(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかるベルト式の無段変速機の実施形態を説明する。
ベルト式の無段変速機10は、プライマリプーリ11と、セカンダリプーリ12と、Vベルト13と、CVTコントロールユニット20と、油圧コントロールユニット30とを備える。
【0019】
プライマリプーリ11は、エンジン1と同軸に配置されており、エンジン1とプライマリプーリ11の間には、エンジン1側から順に、トルクコンバータ2、前後進切替え機構3が設けられている。
【0020】
トルクコンバータ2は、エンジン1の出力軸に連結されるポンプインペラ2a、前後進切替え機構3の入力軸に連結されるタービンランナ2b、ステータ2c、およびロックアップクラッチ2dを備える。
【0021】
前後進切替え機構3は、ダブルピニオン遊星歯車組3aを主たる構成要素とし、そのサンギヤはトルクコンバータ2のタービンランナ2bに結合され、キャリアはプライマリプーリ11に結合される。
前後進切替え機構3は、ダブルピニオン遊星歯車組3aのサンギヤとキャリアとの間を直結する発進クラッチ3b、およびリングギヤを固定する後進ブレーキ3cをさらに備える。そして、発進クラッチ3bの締結時には、エンジン1からトルクコンバータ2を経由した入力回転がそのままプライマリプーリ11に伝達され、後進ブレーキ3cの締結時には、エンジン1からトルクコンバータ2を経由した入力回転が逆転され、プライマリプーリ11に伝達される。
【0022】
プライマリプーリ11は、このベルト式の無段変速機10にエンジン1の回転を入力する入力軸側のプーリである。プライマリプーリ11は、入力軸11dと一体となって回転する固定円錐板11bと、この固定円錐板11bに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成するとともに、プライマリプーリシリンダ室11cへ作用する油圧(プライマリ圧Ppri)によって軸方向へ変位可能な可動円錐板11aとを備える。
プライマリプーリ11には、前後進切替え機構3と、トルクコンバータ2とを介して、エンジン1の回転駆動力が入力される。
プライマリプーリ11の回転速度は、プライマリプーリ回転速度センサ26によって検出される。
【0023】
セカンダリプーリ12は、出力軸12dと一体となって回転する固定円錐板12bと、この固定円錐板12bに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成するとともに、セカンダリプーリシリンダ室12cへ作用する油圧(セカンダリ圧Psec)によって軸方向へ変位可能な可動円錐板12aとを備える。
【0024】
セカンダリプーリ12は、アイドラギア14とアイドラシャフトとを介して、ディファレンシャル4と連結しており、Vベルト13によって伝達された回転を、ディファレンシャル4に出力する。
セカンダリプーリ12の回転速度は、セカンダリプーリ回転速度センサ27によって検出される。
【0025】
Vベルト13は、プライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12に巻き掛けられており、プライマリプーリ11の回転をセカンダリプーリ12に伝達する。
【0026】
CVTコントロールユニット20は、目標プーリ比やVベルト13の接触摩擦力などを決定し、油圧コントロールユニット30に指令を送信して、無段変速機10を制御する。ここで、プーリ比は、セカンダリプーリ12の有効半径をプライマリプーリ11の有効半径で除した値であり、変速比と同義である。
さらに、CVTコントロールユニット20は、油圧コントロールユニット30に指令を送信して、前後進切替え機構3の摩擦締結要素(発進クラッチ3b、後進ブレーキ3c)や、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ2dの締結・解放などを制御する。
【0027】
油圧コントロールユニット30は、CVTコントロールユニット20からの指令に基づいて、プライマリプーリ11のプライマリプーリシリンダ室11cに作用する油圧(プライマリ圧Ppri)と、セカンダリプーリ12のセカンダリプーリシリンダ室12cに作用する油圧(セカンダリ圧Psec)とを制御する。
【0028】
ベルト式の無段変速機10では、プライマリプーリ11に入力された回転が、Vベルト13を介してセカンダリプーリ12に伝達されて、プライマリプーリ11とセカンダリプーリ12とが回転している際に、可動円錐板11aと可動円錐板12aとが、プライマリ圧とセカンダリ圧に応じて、回転軸方向に往復移動する。
可動円錐板11aと可動円錐板12aが移動すると、プーリ溝幅が変化して、Vベルト13がプライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12上で径方向に移動するので、Vベルト13のプライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12に対する接触半径が連続的に変わり、プーリ比とVベルト13の接触摩擦力とが、プライマリ圧とセカンダリ圧に応じて決まる値に制御される。
【0029】
さらに、油圧コントロールユニット30は、CVTコントロールユニット20からの指令に基づいて、前後進切替え機構3に供給する油圧(Pc)を制御して、摩擦締結要素(発進クラッチ3b、後進ブレーキ3c)の締結・解放を行う。
【0030】
CVTコントロールユニット20には、エンジンコントロールユニット21、アクセル操作量センサ23、Gセンサ24、プライマリプーリ回転速度センサ26、セカンダリプーリ回転速度センサ27、そして油圧センサ29a、29bからの信号が入力される。
【0031】
エンジンコントロールユニット21は、エンジン1からベルト式の無段変速機10に入力される入力トルクの情報(トルク情報)を、CVTコントロールユニット20に出力する。
【0032】
アクセル操作量センサ23は、図示しないアクセルペダルの操作量(アクセル開度To)と、アクセルペダルの操作量の変化率(アクセル踏み込み速度Tv)を示す信号をCVTコントロールユニット20に出力する。
【0033】
Gセンサ24は、車両の傾きを検出するセンサであり、車両が水平面に対してどの程度傾いているのかを示す信号を、CVTコントロールユニット20に出力する。
【0034】
プライマリプーリ回転速度センサ26は、プライマリプーリ11の回転速度を示す信号(Npri)をCVTコントロールユニット20に出力する。
セカンダリプーリ回転速度センサ27は、セカンダリプーリ12の回転速度を示す信号(Nsec)をCVTコントロールユニット20に出力する。
なお、CVTコントロールユニット20では、プライマリプーリ11の回転速度を示す信号(Npri)と、セカンダリプーリ12の回転速度を示す信号(Nsec)とに基づいて、実プーリ比(速度比)が算出されると共に、セカンダリプーリ12の回転速度を示す信号(Nsec)により、車両の速度(車速)が特定される。
【0035】
