特許第5744051号(P5744051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744051
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】電池および電池の作動方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20150611BHJP
   H01M 8/12 20060101ALI20150611BHJP
   H01M 8/06 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   H01M12/08 K
   H01M8/12
   H01M8/06 R
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-542513(P2012-542513)
(86)(22)【出願日】2010年12月7日
(65)【公表番号】特表2013-513910(P2013-513910A)
(43)【公表日】2013年4月22日
(86)【国際出願番号】EP2010069059
(87)【国際公開番号】WO2011070006
(87)【国際公開日】20110616
【審査請求日】2012年10月2日
(31)【優先権主張番号】102009057720.3
(32)【優先日】2009年12月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】ランデス、ハラルト
(72)【発明者】
【氏名】ザンピエリ、アレッサンドロ
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−103033(JP,A)
【文献】 特許第5210450(JP,B2)
【文献】 特表2004−501483(JP,A)
【文献】 特表平11−501448(JP,A)
【文献】 特表2008−537296(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/052283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/08
H01M 8/06
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極(6)と第2電極(10)とを有し、その間に固体電解質(8)が配置されており、前記第1電極にプロセスガスの供給部を有する電池において、
前記第2電極(10)の表面に、前記第2電極(10)に対しては開放され周囲に対しては遮断された貯蔵部が配置されており、
前記貯蔵部は、ガス透過性の酸化可能な物質(16)と、電池の作動温度において気体状の酸化還元対とを含んでおり、
前記第2電極(10)は、その少なくとも1つの導電性材料部分が、前記酸化可能な物質(16;以下、化学式としては「Me」と記述する)よりも大きな電気陰性度を有し、さらに
前記貯蔵部が、支持体(12)内に設けられて前記第2電極(10)に付設されており、かつ
前記貯蔵部内の前記酸化還元対は、水素(H2)及び水(H2O)を基礎としており、前記水素(H2)は、前記水(H2O)と前記酸化可能な物質(16;Me)との間で反応(yH2O+xMe=Mexy+yH2が行われることによって生成され
とを特徴とする電池。
【請求項2】
請求項1記載の電池において、
前記第2電極(10)上に、前記貯蔵部を囲む導電性の支持体(12)が配置されており、
前記支持体(12)は、少なくとも1つのチャンバーであって前記第2電極(10)の表面(13)から遠ざかる方向に縦長に延びるチャンバー(14)を形成していて、その中に前記貯蔵部が設けられており、その貯蔵部には、前記酸化可能な物質(16)が、多孔質の形で満たされている
ことを特徴とする電池。
【請求項3】
請求項1または2記載の電池において、
前記酸化可能な物質(16)が、金属である
ことを特徴とする電池。
【請求項4】
請求項3記載の電池において、
前記酸化可能な物質(16)が、リチウム、マンガン、鉄またはチタン、もしくはそれら金属の合金を基礎としている
ことを特徴とする電池。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の電池において、
前記第2電極(10)の材料が、ニッケル、マンガン、モリブデン、タングステンまたは鉄のうちのいずれかの材料を含む
ことを特徴とする電池。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の電池において、
