(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、原子力プラントの配管の検査で行われる放射線透過試験(以下、RT(Radiographic Testing)と記載)システムを例に、図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1Aは、本実施例に係る放射線透過デジタル画像を用いた検査装置100の構成を示す。
【0019】
本実施例に係る放射線透過デジタル画像を用いた検査装置100は、デジタイザ保証部3と欠陥判定部6を備えている。
デジタイザ保証部3は、放射線透過試験により得られたフィルム像(アナログ画像)を図示していないデジタイザでデジタル化したデジタル画像やデータを外部から入力する入力部301、入力したデジタル画像に対して鮮鋭化処理を施す鮮鋭化処理部302、鮮鋭化したデジタル画像のフィルム画像に対する劣化度を推定する劣化度推定部303、鮮鋭化したデジタル画像について推定した劣化度に基づいて画像を等級付けするデジタル画像等級付部304を備えている。
欠陥判定部6は、放射線透過試験により得られた被検査試料のフィルム像(アナログ画像)を図示していないデジタイザでデジタル化したデジタル画像を入力する被検査試料デジタル画像入力部601、入力した被検査試料のデジタル画像に対して鮮鋭化処理を施す鮮鋭化処理部602、鮮鋭化処理を施したデジタル画像について欠陥を顕在化させる処理を施す欠陥顕在化処理部603、顕在化させた欠陥の特徴量を求める欠陥キャラクタライズ処理部604、検査の結果を出力する表示画面を備えた出力部605を備えている。また、出力部605は、図示していない通信回線を介して、検査の結果を外部の処理装置又は記憶装置に出力する。
上記構成を備えた放射線透過デジタル画像を用いた検査装置100による、デジタル画像の処理フローの一実施例について、
図1Bを用いて説明する。
【0020】
デジタイザ保証部3においては、入力として、フィルム像1、基準値2を事前に受け付ける。フィルム像1は、形状が既知のパターンを含む放射線透過試験用の試験片(以後、透過度計と記述)を、被検査試料を検査する時と同じ撮像条件で撮像してフィルム上に転写された画像のことである。基準値2はデジタル画像の品質を等級付けする際の基準となる値である。本例の放射線透過試験システムでは、フィルム像1、基準値2を入力として、まず、デジタイザ保証部3にて、図示していないデジタイザが、検査に問題のない品質を確保した画像を得ることができているか定量的に保証するとともに、画像の鮮鋭化を行う上で必要となる処理条件を決定する。
【0021】
その処理の一例として、まず、フィルム像1に撮像されたものと同一透過度計のデジタル画像を取得する(S101)。次に得られたデジタル画像を鮮鋭化する処理を行う(S102)。画像鮮鋭化処理S102は鮮鋭化に使用する各種パラメータを最適化するもので、算出された最適値(最適パラメータ4)が出力される。一方、画像鮮鋭化処理S102にて鮮鋭化された画像を使って、本来のフィルム像に対するデジタル画像の劣化度を推定し(S103)、劣化度に応じてデジタル画像を等級付けし、デジタイザの保証を行う(S104)。本実施例では、以上の処理構成にて、デジタイザにより得られるデジタル画像の品質を定量化する。
【0022】
欠陥判定部6では、上記デジタイザ保証部3にてデジタイザにより得られるデジタル画像の品質が保証でき、かつ、画像鮮鋭化に使用するパラメータの最適値が算出された情報を受けて、被検査試料のデジタル画像を用いて欠陥が在るか否かの判定を行う。
【0023】
