(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5743575
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】サーマルプロテクター
(51)【国際特許分類】
H01H 37/54 20060101AFI20150611BHJP
H01H 11/00 20060101ALI20150611BHJP
H01H 37/32 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
H01H37/54 C
H01H11/00 U
H01H37/32 D
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-20011(P2011-20011)
(22)【出願日】2011年2月1日
(65)【公開番号】特開2012-160375(P2012-160375A)
(43)【公開日】2012年8月23日
【審査請求日】2014年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025140
【氏名又は名称】株式会社小松ライト製作所
(72)【発明者】
【氏名】八木 孝太
【審査官】
出野 智之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−297204(JP,A)
【文献】
特開2005−174815(JP,A)
【文献】
実開昭50−082672(JP,U)
【文献】
特開2001−313021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/54
H01H 11/00
H01H 37/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーム及び反転型の感熱素子が、カバー部及びベース部を備えるケースに収納されてなり、
前記アームは、前記ベース部に形成された固定接点と接触又は離反する可動接点を付され、
前記カバー部は、金属プレートが前記アームと当接して共にカバー樹脂部に埋設されてなり、
該カバー樹脂部は、前記金属プレートの上面を覆い、盲穴を有し、
該盲穴は、前記金属プレートと前記アームとが当接する接触域の上方位置において前記金属プレートまで至り、該盲穴の底面が溶接部位に用いられ、
前記ベース部には、接合金属部が埋設され、
前記アームは、前記溶接部位において、前記金属プレート及び又は前記接合金属部と溶接され、
前記金属プレートは、前記溶接部位の直上において貫通孔を有することを特徴とするサーマルプロテクター。
【請求項2】
請求項1において、前記金属プレートの一部が前記ケースの外部に延設されてなるカバー端子部であることを特徴とするサーマルプロテクター。
【請求項3】
請求項1又は2の一において、前記アームの一部が前記ケースの外部に延設されてなるアーム端子部であることを特徴とするサーマルプロテクター。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の一において、前記接合金属部の一部が前記ケースの外部に延設されてなる接合側端子部であることを特徴とするサーマルプロテクター。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の一において、前記盲穴の底面に溶接痕を有することを特徴とするサーマルプロテクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルプロテクターに関するものである。詳細には、低費用の装置で効率的に生産でき、且つ小型化及び低背化を図ることの可能なサーマルプロテクター及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコンなどに使用されるリチウム2次電池は、反応性に富んだ大量の化学エネルギーを小区画に備蓄した装置部品であり、発熱や発煙を未然防止するための安全装置を具備する必要がある。昨今、ノート型パソコンなどの電算機製品は携帯化が進んで、益々電池の小型化及び低背化が求められており、上記のごとき安全装置たるサーマルプロテクターも更なる小型化及び低背化を迫られている。
【0003】
かかる要求に対応して、様々の技術が提案されている。例えば、特許文献1に開示されるサーマルプロテクターは、外部接続端子が貫通する態様で一体成形した樹脂製ケースがスイッチ機構部を囲んでいるところに、このケースの上部開口が密封されるようにフィルム状のカバー部材、続いて金属製の補強部材を載せて構成される。特許文献2は、PTC素子を固定片と可動片との相対する面相互の間に配置し、熱応動素子を該PTC素子の上面に被さった状態に配置したサーマルプロテクターを開示する。
