(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5743904
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】ニトリル官能基を有する化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 253/10 20060101AFI20150611BHJP
C07C 255/04 20060101ALI20150611BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20150611BHJP
【FI】
C07C253/10
C07C255/04
!C07B61/00 300
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-546764(P2011-546764)
(86)(22)【出願日】2010年1月18日
(65)【公表番号】特表2012-516295(P2012-516295A)
(43)【公表日】2012年7月19日
(86)【国際出願番号】EP2010050521
(87)【国際公開番号】WO2010086246
(87)【国際公開日】20100805
【審査請求日】2011年9月20日
(31)【優先権主張番号】0950559
(32)【優先日】2009年1月29日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512299325
【氏名又は名称】インヴィスタ テクノロジーズ エスアエルエル
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100114465
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100174078
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100156915
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 奈月
(72)【発明者】
【氏名】セルジオ・マストロヤンニ
【審査官】
品川 陽子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−006451(JP,A)
【文献】
米国特許第03864380(US,A)
【文献】
特表2006−521918(JP,A)
【文献】
米国特許第06048996(US,A)
【文献】
特開昭52−044900(JP,A)
【文献】
特表2006−526667(JP,A)
【文献】
特表2011−510036(JP,A)
【文献】
特表2012−506397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 253/10
C07C 255/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼロの酸化状態のニッケルと有機ホスフィット、有機ホスホナイト、有機ホスフィナイト及び有機ホスフィンよりなる群から選択される少なくとも1個の有機リン配位子との錯体と、共触媒とを含む触媒系の存在下でのシアン化水素との反応により、2〜20個の炭素原子を有する少なくとも1個の非共役不飽和結合を含む有機化合物をヒドロシアン化させることによって少なくとも1個のニトリル官能基を有する化合物を製造する方法であって、該共触媒が少なくとも2種のルイス酸の混合物からなり、その少なくとも1種が次の一般式Iに相当する有機金属化合物であることを特徴とする方法:
[(R)a−(X)y−]nM−(O)p−M1[−(X)z−(R1)a1]n1
式中:
M及びM1は同一のもの又は異なるものであり、次の元素:B、Si、Ge、Sn、Pb、Zn、Al及びInよりなる群から選択される元素を表し、
R及びR1は同一のもの又は異なるものであり、置換又は非置換でかつ架橋していても架橋していなくてもよい、脂肪族基又は芳香族若しくは脂環式の環を有する基、或いはハロゲン基を表し、
Xは酸素、窒素、硫黄又は珪素原子を表し、
y、z及びpは、0又は1に等しい同一の又は異なる整数であり、
n及びn1は、元素M及びM1の原子価を1で減じたものに等しい整数であり、
a及びa1は、y及びzが1に等しい場合には該元素Xの原子価を1で減じたものに等しい同一の又は異なる整数であり、或いはy及びzが0に等しい場合には1に等しい。
【請求項2】
