(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
反射鏡を用いて太陽光を集光し、集光した光を集熱管を備えた集熱器にて熱へと変換し、前記熱を利用して水蒸気を発生させ、前記水蒸気により蒸気タービンを駆動して発電を行う集光型太陽熱発電システムであって、
前記集熱器は、請求項7に記載の集熱器であることを特徴とする集光型太陽熱発電システム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第一実施形態)
以下、本発明の一実施形態である第一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る集熱管の構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態に係る集熱管100は、本体部101と、その外側表面に形成されたコーティング層102とを備える。
図1は、集熱管100の構造をわかり易く説明するために、本体部101とコーティング層102の位置をずらしており、厳密には、本体部101の外側表面全体にコーティング層102が形成されている。
【0021】
本体部101は、横長の形状であって、内部に熱媒体を収容できるように構成されている。具体的には、円管形状又は楕円管形状等の管である。
本体部101の材料は、石英ガラス等のガラスである。
本体部101のサイズは、特に限定されるものではなく、用途に応じて所望の形状、サイズ等を適宜選択できる。一例としては、直径(外径)1cm〜90cmのガラス管が挙げられる。直径(外径)が1cm未満では、熱媒体を収容するのに充分な容積がなく、ガラス管の直径が90cmを超えるものは、ガラス管の温度が均一になりにくく、ガラス管の各部分の温度の不均一性に起因して破壊され易くなる。
【0022】
コーティング層102は、本体部101の外側表面全体に形成されている。本体部101の外側表面とは、太陽光の反射光が照射される部分である。
【0023】
コーティング層102は、室温(25℃)での波長1〜15μmにおける放射率が0.70〜0.98であることが好ましく、0.92〜0.98であることがより好ましい。
波長1〜15μmの領域は、いわゆる近赤外線と遠赤外線領域であり、大きな熱を発生しやすい領域である。この放射率が0.70未満であると、充分な伝熱効率を得ることができず、この放射率が0.98を超えるものは作製が難しい。そのため、放射率が0.70〜0.98であると、反射光によるコーティング層102から本体部101内部への伝熱効率を高めることができる。
放射率の測定は、コーティング層102の外側表面について測定を行っても良く、測定試料を別途調整して測定しても良い。放射率の測定方法としては、既知の分光光度法による測定を用いることができる。
【0024】
なお、コーティング層102が形成されていないガラス管の室温(25℃)での波長1〜15μmにおける放射率は、0.56である。
また、物体からの単位面積あたりの放射伝熱速度は、ステファン・ボルツマンの法則に従い、物体の温度の4乗と物体の放射率との積に比例する。したがって、放射率が高い程、伝熱速度(熱伝導率)が高いと考えることができる。
本実施形態に係るコーティング層102の室温(25℃)での熱伝導率は、0.1〜2.8W/mKであることが好ましく、1.2〜2.8W/mKがより好ましく、1.2〜2.0W/mKがさらに好ましい。
【0025】
コーティング層102の色は、黒色であるため、太陽光の反射光を低減させ、太陽光を効率良く吸収できる。
【0026】
黒色のコーティング層102としては、遷移元素の酸化物を主成分とする赤外線放射体(結晶性無機材)と、軟化温度が400〜1000℃である無機化合物(非晶質無機材料)とを含む赤外線黒体塗料組成物からなるものが挙げられる。
遷移元素の酸化物とは、例えば、二酸化マンガン、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化銅及び酸化クロムから選ばれる少なくとも1種であり、なかでも二酸化マンガンが特に望ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このような遷移金属の酸化物は、赤外線領域における放射率が高いため、放射率の高いコーティング層102を形成することができる。