【0004】
これら従来品の一では、アーム(スイッチ機構部、可動片)がケースに載置されケース内で端子と接合された後に、カバー(カバー部材、蓋体)が該ケースを閉じている。そして、カバーにアームと金属プレート(金属板)とがインサート成形により一体的に形成されている形態おいても、カバー中の金属プレートは、アームと化学的に接合されていない。加えて、カバーの樹脂部は、該カバーを囲繞する部分でアーム及び金属プレートを接合するにとどまる。
【0005】
しかしながら、アームが化学的に接合され固定されていない形態(特許文献1)を採ると、サーマルプロテクターは端子の捻転に対して脆弱となる。さらに、カバー樹脂部の肉厚が不足すると(特許文献2)、カバーが損傷しやすく、アームの接合を含め全体的な強度も小さくなり、内部の接点が影響を受けて接触抵抗が変動しやすくなる。アームの接合強度の不足はサーマルプロテクターの品質低下を招く原因である。一方、アームをケースに載置してからケース内で端子と十分強固に接合する形態を採ると、サーマルプロテクターの小型化に限界がある。アームと端子とを接合する際に用いられる溶接用の治具をサーマルプロテクターの小型化に対応して小さくすると、この治具の摩耗が激しく、生産性の維持に限界が来るからである。
【0006】
次に、本発明と従来技術との違いを明確にするために、従来技術の形態を図説する。
図6(a)は、従来技術によるサーマルプロテクターの製造方法を概念的に図説したものである。
図6(b)は、もう一つの従来技術によるサーマルプロテクターの分解断面図である。
【0007】
図6(a)に図示される製造方法では、ベースターミナル52c(接合金属部に相当)上にアーム2を置き、このアームを治具6で、更に詳細には治具先端6aで押さえ付けた状態でこれらを溶接してアームに接合を施していた。しかし、アーム2を押える治具6を更に小さくすることは困難である。なぜなら、治具6を小さくすると治具先端6aの消耗が速くなり、製造費用の高まる原因となるからであり、加えて、治具6の押圧力の減少で品質低下が起こるからである。
【0008】
図6(b)に図示されるサーマルプロテクターにおいては、蓋体51(カバー部に相当)が可動片2(アーム)と金属板51b(金属プレート)とがインサート成形により一体的に形成されているものの、金属板は上面が樹脂により覆われておらず、樹脂部51aにあたる部分は、金属板51b上でその中央より一段薄くなっている外縁部51b1を被覆するにとどまる。このような構造においては、用いられる金属板51bは、強度を得るために相当に厚み寸法を大きくせざるを得なかった。しかも、かかる蓋体51の設計をそのまま寸法縮小すれば、機械的強度が損失するのは免れない。よって、
図6(b)に図示される従来技術では小型化及び低背化に限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−351490号公報
【特許文献2】特開2005−129471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような問題を解決して、本発明は、小型化及び低背化の要求を満たしながら、端子の捻転などに対して堅牢性が維持され、且つ生産性の損なわれないサーマルプロテクター及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、アーム及び反転型の感熱素子が、カバー部及びベース部を備えるケースに収納されてなり、前記カバー部は、金属プレートが前記アームと当接して共にカバー樹脂部に埋設されてなるサーマルプロテクターであって、前記カバー樹脂部は、前記金属プレートの上面を覆い、盲穴を有することを特徴とする。さらに該盲穴は、前記金属プレートと前記アームとが当接する接触域の上方において前記金属プレートまで至り、該盲穴の底面が溶接部位に用いられる。
【0012】
(2)さらに本発明は、上記構成のサーマルプロテクターにおいて、前記アームが、前記溶接部位において、前記金属プレート、及び又は前記ベース部に埋設された接合金属部と溶接されたことを特徴とする。
【0013】
(3)さらに本発明は、上記構成のサーマルプロテクターにおいて、前記金属プレートが前記溶接部位の直上において貫通孔を有し、前記溶接部位が前記アーム及び前記ベース部に埋設された前記接合金属部に設けられることを特徴とする。
【0014】
(4)さらに本発明は、上記構成のサーマルプロテクターにおいて、前記金属プレートの一部が前記ケースの外部に延設されてなるカバー端子部であることを特徴とする。
【0015】
