特許第5743877号(P5743877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5743877
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】ターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 1/00 20060101AFI20150611BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20150611BHJP
   H01B 12/06 20060101ALI20150611BHJP
   C01G 3/00 20060101ALI20150611BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   C01G1/00 S
   H01B13/00 565D
   H01B12/06ZAA
   C01G3/00
   C23C14/34 A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-285677(P2011-285677)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-133267(P2013-133267A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】平田 渉
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−193605(JP,A)
【文献】 特開2009−110906(JP,A)
【文献】 特開2007−063631(JP,A)
【文献】 特開平01−153565(JP,A)
【文献】 特開平07−033434(JP,A)
【文献】 特開平01−264909(JP,A)
【文献】 特開昭64−076948(JP,A)
【文献】 米国特許第05149684(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G1/00−23/08
C23C14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類の酸化物、金属酸化物、炭酸バリウムを含む原料粉末を混合する混合工程と、
混合した粉末を仮焼きする仮焼き工程と、仮焼きした原料を粉砕し成型して焼成する工程とを有し、REBaCu(ただし、REはYを含む希土類元素の内から選択される1種または2種以上の元素)で表記される希土類酸化物超電導体の薄膜を成膜するためのターゲットの製造方法であって、
前記仮焼き工程において、セラミックス板上に混合粉末を載置して厚さ2mm以上1cm以下の薄盛層を形成し室温から900℃以上まで1〜5時間で昇温することを特徴とするターゲットの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のターゲットの製造方法であって、
前記混合工程において、含水量を5%以下としたエタノールを使用して原料粉を湿式で混合することを特徴とするターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットの製造方法、ターゲット、酸化物超電導体の製造方法に係り、特に、レーザアブレーションによる超電導薄膜成膜用の超電導ターゲットに用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
REBaCu(RE:Y、Gdなどの希土類元素、6.5<y<7.1)の組成で表記されるRE123系(Y系)の酸化物超電導体は、液体窒素温度(77K)よりも高い臨界温度を有しており、このような、酸化物超電導体は、超電導線材および様々な電子デバイスなどに応用される超電導機器への応用を見据えて良好な結晶配向性を持つようにPLD法などによって成膜される。
【0003】
パルスレーザー蒸着法(PLD:Pulse Laser Deposition)は、ターゲット材料にパルスレーザーを照射し、レーザ照射によりターゲット材料からアブレーション(蒸発侵食)されて放出された原子、分子あるいは微粒子を基板上に堆積させる薄膜作製技術であり、半導体や酸化物超電導薄膜の作製に適用されている。また、ターゲットから薄膜を作製した場合、ターゲットと薄膜との間で組成ずれが少ないことから、PLD法は他の薄膜作製プロセスに比べ、複雑な化学組成を転写する場合に優れている特徴がある。
【0004】
このようなターゲットとなる酸化物超電導物質を作製する方法としては、固相反応法や共沈法などが知られている。最も広くおこなわれている固相反応法では、原料粉末を所定の比率になるように秤量・混合し、焼結をおこなうことにより、目的の組成を得るものであり、一例として特許文献1が開示されている。
