特許第5743920号(P5743920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5743920微細パターンを有するガラス構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5743920
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】微細パターンを有するガラス構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20150611BHJP
【FI】
   H01L21/30 502D
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-26615(P2012-26615)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-165127(P2013-165127A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】須田 秀喜
【審査官】 赤尾 隼人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−072956(JP,A)
【文献】 特開平06−003803(JP,A)
【文献】 特開2007−241060(JP,A)
【文献】 特開2008−126450(JP,A)
【文献】 特開2002−268197(JP,A)
【文献】 特開2009−206338(JP,A)
【文献】 特開2009−080421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 1/00−1/86
B29C 33/00−33/76;45/00−45/84;
57/00−59/18
G11B 5/84−5/858;7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の表面に微細パターンが形成されたガラス構造体の製造方法において、
ガラス基板上に、フッ素系エッチャントによりエッチング可能な材料からなる下層、及びクロム(Cr)又はクロム(Cr)化合物からなる上層を含む薄膜を形成したガラス構造体用ブランクを用意する工程と、
前記薄膜上に形成したレジストパターンをマスクとして、塩素系ガスを含む第1のエッチャントを用いて前記上層をエッチングすることにより、上層パターンを形成する工程と、
少なくとも前記上層パターンをマスクとして、フッ素系ガス又は塩素系ガスを含む第2のエッチャントを用いて前記下層をエッチングすることにより、下層パターンを形成する工程と、
少なくとも前記下層パターンをマスクとして、フッ素系ガスを含む第3のエッチャントを用いて、前記ガラス基板をエッチングすることにより、前記ガラス基板の表面に掘り込み部を形成する工程と、
第4のエッチャントを用いて、前記上層パターンを除去する工程と、
フッ素系の第5のエッチャントを用いて、前記下層パターンを除去するとともに、前記掘り込み部が形成された前記ガラス基板の表面を更にエッチングすることにより、前記微細パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とする微細パターンを有するガラス構造体の製造方法。
【請求項2】
前記微細パターンを形成する工程においては、前記掘り込み部を形成する工程よりも、エッチングの異方性が小さくなるエッチング条件を適用することを特徴とする請求項1に記載の微細パターンを有するガラス構造体の製造方法。
【請求項3】
前記微細パターンを形成する工程において、前記ガラス基板に形成された前記掘り込み部の側壁のエッチングを更に進行させることにより、前記微細パターンの形状を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の微細パターンを有するガラス構造体の製造方法。
【請求項4】
前記微細パターンを形成する工程において、前記ガラス基板に形成された前記掘り込み部の側壁のエッチングを更に進行させることにより、前記掘り込み部の側壁の傾斜を形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の微細パターンを有するガラス構造体の製造方法。
【請求項5】
前記下層は、遷移金属とシリコンを含む材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の微細パターンを有するガラス構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の集積回路や、微細パターンにより光学的機能を付加した光学部品の作製、磁気ディスク上の微細パターン形成に使用するインプリント用モールド等に用いることができるガラス構造体の製造方法及びガラス構造体、並びにインプリント用モールドに関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント用モールド(テンプレート)は同じ微細パターンを大量に転写するための原版となる。