油圧センサ29aは、プライマリプーリシリンダ室11cに作用する油圧(プライマリ圧Ppri)を示す信号を、CVTコントロールユニット20に出力する。
油圧センサ29bは、セカンダリプーリシリンダ室12cに作用する油圧(セカンダリ圧Psec)を示す信号を、CVTコントロールユニット20に出力する。
【0036】
図2は、CVTコントロールユニット20のブロック図である。
図2に示すように、CVTコントロールユニット20は、加速意図判定部201と、変速モード設定部202と、目標変速比設定部203と、変速制御部204と、登坂路走行判定部205と、疑似アクセル開度生成部206と、記憶部207と、を備える。
【0037】
加速意図判定部201は、アクセル開度Toおよびアクセル踏み込み速度Tvに基づいて、運転者の加速意図を判定する。
実施の形態では、アクセル開度Toおよびアクセル踏み込み速度Tvと、通常モードおよび加速モードとの関係を規定するマップデータ(モード判定マップ)が、車速V毎に用意されており、加速意図判定部201は、アクセル開度Toおよびアクセル踏み込み速度Tvに基づいて、現時点の車速に応じて決まるモード判定マップを参照して、加速意図の有無を判定する。
なお、モード判定マップは、CVTコントロールユニット20の記憶部207に記憶されている。
【0038】
変速モード設定部202は、無段変速機の変速モードを設定するものであり、加速意図判定部201により加速意図があると判定された場合に、無段変速機の変速制御を、加速モードに設定し、加速意図がないと判定された場合には、通常モードに設定する。
【0039】
図3は、モード判定マップの一例を説明する図である。
図3に示すモード判定マップでは、通常モードから加速モードへの移行を判定する閾値および加速モードから通常モードへの移行を判定する閾値と、アクセル開度Toおよびアクセル踏み込み速度Tvとの関係が規定されている。
図中符号Aは、通常モードから加速モードへの移行を判定する閾値を結んだ加速モード移行判定線であり、図中符号Bは、加速モードから通常モードへの移行を判定する閾値を結んだ通常モード移行判定線である。
【0040】
例えば、通常モードの場合において、現時点におけるアクセル開度Toおよびアクセル踏み込み速度Tvが、図中符号X1で示す位置である場合には、加速意図判定部201により加速意図があると判定されて、変速モード設定部202により無段式変速機の変速制御が加速モードに設定される。
また、通常モードの場合において、符号X2で示す位置である場合には、加速意図判定部201により加速意図がないと判定されて、変速モード設定部202により通常モードが設定されて、通常モードが継続されることになる。
【0041】
ちなみに、加速モードの場合において、現時点におけるアクセル開度Toおよびアクセル踏み込み速度Tvが、図中符号X2で示す位置である場合には、変速モード設定部202により加速モードが継続され、符号X3で示す位置である場合には、加速モードを終了して、通常モードが設定されることになる。
なお、このモード判定マップにおいて、加速モード移行判定線Aと通常モード移行判定線Bとは、加速モードと通常モードの頻繁な切り替えが生ずることを防止するために、互いにΔh離れるように設定されている。
【0042】
目標変速比設定部203は、アクセル開度Toおよび車速Vに基づいて、現時点で設定されている変速モードのマップ(変速線図)を参照して、プライマリプーリの目標回転数を設定し、設定したプライマリプーリの目標回転数から目標変速比(目標プーリ比)を決定する。
【0043】
目標変速比設定部203が参照する変速線図は、記憶部207に記憶されており、記憶部207には、変速モード毎に専用の変速線図(通常モード用の変速線図、加速モード用の変速線図)が記憶されている。
図4は、変速線図を説明する図であり、(a)は、通常モード用の変速線図、(b)は、加速モード用の変速線図である。
【0044】
変速線図では、変速比が最大となる特性線Lowと変速比が最小となる特性線ODとの間に、アクセルペダルの踏み込み量に伴って増減するアクセル開度に対応した複数の特性線(
図4の場合はTV1〜TV4)が設定されており、車速Vおよびアクセル開度Toに基づいてこの変速線図を参照することで、プライマリプーリの目標回転数Ntを決定することができるようになっている。
【0045】
ここで、加速モード用の変速線図(
図4の(b)参照)では、プライマリプーリの目標回転数Ntが、通常モード用の変速線図(
図4の(a)参照)よりも高回転側に設定されており、加速モードでのダウンシフト変速では、プライマリプーリの目標回転数Ntが、通常モードにおけるダウンシフト変速よりも高くなって、エンジンから入力されるトルクが大きくなるように設定されている。
【0046】
アクセル開度がTV3、車速がV1である場合について例示すると、通常モード用の変速線図から決定されるプライマリプーリの目標回転数N1よりも、加速モード用の変速線図から決定されるプライマリプーリの目標回転数N1’のほうが高回転になるように設定されている。
【0047】
よって、車速V1の時に加速の意図があると判定されて、加速モードが設定されると、その時点で、プライマリプーリの目標回転数が、加速モード用の変速線図に基づいて設定されることになる。そうすると、プライマリプーリの目標回転数がN1’となり、この目標回転数N1’は、通常モードの変速線図での目標回転数N1よりも高い回転数であるので、加速モードが設定された時点で、ダウンシフト変速が開始されることになる。
【0048】
変速制御部204は、現時点における変速比(プーリ比)を目標変速比(プーリ比)に向けて設定された変速速度で変化させるための指令を、油圧コントロールユニット30に出力して、プライマリプーリとセカンダリプーリとを、目標変速比を実現するように制御する。
【0049】
登坂路走行判定部205は、Gセンサ24の出力信号に基づいて、車両が登坂路を走行しているか否かを判定し、登坂路を走行していると判定された場合には、判定結果を疑似アクセル開度生成部206に出力する。
具体的には、登坂路走行判定部205は、Gセンサ24の出力信号に基づいて道路勾配を算出し、算出した道路勾配が所定勾配(例えば+5%)以上である場合に、登坂路を走行していると判定する。そして、登坂路を走行していると判定した場合には、判定結果と共に、算出した道路勾配を疑似アクセル開度生成部206に出力する。
【0050】
疑似アクセル開度生成部206は、車両が登坂路を走行中であると判定されているときにアクセル開度が減少すると、アクセル開度が、実際のアクセル開度の変化率よりも遅い変化率で減少する疑似アクセル開度To’を生成し、目標変速比設定部203に出力する。
【0051】
ここで、疑似アクセル開度生成部206が生成する疑似アクセル開度To’を、
図5を用いて説明する。
例えば、アクセルペダルが、所定時間tx(例えば1秒)で100%戻された場合には、アクセル操作量センサ23の出力信号S1は、
図5の(a)において鎖線で示すように変化することになる。ここで、この出力信号S1は、所定時間txにおける実際のアクセル開度(実アクセル開度)Toの変化の軌跡に相当する。
【0052】