前記R及びR1が、同一のもの又は異なるものであり、置換又は非置換でかつ架橋していても架橋していなくてもよい芳香族、脂肪族又は脂環式基、或いはハロゲン基を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式Iの化合物が次の化合物よりなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法:
・ビス(ネオペンチルグリコラト)二硼素
・ビス(ヘキシレングリコラト)二硼素
・ビス(ピナコラト)二硼素
・テトラキス(ピロリジノ)ジボラン
・ヘキサメチルジシラン
・テトラフェニルジメチルジシラン
・ジフェニルテトラメチルジシラン
・トリス(トリメチルシリル)シラン
・テトラキス(トリメチルシリル)シラン
・ヘキサフェニルジシラン
・ヘキサメチルジゲルマン
・ヘキサエチルジゲルマン
・ヘキサフェニルジゲルマン
・ヘキサメチル二錫
・ヘキサブチル二錫
・ヘキサフェニル二錫
・トリフェニルスタンニルジメチルフェニルシラン
・トリフェニル(トリフェニルスタンニル)ゲルマニウム
・ヘキサフェニル二鉛
及び次式を有する化合物:
(C2H5)2−B−O−Al−(C2H5)2 (II)
(C2H5)2−B−O−Al−Cl2 (III)
(iBu)2−Al−O−Al−(iBu)2 (IV)
(mes)2−B−O−Al−(C2H5)2 (V)
【化1】
(mes)2−B−O−Al−Cl2 (VII)
(mes)2−B−O−Zn−C2H5 (VIII)
(C2H5)2−Al−O−Al−(C2H5)2 (IX)
Ph2−B−O−B−Ph2 (X)
(式中
iBuはイソブチル基を表し
mesはメシチル(2,4,6−トリメチルフェニル)基を表し、そして
Phはフェニル基を表す。)。
【請求項4】
前記触媒系がNiのモルに対して0.1〜10のモル比の共触媒を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記式Iの化合物が、ルイス酸の混合物中に、ルイス酸の総モル数に対して少なくとも0.1モル%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記式Iの化合物が少なくとも5モル%で存在することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記式Iの化合物が少なくとも10モル%で存在することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ルイス酸の混合物が前記式Iには相当しないルイス酸を含む場合には、このルイス酸は少なくとも50%のモル濃度で存在することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記有機リン配位子が単座有機リン化合物及び二座有機リン化合物よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ジニトリル化合物に転化される有機化合物がペンテンニトリル化合物であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1個のニトリル官能基を有する化合物がアジポニトリル、メチルグルタロニトリル及びスクシノニトリルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1個のニトリル官能基を有する化合物を、少なくとも1個の非共役不飽和結合を有する化合物のヒドロシアン化により製造する方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、ゼロの酸化状態のニッケル(以下Ni(0)という。)と少なくとも1個の有機リン配位子との錯体及びルイス酸の群に属する共触媒を含む触媒系の存在下でのシアン化水素と非共役結合を有する有機化合物との反応を使用する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
このような方法は、長年にわたって知られており、主要な化学中間体であるアジポニトリルの製造のために産業上利用されている。この中間体は、特に、ポリアミド製造の重要な単量体であり、またジイソシアネート化合物合成の中間体でもあるヘキサメチレンジアミンを製造する際に使用されている。
【0004】
例えば、デュポン・ド・ヌムール社は、ブタジエンの二重ヒドロシアン化によりアジポニトリルを製造する方法を開発し使用している。この反応は、通常、Ni(0)と有機リン配位子との錯体を含む触媒系によって触媒される。また、この系は、特に第2ヒドロシアン化工程、すなわちペンテンニトリルなどのニトリル官能基を有する不飽和化合物をヒドロシアン化してジニトリル化合物を与える段階において、共触媒も含む。
【0005】
