(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
<発明の態様>
本発明の一態様にかかる有機EL素子の製造方法は、基板と、陰極と、複数の有機層と、陽極とを備え、基板側から、陰極、複数の有機層、陽極の順序で積層されている有機EL素子の製造方法であって、有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物を含む第一の有機層を形成する第1工程と、第一の有機層上に、有機材料及び非極性溶媒を含む液を塗布する湿式法によって第二の有機層を積層する第2工程とを備える。
【0029】
この有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物は、非極性溶媒に対して不溶性であるので、第2工程で、非極性溶媒を用いた湿式法によって第二の有機層が積層されるときに、第一の有機層が溶解することがない。従って、有機層同士の積層構造を安定的に形成することができる。また、ポリマー化合物に含まれる有機ホスフィンオキシド骨格によって、電子輸送性も有する。
【0030】
また、本発明の一態様にかかる有機EL素子は、基板と、陰極と、複数の有機層と、陽極とを備え、基板側から、陰極、複数の有機層、陽極の順序で積層されている有機EL素子であって、複数の有機層は、有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物を含む第一の有機層と、第一の有機層の陽極側に有機材料が積層されてなる第二の有機層とを備え、上記有機EL素子の製造方法と同様の効果を奏する。
【0031】
上記の有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物において、ポリマー化合物の重量平均分子量Mwは2000以上であることが、非極性溶媒に対して十分な不溶性を持つ上で好ましい。また、このポリマー化合物を湿式法で塗布して第一の有機層を形成することを考慮すると、ポリマー化合物の重量平均分子量Mwは100万以下であることが好ましい。これ以上の分子量になると、ポリマー化合物の溶解性が低くなりすぎて、溶媒に溶解させることが困難になる。
【0032】
有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物としては、以下の一般構造式で表わされるような構造のものが好ましい。
【0033】
【化7】
ここで式(1)において、Ar1及びAr2は、相互に同一又は異なっても良い1価の芳香族残基であり、Ar3及びAr4は、相互に同一であっても異なっていてもよい2価の芳香族残基である。nは2から2000の自然数である。
【0034】
なお、芳香族残基は、単純芳香環構造であるフェニル基をはじめとして、ナフチル基などの多環芳香環構造あるいは複素環構造であってもよい。
【0035】
【化8】
ここで式(2)において、Ar1,Ar2は、相互に同一であっても異なっていてもよい芳香族残基であり、R1,R2は、相互に同一であっても異なっていてもよい脂肪族置換基である。nは2から2000の自然数である。
【0036】
【化9】
ここで式(3)において、nは2から2000の自然数である。
【0037】
上記構造式(1),(2)に含まれるAr1〜Ar4ついて、さらに詳述する。
【0038】
Ar1及びAr2は、1価の「芳香族残基」であり、互いに同一でもよいし、異なっていても良い。ベンゼン環、チオフェン環、トリアジン環、フラン環、ピラジン環、ピリジン環などの単環式の芳香族残基および複素環、ナフタレン環、アントラセン環、チエノ[3,2−b]チオフェン環、フェナントレン環、フルオレン環、フロ[3,2−b]フラン環などの縮合多環式の芳香族残基および複素環、ビフェニル環、ターフェニル環、ビチオフェン環、ビフラン環などの環集合式の芳香族残基および複素環、アクリジン環、イソキノリン環、インドール環、カルバゾール環、カルボリン環、キノリン環、ジベンゾフラン環、シンノリン環、チオナフテン環、1,10−フェナントロリン環、フェノチアジン環、プリン環、ベンゾフラン環、シロール環などの芳香族残基と複素環との組み合わせからなるものが挙げられる。また、これらの芳香族残基の水素原子の1つまたは複数は、アルキル基、ジアリールホスフィノイル基、上述の芳香族残基で置換されても良い。
【0039】
Ar3及びAr4は、2価の「芳香族残基」であり、アリーレン基、アルケニレン基、アルキニレン基または2価の複素環基を表す。
【0040】
アリーレン基は、炭素数が通常6〜60、好ましくは6〜20であり、フェニレン基(下記化10において番号1〜3を付けた基)、ナフタレンジイル基(下記化10において番号4〜13を付けた基)、アントラセニレン基(下記化10において番号14〜19を付けた基)、ビフェニレン基(下記化10において番号20〜23を付けた基)、トリフェニレン基(下記化10において番号24〜26を付けた基)、縮合環化合物基(下記化10において番号27〜33を付けた基)などが例示される。また、これらのアリーレン基の水素原子の1つまたは複数は、アルキル基、ジアリールホスフィノイル基、上述の1価の芳香族残基で置換されても良い。ただし、アリーレン基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0041】
【化10】
2価の複素環基とは、複素環化合物から水素原子2個を除いた残りの原子団をいい、炭素数は、通常2〜60、好ましくは4〜20である。ここで複素環化合物とは、環式構造をもつ有機化合物のうち、環を構成する元素が炭素原子だけでなく、酸素、硫黄、窒素、リン、ホウ素などのヘテロ原子を環内に含むものをいう。以下に2価の複素環基を例示する。また、これらのアリーレン基の水素原子の1つまたは複数は、アルキル基、ジアリールホスフィノイル基、上述の1価の芳香族残基で置換されても良い。ただし、2価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0042】
ヘテロ原子として、窒素を含む2価の複素環基;ピリジンージイル基(下記化11において番号34〜39を付けた基)、ジアザフェニレン基(下記化11において番号40〜43を付けた基)、キノリンジイル基(下記化11において番号44〜58を付けた基)、キノキサリンジイル基(下記化11において番号59〜63を付けた基)、アクリジンジイル基(下記化11において番号64〜67を付けた基)、ビピリジルジイル基(下記化11において番号68〜70を付けた基)、フェナントロリンジイル基(下記化11において番号71〜73を付けた基)、など。
【0043】
ヘテロ原子として、けい素、窒素、硫黄、セレン、リン原子などを含みフルオレン構造を有する基(下記化11において番号74〜91を付けた基)。また、窒素原子を含むカルバゾール基(下記化11において番号77〜79を付けた基)やトリフェニルアミンジイル基などの芳香族アミンモノマーを有していることが発光効率の点で望ましい。
【0044】
ヘテロ原子として、けい素、窒素、硫黄、セレン、リン原子などを含む5員環複素環基:(下記化12において番号92〜96を付けた基)が挙げられる。
【0045】
ヘテロ原子として、けい素、窒素、硫黄、セレンなどを含む5員環縮合複素環基:(下記化12において番号97〜108を付けた基)、ベンゾチアジアゾール-4,7-ジイル基やベンゾオキサジアゾール-4,7-ジイル基などが挙げられる。
【0046】
ヘテロ原子として、けい素、窒素、硫黄、セレンなどを含む5員環複素環基でそのヘテロ原子のα位で結合し2量体やオリゴマーになっている基:(下記化12において番号109〜117を付けた基)が挙げられる。
【0047】
ヘテロ原子として、けい素、窒素、硫黄、セレンなどを含む5員環複素環基でそのヘテロ原子のα位でフェニル基に結合している基:(下記化12において番号111〜117を付けた基)が挙げられる。