実施の形態では、疑似アクセル開度生成部206が、アクセルペダルが戻された場合、戻された時点の実際のアクセル開度と道路勾配とに基づいて、アクセル開度の変化率のなまし量を決定する。
例えば、所定時間tx(例えば1秒)でアクセルペダルが20%戻されたと擬似的に取り扱うと決定されると、
図5の(a)において実線で示すように、アクセル開度が所定時間txをかけて、ゆっくりと20%戻されたように見せかける疑似信号S2を生成する。
【0053】
そのため、この疑似信号S2から特定されるアクセル開度(以下、疑似アクセル開度という)は、アクセル操作量センサ23の出力信号S1から特定される実際のアクセル開度(実アクセル開度)よりも大きい値となる。
例えば、
図5の(b)に示すように、アクセル開度To_aで車両が走行しているときの時刻t0からアクセルペダルが100%戻された場合、図中実線で示すように、アクセルペダルが戻された時点(時刻t0)から所定時間tx(例えば1秒)が経過した時点での疑似アクセル開度To’は、時刻t0におけるアクセル開度(To_a)の80%であり、その時点における実アクセル開度To(
図5の(b)の場合は、「0(ゼロ)」)よりも大きい値となる。
【0054】
実施の形態では、前記した目標変速比設定部203が、アクセル操作量センサ23の出力信号から特定される実アクセル開度Toと、車速Vとに基づいて、プライマリプーリの目標回転数と、目標変速比とを設定している。
この際に、疑似信号から特定される疑似アクセル開度To’を用いると、疑似アクセル開度To’は実アクセル開度Toよりも大きい値であるので、疑似アクセル開度To’を用いて決定されるプライマリプーリの目標回転数は、実アクセル開度Toを用いて決定されるプライマリプーリの目標回転数よりも高い回転数に設定される。さらに、疑似アクセル開度To’を用いて決定される目標変速比は、実アクセル開度Toを用いて決定される目標変速比よりも大きい変速比となる。
【0055】
実施の形態では、車両が登坂路を走行中であると判定されているときに実アクセル開度Toが減少すると、疑似アクセル開度To’を用いて目標変速比が設定されることになる。そして、疑似アクセル開度To’は、実アクセル開度Toの変化率よりも遅い変化率で減少するので、かかる場合に実行されるアップシフト変速での変速比の変化は、実アクセル開度Toに基づいて実行されるアップシフト変速での変速比の変化よりもゆっくりとしたものとなる。すなわち、プライマリプーリの目標回転数(エンジン回転数)を短時間で大きく低下させないアップシフト変速が実行されることになる。
【0056】
以下、実施の形態にかかるCVTコントロールユニット20における処理を説明する。
図6は、CVTコントロールユニット20において実行される変速制御処理を説明するフローチャートである。
なお、以下の説明においては、本願発明の要部にかかわる部分以外の変速制御処理は、簡略的に説明する。
【0057】
実施の形態にかかる無段変速機10には、無段変速機の変速制御に、通常モードと加速モードとが用意されている。加速モードでは、プライマリプーリの目標回転数Ntが、通常モードよりも高回転側に設定されて、加速性を優先した走行性能が発揮されるようになっている。
無段変速機10では、無段変速機の変速制御が、原則として通常モードで実行されるようになっている。そして、運転者のアクセル操作が、車両の加速を要求する操作であると判定されたときに、加速モードが設定されて、加速モードで変速制御が実行されるようになっている。
【0058】
そのため、ステップ101において、運転者のアクセル操作が車両の加速を要求する操作であるか否か、すなわち運転者に加速意図があるか否かが判定される。
具体的には、現時点におけるアクセル開度Toが、所定値Th_a以上であって、アクセル踏み込み速度Tvが所定値Th_b以上であるか否かが確認される。
【0059】
ここで、所定値Th_aは、現時点における車速Vに対してマップで規定される値である。所定値Th_bは、現時点における車速Vと、アクセルペダルの踏み込み時点のアクセル開度Toに対してマップで規定される値である。
低車速の場合と高車速の場合では、車両を加速させようとした時のアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度To)が異なり、その時のアクセルペダルの踏み込み速度(アクセル踏み込み速度)Tvも、その時点のアクセル開度Toに応じて異なることになる。よって、実施の形態では、所定値Th_aは、車速Vに対してマップで規定され、所定値Th_bは、車速Vとアクセル開度Toに対してマップで規定されている。
【0060】
運転者に加速意図がある場合には一般に、アクセルペダルが踏み込まれることになるので、ステップ101では、アクセル開度Toの増大による所定値Th_a超え(To≧Th_a)と、この時のアクセル踏み込み速度Tvの所定値Th_b超え(Tv≧Th_b)とに基づいて、加速意図の有無を判定している。
【0061】
実施の形態では、前記したモード判定マップ(
図3参照)において、アクセル開度Toの所定値Th_aと、アクセル踏み込み速度Tvの所定値Th_bとの関係が、加速モード移行判定線Aで規定されており、車速Vに応じてアクセル開度Toの所定値Th_aが決まると、このモード判定マップから、アクセル踏み込み速度Tvの所定値Th_bが判るようになっている。
よって、例えば現時点におけるアクセル開度Toおよびアクセル踏み込み速度Tvが、図中符号X1で示す位置である場合には、To≧Th_a、かつTv≧Th_bの要件が満たされることになるので、加速意図判定部201により加速意図があると判定されることになる。
【0062】
ステップ101の判定が否定されて、加速意図がないと判定された場合には、ステップ102の処理に移行して、変速モード設定部202が、無段変速機10の変速制御を通常モードに設定する。
ここで、変速制御のモードとして通常モードが既に設定されていた場合には、通常モードが継続して設定される。
【0063】
ステップ103では、目標変速比設定部203が、通常モード用の変速線図(
図4の(a)参照)を記憶部207から読み出して、この通常モード用の変速線図に基づいて、変速制御用のパラメータを設定する。
具体的には、現時点における車速Vおよびアクセル開度Toに基づいて、通常モード用の変速線図を参照し、現時点におけるプライマリプーリの目標回転数と、目標変速比とが設定される。
例えば、
図4の(a)の場合において、現時点における車速VがV1であり、アクセル開度ToがTV3である場合には、プライマリプーリの目標回転数がN1に設定されることになる。
【0064】
ステップ104では、変速制御部204が、現時点における変速比(実変速比)からステップ103で設定された目標変速比への変速を実行するために、プライマリ圧とセカンダリ圧を決定し、決定したプライマリ圧とセカンダリ圧を実現させるための指令を、油圧コントロールユニット30に出力する。
よって、油圧コントロールユニット30により、Vベルト13のプライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12に対する接触半径が連続的に変わり、プーリ比とVベルト13の接触摩擦力とが、プライマリ圧とセカンダリ圧に応じて決まる値に制御される。
