(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744089
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】脱臭米糠の製造方法及びそれを配合した食品
(51)【国際特許分類】
A23L 1/10 20060101AFI20150611BHJP
【FI】
A23L1/10 Z
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-53018(P2013-53018)
(22)【出願日】2013年3月15日
(62)【分割の表示】特願2006-6869(P2006-6869)の分割
【原出願日】2006年1月16日
(65)【公開番号】特開2013-143954(P2013-143954A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2013年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 漣
(72)【発明者】
【氏名】竹内 明
(72)【発明者】
【氏名】竹内 利江
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 学
【審査官】
鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−143364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/00−1/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
G−Search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂米糠と米油を混合して米糠臭改善米糠を製造する工程を含んでなり、
当該脱脂米糠は低温圧搾された脱脂米糠であり、
米糠臭改善米糠全体における油分として30〜40%となるように米油は混合される、
米糠臭改善米糠含有食品材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造された米糠臭改善米糠含有食品材料。
【請求項3】
請求項2に記載の米糠臭改善米糠含有食品材料を配合した食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱臭米糠の製造方法およびそれを配合した食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米糠には、γ−オリザノール、イノシトール、ビタミンB群、ミネラルなど機能性成分が多く含まれているが、その用途は米油、飼料など限られており、その多くが廃棄されているのが現状である。それは、米糠が精米後数時間で酸化による変臭が生じ、その糠臭により食品としての利用には限界があった。
【0003】
米糠の脱臭法として、乳酸発酵による方法(特開平01−137958号公報、特開2002−262770号公報)、減圧による除去(特開2002−238455号公報)、水蒸気処理による方法(特開昭61−118323号公報、特開平07−216381号公報)などが報告されている。また、特開2003−180275号公報には、米糠を食品として有効利用する目的で米糠を低温圧搾した脱脂糠粉末が開示されている。脱脂糠にも、ビタミン、ミネラルなどの機能性成分が含まれていることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01−137958号公報
【特許文献2】特開2002−262770号公報
【特許文献3】特開2002−238455号公報
【特許文献4】特開昭61−118323号公報
【特許文献5】特開平07−216381号公報
【特許文献6】特開2003−180275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、米糠は、機能性物質を多く含みながらも、その変臭のしやすさ、あるいは糠臭から食品素材として利用されていなかった。この臭いは主に油分に由来するところが多く、ヘキサン処理にて米油を抽出したヘキサン処理脱脂米糠では比較的改善されるものの有機溶媒の残留するおそれがあり、食品用には不向きであった。また特開2003−180275号公報にある低温圧搾にて脱脂しても油分が約10%程度残留するので米糠臭の問題は充分に解決できたとはいえなかった。
【0006】
このように脱脂米糠は、は、多種多様なビタミン、ミネラル、その他の生理活性物質を含有していることから、本来は健康食品やその原料として高価格で取引されるべきポテンシャルを有しながらも、食品加工技術の停滞のために、現実には非常な低価格で取り引きされ、あるいは米糠の段階で産業廃棄物として廃棄されている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、米糠から米油原油を低温圧搾した後の脱脂米糠を、食品材料として利用できるように、新たな米糠臭の低減方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、遂に、脱脂米糠に各種の食用油、好ましくは植物油、更に好ましくは米油を配合することによって、米糠臭が少なく、且つ変臭のない脱臭米糠を製すること見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、脱脂米糠に食することのできる油、好ましくは米油を混合する脱脂米糠の脱臭方法、及びそれを配合した食品に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低温圧搾して米油を回収した後の脱脂米糠を、食品材料、あるいは食品として利用できる、新たな脱臭米糠を提供するための製造方法であって、その製造方法により製造された脱臭米糠、及びそれを用いた食品を提供することである。すなわち、
項1 脱脂米糠に食用油を混合する工程を含んでなる脱臭米糠の製造方法。
項2 脱脂米糠が圧搾により製造された脱脂米糠であることを特徴とする項1の何れか1項に記載の脱臭米糠の製造法。
項3 脱臭米糠全体における油分として5〜40%となるように食用油を混合することを特徴とする項1〜項2の何れか1項に記載の脱臭米糠の製造方法。
項4 脱臭米糠全体における油分として20〜30%となるように食用油を混合することを特徴とする項1〜項3の何れか1項に記載の脱臭米糠の製造方法。
項5 食用油が植物油であることを特徴とする項1〜項4何れか1項に記載の脱臭米糠の製造方法。