(5)さらに本発明は、上記構成のサーマルプロテクターにおいて、前記アームの一部が前記ケースの外部に延設されてなるアーム端子部であることを特徴とする。
【0016】
(6)さらに本発明は、上記構成のサーマルプロテクターにおいて、前記接合金属部の一部が前記ケースの外部に延設されてなる接合側端子部であることを特徴とする。
【0017】
(7)さらに本発明は、上記構成のサーマルプロテクターにおいて、前記盲穴の底面に溶接痕を有することを特徴とする。
【0018】
(8)また本発明は、アームと一体的に構成されるカバー部を有するサーマルプロテクターの製造方法であって、アームに金属プレートを当接させ重ねた状態にて樹脂中にインサート成形することにより、前記金属プレートの上面を覆うカバー樹脂部において、前記金属プレートと前記アームとが当接する接触域の上に前記金属プレートまで至る盲穴が設けられるようにカバー部を構成する工程、インサート成形した前記カバー部で、反転型の感熱素子が収納されたベース部を被覆することによりケースを構成する工程、前記盲穴の底面を溶接部位に用いて、前記アームを、前記溶接部位において前記金属プレート、及び又は前記ベース部に埋設された接合金属部と溶接する工程、及び、前記カバー樹脂部と前記ベース部のベース樹脂部とを接合させ前記ケースを密封する工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
(1)本発明は、アーム及び反転型の感熱素子が、カバー部及びベース部を備えるケースに収納されてなり、前記カバー部は、金属プレートが前記アームと当接して共にカバー樹脂部に埋設されてなるサーマルプロテクターであって、前記カバー樹脂部は、前記金属プレートの上面を覆い、盲穴を有し、さらに該盲穴は、前記金属プレートと前記アームとが当接する接触域の上方において前記金属プレートまで至り、該盲穴の底面が溶接部位に用いられる従来より小形で低背でありながら堅牢であり、高い生産性を可能とする。
【0020】
さらに本発明のサーマルプロテクターは、上記構成において、前記アームが、前記溶接部位において、前記金属プレート、及び又は前記ベース部に埋設された接合金属部と前記盲穴を通して強固に溶接されたことにより、従来より小形で低背でありながら堅牢であり、高い生産性を可能とする。
【0021】
さらに本発明のサーマルプロテクターは、上記構成において、前記金属プレートが前記溶接部位の直上において貫通孔を有し、前記溶接部位が、前記アーム及び前記ベース部に埋設された前記接合金属部に設けられることにより、外部端子とアームとの溶接を確実とし、安定した電気特性を実現する。
【0022】
さらに本発明のサーマルプロテクターは、上記構成において、前記金属プレートの一部が前記ケースの外部に延設されてなるカバー端子部であることにより、部品点数及び工程数を減らし、同時に製造費用の低減を可能とする。
【0023】
さらに本発明のサーマルプロテクターは、上記構成において、前記アームの一部が前記ケースの外部に延設されてなるアーム端子部であることにより、部品点数及び工程数を減らし、同時に製造費用の低減を可能とする。
【0024】
さらに本発明のサーマルプロテクターは、上記構成において、前記接合金属部の一部が前記ケースの外部に延設されてなる接合側端子部であることにより、従来より小形で低背でありながら、優れた電気特性と機械的強度を可能とする。
【0025】
また本発明によるサーマルプロテクターの製造方法は、従来より更に小型化及び低背化のなされた製品の溶接作業において従来と同様の大きさの治具を用いることができる。場合によっては、溶接作業において治具で固定する必要がなくなる。少なくとも、アームを抑えるための治具は不要となる。よって、更に小さい治具を用いるのに比べて保守作業の必要回数が少なく、製造費用の低減を可能とする。押圧力の不足により品質を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施態様1によるサーマルプロテクターの断面図である。
【
図2】本発明の実施態様2によるサーマルプロテクターの断面図である。
【
図3】本発明の実施態様3によるサーマルプロテクターの断面図である。
【
図4】本発明の実施態様1によるサーマルプロテクターの組立工程図である。
【
図5】本発明におけるカバー部を一部透視した上面図である。
【
図6】従来技術によるサーマルプロテクターの分解断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、
図1乃至5を用いて説明する。
