(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5743889
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】心電計システムで使用される高インピーダンスな信号検出システム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0408 20060101AFI20150611BHJP
A61B 5/0478 20060101ALI20150611BHJP
A61B 5/0492 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
A61B5/04 300J
A61B5/04 300V
【請求項の数】24
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-518934(P2011-518934)
(86)(22)【出願日】2009年7月17日
(65)【公表番号】特表2011-528578(P2011-528578A)
(43)【公表日】2011年11月24日
(86)【国際出願番号】US2009050979
(87)【国際公開番号】WO2010009385
(87)【国際公開日】20100121
【審査請求日】2012年6月27日
(31)【優先権主張番号】61/081,843
(32)【優先日】2008年7月18日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500364837
【氏名又は名称】フレクスコン カンパニー インク
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グリーン アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ゴークホール スレイ
(72)【発明者】
【氏名】バーナム ケニス
【審査官】
門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/131855(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0000663(US,A1)
【文献】
特開2005−110801(JP,A)
【文献】
特表2008−541977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
A61B 5/04 − 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
約20kΩ/□・mil以上の電極インピーダンスを有する、第1の電極導体(1mil=約2.54×10-5m)、及び、上記第1の電極導体に隣接して設けられた第2の電極導体を備え、
上記第1及び第2の電極導体は、ともに、一つの誘電体と接するように配置され、
上記誘電体中には極性素材が分散され、前記極性素材は、上記誘電体の第1の表面における交流電界の存在に対して応答性を有し、上記誘電体は、上記第1の表面から生じる信号であってこれと対向する上記第1の電極導体が検知可能であって、かつ、当該信号とは対向していない上記第2の電極導体が検知不可となるバイオメディカル信号を生じさせる、バイオメディカルセンサシステム。
【請求項2】
請求項1記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記誘電体が接着剤であるバイオメディカルセンサシステム。
【請求項3】
請求項1記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記誘電体の前記第1の表面上に上記電極導体のアレイが存するバイオメディカルセンサシステム。
【請求項4】
請求項1記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記第1の電極導体が導電性ポリマを含有するバイオメディカルセンサシステム。
【請求項5】
請求項1記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記第1の電極導体がアルミニウム、銀、塩化銀又は導電性グラファイトを含有するバイオメディカルセンサシステム。
【請求項6】
請求項1記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記第1の電極導体が基板上に印刷されているバイオメディカルセンサシステム。
【請求項7】
請求項1記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記第1の電極導体が導電性カーボン被覆を有するバイオメディカルセンサシステム。
【請求項8】
請求項1記載のバイオメディカルセンサシステムであって、少なくとも約1Ω/□・milの抵抗値を有する導電路を介し上記第1の電極導体に接続されたモニタシステムを備えるバイオメディカルセンサシステム。
【請求項9】
請求項1記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記第1の電極導体と上記誘電体の合計厚が約250μm未満であるバイオメディカルセンサシステム。
【請求項10】
第1の電極導体、及び、上記第1の電極導体に隣接するようにして、第2の電極導体を設けるステップと、
上記第1及び第2の電極導体がともに接するように配置されるとともに、第1の表面から生じる信号であってこれと対向する上記第1の電極導体が検知可能であって、かつ、当該信号とは対向していない上記第2の電極導体が検知不可となる、バイオメディカル信号を生じさせる、一つの誘電体を設けるステップと、
患者に発する時変性信号を受け入れるステップと、
上記誘電体中に分散され上記誘電体の第1の表面における交流電界の存在に対して応答性を有する極性素材を設けることによって、患者からのバイオメディカル信号に応じて、上記誘電体に中間信号を生じさせるステップと、
上記バイオメディカル信号と対向する上記第1の電極導体に、当該バイオメディカル信号を検知させるステップと、
上記第1の電極導体に出力信号を供給するステップと、
約1Ω/□・mil以上の抵抗率を有する信号路を介しその出力信号をモニタシステムに送るステップと、
を実行することで、患者に発する時変性バイオメディカル信号を検出する方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、上記誘電体が接着剤である方法。
【請求項12】
請求項10記載の方法であって、上記第1の電極導体がアルミニウム、銀、塩化銀、導電性ポリマ又は導電性カーボン素材を含有する方法。
【請求項13】