欠陥判定部6では、まず、順次撮像される被検査試料の放射線透過試験により被検査試料を撮像して得られたフィルム像によるアナログ画像を、デジタイザ保証部3で保証されたデジタイザ(図示せず)でデジタル化されたデジタル画像5を入力する(S105)。ここで、デジタル画像5は、放射線透過試験のフィルム像に比べ、画像が劣化している可能性が高い。そこで、入力されたデジタル画像5に対し、ノイズ抑制と高解像度化処理を施し、フィルム像同等に鮮鋭化する(S106)。更にフィルム像同等に改善された画像に対し、溶接部などの背景パターンを除去し、欠陥を顕在化する(S107)。次に欠陥顕在化処理を施した画像について、欠陥の有無を判定し、欠陥があった場合、その寸法や面積、濃淡値、欠陥の種類などを算出する欠陥キャラクタライズ処理を行い(S108)、結果を出力部の画面上に表示する(S109)。
【0024】
図2は、
図1Aで示した放射線透過デジタル画像を用いた検査装置100の入力となるフィルム像1の撮影の一例を示す。21は放射線源、22は被検査試料で、放射線源21は被検査試料22に放射線を照射できる位置に配置されている。23は透過度計で、放射線源21側の被検査試料22表面に置く。24は検査フィルムで、放射線源21とは反対側の被検査試料22表面に配置する。フィルム撮像は放射線源21から放射線を溶接部25を含む被検査試料22と透過度計23に照射し、その透過した放射線で検査フィルム24を感光させて、その透過像を写し込むことにより行われる。このようにして得られたものが
図1のフィルム像1である。放射線透過試験においては、取得したフィルム像が欠陥を検出するために十分な解像度を保持しているかを確認するための指標として、被検査試料22とともに透過度計をフィルムに写し込むことが一般的であるが、
図1Aに示す実施の形態では、透過度計のみの透過像を撮像してもよい。
【0025】
放射線透過試験用透過度計のうち一般的なものはJIS Z 2306−2000「放射線透過試験用透過度計」で規格に定められた針金形透過度計、有孔形透過度計が挙げられるが、これ以外にも様々なパターンを含む透過度計の利用が進みつつある。
図3はその例として、透過度計31と透過度計32とを示す。透過度計31は、様々な幅の線(ライン)がライン幅と同様の間隔でペアで配置されたものであり、ペアのラインの分離性能から解像度を評価する。透過度計32は、様々な径の円形パターンとT字パターンが配置されたものである。
図1Bの例では、これらの透過度計31又は32を被検査試料22とともに撮像したフィルムを入力とするが、本発明では、規格化された透過度計でなくても形状が既知であれば構わない。基本的には、透過度計31又は32の材質、種別は、被検査試料の材質、厚さに基づいて決定する。
【0026】
図1Bに示した放射線透過デジタル画像を用いた検査装置100の処理のフローにおいては、入力値として、更に基準値2を事前に受け付ける。これは、入力されたデジタル画像の品質を等級付けするためのテーブルである。
図4にその一例を示す。41は、2つの評価値1、評価値2の値により、デジタル画像の品質を1〜nに等級分けする際の、基準値テーブルの一例である。例えば、デジタル画像から、事前に決められた2つの評価値1,2を算出し、評価値1≧a1、かつ、評価値2≧b1であれば、その画像の等級を1に、評価値1≧a1、かつ、b1≧評価値2≧b2であれば、等級を2に決定する。これらの基準値テーブル41のデータは、
図1Bに示した画像鮮鋭化処理(S102、S106)にて使用する。
【0027】
画像から算出する評価値の例としては、欧州規格EN14096に規定される空間分解能(MTF値)、欧州規格EN14784に規定されるS/N比などがある。空間分解能(MTF値)の算出方法の一例を
図5に示す。51は算出対象となる透過度計の放射線透過画像であり、ステップ面(輝度値がステップ状に変化する面)をもつ。このステップ面上(52の破線上の画素)で輝度プロファイルを取得する。53は、52上の輝度プロファイルを示すグラフである。54は、(数1)に示す通り、53の各点について、隣接する点の輝度値との差分を求めたグラフである。55は、プロファイル54を(数2)に従い、フーリエ変換して算出した空間分解能(MTF値)を示すグラフである。
【0029】
【数2】
本例では、画像の品質を等級付けるパラメータとして、欧州規格の評価値を示したが、画像の品質を表すものであれば何でもよい。