【0028】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1によるサーマルプロテクター1を模式的に示す断面図である。アーム2、バイメタル3(感熱素子に相当)及び正特性温度サーミスター(以下、PTC4という。)はケース5の内部に収納されている。ケース5は、予めアーム2と一体化されたカバー部51でベース部52を密封することにより構成される。
【0029】
アーム2は、バネ性に富んだ導通性の良い、細長い矩形の金属板であり、屈曲して上方に凸状で配置され、アーム固定部2aにおいて一端がベース部52の周縁部分に固定される。本発明では、アーム2の片端は、アーム固定部2aとなり、カバー部51に対して当接して固定されている。さらに、アーム2の別の一端は、可動接点2dを先端に付したアーム可動部2bであり、アーム可動部2bはバイメタル3の上に配置される。アーム固定部2aのカバー部51に対して当接する部位は、金属プレート51aと共に接触域51eを構成する。アーム2の形状、寸法、材質などは、既存の設計を適用すればよい。
【0030】
バイメタル3(感熱素子)は、PTC4の上に載置され、アーム2とPTC4とに上下から挟まれることになる。バイメタル3は、矩形の薄い金属片であり、四隅が曲線状に形成され、中央は常温では上方に向けてなだらかに凸曲面を呈する。昇温によってバイメタル3は、反転して下方に凸状となり、アーム可動部2bを外縁部で持ち上げる。このようにバイメタル3は温度変化による反転動作により、アーム2を動かし、サーマルプロテクター1を導通又は遮断する。バイメタル3の材質、形状、寸法などは、既存の設計を採用することができ、導通性及び温度特性を考慮に入れて適宜に選択すればよい。また、感熱素子には、バイメタルの代わりにトリメタルを用いることも可能である。またさらに、アームを積層金属で形成し、感熱素子とアームとを一体化することも可能である。
【0031】
PTC4(温度サーミスター)は、薄い円盤状の部品であり、バイメタル3の直下に配置される。バイメタル3が昇温によって反転すると、PTC4には電圧が印加される。PTC4は、正特性の温度サーミスターであり、温度の上昇に伴い急激に電気抵抗を増す感熱素子であり、バイメタル3の反転状態を保つための自己保持回路を構成する。PTC4の材質、形状、寸法などは、既存の設計を採用することができ、電気特性及び温度特性を考慮に入れて適宜に選択すればよい。
【0032】
自己保持回路を構成する必要のないときは、PTC4を備えずに、ケース5の底面にPTC4と同形の突起を設けるなどしてもよい。さらにまた、バイメタル又はこれに相当する感熱素子及びアームの材料、形状、構成を適宜に選べば、バイメタルとアームとを分離せず、一体化することが可能となる。この場合、アームは、バイメタル又はトリメタルから形成される。このアームの一部には、なだらかな球面状の凸部が設けられる。この凸部の直下にPTC又はケース底面の突起を位置取りさせる。
【0033】
ケース5は、全体として厚み方向に扁平な直方の筐体であり、内部に各部品を収納する。ケース5は、カバー部51及びベース部52から構成される。カバー部51及びベース部52は、いずれも樹脂及び金属を材料とする。カバー部51及びベース部52は、小型化、低背可及び機械的強度の観点から、金属片を樹脂にインサート成形することにより形成するのが好ましい。ケース5の形状、寸法、材質などは、既存のものを適宜組み合わせて設計すればよい。
【0034】
カバー部51は、カバー樹脂部51aが金属プレート51bの上面のほぼ全面を覆うように構成される。金属プレート51bは、サーマルプロテクター1の機械的強度を担保するための部材である。さらに、カバー樹脂部51aが金属プレート51bの上面のほぼ全面を覆うとサーマルプロテクター1の機械的強度が向上する。金属プレート51bの下面には、金属プレート51bがアーム2全体を覆うように位置取りして、金属プレート51bとアーム固定部2aとが当接して接触域51eをなして共にカバー樹脂部51a中にインサート成形されている。カバー部51の下面では、樹脂部51aからなる側壁部51fが、金属プレート51bとアーム2の積層される範囲を囲繞する。
【0035】
カバー部51の上面、接触域51eの直上には、溶接用の溶接穴51d(盲穴)が設けられる。溶接穴51dは、接触域51eの直上の部分がカバー樹脂部51aで覆われず、金属プレート51bの上面が露出することで形成される。溶接穴51dは、カバー樹脂部51aにとっては貫通孔であり、そしてカバー樹脂部51aを側面、金属プレート51bを底面とする盲穴である。溶接穴51dの形状、寸法などは、後述の溶接操作Wの行える程度の大きさであればよい。図示されたものは、円状であり一点に設けられているが、盲穴51dの形状は、金属プレート51bがカバー樹脂部51aに覆われることによる機械的強度の損なわれない範囲で、線状又は面状にしてもよく、複数設けてもよい。加えて、溶接操作Wに支障がなければ、カバー樹脂部51aにおける完全な貫通孔とする必要はない。