【0005】
高品質な薄膜(特に超電導のように不純物や組成ずれにシビアな薄膜)を作製する際、一般的にはそのターゲットに用いる焼結体は、不純物が少なく、異相のないものを使うのが好ましいとされている。
上記のY系超電導ターゲットの場合には、単相粉末を作製:原料(Y,BaCO,BaO,CuO等)から超電導粉末を作製する際、混合→仮焼き→粉砕→仮焼きと、仮焼きを2度以上おこなうことで脱炭をおこなうとともに極限まで異相を減らして単相の仮焼粉を作製し、この単相粉末を成型→焼成することで焼結体ターゲットにしている。ここで、異相とは、目的とする組成と異なるCuO、BaO、BaCOあるいは、バリウム-銅の化合物や、反応しなかった原料、未反応物を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−280856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献記載の技術では一度の仮焼きでは単相の仮焼粉を作製することはできないが、その場合、単相でない、つまり、異相があるターゲットではPLDやスパッタによる高品質な成膜は不可能となるため、上述した複数回の処理として、混合→仮焼き→粉砕→仮焼きの複数の処理工程をおこなっている。このように工程数が多くなることで、ターゲットに不純物が入る可能性が高まってターゲットの純度が下がり、結果的に、ターゲットの不均一さ(異相)が線材に反映され、超電導特性が劣化するという問題があった。このため、工程数を減らしたいという要求があった。
【0008】
しかし、混合と仮焼きが1度だけの場合、1度の混合で原料粉が均一に混ざらず異相の原因となる上、固相反応が粉体と粉体との反応であるため、粒内と外側、粒子間で組成ズレをおこすため、組成が不均一になることが多く、ターゲット自体が不均一になる。
また、不純物のない単相の超電導粉末を作製する際、固相反応の過程でこの反応は粒子の接触点から起こるため、原料粉の分布が不均一であると1度の焼成では均一な反応が起こらず、異相発生の原因となってしまう。そこで、先ず原料粉末の均一な混合が必要になる。
【0009】
さらに、仮焼きを複数回おこなわないと脱炭時に成型体が割れてしまうが、上述の特許文献記載の技術では割れずに焼結体を作るのがほぼ不可能であった。
これは、原料混合粉を加熱する過程において、バリウム炭酸塩(BaCO)から二酸化炭素COが発生することによって割れが発生するものである。この割れ発生を防止するためには混合粉中の炭素を抜く必要があり、完全に炭素を抜くためには複数回の焼成と粉砕を必要とする。さらにまた、合成の過程において水の混入があると、バリウムが水に溶け出してバリウム炭酸塩が発生してしまう。
【0010】
このように、異相の入ったターゲットは成膜に不向きであり、従来それらを使って高品質な薄膜を成長させることはできなかった。そのため、割れを防止しつつ異相をなくすために多数の工程を経なくてはならず、薄膜の元となる焼結ターゲットを作製可能な均一な超電導粉末を得るための工程数が多く、製造時間がかかり、製造コストが増大するという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、原料粉末の均一な混合を可能するとともに、ポーラスな状態で脱炭を完全におこない、ターゲット作製時に混合原料を圧粉して、成型体の中で加熱する固相反応時において発生する二酸化炭素ガスが空気中に出る際に焼結体が割れてしまうことを防止することを目的とする。同時に、本発明は、昇温による固相反応を促すことで異相の発生を防止して均一な組成物を得ることが可能で、工程数を減少でき、製造コストを低減し、コンタミが入る確率を低減して、超電導特性の向上を見込めるターゲットを製造可能とするターゲットの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に係るターゲットの製造方法は、希土類の酸化物、金属酸化物、炭酸バリウムを含む原料粉末を混合する混合工程と、混合した粉末を仮焼きする仮焼き工程と、仮焼きした原料を粉砕し成型して焼成する工程とを有し、REBaCu(ただし、REはYを含む希土類元素の内から選択される1種または2種以上の元素)で表記される希土類酸化物超電導体の薄膜を成膜するためのターゲットの製造方法であって、前記仮焼き工程において、セラミックス板上に混合粉末を載置して厚さ1cm以下の薄盛層を形成し室温から900℃以上まで1〜5時間で昇温することを特徴とする。
本発明の請求項2に係るターゲットの製造方法は、請求項1記載のターゲットの製造方法であって、前記混合工程において、含水量を5%以下としたエタノールを使用して原料粉を湿式で混合することを特徴とする。
本発明の請求項3に係るターゲットは、請求項1または2記載のターゲットの製造方法により製造されたことを特徴とする。