【0030】
図1Bに示す放射線透過デジタル画像を用いた検査装置100の処理フローにおいては、デジタイザ保証部3において、事前に入力された上記フィルム像1、もしくは、基準値2を用いて、欠陥判定に用いるデジタル画像をフィルム像と同一の画質に復元するため、画像処理パラメータを最適化する。まず、フィルム像1に撮像した透過度計31又は32と同一の透過度計のデジタル画像を、同じ撮像条件で取得する(S101)。放射線透過試験のデジタル画像の取得は、コンピューテッドラジオグラフィ(CR)、フラットパネルイメージセンサ(FPD)、フィルム像を専用のフィルムスキャナで走査するフィルムデジタイジングを含み、これらで取得したデジタル画像はモニタに表示することができる。
【0031】
ここで、放射線強度や放射線照射時間などの撮像条件が同一で、同じ透過度計を撮像した場合、フィルム像に比べ、デジタル画像の画質が劣化する可能性がある。
図6は、フィルムデジタイジングを例に、デジタル化による劣化の一例を示したものである。61は、例として2つの円形パターンを含む透過度計の放射線透過によるフィルム像である。62は、フィルム像61のa−b上の断面輝度波形である。実際には、フィルム像の輝度は数値で表せないため、62はあくまで推定値である。
【0032】
63は、フィルム像61がデジタル化される際の劣化の例を示す。63において、フィルム像61に対し点像広がり関数(PSF)64が畳み込まれること(S601)により、点像のボケが生じ、さらにノイズ65が加算(S602)される。66は、劣化(63)の後のデジタル画像であり、67がその断面輝度波形である。断面輝度波形67の形状が乱れており、デジタル画像66はフィルム像61に比べて解像度が下がっていることを示す。S101で取得するデジタル画像は、デジタル画像66のように劣化した画像である。
【0033】
そこで、本実施例では、S102の画像鮮鋭化処理工程において、
図7Aに示すような画像処理パラメータ算出部701と、ノイズ除去部702と高解像度化処理部703とを備えた鮮鋭化処理部302で、
図7Bに示すように、上記デジタル画像66について、上記劣化モデル(
図6)の逆演算により、フィルム像72を推定する。
【0034】
具体的には、画像処理パラメータ算出部701で後述するような方法で算出した画像処理パラメータを用いて、ノイズ除去部702でデジタル画像66からノイズを除去し(S701)、高解像度化処理部703で、ノイズ除去後の画像71について点像広がり関数(PSF)を推定して逆演算することで高解像度化し(S702)、フィルム像と同等の鮮鋭化された画像72を算出する。
【0035】
図7Bで示したノイズ除去部702で行うノイズ除去処理(S701)の手法の例としては、フーリエ変換を用いた方法、ウェーブレット縮退を用いる方法などがある。本実施例では、ウェーブレット縮退によりノイズ除去を行う。簡単のために、1次元の信号g(t)で説明する。(数3)のように信号g(t)がウェーブレット変換により、スケーリング関数φ(t)とウェーブレット関数ψ(t)で展開される。
【0036】
【数3】
ここで、c(n)とd(j, n)は、それぞれスケーリング係数とウェーブレット係数である。また、j, nは、それぞれ解像度のレベルと整数シフトを表す。
【0037】
結果として、信号成分は、少数の数値が大きいウェーブレット係数で、ノイズ成分は多数の数値が小さいウェーブレット係数で表現される。次に、各ウェーブレット係数d(j, n)に対して、ウェーブレット係数が閾値λ以下の値である場合はノイズとみなして閾値処理を施す。
(数4)、(数5)は、“ Hard thresholding ”と“ Soft thresholding ”である。
【0039】
【数5】
閾値処理を施したウェーブレット係数d '(j, n) = η(d)を用いて逆ウェーブレット変換することで、ノイズが除去された信号g'(t)を得る。信号g(t)から画像g(x, y)へ拡張しても同様である。以上のウェーブレット縮退によりノイズ除去を行う。