前記プロセスガスの供給が、前記第1電極(6)に配置されたプロセスガス分配部(4)によって行われる
ことを特徴とする電池。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載の電池において、
前記プロセスガスが、空気である
ことを特徴とする電池。
【請求項8】
請求項2から7のいずれか1つに記載の電池において、
前記支持体(12)が、U字形の断面を有しており、その断面に少なくとも2つの前記チャンバー(14)同士を分ける1つまたは複数の桟橋状部分(20)が延びている
ことを特徴とする電池。
【請求項9】
酸素(O2)を含んだガスが第1電極(6)に供給され、
そのガスに含まれている酸素(O2)が還元されて酸素イオン(O2−)となり、
前記酸素イオン(O2−)は前記第1電極(6)に配置された電解質層(8)を通って第2電極(10)に送られ、
前記第2電極(10)の表面(13)で前記酸素イオン(O2−)が水素(2H2)と反応して、当該電池(2)の作動温度において気体状の反応生成物として水(2H2O)に変換され、その際に複数の電子(2e−)が遊離されて電流の形で導かれ、
前記変換された気体状の反応生成物である水(2H2O)は、チャンバー(14)に送られて、そのチャンバー内(14)に貯蔵されている酸化可能な物質(16)と反応し、その酸化可能な物質(16)を酸化させると共に、水素(2H2)を生成するというプロセスを含んでおり、かつ
前記第2電極(10)は、その少なくとも1つの導電性材料部分が、前記酸化可能な物質(16)よりも大きな電気陰性度を有する材質からなる
ことを特徴とする電池の作動方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、
前記電池(2)の充電過程のために、前記第1電極(6)と前記第2電極(10)との間の電流方向を入れ替えて、酸化還元工程が反対方向に行われるようにし、以て酸化された前記酸化可能な物質(16)を、再び還元する
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブル部分に記載の電池ならびにそのような電池の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン系の再充電可能な電池は、移動通信手段の世界においてますます重要性を増してきた。この場合、特に重要なのは、蓄積可能なエネルギー密度を常に増加させることである。更に増加するエネルギー密度によって、内部短絡の危険、およびその結果生じるエネルギー自然放電が、更に大きくなる。最悪の場合、電池のエネルギー自然放電が火災につながり、それが周囲にかなりの損害を与えることにもなり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、可能な限り高いエネルギー密度を有しながらも、高いプロセス安全性を有する電池を提供することにある。
【発明を解決するための手段】
【0004】
前記の課題は、請求項1による電池、ならびに、請求項12の特徴を有する電池の作動方法によって、達成される。
【0005】
請求項1には、電池の放電過程ではカソードである第1電極と、放電過程ではアノードである第2電極を有し、その間に固体電解質が配置されており、カソード側でプロセスガス供給が行われる電池に関する。本発明は、第2電極の表面に、第2電極に対して開放され周囲に対して遮断された貯蔵部が配置されており、この貯蔵部が多孔性の、つまりガス透過性の、酸化可能な物質ならびに電池の作動温度で気体状の酸化還元対を含んだことを特徴とする電池が、提示されている。周囲に対して遮断されたという概念は、ここでは通常、大気中からの空気の形態をしたプロセスガスの供給とは反対のことを意味していると解される。従って、第2電極は、特に、自由大気から遮断されている。
【0006】
アノードは、酸化反応が行われる電極として理解される。化学反応からの電子が受け取られ、電気接続を介して放出される。電気化学反応は、常に電極とイオン伝導性固体電解質または電解質溶液との間の界面において行われる。従って、電気分解の際には、アノードは正極となる。(電分解は、電気エネルギーを消費する。)
【0007】
ここに記載されている電池のような、電気エネルギーを発生する電気化学素子では、アノードにおいて酸化現象が起きる。つまり、電解質からのアニオン(負電荷イオン)が放電され、中性原子がカチオンになる。ここで、アノードとカソードが接続されて電流回路が形成されると、外部接続を介して電子がカソードに流れ、その外部電流回路内においてアノードは陰極として作用する(この効果は、以下に記載するように、電池あるいは燃料電池の場合に起こる)。