従来のインプリント用モールドの作製においては、石英ガラスなどの透光性基板上にクロム等の薄膜を形成したブランクが用いられ、このブランク上にレジストを塗布した後、電子線露光などを用いてレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして薄膜をエッチング加工することにより薄膜パターンを形成している。
【0003】
さらに、薄膜パターンをマスクとして透光性基板をエッチング加工して段差パターンを作製するが、透光性基板のパターン寸法、精度は薄膜パターンの寸法、精度により直接影響を受ける。したがって、最終的に高精度の微細パターンが形成されたインプリント用モールドを作製するためには、ブランクにおける上記薄膜パターンを高いパターン精度で形成する必要がある。
【0004】
インプリント用モールド製造用ブランクスについて記載する先行技術文献としては下記のものが挙げられる。
下記特許文献1には、Crと酸素を含む上層と、Ta又はその化合物を含み、フッ素系ガスでドライエッチング可能な下層とからなる薄膜を有するインプリントモールド用マスクブランクが記載されている。
また、下記特許文献2には、ガラス基板上に、Cr又は酸素を実質的に含まないCr化合物を材料とした上層と、Ta又は酸素を実質的に含まないTa化合物で形成された中間層と、Cr又はCr化合物で形成された下層の積層膜を形成したインプリントモールド用マスクブランクが記載されている。
【0005】
ところで、ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気記録装置に搭載される磁気ディスクにおいては、磁気ヘッド幅を極小化し、情報が記録されるデータトラック間を狭めて高密度化を図るという手法が従来より用いられてきていた。しかし、従来手法では高密度化に限界がきており、隣接トラック間の磁気的影響や熱揺らぎ現象が無視できなくなってきている。最近、磁気ディスクのデータトラックを磁気的に分離して形成するディスクリートトラック型メディア(Discrete Track Recording Medium;以下、DTRメディアという。)という、新しいタイプのメディアが提案されている。
【0006】
このDTRメディアとは、記録に不要な部分の磁性材料を除去(溝加工)して信号品質を改善しようとするものである。さらに、溝加工した後に、その溝を非磁性材料で充填して、磁気ディスクドライブに要求されるオングストロームレベルの表面平坦性を実現したものである。そして、この微細な幅の溝加工を行う手法の1つとしてインプリント技術が用いられている。
【0007】
また、DTRメディアをさらに高密度化して発展させた、パターンドメディア(信号をドットパターンとして記録するメディア)という新しいタイプのメディアも提唱されてきており、このパターンドメディアのパターン形成においてもインプリント技術が有望視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−80421号公報
【特許文献2】特開2009−206338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1、特許文献2に記載されているようにインプリント用モールド製造用のブランクスとしては、二層、三層構造のものも提案されている。二層または三層構造の上層は、高解像を実現するためのレジスト薄膜化のためにハードマスクとして機能し、膜厚は数nm〜20nm程度に設定されている。また、上記上層、下層などの材料として、主にCr系薄膜とTa系薄膜の組み合わせを使用することができる。これらの上層と下層の材料の組み合わせに応じて、主に塩素系ガス(あるいは塩素と酸素の混合ガス)とフッ素系ガスとを使い分けてエッチングを行い最終形状を得るような構成とすることができる。
【0010】
一方で、半導体装置製造用のフォトマスクの素材となるフォトマスクブランクとして、従来はCr系の遮光膜が主流であったが、例えば特開2007−241060号公報には、MoSi系の遮光膜を使った例が紹介されている。また、特開2001−27799号公報には、位相シフトマスクの製造方法において、MoSi系の膜を塩素系ガスでドライエッチングする方法が記載されている。当該公報によると、MoSi系膜を塩素系ガスでエッチングすると、フッ素系ガスでエッチングするよりもオーバーエッチングに伴って下地である石英基板の露出表面がエッチングされるのを低減し、削れ、凹凸の発生を抑制することができる効果が得られることが記載されている。
【0011】