【0036】
溶接穴51dの底面は、溶接操作Wにより溶接部位62となる。溶接穴51dの底面は、実施形態1においては、金属プレート51bの上面であるが、これに限るものではない。溶接部位62は熱溶融によりアーム2と外部電源と接続する端子とが電気的につながる箇所である。実施形態1においては、アーム2と金属プレート51bとが接触する接触域51eの直下で、前二者と接合金属部52bの三者が熱溶融した部位である。金属プレート51bの厚みが大きいため、アーム2と外部の端子部との接合が困難であれば、溶接穴51dの底面が金属プレート51bでなく、アーム固定部2aとなるように金属プレート51bに開けられた貫通穴を溶接穴51dの一部分としてもよいし、金属プレート51b上の対応箇所を部分的に薄くすることもできる。
【0037】
ベース部52は、ベース樹脂部52aの両端にそれぞれ接合金属部52b及び接点金属部52eが埋設されるように一体化されて、接合金属部52bの直上に溶接穴51dが来るようにされている。ベース部52は、全体として筐体状になっており、カバー部51の接合される前にPTC4及びバイメタル3を収容する収容部52gと、それを囲繞する周縁部52hとを有する。接点金属部52eは、PTC4及びバイメタル3と導通しうるよう位置取りされる。
【0038】
固定接点52dは、ベース部52において、アーム固定部2aの反対側の一端に埋設される接点金属部52eに銀などの溶接、めっき、クラッドなどにより形成される。接点金属部52eの一部は、接点側端子部52fとなりケース5の外部に延設される。固定接点52dは、温度変化によるアーム2の揺動により、可動接点2dと接触又は離反する。このようにケース5は、カバー部51がベース部52と接合された時には、常温時で先端の可動接点2dが固定接点52dに押圧されるように設計される。固定接点52dの形状、寸法、材質などは、既存のものを適宜組み合わせて設計すればよい。
【0039】
接合金属部52bは、ベース部52において、接触域51eの直下に来るように周縁部52e上に設けられる。接合金属部52bとアーム固定部2aは、後述の溶接操作Wによって電気的に接合される。アーム固定部2aは、上述のとおりアーム2の一部であり、カバー部51を成形する際に金属プレート51bと接触域51eにおいて当接している。接触域51eには、溶接穴51dの底面での溶接操作Wにより金属プレート51b、アーム固定部2a及び接合金属部52bが一体となった溶接部位62が形成される。実施形態1では、接合金属部52bの一部がアーム固定部2aよりアーム可動部2bの方向と反対へ向かってケース5から外部にまで延設されて、外部電源と接続する接合側端子部52cとなっている。
【0040】
各部品をベース部52に収納し、カバー部51を被せた後、実施形態1では、
図4における溶接操作Wにより、金属プレート51b、アーム2及び接合金属部52bが接合される。
図4においては、溶接操作Wに用いられる治具6及びカバー部52の一部は透視され、アーム2が可視化されている。溶接操作Wは、レーザー、電子ビーム、アーク放電などによる。これらの中で、寸法縮小及び溶接材への負担を考慮すると、費用、加工精度などの観点からレーザーが望ましい。レーザー溶接には、既存の装置を行うことができる。サーマルプロテクター1は小さいので、通常、これらの装置はサーマルプロテクター1を固定するための治具6を備える。レーザーによる溶接操作W及びその他におけるレーザーやビームの出力、溶接の時間、治具6の押圧力などは、溶接材料として接合される金属部材の寸法、性質などにより、金属プレート51b、アーム2及び接合金属部52bの三者が互いに溶接されるように適宜設定すればよい。あるいは、溶接作業Wを行う装置によっては、治具6の治具先端6a又は治具6そのものが不要となる。
【0041】
溶接操作Wを行った箇所には、即ち溶接穴51dの底面には、溶接痕61が残る。溶接痕61は、アーム2が金属プレート51b及び接合金属部52bと接合された部分である溶接部位62を示すものである。
図4に図示する場合では、金属プレート51bの上面に一カ所である。しかしさらに、溶接穴51dにおける溶接の箇所は一カ所であっても複数カ所であってもよい。溶接の形態も、点状のみでなく、線状或いは面状であってもよい。溶接の箇所は、アーム固定部2aにアーム翼部2eを持たせれば、更に溶接箇所を多くとり接合強度を大きくすることもできる。接合強度の観点から、溶接穴51dは、カバー樹脂部51aに囲繞され、外縁部より内側に形成されているのが望ましい。
【0042】
ケース5は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)その他の耐熱性に優れた樹脂を材質として成形される。接点金属部52e及びアーム2の材質は、リン青銅、
