特許第5744112号(P5744112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744112
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月1日
(54)【発明の名称】パターン形成体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20150611BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20150611BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
   H05K3/12 610Z
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-122812(P2013-122812)
(22)【出願日】2013年6月11日
(65)【公開番号】特開2014-240137(P2014-240137A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2015年2月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 牧八
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】ユン キョンソン
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋文
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−014829(JP,A)
【文献】 特開2005−189631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
B05D1/00−7/26
B29C71/04
B41N1/00−99/00
C08J7/00−7/18
H05K3/10−3/26
H05K3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低い表面自由エネルギーを発現させる第1の化合物と、前記第1の化合物よりも高い表面自由エネルギーを発現させる第2の化合物とを含有する樹脂組成物を基材上に塗布する塗布工程と、
前記樹脂組成物を表面自由エネルギー差によるパターンが形成された原版に接触させて硬化させ、前記基材上に前記原版のパターンが転写された硬化樹脂層を形成する硬化工程と
を有するパターン形成体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の化合物が、フッ素樹脂系化合物、又はシリコーン樹脂系化合物である請求項1記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、ラジカル重合型である請求項1又は2記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項4】
前記原版の基材が、ガラスである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項5】
前記硬化樹脂層の表面が平滑である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項6】
前記硬化樹脂層上にインク組成物を塗布、硬化させる加工工程をさらに有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のパターン形成体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法によって形成されたパターン形成体。
【請求項8】
低い表面自由エネルギーを発現させる第1の化合物と、
前記第1の化合物よりも高い表面自由エネルギーを発現させる第2の化合物と、
光重合開始剤とを含有し、
前記第1の化合物が、パーフルオロポリエーテル含有アクリレートを含む表面自由エネルギー転写用樹脂組成物。
【請求項9】
前記第2の化合物が、ヒド口キシル基含有アクリレートを含む請求項8記載の表面自由エネルギー転写用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面自由エネルギーの異なるパターンを有するパターン形成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体、ディスプレイ、電子製品等における電子回路の微細パターンのほとんどは、フォトリソグラフィー技術を用いて作製されているが、フォトリソグラフィー技術では、安価な製品の製造に限界がある。しかも、大面積化を目指すエレクトロニクス製品の製造においては、フォトリソグラフィー技術を用いた作製方法では、製造コストを抑えることが困難である。