【0027】
軟化温度が400〜1000℃である無機化合物としては、低融点高膨張ガラスが好ましく、具体的には、アルミナ珪酸ガラス、ポタッシュ鉛ガラス、ソーダ鉛ガラス、ソーダ亜鉛ガラス、ソーダバリウムガラス、バリウムガラス、ボロンガラス、ストロンチウムガラス、高鉛ガラス及びポタッシュソーダ鉛ガラスから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
これらの低融点高膨張ガラスは、融解させて本体部101の外側表面に塗布して加熱焼成処理する際に本体部101とのなじみ(密着性)が良いため、本体部101の外側表面に容易にしかも強固にコーティング層102を形成することができる。
無機化合物の軟化温度が400℃未満では、コーティング層102を形成した後、集熱管100の本体部101の温度が高くなるとコーティング層102が流動し易くなって剥がれ落ちやすくなり、一方、無機化合物の軟化温度が1000℃を超えると、コーティング層102の材料を融解させて本体部101の外側表面に塗布するのが難しくなる。
【0028】
なお、コーティング層102を構成する材料のうち、室温(25℃)での波長1〜15μmにおける放射率が、0.75〜0.98である遷移金属の酸化物を主成分とする赤外線放射体及び室温(25℃)での波長1〜15μmにおける放射率が0.65〜0.96である軟化温度が400〜1000℃である無機化合物を用いてコーティング層102を形成した場合には、コーティング層102の放射率を0.70〜0.98の範囲内とすることができる。
【0029】
また、コーティング層102を構成する材料のうち、遷移金属の酸化物を主成分とする赤外線放射体の熱膨張係数は8×10
−6〜9×10
−6/℃と低く、軟化温度が400〜1000℃である無機化合物の熱膨張係数は8×10
−6〜25×10
−6/℃と高いため、上記赤外線放射体と上記無機化合物との配合比を調整することによりコーティング層102の熱膨張係数を制御することができる。ガラスからなる本体部101の熱膨張率は、例えば、5×10
−7/℃であるため、上記結晶性無機材と上記非晶質無機材との配合比とを調整することにより、コーティング層102とガラスからなる本体部101との熱膨張係数を近づけることができ、両者の密着力を向上させることができる。
コーティング層102の望ましい熱膨張率は本体部101を構成する金属材料との組み合わせによって異なるが、コーティング層102と集熱管100の本体部101との熱膨張率の差は、1×10
−5/℃以下であることが好ましい。
【0030】
コーティング層102中の結晶性無機材の配合比率は、上述のとおり熱膨張係数の制御との関係で決定することができるが、その望ましい下限は10重量%、より望ましい下限は30重量%であり、望ましい上限は90重量%、より望ましい上限は70重量%である。結晶性無機材の配合比率が10重量%未満であると放射率を充分に高めることができず、高温での放熱性が低下してしまい、また、結晶性無機材の配合比率が90重量%を超えると集熱管100の本体部101との密着性が低下するためである。
【0031】
上記コーティング層102の室温(25℃)での熱伝導率は、0.1〜2.8W/mKであることが好ましい。上記熱伝導率は、細線加熱法、熱線法、レーザーフラッシュ法等の既知の測定方法によって測定することができる。
しかしながら、コーティング層102を集熱管100の本体部101に形成した状態で熱伝導率を測定すると、本体部を含んだ集熱管100全体の熱伝導率を測定することとなり、コーティング層102自体の熱伝導率を測定することができないので、その測定試料は別途調製する必要がある。
上記コーティング層102の室温(25℃)での熱伝導率が、0.1W/mK未満では、コーティング層102の熱伝導率が低すぎて熱媒体に良好に熱を伝達することができず、一方、上記コーティング層102の室温(25℃)での熱伝導率が、2.8W/mKを超える場合は、コーティング層102を形成することが困難となる。
【0032】
具体的には、結晶性無機材と非晶質無機材を所定の割合で粉砕混合し、次に、非晶質無機材の融点以上の温度に加熱して非晶質無機材を融解させた状態で混錬し、冷却固化して固形物を作製する。
この固形物を、各測定方法に適した形状に加工することにより、既知の測定方法によって熱伝導率を測定することができる。
【0033】