【0065】
これにより、実変速比が目標変速比に向けて連続的に変化して、最終的に実変速比が目標変速比に達した時点で、ステップ104における変速制御が終了することになる。
このステップ104の処理が終了すると、前記したステップ101の処理にリターンして、加速意図の有無の判定と、判定結果に応じた変速制御が実行されることになる。
【0066】
一方、ステップ101の判定が肯定されて、加速意図があると判定された場合には、ステップ105の処理に移行して、変速モード設定部202が、無段変速機10の変速制御を加速モードに設定する。
ここで、変速制御のモードとして通常モードが既に設定されていた場合には、プライマリプーリの目標回転数が通常モードよりも高回転側に設定される加速モードに、切り替えられることになる。
【0067】
ステップ105において加速モードが設定されると、続くステップ106において、登坂路走行判定部205が、車両が登坂路を走行中であるか否かを確認する。
具体的には、登坂路走行判定部205が、Gセンサ24の出力信号に基づいて、車両の傾き(道路勾配)を算出し、算出した道路勾配が例えば+5%以上である場合には、車両が登坂路を走行中であると判定する。
そして、車両が登坂路を走行していると判定された場合には、登坂路を走行中である旨の判定結果を、算出した道路勾配と共に疑似アクセル開度生成部206に出力する。
【0068】
ステップ106において車両が登坂路を走行中であると判定されると、ステップ107において、疑似アクセル開度生成部206が、アクセルペダルが戻されて、アクセル開度Toが減少したか否かを確認する。
具体的には、疑似アクセル開度生成部206は、現時点のアクセル開度Toが、運転者に加速意図があると判定された時点(ステップ101)におけるアクセル開度Toよりも小さくなると、アクセル開度が減少したと判定される。
【0069】
そして、アクセル開度が減少したと判定されると、ステップ108において、疑似アクセル開度生成部206が、疑似アクセル開度To’の算出処理を実行する。
【0070】
図7は、疑似アクセル開度の算出処理を説明するフローチャートである。
実施の形態では、車両が登坂路を走行中である場合にアクセルペダルが戻されてアクセル開度が減少すると、疑似アクセル開度生成部206が、アクセル開度が実際のアクセル開度の変化率よりも遅い変化率で減少していると見せかける疑似信号を生成し、目標変速比設定部203が、疑似信号から特定されるアクセル開度(疑似アクセル開度To’)に基づいて、目標変速比を設定するようになっている。
ここで、疑似信号から特定される疑似アクセル開度は、アクセルペダルが戻された時点から、実際のアクセル開度(実アクセル開度)よりもゆっくりと減少し、予め設定された下限値に達したのちは、その下限値のままで保持されるようになっている。そして、この疑似アクセル開度は、実アクセル開度が加速モードの解除を判定するための閾値(加速モード解除閾値)よりも小さくなった時点から所定時間が経過すると、その時点から実アクセル開度に向けて減少するようになっている。
実施の形態では、この一連の疑似アクセル開度の算出が、
図7の疑似アクセル開度の算出処理により実行される。
【0071】
以下、疑似アクセル開度の算出処理を具体的に説明する。
始めに、ステップ201において、現時点のアクセル開度(実アクセル開度To)が、加速モードの解除を判定するための所定値(加速モード解除閾値)Th_dよりも小さいか否か(To<Th_d)が判定される。
【0072】
実アクセル開度Toが、加速モード解除閾値Th_dよりも小さい場合(To<Th_d)、ステップ202の処理に移行して、タイマTの値の上限値がセットされたのち、ステップ203において、タイマTの値が「1」加算される。
【0073】
ここで、通常の制御の場合には、実アクセル開度Toが加速モード解除閾値Th_dよりも小さくなると、その時点において、自動変速機の運転状態が加速モードから通常モードに切り替えられる。
実施の形態では、車両が登坂路を走行中である場合にアクセルペダルが戻されて、実アクセル開度が加速モード解除閾値Th_dよりも小さい値になっても、通常モードに即座に切り替えられないようにされており、このステップ202でセットされた上限値になる(上限時間が経過する)までは、アクセルペダルの再度の踏み込みに備えて、加速モードが維持されるようになっている。
【0074】
なお、タイマTの上限値は、道路勾配の程度、およびアクセルペダルが戻されたと判定された時点(
図6、ステップ107)におけるアクセル開度Toに対して、マップで規定される値である。
実施の形態では、例えば、登坂路を走行中の車両がカーブに入ってから抜けるまでに要する時間で、タイマTの値が上限値に達するように設定される。
【0075】
前記したステップ201において実アクセル開度Toが加速モード解除閾値Th_dよりも小さくない(To≧Th_d)と判定された場合、またはステップ203においてタイマTの値が「1」加算されると、ステップ204において、疑似アクセル開度生成部206が、タイマTの値が上限値に達したか否かを確認する。
【0076】
タイマTの値が上限値に達していない場合には(ステップ204においてNo)、疑似アクセル開度生成部206が、現時点が、疑似アクセル開度に基づくアップシフト変速の途中であるか否かを確認するために、前回の疑似アクセル開度が存在するか否かを確認する。
【0077】
実施の形態では、疑似アクセル開度に基づくアップシフト変速が開始されると、目標変速比の設定のために、疑似信号から疑似アクセル開度が算出される。
そして、この算出された疑似アクセル開度は、所定条件が満たされると、新たな疑似アクセル開度の算出に利用されるようになっている。
そのため、実施の形態では、算出された疑似アクセル開度を、新たな疑似アクセル開度の算出に利用できるようにするために、例えば記憶部207に、前回の疑似アクセル開度として記憶されるようになっている。
そして、この記憶部207に記憶される疑似アクセル開度は、新たな疑似アクセル開度が算出されるたびに、新たに算出された疑似アクセル開度に更新され、疑似アクセル開度に基づくアップシフト変速が終了した時点で、消去されるようになっている。
【0078】
よって、前回の疑似アクセル開度が記憶部207に記憶されていない場合には(ステップ205においてNo)、現時点が、疑似アクセル開度に基づくアップシフト変速の途中ではなく、車両が登坂路を走行中である場合であってアクセルペダルが戻された直後ということになる。
かかる場合、ステップ207の処理に移行して、疑似アクセル開度生成部206により、最初の疑似アクセル開度が算出されることになる。
【0079】
具体的には、疑似アクセル開度生成部206が、アクセルペダルが戻された時点のアクセル開度と道路勾配とに応じて決まるマップ(例えば、
図5)を記憶部207から取得し、取得したマップに基づいて、現時点における疑似アクセル開度を求めることになる。
【0080】