特許文献には多くの触媒が提供されているが、これは、一般にルイス酸の群に属する化合物である。この共触媒又は助触媒の役割の一つは、副生成物の生成を制限し、それにより直鎖ジニトリル化合物の形成を分岐ジニトリルの形成と比較して促進させることである。
【0006】
そして、塩化亜鉛、臭化亜鉛、塩化第一錫又は臭化第一錫などの金属ハロゲン化物の多くが、例えば、米国特許第3496217号で既に提供されている。塩化亜鉛が好ましい共触媒である。
【0007】
有機硼素化合物、例えばトリフェニル硼素や、米国特許第3864380号及び同3496218号に記載されたような2個の硼素原子を有する化合物、また、米国特許第4874884号のような有機錫化合物も提供されている。
【0008】
数個の酸部位、特に2個の酸部位を有する共触媒が仏国特許出願第0800381号及び同0805821号に提供されている(これらはまだ公開されていない)。
【0009】
これらの共触媒は様々な特性を有するので、アジポニトリルなどの直鎖ジニトリルに対する様々な選択性を得ることを可能にする。これらの共触媒のいくつかには、これらを反応媒体から抽出することの困難さや、この共触媒の存在下で触媒系又はNi(0)の配位子をリサイクルのために抽出することの可能性及び容易さに関連する不利益がある。
【0010】
また、米国特許第4874884号に記載されるように、共触媒としてルイス酸の混合物(特に共触媒の一つがトリフェニル硼素である場合)を使用することや、国際公開WO2004/087314号に記載されるようにルイス酸とアルミニウム又はチタンアルコキシドから構成される別の化合物とを組み合わせることも提供されている。
【0011】
直鎖ジニトリルについて許容できるレベルの選択性を得ることを可能にし、かつ、ヒドロシアン化反応の速度とジニトリル収率を使用し及び/又は改善するのが容易な新規触媒系に対する要望が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第3496217号明細書
【特許文献2】米国特許第3864380号明細書
【特許文献3】米国特許第3496218号明細書
【特許文献4】米国特許第4874884号明細書
【特許文献5】国際公開第2004/087314号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的の一つは、適合性のある特定の共触媒の新規な組合せを含み、かつ、アジポニトリルに対する好適なレベルの選択性と、ペンテンニトリルのヒドロシアン化のための反応において好適なレベルのジニトリル収率とを与える、新規な触媒系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のために、本発明は、ゼロの酸化状態のニッケルと有機ホスフィット、有機ホスホナイト、有機ホスフィナイト及び有機ホスフィンよりなる群から選択される少なくとも1個の有機リン配位子との錯体と、共触媒とを含む触媒系の存在下でのシアン化水素との反応により、2〜20個の炭素原子を有する少なくとも1個の非共役不飽和結合を含む有機化合物をヒドロシアン化することによって少なくとも1個のニトリル官能基を有する化合物を製造する方法であって、該共触媒が少なくとも2種のルイス酸の混合物からなり、その少なくとも1種が次の一般式Iに相当する有機金属化合物であることを特徴とする方法を提供する:
[(R)
a−(X)
y−]
nM−(O)
p−M
1[−(X)
z−(R
1)
a1]
n1
式中:
M及びM
1は同一のもの又は異なるものであり、次の元素:B、Si、Ge、Sn、Pb、Mo、Ni、Fe、W、Cr、Zn、Al、Cd、Ga及びInよりなる群から選択される元素を表し、
R及びR
1は同一のもの又は異なるものであり、置換又は非置換でかつ架橋していても架橋していなくてもよい脂肪族基又は芳香族若しくは脂環式の環を有する基、或いはハロゲン化物基を表し、
Xは酸素、窒素、硫黄又は珪素原子を表し、
y、z及びpは、0又は1に等しい同一の又は異なる整数であり、
n及びn
1は、元素M及びM
1の原子価を1で減じたものに等しい整数であり、
a及びa1は、y及びzが1に等しい場合には該元素Xの原子価を1で減じたものに等しい同一の又は異なる整数であり、或いはy及びzが0に等しい場合には1に等しい。
【0015】
有利には、R及びR
1は同一のもの又は異なるものであり、置換又は非置換でかつ架橋していても架橋していなくてもよい芳香族、脂肪族又は脂環式基、或いはハロゲン化物基を表す。
【0016】
上記式において、pが0に等しい場合には、M元素とM
1元素との結合は、M及びM
1元素の性質に応じて、単一の又は複数の共有結合である。
【0017】