本発明の請求項4に係る酸化物超電導体の製造方法は、金属製の基材本体とこの基材本体上に形成された中間層を具備する積層構造の基材に対し、請求項3記載のターゲットを用いてレーザ蒸着により前記中間層上に酸化物超電導層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0013】
本発明のターゲットの製造方法は、希土類の酸化物、金属酸化物、炭酸バリウムを含む原料粉末を混合工程において混合し、混合した粉末を仮焼き工程でセラミックス板上に混合粉末を載置して厚さ1cm以下の薄盛層を形成し室温から900℃以上まで1〜5時間で昇温して仮焼きし、仮焼きした原料を粉砕・成型・焼成することにより、仮焼き工程における脱炭を充分におこなって、焼成時における割れ発生を防止することが可能となる。
【0014】
本発明のターゲットの製造方法は、混合工程において含水量を5%以下としたエタノールを使用して原料粉を湿式で混合することにより、水とバリウムの反応に起因して生成する炭酸バリウムから発生する二酸化炭素が原因となる割れ発生を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ターゲット焼成時の二酸化炭素ガス発生による焼結体の割れ発生を防止するよう脱炭(脱炭酸ガス)を完全におこなうことが可能で、原料粉末を均一に混合するとともに昇温による固相反応を促すことで均一な組成物を得ることが可能であることにより、工程数を減少でき、製造コストを低減し、コンタミが入る確率を低減して、超電導特性の向上を見込めるターゲットを製造可能とするターゲットの製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明に係るターゲットにおける一実施形態によって製造される酸化物超電導導体を示す概略斜視図である。
図2図2は、本発明に係るターゲットにおける一実施形態によって製造される酸化物超電導導体の製造で使用される成膜装置の一例を示す概略斜視図である。
図3図3は、本発明に係るターゲットの製造方法における一実施形態の工程を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明に係るターゲットの製造方法における一実施形態の仮焼き工程を示す模式図である。
図5図5は、仮焼き後におこなったX線回折の結果を示すグラフである。
図6図6は、仮焼き後におこなったX線回折の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るターゲットの製造方法の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
本実施形態のターゲットは、レーザ蒸着による酸化物超電導体の製造に用いられる超電導ターゲットとされる。
【0019】
本実施形態のターゲットの製造方法は、図3に示すように、混合工程S01、仮焼き工程S02、粉砕工程S03、成型工程S04、焼成工程S05を有するものとされる。
【0020】
本実施形態のターゲットの製造方法における混合工程S01においては、原料粉末であるRE(但し、REは、イットリウムおよび/または希土類元素のうちから選択される1つ以上の元素),BaCO,CuOの各原料粉末を、所望のモル比となるように秤量し混合する。各原料粉末の混合は、各原料粉末を湿式ボールミルに装填し、ボールを加えて有機溶媒中にて20時間以上行った。
【0021】
湿式混合の際の溶媒として、無水エタノールや脱水処理をして含水量5%以下としたエタノールを使用することが好ましく、含水量0.5%以下とすることがより好ましい。これにより短時間で均一な混合が可能となるとともに、後工程である仮焼き工程および焼成工程における炭酸ガス発生を低減することができる。
次いで、湿式混合した混合溶液(スラリー)を乾燥機に入れて大気中で乾燥させ、原料粉が均一に分布した混合粉を得る。これにより、元素の分布が均一な原料混合粉を得る。
【0022】
次いで、図3に示す仮焼き工程S02においては、仮焼きのために、図4に示すように、アルミナ製やジルコニア製などとされる耐熱性のセラミックス板(耐熱板)30上に乾燥後の原料粉を薄く広げて載置して薄盛層31を形成する。
セラミックス板(耐熱板)30上に載置される原料粉の薄盛層31の厚さは2mm〜1cmであることが好ましい。
薄盛層31が1cmを超えると層が厚くなりすぎ脱炭が充分におこなわれず、炭素が原料粉の薄盛層31中に残留してしまう虞があり、加熱状態が所望の状態とならず異相を発生する虞がある。また、薄盛層31が2mm未満では層が薄すぎて仮焼き時に必要な固相反応が不充分となり、RE、Ba、Cuによる超電導相の生成に支障を来す虞がある。また、薄盛層31が薄い場合には、同一量の原料粉を処理するのに必要な面積が大きくなるため大面積のセラミック板30が必要になるため装置が大型化し生産効率が悪くコストが増大するため好ましくない。