【0040】
ここで、ウェーブレット変換として、本実施例では、2重ツリー複素ウェーブレット変換(DTCWT:Dual Tree Complex Wavelet Transformation)を用いる。また、閾値法としては、複素ウェーブレット係数の絶対値に対して、Soft thresholdingを適用する。なお、2重ツリー複素ウェーブレット変換のみならず、離散化ウェーブレット変換(DWT:Discrete Wavelet Transformation)やundecimated DWTなどを用いることもある。しきい値は、(数6)の通りに算出する。
【0041】
【数6】
図7Bの処理フローにおいて、ノイズ除去処理(S701)の後に高解像度化処理部703で行う高解像度化処理(S702)は、ノイズ除去画像71に対し、点像広がり関数(PSF)を推定し、デコンボリューション処理を施すことで、フィルム同等の品質を保持した鮮鋭化画像72を生成する。本実施例では、デコンボリューションの方法として、(数7)(数8)の通り、RL法を適用する。
【0043】
【数8】
ここで、上述のノイズ除去(S701)、高解像度化(S702)の処理を行う上で、(数6)のノイズの標準偏差σ、係数k、(数7)の反復回数i、(数8)のPSFの広がりwは、鮮鋭化画像72の画質を左右する画像処理パラメータであり、画像処理パラメータ算出部701においてこれらのパラメータを最適化したデータを用いてノイズ除去処理(S701)、高解像度化処理(S702)を行う。
【0044】
その処理の一例を、
図8に示した画像鮮鋭化工程:S102の詳細なフローに従って説明する。
図8に示した画像鮮鋭化工程:S102における画像処理パラメータの最適化処理の一例では、入力は、透過度計31又は32のフィルム像1と、S101で取得した同じ透過度計31又は32のデジタル画像81である。まず、デジタル画像81を用いて、2つのパラメータσ、wを算出する。
【0045】
図9はその概要を示す。
図9(a)は透過度計31又は32のデジタル画像81中の透過度計31又は32の角の部分を含む画像であり、輝度の明るい部分が背景、暗い部分が透過度計31又は32である。透過度計31又は32のパターンがない、輝度値が一様な領域(例えば、矩形領域91)で、(数9)の通り、輝度値の標準偏差を算出する(
図8のS801)。そしてこれを(数6)のノイズの標準偏差σとする。
【0046】
【数9】
また、透過度計31又は32の垂直側面のエッジ部(例えば、破線92上)で、(数8)のPSFの広がりwを算出する。すなわち、破線92の輝度プロファイル(
図9の93のグラフ)の微分したもの(
図9の94のグラフ)をガウス関数にフィッティングすることでPSFを推定し、その広がりwを算出する(
図8のS802)。以上のように形状が既知な透過度計31又は32のデジタル画像を用いて、2つの画像処理パラメータを決定する。
【0047】
次に、残りの2つのパラメータk、iを算出する。これは、算出されたσ、w を用い、かつ、k、iの値を適宜与えて(k'、i')上述のS701,S702の通りに鮮鋭化画像を生成する(S803)。ここで、生成された画像と事前に取得してある同一透過度計31又は32のフィルム像がほぼ同じ見え方になっていれば鮮鋭化OK(Y)と判断し、k、iを確定する(S804)。画質がフィルム像よりも劣化している場合(N)は、k'、i'の値を変更し(S805)、S803に戻って、再度鮮鋭化画像を生成する。これをk'、i'の値を特定の範囲で可変にして、鮮鋭化OKとなるまで繰り返す。
【0048】
ここで、鮮鋭化がOKかNGかの判断は、ユーザの目視判定を受け付けることで決定する。すなわち、本実施例では、鮮鋭化画像をモニタに表示し、ユーザの判断を受け付ける。ユーザは、モニタに表示された鮮鋭化画像とフィルム像1を見比べて、その判断を行う。
【0049】