上記式において、aは、yが1に等しい場合には元素Xの原子価を1で減じたものに等しく、また、aは、yが0に等しい場合には1に等しい。同様に、a1は、zが1に等しい場合には元素Xの原子価を1で減じたものに等しく、また、a1は、zが0に等しい場合には1に等しい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい特徴によれば、式Iの有機金属化合物は、有利には次の化合物よりなる群から選択される:
・ビス(ネオペンチルグリコラト)二硼素(RN CAS201733−56−4)
・ビス(ヘキシレングリコラト)二硼素(RN CAS230299−21−5)
・ビス(ピナコラト)二硼素(RN CAS73183−34−3)
・テトラキス(ピロリジノ)ジボラン(RN CAS158752−98−8)
・ヘキサメチルジシラン(RN CAS1450−14−2)
・テトラフェニルジメチルジシラン(RN CAS1172−76−5)
・ジフェニルテトラメチルジシラン(RN CAS1145−98−8)
・トリス(トリメチルシリル)シラン(RN CAS1873−77−4)
・テトラキス(トリメチルシリル)シラン(RN CAS4098−98−0)
・ヘキサフェニルジシラン(RN CAS1450−23−3)
・ヘキサメチルジゲルマン(RN CAS993−52−2)
・ヘキサエチルジゲルマン(RN CAS993−62−4)
・ヘキサフェニルジゲルマン(RN CAS2816−39−9)
・ヘキサメチル二錫(RN CAS661−69−8)
・ヘキサブチル二錫(RN CAS813−19−4)
・ヘキサフェニル二錫(RN CAS1064−10−4)
・トリフェニルスタンニルジメチルフェニルシラン(RN CAS210362−76−8)
・トリフェニルゲルマニウム;トリフェニル錫(RN CAS13904−13−7)
・ヘキサフェニル二鉛(RN CAS3124−01−4)
・シクロペンタジエニル鉄ジカルボニルダイマー(RN CAS38117−54−3)
・シクロペンタジエニルクロムジカルボニルダイマー(RN CAS37299−12−0)
・シクロペンタジエニルニッケルカルボニルダイマー(RN CAS12170−92−2)
・シクロペンタジエニルタングステントリカルボニルダイマー(RN CAS12566−66−4)
・メチルシクロペンタジエニルモリブデントリカルボニルダイマー(RN CAS33056−03−0)
及び次式を有する化合物:
(C
2H
5)
2−B−O−Al−(C
2H
5)
2 (II)
(C
2H
5)
2−B−O−Al−Cl
2 (III)
(iB
u)
2−Al−O−Al−(iB
u)
2 (IV)
(mes)
2−B−O−Al−(C
2H
5)
2 (V)
【化1】
(mes)
2−B−O−Al−Cl
2 (VII)
(mes)
2−B−O−Zn−C
2H
5 (VIII)
(C
2H
5)
2−Al−O−Al−(C
2H
5)
2 (IX)
Ph
2−B−O−B−Ph
2 (X)
式中
iBuはイソブチル基を表し
mesはメシチル(2,4,6−トリメチルフェニル)基を表し、そして
Phはフェニル基を表す。
式(IV)の化合物はCAS998−00−5で表され、以下、TIBAOと呼ぶ。
式(X)の化合物CAS4426−21−5としてリストされている。
【0019】
これらの化合物は、それらの製造方法と共に文献に記載されている。RN CAS登録番号は、単なる情報として与えている。これらの化合物の大部分は市販されている。
【0020】
本発明によれば、式Iの化合物と共に存在するルイス酸は、既に説明した、ペンテンニトリルのヒドロシアン化反応のための触媒系に使用される様々な多数のルイス酸から選択できる。このようなルイス酸は、技術常識を説明する際の上記特許文献に記載されている。
【0021】
本発明の触媒系に好適なルイス酸の例としては、金属陽イオンと非常に様々な陰イオンとの組合せを含む多数の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。例として、陽イオンは、亜鉛、カドミウム、ベリリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、亜鉛、チタン、バナジウム、ニオブ、スカンジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、パラジウム、トリウム、エルビウム、鉄及びコバルトであることができる。
【0022】
好ましい陰イオンとしては、弗化物、塩化物、臭化物及び沃化物などのハロゲン化物、2〜7個の炭素原子を有する有機脂肪酸の陰イオン、又は陰イオンHPO
32-、H
2PO
2-、CF
3COO
-、OSO
2C
7F
15-又はSO
42-が挙げられる。
【0023】
有機硼素又は錫化合物の群に属する他のルイス酸、例えばトリフェニル硼素も使用することができる。