請求項10記載の方法であって、上記第1の電極導体が少なくとも約100kΩの抵抗値を有する方法。
【請求項14】
請求項10記載の方法であって、上記バイオメディカル信号が、患者の心臓から得られる心電図信号である方法。
【請求項15】
請求項10記載の方法であって、上記バイオメディカルセンサに備わりかつ第2のバイオメディカル信号と対向する第3の電極導体に当該第2のバイオメディカル信号を別途供給するステップを有する方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法であって、上記第1から第3の電極導体が、当該第1から第3の電極導体間に跨るよう設けられた上記誘電体の上にある方法。
【請求項17】
第1の電極導体及び第2の電極導体を備え、上記第1及び第2の電極導体は、互いに隣接するとともに、一つの信号レセプタと接するように配置され、
バイオメディカル信号の存在に応答して向きが物理的に変化する素材を含むことにより、上記信号レセプタの第1の表面から生じる信号であってこれと対向する上記第1の電極導体が検知可能であって、かつ、当該信号とは対向していない上記第2の電極導体が検知不可となるバイオメディカル信号を生じさせる、バイオメディカルセンサシステム。
【請求項18】
請求項17記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記第1及び第2の電極導体を含む複数の電極導体によってアレイが形成されており、そのアレイを構成する個々の電極導体が、当該複数の電極導体間に跨るよう設けられた上記信号レセプタに接しているバイオメディカルセンサシステム。
【請求項19】
請求項17記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記信号レセプタを形成する素材が、誘電分散を呈する接着剤であるバイオメディカルセンサシステム。
【請求項20】
請求項17記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記第1及び第2の電極導体が、いずれも、約50kΩ/□・mil以上の抵抗率を有するバイオメディカルセンサシステム。
【請求項21】
請求項17記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記複数の電極導体によってECG用ハーネスが形成されており、そのECG用ハーネスを構成する個々の電極導体が、当該複数の電極導体間に跨るように上記信号レセプタに接しているバイオメディカルセンサシステム。
【請求項22】
第1の長さ、幅及び厚みを有する可撓構造支持層、第2の長さ、幅及び厚みを有する導電電極層、及び第3の長さ、幅及び厚みを有する一つの誘電体層を備え、当該一つの誘電体層が、時変性信号の存在に応じその誘電特性が変化する誘電体を含み、
上記導電電極層は、切れ目無く延設された上記誘電体層に接する、電極導体のアレイを含み、
上記誘電体層は、バイオメディカル信号の存在に応答して向きが物理的に変化する素材を含む、バイオメディカルセンサシステム。
【請求項23】
請求項22記載のバイオメディカルセンサシステムであって、
上記誘電体層は極性素材が実質的に分散された接着剤から構成されるとともに、少なくとも20kΩ/□・milのインピーダンスを有するように形成される、バイオメディカルセンサシステム。
【請求項24】
請求項22記載のバイオメディカルセンサシステムであって、上記可撓構造支持層、上記導電電極層及び上記誘電体層の合計厚が約250μm未満であるバイオメディカルセンサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年7月18日付米国暫定特許出願第61/081843号に基づく優先権主張を伴う出願である。この参照を以て当該暫定特許出願の全内容を本願に繰り入れることとする。
【0002】
本発明は、被検体内の電気信号を検出するセンサシステム、特に心電計(electro-cardiogram:ECG)システムに関する。
【背景技術】
【0003】
従来のECGシステムでは、良好な導電性を呈する素材で被検部位表面・医療機器間の導電路を形成するのが普通である。例えばECGシステム等のバイオメディカル分野では、電極として、導電感圧接着剤を使用するもの(特許文献1)、導電接着性ヒドロゲルを使用するもの(特許文献2)、導電親水感圧接着剤を使用するもの(特許文献3)が知られている。
【0004】
図1に、一従来例に係る高伝導性の電極10を模式的に示す。この電極10は、イオン導電型の接着層12、電極導体14及び支持基板16を備えている。接着層12を患者に付着させると、その下にある身体部位から接着層12を介し導体14へと電気信号が伝わり、その先につながるモニタへとその電気信号が送られていく。ECGシステムで接着層12として使用されるのは、水溶塩を分散させたイオン導電性ヒドロゲル等である。その種のヒドロゲルは、適宜調製することで、皮膚装着用接着剤としても機能させることができる。
【0005】
ただ、こうしたヒドロゲルは幾らか水分を含むものである。そのため、使用時まで密封パッケージに入れる等して封止環境内に保管しておく必要があるし、湿度が綿密に管理されていない環境では再使用できないことが多い。これらの制約は、導電性が高い接着層を備える電極の低コスト化にも、またその電極の活用局面多様化にも支障となっている。
【0006】
また、このヒドロゲルを介した信号の取込はイオン導電機構によるものであるので、信号レセプタ(信号受入層)としてのインピーダンスが低い値になってしまう。そのため、その電極導体として、銀及び塩化銀(Ag/AgCl)を含有するもののように、シート抵抗値(従来使用されていたΩ/□/mil単位の値ではなくΩ/□単位の面抵抗率を単位体積当たりにした値)が0.1〜0.5Ω/□・mil程度のものを使用せざるを得なくなる。この電極導体の層は、ポリマフィルム上を覆う導電性カーボン被覆(そのインピーダンスは一般に約1〜1000Ω/□/mil)の上に形成され、高導電率の出力導体を介しモニタに接続される層であり、生体内でイオンとして発生した信号を電気信号に変換して導電液中に送り出すトランスデューサとして働く。安定な化学的構造を有するAg/AgClを使用し電極導体を形成すると、AgClが電解質内でイオンとして働き、電極導体内に電流が自由に出入りする。
【0007】