一方、本実施例では、画像処理パラメータ算出部701において行う画像処理パラメータの最適化処理(画像処理パラメータ算出処理(S701))を、ユーザの判断を受け付けずに行うこともできる。
【0050】
その一例を
図10のフローに従って説明する。
図10に示したフローは、
図8に示したフローの画像鮮鋭化工程:S102を、画像鮮鋭化工程:S102´と置き換えたものである。
図10の画像鮮鋭化工程:S102´において、入力は、
図4に示した基準値2と、S101で取得した透過度計31又は32のデジタル画像81である。まず、デジタル画像81を用いて、2つのパラメータσ、wを算出する(S801、S802)。次に、残りの2つのパラメータk、iを算出する。これは、鮮鋭化画像生成工程(S803)において、S801及びS802で算出されたσ、w を用い、かつ、k、iの値を適宜与えて(k'、i')上述のノイズ除去処理(S701),及び高解像度化処理(S702)を行って鮮鋭化画像を生成する。ここまでは
図8で示した処理と同じである。
【0051】
次に、生成された鮮鋭化画像から、
図4で示した基準値テーブル41に定義されている1つ又は複数個の評価値を算出する(S1001)。評価値は、前述のMTF値やS/N比など画質を評価するための値であれば何でもよい。そして算出した評価値について、
図4の基準値テーブル41を参照し、鮮鋭化画像の等級付けを行う(S1002)。ここで、事前に設定した合格レベルの等級に入っていれば等級OK(Y)と判断し、k、iを確定する(S1003)。画質がフィルム像よりも劣化している場合(N)は、k'、i'の値を変更し(S1004)、再度、鮮鋭化画像を生成する。これをk'、i'の値を特定の範囲で可変にして、合格レベルになるまで繰り返す。
【0052】
以上のようにして、取得したデジタル画像が、フィルム像同等の画質になるように、もしくは、高画質になるように画像処理パラメータの最適化を行う。
【0053】
ここで、デジタイザ(図示せず)より得られた画像を用いて放射線透過試験を行う場合、一般的に行われてきたフィルム像による放射線透過試験に対し、その画像が、検査等を行う上で必要な品質を保っているかどうかを定量的に保証する必要がある。本実施例では、次に、最適化されたパラメータによる透過度計31又は32の鮮鋭化画像を用いて、フィルム像に対するデジタル画像の劣化度推定を行う(
図1BのS103)。
【0054】
図11は、本実施例で用いる、フィルム像に対するデジタル画像の劣化度の定量化の概念について示す。1101はフィルム像である。1102は対応するデジタル画像である。1103,1104は、フィルム像1101、デジタル画像1102をそれぞれフーリエ変換(FFT)して得られたパワースペクトル(周波数スペクトル)である。フィルム像1101に対し、デジタル画像1102の解像度が劣化していた場合、デジタル画像は高周波成分が落ちるため、両者のパワースペクトル1103,1104を比較(1105)することで、劣化の定量化が可能となる。しかし、現実には、フィルム像1101に対してデジタル処理をしてパワースペクトル1103を得ることはできない。
【0055】
これに対し、本実施例では、デジタル画像1102を、上述の通りフィルム像と同レベルの画質に鮮鋭化し、それをフィルム像と仮定することで、パワースペクトル1103を得て、当該鮮鋭化画像とデジタル画像とを周波数空間(パワースペクトル)で比較(1105)することにより、フィルム像に対するデジタル画像の相対的な画質劣化度を定量化する。これにより、デジタイザの保証を行う。
【0056】
図12を用いて、
図1Bの劣化度推定処理(S103)の一例を説明する。入力は、放射線透過によるデジタル画像121と画像鮮鋭化処理(S102)により得られた鮮鋭化画像120である。122,123は、120,121の画像をそれぞれフーリエ変換(FFT)処理し(S17,S16)、得られたパワースペクトルである。
【0057】