【0024】
本発明の好ましい形態では、本発明の触媒系は、本発明に従う共触媒を、ニッケル原子の数に対して、0.01〜50、好ましくは0.1〜10の共触媒モル比で含む。共触媒の濃度は、ルイス酸の全濃度に相当する。
【0025】
本発明の触媒系において、式Iの化合物は、ルイス酸の混合物の少なくとも0.1モル%、有利には少なくとも1%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%を占める。第2のルイス酸が式Iに相当しない場合には、この第2ルイス酸は、有利には、該混合物中に少なくとも50%のモル比で存在する。
【0026】
本発明の好ましい特徴によれば、式Iの化合物と併用されるルイス酸は、有利には、米国特許第3496217号、同3864380号、同3496218号及び同4874884号に列挙された1個のみの酸部位を有するルイス酸よりなる群から選択される。このリストの中で特に好ましいルイス酸としては、塩化亜鉛及びトリフェニル硼素が挙げられる。
【0027】
本発明の触媒系は、Ni(0)と、少なくとも1種の有機リン化合物、好ましくは、亜燐酸トリフェニル又は亜燐酸トリトリルなどの単座化合物、例えば米国特許第3496215号、独国特許第19953058号、仏国特許第1529134号、仏国特許第2069411号、米国特許第3631191号、米国特許第3766231号及び仏国特許第2523974号に記載されたもの、又はWO9906355号、WO9906356号、WO9906357号、WO9906358号、WO9952632号、WO9965506号、WO9962855号、米国特許第5693843号、WO961182号、WO9622968号、米国特許第5981772号、WO0136429、WO9964155、WO0213964及び米国特許第6127567号に記載された有機ホスフィット化合物などの二座化合物との錯体を含む。
【0028】
また、Ni(0)と、国際公開第WO02/30854号、WO02/053527号、WO03/068729号、WO04/007435号、WO04/007432号、仏国特許第2845379号及びWO2004/060855号に記載されているような単座又は二座有機ホスフィン化合物(特に、未公開仏国特許出願第0803373号に記載されたトリチエニルホスフィン及びWO2003031392号に記載されたDPPX)との錯体を使用することも可能である。
【0029】
同様に、本発明の触媒系は、Ni(0)と、有機ホスホナイト又は有機ホスフィナイトの群に属する単座又は二座有機リン化合物との錯体を含むことができる。
【0030】
また、本発明の共触媒を、国際公開第WO03011457号及びWO2004/065352号に記載されたような有機ホスフィット、有機ホスホナイト、有機ホスフィナイト若しくは有機ホスフィンに属する化合物の群から選択される、単座有機ホスフィット配位子及び二座配位子の混合物、又は未公開仏国特許出願第0803374号に記載されるような単座配位子の混合物により得られたNi(0)錯体と共に使用することも可能である。
【0031】
ヒドロシアン化方法は、上で列挙したものを含めて様々な特許文献に記載されており、また、C.A.TolmanによりThe reviews Organometallics,3(1984)33,Advances in Catalysis(1985),33−1及びThe Journal of Chemical Education(1986),第63巻、No.3,199−201頁の論文にも記載されている。
【0032】
簡単に説明すると、少なくとも1個のニトリル官能基を有する化合物、特にアジポニトリルなどのジニトリル化合物の製造方法は、第1工程で、1,3−ブタジエンなどのジオレフィンとシアン化水素とを、通常は溶媒の非存在下でかつ触媒系の存在下で反応させることからなる。この反応は、液体媒体中で行うために加圧下で実施される。不飽和ニトリル化合物が連続蒸留によって分離される。ペンテンニトリルなどの直鎖ニトリル化合物が第2ヒドロシアン化工程に供給される。
【0033】
有利には、第1工程で得られた非直鎖不飽和ニトリルに異性化工程を施して直鎖不飽和ニトリルに転化させ、またこれを第2ヒドロシアン化工程にも導入する。
【0034】
第2ヒドロシアン化工程において、触媒系の存在下で直鎖不飽和ニトリルとシアン化水素とを反応させる。
【0035】
反応媒体から触媒系を抽出した後に、形成されたジニトリル化合物を連続蒸留により分離する。いくつかの触媒系の抽出方法が、例えば、米国特許第3773809号、同4 082811号、同4339395号及び同5847191号に記載されている。一般に、触媒系は、反応媒体中に存在するモノニトリル化合物対ジニトリル化合物の比率を制御することにより得られた2つの相に沈殿させることによって反応媒体から分離できる。この分離は、アンモニアの添加により改善できる。また、触媒系を沈殿させてこれを回収し、そしてリサイクルすることや、非極性媒体を使用して触媒系を抽出し、そしてこれをニトリル生成物から分離することも可能である。