【0008】
(本件に当てはまるような)再充電可能な電池では、電池が充電されるか放電されるかによって、同じ電極が、アノードまたはカソードとして、入れ替わって作用することができる。しかし、あらゆる電極は、その電位の極性は維持されるので、正極は、電池の放電時にはカソードとして機能し、電池の充電時にはアノードとして機能する。負極は、放電時にはアノードとして機能し、充電時にはカソードとして機能する。
【0009】
従って、空気側の電極は、正極であり、酸化可能な物質の側の電極は、負極である。
【0010】
以下に、電池の放電状態について記載するが、別段の言及がない限りは、第1電極とはカソードの概念と同等と見做し、また、第2電極とはアノードの概念と同等と見做すものとする。
【0011】
酸化可能な物質を有する貯蔵部は、本発明の有利な一実施態様では、アノードに取り付けられた支持体によって形成されるチャンバーの中に配置されている。酸化可能な物質は、有利には多孔質な形で存在する。この物質は、電池の放電時に酸素を受け取ることによって容積を増やし、それに起因して酸素イオン伝導性の固体構造体(例えば電解質)から剥離することがあるので、酸素は、好ましくは気体状の酸化還元対の拡散を介して酸化可能な物質に供給される。酸化還元対は、このときアノードで電解質から酸素を受け取ることによって再生する。酸化可能な物質は、より有利には、アノード中の物質よりも貴でない物質であるものが選ばれているので、アノードは、その導電率の損失ならびに機械的な破壊につながる酸化に対して保護される。
【0012】
電池の出力は、カソード側のプロセスガス供給に依存しており、このプロセスガス供給が遮断されると、全ての放電反応が即座に停止するが、これは特に、プロセスガスとしての空気と一緒に窒素クッションがカソード側のガス供給を構成しており、この窒素クッションが、例えば電解質が破壊しても、酸化可能な物質を長い複数の拡散経路によって更なる酸化から守っているからである。本発明の電池は、従って、極めて高いエネルギー密度において、両方の反応物質が蓄積されて存在する従来の再充電可能な電池よりも明らかに高い安全性を有する。
【0013】
本発明の有利な一実施態様では、アノード材料を、電気伝導性およびイオン伝導性を同時に有するものとし、両伝導性型を、単一の相あるいは複数の相に存在するものとすることができる。ここで、電気伝導性材料とは、金属のように、電子の流れによる導電性を示す材料であると理解される。他方、電解質による伝導性材料とは、純粋なイオン輸送による伝導性を有する。
【0014】
さらに、アノード材料を金属セラミック複合材料の形、特に、いわゆるサーメットの形にすると有効であることが判明した。金属セラミック複合材料を使うことにより、導電性金属を、例えばドープされた金属酸化物のような電解質の伝導性材料と接続することができる。しかし、一相系は、両方の伝導性型に対して全体の容量が使用できるので、それにより抵抗が減少する、という利点を有する。
【0015】
さらに同様に、アノードの導電性材料が貯蔵部内や支持体のチャンバー内の酸化可能な物質よりも大きな電気陰性度を有している(もしくは、酸素分圧がより高くなったときに初めて酸化される)ことが有効であると判明した。支持体のチャンバー内の酸化可能な物質は、プロセスガスを化学的に蓄積し、気体状で輸送された酸化還元対によって酸化される。この物質が、アノードの導電性材料よりも小さい電気陰性度を有しているならば、このプロセスは化学的にさらに簡単に行うことができ、アノード材料が不本意に酸化還元反応に引き込まれるということがなくなる。これに関連して、チャンバーの酸化される材料が金属であることも有効である。
【0016】
本発明の別の一実施態様では、アノードの電子伝導性材料はニッケル、マンガン、モリブデン、タングステンあるいは鉄のような金属を含む。ここでさらに有利には、すでに言及したように、アノード金属や酸化可能な物質の対の組合せを選ぶ際に、アノード金属が、酸化される物質よりも高い電気陰性度を有するように注意する必要がある。
【0017】
これに関連して、チャンバー内の酸化可能な物質が金属であることも有効である。この場合、金属が、リチウム、マンガン、鉄あるいはチタン、もしくはこれら複数の金属の合金であることが有効であると実証された。
【0018】
電池の作動温度、特に好ましくは600℃から800℃の間では、好適な一実施態様における酸化還元対は、水素と水蒸気とからなっている。この場合、さらなる過程において、チャンバー内で、(気体状の)水と酸化可能な物質との間で反応が起こる。ここで酸化可能な物質は、水によって酸化され、その際、通常は金属酸化物と水素が生じる。