項6 植物油が米油であることを特徴とする項5に記載の脱臭米糠の製造方法。
項7 項1〜項6の何れかにより製造された脱臭米糠。
項8 項1〜項6の何れかにより製造された脱臭米糠を用いた食品。
である。更にいえば、本発明は、脱脂米糠と米油などの食用油を混合することによる脱脂米糠の安定化の方法であり、脱臭した脱脂米糠の提供であり、又、それを配合した食品の提供である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いる脱脂米糠は、n−ヘキサン処理した脱脂米糠、あるは圧搾により脱脂してなる米糠の何れであってもよいが、圧搾脱脂した米糠が好適である。圧搾による脱脂は、例えば、特開2003−180275号公報に記載の方法により行う。
【0011】
すなわち原料である米糠から異物(例えば石、砕けた米)して熱風による気流乾燥する。この気流乾燥によって、比較的に短時間で殺菌および乾燥を行う。乾燥後の米糠の好ましい水分量は5〜10%である。次いで、米糠を100℃〜130℃で加熱し、これによってリバーゼを失活させる。また、この段階での米糠の水分量を2〜8%とする。
次いで、米糠を専用低温圧搾機に投入し、低温圧搾を行う。低温圧搾とは、米糠を加圧し100℃以下の温度の米油原油を絞り出したものである。低温圧搾された脱脂米糠は、脱脂糠の蝋分が1%以下となり、油分が12%以下となり、これを適宜加工し粉末化したものである。
【0012】
本発明に用いる食用油は特に限定されるものではなく、商業的に入手できるものであればよく、米油(米糠油)、菜種油、大豆油、大豆胚芽油、オリーブ油、コーン油、ベニバナ油、キャノーラ油、ココナッツ油、ゴマ油、サフラワー油などの植物油、魚油、EPA、DHAなどの動物油、その他キャンディダ・リポリティカ由来の油、カロチノイドのような藻類由来の油などが挙げられる。これらの中でも植物油、特に米油が好ましく、精製度が高い米油が最も好ましい。
【0013】
脱脂米糠に対する食用油の混合量は原料の脱脂米油の油分にもよるが、混合後の油分が脱脂米糠全体の油分として5〜40%、好ましくは20〜30%である。
【0014】
油分(%)は、次のようにして測定する。すなわち、試料10gを円筒濾紙に秤取し、脱脂綿で軽く蓋をしてソックスレー抽出器に入れる。抽出フラスコ(重量既知)にエチルエーテルを約100ml入れ、ソックスレー抽出装置に装着し、ウォーターバス上で5時間加熱抽出を行う。抽出速度は溶剤循環約12〜13回/時間になるように調整する。抽出終了後、抽出フラスコはロータリーエバポレーターに取り付けエチルエーテルを完全に蒸発させる。抽出フラスコを室温まで放冷後重量を秤量し、抽出した油分量(g)を求める。
【0015】
油分(%)=A/B×100
A:抽出した油分量(g)
B:試料秤取量(g)
【0016】
脱脂米糠と食用油の混合方法は特に限定されるものでなく、パドル式練合機等通常の練合機を用いて混合できる。また、混合する時間も処理量、米糠の油分量に応じて適宜設定されるものである。
【0017】
このようにして製造された脱臭米糠は、そのままでも食品などの経口用組成物として利用でき、また、本発明の脱臭米糠を食品中に0.1〜99重量%配合できる。
【0018】
本発明における食品とは、脱脂米糠の食品原料としての利用も包含し、パン、クッキー、米菓、ケーキ、シリアル、麺類、シリアルバー、スープ、ふりかけ、調味料等での利用であり、その他菓子類、栄養添加剤、改質剤などとして供することができる。
また、本発明の食品では、夫々の形態に応じて、公知の成分を配合することが出来る。例えば、みりん、醤油、酒等の調味料、ごま、ピーナッツ、アーモンド等の種実の粉末又はそれらの油脂、大豆、大麦、コーン等の穀類の粉末又はそれらの油脂、野菜、フルーツ、魚介等のエキス類、バター、チーズ等の乳製品、さらに香料、香辛料などが挙げられる。
【実施例】
【0019】
次に実施例をあげ、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これら実施例に限られるものでなく、また、特に断らない限り「%」は「重量%」を示す。
【0020】
脱臭米糠の評価試験
生米糠、脱脂米糠A(n−ヘキサン処理脱脂品)、焙煎脱脂米糠、脱脂米糠B(低温圧搾脱脂品)に夫々米油を0%、10%、30%添加して試料とした。各試料を開封直後に臭気及び口に入れて風味を4名の専門家により評価した。評価基準は次のとおりで、評価結果は、4名の平均値を表1に示した。平均値が3.5以上を効果があるとした。
【0021】
評価基準
悪い : 1
やや悪い: 2
普通 : 3
やや良い: 4
良い : 5
【0022】
【表1】
【0023】
表1から、風味それ自体は焙煎によって向上するが、米油の添加による米糠臭改善効果は、脱脂米糠B(低温圧搾処理)において、最大であった。また、反面、生米糠の場合は例え30%の米油を加えても良好な効果は認められなかった。
【0024】
実施例1
脱脂米糠100重量部に対し米油5部をミキサーにて均一に混合し、水60部を段階的に添加して練合する。練合終了後、造粒機にて造粒し、これを送風乾燥機にて乾燥する。約20時間乾燥して得られた顆粒状の食品は米糠特有の臭いは改善され、風味も良好であった。
【0025】
実施例2
脱脂米糠100重量部に対し米油30部をミキサーにて均一に混合し、30wt%アルコール溶液30部を段階的に添加して練合する。練合終了後、造粒機にて造粒し、これを送風乾燥機にて乾燥する。約20時間乾燥して得られた顆粒状の食品は米糠特有の臭いは改善され、風味も良好であった。
【0026】
実施例3
脱脂米糠100重量部に対し米油10部をミキサーにて均一に混合し、これにみりん調味料10部と50wt%アルコール溶液20部を段階的に添加して練合する。練合終了後、造粒機にて造粒し、これを送風乾燥機にて乾燥する。約20時間乾燥して得られた顆粒状の食品は米糠特有の臭いは改善され、好ましい風味も付与された。
【0027】
実施例4
脱脂米糠100重量部に対し菜種油10部をミキサーにて均一に混合し、水60部を段階的に添加して練合する。練合終了後、造粒機にて造粒し、これを送風乾燥機にて乾燥する。約20時間乾燥して得られた顆粒状の食品は米糠特有の臭いは改善され、風味も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明において、余り食用に供されることがなかった脱脂糠を一般食品用途での利用を可能にする。本来、米糠に含有されている種々の機能性成分も継続的な摂取が可能となり、有効に活用できるようになり健康増進への寄与が期待できる。