【0049】
【化12】
上記化11、12において、式中のR',R’’,R’’’は、それぞれ独立にアルキル基、アリール基または1価の複素環基を表す。このうちアリール基及び複素環基は、アルキル基、ジアリールホスフィノイル基、上述の1価の芳香族残基で置換されても良い。
【0050】
上記態様の有機EL素子の製造方法において、第一の有機層を形成する方法として、湿式法を用いることが好ましい。
【0051】
第二の有機層を湿式法で形成するのに用いる非極性溶媒としては、ベンゼン環を有する芳香族系の溶媒、あるいはアルキルまたはアルケンを含む脂肪族系の溶媒が好ましい。
【0052】
第二の有機層を湿式法で形成するのに、インクジェット法を用いることが好ましい。
【0053】
第二の有機層を形成する有機材料としては、高分子系材料を用いることが好ましい。
【0054】
上記態様の有機EL素子の製造方法及び有機EL素子において、第二の有機層は、発光層であってよいし、電子輸送層または正孔阻止層であってもよい。
【0055】
第二の有機層が発光層で、その上に、第三の有機層を積層する第三工程を有し、この第三の有機層が芳香族アミン系化合物を含むことも好ましい。この場合、第三の有機層に含まれる芳香族アミン系化合物が、正孔輸送材料として機能する。
【0056】
上記態様の有機EL素子はインバーテッド構造であるため、基板が、TFT基板である場合、n型TFT2個とキャパシタ1個の簡易な画素回路で有機EL素子の駆動回路を実現できる。
【0057】
上記態様の有機EL素子の製造方法及び有機EL素子において、第一の有機層には、有機ホスフィンオキシド化合物に加えて、アルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいは希土類金属を含んでいてもよい。
【0058】
この場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいは希土類金属が、有機金属錯体の形状で第一の有機層の中に混合されていることが好ましい。
【0059】
上記態様の有機EL素子の製造方法及び有機EL素子において、第一の層は、電子注入層あるいは電子輸送層であってもよい。
【0060】
第二の層は、発光層であってもよいし、電子輸送層あるいは正孔阻止層であってもよい。
【0061】
<実施の形態>
(表示パネル100の構成)
図1は、実施の形態に係るインバーテッド構造の有機EL素子を模式的に示す断面図であって、有機EL素子の1つを基板に垂直に切断した断面(
図2におけるX方向に沿って切断した断面)を示している。
【0062】
図1に示すように、基板101の表面上に、陰極102、電子注入層104、発光層105、正孔輸送層106、正孔注入層107、陽極108が、順に形成されて有機EL素子110が構成されている。この有機EL素子110はボトムエミッション型であって、発光層105で発した光を下方に取り出すようになっている。
【0063】
基板101は、単なるガラス基板、シリコン基板あるいはサファイア基板であってもよいし、金属配線が形成された基板であってもよいが、ここでは基板101は、トランジスタアレイが形成された上に平坦化膜が形成されたTFT基板とし、この基板101上に有機EL素子がマトリックス状に配列されて表示パネル100が形成され、アクティブマトリクス方式で駆動できるようになっている。
【0064】
図2は、基板101上に有機EL素子110が配列されてなる表示パネル100の一部分を示す平面図である。当図において、有機EL素子110a〜110cは、RGB3色のサブピクセルに相当する。この
図3に示されるように、表示パネル100において、有機EL素子110からなるサブピクセルが縦横方向(X−Y方向)にマトリック状に配列され、隣接するRGB3色のサブピクセルによって一画素が形成され、隣接する有機EL素子110a,110b,110c同士はバンク103で区画されている。
【0065】
図3は、表示パネル100を用いた表示装置200の構成を示す図である。
【0066】
表示装置200は、表示パネル100と、これに接続された駆動制御部120とから構成されている。駆動制御部120は、4つの駆動回路121〜124と制御回路125とから構成されている。
【0067】
図4は、表示装置200を用いたテレビシステムの一例を示す外観形状である。
【0068】
(有機EL素子110の構成)
以下、有機EL素子110の構成を
図1に基づいて詳細に説明する。
【0069】
基板101は、ガラス基板の主面上に、TFT及びライン配線、平坦化膜が順に形成されて構成されている。
【0070】
大型のパネルでは、TFTとして微結晶シリコンからなるμc-SiTFTを形成することが好ましい。
【0071】
μc-SiTFTは、低温ポリシリコンからなるTFTと比べて、基板面内の閾値電圧のバラツキが少なく、アモルファスシリコンからなるTFTと比べて、DC印加における閾値電圧が安定である。また、基板101に形成するTFTをnチャネルTFTとすることによって、PチャネルTFTと比べて優れたスイッチング特性が得られる。
【0072】
平坦化膜は、絶縁性に優れる有機材料、例えばポリイミド、ポリアミド、アクリル系樹脂材料からなり、配列されたTFTを全体的に被覆している。そして、この平坦化膜には配線のためのビアが形成されている。
【0073】
基板101の表面上には陰極102が積層されている。この陰極102は、基板101の平坦化膜上において、各サブピクセルに相当する領域に矩形状に形成され、いずれのサブピクセルの陰極102もサイズは同等である。
【0074】
また、この陰極102は、上記平坦化膜に形成されたビアによって、TFTに接続されている。
【0075】
陰極102を形成する材料は、特に限定はされないが、金属、導電性酸化物、導電性高分子を用いることが好ましい。
【0076】
金属の例としては、アルミニウム、銀、モリブデン、タングステン、チタン、クロム、ニッケル、亜鉛およびそれらのいずれかを含む合金を挙げることができる。
【0077】
導電性酸化物の例としては、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、亜鉛酸化物などを挙げることができる。
【0078】
導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリチオフェンおよびそれらを酸性あるいは塩基性の物質と混合したものを挙げることができる。
【0079】
そして、隣接する陰極102どうしの隙間に沿ってバンク103が形成されている。
【0080】
バンク103は、
図2でY方向に延設されたバンク要素103aと、X方向に延設されたバンク要素103bとからなり、上記のように隣接するサブピクセル同士を区画している。各バンク103の断面形状は略台形状であって、そのバンク幅は均一である。
【0081】
このバンク103は、絶縁性の有機材料(例えばアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等)で形成され、表面が撥水性を持っている。
【0082】
そして、バンク103で仕切られた凹部には、陰極102の上に、電子注入層104、発光層105が順に形成され、バンク103で囲まれたサブピクセルのサイズも均等である。
【0083】
電子注入層104の材料は、有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物であり、その詳細は後述する。
【0084】
発光層105は、青色の光を発光する発光層105a、緑色の光を発光する発光層105b、赤色の光を発光する発光層105cが横方向(
図2でX方向)に並ぶように形成されている。
【0085】
発光層105の材料としては、高分子系材料、例えば、π共役高分子系材料あるいは低分子色素含有高分子系材料を用いることが好ましい。ただし、発光層105の材料は、非極性溶媒に溶解する材料であれば、低分子系材料であってもよい。