洋白、 黄銅などの弾性と導電性とに富んだ材料を用いる。固定接点52d及び可動接点2dの材質は、銀又は銀−ニッケル合金など導通性の好い銀を主成分とする合金であり、これをクラッド、溶接、めっき、塗布、その他の方法によりケース5中の接点金属部52e及びアーム2に付す。バイメタルには、熱膨張の大きい金属材料と熱膨張の小さい金属材料とを積層させ、熱処理を行い所期の温度で反転または原形復帰するようにしたものを用いる。これら各部材の寸法、配置などは、既存の設計を適用すればよい。
【0043】
本発明のサーマルプロテクターは、
図1に現れるように、カバー部51において、金属プレート51b上面がカバー樹脂部51aで覆われることにより、サーマルプロテクター1全体が小型化されても機械的強度が充分に大きく保たれる。同じく、カバー樹脂部51aとベース樹脂部52aとの溶着に加えて、金属プレート51bが接合金属部52bと溶接されるのでサーマルプロテクター1は外力に対して更に強固になる。さらに、先述のように製品の小型化に応じて治具6を小さくする必要がない。治具6は通常の大きさのもので、カバー部51の上から抑えるので強い力で以てするのが可能である。場合によっては、溶接作業Wにおいて、治具6を用いる必要がない。少なくとも、アーム2を抑えるための治具は本発明において存在しなくてよい。よって、さらに小型化された製品の製造においても治具6の頻繁な交換は不要であり、押圧力の不足はない。アーム2と接合金属部52bとを溶接により接合する時の押圧力が個々に変動しないので、生産された全てのサーマルプロテクター1の電気特性が安定する。
【0044】
(製造方法)
実施態様1によるサーマルプロテクターの組立は、
図5に模式的に示される。カバー部51を構成する工程(
図5(a))では、金属片を所定の形に成形してなしたアーム2及び金属プレート51bを互いに当接させた状態で樹脂中にインサート成形してカバー部51が完成する。この時、カバー部51の上面では、金属プレート51bがカバー樹脂部51aで覆われる。しかし、カバー部51上面のカバー樹脂部51aには、アーム2のアーム固定部2a及び金属プレート51bが互いに当接する接触域51eにおいて、一部に樹脂が充填されずに空所となって金属プレート51bが部分的に外部に露出する。カバー部51表面のカバー樹脂部51a表面から金属プレート51bにまで至るこの空所は溶接穴51dに用いられる。
【0045】
次に、工程(
図5(b))では、インサート成形したカバー部51がベース部52を被覆する。こうしてケース5が構成される。一方で、ベース部52は、予めカバー部51と同様に、所定の形に形成された金属片をベース樹脂部52aに埋め込み状にインサート成形して構成されている。これら金属片は、接合金属部52b及び接点金属部52eであり、実施形態1においては、それぞれ周縁部52h上に設けられ、一部がケース5外部に延設されて接合側端子部52c及び接点側端子部52fとなる。構成されたベース部52の収容部52gには、カバー部51が被覆する前に、PTC4及びバイメタル3が順に載置されている。
【0046】
そして、工程(
図5(c))において溶接操作Wにより、カバー部51とベース部52とを接合する。実施形態1では、接合は溶接穴52d直下、ベース部52の接合金属部52bまで行われる。溶接操作Wは、レーザー溶接などの熱線の照射により行うのが好ましい。レーザー溶接の他に、電子ビーム溶接、アーク溶接なども用いられる。その他の溶接方法においても、通常、レーザー、その他の熱線を照射するヘッドの近傍に治具6が存在して、溶接材料たるブレーカー1を押えることがある。図示される実施形態では、治具6、更に詳細には治具先端6aがカバー部51を押さえて、溶接穴52dにレーザー又は他の熱源を照射するが、本発明ではインサート成形の工程で、アーム2は既に接触域51eにおいて外部端子との密着が確保されているので、治具6は必ずしも必要ではない。かくして、接触域51eの周辺に溶接部位62が形成され、金属プレート52b、アーム固定部2a及び接合金属部52bの三者が連結される。アーム2と接合金属部52bは導通しうるようになる。この時、溶接穴51dの底面に溶接痕61が残される。
【0047】
続いて、最後に、カバー部51の側壁部51fとベース部52の周縁部52hとを接合させケース5を密封する工程によって製品を完成させる。ケース5の樹脂部が熱可塑性樹脂である場合、この接合は超音波溶着により行うとよい。サーマルプロテクター1は、以上の工程と場合により適宜にその他の処理を経て完成した後、基板に実装されバッテリーパックに封入される安全回路に組み込まれる。
【0048】