更に、ヒドロゲル付の電極を皮膚に接触させると、そのヒドロゲルを介し電極導体内外にイオンが拡散する。仮に、電極導体として銅を使用したとすると、電極電位(340mV)が心電図信号の電位(〜1mV)よりも高くなるので、その電極電位を打ち消すのに基準電極を設けることが必要となる。しかし、これは現実的な策とはいえない。電極電位はイオン性相互作用が原因で経時的に変動するものであるし、2個の電極を設けた場合、当該電極及びその下にある皮膚の表面状態は電極間で異なるものである。これらは電極間に電位差をもたらし、それは信号間オフセットとなって現れる。その点、AgClであれば電極電位が5mV未満になるため、通常のモニタで容易に対処でき、心電図信号の検出にも支障にならない。こうした事情があるため、心臓に現れる動悸の振幅をモニタに伝えねばならないECG分野では、ノイズレベルが低レベル(10μV未満)となるAgClを使用せざるを得ない。
【0008】
そして、複数の検出電極がハーネスシステム(配線システム)で接続されることがある。その際に使用される個数は通常は3〜13個であるが、それ以上の個数になることもある。使用する検出電極の個数が多いほど、被検部位例えば患者の心臓を検査する際、多くの参照ポイントを利用できるからである。例えば、
図2に例示するECG用ハーネスシステムでは、10個以上のレセプタ付電極20が共通のハーネス22に接続されている。そのハーネス22は、心電図モニタ(図示せず)に接続可能なコネクタ24に接続されている。この図のようなハーネスシステムであれば、心電図モニタへの係止作業を、配線が電極別になっている構成に比べ容易に行うことができる。また、患者にあまり不快感を感じさせずに、よりしっかりと身体に装着することができる。しかしながら、ヒドロゲルが低インピーダンスであるので、ECG用ハーネスシステムに対しても、その電気的インピーダンスが低いことが求められる。
【0009】
なお、特許文献4には、水不感・交流場反応型で、電極内のポリマフィルムや接着層として使用できる複合材が記載されている。この複合材には、交流場の印加に応じその誘電特性が変化する(例えば誘電分散を呈する)性質がある。即ち、その片面に交流信号が供給されたときに、誘電特性が変化し他面から電荷を放出する性質がある。そのため、この複合材であれば、その両面間を静電容量的に結合させることができる。同文献の記載によれば、信号レセプタとしてのインピーダンスが約100kΩ以上という高い値になりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4848353号明細書
【特許文献2】米国特許第5800685号明細書
【特許文献3】米国特許第6121508号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0000663号明細書
【特許文献5】米国特許第3911906号明細書
【特許文献6】米国特許第4008721号明細書
【特許文献7】米国特許第4074000号明細書
【特許文献8】米国特許第4293665号明細書
【特許文献9】米国特許第4352359号明細書
【特許文献10】米国特許第4460369号明細書
【特許文献11】米国特許第4798773号明細書
【特許文献12】米国特許第5120325号明細書
【特許文献13】米国特許第5120422号明細書
【特許文献14】米国特許第5143071号明細書
【特許文献15】米国特許第5338490号明細書
【特許文献16】米国特許第5362420号明細書
【特許文献17】米国特許第5388026号明細書
【特許文献18】米国特許第5421982号明細書
【特許文献19】米国特許第5645062号明細書
【特許文献20】米国特許第6214251号明細書
【特許文献21】米国特許第6232366号明細書
【特許文献22】米国特許第6342561号明細書
【特許文献23】米国特許第6576712号明細書
【特許文献24】米国特許出願公開第2002/0037977号明細書
【特許文献25】米国特許出願公開第2004/0073104号明細書
【特許文献26】米国特許出願公開第2006/0074284号明細書
【特許文献27】英国特許出願公開第2115431号明細書(A)
【特許文献28】国際公開第WO95/31491号パンフレット
【特許文献29】国際公開第WO97/24149号パンフレット
【特許文献30】国際公開第WO2006/131855号パンフレット
【特許文献31】米国特許第6327487号明細書
【特許文献32】米国特許出願公開第2006/0069320号明細書
【特許文献33】カナダ国特許出願公開第2477615号明細書(A1)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】"A direct comparison of wet, dry and insulating bioelectric recording electrodes," Searle et al., Physiological Measurement, Institute of Physics Publishing, Bristol, GB, Vol.21, No.2, p.271-283, May 1, 2000.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、バイオメディカルセンサ用ハーネスシステムに対しては、更に安価で実用的なものにすることが求められている。即ち、様々な用途で簡便に且つ低コストで利用可能で、その感度が高く、広範な医療従事者に有用な情報を提供可能なものにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここに、本発明の一実施形態に係るバイオメディカルセンサシステムは、約20kΩ/□・mil以上の電極インピーダンスを有する高インピーダンス電極導体と、その電極導体の表面上に位置する誘電体と、を備え、その誘電体を挟み電極導体とは逆側に生じた時変性信号に応じ当該誘電体から電気信号が放出され当該電極導体の表面に入るシステムである。
【0014】
本発明の他の実施形態に係る方法は、患者に発する時変性信号を受け入れるステップと、その時変性信号に応じ誘電体の誘電特性を変化させるステップと、バイオメディカルセンサに備わる電極導体に出力信号を供給するステップと、約1Ω/□・mil以上の抵抗率を有する信号路を介しその出力信号をモニタシステムに送るステップと、を実行することで、患者に発する時変性信号を検出する方法である。
【0015】
本発明の更に他の実施形態に係るバイオメディカルセンサシステムは、複数の電極導体を備え、それら複数の電極導体が、当該複数の電極導体間に跨るよう設けられた信号レセプタに接しているシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】従来技術に係るバイオメディカルセンサを示す模式図である。
【
図2】従来技術に係るバイオメディカルセンサ用ハーネスシステムを示す模式図である。
【
図3A】本発明の一実施形態に係るセンサシステムの動作を示す模式図である。
【