【0086】
高分子系材料の代表的なものとして、ポリフェニレンビニレン(PPV(poly(phenylene vinylene))誘導体、あるいはポリフルオレン誘導体が挙げられる。
【0087】
このように、高分子系の発光材料を用いることによって、印刷技術で発光層105を形成することができるので、大量に安価に大型の表示パネルを生産するのに適している。
【0088】
なお、陰極102、電子注入層104は、3色の有機EL素子で共通の材料が用いられているが、発光層105は、3色の有機EL素子110で別々に、青色,緑色,赤色を発光する発光材料で形成されている。
【0089】
そして、発光層105及びバンク103を覆うように正孔輸送層106、正孔注入層107、陽極108が形成されて、有機EL素子が構成されている。正孔輸送層106、正孔注入層107、陽極108は、基板101上に配列されるすべての有機EL素子110に共通する層である。
【0090】
正孔輸送層106は、トリフェニルアミン誘導体をはじめとする芳香族アミンなど、正孔輸送材料を成膜することによって形成できる。
【0091】
正孔注入層107は、酸化モリブデンや酸化タングステン等の金属酸化物材料を、真空蒸着法などで薄膜形成することができる。
【0092】
陽極108は、すべての有機EL素子110に共通する共通電極である。陽極108の材料は、特に限定されないが、金属、導電性酸化物を用いることが好ましい。
【0093】
金属の例としては、例えばアルミニウム、銀合金、モリブデン、タングステン、チタン、クロム、ニッケル、亜鉛およびその合金を用いることができる。
【0094】
導電性酸化物の例としては、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、亜鉛酸化物などを用いることができる。
【0095】
陽極108の上に、封止層を設けてもよい。この封止層は、例えばSiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の材料で形成される。
【0096】
(電子注入層104についての詳細)
電子注入層104は、有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物を主体として形成する。後で詳述するように、この有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物は、ホスフィンオキシドに3つのアリール基が結合された構造を有し、その電子受容性によって電子輸送性も優れるので、電子注入層104の材料として適した特性を有している。また、それに加えて、ポリマー化合物であるため、低分子系化合物と比べると非極性溶媒に対して溶解しにくい。ここで、この有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物において、重量平均分子量は、2000以上に設定されていることが、非極性溶媒に対する非溶解性を得る上で好ましい。
【0097】
また、この有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物を、湿式法で塗布する場合、極性溶媒に溶解して塗布するが、重量平均分子量が大きくなると、極性溶媒にも溶解しにくくなるので、その重量平均分子量は100万以下であることが好ましい。
【0098】
以下に、電子注入層104を構成する有機ホスフィンオキシド化合物として、好ましい化学構造を挙げる。
【0099】
【化13】
ここで式(1)において、Ar1及びAr2は、相互に同一又は異なっても良い1価の芳香族残基であり、Ar3及びAr4は、相互に同一であっても異なっていてもよい2価の芳香族残基である。nは2から2000の自然数である。
【0100】
【化14】
ここで式(2)において、Ar1,Ar2は、相互に同一であっても異なっていてもよい芳香族残基であり、R1,R2は、相互に同一であっても異なっていてもよい脂肪族置換基である。nは2から2000の自然数である。
【0101】
【化15】
ここで式(3)において、nは2から2000の自然数である。
【0102】
電子注入層104は、このような有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物を主体として形成されるが、これに、アルカリ金属、アルカリ土類金属あるいは希土類金属を含ませてもよく、それによって、電子注入性を向上させることができる。
【0103】
電子注入性が改善されるメカニズムとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属が、電子供与性であるため、電子受容性である有機ホスフィンオキシド化合物に電子を与え、化合物にラジカルアニオン状態を形成する。そして、このラジカルアニオン種は、可動な電子として振る舞い、電子注入層104の電導度が改善される。
【0104】
電子注入層104に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいは希土類金属を含ませる形態としては、これらの金属を、有機金属錯体の形状で混合させることが好ましい。これは、金属の形態のまま混入させると、溶媒に分散しにくく、金属が酸化しやすいが、有機金属錯体の形状で混入させることによって、溶媒に分散しやすく、金属の酸化を防ぐことができるからである。
【0105】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、あるいはそれらの金属錯体を混合する比率は、有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物に対して、重量比で1%〜90%とすることが好ましく、さらに5%〜30%の範囲とすることが好ましい。
【0106】
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが好ましい。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが好ましい。希土類金属としては、ランタン、セリウム、エルビウム、ユーロピウム、スカンジウム、イットリウム、イットリビウムが好ましい。
【0107】
金属錯体の配位子の種類は、特に限定されないが、好ましい例としてアセチルアセトン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン(TMHD)、ジピバロイルメタン、ジベンゾイルメタン等のβ−ジケトン類やオキシン、2−メチルオキシン等のオキシン類が挙げられる。
【0108】
(表示パネル100の製造方法)
表示パネル100の製造方法について、その一例を説明する。
【0109】
基板101を作製する工程:
反応性スパッタ法、あるいはプラズマを用いた薄膜形成方法で、TFT及び配線、SD電極、μc−SiからなるTFT層を形成する。
【0110】
そして、TFTを覆うように、平坦化膜を形成することによって基板101を作製する。
【0111】
このように作製した基板101上に、以下のように、各色の有機EL素子110を形成する。
【0112】
陰極102の形成工程:
平坦化膜の上に、陰極102用の金属材料を、スパッタ法で薄膜成形して、ウェットエッチングでパターニングすることにより陰極102を形成する。
【0113】
バンク103形成工程:
次に、バンク材料として、例えば感光性のレジスト材料、もしくはフッ素系やアクリル系材料を含有するレジスト材料を、平坦化膜上に塗布し、フォトレジスト法でパターニングすることによってバンク103を形成する。
【0114】
なお、このバンク形成工程では、次に塗布するインクに対するバンク103の接触角を調節したり、表面に撥水性を付与するために、バンク103の表面をアルカリ性溶液や水、有機溶媒等によって表面処理するか、プラズマ処理を施してもよい。