【0019】
本発明の一実施態様では、通常は空気であるプロセスガスを好適な方法で均一にカソードに分配するプロセスガス分配部が、電池の正極側に配置されている。
【0020】
本発明の他の好適な一実施態様では、支持体は、U字形の断面を有しており、その断面には、必要に応じて、穿孔を有する複数の桟橋状部分が延びているので、一方で、アノードに向かって貫通する、酸化還元対のガス輸送を可能にする複数の空隙が生じ、他方で、それらの桟橋状部分は、隣接する電池のカソードに電流を移送するべくアノードに電子的に接触する。複数の空隙(これは複数の細孔として構成されていてもよい)では、酸化可能な物質、すなわち有利には金属であるリチウム、マンガン、鉄、チタンのうちの1つは、有利には、表面に多く存在する形で貯蔵されていてもよい。
【0021】
前記のチャンバーは、有利な一実施態様では、アノードに向かって開放されているので、酸化還元対の電流は、可能な限り、妨げられることなしに、酸化可能な物質を有するチャンバーに到達することができる。
【0022】
本発明の別の要素は、電池の作動方法であり、この場合、電気陰性ガスは、放電過程でカソードである第1電極に送られ、カソードとそれに隣接する電解質層との界面(正確には、ガスとイオン伝導体と電子伝導体との三相界面)にて複数の負イオンに変換され、この形のまま電解質層を通って、アノード(第2電極)に移動する。電解質とアノードとの界面(もしくはガスとイオン伝導体と電子伝導体との三相界面)で、前記の複数の負イオンが、気体状の酸化還元対の還元性物質によって酸化性物質に変換される。遊離した複数の電子は、電流の形でアノードに誘導される。気体状の酸化性反応生成物は、前記の支持体12の複数の空隙内に拡散し、そこに含まれている酸化可能な物質と反応する。
【0023】
この記載の方法によれば、比較的高いエネルギー密度の電池が実現できる。というのは、気体状の生成物によって、プロセスガスをその最終的な酸化物質に誘導することができるので、酸化可能な固体材料からなり貯蔵部を比較的大容量に形成することのできる貯蔵部が設けられているからである。アノード自体は、前述のとおり、酸化可能な物質がアノードよりも小さい電気陰性度を有している(つまりアノードが高い電気陰性度を有している)ため、この反応からは大幅に除外されているので、この場合は消費されない。さらに、この記載の方法は、プロセスガス流が遮断された場合でも、電池の自然放電がすぐに起こることはないので、高いプロセス安全性を有する。
【0024】
本発明の別の一実施態様では、プロセスガスは酸素であり、これがアノード表面で、反応物質である水素と反応して、水を生じる。このとき、水は、電池のプロセス温度では気体状の蒸気として存在し、前記の酸化可能な物質、つまり有利には金属へと送られ、その金属は、電池のプロセス温度で酸化されて金属酸化物となり、その反応の際に分子状の水素が生じ、その水素が再びアノードに戻り、そこで新たにプロセスガスであるイオン状の酸素と反応して、水を生じる。
【0025】
しかし、基本的には、他の酸化還元対、例えば下記の化学式
X+O2→XO2
に従って反応する金属系の酸化還元対も、本発明の方法にとって有効である。
【0026】
さらに前記の電池の作動方法は、アノードとカソードの分極が電池の充電過程で入れ替わり酸化還元工程が反対方向に起こり、酸化された物質が再び還元される、再充電可能な電池に、好適に利用可能である。
【0027】
本発明のさらに好適な実施の形態を、次の図に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】 固体電解質を有する再充電可能な電池を示す概略図である。
図2】 固体電解質と酸化可能な物質の貯蔵部とを有する電池を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、酸化物イオン輸送を含む再充電可能な、いわゆる充電式酸化物イオン電池(ROB)である、電池1の概略を示しており、ここに記載の電池は、この原理に基づくものである。
【0030】
この電池は、放電過程でカソードを形成する電極を含み、このカソードに、いわゆるプロセスガスである連続した空気流が供給される。さらに、この電池は、電池の放電過程ではアノード10となる別の電極を含み、その電極は、固体電解質によってカソードと分離されており、アノード10とカソード6との間酸素(O2-)のイオン輸送が行われる。
【0031】