これら(122,123)に対し、劣化度推定処理(S103)において、差分演算(S1201)で差分(比較値)124を求める。そして、定量化処理(S1202)により、差分(比較値)124から、フィルム像に対するデジタル画像の劣化度125を算出する。なおここで、手法(機能)に応じて、劣化度125は、1つに限らず、2つ以上、算出することができる(2つ以上を算出する場合、区別のため、特徴量と称する)。
【0058】
劣化度125の算出方法の一例として、下記の(数10)の通り、最大周波数の差として求める。
【0059】
【数10】
劣化度125の別の算出方法の例として、下記の(数11)の通り、フィルム像に対する、差の割合の平均値として求めてもよい。
【0060】
【数11】
数10,数11の算出例のいずれかでもよいし、両者を統合して算出してもよい。また別の値を算出してもよい。
【0061】
そして算出した劣化度125が、合格範囲に入るか否かでデジタイザの保証を行う(S104)。
【0062】
このようにして、
図1Aのデジタイザ保証部3にて、デジタイザ(図示せず)により得られる放射線透過画像の品質が保証でき、かつ、画像鮮鋭化に使用するパラメータの最適値が算出された後、順次撮像される被検査試料のデジタル画像5を入力として、欠陥判定部6で欠陥検査を行う。
【0063】
欠陥判定部6に入力される被検査試料の被検査試料のデジタル画像5は、デジタイザの保証がされているとは言え、フィルム像に比べ画質の劣化が生じている可能性が高い。そこで、
図1Bに示したフロー図で、デジタル画像5を入力(S105)した後、デジタイザ保証部で算出した最適パラメータ4(
図8、もしくは
図10に示した手順に従って算出したσ、w、k、i )を使用し、ノイズ抑制と高解像度化処理を施し、フィルム像同等に鮮鋭化する(S106)。
【0064】
図13は、本実施例の欠陥判定部6の鮮鋭化処理部602におけるによる鮮鋭化処理(S106)の一例を示す。鮮鋭化処理部602は、
図7Aで説明したデジタイザ保証部3の鮮鋭化処理部302と同じ構成を有している。具体的には、S105で入力した被検査試料の放射線透過によるデジタル画像131から、デジタイザ保証部3の画像鮮鋭化処理(S102)と同じ方法でノイズを除去する(S1301)。このとき、S102又はS102´で求めた最適パラメータ4のσ、kを使用する。ノイズ除去後の画像132について、デジタイザ保証部3の画像鮮鋭化処理(S102)と同じ方法で高解像度化し(S1302)、フィルム像と同等か、それ以上に鮮鋭化された画像133を生成する。このとき、S102又はS102´で求めた最適パラメータ4のw、iを使用する。
【0065】
本実施例では、鮮鋭化処理(S106)を、入力される被検査試料の画像毎に、より高性能に行うこともできる。
図14は、本実施例の欠陥判定部6におけるによる鮮鋭化処理(S106)の別の例を示す。具体的には、
図13で説明したノイズ除去処理(S1301)、高解像度化処理(S1302)を行ってノイズ除去と鮮鋭化処理を行い、画像133を生成する。次に、S102又はS102´で求めた最適パラメータ4を用いて生成した鮮鋭化画像から、
図4で示した基準値テーブルに定義されている1つ以上の複数個の評価値を算出する(S1401)。そして算出した評価値について、
図4の基準値テーブル41を参照し、鮮鋭化画像の等級付けを行う(S1402)。
【0066】
ここで、事前に設定した合格レベルの等級に入っていれば等級OK(Y)と判断し、k、iを確定する(S1403)。画質がフィルム像よりも劣化している場合(N)は、k、iの値を変更し(S1404)、再度、鮮鋭化画像を生成する。これをk、iの値を特定の範囲で可変にして、合格レベルになるまで繰り返す。
【0067】
本発明では、このように、デジタイザ保証部3で事前に最適化した画像処理パラメータ4を用いて、被検査試料の画像をフィルム像同等に鮮鋭化し、更に画像毎に基準値テーブル41を参照し、より鮮鋭化された画像を作ることも可能である。
【0068】