【0115】
電子注入層104の形成工程:
陰極102の上に、電子注入層104を湿式法で形成する。
【0116】
この工程では、上述した電子注入層の材料(有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物、あるいはこれにアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、それらの金属錯体を加えたもの)を、極性溶媒に溶解したインクを、バンク103同士の間に塗布し、乾燥することによって、電子注入層104を形成する。
【0117】
電子注入層104の材料を溶解させる極性溶媒として、例えば、アルコール系やグリセリン系など、OH基を有する溶媒を用いることができる。
【0118】
具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリンなどが挙げられる。これらと水との混合溶液でも良い。
【0119】
溶媒は、単一系の溶媒であってもよいし、多種類の溶媒を混合してもよい。複数の極性溶媒を混ぜた混合溶媒でも良いし、極性溶媒と非極性溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0120】
電子注入層の材料の濃度は、電子注入層の材料と極性溶媒とを混合した液中において、0.05wt%〜5wt%とするのがよい。
【0121】
塗布方法としては、インクジェット法をはじめ、ディスペンサー法、ノズルコート法、凹版印刷、凸版印刷等を用いることができる。
【0122】
発光層105の形成工程:
電子注入層104の上に、湿式法で発光層105を形成する。
【0123】
この工程では、上述した発光層用の材料を溶媒に溶解させたインクを、バンク103同士の間に塗布し、乾燥することによって形成する。用いる材料は、発光色ごとに異なっている。このインクにおいて、発光層105の材料を溶解する溶媒は、非極性溶媒である。
【0124】
非極性溶媒としては、芳香族系の溶媒を用いることが好ましい。具体的には、トルエンやキシレンなどのベンゼン環を中心に有する溶媒、あるいはピリジンなど複素環芳香族の溶媒を好適に用いることができる。
【0125】
芳香族系以外の非極性溶媒の例としては、ヘキサンや2−メチルへキサンのような直鎖あるいは分岐した脂肪族系の溶媒、あるいはシクロヘキサンのような環状脂肪族の溶媒、あるいはクロロホルムなどのハロゲンを含む脂肪族溶媒、あるいはテトラヒドロフランなどの複素環脂肪族系の溶媒を用いてもよい。
【0126】
ここで用いる溶媒は、単一系の溶媒であってもよいし、多種類の溶媒を混合した混合溶媒であっても良い。
【0127】
インクを塗布する方法としては、インクジェット法をはじめ、ディスペンサー法、ノズルコート法、凹版印刷、凸版印刷等を用いることができる。
【0128】
正孔輸送層106の形成工程:
正孔輸送層106の材料と溶媒とを所定比率で混合して正孔輸送層用のインクを作製し、そのインクを発光層105の上に塗布する。
【0129】
塗布されたインクは、発光層105及びバンク103の上を全体的に被覆する。
【0130】
正孔輸送層106を形成するインクを塗布する方法は、インクジェット法、ディスペンサー法、ノズルコート法、スピンコート法、凹版印刷、凸版印刷等を用いる。
【0131】
このように塗布したインクを乾燥させることによって正孔輸送層106が形成される。
【0132】
正孔注入層107の形成工程:
正孔注入層107は、酸化モリブデンや酸化タングステン等の金属酸化物材料を、真空蒸着法などで薄膜形成することができる。
【0133】
陽極108の形成工程:
正孔注入層107の表面上に、ITO、IZO等の材料を、真空蒸着法やスパッタ法で成膜することによって陽極108を形成する。
【0134】
陽極108の表面上に、封止層を形成する場合、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の材料を真空蒸着法で成膜することによって形成できる。
【0135】
以上の工程により、基板上に有機EL素子が形成され、表示パネル100が完成する。
(ポリマー化合物の製造方法)
上記一般構造式(1)で表されるポリマー化合物の製造方法について説明する。
【0136】
下記化16に示す一般構造式(4)で表わされる化合物と、一般構造式(5)の化合物を溶媒中、縮合触媒および塩基の存在下で縮合し、重合することによって、一般構造式(1)で表されるポリマー化合物を得ることができる。
【0137】
【化16】
式(5)において、Xは、ヨウ素、臭素、塩素から選ばれるハロゲン原子である。
【0138】
反応の温度は、60℃〜180℃で行うことができるが、反応時間及び収率の観点から80℃〜150℃が好ましい。
【0139】
ここで重合に用いる溶媒は、特に限定しないが、直鎖及び分岐の(C1〜C8)アルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、グリセロール、ジメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、ベンゾニトリル等を単独及び混合し用いることが好ましい。特に、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサンが収率及び反応時間の点で好ましい。
【0140】
溶媒の量は、モノマー1molに対し、0.2L〜100Lが好ましい。より好ましくは、1L〜10Lが収率及び反応速度の点で好ましい。
【0141】
縮合触媒は特に限定されないが、パラジウム及びニッケルの化合物が好ましい。たとえば、酢酸パラジウム、パラジウム−活性炭、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、[1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、〔1,3−ビス(ジフェニルフォスフィノ)プロパン〕ジクロロニッケル(II)を、単独または混合し用いることができる。
【0142】
触媒の量は、特に限定されないが、モノマー1molに対して0.0001mol〜0.5mol用いることが好ましく、収率、反応速度の点から、0.001mol〜0.1mol用いることがより好ましい。
【0143】
さらに反応溶媒中で触媒に付加できる配位子を用いることもできる。配位子としては、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、トリ-tert-ブチルホスフィン、2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)ビフェニル等を用いることができる。配位子の量は、触媒1molに対し、0.1〜10molの範囲が好ましく、より好ましくは、0.5〜5molである。
【0144】
反応に用いられるビス(アリールホスフィノイル)アリーレンモノマーの合成方法は特に限定されないが、以下の方法で合成することができる。
【0145】
【化17】
反応(1)では、ジリチオアリーレン化合物とアリールクロロアミノホスフィンを反応し、その後、酸性水溶液で加水分解することにより、ビス(アリールホスフィノイル)アリーレンモノマー得る。
【0146】
反応(2)では、ジリチオアリーレン化合物とアリールホスフィン酸エステルを反応させビス(アリールホスフィノイル)アリーレンモノマー得る。式中Rは、有機リチウム化合物に安定なアルキル基あるいは芳香族残基であれば、特に限定されない。
【0147】
反応(3)では、ジリチオアリーレン化合物とジクロロアリールホスフィンを反応させ、その後加水分解することにより、ビス(アリールホスフィノイル)アリーレンモノマーを得る。
【0148】