一方、ステップ205において前回の疑似アクセル開度が存在する場合には、現時点が、疑似アクセル開度に基づくアップシフト変速の途中ということになる。かかる場合、ステップ206の処理に移行して、疑似アクセル開度生成部206が、前回の疑似アクセル開度が、下限値開度(下限値)Th_fであるか否かを確認する。
ここで、下限値開度Th_fは、アクセルペダルが戻された時点のアクセル開度と道路勾配に応じて決まる所定値である。
【0081】
前記したように、実施の形態では、加速モードで登坂路を走行中にアクセルペダルが戻されると、アクセル開度が実アクセル開度の変化率よりも遅い変化率で減少する疑似信号から、その時点での疑似アクセル開度が求められるようになっている。
しかし、アクセルペダルが戻された時点のアクセル開度が小さいときには、疑似信号において疑似アクセル開度がゆっくりと減少するようにしても、短時間のうちに疑似アクセル開度が実アクセル開度と同じ値(例えば0(ゼロ))になる場合がある。
【0082】
そうすると、アクセルペダルが再度踏み込まれた場合に開始されるダウンシフト変速がより短時間で完了するようにするために、実アクセル開度よりも値が大きい疑似アクセル開度を用いているにもかかわらず、疑似アクセル開度を用いることによる効果が発揮されなくなってしまう虞がある。
そのため、実施の形態では、実アクセル開度の変化率よりも遅い変化率で減少する疑似アクセル開度が、実アクセル開度よりも大きい所定の下限値開度Th_fに達すると、以降、疑似アクセル開度が、下限値開度Th_fのままで保持されるようになっている。
【0083】
よって、ステップ206において、前回の疑似アクセル開度が、下限値開度Th_fでない場合(ステップ206においてNo)には、現時点が、疑似アクセル開度を減少させている途中ということになる。
かかる場合、ステップ207の処理に移行して、現時点での疑似アクセル開度が設定されることになる。
具体的には、前記したステップ205を経てステップ207の処理が最初に実行されたときに記憶部207から読み出されたマップ(例えば、
図5)と、アクセルペダルが戻された時点からの経過時間とに基づいて、現時点での新たな疑似アクセル開度が設定されることになる。
なお、経過時間によっては、この時点のステップ207の処理において、疑似アクセル開度が、下限値開度Th_fになる場合がある。
【0084】
一方、ステップ206において前回の疑似アクセル開度が、下限値開度Th_fである場合(ステップ206においてYes)には、その下限値開度Th_fの値が、現時点での疑似アクセル開度To’としてそのまま設定される。
【0085】
よって、実施の形態では、疑似アクセル開度To’が下限値開度Th_fになるまでの間は、
図7の疑似アクセル開度の算出処理が実行されるたびに、ステップ206を経たステップ207の処理により、現時点の疑似アクセル開度To’が設定される。
そして、疑似アクセル開度To’が下限値開度Th_fになったのちは、ステップ206を経たステップ208の処理により、現時点の疑似アクセル開度が設定される。
【0086】
なお、実アクセル開度Toが加速モード解除閾値Th_dよりも小さい値となってから所定時間が経過すると、前記したステップ204において、タイマTの値が上限値に達することになる(ステップ204においてYes)。
かかる場合、ステップ209の処理に移行して、疑似アクセル開度生成部206が、前回の疑似アクセル開度To’から所定値αを減算した値を、現時点での疑似アクセル開度To’として設定する。
【0087】
実施の形態では、実アクセル開度Toが加速モード解除閾値Th_dよりも小さい値となってから所定時間が経過すると、疑似アクセル開度To’に基づく目標変速比の設定を終了するために、疑似アクセル開度To’が、所定量αずつ実アクセル開度Toに近づくように設定される。
前記したように疑似アクセル開度To’は、実アクセル開度Toよりも大きい値であるので、所定時間の経過と同時に疑似アクセル開度To’を実アクセル開度Toに変更すると、目標変速比の設定に用いるアクセル開度が急激に変化することになり、プライマリプーリの目標回転数と目標変速比とが急激に変化して、急激なアップシフト変速が実行されてしまう。
【0088】
そのため、実施の形態では、疑似アクセル開度To’が、徐々に実アクセル開度Toに近づくようにすることで、プライマリプーリの目標回転数と目標変速比の急激な変化を防止して、急激なアップシフト変速が実行されないようにしている。
【0089】
なお、実施の形態では、実アクセル開度Toが加速モード解除閾値Th_dよりも小さい値となってから所定時間が経過した時点で、疑似アクセル開度To’に基づくプライマリプーリの目標回転数と目標変速比の設定を終了する。疑似アクセル開度To’を用いた目標変速比の設定の終了時期を決めているのは、例えば車両を停止させるためにアクセルペダルが戻された場合に、疑似アクセル開度To’が下限値開度Th_fで保持され続けて、車両が停止できなくなることを防止するためである。
【0090】
このようにして、上記したステップ207、208、209の何れかにおいて疑似アクセル開度To’が設定されると、
図7の疑似アクセル開度の算出処理を終了して、
図6のフローチャートの処理にリターンすることになる。
かかる場合、
図6のフローチャートにおけるステップ109の処理が実行される。
【0091】
図6のステップ109では、目標変速比設定部203において、疑似アクセル開度To’が、実アクセル開度Toよりも大きいか否かが確認される。
具体的には、目標変速比設定部203が、アクセル操作量センサ23の出力信号から実アクセル開度を特定し、特定した実アクセル開度Toと、前記したステップ108(疑似アクセル開度の算出処理)で算出された疑似アクセル開度To’とを比較することで、疑似アクセル開度To’が、実アクセル開度Toよりも大きいか否かが確認される。
【0092】
疑似アクセル開度To’が実アクセル開度Toよりも大きい場合(ステップ109においてYes)には、アクセルペダルが戻された(ステップ107)のち、再度踏み込まれていない、または再度踏み込まれたもののアクセル開度が小さい場合ということになる。
かかる場合、ステップ110の処理に移行して、疑似アクセル開度と、車速とに基づいて、加速モード用の変速線図を参照して、現時点におけるプライマリプーリの目標回転数と、目標変速比とが設定される。
【0093】
これにより、続くステップ111において、変速制御部204が、現時点における変速比(実変速比)からステップ110で設定された目標変速比への変速を実行するために、プライマリ圧とセカンダリ圧を決定し、決定したプライマリ圧とセカンダリ圧を実現させるための指令を、油圧コントロールユニット30に出力する。
よって、油圧コントロールユニット30により、Vベルト13のプライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12に対する接触半径が連続的に変わり、プーリ比とVベルト13の接触摩擦力とが、プライマリ圧とセカンダリ圧に応じて決まる値に制御される。
【0094】
これにより、実変速比が目標変速比に向けて連続的に変化して、最終的に実変速比が目標変速比に達した時点で、ステップ111における変速制御が終了することになる。