【0003】
このような現状を踏まえ、プリンティング(印刷)技術を活用し、電子回路、センサー、素子等を製造する、所謂「プリンテッド・エレクトロニクス」が検討されている。この方法は、化学物質の使用量の減少が期待でき、地球環境にやさしい製造プロセスとして注目されている。また、この方法の一部は、メンブレン・キーボードの電極印刷、自動車の窓ガラス熱線、RFID(Radio Frequency Identification)タグアンテナなどに既に応用されている。
【0004】
特許文献1には、表面張力を部分的に低下させた転写用凹版が記載され、特許文献2には、基材に表面自由エネルギーに差を生じさせる表面改質を施すことが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、転写の度に、版面の一部に表面張力の低い物質を偏析させなければならず、また、特許文献2に記載された技術では、マスクパターンを用いて基材の表面改質を行うため、作成方法が煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−164070号公報
【特許文献2】特開2005−52686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、表面自由エネルギーの異なるパターンを簡便に得ることができるパターン形成体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するために、本発明に係るパターン形成体の製造方法は、低い表面自由エネルギーを発現させる第1の化合物と、前記第1の化合物よりも高い表面自由エネルギーを発現させる第2の化合物とを含有する樹脂組成物を基材上に塗布する塗布工程と、前記樹脂組成物を表面自由エネルギー差によるパターンが形成された原版に接触させて硬化させ、前記基材上に前記原版のパターンが転写された硬化樹脂層を形成する硬化工程とを有することを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係るパターン形成体は、前述の製造方法によって形成されてなることを特徴としている。また、表面自由エネルギー転写用樹脂組成物は、低い表面自由エネルギーを発現させる第1の化合物と、前記第1の化合物よりも高い表面自由エネルギーを発現させる第2の化合物と、光重合開始剤とを含有し、前記第1の化合物が、パーフルオロポリエーテル含有アクリレートであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リソグラフィなどの複雑なプロセスを必要とすることなく、原版のパターンが転写された表面自由エネルギーの異なるパターンを簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】塗布工程の概略を示す断面図である。
図2】硬化工程の概略を示す断面図である。
図3】パターン形成体の一例を示す断面図である。
図4】実施例における原版Aの概略を示す斜視図である。
図5】原版Aを用いて樹脂組成物Aを硬化させる硬化工程の概略を示す断面図である。
図6】コーティングフィルムA表面の光学顕微鏡の写真である。
図7】コーティングフィルムA表面を油性ペンで塗ったときの光学顕微鏡の写真である。
図8】コーティングフィルムA表面に樹脂組成物Bを塗布、硬化させたときの光学顕微鏡の写真である。
図9】コーティングフィルムA表面に樹脂組成物Bを塗布、硬化させたときのAFM観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.パターン形成体の製造方法
2.パターン形成体
3.実施例
【0013】
<1.パターン形成体の製造方法>
本発明の一実施の形態に係るパターン形成体の製造方法は、低い表面自由エネルギーを発現させる第1の化合物と、第1の化合物よりも高い表面自由エネルギーを発現させる第2の化合物とを含有する樹脂組成物を基材上に塗布する塗布工程と、樹脂組成物を表面自由エネルギー差によるパターンが形成された原版に接触させて硬化させ、基材上に原版のパターンが転写された硬化樹脂層を形成する硬化工程とを有する。
【0014】
以下、各工程について図1及び図2を用いて説明する。なお、図1,2中、第1の化合物としてフッ素樹脂系化合物を例示するが、これに限定するものではない。
【0015】
図1は、塗布工程の概略を示す断面図である。この塗布工程では、基材11上に樹脂組成物12を塗布する。塗布には、バーコーター、スプレーコーター、スピンコーター等を用いることができる。
【0016】
基材11としては、特に制限されず、PET(Polyethylene terephthalate)、ガラス、ポリイミド等を用いることができる。また、透明材料又は不透明材料のいずれも用いることができる。樹脂組成物12として紫外線硬化型を使用する場合は、紫外線を透過する透明材料用いることにより、基材11側から紫外線照射を行うことができる。