【0023】
次いで、仮焼き工程S02においては、電気炉等とされる加熱炉40にセラミックス板30ごと原料粉の薄盛層(薄塗層)31を移動し、例えば大気中とされる酸素を10%〜30%含有する雰囲気で室温から900℃以上まで1〜5時間で昇温する。好ましくは、室温から970℃以上あるいは1000℃程度とされる仮焼き温度までを1〜5時間で昇温し、仮焼き温度にて5時間〜20時間の加熱をおこなう。
【0024】
この短時間での昇温により、1cm以下の厚さとされる原料粉の薄盛層(薄塗層)31において、中間温度で保持する過程を避けて、脱炭が生じるとほぼ同時に固相反応を起こして目的の超電導組成を生成させる。これにより、元素の不均一分布が起こりにくくなり均一な単相の仮焼粉を得るとともに、バリウム炭酸塩から二酸化炭素が抜け、バリウム−銅化合物が生成したとほぼ同時にREBaCuの生成を生じさせる。これは仮焼粉をX線回折した結果でも明らかであり、10時間かけて低速昇温した場合には、図6に示すように、2θ(°)が35°付近にでていた異相のピークが、高速昇温した場合には、図5に示すように、異相のピークがなく、異相が発生していないことがわかる。
また、セラミックス板(耐熱板)30上に原料粉の薄盛層31を載置して処理しているので、高速昇温時にセラミックス板(耐熱板)30に割れが発生することを防止することができる。
【0025】
次いで、粉砕工程S03において仮焼粉を粗粉砕して粗粉砕粉を得る。
具体的には、仮焼粉を、ジルコニアボール等およびトルエン等の有機溶媒とともにセラミックスポットに入れて、ボールミル粉砕あるいは振動ミル粉砕により粗粉砕をおこなう。そして、粗粉砕が終了したスラリー状の仮焼粉を、乾燥機で乾燥させて、粗粉砕粉を得る。
当該ボールミル粉砕および当該振動ミル粉砕の操作によって仮焼粉を粗粉砕し、仮焼粉の均一性を向上させるとともに、後述する焼成工程S05において当該仮焼粉の熱的反応性を上げることができる。
【0026】
成型工程S04において得られた微粉砕粉を所定形状の(金型)に充填し、98MPa〜196MPaの圧力で成形し成型体を得る。なお、この圧力成形は一軸成形で行うことが望ましい。焼成工程S05として成型体を、焼成炉内に設置し、酸素を10%〜30%含有する雰囲気(例えば、大気でもよい。)で900℃〜980℃より好ましくは、900℃〜940℃の温度で10時間〜50時間加熱して焼成し、酸化物超電導焼結体であるターゲットを作製する。
【0027】
本実施形態のターゲットを用いて製造される酸化物超電導体は、基材の上方に中間層、酸化物超電導層、保護層が設けられることができる。中間層としては、下地層、配向層、キャップ層からなるものが例示できる。このように、例えば、図1に示すように、酸化物超電導導体1は、テープ状の基材本体2の上方に、拡散防止層3と配向層4とキャップ層5と酸化物超電導層6と安定化層7をこの順に積層してなる構成とすることができる。この酸化物超電導導体1はその周面を図示略の絶縁被覆層などで覆って酸化物超電導線材として利用される。
【0028】
本実施形態の前記酸化物超電導導体1に適用される基材本体2は、例えば、ハステロイ等のニッケル合金等の各種耐熱性金属材料等が挙げられる。
拡散防止層3は、基材本体2を構成する元素が上部の酸化物超電導層6側へ拡散するのを防止する機能を有するものとされ、例えば、GZO(GdZr)、アモルファス酸化アルミニウムAl、イットリア(Y)、窒化珪素(Si)等から構成されることができる。拡散防止層3と配向層4の間には、Er、CeO、Dy、Er、Eu、Ho、Laで示される希土類酸化物からなる、材料からなる単層構造あるいは複層構造のベッド層が設けられていてもよい。
【0029】
配向層4は、酸化物超電導層6の結晶配向性を制御し、基材本体2中の金属元素の酸化物超電導層6への拡散を防止し、基材本体2と酸化物超電導層6との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示できる。
【0030】
前記キャップ層5は、CeO、LMO(LaMnO)、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等からなり、前記配向層4の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。
【0031】
酸化物超電導層6は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBaCu)又はGd123(GdBaCu)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良い。
酸化物超電導層6は、本実施形態では後に説明する構成の成膜装置20を用いて後述するPLD法により形成することができる。酸化物超電導層6の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0032】