【0036】
これらの様々な工程についての温度条件は、10〜200℃である。
【0037】
第1及び第2ヒドロシアン化工程と異性化工程とで使用する触媒系は、通常は同様のもの、すなわち同じNi(0)錯体を含むものである。しかしながら、ニッケル原子数対配位子分子数の比率は、これらの工程のそれぞれで異なってもよく、また、媒体中における触媒系の濃度も異なっていてよい。
【0038】
好ましくは、共触媒は、専ら、第2ヒドロシアン化工程のために使用する触媒系に存在する。しかし、異性化工程及び随意に第1工程に存在していてもよい。
【0039】
この方法、つまり使用する触媒系の特徴及び性能は、ジニトリル化合物の収率(RR)
DN及び生成された直鎖ジニトリルの線状性(L)、すなわち形成したジニトリルのモル数に対する直鎖ジニトリルのモル数、によって決定され示される。アジポニトリルの製造の場合には、線状性は、形成したジニトリル(AdN+ESN+MGN)のモル数に対する、得られたアジポニトリル(AdN)のモルのパーセンテージに相当する。
【0040】
触媒としてルイス酸の特定の組合せを使用すると、本発明の反応速度及び触媒性能を改善することが可能になる。したがって、本発明の触媒系により、反応の生成量に影響を与えることなく触媒の濃度を減少させることが可能になる。
【0041】
専ら例示として与える以下の実施例から、3−ペンテンニトリルのヒドロシアン化によるアジポニトリルの製造に対する良い例示が得られるであろう。これらの実施例において、使用する3−ペンテンニトリルは、オールドリッチ社が販売する化合物である。
【実施例】
【0042】
実施例で用いる略語は次の意味を有する:
cod:シクロオクタジエン
3PN:3−ペンテンニトリル
AdN:アジポニトリル
ESN:エチルスクシノニトリル
MGN:メチルグルタロニトリル
LA:ルイス酸
DN:ジニトリル(AdN、MGN又はESN)
TTP:亜燐酸トリ(p−トリル)
TIBAO:テトライソブチルジアルミノキサン
BPDB:ビス(ピナコラト)二硼素
DPPX:1,2−ビス(ジフェニルホスフィノメチル)ベンゼン
線状性(L):形成したAdNのモル数対形成したジニトリルのモル数(AdN、ESN及びMGNのモルの合計)の比
RY
(DN):形成したジニトリルのモル数対装入した3PNのモル数の比に相当するジニトリルの収率
【0043】
3PN、Ni(cod)
2、TTP、ZnCl
2、TIBAO、ジフェニルボリン酸無水物(Ph
2BOBPh
2)、DPPX、トリチエニルホスフィン及びBPDBの化合物は市販されている。
【0044】
例1〜9:1種のみのルイス酸を使用して3−PNをヒドロシアン化してAdNを得る(比較例)
これらの例を実施するために使用した手順を以下に説明する:
次のものを、アルゴン雰囲気下で、隔壁ストッパーを備えたショット型の60mLガラス管に連続的に装入する:
・配位子:
・単座配位子(TTP又はトリチエニルホスフィン)について:5当量(ニッケル1モル当たり5モルの配位子)
・二座配位子(DPPX)について:2.5当量(ニッケル1モル当たり2.5モルの配位子)
・1.21g(15mmol、30当量)の無水3PN
・138mg(0.5mmol、1当量)のNi(cod)
2
・LA:ルイス酸の性質及び量は以下の表Iに示す:
【0045】
この混合物を撹拌しながら70℃にする。アセトンシアノヒドリンを、シリンジドライバーにより1時間当たり0.45mLの流量で反応媒体に注入する。3時間にわたって注入した後に、シリンジドライバーを停止させる。この混合物を周囲温度にまで冷却し、アセトンで希釈し、そしてガスクロマトグラフィーで分析する。
結果を以下の表Iにまとめる。
【0046】
これらの例では、1に等しいルイス酸活性部位対ニッケル原子の比を得るためにルイス酸の総添加量を決定している。
【0047】
【表1】
【0048】
例10〜16:ルイス酸の混合物を使用して3−PNをヒドロシアン化してAdNを得る(本発明に従う実施例)
次の例では、[(LA1の1分子当たりの酸部位の総数)+(LA2の1分子当たりの酸部位の総数)]対ニッケル原子の比を1に設定する。
使用した手順は比較例1〜9で説明したのと同じである。
得られた結果及び配位子とルイス酸の性質を以下の表IIにまとめる。
【0049】
【表2】
【0050】
これらの結果は、同等の線状性(L)が維持されると共に、ジニトリル化合物の収率RY(
DN)が増加することを示している。