そして、ステップ111の変速制御が終了すると、ステップ108の処理にリターンして、疑似アクセル開度To’が再び算出されることになる。
【0095】
前記したステップ109において、疑似アクセル開度To’が、実アクセル開度Toよりも大きくない場合、ステップ112の処理に移行して、実アクセル開度と車速とに基づいて、加速モード用の変速線図を参照して、現時点におけるプライマリプーリの目標回転数と、目標変速比とが設定される。
【0096】
ここで、疑似アクセル開度To’が実アクセル開度Toよりも大きくない場合とは、1)アクセルペダルが戻されたのち、アクセルペダルが再度踏み込まれた場合、または2)実アクセル開度Toが加速モード解除閾値Th_dよりも小さくなった時点から所定時間が経過したのち、疑似アクセル開度To’を所定量ずつ減少させて、疑似アクセル開度To’が実アクセル開度Toに到達するまでの間に、アクセルペダルが再度踏み込まれなかった場合を意味する。
【0097】
なお、このステップ112の処理は、前記したステップ106において車両が登坂路を走行中でないと判定された場合(ステップ106においてNo)、そしてステップ107において、アクセル開度が減少していないと判定された場合(ステップ107においてNo)にも実行される。
【0098】
そして、ステップ113において、変速制御部204が、現時点における変速比(実変速比)からステップ112で設定された目標変速比への変速を実行するために、プライマリ圧とセカンダリ圧を決定し、決定したプライマリ圧とセカンダリ圧を実現させるための指令を、油圧コントロールユニット30に出力する。
よって、油圧コントロールユニット30により、Vベルト13のプライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12に対する接触半径が連続的に変わり、プーリ比とVベルト13の接触摩擦力とが、プライマリ圧とセカンダリ圧に応じて決まる値に制御される。
【0099】
これにより、実変速比が目標変速比に向けて連続的に変化して、最終的に実変速比が目標変速比に達した時点で、ステップ113における変速制御が終了することになる。
【0100】
ステップ113の処理が終了すると、ステップ114において、変速モード設定部202が、加速モードの解除の要否を判定する。
具体的には、実アクセル開度に基づく目標変速比の設定が実行されている場合には、現時点におけるアクセル開度Toが所定値Th_d未満(To<Th_d)である場合)に、加速モードの解除が必要であると判定する。
ここで、所定値Th_dは、現時点における車速と、加速意図があると判定された時点(ステップ101)のアクセル開度Toに対してマップで規定される値であり、これらの関係は前記したモード判定マップにおいて規定されている。
なお、所定値Th_dは、加速意図の有無を判定するときに用いられる所定値Th_aよりも小さい値である。
【0101】
このステップ114において加速モードの解除が判定されると、前記したステップ102の処理にリターンして、通常モードが設定されることになる。
一方、ステップ114において加速モードの解除が判定されないと、運転者が引き続きアクセルペダルを踏み込み続けていることになる。かかる場合、加速モードでの変速制御を引き続き実行するために、ステップ106の処理にリターンすることになる。
【0102】
以下、車両が登坂路を走行中である場合にアクセルペダルが戻されて、アクセル開度が0(ゼロ)になった場合における実アクセル開度Toと、疑似アクセル開度To’の変化を説明する。
図8は、実アクセル開度Toと疑似アクセル開度To’の変化を説明するタイムチャートである。
【0103】
車両が加速モードで登坂路を走行している場合にアクセルペダルが戻されると、
図6におけるステップ107の判定が肯定される。そうすると、アクセルペダルが戻された時点t1以降、疑似アクセル開度To’を用いたプライマリプーリの目標回転数、および目標変速比の設定、そしてこれに伴うアップシフト変速が開始されることになる(ステップ108〜ステップ111)。
【0104】
かかる場合、アクセルペダルが戻された時点t1のアクセル開度To_t1と道路勾配とに応じて決まるマップと、時刻t1からの経過時間とに基づいて、時刻t1以降の疑似アクセル開度To’が算出されることになる。実施の形態では、時刻t1以降、疑似アクセル開度To’が、実アクセル開度Toよりもゆっくりと減少するようにマップで設定されており、例えば、時刻t2では、疑似アクセル開度To’_t2が算出されることになる。
【0105】
この疑似アクセル開度To’の算出が行われる一方で、実アクセル開度Toが加速モード解除閾値Th_dよりも小さくなると、その時点t3において
図7におけるステップ201の判定が肯定されて、疑似アクセル開度To’に基づく目標変速比の設定の終了時期を規定するタイマTの値がセットされることになる。
【0106】
そして、実アクセル開度Toが加速モード解除閾値Th_dよりも小さくなった時点t3から所定時間Tが経過するまでの間は、前記したマップと時刻t1からの経過時間とに基づいて、疑似アクセル開度の算出が実行されることになる(ステップ207)。
疑似アクセル開度の算出が実行されている間に、アクセルペダルの再度の踏み込みが行われない場合には、疑似アクセル開度はゆっくりと減少を続けて、やがて下限値開度Th_fに達することになる(時刻t4)。そうすると、その時点t4から所定時間Tが経過する時刻t5までの間は、ステップ204の判定が否定されると共にステップ206の判定が肯定されるので、ステップ208により、疑似アクセル開度To’が、実アクセル開度To(=0(ゼロ))よりも大きい下限開度Th_fで保持されることになる(時刻t4から時刻t5)。
【0107】
そして、所定時間Tが経過すると、
図7におけるステップ204の判定が肯定されるので、ステップ209により、疑似アクセル開度To’は、実アクセル開度Toに向けて所定勾配で近づく(減少する)ことになる(時刻t5から時刻t6)。
【0108】
よって、時刻t1以降時刻t6までの間は、疑似アクセル開度To’が実アクセル開度Toよりも大きいために、
図6におけるステップ109の判定が肯定されて、プライマリプーリの目標回転数の設定と目標変速比の設定とが、疑似アクセル開度To’により実施されることになる。
ここで、疑似アクセル開度To’は、実アクセル開度Toよりも大きい値となるので、この疑似アクセル開度To’に基づく目標変速比の設定が行われている間は、プライマリプーリの目標回転数の値が、実アクセル開度の場合よりも高い値で保持される。そして、この場合の目標変速比は、実アクセル開度Toに基づいて目標変速比を設定する場合より大きい変速比で保持されることになる。
【0109】
よって、アクセルペダルが戻されたときに実行されるアップシフト変速では、疑似アクセル開度を用いて目標変速比を設定している場合のほうが、アップシフト変速における目標変速比の変化量を小さくすることができる(実アクセル開度を用いている場合よりも大きくアップシフトされない)。