室温(25℃)での熱伝導率が、0.5〜2.8W/mKである結晶性無機材としての遷移金属の酸化物、及び室温(25℃)での熱伝導率が0.1〜1.2W/mKである非晶質無機材としての低融点高膨張ガラスを用いて、コーティング層102を調製した場合には、コーティング層102の室温(25℃)での熱伝導率を0.1〜2.8W/mKとすることができる。
【0034】
本発明の集熱管において、コーティング層102の室温(25℃)での熱伝導率が0.1〜2.8W/mKであると、コーティング層102から本体部101を経て熱媒体に熱が伝導伝熱される速度を速くすることができる。伝導率が0.1W/mK未満のコーティング層102とすることは、上記したコーティング材料の組成では困難である。
【0035】
コーティング層102の厚みは、特に限定されるものではないが、0.2〜50μmであることが好ましく、0.2〜1.5μmであることがより好ましい。コーティング層102の厚みが0.2μm未満であると、集熱管100の外側表面における太陽光の反射防止効果が低くなる傾向にあり、コーティング層102の厚みが50μmを超えると、均一な厚みのコーティング層102の形成が難しくなる。また、コーティング層102の厚みは、厚いと作製コストの上昇につながるため、薄い方が好ましい。
【0036】
以下、本実施形態の集熱管の製造方法について説明する。
まず、コーティング層102を形成するためのコーティング液(コーティング材料)を調製する。
コーティング液の調製は、上記した結晶性無機材及び非晶質無機材を湿式混合することで行う。具体的には、結晶性無機材の粉末と、非晶質無機材の粉末とをそれぞれ所定の粒度、形状等になるように調製し、各粉末を所定の配合比率で乾式混合して混合粉末を調製し、さらに水を加えて、ボールミルで湿式混合することによりスラリーを調製する。混合粉末と水との配合比は、特に限定されるものでないが、混合粉末100重量部に対して、水100重量部程度が望ましい。本体部101への塗布を行うために適度な粘度とする必要があるためである。また、必要によっては、有機溶剤を使用してもよい。
【0037】
続いて、調整したコーティング液を、本体部101の外側表面全体に塗布する。コーティング液の本体部101への塗布方法は、均一な厚みのコーティング層102が得られるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、スプレーコート、カーテンコート、ディッピング、転写、ハケ塗り等の方法により行うことができる。
【0038】
次に、塗布したコーティング液を乾燥させて、焼成することにより厚さ0.2〜50μmのコーティング層を形成する。焼成温度は、コーティング層102と本体部101との密着性が高まるような温度設定とする。これにより、本実施形態に係る集熱管100が得られる。
【0039】
以下、本実施形態の集熱管の作用効果について列挙する。
(1)本実施形態の集熱管においては、外側表面に室温(25℃)での波長1〜15μmにおける放射率が0.70〜0.98であるコーティング層が形成されているので、太陽光の反射光による熱を集熱管の内部へ効率良く伝熱することができる。したがって、集光型の太陽熱発電に用いられる集熱器に用いると、集熱管に収容された熱媒体をより効率よく加熱できる集熱管となる。
【0040】
(2)本実施形態の集熱管では、コーティング層は、黒色であるので、太陽光の反射光の吸収を高めてより太陽光の伝熱効率を高めることができる集熱管となる。
【0041】
(3)本実施形態の集熱管では、コーティング層は、遷移元素の酸化物を主成分とする赤外線放射体と、軟化温度が400〜1000℃である無機化合物とを含む赤外線黒体塗料組成物からなるので、集熱管の本体部との密着性に優れ、集熱管が高温状態となっても、集熱管の本体部から剥離しにくい集熱管となる。
【0042】
(4)本実施形態の集熱管では、コーティング層の厚みは、0.2〜50μmであるので、コーティング液(コーティング材料)を本体部の外側表面に均一に塗布することができ、所望の厚みのコーティング層が形成された集熱管とすることができる。
【0043】
(5)本実施形態の集熱管では、コーティング層は、集熱管の外側表面全体に形成されているので、より伝熱効率を高めることができるとともに、熱の放熱を抑制できる。
【0044】