図3B】本発明の一実施形態に係るセンサシステムの動作を示す模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るセンサシステムで使用される電極アレイを示す模式的平面図である。
【
図5】
図4に示したセンサシステムの模式的端面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るセンサシステムを示す模式的斜視図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係るセンサシステムを示す模式的斜視図である。
【
図8A】本発明の一実施形態に係るシステムで得られた心電図信号を示すグラフである。
【
図8B】従来技術に係るシステムで得られた心電図信号を示すグラフである。
【
図9】本発明の一実施形態に係る固定電極型テストシステムを示す模式図である。
【
図10A】本発明の他の実施形態に係る多電極システムをテストする目的で取得したI、II、III、AVR、AVL及びAVFの心電図信号を示すグラフである。
【
図10B】本発明の他の実施形態に係る多電極システムをテストする目的で取得したI、II、III、AVR、AVL及びAVFの心電図信号を示すグラフである。
【
図10C】本発明の他の実施形態に係る多電極システムをテストする目的で取得したI、II、III、AVR、AVL及びAVFの心電図信号を示すグラフである。
【
図10D】本発明の他の実施形態に係る多電極システムをテストする目的で取得したI、II、III、AVR、AVL及びAVFの心電図信号を示すグラフである。
【
図10E】本発明の他の実施形態に係る多電極システムをテストする目的で取得したI、II、III、AVR、AVL及びAVFの心電図信号を示すグラフである。
【
図11】本発明の他の実施形態に係るシステムを示す模式図である。
【
図12】
図11に示したシステムの電気的構成要素を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、説明用に作成した図面(等比縮尺図ではない)を参照しつつ、本発明の諸実施形態についてより詳細に説明する。これから説明する通り、本発明によれば、連綿と拡がる高インピーダンスな信号レセプタを形成することができ、その高インピーダンス信号レセプタを複数の高インピーダンス電極導体で装着用接着層として共用する多部位カバー型のアレイを形成することができ、また安価な高インピーダンス導電路を用いそれら電極導体を外部に接続することができる。更に、信号レセプタ形成素材(signal receptive material:SRM)として、そのインピーダンスが例えば20kΩ/□・mil超と高く、しかも局所的な時変性信号(time varying signal)には反応するがそれを媒介としたイオン導電は生じない、という性質のものを用いているので、様々な点で有利なシステムを形成することができる。まず、その製造が簡単である。個別の電極導体に信号レセプタを位置合わせする(整列させる)必要がなく、共通の信号レセプタ上に複数の電極を配するだけでよいからである。次に、接着層の面積が広くなるため患者の身体に好適に付着させやすい。更に、使用する電極導体を例えば50kΩ/□・mil超の高インピーダンス電極導体にすることや、接続に使用する出力導体を例えば50kΩ/□・mil超の高インピーダンス導体にすることが可能になるので、センサシステム全体のコストを抑えることや電極の扱いを簡便にすることができる。そして、可撓性のある基板を支持構造として使用することや、そうした支持基板として水蒸気及び酸素を透過させる柔軟なものを使用することができる。その種の基板は、例えば、創傷被覆材や手術用ドレープで多用されている医用素材で形成することができる。
【0018】
導電性の高い複合材、例えばヒドロゲルで形成された接着層をこうした形態で使用することができないのは、前述の通り、X、Y及びZのいずれの方向についてもヒドロゲルのインピーダンスが低い、という技術的問題があるためである。仮に、複数の電極導体に跨る接着層をそうしたヒドロゲルで形成したとすると、様々な部位で生じた信号がヒドロゲル内部を通りその全体に拡散伝搬してしまうため、その信号がどの部位で生じたかを特定することができなくなる。そうした状況を発生させないようにするには、使用する素材を、高い内部インピーダンスを有していて、バイオメディカル信号の存在に反応することができ、そのことを示す信号を対応する部位の電極導体のみに伝えうるものにする必要がある。
【0019】
その点、本発明では高インピーダンスな信号レセプタ、例えばバイオメディカル信号(通常は交流信号等の時変性信号)に応じその誘電特性が変化する誘電性の信号レセプタを使用している。そうした信号レセプタは、ポリマ素材中に極性素材を存分に分散させたマトリクス素材、例えば特許文献4に記載のもので形成することができ(この参照を以て当該文献の全開示内容を本願に繰り入れることにする)、またその素材を使用できるか否かを後述するテスト手順で調べることができる。その種の素材、即ちポリマ素材中に極性素材を存分に分散させたマトリクス素材であれば、例えば米国マサチューセッツ州スペンサー所在のFLEXcon Company,Inc.が販売している接着剤EXH−585(商品名)のように、約200000Ωといった抵抗値を実現することができる。これに対し、電極導体対毎に分かれているヒドロゲルに対しては、AMSI/AAMI(米国規格協会/米国医療器具開発協会)が定めたディスポーザブルECG電極規格EC−12により、その抵抗値を3000Ω未満にすることが求められている。実際、従来型のヒドロゲルは、患者の皮膚より導電率が高くないと適正に機能させることができない。
【0020】
また、特許文献4に記載されている相溶性選別法であれば、大きく拡がるポリマ素材中に有機塩を分散させることができる。熱反応接着層を使用するシステムと同様な容量性結合ひいては信号応答特性を呈する非粘着性の素材に調製することや、非感圧性接着剤即ち非PSAに調整することもできる。検査中に被検者がほとんど又は全く動かないよう、その上に被検者を載せて使用される電極アレイのように、接着性が不要又は有害な場合は、非PSAの方が特性的に適している。
【0021】
なお、従来から使用されているヒドロゲルのインピーダンス及び前述した接着剤EXH−585(商品名)のインピーダンスは、米国カリフォルニア州パロアルト所在のHewlett Packard Companyが販売している波形生成器HP−33120A(商品名)を用い10Hz正弦波信号を発生させ、ANSI/AAMI規格EC−12に適合する試料に対しタブ電極用接着剤間接続経由でその信号を供給し、米国カリフォルニア州ヨーバリンダ所在のB&K Precision Corporationが販売している100MHzオシロスコープBK Precisionモデル2190(商品名)に応答信号を供給し、その結果表示された波形を一群の既知抵抗値でのテストで取得済の波形群と比較してマッチングする波形を探し、試料についての波形に対し最も好適にマッチングする波形に係る既知抵抗値を以てその試料の抵抗値と見なす、という手順で計測したものである。