ここで、放射線透過試験においては、取得したフィルムの像、もしくはデジタル画像の解像度が欠陥を検出するために十分であることを確認するため、被検査試料と一緒に規格化された透過度計を撮像することが多い。本実施例では、このような被検査試料と一緒に撮像される、形状が既知な透過度計を利用してデジタル画像を鮮鋭化することも可能である。
【0069】
その例を
図15に示す。131は入力された被検査試料のデジタル画像、151は、試料と一緒に撮像された透過度計31又は32の画像領域を示す。透過度計31又は32は規格化されたものでも、そうでなくても形状が既知のものであればよい。画像領域151について、上述の通りにウェーブレット縮退によるノイズ除去(
図7(S701))を行い画像領域152を得て、画像領域152について、RL法によるデコンボリューション処理(
図7(S702))を施し、鮮鋭化処理を行い画像領域153を得る。
ここで、
図9の通りに、(数6)のノイズの標準偏差σは透過度計31又は32のパターンがない部分から、(数8)のPSFの広がりwは透過度計31又は32の垂直側面のエッジ部から算出する。(数6)の係数k、(数7)の反復回数iは、
図14の処理例と同様に、基準値テーブル41を参照し、画像領域153から算出する評価値が事前に設定した合格レベルの等級に入るようにk、iを確定する。また、基準値テーブル41を使用しない場合には、透過度計31又は32の形状が既知であることを利用し、画像領域153内の透過度計31又は32のデジタル形状が、理想の形状に近づくようにk、iを確定することもできる。そして、算出したk、iにより、被検査試料のデジタル画像131を鮮鋭化し、被検査試料の鮮鋭化したデジタル画像133を得る。
【0070】
上記のようにしてフィルム像と同等に鮮鋭化したデジタル画像133から、本発明の実施例では、溶接部などの背景パターンを除去し、欠陥を顕在化する(S107)。溶接部の欠陥を検査する場合、溶接部の凹凸の模様の中にある微弱な欠陥パターンを精度よく検出する必要がある。このため、溶接部の凹凸による背景模様と欠陥を分離し、欠陥部を強調することで欠陥を顕在化する。
【0071】
図16にその処理の一例を示す。まず、S106にて生成される鮮鋭化された被検査試料のデジタル画像133について、被検査領域内で特徴量の分布を算出する(S1601)。特徴量は1つ以上の多数であり、各画素の輝度情報、形状情報、配置情報などを表すものであればよい。その一例としては、パターン認識分野で一般的に使われるHOG(Histograms of Oriented Gradients)特徴、Haar-like特徴、EOH(Edge of Orientation Histograms)特徴、HLAC特徴などがある。
【0072】
使用する特徴量を軸とする多次元の特徴空間に、各画素を自身の特徴量に応じてプロットすることで、特徴量分布を生成する(S1602)。そして、特徴空間において分布からのはずれ値を欠陥画素とする(S1603)。これは、溶接部の凹凸による背景模様と、欠陥では特徴が異なるという仮定のもとで行われる。そして、抽出された欠陥画素について、コントラストを強調(例えば、近傍画素との差が大きくなるように輝度値を上げるなど)を行い、欠陥を顕在化する(S1604)。これにより、欠陥顕在化画像161を得る。
【0073】
欠陥顕在化処理の別の例としては、背景模様が特定の周波数成分を持つなどといったモデル化があらかじめできるのであれば、それを利用することも可能である。
図17に処理の一例を示す。まず、S106にて生成される鮮鋭化された被検査試料のデジタル画像133について、背景模様の推定を行い、推定背景画像171を生成する(S1701)。ここでは、背景模様が低周波成分をもつのであれば、低周波な濃度むらを抽出することで背景画像を推定する。そして、鮮鋭化画像133から推定背景画像171を減算することで(S1702)、背景模様を除外し、背景模様に埋没した微小欠陥を顕在化した画像172を得る。
【0074】