ここで、反応(1)では、反応(3)に比較し、反応点であるクロロ基が1つであるので副反応が起こりにくく、収率の点で好ましい。また、反応(2)で用いるホスフィン酸エステルは、ホスフィンクロライドに比較し活性が低く収率がよくない。よって反応(1)が最も好ましい。
【0149】
反応(1)〜(3)の原料であるジリチオ化合物は、公知の方法を用いて合成することができる。例えば、ジハロゲン化合物とブチルリチウム等のリチオ化剤を用いて得ることができる。
【0150】
ジリチオ化化合物は、対応するグリニャール試薬と置き換えることもできる。
【0151】
(有機EL素子110及びその製造方法による効果)
上記の有機EL素子110においては、電子注入層104に、上述した有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物が含まれている。これらのポリマー化合物は、成膜性に優れ、ホスフィンオキシドに3つのアリール基が結合した構造を持ち、電子受容性を有し、電子注入性に優れており、且つ、非極性溶媒に対して不溶性である。
【0152】
すなわち、トリフェニルホスフィンオキシドのような低分子系の有機ホスフィンオキシド化合物は、電子輸送性材料として知られているが、高分子系の有機ホスフィンオキシド化合物においても、有機ホスフィンオキシド骨格が持っている電子輸送性能は、高分子系でも維持される。
【0153】
また、有機ホスフィンオキシド化合物は、極性基であるホスフィンオキシド基を有するが、トルエンのような非極性溶媒に対する親和性も有するので、非極性溶媒を含むインクが接触すると溶解しやすいが、同じ有機ホスフィンオキシド化合物でも、ポリマー化合物になると、非極性溶媒に対する溶解性が低くなるため、このポリマー化合物で形成された層は、非極性溶媒を含むインクが接触しても溶解することがない。
【0154】
一方、これらのポリマー化合物は、アルコールなどの極性溶媒に対しては溶解性を有するので、湿式法で塗布することによって成膜することができる。また、ポリマー化合物とすることによって、その製膜性も向上する。これは、低分子化合物では、結晶化が起こりやすいために、膜の均一性が低下することがあるのに対して、ポリマー化合物では、結晶化が起こりにくく、均質な膜質が得られやすいためである。
【0155】
ここで、高分子化合物は、低分子化合物と比べて、拡散性が低く、一度乾燥すると溶媒に溶解しにくい。従って、有機ホスフィンオキシドを骨格とするポリマー化合物で電子注入層104を形成すれば、電子注入層104の上に発光層105を形成する工程で、非極性溶媒に発光層材料を溶解したインクを湿式法で塗布して発光層105を積層形成しても、電子注入層104は溶解しにくい。
【0156】
よって、電子注入層104及びの積層構造を安定的に形成することができるので、発光輝度の均一化、有機EL素子110の長寿命化を図ることができる。
【0157】
また、電子注入層104が、非極性溶媒に対して不溶性であるので、発光層105の材料として、非極性溶媒に溶解可能な種々の高分子系材料を用いることが可能となり、発光層105の材料として選択可能な発光材料の範囲が広がる。
【0158】
また、上記有機EL素子110は、基板101側に陰極102を設けたインバーテッド構造であるが、インバーテッド構造では、基板101にnチャネルTFTを形成して、これを陰極102に接続し、陽極108を共通電極とする画素構造をとることができる。
【0159】
そして、TFTにnチャネルTFTを適用することによって、有機EL素子の駆動速度を高めることができる。
【0160】
特に、駆動TFTの半導体層にμc−Siを用いる場合、実質的にnチャネルTFTしか形成できないが、その場合に上記有機EL素子110のインバーテッド構造を適用すればよい。
【0161】
このように、本態様の有機EL素子110によって、有機EL素子を設計するときの選択幅が広がり、実用的な価値がある。
【0162】
[実施例]
〔電子輸送材料の耐溶剤性試験〕
図6(a)〜(c)、
図7において、構造式(3),(6)で示す実施例にかかるポリマー化合物、並びに、
図8において構造式(11)で示す比較例にかかる低分子化合物について、以下のようにしてトルエンに対する耐久性を調べた。
【0163】
これらの化合物は、いずれもホスフィンオキシドに3つのアリール基が結合した骨格を有しているが、実施例にかかる構造式(3),(6)で示す化合物は、ポリマー化合物であるのに対して、構造式(11)で示す化合物は、低分子系化合物である
なお、実施例にかかる構造式(3)で示すポリマー化合物については、下記の合成方法で製造した重量平均分子量Mwが3300のものと、重量平均分子量Mwが10000のものと、重量平均分子量Mwが1821のものについて、各々トルエン耐久性を調べた。
【0164】
また、構造式(6)で示すポリマー化合物については、重量平均分子量Mwが4703のものについて、各々トルエン耐久性を調べた。
【0165】
試験方法:
石英基板の表面上に、各サンプルのポリマー化合物の塗膜を形成した。塗膜形成方法は、大気中において、各化合物の溶液を基板上にスピンコートで塗布し、100℃で30分間真空乾燥して形成し、膜厚は約100nmとした。
【0166】
各塗膜を形成した基板について、吸光光度計で波長ごとの吸光度を測定した。その測定結果は、
図6〜8において「トルエン塗布前」と表示したスペクトル曲線で示されている。
【0167】
次に、各塗膜を形成した基板について、塗膜上にトルエンを0.15ml滴下し、500rpmで45秒間スピンコートを行い、130℃で30分間乾燥した。
【0168】
そして、各基板について、吸光光度計で波長ごとの吸光度を測定した。その測定結果は、
図6〜8において「トルエン塗布後」と表示したスペクトル曲線で示されている。
【0169】
構造式(3)で示す実施例にかかるポリマー化合物については、重量平均分子量MWが10000、3300、1821のものについてそれぞれ測定した。
図6(a),(b)に示されるように、MW3300以上のものについてはトルエン塗布前と塗布後とで吸光スペクトル曲線はほとんど同じであり、
図6(c)に示されるようにMW1821のものにつてはトルエン塗布後に吸光度が減少しているがトルエン塗布前と同様の波形が見られる。また、
図7に示されるように、構造式(6)で示されるポリマ―化合物についてもトルエン塗布前と塗布後とで吸光スペクトル曲線はほとんど同じである。
【0170】
また、数値的には、構造式(6)のポリマー化合物では、波長340nmにおいて、トルエン塗布前の吸光度及びトルエン塗布後の吸光度が共に0.155であった。これは、構造式(3),(6)で示すポリマー化合物の塗膜は、トルエン塗布によって溶解されにくいこと、すなわちトルエンに対する耐久性が高いことを示している。
【0171】
一方、
図8に示されるように、構造式(11)で示す比較例にかかる低分子化合物については、トルエン塗布前と塗布後とで吸光スペクトル曲線が変化しており、トルエン塗布後においては、ほとんど吸光は見られない。数値的には、波長323nmにおいて、トルエン塗布前の吸光度が0.160であったのに対してトルエン塗布後の吸光度は0.001となった。これは、トルエン塗布によって塗膜がほとんど溶解され、残っていないこと示している。
【0172】
以上の試験結果から、構造式(3),(6)で示す実施例にかかるポリマー化合物は、構造式(11)で示す比較例にかかる低分子化合物に対して、トルエンに対する耐久性に優れることがわかる。
【0173】
特に、構造式(3)のポリマー化合物と構造式(11)の低分子化合物とを比べると、有機ホスフィンオキシド化合物の基本的な構造は同じであるが、構造式(3)のポリマー化合物は、鎖状のポリマーであって、トルエンに対する耐久性が向上している。
【0174】