【0022】
このように、連綿と拡がる高インピーダンスなSRMを使用することで、多くの信号検出部位に跨る信号レセプタを形成することが可能になり、またその接続系統として高インピーダンスなものを使用することが可能になる。前述の通り、この仕組みには、患者の体に簡単に装着できる、総接着面積が広いため患者の体に接着させやすい、電極導体のいずれかで接着が弱くなるといったことがほとんどない、特定又は不特定な組合せに係る複数の部位で検出を行い例えば患者の心臓の電気的な活動をより正確にプロファイルすることができる、等といったメリットがある。
【0023】
更に、イオン導電機構を使用せずにバイオメディカル信号を取得することができる高インピーダンスなSRMを使用しているので、低コストな導電機構を信号伝達に使用することができる。即ち、電極導体をAg/AgCl電極とする必要がないので、アルミニウムの真空蒸着で形成された電極や導電性カーボン被覆として形成された電極等、高導電率でより安価な電極を、そうしたSRMと共に電極導体として全面的に活用することができる。
【0024】
図3A及び
図3Bに、本発明で使用される信号レセプタの一例を示す。これらの図では、被検部位(例えば患者の心臓)で発生するバイオメディカル信号(例えば交流信号等の時変性信号)が符号30で示されている。
図3Aでは信号30の振幅が増しており、
図3Bでは減っている。
【0025】
まず、バイオメディカル信号30の振幅が増していくときには、被検体表面の信号伝達部位と高インピーダンス電極導体38の間に挟まれた部位で、ポリマ素材34中に分散している極性素材32の向きが、信号30の向きに対して揃っていく。信号伝達部位・電極導体38の直間に位置していない極性素材36の向きは揃わない。このようにして、ポリマ素材34中で極性素材32の向きが
図3Aの如く揃うにつれ、そのポリママトリクスのうち極性素材32が分散している部位の誘電特性が変化していく。
【0026】
次に、バイオメディカル信号30の振幅が減っていくときには、誘電体分極の緩和が進行するため、
図3Bに示すように極性素材32の向きが揃わなくなっていき、それら極性素材32の分散部位から電荷が放出される。この電荷は小振幅の信号30として高インピーダンス電極導体38に取り込まれ、検出回路に送られる。しかし、その電極導体38のそばにある別の高インピーダンス電極導体40に取り込まれることはない。その電極導体40のそばにある極性素材の向きが、その信号30の向きに対し揃うわけではないからである。従って、複数の高インピーダンス電極導体を相互干渉無しに至近配置することができる。例えば、電極導体38・40の間の距離d
2を、極性素材を含有するポリママトリクスの厚みd
1と同程度にすることができる。
【0027】
このように、被検体内で生じた時変性信号に応じ複合材たるSRMの誘電特性を変化させる仕組みであるので、生成される出力信号から、発生したバイオメディカル信号の内容及びその発生部位を詳しく知ることができる。即ち、SRMが導電性ではなく誘電性であるため、連続的な信号レセプタ上に複数の電極導体を相互至近配置した場合、局在する信号に応じSRMの(全域ではなく)局部で誘電分散が生じることとなる。
【0028】
図4及び
図5に、本発明の一実施形態に係る高インピーダンスSRM付多電極アレイ48を示す。
図4は透明なSRMを介し眺めた上面図、
図5は
図4中の線5−5に沿って眺めた端面図である。このアレイ48は、上述の通り複合材たるSRMで形成された連綿たる信号レセプタ52の上に、高インピーダンス電極導体50のアレイを形成した構成であり、心電図検査を含め医用・非医用の別を問わず広範に使用することができる。
図4中の支持基板54はレセプタ52及び電極導体50を支持する一種のキャリアであり、SRMの露出面56を患者に付着させた上で、それらレセプタ52及び電極導体50から分離させることができる。
【0029】
この多電極アレイ48では、密集して配置されている複数の電極(両図に示すものと異なる配置でもかまわない)からの信号が集線バス58によって集められ、補助バス群を経由し又は在来の多重化法を利用してコネクタ59へと送られる。これらの電極は、選択的にアクティブにすることができる。どれをアクティブにするかは、予め定めておくことも、何らかの情報処理解析法乃至アルゴリズムで自動決定することもできる。後者はアレイ装着後でも実行できるので、アクティブにするパッドを検査実施中に随時変更することができる。即ち、使用する電極を随時選定することができるので、診断医は最適な視角から動悸状態を調べることができ、またその視角をベクトル法により正確に制御することができる。コネクタの短絡や不適切な接続が原因で計測の正確さが損なわれることもかなり少なくなる。
【0030】
使用するSRMは、前述したものでもそれに類する他のものでもかまわない。選定の基準となるのは次に示す二種類の基本特性である。第1に、AMSI/AAMIが定めたプレゲルドディスポーザブルECG電極規格EC−12に従い計測されるインピーダンスが、例えば200000Ω超といった高い値になることである。第2に、信号を伝える機構がイオン導電機構でないことである。これらを満たすSRMであれば、単一のSRM層の上に複数の電極導体を配しそれらを複数の導電路に接続した構成を、信号の相互干渉無しに実現することができる。即ち、患者の身体と電極導体との間の静電容量的な結合によりコンデンサ的な構造が形成されるので、連綿としたSRM層が複数の電極導体に跨り延びる構造を実現することができる。そうした構造は、低インピーダンスなイオン導電性のヒドロゲルでは実現できないものである。
【0031】
使用する高インピーダンス電極導体やそれにつながる出力導体は、印刷等で形成された薄い高インピーダンス導電被覆である。この種の被覆のインピーダンスは面抵抗率で表すことができ、その単位としては前述のΩ/□を使用することができる。“□”は無次元であり、その被覆の面積を幅Wの自乗としたときの抵抗値であることを示している。本件技術分野で習熟を積まれた方々(いわゆる当業者)であれば、1mil厚の被覆における値になるようこの値を正規化し、Ω/□・mil単位の値にすることができよう。素材の面抵抗率がわかっていれば、その素材を薄く堆積させたものの抵抗値を、例えば
R
S=面抵抗率(Ω/□)
R
V=体積抵抗率(Ω/□・mil)
T=被覆厚(mil)
L=長さ(mil)
W=幅(mil)
R=R
S×(L/W)×(1/T)
の式により算出することができる。