【0017】
樹脂組成物12は、低い表面自由エネルギーを発現させる第1の化合物と、第1の化合物よりも高い表面自由エネルギーを発現させる第2の化合物とを含有する。
【0018】
第1の化合物は、所謂「ブロッキング防止剤」、「スリッピング剤」、「レベリング剤」、「防汚剤」等の表面調整剤を用いることが可能であり、フッ素樹脂系化合物、又はシリコーン樹脂系化合物が好ましく用いられる。フッ素樹脂系化合物としては、パーフルオロポリエーテル基含有化合物、パーフルオロアルキル基含有化合物等が挙げられ、シリコーン樹脂系化合物としては、ポリジメチルシロキサン含有化合物、ポリアルキルシロキサン含有化合物等が挙げられる。
【0019】
第2の化合物は、第1の化合物よりも高い表面自由エネルギーを発現させる化合物であれば良く、例えば、第1の化合物としてパーフルオロアルキル基含有アクリレートを用いた場合、第2の化合物としてペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート等のヒドロキシル基含有アクリレートを用いることが好ましい。
【0020】
樹脂組成物12は、速硬化のラジカル重合型、又はカチオン重合型のものが好ましく用いられ、第1の化合物及び第2の化合物の他に、重合性樹脂と、重合開始剤とを含有する。
【0021】
ラジカル重合型では、アクリレートと、ラジカル重合開始剤とを含有する。アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピレングリコール変性グロセリントリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等が挙げられ、これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、ラジカル重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤等が挙げられ、これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
カチオン重合型では、エポキシ樹脂と、カチオン重合開始剤とを含有する。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、セレノニウム塩等のオニウム塩を挙げられ、これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
なお、樹脂組成物12には、その他の化合物として、任意に粘度調整剤、希釈剤、表面調整剤等を含んでいても良い。
【0024】
図2は、硬化工程の概略を示す断面図である。この硬化工程では、樹脂組成物12を表面自由エネルギー差によるパターンが形成された原版20に接触させて硬化させ、基材11上に原版20のパターンが転写された硬化樹脂層を形成する。
【0025】
原版20は、表面に高表面自由エネルギー領域21と、低表面自由エネルギー領域22とを有する。高表面自由エネルギー領域21は、例えばガラス、金属、シリコン等の領域であり、低表面自由エネルギー領域22は、例えばフッ素コーティング、シリコーンコーティング等の領域である。
【0026】
原版20の基材は、フッ素コーティング等が容易なガラスであることが好ましい。また、原版20の表面は、平滑であることが好ましい。これにより、第1の化合物及び第2の化合物の表面移動が容易となるとともに、硬化樹脂層の表面を平滑にすることができる。
【0027】
図2に示すように、原版20を樹脂組成物12に接触させた場合、原版20と樹脂組成物11との界面状態は、下記(1)式のΔγが小さくなろうとするため、樹脂組成物12表面の第1の化合物は、原版20の低表面自由エネルギー領域22に移動し、第2の化合物は、高表面自由エネルギー領域22に移動する。
【0028】
Δγ=γ−γ (1)
上記(1)式中、γは原版20表面の表面自由エネルギーであり、γは樹脂組成物12表面の表面自由エネルギーである。
【0029】
よって、図2に示すように、例えばフッ素樹脂系化合物は、例えばフッ素コーティング領域等の低表面自由エネルギー領域22に移動し、高表面自由エネルギー領域21の界面から排除される。そして、原版20を樹脂組成物12に接触させた状態で樹脂組成物12を硬化させることにより、基材11上に原版20のパターンが転写された硬化樹脂層を形成することができる。樹脂組成物12の硬化方法は、樹脂の種類に応じて適宜選択することができ、熱、紫外線等のエネルギー線照射を用いることができる。
【0030】
また、硬化工程後、硬化樹脂層上にインク組成物を塗布、硬化させる加工工程をさらに有することが好ましい。インク組成物としては、例えば、樹脂組成物12の組成から第1の化合物を除いたものを用いることができる。
【0031】