上記の超音波溶着とレーザーによる溶接操作Wは、どちらが前後してもよい。超音波溶着によりケースを完成させた後に、続いてレーザー溶接でアーム2とベース部52とを接合することもでき、また、溶接操作Wによりカバー部51でアーム2を導通可能にした後に、これをベース部52と接合してケース5を完成させることもできる。
図2及び3のように接合側端子52cの存在しない形態においては、カバー部51の完成直後に溶接操作Wでアーム2と金属プレート51bとを接合してもよい。治具6の寸法、形状などは、従来品と同様に市販の溶接装置のうち、レーザー、電子ビーム、アーク放電を熱源に用い、且つ小型の溶接材料を対象とするヘッド及び治具を備えたものを使用すればよい。以上の製造方法に因る作用効果は、既述のとおりである。
【0049】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2を示す断面図である。実施形態2のサーマルプロテクター1では、ベース部52に接合側端子部52cが存在せず、アーム2の一部がケース5の外部に延設されて、外部電源と接続するアーム端子部2cとして機能する。アーム2とアーム端子2cとは、溶接操作Wの前に既に電気的に接続しているが、本実施形態のようにアーム2が金属プレート51bと溶接されることにより、アーム端子2cに外力が加わった場合の堅牢性が優れることとなる。尚、
図2においては、ベース部5に接合金属部52b(
図1参照)に相当する部分が存在しないが、堅牢性を一層高めるために、固定接点52dの反対側にアーム固定部2aと接合される金属部材が予めベース部52に、埋設されて設けられていてもよい。一方で、図示されるように接合金属部52bのない形態では、部品点数の少ない点で工費についてみると有利である。さらに、この実施形態2においては、カバー部51を溶接操作Wにより完成させて、その後に組立および超音波溶着によりケース5を完成させることも可能である。実施形態2のサーマルプロテクターの他の構成、作用効果、製造法などは、実施形態1のものと同様である。
【0050】
(実施形態3)
図3は、本発明の実施形態3を示す断面図である。実施形態3のサーマルプロテクター1では、ベース部52に接合側端子部52cが存在せず、金属プレート51bの一部が外部に延設されて、外部電源と接続するカバー端子51cとして機能する。溶接操作Wにより、アーム2とカバー端子51cとは、電気的に接続する。尚、
図3においては、ベース部5に接合金属部52b(
図1参照)に相当する部分が存在しないが、固定接点52dの反対側にアーム固定部2aと接合される金属部材が予めベース部52に、埋設されて設けられていてもよく、かかる金属部材の作用効果は、前述と同様である。実施形態3のサーマルプロテクターも、他の構成、作用効果、製造法などは、実施形態1のものと同様である。
【0051】
また、金属プレート51bの一部を端子とする形態には、アーム固定部2aよりアーム可動部2bの方向と反対へ向かってケース5から外部にまで延設されて、カバー端子部51cとなっている
図3に図示されたものの他、前記と反対の方向にカバー端子部を延設する形態も挙げられる。あるいは、カバー樹脂部51aの一部を機械的強度の損なわれない程度に排除し、金属プレート51bを露出させ、カバー部51上面の一部でカバー樹脂部が排除され金属プレート51bの露出した部分を、金属部がカバー樹脂部51aの外縁を超えて延設されずにカバー端子部に充てる形態もありうる。またさらに、接合金属部52bの存在しない形態は、アーム2が接合金属部52bと溶接される形態に比べて、部品点数の少ない点で有利である。さらに、この実施形態3においては、カバー部51を溶接操作Wにより完成させて、その後に組立および超音波溶着によりケース5を完成させることも可能である。
【0052】
以上のように、本発明の実施形態に付いて説明したが、本発明では、樹脂部が金属プレートを覆ってカバー部とアームとが一体的に形成され、且つカバー部の盲穴において溶接されていればよく、上記の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0053】
1 サーマルプロテクター,
2 アーム,
2a アーム固定部,
2b アーム可動部,
2c アーム端子部,
2d 可動接点,
3 バイメタル(感熱素子),
4 PTC(温度サーミスター),
5 ケース,
51 カバー部,
51a カバー樹脂部,
51b 金属プレート,
51c カバー端子部,
51d 溶接穴(盲穴),
51e 接触域,
52 ベース部,
52a ベース樹脂部,
52b 接合金属部,
52c 接合側端子部,
52d 固定接点,
52e 接点金属部,
52f 接点側端子部,
6 溶接治具,
61 溶接痕,
62 溶接部位,
W 溶接操作,