(6)本実施形態の集熱管では、コーティング層を形成する遷移元素の酸化物は、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化銅及び酸化クロムから選ばれる少なくとも1種であり、無機化合物は、アルミナ珪酸ガラス、ポタッシュ鉛ガラス、ソーダ鉛ガラス、ソーダ亜鉛ガラス、ソーダバリウムガラス、バリウムガラス、高鉛ガラス及びポタッシュソーダ鉛ガラスから選ばれる少なくとも1種からなる低融点高膨張ガラスであるので、本体部との密着性に優れたコーティング層を有する集熱管となる。
【0045】
以下、本発明の第一実施形態をより具体的に開示した実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
本体部101として、石英ガラスからなるガラス管を用いた。ガラス管は、厚み2mm、直径100mmの円筒を長さ100mmに切断したものである。
【0047】
(コーティング層の形成)
次に、結晶性無機材料としてMnO
2粉末65wt%、CuO粉末5wt%と、非晶質無機材料としてBaO−SiO
2ガラス粉末30wt%を乾式混合して混合粉末を調製し、混合粉末100重量部に対して水を100重量部加えて、ボールミルで湿式混合することによりスラリー(コーティング材料)を調製した。
【0048】
このスラリーを、上記ガラス管の外面表面に向けてスプレーコートすることによって塗布する塗布工程を行った。
その後、スプレーコートにより塗布層が形成された上記ガラス管を、100℃で2時間乾燥した後、空気中700℃で1時間加熱焼成する焼成工程を行ってコーティング層102を形成し、これによって集熱管100を作製した。
形成したコーティング層102について、室温(25℃)での波長1〜15μmにおける放射率を分光光度計(測定装置:Perkin Elmer製:system200型)によって測定した。また、形成したコーティング層102の厚みを測定した。コーティング層102の厚みは、ガラス管を切断し、切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定することにより行った。
得られたコーティング層102の放射率及び厚みの結果を表1に示す。
【0049】
なお、上記スラリーの調製に際し、上記組成の結晶性無機材と非晶質無機材とを粉砕混合し、次に、非晶質無機材の融点以上の温度に加熱して非晶質無機材を融解させた状態で混錬し、冷却固化して固形物を作製して、熱伝導率λを迅速熱伝導率計(京都電子工業製:QTM−500)により測定した。また、熱膨張係数αを室温(25℃)から100℃の範囲についてTMA(Thermo Mechanical Analysis)装置(リガク製:TMA8310)により測定した。得られたスラリーの熱伝導率λ及び熱膨張係数αの結果を表1に示す。
【0050】
(昇温時間の評価)
集熱管100を、パナソニック製でRPS−500WB、100V、150Wのスポット写真用ランプを4つ用いてサンプル表面より50mmの距離から加熱し、室温(25℃)から100℃に到達するまでの昇温時間を測定した。昇温時間の測定結果を表1に示した。
【0051】
(コーティング層102の密着性の評価)
集熱管100を電気炉を用いて800℃まで上昇させ、自然放冷により室温(25℃)まで冷却する工程を1サイクルとして、10サイクルの繰り返し試験を行い、繰り返し試験後にコーティング層102が本体部101から剥がれているか否かを目視で観察した。コーティング層102の密着性の評価結果(剥がれの有無)を表1に示した。
【0052】
(実施例2〜7)
コーティング層102の材料として、非晶質無機材料の割合、結晶材料の種類をそれぞれ表1に示す通りとした。すなわち、実施例2では、MnO
2、Fe
3O
4を30wt%、実施例3では、MnO
2、CuOを70wt%、実施例4では、MnO
2、Fe
3O
4を10wt%、実施例5では、ムライトを30wt%、実施例6では、MnO
2、CuOを90wt%、実施例7では、Al
2O
3を30wt%とした。これらの材料を用いて実施例1と同様にして集熱管100の作製を行った。
ここで、結晶材料の割合は、表1に示す非晶質無機材料の割合を100%から除いた割合とし、結晶材料が2種の材料よりなる場合、その組成はそれぞれMnO
2:CuO=65wt%:5wt%、MnO
2:Fe
3O
4=65wt%:5wt%とした。