このように原版20を用いることにより、原版20の表面自由エネルギー差のパターンを繰り返し転写させることができる。また、転写された表面自由エネルギー差のパターンは、ファインピッチかつ寸法安定性に優れる。また、その硬化被膜は透明性に優れる。
【0032】
<2.パターン形成体>
次に、前述した製造方法によって形成されたパターン形成体について説明する。図3は、パターン形成体の一例を示す断面図である。パターン形成体は、基材11上に、表面が表面自由エネルギー領域aと表面自由エネルギー領域bとを有する硬化樹脂層13を備える。
【0033】
基材11は、前述したパターン形成体の製造方法で用いられるものと同一であり、硬化樹脂層13は、前述したパターン形成体の製造方法で用いられる樹脂組成物12が硬化したものである。
【0034】
本実施の形態に係るパターン形成体は、原版20の転写面を平滑にすることにより、平滑なパターン表面を得ることができる。そして、平滑のパターン表面上に、インク組成物等により加工することにより、ファインピッチかつ寸法安定性に優れた加工パターンを得ることができる。よって、電子回路パターン等のエレクトロニクス分野への応用や、DNAチップ等のバイオメディカル分野への応用が可能となる。
【実施例】
【0035】
<3.実施例>
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。本実施例では、表面自由エネルギー差によるパターンが形成された原版1、表面自由エネルギーが全面に亘って低い原版2、及び表面自由エネルギーが全面に亘って高い原版3を作成し、各原版を用いて樹脂組成物に転写を行った。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
露光機、接触角計、顕微鏡、及びAFM(Atomic Force Microscope)は、次の装置を使用した。
露光機A:マスクアライナー MA−20 (ミカサ株式会社製)
露光機B:アライメント露光装置 (東芝ライテック株式会社製)
接触角計:DM−701(協和界面科学社製)
顕微鏡:VHX−1000(株式会社キーエンス製)
AFM:SPA400(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
【0037】
[原版Aの作成]
10cm×10cmのガラス基板にネガ型フォトレジスト(商品名:OFPR−800LB、東京応化工業製)をスピンコート法により塗布し、110℃、90秒ホットプレート上で乾燥させた。フォトレジストがコーティングされた基板と、5μmのライン及びスペースをパターンニングされたフォトマスクを配置し、露光機1で露光した。露光後、この基板を2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液中に1分間浸漬し、その後純水に1分間浸漬し、室温で乾燥し、現像を行った。
【0038】
現像された基板を純水、洗浄液(商品名:Novec7300、3M社製)の順番で洗浄し、その後、フッ素コーティング剤(商品名:DURASURF DS−5210F、HARVES社製)を液滴滴下にて塗布した。一晩放置後、洗浄液(商品名:Novec7300、3M社製)にて洗浄し、その後、フッ素コーティング剤(商品名:DURASURF DS−5210F、HARVES社製)を液滴滴下にて塗布した。さらに一晩放置後、洗浄液(商品名:Novec73
00、3M社製)にて洗浄し、室温で乾燥した。
【0039】
この基板を剥離液に5分間浸漬し、残ったレジスト膜を取り除き、アセトン、洗浄液(商品名:Novec7300、3M社製)順で洗浄した。これにより、図4に示すようにガラス基板30上に高表面自由エネルギー領域31と低表面自由エネルギー領域32とがパターンニングされた(部分的にフッ素コーティングされた)原版Aを得た。
【0040】
[原版Bの作成]
7cm×5cmのスライドガラスを、洗浄液(商品名:Novec7300、3M社製)で洗浄し、その後、フッ素コーティング剤(商品名:DURASURF DS−5210F、HARVES社製)を液滴滴下にて塗布した。一晩放置後、洗浄液(商品名:Novec7300、3M社製)にて洗浄し、その後、フッ素コーティング剤(商品名:DURASURF DS−5210F、HARVES社製)を液滴滴下にて塗布した。さらに一晩放置後、洗浄液(商品名:Novec7300、3M社製)にて洗浄し、(全面がフッ素コーティングされた)原版Bを得た。
【0041】
[原版Cの作成]
未使用の7cm×5cmのスライドガラスを原版Cとした。
【0042】
[樹脂組成物の作成]
表1に、硬化樹脂層用の樹脂組成物A及び加工層用の樹脂組成物Bの配合(質量部)を示す。
【0043】
【表1】
TMM-3:ペンタエリスリトールトリアクリレート、新中村化学社製
OTA-480:プロピレングリコール変性グロセリントリアクリレート、ダイセルサイテック社製
AE-400:ポリエチレンエチレングリコールモノアクリレート #400 、日油株式会社製