このように、鎖状のポリマーとすることによって、トルエンに対する耐久性が向上するのは、鎖状のポリマーでは、ポリマー分子間の引力が大きくなって分子鎖が絡まって、溶媒分子がその分子鎖の絡まりを解きほぐしにくくなるためと考えられる。そして、この鎖状ポリマーの分子量(重合度)が大きくなるほど、その傾向が大きくなるので、溶媒に溶けにくくなる。
【0175】
これらの試験結果に基づいて考察すると、一般にアリール基を有する有機ホスフィンオキシド化合物において、その分子鎖を長くすることによって、トルエンに対する耐久性が大きく向上することが予測される。
【0176】
すなわち、構造式(3),(6)で示すポリマー化合物に限らず、一般構造式(1),(2)で示されるポリマー化合物も、ホスフィンオキシドにアリール基が結合した構造を有する点で共通し、且つ鎖状の高分子である点も共通しているので、トルエンに対する耐久性が良好であると考えられる。
【0177】
また、アリール基が、フェニル基である場合に限らず、ナフチル基のように多環構造あるいは複素環構造である化合物の場合も同様に、ポリマー化合物とすることによってトルエンに対する耐久性が向上する。
【0178】
なお、下記化18において式(23)〜(28)で示される比較例にかかる化合物についても、同様に試験を行ったところ、トルエン塗布前と塗布後とで吸光スペクトル曲線が変化し、トルエン塗布後においてほとんど吸光が見られなかったので、塗膜が溶解されたことがわかった。
【0179】
【化18】
以上の考察から、一般に有機ホスフィンオキシド骨格を有する化合物において、ポリマー化合物とすることによって、トルエンに対する耐久性が高まることがわかる。
【0180】
なお、ここでは、非極性溶媒としてトルエンで試験を行った結果を示したが、トルエン以外の芳香族系溶媒(ベンゼン、キシレンなど)を用いても、あるいは芳香族系溶媒と飽和炭化水素溶媒との混合溶媒を用いて試験を行っても、同様に、耐久性が向上する結果が得られた。
【0181】
また、芳香族系溶媒以外の非極性溶媒だけで試験を行っても、同様の結果(耐久性の向上効果)が認められた。
【0182】
なお、一般に、非イオン性でアルコールに可溶な高分子として、ポリビニルピロリドンやポリエチレングリコール等は知られているが、上記のようなアリール基が結合したホスフィンオキシド骨格を有するポリマーは、殆ど知られておられず、本発明者が新しく分子設計することによって得られた化合物である。
【0183】
〔有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物の平均分子量について〕
有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物において、ポリマー化合物の重量平均分子量Mwは2000以上であることが好ましい。これは、重量平均分子量Mwが2000以上であれば非極性溶媒に対して十分な不溶性を持つからである。
【0184】
また、ポリマー化合物の重量平均分子量Mwは100万以下であることが好ましい。これは、このポリマー化合物を湿式法で塗布して電子輸送層104を形成する際に、ポリマー化合物を極性溶媒に溶解させて塗布するが、重量平均分子量Mwが大きすぎると、極性溶媒に溶解しにくくなり、湿式法で塗布することが難しくなるためである。
〔有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物の合成方法〕
構造式(3),(6)で示したポリマー化合物の合成方法について説明する。
【0185】
まず、構造式(3)で示したポリマー化合物の一例を、
図9を参照しながら説明する。
【0186】
1.クロロ(ジエチルアミノ)フェニルホスフィンの合成
Sciffers等の方法に基づいて、クロロ(ジエチルアミノ)フェニルホスフィンを合成した。
【0187】
I. Schiffers, T. Rantanen, F. Schmidt, W. Bergmans, L. Zani, and C. Bolm, J. Org. Chem. 1971, 71, 2472
なお、クロロ(ジエチルアミノ)ホスフィンは、水分、酸素により分解するため、クロロ(ジエチルアミノ)ホスフィンの合成での後処理は、アルゴン雰囲気下で操作を行う。
【0188】
2.2,7-ビス(フェニルホスフィノイル)-9,9-ジメチルフルオレン(モノマー)の合成
窒素雰囲気下、−80℃において、2,7-ジブロモ-9,9-ジメチルフルオレン7.04g (20mmol)のTHF溶液150mLに、1.6Mのn−ブチルリチウム ヘキサン溶液27.5mL(44 mmol)を、30分間かけて滴下し、−80℃で2時間撹拌した。これによって、2,7-ジブロモ-9,9-ジメチルフルオレンがリチオ化される。
【0189】
この懸濁液に、クロロ(ジエチルアミノ)フェニルホスフィン10.4g(48mmol)を加え、−80℃で20分間攪拌した後、室温で14時間撹拌した。
【0190】
反応液を氷浴で冷却しながら、12規定塩酸25mLを加え、室温で7時間反応した。反応終了後、反応液は水100mLで希釈し重曹で中和した。この溶液をジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を取り除いた。
【0191】
この2,7-ビス(フェニルホスフィノイル)-9,9-ジメチルフルオレンを合成する工程では、ジハロゲン化アリールをジリチオ化しているため、目的物以外に、副生物としてモノホスフィンオキシドも生じるが、得られた残渣を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒:ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製することによって、2,7-ビス(フェニルホスフィノイル)-9,9-ジメチルフルオレン3.47gを無色油状物として得た(収率39%)。
【0192】
得られた生成物(モノマー)をMS及びNMRで測定して同定した。
MS (FAB+, 3-ニトロベンジルアルコール) m/z 443 (M+H)
1H NMR (CDCl
3, 60 Hz) d 1.51 (s, 6H, CH
3)、d 7.56 - 8.04 (m, 16H)、d 8.17 (d, 2H,
1J = 481 Hz, PH)
3. 2,7-ビス(フェニルホスフィノイル)フルオレンと1,4-ジヨードベンゼンとの重合
3−1
(1) 2,7-ビス(フェニルホスフィノイル)フルオレン(モノマー)、ジヨードベンゼン、触媒、配位子、塩基を溶媒に溶かし、所定温度で20時間加熱攪拌した。
【0193】
溶媒、塩基、反応温度の条件については、表1に示すように組み合わせを変えて行った。すなわち、溶媒はDMA(ジメチルアセトアミド)又はNMP(Nメチルピロリドン)を用い、塩基にはDIEA(ジイソプロピルエチルアミン)又はDMAP(ジメチルアミノピリジン)を用い、反応温度は100℃又150℃で行った。
【0194】
なお、重合を行う際に、脱気,溶媒の脱水を行う方が良好な再現性が得られる。
【0196】
2,7-Bis(phenylphosphinoyl)-9,9-dimethylfluorene:0.221 g(0.5 mmol)
p-Diiodobenzene :0.165 g(0.5 mmol)
Palladium diacetate :2.3 mg(0.01 mmol)
1,3-Bis(diphenylphosphino)propane :8.3 mg(0.02 mmol)
N,N-dimethylaminopyridine :0.916 mL(5.35 mmol)
Dimethyl sulfoxide :2.5 mL(35.2 mmol)
(2)反応終了後、1N 塩酸 40mLに注ぎ、ジクロロメタン30mLで3回抽出した。
【0197】
(3)有機層を6Nの塩酸20mL、水30mLで3回洗浄した。
【0198】