酸化物超電導層6の上面を覆うように形成されている安定化層7は、AgまたはAg合金等からなり、その厚さを1〜30μm程度とされる。また、安定化層7の上に図示略の第2の安定化層が設けられていても良い。第2の安定化層は、銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、ステンレス等の良導電性、Ni−Cr等のNi系合金等の金属材料からなり、酸化物超電導層6が超電導状態から常電導状態に転移した時に、安定化層7とともに、電流を転流するバイパスとして機能する。これまで説明してきた超電導積層体の各構成のうち、拡散防止層、ベッド層及びキャップ層は必須の要素ではなく、超電導積層体の設計条件により適宜用いられるものである。
【0033】
本実施形態のターゲットを使用する際、前記酸化物超電導導体1の酸化物超電導層6を以下に説明する成膜装置(レーザ蒸着装置)20を用いて製造することができる。
【0034】
レーザ蒸着装置20は、図2に示すように、酸化物超電導層6を成膜する際、基材本体2上にキャップ層5までが順次積層された長尺の薄膜積層体25を巻回するリールなどの巻回部材を複数個同軸的に配列してなり、離間して対向配置された一対の巻回部材群23、24と、巻回部材群23の外側に配置された薄膜積層体25を送り出すための送出リール21と、巻回部材群24の外側に配置された薄膜積層体25を巻き取るための巻取リール22と、巻回部材群23、24の巻回により複数列とされた薄膜積層体25を支持する基板ホルダ26と、基板ホルダ26に内蔵された薄膜積層体25を加熱するための加熱手段(図示略)と、薄膜積層体25と対向配置されたターゲット27と、ターゲット27にレーザ光Lを照射するレーザ光発光手段28とを備えて構成されている。巻回部材群23、24、送出リール21及び巻取リール22を駆動装置(図示略)により互いに同期して駆動させることにより、送出リール21から送り出された薄膜積層体25が巻回部材群23、24を周回し、巻取リール22に巻き取られるようになっている。
【0035】
一対の巻回部材群23、24に巻回された長尺の薄膜積層体25は、これらの巻回部材群23、24を周回することにより、蒸着粒子の堆積領域内にて複数列レーンを構成するように配置されている。そのため、レーザ蒸着装置20は、レーザ光Lをターゲット27の表面に照射し、ターゲット27から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子の噴流(以下、プルーム29と記す。)を、ターゲット27に対向する領域を走行する薄膜積層体25の表面に向けて蒸着粒子を堆積させることができる。
【0036】
ターゲット27は、形成しようとする酸化物超電導層15と同等または近似した組成、あるいは、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物あるいは酸化物超電導体からなる焼結体などの板材からなっている。
ターゲット27にレーザ光Lを照射するレーザ光発光手段28としては、ターゲット27から蒸着粒子を叩き出すことができるレーザ光Lを発生するものであれば、Ar−F(193nm)、Kr−F(248nm)などのエキシマレーザ、YAGレーザ、COレーザなどのいずれのものを用いても良い。
【0037】
図2に示す構成のレーザ蒸着装置20を用いて長尺の薄膜積層体25の上に酸化物超電導層6を成膜するには、ターゲット27を所定の位置に設置し、次いで、送出リール21に巻回されている薄膜積層体25を引き出しながら、巻回部材群23、24に順次巻回し、その後、薄膜積層体25の先端側を巻取リール22に巻き取り可能に取り付ける。これによって、一対の巻回部材群23、24に巻回された薄膜積層体25が、これらの巻回部材群23、24を周回し、ターゲット27に対向する位置に複数列並んで移動するようになる。
【0038】
その後、排気装置(図示略)を駆動し、少なくとも巻回部材群23、24間を走行する薄膜積層体25を覆うように設置された処理容器(不図示)内を減圧する。
【0039】
この際、必要に応じて処理容器内に酸素ガスを導入して容器内を酸素雰囲気としても良い。次に、ターゲット27にレーザ光Lを照射して成膜を開始するよりも前の適当な時に、加熱手段(図示略)に通電して少なくとも成膜領域を走行する薄膜積層体25を加熱し、一定温度に保温する。成膜時の薄膜積層体25の表面温度は、適宜調整可能であり、例えば、780〜850℃とすることができる。
【0040】
続いて、送出リール21から薄膜積層体25を送り出しつつ、レーザ光発光手段28からレーザ光Lを発生させ、レーザ光Lをターゲット27に照射する。この時、レーザ光Lの照射位置をターゲット27の表面上で移動させる走査を行いながらレーザ光Lをターゲット27に照射することが好ましい。
【0041】