【0110】
そして、かかる疑似アクセル開度To’に基づくプライマリプーリの目標回転数と目標変速比の設定とが実行されている間に、アクセルペダルが再度踏み込まれると、
図6におけるステップ109の判定が否定されて、プライマリプーリの目標回転数の設定と目標変速比の設定とが、実アクセル開度により実施されることになる。
【0111】
そうすると、踏み込み後の実アクセル開度を用いて設定される目標変速比に向けたダウンシフト変速が開始されることになる。
ここで、アクセルペダルが再度踏み込まれる前の目標変速比の設定が疑似アクセル開度を用いて行われていた場合、そのときの目標変速比は、実アクセル開度(=0(ゼロ))の場合の目標変速比よりも大きい値であって、踏み込み後の実アクセル開度を用いて設定される目標変速比に近い値となる。
【0112】
よって、アクセルペダルが再度踏み込まれたときに実行されるダウンシフト変速では、アクセルペダルが再度踏み込まれる前に疑似アクセル開度を用いて目標変速比を設定している場合のほうが、ダウンシフトシフト変速における目標変速比の変化量を小さくすることができる(実アクセル開度を用いている場合よりも大きくダウンシフトされない)ことになる。
よって、実アクセル開度を用いていた場合よりもより短時間で、アクセルペダルが再度踏み込まれた後の目標変速比に到達させることができるので、車両が登坂路を走行しているときの自動変速機の変速挙動を改善して、運転者が変速挙動に対して持つ違和感を緩和することができる。
【0113】
以上の通り、本実施形態では、プライマリプーリ11に入力されたエンジン1の回転駆動力を無段階に変化させてセカンダリプーリ12に伝達する無段変速機10の変速制御装置(CVTコントロールユニット20)において、
アクセル操作量センサ23の出力信号から特定される実際のアクセル開度(実アクセル開度To)と、車速Vとに基づいてマップ(
図5)を参照して、目標変速比を設定する目標変速比設定部203と、目標変速比に向けて無段変速機10の変速を制御する変速制御部204と、車両が登坂路を走行中であるか否かを判定する判定部(登坂路走行判定部205)と、車両が登坂路を走行中であると判定されているときにアクセル開度Toが減少すると、実アクセル開度Toよりも大きいアクセル開度となる疑似アクセル開度To’を生成して、目標変速比設定部203に入力する疑似アクセル開度生成部(疑似アクセル開度生成部)206と、を備え、
目標変速比設定部203は、疑似アクセル開度To’が入力された場合は、疑似アクセル開度To’を用いて、実アクセル開度を用いて設定される目標変速比よりも大きい値となる目標変速比を設定し、
変速制御部204は、疑似アクセル開度が生成された場合には、疑似アクセル開度と車速とに基づいて設定された目標変速比に向けて無段変速機の変速を制御し、疑似アクセル開度が生成されない場合には、実際のアクセル開度と車速とに基づいて設定された目標変速比に向けて無段変速機の変速を制御する構成とした。
【0114】
このように構成すると、車両が登坂路を走行中にアクセルペダルが戻されてアクセル開度が減少したときには、実際のアクセル開度よりも大きい値となる疑似アクセル開度を用いて目標変速比が設定されるので、無段変速機の目標変速比が、実際のアクセル開度を用いて目標変速比を設定した場合よりも大きい変速比となる。
よって、アクセルペダルが再度踏み込まれたときに実行されるダウンシフト変速では、アクセルペダルが再度踏み込まれる前に疑似アクセル開度を用いて目標変速比を設定していた場合のほうが、ダウンシフトシフト変速における目標変速比の変化量を小さくできる。これにより、無段変速機の変速比を、実アクセル開度を用いていた場合よりも短時間で、アクセルペダルが再度踏み込まれた後の目標変速比に到達させることができるので、車両が登坂路を走行しているときの自動変速機の変速挙動を改善して、運転者が変速挙動に対して持つ違和感を緩和できる。
【0115】
特に、疑似アクセル開度生成部が生成する疑似アクセル開度は、実際のアクセル開度の変化率よりも遅い変化率で減少する構成とし、疑似アクセル開度を用いて目標変速比を設定しているときのアップシフト変速のほうが、実アクセル開度を用いて目標変速比を設定しているときのアップシフト変速よりも、目標変速比の変化(低下)が遅いアップシフト変速となるようにした。
【0116】
このように構成すると、車両が登坂路を走行中にアクセルペダルが戻されてアクセル開度が減少したときには、実際のアクセル開度よりもゆっくりと減少する疑似アクセル開度を用いて目標変速比が設定されるので、無段変速機の変速比が、アクセルペダルの戻しに応じてリニアに変化せずに、実際のアクセル開度を用いて目標変速比を設定した場合よりもゆっくりと変化することになる。
よって、アップシフト変速の実施が制限されることになるので、アクセルペダルが再度踏み込まれたときに実行されるダウンシフト変速では、アクセルペダルが再度踏み込まれる前に疑似アクセル開度を用いて目標変速比を設定していた場合のほうが、ダウンシフトシフト変速における目標変速比の変化量を小さくできる。
これにより、アクセルペダルが再度踏み込まれた場合に、無段変速機の変速比を、実アクセル開度を用いていた場合よりも短時間で、アクセルペダルが再度踏み込まれた後の目標変速比に到達させることができるので、車両が登坂路を走行しているときの再加速性が向上する。よって、車両が登坂路を走行しているときのアクセルペダルが戻されたのちに再度踏み込まれた場合の変速挙動に対して、運転者が従来持っていた違和感を緩和できる。
【0117】
特に、疑似アクセル開度の減少率が、アクセルペダルが戻された時点の実際のアクセル開度と道路勾配とに基づいて決定され構成としたので、アクセルペダルが戻された際のアップシフト変速における目標変速比の変化量を、運転者のアクセル操作に応じて、適切に設定できる。これにより、アクセルペダルが戻されたときに、プライマリプーリの目標回転数(エンジン回転数)を適切に維持して、アクセルペダルが再度踏み込まれた際のダウンシフトシフト変速における目標変速比の変化量を小さくできる。よって、変速挙動に対して持っていた運転者の違和感を、いっそう改善できる。
【0118】
また、疑似アクセル開度には、減少後の実アクセル開度よりも大きい下限値であって、アクセル開度が減少した時点のアクセル開度と道路勾配に応じて決まる下限値が設定されており、疑似アクセル開度生成部は、疑似アクセル開度が減少して下限値に達したのちは、疑似アクセル開度を下限値で保持する構成とした。
【0119】
このように構成すると、疑似アクセル開度が、最終的に実アクセル開度よりも大きい下限値で保持されることになる。
アクセルペダルが戻された時点のアクセル開度が小さいときには、疑似アクセル開度がゆっくりと減少するようにしても、短時間のうちに疑似アクセル開度が実アクセル開度と同じ値(例えば0(ゼロ))になる場合がある。
上記のように構成すると、かかる事態の発生を阻止できるので、アクセルペダルが戻された時点のアクセル開度が小さい場合であっても、実アクセル開度を用いて設定した目標変速比よりも大きい目標変速比が設定されているで、アクセルペダルが再度踏み込まれた後の目標変速比に、速やかに到達させることができる。