ところで、インプリント用モールドは転写対象物上に塗布されたレジスト膜に直接押し付けてパターンを転写する方式のため、モールドの立体形状がそのまま転写される。従って、モールドに形成されるパターンの表面寸法のみならず、断面形状も、転写対象物上に作製される微細パターンの形状に大きく影響する。半導体回路の集積度が向上するにつれ、パターンの寸法は小さくなり、インプリント用モールドの精度もより高いものが要求される。特に、インプリント用モールドは、前記のとおり直接押し付ける転写方式であり、等倍でのパターン転写となるため、半導体回路パターンと要求される精度が同じになるため、微細な立体形状を精緻に制御しつつ形成することが肝要である。
【0012】
そこで、本発明者は、上記課題に着目し、その目的とするところは、インプリント用モールド等に使用されるガラス構造体の製造において微細パターンを高いパターン精度で形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、インプリント用モールド等に使用されるガラス構造体の製造において微細パターンを高いパターン精度で形成する方法を見い出し、これに基づき本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0014】
(構成1)
ガラス基板の表面に微細パターンが形成されたガラス構造体の製造方法において、ガラス基板上に、フッ素系エッチャントによりエッチング可能な材料からなる下層、及びクロム(Cr)又はクロム(Cr)化合物からなる上層を含む薄膜を形成したガラス構造体用ブランクを用意する工程と、前記薄膜上に形成したレジストパターンをマスクとして、塩素系ガスを含む第1のエッチャントを用いて前記上層をエッチングすることにより、上層パターンを形成する工程と、少なくとも前記上層パターンをマスクとして、フッ素系ガス又は塩素系ガスを含む第2のエッチャントを用いて前記下層をエッチングすることにより、下層パターンを形成する工程と、少なくとも前記下層パターンをマスクとして、フッ素系ガスを含む第3のエッチャントを用いて、前記ガラス基板をエッチングすることにより、前記ガラス基板の表面に掘り込み部を形成する工程と、第4のエッチャントを用いて、前記上層パターンを除去する工程と、フッ素系の第5のエッチャントを用いて、前記下層パターンを除去するとともに、前記掘り込み部が形成された前記ガラス基板の表面を更にエッチングすることにより、前記微細パターンを形成する工程と、を有することを特徴とする微細パターンを有するガラス構造体の製造方法である。
【0015】
(構成2)
前記微細パターンを形成する工程においては、前記掘り込み部を形成する工程よりも、エッチングの異方性が小さくなるエッチング条件を適用することを特徴とする構成1に記載の微細パターンを有するガラス構造体の製造方法である。
【0016】
(構成3)
前記微細パターンを形成する工程において、前記ガラス基板に形成された前記掘り込み部の側壁のエッチングを更に進行させることにより、前記微細パターンの形状を形成することを特徴とする構成1又は2に記載の微細パターンを有するガラス構造体の製造方法である。
【0017】
(構成4)
前記微細パターンを形成する工程において、前記ガラス基板に形成された前記掘り込み部の側壁のエッチングを更に進行させることにより、前記掘り込み部の側壁の傾斜を形成することを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の微細パターンを有するガラス構造体の製造方法である。
【0018】
(構成5)
前記下層は、遷移金属とシリコンを含む材料からなることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の微細パターンを有するガラス構造体の製造方法である。
【0019】
(構成6)
構成1乃至5のいずれかに記載の製造方法で製造されたインプリント用モールドである。
(構成7)
ガラス基板表面に微細パターンが形成されたガラス構造体であって、前記微細パターン及び該微細パターンが形成された基板主面の全面が、フッ素系エッチャントによるエッチングを受けた被エッチング面であることを特徴とする微細パターンを有するガラス構造体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、インプリント用モールド等に使用されるガラス構造体の製造において、微細パターンを高いパターン精度で形成することができる。半導体回路の集積度が向上するにつれ、パターンの寸法はより一層の微細化が要求されており、本発明によれば、かかるパターン寸法に対する微細化の要求に充分応えられるインプリント用モールド等に使用されるガラス構造体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のガラス構造体の製造工程を説明するための断面図である。
図2】本発明の実施例により製造されたガラス構造体の断面図である。
図3】本発明の実施例により製造されたガラス構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について詳述する。
[ガラス構造体の製造方法]
本発明に係る微細パターンを有するガラス構造体の製造方法について説明する。