各実施例においては、実施例1と同様にしてコーティング層102の、熱伝導率λ、熱膨張係数α、放射率及び厚みを測定した。その結果を表1に示した。
また、各実施例においては、スラリーをスプレーコートする条件を変更して、表1に示すコーティング層厚みとなるように、塗布工程を行った。
【0053】
各実施例においては、実施例1と同様にそれぞれの昇温時間の測定及びコーティング層102の密着性の評価(剥がれの有無)の評価を行った。
本体部101及びコーティング層102の組成を表1に示す。また、その評価結果を合わせて表1に示す。
【0054】
(比較例1)
ガラス管にコーティング層を形成しない他は実施例1と同様にして、ガラス管を作製した。
実施例1と同様に昇温時間の測定を行った。
その評価結果を表1に示す。
【0056】
表1から明らかなように、実施例1〜7で作製した集熱管は、室温(25℃)から100℃までの昇温時間が155〜205秒となり、比較例1の昇温時間250秒に比べて短いことがわかる。そのため、実施例1〜7は、昇温時間が短く、短時間で所望の温度とすることができる。これは、実施例1〜7の集熱管は、コーティング層により吸熱性が良いためと考えられる。また、実施例1〜7の放射率は0.92〜0.98と比較例1の0.56に比べて高いため、実施例1〜7の集熱管を太陽熱発電の集熱器として使用した場合には、コーティング層102から放熱して、本体部101に収容された熱媒体に効率良く熱を伝えることができると考えられる。
比較例1は、昇温時間が250秒と長く、所望の温度とするのに時間がかかる。また、放射率が0.56と低く、金属管自体の温度が高くなっているため、この集熱管を太陽熱発電の集熱器として使用した場合には、熱伝導性に劣り、金属管内に収容された熱媒体に効率良く熱を伝えることができないと考えられる。
【0057】
(第二実施形態)
以下、本発明の一実施形態である第二実施形態について説明する。本実施形態では、本発明の第一実施形態に係る集熱管において、集熱管100の本体部が金属で構成された集熱管について説明する。なお、本体部以外の構成は、本発明の第一実施形態と同じであるので、ここでは、本体部を中心に説明する。
【0058】
本実施形態において、集熱管100の本体部101を構成する金属としては、鋼、鉄、銅等の金属、インコネル、ハステロイ、インバー等のニッケル基合金、ステンレス等の合金等を使用することができる。これらの金属材料は熱伝導率が高いため、集熱管の本体部として使用した場合には、収容された熱媒体への伝導伝熱速度を速くすることができ、所定温度までの昇温時間を短縮することができる。
【0059】
また、これらの金属材料は耐熱性が高いため、500〜1000℃の温度領域で好適に使用することができる。集光型太陽熱発電での使用を考慮すると、500℃未満では、太陽光を吸収した際の温度が充分に高いとは言えず、1000℃を超えると、金属材料の耐久性に問題が生じる。
また、これらの金属材料を集熱管100の本体部101とすることにより、本発明の集熱管100を耐熱衝撃性、加工性、機械的特性等に優れた比較的安価な集熱管とすることができる。
【0060】
なお、これらの集熱管の厚さは0.2〜10mmが好ましく、0.4〜4mmがさらに好ましい。
集熱管100の厚みが0.2mm未満であると集光型太陽熱発電の集熱管として使用するには、強度が不足し、集熱管100の厚みが10mmを超えると金属材料の熱容量が大きくなりすぎるため、収容した熱媒体の昇温に要する時間が長くなる。
【0061】
集熱管100の外側表面に形成されるコーティング層は、遷移元素の酸化物を主成分とする赤外線放射体と、軟化温度が400℃〜1000℃である無機化合物とを含む赤外線黒体塗料組成物からなるので、コーティング層は、集熱管100の本体部101との密着性に優れ、集熱管が高温状態となっても、本体部101から剥離しにくい集熱管となる。無機化合物の軟化温度が400℃未満では、コーティング層102を形成した後、集熱管100の本体部101の温度が高くなるとコーティング層102が流動し易くなり、剥がれ落ちやすくなり、一方、無機化合物の軟化温度が1000℃を超えると、コーティングを融解させて外側表面に塗布するのが難しくなる。
【0062】
なお、コーティング層102を構成する材料のうち、遷移金属の酸化物を主成分とする赤外線放射体の熱膨張係数は8×10
−6〜9×10