また、ターゲット27は、ターゲット移動機構(図示略)によって、平行な面に沿って移動させることも好ましい。このように、ターゲット27におけるレーザ光Lの照射位置を移動させることにより、ターゲット27の表面全域から順次プルーム29を発生させてターゲット27の粒子を叩き出すか蒸発させることができ、レーン状に複数配列した薄膜積層体25の個々に可能な限り均一な酸化物超電導層6を成膜することができる。
【0042】
ターゲット27から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子は、その放射方向の断面積が拡大したプルーム29となり、複数列並んで移動している薄膜積層体25の表面に、蒸着粒子を堆積させることができ、薄膜積層体25がこれらの巻回部材群22、23を周回する間に、酸化物超電導層6が繰り返し
成膜され、必要な厚さに積層される。酸化物超電導層6の成膜後、得られた酸化物超電導導体1は巻取リール21に巻き取られる。
このように本実施形態のターゲットを用いて、長尺の薄膜積層体25の上に酸化物超電導層6を成膜して酸化物超電導導体1を製造する。
【0043】
本実施形態のターゲットの製造方法においては、混合工程S01において秤量した原料粉を含水量が少ないエタノールを用いてボールミル混合をするので元素の不均一分布が発生しにくくなり、組成ズレがなく均一な単相の粉末を得ることができる。これにより、仮焼き工程S02において、均一な固相反応を可能とし、異相の発生を防止することが可能となる。同時に、バリウムが水分と反応して水酸化バリウムとなることも防止して、発生する炭酸が増加することを防止できる。
【0044】
本実施形態のターゲットの製造方法においては、仮焼き工程S02においてセラミックス板(耐熱板)30上に均一に混合された混合粉を薄く載置して、熱伝導が良好な状態で、かつ、ポーラス(低密度)の状態で仮焼きするので、原料粉31の加熱状態を均一にして、均一な固相反応を可能とするとともに、脱炭をスムーズにおこなうことが可能となる。
また、セラミックス板(耐熱板)30上に原料粉を薄盛層31として高速昇温を含む加熱処理をおこなうことで、初めて、容器に充填してから昇温した際に発生していた容器での割れを防止することができるため、このような高速昇温による均一な固相反応を可能とすることができる。
また、このように薄盛層31を形成した状態で1000℃程度とされる仮焼き温度までを1〜5時間で高速昇温することで、脱炭を確実におこなうとともに、固相反応を起こしやすくして異相の発生を防止し組成ズレを防止することができる。
【0045】
これにより、本実施形態のターゲットの製造方法においては、仮焼き、粉砕を1度にした場合でも、均一な組成を有し異相を含まない状態を実現することができる。同時に、脱炭を充分におこなって、炭酸に起因する割れの発生を防止することが可能となる。これにより、工程数が少なく、作業時間の短縮を図ることができ、低コストで、高品質なターゲットを製造することが可能となる。
【実施例】
【0046】
<実験例1>
、BaCO、CuOの各種粉末を秤量し、この原料をφ100mm樹脂製ポットに装填し、φ10mmジルコニアボールを用いて、含水率0.5%以下のエタノール中で24時間混合した。この混合物を乾燥後、厚さ5mmの薄盛層としてアルミナ板に載置して焼成炉で室温から970℃までを1時間で昇温し、大気中で970℃、10時間加熱して仮焼きし仮焼粉を得た。得られた仮焼粉を、φ100mm樹脂製ポッドφ10mmジルコニアボールによりヘキサン(トルエンなども可)中で48時間粉砕し、粗粉砕粉を得た。この粗粉砕粉を、φ100mmの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼成炉内に入れ、940℃、48時間加熱して焼成し、酸化物超電導焼結体を得た。この際、酸化物超電導焼結体に割れは生じなかった。
仮焼粉のX線回折をおこなった結果を図5に示す。
【0047】
<実験例2>
また、比較のため、昇温速度を遅くし、10時間かけた以外は実験例1と同様の条件で酸化物超電導焼結体を作製した。
この場合の、仮焼粉のX線回折をおこなった結果を図6に示す。
【0048】
<実験例3>
さらに、比較のため、昇温速度を遅くし、仮焼き時の薄盛層(原料粉)厚さを2cmとした以外は実験例1と同様の条件で酸化物超電導焼結体を作製した。
この場合、酸化物超電導焼結体の焼成時に割れが生じた。このように割れ発生の有無から、脱炭が充分におこなわれていないことがわかる。
【0049】
また、図5図6の結果から、高速昇温した場合には異相が発生していないが、低速昇温した場合には、異相が発生していることがわかる。
高速昇温した酸化物超電導焼結体は、このままの状態で異相のないレーザ蒸着用ターゲット試料とすることができる。
【符号の説明】
【0050】
27…ターゲット
31…薄盛層
図1
図2
図3
図4
図5
図6