上記構成1にあるように、本発明に係るガラス基板の表面に微細パターンが形成されたガラス構造体の製造方法は、
ガラス基板上に、フッ素系エッチャントによりエッチング可能な材料からなる下層、及びクロム(Cr)又はクロム(Cr)化合物からなる上層を含む薄膜を形成したガラス構造体用ブランクを用意する工程と、
前記薄膜上に形成したレジストパターンをマスクとして、塩素系ガスを含む第1のエッチャントを用いて前記上層をエッチングすることにより、上層パターンを形成する工程と、
少なくとも前記上層パターンをマスクとして、フッ素系ガス又は塩素系ガスを含む第2のエッチャントを用いて前記下層をエッチングすることにより、下層パターンを形成する工程と、
少なくとも前記下層パターンをマスクとして、フッ素系ガスを含む第3のエッチャントを用いて、前記ガラス基板をエッチングすることにより、前記ガラス基板の表面に掘り込み部を形成する工程と、
第4のエッチャントを用いて、前記上層パターンを除去する工程と、
フッ素系の第5のエッチャントを用いて、前記下層パターンを除去するとともに、前記掘り込み部が形成された前記ガラス基板の表面を更にエッチングすることにより、前記微細パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とするものである。
ここで、エッチャントとは、ドライエッチングの場合にはエッチングガス、ウェットエッチングにおいてはエッチング液を意味する。
【0023】
本発明に用いるガラス構造体用ブランクにおけるガラス基板としては、石英ガラスや、SiO−TiO系低膨張ガラス等のガラス基板が適用できる。石英基板等のガラス基板は、平坦度及び平滑度に優れるため、本発明により得られるインプリント用モールド等のガラス構造体を使用してパターン転写を行う場合、転写パターンの歪み等が生じないで高精度のパターン転写を行える。
【0024】
本発明に用いるガラス構造体用ブランクは、上記ガラス基板上に、下層及び上層を含む薄膜を形成したものである。この下層は、フッ素系エッチャントによりエッチング可能な材料からなるが、好ましくは、遷移金属とシリコンを含む材料である。より好ましくは、Mo又はTaと、シリコンを含む材料とすることができ、更に好ましくは、Moとシリコンを含む材料とすることができる。
下層の材料としては、例えば、MoSi又はMoSi化合物(MoSiN、MoSiON、MoSiOCN等)を適用することができる。上記Ta系の膜は、大気との接触により表面に自然酸化膜(TaOx)を形成しやすい一方、Moとシリコンを含む材料には、その傾向が実質的に無いため、エッチング性が損なわれることが無く、有利である。
【0025】
また上記上層の材料としては、クロム(Cr)又はクロム(Cr)化合物が選択される。この場合のクロム化合物としては、CrN、CrO、CrC、CrCN、CrON、CrOCN等が好ましく挙げられる。
【0026】
なお、上記下層と上層を含む薄膜は、レジストパターン形成の際の電子線描画時にチャージアップを防止するため、および走査型電子顕微鏡(SEM)によるパターン(モールドパターン)検査が可能となるように、必要な導電性を確保する機能を持たせることが好適である。例えば上層がCrOCNなどの導電性が低い膜の場合には、下層のMoSi系膜で導電性を確保することが望ましい。この場合の下層のMoSi系膜の組成としては、MoSi、又は酸化度、窒化度或いは炭化度を低くした上記MoSi化合物とすることが好ましい。
【0027】
上記ガラス基板上に下層と上層を含む薄膜を形成する方法としては、例えばスパッタリング法等の公知の成膜方法を適用することができる。
上記上層の膜厚は、厚すぎると、パターニング時のレジスト膜厚を厚くする必要が生じ、微細化上の支障になる一方、小さすぎるとエッチングマスクとしての機能に不都合が生じる。例えば5〜20nmが好ましく、より好ましくは5〜10nmである。また、上記下層の膜厚は、例えば20〜100nm程度が好ましく、より好ましくは50〜80nm程度である。
【0028】
本発明において、上記上層および下層は、それぞれ単層でも積層でもよい。例えば、本発明のガラス構造体を光学素子として使用する場合には、下層の表面には反射防止機能層が設けられていてもよい。また、積層である場合、組成傾斜によって境界が明確でないものであってもよい。
【0029】
上記ガラス構造体用ブランクの上記薄膜上にレジストパターンを形成するためのレジスト膜は、微細パターン形成の観点から、50〜150nm程度の膜厚であることが好ましく、特に50〜100nmであることが好ましい。
【0030】
上記上層パターンを形成する工程において用いる塩素系ガスを含む第1のエッチャントとしては、塩素ガス、または塩素と酸素の混合ガスを用いることができる。
【0031】