−6/℃と低く、軟化温度が400〜1000℃である無機化合物の熱膨張係数は8×10
−6〜25×10
−6/℃と高いため、上記赤外線放射体と上記無機化合物との配合比を調整することによりコーティング層102の熱膨張係数を制御することができる。金属からなる本体部101、例えばステンレスの熱膨張率は1×10
−5〜18×10
−6/℃であるため、上記結晶性無機材と上記非晶質無機材との配合比とを調整することにより、コーティング層102と金属材料からなる本体部101との熱膨張係数を近づけることができ、コーティング層102と本体部101との密着力を向上させることができる。
コーティング層の望ましい熱膨張率は本体部101を構成する金属材料との組み合わせによって異なるが、コーティング層102と集熱管100(本体部101の金属材料)との熱膨張率の差が1×10
−5/℃以下であることが好ましい。
【0063】
本実施形態においては、金属材料からなる集熱管100の本体部101の外側表面にコーティング層102を形成するに先立って、集熱管100の本体部101の表面処理を行うことが望ましい。集熱管100の本体部の表面処理は、本体部上の不純物を除去する工程である。表面処理方法は、特に限定されるものでなく、一般的な洗浄方法を使用することができる。例えば、アルコール溶媒中で超音波洗浄する方法、酸を用いた洗浄方法等を挙げることができる。
【0064】
また、集熱管100の本体部101の外側表面にコーティング層102を形成した後には、本体部101を焼成してコーティング層102を本体部101上に定着させることが好ましい。
【0065】
以下、本発明の第二実施形態に係る集熱管の作用効果について列挙する。
本実施形態においては、本発明の第一実施形態の(1)〜(6)の作用効果を奏するほか、下記の効果を奏する。
【0066】
(7)本実施形態の集熱管では、本体部が金属で形成されているので、強度の高い集熱管が得られる。
【0067】
以下に、本発明の第二実施形態をより具体的に開示した実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例8〜15)
金属材料にて形成された本体部101を用いて、実施例1〜7と同様にして集熱管100を作製した。そしてそれ以外は、実施例1と同様にして、コーティング層102の各種物性を測定した。さらに、実施例1と同様にして、それぞれの昇温時間の測定及びコーティング層102の密着性の評価(剥がれの有無)の評価を行った。
本体部101及びコーティング層102の組成を表2に示す。また、その評価結果を合わせて表2に示す。
【0068】
なお本体部101は、室温(25℃)における熱伝導率(λ)が25W/mK、室温(25℃)から100℃の範囲で測定した熱膨張係数(α)が10.4×10
−6/℃であるSUS430材であって、厚み2mm、直径100mmの円筒を長さ100mmに切断したものを用いた。
また、本体部101は、アルコール溶媒中で超音波洗浄して、その後にサンドブラスト処理することによって、その外側表面を洗浄及び粗化する表面処理工程を行った。
サンドブラスト処理は、♯600のSiC砥粒を用いて10分間行った。
ここで、表面処理工程後の本体部の外側表面のRzJISを測定したところ、1.5μmであった。
【0069】
(比較例2)
実施例8と同様の金属材料を用いて形成された本体部101に、コーティング層を形成しなかった。この本体部101のみからなる集熱管を用いて、実施例1と同様にして、昇温時間の測定を行った。
本体部101の組成及び評価結果を表2に示す。
【0071】
表2から明らかなように、実施例8〜15で作製した集熱管は、昇温時間が155〜205秒と、比較例2の250秒という昇温時間に比べて短いことがわかる。これは、実施例8〜15の集熱管は、コーティング層により吸熱性が良いためと考えられる。また、実施例8〜15は、放射率が0.92〜0.98と比較例2の0.30に比べて高いため、実施例8〜15の集熱管を太陽熱発電の集熱器として使用した場合には、コーティング層102から放熱して、本体部101に収容された熱媒体に効率良く熱を伝えることができると考えられる。
比較例2は、昇温時間が250秒と長く、所望の温度とするのに時間がかかる。また、放射率が0.56と低く、金属管自体の温度が高くなっているため、この集熱管を太陽熱発電の集熱器として使用した場合には、熱伝導性に劣り、金属管内に収容された熱媒体に効率良く熱を伝えることができないと考えられる。