X-71-1203:パーフルオロポリエーテル含有アクリレート、信越化学社製
イルガキュア184:BASF社製
【0044】
[硬化樹脂層の形成]
図5は、原版Aを用いて樹脂組成物Aを硬化させる硬化工程の概略を示す断面図である。図5に示すように、PETフィルム41上に樹脂組成物A42をバーコーター(wet膜厚8μm相当)で塗布し、これを原版A30に密着させ、露光機Bを用いてPET面より露光硬化させた。このときの照射量は、6J/cmであった。原版Aよりフィルムを剥離し、PETフィルム41上に硬化樹脂層が形成されたコーティングフィルムAを得た。
【0045】
また、原版B及び原版Cについても、前述と同様に樹脂組成物Aに接触させ、樹脂組成物Aを硬化させ、それぞれコーティングフィルムB及びコーティングフィルムCを得た。
【0046】
[表面自由エネルギーの評価]
接触角計を用いて、コーティングフィルムB及びコーティングフィルムCの接触角を測定し、ケルブル・ウー法により表面自由エネルギーを算出した。表2に、コーティングフィルムB及びコーティングフィルムCの接触角及び表面自由エネルギーを示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、フッ素コートガラスの原版2を用いた場合、コーティング表面が低表面自由エネルギーとなり、ガラスの原版3を用いた場合、コーティング表面が高表面自由エネルギーとなった。すなわち、原版の表面自由エネルギーが樹脂組成物Aに転写されることが分かった。
【0049】
[加工例1]
加工例1では、原版Aを用いて樹脂組成物Aを硬化させたコーティングフィルムA上に、油性ペンを塗り、インクの付着状態を観察した。油性ペンは、市販のゼブラ社製マッキーを用いた。
【0050】
図6は、コーティングフィルムA表面の光学顕微鏡の写真であり、図7は、コーティングフィルムA表面を油性ペンで塗ったときの光学顕微鏡の写真である。図6に示すように、転写直後のコーティングフィルム表面の外観は、無色透明である。図6に示す領域Aの部分を油性ペンで塗った場合、図7に示す領域Aのように、原版Aのフッ素コーティングされた部分に対応した表面自由エネルギーの低い部分には、インクが付着せず、原版Aのフッ素コーティングされていない部分に対応した表面自由エネルギーが高い部分には、インクが付着した。一方、図7に示す油性ペンが塗られていない領域Bは、図6に示す転写直後のコーティングフィルム表面と同様、無色透明であった。すなわち、図6に示す転写直後のコーティングフィルム表面の外観は、無色透明であるものの、表面には原版Aのパターンが表面自由エネルギー差により形成されていることが分かった。
【0051】
また、コーティングフィルムA表面を油性ペンでべた塗りした場合でも、原版Aの5μm幅のパターンを印字させることができた。また、原版Aを5回繰り返し使用した場合も同様に、原版Aのパターンを印字させることができた。
【0052】
[加工例2]
加工例2では、原版Aを用いて樹脂組成物Aを硬化させた硬化樹脂層上に、樹脂組成物Bを塗布し、これを硬化させた。先ず、原版Aを用いて樹脂組成物Aを硬化させたコーティングフィルムA上に、樹脂組成物Bをバーコーターでwet膜厚が1.5μm相当に塗布した。そして、窒素雰囲気下で露光機2を用い、照射量1.5J/cmの条件で露光した。
【0053】
図8は、コーティングフィルムA表面に樹脂組成物Bを塗布、硬化させたときの光学顕微鏡の写真であり、図9は、コーティングフィルムA表面に樹脂組成物B(インク)を塗布、硬化させたときのAFM観察画像である。図8,9に示すように、原版Aの5μmの線幅でインク付着部とインク非付着部が観測された。また、コーティングフィルムA表面を樹脂組成物Bでべた塗りした場合でも、原版Aの5μm幅のパターンの選択的塗布が可能であった。
【0054】
以上述べたように低い表面自由エネルギーを発現させる第1の化合物と、第1の化合物よりも高い表面自由エネルギーを発現させる第2の化合物とを含有する樹脂組成物を、表面自由エネルギー差によるパターンが形成された原版に接触させて硬化させることにより、原版のパターンが転写され、ファインピッチかつ寸法安定性に優れた表面自由エネルギーのパターンを有するコーティングフィルムを得ることができる。
【0055】
また、コーティングフィルム上に、さらに樹脂組成物等のインクを塗布、硬化させて2次加工することにより、寸法安定性、再現性に優れたパターンを得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
11 基材、12 樹脂組成物、20 原版、21 高表面自由エネルギー領域、22 低表面自由エネルギー領域、30 ガラス基板、31 高表面自由エネルギー領域、32 低表面自由エネルギー領域、41 PETフィルム、42 樹脂組成物A
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9