また、上記下層パターンを形成する工程において用いるフッ素系ガス又は塩素系ガスを含む第2のエッチャントとしては、フッ素系ガスの場合は、例えばCF、SFのガス、或いはそのいずれかとOの混合ガスなどの公知のものを使用することができ、塩素系ガスの場合は、上記第1のエッチャントと同様のものを使用することができる。なお、上記のとおり、下層はフッ素系エッチャント(例えばフッ素系ガス)によりエッチング可能な材料からなるが、塩素系ガスでもエッチング可能な材料である場合、下層パターンを形成する工程において塩素系ガスを用いることができる。この場合、上層と下層を塩素系ガスを用いて連続的にエッチングすることができる。
【0032】
また、上記ガラス基板表面に掘り込み部を形成する工程において用いるフッ素系ガスを含む第3のエッチャントとしては、例えばCF、CHFのガス、或いはそのいずれかとOの混合ガスなどの公知のものを用いることができる。ガラス基板をフッ素系ガスで所定量エッチングして掘り込み部を形成するが、この際、後の下層パターンを除去するためのエッチング時に同時にエッチングされる量を考慮し、最終掘り込み量より小さな掘り込み量としておくことが肝要である。
【0033】
また、上記上層パターンを除去する工程において用いる第4のエッチャントとしては、好ましくは塩素系のエッチングガスである。但し、上層パターンをエッチング除去できるエッチング液でもかまわない。例えば、硝酸第二セリウムアンモニウム(過塩素酸との混合液として使用することが多い)を用いることができる。
【0034】
また、上記微細パターンを形成する工程において用いるフッ素系の第5のエッチャントとしては、エッチングガスでもエッチング液でもよい。エッチングガスの場合は、例えばCF又はCHFのガス、或いはそのいずれかとOの混合ガスなどを用いることができる。エッチング液の場合は、例えばフッ化水素アンモニウムと過酸化水素水の水溶液などの公知のものを使用することができる。
【0035】
この微細パターンを形成する工程においては、下層パターンを上記フッ素系エッチャント(例えばフッ素系ガス)でエッチング除去する際に、エッチング条件を調整することで基板掘り込み部の深さ、および断面形状を最適化することができる。また、下層パターンをフッ素系エッチャントでエッチング終了後、更に基板掘り込み部のエッチングを進め、CD(パターン線幅)を調整することができる。これら基板掘り込み部の深さ、断面形状、パターン線幅などは、ガラス構造体の用途、要求される微細パターンの形状精度等によって調整すればよい。
【0036】
上記微細パターンを形成する工程においては、前記掘り込み部を形成する工程よりも、エッチングの異方性が小さくなるエッチング条件を適用することが好適である。
エッチングの異方性をより小さくするためには、例えば、ドライエッチングよりウェットエッチングの方が異方性が小さくなる(つまり等方性が大きくなる)ことを利用することができる。また、ドライエッチングにおいては、エッチングチャンバー内のガスの圧を大きくすると異方性が小さくなり、ガスの圧を小さくすると異方性が大きくなる傾向があることを利用することができる。或いは、RFパワーやエッチングガスの変更によって、エッチングの異方性を調整することも可能である。
【0037】
エッチングの異方性が大きいと、主に掘り込み部の深さ方向(縦方向、つまり基板主面と垂直方向)にエッチングが進行する。一方、エッチングの異方性が小さいと(等方性が大きくなる)と、掘り込み部の深さ方向だけでなく側壁方向(横方向、つまり基板主面と平行方向)にもエッチングが進行する。
【0038】
従って、上記微細パターンを形成する工程において、エッチングの異方性がより小さくなる条件を設定すれば、ガラス基板に形成された掘り込み部の側壁のエッチングを進行させることにより、最終的な微細パターンの形状を形成し、CD(パターン線幅)を調整することができる。
【0039】
また、上記微細パターンを形成する工程において、エッチングの異方性がより小さくなる条件を設定すれば、ガラス基板に形成された掘り込み部の側壁のエッチングを進行させることにより、前記掘り込み部の側壁の傾斜を形成することができる。つまり、掘り込み部の側壁の基板主面に対する角度を90度より小さくする方向に側壁の傾斜を促進し、テーパを形成することができる。
また、等方性エッチングによって、掘り込み部のエッジの角部を曲面化することができる。この場合、モールドとして使用する際の、掘り込みエッジに生じる応力緩和することができ、離型性を向上することができる。
【0040】
[ガラス構造体]
本発明により得られる微細パターンを有するガラス構造体は、前記構成7にあるように、ガラス基板表面に微細パターンが形成されたガラス構造体であって、前記微細パターン及び該微細パターンが形成された基板主面の全面(少なくともパターン形成領域)が、フッ素系エッチャントによるエッチングを受けた被エッチング面であることを特徴とするものである。本発明に係るガラス構造体は、例えば以上説明したような製造方法によって好適に得ることができる。
【0041】
このように、本発明のガラス構造体は、微細パターン及び該微細パターンが形成された基板主面の全面が、フッ素系エッチャントによるエッチングを受けた被エッチング面であることにより、後述のように例えばインプリント用モールドとしての離型時の応力を増加させない利点がある。