【0072】
(第三実施形態)
以下、本発明の集光型太陽熱発電システムの一実施形態である第三実施形態について説明する。
本実施形態に係る集光型太陽熱発電システムでは、集熱器として、本発明の第一実施形態に係る集熱管が用いられている。また、集光型太陽熱発電システムとしては、トラフ型の太陽熱発電システムを例に挙げて説明する。
【0073】
図2は、本発明の第三実施形態に係る集光型太陽熱発電システムを模式的に示す説明図である。
図3(a)は、
図2に示した集光型太陽熱発電システムを構成する集熱器を説明するための斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示した集熱器のA−A線に沿う断面図である。
【0074】
図2に示す集光型太陽熱発電システム200は、複数の反射鏡210を介して集熱器220に太陽熱を集め、この熱を利用して水蒸気発生器230で水蒸気を発生させ、これにより蒸気タービン240を駆動して発電を行うように構成されている。
本実施形態に係る集光型太陽熱発電システムは、熱媒体を循環させる熱媒体循環領域Aと、水蒸気を循環させるための水蒸気循環領域Bの2つの領域に大別される。
【0075】
まず、熱媒体循環領域Aについて説明する。
熱媒体循環領域Aには、複数の反射鏡210及び集熱器220が設けられている。
図3(a)、(b)に示すように、反射鏡210は、断面が略円弧状に形成された横長の形状であり、縦方向(長手方向)及び横方向に複数配置されている。長手方向に配置された反射鏡210は、共通の軸(図示せず)で連結されており、反射面の中央部、すなわち焦線上に配置された集熱器220に太陽光310の反射光311が当たるように調整されている。また、太陽が地平線を移動するにつれて、追跡用モータ(図示せず)で軸を回転させて太陽の軌道を追いかけるよう構成されている。
【0076】
集熱器220は、
図3(b)に示すように、本発明の第一実施形態に係る集熱管100内に熱媒体221を収容したものである。熱媒体221は、太陽光310の熱を吸収する熱伝導油(オイル)である。
【0077】
図2に示すように、複数の反射鏡210によって太陽光310が集光され、集熱器220に集光された太陽光の熱が蓄えられると、加熱された熱媒体221は、配管251を通って再熱器292及び過熱器260に熱を供給しつつ、さらに水蒸気発生器230へと供給される。
水蒸気発生器230では、熱媒体221から供給された熱により水蒸気が発生し、後述する水蒸気循環領域Bでの動作が行われる。
水蒸気発生器230を通過した熱媒体221は、温度が下がった状態となっているため、配管253に設けられた循環ポンプ271によって再び集熱器220へと供給され、上記処理が繰り替えされる。このように熱媒体221は、集熱器220と水蒸気発生器230との間を循環するものである。
【0078】
なお、再熱器292は、熱媒体221の日中の温度変動を抑制するためのものである。
再熱器292には、蓄熱器(図示せず)が備えられており、上記のように熱媒体221から供給された熱を蓄熱器に蓄熱する。蓄熱された熱は、例えば、日没後に温度低下した熱媒体221の過熱に用いられる。このように再熱器292によってある程度過熱された状態で集熱器220に熱媒体221が供給されると、日の出後の熱媒体循環領域Aにおける動作を迅速に立ち上げることができる。
【0079】
次に、水蒸気循環領域Bについて説明する。
上記のように、加熱された熱媒体221により水蒸気発生器230に熱が供給されると、熱媒体221と熱交換した水が水蒸気となる。この水蒸気は飽和状態であり、配管254を通って過熱器260に供給される。過熱器260において飽和状態の水蒸気はさらに過熱され、より温度の高い過熱水蒸気となる。過熱水蒸気は、配管255を通って蒸気タービン240に供給され、蒸気タービン240を駆動する。これにより発電機280が稼働して発電が行われる。
【0080】
蒸気タービン240を通過した水蒸気は、配管256を通ってコンデンサ290を備えた冷却塔291に導かれて復水した後、配管257を通って、循環ポンプ272により予熱器231及び水蒸気発生器230へと供給される。また、必要に応じて一部の水は、循環ポンプ273により配管258を通って、補助ボイラ410へと供給され、加熱された後、配管259を通って蒸気タービン240へと供給される。