その酸素イオンの流れは、放電過程ではカソード(プロセスガス電極)からアノード10(酸化還元対を介して酸化可能な金属と結合している)に向かって行われ、充電過程では反対の方向に行われるが、これらの電極の極性は維持される。この電池の作動温度は500℃から800℃の間、特に約600℃である。この温度は特に固体電解質中のイオン輸送に有効である。
【0032】
このような電池の一実施態様が図2に詳しく説明されている。図2は、ガス分配部4を有する電池2を示し、ガス分配部4は複数のガイドリブ7を有し、これらのガイドリブ7の間には複数のガス通路5が存在する。プロセスガスはこれらのガス通路5を通して送られ、カソード6(第1電極)に導かれる。カソード6では、例えば空気中の酸素であるプロセスガスは、O2-イオンに還元され、固体電解質8を通ってイオン伝導によりアノード10(第2電極)に導かれる。前記固体電解質は、好適な方法では、例えばスカンジウムのような金属によってドープされた、例えば酸化ジルコニウムや酸化セリウムのような金属酸化物からなっている。ドープ材は、例えばO2-のようなイオン性ガスを輸送するために固体電解質中に複数の酸素空孔を生成させる。
【0033】
アノード10では表面に、有利には気体状の、還元剤が存在し、この還元剤は特に分子状水素(H2)として存在してもよく、この水素とイオン性酸素O2-が以下の式にしたがって反応し、水(2になる:
2+O2- → H2O+2e− (式1)
【0034】
このとき遊離される複数の電子は、(例えば貴金属からなる)導電性の支持体12、および双極板(カソード6と固体電解質8とアノード10とからその主要部が構成される)を介して、隣接のセルに流出する。セルの放電の際にアノード10で余った電子は、カソードでの電子の不足と対になって、電池の外部回路の電流となる。
【0035】
ガス分配部4は、複数のガイドリブ7間に配置された複数のガス通路5と一緒に約1mmのオーダーの全体高さを有する。ガス分配部4に載置されたカソードは約100μmのオーダーの厚さを有する。カソードは例えばペロフスカイト、例えばLaSrMnO4、からなるものとすることができる。カソード6の上には固体電解質8が載置され、この固体電解質は通常は30μmから50μm、好ましくは40μmの層厚さを有している。この固体電解質は、既述のとおり、有利には金属でドープされた金属酸化物からなるものとすることができる。固体電解質8の上には、40μmから60μm、好ましくは50μmの層厚さを有するアノード10が続く。このアノード10は好ましくは金属セラミック複合材料、いわゆるサーメットから形成されている。アノード10はこの場合、電子導電性を保証する金属相を有している。アノード10の金属相に好適な金属はリチウム、マンガン、鉄、チタンあるいはニッケルである。それに加えて、アノード10は場合により金属酸化物の形のイオン伝導相を有しており、これは例えば酸化ジルコニウムの形に形成することができる。
【0036】
従来技術による慣用の固体電池では、固体電解質を介して同様に酸素(O2-)のようなイオン化ガスを輸送するが、負電荷を有する酸素によってアノード10の材料を酸化物にする反応が行われ、このときアノード10の材料酸化される。これにより、アノード材料は消費(酸化)される。導電性のアノード材料が消費されると、電池は放電する。しかし、本発明の電池では、アノード表面で酸素イオンの反応物質を使用することができ、その反応物質は水素の形で存在する。既に述べたように、酸素が複数の電子を放出しながらこの水素と反応し、このときアノード表面ではH2とH2Oが平衡している。これが、燃料電池の、この作動温度で気体状として存在する、酸化還元対である。
【0037】
アノード10の表面13には支持体12が載置されており、この支持体12は場合により穿孔を有する複数の桟橋状部分20を有しており、これが複数のチャンバー1を互いに分離している(図2の拡大図も参照)。これらのチャンバー1は、有利には金属元素の形をした酸化可能な物質16で満たされている。この金属元素は有利にはリチウム、マンガン、鉄あるいはチタンの群からなっており、粉体または多孔性圧縮成形体として存在する。気相中で前記酸素のための担体材料として使用される酸化還元対H2/H2Oは、チャンバー14(空隙)を通って、酸化可能な物質16中へその多孔質により拡散し(矢印18参照)、以下の式に従って酸化可能な物質16と反応する:
yH2O+xMe→Mexy+yH2 (式2)
式中、Meは金属を表す。金属Meは、有利にはアノード10に電子伝導相を形成する金属よりも小さい電気陰性度を有しているべきである。その場合には、イオン化した酸素がH2と反応しそれから生じたH2Oがさらに酸化可能な物質16を構成している属と反応する傾向が、アノード金属と反応する傾向よりも高くなるので、それによりアノード材料が酸化から守られる。