【0032】
このように高インピーダンスSRMを利用する構成は、バイオメディカル検査の分野では幾つかの点で有利である。まず、その電極導体として、高価なAg/AgClを含む素材ではなく安価な素材で形成された、高インピーダンスな電極導体を使用することができる。それと心電図モニタとの間に位置する出力導体も高インピーダンスでよいので、高インピーダンスな非金属導体で形成することができる。従来のAg/AgCl電極に代え用いることができる高インピーダンス導体としては、例えば、前掲のFLEXcon Company,Inc.が製造しているEXV−216(商品名)等の導電性カーボンによる被覆や、独国所在のH.C.StarkGmbHが販売しているCLEVIOS(登録商標)シリーズ等の固有導電性ポリマや、米国テキサス州ヒューストン所在のCarbon Nanotechnologies,Inc.が販売しているSuper HiPCOナノチューブ(商品名)等のカーボンナノチューブ分散系がある。そして、それら高インピーダンス電極導体及び高インピーダンス出力導体は、いずれも共通の支持基板への印刷で形成できるので、SRM厚の低減だけでなく製造の容易化を通じたコスト低減を実現することができる。
【0033】
また、単体の信号レセプタ上に複数の高インピーダンス電極導体を配置する構成であるため、イオン導電性のヒドロゲルを使用した場合のように個々の電極導体を緻密に位置合わせする必要がなく、製造コストを更に低減することができる。更に、イオン電解質例えばヒドロゲルを使用するとその厚みが往々にして300〜625μmにもなるのに対し、静電容量的な結合を介し働く信号レセプタはより薄いものとなる。ヒドロゲルの場合にその嵩が増すのは、皮膚との間に隙間が生じないようヒドロゲルを接触させると共に、心臓からの信号を好適にピックアップできるようにするためである。これに対し、静電容量的な結合を介し働く信号レセプタに備わる固有接着性は、そのベースとして使用されているポリマの官能性に多くを拠っているので、その用途で必要とされる度合いに応じ接着性を調整することができる。SRMの嵩で信号ピックアップ性能が左右されることもない。そのため、その信号レセプタの厚みは例えば約5〜200μmとすることができる。こうして得られるバイオメディカルセンサデバイスの厚み、即ち高インピーダンス電極導体、信号レセプタ(誘電体)及びそれらに付随する支持素材の合計厚も、従来から使用されているヒドロゲル単独での厚みに比しても小さい約250μm未満となる。
【0034】
更に、薄めのSRM層(例えば25〜100μmのもの)を使用することで、除細動処置時に加わる過負荷からより好適に回復できるようにしつつ、患者の皮膚に対する接触を好適に保つことができる。無論、SRM層を薄めにするとコスト的にも有利である。これらの利点は接触面積が広くなっても変わらない。ヒドロゲル及び及びAg/AgClを使用する場合、コスト低減のため接触面積縮小が望まれるのに対し、静電容量的な結合を介して働くSRMを使用する場合、5〜200μmといった薄い堆積厚にしても、またその接触面積を広くしても、素材コストや製造コストの面ではなおかなり有利となる。信号レセプタの厚み抑制には、こうした経済的利点のほかに、非等方性が増すという効果もある。
【0035】
こうしたコスト上の利点は、信号レセプタが高インピーダンス電極導体より広い構成でも同様に生じる。
図6に、支持基板60上に高インピーダンス電極導体62及び信号レセプタ64を付着させた実施形態を示す。この実施形態では、支持基板60及びレセプタ64の面積は所要値に比べかなり大きく、またレセプタ64が電極導体62の縁から大きく張り出している。こうした電極であれば、SRMを装着用接着剤として使用しつつ、またその接着性を好適に管理しつつ、SRMを介し信号を取り込むことができる。なお、ヒドロゲルを使用する従来の構成では、患者の身体により好適に接着するようヒドロゲルの面積を大きくすると、単なるコスト損失に留まらない問題が発生する。即ち、通常のヒドロゲルを同じように引き延ばして電極をカバーさせたとしたら、そのヒドロゲルで覆われている部位のうち電極導体外の部分から不要な信号が侵入し、そのECG電極でピックアップされた信号がどこの位置からの信号かを十分に特定できなくなる可能性がある。
【0036】
図7に、支持基板70及び信号レセプタ74の中心領域に高インピーダンス電極導体72を配し、その電極導体72から出力導体76を延ばした実施形態を示す。この実施形態では、出力導体76の付加によってインピーダンス要素が付加されることとなるが、電極導体72に対する出力導体76の面積比A
lead/A
electrodeが小さいためそのインピーダンス要素の影響が小さく、高インピーダンスSRMを介した信号受入を好適に実行することができる。また、その面積比A
lead/A
electrodeが臨界値を上回っている場合、即ち出力導体自体が実質的に電極導体として振る舞い電極導体外部位から信号をピックアップするような値になっている場合でも、十分な厚みを有する絶縁素材又は誘電体の層を、出力導体・信号レセプタ間に位置するようその出力導体に面し配置することで、出力導体自身による信号取込を抑え又はなくすことができる。従って、高インピーダンスSRMを使用したため信号忠実度が損なわれる、といった問題は生じない。
【0037】
これら
図6及び
図7に示した実施形態群では、支持基板により電極導体が、また信号レセプタにより皮膚が好適に固定されるため、電極導体が浮き上がることやその周囲の皮膚が動くことで生じる検査上の誤差・誤りを、好適に抑制・防止することができる。なお、低インピーダンス接着剤を含有する従来のイオン導電性ヒドロゲルを使用しこれと同じ形状の電極を形成したとしても、その付近にある皮膚の動きで生じた信号が、そのヒドロゲルのXY平面に沿い電極導体に伝わる構成になってしまう。
【0038】
また、これらの実施形態を、連綿とした膜(例えば
図4及び
図5中の高インピーダンスSRM)の上に電極アレイを形成し患者に接着する、という形態に変形することもできる。その場合、接着面積が広いことで患者に対する接着性が高まるため、厚手の接着層や高接着性の接着層を使用する必要がない。その身体から電極が取り外されたときに患者が覚える不快感は、こうした構成では軽くなる。
【0039】
更に、これら静電容量的な結合を介し信号を伝える実施形態には、伝わる信号が小電流になる、という性質がある。従って、除細動処置が執られる際のように、電気的なシャントが必要になる状況でも好適に使用することができる。高インピーダンス電極導体や高インピーダンス出力導体も遮蔽手段として働くので、過剰な電流に対する露出から患者及び医療従事者を保護することができる。
【0040】
加うるに、
図4及び