【0042】
本発明のガラス構造体が表面に有する微細パターンは、幅が例えば100nm以下のとき、本発明の効果が顕著に発揮される。また、この微細パターンは、深さが例えば100nm以下、更には50nm以下のときに本発明の効果が顕著に発揮される。
本発明のガラス構造体がもつ微細パターン形状に制限はない。ラインアンドスペースパターンであっても、ドットパターンであってもよく、用途に応じて選択すればよい。
【0043】
本発明に係る微細パターンが表面に形成されたガラス構造体は、光学部品や、磁気ディスク上の微細パターン形成に使用するインプリント用モールドや、光学素子(半導体装置製造用のクロムレスマスクなど)、その他の表面に微細パターンを形成したガラス製品として好ましく用いることができる。
【0044】
以上説明したように、本発明に係るガラス構造体の製造方法、及びガラス構造体によれば、以下のような効果が得られる。
(1)基板掘り込み部、非掘り込み部(基板主面)の表面状態を均一にすることができる。上記のとおり、基板掘り込み部はフッ素系ガスでエッチングされるが、最後の微細パターンを形成する工程において、前記下層パターンを除去するとともに、前記掘り込み部が形成された前記ガラス基板の表面を更にエッチングするので、掘り込み部とともに非掘り込み部(基板主面)もフッ素系エッチャント(例えばフッ素系ガス)でエッチングされる。従って、掘り込み部と非掘り込み部はいずれもフッ素系エッチャントによるエッチングを受けた被エッチング面となり、エッチング表面状態が均一になる。これは、例えばインプリント用モールドとしての離型時の応力を増加させない利点がある。
【0045】
(2)掘り込み部形状の微細な立体構造を、最終段階で微調整することができる。最後の微細パターンを形成する工程においては、フッ素系エッチャントでエッチングすることで下層パターンの除去と同時に掘り込み部もエッチングされることになるが、その時の掘り込み量および断面形状をエッチング条件により制御することができる。
【0046】
(3)最終的な微細パターンのCDを調整することができる。最後の微細パターンを形成する工程において、下層パターンを除去した後でもそのままエッチングを進めることで側壁のエッチングを進行させることが可能であるため、最終的に形成される微細パターンのCDを調整することが可能である(CD調整の自由度がある)。
また、この際、掘り込み部のエッジ形状を曲面とする(角形状に丸みをつける、或いはいわゆる「Rをつける」)ことで、応力緩和することができ、得られるガラス構造体の強度を確保できる。つまり、エッチング条件を適宜調整してエッチングを進めることで掘り込み部の角が取れてRを形成できる。
【0047】
(4)例えば下層がMoSi系の膜の場合、酸化によりエッチングに悪影響を与える物質を形成しないので、後続のエッチングプロセスに不都合が無い。
(5)導電性を確保することが可能である。例えば上層がCrOCNなどの導電性が低い膜の場合には、下層の例えばMoSi系膜で導電性を確保することが可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
(実施例1)
本実施例では、インプリント用モールドとして使用するガラス構造体の製造方法について図1を参照して説明する。図1は、本発明のガラス構造体の製造工程を説明するための断面図である。
【0049】
透明基板1としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、表面は鏡面研磨を施し、研磨、洗浄を行ったものを用意した。
【0050】
この透明基板1上に、MoSiNからなる薄膜2(下層)を成膜した。具体的には、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=10mol%:90mol%)を用い、アルゴンと窒素ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、MoSiN膜を60nmの膜厚で形成した。
【0051】
次に、上記薄膜2上に、CrNからなる薄膜3(上層)を成膜した。具体的には、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴンと窒素ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、CrN膜を10nmの膜厚で形成した。
【0052】
次に、上記薄膜3上に、レジスト膜4として、電子線描画用化学増幅型ポジ型レジスト膜を100nmの膜厚に形成した。レジスト膜4の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて回転塗布した。
こうして、本実施例に使用するガラス構造体用ブランクを得た(図1(a)参照)。
【0053】