(4)硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。濃縮後の残渣の重量は表1中に重量Aの欄に示している。
【0199】
(5)得られた残渣をジクロロメタン2mLに溶解させ、シクロヘキサン50mLを撹拌しながらその溶解液を滴下し、再沈した。再沈により得られた重量は、表1中の重量Bの欄に示し、収率は表1中のX欄に示した。
【0200】
得られた沈殿について、GPCにより分子量を測定した。
【0201】
再沈により得られたポリマーを、以下のように精製して素子評価用試料とした。
【0202】
(1)ソックスレー抽出器を用いてトルエンで2−4日洗浄した。
【0203】
(2)カラムクロマトグラフィー(シリカゲル(関東化学製K-60N))を用いて、まずポリマーのジクロロメタン溶液でカラムクロマトグラフィーに付し、5%メタノール−ジクロロメタン溶液で不純物を洗浄し、メタノールでポリマーを溶出させた。得られたポリマー溶液は、減圧下で溶媒を取り除くか、再び再沈を行って洗浄して精製した。
【0204】
得られた素子評価用試料について、NMR及びIRで測定した。
1H NMR(60 MHz, CDCl3) d1.43(s br, 6H, CH
3)、7.27-8.02 (m, 20H, Ar-H)
IR(KBr) u 3402, 2919, 1598, 1438, 1182, 1113, 1002, 692, 554 cm
-1
【0205】
【表1】
*重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、昭和電工製Shodex GPC K-804Lを用いてポリスチレンを基準に算出した。GPCでは、0.5%トリエチルアミン−クロロホルム溶液を用いて、流量1.0mL/minとし、波長254nmで検出した。
*収率Xは、繰り返し構造あたりの分子量(516)をもとに算出した。
【0206】
3−2
上記3−1とは別の条件で、以下のように重合反応を行った。
【0207】
2,7-ビス(フェニルホスフィノイル)-9,9-ジメチルフルオレン265 mg(0.6mmol)、1,4-ジヨードベンゼン165mg (0.5mmol)、酢酸パラジウム2.3 mg(0.01mmol)、1,3-(ジフェニルホスフィノイル)プロパン8.2mg (0.02mmol)、ジイソプロピルエチルアミン0.93mLを1-メチル-2-ピロリドン2.5mLに溶解させ、−80℃で脱気を行った。その後、アルゴンを満たした風船を取り付け、100℃で24時間撹拌した。反応終了後、反応液を1N塩酸100mLに溶解させ、ジクロロメタン100mLで3回抽出した。有機層を水100 mLで3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。得られた濃縮物を、THF4mL、ジクロロメタン5 mLに溶解させ、シクロヘキサンに注いだ。得られた沈殿を減圧濾過で回収し、白色固体314 mgを得た。
【0208】
この白色固体をGPCで分子量を測定(pSt基準)した結果、Mw 6307、Mn 2681を得た。
【0209】
なお、再沈ではシクロヘキサンに対し分散しやすいと考えられるTHFを用いてポリマーを溶解させようと試みたが、化合物が溶解しにくかったためジクロロメタンをさらに加え溶解させた。
【0210】
得られた固体のうち、291mgを円筒ろ紙に加え、ソックスレー抽出器を用いてトルエン80mLで15時間還流を行い、抽出を行った。得られたろ液を濃縮し、黄色油状物22 mgを得た。
【0211】
この油状物をGPCで分子量を測定(pSt基準)した結果、Mw1821、Mn 858を得た。
【0212】
次に、構造式(6)に示すポリマー化合物を合成する方法の一例を、
図10を参照しながら説明する。
【0213】
1.5,5'-ビス(フェニルホスフィノイル)-2,2'-ビチオフェンの合成
窒素雰囲気下、−80℃で、2,2'-ビチオフェン3.00g(18mmol)のTHF溶液に、1.6Mのn-ブチルリチウム ヘキサン溶液25mL(40mmol)を10分間かけて加えた。
【0214】
−80℃で30分間攪拌した後、室温で2時間撹拌した。
【0215】
再び−80℃に冷却し、クロロ(ジエチルアミノ)フェニルホスフィン9.32g(43.2mmol)を加え、−80℃で1時間、室温で5.5時間撹拌した。
【0216】
この溶液に12規定塩酸22.5mL(270mmol)を加え、室温で12時間撹拌した。
【0217】
水100mLを加え、重曹を用いて中和後、ジクロロメタンで抽出した。
【0218】
有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を取り除いた。得られた残渣を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒:ジクロロメタン:メタノール=100:2)で精製し、5,5'-ビス(フェニルホスフィノイル)-2,2'-ビチオフェン3.26gを黄色油状物として得た(収率44%)。
【0219】
得られた生成物(モノマー)をMS及びNMRで測定して同定した。
MS (FAB+, 3-ニトロベンジルアルコール) m/z 415 (M+H)
1H NMR (CDCl
3, 60 Hz) d 4.68 (d, 2H, 1J = 73.4 Hz, PH)、d 7.27 - 8.01 (m, 14H)
2.5,5’-ビス(フェニルホスフィノイル)-2,2’-ビチオフェンと1,4-ジヨードベンゼンの重合
5,5’-ビス(フェニルホスフィノイル)-2,2’-ビチオフェン414mg(1mmol)、1,4-ジヨードベンゼン330mg(1mmol)、酢酸パラジウム4.5mg(0.02mmol)、1,3-ビスジフェニルホスフィノプロパン16.5mg(0.04mmol)及びジメチルアミノピリジン1.31g(10.7mmol)を、ジメチルアセトアミド5mLに溶解させ、100℃で4日間反応させた。
【0220】
反応終了後、1N塩酸に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。
【0221】
有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧下で取り除いた。
【0222】
得られた残渣をジクロロメタン5mLに溶解させ、シクロヘキサン50mLに注いで再沈を行った。沈殿をろ取した後、減圧下で乾燥させ、ポリマーを446mg得た(回収率91%)。
【0223】
得られたポリマーを、ソックスレー抽出器を用いてトルエンで2日間洗浄した。得られた残渣を、ジクロロメタンに溶解させ、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル)に付し、5%メタノール-ジクロロメタン溶液で洗浄し、50%メタノール-ジクロロメタン溶液で溶出した。得られた溶液の溶媒を減圧下で取り除き、ポリマー236mgを得た。
【0224】
得られたポリマーについて、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnの測定、NMR測定を行った。
Mw 4703, Mn 1279 (pSt基準)
1H NMR (60MHz, CDCl
3) d7.28 - 7.83 (m, 16H)
〔上記合成方法の特徴と効果〕
上記
図9,10に示した合成方法では、モノマーを合成する工程において、クロロ(ジエチルアミノ)フェニルホスフィンを用いて、これをM−Ar−M(Arはアリール基、Mは金属)と反応させており、それによって、副反応を抑えながら、目的とするモノマーの合成を行うことができるので、反応効率を上げることができる。
【0225】
すなわち、ジクロロフェニルホスフィンのように、Ar−Mと反応する部位が複数存在するホスフィン化合物を用いると、P ―Ar―P―Ar−Pと架橋して、下記化19に示すように重合しやすい。
【0226】