図5を模した多電極アレイ型の構成であれば、より多様な視角から簡便に検査を行うことができる。これによって、信号検出が容易になる。医療従事者が、外部雑音から有効な信号をより好適に見分けることができるようになる。この仕組みを、使用する電極導体の自動選択に活用することもできる。
【0041】
そして、電極導体のインピーダンスが高いということは金属成分の使用量が少ないということである。心電図モニタとの間にある出力導体や、SRMを含めた電極全体でも同様である。従って、X線撮影、コンピュータ支援断層撮像(CAT)スキャン、磁気共鳴撮像(MRI)解析等の検査・診断を行う前に電極を取り外す必要がほとんどなくなる。また、使用する高インピーダンス電極導体及び出力導体がこのように非金属性であれば、Ag/AgClを用いた場合に生じるような廃棄上の問題もほとんど生じない。
【0042】
次に、本発明に係る非Ag/AgCl型センサシステムで得られる心電図波形の例を示す。計測に使用したECG電極は、前掲のFLEXcon Company,Inc.が販売している接着剤EXH−585(商品名)をSRMとして使用するものである。この接着剤はイオン導電機構ではなく静電容量的結合で作動するものであり、その層厚は25μmとした。その接着剤の付着先は、前掲のEXV−216(商品名)で形成された25μm厚の導電性カーボン被覆をその片面に備える25μm厚のポリエステルフィルムとした。そのポリエステルフィルムの導電性カーボン被覆面のうち、EXH−585(商品名)で覆われていない面に出力導体を形成し、その出力導体の他端を、米国ニューヨーク州スケネクタディ所在のGeneral Electric社が販売しているGEメディカルシステムモデルMAC1200(商品名)に接続した。こうしたパッド状の電極を3個、被検体に付着させて検査を実行し心電図波形を取得した。
【0043】
図8Aに示したのは、こうした電極からの出力を心電図モニタの画面上に表示させたものである。表示されているのはコンポジット信号のうち一部であり、出力導体I、II及びIIIからの信号と共に、出力導体AVR、AVL及びAVFからの信号が含まれている。図中、符号80、82、84、86、88及び89は、順に、本発明に係る前述のSRMを使用しある被検体を検査したとき、出力導体I、II、III、AVR、AVL及びAVFから得られた出力を表している。
【0044】
比較のため、これと同じ被検体をスイス国所在のTyco Healthcare Retail Services AG Corporationが販売しているKendall(登録商標)Q−Trace電極(商品名)にて再検査してみた。この電極はイオン導電型ヒドロゲル系をポリエステルフィルム上に形成した電極であり、そのポリエステルフィルム上の導電性カーボン被覆がAg/AgCl被覆によって覆われている。そのヒドロゲルによってピックアップされた信号を電極からの出力として心電図モニタに供給したところ、
図8Bに示すような波形が得られた。図中、符号90、92、94、96、98及び99は、順に、ヒドロゲルを使用するこの従来手法における出力導体I、II、III、AVR、AVL及びAVFからの出力を表している。
図8A及び
図8Bに示した二組の心電図波形間の比較からわかるように、信号忠実度は遜色なく保たれている。
【0045】
また、前述した通り、本発明に係るシステムにはほかにも長所がある。例えば、複数の電極導体に跨る連綿とした接着層を形成できることである。即ち、信号レセプタが電極導体別でなくXY平面に沿い複数の電極導体に亘っているのに、Z方向に沿い強力でユニークな信号を電極導体に伝えうる、ということである。この効果を計測によって確かめるため、幾通りかのテストを行ってみた。
【0046】
図9に、それらのテストに使用した固定電極の構成を示す。このテスト用固定電極は、米国カリフォルニア州チャッツワース所在のSpacelabs,Inc.によって販売されている患者モニタSpacelabsモデル514(商品名)を共通のテスト信号源とし、また前掲のGEメディカルシステムモデルMAC1200(商品名)を心電図モニタとするテストシステムの一部であり、図示の通り、信号源側高インピーダンスコネクタ110、112、114、116及び118のうち対応するものを介しテスト信号源に接続される第1群の電極100、102、104、106及び108と、モニタ側高インピーダンスコネクタ130、132、134、136及び138のうち対応するものを介しモニタに接続される第2群の電極120、122、124、126及び128とを備えている。テスト対象となるSRMは第1群の電極と第2群の電極との間に配置した。
【0047】
テストに当たっては、信号源から信号源側配線2S及び3Sを介し電極102及び104へと個別に信号を供給した。また、その信号がモニタ側配線2M及び3Mひいては電極122及び124へと伝わるよう、試料を信号源側配線及びモニタ側配線に直に物理接触させた。更に、それら5個の対(100,120)、(102,122)、(104,124)、(106,126)及び(108,128)をなす電極の構成を、患者の心臓に発する信号の計測に当たり従来から使用されている配置対象身体部位に、配置することができるような構成とした。そして、電極出力をモニタに供給し、心臓の働きを示すコンポジット信号、その特定部分たる個別信号又はその双方をその画面上に表示させた。具体的には、一般に心電図信号として使用されている出力導体I、II及びIIIからの信号並びに出力導体AVR、AVL及びAVFからの信号を表示させた。
【0048】
行ったテストは次の五種類である。テスト1では、第1群の電極と第2群の電極が接触するシステム構成とした。テスト2では、第1群の電極と第2群の電極の間に従来型のヒドロゲル素材があるシステム構成とした。そのヒドロゲル素材は隣り合う電極対毎に別体としたので、例えば電極100に接するヒドロゲルと電極102に接するヒドロゲルは別体のものであった。テスト3では、第1群の電極と第2群の電極の間に前述のSRMがあるシステム構成とした。但し、同じSRMが複数の信号源側電極に接することや複数のモニタ側電極に接することがないようにした。テスト4では、前述の如く全ての電極対に亘り拡がる大面積なSRMを使用するシステム構成とした。即ち、電極102・122間に存するSRMが電極104・124間にも延び、連綿とした膜になるようにした。テスト5では、全ての電極対に跨るよう従来型のヒドロゲルを配したシステム構成とした。
【0049】
図10Aに、各対の電極間にSRMを配さないシステム(テスト1)における出力導体I、II、III、AVR、AVL及びAVFそれぞれの出力140、142、144、146、148及び149を示す。
図10Bに、ヒドロゲル素材がそれを挟む電極対毎に別体となっているシステム(テスト2)における出力導体I、II、III、AVR、AVL及びAVFそれぞれの出力150、152、154、156、158及び159を示す。