【0120】
運転者の加速意図の有無を判定する加速意図判定部201と、加速意図があると判定された場合に、無段変速機10の変速制御を、プライマリプーリ11の目標回転数が通常モードよりも高回転側に設定される加速モードに設定する変速モード設定部202と、をさらに備え、
疑似アクセル開度生成部206は、車両が加速モードで登坂路を走行中であるときにアクセル開度が減少すると、疑似アクセル開度を生成して目標変速比設定部203に入力する構成とした。
【0121】
このように構成すると、車両が加速モードで走行している場合には、プライマリプーリ11の目標回転数が通常モードよりも高回転側に設定されているので、アクセルペダルが戻されたときに実行されるアップシフト変速では、通常モードよりもより大きく目標変速比が変化する(通常モードよりも大きくアップシフトされる)ことになる。
よって、かかる場合に、疑似アクセル開度に基づいて目標変速比が設定されると、短時間で目標変速比が大きく変化する(より大きくアップシフトされる)ことを好適に防止できるので、その後アクセルペダルが踏み込まれたときに、踏み込み後のアクセル開度に応じて決まる目標変速比により速やかに到達させることができるようになる。
これにより、車両が登坂路を走行しているときの自動変速機の変速挙動を改善されるので、運転者が変速挙動に対して持つ違和感を緩和できることになる。
【0122】
さらに、アクセル開度Toと、車速に応じて決まる所定値Th_aとが、To≧Th_aの条件を満たす場合に、加速意図判定部201は加速意図があると判定して、変速モード設定部202が、無段変速機の変速制御を加速モードに設定し、
疑似アクセル開度生成部206(アクセル開度生成部)は、加速モードにおける疑似アクセル開度To’の生成を、実際のアクセル開度Toが、所定値Th_aよりも小さい加速モード解除閾値Th_d未満になった(To<Th_d)のち、所定時間で終了する構成とした。
【0123】
このように構成すると、アクセルペダルが戻されてアクセル開度が「0(ゼロ)」になったのちにアクセルペダルが再度踏み込まれないにもかかわらず、疑似アクセル開度To’が下限値開度Th_fに保持されて、例えば車両を停止させるためにアクセルペダルが戻された場合に、車両が停止できなくなることを防止できる。
【0124】
疑似アクセル開度生成部206は、疑似アクセル開度の生成を終了する場合、疑似アクセル開度To’を、実際のアクセル開度Toが加速モード解除閾値Th_dよりも小さくなったのち所定時間が経過してから、減少後の実際のアクセル開度Toに向けて所定量αずつ減少させ、疑似アクセル開度To’が減少後の実際のアクセル開度Toに達した時点で、疑似アクセル開度の生成を終了する構成とした。
【0125】
このように構成すると、プライマリプーリの目標回転数と目標変速比とが急激に変化することを防止して、急激なアップシフト変速が実行されないにすることができるので、運転者が変速挙動に対して違和感を持たないようにすることができる。
【0126】
疑似アクセル開度生成部206は、実アクセル開度Toが、減少後の実アクセル開度(例えば0(ゼロ))から増加して疑似アクセル開度To’よりも大きくなった時点で、疑似アクセル開度To’の生成を終了する構成とした。
【0127】
このように構成すると、疑似アクセル開度To’を用いて設定された目標変速比でのアップシフト変速を終了し、実アクセル開度を用いて設定された目標変速比でのダウンシフト変速を、適切に開始することができる。
【0128】
また、かかる場合、アクセルペダルが再度踏み込まれた後の実アクセル開度が、アクセルペダルが戻された時点のアクセル開度よりも小さい場合には、疑似アクセル開度To’が低下して、再度踏み込まれた後の実アクセル開度Toになるまで、疑似アクセル開度を用いた目標変速比の設定が継続されることになる。
よって、従来のように下限規制線でプライマリプーリの目標回転数の下限を設定していた場合のように、再度踏み込まれた後の実アクセル開度から決まるプライマリプーリの目標回転数と、下限規制線で決まる目標回転数との間の乖離が生じないので、運転者が、変速挙動に違和感を覚えることを好適に防止できる。
【0129】
さらに、加速意図判定部201は、アクセル開度Toと、アクセル踏み込み速度Tvと、車速に応じて決まる所定値Th_a、Th_bとが、To≧Th_a、かつTv≧Th_b の条件を満たす場合に、加速意図があると判断する構成とした。
【0130】
このように構成すると、車速に応じて所定値が変化することで、加速意図の有無を、低車速〜高車速までの幅広い範囲で適切に判定できる。
【0131】
さらに、前記した実施の形態では、下限値開度Th_fが、アクセルペダルが戻された時点のアクセル開度と道路勾配に応じて決まる場合を例示したが、車両の運転者のスポーツ運転度合いを加味して、下限値開度Th_fを設定するようにしても良い。
例えば、運転者のアクセル操作の経時的なモニタにより運転者のアクセル操作傾向を取得し、運転者が車両の加速を好む傾向が高い(スポーツ運転度合いが高い)場合に、下限値開度Th_fを、スポーツ運転度合いの高くない運転者の場合よりも大きくなるようにすることが好ましい。
【0132】
かかる場合、アクセルペダルが再度踏み込まれた場合のダウンシフト変速において、踏み込まれた後のアクセル開度に応じて決まる目標変速比に、より短時間で到達させることが可能となるので、再加速性能に優れた無段変速機となる。
特に、スポーツ運転度合いの高い運転者は、アクセルペダルが再度踏み込まれた場合のアクセル開度が大きくなる傾向があり、アクセルペダルが再度踏み込まれた場合のプライマリプーリの回転数(エンジン回転数)が、疑似アクセル開度を用いていた設定していたプライマリプーリの回転数(エンジン回転数)よりも小さくなる可能性が小さいので、下限値開度Th_fを高めに設定することができる。
これにより、運転者が変速挙動に違和感を持つことを好適に防止できると共に、走行性能(再加速性能)に優れた無段変速機を提供できることになる。
【0133】
前記した実施の形態では、Gセンサ24の出力信号に基づいて道路勾配を算出する場合を例示したが、例えば、エンジントルク、車速、加速度から、道路勾配を算出するようにしても良い。かかる場合、Gセンサ24によらずに、道路勾配を算出できるので、無段変速機の変速制御装置の製造コストの低減に寄与できる。
【0134】
前記した実施の形態では、通常モードと加速モード用の変速線図を備える無段変速機の制御装置の場合を例示したが、さらに、雪道走行に適した変速線が設定された変速線図を使用する走行モード(例えば、スノーモード)を備える無段変速機の制御装置に、本願発明を適用しても良い。
疑似アクセル開度を用いてプライマリプーリの目標回転数や、目標変速比を設定すると、実アクセル開度を用いてプライマリプーリの目標回転数や、目標変速比を設定する場合に比べて、変速時における目標変速比が大きく変化しないので、安定した雪道走行が可能となる。
【0135】
実施の形態では、無段変速機が、ベルト式の無段変速機である場合を例示したが、本発明は、トロイダル式の無段変速機に適用しても良い。