次に上記ブランク上に形成されたレジスト膜4に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターン4aを形成した(図1(b)参照)。
次に、上記レジストパターン4aをマスクとして、薄膜3を塩素系ガス、具体的には、ClとOの混合ガス(流量比 Cl:O=20:1)を用い、圧力2mTorrでドライエッチングを行い、上層パターン3aを形成した(図1(c)参照)。
【0054】
次に、残存したレジストパターン4aを剥離した後、上記上層パターン3aをマスクとして、薄膜2をフッ素系ガス、具体的にはCFとOの混合ガス(流量比 CF:O=10:1)を用い、圧力3mTorrでドライエッチングを行い、下層パターン2aを形成した(図1(d)参照)。
【0055】
次に、上記上層パターン3aおよび下層パターン2aをマスクとして、透明基板1をフッ素系ガス、具体的にはCHFとOの混合ガス(流量比 CHF:O=10:1)を用い、圧力5mTorrで所定の掘り込み量のドライエッチングを行い、透明基板1の表面に掘り込み部11を形成した(図1(e)参照)。本実施例では最終所望の基板掘り込み深さが100nmであり、この段階で60nm掘り込んだ。
なお、レジストパターン4a、上層パターン3a、下層パターン2aをマスクとして、透明基板1の表面に掘り込み部11を形成した後、レジストパターン4aを剥離してもよい。
【0056】
次に、最初に薄膜3をエッチングしたときと同じ条件で上層パターン3aのドライエッチングを行い、上層パターン3aを除去した(図1(f)参照)。
次に、最初に薄膜2をエッチングしたときと同じ条件でドライエッチングを行い、下層パターン2aを除去するとともに、更に透明基板1のエッチングを進めて、所望のインプリント用モールド10が得られた(図1(g)参照)。
【0057】
この段階で、薄膜2をエッチングする条件では基板が掘り込み部11が更に40nm掘り込まれるため、最終的には掘り込み部11は100nmの深さとなった。また、最終的に得られた透明基板1表面の掘り込み部11により形成された微細パターンは、掘り込み幅が50nm、断面形状の角度(基板主面に対する側壁の角度)が89度であった。
【0058】
(実施例2)
図1(a)〜(f)までの工程は、上記実施例1と同様に行った。
最後に、薄膜2(下層パターン2a)をフッ素系ガスでエッチングする条件のみを実施例1とは変更した。
具体的にはCFとOの混合ガス(流量比 CF:O=10:1)を用いて、圧力を50mTorr、RFパワーを実施例1よりも30%減少させた条件でドライエッチングを行い、所望のインプリント用モールド10Aが得られた(図2を参照)。本実施例の場合のエッチング条件では圧力を高くしRFパワーを小さくしていることで、エッチングの異方性が弱くなった。この結果、ガラス基板のエッチングレートが遅くなり、これと同時に、縦方向(基板主面と垂直方向)だけでなく横方向(基板主面と平行方向)にもエッチングが促進された。
【0059】
これにより、ガラス基板表面に形成された微細パターンの断面形状が実施例1とは異なる形状に仕上がった。すなわち、掘り込み部11aの側壁に傾斜が生じた。すなわち断面形状がテーパ状に形成された(図2の実線を参照。なお、図2の点線は、図1(f)の状態を示す。)。
最終的に得られたガラス基板表面の微細パターンは、掘り込み部11aの掘り込み幅が56nm、掘り込み深さが100nm、断面形状の角度(基板主面に対する側壁の角度)が87.5度であった。
【0060】
(実施例3)
上記実施例2で得られたインプリント用モールド10Aに対し、実施例2の最後の薄膜2のエッチング条件と同じ条件で更にエッチングを進めて、所望のインプリント用モールド10Bが得られた(図3の実線を参照。なお、図3の点線は、実施例2により形成された微細パターン形状、つまり図2の実線の状態を示す。)。
これにより、掘り込み部の縦方向のみならず横方向にもエッチングを進め、掘り込み部11bの掘り込み幅60nm、掘り込み深さ100nmを有する微細パターンを得た。
【0061】
なお、本発明は以上説明した実施例に限定されるものではない。
たとえば、上記実施例では、上層パターン3aを形成した後(薄膜2及び透明基板1のエッチング前)に残存するレジストパターン4aを剥離したが、これ以外のタイミングで、例えば前記のとおりレジストパターン4a、上層パターン3a、下層パターン2aをマスクとして、透明基板1の表面に掘り込み部11を形成した後に、剥離するようにしてもよい。
また、上記下層の薄膜2を構成するMoSiN膜は更なる薄膜でもよく、例えば導電性を確実に確保する点から組成も任意に調整することが可能である。
【0062】
また、上記インプリント用モールドは、必要に応じて微細パターン周辺をエッチングして、いわゆる台座構造を形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 透明基板
2 薄膜(下層)
3 薄膜(上層)
4 レジスト膜
10 インプリント用モールド
11 掘り込み部

図1
図2
図3