【化19】
これに対して、クロロ(ジエチルアミノ)フェニルホスフィンは、Ar−Mと反応する部位が1つなので、M−Ar−Mと反応させると、下記化20に示すように、重合を抑えながらモノマーを合成できる。
【0227】
【化20】
以上のように、構造式(3),(6)のポリマー化合物について合成方法を示したが、一般構造式(1),(2)で表わされるポリマー化合物も、これと同様の方法で合成することができる。
【0228】
〔有機EL素子の性能比較〕
実施例1および比較例1〜2にかかる有機EL素子を作製し、その性能を比較することによって、本発明の有用性を考察する。
【0229】
(実施例1)
図5は、実施例1にかかる有機EL素子の構成を示す断面模式図である。
【0230】
基板101として松浪ガラス製無アルカリガラスを使用し、この基板101の表面上に、以下のように、陰極102,電子輸送層104,発光層105,正孔輸送層106,正孔注入層107,陽極108を順に形成した。
【0231】
陰極102は、基板101の表面上に、ITOをスパッタ法により膜厚50nm成膜し、感光性レジストを用いるフォトリソグラフィ法で、ITO膜をエッチングによってパターニングし、感光性レジストを剥離することによって形成した。続いて、中性洗剤と純水を用いて基板洗浄を行った後、UVオゾン洗浄を行った。
【0232】
電子注入層104は、上記構造式(3)のポリマー化合物に、リチウムアセチルアセテートを10wt%で混合し、n―ブタノール、エタノール混合液に溶解した溶液を、スピンコートで塗布し、130℃の温度で、窒素中でベークすることによって形成した。スピンコートの回転数は4000rpmとした。ベーク後の電子注入層104の膜厚は20nmであった。
【0233】
発光層105は、発光材料としてメルク社のSuper Yellowを用い、これを4−メトキシトルエンに溶解した溶液をスピンコート塗布し、130℃ベークすることによって形成した。ベーク後の発光層105の膜厚は50nmであった。
【0234】
正孔輸送層106は、ジフェニルナフチルジアミン(NPD、新日鐵化学製)を真空蒸着法により膜厚60nmで形成した。
【0235】
正孔注入層107は、酸化モリブデン(MoOx高純度化学製)を膜厚20nmで真空蒸着法により形成した。最後に、陽極108として、アルミニウム(高純度化学製 純度99.9%)を真空蒸着法により膜厚80nmで薄膜形成して、実施例1にかかる有機EL素子を作製した。
【0236】
なお、
図5には示していないが、作製した有機EL素子を、水および酸素濃度が5ppm以下の窒素ドライボックス中でガラス缶封止して、有機EL素子を空気中で評価できるようにした。
【0237】
(比較例1)
電子輸送層104を形成しない点を除いて、上記実施例1と同様に、比較例1にかかる有機EL素子を作製した。
【0238】
(比較例2)
上記実施例1と同様の基板101の表面上に、陽極をITOで形成し、正孔注入層としてPEDOT:PSSを膜厚70nmで形成し、その上に実施例1と同様に発光層を積層し、電子注入層として膜厚5nmのバリウム(Ba Aldrich製)を真空蒸着法により形成し、陰極として実施例1と同様のアルミニウムを膜厚80nmで積層することで、比較例2にかかる有機EL素子を作製した。
【0239】
このようにして作成した有機EL素子の実施例1と比較例1〜2の有機EL素子について、以下のように試験を行って性能を評価した。
【0240】
陽極と陰極の間に電圧を−3.5Vから0.25V刻みで11Vまで変化させながら、そのときに陽極と陰極の間に流れる電流と輝度と色度を測定した。また、その測定結果から、発光効率を計算した。
【0241】
評価装置は、電圧源、電流計としてKeythley2400を用いた。
【0242】
輝度計として大塚電子MC−940を用いた。
【0243】
印加電圧9V時の測定結果を表2に示す。
【0244】
【表2】
表2の結果から、実施例1の有機EL素子では、輝度、発光効率が良好であるが、比較例1のように電子輸送層104がなくなると、うまく発光しないことがわかる。
【0245】
また、比較例2のように、正極、PEDOT:PSSからなる正孔注入層、発光層という順序で形成する場合、輝度、発光効率は良好であるが、インバーテッド構造ではない。
【0246】
<変形例など>
上記実施の形態では、有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物を溶媒に溶解したインクを塗布する湿式法で電子注入層104を形成したが、電子注入層104を形成する方法は必ずしも湿式法でなくてもよく、有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物を薄膜形成することによって電子注入層104を形成してもよく、その場合も、電子注入層104の上に非極性溶媒を用いた湿式で発光層105を形成するときに、電子注入層104を構成するポリマー化合物が非極性溶媒に溶解することがないので、同様の効果を奏する。
【0247】
上記実施の形態では、有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物で第一の層として電子注入層104を形成し、その上に第二の層として発光層105を、非極性溶媒に材料を溶解して湿式法で形成したが、有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物で第一の層として電子注入層104を形成した上に、第二の層として、発光層の代わりに電子輸送層あるいは正孔阻止層を、非極性溶媒を用いて湿式法で形成して、その上に発光層を積層してもよい。
【0248】
この場合、電子輸送層あるいは正孔阻止層を形成する有機材料を非極性溶媒に溶解したインクを、第一の層の上に塗布して第二の層を形成するが、第一の層を構成する有機ホスフィンオキシド化合物が非極性溶媒に溶解することがないので、同様の効果を奏する。
【0249】
正孔阻止層は、電子を輸送する機能を有しながら、正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させる。
【0250】
この場合、電子輸送層の材料及び正孔阻止層の材料としては、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。また、オキサジアゾール誘導体におけるオキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。また、これらの材料を高分子鎖に導入した高分子材料、あるいはこれらの材料を主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0251】
また、上記実施の形態では、第一の層として電子注入層を形成し、第一の層が電子輸送層であって、第二の層が発光層あるいは正孔阻止層であってもよい。
【0252】
この場合、電子注入層の上に、有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物で第一の層として電子輸送層を形成し、発光層あるいは正孔阻止層を形成する有機材料を非極性溶媒に溶解したインクを、第一の層の上に塗布して第二の層を形成するが、第一の層を構成する有機ホスフィンオキシド骨格を有するポリマー化合物が非極性溶媒に溶解することがないので、同様の効果を奏する。
【0253】
上記実施の形態で説明した有機EL素子は、ボトムミッション型であって、有機EL素子から光を取り出す方向が、基板側であったが、基板側と反対側から光を取り出すトップエミッション型とすることもできる。あるいは基板側と基板と反対側の両方から光を取り出すようにすることも可能である。
【0254】
上記実施の形態では、本発明の有機EL素子を有機EL表示装置に適用した例を示したが、本発明にかかる有機EL素子は、有機EL照明装置にも適用できる。