次に、上記欠陥顕在化処理(S107)により生成された画像161、もしくは172に対し、欠陥が存在する場合、その寸法や面積、濃淡値、欠陥の種類などを算出する欠陥キャラクタライズ処理を行う(S108)。その一例を
図18に示す。まず、欠陥部の抽出処理を行う。入力は、欠陥顕在化処理(S107)により生成された画像181である。画像181に対し、事前に設定されているしきい値で(数12)の通りに2値化し、欠陥部を抽出する(S1801)。
【0075】
【数12】
更に、画像181を近傍画素の値を使って(数13)の通りにコントラスト画像183を生成し、2値化し、事前に設定されているしきい値で(数14)の通りに2値化し、欠陥部を抽出する(S1802)。
【0077】
【数14】
そして、画像182、184を用いて、欠陥画素を特定する(S1803)。これは2枚の画像の論理和をとる。もしくは論理積をとることで行う。そして、抽出された欠陥画素を矩形で囲み、矩形の長さを計測することで欠陥の寸法を算出する。また、矩形内の欠陥画素に対応する、画像181の輝度平均や輝度最大値を算出することで、欠陥の濃度値を算出する。更に、矩形内の欠陥画素から形状や分布などの特徴を抽出し、欠陥種を特定する。このように、欠陥画素から様々な特徴を抽出することで欠陥を定量的にキャラクタライズする(S1804)。
【0078】
最後にこれらの途中処理の画像、抽出された欠陥、欠陥の特徴などは適宜、モニタに出力される(S109)。ここで、本発明の実施例により出力される結果を用いた検査の形態を説明する。
図19は検査の形態を従来のフィルムによる放射線透過試験(フィルムRT)と比較して示したものである。190はフィルムによる放射線透過試験である。191は放射線透過装置で、被検査試料のフィルム像192を得る。フィルムRTでは、目視検査部193において、フィルム像を検査員(U)が目視確認し、欠陥判定や欠陥の寸法計測などを行う。すなわち目視官能検査である。一方、194はデジタル画像による放射線透過試験(デジタルRT)である。195は放射線透過装置で、被検査試料のデジタル画像193を得る。
【0079】
上述の通り、フィルム像192に比べ、デジタル画像196は画質の劣化が生じている可能性が高い。このため本実施例による鮮鋭化処理197によりフィルム像と同等かそれ以上の高画質化されたデジタル画像198を得る。また、デジタル画像198から欠陥顕在化処理により、欠陥を強調した画像199を得る。194の検査の形態によるデジタルRTにおいては、これらのデジタル画像196、198,199をモニタ出力し、これらのデジタル画像を目視検査部200において、検査員(U)が目視確認し、欠陥判定や欠陥の寸法計測などを行う。すなわち、本発明によるデジタル画像を目視検査の支援に用いる。201は更に検査の自動化が進んだデジタルRTである。195は放射線透過装置で、被検査試料のデジタル画像193を得る。そして、本発明による鮮鋭化処理197によりフィルム像と同等かそれ以上の高画質化されたデジタル画像198を得る。ここまではデジタルRT194と同様である。201の形態によるデジタルRTにおいては、自動検査部202において、デジタル画像198を用いて欠陥判定、欠陥の寸法計測といったキャラクタライズまでを自動で行う。
【0080】
以上に説明した通り、本発明によるデジタルRTの検査形態を実現することで、デジタイザや、デジタイザにより得られたデジタル画像が検査に適した品質を保っていることを定量的に保証できる。また、検査員の技能の違いによる結果のばらつきを低減することが可能となる。また、遠隔検査が可能となり、特に海外でのプラント建設などにおいて、現地に検査員を派遣する必要がなくなる。
【0081】
上記に説明した実施例は本発明の一実施の形態を説明するものであって、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、上記実施例で説明した構成(ステップ)の一部をそれと等価な機能を有するステップ又は手段で置き換えたものも、または、実質的でない機能の一部を省略したものも本発明に含まれる。