実施例6)としたこと以外は、実施例3と同様にして有機電界発光素子を得た。
尚、化合物D−3の20℃、1気圧におけるシクロヘキシルベンゼンに対する飽和溶解度は12.0wt%である。
また、化合物D−3の20℃、1気圧におけるトルエンに対する飽和溶解度は10.0wt%である。
【0318】
これらの有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値については、表3に示す。
【0319】
【化26】
【0320】
実施例5の素子からは、ELピーク波長470nmの青色発光が得られることを確認した。
この素子を用い、室温条件下、初期輝度1000cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は1950時間であった。また、正面輝度100cd/mの時の駆動電圧は、5.7Vであった。
【0321】
実施例6の素子からは、ELピーク波長468nmの青色発光が得られることを確認した。
この素子を用い、室温条件下、初期輝度1000cd/mで定電流駆動の駆動試験を実施した結果、正面輝度が半減するまでに要した時間(輝度半減寿命)は2310時間であった。また、正面輝度100cd/mの時の駆動電圧は、5.0Vであった。
結果を表3に示す。
【0322】
【表3】
【0323】
[比較例2]
正孔輸送層形成用組成物に用いる高分子化合物として、高分子化合物HT−1に換えて以下の構造で示される高分子化合物HT−4(重量平均分子量:17000、数平均分子量:9000)を用いたこと、および発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤をトルエンとし、電荷輸送材料(ホスト材料)として以下の構造で示される化合物E−3および化合物H−1、発光材料(ドーパント材料)として以下の構造で示される化合物D−4を用い、化合物E−3、H−1およびD−4の混合重量比を10:10:1、有機電界発光素子用組成物中の全固形分濃度を1.8wt%としたこと以外は比較例1と同様にして、有機電界発光素子を得た。
【0324】
20℃、1気圧におけるトルエンに対する化合物E−3の飽和溶解度は3wt%、化合物H−1の飽和溶解度は2.5wt%、化合物D−4の飽和溶解度は0.05wt%である。
【0325】
この素子からは、ELピーク波長510nmの緑色発光が得られることを確認した。
この素子を用い、初期輝度2500cd/mの条件で駆動試験を実施した結果、輝度半減までに要した時間は340時間と短かった。
尚、化合物E−3およびD−4から計算した本発明のパラメータ値の値は0.16、化合物H−1およびD−4から計算した本発明のパラメータ値は0.2であった。
これらの結果を表4に示す。
【0326】
【化27】
【0327】
参考例7]
発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物に含有される電荷輸送材料(ホスト材料)として化合物E−3および以下の構造で示される化合物H−2を用い、発光材料(ドーパント材料)として以下の構造で示される化合物D−5を用い、化合物E−3、H−2および化合物D−5の混合重量比を5:15:1、全固形分濃度を5.0wt%としたこと以外は、実施例4と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0328】
尚、20℃、1気圧におけるシクロヘキシルベンゼンに対する化合物D−5の飽和溶解度は5.0wt%、化合物E−3の飽和溶解度は2.5wt%、化合物H−2の飽和溶解度は1.4wt%であった。常温では化合物H−2の溶解度が小さく、全固形分濃度5.0wt%(化合物H−2の濃度3.57wt%)に調製することが困難であったため、化合物E−3、H−2、D−5およびシクロヘキシルベンゼンを混合した後、100℃に設定したホットプレート上で加熱し、材料を溶解したものを、再び結晶が析出する前に使用した。
【0329】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値と、得られた素子を用い、初期輝度2500cd/mの条件で駆動試験を実施したときの、輝度半減までに要した時間を表4に示す。
【0330】
【化28】
【0331】
参考例8]
発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物に含有される電荷輸送材料(ホスト材料)として化合物E−3および以下の構造で示される化合物H−3を用い、発光材料(ドーパント材料)として以下の構造で示される化合物D−6を用い、化合物E−3、H−3および化合物D−6の混合重量比を15:5:1、全固形分濃度を5.0wt%としたこと以外は、参考例7と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0332】
尚、20℃、1気圧におけるシクロヘキシルベンゼンに対する化合物D−6の飽和溶解度は1.0wt%、化合物H−3の飽和溶解度は10.0wt%であった。
【0333】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値と、得られた素子を用い、初期輝度2500cd/mの条件で駆動試験を実施したときの、輝度半減までに要した時間を表4に示す。
【0334】
【化29】
【0335】
参考例9]
発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物として、化合物E−3、H−3および化合物D−6の混合重量比を15:5:2としたこと以外は、参考例8と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0336】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値と、得られた素子を用い、初期輝度2500cd/mの条件で駆動試験を実施したときの、輝度半減までに要した時間を表4に示す。
【0337】
参考例10]
発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物として、化合物E−3、H−3および化合物D−6の混合重量比を15:5:3としたこと以外は、参考例8と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0338】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値と、得られた素子を用い、初期輝度2500cd/mの条件で駆動試験を実施したときの、輝度半減までに要した時間を表4に示す。
【0339】
参考例11]
発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物として、化合物E−3、H−3および化合物D−6の混合重量比を15:5:0.5としたこと以外は、参考例8と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0340】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値と、得られた素子を用い、初期輝度2500cd/mの条件で駆動試験を実施したときの、輝度半減までに要した時間を表4に示す。
【0341】
[比較例3]
発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物として、化合物E−3、H−3および化合物D−6の混合重量比を5:15:1としたこと以外は、参考例8と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0342】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値と、得られた素子を用い、初期輝度2500cd/mの条件で駆動試験を実施したときの、輝度半減までに要した時間を表4に示す。
【0343】
[比較例4]
発光層5を形成する際に用いた有機電界発光素子用組成物として、化合物E−3、H−3および化合物D−6の混合重量比を12:5:4としたこと以外は、参考例8と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0344】
この有機電界発光素子用組成物における、各有機電界発光素子材料の組成物中の溶剤に対する飽和溶解度、重量比および本発明のパラメータ値と、得られた素子を用い、初期輝度2500cd/mの条件で駆動試験を実施したときの、輝度半減までに要した時間を表4に示す。
【0345】
【表4】
【0346】
以上の結果から、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、長寿命で駆動電圧の低い有機電界発光素子を実現することができることが分かる。
【符号の説明】
【0347】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
図1