【0081】
補助ボイラ410は、蓄熱器411を介して、上記した熱媒体循環領域Aの配管251と接続されている。太陽光により温められた熱媒体221は、その一部が配管251から蓄熱器411へと供給され、過剰な熱は蓄熱器411で蓄えられる。蓄熱器411に熱を供給した熱媒体221は、再び上記した熱媒体循環領域Aへ戻り、上記と同様の動作を繰り返す。
蓄熱器411で蓄えられた熱は、日没後、雨天、曇天等には、熱媒体循環領域Aからの水蒸気の供給がなくなることから、このような状態となったときに補助ボイラ410に熱を供給して、蒸気タービン240に配管259を介して水蒸気を供給するように構成されている。
なお、本発明の第一実施形態の集熱管を用いた集光型太陽熱発電システムについて説明を行ったが、本発明の第二実施形態の集熱管を用いても同様の効果が得られる。
【0082】
以下、本発明の第三実施形態に係る集光型太陽熱発電システムの作用効果について列挙する。
(1)本実施形態の集光型太陽熱発電システムにおいては、本発明の第一実施形態に係る集熱管が集熱器として用いられているので、照射された太陽光を、効率よく熱に変換することができ、効率よく発電を行うことが出来る。
【0083】
(2)従来のトラフ型太陽熱発電では、熱媒体は400℃程度に加熱されていたが、本実施形態の集光型太陽熱発電システムにおいては、本発明の第一実施形態に係る集熱管を用いた集熱器220を用いているため、熱媒体221を500℃程度にまで加熱することが可能となる。
【0084】
(3)本実施形態の集光型太陽熱発電システムにおいては、蓄熱器と接続された補助ボイラが設けられているので、夜間の発電も可能となる。
【0085】
(4)本実施形態の集光型太陽熱発電システムにおいて、補助ボイラは、天然ガスなどの燃料を用いて水蒸気を発生させることもできるため、曇天時などにおいても発電を行うことができ、安定して電力を供給できる。
【0087】
本発明の第一、第二実施形態では、コーティング層102は、本体部101の外側表面全体に形成されていたが、コーティング層102は、反射光が照射される少なくとも本体部101の外側表面の一部に形成されていればよい。
【0088】
本体部101は、多層構造であってもよい。一例としては、真空二重管型の本体部が挙げられる。真空二重管型の本体部は、2重構造であり、外側に配置される外管内に熱媒体が収容される内管が挿入され、外管と内管との間が真空状態に保たれたものである。真空二重管型とすることで、熱媒体に蓄熱した熱の放熱を抑制できる。
【0089】
また、
図2に示した集光型太陽熱発電システムは、本発明の第三実施形態に係る集光型太陽熱発電システムの一例であって、発電システムを構成する部材等は
図2に示すものに限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定できる。例えば、
図2に示す集光型太陽熱発電システムには、再熱器、過熱器、蓄熱器等を複数設けてもよい。また、補助ボイラ410は必ずしも必要ではなく、循環ポンプ271、272、273の数、配置位置等も適宜変更可能である。
また、本発明の第三実施形態では、水蒸気循環領域Bにおいて、蓄熱器を備えた補助ボイラを有する例を挙げて説明したが、蓄熱器と補助ボイラとが別々に設けられた構成としてもよい。蓄熱器における蓄熱材は、特に限定されるものではないが、例えば、砂、溶融塩等を用いることができる。
【0090】
また、本発明の第三実施形態では、トラフ型の集光型太陽熱発電システムについて説明したが、本発明の第一、第二実施形態に係る集熱管は、その他の集光型太陽熱発電システムにも適用できる。その他の集光型太陽熱発電システムとしては、フレネル型、タワー型、パラボラ・ディッシュ型の集光型太陽熱発電システム又はトラフ型の集光型太陽熱発電システムと火力発電とを結合した、ISCCS(Integrated Solar Combined Cycle System)と呼ばれる発電システムにも適用できる。すなわち、反射鏡と集熱管とを用いた集光型太陽熱発電システムであれば、他の型式の集光型太陽熱発電システムにも適用することができる。
【0091】
本発明の第三実施形態では、熱媒体としてオイルを用いた例を挙げて説明したが、熱媒体としては、オイルだけでなく、水、低粘度の有機溶媒、水蒸気、空気、又は、アルゴン等も適用することができる。