図10Cに、本発明に係るSRMがそれを挟む電極対毎に別体となっているシステム(テスト3)における出力導体I、II、III、AVR、AVL及びAVFそれぞれの出力160、162、164、166、168及び169を示す。
図10Dに、本発明に係るSRMが連綿としていて全ての電極対に跨っているシステム(テスト4)における出力導体I、II、III、AVR、AVL及びAVFそれぞれの出力170、172、174、176、178及び179を示す。
図10Eに、従来型のヒドロゲル素材が連綿としていて全ての電極対に跨っているシステム(テスト5)における出力導体I、II、III、AVR、AVL及びAVFそれぞれの出力180、182、184、186、188及び189を示す。
【0050】
図10A〜
図10Cから読み取れるように、一般的な心電図信号は、上述したテスト1〜3では互いによく似た信号となっている。
図10Dに示すように、本発明に係るSRMを連綿と設けたシステムでも、出力導体I、II、III、AVR、AVL及びAVFから得られる一般的な信号は
図10A〜
図10Cのそれと類似している。それに対し、全ての電極対に跨るよう従来型のヒドロゲル素材を連綿と設けたシステムでは、
図10Eに示すように、出力導体I、III、AVR及びAVLから得られる信号の振幅がかなり小さく、また出力導体AVLから得られる信号が逆極性となっている。こうしたことが生じるのは、個々の電極がその真向かいに位置していない電極からも信号を受け取ってしまうからであろう。少なくともその一部は、それらの電極に跨るヒドロゲル素材が静電容量性ではなく導電性であることによる。ECGシステム内で生じる導体出力がこうした信号であったとしたら、それをいくら解析したとしても、不正確(で恐らくは危険)な計測結果しか得ることができないであろう。対するに、
図10Dに係るシステムは、全ての電極対に跨る連綿とした単一のSRM膜を使用しているにもかかわらず、非常に好適に機能している。
【0051】
このことからよくわかるように、その内部インピーダンスが高いことはSRMの強力な利点である。そのため、複数の電極導体を有する複合的な構成、例えば複数の電極導体が単一のSRM層で覆われている前述の多電極アレイを、点信号忠実度欠陥無しに実現することができる。そうした装置は、医用・非医用の別を問わず様々な検査に使用することができ、また診断でも様々に活用することができる。
【0052】
図11に、本発明の一実施形態に係るシステムを示す。このシステムで使用される電極は高抵抗接着層200及び電極導体202を備えており、また約50000〜500000Ω/□・mil(好ましくは約150000〜250000Ω/□・mil)といった高い抵抗値R1を有している。電極導体202を形成している素材は高抵抗素材、例えばアルミニウム、(極薄の)銀、(極薄の)塩化銀、錫、銅といった安価な導電素材や、前掲のEXV−216(商品名)を初めとする導電性カーボン被覆や、前掲のCLEVIOS(登録商標)を初めとする導電性ポリマであり、約30〜3000Ω/□・mil(好ましくは約100〜1500Ω/□・mil)といった面抵抗率を有している。
【0053】
接続に使用される電子系統の抵抗値も従来のそれよりかなり高くすることができる。例えば、電極導体202に接続される出力導体204や、必要に応じその出力導体204に接続される延長導体206を、アルミニウム、(極薄の)銀、(極薄の)塩化銀、錫、銅といった安価な高抵抗導電素材や前掲の導電性カーボン被覆等で形成することができる。
【0054】
それらとモニタシステム210との間を接続する可撓高インピーダンス信号伝送導体208も、例えば約0.012〜10
6Ω/□・mil(好ましくは約0.1〜20Ω/□・mil)といった抵抗値を有する導電性カーボン等の高抵抗素材で形成することができる。即ち、ケーブルの導電性を高くする必要性が薄いので、こうした伝送導体208は可撓性の高いケーブルにすることができる。
【0055】
なお、高インピーダンス電極導体202たる信号取込用導電パッチは、Ag/AgCl、Cu、Sn、導電性カーボン被覆等に限らず、それに類する信号伝達特性を備えた信号伝達素材で形成することができる。導体204及び206たる高インピーダンス信号伝送路は、導電性カーボン、導電性グラファイト等に限らず、それに類する高インピーダンス信号導体で形成することができる。R5は、その信号を心電図モニタに送る信号伝送導体の抵抗値を表している。
【0056】
図12に、
図11に示したシステムの電気的構成要素を示す。この図は信号の伝わり方を模式的に示したものである。まず、
図11に示した接着層200は医用電極を接着するための層であり、心電図信号等の低周波バイオメディカル信号(即ち交流信号)が印加されると分極するよう構成されている。そのため、信号を伝える際には充電中のコンデンサのように振る舞い、低周波では(コンデンサと同じく)等価的に開放となるので直流乃至低周波電流が阻止される。分極による容量性結合であるので、低周波信号が伝わる際に大きな電流が流れることはない。互いに並列接続されている高インピーダンス導体212(R1)及びコンデンサ213(C1)は、接着層200に備わるこうした低周波インピーダンスを定量的に表したものである。また、
図11に示した信号取込用導電パッチ(R2)は抵抗214で、その信号を伝える導体(R3,R4)は抵抗216及び218で、またその信号を心電図モニタにもたらす導体(R5)は抵抗220でそれぞれ表されている。
図11に示した諸要素の合計インピーダンスは、抵抗222のそれ(R6)を除き少なくとも20kΩとなる。
図12中の抵抗222(R6)、即ち心電図モニタの入力インピーダンスを表す抵抗222の値は、前掲の心電図モニタMAC1200(商品名)のように100MΩ以上とすべきである。
【0057】
モニタの入力インピーダンスが信号伝送上問題となるのは、そのインピーダンスが分圧器の一部として働くためである。即ち、信号伝送に際しては、直列接続されている抵抗間で信号振幅が案分されるので、心電図モニタの入力インピーダンスが
図12中の要素R1〜R5の直列インピーダンスに比し数桁高い値であれば、信号振幅の大部分を心電図モニタに正確に伝えることができる。これを式で表すとV
out ECG=V
in Medical Electrode×{R6/(R6+R5+R4+R3+R2)}となる。例えば、信号振幅V
in Medical Electrode=100mV、R6=100MΩ、R2〜R5=20kΩであれば、信号のうちV
out ECG=99.9mVが伝わることとなる。
【0058】
なお、いわゆる当業者には自明な通り、本願記載の諸実施形態には、本発明の技術的範囲内で様々な変形及び改良を施すことができる。