【0038】
この反応の際に生じる分子状の水素H2は、再びアノード10まで戻り、新たにアノード10において、そこで生じるイオン性酸素O2-と反応する。
【0039】
ここに記載した酸化還元対H2/H2Oは、有利な酸化還元対であるが、約600℃の電池の作動温度で気体状または状況により十分な濃度の液体状である複数の成分を有する他の酸化還元対と交換することもできる。条件は、酸化された部分が、前記のH2Oと同様に、チャンバー14内に存在する酸化可能な物質16(例えばMnFe)と酸化反応することである。
【0040】
最も有利なプロセスガスは、空気もしくはそこに含まれる気中酸素なので、酸化還元対は、以下の反応式で生成される。
nX+m/2O2→Xnm (式3)
式中、Xは別の適した化学元素であってよい。この化学式は以下の性質を満たす:
【0041】
【数1】
(式4)
【0042】
すなわち、この反応の際に放出される(酸化還元対X:XO2の反応の)ギブスの自由エンタルピーが、ほぼ前記の金属と式2の金属Meの酸化によって生じる金属酸化物との間の反応のギブスの自由エンタルピーに相当する。
【0043】
2.分圧pXおよび分圧pXnOmは、約0.04A/cm2の範囲の電流密度を得るために十分大きいものでなくてはならない。従って、酸化還元対H2/H2Oの場合、気体運動論的理由により、負極の電位のときにより少ない圧力で平衡している複数の成分が少なくとも10-8バールに達しなくてはならない。これにより、例えばマンガン電極では、600℃(1,25V)で少なくともpH2O=10-8バールおよびpH2=10-5バールになる。これに応じて、分圧を以下のように選択することも有利である:pH2=1バールおよびpH2O=10-3バール。
【0044】
前記の酸化還元系H2/H2Oの代わりとして、例えば複数の金属蒸気およびその揮発性の複数の酸化物(例えばCO/CO2)、複数の水酸化物または複数の水素化物が考えられる。
【0045】
このような電池構造の利点は、高い電流密度を達成することができるという点にある。さらに、反応の進行は、流入するプロセスガスに依存している。プロセスガスの流れが遮断されると、電池はもはや電流を生成することができず、非制御の発熱を伴う非制御の放電は生じなくなり、さらに火災にまでつながることがなくなる。
【0046】
電池2の構造は、特にスタック構造に適している。これは、図2に示唆されているが、支持体12の上部にまた別のガス分配部4’を配置しており、これが別のセルの下部部分を成している。セルの基底面は、例えば150mm×150mmとすることができる。
【0047】
作動温度が、およそ600℃であるので、電池2全体は断熱され、ケースに入れられて配置される。プロセスガス入口側に向かってプロセスガス中で一緒に送られた熱を熱交換器によって回収する際に、電池2全体の断熱がうまく行われるときの容積対表面比が十分大きい場合には、電池の内部抵抗によって必然的に発生する出力損失のみによって、作動温度を維持することができる。場合によっては、緩慢に冷え切っていくことを防止するために、無負荷の運転においては、小さい電流を維持しなくてはならない。
【0048】
以上記載た電池は、特に連続運転における定置型電力貯蔵装置に適している。また、この電池は、例えば風力タービンや他の再生可能なエネルギー源がエネルギーを生産するときに生じる、電力網では必要とされない、余剰な電力網エネルギーを受容するために使用することもできる。従って、再生可能なエネルギー源からの余剰なエネルギーを、このような電池に供給することができる。
【0049】
このような電池2にエネルギーを供給するために、つまり電池2を充電するためには、第1電極と第2電極の間の電流方向を反転させ、第1電極をアノードに、第2電極をカソードにする。これにより、支持体12の範囲もしくはこの場合に酸化されたMemnの物質(式2参照)の範囲に複数の電子が導入され、MemnがMeに還元される。第2電極10を介して電解質8によってイオン性酸素O2-の輸送が第1電極6の方向に行われれば、前記の全反応工程を、反対方向に行うことができる。その際、複数の酸素イオンが、再び負電荷を放出し、酸素ガスとして第1電極(ここではアノード)から離れてガス分配部4へと向か
【符号の説明】
【0050】
2 電池
4 ガス分配部
6 第1電極(放電時のカソード)
8 固体電解質
10 第2電極
12 支持体
13 第2電極の表面(放電時のアノード)
14 チャンバー
16 酸化可能な物質
20 桟橋状部分
図1
図2